説明

質感を表現した素材の製造方法及び絵画の製作方法、質感を表現した素材及び絵画、建築用材料

【課題】 絵画が描かれた岩等と同様の質感(マチエール)を紙・布等のような薄く軽量な素材を用いて表現及び形成すること。
【解決手段】 工程C−2は、和紙若しくは他の紙又は布を用いた支持体に、胡粉若しくは白色系顔料又は他の顔料又は染料を、膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、下塗りを施す工程である。工程C−5は、表現する岩又は素材又は基底材の版下を製版したスクリーンを用い、岩絵具を膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、糊又は増粘剤を加えたものをインクとし、シルクスクリーン印刷する工程である。工程C−7は、岩絵具を膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、塗布した後、表現する岩又は素材又は基底材の表情をつけるため、ブラシでたたき込むことで上塗りを施す工程である。質感を表現した素材が製造され、さらに質感を表現した絵画を製作することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質感を表現した素材の製造方法及び絵画の製作方法、質感を表現した素材及び絵画、建築用材料に係り、特に、オリジナルの基底材等の素材の質感を表現した素材の製造方法及び絵画の製作方法、質感を表現した素材及び絵画、質感を表現した素材・絵画を用いた建築用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、東洋絵画は紙や布という脆弱な素材に描かれている。また、壁画や板絵、天井や床の絵等の建造物の一部となっている絵画は、外気等による劣化を防ぐことは難しく、さらに、移動させることも難しい。そこで、そのような絵画を後世に残すための手段として、模写や複製が行われる。現在では、写真、印刷、コンピュータ技術の発展により、原画を再現する努力や作品の現状を記録する努力がなされている。
以下に、従来文献を挙げる。
特許文献1では、博物館・美術館等における展示や、大型店舗・室内等の建装材料、ディスプレイ材料として利用される壁画用印刷紙を用いた壁画が記載されている。
特許文献2では、熱可塑性樹脂基材の上に、石目柄層、透明又は半透明の樹脂層が順に積層され、石目柄層と樹脂層との界面に、溝状凹凸模様を有する化粧シート及びその製造方法が記載されている。
特許文献3では、金属箔装飾が施された複製すべき古画のデジタル画像データを用いる金属箔による装飾が施された古画の複製方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2646787号公報
【特許文献2】特開平8−52849号公報
【特許文献3】特開2006−150929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
岩や石・土等(以下、「岩等」という。)でできた支持材・基底材の上に直接描かれた壁画や、天井、床、塀、屋根、窓、扉、柱、梁、枠等の建築物に描かれた絵画の模写を行う際、オリジナルと模様や色がまったく同じ岩等を用意することは困難である。その上大きい画面を必要とすると、岩等が衝撃などで割れないようにするために、十分な厚さが必要となってしまい、非常に重たくなってしまう。従来、これらの理由により岩等に直接描かれた壁画等の絵画の模写・複製の場合、小さい画面でトリミングして描くことしかできず、絵画の規模や造形を表現することができなった。また、従来は、例え小さな画面で描いたとしても軽量化には限界があり、取り扱い・運搬・展示などに支障をきたしていた。
本発明は、以上の点に鑑み、絵画が描かれた岩等と同様の質感(マチエール)を紙・布等のような薄く軽量な素材を用いて表現及び形成することを目的とする。また、本発明は、岩等に描かれた絵画をオリジナルと同様の質感(マチエール)で模写・複製・描写することを目的とする。さらに、本発明は、形成された基底材等の素材を用いた建築用材料、又は、その基底材等の素材上に複写・複製・描写等により製作された絵画を用いた建築用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の解決手段によると、
和紙若しくは他の紙又は布を用いた支持体に、胡粉若しくは白色系顔料又は他の顔料又は染料を、膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、下塗りを施す工程と、
表現する岩又は素材又は基底材の版下を製版したスクリーンを用い、第1の岩絵具を膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、糊又は増粘剤を加えたものをインクとし、シルクスクリーン印刷する工程と、
第2の岩絵具を膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、塗布した後、表現する岩又は素材又は基底材の表情をつけるため、ブラシでたたき込むことで上塗りを施す工程と、
を含む質感を表現した素材の製造方法が提供される。
【0006】
本発明の第2の解決手段によると、
上述のような質感を表現した素材の製造方法により作成された基底材を用いて、
インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、表現する岩又は素材又は基底材の写真データをカラー印刷する工程と、
インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、表現する岩又は素材又は基底材の上に描かれた絵画の写真データをカラー印刷及び/又は手彩色する工程と、
を含む質感を表現した絵画の製作方法が提供される。
【0007】
本発明の第3の解決手段によると、
上述のような質感を表現した素材の製造方法により作成された基底材を用いて、
インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、表現する素材又は基底材と絵画の両方を含む写真データをカラー印刷及び/又は手彩色する工程と、
を含む質感を表現した絵画の製作方法が提供される。
【0008】
本発明の第4の解決手段によると、
和紙若しくは他の紙又は布を用いた支持体に、胡粉若しくは白色系顔料又は他の顔料又は染料を、膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、下塗りを施す工程と、
表現する岩又は素材又は基底材の版下を製版したスクリーンを用い、第1の岩絵具を膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、糊又は増粘剤を加えたものをインクとし、シルクスクリーン印刷する工程と、
第2の岩絵具を膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、塗布した後、表現する岩又は素材又は基底材の表情をつけるため、ブラシでたたき込むことで上塗りを施す工程と、
により製造された質感を表現した素材が提供される。
【0009】
本発明の第5の解決手段によると、
和紙若しくは他の紙又は布を用いた支持体と、
胡粉若しくは白色系顔料又は他の顔料又は染料を、膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、下塗りを施した第1の層と、
表現する岩又は素材又は基底材の版下を製版したスクリーンを用い、第1の岩絵具を膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、糊又は増粘剤を加えたものをインクとし、シルクスクリーン印刷された第2の層と、
第2の岩絵具を膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、塗布した後、表現する岩又は素材又は基底材の表情をつけるため、ブラシでたたき込むことで上塗りが施された第3の層と、
を含む質感を表現した素材が提供される。
【0010】
本発明の第6の解決手段によると、
上述のような質感を表現した素材を用いて、
前記基底材の上に、
インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、表現する岩又は素材又は基底材の写真データをカラー印刷し、
さらに、インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、表現する岩又は素材又は基底材の上に描かれた絵画の写真データをカラー印刷及び/又は手彩色すること
により製作された質感を表現した絵画が提供される。
【0011】
本発明の第7の解決手段によると、
上述のような質感を表現した素材を用いて、
前記基底材の上に、インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、表現する素材又は基底材と絵画の両方を含む写真データをカラー印刷及び/又は手彩色することにより製作された質感を表現した絵画が提供される。
【0012】
本発明の第8の解決手段によると、
上述のような質感を表現した素材を用いた建築用材料、又は、上述のような質感を表現した絵画を用いた建築用材料が提供される。

【発明の効果】
【0013】
一般に、岩等を砕くことによって製造されている岩絵具という、岩等と同素材の絵具を、本発明によると、和紙に使用して製作するため、本物の岩等と同様の質感が非常に軽く且つ薄く表現することができる。また、本発明によると、シルクスクリーンとインクジェット機等のプリンタで印刷をするため、表現したい岩等の写真データを用意することができれば、いかなる種類・模様・色の岩等であっても製作が可能である。このことにより、本発明によると、あらゆる種類の岩等を巻いて持ち運ぶことができるようになり、利用や移動・運搬・展示などを容易にすることができる。
本発明によると、上述のように製作された基底材・支持体の上に原画等の絵をさらにシルクスクリーンとインクジェット機等のプリンタで印刷をするため、表現したい絵画の写真データを用意することにより、オリジナルを模写・複製することが可能である。
さらに、本発明によると、形成された基底材等の素材を用いた建築用材料、又は、その基底材等の素材上に複写・複製・描写等により製作された絵画を用いた建築用材料を提供することができる。

【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施の形態の基底材等の素材の製造工程を表す流れ図。
【図2】本実施の形態の基底材等の素材の断面図。
【図3】本実施の形態の基底材等の素材の各製造工程により形成される表面の説明図。
【図4】顔料、岩絵具等の概念参考図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.質感を表現した素材・絵画の製造工程
図1に、本実施の形態の基底材等の素材の製造工程を表す流れ図を示す。
図2に、本実施の形態の基底材等の素材の断面図を示す。
図3に、本実施の形態の基底材等の素材の各製造工程により形成される表面の説明図を示す。なお、図3は、質感を表現するのには、電子出願による提出図面では十分表現されない可能性もあると想定されるので、図3と同一の鮮明な色彩写真及び見本を物件提出書で提出する。記号は図2と図3では、同じものを示す。
以下、図2、図3を参照しつつ、図1に従って、基底材等の素材の製造方法についての各工程を順に説明する。
【0016】
A.本紙(支持体)の準備
[A−1:本紙(ヘ)]
本紙(支持体)には、例えば、白麻紙3号等の和紙を用意する(図2及び図3(ヘ))。本紙(支持体)には、和紙以外にも、その他の紙や、麻・絹等の布なども用いることができる。和紙としては、この他にも、例えば、雲肌麻紙、土佐麻紙、神郷紙、栖鳳紙、鳥子紙等の適宜の和紙を用いることができる。なお、本実施の形態でいう「和紙」には、たとえば、日本で漉いた紙、国産の材料を使用した紙などの他に、一般に和紙として販売されている中国の紙や韓国等の紙も含むことができる。
【0017】
[A−2:ドーサ]
にじみ止めのため、本紙(支持体)の表側にドーサを一度以上引く。この工程は本紙(支持体)のにじみ止めの役割があり、広義の意味ではサイジング、にじみ止めと呼ばれる。ドーサが、一度で効かない場合、二度目は裏側に引くとよい。ドーサは、本紙(支持体)によって、配合物質や割合は異なる。
ドーサは、例えば、水と、三千本膠等の膠と、生明礬等の明礬との水溶液で作ることができる。例えば、本紙(支持体)表側に、「水800cc+三千本膠15g+生明礬3g」の水溶液を用いることができる。なお、「膠」は、三千本以外の膠でも可能であるが、水溶液を作る際のパーセンテージが異なる。
なお、この工程は、もともとドーサ(サイジング)が施してある紙であれば省略してもよい。
【0018】
[A−3:裏打ち(ト)]
補強のため本紙(支持体)の裏面に接着剤で紙を貼り裏打ちをする(図2及び図3(ト))。
接着剤としては、小麦粉澱粉糊等の糊を用いることができる。例えば、本紙(支持体)に小麦粉澱粉糊と細川紙(4匁)を用いて裏打ちを二度施す。裏打ちの回数は一度でも、三度以上でもよい。裏打ちに使用される紙は、例えば、楮を主な原料とした和紙を用いることができる。裏打ちに使用される紙は、この他に、例えば、薄美濃紙、八女紙等適宜のものを用いることができる。
なお、この工程は、非常に強い支持体であれば省略してもよい。
【0019】
B.パネルの準備
[B−1:パネル]
木製パネルを用意する。
【0020】
[B−2:べた貼り]
木製、プラスチック等のパネルに、接着剤でパネルと同程度の大きさの新鳥の子紙等の紙をべた貼りする。ここで接着剤は、例えば、小麦粉澱粉糊等の糊を用いることができる。
この工程でべた貼りする紙は、主に、木製パネルのヤニを防ぐためのものなので、どんな紙を使用してもかまわない。例えば、新鳥の子紙は、パルプを大量に含んでいて機械で製造されているので、和紙というよりは洋紙に近く、安価である。また、紙の大きさは本紙(支持体)を貼りこむパネルの大きさと同じものが望ましい。
【0021】
C.質感表現の製作工程
[C−1:べた貼り]
パネルに、本紙(支持体)を、繊維素グリコール酸ナトリウム又はCMC等の増粘剤の水溶液でべた貼りする。これは、主に、本紙(支持体)が水分を吸収した際にパネルから浮き上がるのを防ぐためである。例えば、工程A−3により、木製パネルに裏打ちした本紙(支持体)(以下、単に本紙(支持体)という場合がある。)をT.P.T.の水溶液でべた貼りし、本紙(支持体)が水分を吸収した際にパネルから浮き上がるのを防ぐ。なお、T.P.Tは商品名で、正式名称は「Sodium Carboxymethyl Cellose」、日本語名は「繊維素グリコール酸ナトリウム」であり、一般にCMCと呼ばれている(http://www.gotoku.co.jp/tpt.html参照)。
【0022】
[C−2:下塗り(ホ)]
和紙を用いた本紙(支持体)に、白色系顔料を膠等の接着剤の水溶液で、下塗りを施す(図2及び図3(ホ))。白色系顔料は、胡粉を用いることができる。例えば、胡粉を三千本膠15%の水溶液で溶き、さらに水を加え、本紙(支持体)全体に下塗りを施す。この下塗りの工程は、主に、以下の工程C−5で使用する絵具の接着力を高めるための工程であるが、色合いを出すこともできる。通常、日本画の絵具を使用した制作では、粒子の細かい絵具を先に塗ってから、粒子の粗い絵具を使用したほうが接着力もよく発色もよいとされている。
【0023】
[C−3:ドーサ]
顔料の下塗りを堅牢にするため、ドーサを引く。
例えば、「水1000cc+三千本膠15g+生明礬3g」の水溶液(ドーサ)を引き、胡粉の下塗りを堅牢にする。
工程A−2と工程C−3、C−6ではドーサの役割が異なる。工程C−3、C−6のドーサは、一度塗布した絵具が次の作業で水分を加えたときに再び動くことがないように顔料を固定するための工程である。 塗布した顔料が堅牢であれば省略してもよい。
【0024】
[C−4:地塗り(ニ)]
表現すべき岩等の材質・模様・色に応じて質感(マチエール)が同様となるように表現するための顔料を、膠又はフノリ等の接着剤で溶き、下塗りを施した本紙(支持体)に地塗りを施す(図2及び図3(ニ))。例えば、黒雲母(粗)をフノリで溶き、全体に施す。使用する顔料は表現したい岩等の材質や模様・色などにより異なる。黒雲母は、花崗岩を表現したい場合に使用することができる。これは、本物の花崗岩中に実際に黒雲母が入っているためである。他の岩等を表現する際には、その岩等を構成する(含まれる)物質・材料・鉱物・岩を用いることができる。緑色系では、例えば、焼緑青を用いることができる。その他、青色系、緑色系、赤色系、黄色系、紫色系等の適宜の天然岩絵具等の岩絵具や他の顔料を用いることができる。
また、場合によっては、この工程を省いてもよい。
【0025】
[C−5:シルクスクリーン印刷(ハ)]
スクリーンを枠に紗張りし、乳剤を塗布及び乾燥させた後、表現する素材又は基底材の版下を感光して製版する。次に、製版されたスクリーンを用い、鉱物を砕いて作った天然岩絵具等の岩絵具を接着剤の水溶液で溶いて水を加え、増粘剤を加えてゲル化させたものをインクとし、シルクスクリーン印刷する(図2及び図3(ハ))。例えば、#200のテトロンをアルミ製の枠に紗張りし乳剤を塗布、乾燥させた後、表現する岩等の版下を感光して製版することができる。これを用い、岩絵具の方解末9番を三千本膠20%水溶液で溶いて少量の水を加えた上、小麦粉澱粉糊を加えてゲル化させたものをインクとし、印刷することができる。なお、シルクスクリーンの製作には、例えば、白黒写真(画像)を用いたり、その他適宜の色を抽出した写真(画像)を用いることができる。また、パソコンや画像処理ソフトウェア等により所望の色の画像を抽出することも可能である。

工程C−5と、後述する工程C−7で使用する天然岩絵具等の岩絵具としては、この実施の形態では、(i)岩を砕いて作られる岩絵具が使用されていること、(ii)岩絵具の粗い粒子であること、(iii)後の工程(C−8、C−9)でインクジェットでカラー印刷するため、そのベースとなる白い絵具であること、を満足するものが好ましい。 そのため、岩絵具としては、方解末等の天然岩絵具や、それ以外にも、水晶末等の天然岩絵具、人工鉱石を砕いて作った岩白等の新岩絵具などの顔料でも代用ができる。使用する岩絵具の粒子の粗さについては、岩絵具は、9番前後等の粗いものを用いることができるが、この番号は、絵具メーカーごとに粒子の荒さが統一されているわけではなく、少し粒子の質感を感じる粗さであれば何番でも代用できる。ただ使用する岩絵具の荒さが変わると、相性の良いシルクスクリーンのメッシュが変わる場合がある。
【0026】
図4に、顔料、岩絵具等の概念参考図を示す。これは各用法についての上位・下位概念を参考までに示した一例であり、必ずしもこれに限定されない。

岩絵具をシルクスクリーンで印刷できるようにするためのインクの調節には、例えば、増粘剤を添加すること等により工夫することができる。増粘剤は、粒子のある岩絵具を膠水で溶いたときに下に沈んでしまうのを防ぐために使用される。増粘剤には、例えば、小麦粉澱粉糊の他、CMC・フノリ等の糊など様々なものを用いることができる。
シルクスクリーンに関しては、材料として以下のものが例示される。 枠:アルミ製、木製 スクリーン:テトロン、ナイロン、絹、ステンレス(番号等はhttp://www.echonet.co.jp/Pages/screen.html参照。) 他にも感光乳剤やスキージーなど細かい道具・手法を用いてもよい。 シルクスクリーン印刷のとき、同じ版を複数回印刷することで、表現したい凹凸の度合いを変化させることができる。
【0027】
[C−6:ドーサ]
シルクスクリーン印刷によって印刷した天然岩絵具等の岩絵具を堅牢にするため、ドーサを引く。 ドーサは、例えば、水と、三千本膠等の膠と、生明礬等の明礬の水溶液で作ることができる。この工程のドーサは、一度塗布した絵具が次の作業で水分を加えたときに再び動くことがないように顔料を固定するためのものである。例えば、再び、「水1000cc+三千本膠15g+生明礬3g」の水溶液(ドーサ)を引き、シルクスクリーン印刷によって印刷した方解末を堅牢にすることができる。 なお、この工程は、塗布した顔料が堅牢であれば省略してもよい。
【0028】
[C−7:上塗り(ロ)]
天然岩絵具等の岩絵具を接着剤の水溶液で溶いて水を加え、全体に塗布した後、岩の表情をつけるため、ブラシでたたき込む等により、上塗りする(図2及び図3(ロ))。この工程は手動でも自動でもよい。工程C−7で用いる天然岩絵具等の岩絵具は、工程C−5で説明したものと同様のものを用いることができる。例えば、方解末、水晶末等の天然岩絵具や、岩白等の新岩絵具などの顔料を用いることができる。
具体的には、例えば、方解末9番を三千本膠20%水溶液で溶いて水を加え、全体に塗布した後、棕櫚のブラシ等のブラシでたたき込むことによって岩の表情をつけることができる。
【0029】
[C−8:インクジェット印刷(イ)]
べた貼りしたパネル又は他の台紙等が施されている場合、パネル又は他の台紙等から、箆等を差し込んで本紙(支持体)を取り外す。インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インク等のインクを用いて、表現したい岩等の模様の写真データをカラー印刷する(図2及び図3(イ))。
このようにして、質感が表現された基底材等の素材が製作される。
【0030】
[C−9:絵製作]
基底材等の素材の上に、インクジェットプリンタ又は他のプリンタで、絵に使用された鉱物・着色材料・絵具等の顔料インク、天然岩絵具等の岩絵具などのインクを用いて、表現された絵画の写真データをカラー印刷する。さらに、岩絵具等の顔料を用いて手彩色してもよい。また、プリンタによる印刷をせずに、手彩色等の適宜の手法により絵を描写してもよい。
このようにして、絵画が、基底材等の素材上に表現される。
【0031】
2.変形例
(1)工程B−1、2と工程C−1の工程は、シルクスクリーンを使用して和紙等の本紙(支持体)に印刷する際の、本紙(支持体)の浮きあがりを防ぐためだけの作業なので、作業自体に代替が考えられる。たとえば、サクションテーブルのように、本紙(支持体)を下から吸い取って固定してくれるものや、アルバムの台紙のように一時的についていて容易にはがすことのできるものなどを利用することができる。
(2)工程C−8及びC−9では、岩等と絵画を別々に印刷したが、表現したい岩等とその上に描かれている絵画を同時に撮影した写真データを用いることで、岩等と絵画を顔料インク等を用いて同時にカラー印刷してもよい。
(3)工程C−5及びC−7における岩絵具としては、同じものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。
(4)上述の実施の形態では、岩絵具等の顔料をすべて白色にして色彩は工程C−8、C−9での印刷を使用することにより製造している。これに限らず、工程C−2、C−5、C−7のいずれかひとつまたは複数の工程において、岩絵具等の顔料の使用だけでも岩を表現することもできる。例えば、工程C−2では、下塗りに白色系顔料を用いたが、色のある天然岩絵具等の岩絵具や他の顔料を用いてもよいし、または、植物性染料又は動物性染料等の染料を用いてもよい。また、工程C−5及びC−7において、例えば、白色系の天然岩絵具等の岩絵具の代わりに、青色系、緑色系、赤色系、黄色系、紫色系等の色のある岩絵具等の顔料を用いてもよい。これにより、工程C−4及び/又はC−8等を省略することもできる。
(5)工程C−5では、シルクスクリーンを複数用いて、それぞれ異なる岩絵具により多色刷りするようにしてもよい。これにより、工程C−8を省略してもよい。多色刷りの場合、パソコンと画像処理のためのソフトウェア等を用いて、所望の色を複数抽出して、各色に応じたシルクスクリーンを製版することができる。
(6)ドーサ、絵具、岩絵具等の顔料等の使用材料や配合割合は、上述に限らず適宜とすることができる。
(7)プリンタを用いられる顔料インクは、様々なタイプのインクを用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の基底材等の素材、又は、基底材等の素材に模写・複製・描写等により製作された絵画は、絵画用の他に、壁、天井、床、塀、屋根、窓、扉、柱、梁、枠等の建築用材料として用いてもよい。本発明の基底材等の素材又は絵画は、一枚で用いてもよいし、複数枚貼り合わせてもよい。また、本発明の基底材等の素材又は絵画には、枠、留め具、ジョイント、貼り付け具、固定具等を表面・側面・裏面の適宜の位置に取り付けてもよい。さらに、本発明の基底材等の素材又は絵画を、ユニットとして形成してもよく、また、複数組合わせることもできる。
【符号の説明】
【0033】
A−1 本紙(ヘ)
A−2 ドーサ
A−3 裏打ち(ト)
B−1 パネル
B−2 べた貼り
C−1 べた貼り
C−2 下塗り(ホ)
C−3 ドーサ
C−4 地塗り(ニ)
C−5 シルクスクリーン印刷(ハ)
C−6 ドーサ
C−7 上塗り(ロ)
C−8 インクジェット印刷(イ)
C−9 絵製作

【特許請求の範囲】
【請求項1】
和紙若しくは他の紙又は布を用いた支持体に、胡粉若しくは白色系顔料又は他の顔料又は染料を、膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、下塗りを施す工程と、
表現する岩又は素材又は基底材の版下を製版したスクリーンを用い、第1の岩絵具を膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、糊又は増粘剤を加えたものをインクとし、シルクスクリーン印刷する工程と、
第2の岩絵具を膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、塗布した後、表現する岩又は素材又は基底材の表情をつけるため、ブラシでたたき込むことで上塗りを施す工程と、
を含む質感を表現した素材の製造方法。

【請求項2】
前記第1の岩絵具及び前記第2の岩絵具は、同じ天然岩絵具であることを特徴とする請求項1に記載の質感を表現した素材の製造方法。

【請求項3】
前記下塗りを施す工程では、胡粉若しくは白色系顔料を用い、
前記第1の岩絵具及び前記第2の岩絵具は、方解末又はその他の白色系顔料を用いること、
を特徴とする請求項2に記載の質感を表現した素材の製造方法。

【請求項4】
前記第1の岩絵具及び前記第2の岩絵具は、異なる天然岩絵具であることを特徴とする請求項1に記載の質感を表現した素材の製造方法。

【請求項5】
前記第1の岩絵具及び/又は前記第2の岩絵具は、表現する岩又は素材又は基底材に含まれる、青色系、緑色系、赤色系、黄色系、紫色系のいずれかひとつ又は複数の色のある岩絵具又は顔料を用いることを特徴とする請求項1に記載の質感を表現した素材の製造方法。

【請求項6】
前記下塗りを施す工程の前に、
にじみ止めのため、前記支持体の表側にドーサを一度以上引く工程と、
補強のため前記支持体の裏面に接着剤で紙を貼り裏打ちをする工程と、
をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の質感を表現した素材の製造方法。

【請求項7】
前記下塗りを施す工程の前に、パネルに、接着剤で前記パネルと同程度の大きさの紙をべた貼りし、前記支持体が水分を吸収した際に前記パネルから浮き上がるのを防ぐため、繊維素グリコール酸ナトリウム又はCMC又は他の増粘剤の水溶液で、前記パネルに前記支持体をべた貼りする工程と、
前記上塗りを施す工程の後に、べた貼りした前記パネルから、前記支持体を取り外す工程と、
をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の質感を表現した素材の製造方法。

【請求項8】
前記下塗りを施す工程の前に、
サクションテーブル若しくは前記支持体を下から吸い取って固定する板材、又は、アルバム台紙若しくは前記支持体が一時的に付いて容易にはがすことのできる板材に、前記支持体を貼る工程と、
前記上塗りを施す工程の後に、板材から、前記支持体を取り外す工程と、
をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の質感を表現した素材の製造方法。

【請求項9】
前記下塗りを施す工程の後に、顔料の下塗りを堅牢にするため、ドーサを引く工程をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の質感を表現した素材の製造方法。

【請求項10】
前記下塗りを施す工程又は前記ドーサを引く工程の後に、花崗岩を表現するための黒雲母、又は、表現する岩若しくは材料の質感を表現するために、その岩若しくは材料に含まれる物質を砕いた天然岩絵具又は岩絵具又は顔料を、フノリ又は他の接着剤で溶き、地塗りを施す工程をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の質感を表現した素材の製造方法。

【請求項11】
前記シルクスクリーン印刷する工程において、同じ版を数度印刷することで、表現したい凹凸の度合いを変化させることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の質感を表現した素材の製造方法。

【請求項12】
前記シルクスクリーン印刷する工程において、シルクスクリーンを色ごとに複数製版し、前記第1の岩絵具及びその他の岩絵具を複数用いて、それぞれの複数のシルクスクリーンを用いて、多色刷りすることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の質感を表現した素材の製造方法。

【請求項13】
前記シルクスクリーン印刷する工程の後、印刷された岩絵具を堅牢にするため、ドーサを引く工程をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の質感を表現した素材の製造方法。

【請求項14】
インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、表現する岩又は素材又は基底材の写真データをカラー印刷する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の質感を表現した素材の製造方法。

【請求項15】
請求項1乃至13のいずれかに記載の質感を表現した素材の製造方法により作成された基底材を用いて、
インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、表現する岩又は素材又は基底材の写真データをカラー印刷する工程と、
インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、表現する岩又は素材又は基底材の上に描かれた絵画の写真データをカラー印刷及び/又は手彩色する工程と、
を含む質感を表現した絵画の製作方法。

【請求項16】
請求項1乃至13のいずれかに記載の質感を表現した素材の製造方法により作成された基底材を用いて、
インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、表現する素材又は基底材と絵画の両方を含む写真データをカラー印刷及び/又は手彩色する工程と、
を含む質感を表現した絵画の製作方法。

【請求項17】
和紙若しくは他の紙又は布を用いた支持体に、胡粉若しくは白色系顔料又は他の顔料又は染料を、膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、下塗りを施す工程と、
表現する岩又は素材又は基底材の版下を製版したスクリーンを用い、第1の岩絵具を膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、糊又は増粘剤を加えたものをインクとし、シルクスクリーン印刷する工程と、
第2の岩絵具を膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、塗布した後、表現する岩又は素材又は基底材の表情をつけるため、ブラシでたたき込むことで上塗りを施す工程と、
により製造された質感を表現した素材。

【請求項18】
和紙若しくは他の紙又は布を用いた支持体と、
胡粉若しくは白色系顔料又は他の顔料又は染料を、膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、下塗りを施した第1の層と、
表現する岩又は素材又は基底材の版下を製版したスクリーンを用い、第1の岩絵具を膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、糊又は増粘剤を加えたものをインクとし、シルクスクリーン印刷された第2の層と、
第2の岩絵具を膠又は接着剤の水溶液で溶いて水を加え、塗布した後、表現する岩又は素材又は基底材の表情をつけるため、ブラシでたたき込むことで上塗りが施された第3の層と、
を含む質感を表現した素材。

【請求項19】
前記第1の層と前記第2の層の間に、さらに、花崗岩を表現するための黒雲母、又は、表現する岩若しくは材料の質感を表現するために、その岩若しくは材料に含まれる物質を砕いた天然岩絵具又は岩絵具又は顔料を、フノリ又は他の接着剤で溶き、地塗りを施した第4の層をさらに備えたことを特徴とする請求項18に記載の質感を表現した素材。

【請求項20】
請求項17乃至19のいずれかに記載の質感を表現した素材を用いて、
前記基底材の上に、
インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、表現する岩又は素材又は基底材の写真データをカラー印刷し、
さらに、インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、表現する岩又は素材又は基底材の上に描かれた絵画の写真データをカラー印刷及び/又は手彩色すること
により製作された質感を表現した絵画。

【請求項21】
請求項17乃至19のいずれかに記載の質感を表現した素材を用いて、
前記基底材の上に、インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、表現する素材又は基底材と絵画の両方を含む写真データをカラー印刷及び/又は手彩色することにより製作された質感を表現した絵画。

【請求項22】
請求項17乃至19のいずれかに記載の質感を表現した素材を用いた建築用材料。

【請求項23】
請求項20又は21に記載の質感を表現した絵画を用いた建築用材料。


【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−201750(P2010−201750A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48843(P2009−48843)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(505372871)国立大学法人東京芸術大学 (3)
【Fターム(参考)】