説明

貼り合せ光学部品

【課題】本発明の目的は耐熱性、透過率が高く、防汚性、耐摩擦性、加工性に優れる貼り合せ光学部品を提供することにある。
【解決手段】複数の硬化物を貼り合わせてなる光学部品であって、該硬化物はイソシアヌル酸骨格およびシロキサン骨格を含有することを特徴とし、該硬化物の貼り合わせにはシロキサン骨格を含有する組成物を接着剤として用い、光学部品の硬度がショアDで50以上であり、水に対する接触角が60度以上であることを特徴とする光学部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性、透過率が高く、防汚性に優れ、硬度が高い貼り合せ光学部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、携帯電話用カメラ等にカメラモジュールが広く使われている。カメラモジュールは、受光素子からなるセンサーユニットと、1枚または複数のレンズを組み合わせたレンズユニットとから構成される。
【0003】
近年、小型化・薄型化や低コスト化を目的とし、製造工程の効率化が望まれている。小型かつ多数のレンズを製造する方法として、基板上に複数のレンズを形成した構成であるウェハレベルレンズアレイを製造し、レンズアレイを複数枚貼り合わせ、基板部を切断することでレンズユニットを量産する方法が知られている。
【0004】
さらに製造工程の効率化のため、レンズユニットと受光センサーユニットを半田リフロー工程により一括で製造する方法が導入されつつある。この方法では250℃を超える温度履歴がかかることもあり、レンズユニットに対して高い耐熱性が求められている。
【0005】
例えば特許文献1では接着層として付加型シリコーン系充填剤を用いた貼り合わせレンズについて記載があるが、レンズ材料としてポリカーボネートやポリメチルメタクリレートが使用されており、耐熱性が十分ではなかった。
【0006】
また、特許文献2ではレンズアレイについての製造方法についての記載があるが、レンズの材料として熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を用いることが記載されているのみで、レンズ材料の組成や貼り合わせの接着剤との組み合わせについては記載がなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−19105
【特許文献2】特開2010−256563
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は耐熱性、透過率が高く、防汚性、耐摩擦性、加工性に優れる貼り合せ光学部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記事情に鑑み、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、本発明は、以下の構成を有するものである。
即ち本発明は、以下の構成をなす。
【0010】
1)複数の硬化物を貼り合わせてなる光学部品であって、該硬化物はイソシアヌル酸骨格およびシロキサン骨格を含有することを特徴とし、該硬化物の貼り合わせにはシロキサン骨格を含有する組成物を接着剤として用いることを特徴とする光学部品。
【0011】
2)光学部品の硬度がショアDで50以上であることを特徴とする1)に記載の光学部品。
【0012】
3)光学部品の光線透過率が400nmの波長において70%以上であることを特徴とする1)または2)に記載の光学部品。
【0013】
4)光学部品の水に対する接触角が60度以上であることを特徴とする1)〜3)のいずれか一項に記載の光学部品。
【0014】
5)接着剤の重量減少率が260℃10分間の加熱によって3%以内であることを特徴とする1)〜4)のいずれか一項に記載の光学部品。
【0015】
6)接着剤がさらにイソシアヌル酸骨格を含有することを特徴とする1)〜5)のいずれか一項に記載の光学部品。
【0016】
7)硬化物の屈折率が1.400〜1.550であることを特徴とする1)〜6)のいずれか一項に記載の光学部品。
【0017】
8)接着剤が(A)SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物、(B)1分子中に少なくともSiH基を2個含有する化合物
からなる組成物であることを特徴とする1)〜7)のいずれか一項に記載の光学部品。
【0018】
9)硬化物が(C)SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物、(D)1分子中に少なくともSiH基を2個含有する化合物
からなる組成物を硬化させてなることを特徴とする1)〜8)のいずれか一項に記載の光学部品。
【0019】
10)接着剤として用いられる組成物の粘度が0.01〜200Pa・sであることを特徴とする1)〜9)のいずれか一項に記載の光学部品。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、耐熱性、透過率が高く、防汚性、耐摩擦性、加工性に優れる貼り合せ光学部品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に記載する。
【0022】
<硬化物>
本発明の光学部品に用いられる硬化物はイソシアヌル酸骨格およびシロキサン骨格を含有すれば特に限定されない。硬化物がイソシアヌル酸骨格およびシロキサン骨格を含有することで、耐熱性、透明性、耐摩擦性、加工性に優れた光学部品を得ることができる。
【0023】
本発明に用いられる複数の硬化物はそれぞれ同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0024】
硬化物に含有されるイソシアヌル酸骨格は下記一般式(I)で表される。
【0025】
【化1】

【0026】
(式中R1は水素原子、アルキル基、アリール基を表し、それぞれのR1は同一でも異なっていても良い。)イソシアヌル酸骨格が含有されることは例えばIRやNMRなどの分析法で確認することができる。
【0027】
硬化物に含有されるイソシアヌル酸骨格の含有量は5〜50重量%であるのが好ましく、10〜45重量%であるのがより好ましい。イソシアヌル酸骨格の含有量が5〜50重量%の範囲にあることで、耐熱性、加工性に優れた光学部品を得ることができる。イソシアヌル酸骨格の含有量は例えばNMRや質量分析、元素分析などの分析法でイソシアヌル酸骨格由来のアミド基を定量することで求めることができる。 硬化物に含有されるシロキサン骨格は、特に限定されないが、例えば下記一般式(II)や一般式(III)で表される骨格が例示される。
【0028】
【化2】

【0029】
(式中、それぞれのR2、R3は、水素あるいは炭素数1〜50の一価の有機基を表し、それぞれのR2、R3は同一でも異なっていても良い。nは1〜1000の数を表す。)
【0030】
【化3】

【0031】
(式中、それぞれのR4、R5は、水素あるいは炭素数1〜50の一価の有機基を表し、それぞれのR4、R5は同一でも異なっていても良い。nは2〜10の数を表す。)
シロキサン骨格が含有されることは例えばIRやNMRなどの分析法で確認することができる。
【0032】
硬化物に含有されるシロキサン骨格の含有量は5〜50重量%であるのが好ましく、10〜45重量%であるのがより好ましい。ここでシロキサン骨格とはSi−Oの結合のことを表す。シロキサン骨格の含有量が5〜50重量%の範囲にあることで、耐熱性、透明性、耐摩擦性に優れた光学部品を得ることができる。
【0033】
硬化物の屈折率は23℃、589nmにおいて1.400〜1.550の範囲であることが好ましく、1.410〜1.545の範囲であることがより好ましく、1.420〜1.540の範囲であることがさらに好ましい。589nmにおける屈折率が1.400より低いと、硬化物の厚みが厚くなり、光学部品の薄型化が難しくなったり、部品の曲率が大きくなり加工性が低下したりする。また、屈折率が1.550より高いと、界面での反射率が大きくなり、光の透過率が低下する恐れがある。
【0034】
硬化物の屈折率温度依存性は589nmの波長において−500〜0ppmであるのが好ましく、−400〜0ppmであるのが好ましく、−300〜0ppmであるのが特に好ましい。屈折率温度依存性が−500〜0ppmの範囲にあることで、光学部品として使用可能な温度領域が広がる。
【0035】
また、硬化物に対する水の接触角は60度以上150度以下であることが好ましく、65度以上145度以下であることがより好ましく、70度以上130度以下であることが特に好ましい。水の接触角が60度以上150度以下の範囲であると、表面が傷つきにくく、接着剤を塗布する際や反射防止コートなどのコーティング剤を表面にコートする際、ぬれ性が良好な硬化物を得ることができる。
硬化物は30℃における線膨張係数が110ppm/K以下であることが好ましく、100ppm/K以下がより好ましい。線膨張係数を低くすることにより、光学部品の温度による焦点や収差のズレを小さく、部品を固定した際に熱履歴がかかったときの熱衝撃を小さくすることができる。
【0036】
硬化物の光線透過率は400nmの波長において75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。光線透過率が75%以上であると、透過率の高い光学部品を得ることができる。
【0037】
硬化物の50℃における貯蔵弾性率は1000MPa以上であるのが好ましく、11000MPa以上であるのがさらに好ましく、1200MPa以上であるのが特に好ましい。ここで貯蔵弾性率は引張りモードまたは圧縮モードまたは曲げモードにおいて周波数1Hzで測定した弾性率を示す。貯蔵弾性率が100MPa以上である硬化物を用いることで、応力に対する変形の小さい光学部品が得られる。
【0038】
硬化物の100℃における貯蔵弾性率は100MPa以上であるのが好ましく、200MPa以上であるのがさらに好ましく、500MPa以上であるのが特に好ましい。貯蔵弾性率が100MPa以上である硬化物を用いることで、耐熱変形性に優れた光学部品が得られる。
【0039】
硬化物の複屈折は100nm以下であるのが好ましく、80nm以下であるのがさらに好ましく、50nm以下であるのが特に好ましい。複屈折が100nm以下の硬化物を用いることで、収差の小さい光学部品が得られる。ここで複屈折は平行ニコル法で測定した値を表す。
【0040】
硬化物の硬化方法は特に限定されないが、(C)SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物、(D)1分子中に少なくともSiH基を2個含有する化合物からなる組成物を硬化させるのが好ましい。
【0041】
(C成分)
(C)成分はSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物であれば特に限定されず、例えば有機化合物や、シリコーン化合物、有機化合物とシリコーン化合物を変性した化合物が例示される。(C)成分に含まれる化合物は単一でも複数でも良い。
(C)成分に含まれる炭素−炭素二重結合としてはSiH基と反応性を有するものであれば特に制限されないが、下記一般式(IV)で示される炭素−炭素二重結合が反応性の点から好適である。
【0042】
【化4】

【0043】
(式中R6は水素原子あるいはメチル基を表す。)また、原料の入手の容易さからは、R6は水素原子であることがより好ましい。
硬化物の耐熱性が高いという点からは一般式(V)が好適である。
【0044】
【化5】

【0045】
(式中R7は水素原子あるいはメチル基を表し、それぞれのR7は同一でも異なっていても良い。)また、原料の入手の容易さからは、R7は水素原子であることがより好ましい。
炭素−炭素二重結合は置換基を介して(A)成分の骨格部分に共有結合していても良く、置換基としては、構成元素としてC、H、N、O、S、ハロゲンから選ばれる原子のみを含むものが好ましい。置換基の例としては、次のものが挙げられる。
【0046】
【化6】

【0047】
【化7】

【0048】
また、これらの置換基の2つ以上が共有結合によりつながって置換基を構成していてもよい。
【0049】
以上のような骨格部分に共有結合する基の例としては、ビニル基、アリル基、メタリル基、アクリル基、メタクリル基、2−ヒドロキシ−3−(アリルオキシ)プロピル基、2−アリルフェニル基、3−アリルフェニル基、4−アリルフェニル基、2−(アリルオキシ)フェニル基、3−(アリルオキシ)フェニル基、4−(アリルオキシ)フェニル基、2−(アリルオキシ)エチル基、2、2−ビス(アリルオキシメチル)ブチル基、3−アリルオキシ−2、2−ビス(アリルオキシメチル)プロピル基、下記に示すものが挙げられる。
【0050】
【化8】

【0051】
耐熱性をより向上し得るという観点から、SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を(C)成分1gあたり0.1mmol以上含有するものが好ましく、さらに、1gあたり0.5mmol以上含有するものが好ましく、1mmol以上含有するものが特に好ましい。
【0052】
(C)成分のSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合の数は、平均して1分子当たり少なくとも2個あればよいが、力学強度をより向上したい場合には2を越えることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。(C)成分のSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合の数が1分子内当たり1個以下の場合は、(C)成分と反応してもグラフト構造となるのみで架橋構造とならない。
【0053】
力学的耐熱性が高いという観点および原料液の糸引き性が少なく成形性、取扱い性、充填性が良好であるという観点からは、(C)成分は分子量が900未満のものが好ましく、700未満のものがより好ましく、500未満のものがさらに好ましい。
【0054】
良好な作業性を得るためには、(C)成分は23℃における粘度が100Pa・s未満のものが好ましく、50Pa・s未満のものがより好ましく、30Pa・s未満のものがさらに好ましい。ここでの粘度はE型粘度計によって測定した値を指す。
【0055】
(C)成分としては、着色特に黄変の抑制の観点からはフェノール性水酸基および/あるいはフェノール性水酸基の誘導体を有する化合物の含有量が少ないものが好ましく、フェノール性水酸基および/あるいはフェノール性水酸基の誘導体を有する化合物を含まないものが好ましい。本発明におけるフェノール性水酸基とはベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等に例示される芳香族炭化水素核に直接結合した水酸基を示し、フェノール性水酸基の誘導体とは上述のフェノール性水酸基の水素原子をメチル基、エチル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、アセトキシ基等のアシル基等により置換された基を示す。
【0056】
硬化物の屈折率や脆さの観点から、(C)成分としては有機化合物または有機化合物とシリコーン化合物を反応させた化合物であることが好ましく、入手性の観点から有機化合物であることが特に好ましく、耐熱性の観点から下記一般式(VI)で表されるイソシアヌル酸骨格を含有する化合物がさらに好ましい。
【0057】
【化9】

【0058】
(式中R8は炭素数1〜50の一価の有機基を表し、それぞれのR8は異なっていても同一であってもよい。)で表される化合物が好ましい。
【0059】
上記一般式(VI)のR8としては、得られる硬化物の耐熱性がより高くなりうるという観点からは、炭素数1〜30の一価の有機基であることが好ましく、炭素数1〜20の一価の有機基であることがより好ましく、炭素数1〜10の一価の有機基であることがさらに好ましい。これらの好ましいR8の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、ビニル基、アリル基、グリシジル基等が挙げられる。
【0060】
上記のような一般式(VI)で表される化合物の好ましい具体例としては、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、ジアリルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ジアリルモノメチルイソシアヌレート、ジアリルモノフェニルイソシアヌレート、トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレートなどが挙げられる。
【0061】
耐光性が高いという観点からは、(C)成分としては脂環式化合物が好ましい。具体的には、ビニルシクロヘキセン、ジシクロペンタジエン、1,2,4−トリビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルネンなどが挙げられる。
【0062】
(D成分)
(D)成分は1分子中に少なくともSiH基を2個含有する化合物であれば特に限定されず、鎖状シリコーン化合物や環状シリコーン化合物、網目状シリコーン化合物、有機化合物とシリコーン化合物を変性させた化合物などが例示される。(D)成分に含まれる化合物は単一でも複数でも良い。
【0063】
上記鎖状ポリオルガノシロキサンの具体的な例としては、下記一般式(VII)
【0064】
【化10】

【0065】
(式中、それぞれのR9、R10は、水素あるいは炭素数1〜50の一価の有機基を表し、それぞれのR9、R10は異なっていても同一であってもよいが、少なくとも2個は水素である。nは1〜1000の数を表す。)で表される化合物が挙げられる。
9、R10としては、得られる硬化物の耐熱性がより高くなりうるという観点からは、炭素数1〜20の一価の有機基であることが好ましく、炭素数1〜15の一価の有機基であることがより好ましく、炭素数1〜10の一価の有機基であることがさらに好ましい。これらの好ましいR9、R10の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、メトキシ基、エトキシ基、ビニル基、アリル基、グリシジル基等が挙げられる。
【0066】
上記環状ポリオルガノシロキサンとしては、例えば、下記一般式(VIII)
【0067】
【化11】

【0068】
(式中、R11は水素あるいは炭素数1〜6の有機基を表し、それぞれのR11は異なっていても同一であってもよいが、少なくとも2個は水素である。nは2〜10の数を表す。)で表される、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有する環状ポリオルガノシロキサン等が挙げられる。なお、上記一般式(VIII)におけるR11は、C、H、Oから構成される炭素数1〜6の有機基であることが好ましく、炭素数1〜6の炭化水素基であることがより好ましい。R11は入手性、耐熱性の観点より特にメチル基であるものが好ましく、硬化物の強度が高くなるという観点より特にフェニル基であるものが好ましい。また、nは3〜10の数であることが好ましい。
【0069】
一般式(VIII)で表される環状ポリオルガノシロキサンの好ましい具体例としては、1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7,9−ペンタメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。
【0070】
(D)成分の分子量は特に制約はなく任意のものが好適に使用できるが、硬化性組成物の流動性をより制御しやすいという観点からは低分子量のものが好ましく用いられる。この場合、好ましい分子量の下限は50であり、好ましい分子量の上限は100000、より好ましくは10000、さらに好ましくは3000である。
【0071】
(C)成分と良好な相溶性を有するという観点、および(D)成分の揮発性が低くなり得られる組成物からのアウトガスの問題が生じ難いという観点からは、(D)成分は、SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に1個以上含有する有機化合物(D1)と、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有するシリコーン化合物(D2)を、反応して得ることができる化合物であることが好ましい。
【0072】
((D1)成分)
(D1)成分は、SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に1個以上含有する有機化合物である。(D1)成分としては上記した(C)成分である、SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する有機系化合物と同じもの(D11)を用いることができる。(D11)成分を用いると得られる硬化物の架橋密度が高くなり機械的強度の強い硬化物となりやすい。
【0073】
その他、SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に1個含有する有機系化合物(D12)も用いることができる。(D12)成分を用いると得られる硬化物が低弾性となりやすい。
【0074】
(D12)成分のSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合の結合位置は特に限定されず、分子内のどこに存在してもよい。また、(D12)成分のSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合としては特に限定されないが、(C)成分で説明した官能基が好ましい。
【0075】
(D12)成分の化合物は、重合体系の化合物と単量体系化合物に分類でき、それぞれの骨格は(C)成分で説明した骨格が好ましい。
【0076】
耐熱変色性が高いという観点からは、(D1)成分として、上述した一般式(VI)で表されるイソシアヌル酸骨格を含有する化合物が好ましい。
耐光性が高いという観点からは、(D1)成分としては脂環式化合物が好ましい。具体的には、ビニルシクロヘキセン、ジシクロペンタジエン、1,2,4−トリビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルネンなどが挙げられる。
(D1)成分は、単独又は2種以上のものを混合して用いることが可能である。
【0077】
((D2)成分)
(D2)成分は1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有するポリオルガノシロキサンであれば特に限定されない。それぞれの化合物の具体的な例としては上記(D)成分で説明したものが挙げられる。
(D2)成分は、単独又は2種以上のものを混合して用いることが可能である。
【0078】
(予備反応)
(D1)SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に1個以上含有する有機化合物と、(D2)1分子中に少なくとも2個のSiH基を有するシリコーン化合物を反応させて(D)成分である1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する化合物を得るための反応について説明する。
【0079】
(D1)と(D2)が反応して結合を形成すれば反応の方法は限定されないが、例えば熱ヒドロシリル化反応、光ヒドロシリル化反応が例示される。
【0080】
(D1)成分と(D2)成分とを反応させる場合の、(D1)成分と(D2)成分の混合比率は、1分子中に2個以上SiH基が残る範囲であれば、特に限定されない。
【0081】
得られる硬化物の強度を考えた場合、(D1)成分中のSiH基との反応性を有する炭素−炭素二重結合のモル数(X)と、(D2)成分中のSiH基のモル数(Y)との比は、Y/X≧2であることが好ましく、Y/X≧3であることがより好ましい。
【0082】
ヒドロシリル化させる場合には適当な触媒を用いてもよい。触媒としては、例えば、白金の単体;アルミナ、シリカ、カーボンブラック等の担体に固体白金を担持させたもの;塩化白金酸;塩化白金酸とアルコール、アルデヒド、ケトン等との錯体;白金−オレフィン錯体(例えば、Pt(CH2=CH22(PPh32、Pt(CH2=CH22Cl2);白金−ビニルシロキサン錯体(例えば、Pt(ViMe2SiOSiMe2Vi)a、Pt[(MeViSiO)4b);白金−ホスフィン錯体(例えば、Pt(PPh34、Pt(PBu34);白金−ホスファイト錯体(例えば、Pt[P(OPh)34、Pt[P(OBu)34)(式中、Meはメチル基、Buはブチル基、Viはビニル基、Phはフェニル基を表し、a、bは、整数を示す。);ジカルボニルジクロロ白金;カールシュテト(Karstedt)触媒、RhCl(PPh)3、RhCl3、RhAl23、RuCl3、IrCl3、FeCl3、AlCl3、PdCl2・2H2O、NiCl2、TiCl4等が挙げられる。
【0083】
触媒の添加量は特に限定されないが、十分な硬化性を有し、かつ硬化性組成物のコストを比較的低く抑えるため好ましい添加量の下限は、(D2)成分のSiH基1モルに対して10-10モル、より好ましくは10-8モルであり、好ましい添加量の上限は(D2)成分のSiH基1モルに対して10-1モル、より好ましくは10-2モルである。
【0084】
また、上記触媒には助触媒を併用することが可能であり、例としてトリフェニルホスフィン等のリン系化合物、ジメチルマレート等の1、2−ジエステル系化合物、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−ブチン等のアセチレンアルコール系化合物、単体の硫黄等の硫黄系化合物、トリエチルアミン等のアミン系化合物等が挙げられる。助触媒の添加量は特に限定されないが、ヒドロシリル化触媒1モルに対しての好ましい添加量の下限は、10-2モル、より好ましくは10-1モルであり、好ましい添加量の上限は102モル、より好ましくは10モルである。
【0085】
反応時の触媒混合方法としては、各種方法をとることができるが、(D1)成分にヒドロシリル化触媒を混合したものを、(D2)成分に混合する方法が好ましい。(D1)成分と(D2)成分との混合物にヒドロシリル化触媒を混合する方法では反応の制御が困難な場合がある。また、(D2)成分とヒドロシリル化触媒を混合したものに(D1)成分を混合する方法では、ヒドロシリル化触媒の存在下(D2)成分が混入している水分と反応性を有するため、変質することがある。
【0086】
反応温度としては種々設定できるが、好ましい温度範囲の下限は30℃、より好ましくは50℃であり、好ましい温度範囲の上限は200℃、より好ましくは150℃である。反応温度が低いと十分に反応させるための反応時間が長くなる傾向があり、反応温度が高いと工業的に不利な場合がある。反応は一定の温度で行ってもよく、また必要に応じて多段階あるいは連続的に温度を変化させてもよい。
【0087】
反応時間、反応時の圧力も必要に応じ種々設定できる。反応時間については特に限定されない。経済的な面からは、好ましくは20時間以内、さらに好ましくは10時間以内である。圧力も特に限定されないが、特殊な装置が必要になったり、操作が煩雑になったりする、という面から、好ましくは大気圧〜5MPa、さらに好ましくは大気圧〜2MPaである。
【0088】
ヒドロシリル化反応の際に溶媒を使用してもよい。使用できる溶剤はヒドロシリル化反応を阻害しない限り特に限定されるものではなく、具体的に例示すれば、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、1, 4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、1, 2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒を好適に用いることができる。溶媒は2種類以上の混合溶媒として用いることもできる。溶媒としては、トルエン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、クロロホルムが好ましい。使用する溶媒量も適宜設定できる。
【0089】
合成の反応後に溶媒及び/又は未反応の化合物を除去してもよい。除去する方法としては、例えば、減圧脱揮が挙げられる。減圧脱揮する場合、低温で処理することが好ましい。この場合の好ましい温度の上限は120℃であり、より好ましくは100℃である。高温で処理すると増粘等の変質を伴いやすい。
【0090】
また、貯蔵安定性を向上させるためには窒素、アルゴンの様な不活性ガス雰囲気下、10℃以下での保存が好ましく、0℃以下の保存が特に好ましく、−10℃以下の保存がさらに好ましい。
【0091】
以上のような反応から得られる(D)の例としては、トリアリルイソシアヌレートと1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの反応物、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレートと1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの反応物、モノアリルジグリシジルイソシアヌレートと1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの反応物、ジビニルベンゼンと1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの反応物、ビスフェノールAジアリルエーテルと1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの反応物や、ビス〔4−(2−アリルオキシ)フェニル〕スルホンと1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの反応物がより好ましい。
【0092】
(硬化物を得るための組成物)
本発明の硬化物を得るための組成物には適した硬化剤や硬化触媒を含む。このとき、ヒドロシリル化触媒を含有してもよい。適切なヒドロシリル触媒の例や添加量の例としては、(D2)成分の説明で記載したものが例示される。
【0093】
本発明の硬化物を得るための組成物には助触媒を含有してもよい。適切な助触媒の例や添加量の例としては、(D2)成分の説明で記載したものが例示される。
本発明の硬化物を得るための組成物には酸化防止剤を添加してもよい。酸化防止剤としては、ヒンダートフェノール系等一般に用いられている酸化防止剤の他、クエン酸やリン酸、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
【0094】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、BASF社から入手できるイルガノックス1010をはじめとして、各種のものが用いられる。
【0095】
硫黄系酸化防止剤としては、メルカプタン類、メルカプタンの塩類、スルフィドカルボン酸エステル類や、ヒンダードフェノール系スルフィド類を含むスルフィド類、ポリスルフィド類、ジチオカルボン酸塩類、チオウレア類、チオホスフェイト類、スルホニウム化合物、チオアルデヒド類、チオケトン類、メルカプタール類、メルカプトール類、モノチオ酸類、ポリチオ酸類、チオアミド類、スルホキシド類等が挙げられる。
【0096】
また、これらの酸化防止剤は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
本発明の硬化物を得るための組成物には離型剤を添加してもよい。離型剤は、樹脂に相溶し、硬化物の透明性を損なわず、型からの離型性を向上させるものであれば特に限定されない。そのような離型剤としてはフッ素系化合物、シリコーン系化合物、長鎖炭化水素系化合物等が挙げられる。フッ素系化合物としては例えばパーフルオロアルキル含有オリゴマー、パーフルオロアルキルエチレンオキシド、パーフルオロアルケニルエチレンオキシド等が挙げられる。シリコーン系化合物としては、例えば炭素−炭素二重結合やSiH基など反応性の官能基を持つジメチルシリコーンやポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。長鎖炭化水素系化合物としては例えばステアリン酸誘導体、パルミチン酸誘導体などが挙げられる。
【0097】
また、これらの離型剤は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0098】
本発明の硬化物を得るための組成物には紫外線吸収剤を添加してもよい。紫外線吸収剤としては、例えば2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン)セバケート等が挙げられる。
【0099】
また、これらの紫外線吸収剤は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
本発明の硬化物を得るための組成物には無機フィラーを添加してもよい。無機フィラーを添加すると、材料の高強度化や難燃性向上などに効果がある。無機フィラーとしては、微粒子のものが好ましく、アルミナ、水酸化アルミニウム、溶融シリカ、結晶性シリカ、超微粉無定型シリカ、疎水性超微粉シリカ、硫酸バリウム、蛍光体等を挙げることができる。
【0100】
フィラーを添加する方法としては、例えば、アルコキシシラン、アシロキシシラン、ハロゲン化シラン等の加水分解性シランモノマー又はオリゴマーや、チタン、アルミニウム等の金属アルコキシド、アシロキシド又はハロゲン化物等を、本発明の硬化性組成物に添加して、組成物中あるいは組成物の部分反応物中で反応させ、組成物中で無機フィラーを生成させる方法等も挙げることができる。
【0101】
本発明の硬化物を得るための組成物には、その他、着色剤、貯蔵安定剤、難燃剤、難燃助剤、界面活性剤、乳化剤、レベリング剤、はじき防止剤、アンチモン−ビスマス等のイオントラップ剤、チクソ性付与剤、オゾン劣化防止剤、光安定剤、増粘剤、消泡剤、可塑剤、反応性希釈剤、熱安定化剤、導電性付与剤、帯電防止剤、放射線遮断剤、核剤、リン系過酸化物分解剤、滑剤、顔料、金属不活性化剤、熱伝導性付与剤、物性調整剤等を本発明の目的および効果を損なわない範囲において添加することができる。
【0102】
(硬化物の作製方法)
本発明における硬化物の作製方法としては、上記で説明した硬化性組成物を用いれば特に限定されないが、各成分を単に混合するだけで反応させることもできるし、光を照射して反応させることもできるし、加熱して反応させることもできる。反応が速く、一般に耐熱性の高い材料が得られ易いという観点から、加熱して反応させる方法が好ましい。
【0103】
反応温度としては種々設定できるが、好ましい温度の下限は30℃、より好ましくは60℃、さらに好ましくは90℃である。好ましい温度の上限は300℃、より好ましくは250℃、さらに好ましくは200℃である。反応温度が低いと十分に反応させるための反応時間が長くなる。反応温度が高いと着色や隆起することがある。反応温度が低いと十分に反応させるための反応時間が長くなる傾向があり、反応温度が高いと着色や隆起することがある。
【0104】
本発明の硬化物を作製するには、任意の成形加工方法を用いることができる。硬化物を得るための方法は特に限定されず、通常知られた射出成形、プレス成形、圧縮成形、真空成形、トランスファー成形、押出成形、注型成形、などが挙げられる。特に材料充填時の速度、圧力、などの成形条件に制約はなく、金型温度、硬化時間についても任意に設定することができる。
【0105】
反応は一定の温度で行ってもよいが、必要に応じて多段階あるいは連続的に温度を変化させてもよい。一定の温度で行うより、多段階的あるいは連続的に温度を上昇させながら反応させた方が、樹脂充填時の作業性と硬化時間の短縮を両立できるという点で好ましい。
【0106】
<接着剤>
本発明の光学部品に用いられる接着剤はシロキサン骨格を含有する組成物であれば限定されない。シロキサン骨格を含有することで、耐熱性、透明性に優れた光学部品を得ることができる。
【0107】
接着剤として用いられる組成物の粘度は0.01〜200Pa・sであるのが好ましく、0.03〜150Pa・sであるのがより好ましく、0.05〜120Pa・sであるのがさらに好ましい。接着剤の粘度が0.01Pa・sより低い、または200Pa・sよりも高いと、接着剤を塗布する際の作業性が低下することがある。
【0108】
接着剤は高温で着色しないものが好ましい。特に接着層に光を透過させる場合、着色が大きな課題となる。着色性の評価としては、例えば260℃で10分加熱した際の光線透過率の低下率で評価することができ、低下率が10%以内であるのが好ましく、8%以内がさらに好ましく、5%以内が特に好ましい。
【0109】
接着剤は高温で重量変化しないものが好ましい。重量変化が起こると、例えば半田リフロー炉を通した際に貼り合わせた光学部品の位置合わせがずれることがある。重量変化の評価としては、例えば260℃で10分加熱した際の重量変化率で評価することができ、低下率が3%以内であるのが好ましく、1%以内がさらに好ましく、0.5%以内が特に好ましい。
【0110】
光学部品に含有される接着剤層の硬度はショアAで50以上であるのが好ましい。硬度が低いと光学部品の切削時の応力に耐え切れず位置合わせがずれることがある。
【0111】
光学部品に含有される接着剤層の厚みは0.01〜2mmが好ましく、0.02〜1mmがさらに好ましい。厚みが0.01〜2mmの範囲にあることで、厚みムラが小さい光学部品を得ることができる。
【0112】
接着剤の硬化方法は特に限定されず、ヒドロシリル化反応、エポキシ硬化、縮合反応などが例示される。また、硬化時間の観点から、硬化時に加熱したり、光を照射したりするのが好ましい。
【0113】
接着剤の硬化時には圧力をかけてもよい。圧力をかけることで、ヒケが抑制されたり、接着強度が高くなったりする効果が得られる。
接着剤として用いられる組成物に含有されるシロキサン骨格は特に限定されないが、例えば上述した一般式(II)や一般式(III)で表される骨格が例示される。
接着剤に含有されるシロキサン骨格の含有量は5〜50重量%であるのが好ましく、10〜45重量%であるのがより好ましい。ここでシロキサン骨格とはSi−Oの結合のことを表す。シロキサン骨格の含有量が5〜50重量%の範囲にあることで、耐熱性、透明性に優れた光学部品を得ることができる。
【0114】
接着剤として用いられる組成物には接着性の観点からイソシアヌル酸骨格を含有することが好ましい。
【0115】
接着剤に含有されるイソシアヌル酸骨格の含有量は5〜50重量%であるのが好ましく、10〜45重量%であるのがより好ましい。イソシアヌル酸骨格の含有量が5〜50重量%の範囲にあることで、耐熱性、接着強度に優れた光学部品を得ることができる。イソシアヌル酸骨格の含有量は例えばNMRや質量分析、元素分析などの分析法でアミド基を定量することで求めることができる。
【0116】
接着剤として用いられる組成物は
(A)SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物、(B)1分子中に少なくともSiH基を2個含有する化合物
からなる組成物が好ましい。(A)成分、(B)成分からなる組成物を使用すると、接着剤の硬化が早く、貼り合わせ工程の時間が短くなることが期待される。
【0117】
ここで(A)成分はSiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物であれば特に限定されないが、例えば上記(C)成分で説明したものを使用できる。
【0118】
(B)成分は1分子中に少なくともSiH基を2個含有する化合物であれば特に限定されないが、例えば上記(D)成分で説明したものを使用できる。
接着剤として用いられる組成物には接着付与剤を添加してもよい。接着付与剤としては一般に用いられている接着剤の他、例えば種々のカップリング剤、エポキシ化合物、オキセタン化合物、フェノール樹脂、クマロン−インデン樹脂、ロジンエステル樹脂、テルペン−フェノール樹脂、α−メチルスチレン−ビニルトルエン共重合体、ポリエチルメチルスチレン、芳香族ポリイソシアネート等を挙げることができる。
【0119】
接着剤として用いられる組成物は、溶剤に溶解して用いてもよい。使用できる溶剤は特に限定されるものではなく、具体的に例示すれば、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(PGMEA)、エチレングリコールジエチルエーテル等のグリコール系溶剤、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒を用いることができる。
【0120】
<光学部品>
本発明における光学部品は、複数の上記で説明した硬化物を、上記で説明した接着剤により貼り合わせてなる光学部品である。
【0121】
本発明の光学部品の硬度はショアDで50以上であることが好ましく、55以上がより好ましく、60以上が特に好ましい。ここで、ショアDとはJIS K6253のタイプDデュロメータによる硬さのことであり、ショアDによる硬さが高いと、機械的強度があり、表面に傷がつきにくく、ごみが付着しにくい。さらに、カッターやドリルといった機械的加工が可能であることから、光学部品成型後に複雑な形状を付与したり、補正したりすることができる。
【0122】
本発明の光学部品の光線透過率は400nmの波長において70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。光線透過率が70%以上であると、光の散乱が少なくなり、光学部品として有用である。
【0123】
本発明の光学部品に対する純水の接触角は60度以上であることが好ましく、65度以上であることがより好ましく、70度以上であることが特に好ましい。ここで接触角は23℃でθ/2法を用いて測定した値のことである。水の接触角が60度以上である光学部品は防汚性に優れ、光学部品として有用である。
【0124】
光学部品の複屈折は150nm以下であるのが好ましく、100nm以下であるのがさらに好ましく、80nm以下であるのが特に好ましい。複屈折が150nm以下の硬化物を用いることで、ノイズが小さくなったり画像が鮮明になったりする効果が得られる。ここで複屈折は平行ニコル法で測定した値を表す。
【0125】
光学部品は耐溶剤性に優れるのが好ましい。アセトン、ヘキサン、エタノール、イソプロパノール、トルエンなどの溶剤に対する耐溶剤性が優れると、洗浄時の溶剤使用範囲が広がり、洗浄時に光学部品が劣化するのを防ぐことができる。耐溶剤性はサンプルを溶剤に室温で48時間浸漬し、サンプルの重量変化率を測定することで評価でき、重量変化率が10%以内であるのが好ましく、8%以内がさらに好ましく、5%以内が特に好ましい。
【0126】
本発明の光学部品を作製する際、貼り合わせの前に被着体である硬化物を洗浄するのが好ましい。硬化物を洗浄することで、異物の付着が低減し、接着強度が高くなる。洗浄方法としてはエアーや二酸化炭素などのガス噴射、アルコールやアセトンを用いた超音波洗浄などが例示される。
【0127】
本発明の光学部品を作製する際の、貼り合わせの方法は上述した硬化物と接着剤を用いていれば特に限定されず、貼り合わせ時に点状、線状、面状のいずれの方法で接着剤を塗布してもよい。接着剤の塗布方法としては、例えばディスペンス法、ロール法、スプレー法等の塗布方法を用いることができる。
【0128】
本発明の光学部品には、硬化物や接着剤の劣化原因となる望ましくない波長の光線を吸収する光線吸収層、水分や酸素ガス等の反応性低分子の透過を抑制あるいは防止する透過遮断層、防眩層、反射防止層などの層を設けてもよい。これらの層のコーティング方法としては、真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法、ディップコート法、スピンコート法等のコーティング法を用いることができる。
【0129】
硬化物を貼り合せる際には、接着剤層の厚み調節のため、任意の厚みのスペーサーを用いてもよい。
【0130】
本発明の硬化物を接着剤で貼り合せてなる光学部品は、機械的加工をすることができる。機械的加工を行なうことで、光学部品に複雑な形状を付与したり、補正したりすることができる。
【0131】
本発明の光学部品の用途としては、例えば、(デジタル)カメラや携帯電話や車載カメラ等のカメラ用レンズ、プロジェクションレンズ、f−θレンズ、ピックアップレンズ等の光学レンズ、光学フィルム、光学シート、光導派路、ダイシングテープ、絶縁材料(プリント基板、電線被覆等を含む)、高電圧絶縁材料、成形材料(シート、フィルム、FRP等を含む)、光造形、太陽電池用材料、表示材料、記録材料、複写機用感光ドラムに応用できる。
【実施例】
【0132】
以下に本発明の実施例および比較例を示すが、本発明は以下によって限定されるものではない。
【0133】
(合成例1)
2Lオートクレーブに1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン650g、トルエン600gを入れ、気相部を窒素置換した後、内温105℃で加熱、攪拌した。トリアリルイソシアヌレート90g、トルエン110g及び白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として0.03wt%含有)3.5gの混合溶液を10回に分けて分割添加した。滴下終了から6時間加熱撹拌した後、1H−NMRでアリル基の反応率が95%以上であることを確認し、冷却により反応を終了した。冷却により反応を終了した。
【0134】
トルエン及び未反応の1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンを60℃で2時間、80℃で2時間減圧脱揮し、無色透明の液体を得た。1H−NMRによりこのものは1、3、5、7−テトラメチルシクロテトラシロキサンのSiH基の一部とトリアリルイソシアヌレートのアリル基が反応したもの((α1)と称す。(α1)は混合物であるが、主成分として1分子中に9個のSiH基を含有する以下の化合物を含有する)であることがわかった。
【0135】
【化12】

【0136】
(合成例2)
2Lの四ツ口フラスコに、磁気攪拌子、冷却管、滴下漏斗をセットした。このフラスコに1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン(分子内SiH数4)590g、トルエン550gを入れ、気相部を窒素置換した後、内温100℃で加熱、攪拌した。ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート(分子内二重結合数2)130g、トルエン130g及び白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として0.03wt%含有)0.5gの混合溶液を10回に分けて分割添加した。滴下終了から3時間加熱撹拌した後、冷却により反応を終了した。
【0137】
トルエン及び未反応の1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンを60℃で2時間、80℃で2時間減圧脱揮し、無色透明の液体を得た。1H−NMRによりこのものは1、3、5、7−テトラメチルシクロテトラシロキサンのSiH基の一部とジアリルモノグリシジルイソシアヌレートのアリル基が反応したもの((α2)と称す。(α2)は混合物であるが、主成分として1分子中に6個のSiH基を含有する以下の化合物を含有する)であることがわかった。
【0138】
【化13】

【0139】
(硬化物作成例1、2)
表1に示される配合組成(β1、β2)で組成物を調整した。調整方法は(C)成分と触媒を混合し、さらに(D)成分と助触媒の混合物を加えて撹拌脱泡し、組成物を得た。
【0140】
次に、1mm厚みのシリコーンゴムシートを2枚のガラス板の間にスペーサーとして挟みこんで作製したセルに、得られた組成物を流し込み、熱風オーブンで120℃40分、180℃30分加熱することで板状の硬化物(β1、β2)を得た。
【0141】
(硬化物作成比較例)
表1に示される配合組成(エポキシ樹脂)で組成物を調整した。
【0142】
次に、1mm厚みのシリコーンゴムシートを2枚のガラス板の間にスペーサーとして挟みこんで作製したセルに、得られた組成物を流し込み、熱風オーブンで150℃12時間加熱することで板状の硬化物(エポキシ樹脂)を得た。
【0143】
(接着剤の作成例)
表1に示される配合組成で組成物を調整した。調整方法は(A)成分と触媒を混合し、さらに(B)成分と助触媒の混合物を加えて撹拌脱泡し、組成物(γ1)を得た。
【0144】
(実施例1、2)
表2に示す組み合わせで硬化物と接着剤を貼り合わせ、光学部品を得た。貼り合わせ方法は、硬化物の上に0.5mm厚みのスペーサーを置き、接着剤組成物を塗布し、さらに硬化物を上からかぶせて、接着剤を挟み込んだ。これを熱風オーブンで150℃12時間加熱することで接着剤を硬化させ、貼り合わせ光学部品を得た。
【0145】
(比較例1)
表2に示す組み合わせで硬化物と接着剤を貼り合わせ、光学部品を得た。接着剤としてペルノックス株式会社のエポキシ樹脂(ME−540/HV−540)を使用した。貼り合わせ方法は実施例1、2と同様に行なった。
【0146】
(測定、試験)
(光線透過率)
得られた光学部品の400nmにおける光線透過率およびYIを分光光度計(U−3300、日立)で測定した。
【0147】
(光学部品耐熱性試験)
光学部品を260℃の熱風オーブンで10分間加熱した。耐熱性試験後の光学部品について、400nmの光線透過率を測定し(耐熱性試験後透過率)、下式に従って数値を導出した。ここで、「初期透過率」は耐熱試験前における光学部品の400nmの光線透過率を用いた。
「光線透過率低下率」=(1−「耐熱性試験後透過率」/「初期透過率」)×100
(硬度)
光学部品をガラスの上に乗せ、JIS K6253により、タイプDデュロメータによって硬さを測定した。
【0148】
(接触角)
協和界面化学株式会社製接触角計S−150を用いて測定した。溶媒として純水(φ2mm)を用い、測定はθ/2法で行った。
【0149】
(屈折率)
Metoricon社製プリズムカプラ2010/Mを用いて、404、594、827nmでの屈折率を測定した。内蔵ソフトのCauchyの近似式により589nmでの屈折率を求めた。
【0150】
(貯蔵弾性率)
アイティー計測制御株式会社製動的粘弾性装置DVA−200を用い、測定温度室温〜200℃、昇温速度5℃/分、歪み0.1%、周波数10Hz、チャック間距離20mm、引張りモードで測定した。
【0151】
(接着剤耐熱性試験)
接着剤組成物を1mm厚みのシリコーンゴムシートを2枚のガラス板の間にスペーサーとして挟みこんで作製したセルに、得られた組成物を流し込み、熱風オーブンで150℃12時間加熱し、接着剤硬化物を得た。接着剤硬化物を1cm角に切りだし、重量を測定した(初期重量)。該接着剤硬化物を260℃の熱風オーブンで10分間加熱し、取り出し後の重量を測定(耐熱性試験後重量)し、下式に従って数値を導出した。
「重量低下率」=「耐熱性試験後重量」/「初期重量」×100
<粘度>
東京計器株株式会社製E型粘度計で、EHD型1°34‘×R24のコーンを用い、23℃の粘度を測定した。
【0152】
【表1】

【0153】
【表2】

【0154】
表2に示されるように、本発明の特徴を有する、貼り合わせ光学部品は、耐熱性、耐熱試験後の光線透過率低下率が低く、硬度が高いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の硬化物を貼り合わせてなる光学部品であって、該硬化物はイソシアヌル酸骨格およびシロキサン骨格を含有することを特徴とし、該硬化物の貼り合わせにはシロキサン骨格を含有する組成物を接着剤として用いることを特徴とする光学部品。
【請求項2】
光学部品の硬度がショアDで50以上であることを特徴とする請求項1に記載の光学部品。
【請求項3】
光学部品の光線透過率が400nmの波長において70%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学部品。
【請求項4】
光学部品の水に対する接触角が60度以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項5】
接着剤の重量減少率が260℃10分間の加熱によって3%以内であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項6】
接着剤がさらにイソシアヌル酸骨格を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項7】
硬化物の屈折率が1.400〜1.550であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項8】
接着剤が(A)SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物、(B)1分子中に少なくともSiH基を2個含有する化合物
からなる組成物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項9】
硬化物が(C)SiH基と反応性を有する炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する化合物、(D)1分子中に少なくともSiH基を2個含有する化合物
からなる組成物を硬化させてなることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項10】
接着剤として用いられる組成物の粘度が0.01〜200Pa・sであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の光学部品。

【公開番号】特開2012−230309(P2012−230309A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99476(P2011−99476)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】