説明

貼合用積層体およびこれを用いた磁気記録媒体の製造方法

【課題】 磁気記録媒体用の基体上に磁気記録層と保護層をこの順に有した磁気記録媒体を製造するための貼合用積層体に関し、保護層の良好な耐擦傷性、磁気記録層との接着性を維持しつつ、磁気記録媒体製造時の熱圧プレス工程における、該保護層から鏡面調の金属プレス板表面への滑剤の移行を抑制して、優れた製造効率を実現することのできる貼合用積層体を提供する。
【解決手段】貼合用支持体上に、磁気記録層および保護層を備えた貼合用積層体において、前記保護層がポリエチレン及びポリテトラフルオロエチレンを有する混合物からなるワックス粒子と、バインダー樹脂とを含有することを特徴とする貼合用積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも非磁性支持体である磁気記録媒体用の基体上に磁気記録層と保護層を積層した貼合用積層体およびそれを用いて製造された磁気記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明の磁気記録層付き貼合シートすなわち貼合用積層体の保護層に求められる主な機能は、磁気記録媒体用の基体に熱接着する際に、熱プレス板に焼き付くことを防止する耐焼き付き性と、磁気記録媒体の最表層となった後に磁気記録層の保護層となりうる耐擦傷性である。これらの機能を満たすために、保護層には耐熱性と層間密着性を兼ね備えたバインダー樹脂が使用され、耐熱付与助剤として各種添加剤が添加されるなどして耐焼き付き性が確保されている。また、耐擦傷性を向上させるために、ワックス等の添加剤が使用されている。保護層用バインダー樹脂としては、アクリル樹脂、ブチラール樹脂、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などが知られており、耐擦傷性を向上させるための添加剤としては、脂肪酸およびその塩、各種ワックス類(例えば、特許文献1)、フッ素樹脂粒子(例えば、特許文献2)などが知られている。
【0003】
本発明の磁気記録媒体の製造工程においては、貼合用積層体を、鏡面調に研磨した金属プレス板を用い、接着剤層を介して磁気記録媒体用の基体に押しつける熱プレス加工が行われる。特に、紙あるいはプラスチック製基体の一部分に、上記加工方法によって磁気記録層を配したカード状の磁気記録媒体(磁気カード)が多く製造され、世界中で広く使用されている。
従来、磁気記録媒体と一体化した上記貼合シート積層体の最表層である保護層に対し、耐擦傷性を向上させるためのワックスとしてポリエチレンワックスが好適に使用されている。ポリエチレンワックスは、ポリエチレン自身の優れた耐摩耗性と、熱プレス時の熱によって溶融する低融点ワックス成分の滑性によって、磁気カード等の磁気記録媒体の保護層上の滑剤として機能する。こうして該ワックスは、磁気記録・再生のための磁気ヘッドによる保護層の摩耗を減少させ、磁気記録媒体としての実用上の好ましい耐久性を付与してきた。
【0004】
しかしながら、磁気記録媒体の製造工程において鏡面調に研磨した金属板を用いて熱プレス加工が行われる際、従来の保護層は、添加しているポリエチレンワックスの成分の一部が金属板表面に移行して、これを汚染してしまうという問題があった。
これに対し、従来より耐擦傷性を向上させる添加剤として知られているフッ素樹脂粒子のうち、ポリテトラフルオロエチレン粒子(以後、PTFE粒子と略す)を滑剤として添加した場合は、それ自身の融点が高いために熱プレス時に鏡面調金属プレス板には移行せず、良好な滑性付与効果が得られる。しかしながら、PTFE粒子はバインダー樹脂との密着性に劣り、磁気カード製造時や、磁気信号の記録再生時等の通常の取り扱い時にバインダー樹脂から脱粒してしまい、結果として磁気記録媒体として実用上好ましい耐久性を得ることが困難であった。このためPTFE粒子は、ポリエチレンワックスに置き換わって使用されるには至っていない。
上述した金属板へのポリエチレンワックス成分の移行を減らすには、添加するポリエチレンワックス量を減らす、或いは移行性の低いポリエチレンワックスを使用する事が有効であるが、何れの場合も保護層の表面滑性が低下し、磁気記録媒体として実用上好ましい耐久性を得ることが困難であった。
【0005】
このように、上記磁気記録媒体の製造工程において鏡面調に研磨した金属板を用いて熱プレス加工が行われる際、滑剤であるワックス成分の金属板への移行を抑えようとすると、磁気記録媒体としての耐久性を得ることが困難となる。また反対に耐久性を増加させ、磁気記録媒体の磁気ヘッドに対する耐擦傷性を向上させようとすると、そのために配合した添加剤、主に滑剤であるワックス成分がプレス装置の金属板表面に移行してしまうという問題があった。特に、連続して熱プレス加工を行った場合に移行成分が堆積し、その堆積物が、熱圧プレスを受けている磁気記録媒体上に転移したり、跡をつけたりして、磁気記録媒体上に形成された絵柄の汚染、変形等の不具合を起こしていた。特に、磁気記録層付き貼合シート、すなわち貼合用積層体を用いた熱圧プレスの場合には、転写法の場合と異なって、貼合用支持体も自身も、熱プレスによって磁気記録媒体中に埋め込み、一体化させなくてはならない。このため、通常よりも高いプレス圧力や温度が必要となる傾向があり、ワックス成分がプレス装置の金属板表面により移行しやすいという問題があった。そのため、定期的に金属板表面を清掃する必要があり、製造効率を低下させる要因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2001−236637(4頁)
【特許文献2】特開平2001−351074(3頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、磁気記録媒体用の基体上に磁気記録層と保護層をこの順に有した磁気記録媒体を製造するための貼合用積層体に関し、保護層の良好な耐擦傷性、磁気記録層との接着性を維持しつつ、磁気記録媒体製造時の熱圧プレス工程における、該保護層から鏡面調の金属プレス板表面への滑剤の移行を抑制して、製造工程において磁気記録媒体表面を汚染、変形させることがなく、かつ優れた製造効率を実現することのできる貼合用積層体、及び該貼合用積層体を用いた磁気記録媒体の製造方法を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するために本発明者らは、貼合用積層体の保護層改良を目的として保護層の添加剤に関して鋭意検討した結果、添加剤として使用するワックス粒子の種類、粒子径等を規定することにより、製造される磁気記録媒体の良好な記録再生特性を維持しつつ、保護層の良好な耐擦傷性を実現し、製造時に熱圧プレス用の鏡面調金属板の表面にワックス等の添加剤が移行することのない貼合用積層体を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、貼合用支持体上に、少なくとも、磁気記録層および保護層を備えた貼合用積層体において、前記保護層がポリエチレン及びポリテトラフルオロエチレンを有する混合物からなるワックス粒子と、バインダー樹脂とを含有することを特徴とする貼合用積層体を提供する。
さらに本発明は、基体上に、前記貼合用積層体を積層した磁気記録媒体であって、前記貼合用積層体は、前記保護層に、ポリエチレン及びポリテトラフルオロエチレンを有する混合物からなるワックス粒子を含有することを特徴とする磁気記録媒体を提供する。
さらにまた本発明は、基体上に、磁気記録層及び保護層を積層してなる磁気記録媒体の製造方法であって、貼合用支持体上に磁気記録層および保護層をこの順に積層した貼合用積層体を用いて、基体上に基体に近い側から接着剤層、貼合用支持体、磁気記録層及び保護層をこの順に形成する工程と、前記貼合用積層体の前記保護層上より熱圧プレスを行って、前記貼合用積層体を基体中に埋め込む熱圧プレス工程を有し、かつ前記貼合用積層体の保護層は、ポリエチレン及びポリテトラフルオロエチレンを有する混合物からなるワックス粒子を含有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【0010】
本発明の貼合用積層体は、保護層中にポリエチレン及びPTFEを有する混合物からなるワックス粒子を含有するため、良好な耐擦傷性を有すると共に、保護層中のポリテトラフルオロエチレンの存在が、磁気記録媒体の製造工程の熱圧プレス時における金属プレス板へのポリエチレンワックスの移行を抑制する。このため作製された磁気記録媒体の表面には、金属プレス板に一度付着したポリエチレンワックスの再移行による汚れや変形が生じ難く、磁気記録媒体表面に形成された文字や図柄による意匠を損なうことがない。
本発明の磁気記録媒体は、貼合用支持体上に磁気記録層と保護層を有し、該保護層にポリテトラフルオロエチレンを有する混合物からなるワックス粒子を含有した貼合用積層体を積層して形成されるため、良好な耐擦傷性を有すると共に、磁気記録媒体の製造時における、保護層のポリエチレンワックスの移行による磁気記録媒体の汚れが発生することがない。
また本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、保護層にポリエチレン、及びポリテトラフルオロエチレンを有する混合物からなるワックス粒子を含有した貼合用積層体を用いるので、保護層の上から熱圧プレス加工したときに、金属プレス板へのワックスの移行が抑えられるため、金属プレス板を清掃する頻度が大幅に減少する、このため製造効率が著しく向上する。
【0011】
本発明の貼合用積層体、さらにはそれらから製造された磁気記録媒体が上述した効果を発現させる理由を、保護層に添加された滑剤がその機能を発揮するメカニズムから考察すれば、以下のようになると考えられる。
磁気記録媒体の耐久性は、貼合用積層体の保護層の耐摩耗性に依存しており、保護層の耐摩耗性は主にバインダー樹脂に分散された滑剤の特性に左右されている。
滑性に優れたポリエチレンワックス粒子を保護層中に分散して製造された従来の貼合用積層体は、ポリエチレン粒子自身の柔軟性、耐摩耗性およびバインダー樹脂との良好な密着性とワックス効果による滑性によって、磁気記録・再生時の磁気ヘッドによる擦過の影響を緩和している。
しかし、保護層表面はまた磁気記録媒体を形成するときに、熱圧プレス工程による加熱、加圧を受ける。本工程で加えられる加熱温度、加圧圧力については、製造する磁気記録媒体の構成や、熱圧プレス工程における使用装置によって若干異なるが、通常製造工程では鏡面状態の表面を有する金属板による熱圧プレス工程が用いられ、加熱温度120〜180℃、加圧圧力10〜25kgf/cmの温度、圧力が保護層に加えられる。
このため、磁気記録媒体に必要な耐久性をポリエチレンワックス粒子のみで実現しようとした場合、磁気記録媒体の熱プレス加工で軟化(または溶融)したポリエチレンワックスの一部が鏡面調に研磨した金属プレス板表面に移行して、これを汚染してしまう。この移行する滑剤成分は、ポリエチレンワックスの低分子量(あるいは低融点)成分であって、この場合は同成分が滑性向上効果を主に発揮していると考えられる。それ故、例えばこの低分子量成分を大幅に低減させるか、あるいはこれに換えて金属プレス板表面に移行しにくい、中〜高分子量ポリエチレン粒子を保護層中に添加することでワックスの移行性の改善を図ることができる。しかしながら、ワックスの低分子量成分が大幅に減少されると滑性が弱くなり、保護層表面の擦過傷が付きやすくなると共に、ポリエチレン粒子が塗膜から脱粒しやすくなって貼合用積層体の保護層の耐摩耗性が低下し、磁気記録媒体の耐久性が不足する。ポリエチレン粒子が脱粒しやすくなる原因は、滑性向上効果の高い低分子量成分減少による塗膜滑性の低下によって、磁気記録媒体の保護層と磁気ヘッドとの摩擦が強くなると共に、ポリエチレン粒子の高分子量化によって粒子硬度も上がり、粒子の弾性によって磁気ヘッド応力を逃がす作用が弱くなるためと考えられる。
【0012】
同様に、シリカ粒子等の移行性の成分がない滑剤のみを保護層中に分散させた場合でも、付与される滑性が不足し貼合用積層体の保護層の耐摩耗性が著しく低下してしまう。
一方、滑性が高くてかつ移行性の成分がない滑剤と考えられるPTFE粒子を保護層中に分散させた場合は、未添加の場合に比べて貼合用積層体の保護層の耐摩耗性は向上する傾向にあり、しかも金属プレス板表面への移行は発生しない。しかし、PTFE粒子はバインダー樹脂との密着性に乏しく、磁気ヘッドによる擦過によって容易に塗膜中から脱粒するため、十分な耐摩耗性を得ることができない。
また一方、磁気ヘッドは所定の力で加圧しながら保護層表面を擦るために、保護層中のワックス粒子自身にも適度な堅さ(柔軟性)が脱粒防止と、磁気ヘッド表面を傷つけないためにも必要であり、この点においては、ポリエチレンワックスが優れている。したがって総合的に考えて、従来用いられてきたポリエチレン粒子は、ワックス移行性の点を除けば好適な材料と考えられる。
【0013】
以上の事から、貼合用積層体の保護層の耐摩耗性は、保護層中に分散されているワックス等粒子自身の柔軟性、耐摩耗性およびバインダー樹脂との良好な密着性と滑性が、磁気ヘッドによる擦過力に抗して総合的に働いていると推定される。そして、例えば良好な滑剤として使用されてきたポリエチレンワックスの場合は、熱転写用積層体や貼合用積層体の保護層の耐摩耗性は、熱圧プレス用鏡面板へのワックス成分の移行のし易さとトレードオフの関係になっていると考えられる。
【0014】
ここで例えば、ワックス粒子自身の柔軟性、耐摩耗性およびバインダー樹脂との良好な密着性に適したポリエチレン樹脂成分を主要構成要素とし、ポリエチレンワックスにPTFEを粒子製造段階で混合し、該混合物を微粒子化したワックス粒子を保護層中に分散させる構成を考慮する。PTFE粒子はポリエチレンワックスに介在されることでバインダー樹脂中に保持される。ポリエチレン成分については、移行性のないPTFE成分による滑性で従来のポリエチレンのみの滑性を補うことにより、金属プレス板表面への移行を抑えることが出来る。またPTFE成分については、PTFEより柔軟性の高いポリエチレンワックスを介在させることでバインダー樹脂からの脱粒を防止している。さらに好ましくは、この複合粒子を非真球状の複数の不定形粒子として、PTFE粒子がポリエチレンワックス粒子表面に存在し、かつ粒子内に少なくともそのPTFE粒子の一部が埋設された形状とする事で、PTFE粒子を含んだ複合粒子とバインダー樹脂との密着性をより一層高め、塗膜からの脱粒を一層効果的に抑えている。さらに好ましくは、ワックス粒子表面にPTFE粒子の一部が露出する構成とする事で、ポリエチレンワックスと金属プレス板表面との接触面積を低減し、ワックス粒子による滑性をより高めるとともにワックスの移行性を一段と抑える効果も付加していると考えられる。このように、ポリエチレン及びPTFEを有する混合物からなるワックス粒子を用いて、双方の特性を補い合うことで、耐摩耗性と滑剤の移行抑制の両特性を、同時に満たすよう調整することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の貼合用積層体は、形成される保護層が磁気記録層との良好な接着性を維持しつつ優れた耐擦傷性を実現し、かつ保護層上から熱圧プレスをかけてカード状磁気記録媒体を製造するときに、金属プレス板にワックス等の滑剤が移行することがない。したがって、製造された磁気記録媒体の表面に金属プレス板を介してワックス等の滑剤による汚れや変形が発生することがない。また、このために金属プレス板の清掃を行う頻度を大幅に低下させることが出来るので、製造効率が著しく向上する。さらにこれら保護層は形成された磁気記録媒体の記録再生特性を低下させることがない。
本発明の磁気記録媒体は、基体上に接着層を介して貼合用積層体の貼合用支持体を接着させ、保護層表面から熱圧プレスを行って作製され、保護層にポリエチレン及びポリテトラフルオロエチレンを有する混合物からなるワックス粒子を含有するため、磁気記録媒体は良好な記録再生特性と、良好な耐擦傷性を有する。また熱圧プレスを受ける製造時にポリエチレンワックスの移行がないため、磁気記録媒体表面がワックスによる汚染を受けることがない。
さらに本発明の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性支持体である磁気記録媒体用の基体上に磁気記録層と保護層を有する積層体を形成した後、保護層上より熱圧プレスを行って前記積層体を非磁性支持体中に埋め込む工程を有するが、該保護層はポリエチレン及びPTFEを有する混合物からなる粒子と、バインダー樹脂とを含有するので、保護層は良好な耐久性と、熱圧プレスの工程における良好な耐焼き付き性を保持し、さらに熱圧プレスの鏡面金属プレス板へのワックス成分移行を著しく低減することができる。このためワックスの清掃を大幅に省略することができ、磁気記録媒体の生産効率の向上が著しい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の貼合用積層体の一実施例を示す断面図である。
【図2】本発明の貼合用積層体の一実施例を示す断面図である。
【図3】本発明の貼合用積層体を用いて作製されたカード状磁気記録媒体の一実施例を示す概念図である。
【図4】本発明の貼合用積層体を用いて作製されたカード状磁気記録媒体の一実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の貼合用積層体で、ポリエチレンワックスの低分子量成分である金属プレス板への移行成分を減らし、そのために低下した表面滑性をPTFE粒子で効果的に補うためには、ポリエチレン粒子とPTFE粒子を機械的に混合撹拌して、これらを合体させ、ポリエチレン及びPTFEを有する混合物からなるワックス粒子を作製することも可能であるが、該ワックス粒子の製造過程で予めポリエチレンと、PTFEとを含んで製造された混合物を作製し、該混合物から公知の粒子製造工程を経てワックス粒子を作製し、使用する事が好ましい。
【0018】
本発明における貼合用積層体の保護層に含有されるワックス粒子は、粒子内に少なくともPTFE粒子の一部が埋設されたポリエチレンワックス粒子であることが好ましく、PTFE粒子は非真球状の不定形であることが好ましく、ポリエチレンを主成分とする粒子表面に、一部が前記粒子内に埋設され、一部が前記粒子表面上に露出しているPTFE粒子を含有する複合粒子であることが好ましい。ポリエチレン及びPTFEを有する混合物からなる複合粒子は非真球状の不定形であることが好ましい。
保護層に含有されるワックス粒子の体積平均粒子径は6μm以下であることが好ましい。
【0019】
以下本発明の貼合用積層体、該貼合用積層体を用いて作製される磁気記録媒体、及び該磁気記録媒体の製造方法について、さらに詳細に説明を行う。
本発明において磁気記録媒体とは、磁気ディスクやテープ類、プラスチック製クレジットカード、キャッシュカードなどの磁気カード類、銀行などの合成紙製磁気通帳類、あるいは紙製乗車券・通行券等の磁気切符類などである。また本発明においては磁気記録媒体には数えないが、磁気カードに具備された磁気テープ(磁気ストライプとも呼ぶ)あるいは後述する「貼合用積層体」そのものも広い分類では磁気記録媒体のカテゴリーに入るものであると考えられる。
【0020】
以下に貼合用積層体、および該貼合用積層体を用いた磁気記録媒体の製造方法について
詳細な説明を行う。
本発明の貼合用積層体としては、主に磁気カードなどの製造に用いられ、磁気記録層およびその他の機能層を積層した貼合用磁気シートもこれに含まれる。あるいは後にテープ形状に加工したテープ状の貼合用積層体(以下貼合用磁気テープとの呼称を併用するが、特に混乱を生じないときは、貼合型磁気テープのことを貼合用積層体と称する。)も含まれる。貼合用積層体は、非磁性支持体である貼合用支持体上に磁気記録層および保護層の少なくとも2層をこの順に形成してなる積層構造を有しており、必要に応じて貼合用支持体の磁気記録層とは反対側に接着剤層を有している(図1、図2参照)。
【0021】
本発明の貼合用積層体は、磁気記録媒体を製造する際に、該貼合用積層体(貼合型磁気テープ)の貼合用支持体の磁気記録層の反対側の表面上に接着剤を塗工形成してから熱プレス加工する、あるいは磁気記録媒体の基体上に予め接着剤層を設けておき、その部分に貼合用積層体の貼合用支持体で、磁気記録層とは反対側の面を合わせて貼合後、熱プレス加工を行って磁気カード等の磁気記録媒体を製造する。例えば磁気カードの基体がプラスチックの場合には、プラスティックの剛性のため接着剤の塗布手法が限定されるため、予め貼合用積層体側に接着剤層を設けておくことが望ましい。
【0022】
本発明の貼合用積層体の保護層に使用される特定のワックスは、ポリエチレン及びPTFEを有する混合物からなるワックス粒子である。このようなワックス粒子として市販のものとしては、例えばシャムロック社製のポリエチレン/PTFEワックスである『Fluoroslip 731MG』がある。PTFEは融点が327℃と、通常のポリエチレンより遙かに高く、耐熱性、耐薬品性に優れ、ほとんどすべての有機溶剤、酸、アルカリに侵されず、撥水、撥油性、電気的性質に優れ、摩擦係数が小さい。通常PTFEは、テトラフルオロエチレンを、懸濁重合法または乳化重合法によりラジカル重合して得られる粒子状のPTFEとしてポリエチレンと混合され、体積平均粒径0.3〜3μm程度の粒径を有したものが、混合に適した重合度のPTFE粒子として、好適にポリエチレン粒子内に取り込まれると考えられる。PTFE粒子としてはボールミルその他の粉砕用装置を用いて粉砕でき、粒径を調整できるものが好ましい。
ポリエチレン及びPTFEを有する混合物からなるワックス粒子を作製するには、公知のポリエチレンワックス粒子の製造方法において、前記PTFE粒子をポリエチレン、あるいはその単量体化合物中に分散させて、製造工程時に介在させ、その存在下でポリエチレンワックス粒子の通常の製造方法と同様の手順を行うことにより、PTFE粒子を含有し常温で粒子状態のワックスを作製することができる。
【0023】
ポリエチレンワックスとしては、ワックスとして従来使用されている分子量のものを広く使用することが可能であるが、表面硬度が高くなり過ぎて脱粒が発生し易くならない程度に低分子量成分が低減され、予め移行性の成分が小さくなっている事が好ましい。
さらに、該ワックス粒子の製造過程で予め混合可能な他のワックス類、例えばカルナバワックス等を必要に応じて添加することも可能である。
PTFEとポリエチレンワックスの混合比率としては、最も重視するべき特性が耐摩耗性であるか滑剤の移行抑制であるかによって調整の方向が異なる。また磁気記録媒体の製造工程条件、使用条件に応じて適宜調整することができるが、PTFEが全滑剤成分の0.2〜70質量%が好ましく、複合粒子としての存在が安定している1〜30質量%がより好ましい。
【0024】
本発明では、上記複合粒子であるワックス粒子の体積平均粒子径は6μm以下とすることが、保護層の膜厚とのバランス、ワックス粒子の分布の均一性の点で望ましく、3μm以下とすることがより望ましい。本発明の保護層は貼合工程における熱圧プレスに対して、模様層や磁気記録層を保護するための貼合用保護層である。上記ワックス粒子の粒子径については、好ましい保護層の膜厚である0.3〜3μmよりも多少粒子径が大きくても、保護層上から熱圧プレスされるために磁気記録媒体の保護層上に突出することはない。しかしながら、磁気記録媒体の保護層表面には添加したワックス粒子が添加量と粒径に応じて一部露出し、その露出部からワックス成分の一部が熱プレスに用いる鏡面板へと移行する。通常、ワックス粒子径が大きい方がその移行の傾向も強くなる。そのため、ワックスの平均粒子径を上述の保護層の膜厚以下とすることで保護層表面上への露出面積を減少させ、熱プレス時におけるワックス粒子の露出部を通してのワックス成分の溶出を抑え、熱プレス用の鏡面金属板表面への移行をより抑制することができる。
【0025】
さらに本発明では、上記ワックス粒子のPTFE成分を非真球状の不定形状とすることで、バインダー粒子からの脱粒が起きにくく、優れた滑性付与効果を得ることができる。
また、該ポリエチレンを主成分とする粒子内に少なくともPTFE粒子の一部が埋設された複合粒子であることが好ましい。このような複合粒子を用いることによりPTFE粒子の脱粒が防止できる。またポリエチレンを主成分とする粒子表面には複数のPTFE粒子が存在し、該粒子内にPTFE粒子の一部が埋設され、また該粒子表面上にPTFE粒子の一部が露出した状態となっていることがさらに好ましく。このような状態をとることによって、熱圧プレス時に複合粒子内部のポリエチレン成分から溶出してくる移行成分が、熱圧プレス用の鏡面調金属プレス板表面に移行しにくくする効果を付加していると考えられる。
ワックスの添加量は、保護層のバインダー樹脂に対して1〜10質量%が好ましく、2〜5質量%がより好ましい。添加量が1質量%よりも少ない場合は保護層の表面滑性が十分得られず、10質量%よりも多い場合は保護層の塗膜が脆くなり、磁気記録媒体として実用上好ましい耐久性を得ることが困難となる。
【0026】
本発明の貼合用積層体の保護層に含有されるバインダー樹脂としては、塗膜を形成した場合に皮膜・造膜性が高く、磁気記録層に対する良好な接着性を有し、カールし難く、かつ良好な耐熱性を有するものであることが好ましい。このような特性を有するものであれば、従来保護層に用いられていたバインダー樹脂を広く用いることができる。例えば、ブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などの合成樹脂を単独あるいは複数種類組み合わせて使用される。本発明に於いては、耐溶剤性を考慮してイソシアネート化合物等による架橋を行った組成とすることが好適である。
【0027】
上記架橋に用いられる架橋促進剤としては、保護層の機械的特性、例えば耐擦過性などを向上させるために添加するイソシアネート化合物等であり、架橋反応を起し硬化を促進させる。このイソシアネート化合物の使用量としては、結着剤樹脂100質量部に対し1〜30質量部添加が好ましい。
本発明で使用する保護層用塗料の調整は、上記ポリエチレン及びポリテトラフルオロエチレンを有する混合物からなるワックス粒子と、上記バインダー樹脂、必要に応じて公知慣用の分散安定剤、界面活性剤、ブロッキング防止剤等を、アセトン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、トルエン等の混合溶剤中にディスパー等の攪拌機で混合撹拌し均一に分散させて行う。そのときの塗料の固形分比は5〜35%が好ましい。
【0028】
本発明の貼合用積層体の磁気記録層は、公知の材料、構成を用いたものを広く使用することができるが、磁気記録層用塗料を用いて塗布工程を用いて作製する方法が、使用材料の選定自由度も広く、種々の形状、膜厚等に容易に対応できる点、低コストの点からも好ましい。
【0029】
本発明の貼合用積層体の磁気記録層を、磁気記録層用塗料を用いて作製する場合に用いられる磁性材料としては、公知慣用の、例えばγ−酸化鉄、マグネタイト、コバルト被着酸化鉄、2酸化クロム、鉄系メタル磁性粉、ストロンチュウムフェライト、バリウムフェライト等の磁性粉末を使用することができる。磁気記録層用塗料に用いられる結着樹脂としては、公知慣用の、例えばポリ塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、アクリルウレタン樹脂、ニトロセルロース樹脂、ポリウレタン、ポリエステル等を、単独であるいは混合して、用いることが出来る。
【0030】
磁気記録層用塗料の調製は、上記磁性粉末およびそれに対して20〜30質量%の上記結着剤樹脂、さらには必要に応じて、公知慣用の分散安定剤、界面活性剤、樹脂フィラー等を、メチルエチルケトン、トルエン、シクロヘキサノン等の混合溶剤中に溶解・分散させて行なう。そのときの塗料の固形分濃度は25〜60質量%であることが好ましい。また、溶解・分散には、公知慣用の、例えばボールミル、サンドグラインドミル等の分散機を使用することができる。
【0031】
本発明の貼合用積層体においては、接着剤層を介して磁気記録媒体用の基体と貼合用積層体の貼合用支持体とを接着させるが、該接着剤層は貼合用支持体の磁気記録層とは反対側の表面に予め形成しておくことが好ましい。該接着剤層は、公知の接着剤用の結着剤樹脂を含有した接着剤層用塗料の塗布工程を経て形成することができる。接着剤層用の結着剤樹脂としては、常温でタックフリーであるが加熱により粘接着性を発現する熱可塑性結着剤樹脂であれば良く、公知慣用の、例えばポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等を用いることができる。接着剤層用塗料の調製は、例えば上記結着剤樹脂が3〜70質量%となるように、メチルエチルケトン、トルエン等の混合溶剤に溶解して調製する。また、貼合用積層体に予め接着剤層を形成しておく場合には、必要に応じてシリカ等のブロッキング防止剤を添加する事もできる。
【0032】
本発明の貼合用積層体に使用しうる貼合用支持体としては、一般的には、合成樹脂フィルムや合成紙などであって、使用条件に合致すれば、特に制限なく選定可能である。本発明では、合成樹脂フィルムが適しており、特にその中でも、耐熱性や引張強度などの点から厚さ9〜25μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムがより好適である。該支持体は磁気記録媒体にそれ自身が埋め込まれて使用されるため、厚さ9〜16μmが特に好ましい。
【0033】
本発明の貼合用積層体の製造方法は、前記貼合用支持体上に少なくとも磁気記録層、保護層をこの順に積層することで形成することができる。各層の形成は各層用の形成塗料を用いて、塗布工程によって同時塗布、あるいは順次塗布を行い形成することができる。磁気記録層の形成は、上記磁気記録層用塗料に、硬化剤としてイソシアネート化合物を添加し、支持体上に乾燥塗膜厚が2〜30μmとなるように塗布した後、熱硬化処理する。塗布方式としては、特に制限はなく、公知慣用の方式を使用でき、単層または複数層構成の塗布物製造方式を採用して製造することができる。具体的には、例えばグラビア方式、リバース方式、エアドクターコーター方式、ブレードコーター方式、エアナイフコーター方式、スクイズコーター方式、含浸コーター方式、トランスファロールコーター方式、キスコーター方式、キャストコーター方式、スプレーコーター方式、ダイ方式等が挙げられる。
【0034】
保護層の乾燥塗膜厚は0.3〜3μmとするのが好ましい。塗布方式としては、特に制限はなく、磁気記録層の塗布に用いたと同様の方法を用いることができる。
【0035】
接着剤層の形成を行うときは、上記接着剤層用塗料を、転写用支持体の磁気記録層とは反対側の表面に、乾燥塗膜厚が0.3〜10μmとなるように塗布して行うことが出来る。塗布方式としては、特に制限はなく、磁気記録層の塗布に用いたと同様の方法を用いることができる。以上のように貼合用支持体上に積層体を形成する方法としては、各層毎の塗料を順次用いた塗布工程によって作製することが一般的であるが、各層の形成について熱転写用積層体を用いた転写工程によって作製することもできる。
【0036】
貼合用積層体は、磁気記録層の色相を隠蔽してより高い意匠性を付与するために、磁気記録媒体用の基体に転写されたときに、磁気記録層の上に着色層(隠蔽層)、あるいは着色層と模様層がこの順に形成され、その上に保護層が形成されるように作製されてもよい。この場合は貼合用支持体上に磁気記録層が形成された後、着色層あるいは着色層と模様層とがこの順で形成されてから、保護層が積層される。着色層(隠蔽層)と模様層については公知の作製方法を用いることが出来る。
【0037】
貼合用積層体が貼り合わせられる磁気記録媒体用の基体としては、繰り返し使用に耐える機械的強度、耐薬品性、耐溶剤性、製造に耐える耐熱性などがあれば、用途に応じて種々の材料が適用できる。例えば、上質紙、OCR紙、ノーカーボン紙、アート紙等の紙類、種々のプラスティックフィルムが適用できる。プラスティックフィルムの材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニルなどのビニル系樹脂、ポリアクリレート、ポリメタアクリレート、ポリメチルメタアクリレートなどのアクリル系樹脂などがある。
【0038】
該基材フィルムは、これら樹脂を主成分とする共重合樹脂、または、混合体若しくは複数層からなる積層体であっても良い。一般的には機械的強度、コスト面から、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系フィルム、ポリ塩化ビニルなどのビニル系フィルムが好適に使用される。
【0039】
該基材フィルムは、塗布に先立って塗布面へ、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理、易接着剤などを塗布するプライマー塗布処理などを行う易接着処理を行ってもよい。また、該樹脂フィルムには、必要に応じて、充填剤、可塑剤、着色剤、帯電防止剤などの添加剤を加えても良い。充填剤としては、シリカ、炭酸カルシウムなどの体質顔料が適用でき、通常は、酸化チタンなどの顔料を含有させ白色に着色した基材が用いられる。
【0040】
基体の厚みは、全体の剛度が適当に保たれる厚みであればよく、通常、100〜800μmの厚さのものが適用できる。800μmを超える厚さでは、剛度があり過ぎて携帯等取り扱いに不便で、重くコストも高い、100μmに満たない厚さでは、繰り返し使用又は携行時の外力で、シワ、折り癖がついたり、これらが原因となって磁気の読み取り不良が発生したりして耐久性が悪い。カード用基材としては単層のものを用いても良いが、総厚が上記範囲内に入るような複数の基材を積層して用いることも出来る。例えば磁気記録層等を透明な基材上に形成しておき、別途模様層を形成した不透明基材と積層することで、高意匠性の付与、生産工程の合理化を行うことが出来る。同様の手法は磁気カードの裏面についても適用することができる。このため、カード用磁気記録媒体を製造する際には、必要に応じて模様等の形成されたコアシートと呼ばれる2枚の不透明基材を挟んで、少なくとも一方に磁気記録層等の形成された2枚の透明なオーバーシートを積層する工程を含んで、磁気カードが形成されることが多い。
【0041】
以上の方法で作製した貼合用積層体(図1、図2参照)を用いて例えば磁気カード(図3参照)を作製するためには、従来公知の磁気カード用の基体に、公知の貼り合わせ(ラミネーション)工程を経ることによって行うことができる。例えば接着剤層を予め貼合用支持体の磁気記録層とは反対側の面に設けた貼合用積層体であれば、接着剤層を非磁性支持体である磁気記録媒体用の基体表面に密着させ、加圧もしくは加圧と加熱による貼り合わせ行って、固着させることによって磁気カード等の磁気記録媒体用の基体上に接着剤層、貼合用支持体、磁気記録層及び保護層を有する積層体を形成することができる。接着剤層は予め貼合用支持体側に形成しておくことが好ましい(図2参照)が、磁気記録媒体用の基体の貼合箇所に形成しておくこともでき、また貼り合わせ工程時に基体側の貼り合わせ位置に塗布することも可能である。
【0042】
このようにして磁気記録媒体上に貼り合わせられた貼合用積層体は、保護層上からさらに熱圧プレスを行って、積層体全体を基体中に埋め込む熱圧プレス工程を行う。特に磁気記録媒体用の基体がプラスチックの場合、積層体全体を磁気記録媒体用基体中に埋め込んで、貼合用積層体の最表面である保護層表面と磁気記録媒体用基体の表面とが同一平滑平面を形成するようにすることが好ましい(図4参照)。磁気記録媒体用の基体を複数枚積層して磁気カード等の磁気記録媒体を作製するときは、該熱圧プレス工程はこれら複数の基体を熱圧プレスして一体化する工程と同時に行っても良い。例えば接着剤層を、予め貼合用支持体上の磁気記録層の反対面に設けた貼合用積層体を、磁気カード用基体に熱圧条件を弱めて仮接着して一方のオーバーレイシートとし、もう1枚のオーバーレイシートとともに2枚のコアシートを間に挟んで、これら4枚のシートを熱圧プレス工程で熱圧着することによって、カード厚さを一体化した磁気記録媒体が製造できる。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明の具体的な実施例および比較例を挙げ、更に詳細に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、以下において、部は質量部を表わすものとする。
【0044】
<保護層用塗料(a)>
ブチラール樹脂 (積水化学社製『エスレックKS−1』) 20部
大豆レシチン 1部
アセトン 90部
酢酸エチル 90部
シクロヘキサノン 70部
トルエン 70部
ポリエチレン/PTFEワックス(滑剤) 0.6部
(シャムロック社製『Fluoroslip 731MG』)(体積平均粒径約5μm)
イソシアネート化合物 8.5部
(大日本インキ化学工業社製『ハードナーNo.50』)
以上の各成分をディスパーにて混合撹拌・均一分散して保護層用塗料(a)を作製した。
【0045】
上記の保護層用塗料(a)において、滑剤の種類(および添加量)を以下のように替えて各保護層用塗料を作製した。
<保護層用塗料(b)>
保護層用塗料(a)のポリエチレン/PTFEワックスを1部にする他は保護層用塗料(a)と同様にして保護層用塗料(b)を作製した。
<保護層用塗料(c)>
保護層用塗料(a)で用いたポリエチレン/PTFEワックスをボールミルにて粉砕し、体積平均粒径約1μmとしたものを、滑剤として0.6部用いる他は、保護層用塗料(a)と同様にして保護層用塗料(c)を作製した。
<保護層用塗料(d)>
ブチラール樹脂 (積水化学社製『エスレックBM−1』) 48部
大豆レシチン 2.4部
メチルエチルケトン 200部
シクロヘキサノン 48部
トルエン 200部
ポリエチレン/PTFEワックス(滑剤) 1.5部
(シャムロック社製『Fluoroslip 731MG』)(体積平均粒径約5μm)
イソシアネート化合物 18.5部
(大日本インキ化学工業社製『ハードナーNo.50』)
以上の各成分をディスパーにて混合撹拌・均一分散して保護層用塗料(d)を作製した。
<保護層用塗料(e)>
保護層用塗料(a)にシリカ粒子(富士シリシア化学社製『サイリシア350』)(平均粒径約4μm)を0.6部添加した他は、保護層用塗料(a)と同様にして保護層用塗料(e)を作製した。
<保護層用塗料(f)>
保護層用塗料(d)にシリカ粒子(富士シリシア化学社製『サイリシア350』)を2.5部添加した他は、保護層用塗料(d)と同様にして保護層用塗料(f)を作製した。
<保護層用塗料(g)>
保護層用塗料(a)の滑剤に換えて、
低分子量ポリエチレンワックス(三井化学社製『ハイワックス200PF』)(粉砕処理後の平均粒径約6μm)0.6部を用いる他は保護層用塗料(a)と同様にして保護層用塗料(g)を作製した。
<保護層用塗料(h))>
保護層用塗料(a)の滑剤に換えて、
PTFE粒子 (シャムロック社製『Fluoro A』)(平均粒径約1μm) 0.6部を用いる他は保護層用塗料(a)と同様にして保護層用塗料(h)を作製した。
<保護層用塗料(i)>
保護層用塗料(a)の滑剤に換えて、
ポリエチレンパウダー(住友精化社製『FB LE−1080』)(平均粒径約6μm)
0.6部を用いる他は保護層用塗料(a)と同様にして保護層用塗料(i)を作製した
<保護層用塗料(j)>
保護層用塗料(d)の滑剤に換えて、
シリカ粒子 (富士シリシア化学社製『サイリシア350』)(平均粒径約4μm)1.5部を用いる他は保護層用塗料(d)と同様にして保護層用塗料(j)を作製した。
<保護層用塗料(k)>
保護層用塗料(a)の滑剤を添加しないことの他は保護層用塗料(a)と同様にして保護層用塗料(k)を作製した。
<保護層用塗料(l)>
保護層用塗料(d)の滑剤を添加しないことの他は保護層用塗料(d)と同様にして保護層用塗料(l)を作製した。
【0046】
<磁気記録層用塗料>
磁性粉 (戸田工業社製『QX−440』) 150部
塩化ビニル系樹脂 (日信化学工業社製『ソルバイン−TAO』) 20部
ポリウレタン樹脂 (大日本インキ化学工業社製『T−5206L』) 13部
ポリウレタン樹脂 32部
(大日本インキ化学工業社製『TS−03』)
大豆レシチン 3部
メチルエチルケトン 125部
トルエン 170部
シクロヘキサノン 50部
イソシアネート化合物 25部
(大日本インキ化学工業社製『ハードナーNo.50』)
上記各成分を混練分散機により混練分散して磁気記録層用塗料を作製した。
【0047】
<接着剤層用塗料>
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂 3.5部
(電気化学社製『1000LT3』)
ポリウレタン樹脂 1.5部
(大日本インキ化学工業社製『TS−03』)
メチルエチルケトン 45部
トルエン 50部
上記各成分をディスパーにて混合・完全溶解して接着剤層用塗料を作製した。
【0048】
(実施例1)
貼合用積層体の支持体(12μm厚、PETフィルム)上に、乾燥塗膜厚が8μmとなるようにリバース塗工方式塗工機で上記磁気記録層用塗料を塗布し、窒素雰囲気中で乾燥後、105℃、30秒間、熱硬化処理して磁気記録層を形成した。その磁気記録層の上に、乾燥塗膜厚が2μmとなるようにリバース塗工方式塗工機で、上記保護層用塗料(a)を塗布し、窒素雰囲気中で乾燥後、空気中、105℃、30秒間、熱硬化処理して保護層を形成した。磁気記録層および保護層を形成した反対の支持体上に、乾燥塗膜厚が2μmとなるようにリバース塗工方式塗工機で上記接着剤層用塗料を塗布し、窒素雰囲気中で乾燥して接着剤層を形成して貼合用積層体を得た。この積層体を所定幅に裁断して実施例1の貼合工程用の磁気テープを作製した。
(実施例2〜実施例5)実施例1において、保護層用塗料(a)に替えて保護層用塗料(b)〜(e)をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして実施例2〜実施例5の貼合工程用磁気テープを作製した。
【0049】
(実施例6)
貼合用積層体の支持体(12μm厚、PETフィルム)上に、乾燥塗膜厚が8μmとなるようにリバース塗工方式塗工機で上記磁気記録層用塗料を塗布し、窒素雰囲気中で乾燥後、105℃、30秒間、熱硬化処理して磁気記録層を形成した。その磁気記録層の上に、乾燥塗膜厚が2.5μmとなるようにリバース塗工方式塗工機で、上記保護層用塗料(f)を塗布し、窒素雰囲気中で乾燥後、空気中、105℃、30秒間、熱硬化処理して保護層を形成して貼合用積層体を得た。この積層体を所定幅に裁断して実施例6の貼合工程用の磁気テープを作製した。
【0050】
(比較例1〜比較例6)
実施例1において、保護層用塗料(a)に替えて保護層用塗料(g)〜(l)をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして比較例1〜比較例6の貼合工程用磁気テープを作製した。
【0051】
(試験項目及び試験結果)
以下の条件で実施例1〜6、比較例1〜6により得られた貼合工程用の磁気テープを使用し、試験用磁気カードを作製した。
ラミネート条件:ヒートシーラー(テスター産業社製)を用いて、120℃、4kgf/cmで5秒間の熱融着を行い、その後に転写用支持体フィルムを剥離させて磁気テープ付きのオーバーレイシートを得た。
熱圧プレス条件:厚さ100μmのポリ塩化ビニル製のオーバーレイシートの所定の位置にテープ幅13mmの磁気テープを配置したオーバーレイシートを、これに接して厚さ280μmのポリ塩化ビニル製のコアシート2枚を重ね、更に反対面に100μmのポリ塩化ビニル製のオーバーレイシートを1枚重ねて、鏡面調金属プレス板(日金スチール社製SUS430バフ仕上げ)に挟み、カード作製機(インターライン社製LX−EM−4)を用い、148℃設定で熱圧プレスを行った。尚、実施例6の磁気テープは、磁気記録層と反対の支持体上にスプレーコートにて厚さ2.5μmの接着剤層をオーバーレイシートと熱圧プレスする前に予め形成した。得られたカード基材を所定の大きさに打ち抜く事によって試験用磁気カードを得た(図3、図4参照)。本実施例のカード状磁気記録媒体の層構成を図4に示す。
【0052】
<耐久性試験>
上記試験用磁気カードをカードリーダーライター(オムロン社製)にて20,000回の繰り返し読み取りを行った。繰り返し回数は、磁気カードとして毎日2回使用したとしてカード有効期限の5年間で約4000回、取り扱い等の環境誤差を5倍に考慮して約20,000回とした。
20,000回の繰り返し後にも磁気記録の読み取りが可能であり、且つ磁気カード上の磁気テープ部分の表面に磁気記録層が部分的に欠けずに使用可能な磁気カードを耐久性良好として○とした。20,000回〜5,000回の繰り返し読み取りで磁気カード上の磁気テープ部分の表面に磁気ヘッドとの摩擦によって磁気記録層が摩耗し、部分的あるいは全体的に磁気記録層が失われてしまった磁気カードを実使用上耐久性不足となる可能性がある△とし、5,000回未満の繰り返し読み取りで磁気カード上の磁気テープ部分の表面に磁気ヘッドとの摩擦によって磁気記録層が摩耗し、部分的あるいは全体的に磁気記録層が失われてしまった磁気カードを耐久性不良として×とした。
【0053】
<記録再生特性>
耐久性試験で評価した磁気カードの磁気記録再生特性は、バーンズ社製磁気ストライプ・アナライザー「MAGTESTER2000」を用いて評価を行い「ISO/IEC7811−6 7.3項 Table1」に記載の規格を満足するものを記録再生特性○とした。
【0054】
<鏡面調金属プレス板への移行性試験>
実施例および比較例で得られた磁気テープを使用し、カード作製機(インターライン社製)により、鏡面調金属プレス板にて熱圧プレス加工をした際、プレス板表面に磁気テープから移行する滑剤によるテープ跡(曇り)がどの程度確認できるかを以下の試験方法により判定した。
【0055】
<鏡面調金属プレス板への移行性試験方法>
上記試験用磁気カードを作製する際、熱圧プレス加工前の磁気テープ面に接する鏡面調金属プレス板の磁気テープ部分に接する表面の光沢値を光沢計(測定角20°ビックガードナー社製)にて測定する。測定した部分に磁気テープが接触するような配置で熱圧プレス加工を行う。同じ鏡面調金属プレス板を用い、同じ位置に磁気テープが接するように熱圧プレス加工を4回繰り返して行い、熱圧プレス加工前に測定した部位の光沢値と4回繰り返し後の同じ場所の光沢値を比較し、光沢値の変化(光沢値の低下度合い)を以下の基準で評価する。
【0056】
プレス加工前の光沢値を100%とした時に、
4回プレス加工後の光沢値が95%以上・・・・・・・・・・◎
95%未満〜93%以上・・・・○
93%未満〜90%以上・・・・△
90%未満・・・・・・・・・・×
尚、評価結果は、4回プレス後の光沢値が100%に近い程(金属プレス板表面の光沢低下度合いが小さい程)、金属プレス板への移行が少なく、移行する滑剤による金属プレス板表面のテープ跡(曇り)が弱い事を表している。
【0057】
上記試験結果を、以下の表1に示した。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示した結果から判るように、ポリエチレン及びPTFEを有する混合物からなるワックス粒子を用いた実施例1〜6では、磁気記録再生特性を損なうことなく、試験項目全てに良好な試験結果が得られた。また、粒子径を小さくすること、シリカ粒子を併用することでより移行性を少なくすることができる。
一方、ポリエチレンワックス粒子のみを使用した場合、比較例1では耐久性は良好であるが、金属プレス板へのワックス成分の移行が著しい。比較例3で使用したポリエチレンは、金属プレスへのワックス成分の移行が少ないものの、このために逆に耐久性が悪化しており、ポリエチレンワックスのみで耐久性と金属プレス板への移行抑制を両立することは困難であることがわかる。
一方PTFE粒子のみを使用した場合、単独使用の比較例2では金属プレス板への移行は低減されるが耐久性が悪化する。シリカ粒子のみを使用した比較例4の場合も、金属プレス板への移行は少ないが、耐久性が改善されない。また、滑剤を添加しなかった比較例7や比較例8では、移行性は良好となるが耐久性は著しく低下する。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の貼合用積層体を用いると、磁気カード等の基体上に磁気ストライプを有する磁気記録媒体を、極めて生産効率良く製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0061】
1 貼合用支持体
2 磁気記録層
3 保護層
4 接着剤層
5 貼合工程を経て作製された磁気カード
6 貼合用積層体を用いて形成された磁気ストライプ
7 貼合用積層体
8 磁気記録媒体用の基体(カード用基体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貼合用支持体上に、少なくとも磁気記録層および保護層を備えた貼合用積層体において、前記保護層がポリエチレン及びポリテトラフルオロエチレンを有する混合物からなるワックス粒子と、バインダー樹脂とを含有することを特徴とする貼合用積層体。
【請求項2】
前記ワックス粒子は、ポリエチレンを主成分とする粒子内に、少なくともポリテトラフルオロエチレン粒子の一部が埋設された複合粒子である請求項1に記載の貼合用積層体。
【請求項3】
前記ポリテトラフルオロエチレン粒子が、非真球状の不定形である請求項2に記載の貼合用積層体。
【請求項4】
前記ワックス粒子の体積平均粒子径が6μm以下であることを特徴とする請求項2または3に記載の貼合用積層体。
【請求項5】
基体上に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の貼合用積層体を積層した磁気記録媒体であって、前記貼合用積層体は、前記保護層にポリエチレン及びポリテトラフルオロエチレンを有する混合物からなるワックス粒子を含有することを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項6】
基体上に磁気記録層及び保護層を積層してなる磁気記録媒体の製造方法であって、貼合用支持体上に磁気記録層及び保護層をこの順に積層した貼合用積層体を用いて、基体上に基体に近い側から接着剤層、貼合用支持体、磁気記録層及び保護層をこの順に形成する工程と、前記貼合用積層体の保護層上より熱圧プレスを行って、前記貼合用積層体を基体中に埋め込む熱圧プレス工程を有し、かつ前記貼合用積層体の保護層は、ポリエチレン及びポリテトラフルオロエチレンを有する混合物からなるワックス粒子を含有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−198714(P2010−198714A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45810(P2009−45810)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】