説明

貼付製剤の製造方法

【課題】乳酸による粘着剤層の物性への影響を最小化し、粘着剤層の物性に優れる貼付製剤を得ることができる貼付製剤の製造方法の提供。
【解決手段】(a):薬物(但し、2−(4−エチル−1−ピペラジニル)−4−(4−フルオロフェニル)−5,6,7,8,9,10−ヘキサヒドロキシクロオクタ[b]ピリジン及びその生理学的に許容される酸付加塩を除く)、アクリル系ポリマー及び該アクリル系ポリマーと相溶する有機液状成分を含有し、乳酸を含有しない粘着剤層を形成する工程と、(b):前記粘着剤層中に乳酸を含有させる工程とを有する、貼付製剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘着剤層に薬物(但し、2−(4−エチル−1−ピペラジニル)−4−(4−フルオロフェニル)−5,6,7,8,9,10−ヘキサヒドロシクロオクタ[b]ピリジン及びその生理学的に許容される塩を除く。)及び乳酸を含有する貼付製剤の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薬物の経皮投与は、皮膚面の毛細血管から薬物を直接吸収することが出来るため、肝臓での初回通過効果を回避することができる。また、経皮投与は、薬物が持続的に放出するため、短時間に大量の薬物が吸収されることによる副作用を軽減することができる。このため、経皮投与は薬物投与の有効な手段のひとつである。
薬物の経皮吸収製剤は、すでに知られている(特許文献1)。特許文献1はまた、乳酸が薬物の経皮吸収性を高めることを開示する。
【0003】
一方、特許文献2には、乳酸を含有する貼付製剤が記載され、乳酸が薬物の経皮吸収性を高めることが記載されている。しかしながら、特許文献1、2のいずれにおいても、乳酸の粘着剤層の物性への影響については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/142295号パンフレット
【特許文献2】国際公開第96/16642号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが検討する過程において、乳酸の粘着剤層の物性に与える影響は少なくなく、対策が図られるべき課題であることがわかった。従って、本発明の課題は、乳酸の粘着剤層の物性に与える影響を最小化して、粘着剤層の物性に優れる貼付製剤を得ることができる貼付製剤の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねたところ、薬物を含有するが、乳酸を含有しない粘着剤層を形成後、粘着剤層の粘着面に乳酸を付すことで粘着剤層に乳酸を含有させることができ、そのようにして得られる製剤においても、乳酸による薬物の経皮吸収促進効果が十分に得られることを知見し、該知見に基づいてさらに研究を進めることで、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 粘着剤層に、薬物(但し、2−(4−エチル−1−ピペラジニル)−4−(4−フルオロフェニル)−5,6,7,8,9,10−ヘキサヒドロキシクロオクタ[b]ピリジン及びその生理学的に許容される酸付加塩を除く。)及び乳酸を含有する貼付製剤の製造方法であって、
(a):薬物、アクリル系ポリマーおよび該アクリル系ポリマーと相溶する有機液状成分を含有し、乳酸を含有しない粘着剤層を形成する工程、および
(b):前記粘着剤層中に乳酸を含有させる工程
を有することを特徴とする、貼付製剤の製造方法。
[2] 工程(a)において、架橋された粘着剤層を形成する、上記[1]記載の方法。
[3] 工程(a)において、支持体または剥離ライナーの片面に粘着剤層を形成する、上記[1]または[2]記載の方法。
[4] 工程(b)において、有機溶媒に乳酸を溶解させた乳酸溶液を粘着剤層に含浸させることによって粘着剤層中に乳酸を含有させる、上記[1]〜[3]のいずれか一つに記載の方法。
[5] 乳酸溶液を粘着剤層の表面に塗布し、5〜40℃の温度下に粘着剤層を所定時間放置することにより、乳酸溶液を粘着剤層に含浸させる、上記[4]記載の方法。
[6] 工程(b)の後に、(c):粘着剤層中に含まれる乳酸溶液由来の有機溶媒を蒸発させる工程をさらに有する、上記[4]または[5]記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、乳酸を含有しない粘着剤層に乳酸を後から含有させるため、粘着剤層の物性に対する乳酸の影響を低減することができる。特に、架橋された粘着剤層中に薬物及び乳酸を含有させた貼付製剤を製造する場合、乳酸による粘着剤層の架橋反応への悪影響を抑制できるため、乳酸の薬物に対する経皮吸収促進効果を有しつつ、皮膚に貼付した後の保持力(すなわち、貼付後の粘着剤層の凝集力)が向上した貼付製剤を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る薬物は、2−(4−エチル−1−ピペラジニル)−4−(4−フルオロフェニル)−5,6,7,8,9,10−ヘキサヒドロシクロオクタ[b]ピリジン及びその生理学的に許容される塩が除かれる以外は特に限定されず、ヒト等の哺乳動物にその皮膚を通して投与し得る、すなわち経皮吸収可能な薬物が好ましい。そのような薬物としては、具体的には、例えば、全身性麻酔薬、催眠・鎮静薬、抗癲癇薬、解熱鎮痛消炎薬、鎮暈薬、精神神経用薬、中枢神経薬、抗痴呆薬、局所麻酔薬、骨格筋弛緩薬、自律神経用薬、鎮痙薬、抗パーキンソン薬、抗ヒスタミン薬、強心薬、不整脈用薬、利尿薬、血圧降下薬、血管収縮薬、冠血管拡張薬、末梢血管拡張薬、動脈硬化用薬、循環器用薬、呼吸促進薬、鎮咳去痰薬、ホルモン薬、化膿性疾患用外用薬、鎮痛・鎮痒・収斂・消炎用薬、寄生性皮膚疾患用薬、止血用薬、痛風治療用薬、糖尿病用薬、抗悪性腫瘍用薬、抗生物質、化学療法薬、麻薬、禁煙補助薬等が挙げられる。
【0010】
また、本発明に係る薬物は、フリー塩基である薬物だけでなく、その生理学的に許容される塩も含む。そのような塩は特に限定されないが、たとえば、ギ酸塩、酢酸塩、乳酸塩、アジピン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩等が挙げられ、無機酸の付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等が例示できる。また、本発明において、薬物は、溶媒和物であってもよく、水和物及び非水和物であってもよい。
【0011】
本発明は特に塩基性基を有する塩基性薬物を含有する貼付製剤の製造に有利である。塩基性基を有する塩基性薬物としては、例えば、アルコール性ヒドロキシル基、チオール基、フェノール性ヒドロキシル基、アミン基(例えば、1級(-NH2)、2級(-NRH)、3級(-NRR'))群より選ばれる一または二以上の官能基を有する薬物が挙げられる。すなわち、粘着剤層中に塩基性薬物と酸性添加剤である乳酸とが共存すると、それらが反応して塩が生成し、薬物の経皮吸収性が低下する可能性があるが、本発明では、後述のとおり、薬物を含有する粘着剤層を形成した後、該粘着剤層に乳酸を含有させるため、そのような塩が生成する機会を低減することができる。
【0012】
また、本発明は特に固体薬物を含有する貼付製剤の製造に有利である。固体薬物は、室温(25℃)で固体である薬物、すなわち、融点が25℃より高い薬物を意味する。なお、ここでいう融点は、示差走査熱量測定(DSC)による値である。薬物を含有する粘着剤層は、溶媒に粘着性ポリマー、薬物等を混合した混合液を塗工し、その塗膜を乾燥して形成するのが一般的であるが、固体薬物は塗膜の乾燥工程で結晶核を形成する可能性がある。しかし、このような結晶核が形成されても、その粘着剤層に後述の乳酸溶液を含有させることで、かかる結晶核を溶解することが可能となり、薬物の経皮吸収性を維持することができる。
【0013】
本発明の製造方法は、以下の工程(a)及び(b)を少なくとも含み、それによって得られる貼付製剤は、粘着剤層を有し、その中に薬物、乳酸及び有機液状成分を含有するものである。以下、各工程を詳述する。
【0014】
[工程(a)]
本発明の製造方法では、まず、薬物、アクリル系ポリマー等の粘着剤及び有機液状成分を含有する粘着剤層を形成する。ここで粘着剤層には乳酸は含有させない。
【0015】
なお、最終的な貼付製剤の形態を考慮して、粘着剤層は支持体の片面または剥離ライナーの片面に形成するのが好ましい。以下、支持体の片面または剥離ライナーの片面に粘着剤層を形成したものを「粘着剤シート」とも呼ぶ。
【0016】
粘着剤シートは、支持体、粘着剤層及び剥離ライナーがこの順に積層された積層体を作製後、該積層体から、剥離ライナーを除去するか、或いは、支持体を除去することで製造するのが好ましく、剥離ライナーの除去作業が容易であることから、積層体から剥離ライナーを除去することで製造するのが特に好ましい。なお、以下の粘着剤シートにおける粘着剤層中の各成分の含有量は、乳酸を含有する粘着剤層、すなわち、貼付製剤の粘着剤層を想定し、かかる粘着剤層の総重量に対する割合(重量%)で示した。
【0017】
粘着剤層に含有させる薬物の量は、投与される患者の年齢、症状等により設定する必要があるため、特に限定されるものではないが、疾患、状態または障害の治療において所望の結果、例えば所望の治療結果をもたらすのに十分な、本明細書中で有効量とも呼ばれる量で粘着剤層中に存在することができる。有効量の薬物とは、例えば非毒性ではあるが、しかし特定の時間にわたって選択された効果をもたらすのに十分な量の薬物を意味する。その有効量は、貼付製剤の面積にもよるが、粘着剤層の総重量に対して好ましくは約0.1重量%以上、より好ましくは約0.5重量%以上、特に好ましくは約0.8重量%以上である。また、過剰量は粘着剤層の物性に悪影響を与える恐れがあるため、その上限は粘着剤層の総重量に対して好ましくは約50重量%以下、より好ましくは約40重量%以下、特に好ましくは約30重量%以下である。
【0018】
粘着剤層中の粘着剤にはアクリル系ポリマーを用いる。アクリル系ポリマーは、粘着剤層の総重量に対して好ましくは30〜80重量%、より好ましくは40〜70重量%含有させる。
【0019】
アクリル系ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単位を主たる構成単位とするアクリル系ポリマーが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たる構成単位とするアクリル系ポリマーとしては、例えば、架橋処理のしやすさ、人間の皮膚への貼接着、薬物の溶解性等の観点から(メタ)アクリル酸アルキルエステル(第1モノマー成分)と、架橋反応に関与できる官能基を有するビニルモノマー(第2モノマー成分)との共重合体か、或いは、これら以外の他のモノマー(第3モノマー成分)がさらに共重合した共重合体が好ましい。
【0020】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(第1モノマー成分)の例としては、アルキル基が炭素数1〜18の直鎖状、分岐鎖状又は環状アルキル基(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、シクロヘキシル、3−メチルペンチル、n−ヘプチル、シクロヘプチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、シクロオクチル、n−ノニル、シクロノニル、n−デシル、シクロデシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル等)からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステル等が挙げられ、好ましくはアルキル基が炭素数4〜18の直鎖状、分岐鎖状又は環状アルキル基(例えば、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、シクロヘキシル、3−メチルペンチル、n−ヘプチル、シクロヘプチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、シクロオクチル、n−ノニル、シクロノニル、n−デシル、シクロデシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル等)からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルである。特に常温での粘着性を与えるために、重合体のガラス転移温度を低下させるモノマー成分の使用が好適であることから、アルキル基が炭素数4〜8の直鎖状、分岐鎖状又は環状アルキル基(例えば、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、シクロヘキシル、3−メチルペンチル、n−ヘプチル、シクロヘプチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、シクロオクチル等)からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、とりわけ好ましくは、アルキル基がn−ブチル、2−エチルヘキシル又はシクロヘキシルからなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルである。
【0021】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(第1モノマー成分)の特に好ましい具体例としては、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸シクロへキシルが挙がられ、中でも、アクリル酸2−エチルへキシルが最も好ましい。これら(メタ)アクリル酸アルキルエステル(第1モノマー成分)は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
一方、上記の架橋反応に関与できる官能基を有するビニルモノマー(第2モノマー成分)において、架橋反応に関与できる官能基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ビニル基等が挙げられ、ヒドロキシ基及びカルボキシ基が好ましい。当該モノマー(第2モノマー成分)の具体例としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルエステル、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸等が挙げられる。これらのうち、入手の容易性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ヒドロキシエチルエステルが好ましく、アクリル酸が最も好ましい。これらのモノマー(第2モノマー成分)は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
また、上記他のモノマー(第3モノマー成分)は、主として、粘着剤層の凝集力調整や薬物の溶解性・放出性の調整等のために使用される。当該モノマー(第3モノマー成分)としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等のビニルアミド類;(メタ)アクリル酸メトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルエステル等の(メタ)アクリル酸アルコキシエステル;ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、α−ヒドロキシメチルアクリレート等のヒドロキシ基含有モノマー(なお、かかるヒドロキシ基含有モノマーは第3モノマー成分としての使用なので架橋反応には関与しない。);(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のアミド基を有する(メタ)アクリル酸誘導体;(メタ)アクリル酸アミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチルエステル等の(メタ)アクリル酸アミノアルキルエステル;(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシジエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコールエステル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキレングリコールエステル;(メタ)アクリロニトリル;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸、アクリルアミドメチルスルホン酸等のスルホ基を有するモノマー;ビニルピペリドン、ビニルピリミジン、ビニルピペラジン、ビニルピロール、ビニルイミダゾール、ビニルオキサゾール、ビニルモルホリン等のビニル基含有モノマー等が挙げられる。これらの中でも、ビニルエステル類、ビニルアミド類が好ましく、ビニルエステル類は酢酸ビニルが好ましく、ビニルアミド類はN−ビニル−2−ピロリドンが好ましい。これらのモノマー(第3モノマー成分)は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
当該アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(第1モノマー成分)と、架橋反応に関与できる官能基を有するビニルモノマー(第2モノマー成分)との共重合体である場合、その共重合比(第1モノマー成分/第2モノマー成分)は85〜99重量%/1〜15重量%が好ましく、90〜99重量%/1〜10重量%がより好ましい。
【0025】
また、当該アクリル系ポリマーが、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(第1モノマー成分)と、架橋反応に関与できる官能基を有するビニルモノマー(第2モノマー成分)と、これら以外の他のモノマー(第3モノマー成分)との共重合体である場合、その共重合比(第1モノマー成分/第2モノマー成分/第3モノマー成分)は40〜94重量%/1〜15重量%/5〜50重量%が好ましく、50〜89重量%/1〜10重量%/10〜40重量%がより好ましい。
【0026】
重合反応は、自体公知の方法で行えばよく特に限定されないが、例えば、上記のモノマーを、溶媒(例えば、酢酸エチル等)中で、重合開始剤(例えば、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル等)の存在下に50〜70℃で5〜48時間反応させる方法が挙げられる。
【0027】
本発明における特に好ましいアクリル系ポリマーは、アクリル酸2−エチルへキシルエステル/アクリル酸/N−ビニル−2−ピロリドン共重合体、アクリル酸2−エチルへキシルエステル/アクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル/酢酸ビニル共重合体、アクリル酸2−エチルへキシルエステル/アクリル酸共重合体等であり、より好ましくは、アクリル酸2−エチルへキシルエステル/アクリル酸/N−ビニル−2−ピロリドン共重合体である。
【0028】
また、本発明におけるアクリル系ポリマーのガラス転移温度は、共重合組成によっても異なるが、貼付製剤としての粘着性の観点から、通常−100℃〜−10℃であることが好ましく、より好ましくは−90℃〜−20℃である。
【0029】
粘着剤層には、有機液状成分を含有させる。かかる有機液状成分は、それ自体室温(25℃)で液状であり、可塑化作用を示し、上記のアクリル系ポリマーと相溶するものであれば、特に制限なく使用できる。有機液状成分は粘着剤層を柔軟化させ、貼付製剤の皮膚への物理的刺激を軽減させる。有機液状成分の具体例としては、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸エチル、パルミチン酸イソプロピル、オレイン酸エチル、ラウリン酸イソステアリル、ミリスチン酸イソトリデシル、パルミチン酸オクチル等の炭素数8〜18(好ましくは12〜16)の脂肪酸と炭素数が1〜18の1価アルコールとの脂肪酸エステル(以下、「C8〜18(12〜16)−C1〜18脂肪酸エステル」とも略称する。);炭素数8〜9の脂肪酸〔例えば、カプリル酸(オクタン酸、C8)、ペラルゴン酸(ノナン酸、C9)等〕;脂肪酸グリセリンエステル;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;オリーブ油、ヒマシ油、スクアレン等の油脂類;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルラウリルアミド、ドデシルピロリドン、イソソルビトール、オレイルアルコール、ラウリン酸、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸ナトリウム、ステアリン酸ポリオキシル、ラウリン酸デカグリセリル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレエート、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、グリセロールモノオレエート、ショ糖脂肪酸エステル、トコフェノールなどの液状の界面活性剤;炭化水素類;フタル酸エステル等の従来より公知の可塑剤;その他、エトキシ化ステアリルアルコール、グリセリン等が挙げられる。これらの有機液状成分は1種を単独で又は2種以上の組み合わせで使用される。これらの中でも、C8〜18(12〜16)−C1〜18脂肪酸エステルが好ましく、ミリスチン酸イソプロピルが特に好ましい。
【0030】
粘着剤層中の有機液状成分の含有量は、粘着剤層の総重量に対して5〜60重量%が好ましく、より好ましくは10〜50重量%である。含有量が5重量%未満のとき、粘着剤層の可塑化が不充分なために良好なソフト感が得られなかったり、皮膚刺激性の低減効果が十分に得られない恐れがあり、逆に含有量が60重量%を超えると、粘着剤が有する凝集力によっても有機液状成分を粘着剤中に保持できず、粘着剤層表面にブルーミングして粘着力が弱くなり過ぎて、貼付使用中に皮膚面から製剤が脱落する恐れがある。
【0031】
所望により、粘着剤層に、紫外線照射や電子線照射等の放射線照射による物理的架橋を施してもよいし、各種架橋剤を用いた化学的架橋処理を施してもよい。上記のアクリル系ポリマーと有機液状成分とが配合された粘着剤層を架橋させた、いわゆるゲル状態の粘着剤層は、皮膚にソフト感を与えつつ適度な接着性と凝集力を有するので好ましい。粘着剤シートの粘着剤層に架橋処理を施すための架橋剤は特に制限されないが、例えばイソシアネート系化合物、有機金属化合物(例えばジルコニウム及び亜鉛アラニアネート、酢酸亜鉛、グリシンアンモニウム亜鉛等)、金属アルコラート(例えばテトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムsec−ブチレート等)、金属キレート化合物(例えばジプロポキシビス(アセチルアセトナート)チタン、テトラオクチレングリコールチタン、アルミニウムイソプロピレート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)等)等が挙げられる。とりわけ、粘着剤シートの粘着剤層がイソシアネート系化合物を含むことで、貼付製剤をヒト皮膚に貼付した状態で、粘着剤層の凝集力の低下が軽減され、粘着剤層を剥離する際の凝集破壊が生じにくくなる観点からイソシアネート系化合物が好ましい。本発明方法では、架橋反応に悪影響を与える乳酸が粘着剤層中に存在しないため、十分に高い架橋構造を形成することができ、保持力の高い貼付製剤を製造することができる。なお、イソシアネート系化合物により架橋された粘着剤層は特に高い保持力(皮膚に貼付した後の凝集力)を示す。
【0032】
イソシアネート系化合物としては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加トルエンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香環含有ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート等が挙げられる。また、上記イソシアネート系化合物は単独で用いても、他の架橋剤と組み合わせて用いてもよい。
【0033】
架橋処理には、上記架橋剤を1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。架橋剤の配合量は、架橋剤や粘着剤(アクリル系ポリマー)の種類によっても異なるが、一般的には、貼付製剤の粘着剤層の総重量に対して0.01〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.05〜5重量%、特に好ましくは0.1〜0.3重量%である。0.01重量%より少ないと架橋点が少なすぎるために粘着剤層に充分な凝集力を付与できず、製剤を皮膚から剥離する際に凝集破壊に起因する糊残りや強い皮膚刺激が発現するおそれがある。10重量%より多いと、凝集力は大きいが充分な皮膚接着力が得られなくなる場合がある。また、未反応の架橋剤の残留によって皮膚刺激がおこるおそれがある。また、乳酸を含有しない粘着剤層を形成した後、粘着剤層に乳酸を含有させることによる、粘着剤層の凝集力を高める効果がより顕著になることから、架橋剤の配合量は、粘着剤層中のアクリル系ポリマー100重量部に対して0.03〜0.6重量部が好ましく、より好ましくは0.05〜0.5重量部、さらに一層好ましくは0.15〜0.5重量部、最も好ましくは0.15〜0.35重量部である。化学的架橋処理は、例えば、架橋剤の粘着剤層への添加後、架橋反応温度以上に加熱して保管する工程、すなわち、熟成工程を経ることにより実施することができ、このときの加熱温度は、架橋剤の種類に応じて適宜選択されるが、60〜90℃が好ましく、より好ましくは60〜80℃である。加熱時間は、12〜96時間が好ましく、より好ましくは24〜72時間である。
【0034】
粘着剤層は、支持体の片面に形成されてもよいし、あるいは、剥離ライナーの片面に形成されてもよい。粘着剤層は、薬物、アクリル系ポリマー、有機液状成分及び架橋剤等(架橋剤は架橋された粘着剤層を形成する場合に用いる。)を含むほか、香料、着色剤、及びその他の添加剤を含有することができる。
【0035】
また、粘着剤層は非含水系の粘着剤層が好ましい。ここにいう非含水系の粘着剤層とは、必ずしも完全に水分を含まないものに限定されるわけではなく、空中湿度、皮膚等に由来する若干量の水分(例えば、粘着剤層の総重量の1重量%未満)を含むものは包含される。
【0036】
粘着剤シートにおける支持体は、特に限定はされないが、粘着剤層中の薬物と有機液状成分が支持体中を通って背面から失われてそれらの割合が低下しないもの(即ち、有機液状成分及び薬物に対して不透過性を有する材料)が好ましい。
【0037】
具体的には、ポリエステル(例えば、ポエチレンテレフタレート等)、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、アイオノマー樹脂等の単独フィルム、金属箔、又はこれらから選ばれる2種以上のフィルムを積層したラミネートフィルム等が挙げられる。これらのうち、支持体として粘着剤層との接着性(投錨性)を向上させるために支持体を上記材質からなる無孔性フィルムと下記の多孔性フィルムとのラミネートフィルムとし、多孔性フィルム側に粘着剤層を形成することが好ましい。なお、無孔性フィルムの厚み2〜100μmが好ましく、2〜50μmがより好ましい。
【0038】
多孔性フィルムとしては、粘着剤層との投錨性が向上するものであれば特に限定されず、例えば紙、織布、不織布(例えば、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート等)不織布等)、上記のフィルム(例えば、ポリエステル、ナイロン、サラン(商品名)、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、金属箔等の単独フィルム、及びこれらの1種または2種以上のフィルムを積層したラミネートフィルム等)に機械的に穿孔処理したフィルム等が挙げられ、特に紙、織布、不織布(例えば、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート等)不織布等)が支持体の柔軟性の点から好ましい。多孔性フィルムが、紙、織布、不織布等の場合、これらの目付量を5〜30g/mとすることが投錨力の向上の点で好ましい。
【0039】
支持体におけるラミネートフィルムは、ドライラミネート法、ウェットラミネート法、エクストルージョン(押し出し)ラミネート法、ホットメルトラミネート法、コ・エクストルージョン(共押し出し)ラミネート法等の公知のラミネートフィルムの製造方法によって製造される。
【0040】
粘着剤シートにおける支持体の厚みは、特に限定されないが、好ましくは2〜200μm、より好ましくは10〜50μmである。2μm未満であると、自己支持性等の取扱い性が低下する傾向となり、200μmを超えると、違和感(ごわごわ感)を生じ、追従性が低下する傾向となる。
【0041】
粘着剤シートにおける剥離ライナーとしては、特に制限されず、公知の剥離ライナーを用いることができる。具体的には、剥離ライナーとしては、剥離処理剤からなる剥離処理剤層が剥離ライナー用基材の表面に形成された剥離ライナー、それ自体が剥離性の高いプラスチックフィルム、又は剥離ライナー用の基材の表面に、前記剥離性の高いプラスチックフィルムの素材による剥離層が形成された剥離ライナー等が挙げられる。剥離ライナーの剥離面は、基材の片面のみであってもよく、両面であってもよい。
【0042】
このような剥離ライナーにおいて、剥離処理剤としては、特に制限されず、例えば、長鎖アルキル基含有ポリマー、シリコーンポリマー(シリコーン系剥離剤)、フッ素系ポリマー(フッ素系剥離剤)等の剥離剤が挙げられる。剥離ライナー用の基材としては、例えば、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート等)フィルム、ポリイミドフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム等のプラスチックフィルムやこれらのフィルムに金属を蒸着した金属蒸着プラスチックフィルム;和紙、洋紙、クラフト紙、グラシン紙、上質紙等の紙類;不織布、布等の繊維質材料による基材;金属箔等が挙げられる。
【0043】
また、それ自体が剥離性の高いプラスチックフィルムとしては、ポリエチレン(低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン等)、ポリプロピレン、又はエチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体(ブロック共重合体又はランダム共重合体)や、これらから選択される2種以上の混合物からなるポリオレフィン系フィルム;ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))製のフィルム等を用いることができる。
【0044】
なお、剥離性の高いプラスチックフィルムの素材による剥離層を有する剥離ライナーは、前記剥離性の高いプラスチックフィルムの素材を、前記剥離ライナー用の基材上に、ラミネート又はコーティングすることにより形成することができる。
【0045】
粘着剤シートにおける剥離ライナーの厚み(全体厚)としては、特に限定するものではないが、通常200μm以下、好ましくは25〜100μmである。
【0046】
粘着剤シートの作製方法は、特に限定はされないが、以下の方法が好適である。
【0047】
粘着性ポリマー、薬物及び有機液状成分を、必要に応じて配合するその他の添加剤と共に適当な溶媒に加えて均一になるまで十分に混合する。溶媒としては、例えば、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン、2−プロパノール、メタノール、エタノール等が挙げられる。粘着剤層に架橋剤を配合する場合は、この混合液にさらに架橋剤を加えて十分に混合する。この際、必要に応じて、架橋剤とともに溶媒を加えて混合してもよい。
【0048】
次に、得られた混合液を、支持体の片面又は剥離ライナーの剥離処理面に塗布し、乾燥して粘着剤層を形成する。なお、前記塗布は、例えば、キャスティング、プリンティング、その他の当業者に自体公知の技法により実施可能である。その後、粘着剤層に剥離ライナー又は支持体を貼り合わせて積層体を形成する。粘着剤層の架橋処理を行う場合は、剥離ライナー又は支持体を粘着剤層上に貼りあわせた後、60〜90℃、好ましくは60〜70℃で24〜48時間放置して架橋反応を促進させて、架橋粘着剤層を形成する。
【0049】
こうして得られた、支持体、粘着剤層及び剥離ライナーからなる積層体から、剥離ライナーまたは支持体を除去することで、支持体の片面か、または、剥離ライナーの片面に粘着剤層が形成された粘着剤シートを得る。
【0050】
なお、支持体よりも剥離ライナーの除去が容易であるため、作業性の点から、剥離ライナーを除去して、支持体の片面に粘着剤層が形成された粘着剤シートを得るのが好ましい。
【0051】
粘着剤層の厚みは特に限定されないが、20〜300μmが好ましく、30〜300μmがより好ましく、50〜300μmが最も好ましい。粘着剤層の厚みが20μm未満であると、十分な粘着力を得ること、有効量の薬物を含有させることが困難となるおそれがあり、粘着剤層の厚みが300μmを超えると粘着剤層形成に支障(塗工困難)をきたすおそれがある。
【0052】
[工程(b)]
本工程は、上記の工程(a)で形成された、薬物、アクリル系ポリマー等の粘着剤及び有機液状成分を含有する粘着剤層に乳酸を含有させる工程である。
【0053】
本発明で使用される乳酸は、ラセミ体であるDL−乳酸であってもよく、光学活性体であるL−乳酸あるいはD−乳酸であってもよい。流動性の観点からDL−乳酸が好ましい。
【0054】
粘着剤層に乳酸を含有させる方法は、特に限定されないが、有機溶媒に乳酸を溶解させた乳酸溶液を調製し、該乳酸溶液を粘着剤層に含浸させる方法が好適である。乳酸溶液の粘着剤層への含浸は、乳酸溶液を粘着剤層の粘着面に流延したり、スピン塗布、スプレー塗布、はけ塗り、スロットダイ塗布、インクジェット塗布等の公知の塗布方法(塗布装置)を用いて塗布することによって行なうことができる。かかる粘着剤層の粘着面への乳酸溶液の塗布は通常室温下で行われる。なお、乳酸溶液に用いる有機溶媒は乳酸を溶解し得るものであれば特に制限されないが、粘着剤層への乳酸の浸透性の観点から、例えば、カルボニル基[−C(O)−]、エステル基[−C(O)−O−]、カルボキシ基[−COOH]及びヒドロキシ基[−OH]等の極性基を有する炭素数(極性基の炭素原子も含む総炭素数)が2〜4の有機溶媒が好ましく、好適な具体例としては、酢酸エチル、エチルアルコール、アセトン、アセトアルデヒド等が挙げられ、中でも、酢酸エチルが特に好ましい。乳酸溶液における乳酸濃度は特に限定されないが、好ましくは5〜50重量%程度である。
【0055】
粘着剤層の粘着面に乳酸溶液を塗布した後は、基本的にはそのまま放置することによって乳酸溶液を粘着剤層中に浸透させることができるが、好ましくは放置環境の温度を5〜40℃(好ましくは15〜30℃)の範囲内に設定し、該温度を10秒〜10分(好ましくは30秒〜5分)程度維持するのが好ましい。こうすることで粘着剤層中に乳酸溶液が速やかに浸透して、粘着剤層に乳酸溶液を効率良く含浸させることができる。
【0056】
乳酸溶液を粘着剤層に含浸させた後は、粘着剤層中の乳酸溶液由来の有機溶媒を蒸発させて、最終的な貼付製剤を製造する(工程(c))。
【0057】
有機溶媒の蒸発は、加熱下に有機溶媒を蒸発させることであり、この際の加熱温度は、下限が40℃を超え、上限が100℃以下であり、好ましくは60〜90℃であり、加熱時間は30秒〜5分程度が好ましい。
【0058】
有機溶媒の蒸発の後、粘着剤シートが粘着剤層と支持体との積層体である場合は、粘着剤層の粘着面に新たに剥離ライナーを積層し、粘着剤シートが粘着剤層と剥離ライナーとの積層体である場合は、粘着剤層の粘着面に新たに支持体を積層して、貼付製剤を完成させる。なお、ここでいう、新たに積層する支持体及び新たに積層する剥離ライナーの具体例としては、前述の[工程(a)]の説明の中で例示した支持体及び剥離ライナーの具体例と同様ものが挙げられる。
【0059】
このようにして得られる貼付製剤において、粘着剤層中の乳酸の含有量は粘着剤層の総重量に対して、0.1〜13重量%が好ましくは、より好ましくは1〜10重量%、最も好ましくは1〜8重量%である。従って、かかる乳酸の含有量となるように、粘着剤層の表面に塗布する乳酸溶液の濃度と塗布量を決定する。貼付製剤の粘着剤層中の乳酸の含有量が少なすぎると薬物の皮膚への透過促進効果(経皮吸収促進効果)を充分に発揮できず、また多すぎると皮膚刺激性が強くなる可能性がある。また、工程(a)で粘着剤層中に含有させた有機液状成分は、工程(c)においてその一部が蒸発する場合がある。このような場合は工程(a)において、かかる蒸発分に見合った量の有機液状成分を予め多めに粘着剤層中に含有させておくことができる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下文中で「部」又は「%」とあるのは全て重量部又は重量%を意味する。
【0061】
[アクリル系ポリマーAの調製]
不活性ガス雰囲気下、75部のアクリル酸2−エチルヘキシル、22部のN−ビニル−2−ピロリドン、3部のアクリル酸および0.2部のアゾビスイソブチロニトリルを、酢酸エチル中60℃にて溶液重合させてアクリル系共重合体であるアクリル系ポリマーAの溶液を調製した。アクリル系共重合体(アクリル系ポリマーA)のガラス転移点は−45.2℃であった。
【0062】
[実施例1]
アクリル系ポリマーA53.8部、リドカイン(以下「LDC」とも称す。)6.0部、ミリスチン酸イソプロピル(以下「IPM」とも称す。)30.0部を、適量の酢酸エチルで溶解した溶液を均一になるまで十分に混合した後、架橋剤として三官能性イソシアネートであるコロネートHL(日本ポリウレタン製)を0.2部加え、均一になるまで十分に混合撹拌を行い塗工液を得た。得られた塗工液を片面に剥離処理を施した厚さ75μmのPETフィルムである剥離ライナーの剥離処理を施した面に、乾燥後の膏体厚が約60μmとなるように塗工し、乾燥を行い粘着剤層を形成した。形成した粘着剤層の粘着面を、厚さ3.5μmのPETフィルムと目付量12g/mのPET不織布との積層フィルムの不織布側に貼り合わせて積層体を作製した。その後、70℃で48時間放置し、架橋粘着剤層を調製した。なお、リドカインの融点は66〜69℃である。該融点はDSC装置(セイコーインスツルーメンツ(SII)製、型番DSC6220)で測定した。
【0063】
上記剥離ライナーを剥離し、支持体の片面に架橋粘着剤層を有する粘着剤シートを得た。DL−乳酸の酢酸エチル溶液(乳酸:酢酸エチル=1:2(重量比))を、スロットダイ塗布により、粘着剤層の粘着面に塗布し、23℃で3分間維持した後、80℃で、3分乾燥を行ない、架橋粘着剤層(90部)に対して、乾燥後の粘着剤層中の乳酸量が10部となるようにした。乾燥後、剥離処理を施した剥離ライナーを別に用意し、粘着剤層の粘着面を剥離ライナーの剥離処理を施した面に貼り合わせて実施例1の貼付製剤を得た。
【0064】
[実施例2〜4]
後記表1の配合を採用した他は実施例1と同様にして実施例2〜4の貼付製剤を得た。
【0065】
[比較例1]
アクリル系ポリマーA53.8部、リドカイン6.0部、IPM30.0部を、適量の酢酸エチルで溶解した溶液を均一になるまで十分に混合した後、架橋剤として三官能性イソシアネートであるコロネートHL(日本ポリウレタン製)を0.2部、及び乳酸10部を加え、均一になるまで十分に混合撹拌を行い塗工液を得た。得られた塗工液を片面に剥離処理を施した厚さ75μmのPETフィルムである剥離ライナーの剥離処理を施した面に、乾燥後の粘着剤層の厚みが約60μmとなるように塗工し、乾燥を行い粘着剤層を形成した。形成した粘着剤層の粘着面を、厚さ3.5μmのPETフィルムと目付量12g/mのPET不織布との積層フィルムの不織布側に貼り合わせて積層体を作製した。その後、70℃で48時間放置し、比較例1の貼付製剤を得た。
【0066】
[比較例2〜4]
後記表1の配合を採用した他は比較例1と同様にして比較例2〜4の貼付製剤を得た。
<試験例>
[保持力]
幅10mm、長さ50mmに切断したサンプルの一端約25mmをベークライト(フェノール樹脂)板に重さ850gのローラーを一往復させて圧着し、逆の一端を補助紙で補強する。これを40±2℃の温度で安定した装置内のフックに取り付け30分放置した後、荷重(300g)を取り付け、自然落下するまで放置する。その際の保持時間を測定した。実験はn=3で行い、計3点を平均した。
【0067】
[ゲル分率]
貼付製剤を10cmに裁断したサンプルの粘着剤層の重量(W)を測定した。次に、そのサンプルをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜(日東電工製のNTF膜)に貼り付け、そのサンプルを100mlの酢酸エチルに24時間浸漬した後、酢酸エチルを交換した。この操作を3回繰り返し溶剤可溶分を抽出した。その後サンプルを取出し、乾燥させた後の粘着剤層の重量(W)を測定し、下記式によってゲル分率を算出した。
ゲル分率(%)=(W×l00)/(W×A/B)
A=(粘着剤+架橋剤)の重量
B=(粘着剤+有機液状成分+架橋剤)の重量
結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1の結果から明らかなように、乳酸を含有しない粘着剤層の形成後に、粘着剤層に乳酸を含有させて得られた実施例1〜4の製剤は、アクリル系ポリマー、薬物等とともに粘着剤層に乳酸を混ぜ込んで得られた比較例1〜4の製剤と比較してゲル分率が高く粘着剤層は十分に架橋されていた。そして、実施例1〜4の製剤は比較例1〜4の製剤と比較して保持力が高く、粘着剤層の凝集力が高かった。
【0070】
また、乳酸を含有しない粘着剤層の形成後に、粘着剤層に乳酸を含有させることによる、粘着剤層の凝集力を高める効果は、粘着剤層中における乳酸含有量が3〜6重量%の時に特に顕著であった。
【0071】
また、実施例3、4及び比較例3、4の結果から、架橋剤の量が、アクリル系ポリマー100重量部に対して、0.16重量部〜0.32重量部の範囲で添加された場合に本発明の効果、すなわち、乳酸を含有しない粘着剤層の形成後に、粘着剤層に乳酸を含有させることによる、粘着剤層の凝集力を高める効果が顕著であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤層に、薬物(但し、2−(4−エチル−1−ピペラジニル)−4−(4−フルオロフェニル)−5,6,7,8,9,10−ヘキサヒドロキシクロオクタ[b]ピリジン及びその生理学的に許容される塩を除く。)及び乳酸を含有する貼付製剤の製造方法であって、
(a):薬物、アクリル系ポリマーおよび該アクリル系ポリマーと相溶する有機液状成分を含有し、乳酸を含有しない粘着剤層を形成する工程、および
(b):前記粘着剤層中に乳酸を含有させる工程
を有することを特徴とする、貼付製剤の製造方法。
【請求項2】
工程(a)において、架橋された粘着剤層を形成する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(a)において、支持体または剥離ライナーの片面に粘着剤層を形成する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
工程(b)において、有機溶媒に乳酸を溶解させた乳酸溶液を粘着剤層に含浸させることによって粘着剤層中に乳酸を含有させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
乳酸溶液を粘着剤層の表面に塗布し、5〜40℃の温度下に粘着剤層を所定時間放置することにより、乳酸溶液を粘着剤層に含浸させる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
工程(b)の後に、(c):粘着剤層中に含まれる乳酸溶液由来の有機溶媒を蒸発させる工程をさらに有する、請求項4または5記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−158572(P2012−158572A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21203(P2011−21203)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】