説明

貴金属めっきを施したチタン又はチタン合金材料

【課題】高耐食性及び低接触抵抗が要求される用途に好適な貴金属めっきを施したチタン材を提供する。
【解決手段】Au、Ru、Rh、Pd、Ir及びPtからなる群より選択される少なくとも1種以上の貴金属でチタン材の表面の一部又は全部を直接めっきしたチタン材であって、該貴金属はチタン材の表面上に粒子状に存在し、該粒子の平均粒径が10〜340nmであり、該粒子は該貴金属めっきを施したチタン材の表面上で該貴金属の面積率が少なくとも15%となるような個数だけ存在するチタン材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は貴金属めっきを施したチタン又はチタン合金材料(以下チタンまたはチタン合金材料を「チタン材」という。)に関し、とりわけ耐食性及び低接触抵抗が要求される用途に好適な貴金属めっきを施したチタン材に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン材は高耐食性を有するという点で特に優れており、この特性を活かして今日では医療・健康、装飾、スポーツ・レジャー等の民生分野のほか、航空・宇宙、化学、電気、建築・土木、輸送及び軍事等の多くの産業分野で利用されている。一方、チタンは導電性が銅などと比べて低く、更には表面に絶縁性の不動態膜(酸化皮膜)を形成しやすいといった性質を有していることから接触抵抗が比較的高い。このため、チタン材は耐食用途がメインであり、導電性を要する用途にはこれまでほとんど用いられてこなかった。
ところが、近年、耐食性の厳しい環境下での導電用途が現れてチタンが注目を浴びている。このような要請に応えるために、接触抵抗が高いという弱点を補うと共に、更なる耐食性の向上を目的として金めっき等の貴金属めっきをチタン材の表面に施すことが有効な手段の一つと考えられる。
【0003】
しかしながら、今述べたようにチタン材は表面に酸化皮膜を形成しやすいといった性質を有しており、これがめっき層との密着性を低下させるため、チタン材表面に密着性の高いめっき皮膜を安定して形成することは難しかった。そこで、これまでチタン材へのめっきの密着性を向上させるための前処理が提案されている。
例えば、特開平3−47991号公報には、硝酸、塩酸、フッ酸等の酸性溶液中でエッチングを施した表面上にニッケル層の陰極めっきを施すことを特徴とする、耐火性金属元素を含有するチタンベース合金上に、ニッケル層の電気めっきを施す方法が記載されている。
また、特開平6−093494号公報には、チタン材を、ギ酸、酢酸、又はこれらの塩の内の、少なくとも1種を含有した電解浴中で、10〜300Vの電圧で陽極酸化処理することを特徴とするめっきの前処理が記載されている。該文献では具体例として銅めっき層を電気めっきにより形成している。
【0004】
金めっきを始めとする貴金属めっきは古くから装飾用に利用されてきた。今日では電気伝導性、低接触抵抗、耐食性、半田付け性、耐摩耗性、平滑性及び/又は光反射性等を付与する目的で各種の工業用途に利用されており、特に電子工業の分野では重宝されている。ところが、金めっきをチタン材に施す技術については本発明者による調査からはあまり発見されず、以下のような文献が見出される程度である。
例えば、めっき法によるチタン材への金めっき技術を具体的に開示したものではないが、特開2001−29777号公報では燃料電池のセパレータの耐久性の改良及び低コスト化を目的として、アノード側又はカソード側導電性セパレータの少なくとも一方の表面にAu等の貴金属元素被膜を配置した金属板を開示しており、その金属板の材料の一つとしてチタンが開示されている。該文献ではAuをチタン上にRFスパッタ法により島状に形成し、該島状の個々の貴金属元素被膜の面積を0.04mm2とし、それら全体の占める割合を面積比で50%とした実施例が記載されている。
また、これもチタン材への金めっき技術に関するものではないが、特開2004−296381号公報ではニッケルめっきによる下地処理を行わずにステンレス鋼板の表面に金が面積率2.3〜94%で島状又はまだら状に被覆されていることを特徴とする燃料電池用金属製セパレータが開示されている。金の被覆はめっき法により施すことが記載されている。また、金の重量を0.019mg/cm2以上で1.76mg/cm2以下であることが好ましいこと、金の平均粒子径を0.01〜50μmとすることが望ましいことが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平3−47991号公報
【特許文献2】特開平6−093494号公報
【特許文献3】特開2001−29777号公報
【特許文献4】特開2004−296381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの文献において、チタン材と金めっきの関係については充分に記載されておらず、特にチタン材に金めっきを施したときの微視的な表面状態と耐食性及び接触抵抗との関係については未だに詳細に解明されていない。チタン材は高耐食性のほか、低密度及び高強度といったような特性も有していることから今後も多くの産業分野への利用が期待される分野であり、耐食性及び接触抵抗の観点からチタン材と金めっき等の貴金属めっきとの関係を明らかにし、これに基づいて高耐食性及び低接触抵抗を有し、且つめっき被膜の密着性の高いチタン材を提案しておくことはチタン材の応用分野の可能性を広げる上で有用であろう。
そこで、本発明は高耐食性及び低接触抵抗が要求される用途に好適な貴金属めっきを施したチタン材及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねたところ、チタン材表面にNiめっき等の下地めっきを施さずに直接に貴金属めっきをめっき条件を工夫して粒状に施すと、密着性の高い安定なめっき被膜が生じ得ることを見出した。また、めっき粒子の粒径が一定の値以下の場合には、貴金属めっきを施したチタン材の接触抵抗や耐食性は主として該貴金属がチタン材表面を覆う面積率に依存し、めっき粒子の粒径にはほとんど依存しないことも分かった。更に、めっき条件を創意工夫することで粒径の極めて小さいめっき粒子でチタン材の表面を所要の面積率にて被覆することができ、驚くほど少ない付着量で耐食性及び接触抵抗の充分な改善をチタン材に対してもたらすことも見出した。
【0008】
上記の知見に基づいて完成された本発明は一側面において、Au、Ru、Rh、Pd、Ir及びPtからなる群より選択される少なくとも1種以上の貴金属でチタン材の表面の一部又は全部を直接めっきしたチタン材であって、該貴金属はチタン材の表面上に粒子状に存在し、該粒子の平均粒径が10〜340nmであり、該粒子は該貴金属めっきを施したチタン材の表面上で該貴金属の面積率が少なくとも15%となるような個数だけ存在するチタン材である。
【0009】
本発明の一実施形態においては、前記粒子の平均粒径は10〜100nmである。
【0010】
本発明の一実施形態においては、前記粒子の平均粒径は10〜50nmである。
【0011】
本発明の一実施形態においては、前記粒子の面積率が30〜80%である。
【0012】
本発明の一実施形態においては、前記貴金属はAu−Pd合金である。
【0013】
本発明に係るチタン材は一実施形態において、pH=2の硫酸溶液に温度90℃で168時間浸すことにより行った耐食試験前後の接触抵抗の比(試験後の平均接触抵抗/試験前の平均接触抵抗)が2.0以下である。
【0014】
本発明に係るチタン材は一実施形態において、pH=2の硫酸溶液に温度90℃で168時間浸すことにより行った耐食試験前後の接触抵抗の比(試験後の平均接触抵抗/試験前の平均接触抵抗)が1.0である。
【0015】
本発明は別の一側面において、めっき処理が電気めっきにより行われることを特徴とする上記チタン材の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高耐食性及び低接触抵抗が要求される用途に好適な貴金属めっきを施したチタン材及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
チタン材
本発明に用いることのできるチタン材の組成は特に制限を受けるものではなく、用途に応じて適宜選択すれば良く、例えば、純チタン(例えばJIS 1種〜3種)、耐食性や強度を向上させるために元素を添加したチタン合金も使用可能である。この中でも、めっき性、耐食性及び接触抵抗の観点からは純チタンが好ましい。
【0018】
本発明に係るチタン材の形状は特に制限されるものではないが、例えば板状、繊維状、スポンジ状とすることができ、これらに更に加工を加えて所望の形状に成形することもできる。
また、本発明の一実施形態においては、二枚の板状チタン材で他の金属材料を挟んで形成したクラッド材とすることもできる。斯かるクラッド材も本発明においてはチタン材に含まれるものとする。特に、チタン材よりも廉価な金属材料、例えばステンレス、鉄、Al及びCu等と組み合わせることで低コスト化を図ることができる。
【0019】
良好な貴金属めっき被膜を形成するためには、チタン材に対して脱脂、酸洗及び活性化処理等の各種の前処理を行っておくのが好ましい。この際、チタン材では表面に安定な酸化皮膜(TiO2)を形成しやすいことからこれを充分に除去しておくことが必要であり、前処理には賢明な選択が要請される。特に、本発明が目的とするチタン材への貴金属めっきのためには、脱脂処理においては水素ぜい性の点に留意すべきであり、この観点から脱脂処理は水素発生を伴う電解脱脂よりは浸漬脱脂により行うのが好ましい。酸洗においては脱脂処理後の試験片の中和の点に留意すべきであり、活性化処理においては不動態皮膜の除去の点に留意すべきであり、フッ酸系により処理をするのが好ましい。
【0020】
貴金属めっき
本発明ではAu、Ru、Rh、Pd、Ir及びPtからなる群より選択される少なくとも1種以上の貴金属でチタン材の表面をめっきする。本発明の有利な一実施形態ではめっき被膜中に少なくともAuが含まれ、好ましくはAuが50〜100質量%、より好ましくはAuが80〜100質量%含まれる。例えばAu:90〜100質量%、Pd:0〜10質量%であるようなAuめっき又はAu−Pd合金めっきである。このような二種以上の元素を所望の重量比で含むめっき被膜は、例えばめっき浴中での各貴金属イオン濃度の比、電流密度、攪拌条件等を適宜調節することで得られる。
【0021】
本発明では上記貴金属をチタン材表面上に直接めっきする。すなわち、本発明ではチタン材上にNi等の下地めっきを施すことなく貴金属めっきを施す。これは、貴金属よりも卑な下地めっきを施すと、耐食性低下、めっき剥離を生じるためである。耐食性の理由による。また、チタン材表面に貴金属めっきを施す箇所は用途に応じて適宜選択することができ、チタン材表面の一部又は全部とすることができる。但し、ここでいう「一部又は全部」とは肉眼で判断される概念であり、SEM等によって微視的に観察して判断されるものではない。
【0022】
チタン材に貴金属めっきを行う方法としては、例えば真空蒸着、物理蒸着(PVD)及び化学蒸着(CVD)、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式めっき、並びに電気めっき及び無電解めっき等の湿式めっきが挙げられるが、電気めっきが好ましい。めっき粒子の粒径や数の制御容易性の観点及びコスト面(特に設備費用)から有利なためである。電気めっきによる表面処理は、乾式めっきのように雰囲気を真空にする必要がなく、成膜速度が速いといった利点もある。また本発明にように、粒状のめっきを形成する場合には、電気めっきが適している。
【0023】
貴金属めっきを施したチタン材の当初の接触抵抗、そしてこれを腐食環境に曝したときの接触抵抗の上昇率は主として貴金属のめっき粒子がチタン材表面を覆う微視的な面積割合(面積率)に依存し、該面積率(理論的には0%〜100%の範囲が考えられ得る。)はSEMによる微視的な観察で少なくとも15%とすることが所望の耐食性及び接触抵抗を満足するのに必要である。一方で、面積率をあまり高くしても耐食性の効果が飽和する傾向にあること及びコスト高になることから好ましくは30〜80%、より好ましくは40〜80%、更により好ましくは45〜60%である。
【0024】
めっき粒子の粒径が340nm以下である場合には、貴金属めっきを施したチタン材の当初の接触抵抗、そしてこれを腐食環境に曝したときの接触抵抗の上昇率はめっき粒子の粒径にはほとんど依存しない。めっき粒子の粒径が340nmを超えるとめっきの密着性が有意に悪化し始め、そのため腐食環境下等でめっきが剥がれやすくなり、接触抵抗の上昇も大きくなるので好ましくない。従って、チタン材表面に施す貴金属めっき粒子の粒径を340nm以下として、面積率を15%以上、好ましくは30〜80%、より好ましくは40〜80%、更により好ましくは45〜60%上記範囲とすることによって所望の接触抵抗及び耐食性を得ることができる。
【0025】
このように、めっき粒子の粒径が340nm以下であれば接触抵抗及び耐食性は粒径にほとんど依存しなくなるため、貴金属の面積率を同一とした場合にはめっき粒子の粒径が小さい方が要求される貴金属の付着量を少なくすることができ、経済性を向上させることができる。例えば、貴金属の面積率を同一とした場合、粒径を1/10にすることができれば、同等の接触抵抗及び耐食性を維持しながら、付着量を1/10に軽減することが可能となる。
【0026】
従って、チタン材表面上にできるだけ微細なめっき粒子を所望の面積率を達成するような個数(例えば粒径5nmのめっき粒子で面積率50%を達成するには25,000個/μm2程度もの粒子の生成が必要となる。)をできるだけ均一に付着させること望ましいが、素材がチタンの場合には活性化処理による酸化皮膜の均一除去が難しく、金めっき条件により金めっきの電着形態が変化するいという理由により難しい。本発明者は後述するようなめっき方法を採用することによって粒径が10nm程度までの微細なめっき粒子をチタン材表面上に所要の粒子数だけ付着させることに成功した。
【0027】
具体的には、本発明によってめっき粒子の平均的な粒径を300nm以下とすることができ、更には100nm以下とすることができ、好ましくは50nm以下とすることができ、最も小さい場合で10nmとすることができる。そして本発明により達成可能な上記の任意の粒径を平均的に有するめっき粒子を、面積率が15%以上、好ましくは30〜80%、より好ましくは40〜80%、更により好ましくは45〜60%となるような粒子数だけチタン材表面上に付着させることができる。
【0028】
本発明に係る貴金属めっきを施したチタン材の具体的な製造条件を電気めっき法を用いた場合を例にして説明する。本発明に使用可能なめっき浴はシアン浴(シアン化第一金系、シアン化第二金系)や非シアン浴(無機亜硫酸金系、有機亜硫酸金系)が挙げられるが、密着性の観点からは非シアン浴が好ましい。
めっき粒子の粒径及び数は、陽極と陰極の極間距離、電流密度、めっき時間、温度及び攪拌方法を調節することにより制御することができる。極間距離は100mm以下とするのが好ましく、可能なかぎり極間距離は短くした方が、無めっきが少なく、均一にめっき粒子がつくという観点で好ましい。電流密度は亜硫酸浴では0.1〜0.5A/dm2とするのが好ましい。0.5A/dm2以上にしてしまうとめっきが粗く脆くなる場合がある。めっき時間は電流密度に依存するが、めっき付着量の観点で、可能なかぎり短いほうが好ましく、通常は数秒から数分であり、例えば40秒以下である。温度は亜硫酸浴では50〜60℃とするのが好ましい。攪拌は、めっき液の循環流量等を変えることにより、めっき液の流速を制御することが好ましい。
【0029】
本発明の範囲内の粒径及び粒子数を達成するためには特に極間距離、攪拌方法、電流密度の点に留意する必要がある。粒径を小さくするためには極間距離及び電流密度が重要であり、また、小さな粒径を維持したまま数多くの粒子を付着させるためにも3条件全てを調節することが必要である。特に粒径100nm以下、更には50nm以下のめっき粒子を所要の数だけ生成するには極間距離、攪拌方法、電流密度の3条件全てが肝要である。
本発明の一実施形態では、例えば、陽極と陰極の極間距離は好ましくは10mm〜100mm、より好ましくは10mm〜50mm、更に好ましくは10mm〜20mmである。ここで、極間距離とはアノードとチタン材との間の距離をいう。攪拌はチタン材への到達流速が早くなる、攪拌を強攪拌するほうが、粒子数の増加の点で好ましい。
【0030】
貴金属めっきをチタン材表面に施した後は、Ar、He、Ne等の不活性雰囲気で加熱処理するのが密着性の観点で好ましい。この加熱処理においては温度を250℃以上、好ましくは300〜350℃とし、時間を数分以上、好ましくは30〜40分程度とすることが密着性及び接触抵抗の観点でより有利である。
【0031】
本発明に係る貴金属めっきを施したチタン材は一実施形態において、pH=2の硫酸溶液に温度90℃で168時間浸すことにより行った耐食試験前後の接触抵抗の比(試験後の平均接触抵抗/試験前の平均接触抵抗)が2.0以下であり、好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1.3以下であり、最も好ましくは1.0である。この値が1.0であるというのは、耐食試験後に接触抵抗の上昇が全く見られないことを示す。
接触抵抗の測定は次の方法で行うことができる。本発明に係る貴金属めっきを施した40×40mmの板状サンプルを上下から、同サイズの銅板(10mmt)に1.0μmのNi下地めっきをし、その上に0.5μmのAuめっきしたサンプルで鋏み、接触させ、ロードセルで10kg/cm2の荷重を加え、電流密度100mA/cm2で電流を流した時の抵抗を4端子法で測定する方法である。
【実施例】
【0032】
本発明及びその利点をより理解するために以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
試験片の材料
すべての実施例及び比較例において、チタン材として厚さ0.1mmの純チタン(JIS 1種)の板状試験片を用いた。
【0034】
前処理
表1に記載の試験条件に従って、各試験片に対して前処理として浸漬脱脂→水洗→酸洗→水洗→活性化処理→水洗をこの順に行った。
【0035】
【表1】

【0036】
Au−Pd合金めっき
次に、前処理を施した各試験片の表面に対してAu−Pd合金めっきを電気めっきにより行った。めっき浴条件は以下の通りである。浴組成はすべて同一とした。
浴種:亜硫酸浴
浴組成:Au4.0g/L、Pd2.0g/L
pH:9.05〜9.10
ボーメ:11.5
陽極:Pt−Ti
浴温:50℃
【0037】
その他のめっき条件は表2の通りである。
【0038】
【表2】

比較例1は、Au−Pd合金めっきをしていないチタン板のみを示したものである。
比較例2のAu−Pd合金めっき条件は、極間距離100mm、攪拌無攪拌、電流密度1.0A/dm2、めっき時間20秒である。
実施例1〜4のAu−Pd合金めっき条件は、攪拌条件の影響を評価するために設定した。
実施例5〜7のAu−Pd合金めっき条件は、極間距離の影響を評価するために設定した。
実施例8及び9のAu−Pd合金めっき条件は、電流密度と時間の影響を評価するために設定した。
なお、実施例3及び6は同一内容の実施例である。
【0039】
後処理
その後、Au−Pd合金めっきを施した各試験片に対してアルゴン雰囲気で加熱処理を350℃で30分間行った。
【0040】
結果
図1に比較例2、実施例8の試験片表面のAu−Pd合金めっき粒子の状態を示すSEM像を例示的に示す。めっきを施した各試験片に対して、平均粒径(nm)、単位面積あたりの粒子数[個/μm2]及び密着性を調べた。結果を表3に示す。
平均粒径は、任意に3箇所選択した50,000倍のSEM像(JEOL社製型式JSM−5410)の視野(1.5×2.0μm)から平均的と思われる粒子を10個選択してその算術平均を求めた。
単位面積あたりの粒子数は、任意に3箇所選択した50,000倍のSEM像(JEOL社製型式JSM−5410)の視野(1.5×2.0μm)の粒子数を数えて、求めた。
面積率は、めっき粒子がSEM像よりほぼ球状であることが分かるので、各めっき粒子を真球と仮定して平均粒径及び単位面積当たりの粒子数から算出した。
密着性は、得られた各試験片の金めっき表面に1mm間隔で碁盤の目を罫書き、テープ剥離試験実施した。また、各試験片を任意に180°曲げて元の状態に戻し、曲げ部のテープ剥離試験を行った。剥離が全くない場合を○とし、一部でもある場合には×とした。
なおめっき被膜の電着組成は、試験片を王水に溶解させ、その溶液中に含まれるAu及びPbの重量を誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)(Seiko Instruments社製型式SPS300)を用いて調べた結果、実施例3及び5は、Au91質量%、Pd9質量%であった。
【0041】
【表3】

【0042】
また、各試験片に対して耐食試験を行い、試験前後の接触抵抗を調べた。比較例1はAu−Pd合金めっきを施さない例であり、耐食性及び接触抵抗の基準となるものである。結果を表4に示す。耐食試験は、40×40mmのサイズの各試験片にpH=2の液量350ccの硫酸水溶液に温度90℃で168時間(1週間)浸すことにより行った。
接触抵抗の測定は図2に示すようにサンプル全面に荷重を加える方法にて行った。40×40mmのサンプルを上下から、同サイズの銅板(10mmt)に1.0μmのNi下地めっきをし、その上に0.5μmのAuめっきしたサンプルで鋏み、接触させ、ロードセルで10kg/cm2の荷重を加え、電流密度100mA/cm2で電流を流した時の接触抵抗を4端子法で測定した。(この測定方法では、銅板及びチタン板の比抵抗も含むが、ここではそれを含んだ値を接触抵抗とする。)
また、耐食試験で使用した硫酸溶液中のTi濃度からTi溶出量をそれぞれ測定した。具体的には耐食試験後に200ccの液を分取し、50ccに濃縮して、ICP分析(Seiko Instruments製型式SPS300)により求めた。
接触抵抗及び耐食試験の結果は、pH=2の硫酸水溶液に温度90℃で168時間浸すことにより行った耐食試験前後の接触抵抗の比(試験後の平均接触抵抗/試験前の平均接触抵抗)が2.0以下であり、耐食試験によりTiの溶出量がない場合を○とし、それ以外の場合を×とした。
【0043】
【表4】

【0044】
上記の実施例は、チタン材表面上に粒状に施されためっき粒子の粒径が340nmを超えるとめっき密着性に有意な悪影響が生じ始めることを示している。また、粒径340nm以下であれば、Au−Pd合金めっきを施したチタン材の接触抵抗及び耐食性は粒径に依存せずに面積率に主として依存することが分かる。例えば、面積率が50%前後の場合である実施例3、実施例6、実施例7、実施例8、実施例9は粒径に依らず耐食試験前の接触抵抗は0.19〜0.22の値であり、耐食試験前後の平均接触抵抗比についても同様に1.0と近似していた。
また、本発明に係る実施例9に適用したようなめっき条件を採用することによって平均粒径が10nmといった極めて微細なめっき粒子を所望の面積率を達成するのに充分な粒子数でチタン材の表面上に電着させることができたことが分かる。そして、例えば、実施例6と9を比較すると実に約1/10程度の付着量で同等の接触抵抗及び耐食性を達成していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る貴金属めっきを施したチタン材はチタン材の本来的特性である低密度、高強度、高耐食性及び高融点等に加え、更に高耐食性及び低接触抵抗を兼備したものと言うことができる。従って、本発明に係る貴金属めっきが施されたチタン材は高耐食性及び低接触抵抗が要求される用途に特に好適であり、例えば燃料電池用セパレータ、チタン電極、耐食性接地体等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】比較例2、実施例8のチタン材表面のめっき粒子の状態を示すSEM像である。
【図2】サンプル全面に荷重を加えることによる接触抵抗の測定方法を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Au、Ru、Rh、Pd、Ir及びPtからなる群より選択される少なくとも1種以上の貴金属でチタン材の表面の一部又は全部を直接めっきしたチタン材であって、
該貴金属はチタン材の表面上に粒子状に存在し、該粒子の平均粒径が10〜340nmであり、該粒子は該貴金属めっきを施したチタン材の表面上で該貴金属の面積率が少なくとも15%となるような個数だけ存在するチタン材。
【請求項2】
前記粒子の平均粒径は10〜100nmである請求項1に記載のチタン材。
【請求項3】
前記粒子の平均粒径は10〜50nmである請求項1に記載のチタン材。
【請求項4】
前記面積率が30〜80%である請求項1〜3の何れか一項に記載のチタン材。
【請求項5】
前記貴金属がAu−Pd合金である請求項1〜4の何れか一項に記載のチタン材。
【請求項6】
pH=2の硫酸溶液に温度90℃で168時間浸すことにより行った耐食試験前後の接触抵抗の比(試験後の平均接触抵抗/試験前の平均接触抵抗)が2.0以下である請求項1〜5の何れか一項に記載のチタン材。
【請求項7】
pH=2の硫酸溶液に温度90℃で168時間浸すことにより行った耐食試験前後の接触抵抗の比(試験後の平均接触抵抗/試験前の平均接触抵抗)が1.0である請求項1〜5の何れか一項に記載のチタン材。
【請求項8】
めっき処理が電気めっきにより行われることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載のチタン材の製造方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2007−270257(P2007−270257A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97278(P2006−97278)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】