説明

貼付製剤およびその製造方法

【課題】粘着剤層の面積および厚さを増加させる必要なく、十分に高い薬物の皮膚透過量が得られ(すなわち、優れた薬物の放出性を有し)、しかも、皮膚への接着性が良好で長期貼付に耐えられる貼付製剤、および、その製造方法を提供すること。
【解決手段】薬物を含有する粘着剤層を、支持体の片面に備えた貼付製剤であって、粘着剤層に物理刺激が付与された直後には、粘着剤層に薬物の結晶が形成されないが、さらに保存すると薬物の結晶が形成されることを特徴とする、貼付製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物を含有する粘着剤層を支持体の片面に備える貼付製剤、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貼付製剤において、薬物の皮膚透過量を増加させるためには、貼付製剤中の薬物の量を増加させることが考えられる。しかし、粘着剤層中の薬物の量を増加させるには、貼付製剤の粘着剤層の面積および厚さを増加させる態様があるが、そのような態様を採ると、貼付製剤の取り扱い性が低下する。そこで、薬物の皮膚への移行は、貼付製剤の粘着剤層中の薬物の濃度に依存し得ることが知られているため、粘着剤層中の薬物の濃度を高めることで、薬物の皮膚透過量を増加させることが考えられる。
【0003】
しかし、粘着剤層中の薬物の濃度が高いほど、薬物の結晶を形成する傾向がある。薬物の結晶の量がわずかであれば、貼付製剤の有用性に悪影響を及ぼさないが、結晶の量がわずかでも、患者に品質劣化を懸念させ、その使用を躊躇わせるなどの不具合を引き起こし得る。また、薬物の結晶の量が多い場合は、薬物の放出性が変化するだけでなく、粘着剤層表面を結晶が覆う場合は接着性を有する面積が減少し、皮膚への接着性の低下が生じて、長期貼付に耐えられない可能性がある。
【0004】
したがって、薬物の皮膚透過量を増加させつつ、貼付製剤の粘着剤層の面積および厚さを減少させることを可能とし、それによって、取り扱い性、およびかぶれや貼付時の違和感の低減などによるコンプライアンスの改善をすることができ、かつ長期貼付に耐えられるほど皮膚への接着性が低下しない貼付製剤が待望される。
【0005】
なお、下記の特許文献1〜5には、薬物含有粘着剤層を含む積層シート、もしくは、貼付製剤前駆物、もしくは、積層シートと貼付製剤前駆物を加熱することで、薬物の結晶形成を抑制できることが記載されているが、いずれの文献も、加熱温度は薬物の融点以上であり、そのために、薬物は融解され、かつ、高温に暴露されるため、薬物が変性する懸念がある。また、貼付製剤の製造段階において薬物の結晶が形成されていなくても、貼付製剤を実際に皮膚に貼付する際に薬物の結晶が形成される場合に生じる問題について、これらの文献では言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3566301号公報
【特許文献2】特表2006−513195号公報
【特許文献3】特許第2610314号公報
【特許文献4】特許第4166276号公報
【特許文献5】特表2001−514213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明が解決しようとする課題は、粘着剤層の面積および厚さを増加させる必要なく、十分に高い薬物の皮膚透過量が得られ(すなわち、優れた薬物の放出性を有し)、しかも、皮膚への接着性が良好で長期貼付に耐えられる貼付製剤、および、その製造方法を提供することにある。
【0008】
また、使用時に患者に品質劣化の懸念を生じさせることがなく、十分に高い薬物の皮膚透過量が得られ(すなわち、優れた薬物の放出性を有し)、しかも、皮膚への接着性が良好で長期貼付に耐えられる貼付製剤、および、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の構成を採る。
すなわち、本発明は、
[1] 薬物を含有する粘着剤層を、支持体の片面に備えた貼付製剤であって、
粘着剤層に物理刺激が付与された直後には、粘着剤層に薬物の結晶が形成されないが、さらに保存すると薬物の結晶が形成されることを特徴とする、貼付製剤、
[2] 薬物を含有する粘着剤層が、薬物が粘着剤層に溶解したものである、[1]記載の貼付製剤、
[3] 物理刺激が付与された後、25℃以下で保存した場合に、物理刺激が付与されてから24時間以上、6ヶ月以内に薬物の結晶が形成される、[1]または[2]記載の貼付製剤、
[4] 物理刺激が付与された後、温度25℃±5℃、相対湿度60%RH±5%RHの環境下で保存した場合に、物理刺激が付与されてから24時間以上、6ヶ月以内に薬物の結晶が形成される、[1]または[2]に記載の貼付製剤、および
[5] 薬物を含有する粘着剤層を薬物の融点未満の温度に加熱する工程を有する、上記[1]〜[4]のいずれか一つに記載の貼付製剤の製造方法に、関する。
【0010】
また、本発明は、
[6] 薬物を含有する粘着剤層を、支持体の片面に備えた貼付製剤の製造方法であって、
支持体/薬物を含有する粘着剤層/剥離ライナーの順に積層された積層シートを貼付製剤の形状および大きさに切断する工程、および、切断後の積層シートを40℃以上、100℃未満で、かつ、薬物の融点未満の温度に加熱する工程を経ることを特徴とする、貼付製剤の製造方法、
[7] 積層シートの加熱時間が3〜120時間である、上記[6]に記載の方法、および
[8] 薬物を含有する粘着剤層中の薬物の濃度が、粘着剤層中の薬物の飽和濃度の100〜300%である、上記[6]または[7]に記載の方法、に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、貼付製剤の面積および厚さを増加させる必要なく、十分に高い薬物の皮膚透過量が得られ、しかも、皮膚への接着性が良好で長期貼付に耐えられる貼付製剤、および、その製造方法を提供することができる。
【0012】
また、本発明によれば、使用時に患者に品質劣化の懸念を生じさせることがなく、十分に高い薬物の皮膚透過量が得られ(すなわち、優れた薬物の放出性を有し)、しかも、皮膚への接着性が良好で長期貼付に耐えられる貼付製剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の貼付製剤は、薬物を含有する粘着剤層を、支持体の片面に備え、貼付製剤の粘着剤層に物理刺激が付与された直後には、粘着剤層に薬物の結晶が形成されないが、さらに保存すると薬物の結晶が形成されることを特徴とする。
【0014】
粘着剤層に物理刺激が付与された直後から粘着剤層に薬物の結晶が形成されていると、たとえ薬物の結晶の量がわずかであり、貼付製剤の有用性に悪影響を及ぼすものでなくても、患者に品質劣化を懸念させ、その使用を躊躇わせる可能性がある。また、その量が多い場合は、薬物の放出性が変化するだけでなく、粘着剤層表面に結晶が析出して、接着性を有する面積が減少した場合は、皮膚への接着性低下が生じて、貼付製剤の長期貼付に耐えられない可能性がある。
【0015】
本発明でいう、「粘着剤層に物理刺激が付与された直後には、粘着剤層に薬物の結晶が形成されない」とは、粘着剤層に物理刺激が付与されてから、0時間以上、24時間未満保存されても、粘着剤層に薬物の結晶が形成されないことを意味する。
【0016】
ここで、「粘着剤層に薬物の結晶が形成されない」とは、基本的には、目視観察によって粘着剤層に薬物の結晶が認められないことを意味し、好適態様では、目視観察及び顕微鏡観察(最大倍率500倍)の両方において、粘着剤層に薬物の結晶が認められないことを意味する。また、「物理刺激」とは貼付製剤の粘着剤層にカッターの刃を突き刺す等の硬質かつ先鋭な部位を有する物品の当該部位を粘着剤層に突き刺したり、当該部位にて粘着剤層を切断すること等を意味する。
【0017】
本発明の貼付製剤は、粘着剤層に物理刺激が付与されてから24時間(=1日)以上、6ヶ月以内の保存期間に粘着剤層に薬物の結晶が形成されることが好ましく、物理刺激が付与されてから1週間(=7日)以上、6ヶ月以内の保存期間に薬物の結晶が形成されることがより好ましい。
【0018】
粘着剤層に物理刺激が付与されてから24時間未満内に薬物の結晶が形成されるもの(すなわち、粘着剤層に物理刺激が付与された直後に薬物の結晶が形成されるもの)は、薬物の粘着剤層中の濃度が高すぎることから、実際に貼付製剤を使用する際に粘着剤層に薬物の結晶が形成されている可能性があり、使用に支障をきたす可能性がある。すなわち、使用時に患者に品質劣化の懸念を生じさせたり、粘着剤層表面に結晶が析出した場合には、接着性を有する面積が減少することにより、皮膚への接着性が低下する可能性がある。
【0019】
一方、物理刺激が付与されてから、薬物の結晶の形成に6ヶ月よりも長い時間を要する製剤は、粘着剤層中の薬物の濃度が低いことが推測され、十分な薬物の皮膚透過量を達成することが困難な可能性がある。
【0020】
本発明の貼付製剤において、粘着剤層に物理刺激が付与された直後には、粘着剤層に薬物の結晶が形成されないが、さらに保存すると薬物の結晶が形成されるのは、粘着剤層中に薬物が適度に高い濃度で溶解して含有されていることから、粘着剤層が物理刺激を受けると薬物の結晶核が粘着剤層中に形成され、その結果、貼付製剤の保存中に薬物の結晶が徐々に成長するためと推測される。
【0021】
本明細書でいう「保存」とは、貼付製剤が温度25℃±5℃、相対湿度60%RH±5%RHの環境下に放置されることを意味する。
【0022】
本発明の貼付製剤は、製造直後は、粘着剤層に薬物の結晶が存在しないことが好ましい。これは、少しでも薬物の結晶が粘着剤層中に存在すると、保存中に結晶が成長する結果、貼付製剤に特段の物理刺激を与えずとも、多量の薬物の結晶を形成する可能性があるためである。よって、製造直後は、薬物が粘着剤層に溶解されている状態であるのが好ましい。
【0023】
本発明の貼付製剤において、薬物は特に限定されず、ヒトなどの哺乳動物にその皮膚を通して投与し得る、すなわち経皮吸収可能な薬物が好ましい。そのような薬物としては、具体的には、例えば、全身性麻酔薬、催眠・鎮静薬、抗癲癇薬、解熱鎮痛消炎薬、鎮暈薬、精神神経用薬、中枢神経薬、局所麻酔薬、骨格筋弛緩薬、自律神経用薬、鎮痙薬、抗パーキンソン薬、抗ヒスタミン薬、強心薬、不整脈用薬、利尿薬、血圧降下薬、血管収縮薬、冠血管拡張薬、末梢血管拡張薬、動脈硬化用薬、循環器用薬、呼吸促進薬、鎮咳去痰薬、ホルモン薬、化膿性疾患用外用薬、鎮痛・鎮痒・収斂・消炎用薬、寄生性皮膚疾患用薬、止血用薬、痛風治療用薬、糖尿病用薬、抗悪性腫瘍用薬、抗生物質、化学療法薬、麻薬、禁煙補助薬などが挙げられる。
【0024】
薬物は、本発明の効果を十分に奏するためには、室温(25℃)で固体の薬物が有利である。すなわち、室温で固体の薬物とは、DSCによる測定で融点が25℃より高い薬物を意味する。ここにいう融点は、DSCを用いて、JIS K 7121−1987に従って測定したDSC曲線における、補外融解開始温度である。補外融解開始温度とは、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、融解ピークの低温側の曲線に勾配が最大になる点で引いた接線の交点の温度である。
【0025】
なお、薬物はDSC(示差走査熱量測定)による測定で結晶化ピークが検出されない薬物が好ましい。結晶化ピークが検出されない薬物を用いることで、貼付製剤の製造直後(貼付製剤を保存する前)における、粘着剤層中の薬物の結晶の形成を確実に抑制することができる。結晶化ピークが検出されない薬物は、結晶構造を形成し難い性質がある為、粘着剤層中においても結晶を形成しにくいと思われる。
【0026】
結晶化ピークとは、DSCを用いて、JIS K 7121−1987に準じて測定した時、薬物の結晶化に伴う発熱ピークを意味する。すなわち、測定容器に、薬物を5mg〜10mg量り、次の温度プログラムにより、測定することによりDSC曲線を得る。薬物の融点より50℃低い温度で10分間保持した後、毎分2℃の速度で昇温し、融点より30℃高い温度で3分間保持する。その後、毎分2℃の速度で降温し、薬物のガラス転移温度より30℃低い温度で10分間保持した後、再度、毎分2℃の速度で薬物の融点より30℃高い温度まで、昇温する。
【0027】
ガラス転移温度とは、上記DSC曲線において、薬物のガラス転移に伴う階段状変化の中間点である。階段状変化の中間点は、階段状変化の前後のベースラインをそれぞれ延長した直線から等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度である。
【0028】
なお、前述の融点は、上記DSC曲線において、薬物の融解に伴う吸熱ピークの補外融解開始温度である。
【0029】
DSCによる結晶化ピークが検出されない薬物としては、ドネペジル、ミコナゾール、ジルチアゼム、スコポラミン、ケトプロフェン、インドメタシン、カプサイシン、イブプロフェン、硝酸イソソルビド、ジクロフェナク、ロチゴチンなどが挙げられる。
【0030】
本発明の一態様では、薬物はドネペジルおよび/またはその薬学的に許容される塩である。また、本発明の別の態様では、薬物はドネペジルおよび/またはその薬学的に許容される塩を除く薬物である。
【0031】
薬物は、疾患、状態または障害の治療において所望の結果、例えば所望の治療結果をもたらすのに十分な量(本明細書中で有効量とも呼ばれる量)で存在する。有効量の薬物とは、例えば非毒性ではあるが、しかし毒性レベルよりも低く、かつ特定の時間にわたって選択された効果をもたらすのに十分な血中薬物濃度をもたらす量の薬物を意味する。このような量は当業者によって容易に決定することができる。
【0032】
薬物の粘着剤層中の重量濃度は、上記有効量の範囲内であって、十分な薬物の皮膚透過量が得られ、粘着剤の接着特性を損なわない範囲であれば特に限定されないが、例えば、粘着剤層全体に対して0.1〜60重量%、好ましくは0.5〜40重量%である。0.1重量%より少ないと治療効果が十分でない恐れがあり、60重量%より多いと、粘着剤層を構成する粘着剤の含有量が低くなり、十分な皮膚接着性が得られない可能性があり、また経済的にも不利である。
【0033】
また、薬物の粘着剤層中の重量濃度(重量%)は、好ましくは薬物の粘着剤層中の飽和濃度(重量%)の100〜300%であり、より好ましくは100〜250%である。かかる飽和濃度に対する重量濃度の比率[(重量濃度/飽和濃度)×100(%)]が100%未満では、粘着剤層中の薬物濃度が低いために、十分に高い薬物の皮膚透過量を得ることが困難な傾向となり、一方、300%を超えると、貼付製剤の製造段階または製造後に粘着剤層に物理刺激が付与されることがなくても、薬物の結晶を形成する傾向となる。
【0034】
なお、粘着剤層中の薬物の飽和濃度は、次の操作によって求められる。粘着剤層中の薬物濃度を1重量%刻みで変化させた貼付製剤を用意し、それぞれ貼付製剤の粘着剤層上のライナーを剥離し、粘着剤層の露出面に、薬物を少量静置し、ライナーを再度粘着剤層に積層する。こうして作製した貼付製剤を25℃の恒温器で6ヶ月保存し、1ヶ月毎に、粘着剤層に静置した薬物の大きさが変化するかを光学顕微鏡(倍率:500倍)で観察する。薬物の大きさが大きくなった場合は、薬物濃度は飽和濃度を超えていると判断し、薬物の大きさが小さくなった場合は、薬物濃度は飽和濃度未満と判断し、薬物の大きさに変化がない場合は、薬物濃度は飽和濃度付近であると判断する。
【0035】
この測定方法は、薬物濃度が飽和濃度より大幅に小さい場合は、静置した薬物は粘着剤層へ溶解する為、薬物の大きさが小さくなり、薬物濃度が飽和濃度より大きい場合では、静置した薬物を起点に結晶が成長する為、薬物の大きさが大きくなり、薬物濃度が飽和濃度付近の場合は、静置した薬物の溶解と成長が平衡となる為、薬物の大きさは変化しないという現象を利用したものである。
【0036】
例えば、薬物濃度が1〜5重量%の貼付製剤では、静置した薬物の大きさが小さくなり、薬物濃度が6〜7重量%の貼付製剤では、静置した薬物の大きさに変化がなく、薬物濃度が8〜10重量%の貼付製剤では、薬物の大きさが大きくなった場合、粘着剤層における薬物の飽和濃度は7%(重量%)とする。なお、この方法に従って、飽和濃度が1%未満と判断されるとき(薬物濃度1重量%の貼付製剤でも静置した薬物の大きさが大きくなる場合)、薬物濃度0〜1重量%の範囲で、0.2重量%刻みで薬物濃度を変化させた貼付製剤を用意して、先述の手順にて同様の評価を行い、飽和濃度を求める。
【0037】
本発明の貼付製剤において、支持体は、特に限定されず、各種プラスチックフィルム、不織布、紙、織布、編布、金属箔、およびこれらを積層したものが挙げられる。所望により、これらに金属を蒸着させたものを用いてもよい。プラスチックフィルムとしては、特に限定されず、ポリ塩化ビニル単体、若しくはエチレン、プロピレン、酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデンなどのモノマーと、その他モノマーとの共重合体、または、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのオレフィン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルポリエステルなどのポリエステル系ポリマー;ポリエーテルポリアミドブロックポリマーなどのポリアミド系ポリマーなどから形成される各種フィルムが挙げられる。支持体の厚さは、通常10〜500μm、好ましくは10〜200μmである。
【0038】
粘着剤層はポリマーを含み、常温(25℃)で粘着性を有する層状の構造物である。粘着剤層の厚さは、製剤の取り扱い性から、10〜500μmが好ましく、より好ましくは15〜300μm、特に好ましくは20〜250μmである。
【0039】
粘着剤層に含まれるポリマーとしては、特に限定されず、(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーを含むアクリル系ポリマー;スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエンなどのゴム系ポリマー;シリコーンゴム、ジメチルシロキサンベース、ジフェニルシロキサンベースなどのシリコーン系ポリマー;ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテルなどのビニルエーテル系ポリマー;酢酸ビニル−エチレン共重合体などのビニルエステル系ポリマー;ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、ジメチルフタレートなどのカルボン酸成分とエチレングリコールなどの多価アルコール成分からなるエステル系ポリマーなどが挙げられる。
【0040】
アクリル系ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、これに官能性単量体を共重合して得られたものが好ましい。すなわち、(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる単量体成分を50〜99重量%(好ましくは60〜95重量%)含有し、残りの単量体成分が官能性単量体からなる共重合体が好ましい。ここにいう主成分とは、共重合体を構成する単量体成分の総重量に基づき、50重量%以上含まれる単量体成分を意味する。
【0041】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(以下、主成分単量体ともいう)は、通常、アルキル基が炭素数4〜13の直鎖または分岐アルキル基(例えば、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシルなど)からなるものであり、これらは1種または2種以上が使用される。
【0042】
官能性単量体は、共重合反応に関与する不飽和二重結合を分子内に少なくとも一個有するとともに、官能基を側鎖に有するものであり、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸などのカルボキシル基含有単量体、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルエステルなどのヒドロキシル基含有単量体;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパン酸などのスルホキシル基含有単量体;(メタ)アクリル酸アミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸tert−ブチルアミノエチルエステルなどのアミノ基含有単量体;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N−ビニルアセトアミドなどのアミド基含有単量体;(メタ)アクリル酸メトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシジエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリプレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフリルエステルなどのアルコキシル基含有単量体が挙げられる。
【0043】
かかる官能性単量体は1種または2種以上を使用でき、これらの中でも、粘着剤層の感圧粘着性、凝集性、粘着剤層中に含有する薬物の放出性などの点から、カルボキシル基含有単量体が好ましく、特に好ましくは(メタ)アクリル酸である。
【0044】
アクリル系ポリマーとして、上記の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(主成分単量体)と官能性単量体との共重合体に、さらに他の単量体を共重合したものを使用することもできる。
【0045】
当該他の単量体としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N−ビニル−2−ピロリドン、メチルビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルピペリドン、ビニルピリミジン、ビニルピペラジン、ビニルピロール、ビニルイミダゾール、ビニルカプロラクタム、ビニルオキサゾールなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を使用できる。
【0046】
また、当該他の単量体の使用量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(主成分単量体)と官能性単量体の合計重量に対して、通常、0〜40重量%程度が好ましく、より好ましくは10〜30重量%程度である。
【0047】
アクリル系ポリマーの好ましい具体例としては、ヒト皮膚への接着性がよく、接着および剥離の繰り返しが容易である観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしての2−エチルヘキシルアクリレートと、アクリル酸と、N−ビニル−2−ピロリドンとの三元共重合体が好ましく、2−エチルヘキシルアクリレートと、アクリル酸と、N−ビニル−2−ピロリドンとを、40〜99.9:0.1〜10:0〜50の重量比で共重合させた共重合体がより好ましい。
【0048】
ゴム系ポリマーは中でも、ポリイソブチレン、ポリイソプレンおよびスチレン−ジエン−スチレンブロック共重合体(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)等)から選ばれる少なくとも一種を主成分とするゴム系ポリマーが好ましい。薬物安定性が高く、必要な接着力および凝集力が両立できる観点から、粘度平均分子量500,000〜2,100,000の高分子量ポリイソブチレンと、粘度平均分子量10,000〜200,000の低分子量ポリイソブチレンとを、95:5〜5:95の重量比で配合された混合物が特に好ましい。
【0049】
ゴム系ポリマーを用いる場合、タッキファイヤーをさらに配合することが常温での粘着性を粘着剤層に付与するために好ましい。タッキファイヤーは、当技術分野で公知のものを適宜選択して用いればよい。タッキファイヤーとしては、例えば、石油系樹脂(例えば、芳香族系石油樹脂、脂肪族系石油樹脂など)、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン系樹脂(例えば、スチレン樹脂、ポリ(α−メチルスチレン)など)、水添石油樹脂(例えば、脂環族飽和炭化水素樹脂など)などが挙げられる。中でも、脂環族飽和炭化水素樹脂が薬物の安定性が良好になるため好適である。タッキファイヤーは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができ、タッキファイヤーの量は、ゴム系ポリマーの総重量に対して、通常33〜300重量%、好ましくは50〜200重量%である。
【0050】
所望により、例えば粘着性調節、薬物の経皮吸収促進などのために、粘着剤層には、有機液状成分を含有させることができる。有機液状成分とは、室温(25℃)で液状を呈し、粘着剤層を可塑化する作用を示す有機化合物であり、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類;オリーブ油、ヒマシ油、スクワレン、ラノリンなどの油脂類;酢酸エチル、エチルアルコール、ジメチルデシルスルホキシド、メチルオクチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ドデシルピロリドン、イソソルビトールなどの有機溶媒;液状界面活性剤;オクチルドデカノール、ジイソプロピルアジペート、フタル酸エステル、ジエチルセバケート、クエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどの可塑剤;流動パラフィンなどの炭化水素類;エトキシ化ステアリルアルコール;脂肪酸エステル;グリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0051】
なかでも、脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル(モノ、ジ、又はトリグリセリド)、オクチルドデカノール、アセチルクエン酸トリブチル、流動パラフィンなどが好ましい。
【0052】
脂肪酸エステルは、粘着剤層中のポリマーとの相溶性を保ち、かつ貼付製剤を調製する際の加熱工程での揮散を防ぐために、炭素数が12〜16(より好ましくは12〜14)の高級脂肪酸と炭素数が好ましくは1〜4の低級1価アルコールからなる脂肪酸エステルが好適に使用される。炭素数12〜16の高級脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸などが挙げられ、炭素数が1〜4の低級1価アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。
【0053】
グリセリン脂肪酸エステル(モノ、ジ、又はトリグリセリド)は、グリセリン中鎖(炭素数8〜12)脂肪酸エステルが好ましく、また、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドのいずれか1種でも、2種以上の混合物であってもよいが、トリグリセリドが好ましい。また、中鎖脂肪酸トリグリセリドは、グリセリンにエステル結合している中鎖脂肪酸種が一種類のみのトリグリセリド(例えば、グリセリンにエステル結合している中鎖脂肪酸がカプリル酸のみのカプリル酸トリグリセリド、カプリン酸のみのカプリン酸トリグリセリドなど)が用いられても良いし、グリセリンにエステル結合している中鎖脂肪酸種が複数種であるトリグリセリド(例えば、グリセリンにエステル結合している中鎖脂肪酸がカプリル酸とカプリン酸である(カプリル酸・カプリン酸)トリグリセリドや、カプリル酸とカプリン酸とラウリン酸である(カプリル酸・カプリン酸・ラウリン酸)トリグリセリドなど)が用いられても良い。
【0054】
所望により、粘着剤層においては、紫外線照射や電子線照射などの放射線照射による物理的架橋、三官能性イソシアネートなどのイソシアネート系化合物や有機過酸化物、有機金属塩、金属アルコラート、金属キレート化合物、多官能性化合物(多官能性外部架橋剤やジアクリレートやジメタクリレートなどの多官能性内部架橋用モノマー)などの各種架橋剤を用いた化学的架橋処理を施して、架橋された粘着剤層を得ることができる。有機液状成分を含み、架橋された粘着剤層はゲル状を呈することで、適度な皮膚接着性を有し、剥離時に糊残りし難い凝集性を有することから好ましい。
【0055】
粘着剤層の粘着面を使用前に保護するため、剥離ライナーで覆うことができる。かかる剥離ライナーとしては、特に限定されないが、ポリエステルフィルム、とりわけポリエチレンテレフタレートフィルムなどのプラスチックフィルム、およびこれらの積層フィルムが挙げられる。種類が多く、貼付製剤として適切な厚さであり、材質が選択しやすい観点から、ポリエステルフィルム、とりわけポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0056】
加工の施しやすさや加工精度を考慮すれば、剥離ライナーは均一な厚みを有するものが好ましい。そのような厚さとしては特に限定されないが、貼付製剤の製造が容易であり、剥離ライナーのコスト面、貼付製剤の携帯性、操作性などの観点から、25μm〜200μmが好ましく、50μm〜150μmがより好ましい。また、剥離ライナーを粘着剤層からさらに容易に剥離可能とするために、剥離ライナーの粘着剤層側表面に表面剥離処理(シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、ワックス等による表面処理)を施してもよい。
【0057】
本発明の貼付製剤は、所望により、自体公知の包装容器で包装することができる。包装容器は、樹脂フィルム、金属箔およびそれらの積層フィルムによる包装容器が通常用いられる。
【0058】
本発明の貼付製剤、すなわち、粘着剤層に物理刺激が付与された直後には、粘着剤層に薬物の結晶が形成されないが、さらに保存すると薬物の結晶が形成される貼付製剤を製造する方法は特に限定されないが、以下の方法が好ましい。
【0059】
剥離ライナーを用意し、剥離ライナーの片面に粘着剤層を積層し、該粘着剤層上に支持体を積層して積層シートを得る。あるいは、支持体を用意し、支持体の片面に粘着剤層を積層し、該粘着剤層上に剥離ライナーを積層して積層シートを得る。すなわち、支持体/薬物を含有する粘着剤層/剥離ライナーの順に積層された積層シートを得る。積層の手法としては、特に限定されず、塗布、接着、融着、溶着などが挙げられる。粘着剤層の、剥離ライナーまたは支持体への積層手法としては、薬物、ポリマーおよび有機溶媒などを含む粘着剤層形成組成物を調製し、これを剥離ライナーまたは支持体上に塗布した後、有機溶媒を乾燥、除去させる工程が好ましい。
【0060】
得られた粘着剤層を含む積層シート切断工程により貼付製剤の形状に切断し、必要であれば包装容器に包装し、貼付製剤前駆物を得る。ここにいう貼付製剤前駆物は、積層シートから、切断加工により貼付製剤の形状および大きさに加工され、必要であれば包装容器に包装されているが、未だ加熱工程に付されていないものを意味する。この場合、得られた積層シートごと切断工程に付し、粘着剤層を切断して差し支えない。切断工程は、カッター、打ち抜き刃などの刃物での切断により実施することができる。
【0061】
得られた貼付製剤前駆物を加熱して貼付製剤を得る。上記の切断工程において粘着剤層には衝撃(物理刺激)が加わるので、粘着剤層中に薬物の結晶核が形成されるものと推察されるが、特定の温度、好ましくは薬物の融点以下の温度に粘着剤層を加熱することにより、かかる薬物の結晶核を溶解することができる。好ましい加熱温度および時間は、粘着剤層中の全ての薬物の結晶核が完全に溶解するのに十分な温度および時間である。このように加熱することで、結晶核が一旦粘着剤層中に完全に溶解すると、結晶は容易には形成されず、安定に結晶の形成を抑制することができる。
【0062】
貼付製剤前駆物の加熱は、貼付製剤前駆物を得た後、速やかに行うことが好ましい。貼付製剤前駆物を得てから加熱をするまでに、貼付製剤前駆物が長期に放置されると、貼付製剤前駆物を得る際の切断工程で受けた衝撃(物理刺激)により粘着剤層中に生じた薬物の結晶核がその放置の間に大きく成長して、加熱工程で溶解しきれないおそれがある。貼付製剤前駆物を得てから加熱するまでに許容される時間は、粘着剤層中の薬物濃度に依存する為に一概には言えないが、結晶が成長しても、結晶が目視では確認できない大きさにある時間内である。
【0063】
加熱温度は、40℃以上、100℃未満で、かつ、薬物の融点未満であることが必要であり、好ましくは40℃以上、91℃未満で、かつ、薬物の融点未満であり、さらに好ましくは54℃以上、84℃未満で、かつ、薬物の融点未満である。加熱温度が薬物の融点以上であると、薬物の劣化、包装容器の溶融の懸念がある。一方、加熱温度が低すぎると、その温度での飽和濃度に達せず、粘着剤層中に薬物の結晶が残る場合がある。また、加熱温度が薬物の融点未満であっても、加熱温度が100℃を超える場合は、粘着剤層の粘着成分の変性や包装容器を使用する場合に包装容器が溶融するなどの不具合を生じ得る恐れがある。
【0064】
加熱時間は、粘着剤層中の薬物を溶解させるのに十分な時間であれば特に限定されないが、例えば3〜120時間、好ましくは6〜72時間、より好ましくは9〜72時間である。加熱時間が長すぎると、薬物劣化により、薬物含量低下や、薬物劣化による酸化物、分解物などの不純物が生成し、粘着剤層の色彩変化が懸念される。一方、短すぎると、結晶核が溶解しきれず、結晶形成を防ぎきれないと考えられる。
【0065】
なお、加熱工程後に冷却工程を設けることができる。さらなる設備、工程を必要としない観点から、冷却は環境温度における自然冷却が好ましい。
【0066】
このようにして製造された貼付製剤は、出荷前まで保管される。この保管では、通常、温度5〜25℃、相対湿度10〜75%RHの環境下に貼付製剤が放置される。なお、薬物が水和物を形成しやすい薬物である場合、乾燥条件(相対湿度:10%RH±5%RH)下で貼付製剤を保管することが好ましい。なお、疑義を避けるために付言すると、「乾燥条件下」とは、貼付製剤が直接接する雰囲気の条件に言及しており、貼付製剤が直接接しない雰囲気、例えば、貼付製剤が包装体に収容された場合の包装体の外面が接する雰囲気に言及するものではない。
【0067】
なお、水和物を形成しやすい薬物とは、室温(25℃)、相対湿度0〜98%RHの領域において、水和物結晶を形成する性質を有する薬物をいう。水和物を形成しやすい薬物は、既に多数知られており、具体例としては、スコポラミン、クエン酸、テオフィリンおよびそれらの薬学的に許容される塩などがある。水和物を形成しやすい薬物か否かの判断は、以下の試験方法で知ることができる。
【0068】
[試験方法1]
第十六改正日本薬局方第一追補収載予定の改正案(2010年12月10日時点)に記載の、固体−水の間の相互作用:吸・脱着等温線と水分活性の測定に準じて、水蒸気自動吸着脱着装置を用いて、薬物の吸着等温線、および、脱着等温線を作成する。測定は、大気圧下、25℃において、0から98%RHへと、5〜10%間隔で相対湿度を増加させた後、同様にして98から0%RHへと、5〜10%間隔で相対湿度を減少させ、各雰囲気における平衡重量を測定する。作成した吸着等温線および脱着等温線について、
(i)吸着等温線において、測定前の薬物の重量に対する薬物の重量変化の最大値が1.0重量%以上であること、
(ii)少なくとも吸着等温線において変曲点が観察されること、および、
(iii)吸着等温線と脱着等温線とでヒステリシスが認められることを確認する。
【0069】
ヒステリシスが認められるとは、吸着等温線の変曲点と脱着等温線の変曲点の差が10%以上のことをいう。
【0070】
[試験方法2]
JIS K 7120−1987に従って、薬物のTG曲線を作成し、重量減少率を算出する。重量減少率とは、測定前の薬物の重量に対する、測定終了時の薬物の重量変化のことであり、この重量減少率が1.0重量%以上であるか確認する。
【0071】
[試験方法3]
第十五改正日本薬局方、一般試験法、2.52 熱分析法 第1法に準じて、薬物のDSC曲線を作成する。測定時の昇温速度は、試験方法2と同じ速度で測定する。試験方法2で作成したTG曲線における変曲点の温度において、DSC曲線に吸熱ピーク(下に凸のピーク)が観察されるか確認する。
【0072】
上記試験方法1の(i)〜(iii)、試験方法2および試験方法3の全てを満たす薬物は、本明細書にいう水和物を形成しやすい薬物と判断される。
【0073】
本明細書にいう、水和物を形成しにくい薬物とは、上記の水和物を形成しやすい薬物以外の薬物を意味する。水和物を形成しにくい薬物の具体例は、ミコナゾール、硝酸イソソルビド、イブプロフェン、ジクロフェナク、エダラボン、ツロブテロール、ドネペジルおよびそれらの薬学的に許容される塩が挙げられる。
【0074】
薬物が水和物を形成しにくい薬物の場合、乾燥雰囲気下で製剤を保管しなくても、薬物の結晶形成を抑制することができる点で、本発明をより有利に実施することができる。すなわち、水和物を形成しにくい薬物を用いると、貼付製剤前駆物の加熱工程にて粘着剤層中に溶解した薬物の結晶形成を、製造後の貼付製剤を高湿度あるいは低湿度条件で保管するかに関係なく抑制することができる。一方、水和物を形成しやすい薬物を用いると、製造後の貼付製剤を高湿度条件下で保管した場合に粘着剤層中の薬物が水和物を形成することがあり、貼付製剤前駆物の加熱工程にて薬物の結晶を溶解しても、薬物の水和物結晶が形成される可能性がある。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下の文中で「部」および「%」とあるのは、特記しない限り、それぞれ「重量部」および「重量%」を意味する。
【0076】
1.ポリマー溶液の調製
(1)アクリル系ポリマー溶液の調製
不活性ガス雰囲気下、アクリル酸2−エチルへキシル75部、N−ビニル−2−ピロリドン22部、アクリル酸3部およびアゾビスイソブチロニトリル0.2部を酢酸エチル中に加え、60℃にて溶液重合させてポリマー溶液(ポリマー固形分:28%)を得た。
【0077】
(2)ポリイソブチレン系ポリマー溶液の調製
高分子量ポリイソブチレン(粘度平均分子量4000000、Oppanol(R) B200、BASF社製)を固形分として22.0部、低分子量ポリイソブチレン(粘度平均分子量55000、Oppanol(R) B12、BASF社製)を固形分として38.0部、および脂環族飽和炭化水素樹脂(軟化点140℃、ARKON(R) P−140、荒川化学工業社製)40.0部をトルエンに溶解して、ポリイソブチレン系ポリマー溶液(ポリマー固形分:21%)を得た。
【0078】
2.実施例1〜19、比較例1〜7および参考例1〜2
表1、2に示した量で原料を配合して粘着剤層形成用組成物を調製し、剥離ライナーとしてのポリエチレンテレフタレート(以後、PETと記載する)フィルム(厚さ75μm)の片面に、乾燥後の厚さが200μmになるように塗布し、乾燥して粘着剤層を形成した。その粘着剤層に、支持体としてのPETフィルム(2μm厚さ)−PET不織布(目付け量12g/m)積層体の不織布面を貼り合わせた後、70℃で48時間エージング処理(粘着剤層の架橋処理)を行い、積層シートを得た。エージング処理後の積層シートを、貼付製剤の形状に切断加工後、酸素濃度3%以下の雰囲気で包装容器に包装し、貼付製剤前駆物を得た。ただし、実施例7〜19、比較例5〜7は、支持体としてPETフィルム(25μm厚さ)を用い、乾燥後の粘着剤層の厚さは100μmとし、エージング処理(粘着剤層の架橋処理)は省略した。これらの変更は、薬物の結晶の形成の有無には影響がない。
【0079】
得られた貼付製剤前駆物を、表1、2に示す加熱条件の温度および時間で加熱した後、環境温度まで自然冷却して、実施例1〜19、比較例1〜7および参考例1、2の貼付製剤を得た。なお、各薬物の融点、及び結晶化ピーク(表中、「Tc」と表記)の有無は、表1、2に示した。
【0080】
3.参考例3
実施例3において、内面を剥離処理した貼付製剤の形状をした容器に、粘着剤層形成用組成物を乾燥後の粘着剤層の厚さが200μmになるように流し込んだ後、乾燥させて、粘着剤層を形成させることで、切断工程を省略したこと、および加熱工程を省略したこと以外は実施例3と同様にして、参考例3の貼付製剤を得た。
【0081】
表1、2中の略称は以下の意味である。
アクリル:アクリル系ポリマー
PIB:ポリイソブチレン系ポリマー
SIS:スチレン−イソプレン−スチレンゴム(クレイトン D1161JP、クレイトンポリマージャパン(株))
IPM:ミリスチン酸イソプロピル(CRODAMOL IPM、クローダ ジャパン(株))
ODO:オクチルドデカノール(リソノールSP、高級アルコール工業(株))
ココナードRK:カプリル酸トリグリセライド(ココナードRK、花王(株))
【0082】
<試験例>
4.結晶形成の観察
作製直後の包装容器に包装した貼付製剤を5℃または25℃の恒温器で6ヶ月保管した。6ヶ月の保管期間中に、恒温器から貼付製剤を取り出し、目視および光学顕微鏡観察(倍率:100倍)で、粘着剤層の粘着面およびその内部の薬物の結晶の形成を観察した。目視および光学顕微鏡観察(倍率100倍)により粘着剤層の粘着面およびその内部に薬物の結晶の形成が認められないものを○、目視では粘着剤層の粘着面およびその内部に薬物の結晶の形成は認められなかったが、光学顕微鏡観察(倍率:100倍)ではわずかな結晶の形成が認められたものを△、目視で明らかに結晶の形成が認められたものを×と評価した。
【0083】
5.薬物安定性の評価
実施例1〜6、比較例1〜3、および参考例1〜2の貼付製剤について、作製直後の貼付製剤中の薬物をメタノールで抽出し、高速液体クロマトグラフ法(以下、HPLCという)で分析して、薬物の不純物生成率(HPLCのチャートにおいて、薬物に相当するピーク面積に対する、薬物の不純物に相当するピーク面積の総和の比率)を評価した。不純物生成率が0.5%以上のものを、×、0.5%未満のものを、○、と評価した。
【0084】
6.薬物放出性の評価
実施例1〜6、比較例1〜3、および参考例1〜2の貼付製剤について、包装容器に包装した貼付製剤を25℃で6ヶ月間保管した後の貼付製剤の薬物放出性を評価した。貼付製剤の放出試験を、U.S. Pharmacopeia 26, <724>Drug Release, Transdermal Delivery Systems-General Drug Release Standardsに従って実施し、試験開始0.25、0.5、4、24時間後の放出液を採取した。採取した放出液は、メンブレンフィルターでろ過し、HPLCにより定量し、放出された薬物の量を求めた。薬物放出前の貼付製剤に含まれる薬物の量(重量)に対する、所定時間後に放出した薬物の量(重量)から薬物放出率を算出した。
【0085】
25℃で6ヶ月間保管した貼付製剤の各所定時間後の薬物放出率と、作製直後の貼付製剤の各所定時間後の薬物放出率を比較して、変化していないものを○。放出率変化が生じていれば×と評価した。なお、ここにいう「変化していない」とは、25℃で6ヶ月保管した貼付製剤の薬物放出率と、作製直後の貼付製剤とを比較した時、0.25〜24時間に測定した全ての薬物放出率の差が3%以内であることをいう。
【0086】
7.色彩の変化
実施例1〜6、比較例1〜3、および参考例1〜2の貼付製剤について、作製直後の貼付製剤の色彩値を、色彩色差計(ミノルタ製 型番CR−400)を用いて、付属の説明書に従い、CIE1976(L*a*b*)表色系にて測定した。
【0087】
比較例1の色彩値を基準色として、実施例1〜6、比較例2〜3、参考例1〜2の色彩の変化ΔEを後に示す式(I)を用いて算出した。
式中の(L*1,a*1,b*1)は、基準色の色彩値であり、(L*2,a*2,b*2)は評価対象の色彩値である。ΔEの値が、2未満のものを○、2以上のものを×とした。
【0088】
ΔE={(L*2−L*1) +(a*2−a*1) +(b*2−b*1) }1/2
・・・(I)
【0089】
8.粘着剤層の飽和濃度の測定
薬物濃度を1重量%刻みで変化させた貼付製剤を用意し、各貼付製剤の粘着剤層上のライナーを剥離し、薬物を静置した後、ライナーを再度粘着剤層に積層したものを、25℃の恒温器で6ヶ月間保存した。6ヶ月の保存期間中、1ヶ月毎に恒温器から貼付製剤を取り出し、目視および光学顕微鏡観察(倍率500倍)で、静置した薬物の大きさの変化を観察した。薬物の大きさが変化しない最大濃度を薬物の粘着剤層の飽和濃度とした。
なお、飽和濃度が1%未満と判断された場合(薬物濃度1重量%の貼付製剤でも静置した薬物の大きさが大きくなる場合)は、薬物濃度0〜1重量%の範囲で、0.2重量%刻みで変化させた貼付製剤を用意し、再度、上述と同様にして、飽和濃度を求めた。
【0090】
9.物理刺激による粘着剤層の薬物の結晶の形成
貼付製剤の粘着剤層に、カッターを突き刺すことにより、物理刺激を与えた。これらを、包装容器に包装し、25℃、60%RHで6ヶ月保存した。物理刺激が付与される前、物理刺激が付与された直後(物理刺激を与えてから0時間以上、24時間未満内)、および物理刺激が付与された直後以降(物理刺激を与えてから24時間以上、6ヶ月未満内)に、粘着剤層に薬物の結晶が形成されたか否か、目視および光学顕微鏡により粘着剤層の粘着面およびその内部を観察した。目視および光学顕微鏡(倍率500倍)により結晶が形成されていたものをY、目視および光学顕微鏡(倍率500倍)により結晶が形成されていなかったものをN、目視では結晶が認められないが光学顕微鏡(500倍)では結晶が認められたものをSとして評価した。
【0091】
以上の結果を表3に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
試験結果から、以下の考察を得た。
同一処方で作製された貼付製剤前駆物を経て製造された比較例3と実施例3を対比すると、貼付製剤前駆物を60℃で3時間加熱して得られた比較例3は結晶が析出し、貼付製剤前駆物を60℃で12時間加熱して得られた実施例3は結晶が析出していない。また、比較例3と実施例3と同じ貼付製剤前駆物を60℃で200時間加熱して製造された参考例1は、結晶は析出していないが、薬物安定性が低く、色彩の変化も大きい。よって、貼付製剤前駆物の加熱時間が短すぎると、製造工程において形成された結晶核が溶解しきれず、製造後の貼付製剤の保管中での結晶形成が防ぎきれないことが示された。また、貼付製剤前駆物の加熱時間が長すぎると、製造後の貼付製剤の保管中に結晶は形成されなかったが、薬物劣化が生じて、薬物安定性、外観に支障が生じることが示された。また、貼付製剤前駆物の加熱温度を30℃にして200時間加熱して得られた比較例2では、製造後の貼付製剤の保管中に結晶が析出した。また、貼付製剤前駆物を100℃で3時間加熱して得られた参考例2では、製造後の貼付製剤の保管中に結晶は形成されなかったが、薬物劣化が生じて、薬物安定性、外観に支障が生じることが示された。したがって、貼付製剤前駆物の加熱温度が低いと、製造工程で生成した薬物の結晶を溶解しきれないこと、及び、貼付製剤前駆物の加熱温度が高いと、貼付製剤中の薬物の劣化に繋がることが明らかとなった。
【0096】
実施例11は、物理刺激が粘着剤層に付与されると、物理刺激が付与された直後は、薬物の結晶は形成されなかったが、さらに保存すると薬物の結晶が形成された。一方、比較例5は物理刺激が付与されても、薬物の結晶が形成されなかった。比較例5は実施例11と比較して薬物濃度が低いため十分な薬物の皮膚透過性が得られないものである。また、比較例6は、物理刺激が付与されてから24時間以内に粘着剤層に薬物の結晶が形成された。このため、比較例6は薬物の結晶が形成されやすく、実際に患者が貼付製剤を使用する際、皮膚へ貼付する前に、粘着剤層表面を結晶が覆い、接着面積が減少することにより、皮膚への接着性が低下することが予想される。さらに、比較例7は、物理刺激を与える前から結晶が析出しており、比較例6と同様、皮膚への接着性が低下しており、使用に支障をきたすものである。
【0097】
実施例18は、物理刺激を与える前、物理刺激を与えた24時間以内に、わずかに薬物の結晶が認められるが、皮膚への接着性には影響ない程度の結晶であり、使用に支障はないものである。わずかに結晶が認められるとは、目視では結晶が認められないが、光学顕微鏡(500倍)では結晶が認められたことである。また、物理刺激を与えて、24時間後、6ヶ月以内に目視で薬物の結晶が認められていることから、薬物の十分な皮膚透過性が得られるものである。
【0098】
また、実施例11〜実施例19の結果から、貼付製剤に含まれるポリマー、液状成分、薬物によらず、粘着剤層の薬物濃度が飽和濃度に対して100〜300%の貼付製剤は、粘着剤層に物理刺激が付与された直後には結晶は析出せず、6ヶ月以内には結晶が析出することが分かる。
【0099】
また、実施例3は、粘着剤層に物理刺激が付与されたことで、粘着剤層に薬物の結晶が形成されたが、比較例4は、薬物の結晶が形成されなかった。しかし、粘着剤層の切断加工を経ていない参考例3は、物理刺激が付与される前に薬物の結晶は形成されていなかったが、物理刺激が粘着剤層に付与された後に保存すると、薬物の結晶が形成された。なお、実施例3および参考例3において、保存開始後24時間の時点では粘着剤層に薬物の結晶の形成は認められなかった。これらの結果は、物理刺激を付与されても結晶が析出しなかった比較例4は薬物濃度が低く、薬物の皮膚透過性が低いものであり、物理刺激が付与されて結晶が析出した実施例3は薬物の十分な皮膚透過性が得られるものであることを示している。
【0100】
製造後の貼付製剤の保管中の湿度が結晶の形成に及ぼす影響を見るため、実施例12の貼付製剤について、さらに高湿および低湿での保管試験を実施した。高湿保管試験は、作製直後の貼付製剤を包装容器に包装せずにそのまま25℃の恒温器(高湿(湿度:75%RH))で1ヶ月保管し、結晶形成の観察・評価を上記「4.結晶形成の観察」と同様にして行った。また、低湿保管試験は、作製直後の貼付製剤を包装容器に包装せずにそのまま25℃の恒温器(低湿(湿度:10%RH))で1ヶ月保管し、結晶形成の観察・評価を上記「4.結晶形成の観察」のそれと同様にして行った。その後、粘着剤層に、カッターを突き刺すことにより物理刺激を付与し、物理刺激が付与される前と同じ条件で6ヶ月保存した。そして、物理刺激が付与される前、物理刺激が付与された直後(物理刺激を与えてから0時間以上、24時間未満内)、および物理刺激が付与された直後以降(物理刺激を与えてから24時間以上、6ヶ月未満内)に、光学顕微鏡(倍率500倍)により粘着剤層の粘着面およびその内部を観察した。結晶が形成されていたものをY、結晶が形成されていなかったものをNとして評価した。結果を表4に示す。なお、硝酸イソソルビドは水和物を形成し難い薬物である。
【0101】
【表4】

【0102】
表4から、水和物を形成し難い硝酸イソソルビドを含む貼付製剤(実施例12)では、製造後の貼付製剤の保管湿度が高くても、十分な皮膚透過性が得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物を含有する粘着剤層を、支持体の片面に備えた貼付製剤であって、
粘着剤層に物理刺激が付与された直後には、粘着剤層に薬物の結晶が形成されないが、さらに保存すると薬物の結晶が形成されることを特徴とする、貼付製剤。
【請求項2】
薬物を含有する粘着剤層が、薬物が粘着剤層に溶解したものである、請求項1記載の貼付製剤。
【請求項3】
物理刺激が付与された後、25℃以下で保存した場合に、物理刺激が付与されてから24時間以上、6ヶ月以内に薬物の結晶が形成される、請求項1記載の貼付製剤。
【請求項4】
薬物を含有する粘着剤層を薬物の融点未満の温度に加熱する工程を有する、請求項1に記載の貼付製剤の製造方法。

【公開番号】特開2011−225536(P2011−225536A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61515(P2011−61515)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】