説明

貼付剤用基布

【課題】 淡色から濃色の幅広い色の貼付剤において、皮膚に貼付して衣服をそのまま着用した際にも、衣服に色が移らないような貼付剤用の基布を提供する。
【解決手段】 ポリエステル繊維からなる織編物からなり、繊維中に有機系顔料及び無機系顔料を練り込み保持することにより着色されていることを特徴とする貼付剤用基布である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼付剤の基材となる貼付剤用基布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラスター剤やパップ剤等、皮膚に貼着される貼付剤が多く用いられている。これらの貼付剤は、通常、シート状の基材片面に、薬効成分を含有する粘着剤層を設けた構成となっており、上記粘着剤層を、皮膚に直接貼り付けることにより、上記薬効成分を皮膚に吸収させるようになっている。
【0003】
上記貼付剤の基材となる基布としては、たとえば、特許文献1に記載されているように、ポリエステル繊維からなる編物を製織した後、染色加工して、肌色に染色したものが挙げられる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−121275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、製編後に染色を行ったものを基布とした貼付剤を、皮膚に貼った後に衣服を着用すると、基布に皮膚からの出る汗が付着して、染料が溶出し易く、衣服に色移りがしやすい傾向がある。特に下着用の素材としては、ポリアミド繊維やシルクなどの淡色系繊維が使用されることがあるが、ポリエステル織編物の染色に通常用いる分散染料では、このような素材は汚染され易い。また基布が濃色の場合はより染料が衣服につき易い。
近年、貼付剤の色についても、いろいろな要望がでている。貼付剤を貼った上から衣服を着るときに、できるだけ目立たないようにしたい場合も多いが、貼付剤の使用の広がりにより人種による肌の色の違いから、白色〜ベージュ色、黒色までいろいろな色の基布が求められる場合もある。また、ファッション性を考慮して淡い色〜濃色まで、いろいろな基布が求められているのが現状である。
本願発明は、上記の事情を鑑み、オフホワイト、淡色〜濃色から幅広い色の貼付剤において、皮膚に貼付して衣服をそのまま着用した際にも、衣服に色が移らないような貼付剤用の基布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本願発明は、ポリエステル繊維からなる織編物からなり、繊維中に有機系顔料及び無機系顔料を練り込み保持されることにより着色されていることを特徴とする貼付剤用基布である。
【発明の効果】
【0007】
本願発明の貼付剤用基布は、繊維中に有機系顔料及び無機系顔料を練り込むことによって、着色されたポリエステル繊維からなるため、染料による染色が不要なため、染料が溶出されることがなく、衣服に染料が移ることがない。またオフホワイトから淡色、濃色まで幅広い色において、衣服に色が移らないものを得ることができる。
また、染料が溶出することがないので、肌により優しいものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の貼付剤用基布は、ポリエステル繊維からなる織編物からなる。
上記ポリエステル繊維は、マルチフィラメントであることが好ましい。
【0009】
上記ポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタート、ポリトリメチレンテレフタレート及びその共重合樹脂からなるものが挙げられるが、染色堅牢度の点からポリエチレンテレフタレートからなるものが好ましい。
【0010】
上記ポリエステル繊維は、繊維中に有機系顔料及び無機系顔料を練り込み保持して含有させることによって、着色したものである。
【0011】
上記有機系顔料としては、特に限定するものではないが、波長350〜450nmの光吸収特性を備えているものが好ましく、たとえば、イソインドリノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、ペリノン系、フタロシアニン系等の多環式系顔料、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、縮合アゾ顔料等のアゾ系顔料の有機系顔料、及び染料系顔料が挙げられる。
【0012】
上記有機系顔料の粒度は、原糸の曳糸性、物理的物性、仮撚り工程における歩留まり、発色性の点から、1μm以下が好ましい。
【0013】
上記有機系顔料の290℃における分解量は、1%未満であることが好ましい。このように、ポリエステル繊維の一般的な紡糸時の加熱温度である290℃での分解量が1%未満であれば、安定的に紡糸をし易く、得られた繊維も、顔料が溶出されることがなく、耐熱性に優れたものとなり易い。
【0014】
上記有機系顔料の水に対しての溶解度は、130℃の熱水に対して5%未満が望ましい。
【0015】
上記無機系顔料としては、たとえば、酸化チタン、酸化アルミ、タルク、クロム酸塩、フェロシアン化物、各種金属硫酸塩、硫化物、セレン化物、リン酸塩、酸化鉄赤、亜鉛黄の無機系顔料が挙げられる。
【0016】
上記無機系顔料の粒度は原糸の曳糸性、物理的物性、仮撚り工程における歩留まり、発色性の点から、1μm以下が好ましい。
【0017】
上記無機系顔料の290℃における分解量は1%未満であることが好ましい。このように、ポリエステル繊維の一般的な紡糸時の加熱温度である290℃での分解量が1%未満であれば、安定的に紡糸をし易く、得られた繊維も、顔料が溶出されることがなく、耐熱性に優れたものとなり易い。
【0018】
上記無機系顔料の水に対しての溶解度は130℃の熱水に対して5%未満が望ましい。
【0019】
上記有機系顔料と無機系顔料を適宜組み合わせて、所望の色とするが、たとえば、赤色顔料0.01〜0.20%、黄色の有機系顔料0.01〜0.10%と、カーボンブラックなどの黒色顔料0.01〜0.20%と、白色顔料0.10〜1.00%とを含有させて、肌色とすることができる。
【0020】
上記赤色顔料としては、たとえば、フタロシアニン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、ペリノン系、ジオキサジン系等の有機系顔料が挙げられる。
上記黄色の有機系顔料としては、たとえば、アントラキノン系が挙げられる。
上記黒色顔料としては、たとえば、カーボンブラック、酸化銅、酸化クロム等が挙げられる。
上記白色顔料としては、たとえば、酸化チタン、酸化アルミ等、タルクが挙げられる。
【0021】
上記有機系顔料は、繊維中に、溶出物を少なくできる点から、0.01〜1.00重量%保持しているのが好ましい。
【0022】
上記無機系顔料は、曳糸性の点から、繊維中に、0.01〜1.00重量%保持していることが好ましい。
【0023】
上記有機系顔料及び上記無機系顔料は、併せて、繊維中に、0.01〜2.00重量%保持していることが好ましい。
【0024】
上記有機系顔料及び無機系顔料を繊維中に練り込んで保持させる方法としては、たとえば、高濃度顔料と樹脂ペレットを混練したマスターバッチペレットを製造した上で、未添加の樹脂ペレットとを所定の比率で希釈させたものを繊維化させる方法(マスターバッチ法)や、最初から所定の低濃度の顔料を全ての樹脂ペレットに混練したコンパウンド樹脂ペレットを用いて繊維化させる方法(コンパウンド法)などが挙げられる。
また、繊維中には、必要に応じてUVカット剤、抗菌剤、制電剤等を練り込むことができる。
【0025】
上記ポリエステル繊維は、肌への追随性と、貼付剤の薬剤、流動パラフィン、接着剤などを効率よく保持しながら衣服側の表面に析出を抑制する点から、総繊度は33〜110dtexが好ましく、単糸繊度は1〜4dtexが好ましい。
【0026】
上記ポリエステル繊維は、肌への追随性の点からは、ストレッチ性のあるものが好ましく、加工糸であることが好ましい。中でも、仮撚加工糸がより好ましい。
【0027】
本発明の貼付剤用基布の織編物の織組織や編組織は特に限定するものではない。
織組織としては、たとえば平織、ツイル、サテンが挙げられるが、肌への装着感のなさを発現するためには薄いものが好ましく、薄さを得やすい点から、平織が好ましい。貼付剤の肌へのフィット感をより優れたものとするには、薄さ・ストレッチ性を得やすい加工糸の平織が特に好ましい。
編組織としては、たとえば、経編、丸編が挙げられる。貼付剤の肌へのフィット感をより優れたものとするためには、薄さ、ストレッチ性の得やすい、加工糸の丸編スムースが好ましい。
【0028】
上記織編物を、リラックス精練、仕上セットの工程を経て、貼付剤用基布を得ることができる。
【0029】
本発明は、顔料を、繊維中に練り込んで含有させて保持しているため、織編物を得た後、通常行われる染料による染色はせずともよいため、貼付剤用の基布として用いた際でも、衣服に染料が移らない。
【実施例】
【0030】
以下の方法で評価した。
〔染め移行性〕
JISL848に準拠して、汗堅牢度及び水堅牢度を測定した。5級のものを汚染なし、4級以下のものを汚染ありとした。
〔溶出試験〕
日本薬局方 ガーゼ 純度試験 において、目視において着色のないものを○、目視において僅かに着色が確認されるものを△、明確に着色が確認にされるのものを×とした。
【0031】
(実施例1)
下記の顔料を練り込んだ56dtex/36fのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントを準備した。
〔顔料〕
・Pigment Yellow 147 0.04wt%(有機系顔料)
・Pigment Red 101 0.10wt%(無機系顔料)
・Pigment Black 28 0.02wt%(無機系顔料)
・Pigment White 6 0.30wt%(無機系顔料)
このポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントに仮撚加工を施し、得られた仮撚加工糸を用いて、下記の編成条件で編み立てることにより、コース:40本/2.54cm,ウエール:38本/2.54cmの編地を得た。
〔編成条件〕
編成の種類:インターロック編
編機:福原精機製丸編機(釜径30インチ、ゲージ28本/2.54cm)
そして得られた編地に対し、精練(80℃×20分)を行った。
〔処理液〕
処理された編地に対し、仕上処理として、165℃×30秒でヒートセットを行い、コース:42本/2.54cm、ウエール:64本/2.54cmの肌色(ベージュ色)の編地を得て貼付剤用基布とした。
得られた基布は、汗堅牢度及び水堅牢度とも5級であり、染料などが移行しての汚染はみられなかった。また、ガーゼ純度試験でも基布の着色はみられず、貼付剤用基布として有用なものであった。
【0032】
(実施例2)
練り込む顔料を以下とする以外は、実施例1と同様に処理して、黒色の編地を得て貼付剤用基布とした。
〔顔料〕
・Pigment Black 28 0.40wt%(無機系顔料)
・Pigment White 6 0.04wt%(無機系顔料)
・Pigment Red 101 0.05wt%(無機系顔料)
・Pigment Yellow 147 0.08wt%(有機系顔料)
得られた基布は、汗堅牢度及び水堅牢度とも5級であり、染料などが移行しての汚染はみられなかった。また、ガーゼ純度試験でも基布の着色はみられず、貼付剤用基布として有用なものであった。
【0033】
(比較例1)
顔料を練り込まない56dtex/36fのブライトポリエステルマルチフィラメントを準備する以外は実施例1と同様に処理をして編み立てることにより、コース:40本/2.54cm、ウエール:38本/2.54cmの編地を得た。
得られた編地に対し、以下の染色液の組成で染色(130℃×60分)した後、ビスノールナNA155(一方社油脂工業社製)を3g/lの条件で、還元洗浄(80℃×20分)を行って、42本/2.54cm、ウエール:64本/2.54cmの肌色(ベージュ色)の編地を得て、貼付剤用基布とした。
〔染色液の組成〕
・Miketon Polyester Yellow F3G Ultra Conc(三井化学社製) 0.04%owf
・Miketon Polyester Red FB Extra Conc grain(三井化学社製) 0.02%owf
・Dianix Blue FBL 150%(ダイスタージャパン社製) 0.02%owf
・サンソルトRM−EXE:均染活性剤(日華化学社製) 0.8g/l
・酢酸 0.2g/l
・テキスポート D−580E:シワ/スレ防止剤 (日華化学社製) 0.3g/l
得られた基布は、汗堅牢度及び水堅牢度とも4級であり、染料が移行しての汚染がみられた。また、ガーゼ純度試験でも着色が確認された。
【0034】
(比較例2)
実施例2と同様に編み立てて得られた編地に対し、以下の染色液の組成で染色(130℃×60分)した後、ビスノールナNA155(一方社油脂工業社製)を3g/lの条件で、還元洗浄(80℃×20分)を行って、42本/2.54cm、ウエール:64本/2.54cmの黒色の編地を得て、貼付剤用基布とした。
得られた基布は、汗堅牢度及び水堅牢度とも3〜4級であり、染料が移行しての汚染がみられた。また、ガーゼ純度試験でも着色が明確に確認された。
〔染色液の組成〕
・Kayalon Polyester Yellow BRL−S Conc(日本化薬社製) 0.80owf
・Kayalon Polyester Scarlet RL−SF(日本化薬社製) 0.45owf
・Kayalon Polyester Black ECX N300(日本化薬社製) 3.60owf
・RM−EXE:均染活性剤 0.8g/l
・酢酸 0.2g/l
・テキスポート D−580E(シワ/スレ防止剤) 0.3g/l
【0035】
実施例1及び2、比較例1及び2の染料移行性及び溶出試験の結果を表1に示す。
【表1】

【0036】
実施例及び比較例から得られた基布を、10cm×30cmに切り取り、腕に巻いて、その上から、シルク製の、白色の長袖シャツを着用した。その後、30分間ジョギングを行い、2時間休憩した後の染料の移行状況を確認したところ、実施例1、2のものは、色移りしておらず、比較例1、2のものは、少し色移りしていた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の貼付剤用基布によれば、顔料を練り込んで着色したポリエステル繊維を用いているので、従来の染色して着色した基布に比べて、染料の溶出も少なく、ポリエステルに通常用いる分散染料によって色が移りやすいポリアミドやシルクのものでも色移りが少ないので、下着やブラウス、薄地のズボンなどの衣料に幅広く使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維からなる織編物からなり、繊維中に有機系顔料及び無機系顔料を練り込み保持することにより着色されていることを特徴とする貼付剤用基布。

【公開番号】特開2009−280937(P2009−280937A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136065(P2008−136065)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(305037123)KBセーレン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】