説明

貼付薬用伸縮性複合不織布及びその製造方法

【課題】 この出願発明は、エラストマー材料からなるネットと不織布とを接合一体化する際の工程管理を容易とし、しかも、その使用時に良好な伸縮性を発揮し得る技術に関し、また、貼付薬等の薬剤成分の吸着量低減にも有効な貼付薬用伸縮性複合不織布の提供を目的とする。
【解決手段】 本出願の貼付薬用伸縮性複合不織布の構成では、ポリエステル系樹脂からなる捲縮性短繊維を主体とする基材の一方又は双方の表面に、スチレン系エラストマーからなる連続線状の弾性樹脂層が付与されてなることを特徴とする。また、本出願の製造方法は、ポリエステル系樹脂からなる潜在捲縮性短繊維を主体とする繊維ウエブを捲縮発現温度以上で加熱収縮して捲縮性繊維を主体とする基材を得る工程と、この基材の一方又は双方の表面に、加熱軟化したスチレン系エラストマーからなる弾性樹脂を連続線状に付与して弾性樹脂層を形成する工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パップ剤等に用いられ、薬剤を含有する粘着剤を塗布形成するための貼付薬用伸縮性複合不織布と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体に貼付することで、消炎鎮痛や美粧など種々の効能を達成する目的で、薬剤を含有する粘着剤を塗布形成する基材として種々のものが提案され、実用に供されている。これら基材としては、例えば肘や膝などの関節を有する身体部分の動きに追従するため、或いは、基材を引っ張って密着貼付するために、当該基材として所定の伸縮性が求められてきた。従前、この種の基材としては、特殊な編み構造を有する伸縮性編物が用いられていたが、当該編み構造を実現するために、基材の厚さが大きくなる傾向にあった。これに対して、長繊維や短繊維にコイル状等の捲縮を付与した伸縮性不織布は、高い伸度特性を有し、しかも初期モジュラスが比較的低いことから、安価な基材として広く用いられている。しかし、係る貼付薬用の伸縮性不織布においては、繊維の捲縮或いは繊維同士の絡合によって伸度を確保するため、上述した関節の動きへの追従を定量的に評価する手法として知られている50%伸張時の回復率が不十分となる場合もあった。
【0003】
上述した伸度特性の改善を図るため、伸縮性不織布と、種々の形態を有するエラストマー材料とを複合する技術も提案されている。このエラストマー材料として、伸縮性フィルムの形態で複合化を図ることが知られているが、係る技術の場合には、上述した50%伸張時回復率の向上を図り得る反面、通気性に乏しく、しかも、初期モジュラスが高くなってしまう。従って、例えば特開2000−212867号公報(以下、特許文献1)に開示される様に、エラストマー材料からなるネット(伸縮性網状構造物)を利用する技術が知られている。この技術では、少なくとも一方向に優れた伸縮性を有する伸縮性網状構造物を1〜1.2倍の緊張状態として、潜在捲縮性複合繊維を少なくとも30重量%含有する繊維ウェブを伸縮性網状構造物の片面もしくは両面に積層し、高圧流体流処理により絡合一体化させた後、熱処理を施して潜在捲縮性複合繊維を捲縮数10〜40個/25mmとなるように立体捲縮発現させるものである。
【0004】
また、特開平4−281059号公報(以下、特許文献2)では、エラストマー材料で成形したネットを芯材とし、これに不織ウェブを接合させた複合弾性不織布が開示されている。この公報には、上記芯材となるネットを引伸ばした状態、または当該ネットを引伸ばさず、そのままの状態で不織ウェブに接合する製造技術についても開示されている。この特許文献2に係る技術の作用効果については、ネットを引伸ばした状態で不織ウェブを接合すると、ネットが収縮したとき不織布が弛緩し、弛緩した分、伸張が可能となる。また、ネットを引伸ばさないで不織ウェブを接合させる方法においても、上述と同様に、エラストマー材料単体のネットでも切断せずに不織ウェブとの熱接着が可能であると開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−212867号公報([特許請求の範囲]、[発明が解決しようとする課題])
【特許文献2】特開平4−281059号公報([特許請求の範囲]、[課題の解決手段及び作用])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に係る技術では、所定の緊張状態にある伸縮性網状構造物と潜在捲縮性複合繊維を含む繊維ウェブとを絡合一体化させた後、この繊維ウェブを熱収縮させて複合伸縮性シートを得るものである。従って、複合された伸縮性網状構造物と熱収縮時の潜在捲縮性複合繊維(または熱収縮後の立体捲縮性繊維)との熱収縮率(または使用時の伸縮性)が異なる。このため、シート製造過程では、上述した熱収縮率による繊維ウェブの寸法変化に同調した緊張状態で伸縮性網状構造物と繊維ウェブとの一体化を図る必要があり、工程管理が極めて難しいという問題があった。
【0007】
また、前述した特許文献2では、不織布ウェブとエラストマー材料からなるネットとの接合に際して、機械的な繊維絡合や熱処理を行う場合のネット損傷について示唆されている。同文献2の技術では、繊維とネットとの好適な絡合手段として水流絡合(ウォータージェット)を挙げると共に、ネットの熱損傷を回避するために、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンにエラストマー材料をブレンドしたものを用いる手段についても開示されている。即ち、絡合工程に耐え得る物理的な強度と複合一体化する際の熱的な強度との双方を考慮する必要がある。さらには、上述した何れの文献技術においても、予め作製されたネットを用いることから、低コストな伸縮性複合不織布を得ることが難しいという問題点があった。
【0008】
一方、前述した貼付薬用途においては、貼付薬の有効成分である薬剤が基材に吸着しにくいことが重要な要素となっている。基材に対する薬剤の吸着量が大きい場合、体内に作用する薬剤量を確保することが難しく、薬効に悪影響を及ぼす場合もあった。
【0009】
本出願に係る発明者は、上述した従来技術に関わる課題を解決すべく、種々検討した結果、本発明を完成するに至った。従って、この出願に係る各発明の目的は、エラストマー材料を含む基材構成に関して、製造上の工程管理を容易とするのみならず、その使用時においても、優れた伸縮性を発揮することが可能であって、しかも基材に対する薬剤吸着を低減することが可能な貼付薬用伸縮性複合不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的の達成を図るため、本出願の貼付薬用伸縮性複合不織布の構成によれば、ポリエステル系樹脂からなる捲縮性短繊維を主体とする基材の一方又は双方の表面に、スチレン系エラストマーからなる連続線状の弾性樹脂層が付与されてなることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の好適な実施の態様として、上述の弾性樹脂層が一方の表面にのみ付与され、この一方の表面を粘着剤形成予定面とするのが好ましい。
【0012】
さらに、前述した貼付薬用伸縮性複合不織布の50%伸張時における回復率を70%以上とするのが好適である。本発明の構成により、このような回復率を満足することによって、貼付薬として重要な機能である、身体の動きに追従して当該薬が引伸ばされた後であっても形状が回復し、反復して引伸ばされた際の形状変化が極めて小さくなるという利点を有する。
【0013】
また、本出願に係る貼付薬用伸縮性複合不織布の製造方法によれば、ポリエステル系樹脂からなる潜在捲縮性短繊維を主体とする繊維ウエブを捲縮発現温度以上で加熱収縮して捲縮性繊維を主体とする基材を得る工程と、この基材の一方又は双方の表面に、加熱軟化したスチレン系エラストマーからなる弾性樹脂を連続線状に付与して弾性樹脂層を形成する工程とを含むことを特徴としている。
【0014】
この方法発明を実施するに当たり、上述した弾性樹脂の軟化温度が上述した捲縮発現温度以下として行うのが好適である。
【0015】
さらに、この方法発明は、上述の弾性樹脂層を、表面に線状の凹部が形成された彫刻ロールにより付与形成するのが好適である。
【0016】
加えて、上述の加熱軟化した状態の弾性樹脂の粘度を50000(mPa・S)以下として、前記弾性樹脂層を形成することが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
このような本発明に係る構成並びに製造技術を適用することにより、製造上の工程管理が容易であり、その使用時においても、優れた伸縮性を発揮することが可能であって、しかも基材に対する薬剤吸着量低減を図り得る貼付薬用伸縮性複合不織布を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施に当たって好適な形態について、本発明の製造方法に従って説明する。まず、本出願の方法発明では、ポリエステル系樹脂からなる潜在捲縮性短繊維を主体とする繊維ウエブを調製する。ここで、「ポリエステル系樹脂からなる潜在捲縮性短繊維を主体とする繊維ウエブ」とは、ポリエステル系樹脂からなる潜在捲縮性短繊維を50重量%以上の繊維組成として含むものをいう。このようなポリエステル系樹脂からなる潜在捲縮性短繊維としては、その断面形状がサイドバイサイド型若しくは偏心した芯鞘型の複合構造を有するのが好ましく、その樹脂構成はポリエステル/変性ポリエステル、より好適にはポリエチレンテレフタレート/変性ポリエステルの組み合わせとすることによって、熱的に安定であり、しかも繊維組成に由来する薬剤吸着を低減することができる。この際、繊維ウエブを構成する繊維組成としては、本方法発明により得られる本発明の貼付薬用伸縮性複合不織布において、捲縮性短繊維のみの基材とすることにより、前述した薬剤吸着量を極めて低くすることが可能となる。
【0019】
また、本発明の基材においては、上述した、主体となる捲縮性短繊維以外の繊維として、例えば熱接着による基材表面の毛羽立ち防止などの目的で、ポリエステル系、ポリオレフィン系の単一組成または上述した複合構造を有する繊維から成る熱融着短繊維を繊維ウエブに配合して用いることも出来る。この場合、前述したポリエステル系樹脂からなる潜在捲縮性繊維の捲縮発現温度(潜在捲縮性繊維を熱処理することによって加熱収縮させ、伸縮性に寄与するコイル状の捲縮を有する捲縮性繊維を生成する温度)は、通常、140〜200℃であることから、当該捲縮発現温度以下で軟化溶融し、基材の加熱収縮時に捲縮と熱接着との双方を完了し得る熱融着短繊維とするのが良い。
【0020】
次いで、上述した短繊維をカード機に掛けて繊維ウエブとする。この繊維ウエブの形成に当たっては、カード機に限定されず、所定の溶媒に分散せしめた後に湿式抄造する技術、短繊維を空気流に載せて吹き飛ばした後にメッシュコンベア上に集積するエアレイ技術などを利用することが出来る。尚、本出願に係る発明においては、基材を構成する繊維として「短繊維」を用いることによって、スパンボンド法などにより得られる「長繊維」に較べて、繊維同士の自由度を損なわないことから、その使用時に外力を受けた際に良好な伸張性を確保することができ、しかも、「連続線状の弾性樹脂層」によって、伸び止めと形状回復を図るという作用も奏する。この繊維ウエブとしては、ニードルパンチ法や高圧水流ジェットによる水流絡合法などの技術を適用しても良い。特に、水流絡合法は、基材表面の毛羽立ちが少ないため、この後に述べる弾性樹脂層の形成に際して、連続線状パターンを鮮明に付与することができるという利点を有する。
【0021】
続いて、このような繊維ウエブを前述した捲縮発現温度で加熱収縮して基材を調製する。然る後、この基材の一方の表面に対して、加熱軟化したスチレン系エラストマーからなる弾性樹脂連続線状に付与することにより、弾性樹脂層を形成する。
【0022】
この弾性樹脂層として用いられるスチレン系エラストマーは、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、スチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SBS)などが挙げられる。これらエラストマーは、何れもブロック共重合体エラストマーとして市販されているものである。これらエラストマーに対する添加剤として、粘度を調整するための可塑剤、樹脂のベタツキを抑制するためのタック防止剤等を混合しても良い。これら弾性樹脂と、既に述べた基材の構成繊維として主体的に配合されるポリエステル系樹脂からなる潜在捲縮性繊維とを組み合わせることにより、潜在捲縮性繊維の捲縮発現温度以下で、弾性樹脂層を連続線状に付与形成することができる。このため、基材の寸法変化を実質的に解消した状態で、弾性樹脂層を基材表面に付与形成することが可能となり、表面平滑性に優れた伸縮性複合不織布を実現し得る。さらに、これらスチレン系エラストマーは、後段で述べる様に、例えば消炎鎮痛効果を持つ貼付薬の薬効成分に対して吸着が少なく、上述した基材を構成するポリエステル系樹脂からなる捲縮性繊維と同様に、薬剤吸着量が少ないことから好適に使用できる。
【0023】
次いで、弾性樹脂層の付与形成工程について説明する。基材表面に加熱軟化した弾性樹脂を用いて連続線状の弾性樹脂層を形成するに当たっては、例えばホットメルトアプリケーターなどを用いて行うこともできる。しかしながら、基材との密着性を確保するため、表面に線状の凹部が形成され、しかも、当該凹部を前述した弾性樹脂の軟化温度以上に加熱保持できる彫刻ロールを基材に当接させて用いるのが好適である。このような弾性樹脂層は、基材の一方又は双方の表面に形成付与することができる。
【0024】
ここで、当該弾性樹脂層を一方の表面にのみ形成付与した態様においては、当該表面を粘着剤形成予定面として利用することにより、特異な効果を期待できる。即ち、一般にエラストマー材料はタック性を持つため、弾性樹脂層が貼付薬の表面に露出した状態で付与形成されている場合には、衣服等との接触を生じ、薬効成分を配合した粘着剤形成面に剥離を生じる原因となることがある。従って、この弾性樹脂層を基材の一方の表面にのみ形成し、当該表面に薬効成分を配合した粘着剤を塗布使用する態様によって、衣服との接触面では不織布を構成する繊維成分のみが露出することとなる。このため、貼付薬の剥がれを解消し、しかも、スチレン系エラストマーからなる弾性樹脂層は薬剤吸着量が少ないという後述の知見に基いて、薬効成分の吸着を回避しつつ、弾性樹脂層による優れた伸縮特性のみを発揮させることができる。
【0025】
ここで、弾性樹脂層の付与形状について説明する。「連続線状」とは、貼付薬として設計に応じた寸法形状の基材の、一方の端部から他方の端部にまで連続して形成されることを意味する。従って、波形形状を含む曲線、直線、若しくは格子状など、貼付薬の使用時に引伸ばされる際、外力が加わる両端部間を断裂することなく付与形成されていれば良い。これら設計に応じた形状で弾性樹脂層を付与形成するに当たっては、基布に付与するための加熱により軟化した弾性樹脂の粘度を50000(mPa・S)以下、より好ましくは11000(mPa・S)以下とするのが好適である。これを超えて高い粘性とした場合、連続線状に弾性樹脂層が付与形成されず、当該層が破断した状態で付与される場合がある。この結果、既に述べた50%伸張時の回復率を得ることが難しくなる。また、当該粘性の上限を超えて高粘度で弾性樹脂層を付与形成する場合、基布に付与された状態で軟化した弾性樹脂がロールの凹部から円滑に転写されず、基材がロールに巻き付くなどの生産性の低下、或いは得られた伸縮性複合不織布の表面に品位上の欠陥を生じたり、伸度特性が生産の流れ方向でばらつくなど、種々の弊害を生じる。
【0026】
また、基材の表面において弾性樹脂層が占める面積の割合は、貼付薬の設計に応じて任意好適に選択し得るが、5〜40%の範囲内とするのが望ましい。この範囲を超えて弾性樹脂層を形成する場合、50%伸長時の引張強さが高くなることから、貼付薬とした際の身体の動きへの追従性に乏しくなる。また、本発明の好適形態として述べたように、弾性樹脂層を付与形成した基材の表面に粘着剤を形成する場合、繊維で構成される基材の表面積が小さくなることから、粘着剤と伸縮性複合不織布との間のアンカー効果が小さくなってしまう。さらに、上記面積割合を小さく採る場合には、基材に形成された弾性樹脂層による50%伸長時の回復率向上を図ることが難しくなる。
【0027】
加えて、基材の面密度は、薬効成分を配合した粘着剤のしみ出しを回避するため、30(g/m)以上、より好ましくは50(g/m)以上とするのがよい。従って、基材と弾性樹脂層とから構成される、本発明に係る伸縮性複合不織布の面密度に占める弾性樹脂層の割合は、5%〜45%の範囲とするのが良い。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例として、種々の材料に対する薬剤吸着量を測定した結果、並びに、伸縮性複合不織布の調製例と、その評価結果について説明する。
(薬剤吸着量測定)
始めに、この吸着量測定に用いた6種類のサンプル、並びに測定方法について説明する。6種類の測定サンプルとして、参考例aは、本発明に用いる捲縮性繊維と実質的に同一の材質である市販のポリエチレンテレフタレートフィルム、参考例bは、基材に含有可能な熱融着繊維として好適なポリオレフィン系樹脂と実質的に同一な材質としてのポリプロピレンフィルム、さらに、参考例c〜fは、弾性樹脂層としての利用を想定した各種エラストマーを溶融させ、フィルム状に成型したものである。先ず、薬効成分としてケトプロフェンを含有する市販の消炎鎮痛用貼付薬の粘着剤面に、各参考例に係るサンプルを密着させた状態でアルミパックに密封する。このアルミパックを50℃の温度条件で10日間静置した後、貼付剤とサンプルを分離し、各々をメタノールにて薬効成分を抽出し、液体クロマトグラフィーにて薬効成分濃度を測定し、以下の計算式から、薬剤吸着率を算出した。
薬剤吸着率(%)=サンプル側濃度÷(貼付剤側濃度+サンプル側濃度)×100
【0029】
以下に、薬効成分濃度の測定条件を列挙する。
使用カラム:
『CAPCELL PAK C18 UG120 S5』
(内径4.6mm×長さ250mm;(株)資生堂製,商品名)
移動相:CHCN/H0=60/40(pH2.2,リン酸調整)
フローレート:1.0mL/min
実施温度:40℃
検出:230nm(UVディテクターによる)
この測定結果、並びに参考例として用いた各構成樹脂につき、表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
この結果から理解できるように、本発明の基材を主体的に構成する構成樹脂としての参考例aでは、極めて僅かな薬剤吸着率であった。また、基材に繊維成分として配合可能な樹脂である参考例bのポリプロピレンでは、上記ポリエステル系樹脂には劣るものの、比較的少ない薬剤吸着率を示した。さらに、一般的に用いられる弾性樹脂のうち、参考例c〜参考例eに係る各エラストマーでは、約9割の薬剤がサンプル側に移行していた。これに対して、本発明で弾性樹脂として採用するポリスチレン系エラストマー(f)では、参考例aには及ばないまでも、参考例bと同等であり、他のエラストマーに較べて1割程度しか移行吸着されていなかった。このことから、本発明の構成として、弾性樹脂にポリスチレン系エラストマーを採用し、基材としてポリエステル系樹脂からなる捲縮性繊維を採用することにより、薬剤吸着量の抑制を図り得ることが確認された。
【0032】
次いで、本発明の好適な態様としての実施例に係る伸縮性複合不織布につき説明する。まず、本実施例に共通の基材は、ポリエチレンテレフタレート/変性ポリエステルのサイドバイサイド型複合繊維である市販の潜在捲縮性短繊維(繊度2.2デシテックス,繊維長51(mm))を用い、カード機によって繊維ウエブを調製した。この後、熱風乾燥機を用いて当該繊維の捲縮発現温度以上である190℃の温度条件で上述した繊維ウエブを加熱収縮させ、面密度95.5(g/m)、圧縮荷重時の厚さ0.71(mm)の基布を調製した。この際の面密度並びに圧縮荷重時の厚さは以下の方法で求めた。
(面密度)
試料片を14cm×25cmの寸法に裁断調製し、25℃相対湿度60%の標準状態に2時間静置する。この後、市販の直示天秤によって小数点以下1桁まで秤量し、平方メートル当たりの重量に換算する。結果は、3点の平均により小数点以下1桁で示した。
(厚さ)
荷重面積5cm当たりの荷重を0.98Nとして、市販の圧縮弾性試験機で10点測定の平均値により結果とした。
【0033】
また、このようにして得られた基材の各種伸度特性について、以下の方法により求めた。その結果については、表2として示す。
(50%伸長時の回復率)
基材の試料片として50mm×300mmの寸法に裁断し、定速伸長型引張試験機である『テンシロン』(オリエンテック社製,商品名)に、つかみ間隔200mmとして長手方向の両端をセットする。このつかみ間隔200mmの位置を始点とし、始点から100mmの位置、即ち50%伸長位置(L50=100)まで速度200mm/分で引っ張り、すぐに同速度で始点まで戻す。このとき試料の引張応力がゼロになるときの始点からの距離をLとしたとき、次の式より算出される数値を50%伸長回復率とする。尚、基材の生産方向を上述した長手方向に一致させた場合を縦、これと直交する方向を長手方向とした場合を横として測定結果を示す。
50%伸長回復率(%)=(L50−Ln)/L50×100=100−Ln
(50%伸長時の引張強さ)
基材の試料片として50mm×300mmの寸法に裁断し、上述した定速伸長型引張試験機をつかみ間隔200mmにして長手方向の両端をセットし、引張速度200mm/minで引っ張り、50%伸長させた位置(つかみ間隔300mmの位置)のときにかかる応力を50%伸長時の引張強さとした。
【0034】
【表2】

【0035】
次に、上述した実施例の基材に対して、市販されている3種のスチレン系エラストマーを弾性樹脂層として付与したサンプルについて説明する。この実施例では、金属製ロールの周面に、幅0.6(mm)、深さ0.2(mm)の連続した溝状の凹部を、ピッチ5(mm)で格子状に形成した彫刻ロールを用いた。各実施例に係るスチレン系エラストマーに固有な軟化温度、並びに弾性樹脂の軟化のため、彫刻ロールを加熱した付与温度、当該温度での粘度について、表3に示す。尚、各実施例で用いた弾性樹脂の商品名は下記の通りである。また、上記連続線状のパターンに応じた弾性樹脂層の面積当たりの付与量は、何れの実施例サンプルにおいても約25(g/m)であり、下記の付与条件としたことから連続線状に破断なく付与を実施することが出来た。
実施例1:『セキスイエスダイン 9108Y』(積水化学工業(株)製,商品名)
実施例2:『モレスコメルト FT−455S』((株)松村石油研究所製,商品名)
【0036】
【表3】

【0037】
次いで、このようにして得られた各実施例に係る伸縮性複合不織布に関し、前述した測定方法により各伸縮特性を測定した。その結果につき、表4に示す。
【0038】
【表4】

【0039】
この表4と前述した表3に示す基布の伸度特性との比較から理解できるとおり、50%伸長時の回復率が70%以上であった。このような各伸縮性複合不織布に粘着剤を塗膏し、着用感を評価したところ、関節などの動きの大きな部分に用いても、身体の動きに追従し、浮きの問題が生じない、良好な形状回復性を実現することが出来た。また、50%伸長時の引張強さも、弾性樹脂層を付与する前の基材の物性と変わらないことから、引きつれ感がなく良好な使用感を実現し得ることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂からなる捲縮性短繊維を主体とする基材の一方又は双方の表面に、スチレン系エラストマーからなる連続線状の弾性樹脂層が付与されてなることを特徴とする貼付薬用伸縮性複合不織布。
【請求項2】
前記弾性樹脂層が一方の表面にのみ付与されており、かつ該一方の表面が粘着剤形成予定面であることを特徴とする請求項1に記載の貼付薬用伸縮性複合不織布。
【請求項3】
前記貼付薬用伸縮性複合不織布の50%伸張時における回復率が70%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2の何れかに記載の貼付薬用伸縮性複合不織布。
【請求項4】
ポリエステル系樹脂からなる潜在捲縮性短繊維を主体とする繊維ウエブを捲縮発現温度以上で加熱収縮して捲縮性繊維を主体とする基材を得る工程と、該基材の一方又は双方の表面に、加熱軟化したスチレン系エラストマーからなる弾性樹脂を連続線状に付与して弾性樹脂層を形成する工程とを含むことを特徴とする貼付薬用伸縮性複合不織布の製造方法。
【請求項5】
前記弾性樹脂の軟化温度が前記捲縮発現温度以下であることを特徴とする請求項4に記載の貼付薬用伸縮性複合不織布の製造方法。
【請求項6】
前記弾性樹脂層が、表面に線状の凹部が形成された彫刻ロールにより付与形成されることを特徴とする請求項4又は請求項5の何れかに記載の貼付薬用伸縮性複合不織布の製造方法。
【請求項7】
前記加熱軟化した弾性樹脂の粘度を50000(mPa・S)以下として、前記弾性樹脂層を形成することを特徴とする請求項4〜請求項6の何れかに記載の貼付薬用伸縮性複合不織布の製造方法。

【公開番号】特開2006−104611(P2006−104611A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−292387(P2004−292387)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】