説明

貼付剤および貼付製剤

【課題】貼付中に生じる皮膚刺激の低減された貼付剤および貼付製剤を提供する。
【解決手段】(a)剛体振子自由振動法で測定される粘着剤層表面の対数減衰率が0.03〜0.35、(b)粘着剤層に剪断応力を与えた際の粘着剤層の最大剪断変位量が18μm〜1,000μmの範囲内となるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼付中の皮膚刺激の低減された貼付剤および貼付製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の被覆保護や薬物の経皮投与などを目的とした貼付剤および貼付製剤には、十分な皮膚接着性とともに、皮膚刺激が小さいことが求められる。皮膚刺激は、貼付中の刺激と剥離時の刺激に大別される。
【0003】
貼付中の皮膚刺激としては、化学的刺激、物理的刺激、閉塞作用による刺激などがある。化学的刺激は、粘着剤層組成物をより低刺激性のものに変えることにより低減できることが知られている。また、閉塞作用による刺激は、貼付剤または貼付製剤全体の伸縮性や透湿度を高くすることなどによって低減できることが知られている。そして、その伸縮性や透湿度は、支持体に依存するところが大きい。しかしながら、たとえば、薬物の経皮投与を目的とした貼付製剤においては、粘着剤層組成物や支持体が薬物の皮膚透過性に大きく影響することがあり、貼付剤または貼付製剤の機能を発揮させるために、粘着剤層組成物や支持体の選択が制限されることがある。
【0004】
一方、剥離時の皮膚刺激を低減することは、従来より試みられてきた。剥離時の皮膚刺激は、角質剥離などの物理的刺激によるところが大きく、たとえば特許文献1〜4において、主に粘着剤層の物性を制御することにより、該刺激が低減できることが述べられている。
しかし、貼付剤または貼付製剤の貼付中に生じる物理的な皮膚刺激に対して、粘着剤層の物性をいかに制御して低減させるかについては、未だ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−65460号公報
【特許文献2】特開平5−139960号公報
【特許文献3】特開平6−319792号公報
【特許文献4】特開平6−343685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明においては、貼付中に生じる皮膚刺激の低減された貼付剤および貼付製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するべく鋭意検討したところ、驚くべきことに、(a)剛体振子自由振動法で測定される粘着剤層表面の対数減衰率、および(b)粘着剤層に剪断応力を与えた際の粘着剤層の最大剪断変位量を制御することによって、貼付剤または貼付製剤の貼付中に生じる皮膚刺激を低減し得ることを見いだし、本発明を完成するに至った。かくして本発明は、次の[1]〜[4]に関する。
【0008】
[1]支持体の少なくとも一方の面に粘着剤層を有する貼付剤であって、
(a)剛体振子自由振動法で測定される粘着剤層表面の対数減衰率が0.03〜0.35の範囲内にあり、かつ
(b)粘着剤層に剪断応力を与えた際の粘着剤層の最大剪断変位量が18μm〜1,000μmの範囲内にある、貼付剤。
[2]剪断応力を開放した際の剪断変位回復率が85%以上である、上記[1]に記載の貼付剤。
[3]粘着剤層が、ポリマーおよび有機液状成分を含有し、かつ架橋されている、上記[1]または[2]に記載の貼付剤。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の貼付剤において、粘着剤層がさらに薬物を含有してなる、貼付製剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、(a)粘着剤層表面の対数減衰率を制御することにより、貼付剤または貼付製剤の貼付中に生じる皮膚刺激を低減することができる。また、(b)粘着剤層の最大剪断変位量を制御することにより、貼付中の皮膚刺激、特に、伸縮頻度の高い部位における皮膚刺激を低減することができるとともに、貼付剤または貼付製剤が、皮膚から剥離、脱落することを抑制することができる。
さらに、本発明の好ましい実施態様では、剪断変位回復率を特定することにより、皮膚伸縮頻度の高い部位において、貼付中の皮膚刺激性および皮膚接着性をより改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態について詳述するが、該記載において、「貼付剤」の語は、医療用または衛生用の皮膚用材として供される貼付剤に加えて、粘着剤層に薬物を含有してなる貼付製剤を包含するものとして用いる。
【0011】
ヒトの皮膚は、動作時に伸縮することで動作をスムーズにしている。肘、膝などの関節部だけでなく、上腕部や胸部などの比較的動きが少ない部位においても皮膚の伸縮は生じる。それゆえ、皮膚に貼付剤を貼付している間に、貼付部位の皮膚の伸縮が妨げられることにより生じる応力が物理的刺激の原因となる。
【0012】
そこで、本発明では、支持体の少なくとも一方の面において粘着剤層を有する貼付剤において、粘着剤層表面の対数減衰率および粘着剤層に剪断応力を与えた際の粘着剤層の最大剪断変位量を制御することにより、貼付剤の皮膚貼付中に生じる皮膚刺激、すなわち、貼付剤を皮膚に貼付している間に生じる応力に起因する物理的な皮膚刺激を低減する。詳細には、本発明の貼付剤において、(a)剛体振子自由振動法で測定される粘着剤層表面の対数減衰率は0.03〜0.35の範囲内であり、かつ(b)粘着剤層に剪断応力を与えた際の粘着剤層の最大剪断変位量は18μm〜1,000μmの範囲内である。
【0013】
<(a)粘着剤層表面の対数減衰率>
粘着剤層表面の対数減衰率が大きい場合、皮膚と粘着剤層の界面における応力の減衰が大きく、この減衰分が皮膚刺激となる。よって、粘着剤層表面の対数減衰率を低減することにより、皮膚刺激を低減することができる。
本発明における貼付剤の粘着剤層表面の対数減衰率は、23℃の試料温度において、0.03〜0.35の範囲内であることを要する。さらには、23℃〜40℃のいずれの試料温度においても、0.03〜0.35の範囲内であることが好ましく、0.05〜0.30の範囲内であることがより好ましい。
貼付剤の粘着剤層表面の対数減衰率が0.03〜0.35の範囲内である場合、貼付中の皮膚刺激が良好に低減される。粘着剤層表面の対数減衰率が0.35を超えると、皮膚表面での応力の減衰が大きいため、貼付中に痛みや違和感などの皮膚刺激が生じやすくなる。一方、粘着剤層表面の対数減衰率が0.03未満となると、粘性が低過ぎ、十分な皮膚接着性が得られない場合がある。
【0014】
本発明では、粘着剤層表面の対数減衰率は剛体振子自由振動法によるものであり、慣用される剛体振子型粘弾性測定装置を用いて測定される。この剛体振子型粘弾性測定装置は、ISO(国際標準化機構)1522に定められている剛体振子自由振動法に準拠した測定原理に基づくもので、たとえば、株式会社エー・アンド・デイ製のRPT−3000Wなどがある。本発明の貼付剤については、試料幅を10mmとし、直径4mmの真鍮製シリンダー型エッジ、慣性能率6×10g・cm、質量13gの剛体振子を用いて測定される。
【0015】
粘着剤層表面の対数減衰率は、粘着剤層中に含まれる成分の種類およびその含有量により影響を受けるが、粘着剤層を構成するポリマーの種類および分子量に依存するところが大きい。従って、粘着剤層表面の対数減衰率を上記の範囲内に制御するためには、粘着剤層の形成に使用するポリマーの種類、分子量および粘着剤層中における含有量を考慮することが必要である。本発明の目的には、粘着剤層に含有されるポリマーとしては、後述するように、アクリル系ポリマーおよびゴム系ポリマーが好ましく、アクリル系ポリマーが特に好ましい。また、ポリマーの絶対分子量は、好ましくは1×10〜6×10(ゲル浸透クロマトグラフ/多角度レーザー光散乱検出器による値、以下同じ)、より好ましくは3×10〜5×10、さらに好ましくは1×10〜4×10である。ポリマーの絶対分子量が高い方が、粘着剤層表面の対数減衰率は低くなる傾向にある。
【0016】
かかるポリマーの粘着剤層中における含有量は、その種類や分子量にもよるが、好ましくは30重量%〜95重量%、より好ましくは30重量%〜90重量%である。ポリマーの含有量が多い方が、粘着剤層表面の対数減衰率が低くなる傾向にある。
【0017】
また、粘着剤層を架橋することによっても、粘着剤層表面の対数減衰率は変化する。粘着剤層表面の対数減衰率を、上記範囲内の値となるように制御するためには、粘着剤層を架橋することが好ましい。粘着剤層を架橋することで、粘着剤層表面の対数減衰率は低下する傾向にある。架橋するための手法等については、後述する。
【0018】
薬物の経皮投与を目的とした貼付製剤においては、粘着剤層を形成する組成物やその組成比率が薬物の皮膚透過性に影響する場合があるため、粘着剤層表面の対数減衰率の制御が制限されることもある。しかし、粘着剤層の架橋が薬物の皮膚透過性に及ぼす影響は比較的少ないことから、薬物が劣化しない範囲内で粘着剤層を架橋するための条件を設定することによって、粘着剤層表面の対数減衰率を制御することができる。
【0019】
粘着剤層表面の対数減衰率を制御することによって、粘着剤層の厚さや支持体の選択の自由度を高めることができる。その結果、粘着剤層の厚さや支持体を調整することによって皮膚透過性を制御することが可能となる。
【0020】
<(b)粘着剤層の最大剪断変位量>
皮膚と粘着剤層の界面で減衰されなかった応力は、粘着剤層が変形することで吸収される。
本発明の貼付剤は、凝集破壊または界面破壊を生じることなく、最大18μm〜1,000μm、好ましくは20μm〜500μmの剪断変位が生じ得る。
このように、粘着剤層の最大剪断変位量を18μm〜1,000μmの範囲内とすることにより、貼付中の皮膚刺激を低減できるとともに、剥離または脱落し難くなる。粘着剤層の最大剪断変位量が18μm未満である場合には、十分な皮膚への追従性が得られないため、微視的な剥離と再貼付が繰り返されやすく、それに伴う物理的刺激が生じ得る。一方、粘着剤層の最大剪断変位量が1,000μmを超える場合には、皮膚への追従性は良いものの、剪断変位に伴って露出した粘着剤層断面に衣服などが付着しやすくなることにより、剥離または脱落しやすくなる傾向にある。粘着剤層の界面破壊は、貼付剤の剥離もしくは脱落の可能性を示唆し、また凝集破壊が生じると、後述する剪断変位回復率が得られず、さらに、貼付剤の使用後に、いわゆる「糊残り」が生じる原因となる。
【0021】
本発明において、貼付剤の粘着剤層の最大剪断変位量は、米国材料試験協会(ASTM)規格 D3654のProcedure Aに準じて、23℃で測定する。ただし、試料幅×24mmの接着面積とし、試料幅に応じて1N/24mmの剪断応力となるように荷重をかけ、変形が完了した時点での剪断変位量を粘着剤層の最大剪断変位量(d)とする。
【0022】
粘着剤層の最大剪断変位量は、粘着剤層の厚さに大きく影響されるため、粘着剤層の厚さを制御することにより、粘着剤層の最大剪断変位量を制御することが可能である。粘着剤層の剪断変位量(d)は、一般的に下記の式(1)で表される。
d= H/(G×σ) (1)
式(1)中、Gは粘着剤層の剛性率、σは単位面積あたりの剪断応力、Hは粘着剤層の厚さである。
式(1)で示されるように、粘着剤層を厚くするほど、粘着剤層の剪断変位量は大きくなり、皮膚の大きな伸縮にも追従できるという点で有利である。しかし、粘着剤層を厚くしすぎると、粘着剤層断面の露出量が大きくなるため、貼付時に衣服等が粘着剤層に付着し易くなり、剥離や脱落が生じやすくなる。よって、粘着剤層の厚さとしては、70μm〜300μmが好ましく、80μm〜250μmがより好ましい。
【0023】
粘着剤層の最大剪断変位量も、粘着剤層中に含有される成分の種類およびその含有量に影響されるが、粘着剤層を構成するポリマーの種類および分子量、ならびに架橋度によるところが大きい。粘着剤層の最大剪断変位量を上記範囲内の値となるように制御するためには、ポリマーとしてはアクリル系ポリマーおよびゴム系ポリマーが好ましく、アクリル系ポリマーが特に好ましい。また、1×10〜6×10の絶対分子量を有するものが好ましく、3×10〜5×10、さらには1×10〜4×10の絶対分子量を有するものがより好ましい。一般的に、粘着剤層の最大剪断変位量は、粘着剤層に含有されるポリマーの種類にもよるが、たとえば、粘着剤層に含有されるポリマーの重量比が低いほど、粘着剤層の最大剪断変位量が増大する傾向にある。さらに、粘着剤層の架橋度が高いほど、その最大剪断変位量が減少する傾向にある。
【0024】
<剪断変位回復率>
また、皮膚に貼付された貼付剤が、皮膚の伸縮に対応して変形した後、次の皮膚伸縮に対応するためには、粘着剤層の凝集破壊を生じることなく、その剪断変位が回復する必要がある。従って、本発明の貼付剤においては、剪断応力を開放した際の剪断変位回復率は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。前記剪断変位回復率が85%以上である場合、上記の剪断変位による効果を長時間維持することができる。一方、前記剪断変位回復率が85%未満である場合、貼付部位の皮膚伸縮頻度が低ければ、その影響は小さいが、皮膚の伸縮が繰り返される部位に貼付すると、剪断変形による応力を緩和する効果が消失しやすくなるおそれがある。
【0025】
本発明において、上記剪断変位回復率は、上記した粘着剤層の最大剪断変位量(d)と、剪断応力を開放した後の残留剪断変位量(d)により、下記の式(2)を用いて求めることができる。
剪断変位回復率(%)=(d−d)/d×100 (2)
【0026】
剪断変位回復率を高めるには、粘着剤層を架橋することが有効である。ただし、架橋度が高くなりすぎると、粘着剤層の最大剪断変位量が低下する。よって、適度な架橋度とすることが求められ、架橋剤の種類や使用量、架橋処理条件などによって制御することができる。なお、これらについては、後述する。
【0027】
<粘着剤層>
粘着剤層は、ポリマーを主成分とし、必要に応じて薬物、粘着付与剤、有機液状成分などの成分とともに溶媒に添加して混合し、粘着剤層形成用組成物を得、これを塗布、接着、融着、溶着などの方法により剥離ライナーまたは支持体上に層状に積層し、乾燥することにより形成することができる。粘着剤層としては、皮膚接着性の観点から疎水性粘着剤層が好ましく、従って非含水系の粘着剤層が好ましい。かかる観点から、粘着剤層形成用組成物の調製に用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、ベンゼン、n−ヘキサン、酢酸エチル、アセトン等の有機溶媒が好ましい。なお、以下において、粘着剤層を構成する各成分の含有量は、粘着剤層形成用組成物の溶媒以外の全重量に対する重量%で示す。
【0028】
粘着剤層を構成するポリマーとしては、特に限定されないが、アクリル系ポリマー;スチレン−ジエン−スチレンブロックコポリマー(たとえばスチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー等);ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン等のゴム系ポリマー;シリコーンゴム、ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン等のシリコーン系ポリマー;ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル系ポリマー;酢酸ビニル−エチレンコポリマー等のビニルエステル系ポリマー;ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、ジメチルフタレート等のカルボン酸エステル成分とエチレングリコール等の多価アルコール成分からなるポリエステル系ポリマーなどが挙げられる。
【0029】
本発明において、(a)粘着剤層表面の対数減衰率および(b)粘着剤層の最大剪断変位量、さらには粘着剤層の剪断変位回復率が、上記した範囲内の値となる粘着剤層を得るためには、粘着剤層を構成するポリマーとしてアクリル系ポリマー、ゴム系ポリマー等を用いることが好ましく、アクリル系ポリマーを用いることがより好ましい。
【0030】
アクリル系ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主なモノマー成分とし、これに官能性モノマーを共重合して得られたものが好ましい。すなわち、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを60重量%〜99重量%(好ましくは65重量%〜95重量%)含有し、残りが官能性モノマーからなるコポリマーが好ましい。アクリル系ポリマーを構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(以下、主モノマー成分ともいう)は、通常、アルキル基として炭素数4〜13の直鎖又は分岐鎖アルキル基(たとえばブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル等)を有するものであり、これらより選択した1種又は2種以上が使用される。
【0031】
なお、剥離ライナーや被着体へのアクリル系ポリマーの残存を生じない範囲であれば、上記した炭素数4〜13のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとともに、炭素数1〜3のアルキル基(たとえばメチル、エチル、イソプロピル等)を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび/または炭素数14以上のアルキル基(たとえばテトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル等)を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを併用することもできる。かかる場合には、炭素数1〜3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび/または炭素数14以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、炭素数4〜13のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに対して20重量%以下とすることが好ましい。
【0032】
上記の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合させる官能性モノマーは、共重合反応に関与する不飽和二重結合を分子内に少なくとも一個有するとともに、官能基を側鎖に有するものであり、たとえば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸1−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシ基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(ブトキシメチル)(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー;(メタ)アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(tert−ブチルアミノ)エチル等のアミノ基含有モノマー;(メタ)アクリル酸2−スルホエチル等のスルホ基含有モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有モノマー;(メタ)アクリル酸2−(アジリジニン−1−イル)エチル等のアジリジン基含有モノマー;(メタ)アクリル酸アリル等のアリル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸2−イソシアナトエチル等のイソシアネート基含有モノマー;(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル等のアルコキシ基含有モノマーなどが挙げられる。
【0033】
上記官能性モノマーは、1種または2種以上を選択して使用することができる。粘着剤層の感圧粘着性、凝集性、粘着剤層中に含有する薬物の放出性等の観点から、カルボキシル基含有モノマーが好ましく用いられ、特に好ましくは(メタ)アクリル酸が用いられる。
【0034】
また、本発明においては、アクリル系ポリマーとして、上記の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(主モノマー成分)および官能性モノマーに、さらに他のモノマーを加えて共重合してなるコポリマーを使用することもできる。
【0035】
当該他のモノマーとしては、たとえば(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルメチルピロリドン、2−、3−または4−ビニルピリジン、N−ビニルピペリドン、4−または5−ビニルピリミジン、ビニルピペラジン、ビニルピロール、1−または2−ビニルイミダゾール、N−ビニルカプロラクタム、2−または5−ビニルオキサゾール等が挙げられ、これらより1種又は2種以上を選択して使用することができる。当該他のモノマーの含有量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(主モノマー成分)と官能性モノマーの合計重量に対して、通常、0重量%〜40重量%程度であり、好ましくは10重量%〜30重量%程度である。
【0036】
本発明において用いるアクリル系ポリマーの好適な具体例として、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルエステル65重量%〜99重量%と(メタ)アクリル酸1重量%〜35重量%とからなるコポリマー、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルエステル60重量%〜99重量%とN−ビニルピロリドン1重量%〜40重量%とからなるコポリマー等が挙げられる。
【0037】
なお、上記アクリル系ポリマーは、上述したように、粘着剤層中に30重量%〜95重量%含有させることが好ましく、30重量%〜90重量%含有させることがより好ましい。
【0038】
本発明において、粘着剤層は、架橋処理を施していない非架橋粘着剤層であってもよいが、上記したように、架橋処理を施した架橋粘着剤層であることが好ましい。架橋処理方法としては、光(紫外線)照射、放射線(γ線)照射等の物理的架橋処理、ならびに、内部架橋用モノマーの使用および外部架橋剤を粘着剤層に含有させる化学的架橋処理などが挙げられ、粘着剤層の安定性の観点から化学的架橋処理が好ましい。好適な外部架橋剤としては、三官能性イソシアネート等のイソシアネート化合物;ジアシルパーオキサイド(たとえばジベンゾイルパーオキサイド)等の有機過酸化物;有機金属塩;金属アルコラート;金属キレート化合物(たとえばエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート);多官能性化合物(たとえば、多官能性外部架橋剤)などが挙げられ、好適な内部架橋用モノマーとしては、ジアクリレート、ジメタクリレート等の多官能性内部架橋用モノマーなどが挙げられる。本発明の目的のためには、前記のいずれの架橋剤をも用いることができ、ポリマーの種類、有機液状成分等他の粘着剤層成分の種類および含有量等を考慮して、適宜選択される。アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマーを共重合成分として得たポリマーを用いる場合には、イソシアネート化合物や金属キレート化合物が好ましく用いられる。その使用量は、架橋度の観点から、粘着剤層におけるポリマー含有量100重量部に対して、好ましくは0.05重量部〜5重量部、より好ましくは0.1重量部〜1重量部である。
【0039】
化学的架橋処理を施す場合、粘着剤層の架橋を促進するために、これに加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理条件としては、加熱時間や加熱温度などが挙げられる。加熱温度が高いほど、また加熱時間が長いほど、上記した粘着剤層表面の対数減衰率が低くなる傾向がある。さらには、加熱雰囲気の湿度や、粘着剤層を形成してから加熱処理に供するまでの時間によっても、粘着剤層表面の対数減衰率を制御することができる場合がある。すなわち、粘着剤層を形成した後、速やかに加熱処理を行ってもよいが、これを非高温下、たとえば0℃〜40℃、好ましくは0℃〜30℃の条件下で一定の時間、たとえば8時間〜120時間、好ましくは12時間〜96時間保存した後に、粘着剤層を加熱処理に付すことにより、熱架橋させることもできる。
【0040】
かかる加熱処理は、たとえば50℃〜100℃、好ましくは60℃〜80℃の温度で、たとえば3時間〜120時間、好ましくは6時間〜96時間、より好ましくは24時間〜72時間程度実施することができる。加熱処理は、低酸素条件下にて、たとえば酸素濃度が10体積%以下、好ましくは5体積%以下の雰囲気下で実施されることが好ましい。
【0041】
粘着剤層を形成するポリマーとして、ゴム系ポリマーを用いる場合などには、適度な粘着性を付与するために、たとえば、ロジン系樹脂、ポリテルペン樹脂、クマロン−インデン樹脂、石油系樹脂、テルペン−フェノール樹脂、キシレン樹脂等の粘着付与剤を含有させることができる。これら粘着付与剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。前記石油系樹脂としては、脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、共重合体系(C5−C9系)石油樹脂、および芳香族系(C9系)石油樹脂を部分水素添加または完全水素添加することによって得られる脂環族飽和炭化水素樹脂が例示される。脂環族飽和炭化水素樹脂としては、環球法による軟化点が90℃〜150℃のものが好ましい。粘着付与剤を含有させる場合、その含有量は総量で、ポリマーの総量100重量部に対し、10重量部〜100重量部とするのが適切である。
【0042】
本発明の目的には、粘着剤層には有機液状成分を含有させることが好ましい。有機液状成分としては、室温(25℃)で液状であるもの、または2種以上を混合して用いる場合には、最終的に混合物が室温(25℃)で液状となるものであれば特に限定されない。たとえば、オレイルアルコール、オクチルドデカノール等の高級アルコール;グリセリン、エチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の多価アルコール;カプリル酸、オレイン酸等の高級脂肪酸;ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オレイン酸エチル等の脂肪酸エステル;セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル等の多塩基酸エステル;トリイソステアリン酸ジグリセリル、モノオレイン酸ソルビタン、ジカプリル酸プロピレングリコール、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット等の多価アルコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;スクアラン、流動パラフィン等の炭化水素;オリブ油、ヒマシ油等の植物油;シリコーン油;N−メチルピロリドン、N−ドデシルピロリドンのようなピロリドン類;デシルメチルスルホキシドのようなスルホキシド類などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0043】
薬物を含有する貼付製剤の場合、薬物の経皮透過性の改善という観点から、上記の有機液状成分として、高級アルコール、脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステル等が好ましく用いられる。また、粘着剤層表面の対数減衰率および粘着剤層の最大剪断変位量が上記した範囲内である粘着剤層を得るためには、有機液状成分は5重量%〜70重量%含有させることが好ましく、10重量%〜70重量%含有させることがより好ましい。有機液状成分の種類にもよるが、有機液状成分の含有量が多い方が粘着剤層表面の対数減衰率は高くなる傾向にあり、粘着剤層の最大剪断変位量は増大する傾向にある。
【0044】
<支持体>
本発明の貼付剤において用いる支持体としては、実質的に薬物等不透過性であるもの、すなわち粘着剤層の活性成分や添加剤等が支持体中を通って背面から失われ、含有量の低下を引き起こさない材質のもので構成されることが好ましい。
【0045】
本発明において、支持体としては、樹脂、金属箔の単独フィルムやこれらの積層体が用いられる。支持体と粘着剤層との間の接着性(投錨性)を向上させるため、多孔質体と樹脂フィルムの積層体を用いることもできる。かかる場合、該積層体の多孔質体側に粘着剤層が積層される。
【0046】
上記多孔質体としては、多孔質フィルムおよびシートが挙げられるが、シートが厚さ200μm以上のものを指すとすると、多孔質フィルムを用いることが好ましい。前記多孔質フィルムとしては、単層フィルムであっても積層フィルムであってもよく、多孔質体に対する粘着剤層の移動を抑制するべく、投錨性を有するものを好適に使用することができる。具体的には紙、織布、不織布、編布、機械的に穿孔処理を施したフィルムおよび金属箔、ならびにこれらの積層体等が挙げられる。これらのうち取扱い性等の観点からは、特に紙、織布、不織布、およびこれらの積層体が好ましく、中でも不織布が好ましい。
【0047】
多孔質体と樹脂フィルムは、同種の材質のものであってもよく、異なる材質のものであってもよい。これらは公知の方法を用いて積層することができ、本発明の特徴を損なわない範囲内で、酸化防止剤、顔料、帯電防止剤などの各種添加剤が適宜配合されていてもよく、表面にコロナ放電処理、紫外線照射処理などの処理が施されていてもよい。
【0048】
支持体を構成する上記多孔質体および樹脂フィルムの材質としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ナイロン等のポリアミド系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂;サラン(旭化成、米国ダウケミカル社の登録商標)をはじめとするポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、サーリン(米国デュポン社の登録商標)をはじめとするアイオノマー樹脂等のビニル系樹脂;エチレン−アクリル酸エチルコポリマー等のアクリル系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ化炭素樹脂;またはこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0049】
支持体を構成する多孔質体および樹脂フィルムの好ましい材質としては、ポリエステル系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂が好ましく、特にポリエステル系樹脂、たとえばポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0050】
また、多孔質体として織布や不織布を用いる場合、十分な空隙部の確保および投錨性の観点から、その目付量は好ましくは5g/m〜50g/mであり、より好ましくは10g/m〜30g/mである。
【0051】
多孔質体に積層する樹脂フィルムとしては、単層フィルムであっても、積層フィルムであってもよいが、非多孔質であり、活性成分に対して不透過性を示す樹脂からなるフィルムが好ましい。かかる樹脂フィルムは、粘着剤層に含有される成分が支持体の背面を透過して、含有量が低下することを抑制する作用を有するとともに、粘着剤層が薬物を含む場合、いわゆる密封包帯法(ODT)効果を達成するために好ましく用いられる。なお、前記樹脂フィルムの厚さは、好ましくは0.5μm〜10μmであり、より好ましくは1μm〜7μmである。
【0052】
従って、本発明において好ましく用いられる支持体としては、厚さ0.5μm〜10μm、より好ましくは、厚さ1μm〜7μmのポリエステル系樹脂フィルム(より好ましくは、ポリエチレンテレフタレートフィルム)と、目付量5g/m〜50g/m、好ましくは10g/m〜30g/mのポリエステル系樹脂(より好ましくは、ポリエチレンテレフタレート)製不織布との積層フィルムが挙げられる。
【0053】
なお、非伸縮性の樹脂フィルムを支持体として用いた場合には、伸縮性の支持体を用いた場合に比べて、貼付中の物理的な皮膚刺激を低減することが困難となるため、粘着剤層の物性により貼付中の物理的な皮膚刺激を低減し得る本発明はより有利である。
【0054】
<剥離ライナー>
貼付剤の粘着剤層の粘着面には、皮膚に貼付剤を貼付するまで粘着面を保護するため、剥離ライナーを積層することができる。剥離ライナーとしては特に限定されず、その材質としては、この分野で自体公知のものが挙げられ、具体的にはポリエチレンテレフタレートをはじめとするポリエステル系樹脂フィルム;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン等のビニル系樹脂フィルム;各種アクリル系およびメタクリル系ポリマー等のアクリル系樹脂フィルム;ポリカーボネート樹脂フィルム;ポリイミド樹脂フィルム;酢酸セルロース、再生セルロース(セロファン)、セルロイド等のセルロース系樹脂フィルム;あるいは上質紙またはグラシン紙等とポリオレフィン系フィルムとのラミネートフィルムなどが例示される。前記のうち、安全性、経済性および薬物移行性の点で、ポリエステル系樹脂フィルムを用いることが好ましい。前記剥離ライナーの厚さは、通常10μm〜200μm、好ましくは25μm〜100μmである。
【0055】
本発明の貼付剤は、絆創膏、皮膚用テープ、創傷被覆ドレッシング材等の医療用または衛生用の皮膚用材として有用である。また、本発明の貼付剤は、フィルム状、シート状、パッド状等の形態で提供することができる。
【0056】
本発明においては、所望により、上記粘着剤層に薬物を含有させることができる。なお、本発明の貼付剤のうち、粘着剤層に薬物を含有するものを、特に「貼付製剤」というものとする。ここにいう薬物は特に限定されず、全身性作用薬、局所作用薬のいずれをも用いることができるが、ヒトなどの哺乳動物にその皮膚を通して投与し得る、すなわち経皮吸収可能な薬物が好ましい。そのような薬物としては、具体的には、たとえば、副腎皮質ステロイド剤、非ステロイド性抗炎症剤、抗リウマチ剤、睡眠剤、抗精神病剤、抗うつ剤、気分安定剤、精神刺激剤、抗不安剤、抗てんかん剤、片頭痛治療剤、パーキンソン病治療剤、脳循環・代謝改善剤、抗認知症剤、自律神経作用剤、筋弛緩剤、降圧剤、利尿剤、血糖降下剤、高脂血症治療剤、痛風治療剤、全身麻酔剤、局所麻酔剤、抗菌剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗寄生虫剤、ビタミン剤、狭心症治療剤、血管拡張剤、抗不整脈剤、抗ヒスタミン剤、メディエーター遊離抑制剤、ロイコトリエン拮抗剤、女性ホルモン剤、甲状腺ホルモン剤、抗甲状腺剤、制吐剤、鎮暈剤、気管支拡張剤、鎮咳剤、去痰剤、禁煙補助剤などが挙げられる。これら薬物は遊離体の形態で用いてもよく、塩の形態で用いてもよい。
【0057】
上記薬物の貼付製剤中における含有量は、当該経皮吸収用薬物の効果が十分発揮され、粘着剤層の接着特性等を損なわない範囲であれば特に限定されないが、好ましくは粘着剤層中に0.01重量%〜60重量%、より好ましくは0.02重量%〜40重量%含有される。0.01重量%より少ないと、治療効果が十分に得られない場合があり、60重量%より多いと、皮膚刺激発生の可能性があり、またそれ以上に治療効果の向上が得られず、経済的にも不利である場合がある。
【0058】
本発明の貼付製剤は、局所作用または全身作用を目的とする経皮吸収型製剤として、マトリクス型、リザーバー型のいずれの製剤としても提供され得る。剤形としても、パッチ型、粘着テープ型、シート型等、種々の剤形をとり得る。
【0059】
<製造方法>
本発明の貼付剤は、上記したように、粘着剤層形成用組成物を用いて、支持体の少なくとも一方の面に粘着剤層を形成することによって調製される。支持体上に形成された粘着剤層には、剥離ライナーを積層することもできる。あるいは、剥離ライナー上に粘着剤層を形成し、粘着剤層上に支持体を貼り合わせてもよい。
【0060】
本発明の貼付剤の工業的製造方法としては、たとえば以下の方法が製造効率の点で好ましい。
【0061】
まず、剥離ライナーの一方の面に、粘着剤層形成用組成物を塗布し、乾燥して粘着剤層を形成する。その上に支持体を積層し、貼付剤打ち抜き用原反を得る。あるいは、支持体の少なくとも一方の面に、粘着剤層形成用組成物を塗布し、乾燥して粘着剤層を形成する。その上に剥離ライナーを積層し、貼付剤打ち抜き用原反を得る。粘着剤層が架橋剤を含有する場合、必要により、エージング処理に付して、粘着剤層中に架橋構造を形成させることができる。前記原反を架橋処理した後、所定の大きさに打ち抜くことにより、本発明の貼付剤を得ることができる。
【0062】
本発明の貼付剤は、包装体内に収容して保存することが好ましい。前記の包装体は、一般的に貼付剤の包装に用いられる包装材を用いて製造することができる。包装材としては、たとえば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム等のポリオレフィン系樹脂フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、アイオノマーフィルム等のビニル系樹脂フィルム;ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系樹脂フィルム;ナイロンフィルム等のポリアミド系樹脂フィルム;セロファン等のセルロース系樹脂フィルム;ポリカーボネート樹脂フィルム、およびこれらの積層フィルム、さらにはこれらとアルミニウムの積層フィルムなどを挙げることができる。前記の包装材により製造された包装体に貼付剤を収容し、ヒートシール等の公知の方法により密封することができる。
【0063】
本発明はまた、貼付剤の貼付中の皮膚刺激を低減する方法を提供する。すなわち上記のように、貼付剤の粘着剤層の物性について、(a)剛体振子自由振動法で測定される粘着剤層表面の対数減衰率が0.03〜0.35の範囲内となるように制御し、かつ(b)粘着剤層に剪断応力を与えた際の粘着剤層の最大剪断変位量が18μm〜1,000μmの範囲内となるように制御することにより、貼付剤の貼付中に生じる皮膚刺激を低減することができる。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下における比率、部数および含有濃度は、いずれも重量比、重量部および重量%によるものである。
【0065】
<貼付剤の調製>
[実施例1]
アクリル酸2−エチルヘキシル、N−ビニルピロリドンおよびアクリル酸を、74:22:4の重合比で共重合し、絶対分子量が1.8×10であるポリマーを調製した。このポリマー100部(固形分)、ミリスチン酸イソプロピル100部およびイソシアネート系架橋剤(商品名;「コロネートHL」、日本ポリウレタン工業株式会社製)0.35部を、酢酸エチルとともに粘度を制御しながらよく混合し、粘着剤層形成用溶液を得た。この粘着剤層形成用溶液を、シリコーンにより易剥離処理されたポリエチレンテレフタレート製の剥離ライナー(厚さ;75μm)上に、乾燥後の厚さが100μmとなるよう塗布した後、加熱乾燥し、粘着剤層を形成した。その後、支持体の不織布面を粘着剤層に速やかに貼り合せ、貼り合せてから8時間以内に、乾燥窒素ガスで置換した環境下において70℃で48時間加熱し、実施例1の貼付剤を得た。なお、支持体としては、厚さ2μmのポリエチレンテレフタレート製フィルムと、目付け量12g/mのポリエチレンテレフタレート製不織布との積層体(全体の厚さ;約35μm)を用いた。
【0066】
[実施例2]
支持体を貼り合せた後の加熱時間を12時間とした他は、実施例1と同様に調製して、実施例2の貼付剤を得た。
【0067】
[実施例3]
支持体を貼り合せた後、70℃にて加熱するまで、乾燥窒素ガス雰囲気下で3日間5℃で冷蔵保存した他は、実施例1と同様に調製して、実施例3の貼付剤を得た。
【0068】
[実施例4]
架橋剤を金属キレート化合物であるエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート0.30部とした他は、実施例1と同様に粘着剤層形成用溶液を調製した。これを用いて、粘着剤層の厚さを80μmとした他は、実施例1と同様に調製し、実施例4の貼付剤を得た。
【0069】
[実施例5]
粘着剤層の厚さを200μmとした他は、実施例4と同様に調製して、実施例5の貼付剤を得た。
【0070】
[実施例6]
ミリスチン酸イソプロピルを186部、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを0.35部とした他は、実施例4と同様に調製して、実施例6の貼付剤を得た。
【0071】
[実施例7]
架橋剤を含有する市販のアクリレート−酢酸ビニルコポリマー溶液(商品名;「DURO−TAK 87−2196」、ヘンケルテクノロジーズジャパン株式会社製)100部(固形分)およびオレイルアルコール66.7部を、酢酸エチルとともに粘度を制御しながらよく混合し、粘着剤層形成用溶液を得た。これを用いて、実施例1と同様に粘着剤層の厚さが100μmである貼付剤を調製し、実施例7の貼付剤とした。
【0072】
[実施例8]
さらにエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート0.30部を加えて粘着剤層形成用溶液とした他は、実施例7と同様に調製して、実施例8の貼付剤を得た。
【0073】
[実施例9]
重量平均分子量が4.6×10、シス含有量が98%である市販のポリブタジエンゴム100部、脂環族飽和炭化水素樹脂(商品名;「アルコンP−100」、荒川化学工業株式会社製)100部、ミリスチン酸イソプロピル86部および過酸化ベンゾイル0.6部を、酢酸エチルとともに粘度を制御しながらよく混合し、粘着剤層形成用溶液を得た。この粘着剤層形成用溶液を、シリコーンにより易剥離処理されたポリエチレンテレフタレート製の剥離ライナー(厚さ;75μm)上に、乾燥後の厚さが100μmとなるように塗布した後、加熱乾燥して粘着剤層を形成した。その後、支持体の不織布面を粘着剤層に速やかに貼り合せ、貼り合せてから8時間以内に、乾燥窒素ガスで置換した環境下において80℃で48時間加熱し、実施例9の貼付剤を得た。なお、支持体としては、厚さ3.5μmのポリエチレンテレフタレート製フィルムと、目付け量12g/mのポリエチレンテレフタレート製不織布との積層体(全体の厚さ;約40μm)を用いた。
【0074】
[比較例1]
支持体を粘着剤層に貼り合せた後に、加熱処理を実施しなかった他は、実施例1と同様に調製し、比較例1の貼付剤とした。
【0075】
[比較例2]
粘着剤層の厚さを60μmとした他は、実施例4と同様に調製し、比較例2の貼付剤とした。
【0076】
[比較例3]
ミリスチン酸イソプロピルを11部とした他は、実施例4と同様に調製し、比較例3の貼付剤とした。
【0077】
[比較例4]
エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートをイソシアネート系架橋剤(商品名;「コロネートHL」、日本ポリウレタン工業株式会社製)0.35部に変えた他は、実施例6と同様に調製し、比較例4の貼付剤とした。
【0078】
[比較例5]
過酸化ベンゾイルを0.3部とした他は、実施例9と同様に調製し、比較例5の貼付剤とした。
【0079】
<貼付剤の評価>
実施例1〜9および比較例1〜5の貼付剤について、以下の評価を実施した。その結果を表1に示す。
【0080】
(1)粘着剤層表面の対数減衰率測定
剛体振子型粘弾性測定装置としてRPT−3000Wを使用し、直径4mmの真鍮製丸棒型シリンダーエッジRBP−040、およびフレームFRB−100からなる剛体振子(慣性能率6×10g・cm、質量13g)を用いて測定した(いずれも株式会社エー・アンド・デイ製)。各貼付剤について、試料幅は10mmとし、試料温度を23℃(室温)から40℃まで昇温させながら測定した。
表1には23℃における測定値を示すが、実施例および比較例のいずれの貼付剤においても、粘着剤層表面の対数減衰率において、試料温度に依存する明らかな変動は認められなかった。従って、本発明の貼付剤を皮膚に貼付した場合において、皮膚温による粘着剤層の前記物性値に及ぼす影響は少ないものと考えられる。
【0081】
(2)粘着剤層の最大剪断変位量
ASTM D3654のProcedure Aに準じ、各貼付剤について、24mm幅の試料を、ステンレス板に接着面積が24mm×24mmとなるよう貼付し、試料に1Nの剪断応力をかけて23℃で測定した。デジタルマイクロスコープ観察下で剪断変位量を計測し、30分経過時点の剪断変位量を粘着剤層の最大剪断変位量とした。30分経過しても変形が完了しない場合は、凝集破壊が生じているものと判断した。
【0082】
(3)剪断変位回復率
粘着剤層の最大剪断変位量(d)を測定後、剪断応力を開放し、30分後にデジタルマイクロスコープ下に剪断変位量を計測し、これを残留剪断変位量(d)として、上記(2)式より剪断変位回復率を算出した。
【0083】
(4)貼付中の皮膚刺激性および皮膚接着性
各貼付剤について、10cmの大きさに裁断したものを試料とした。健常人ボランティアを被験者とし、その上腕および背部(肩甲骨周辺)に各試料を24時間貼付して、貼付中の皮膚刺激性および皮膚接着性を評価させた。ただし、粘着剤層の最大剪断変位量の測定において、凝集破壊を生じた貼付剤については、本評価は行わなかった。
【0084】
皮膚刺激性については、痛み、痒み、違和感、突っ張り感などを総じて皮膚刺激とし、これら皮膚刺激について、下記5段階の評価基準に従い、被験者に評価させた。皮膚接着性については、24時間経過後の各試料の接着面積について、貼付開始時の接着面積に対する割合を目分量で観察し、下記5段階の評価基準に従って評価した。
皮膚刺激性についての評価基準
全く感じない;4点
わずかに感じる;3点
やや強く感じる;2点
強く感じる;1点
非常に強く感じる;0点
皮膚接着性についての評価基準
90%〜100%;4点
70%〜90%未満;3点
50%〜70%未満;2点
50%未満;1点
24時間以内に脱落;0点
【0085】
各貼付剤について、上腕および背部の各貼付部位においてn=5で評価し、評価点の平均値をその試料のスコアとした。同一被験者の同一部位に貼付する場合は、2週間以上間隔を空けて試験した。
【0086】
(5)粘着力
参考のため、各貼付剤について、ASTM D3330のTest Method Aに準じて粘着力を測定した。
【0087】
【表1】

【0088】
表1に示すように、粘着剤層表面の対数減衰率および粘着剤層の最大剪断変位量が本発明の範囲内にある実施例の各貼付剤は、貼付時の皮膚刺激性および皮膚接着性ともにおおむね良好であると評価された。
【0089】
より詳細には、実施例4および9の貼付剤は、粘着剤層の最大剪断変位量が比較的小さい、すなわちやや変形し難いため、皮膚伸縮頻度の高い背部における皮膚刺激性についてのスコアがやや低かった。しかし、皮膚伸縮条件が過酷な背部において、「2.6点」のスコアは比較的良好なものと考えられ、貼付中の皮膚刺激性は十分低減されていると評価された。また、実施例7以外の貼付剤では剪断変位回復率が85%以上であり、上腕および背部のいずれにおいても皮膚接着性は良好であった。粘着剤層の最大剪断変位量および剪断変位回復率がともに高い実施例1および3の貼付剤では、上腕および背部のいずれにおいても皮膚刺激性は低いものであった。これら貼付剤においては、皮膚伸縮頻度の高い背部においても、皮膚伸縮に伴う剪断変位が良好に回復し得るため、十分皮膚に追従できるものと考えられる。
【0090】
一方、粘着剤層表面の対数減衰率は本発明で規定する範囲内であるが、粘着剤層の最大剪断変位量が低い比較例2および3の貼付剤、および粘着剤層の最大剪断変位量は本発明で規定する範囲内であるが、粘着剤層表面の対数減衰率が高い比較例4の貼付剤については、皮膚貼付中に明確な皮膚刺激が認められ、背部における皮膚接着性の評価も低かった。また、支持体を粘着剤層に貼り合わせた後に加熱処理を行わずに調製した比較例1の貼付剤、および実施例9に比べて架橋剤の含有量が低い比較例5の貼付剤では、剪断力により凝集破壊が生じた。
【0091】
実施例1〜3および比較例1の貼付剤についての評価結果から、貼付剤の製造条件によって、貼付剤の粘着剤層の最大剪断変位量および剪断変位回復率が大きく影響を受けることが示唆される。すなわち、貼付剤の製造時に、支持体を粘着剤層に貼り合わせた後の加熱処理、すなわち熱架橋の実施により、これらの物性が制御される可能性が示される。また、実施例4、5および比較例2の貼付剤についての評価結果から、粘着剤層の厚さを制御することによって、粘着剤層表面の対数減衰率には影響を与えずに、粘着剤層の最大剪断変位量を制御できることが示唆される。さらに、実施例4と比較例3の貼付剤についての評価結果より、粘着剤層におけるポリマーと有機液状成分の含有量比、実施例6と比較例4の貼付剤についての評価結果より架橋剤の種類、実施例9と比較例5の貼付剤についての評価結果より架橋剤含有量が、上記各物性に影響を与えることが示唆される。
【0092】
なお、表1に示す評価結果からは、貼付剤の粘着力と、貼付中の皮膚刺激性または皮膚接着性との間に相関は認められなかった。従って、貼付剤の粘着力に起因する剥離時の皮膚刺激と、貼付中の皮膚刺激とは無関係であることが示唆される。
【0093】
<貼付製剤の調製>
[実施例10]
塩酸ジフェンヒドラミン19部に、等モルの水酸化ナトリウムをエタノール溶液として加え、よく混合して薬物溶液を調製した。その薬物溶液に、実施例1で用いたポリマーと同じポリマー100部、ミリスチン酸イソプロピル119部、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート0.38部を加え、さらに酢酸エチルを加えて粘度を制御しながらよく混合し、粘着剤層形成用溶液を得た。この粘着剤層形成用溶液をシリコーンにより易剥離処理されたポリエチレンテレフタレート製剥離ライナー(厚さ;75μm)上に、乾燥後の厚さが200μmとなるように塗布した後、これを乾燥して粘着剤層を形成した。その後、支持体の不織布面を粘着剤層に速やかに貼り合せ、貼り合せてから8時間以内に、乾燥窒素ガスで置換した環境下において70℃で48時間加熱し、実施例10の貼付製剤を得た。なお、支持体としては、厚さ2μmのポリエチレンテレフタレート製フィルムと、目付け量12g/mのポリエチレンテレフタレート製不織布との積層体(全体の厚さ;約35μm)を用いた。
【0094】
[実施例11]
実施例9の貼付剤において、剥離ライナーを剥離し、粘着剤層の露出面に、プロプラノロールヘキサン溶液を、乾燥後のプロプラノロール含有濃度が1.4%となるように塗布して含浸させた。乾燥後、再度剥離ライナーを貼り合せて、実施例11の貼付製剤を得た。
【0095】
<貼付製剤の評価>
実施例10および11の貼付製剤について、粘着剤層表面の対数減衰率、粘着剤層の最大剪断変位量および剪断変位回復率を、実施例1〜9および比較例1〜5の貼付剤の場合と同様に測定した。その結果を表2に示す。
【0096】
【表2】

【0097】
実施例10および11の貼付製剤では、粘着剤層表面の対数減衰率、粘着剤層の最大剪断変位量および剪断変位回復率のいずれについても、本発明における好ましい数値範囲内であった。従って、実施例10および11の貼付製剤については、貼付中の皮膚刺激性は低く、皮膚接着性は良好であると判断される。
【産業上の利用可能性】
【0098】
以上詳述したように、本発明によれば、貼付中における皮膚刺激、特に、皮膚の伸縮頻度の高い部位における皮膚刺激が低減され、かつ、皮膚から剥離、脱落しにくい貼付剤および貼付製剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の少なくとも一方の面に粘着剤層を有する貼付剤であって、
(a)剛体振子自由振動法で測定される粘着剤層表面の対数減衰率が0.03〜0.35の範囲内にあり、かつ
(b)粘着剤層に剪断応力を与えた際の粘着剤層の最大剪断変位量が18μm〜1,000μmの範囲内にある、貼付剤。
【請求項2】
剪断応力を開放した際の剪断変位回復率が85%以上である、請求項1に記載の貼付剤。
【請求項3】
粘着剤層が、ポリマーおよび有機液状成分を含有し、かつ架橋されている、請求項1または2に記載の貼付剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の貼付剤において、粘着剤層がさらに薬物を含有してなる、貼付製剤。

【公開番号】特開2012−31071(P2012−31071A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169751(P2010−169751)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】