説明

貴金属被膜およびその製造方法

【課題】金属膜の金属の粒成長開始温度以上の酸化雰囲気での熱処理をおこなった場合でも基板への密着が維持される、2μm未満の膜厚を有する金属被膜及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 セラミックス基板上に無電解めっきにより作製された貴金属被膜であって、Pt,Pd,Ru,Rh,Os,Ir及びAuからなる群から選択された少なくとも1種の金属を主成分として含有するマトリクス金属と、セラミックス微粒子とを含み、2μm未満の膜厚を有する貴金属被膜を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属被膜およびその製造方法、ならびに貴金属被膜を含む積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セラミックス電子部品において、特性を維持または向上させるため及びコストを削減するために、貴金属膜をセラミックス基板上に薄く形成することが要求されている。薄い金属膜の作製方法としては、無電解めっきが注目されているが、これまでのめっき膜では密着力の低下により適用が難しかった。
【0003】
無電解めっきでは、通常、基板を粗面化処理し、触媒を付与した後に、めっき液中での触媒作用によりめっき膜が析出される。粗面化処理により作られた基板の凹凸がアンカーとなり、めっき膜と基板の密着性が維持される。しかし、めっき膜中に含まれる不純物をガスとして除去するためにめっき膜が粒成長する温度以上に加熱した場合、アンカー部分のめっきが粒成長に伴って吸い上げられアンカー効果を低減させることがあり、それにより密着強度を維持できないことがあった。特に、膜厚が2μm未満の薄膜においては、膜形成後に高温での熱処理が必要な場合には、粒成長により、めっき膜がドーム状に膨れることにより表面平滑性が低下する、又はドームの一部が破れてめっき膜の被覆率が低下するという問題があった。
【0004】
特許文献1には、セラミックス基板を粗面化することなくセラミックス基板と接合できる無電解めっき膜の作製方法として、無電解めっきにガラス粉末を混ぜた複合めっきで、熱処理によりガラスが軟化して基板との密着性を高めることが記載されている。しかしながら、めっき成膜中に発生する内部応力によりめっき膜が剥がれることがあり、適用できるめっきの選択肢が少ない。さらに、ガラス成分は、他の部材と反応して特性を低下させることがあった。
【0005】
特許文献2には、導体層が表面に設けられているセラミックス基板に抵抗体層を焼き付け形成してから、上記導体層の表面にめっき法により金属被膜を形成するセラミック配線板の製造方法において、上記セラミックス基板として、めっき法で形成された導体層であって、セラミック粒子または金属粒子のうちの少なくとも一つが分散されている導体層が設けられたセラミックス基板を用いることを特徴とするセラミック配線板の製造方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、セラミック粒子等を含む導電被膜の厚みは2μm以上であることが好ましいとされ、具体的に実施例においては3〜6μmの被膜しか形成されていない。また、導体層としては、銅、ニッケルしか検討されておらず、特に酸素雰囲気中での焼成が必要な酸化物膜と相性のよいPt膜などの貴金属被膜については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−343259号公報
【特許文献2】特許第3242459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、貴金属被膜に含まれる金属が粒成長する温度以上の酸化雰囲気での熱処理(例えば、めっき膜中に含まれる不純物をガスとして除去するために不可避な熱処理など)を行った場合でも基板への密着が維持される、2μm未満の膜厚を有する貴金属被膜及びその製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、貴金属被膜に含まれる金属が粒成長する温度以上の酸化雰囲気での熱処理(例えば、めっき膜中に含まれる不純物をガスとして除去するために不可避な熱処理など)を行った場合でも上記セラミックス基板への密着が維持され、2μm未満の膜厚を有する貴金属被膜と、セラミックス基板とを少なくとも含む積層体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明は、セラミックス基板上に形成され、Pt,Pd,Ru,Rh,Os,Ir及びAuからなる群から選択された少なくとも1種の金属を主成分として含有するマトリクス金属と、セラミックス微粒子とを含み、2μm未満の膜厚を有する貴金属被膜を提供する。
セラミックス微粒子は、セリア、ジルコニア、イットリア、アルミナ、チタニア、スピネル(アルミン酸マグネシウム、アルミン酸ニッケル)、イットリア安定化ジルコニア、セリア安定化ジルコニア、TiC及びTiNからなる群から選択された少なくとも1種のセラミックスを含むことが好ましい。
また、上記セラミックス微粒子の含有量は、上記マトリクス金属100重量部に対して3〜30重量部であることが好ましい。
また、上記セラミックス微粒子の平均粒径は、5〜100nmであることが好ましい。
さらに、上記セラミックス微粒子の平均粒径と、貴金属被膜の膜厚との比は1/1.5〜1/400であることが好ましい。
さらにまた、本発明の貴金属被膜は、貴金属被膜のマトリクス金属の粒成長開始温度以上の温度で熱処理されていてもよい。
本発明の貴金属被膜は、好ましくはめっき法で形成される。
【0010】
また、本発明は、上記貴金属被膜の製造方法であって、上記セラミックス微粒子を、上記マトリクス金属に対応する金属イオンを含むめっき液に分散させる分散工程と、上記セラミックス微粒子が分散しためっき液を用いて、セラミックス基板に、2μm未満の膜厚にめっきするめっき工程とを含む、貴金属被膜の製造方法を提供する。
本発明の貴金属被膜の製造方法は、さらに、上記マトリクス金属の粒成長開始温度以上の温度で熱処理する熱処理工程を含んでいてもよい。
また、さらに、上記めっき工程の前に、セラミックス基板の粗面化処理を行う粗面化工程を含んでいてもよい。
また、上記めっき工程におけるめっき液のpHは10〜14であることが好ましい。
さらに、めっき液の温度は30〜85℃であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記の貴金属被膜とセラミックス基板とを備える積層体を提供する。
本発明の積層体は、貴金属被膜のセラミックス基板と反対側の表面にさらにセラミックス層を備え、貴金属被膜とセラミックス層とが共焼成された、誘電素子、圧電/電歪素子、焦電素子、熱電素子、半導体素子、超伝導素子、イオン伝導素子などに用いられてもよく、また単独で酸素やNOxといったガスセンサーなどに用いられてもよい。
【0012】
また、本発明は、上記の貴金属被膜の製造方法により製造された貴金属被膜の、セラミックス基板と反対側の表面にさらにセラミックス層を形成するセラミックス層形成工程と、貴金属被膜とセラミックス層とを共焼成する共焼成工程とを有する積層体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、膜厚が2μm未満であり、且つ、貴金属被膜に含まれる金属の粒成長開始温度以上の温度での酸化雰囲気での熱処理をおこなった場合でも、セラミックス基板への密着が維持または向上した貴金属被膜及びその製造方法が提供される。このため、貴金属被膜は酸化雰囲気で焼成でき、かつ、薄膜化によりコストが削減される。
また、本発明の積層体によれば、上記貴金属被膜上に、高温焼結(例えば1700℃以下で800〜1700℃程度)が必要とされるセラミックスを積層して酸化雰囲気で共焼成を行うことができる。このため、上記貴金属被膜を電極として使用した場合の密着力が高く、且つ、電極が薄いため電極の影響が低減され特性が向上し、さらにコストの削減されたセラミックス素子として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1)貴金属被膜
本発明の貴金属被膜は、セラミックス基板上に形成され、Pt,Pd,Ru,Rh,Os,Ir及びAuからなる群から選択された少なくとも1種の金属を主成分として含有するマトリクス金属とセラミックス微粒子とを含み、2μm未満の膜厚を有する。貴金属被膜は、セラミックス基板との間に任意の中間層を介して形成されていてもよい。
【0015】
<マトリクス金属>
マトリクス金属は、Pt,Pd,Ru,Rh,Os,Ir及びAuからなる群から選択された少なくとも1種の金属を主成分として含有する。なお、本明細書において「主成分として含有する」とは、その成分を60重量%以上含有することを意味してもよいし、80重量%以上含有することを意味してもよいし、90重量%以上含有することを意味してもよい。マトリクス金属に主成分として含有される金属としては、上記で列挙された金属うちの2種以上の混合物であってもよい。この場合に、上記で列挙された金属の含有量の合計として主成分として含有される。
【0016】
本発明の貴金属被膜には、他の成分として、例えばCu、Ni、Cr等の上記以外の任意の金属が含まれていてもよい。
【0017】
本発明の貴金属被膜では、上記列挙された金属を主成分として含有することにより、導電率が高く、且つ酸化雰囲気で焼成可能な貴金属被膜が得られる。酸化雰囲気での高温焼成が可能なため、例えばペロブスカイト型の結晶構造を有するセラミックス等の高温焼結(例えば1700℃以下)が必要なセラミックスとの共焼成が可能であり、製造工程の簡略化が図られ、さらにこれらのセラミックスとの密着性の高い積層体が提供される。
【0018】
<セラミックス微粒子>
本発明の貴金属被膜は、マトリクス金属中にセラミックス微粒子を含有する。このため、マトリクス金属の粒子が粒成長を開始する温度以上の熱処理において、フィラーとなるセラミックス微粒子によってマトリクス金属の粒子の粒界移動をピン止めさせることにより粒成長が抑制されると考えられる。
【0019】
本発明の貴金属被膜に含有されるセラミックス微粒子としては特に限定されず、マトリクス金属及び無電解めっき液と反応せず、且つ無電解めっき液に分散するセラミックス微粒子であればよい。セラミックス微粒子は、無電解めっき液全体に均一に分散することがさらに好ましい。ここで、「無電解めっき液に分散する」とは、無電解めっきにより、セラミックス微粒子を含む金属被膜が形成できる状態であればよい。本発明の貴金属被膜では、膜厚が2μm未満と非常に薄いため、無電解めっき液全体に均一にセラミックス微粒子を分散させることにより、マトリクス金属粒子の粒界移動をより効果的にピン止めさせることができ、粒成長をより効果的に抑制できる。
【0020】
さらに、本発明の貴金属被膜では、マトリクス金属としてPt,Pd,Ru,Rh,Os,Ir及びAuからなる群から選択された少なくとも1種の金属を主成分として含有するため、セラミックス微粒子は、これらの金属を主成分として含有するマトリクス金属用の無電解めっき液に分散できることが必要である。通常、このようなめっき液は、pHが10以上であることが多いため、特にpHが10以上のめっき液に分散できるセラミックス微粒子であることが好ましい。
【0021】
上記セラミックス微粒子としては、具体的には、例えば、セリア、ジルコニア、イットリア、アルミナ、チタニア、スピネル(アルミン酸マグネシウム、アルミン酸ニッケル)、イットリア安定化ジルコニア、又はセリア安定化ジルコニアなどの酸化物;チタンカーバイド;または窒化チタン等の微粒子が好ましい。これらのセラミックス微粒子は、単独で使用されてよく、何れか2種以上の混合物であってもよい。セラミックス微粒子としては、中でも、セリア、ジルコニア、イットリア、アルミナ、チタニア、又はスピネルが好ましい。
【0022】
セラミックス微粒子の含有量としては、マトリクス金属100重量部に対して例えば3〜30重量部とすることができ、3〜20重量部が好ましく、3〜15重量部がさらに好ましい。セラミックス微粒子の含有量をこのような範囲とすることにより、被膜中に含まれる不純物をガスとして除去するためにマトリクスの金属粒子が粒成長を開始する温度以上の熱処理を行った場合でも、マトリクス金属の粒子の粒界移動をより効果的にピン止めさせることができ、粒成長をより効果的に抑制できる。なお、マトリクス金属100重量部に対するセラミックス微粒子の含有量は、めっき厚や熱処理後の貴金属粒子の粒子径と電気抵抗などの貴金属被膜の特性値によるが、めっき成膜後の成分分析により決定できる。具体的な評価方法としては、蛍光X線分析や、ICPやグロー放電による発光分析や質量分析などが挙げられる。
【0023】
添加するセラミックス微粒子の平均粒径としては、めっき膜の厚さにもよるが、無電解めっき液への添加時及び/又は焼成後において、5〜100nmが好ましく、10〜70nmがより好ましく、20〜60nmがさらに好ましい。セラミックス微粒子の平均粒径をこのような範囲とすることにより、マトリクスの金属粒子が粒成長を開始する温度以上の熱処理を行った場合でも、マトリクス金属の粒子の粒界移動をより効果的にピン止めさせることができ、粒成長をより効果的に抑制できる。なお、セラミックス微粒子の平均粒径は、予め電子顕微鏡などの直接観察による測定や粒度分布計など音響・光学的な測定により決定できる。
【0024】
セラミックス微粒子の上記平均粒径と、貴金属被膜の膜厚との比(セラミックス微粒子の平均粒径)/(金属被膜の膜厚)としては、1/1.5〜1/400が好ましく、1/3〜1/100がより好ましく、1/5〜1/20がさらに好ましい。セラミックス微粒子の平均粒径と、金属被膜の膜厚との比をこのような範囲とすることにより、マトリクスの金属粒子が粒成長を開始する温度以上の熱処理を行った場合でも、マトリクス金属の粒子の粒界移動をより効果的にピン止めさせることができ、粒成長をより効果的に抑制できる。なお、貴金属被膜の膜厚は、使用するめっき液の濃度から定めることができる。
【0025】
<セラミックス基板>
本発明の貴金属被膜が形成されるセラミックス基板としては、絶縁性を有する部材であり、例えば絶縁性セラミックスの焼成体が挙げられる。絶縁性セラミックスとしては、例えば、ジルコニア、アルミナ、マグネシア、スピネル、ムライト、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素からなる群より選択される少なくとも1種類の物質が用いられる。ジルコニアは、イットリウムなどの添加物により安定化または部分安定化されているものを包含する。
【0026】
セラミックス基板は後述の粗面化処理がなされていても良い。この場合に、粗面化処理により作られた基板の凹凸がアンカーとなり、めっき膜と基板の密着性が維持されやすい。本発明の貴金属被膜は、セラミックス微粒子を含んでいるため、めっき膜中に含まれる不純物をガスとして除去するために「めっき膜が粒成長する温度」以上に加熱した場合でも、アンカー部分のめっきが粒成長に伴って吸い上げられることが抑えられ、アンカー効果を低減させることがない。そのため、密着強度がより効果的に維持される。密着強度は、セバスチャン法で測定した場合に、例えば1.5N/mm2以上、好ましくは2.5N/mm2以上、より好ましくは4.0N/mm2以上、特に好ましくは5.2N/mm2以上とすることができる。
【0027】
本発明の貴金属被膜では、上記セラミックス微粒子を含有するため、金属被膜の膜厚を2μm未満と非常に薄くできる。上記膜厚は、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.7μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下とすることができる。本発明の貴金属被膜では、マトリクスの金属粒子が粒成長を開始する温度以上の熱処理を行った場合でも、被覆率が80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の金属被膜が形成される。なお、被覆率は、金属被膜のマイクロスコープによる透過観察から、画像解析により求めることができる。
【0028】
本発明の貴金属被膜は、好ましくは、マトリクス金属の粒成長開始温度以上の温度で熱処理されている。ここで、マトリクス金属の粒成長開始温度以上の温度とは、Tm/3(K)以上の温度であってもよく、さらにはTm/2(K)以上の温度であってもよい。ここでTmは、マトリクス金属の主成分である金属の粒成長温度である。なお、粒成長とは、結晶粒成長と言い換えられてもよい。なお、成膜後の貴金属被膜を、例えば、800℃〜1500℃で1〜5時間程度焼成することにより、被膜中に含まれる不純物がガスとして除去される。
【0029】
本発明の貴金属被膜では、膜厚が2μm未満と非常に薄いため、高価な貴金属をマトリクス金属として使用した場合でも原料コストを削減できる。また、本発明の貴金属被膜をセラミックス素子の電極として使用した場合には、電極の影響が低減された特性の向上したセラミックス素子を提供できる。本発明の貴金属被膜は、めっき法で形成されることが好ましい。
【0030】
(2)貴金属被膜の製造方法
本発明の貴金属被膜の製造方法は、上記マトリクス金属に対応する金属イオンを含むめっき液に上記セラミックス微粒子を分散させる分散工程と、上記セラミックス微粒子が分散しためっき液を用いて、セラミックス基板に、2μm未満の膜厚にめっきするめっき工程とを含んでいる。本発明の貴金属被膜は、無電解めっきにより製造されることが好ましい。無電解めっきにおける諸条件は、マトリクス金属材料に応じて、その材料が析出するように設定される。
【0031】
<分散工程>
分散工程では、セラミックス微粒子を上記マトリクス金属に対応する金属イオンを含むめっき液に分散させる。めっき液は、上記セラミックス微粒子が分散するようにアンモニア等のアルカリ性溶液でpH調整を行うことが好ましい。めっき液のpHは、例えばpH5.5〜14であり、pH10以上が好ましい。セラミックス微粒子は、目視にて沈殿物が存在していなければよく、さらには、凝集体が観察されず均一に分散していることが好ましい。
【0032】
めっき液中のマトリクス金属の含有量は、室温(例えば20℃)において、例えば0.8〜15.0g/L、好ましくは0.8〜3.0g/L、さらに好ましくは1.5〜2.5g/Lとすることができる。また、めっき液中のセラミックス微粒子の含有量は、例えば0.5〜10重量%、好ましくは1〜7重量%、より好ましくは2〜5重量%とすることができる。めっき液中のマトリクス金属及びセラミックス微粒子の含有量をこのような範囲とすることにより、被膜中に含まれる不純物をガスとして除去するためにマトリクスの金属粒子が粒成長を開始する温度以上の熱処理を行った場合でも、マトリクス金属の粒子の粒界移動をより効果的にピン止めさせることができ、粒成長をより効果的に抑制できるめっき膜がより得られやすくなる。
【0033】
<めっき工程>
めっき工程では、上記分散工程で作製したセラミックス微粒子が分散しためっき液を用いて、セラミックス基板に、2μm未満の膜厚にめっきする。めっき工程により、セラミックス基板の表面に、セラミックス微粒子とマトリクス金属を含んだ被膜を作製できる。めっきは、具体的には、例えば、形成される金属膜が所望の厚さになるように調合した無電解めっき液に基板を浸漬し、0.1〜10時間程度放置することにより行うことができる。上記浸漬は、セラミックス基板の揺動および/または回転と無電解めっき液を攪拌しながら行うことが好ましい。
【0034】
基板を浸漬する無電解めっき液の浴温度は例えば40〜85℃程度、好ましくは60〜80℃程度;pHは例えばpH5.5〜14、好ましくはpH10以上(例えばpH10〜13)に維持することができる。また、めっき前に、無電解めっきの触媒核として、白金等のマトリクス金属を厚さ2〜10nm程度にスパッタリング装置で成膜し触媒核としてもよい。さらに、その後、レジスト剥離液等に基板を浸漬することにより、2×2mm等の触媒核のパターンを形成してから「めっき」してもよい。
【0035】
なお、めっき(貴金属被膜)を形成するセラミックス基板は、例えばセラミックスグリーンシートを積層後焼成して作製してもよいし、セラミックス材料を圧粉成形後に焼成して作製してもよい。
【0036】
<熱処理工程>
めっき工程後、例えば、めっき膜中に含まれる不純物をガスとして除去するために、貴金属被膜を作製したセラミックス基板を、貴金属被膜の金属の粒成長開始温度以上の処理温度で熱処理できる。マトリクス金属の粒成長開始温度以上の温度とは、Tm/3(K)以上の温度であってもよく、さらにはTm/2(K)以上の温度であってもよい。ここでTmは、マトリクス金属の主成分である金属の粒成長温度である。なお、粒成長とは、結晶粒成長と言い換えられてもよい。なお、成膜後の貴金属被膜は、例えば、800℃〜1500℃で1〜5時間程度焼成することにより、被膜中に含まれる不純物をガスとして除去できる。
【0037】
<粗面化工程>
本発明の貴金属被膜の製造方法は、さらに、上記めっき工程の前に、セラミックス基板の粗面化処理を行う粗面化工程を含んでいてもよい。粗面化処理とは、セラミックス基板の表面に凹凸を形成することであり、例えば、焼成前のセラミックス基板にナノインプリント法により凹凸を形成すること、フッ化水素酸等の酸によって焼成後のセラミックス基板を処理することで実行可能である。粗面化処理は、セラミックス基板の焼成の前後のいずれで行われてもよい。
【0038】
(3)積層体
本発明の積層体は、上記貴金属被膜と、セラミックス基板とを備えている。セラミックス基板としては、上記例示のものが使用できる。本発明の積層体では、上記貴金属被膜とセラミックス基板との密着強度は、セバスチャン法で測定した場合に、例えば1.5N/mm2以上、好ましくは2.50N/mm2以上、より好ましくは4.0N/mm2以上、特に好ましくは5.2N/mm2以上である。また、貴金属被膜による被覆率は、マトリクスの金属粒子が粒成長を開始する温度以上の熱処理を行った場合でも、80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上とすることができる。
【0039】
本発明の積層体は、好ましくは、マトリクス金属の粒成長開始温度以上の温度で熱処理されている。ここで、マトリクス金属の粒成長開始温度以上の温度とは、上記と同様である。積層体を、例えば、1000℃〜1500℃で1〜5時間程度焼成することにより、貴金属被膜中に含まれる不純物がガスとして除去される。
【0040】
本発明の積層体では、膜厚が2μm未満と非常に薄いため、高価なマトリクス金属を使用した場合でも原料コストを削減できる。また、本発明の積層体は、マトリクス金属の粒成長開始温度以上の熱処理をおこなった場合でも、セラミックス基板への貴金属被膜の密着を維持させることができるため、配線基板、酸素センサー等として有用である。
【0041】
本発明の積層体は、上記貴金属被膜のセラミックス基板と反対側の表面に、さらにセラミックス層を備えていてもよい。この場合に、セラミックス層としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、誘電体材料、圧電/電歪体材料、焦電体材料、熱電変換材料、半導体材料、超伝導体材料、光学材料など金属被膜を電極とする各種機能材料を含有する層が挙げられる。誘電体には強誘電体が含まれる。誘電体としては、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム等が挙げられる。
【0042】
本発明の積層体は、上記貴金属被膜と上記セラミックス層とが共焼成された、誘電素子、焦電素子、熱電素子、半導体素子、超伝導素子、又はイオン伝導素子であってもよい。共焼成温度は、例えば1700℃以下の任意の温度(例えば1000〜1700℃)とすることができる。共焼成することにより、電極膜とセラミックス層との密着性を高めることができる。貴金属被膜が厚み2μm未満と非常に薄膜でありながら、マトリクス金属中にセラミックス微粒子を含有することにより、このような高温焼成においても、例えばフィラーとなるセラミックス微粒子によってマトリクス金属の粒子の粒界移動がピン止めされ、粒成長が抑制されるため、共焼成が可能となる。
【0043】
本発明の積層体によれば、誘電体、圧電/電歪体、焦電体、熱電素子、半導体素子、超伝導体素子、イオン伝導体素子、又はガスセンサー等のようなセラミックス電子部品において、電極膜にめっき膜を採用することが出来、薄肉の電極とすることで特性を維持または向上させつつ材料コストを抑えることが可能である。
【0044】
(4)積層体の製造方法
本発明の積層体の製造方法は、上記貴金属被膜の製造方法により製造された貴金属被膜の、セラミックス基板と反対側の表面にさらにセラミックス層を形成するセラミックス層形成工程と、上記貴金属被膜と上記セラミックス層とを共焼成する共焼成工程とを有する。セラミックス層としては、上記例示のものが使用できる。
【0045】
<セラミックス層形成工程>
セラミックス層形成工程におけるセラミックス層の形成は、セラミックスグリーンシートを積層することで実行されてもよいし、セラミックスペーストを塗布することで実行されてもよい。ペーストは、セラミックス材料及びバインダーを含有する。バインダーとしては、例えばブチラール樹脂、セルロース樹脂、アクリル樹脂等が使用可能である。複数種類のバインダーが混合されてもよい。セラミックペーストの塗布方法に特に制限はないが、例えばスピンコート、スリットコート、ロールコート、ゾルゲル法、スプレー法、スクリーン印刷法の湿式塗布、貴金属被膜を電極にした電気泳動法等が用いられる。
【0046】
<共焼成工程>
共焼成工程では、上記貴金属被膜と上記セラミックス層とを共焼成する。共焼成は、例えば、1700℃以下の任意の温度で行うことができる。この工程により、上記貴金属被膜と上記セラミックス層との密着性に優れた、例えば、誘電体、焦電体、熱電素子、半導体素子、超伝導素子、イオン伝導素子、又はセンサーなどのセラミックス電子部品等の積層体を製造できる。
【実施例】
【0047】
以下において本発明の実施例について説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例1
サイズが30mm×20mmかつ厚みが0.2mmのジルコニア基板の表面に対して、フッ化水素酸で粗面化処理を行った。
【0049】
基板の粗面化された表面に、東京応化製ネガ型フォトレジストPMER−Nを塗布し、さらに露光及び現像を行うことで、2×2mmの基板表面を露出させるレジストパターンを形成した。
【0050】
次に、アネルバ製のマグネトロンスパッタリング装置を用いて、レジストパターン上から、無電解めっきの触媒核として、Ptを厚さ5nm成膜した。その後、レジスト剥離液に基板を浸漬することで、Ptの触媒核の2×2mmパターンを形成した。
【0051】
次いで、日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース製の無電解Ptめっき液(レクトロレスPt100)を、形成される金属膜が0.5μmになるように調合した。このめっき液100重量部に対して、予めpH11、固形分量20%に調整した平均粒径50nmのセリア粒子分散液を15重量部添加し、分散するようにアンモニアでpHを12に調整して複合めっき液を作製した。浴温度64℃かつpH12に維持した複合めっき液に基板を浸漬し、攪拌しながら20分間放置した。こうして、粗面化された表面に2×2mmのPt膜が形成されたジルコニア基板を得た。Pt膜中のセリア粒子の含有量は、Pt100重量部に対して5重量部であった。
【0052】
得られたPt膜からガスを除去するために、ジルコニア基板を、大気雰囲気下、昇温速度50℃/min、最高温度1100℃、保持時間2時間で熱処理をおこなった。
【0053】
実施例2
実施例1と同様のプロセスで、めっき液に添加した粒子をジルコニアに変更した水準で複合めっき液を作製した以外は、実施例1と同様にして、ジルコニア基板上にPt膜を作製した。
【0054】
実施例3
実施例1と同様のプロセスで、めっき液に添加した粒子をイットリアに変更した水準で複合めっき液を作製した以外は、実施例1と同様にして、ジルコニア基板上にPt膜を作製した。
【0055】
実施例4
実施例1と同様のプロセスで、めっき液に添加した粒子をアルミナに変更した水準で複合めっき液を作製した以外は、実施例1と同様にして、ジルコニア基板上にPt膜を作製した。
【0056】
実施例5
実施例1と同様のプロセスで、めっき液に添加した粒子をチタニアに変更した水準で複合めっき液を作製した以外は、実施例1と同様にして、ジルコニア基板上にPt膜を作製した。
【0057】
実施例6
実施例1と同様のプロセスで、めっき液に添加した粒子をスピネルに変更した水準で複合めっき液を作製した以外は、実施例1と同様にして、ジルコニア基板上にPt膜を作製した。
【0058】
比較例1
実施例1と同様のプロセスで、粒子添加をおこなわずに成膜をおこなった。
【0059】
比較例2
サイズが30mm×20mmかつ厚みが0.2mmのジルコニア基板に田中貴金属工業製Ptペーストをスクリーン印刷法で2×2mm、厚さ0.5μmのパターンを形成し、1350℃で焼成してPt膜を得た。
【0060】
比較例3
サイズが30mm×20mmかつ厚みが0.2mmのジルコニア基板に田中貴金属工業製Ptペーストをスクリーン印刷法で2×2mm、厚さ10.5μmのパターンを形成し、1350℃で焼成してPt膜を得た。
【0061】
実施例1〜6、比較例1〜3について、以下の試験を行った。結果を表1に示す。
【0062】
(1)被覆率
得られたセラミックス基板をマイクロスコープで透過観察し、被覆率を画像解析により求めた。
【0063】
(2)密着強度
外観上に不良の見られなかった試料について、セバスチャン法により金属被膜の密着強度を測定した。
まず、めっきにより形成された2×2mmの金属膜を、半田でアルミニウム線と接合した。引張り試験機で基板を固定して、金属膜と接合したアルミニウム線を引っ張り、金属膜と基板とが剥離したときの荷重を計測した。
【0064】
(3)断面微構造
積層体の断面微構造をJEOL製FE-SEMで観察した。
【0065】
[結果]
表1に示すように、複合めっきを形成した場合、熱処理後の被覆率も高く、密着強度も向上していることがわかった。
また、断面微構造を観察したところ、金属膜の粒界にセラミックス粒子が存在し、金属膜は微細な結晶粒で構成されていることが判った。特に、粗面化によって形成された凹部内に空隙が形成されておらず、アンカー効果が維持されていることがわかった。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例1〜6のPt膜では、膜厚が0.5μmと薄く、且つ被覆率が98%以上であり、平面接着強度が高かった。Pt以外の貴金属についてもPtと同様である。このため、貴金属被膜上にさらにセラミックス層を形成して、貴金属被膜とセラミックス層とを共焼成して、誘電体、焦電体、熱電素子、半導体素子、超伝導素子、イオン伝導素子、又はセンサーとした場合には、電極の影響が低減された特性の向上したセラミックス素子が製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板上に形成され、
Pt,Pd,Ru,Rh,Os,Ir及びAuからなる群から選択された少なくとも1種の金属を主成分として含有するマトリクス金属と、セラミックス微粒子とを含み、
2μm未満の膜厚を有する、
貴金属被膜。
【請求項2】
前記セラミックス微粒子が、セリア、ジルコニア、イットリア、アルミナ、チタニア、スピネル(アルミン酸マグネシウム、アルミン酸ニッケル)、イットリア安定化ジルコニア、セリア安定化ジルコニア、TiC及びTiNからなる群から選択された少なくとも1種のセラミックスを含む、請求項1記載の貴金属被膜。
【請求項3】
前記セラミックス微粒子の含有量が、前記マトリクス金属100重量部に対して3〜30重量部である、請求項1又は2記載の貴金属被膜。
【請求項4】
前記セラミックス微粒子の平均粒径が、5〜100nmである、請求項1〜3の何れか1項に記載の貴金属被膜。
【請求項5】
前記セラミックス微粒子の平均粒径と、前記貴金属被膜の膜厚との比が1/1.5〜1/400である、請求項1〜4の何れか1項に記載の貴金属被膜。
【請求項6】
前記貴金属被膜のマトリクス金属の粒成長開始温度以上の温度で熱処理された、請求項1〜5の何れか1項に記載の貴金属被膜。
【請求項7】
前記貴金属被膜が、めっき法で形成された、請求項1〜6の何れか1項に記載の貴金属被膜。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載の貴金属被膜の製造方法であって、
前記セラミックス微粒子を、前記マトリクス金属に対応する金属イオンを含むめっき液に分散させる分散工程と、
前記セラミックス微粒子が分散しためっき液を用いて、セラミックス基板に、2μm未満の膜厚にめっきするめっき工程と
を含む、貴金属被膜の製造方法。
【請求項9】
さらに、前記マトリクス金属の粒成長開始温度以上の温度で熱処理する熱処理工程を含む、請求項8の貴金属被膜の製造方法。
【請求項10】
さらに、前記めっき工程の前に、セラミックス基板の粗面化処理を行う粗面化工程を含む、請求項8又は9記載の貴金属被膜の製造方法。
【請求項11】
前記めっき工程におけるめっき液のpHが10〜14である、請求項8〜10の何れか1項に記載の貴金属被膜の製造方法。
【請求項12】
前記めっき液の温度が30〜85℃である、請求項8〜11の何れか1項に記載の貴金属被膜の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜7の何れか1項に記載の貴金属被膜と
セラミックス基板と
を備える積層体。
【請求項14】
前記貴金属被膜の前記セラミックス基板と反対側の表面に、さらにセラミックス層を備え、
前記貴金属被膜と前記セラミックス層とが共焼成された、誘電素子、焦電素子、熱電素子、半導体素子、超伝導素子、又はイオン伝導素子である、請求項13記載の積層体。
【請求項15】
請求項1〜7の何れか1項に記載の貴金属被膜の製造方法により製造された貴金属被膜の、セラミックス基板と反対側の表面にさらにセラミックス層を形成するセラミックス層形成工程と、
前記貴金属被膜と前記セラミックス層とを共焼成する共焼成工程と
を有する、請求項14記載の積層体の製造方法。

【公開番号】特開2013−87347(P2013−87347A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230825(P2011−230825)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】