説明

貼紙防止用塗料組成物、該塗料組成物を含有する塗料液及び塗膜並びに該塗膜の製造方法

【課題】貼紙がし難く、仮に貼紙をしてもそれらを容易に除去できると共に、実用的な耐久性を有する塗料組成物を提供する。
【解決手段】
(A)固形油脂:10〜36質量%および(B)変性シリコン:64〜90質量%を含有する貼紙防止用塗料組成物。
(但し、(A)固形油脂および(B)変性シリコンの合計を100質量%とする。)
本発明の塗料組成物は、対象物への密着性がよく、貼紙の難付着性及び易剥離性などの表面特性を有し、耐久性の高い塗膜を形成することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼紙防止用塗料組成物、該塗料組成物を含有する塗料液及び塗膜並びに該塗膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電柱、建造物の壁面、鉄道の駅ホ−ムなどに貼り付けられた宣伝ビラなどの貼紙が増えており、美観が著しく損ねられている。そして、これらの貼紙を除去するために多大な労力と費用が必要である。
中でも下地がコンクリートや石材などの素材である場合には、目地やひび割れに貼紙の接着剤成分が進入しやすく、これらを除去することが特に困難である。
【0003】
このため、従来から、貼紙を防止(予防)するための手段として、壁面などに貼紙を防止するための塗膜を形成する方法が行われている。
このような貼紙防止用塗膜として、シリコーン系樹脂成分を含有する組成物からなる塗膜(以下、「シリコーン樹脂系塗膜」と称す。)が一般に知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2005−769号公報
【特許文献2】特開昭64−9277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のシリコーン樹脂系塗膜は、高耐候性を有しており、汚れが付着しにくいという利点があるものの、貼紙防止性が十分であるわけではなかった。また、下地との密着性が乏しく、既設の建築物等にそのまま使用することができない場合が多かった。そのため、中間層として特殊な下地膜を必要とするため、作業が複雑となりがちであった。さらに、該塗膜の構成成分を含む塗料液を対象物に塗布した後に、シリコーン樹脂系塗膜の硬化反応を促進するために、重金属触媒を使用する場合が多く、環境への悪影響が問題視されている。
【0006】
かかる状況下、本発明の目的は、貼紙が接着し難く、仮に貼紙をしてもそれらを容易に除去できると共に、実用的な耐久性を有する塗膜を形成できる塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの鋭意研究を重ねた結果、固形油脂と、特定の変性シリコンとの混合比率を好適な一定範囲内とすることにより、均一組成の塗料組成物を得ることができ、該塗料組成物からなる塗膜は、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> (A)固形油脂:10〜36質量%および(B)変性シリコン:64〜90質量%を含有することを特徴とする貼紙防止用塗料組成物。
(但し、(A)固形油脂および(B)変性シリコンの合計を100質量%とする。)
<2> (A)固形油脂が、パラフィンワックスである前記<1>記載の貼紙防止用塗料組成物。
<3> さらに(C)シリコン変性アクリル系ポリオール樹脂を含んでなる前記<1>または<2>記載の貼紙防止用塗料組成物。
<4> さらに(D)天然樹脂を含んでなる前記<1>から<3>のいずれかに記載の貼紙防止用塗料組成物。
<5> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の貼紙防止用塗料組成物を、溶剤に分散してなる塗料液。
<6> 前記<1>から<4>のいずれかに記載した貼紙防止用塗料組成物を含んでなる塗膜。
<7> 前記<5>記載の塗料液を、塗布することを特徴とする貼紙防止用塗膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、塗布対象物への密着性がよく、貼紙の難付着性及び易剥離性などの表面特性を有し、耐久性の高い塗膜を形成可能な貼紙防止用塗料組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、(A)固形油脂:10〜36質量%および(B)変性シリコン:64〜90質量%を含有することを特徴とする貼紙防止用塗料組成物(以下、単に「本発明の塗料組成物」と呼ぶ場合がある。)に係るものである。
以下、本発明の塗料組成物の構成成分を詳細に説明する。
【0011】
[(A)固形油脂]
本発明に用いられる固形油脂(以下、「成分(A)」と称す場合がある。)は、常温において固体あるいは半固体の固形油脂(ワックス)であり、いわゆるパラフィンワックスやマイクロワックスなどの石油系ワックス、天然ワックス、合成ワックスのいずれを用いてもよいが、水中組成物の付着防止に好適な効果が得られ、かつ、入手が容易であるという点でパラフィンワックスが好適である。
パラフィンワックスは、炭素数18〜30程度の直鎖状パラフィン系炭化水素を主成分とする常温において固体あるいは半固体の固形油脂(ワックス)であり、一般に、石油の減圧蒸留留出油から分離精製して製造される。
パラフィンワックスは、通常、その融点で区別され、JIS K 2235では120パラフィン(融点:48.9℃〜51.7℃)から155パラフィン(融点:68.3℃〜71.0℃)まで8種類が規定されている。これらは融点が高温であるほど柔軟性が低下する傾向があり、用途によって、適当な融点を有するものが使用される。市販品としては、日本精蝋株式会社製「PARAFFINWAX」シリーズを好適な例に挙げることができる。
【0012】
[(B)変性シリコン]
本発明に用いられる変性シリコン(以下、「成分(B)」と称す場合がある。)は、オルガノポリシロキサンの末端にアミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、オキシメチレン基などの官能基の1種または2種以上が導入されたものや、側鎖に前記官能基が導入されたもの、または末端と側鎖の両方に前記官能基が導入されたものなどが使用できる。
変性シリコンとしては、市販品の「ワンツーセラ」(大日本塗料株式会社)、「ペンギンシール2550LM」(サンスター技研株式会社)を例に挙げることができる。
【0013】
本発明の塗料組成物における成分(A)及び成分(B)の含有比率は、(A)固形油脂および(B)変性シリコンの合計を100質量%とした場合において、成分(A)が10〜36質量%、成分(B)が64〜90質量%である。このような範囲であると、貼紙の難付着性及び易剥離性などの表面特性を有し、耐久性の高い塗膜を形成することが可能である。そして、特に貼紙の難付着性を向上させるという観点からは、成分(A)及び(B)の含有比率は、成分(A):15〜25質量%、成分(B):75〜85質量%が好適である。
【0014】
本発明の塗料組成物は、成分(A)及び成分(B)以外の特定の成分を含有することにより、貼紙の防止以外の性質を付加することができる。
上記特定の成分として、具体的には、(C)シリコン変性アクリル系ポリオール樹脂、(D)天然樹脂、(E)流動性油脂が挙げられる。
以下、それぞれの成分を含有した場合の作用等について説明する。
【0015】
[(C)シリコン変性アクリル系ポリオール樹脂]
本発明の塗料組成物は、(C)シリコン変性アクリル系ポリオール樹脂(以下、「成分(C)」と称す場合がある。)を配合することにより、インクやペンキの付着を抑制することができ、該組成物からなる塗膜は、落書き防止用塗膜として使用できる。
成分(C)の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で任意に決定され、通常、成分(A)と成分(B)との合計100重量部に対し、10〜60重量部程度であるがこの範囲に限定されるものではない。
本発明で使用されるシリコン変性アクリル系ポリオール樹脂(成分(C))は、一般にポリウレタン樹脂の主成分として使用される樹脂であり、アクリルポリオール樹脂をシリコンで変性した樹脂であり、特に官能基が2から3のアクリルポリオール樹脂をシリコンで変性した樹脂が好適に使用できる。
【0016】
成分(C)として、好適に用いられるシリコン変性アクリル系ポリオール樹脂としては、
(I)アルコキシシリル基含有オルガノポリシロキサンと水酸基含有アクリル樹脂とを脱アルコール反応させてなる縮重合体、
(II)オルガノポリシロキサン鎖と重合性不飽和基を有するポリシロキサンマクロモノマーと他の重合性不飽和単量体との共重合体、
などを挙げることができる。
【0017】
シリコン変性アクリルポリオールは、水酸基価が20〜100mgKOH/gの範囲内にあり、数平均分子量が10,000〜50,000の範囲内にあることが好適である。
シリコン変性アクリルポリオールとしては、市販品として、ケシゾー(主剤)(川上塗料株式会社製)を好適な一例に挙げることができる。
【0018】
なお、上記成分(C)は、本塗料組成物からなる塗膜に柔軟性、機械的強度および耐久性を付与するものであるが、この塗膜の柔軟性(硬度)を調整するために次の方法を必要に応じ追加することができる。
(1)ポリオール樹脂と反応しウレタン結合を形成するイソシアネート成分を添加する。
この方法により、塗膜の硬度を上げることができる。
(2)可塑剤を添加する。
この方法により、塗膜の硬度を下げることができる。
【0019】
上記(1)のイソシアネート成分は、成分(C)の硬化剤としてはたらくものであり、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート類;水素添加キシリレンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)などの環状脂肪族ジイソシアネート類;トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネ−ト、ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート類などが挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0020】
イソシアネート成分の添加量は、本発明の塗料組成物に含まれる成分(C)の種類や量により、また、塗膜の目的とする硬度によって、適宜選択されるが、通常、(成分(C)100重量部に対して、1〜30重量部程度である。
【0021】
上記可塑剤としては、本発明の塗料組成物に相溶性があるものであれば特に制限がなく、シリコーン系エラストマー、DOA(ジオクチルアジペート)やDOP(ジオクチルフタレート)などを挙げることができる。可塑剤の添加量は、ポリオール樹脂(100重量部)に対し、通常、0.5〜20重量部、好ましくは1〜10重量部である。
【0022】
[(D)天然樹脂]
本発明の塗料組成物は、基材(塗布対象物)との密着性を高め、機械的強度を向上させるという観点から、(D)天然樹脂(以下、成分(D)と称す場合がある。)を含有することが好ましい。成分(D)を含有することによって、本発明の塗料組成物を、水性塗料、油性塗料で前被覆された塗装面や、亜鉛めっき、アルミニウムやステンレスなど金属基材など、塗膜が接着しづらく、特に塗膜との密着性が求められる基材に対して好適に使用することができる。
成分(D)の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で任意に決定される。好適には、成分(A)と成分(B)との合計100重量部に対し、1〜30重量部以下の範囲である。成分(D)が、成分(A)と成分(B)との合計100重量部に対し、1重量部未満の場合には、基材との密着性を向上させる効果が不十分である場合があり、30重量部を超える場合には、成分(D)が均一な塗料組成物を製造することが困難となる場合がある。
【0023】
成分(D)として、具体的には、クマロン・インデン系樹脂、テルペン系樹脂、テルペン・フェノール系樹脂、芳香族炭化水素変性テルペン系樹脂、テルペン系水素添加系樹脂、テルペン・フェノール系水素添加系樹脂、ロジン系樹脂、水素添加ロジンエステル系樹脂、ロジン変性フェノール系樹脂、アルキルフェノール系樹脂などが挙げられる。
この中でも、他の成分との相溶性がよく、塗膜が硬化した後に適度な硬度を有することができることから、少なくとも構成成分にロジンを含有する、ロジン系樹脂、水素添加ロジンエステル系樹脂、ロジン変性フェノール系樹脂が好適に使用される。
なお、成分(D)を溶解する溶媒は、成分(D)を溶解できれば特に限定はなく、好適な一例として酢酸ブチルを挙げることができる。
【0024】
なお、成分(D)は、溶媒への溶解性が小さい場合が少なくないため、溶解性を高めるために、成分(D)を溶媒に溶解させる場合には、相溶化剤として、直鎖飽和脂肪酸または直鎖不飽和脂肪酸から選ばれた1種以上の脂肪酸およびこれらの塩(以下、「成分(D’)」と称す場合がある。)を含むことが好ましい。
成分(D’)のうち、直鎖飽和脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸等が挙げられる。直鎖不飽和脂肪酸としては、ゾーマリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ガドレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸等が挙げられる。また、相溶化剤として、上記の直鎖飽和脂肪酸または直鎖不飽和脂肪酸から選ばれた1種以上を直接添加することもできる。
【0025】
上記成分(D’)の混合割合は、成分(D)が分離することなく溶解する範囲であればよく、特に制限はないが、通常、成分(D)に対して、20〜300重量部、好適には50〜150重量部である。
【0026】
[(E)流動性油脂]
また、本発明の塗料組成物は、(E)流動性油脂(以下、成分(E)と称す場合がある。)を含有することができ、これにより本発明の塗料組成物をゲル状体とすることができる。成分(E)としては、成分(A)と成分(B)と相溶性を有するものを使用することができ、流動性パラフィンが好適である。
成分(E)の混合割合は、本発明の塗料組成物が分離することなく溶解する範囲であればよく、特に制限はないが、通常、成分(A)と成分(B)の合計100重量部に対して、10〜400重量部、好適には、50〜200重量部である。
【0027】
なお、本発明では上記の成分(C),(D)及び(E)のほかに、必要に応じて従来公知の他の付加的成分を添加してもよい。
例えば、相溶化剤、顔料、湿潤剤、可塑剤、反応促進剤、タレ止め剤、沈澱防止剤、塗面調整剤などの塗料用添加剤が挙げられる。
これらの他の付加的成分の含有量には、本発明の目的を損なわない範囲において、特に制限はないが、通常、成分(A)及び(B)の合計を100重量部としたときに、30重量部以下であり、好ましくは10重量部以下であり、特に好適には3重量部以下である。30重量部より多量に含有すると、塗膜の貼紙防止性が著しく低下したり、塗膜にワレ、ハガレを生じたりする傾向がある。
【0028】
本発明の塗料組成物は、溶媒中あるいは溶媒非存在下で攪拌することにより合成することができるが、通常、溶媒に分散して塗料液(以下、「本発明の塗料液」と呼ぶ場合もある。)として使用される。製造する際の各成分の配合順序は任意である。
【0029】
溶媒としては、本発明の塗料組成物を分散できる溶媒であればよく、具体的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸類;
メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール等のアルコール類;ジグライム、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ジアリルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル類;
N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;
シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン等の芳香族炭化水素類;
ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;
酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、蟻酸エチル、プロピオン酸ブチル、メトキシプロピルアセテート、γ−ブチロラクトン、ジ(n−オクチル)フタレイト等のエステル類;
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等を挙げることができ、これらは1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。
この中でも、本発明の塗料組成物の安定性を高め、塗装作業性や塗膜乾燥性が好適になるという観点からは、溶媒として、脂肪族炭化水素類を含むことが望ましい。脂肪族炭化水素類としては、ヘキサンが好適である。また、本発明の塗料組成物が、成分(A)及び(B)以外にも、成分(C),(D)及び(E)などの他の成分を含有する場合には、溶解性向上の観点からは、さらにエステルを含むことが好ましい。エステル類としては、酢酸ブチルが好適である。
【0030】
本発明の塗料液における固形成分(本発明の塗料組成物、成分(A)及び(B)以外も含む)と溶媒との比率は、固形成分が均一に溶解する範囲であればよい。塗布作業性がよく、均一な塗膜を得ることができるという観点からは、固形成分と溶媒との比率が、1〜70/30〜99(重量比)であることが好ましい。
【0031】
本発明の塗料液を塗布する対象物としては、特に限定はなく、金属、樹脂ならびにコンクリートや石材を始めとする無機材料などいずれの材料でもよいが、コンクリートやモルタルなどの素地に好適である。
なお、本発明の塗料液はたとえ表面の塗膜が多少摩耗したり、傷つけられたとしても貼紙防止性が保たれる。
【0032】
本発明の塗料液の塗布対象物への塗布方法は特に限定されず、対象となる塗布対象物の特性を考慮し、従来公知の塗布方法で行うことができる。例えば、スプレー塗装法、ロール塗装法、刷毛塗り塗装法、バーコーター塗装法などを適宜採用することができる。
また、本発明の効果(貼紙防止効果及び他成分を添加したときの付加的効果)は、本発明の塗料組成物が、塗膜の表面層に形成されていれば発現するため、表面層以外の下地層は、種類の異なる塗料組成物(本発明の塗料組成物以外のものも含む)を使用してもよい。例えば、ゲル状体を形成する成分(E)を含有する塗料組成物を塗布対象物にプレコートしたのちに、成分(E)を含有しない塗料組成物を塗布して塗膜を形成することもできる。
【0033】
本発明の塗料液を塗布対象物に塗布した後の塗膜の乾燥時間は、本発明の塗料液における組成および塗布量で変化するが、少なくとも塗布後10分以上60分以下にすることが可能である。乾燥時間を10分以上にすることで、塗膜の流動性が十分な時間保たれ、特別なレベリング処理をしなくとも平坦で均一な膜厚の連続膜を形成できる。乾燥時間を60分以下にすることで、液だれなどの問題を防ぐことができる。
なお、成分(D)は、塗料組成物自体の結合性を強める作用を有すため、本発明の塗料組成物を低濃度(固形分濃度:1〜10質量%程度)で含む塗料液を使用した場合における成膜性を向上させることができる。そのため、揮発性の高い溶媒を使用することによって、速乾性で作業効率がよく、塗布後ただちに効果を発揮する速乾性塗布液として好適に使用することができる。
【0034】
塗膜の硬化時間は、本発明の塗料液における組成および塗布量で変化するが、通常、常温下においては1日程度で硬化する。
【0035】
本発明の塗膜の膜厚は、本発明の効果を得ることができれば特に限定されるものではなく、通常、1〜200μm程度、平滑な塗膜を形成するという観点からは、好ましくは10〜100μm程度の厚みが挙げられる。
本発明の塗膜は、塗料組成物の組成や乾燥時間などにもよるが、1B程度の硬度を有する。そのため、傷つきづらく、塗膜が剥離しにくい。
【0036】
本発明の塗膜は、従来公知の剥離剤を用いて簡単に剥離することができる。
そのため、何からの理由で施工が失敗し、塗膜にひび割れ、白濁などが生じた場合や使用後に塗膜を剥離し、再施工することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中「部」、「%」は重量を基準として示す。
【0038】
実施例に使用した材料は、以下のとおりである。

成分(A):固形油脂(パラフィン)
日本精蝋株式会社製「PARAFFINWAX」
成分(B):変性シリコン
サンスター技研株式会社「ペンギンシール2550LM」
成分(C):シリコン変性アクリル系ポリオール樹脂
川上塗料株式会社製「ケシゾー(主剤)」
(固形分62%、酢酸ブチル34%、添加剤4%)
成分(D):天然樹脂
ハリマ化成株式会社「ロジン」

溶媒(a):炭化水素系溶剤
新日本石油化学株式会社製 「ノルマルヘキサン」
(ノルマルヘキサン60%、メチルペンタン8%、 メチルシクロペンタン30%、他の炭化水素2%)
溶媒(b):エステル系溶剤
酢酸ブチル
【0039】
「実施例1」
(1)塗料液1の作製
適当量の溶媒(a)を入れた混合用容器に、成分(A)及び成分(B)を下記表1の組成になるように入れ、室温で均一になるまで混合することによって、塗料液1を得た。
【0040】
(2)試料基板1の作製
モルタル製基板(100×100×20mm)上に、製造した塗布液1を乾燥膜厚が20〜30μmとなるよう刷毛塗りで塗布し、1日間室温で乾燥後することで塗膜を形成したものを試料基板1とした。
【0041】
「実施例2」
(1)塗料液2の作製
溶媒(a):溶媒(b)=8:1(重量比)に調整した適当量の混合溶媒を入れた混合用容器に、成分(A)、成分(B)及び成分(C)を下記表1の組成になるように入れ、室温で均一になるまで混合することによって、塗料液2を得た。
【0042】
(2)試料基板2の作製
実施例1と同様の基板上に、製造した塗布液2を乾燥膜厚が20〜30μmとなるよう刷毛塗りで塗布し、1日間室温で乾燥後することで塗膜を形成したものを試料基板2とした。
【0043】
「実施例3」
(1)塗料液3の作製
溶媒(a):溶媒(b)=50:1(重量比)に調整した適当量の混合溶媒を入れた混合用容器に、成分(A)、成分(B)及び成分(D)を下記表1の組成になるように入れ、室温で均一になるまで混合することによって、塗料液3を得た。
【0044】
(2)試料基板3の作製
実施例1と同様の基板上に、製造した塗布液3を乾燥膜厚が20〜30μmとなるよう刷毛塗りで塗布し、1日間室温で乾燥後することで塗膜を形成したものを試料基板3とした。
【0045】
「比較例1」
(1)塗料液4の作製
適当量の溶媒(a)を入れた混合用容器に、成分(A)及び成分(B)を下記表1の組成になるように入れ、室温で均一になるまで混合することによって、塗料液4を得た。
【0046】
(2)試料基板4の作製
実施例1と同様の基板上に、製造した塗布液4を乾燥膜厚が20〜30μmとなるよう刷毛塗りで塗布し、1日間室温で乾燥後することで塗膜を形成したものを試料基板4とした。
【0047】
「比較例2」
(1)塗料液5の作製
適当量の溶媒(a)を入れた混合用容器に、成分(A)及び成分(B)を下記表1の組成になるように入れ、室温で均一になるまで混合することによって、塗料液5を得た。
【0048】
(2)試料基板5の作製
実施例1と同様の基板上に、製造した塗布液5を乾燥膜厚が20〜30μmとなるよう刷毛塗りで塗布し、1日間室温で乾燥後することで塗膜を形成したものを試料基板5とした。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例1〜4および比較例1,2の評価は、次の条件で行った。結果を表2に示す。
【0051】
<貼紙防止試験>
本発明の塗料組成物からなる塗膜面(塗布1日後)に対して、市販の接着剤(メーカー名、品番など)を塗布した貼紙(ポスター用紙)を手でこすりつけて付着させ、ポスターの付着性、剥離性を以下の基準にて評価した。結果を表2に示す。
○:貼紙が付着しないか、付着してもポスター用紙を破らないで、手で容易に剥離できる。
△:手で剥離する際にポスター用紙がやぶれるが、完全に剥離することができる。
×:手で剥離すると貼紙が破れ、貼紙の痕跡が残存する。
【0052】
<落書き防止試験>
油性インクを使用して、本発明の塗料組成物からなる塗膜面に落書きを行い、インクの付着性を以下の基準にて評価した。結果を表2に示す。
○:インクが玉になる。
△:かすれる
×:完全に付着する
【0053】
<接着性>
JIS K5600−5−6(1999)に準拠して、以下の基準(クロスカット法)にて評価した。結果を表2に示す。
カット数:11個
カットの間隔:1mm
基板:モルタル板
評価:付着テープを取り外した直後のマス目残存数

(表2における基準)
○:マス目残存数が10個以上
△:マス目残存数が8個以上
×:マス目残存数が8個未満
【0054】
<耐久性(促進耐候性)>
JIS K5600−7−7(1999)に準拠して、以下の基準(キセノンランプ法)にて評価した。
照射条件
ブラックパネル温度:63℃
湿潤サイクル試験:サイクルA
スペクトル分布:方法1
照射時間:3000時間
基板:モルタル板

(表2における基準)
○:膨れ、剥がれ、割れ及び変色が認められない。
△:膨れ、剥がれ、割れ及び変色が若干認められる。
×:膨れ、剥がれ、割れ及び著しい変色が明らかに認められる。
【0055】
【表2】

【0056】
実施例1及び実施例4については、以下の評価を行った。結果を表3に示す。なお、基板はモルタル板を使用した。
【0057】
<膜厚測定>
JIS K5600−1−7(1999)に準拠して、磁気法にて測定した。
基板:モルタル板
【0058】
<粘度>
JIS K7117−1(1999)に準拠して、ブルックフィールド形回転粘度計による見かけ粘度の測定方法の附属書1 SB形粘度計による粘度の測定方法にて測定した。
但し、ローターはBLアダプタを用いた。
スピンドルの回転数:60min-1
試験温度:20±0.2℃
【0059】
<蒸発速度>
試料をピペットにより、試料量が約0.7gになるように濾紙の上にできるだけ均一に滴下し、試料重量の経時変化を記録した。試料重量が80%に減少したときの時間を試料の蒸発速度とした。
試験温度:23±2℃
試験湿度:50±5%RH
濾紙:No.5A
【0060】
<硬化乾燥性>
JIS K5600−1−1(1999)に準拠して、常温乾燥により、20分後の塗面の乾燥状態を調べ、硬化乾燥性(時間)を求めた。
基板:モルタル板
【0061】
<塗料組成物の浸透深さ>
塗膜を形成したモルタル板を割裂して、その断面に1%フェノールフタレイン/アルコール溶液を噴霧して、赤変していない部分を塗料組成物の浸透深さとした。
基板:モルタル板
【0062】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の塗料組成物は、貼紙がし難く、仮に貼紙をしてもそれらを容易に除去できると共に、実用的な耐久性を有する塗膜を提供することができるため、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)固形油脂:10〜36質量%および(B)変性シリコン:64〜90質量%を含有することを特徴とする貼紙防止用塗料組成物。
(但し、(A)固形油脂および(B)変性シリコンの合計を100質量%とする。)
【請求項2】
(A)固形油脂が、パラフィンワックスである請求項1記載の貼紙防止用塗料組成物。
【請求項3】
さらに(C)シリコン変性アクリル系ポリオール樹脂を含んでなる請求項1または2記載の貼紙防止用塗料組成物。
【請求項4】
さらに(D)天然樹脂を含んでなる請求項1から3のいずれかに記載の貼紙防止用塗料組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の貼紙防止用塗料組成物を、溶剤に分散してなる塗料液。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載した貼紙防止用塗料組成物を含んでなる貼紙防止用塗膜。
【請求項7】
請求項5記載の塗料液を、塗布することを特徴とする貼紙防止用塗膜の製造方法。

【公開番号】特開2011−153256(P2011−153256A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16923(P2010−16923)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(597033982)
【Fターム(参考)】