説明

貼合構造体及びその製造方法

【課題】接着剤を介して貼り合わされたワーク間において、所定の領域に気泡の残留がなく、良品率の高い貼合構造体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ワークS1における視野範囲Wの周囲に、接着剤により形成されたシール部3、シール部3内に接着剤を充填した接着剤充填部4、シール部3及び接着剤充填部4に貼り合わされたワークを有する。シール部3は、視野範囲Wを囲む線上に、ワークS1の平坦面から隆起した土手部31と、土手部31の一部が欠如した切欠部31a、切欠部31aから流出した接着剤の流動方向を変換する第1の変換部32及び第2の変換部33、接着剤の流路を延長する延長部34を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、一対のワークを、接着剤を介して貼り合わせた貼合構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、液晶ディスプレイは、液晶モジュール、操作用のタッチパネル、表面を保護する保護パネル(カバーパネル)等を積層することにより構成される貼合構造体となっている。これらの液晶モジュール、タッチパネル、保護パネル等の積層対象となる部材(以下、ワークと呼ぶ)は、液晶ディスプレイの筐体に組み込まれる。
【0003】
このようなワーク同士を貼り合わせるためには、接着シートを用いる方法と樹脂の接着剤を用いる方法がある。接着シートは、基体となるシートの両面に粘着剤が塗布され、剥離紙が貼付されたものである。この接着シートは、接着剤に比べて比較的高価である。また、接着シートの使用に当たっては、あらかじめ剥離紙を剥離する等の工程が必要となる。このため、近年のコスト削減の要求などから、比較的安価で工程の簡略化が可能な接着剤を用いた貼り合わせが主流となってきている。
【0004】
また、保護パネルやタッチパネルのようなワークは、液晶の表示面の領域に重なるように積層される。この場合、各ワーク間に空気の層が入ると、外光反射により、表示面の視認性が低下する。これに対処するため、各ワークを貼り合せる際に、接着剤によって各ワークの間(ギャップ)を埋めることにより、接着層を形成することが行われている。かかる接着層は、各ワークの間のスペーサとして、ワークを保護する機能を有する。
【0005】
さらに、近年では、画面の大型化の要請から、液晶ディスプレイも大型化している。大型の液晶ディスプレイの場合、これを構成するワークも大面積となるので、変形が生じやすい。このため、変形を吸収してワークを保護することを可能にするために、接着層に要求される厚みが増える傾向にある。たとえば、数100μmの厚みが要求されるようになってきている。
【0006】
このように厚みを確保しようとすると、必要な接着剤の量が増える。すると、必要量の接着剤がワークに供給された場合、接着剤が流動して、ワークからはみ出しやすくなる。そこで、接着剤として使用する樹脂(レジン)を、流動の少ない高粘度のものとすることが考えられる。しかし、かかる場合にも、接着剤の塗布位置等、プロセス条件の調整を厳密に行わないと、貼り合わせ時に、接着剤が所定の領域からはみ出してしまう場合がある。
【0007】
これに対処するため、あらかじめ、塗布領域を規定する外周に、樹脂によって土手状のシール部を形成するシール方式がある(特許文献1参照)。たとえば、図19に示すように、ワークS1に、樹脂による接着剤R1を枠状に塗布して硬化させることにより、シール部を形成する。その後、シール部の内側に樹脂による接着剤R2を供給して、図20に示すように、ワークS2を貼り合わせる。このシール方式では、外周にシール部があるので、このシール部によって、貼り合わせ時の接着剤R2の流動によるはみ出しを防止できる。
【0008】
なお、光学的乱反射をなくすために、ワーク間に、ワークに屈折率が近い物質(機能材料)を充填する場合もある。この場合、充填される材料は、ワークを接着する接着剤としての機能も担っている。
【0009】
また、貼り合わせ方法として、大気中で貼り合わせる方法と真空中で貼り合わせる方法の2種がある。大気中で貼り合わせる方法は、排気設備が不要であり、安価に実現できる。ただし、大気中での貼り合わせは、貼り合わせ面に気泡が残らないようにするためのプロセス条件出しが難しい。このプロセス条件としては、たとえば、樹脂を広げて貼り合わせる際の樹脂の塗布パターン、貼り合わせ圧力、圧力のかけ方等がある。一方、真空中で貼り合わせる方法では、十分に排気を行った環境であれば、周囲に気体がないことから、比較的容易に気泡の少ない貼り合わせを行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−66711号公報
【特許文献2】特開2008−209510号公報
【特許文献3】特開2009−8851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、真空中での貼り合わせを行おうとしても、実際の生産現場では、タクトタイム等の要請から、排気に十分な時間をかけることが難しい。したがって、ある程度の気体が残った状態で貼り合わせを行わざるを得ず、気泡の残留が生じる可能性がある。このような残留気泡Aの一例を、図21に示す。残留気泡Aの発生位置は、一般的には、シール部の内縁、隅等であることが多い。これは、貼り合わせ時に、接着剤が辿る経路によるものである。つまり、貼り合わせ時に接着剤が広がると、気泡は、接着剤の外縁に押されてシール部の内縁に到達する。よって、この内縁に残留する気泡が存在する。さらに、接着剤はシール部の内縁に沿って、隅へと移動するので、多くの気泡が隅へと集まる。
【0012】
この残留気泡Aが、図20に示した液晶ディスプレイ等におけるユーザの視野範囲W内に発生した場合、画面の視認性が阻害される可能性がある。このため、図21に示した残留気泡Aは、ユーザの視野範囲Wの外にあることが好ましい。また、残留気泡Aは、たとえば、液晶ディスプレイの表示領域の外枠を構成する外周ベゼルの内側に収まっていれば、特に問題は生じない。
【0013】
しかし、視野範囲Wについては、画面の大型化の要請から、広い面積を確保することが望まれている。このため、表示装置の表示領域は、できるだけ広く活用する必要がある。つまり、気泡の残留により表示領域が活用されない部分、残留した気泡を外枠で隠すような部分は、できるだけ少なくすることが望ましい。
【0014】
気泡の残留を防止するため、あらかじめシール部に隙間を設けておき、貼り合わせ時に、隙間から樹脂が流出するようにして、気泡を排出する方法も提案されている(特許文献2、3)。しかし、かかる方法では、流出した樹脂がワークからこぼれ落ちて、周囲を汚すことになる。これは、特に、液晶パネルの周囲に駆動回路用の基板が設けられた液晶モジュールの貼り合わせの際に問題となる。
【0015】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、接着剤を介して貼り合わされたワーク間において、所定の領域に気泡の残留がなく、良品率の高い貼合構造体及び貼合構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するため、本発明の貼合構造体は、以下のような技術的特徴を有している。
(1) 少なくとも一部に平坦面を有する第1のワーク
(2) 前記第1のワークの平坦面における所定の領域の周囲に、接着剤により形成されたシール部
(3) 前記シール部によって囲まれた領域に接着剤が充填された接着剤充填部
(4) 前記シール部及び前記接着剤充填部に対して貼り合わされた第2のワーク
【0017】
さらに、前記シール部は、以下のような技術的特徴を有している。
(5) 前記所定の領域を囲む線上に、前記第1のワークの平坦面から隆起して形成された土手部
(6) 前記第1のワークの平坦面の側方から見て、前記土手部の一部が欠如した切欠部
(7) 前記切欠部に間隔を空けて対向する位置に、前記第1のワークの平坦面から隆起して形成され、前記切欠部から流出した接着剤の流動方向を変えるように、前記切欠部から前記第1のワークの外縁に向かう方向に交差する方向に設けられた第1の変換部
(8) 前記第1の変換部の端部に間隔を空けて対向する位置に、前記第1のワークの平坦面から隆起して形成され、前記第1の変換部から流出した接着剤の流動方向を変えるように、前記土手部の外周に沿う方向に交差する方向に設けられた第2の変換部
(9) 前記第2の変換部に連続して、前記第1のワークの平坦面から隆起して形成され、前記第2の変換部の接着剤の流路を延長するように、前記第1の変換部の外周に間隔を空けて沿う方向に設けられた延長部
【0018】
なお、他の態様では、前記第1のワークの平面側から見た前記切欠部の幅よりも、前記土手部の外周と前記第1の変換部との間隔が、狭いことを特徴とする。他の態様では、前記土手部の外周と前記第1の変換部との間隔よりも、前記第1の変換部と前記第2の変換部との間隔が、狭いことを特徴とする。他の態様では、前記土手部の外周と前記第1の変換部との間隔よりも、前記延長部と前記第1の変換部との間隔が、狭いことを特徴とする。
【0019】
他の態様では、前記土手部は、前記第1のワークの平面側から見て矩形状に形成され、前記切欠部は、少なくとも前記土手部の隅に形成されていることを特徴とする。他の態様では、前記土手部は、前記第1のワークの平面側から見て矩形状に形成され、前記切欠部は、少なくとも前記土手部の辺に形成されていることを特徴とする。他の態様では、前記切欠部は、前記土手部の一部を除去することにより形成されている。さらに、上記のような貼合構造体の製造方法も、他の態様の一つである。
【0020】
以上のような発明では、第1のワークに対して第2のワークを貼り合わせる際に、接着剤に加わる圧力によって、接着剤が土手部内に広がる。このとき、土手部の切欠部に達した接着剤によって、気泡が土手部の外に排出される。また、切欠部の外部に接着剤が流出した場合には、第1の変換部、第2の変換部によって接着剤の流動方向が変換され、延長部に流入するまでの過程で停止するので、第1のワークの外へ流出することが防止される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、接着剤を介して貼り合わされたワーク間において、所定の領域に気泡の残留がなく、良品率の高い貼合構造体及び貼合構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態における貼合構造体を示す垂直断面図
【図2】図1の貼合構造体を示す水平断面図
【図3】図1の貼合構造体における土手部、第1の変換部を示す斜視図
【図4】図1の貼合構造体における土手部、第1の変換部、第2の変換部及び延長部を示す拡大水平断面図(a)、垂直断面図(b)
【図5】図1の貼合構造体の貼り合わせの直前を示す垂直断面図
【図6】図1の貼合構造体の貼り合わせ時の接着剤の拡大を示す水平断面図
【図7】接着剤の流動が切欠部の入口で停止した状態を示す水平断面図
【図8】接着剤の流動が切欠部の出口で停止した状態を示す水平断面図
【図9】接着剤が切欠部からの流出して第1の変換部で流動方向が変換されて停止した態様を示す水平断面図
【図10】接着剤の流動が第1の変換部の端部で停止した状態を示す水平断面図
【図11】接着剤の流動が第2の変換部と延長部との間で停止した状態を示す水平断面図
【図12】切欠部の一例を示す垂直断面図
【図13】切欠部の一例を示す垂直断面図
【図14】他の態様における貼り合わせ前(a)、貼り合わせ後(b)の態様を示す垂直断面図
【図15】他の態様における貼り合わせ前(a)、貼り合わせ後(b)の態様を示す垂直断面図
【図16】複数の線状に塗布した接着剤と切欠部の位置関係を示す平面図
【図17】シール部の形状の一例を示す平面図
【図18】他の実施形態の土手部、第1の変換部、第2の変換部及び延長部を示す拡大水平断面図
【図19】従来の貼合構造体の貼り合わせの直前工程を示す垂直断面図
【図20】従来の貼合構造体の一例を示す垂直断面図
【図21】従来の貼合構造体の残留気泡を示す水平断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態(以下、実施形態と呼ぶ)について、図面を参照して具体的に説明する。なお、各図におけるシール部、接着剤、気泡等は、模式的に図示したものであり、現実の潰れ具合、流動態様等とは必ずしも一致しない。
【0024】
[構成]
本実施形態は、図1に示すように、一対のワークS1、S2を、接着層Bを介して貼り合わせた貼合構造体Mである。貼り合わせ対象となるワークS1、S2は、平坦面を有する矩形の平板である。ワークS1、S2としては、たとえば、表示装置を構成する基板、モジュール等とすることが考えられる。
【0025】
接着層Bは、図2に示すように、シール部3と接着剤充填部4を有している。シール部3は、ワークS1の平坦面における所定の領域の周囲に、樹脂の接着剤により形成されている。この所定の領域は、たとえば、表示装置の場合の視野範囲Wとなる矩形の領域である。接着剤充填部4は、シール部3によって囲まれた領域に、樹脂による接着剤を充填した部分である。
【0026】
シール部3は、土手部31、第1の変換部32、第2の変換部33及び延長部34を有している。土手部31は、所定の領域を囲む矩形の線上に、接着剤によりワークS1の表面から隆起するように形成されている。
【0027】
この土手部31には、切欠部31aが形成されている。切欠部31aは、図3に示すように、土手部31の一部が欠如していることにより、ワークS1の側方から見て、間隙を生じさせた部分である。たとえば、切欠部31aは、土手部31の4つの角(隅)に設けられている。
【0028】
第1の変換部32は、切欠部31aに間隔を空けて対向する位置に、接着剤により、第1のワークS1の平坦面から隆起して形成されている。この第1の変換部32は、切欠部31aから流出した接着剤の流動方向を変えるように、切欠部31aから第1のワークS1の外縁に向かう方向に交差する方向に設けられている。
【0029】
第2の変換部33は、第1の変換部32の端部に間隔を空けて対向する位置に、接着剤により、第1のワークS1の平坦面から隆起して形成されている。この第2の変換部33は、第1の変換部32から流出した接着剤の流動方向を変えるように、土手部31の外周に沿う方向に交差する方向に設けられている。
【0030】
延長部34は、第2の変換部33に連続して、接着剤により、第1のワークS1の平坦面から隆起して形成されている。この延長部34は、第2の変換部33の接着剤の流路を延長するように、第1の変換部32の外周に間隔を空けて沿う方向に設けられている。
【0031】
なお、図4(a)に示すように、第1のワークS1の平面方向から見て、切欠部31aの幅をα、土手部31と第1の変換部32との間隔をβ、第1の変換部32と第2の変換部33との間隔をγ、第1の変換部32と延長部34との間隔をδとする。本実施形態は、α>β>γ>δの関係が成立するように、設定されている。図4(b)は、図4(a)のX−X’断面図である。
【0032】
[作用]
以上のような本実施形態の製造方法を説明する。まず、ワークS1に対して、上記のようなシール部3を形成する。この形成は、たとえば、印刷装置を用いたスクリーン印刷により、上記のようなシール部3が形成されるように、樹脂による接着剤を印刷することにより行う。接着剤としては、たとえば、紫外線硬化樹脂を用いる。
【0033】
シール部3は、土手部31、第1の変換部32、第2の変換部33及び延長部34の高さが同等となるように形成する。そして、印刷されたシール部3に、紫外線照射装置によって、大気中で紫外線を照射する。大気中の酸素により硬化の進行が阻害されるため、シール部3は仮硬化するにとどまる。これにより、シール部3の流動が防止される。
【0034】
次に、図5に示すように、ワークS1における土手部31の内部に、接着剤Rを供給する。たとえば、接着剤供給装置が備えるディスペンサのノズルから、接着剤Rである紫外線硬化樹脂を滴下する。
【0035】
その後、ワークS1に対して、ワークS2を貼り合わせる。たとえば、貼合装置において、テーブル上のワークS1に対して、ワークS2を載置して、ワークS2上に加圧ローラを押圧しながら移動させる。これにより、ワークS1に対してワークS2を押し付ける。
【0036】
このとき、図6に示すように、ワークS2によって土手部31、第1の変換部32、第2の変換部33及び延長部34が押圧されるとともに、接着剤Rも押圧されるので、土手部31内に接着剤Rが広がっていく。そして、接着剤Rが土手部31の内周に達すると、さらに内周に沿って流動し、切欠部31aに達する。
【0037】
切欠部31aに向かって流れた接着剤Rは、次のような態様となることが考えられる。
(1)切欠部31aの入口若しくは内部で停止する(図7参照)。
この場合、気泡Aは切欠部31aの内部へ排出される。
(2)切欠部31aの出口で停止する(図8参照)。
この場合、気泡Aは切欠部31aと第1の変換部32との間に排出される。
(3)切欠部31aの外部に流出して第1の変換部32により流動方向が土手部31に沿う方向に変換されて停止する(図9参照)。
この場合、気泡Aは第1の変換部32と土手部31との間に排出される。
【0038】
(4)第1の変換部32の端部で停止する(図10参照)。
この場合、気泡Aは第1の変換部32の端部と第2の変換部33との間に排出される。
(5)第1の変換部32の外部に流出して第2の変換部33により流動方向が変換されて、延長部34に入って停止する(図11参照)。
この場合、気泡Aは第1の変換部32と延長部34との間に排出される。
【0039】
以上のように、充填領域に接着剤Rが充填されるとともに、気泡Aは土手部31の内部から押し出されるので、視野範囲W内には残留しない。なお、実際には、(1)〜(5)のいずれの態様になるかは、土手部31内の容積、接着剤Rの充填量、ワークS2による押圧力等によって異なる。また、同じワークS1であっても、複数の切欠部31aにおいて、(1)〜(5)のいずれの態様になるかは、同じ場合もあれば、異なる場合もある。
【0040】
このように、貼り合わせられたワークS1及びS2の間のシール部3及び接着剤Rに対して、硬化処理が行われる。たとえば、真空引きした真空チャンバ内において、紫外線照射装置によって、紫外線を照射する。これにより、図1に示すように、接着剤充填部4及びシール部3が本硬化した接着層Bを有する貼合構造体Mが完成する。なお、完成した貼合構造体Mは、各切欠部31aにおける接着剤Rの態様は、同様であっても、上記のように異なるものを含んでいてもよい。また、本硬化において、真空中で紫外線を照射することは必須ではなく、大気中で照射してもよい。貼り合わせ後は、接着剤が大気に接している部分が少ないため、大気中での照射でも硬化は進行するためである。
【0041】
[効果]
以上のような本実施形態によれば、ワークS1外への接着剤Rの溢れを防止できるとともに、シール部3の外へ気泡Aを排出することができる。このため、充填領域における気泡の残留のない貼合構造体Mを製造することができ、良品率が向上する。
【0042】
特に、第1の変換部32、第2の変換部33及び延長部34は、接着剤Rの流動方向を変えるとともに、狭いスペースにおいて流動経路を延長する迷路構造を有している。しかも、各流路の幅は、上記のようにα>β>γ>δの関係となっている。このため、接着剤Rは流動に対する抵抗が大きくなって流れにくくなり、ワークS1から溢れ落ちることが防止される。また、上記迷路構造が、余分な接着剤Rを排出させることにより、接着剤Rの充填量を調整する充填量調整部ともなる。このため、接着剤Rの滴下量を、厳密に調整する必要がなくなる。
【0043】
また、切欠部31a、第1の変換部32、第2の変換部33及び延長部34を形成することにより、あらかじめ接着剤及び気泡の排出経路が確保される。このため、接着剤Rの劣化による粘度変化、溶存ガス量の変化等、プロセス条件が変化しても、これらの変化に起因する流動量の変動、気泡Aの増大等を吸収することができる。
【0044】
さらに、シール部3は、印刷により一括で形成することができるので、効率的に製造できる。たとえば、シール部3の形成のための時間が大幅に短縮され、この時間に他の工程が拘束されなくなる。なお、請求項における土手部形成工程、第1の変換部形成工程、第2の変換部形成工程、延長部形成工程の全部若しくは一部は、一括で行われる場合も、異なるタイミングで行われる場合も含まれる。
【0045】
[他の実施形態]
本発明は、上記のような実施形態に限定されるものではない。たとえば、以下のような形態も、本発明に含まれる。
【0046】
(1)切欠部の態様は、上記の実施形態で例示したように、土手部が完全に欠如している態様には限定されない。ワークの側方から見て、接着剤が流出可能な切欠部であればよい。たとえば、土手部の高低差によって、切欠部を実現してもよい。この場合、図12に示すように、土手部31を形成(印刷、転写、塗布)する厚みを変えることによって、切欠部31aを実現してもよい。
【0047】
また、図13に示すように、土手部31を一層目は切れ目なく、二層目は断続的に形成するというように、重ねて形成(印刷、転写、塗布)することにより、切欠部31aを形成することも可能である。
【0048】
(2)切欠部の形成方法も、あらかじめ断続的に形成してもよいし、連続的に形成されたものから、一部を除去することにより形成してもよい。たとえば、除去装置が備える除去具(スポイト、ヘラ、ピン、ナイフ、針等若しくはこれらの組み合わせ)により、土手部の一部を除去することにより、切欠部を形成することが考えられる。真空源に接続されたノズルを土手部に差して、除去部分を吸引することも考えられる。
【0049】
除去具等のワークS1に接する部材は、その材質がワークS1に傷をつけないものとすることが望ましい。たとえば、樹脂製若しくは樹脂によるコーテイングを施されたものとすることが考えられる。樹脂の一例としては、たとえば、PTFE等が考えられる。
【0050】
(3)切欠部の形成位置、これに対応する第1の変換部、第2の変換部及び延長部の位置や形状についても、上記の実施形態で例示したものには限定されない。たとえば、第1の変換部、第2の変換部及び延長部は、直線状であってもよいし、曲線状であってもよい。波形状として、接着剤の流動に抵抗が生じるようにしてもよい。
【0051】
(4)シール部の形成方法は、スクリーン印刷には限定されない。たとえば、版による転写、レーザ転写などにより、シール部を形成することも可能である。転写による場合にも、ワークの全体に一括でシール部を形成することが可能である。
【0052】
また、樹脂材料を供給するディスペンサ、インクジェットヘッドを用いて、樹脂を塗布することにより、シール部を形成してもよい。これにより、様々なシール部の形成パターンを、適宜選択して適用することができる。樹脂としては、光学特性や材料のコンタミネーション等の観点から、シール部や接着剤充填部と同種の粘度違いとすることが望ましいが、これには限定されない。
【0053】
シール部を複数回重ねて形成(印刷、転写、塗布等)することにより、高さを確保してもよい。この場合、形成する毎に毎回若しくは所定の回数毎に、硬化処理を行うことにより、レベリングを抑制できる。
【0054】
(5)土手部、第1の変換部、第2の変換部及び延長部の高さについては、異なる高さとすることも可能である。接着剤の供給量が適切であれば、図14に示すように、第1の変換部32、第2の変換部33及び延長部34が土手部31よりも低くても、接着剤Rの溢れは生じない。図15に示すように、第1の変換部32、第2の変換部33及び延長部34が土手部31よりも高ければ、接着剤Rの土手部31上からの溢れの一部を防止できる。
【0055】
(6)シール部内への接着剤の供給方法についても、特定のものには限定されない。たとえば、図16に示すように、多連のディスペンサを用いて、接着剤Rを複数の線状に塗布することも可能である。なお、図16は、土手部31の隅に加えて若しくは隅の代わりに辺に切欠部31aを設けた例である。この場合、接着剤Rの塗布線の幅や間隔を調整することにより、気泡が生じやすい位置と、切欠部31aとを対応させることも可能である。たとえば、接着剤Rの塗布線の間における気泡の発生し易い場所に、切欠部31aが対応するように、接着剤Rを塗布することが考えられる。これにより、気泡が切欠部31aに入るまでの移動距離が短くなり、タクトタイムの短縮が可能となる。また、各切欠部31aに集まる気泡は小さくなるので、消失し易い。
【0056】
その他、ローラによって塗布する方法、スキージによって塗布する方法、スピン塗布する方法等、種々の方法が適用可能である。なお、接着剤としては、土手部と同様若しくは異なる接着剤が適用可能である。
【0057】
(7)シール部、接着剤充填部に使用する樹脂の種類は、紫外線硬化樹脂には限定されない。他の電磁波により硬化する樹脂や熱硬化型樹脂等、あらゆる種類の樹脂が適用できる。この場合、樹脂の種類に応じて、硬化処理の方法は、電磁波の照射、温度変更(加熱、冷却)、送風等、種々のものを適用することが考えられる。したがって、シール部を仮硬化させる際の処理も、樹脂に応じて異なる。なお、シール部の仮硬化については、必ずしも行わなくてもよい。
【0058】
(8)シール部が形成する線は、その形状を問わない。方形、円形、楕円形、その他の多角形、曲線円形であってもよい。たとえば、図17に示すように、ワークS1に、接着剤を塗布すべきでない領域Zが存在する場合に、これを回避するように、シール部3を形成することも可能である。
【0059】
また、接着剤の供給によりシール部を形成する箇所は、接着剤の供給領域の外周を規定する線には限らない。たとえば、円形やドーナツ形状のディスクの周円上のように、供給領域の周線を規定する線であってもよい。内側に非充填領域がある場合の内周線も含まれる。
【0060】
(9)第1の変換部、第2の変換部、延長部等の位置、形状、方向等は、上記の実施形態には限定されない。たとえば、図18に示すように、第1の変換部32の一部、延長部34の一部を、ワークS1の縁に達する位置に設けても、これらを曲線状に若しくは角度を変えて形成することにより、迷路構造を形成することができる。これにより、土手部31とワークS1の縁との間隔を短くして、接着剤充填部4を広く確保することができる。
【0061】
(10)ワークの貼り合わせ、樹脂の硬化処理については、真空中で行っても、大気中で行ってもよい。
【0062】
(11)貼り合せ対象となるワークは、カバーパネルやタッチパネルと液晶モジュール若しくは液晶モジュールを構成する表示パネルとバックライト等が、典型例である。しかし、本発明の適用対象となる一対のワークは、貼合面の少なくとも一部に平坦面を有し、一対の貼着対象となり得るものであれば、その大きさ、形状、材質等は問わない。たとえば、表示装置を構成する各種の部材、半導体ウェーハ、光ディスク等にも適用可能である。ワークの一方に接着剤を供給する場合のみならず、双方に供給する場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…ワーク
3…シール部
4…接着剤充填部
31…土手部
31a…切欠部
32…第1の変換部
33…第2の変換部
34…延長部
A…気泡
M…貼合構造体
R…接着剤
S1、S2…ワーク
W…視野範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部に平坦面を有する第1のワークと、
前記第1のワークの平坦面における所定の領域の周囲に形成されたシール部と、
前記シール部によって囲まれた領域に接着剤が充填された接着剤充填部と、
前記シール部及び前記接着剤充填部に対して貼り合わされた第2のワークと、
を有し、
前記シール部は、
前記所定の領域を囲む線上に、前記第1のワークの平坦面から隆起して形成された土手部と、
前記第1のワークの平坦面の側方から見て、前記土手部の一部が欠如した切欠部と、
前記切欠部に間隔を空けて対向する位置に、前記第1のワークの平坦面から隆起して形成され、前記切欠部から流出した接着剤の流動方向を変えるように、前記切欠部から前記第1のワークの外縁に向かう方向に交差する方向に設けられた第1の変換部と、
前記第1の変換部の端部に間隔を空けて対向する位置に、前記第1のワークの平坦面から隆起して形成され、前記第1の変換部から流出した接着剤の流動方向を変えるように、前記土手部の外周に沿う方向に交差する方向に設けられた第2の変換部と、
前記第2の変換部に連続して、前記第1のワークの平坦面から隆起して形成され、前記第2の変換部の接着剤の流路を延長するように、前記第1の変換部の外周に間隔を空けて沿う方向に設けられた延長部と、
を有することを特徴とする貼合構造体。
【請求項2】
前記第1のワークの平面側から見た前記切欠部の幅よりも、前記土手部の外周と前記第1の変換部との間隔が、狭いことを特徴とする請求項1記載の貼合構造体。
【請求項3】
前記土手部の外周と前記第1の変換部との間隔よりも、前記第1の変換部と前記第2の変換部との間隔が、狭いことを特徴とする請求項1記載の貼合構造体。
【請求項4】
前記第1の変換部と前記第2の変換部との間隔よりも、前記延長部と前記第1の変換部との間隔が、狭いことを特徴とする請求項1記載の貼合構造体。
【請求項5】
前記土手部は、前記第1のワークの平面側から見て矩形状に形成され、
前記切欠部は、少なくとも前記土手部の隅に形成されていることを特徴とする請求項1記載の貼合構造体。
【請求項6】
前記土手部は、前記第1のワークの平面側から見て矩形状に形成され、
前記切欠部は、少なくとも前記土手部の辺に形成されていることを特徴とする請求項1記載の貼合構造体。
【請求項7】
前記切欠部は、前記土手部の一部を除去することにより形成されていることを特徴とする請求項1記載の貼合構造体。
【請求項8】
第1のワークの平坦面における所定の領域の周囲に、接着剤によりシール部を形成するシール部形成工程と、
前記所定の領域に接着剤を供給する接着剤供給工程と、
前記シール部及び前記接着剤に対して、第2のワークを貼り合わせる貼り合わせ工程と、
を含み、
前記シール部形成工程は、
前記所定の領域を囲む線上に、前記第1のワークの平坦面の側方から見て一部が欠如している切欠部が生じるように、土手部を形成する土手部形成工程と、
前記切欠部に間隔を空けて対向する位置に、前記第1のワークの平坦面から隆起し、前記切欠部から流出した接着剤の流動方向を変えるために、前記切欠部から前記第1のワークの外縁に向かう方向に交差する方向に第1の変換部を形成する第1の変換部形成工程と、
前記第1の変換部の端部に間隔を空けて対向する位置に、前記第1のワークの平坦面から隆起し、前記第1の変換部から流出した接着剤の流動方向を変えるために、前記土手部の外周に沿う方向に交差する方向に第2の変換部を形成する第2の変換部形成工程と、
前記第2の変換部に連続して、前記第1のワークの平坦面から隆起し、前記第2の変換部の接着剤の流路を延長するために、前記第1の変換部の外周に間隔を空けて沿う方向に延長部を形成する延長部形成工程と、
を含むことを特徴とする
【請求項9】
前記土手部形成工程は、
前記接着剤を断続した線状に供給することにより、切欠部を形成する工程を含むことを特徴とする請求項8記載の貼合構造体の製造方法。
【請求項10】
前記土手部形成工程は、
前記接着剤を高さの異なる連続した線状に供給することにより、切欠部を形成する工程を含むことを特徴とする請求項8記載の貼合構造体の製造方法。
【請求項11】
前記土手部形成工程は、
前記接着剤を連続した線状に供給する工程と、
線状の接着剤の一部を除去することにより、切欠部を形成する工程と、
を含むことを特徴とする請求項8記載の貼合構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−76934(P2013−76934A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217922(P2011−217922)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002428)芝浦メカトロニクス株式会社 (907)
【Fターム(参考)】