説明

貼付製剤およびその包装体

【課題】粘着剤層の粘着面の物性を制御することにより、粘着剤層の接着性を改善し、その結果、長時間にわたり皮膚に貼付した際にも、皮膚から剥離・脱落し難い貼付製剤を提供する。
【解決手段】貼付製剤の粘着剤層の粘着面と水滴との接触角が106°以上となるように、粘着剤層の物理的性質を制御する。前記粘着剤層の物理的性質は、疎水性の粘着剤を用いることにより、また貼付製剤の含水率を1.0重量%以下とすることにより、制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性の改善された貼付製剤およびその包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
貼付製剤は、薬物の消化管からの吸収性および肝臓における初回通過効果の問題を回避できること、薬物の経口服用が困難な患者における投与の容易性、投与忘れの防止効果など、多くの利点を有する優れた投与形態である。近年、かかる利点が注目され、様々な種類の貼付製剤が開発されている。
【0003】
貼付製剤は、一般的に支持体の少なくとも一方の面に粘着剤層を有するが、その粘着面が皮膚に貼付されるところ、従来より、長時間貼付した場合に、剥離・脱落するという問題がある。粘着剤層の組成を検討することにより、かかる剥離・脱落を抑制することは種々試みられてきたが、未だ満足できるレベルには到達していない。
【0004】
このような状況下、粘着剤層の組成ではなく、粘着面の物性の検討も行われている。粘着面の物性の検討に関連する技術文献としては、以下のものが挙げられる。
【0005】
特開2007−131618号公報(特許文献1)には、粘着剤層の粘着面と、ニコチン液滴との接触角が20°〜60°である経皮吸収製剤が開示されている。しかし、この文献は、ニコチンの粘着剤層への含浸の改善を開示するものであり、粘着剤層の接着性は何ら考慮されておらず、しかも粘着剤層と水との接触角に関しては、何ら開示も示唆もされていない。
【0006】
一方、特開2002−145763号公報(特許文献2)には、その表面と水滴との接触角が90°以下である支持体に、含水系ゲルを積層してなる貼付剤が開示されている。しかし、粘着剤層の粘着面と水滴との接触角との関係については何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−131618号公報
【特許文献2】特開2002−145763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記に鑑み本発明は、粘着剤層の粘着面の物性を制御することにより、粘着剤層の接着性を改善し、その結果、長時間にわたり皮膚に貼付した際にも、皮膚から剥離・脱落し難い貼付製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するべく、鋭意検討した結果、本発明者らは、貼付製剤の粘着剤層の粘着面と水滴との接触角が106°以上となるように、粘着剤層の物理的性質を制御することにより、粘着剤層の接着性を改善し得ることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明は、以下の[1]〜[7]に関する。
[1]支持体の少なくとも一方の面に、薬物および粘着剤を含む粘着剤層を有する貼付製剤であって、温度23±2℃、相対湿度60±10%の条件下における、粘着剤層の粘着面と水滴との接触角が106°以上である、貼付製剤。
[2]粘着剤がゴム系粘着剤を含む、上記[1]に記載の貼付製剤。
[3]ゴム系粘着剤が、粘度平均分子量が1,600,000〜6,500,000であるゴム系エラストマーと、粘度平均分子量が40,000〜85,000であるゴム系エラストマーとを含む、上記[2]に記載の貼付製剤。
[4]貼付製剤の含水率が1.0重量%以下である、上記[1]に記載の貼付製剤。
[5]粘着剤層が、架橋ポリビニルピロリドンを含む、上記[1]に記載の貼付製剤。
[6]薬物が極性を有する薬物である、上記[1]に記載の貼付製剤。
[7]上記[1]〜[6]のいずれかに記載の貼付製剤が、水不透過性の包装材により包装されてなる、貼付製剤の包装体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粘着剤層の粘着面の物性、すなわち粘着面と、水滴との接触角を所定の値以上となるように制御することにより、粘着剤層の接着性を改善することができる。その結果、長時間にわたり皮膚に貼付した際にも、皮膚から剥離・脱落し難い貼付製剤を提供することができる。
粘着面と水滴との接触角が小さくなると、粘着剤層成分が粘着面にブリードアウトしやすくなる傾向にあり、粘着面にブリードアウトした粘着剤層成分が、皮膚と粘着面の間に存在することで、接着力が低下するものと推測される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1〜3ならびに比較例1〜4の貼付製剤について、粘着面と水滴との接触角と、接着力との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施態様を示すが、それらの詳細な説明および特定の例は、例示の目的のみのためのものであることが意図されており、本発明の範囲を限定しない。以下の好ましい実施態様の説明は、単に例示的な性質のものであり、決して本発明、その応用、または用途を限定することが意図されるわけではない。
【0014】
本発明の貼付製剤は、支持体の少なくとも一方の面に、薬物および粘着剤を含む粘着剤層を有し、温度23±2℃、相対湿度60±10%の条件下における、粘着剤層の粘着面と水滴との接触角が、106°以上であることを特徴とする。
【0015】
「接触角」は、固体表面の濡れやすさ・濡れにくさの指標となる物性値であり、液体を固体表面に滴下したとき、固体表面における液滴の接線と固体表面とのなす角度をいう。接触角の測定は、一般的にはθ/2法を用いて行われ、協和界面科学株式会社等より販売されている接触角計を用いて測定することができる。
【0016】
かかる接触角が106°未満であると、粘着面の接着力が急激に低下し、貼付製剤を皮膚に貼付した場合、皮膚への接着を十分な時間確保することが難しい。接触角の上限は特に限定されないが、ヒトの皮膚への接着性の観点から、120°以下とすることが好ましい。
【0017】
かかる接触角を106°以上とするためには、粘着剤層の粘着面を濡れにくくすることを要する。粘着剤層の粘着面の濡れに影響を及ぼすものとしては、粘着剤層の疎水性や、貼付製剤の含水率が挙げられる。
【0018】
粘着剤層を疎水性とするためには、粘着剤層を構成する粘着剤として、疎水性の粘着剤を用いることが好ましい。疎水性の粘着剤としては、後述するように、ゴム系粘着剤が好ましい。また、粘着剤層に有機液状成分を含有させることが好ましい。
【0019】
また、貼付製剤の含水率は、1.0重量%以下であることが好ましく、0.9重量%以下であることがより好ましい。ここで、貼付製剤の含水率(重量%)とは、支持体と粘着剤層と、剥離ライナーが存在する場合にはそれを含めた貼付製剤中の水分重量を、貼付製剤の重量(剥離ライナーが存在する場合はその重量を含む)で除し、100を乗じた値を意味する。貼付製剤の含水率が1.0重量%を超えると、水滴と粘着面との接触角が低下する傾向にある。下限値は特に限定されないが、貼付製剤の安定性の観点から、0.1重量%以上であることが好ましい。かかる含水率の制御は、自体公知の手法で達成することができる。たとえば、貼付製剤を、低相対湿度条件下で製造し、水不透過性の包装材により包装することにより、これを達成することができる。かかる含水率をより効果的に制御するためには、貼付製剤を、乾燥剤と共に水不透過性の包装材により包装して包装体とすること、または乾燥剤を含有する水不透過性の包装材により包装して、包装体内で保存することが好ましい。
【0020】
なお、貼付製剤の含水率は、皮膚に貼付される前に、上記範囲内に制御されていることが好ましい。特に、貼付製剤が、水不透過性の包装材により包装されて包装体内に収容されている場合、該包装体を開封し、貼付製剤を包装体内から取り出した後、十分に短い時間内に皮膚に貼付することが望まれる。貼付製剤の皮膚接着性は、皮膚に貼付した直後の初期接着力に影響されるところが大きく、最初に皮膚に強固に接着すれば、その後に貼付製剤の含水率が上昇し、接着力が低下しても、皮膚に対する十分な接着性が維持される傾向があるからである。これは、貼付初期に皮膚の凹凸に貼付製剤の粘着面が馴染み、分子間力が発生することと、それにより、物理的なアンカー効果が発揮されるためと考えられる。皮膚貼付の初期の段階で、粘着剤層の粘着面が親水性であれば、かかる皮膚の凹凸に対する粘着面の馴染みは発生せず、皮膚に対する貼付製剤の接着力は非常に低いものとなる。
【0021】
本発明によれば、貼付製剤の含水率を上記含水率に制御することで、貼付製剤を包装体から取り出し、皮膚に貼付するまでの通常の時間、たとえば包装体の開封後8時間以内、好ましくは4時間以内であれば、貼付製剤の粘着面の疎水性を維持することができ、皮膚貼付時の良好な接着性を維持することが可能となる。
【0022】
本発明で使用される支持体としては特に限定はされないが、粘着剤層に含有される添加物や薬物が支持体を透通し、背面から失われて含有量の低下をきたすことのないもの、すなわち、これらの成分が実質的に不透過性を示す材料が好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ナイロン等のポリアミド系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂等のビニル系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ化炭素樹脂などからなるフィルム、金属箔、またはこれらのラミネートフィルム等が挙げられる。粘着剤層との接着性(投錨性)を向上させるためには、支持体として、上記材料からなる無孔フィルムと多孔性フィルムとのラミネートフィルムを用い、多孔性フィルム側に粘着剤層を形成することが好ましい。
【0023】
多孔性フィルムとしては、粘着剤層の投錨性が良好であれば特に限定されないが、たとえば紙、織布、不職布、機械的に穿孔処理したシート等が挙げられ、特に紙、織布、不織布が好ましい。多孔性フィルムの厚さとしては、投錨性の向上および貼付製剤の柔軟性を考慮して、10μm〜500μm程度とするのが好ましい。また、プラスタータイプや粘着テープタイプのような薄手の貼付製剤の場合は10μm〜200μm程度とするのが好ましい。織布や不織布については、これらの目付量を5g/m〜30g/mとすることが、投錨性向上の点で好ましい。
【0024】
本発明の貼付製剤は、支持体の少なくとも一方の面に粘着剤層を有する。粘着剤層は粘着剤を含む。かかる粘着剤としては、粘着剤層の粘着面の接触角を上記の値に調整し得るものである限り特に限定されず、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ビニルエーテル系粘着剤、ビニルエステル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0025】
皮膚接着性の観点から、粘着剤層の粘着面の接触角を106°以上とするためには、粘着剤としては疎水性の粘着剤が好ましい。アクリル系粘着剤は疎水性を有するとともに、若干の親水性をも有し、粘着剤層を形成した場合、皮膚への接着性が良好なものが多い。しかし、官能基を有するものが多いことから、薬物を粘着剤層へ含有させる場合には、その反応性を考慮しつつ、貼付製剤を設計する必要性が生じる。従って、本発明では薬物の安定性の観点から、ゴム系粘着剤が好ましく用いられる。
【0026】
本発明の目的に適するゴム系粘着剤としては、たとえば、スチレン−ジエン−スチレンブロック共重合体(たとえばスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等)のエラストマー;ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、シリコーンゴム等のゴム系エラストマーを含む粘着剤が挙げられ、これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0027】
これらのうち、粘着特性、安定性および安全性のバランスを考慮すれば、ゴム系エラストマーとしてポリイソブチレンを含む粘着剤が好ましい。ゴム系エラストマーはその粘度平均分子量によって、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。後記において、ゴム系粘着剤を用いる場合、必須に用いられるゴム系エラストマーを第1のゴム系エラストマーといい、目的によってさらに配合されるゴム系エラストマーを第2のゴム系エラストマー、第3のゴム系エラストマーなどという。
【0028】
第1のゴム系エラストマーの粘度平均分子量は特に限定されないが、好ましくは1,600,000〜6,500,000、より好ましくは、2,000,000〜6,000,000、さらに好ましくは2,500,000〜5,500,000、最も好ましくは3,000,000〜5,000,000である。第1のゴム系エラストマーの粘度平均分子量が1,600,000以上であると、その分子鎖が十分長くかつ複雑に絡み合い、粘着剤層が多量の有機液状成分を保持することが容易となる。第1のゴム系エラストマーの粘度平均分子量が6,500,000以下であると、他の成分と組み合わせた場合に、タックなどの粘着物性のバランスを取るのが容易となる。
【0029】
ここで「粘度平均分子量」とは、ウベローデ粘度計にてキャピラリー1を用いて20℃でフロータイムを測定し、下記Schulz−Blaschke式(1式)を用いてシュタウディンガーインデックス(J)を求め、次いで下記マーク・ホーウインク−桜田の式(2式)に前記J値を代入して算出されるものである。
【0030】
【数1】

【0031】
【数2】

【0032】
所望により、粘着剤は、粘度平均分子量40,000〜85,000の第2のゴム系エラストマーをさらに含んでもよい。第1のゴム系エラストマーと比較して流動性の大きい第2のゴム系エラストマーを併用することにより、第1のゴム系エラストマーと、他の粘着剤層成分との分離を防ぎ、粘着剤層に適度な柔軟性を付与することが可能となる。
【0033】
なお、第2のゴム系エラストマーの粘度平均分子量が40,000に満たない場合、第2のゴム系エラストマーと他の粘着剤層成分との親和性が高く、他の粘着剤層成分と第1のゴム系エラストマーとの親和性が低下して、これらが分離することがある。一方、第2のゴム系エラストマーの粘度平均分子量が85,000を超える場合、第一のゴム系エラストマーと第2のゴム系エラストマーの親和性が高く、他の粘着剤層成分と第2のゴム系エラストマーとの親和性が低下して、これらが分離することがある。
【0034】
第2のゴム系エラストマーの種類としては、第1のゴム系エラストマーと同様のものから独立的に選択される。第1のゴム系エラストマーと第2のゴム系エラストマーは、同種であっても異種であってもよいが、両者の相溶性の観点から、同種のものを用いることが好ましい。
【0035】
第2のゴム系エラストマーの粘着剤層中における割合は特に限定されないが、第1のゴム系エラストマー100重量部に対して、好ましくは50重量部〜200重量部、より好ましくは50重量部〜150重量部、最も好ましくは90重量部〜110重量部の範囲内である。第2のゴム系エラストマーが50重量部よりも少ないと、第1のゴム系エラストマーの特性のみが現われる可能性がある。一方、第2のゴム系エラストマーが200重量部よりも多いと、粘着剤層の凝集力が低下する場合がある。
【0036】
また、粘着剤層の凝集力をさらに増強する目的で第2のゴム系エラストマーを配合する場合は、第1のゴム系エラストマーよりも粘度平均分子量の高いゴム系エラストマーを用いることが好ましい。所望により、第3のゴム系エラストマーを粘着剤に加えてもよい。
【0037】
上記第1、第2のエラストマーなどを含め、粘着剤の総含有量は特に限定されないが、粘着剤層の総重量に対して、好ましくは30重量%〜92.5重量%、より好ましくは50重量%〜90重量%、もっとも好ましくは70重量%〜80重量%である。
【0038】
粘着剤には、必要に応じて粘着付与剤を含有させることができる。かかる粘着付与剤としては、たとえば、ポリブテン類、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油系樹脂、クマロン系樹脂等が挙げられ、これらは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。粘着剤の総重量に対する粘着付与剤の含有量は、好ましくは30重量%〜90重量%、より好ましくは50重量%〜70重量%の範囲内である。粘着付与剤の含有量を30重量%以上とすることにより、良好なタック性能が得られる。一方、90重量%を超えると、粘着剤層が破壊傾向を示したりして、好ましくない場合がある。
【0039】
上述したとおり、疎水性のゴム系粘着剤は本発明では好ましいものではあるが、後述するように、ある程度の極性を有する有機液状成分を含有させる場合には、それらとの相溶性が不十分となる可能性がある。かかる場合に、該有機液状成分との相溶性を確保するため、粘着剤層に架橋ポリビニルピロリドンを含有させることが好ましい。架橋ポリビニルピロリドンは、N−ビニル−2−ピロリドンを適当な触媒の存在下で架橋重合させることにより得られる。
【0040】
極性を有する薬物の溶解性が比較的高い有機液状成分は、極性の高い傾向を示すため、結果的に粘着剤層から滲み出しやすい傾向がある。架橋ポリビニルピロリドンは、かかる第1の有機液状成分を粘着剤層に保持するのを助けるように作用する。また、架橋ポリビニルピロリドンは親水性基を有することから、貼付製剤中の含水率が上昇した場合には、水分を保持するものと推測される。かかる場合、すでに架橋ポリビニルピロリドン中に保持された親油性の有機液状成分に対する保持能力は、低下する傾向にあるものと推測される。
【0041】
上記した架橋ポリビニルピロリドンは、「コリドンCL」、「コリドンCL−M」(BASF Japan Ltd)、「ポリプラスドン」(ISP Japan Ltd)、「クロスポビドン」(五協産業)などの商品名で商業的に入手可能である。添加量に対するその効果を考慮した場合、粒子径の最も小さなものが、表面積が最も大きいため有効であり、その観点から「コリドンCL−M」が好ましい。架橋ポリビニルピロリドンの配合量は、100重量部の粘着剤に対して、好ましくは5重量部〜40重量部、より好ましくは10重量部〜20重量部の範囲内である。
【0042】
粘着剤層は薬物を含む。かかる薬物は特に限定されず、ヒトなどの哺乳動物にその皮膚を通して投与し得る、すなわち経皮吸収可能な極性を有する薬物が好ましい。そのような薬物としては、具体的には、たとえば、全身性麻酔薬、睡眠・鎮静薬、抗精神病薬、抗うつ薬、気分安定薬、精神刺激薬、抗不安薬、抗癲癇薬、片頭痛治療薬、制吐薬、鎮暈薬、脳循環・代謝改善薬、抗認知症薬、局所麻酔薬、骨格筋弛緩薬、自律神経用薬、鎮痙薬、パーキンソン病治療薬、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、強心薬、抗不整脈薬、利尿薬、降圧薬、血管収縮薬、冠血管拡張薬、末梢血管拡張薬、狭心症治療薬、高脂血症治療薬、呼吸促進薬、鎮咳去痰薬、気管支拡張薬、気管支喘息治療薬、ホルモン薬、消化性潰瘍治療薬、鎮痛・解熱薬、非ステロイド性抗炎症薬、ステロイド性抗炎症薬、止血薬、痛風・高尿酸血症治療用薬、糖尿病治療薬、抗リウマチ薬、抗悪性腫瘍薬、抗菌薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗寄生虫薬、化膿性疾患用薬、寄生性皮膚疾患用薬、麻薬、禁煙補助薬などが挙げられる。
【0043】
粘着剤層中における薬物の含有濃度は、薬物の効果を発揮できて、かつ粘着剤の粘着特性を損なわない範囲であれば特に限定されないが、粘着剤層の総重量に対して、好ましくは0.01重量%〜5重量%、より好ましくは0.2重量%〜3重量%である。0.01重量%より少ないと治療効果が十分でない恐れがあり、5重量%より多いと、皮膚刺激が発生したり、粘着剤層中で薬物が析出する場合がある。
【0044】
本発明は、極性を有する薬物を用いる場合により有利である。ここで、極性を有する薬物とは、その化学構造中に極性基を有することから、対象に有効量を投与するために十分な量を、疎水性の粘着剤層に溶解させることが困難である薬物を意味する。より具体的には、その分配係数(n−オクタノール/水)、すなわち、logPowが0.5〜5.5であって、融点が100℃以上のものである。本発明の効果が十分発揮されるためには、極性を有する薬物のlogPowは好ましくは1.0〜5.0、より好ましくは3.0〜5.0である。なお薬物の融点の上限値は特に限定されないが、実用的には300℃以下が好ましい。
【0045】
薬物のlogPowが0.5に満たない場合は、薬物の極性が高いため、本発明をもってしても、かかる高極性薬物の結晶が粘着剤層中で析出するのを防ぐことができないおそれがある。一方、薬物のlogPowが5.5を越える場合は、薬物の疎水性が高いので、そのような薬物の結晶が粘着剤層中で析出する可能性は小さく、本発明の有用性はさほど大きくない。
【0046】
ここで、薬物の「logPow」とは、薬物の親水性又は疎水性を表す指標であり、「OECD GUIDELINE FOR THE TESTING OF CHEMICALS 107, Adopted by the Council on 27th July 1995, Partition Coefficient (n-octanol/water), Shake FIask Method」に記載の方法により、個々の薬物について測定した値をいう。logPowの対数の底は10である。なお、本実施形態では、logPの計算ソフト「Cache(登録商標、富士通製)」を用いてlogPowを算出した。logPowの測定(算出)に際しては、前記計算ソフトに薬物の化学構造式をインプットして、測定(算出)を行う。
【0047】
上記の薬物の融点は、下記方法で測定した値を意味する。
装置:融点測定装置 MIYAMOTO RIKEN IND JAPAN製
測定方法:日本薬局方の融点測定法の第1法に従って、試料が毛細管内で液化して、固体を全く認めなくなった時の温度計の示度を読み取り、これを融点とする。
【0048】
極性を有する薬物の中でも、女性ホルモンであるエストラジオールおよびその類縁物質は、更年期障害の治療用薬物として用いられる。エストラジオールの類縁物質は、エストラジオールと同様の生物学的特性を有する物質であって、類似の物理的・化学的性質を有する。エストラジオールおよびその類縁物質としては、エストラジオール(4.008;融点179℃)、エストロン(4.535;融点256℃)、エストリオール(3.239;融点282℃)、エチニルエストラジオール(4.017;融点146℃(ヘミ体))等の卵胞ホルモン(エストロゲン);ノレルゲストロミン(プロゲスチン)(3.689;融点131℃)等の黄体ホルモンが挙げられる。なお、カッコ内の数値は、各物質のlogPowおよび融点を示す。
【0049】
粘着剤層は、有機液状成分を含有することが好ましい。有機液状成分の存在によって、薬物の高い放出速度を維持しつつ、長時間にわたり持続的かつ安定的な放出を達成することができる。かかる有機液状成分としては、特に限定されない。しかし、本発明で好ましく用いられる極性を有する薬物は、logPowが0.5〜5.5であり、ある程度の親水性・疎水性のバランスを有するため、これを溶解する有機液状成分についても、適度な親水性・疎水性バランスを有することが望まれる。
【0050】
従って、本発明において好ましく用いられる有機液状成分(第1の有機液状成分)としては、分子中に2個以上の水酸基を有する多価アルコールが好ましい。多価アルコールとしては具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類が挙げられ、これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用される。より好ましい多価アルコールとしては、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールが挙げられる。
【0051】
粘着剤層における上記第1の有機液状成分の含有量は、粘着剤の総重量100重量部に対して、好ましくは1重量部〜15重量部、より好ましくは2重量部〜10重量部の範囲内である。
【0052】
本発明において、粘着剤層は、さらに他の有機液状成分(第2の有機液状成分)を含有していてもよい。かかる有機液状成分としては、脂肪酸アルキルエステルであって多価アルコールのヒドロキシル基の少なくとも一部を有しているもの、たとえば、多価アルコールであるn価アルコールのn個のヒドロキシル基のうちの1〜(n−1)個のヒドロキシル基が、脂肪酸のカルボキシル基とエステル結合してなるエステルが挙げられ、より具体的には、グリセリン等3価アルコールの3個のヒドロキシル基のうち、1個または2個のヒドロキシル基が脂肪酸のカルボキシル基とエステル結合してなるエステル、および、エチレングリコール、プロピレングリコール等2価アルコールの2個のヒドロキシル基のうち、1個のヒドロキシル基が脂肪酸のカルボキシル基とエステル結合してなるエステルなどが例示される。このような有機液状成分は、親水性部分および疎水性部分をその分子内に併せ持つので、本発明の目的には、第2の有機液状成分として適している。親水性・疎水性バランスの観点から、第2の有機液状成分としては、多価アルコールのヒドロキシル基のうち、1個のヒドロキシル基が脂肪酸とエステル結合してなるモノエステルが好ましい。
【0053】
かかる多価アルコールのモノ脂肪酸エステルとしては、グリセリンモノカプリレート(たとえば商品名「Sefsol 318」)、プロピレングリコールモノカプリレート(たとえば商品名「Sefsol 218」)、プロピレングリコールモノラウレート(たとえば商品名「リケマールPL−100」、「ユニセーフPGML」)、プロピレングリコールモノステアレート(たとえば商品名「リケマールPS−100」、「EMALEX PG−M−S」)等のプロピレングリコールのモノ脂肪酸エステル、エチレングリコールモノステアレート(たとえば商品名「DNワックスMM」、「EMALEX EGS−A」)等のエチレングリコールのモノ脂肪酸エステルなどが挙げられ、これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いられる。第1の有機液状成分の薬物溶解性を維持し、さらにエラストマー中から皮膚への極性を有する薬物の透過を促進する効果と、皮膚刺激性とのバランスを図る観点から、特に好ましくはプロピレングリコールモノラウレートである。
【0054】
粘着剤層における上記第2の有機液状成分の含有量としては、粘着剤の総重量100重量部に対して、好ましくは0.1重量部〜15重量部、より好ましくは1重量部〜10重量部である。
【0055】
さらに本発明においては、粘着剤層に他の有機液状成分(第3の有機液状成分)を含有させることができる。かかる有機液状成分としては、たとえば、十分な疎水性を有するという観点から、1価の脂肪族アルコール、特に炭素数10〜22程度の1価の脂肪族アルコールが好ましい。かかる1価の脂肪族アルコールとして具体的には、オレイルアルコール、ゲラニオール、オクチルドデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、セタノール等が挙げられ、これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いられる。極性を有する薬物の溶解性の観点からは、分岐アルコールではなく直鎖アルコールが有効であり、より好ましくはオレイルアルコールである。粘着剤層における第3の有機液状成分の含有量は、粘着剤の総量100重量部に対して、好ましくは0.1重量部〜35重量部、より好ましくは1重量部〜20重量部の範囲内である。
【0056】
粘着剤層には所望により、たとえば粘着剤層を可塑化し、皮膚刺激性を低減する目的で、さらなる有機液状成分(第4の有機液状成分)を含有させることができる。具体的には、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソノニル等のフタル酸エステル;アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、ミリスチン酸イソトリデシル等の脂肪酸エステル;特にラウリン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、オレイン酸エチル等の炭素数12から18の高級脂肪酸と炭素数が1〜8の低級1価アルコールからなる脂肪酸アルキルエステル;炭素数8〜10の脂肪酸;オリーブ油、ヒマシ油、ラノリン等の油脂;酢酸エチル、エタノール、ジメチルデシルスルホキシド、メチルオクチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルラウリルアミド、ドデシルピロリドン、イソソルビトール等の有機溶剤;スクアレン、流動パラフィン等の炭化水素;オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の液状の不飽和脂肪酸;その他、エトキシ化ステアリルアルコール、N−メチルピロリドンなどが挙げられ、勿論、これらの中から常温で液状のものが使用される。また、これらは単独で、または2種以上を組み合わせて使用される。これらの中では、粘着剤層成分の相溶性を改善することにより粘着性を向上させるという観点から、脂肪酸アルキルエステルが好ましい。特に、安定性および経皮吸収促進効果の観点から、炭素数12から16の高級脂肪酸と炭素数が1〜4の低級1価アルコールからなる脂肪酸エステルがより好ましい。
【0057】
さらに、極性を有する薬物の経皮吸収性の向上を考慮して、上記の脂肪酸エステルに加えて、炭素数8〜10の脂肪酸を併用しても良い。炭素数8〜10の脂肪酸としては、たとえば、カプリル酸(オクタン酸;C8)、ペラルゴン酸(ノナン酸;C9)、カプリン酸(デカン酸;C10)等が挙げられる。
【0058】
粘着剤層における上記第4の有機液状成分の含有量は、粘着剤の総量100重量部に対して、好ましくは1重量部〜30重量部、より好ましくは5重量部〜10重量部の範囲内である。第4の有機液状成分の含有量を1重量部以上とすることによって、粘着剤層の可塑化が効果的に起こり、皮膚刺激性を低減することができる。一方、該有機液状成分の含有量が30重量部を超える場合には、粘着剤層が有する凝集力によっても有機液状成分を粘着剤層中に保持することが出来ない場合があり、保持されない有機液状成分が粘着剤層表面にブルーミングして、接着性が劣ることがある。
【0059】
粘着剤層には、本発明の特徴を損なわないかぎり、任意成分として他の添加剤、たとえば、ピロリドンカルボン酸エステル等の吸収促進剤、パルミチン酸アスコルビル、酢酸トコフェロール、天然ビタミンE、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等の酸化防止剤、2,6−tert−ブチル−4−メチルフェノール等のアミン−ケトン系老化防止剤、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン等の芳香族第2級アミン系老化防止剤、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体等のモノフェノール系老化防止剤、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)等のビスフェノール系老化防止剤、2,5−tert−ブチルヒドロキノン等のポリフェノール系老化防止剤、カオリン、含水二酸化ケイ素、酸化亜鉛、アクリル酸デンプン1000などの充填剤、ポリブテン等の軟化剤、安息香酸、安息香酸ナトリウム、塩酸クロルヘキシジン、ソルビン酸、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸ブチル等の防腐剤、黄酸化鉄、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、黒酸化鉄、カーボンブラック、カルミン、β−カロテン、銅クロロフィル、食用青色1号、食用黄色4号、食用赤色2号、カンゾウエキス等の着色剤、ウイキョウ油、d−カンフル、dl−カンフル、ハッカ油、d−ボルネオール、l−メントール等の清涼化剤、スペアミント油、チョウジ油、バニリン、ベルガモット油、ラベンダー油等の香料などを含有させることができる。前記添加剤の含有量は、粘着剤層の総重量に基づいて、1重量%〜10重量%とすることが好ましい。
【0060】
なお、本発明の貼付製剤において、粘着剤層の厚さは、通常20μm〜400μm、好ましくは30μm〜300μmである。
【0061】
本発明においては、上記した粘着剤層に対し、紫外線照射、電子線照射等の放射線照射による物理的架橋、架橋剤による化学的架橋などにより、架橋処理を施すことができる。粘着剤層に含有させる薬物等の成分に悪影響を与えることなく架橋処理を施すためには、架橋剤による化学的架橋処理が好ましい。かかる架橋剤としては、イソシアネート系化合物(イソシアネート系架橋剤)、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン系架橋剤、過酸化物系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、尿素系架橋剤、アミノ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、カップリング剤系架橋剤(たとえばシランカップリング剤)等を用いることができる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
本発明の貼付製剤は、局所作用または全身作用を目的とする経皮吸収型製剤として、マトリクス型、リザーバー型のいずれの製剤としても提供され得る。剤形としても、パッチ型、粘着テープ型、シート型等、種々の剤形をとり得る。
【0063】
上述したように、粘着剤層の粘着面の濡れに影響を及ぼすものとして、粘着剤層の疎水性の他に貼付製剤の含水率が挙げられるが、貼付製剤の含水率は、貼付製剤を、低相対湿度条件下において製造し、水分不透過性の包装材により包装して包装体とすることにより、良好に制御することができる。従って本発明は、粘着剤層表面が上記した濡れ特性を有する貼付製剤を、水分不透過性の包装材により包装してなる貼付製剤の包装体をも提供する。
【0064】
本発明の貼付製剤の上記包装体において、水不透過性の包装材としては、通常用いられる包装材に、アルミ箔を積層した包装材等が用いられ、好ましくは、(A)物理的強度を付与する層、(B)水分を遮断する層および(C)シーラント層よりなる層構成を有する積層フィルムが用いられる。
【0065】
上記積層フィルムにおいて、(A)物理的強度を付与する層を構成する素材の具体例としては、たとえば、ポリエステル、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、塩化ビニルなどが挙げられる。この(A)物理的強度を付与する層の厚さは、好ましくは、10μm〜100μm程度である。
次に、(B)水分を遮断する層を構成する素材の具体例としては、例えば、アルミ箔などの金属箔が挙げられる。この(B)水分を遮断する層の厚さは、好ましくは、5μm〜90μm程度である。
続いて、(C)シーラント層を構成する素材の具体例としては、例えば、メチルアクリレート・ブタジエン・アクリロニトリルの共重合体等のポリアクリロニトリル系樹脂、低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体などが挙げられる。ポリアクリロニトリル系樹脂は、薬物に対して低吸着性であるため、貼付製剤中の薬物量の安定化を図る上で有効である。(C)シーラント層の厚さは、好ましくは、10μm〜100μm程度である。上記の厚さは、貼付製剤を安定に保存するため特に好ましいものである。
【0066】
本発明において用いる包装材の好ましい態様は、(A)物理的強度を付与する層、(B)水分を遮断する層および(C)シーラント層が、それぞれPETフィルム、アルミニウム箔およびポリアクリロニトリル系樹脂フィルムにより構成される積層フィルムであり、特に、(B)水分を遮断する層として、厚さが6μm以上のアルミニウム箔を採用することで、包装体内の条件を略一定に維持することができる。このような包装材を用い、ポリアクリロニトリル系樹脂フィルムを内側にして貼付製剤を包装することにより、長期間保存しても、包装体内の条件を略一定に維持することができ、製造直後の貼付製剤の粘着剤層の含水率、および粘着面と水との接触角が略一定に維持される。
【0067】
上記した本発明の貼付製剤の包装体は、さらに乾燥剤を同封することが好ましい。貼付製剤とともに包装される乾燥剤としては、医薬品製剤や食品の包装において通常使用されるものを用いることができるが、シリカゲル、酸化アルミニウム、ゼオライト等が例示される。
【0068】
また、本発明の貼付製剤の包装体の他の好ましい態様としては、上記した疎水性の粘着剤層を有する貼付製剤を、乾燥剤を含有する水不透過性の包装材により包装してなるものが挙げられる。乾燥剤を含有する前記包装材としては、上記したような乾燥剤を混合し、練り込んだ後に成形してなる水不透過性樹脂フィルム等、乾燥機能を有する水不透過性の包装材が挙げられる。
【0069】
本発明はまた、貼付製剤の粘着剤層の接着性を改善する方法を提供する。前記方法は、支持体の少なくとも一方の面に、薬物および粘着剤を含む粘着剤層を有する貼付製剤において、温度23±2℃、相対湿度60±10%の条件下で、粘着剤層の粘着面と水滴との接触角が106°以上となるように制御することを特徴とする。該接触角が106°以上となるように貼付製剤の粘着剤層の物性を制御する方法としては、粘着剤層を疎水性とし、または貼付製剤の含水率を制御することが挙げられる。
【0070】
粘着剤層を疎水性とする方法としては、上述したように、ゴム系粘着剤等の疎水性の粘着剤を用いて粘着剤層を調製する方法が挙げられる。また、貼付製剤の全重量に対する含水率を1.0重量%以下、好ましくは0.9重量%以下となるように制御する方法が挙げられる。貼付製剤の含水率を前記のように制御する方法としては、上述したように、相対湿度の低い条件下で貼付製剤を製造し、水分不透過性の包装材により包装して、貼付製剤の包装体とする方法が挙げられる。なお、貼付製剤を水不透過性の包装材により包装する際、乾燥剤を同封したり、水不透過性の包装材として、乾燥剤を含有する包装材を用いることがより好ましい。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下において「部」とあるのはすべて重量部を意味し、「%」とあるのはすべて重量%を意味する。
【0072】
<粘着剤Aの調製>
第1のゴム系エラストマーとして、粘度平均分子量4,000,000のポリイソブチレン14.7部、第2のゴム系エラストマーとして、粘度平均分子量55,000のポリイソブチレン14.7部、および粘着付与剤として、ポリブテン44.2部を混合して粘着剤Aを得た。
【0073】
[実施例1]
73.2部の粘着剤A、2.4部のジプロピレングリコール、2.4部のプロピレングリコールモノラウレート、6部のオレイルアルコール、6部のミリスチン酸イソプロピル、および10部の架橋ポリビニルピロリドン(「コリドンCL−M」、BASF Japan Ltd(以下単に「BASF」と示す)製)を混合してさらにトルエンを添加、混合し、次いでエストラジオール0.4部を添加、混合して、粘着剤層形成用塗工液を得た。剥離ライナーとしてポリエステルフィルム(厚さ75μm)を用い、これに該塗工液を、乾燥後の厚さが240μmになるように塗工して、乾燥した。次いで、これを支持体の不織布面に転写して原反を得た。該原反を面積5cmの正方形小片状に打ち抜き、粗貼付製剤Aを得た。なお、支持体としては、ポリエステル製不織布(目付量12g/m)およびポリエステルフィルム(厚さ2μm)の積層フィルムを用いた。これを、PETフィルム、アルミニウム箔およびポリアクリロニトリル系樹脂フィルムにより構成される積層フィルムよりなる包装材にて、乾燥剤とともに包装し、25℃、相対湿度60%の条件下で4週間静置して、実施例1の貼付製剤を得た(乾燥剤入り包装)。
【0074】
[実施例2]
実施例1の貼付製剤を包装材から取り出し、室温23±2℃、相対湿度60±10%の条件下で4時間静置し、実施例2の貼付製剤とした。
【0075】
[実施例3]
実施例1の貼付製剤を包装材から取り出し、室温23±2℃、相対湿度60±10%の条件下で8時間静置し、実施例3の貼付製剤とした。
【0076】
[比較例1]
粗貼付製剤Aを、アルミ箔とポリアクリロニトリルフィルムを積層してなる包装材に、乾燥剤を入れずに包装した他は、実施例1と同様にして、比較例1の貼付製剤を得た(通常包装)。
【0077】
[比較例2]
粗貼付製剤Aを、包装材により包装せず、乾燥剤を用いずに保存した他は、実施例1と同様にして、比較例2の貼付製剤を得た(非包装)。
【0078】
[比較例3]
実施例1の貼付製剤を包装材から取り出し、室温23±2℃、相対湿度60±10%の条件下で48時間静置し、比較例3の貼付製剤とした。
【0079】
[比較例4]
実施例1の貼付製剤を包装材から取り出し、室温23±2℃、相対湿度60±10%の条件下で72時間静置し、比較例4の貼付製剤とした。
【0080】
[実験例]
上記各実施例および各比較例の貼付製剤について、以下に示す試験を行った。
【0081】
[実験例1]対ステンレス板接着力試験
<試験方法>
JIS規格「Z0237(粘着テープ・粘着シート試験方法)」に準じ、ステンレス板を用いて測定を実施した。なお、本実験例では、12mm幅の試験片で測定した値をそのまま表記した。
【0082】
[実験例2]接触角測定試験
<試験方法>
実施例および比較例の各貼付製剤の粘着剤層の粘着面と水との接触角を、協和界面科学株式会社製の接触角測定装置「モデル DropMaster 300」を用いて、以下に示す通り測定を行った。
測定方法 接触角(液滴法)
測定範囲 接触角:0〜180°
測定精度 接触角:±1°
表示分解能 接触角:0.1°
測定位置決定 PC画面にて操作
定量液滴作製 自動
着液制御/着液認識 自動
接触角解析 自動
ガラス製のスライドグラスに、実施例および比較例で調製した各貼付製剤を、それぞれ粘着剤層面を鉛直上向きに固定し、装置に装着した。剥離ライナーを剥がして、粘着面上に水を接触させ、5秒後の接触角を室温23±2℃、相対湿度60±10%の条件下で測定した。水の液滴量は1.0μLに調整した。
【0083】
[実験例3]含水率測定試験
<試験方法>
粘着剤層の粘着面を保護する剥離ライナーを有する貼付製剤を、そのまま16mmΦの試験片に裁断し、カールフィッシャー水分計により貼付製剤中の水分含量(重量)を測定した。前記測定値と、予め測定しておいた貼付製剤(剥離ライナーを含む)の重量を用いて、貼付製剤中の含水率(%)を求めた。
【0084】
実験例1〜3における結果を、表1に示した。
【0085】
【表1】

【0086】
表1に示した対ステンレス板接着力試験の結果と、接触角の測定結果から、実施例1〜3ならびに比較例1〜4の貼付製剤について、粘着剤層の粘着面と水滴との接触角と、貼付製剤の接着力との関係を図1に示した。図1より、貼付製剤の接着力と接触角との間には、2本の直線関係が認められる。この2本の直線(y=0.4303x−43.114 および y=−0.0113x+3.6174)は、接触角(x)=ほぼ106°(105.8°)において交わるが、この交点より接触角が小さくなると、貼付製剤の接着力は急激に低下する。一方、この交点より接触角が大きくなっても、貼付製剤の接着力はほぼ一定で、ほとんど変化は見られない。以上の結果より、貼付製剤において十分な接着性が認められるためには、粘着剤層の粘着面と水滴との接触角が106°以上であることを要することが認められた。
【0087】
また、本発明の実施例1〜3で調製した貼付製剤の粘着剤層の粘着面と水滴との接触角はいずれも106°以上であり、含水率はいずれも0.9%以下であった。これに対して、比較例1〜4で調製した貼付製剤の前記接触角は106°未満であり、含水率は1.0%を超えていた。
【0088】
すなわち上記実験例の結果から、本発明の貼付製剤においては、水不透過性の包装材により乾燥剤とともに包装され、低い含水率に制御された結果、良好な皮膚接着性を示すために必要な疎水性の粘着面が保持されることが示された。さらに、本発明の貼付製剤を皮膚に貼付する際、貼付製剤を包装体から取り出した後、通常の時間内に貼付する限り、疎水性の粘着面が維持され、良好な皮膚接着性を保持し得ることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
上述したように、本発明により、粘着剤層の組成ではなく、その粘着面の物性を改善することにより、粘着剤層の接着性を改善し、その結果、長時間にわたり皮膚に貼付した際にも、皮膚から剥離・脱落し難い貼付製剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の少なくとも一方の面に、薬物および粘着剤を含む粘着剤層を有する貼付製剤であって、温度23±2℃、相対湿度60±10%の条件下における、粘着剤層の粘着面と水滴との接触角が106°以上である、貼付製剤。
【請求項2】
粘着剤がゴム系粘着剤を含む、請求項1に記載の貼付製剤。
【請求項3】
ゴム系粘着剤が、粘度平均分子量が1,600,000〜6,500,000であるゴム系エラストマーと、粘度平均分子量が40,000〜85,000であるゴム系エラストマーとを含む、請求項2に記載の貼付製剤。
【請求項4】
貼付製剤の含水率が1.0重量%以下である、請求項1に記載の貼付製剤。
【請求項5】
粘着剤層が、架橋ポリビニルピロリドンを含む、請求項1に記載の貼付製剤。
【請求項6】
薬物が極性を有する薬物である、請求項1に記載の貼付製剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の貼付製剤が、水不透過性の包装材により包装されてなる、貼付製剤の包装体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−219055(P2012−219055A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85752(P2011−85752)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】