質量および物性の調節された可変質量ラベリング剤とこれを用いたペプチド配列およびタンパク質多重定量同時分析方法
本発明は、可変質量ラベリング剤、可変質量ラベリング剤セット、および多重可変質量ラベリング剤セットを提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変質量ラベリング剤と、これを用いたペプチド配列およびタンパク質多重定量同時分析方法に係り、さらに詳しくは、水素同位元素を含み、物性および質量を調節することにより相異なる質量値において定量信号を表示することが可能な可変質量ラベリング剤と、これを用いたペプチド配列およびタンパク質多重定量同時分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析技術は、タンパク質とペプチドの配列および定量分析に広く用いられている。例えば、タンパク質を同定するために、タンパク質を酵素分解して生成されたペプチド断片をMALDI(Matrix-Assisted Laser Desorption/Ionization)イオン化法またはエレクトロスプレーイオン化法(Electrospray Ionization、ESI)を用いてイオン化させた後、質量分析器によって質量を測定してタンパク質の特徴を明らかにする。さらに正確には、一部のペプチドをさらに断片に切断してペプチドの配列を同定する方法を使用する。
【0003】
質量分析器を用いたタンパク質とペプチドの定量分析のためには、同位元素を含んでいる化学標識を分析対象のタンパク質またはペプチドに付けて質量分析する方法が広く用いられてきている。お互い量を比較すべき同一種類の各種試料に、同位元素標識の異なる同一の化学標識を付けて質量分析を行うと、同位元素の質量差のため、質量分析スペクトルまたはタンデム質量分析スペクトル上で各試料の質量が異なるから、その相対的強さを比較することによりタンパク質の定量分析が可能になる。
【0004】
最近、前述したペプチドの定量分析と配列分析を同時に行うために、同重体化学変形法が用いられている。米国特許公開US2005/0148087号および国際特許公開WO2005/068446号などでは、ペプチドと反応させて結合させた後、タンデム質量分析過程で定量信号が現れるように、同位元素で標識された同重体化合物を開示している。
【0005】
ところが、前記従来の技術に用いられるラベリング剤は、炭素、窒素または酸素などの同位元素を使用しているため、価格が高いという問題点を持つ。また、定量信号の現れる質量範囲が限定されているため、実験で引き起こされる雑音信号によって分析が妨害されるおそれがあるという問題点も持っている。これにより、相対的に価格が低い水素同位元素を用いてペプチド配列とタンパク質の量を同時に確認することが可能な新規の同重体ラベリング剤が要求される。また、定量信号の質量および物性を調節して広範囲な生体分子分析に対して有利となるように特性が与えられた、新規の同重体可変質量ラベリング剤が要求される。
【0006】
本発明者は、韓国特許出願第2008−0070272号によって、水素同位元素のみを用い、定量信号の質量調節が可能であるうえ、ジペプチド構造を持つMBIT(mass−balanced1H/2H−isotope tag)と命名された新規の同重体ラベリング剤を提示したことがある。また、韓国特許出願第2009−0019444号によって、2つの同重体ラベリング剤の質量調節基の役割を果たすアミノ酸残基をそれぞれ多様な物性の天然アミノ酸の各種残基に変えて定量信号質量を多変化させ、同重体ラベリング剤の物性を調節することができることを示した。天然アミノ酸を用いた多様なMBITでは、アミノ酸残基の多様な物性差異により、各MBIT試薬の定量信号の強さが最大10倍も異なった。質量範囲の多変化した可変質量MBITを2つ以上組み合わせて多様な試料を同時に多重定量分析するためには、互いに類似または均一の定量信号強さを有するMBIT試薬を組み合わせなければならず、そうしなければ正確な結果を期待することができない。したがって、多重定量同時分析用試薬の開発のために、類似の定量信号強さが持てるように、同一の物性を有する様々なMBIT試薬の開発が要求された。よって、韓国特許出願第10−2009−0054540号では、同一の物性を有し且つ質量が多変化した同重体ラベリング剤およびラベリング剤セットとこれを用いた多重定量分析方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許公開US2005/0148087号
【特許文献2】国際特許公開WO2005/068446号
【特許文献3】韓国特許出願第2008−0070272号
【特許文献4】韓国特許出願第2009−0019444号
【特許文献5】韓国特許出願第10−2009−0054540号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような一連の発明によって、本発明者は、天然アミノ酸または人工アミノ酸を用いて定量信号質量を多変化させ且つ物性を調節することができる、ペプチド配列およびタンパク質多重定量同時分析用同重体ラベリング剤を提示し、2種以上のラベリング剤を用いたタンパク質多重定量同時分析方法を提示しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、同位元素を含む、ペプチド配列およびタンパク質定量同時分析用新規同重体ラベルを提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、水素同位元素を含む、ペプチド配列およびタンパク質定量同時分析用同重体ラベルを提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、水素同位元素を含む、2つ以上のペプチド配列およびタンパク質定量同時分析用同重体ラベルからなる可変質量ラベリング剤を提供することにある。
【0012】
本発明の別の目的は、水素同位元素を含み、且つ天然または人工アミノ酸を用いて質量を多変化させることができる、ペプチド配列およびタンパク質定量同時分析用同重体可変質量ラベルを提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、水素同位元素を含み、且つ天然または人工アミノ酸を用いて質量を多変化させることができる、2つ以上のペプチド配列およびタンパク質定量同時分析用同重体ラベルからなる可変質量ラベリング剤セットを提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、水素同位元素を含み、且つ天然または人工アミノ酸の使用により質量が多変化することにより相異なる質量値において定量信号が現れる、2つ以上のペプチド配列およびタンパク質定量同時分析用同重体人工可変質量ラベリング剤セットを提供することにある。
【0015】
本発明の別の目的は、水素同位元素を含み、且つ同一物性の天然または人工アミノ酸を用いて質量を多変化させることができる、2つ以上のペプチド配列およびタンパク質多重定量同時分析用同重体ラベルからなる可変質量ラベリング剤セットを提供することにある。
【0016】
本発明の別の目的は、水素同位元素を含み、且つ同一物性の天然または人工アミノ酸の使用により質量が多変化することにより相異なる質量値において定量信号が現れるが、定量信号の強さは類似している、2つ以上のペプチド配列およびタンパク質多重定量同時分析用同重体可変質量ラベリング剤セットを提供することにある。
【0017】
本発明の別の目的は、水素同位元素を含む、同重体可変質量ラベリング剤セットを用いてペプチド配列を分析すると同時にタンパク質を定量分析する方法を提供することにある。
【0018】
本発明の別の目的は、水素同位元素を含み且つ質量が多変化した、2つ以上の同重体可変質量ラベリング剤セットの組み合わせを用いてペプチド配列を分析すると同時にタンパク質を多重定量分析する方法を提供することにある。
【0019】
本発明の前記およびその他の目的は、後述する本発明によって全て達成できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、新しい同位元素として水素同位元素を含み、物性および質量が多変化することにより相異なる質量値において定量信号を表示することが可能な可変質量ラベリング剤、可変質量ラベリング剤セット、および多重可変質量ラベリング剤セットを提供し、水素同位元素を含む同重体可変質量ラベリング剤セットを用いてペプチド配列を分析すると同時にタンパク質を定量分析する方法、および前記可変質量ラベリング剤セットを用いてペプチド配列を分析すると同時にタンパク質を多重定量分析する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1はMBIT試薬および技術の基本概念を示す概略図であって、(a)はMBIT試薬の構造であり、(b)はMBIT試薬が1次アミン基に反応して標識される過程であり、(c)はMBIT試薬セットで区分標識されたペプチドをタンデム質量分析した場合に生成可能な断片イオンを示し、(d)は概略的なタンデム質量分析スペクトルを示す。
【図2】図2はMBIT技術で質量調節基(RT)として使用できるアミノ酸残基の種類を示す概略図であって、(a)はMBIT技術において定量信号質量を調節することが可能な質量調節基(RT)として使用できるアミノ酸残基と当該アミノ酸を用いたときに現れる定量信号質量対の質量値を、ペプチドをダンタム質量分析する場合に200Th以下の質量値で生成できる断片イオンの分布と共に示し、(b)は本発明で用いられた8種の質量調節基であって、200Th以下の質量値を持つ断片イオンとの干渉が少ない質量調節基を示す。
【図3】図3はMBIT技術で質量調節基(RT)としてアルキル基を用いた場合の各MBITの固有値を示す図であって、(a)はMBIT定量信号対の質量値を、タンデム質量分析する場合に220Th以下の質量値で生成できる断片イオンの分布と共に示し、(b)は質量調節基として使用されたアルキル基の種類による各MBITの固有標識シグニチャーと定量信号質量値を示す。
【図4】図4はMBITを用いて行うことが可能なタンパク質の相対および絶対定量分析過程を示す概略図であって、(a)は相異なる条件で生成された同一タンパク質の未知量を相対定量分析するときに使用される定量分析過程であり、(b)は 同定されたタンパク質の未知量を絶対定量分析するときに使用される定量分析過程である。
【図5(a)】図5(a)は同一の物性を有し且つ多様な質量値を有するMBITセットのタンデム質量スペクトルで現れる特性を示す概略図である。
【図5(b)】図5(b)は、同一の物性を有し且つ多様な質量値を有するMBITセットを2種以上用いて3つ以上の試料を同時に多重定量分析する過程を示す概略図である。
【図5(c)】図5(c)は、同一の物性を有し且つ多様な質量値を有するMBITセットを2種以上用いて3つ以上の試料を同時に多重定量分析する過程を示す概略図である。
【図6】図6はN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬を(a)固相合成法と(b)液相有機合成法を用いて合成する過程を示す概略図である。
【図7】図7はMBIT試薬を分析対象ペプチドと反応させるために活性エステルを形成する過程、およびこれにより形成されたMBIT活性エステルを分析対象ペプチドと反応させる実験方法を示す概略図である。
【図8(a)】図8(a)はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンとのペプチド混合物を8種のN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬対と反応させた後、それぞれをMALDI質量分析した結果を示す概略図であり、質量調節基を有するAc−Xxx−AlaのXxxがアラニンである図である。
【図8(b)】図8(b)はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンとのペプチド混合物を8種のN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬対と反応させた後、それぞれをMALDI質量分析した結果を示す概略図であり、質量調節基を有するAc−Xxx−AlaのXxxがセリンである図である。
【図8(c)】図8(c)はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンとのペプチド混合物を8種のN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬対と反応させた後、それぞれをMALDI質量分析した結果を示す概略図であり、質量調節基を有するAc−Xxx−AlaのXxxがバリンである図である。
【図8(d)】図8(d)はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンとのペプチド混合物を8種のN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬対と反応させた後、それぞれをMALDI質量分析した結果を示す概略図であり、質量調節基を有するAc−Xxx−AlaのXxxがグルタミンである図である。
【図8(e)】図8(e)はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンとのペプチド混合物を8種のN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬対と反応させた後、それぞれをMALDI質量分析した結果を示す概略図であり、質量調節基を有するAc−Xxx−AlaのXxxがヒスチジンである図である。
【図8(f)】図8(f)はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンとのペプチド混合物を8種のN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬対と反応させた後、それぞれをMALDI質量分析した結果を示す概略図であり、質量調節基を有するAc−Xxx−AlaのXxxがフェニルアラニンである図である。
【図8(g)】図8(g)はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンとのペプチド混合物を8種のN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬対と反応させた後、それぞれをMALDI質量分析した結果を示す概略図であり、質量調節基を有するAc−Xxx−AlaのXxxがアルギニンである図である。
【図8(h)】図8(h)はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンとのペプチド混合物を8種のN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬対と反応させた後、それぞれをMALDI質量分析した結果を示す概略図であり、質量調節基を有するAc−Xxx−AlaのXxxがチロシンである図である。
【図9】図9は8種のN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬対でそれぞれMBIT反応が行われたアンジオテンシンIIイオン[MAG(1)+H]+のMALDIタンデム質量分析結果を示す図である[質量調節基を有するAc−Xxx−Ala Xxxは(a)アラニン、(b)セリン、(c)バリン、(d)グルタミン、(e)ヒスチジン、(f)フェニルアラニン、(g)アルギニン、および(h)チロシン]。
【図10】図10は図9の定量信号質量が表示される質量領域を拡大して示す図であって、ペプチドをタンデム質量分析する場合に200Th以下で生成できる断片イオンの分布と共に示した。N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxが(a)アラニン、(b)セリン、(c)バリン、(d)グルタミン、(e)ヒスチジン、(f)フェニルアラニン、(g)アルギニン、および(h)チロシンである場合のそのそれぞれの結果を示す。
【図11】図11はMBIT反応の後、H+が付いている形で検出されたロイシンエンケファリンイオン([MLE(1)+H]+)のタンデム質量分析結果スペクトルである。N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxが塩基性の(a)ヒスチジン、(b)アルギニンである場合のそれぞれの結果を示す。
【図12】図12はMBIT試薬の質量調節基の種類による定量信号(XbS、X=HまたはL)の強さ、および定量信号から誘導される追加分解イオン(XaSまたはXbS−NH3)の強さが全体断片イオンの信号強さの総合における占有比率を示す図である。エラーバーは8回の反復実験による標準偏差を意味する。
【図13(a)】図13(a)はMBIT試薬で区分標識して多様な比率で混ぜたアンジオテンシンIIをタンデム質量分析で定量分析して得た標準定量分析曲線を示す図であり、N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxがアラニンである場合の結果を示す図である。エラーバーは8回の反復実験による標準偏差を意味する。
【図13(b)】図13(b)はMBIT試薬で区分標識して多様な比率で混ぜたアンジオテンシンIIをタンデム質量分析で定量分析して得た標準定量分析曲線を示す図であり、N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxがセリンである場合の結果を示す図である。エラーバーは8回の反復実験による標準偏差を意味する。
【図13(c)】図13(c)はMBIT試薬で区分標識して多様な比率で混ぜたアンジオテンシンIIをタンデム質量分析で定量分析して得た標準定量分析曲線を示す図であり、N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxがバリンである場合の結果を示す図である。エラーバーは8回の反復実験による標準偏差を意味する。
【図13(d)】図13(d)はMBIT試薬で区分標識して多様な比率で混ぜたアンジオテンシンIIをタンデム質量分析で定量分析して得た標準定量分析曲線を示す図であり、N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxがグルタミンである場合の結果を示す図である。エラーバーは8回の反復実験による標準偏差を意味する。
【図13(e)】図13(e)はMBIT試薬で区分標識して多様な比率で混ぜたアンジオテンシンIIをタンデム質量分析で定量分析して得た標準定量分析曲線を示す図であり、N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxがヒスチジンである場合の結果を示す図である。エラーバーは8回の反復実験による標準偏差を意味する。
【図13(f)】図13(f)はMBIT試薬で区分標識して多様な比率で混ぜたアンジオテンシンIIをタンデム質量分析で定量分析して得た標準定量分析曲線を示す図であり、N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxがフェニルアラニンである場合の結果を示す図である。エラーバーは8回の反復実験による標準偏差を意味する。
【図13(g)】図13(g)はMBIT試薬で区分標識して多様な比率で混ぜたアンジオテンシンIIをタンデム質量分析で定量分析して得た標準定量分析曲線を示す図であり、N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxがアルギニンである場合の結果を示す図である。エラーバーは8回の反復実験による標準偏差を意味する。
【図13(h)】図13(h)はMBIT試薬で区分標識して多様な比率で混ぜたアンジオテンシンIIをタンデム質量分析で定量分析して得た標準定量分析曲線を示す図であり、N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxがチロシンである場合の結果を示す図である。エラーバーは8回の反復実験による標準偏差を意味する。
【図14】図14はMBIT試薬で区分標識して多様な比率で混ぜたロイシンエンケファリンをタンデム質量分析で定量分析して得た標準定量分析曲線を示す図である。N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxが(a)ヒスチジン、(b)アルギニンである場合のそれぞれの結果を示す。
【図15】図15はN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBITで標識された分析体の定量分析測定限界を確認した結果である。
【図16(a)】図16(a)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図であり、YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示しており、8種のMBIT対で標識されたYLYEIARペプチドの液相クロマトグラフィー結果である。
【図16(b)】図16(b)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図であり、YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示しており、質量調節基がアラミン側鎖である場合、各MBIT対で標識されたYLYEIARがクロマトグラフィーで検出されるそれぞれの分取(fraction)をMALDIタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図である。定量分析して得られた相対的量の平均と標準偏差が数値でそれぞれ表示される。
【図16(c)】図16(c)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図であり、YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示しており、質量調節基がセリン側鎖である場合、各MBIT対で標識されたYLYEIARがクロマトグラフィーで検出されるそれぞれの分取(fraction)をMALDIタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図である。定量分析して得られた相対的量の平均と標準偏差が数値でそれぞれ表示される。
【図16(d)】図16(d)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図であり、YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示しており、質量調節基がバリン側鎖である場合、各MBIT対で標識されたYLYEIARがクロマトグラフィーで検出されるそれぞれの分取(fraction)をMALDIタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図である。定量分析して得られた相対的量の平均と標準偏差が数値でそれぞれ表示される。
【図16(e)】図16(e)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図であり、YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示しており、質量調節基がグルタミン側鎖である場合、各MBIT対で標識されたYLYEIARがクロマトグラフィーで検出されるそれぞれの分取(fraction)をMALDIタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図である。定量分析して得られた相対的量の平均と標準偏差が数値でそれぞれ表示される。
【図16(f)】図16(f)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図であり、YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示しており、質量調節基がヒスチジン側鎖である場合、各MBIT対で標識されたYLYEIARがクロマトグラフィーで検出されるそれぞれの分取(fraction)をMALDIタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図である。定量分析して得られた相対的量の平均と標準偏差が数値でそれぞれ表示される。
【図16(g)】図16(g)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図であり、YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示しており、質量調節基がフェニルアラニン側鎖である場合、各MBIT対で標識されたYLYEIARがクロマトグラフィーで検出されるそれぞれの分取(fraction)をMALDIタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図である。定量分析して得られた相対的量の平均と標準偏差が数値でそれぞれ表示される。
【図16(h)】図16(h)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図であり、YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示しており、質量調節基がアルギニン側鎖である場合、各MBIT対で標識されたYLYEIARがクロマトグラフィーで検出されるそれぞれの分取(fraction)をMALDIタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図である。定量分析して得られた相対的量の平均と標準偏差が数値でそれぞれ表示される。
【図16(i)】図16(i)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図であり、YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示しており、質量調節基がチロシン側鎖である場合、各MBIT対で標識されたYLYEIARがクロマトグラフィーで検出されるそれぞれの分取(fraction)をMALDIタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図である。定量分析して得られた相対的量の平均と標準偏差が数値でそれぞれ表示される。
【図17】図17は7種のアルキル基MBIT試薬対で反応が行われたアンジオテンシンIIのMALDI質量分析結果を示す概略図である。MBIT試薬において、質量調節基が(a)エチル、(b)プロピル、(c)ブチル、(d)ペンチル、(e)ヘキシル、(f)ヘプチル、および(g)オクチルの場合をそれぞれ示す。ここで、XnはCnの質量調節基を有するNアシル化アミノ酸またはN−アシル−Alaアミノ酸を意味する。
【図18】図18は7種のMBIT試薬対でそれぞれMBIT反応が行われたアンジオテンシンIIイオンのMALDIタンデム質量分析結果を示す図であって、各MBIT試薬対に対してHMBITで反応したペプチドとLMBITで反応したペプチドを1:1の混合比で混ぜてタンデム質量分析した結果である。 が(a)エチル、(b)プロピル、(c)ブチル、(d)ペンチル、(e)ヘキシル、(f)ヘプチル、(g)オクチルの質量調節基を有するMBITが連結されたアンジオテンシンIIのCIDスペクトルである。ここで、XnはCnの質量調節基を有するNアシル化アミノ酸またはN−アシル−Alaアミノ酸を意味する。
【図19】図19はMBIT試薬種類による各定量信号の強さを全体断片イオンの強さの総合に対する比率で計算して示す。
【図20】図20はLMBITが連結されたアンジオテンシンIIと、HMBITが連結されたアンジオテンシンIIとを多様な混合比で混ぜて定量分析し、各混合比と測定によって得られた比の線形性を比較した図である。
【図21】図21はMBITで標識された分析体の定量分析測定限界を確認した結果である。LMBIT−とHMBIT−でそれぞれ標識されたアンジオテンシンIIを2:1の比率で混合した後、濃度を2倍ずつ持続的に薄めた試料をタンデム質量分析した結果のうち、定量信号質量(bS)が表示される領域を拡大した図である。MBIT試薬において、質量調節基が(a)エチル(C2)、(b)ブチル(C4)、(c)ペンチル(C5)、(d)ヘキシル(C6)、(e)ヘプチル(C7)、および(f)オクチル(C8)の場合をそれぞれ示す。
【図22】図22は4つの相異なる生長条件で得られたHA−Hsc82タンパク質の量、および定量分析を行うためにそれぞれの試料に使用したMBIT試薬を示す図である。HA−Hsc82タンパク質を発現させた条件を(a)に示し、これらの条件下に生成されたHA−Hsc82タンパク質を酵母から抽出および精製して電気泳動した後、Sypro Ruby stainで染色した結果を(b)に示す。4つの条件のHA−Hsc82タンパク質のゲルバンドを切り出してトリプシンで酵素分解した後、MBIT試薬に反応させたが、各タンパク質グループに反応したMBIT試薬を(c)に示す。ここで、XnはCnの質量調節基を有するNアシル化アミノ酸またはN−アシル−Alaアミノ酸を意味する。
【図23】図23は図22(c)の6種の分析体を同量混合し、ZipTipで精製した後、質量分析した結果を示す図である。各分析体にはヘキシル(三角形)、ヘプチル(四角形)、およびオクチル(円形)の質量調節基を有するMBIT試薬が付いている。5種のペプチドがタンデム質量分析に使用された。ここで、XnはCnの質量調節基を有するNアシル化アミノ酸またはN−アシル−Alaアミノ酸を意味する。
【図24】図24はゲルイミジ化システムで定量した結果と、MBIT対で標識された分析体をMALDIタンデム質量分析で定量した結果とを比較して示す図である。 4つの生長条件で得られたHsc82タンパク質の相対的な量は3対のMBIT試薬を用いて同時に定量することができる。
【図25】図25は(a)ヘキシル、(b)ヘプチル、(c)オクチルの質量調節基 を有するMBIT対で標識された5種のペプチドのMALDIタンデム質量分析した結果からデノボ配列分析した結果を示す。アミノ酸コードに引かれた下線はその配列分析が正確に行われたことを意味する。アミノ酸コードに続く星印はそのアミノ酸にMBITが標識されていることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、下記化学式1で表される可変質量ラベリング剤を提供する。
[化学式1]
【0023】
【化1】
【0024】
ここで、RSおよびRBはそれぞれ直鎖または分枝鎖のC1〜C18アルキルであり、RSおよびRBの少なくとも一つは一つ以上の重水素を含み、RTは質量調節基であり、リンカーは分析体との結合を誘導する反応性リンカーである。
【0025】
本発明で使用される用語「反応性リンカー」は、アミンの求核攻撃に離脱基となる活性エステルであることを意味する。前記アミンは1次アミンであることを特徴とする。また、反応性リンカーは、N−ヒドロキシスクシンイミジル基、N−ヒドロキシスルホスクシンイミジル基、ベンゾトリアゾール−1−イルオキシル基、ペンタハロベンジル基、4−ニトロフェニル基、および2−ニトロフェニル基よりなる群から選択できる。本発明の実施においては、N−ヒドロキシスクシンイミジル基がリンカーとして使用された。
【0026】
本発明で使用される用語「前記質量調節基」は、分析体と結合した後、タンデム質量分析過程で分解されるとき、N-アシル化アミノ酸断片の質量を調節して定量信号がスペクトル上で他の断片と重ならないようにするために導入されるものを意味するものであって、RTの種類を変えることにより、定量信号の質量を多様に変化させることができる。前記質量調節基は、類似または同一物性を有する天然または人工アミノ酸残基の側鎖のいずれか一つであることを特徴とする。
【0027】
前記質量調節基のうち、天然アミノ酸残基の側鎖としては、アラニン(Ala)、セリン(Sr)、ヒスチジン(His)、バリン(Val)、グルタミン(Gln)、フェニルアラニン(Phe)、アルギニン(Arg)、またはチロシン(Tyr)の側鎖であり得る。
【0028】
また、前記質量調節基は、直鎖または分枝鎖のC2〜C18アルキルであってもよく、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチルまたはオクチルなどの直鎖または分枝鎖のアルキルであってもよい。
【0029】
前記RSおよびRBは、重水素を含んで同位元素の質量差による定量分析を可能とする役割を果たす。このため、前記RSまたはRBはそれぞれ直鎖または分枝鎖C1〜C18アルキルであり、RSおよびRBの少なくとも一つは一つ以上の重水素を含み、好ましくは前記RSおよびRBはメチルまたは一つ以上の重水素を含むメチルであることを特徴とする。前記RSおよびRBは炭素の個数が同じアルキルからなっているが、含まれた重水素の数が互いに異ならなければならない。このような観点から、前記RSとRBはそれぞれCH3およびCD3であり、或いはCD3およびCH3であることが好ましい。すなわち、前記化合物において、RSとRBは、RSがCH3であればRBはCD3であり、RBがCH3であればRSはCD3である。
【0030】
前記化学式1は、N末端がアシル化され、C末端にはアミンの求核攻撃に離脱基となるリンカーが付き、同位元素で標識されるジペプチドであることを特徴とする。また、前記ジペプチドは重水素で標識されるジペプチドであることを特徴とする。
【0031】
また、本発明は、前記化学式1で表される可変質量ラベリング剤を2種以上含む可変質量ラベリング剤セットを提供する。
【0032】
前記可変質量ラベリング剤セットは、前記化学式1で表される相異なる2化合物の対が一つのセットを成す。前記化合物対が、RSとRBに含まれた重水素の総数が一定な化合物対になると、同位元素の質量差のため、スペクトル上で各試料の質量が異なり、その相対的強さを比較して定量分析を行うことができる。このような観点から、前記2種類以上の可変質量ラベリング剤それぞれのRSとRBに含まれた重水素の数が互いに異なり、前記2種類以上の可変質量ラベリング剤は互いに重水素の数が同一であることが好ましい。
【0033】
すなわち、前記化合物対のRSとRBは、同一の炭素数を有する直鎖または分枝鎖のアルキルであり、第1化合物においてRSにRBより多い数の重水素を含んでいると、第2化合物ではRBの重水素の数がRSに比べて第1化合物の差異だけ多くなるように構成される。結果として、第1化合物と第2化合物の全体的な質量は同一に構成される。発明の実施において、実際合成されて使用された化合物対は、前記RSとRBがそれぞれCH3、CD3である化合物と、RSとRBがそれぞれCD3、CH3である化合物との対である。
【0034】
また、本発明は、前記可変質量ラベリング剤セットを2種以上含む多重可変質量ラベリング剤セットを提供する。
【0035】
また、本発明は、可変質量ラベリング剤で標識された分析体を含む混合物、その塩またはその水和物を提供する。本発明の実施において、前記化合物と分析体との結合は、リンカーが分析体のアミンと反応して離脱基として作用して分離されることにより行われる。
【0036】
ここで、前記分析体は、タンパク質、炭水化物または脂質であることを特徴とする。また、前記分析体はペプチドであることを特徴とする。また、前記分析体は核酸または核酸誘導体であることを特徴とする。また、前記分析体はステロイドであることを特徴とする。
【0037】
また、本発明は、可変質量ラベリング剤セットを分析体に結合させる段階と、前記可変質量ラベリング剤セットが結合した分析体を分解し、前記分析体を定量する段階とを含んでなることを特徴とする、ペプチド配列およびタンパク質定量同時分析方法を提供する。
【0038】
ここで、前記定量のための分解法はタンデム質量分析法であることを特徴とする。
【0039】
前記タンデム質量分析法は、ラベリング剤の質量調節基に応じて、分析における定量信号質量の位置が変わることを特徴とする。
【0040】
前記定量信号質量を与える定量信号は、bSイオン、aSイオン、bS−NH3イオン、
ySion、およびRB含有内部断片イオンよりなる群から選ばれる1種以上の断片イオンであることを特徴とする。
【0041】
前記質量調節基が天然アミノ酸側鎖であれば、定量信号質量と標識シグニチャーは次のとおりである。
【0042】
前記質量調節基がメチル基の場合、定量信号質量(bS)が114と117Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が86と89Thで現れ、標識シグニチャーが188Thで現れることを特徴とする。
【0043】
前記質量調節基がセリン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が130と133Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が102と105Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が204Thで現れることを特徴とする。
【0044】
前記質量調節基がバリン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が142と145Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が114と117Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が216Thで現れることを特徴とする。
【0045】
前記質量調節基がグルタミン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が171と174Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が143と146Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が245Thで現れることを特徴とする。
【0046】
前記質量調節基がヒスチジン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が180と183Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が152と155Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が254Thで現れることを特徴とする。
【0047】
前記質量調節基がフェニルアラニン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が190と193Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が162と165Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が264Thで現れることを特徴とする。
【0048】
前記質量調節基がアルギニン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が199と202Thで現れ、別の定量信号質量(bS−NH3)が182と185Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が273Thで現れることを特徴とする。
【0049】
前記質量調節基がチロシン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が206と209Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が178と181Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が280Thで現れることを特徴とする。
【0050】
前記質量調節基が人工アミノ酸側鎖の場合、定量信号質量と標識シグニチャーは次のとおりである。
【0051】
前記質量調節基がエチル基の場合、定量信号質量(bS)が128と131Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が100と103Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が202Thで現れることを特徴とする。
【0052】
前記質量調節基が直鎖または分枝鎖プロピル基の場合、定量信号質量(bS)が142と145Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が114と117Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が216Thで現れることを特徴とする。
【0053】
前記質量調節基が直鎖または分枝鎖ブチル基の場合、定量信号質量(bS)が156と159Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が128と131Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が230Thで現れることを特徴とする。
【0054】
前記質量調節基が直鎖または分枝鎖ペンチル基の場合、定量信号質量(bS)が170と173Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が142と145Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が244Thで現れることを特徴とする。
【0055】
前記質量調節基が直鎖または分枝鎖ヘキシル基の場合、定量信号質量(bS)が184と187Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が156と159Thで現れ、標識シグニチ(b0)ャが258Thで現れることを特徴とする。
【0056】
前記質量調節基が直鎖または分枝鎖ヘプチル基の場合、定量信号質量(bS)が198と201Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が170と173Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が272Thで現れることを特徴とする。
【0057】
前記質量調節基が直鎖または分枝鎖オクチル基の場合、定量信号質量(bS)が212と215Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が184と187Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が286Thで現れることを特徴とする。
【0058】
また、本発明は、本発明に係る多重可変質量ラベリング剤セットを別の分析体に結合させ、分解して該当分析体を定量することを特徴とする、ペプチド配列およびタンパク質定量同時分析方法を提供する。
【0059】
また、本発明は、本発明に係る多重可変質量ラベリング剤セットを分析体に結合させて定量する過程で、1種の試料と残りのそれぞれ異なる試料との比率を、質量調節基に応じて異なる定量信号質量によってそれぞれ別々に定量することにより、全体試料間の量を多重定量する分析方法を提供する。
【0060】
以下、本発明の原理について図面を参照して具体的に説明する。
【0061】
図1はMBIT試薬および技術を示す概略図であって、(a)はMBIT試薬の構造、(b)はMBIT試薬が1次アミン基に反応して標識される過程、(c)はMBIT試薬セットで区分標識されたペプチドをタンデム質量分析した場合に生成可能な断片イオン、(d)は概略的なタンデム質量分析スペクトルをそれぞれ示す。
【0062】
図1に示すように、理論的に限定されるのではないが、本発明に係る化合物1はN末端がアシル化され且つC末端にはリンカーが付いているジペプチドであって、図1(a)に表現されたような機能に区分できる。
【0063】
このような化合物は、分析体の1次アミンと反応して図1(b)に示すように分析体と結合することができる。同一の分子式に重水素が標識された部位のみが異なるMBIT試薬対を、便宜上、HMBITとLMBITに区分するが(H:heavy、L:Light)、RSに重水素が標識されたものをHMBITといい、RBに重水素が標識されたものをLMBITという。このLMBITとHMBITとが結合した分析体は、全体的な重量は同一である。ところが、タンデム質量分析で現れる切断断片のうち、RSとRBのいずれか一方のみを含んでいる断片は、LMBITが連結された場合とHMBITが連結された場合に対して相異なる質量値を有し、図1の(c−d)におけるbSイオンのようにスペクトル上で異なる位置に現れる。これらピークの相対的強度はこれらが付いていた分析体の相対的な量として定量できる。これに対し、RSとRBを全て含み或いは全く含まない切断断片の場合、質量値がLMBIT、HMBITに関係なく一定に現れる。また、分析体がMBIT試薬によって標識された場合、bSイオンだけでなく、boイオンもスペクトル上で発見される。このboイオンはLMBIT、HMBITを問わずに一定に現れ、特定のMBITによって分析体が標識されたことを確認可能にするから、標識シグニチャーイオン(tagging signature ion)として用いられる。
【0064】
図2はMBIT技術において質量調節基(RT)として使用できる天然アミノ酸残基の種類を示す概略図であって、(a)はMBIT技術において定量信号質量を調節することが可能な質量調節基(RT)として使用できるアミノ酸残基と当該アミノ酸を用いたときに現れる定量信号質量対の質量値を、ペプチドをタンデム質量分析する場合に200Th以下の質量値で生成できる断片イオンの分布と共に示し、(b)は本発明で用いられた8種の質量調節基であって、220Th以下の質量値を有する断片イオンとの干渉が少ない質量調節基を示す。
【0065】
質量調節基RTの質量によって定量ピークの位置が異なるが、図2に示すように、アラニン(Ala)側鎖の場合には114/117Thで現れ、セリン(Ser)側鎖の場合には130/133Thで現れ、ヒスチジン(His)側鎖の場合には180/183Thで現れ、バリン(Val)側鎖の場合には142/145Thで現れ、グルタミン(Gln)側鎖の場合には171/174Thで現れ、フェニルアラニン(Phe)側鎖の場合には190/193Thで現れ、アルギニン(Arg)側鎖の場合には199/202Thで現れ、チロシン(Tyr)側鎖の場合には206/209Thで現れる。前述した質量調節基の場合、タンデム質量分析過程で生成される他の断片との重なりが少ない。前述した質量調節基以外にも、図2に示すようにトレオニン(Thr)、シスチン(Cys)、ロイシン(Leu)/イソロイシン(Ile)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、メチオニン(Met)の場合も質量調節基として使用される可能性を持っている。本特許の実施においては、図2bに示したアラニン(Ala)、セリン(Ser)、バリン(Val)、グルタミン(Gln)、ヒスチジン(His)、フェニルアラニン(Phe)、アルギニン(Arg)、およびチロシン(Tyr)の8つのアミノ酸側鎖が使用された。
【0066】
図3はMBIT技術において質量調節基(RT)として直鎖または分枝鎖のアルキル基を使用した場合の各MBITの固有値を示す図であって、(a)はMBIT定量信号対の質量値を、タンデム質量分析する場合に220Th以下の質量値で生成できる断片イオンの分布と共に概略に示し、(b)は質量調節基として使用されたアルキル基の炭素数による各MBITの固有標識シグニチャーと定量信号質量値を示す。
【0067】
質量調節基RTの質量によって定量信号XbSの位置が変わるが、図3に示すように、メチル(C1)の場合には114/117Thで現れ、エチル(C2)の場合には128/131Thで現れ、直鎖または分枝鎖プロピル(C3)の場合には142/145Thで現れ、直鎖または分枝鎖ブチル(C4)の場合には156/159Thで現れ、直鎖または分枝鎖ペンチル(C5)の場合には170/173Thで現れ、直鎖または分枝鎖ヘキシル(C6)の場合には184/187Thで現れ、直鎖または分枝鎖ヘプチル(C7)の場合には198/201Thで現れ、直鎖または分枝鎖オクチル(C8)の場合には212/215Thで現れる。XbSから中性CO損失したXaSイオンは、質量調節基がメチルの場合には86/89Thで検出され、質量調節基がエチルの場合には100/103Thで検出され、質量調節基が直鎖または分枝鎖プロピルの場合には114/117Thで検出され、質量調節基が直鎖または分枝鎖ブチルの場合には128/131Thで検出され、質量調節基が直鎖または分枝鎖ペンチルの場合には142/145Thで検出され、質量調節基が直鎖または分枝鎖ヘキシルの場合には156/159Thで検出され、質量調節基が直鎖または分枝鎖ヘプチルの場合には170/173Thで検出され、質量調節基が直鎖または分枝鎖オクチルの場合には184/187Thで検出される。また、各MBITの固有標識シグニチャー(bo)イオンは、質量調節基がメチルの場合には188Thで現れ、質量調節基がエチルの場合には202Thで現れ、質量調節基が直鎖または分枝鎖プロピルの場合には216Thで現れ、質量調節基が直鎖または分枝鎖ブチルの場合には230Thで現れ、質量調節基が直鎖または分枝鎖ペンチルの場合には244Thで現れ、質量調節基が直鎖または分枝鎖ヘキシルの場合には258Thで現れ、質量調節基が直鎖または分枝鎖ヘプチルの場合には272Thで現れ、質量調節基が直鎖または分枝鎖オクチルの場合には286Thで現れる。
【0068】
本発明の一側面において、本発明は、下記化学式2で表される化合物と下記化合物とを結合させた分析体に関する。
[化学式2]
【0069】
【化2】
【0070】
ここで、RSまたはRBは一つ以上の重水素を含む直鎖または分枝鎖のC1〜C18アルキルであり、RTは質量調節基である。本発明において、前記RSまたはRBは含まれる重水素の数が互いに異なる同一のアルキルである。本発明の実施において、RSまたはRBは、RSがCH3であればRBはCD3であり、RBがCH3であればR2はCD3である。本発明の実施において、前記質量調節基RTは、製造上の便宜上、類似または同一物性の天然または人工アミノ酸の側鎖基の中からいずれか一つが選択できる。前記化学式2で表される化合物は、適切な活性化試薬との反応によって化学式1への変換が可能である。これに利用可能な活性化試薬としてはN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)/1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)の組み合わせ、1−ベンゾトリアゾール(HOBt)/N,N’−ジイソプロピルカルボイミド(DIC)の組み合わせ、(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシル)トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(BOP)などがあり、本発明の実施においてはNHS/EDCの組み合わせが用いられた。
【0071】
図4はMBITを用いて行うことが可能なタンパク質の相対および絶対定量分析過程を示す概略図であって、(a)は互いに異なる条件で生成された 同一タンパク質の未知量を相対定量分析するときに使用される定量分析過程を示し、(b)は同定されたタンパク質の未知量を絶対定量分析するときに使用される定量分析過程を示す。
【0072】
前記MBIT化合物は、図4のような方式でタンパク質の配列および定量同時分析に活用される。図4の(a)および(b)に示すように、MBIT化合物を用いて、両試料間の相対的量の比を定量する相対定量分析、およびある試料の絶対量を求める絶対定量分析の両方ともが可能である。
【0073】
2−plex相対定量分析は、図4の(a)に示されている過程によって行われる。両試料(未知量)のタンパク質をそれぞれ酵素分解する。試料1由来のペプチドと試料2由来のペプチドをそれぞれHMBITまたはLMBITで区分標識した後、混合してクロマトグラフィーで分離し、しかる後に、これをタンデム質量分析過程によって配列分析および同時定量分析する。
【0074】
前述した相対定量分析と同様の過程を経るが、2つの試料の一方を既知量のタンパク質またはペプチドにして実験を行う場合、図4の(b)に示すように絶対定量分析が可能となる。
【0075】
図5(a)は同一物性を有し且つ多様な質量値を有するMBITセットのタンデム質量スペクトルに現れる特性を示す概略図であり、図5(b)および図5(c)は、2種以上のMBITセットを用いて3つ以上の試料を同時に多重定量分析する過程を示す概略図である。
【0076】
質量調節基の物性調節によって定量信号の質量値は異なり定量信号の強さは各MBITの間で類似に現れるので、同一物性の多数のMBITを使用した多重定量分析が可能になる。
【0077】
まず、多重定量分析のために、互いに異なる条件または環境で生成されたタンパク質試料を酵素分解してペプチドに作る。第1の多重定量分析方法は次の過程によって行われる。準備されたペプチドのうち、一つの条件で収穫したペプチドを比較対象の個数だけ同一の量で分取し、それぞれを、相異なる質量信号値を有するHMBIT(またはLMBIT)可変質量ラベリング剤と反応させる。比較しようとする対象ペプチドは、それぞれ相異なる質量信号値を有するLMBIT(またはHMBIT)可変質量ラベリング剤と反応させる。
【0078】
第2の多重定量方法は、準備された各ペプチドを二等分した後、それぞれに相異なる種類のMBIT試薬(HMBIT(n−1)とLMBIT(n)、またはLMBIT(n−1)とHMBIT(n))を反応させる。このように標識された全てのペプチドを混合してクロマトグラフィーで分離し、それぞれの同重体親イオンをタンデム質量分析して配列分析および定量分析すると、同時に多数の試料の量を定量分析することができる。第1の多重定量分析法は、同一の対照群を使用するので、対照群との比較によって多数のサンプル間の相対的な量を直ちに知ることができる。
【0079】
第1の多重定量分析法を使用するとき、それぞれの比較対象試料を標識するMBIT化合物の種類を変えて定量分析を繰返し行うか、或いは対照群を別の条件の試料として選択すると、多重試料の定量分析結果を統計的に多様な組み合わせで得ることができるため、定量結果の正確度を高めることができる。第2の定量方法は、相対的な量の差異が大きいため、只1回の比較によって相対的な量を知り難い場合に適用する場合、第1の方法より正確な定量が可能になる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例および添付図面を参照して、本発明に係る可変質量ラベリング剤とこれを用いたペプチド酸配列およびタンパク質定量同時分析方法について詳細に説明する。ところが、本発明が後述の内容に限定されるのではなく、当該分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想を逸脱することなく、本発明を多様な形態に具現することができるであろう。
【0081】
下記では、質量調節基がアラニン(Ala)、セリン(Ser)、ヒスチジン(His)、バリン(Val)、グルタミン(Gln)、フェニルアラニン(Phe)、アルギニン(Arg)またはチロシン(Tyr)側鎖であるものと、エチル(C2)、プロピル(C3)、ブチル(C4)、ペンチル(C5)、ヘキシル(C6)、ヘプチル(C7)またはオクチル(C8)であるものを区分して実施した。
【0082】
エチル(C2)、プロピル(C3)、ブチル(C4)、ペンチル(C5)、ヘキシル(C6)、ヘプチル(C7)またはオクチル(C8)の質量調節基を有するMBIT試薬の場合、該当ジペプチド構造を便宜上HXn−AlaまたはLXn−Ala(H:Heavy、L:light)で表記する。
【0083】
1.酸型MBIT試薬の合成
酸型MBIT試薬(XMBIT−OH、X=LまたはH)は、標準固相ペプチド合成法または液相有機合成法によって合成された。標準固相ペプチド合成法としては、アミノ酸残基が質量調節基として使用され、該当質量調節基がアラニン(Ala)、セリン(Ser)、ヒスチジン(His)、バリン(Val)、グルタミン(Gln)、フェニルアラニン(Phe)、アルギニン(Arg)またはチロシン(Tyr)などの天然アミノ酸の側鎖であるMBIT試薬と、アシル基またはアミノ酸残基が質量調節基として使用され、該当質量調節基がエチル(C2)、プロピル(C3)、ブチル(C4)、ペンチル(C5)、ヘキシル(C6)、ヘプチル(C7)またはオクチル(C8)である全てのMBIT試薬を合成することができる。液相有機合成法としては、アミノ酸残基が質量調節基として使用され、当該質量調節基がヘキシル(C6)、ヘプチル(C7)またはオクチル(C8)である場合の酸型MBIT試薬を合成することができる。
【0084】
図6の(a)はN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬を固相合成法を用いて合成する過程を概略に示し、図6の(b)は液相有機合成法による酸型MBIT試薬の合成過程を示す。
【0085】
(a)固相ペプチド合成法を用いた合成
物質
無水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ピペリジン、ジクロロメタン(DCM、HPLCグレード)、トリフルオロ酢酸(TFA、HPLCグレード)、チオアニソール(TA、>99.5%)、エタンジチオール(EDT、>99.5%)、無水酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、N−Fmoc−アラニンはSigma−Aldrich(St.Louis、MO)から購入した。酢酸−d3、N−Fmoc−アラニン−3,3,3,−d3はCDN isotope(Toronto、カナダ)から購入した。2−塩化トリチルレジンはMerckから購入した。N,N’−ジイソプロピルカルボイミド(DIC)、1−ベンゾトリアゾール、およびN末端がFmocで保護された他の全てのアミノ酸はAdvanced ChemTechから購入した。
【0086】
合成過程
1)段階1
N−Fmoc−アラニンまたはN−Fmoc−アラニン−3,3,3−d3(75mg)を、水分が完全に除去されたジクロロメタン溶液1mLに溶かした。ジクロロメタンのみではよく溶けないので、100μLのDMFを入れて完全に溶解させた。準備したN−Fmocアミノ酸溶液と170μLのDIPEAを、火炎乾燥したバイアルに入っている2−塩化トリチルレジン0.1gと混合し、2〜4時間緩やかに攪拌した。レジンをペプチド合成用ポリプロピレン材質のカートリッジ(総量:5mL)に移した後、十分な量のジクロロメタン/メタノール/DIPEA混合溶液(17/2/1、v/v/v)で3回洗浄した。その後、十分な量のジクロロメタンで3回、DMFで2回さらに洗浄した後、ジクロロメタンで2回さらに洗浄し、しかる後に、レジンから溶液を完全に除去し、減圧条件で完全に乾燥させる。
【0087】
2)段階2
段階1で製造された乾燥レジンに約3mL程度のDMFを入れて2〜3分間十分振とうし、DMFを除去する過程を約5回繰返し行ってレジンをDMFに十分浸漬した。DMFに混ざっている25%ピペリジン溶液を約3mL程度レジンに混ぜ、5分間攪拌した後、溶液を除去した。その後、さらに25%ピペリジン溶液を3mL程度レジンにさらに入れた後、15分間攪拌し、溶液を除去した。しかる後に、レジンを十分な量のDMFで3回、メタノールで3回洗浄し、さらにDMFで3回洗浄した。
【0088】
3)段階3
アミノ酸側鎖が質量調節基として使用されるMBIT試薬を合成する場合には次のように製造した。
【0089】
段階2で製造されたレジンに、DMFに0.6M濃度で溶かしたFmoc−アミノ酸(アラニン、セリン、バリン、グルタミン、ヒスチジン、フェニルアラニン、アルギニン、およびチロシンのいずれか一つ)溶液を1mL仕込んだ。同様に、DMFにそれぞれ0.6M濃度で溶かした1−ベンゾトリアゾール溶液、DIC溶液を1mLずつ仕込み、2時間30分ゆっくり攪拌した。その後、混合溶液を除去し、レジンを十分な量のDMFで3回、メタノールで3回洗浄し、さらにDMFで3回洗浄した。
【0090】
アシル基が質量調節基として使用されるMBIT試薬を合成する場合には次のように製造した。
【0091】
段階2で製造されたアラニン−d3(またはアラニン−d0)が付いているレジンに、DMFに0.6M濃度で溶かしたFmoc−アラニン−d0溶液(またはFmoc−アラニン−3,3,3−d3)、1−ベンゾトリアゾール溶液、およびDIC溶液を1mLずつ仕込み、2時間30分ゆっくり攪拌した。その後、混合溶液を除去し、レジンをDMFで3回、メタノールで3回洗浄し、さらにDMFで3回洗浄した。
【0092】
4)段階4
段階3で製造されたレジンに、DMFに混ざっている25%ピペリジン溶液を約3mL程度添加し、5分間攪拌した後、溶液を除去した。その後、さらに25%ピペリジン溶液を3mL程度レジンにさらに加えた後、15分間攪拌し、溶液を除去した。その後、レジンを十分な量のDMFで3回、メタノールで3回洗浄し、さらにDMFで3回洗浄した。
【0093】
5)段階5
アミノ酸側鎖が質量調節基として使用されるMBIT試薬を合成する場合には次のように製造した。
【0094】
段階4で製造されたレジンに、0.6M濃度でDMFにそれぞれ溶かした酢酸または酢酸−d3を1mL加えた。レジンに最初反応させたものがFmoc−アラニンの場合には酢酸−d3を使用し、Fmoc−アラニン−3,3,3−d3の場合には重水素で標識されていない酢酸を使用した。また、0.6M濃度でDMFにそれぞれ溶かした1−ベンゾトリアゾール溶液とDIC溶液を1mLずつレジンに混ぜ、2時間30分ゆっくり攪拌した。その後、混合溶液を除去し、レジンを十分な量のDMFで3回、メタノールで3回、DMFで3回、さらにメタノールで3回洗浄した後、減圧条件で完全に乾燥させてバイアルに移した。
【0095】
アシル基が質量調節基として使用されるMBIT試薬を合成する場合には次のように製造した。
【0096】
段階4で製造されたレジンに、0.6M濃度でDMFにそれぞれ溶かしたカルボン酸(プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、またはノナン酸)、1−ベンゾトリアゾール溶液、およびDIC溶液を1mLずつ仕込み、2時間30分ゆっくり攪拌した。その後、混合溶液を除去し、レジンをDMFで3回、メタノールで3回、DMFで3回、さらにメタノールで3回洗浄した後、減圧条件で完全に乾燥させてバイアルに移した。
【0097】
6)段階6
段階5で製造されたレジンに、TFA/ベンゼン/TA/蒸留水/EDT混合溶液(16.5/1/1/1/0.5、v/v/v/v)2mLを混ぜ、3時間攪拌した。この過程で合成された酸型MBIT試薬がレジンから分離された。レジンは全て濾過し、残った溶液を別途に集め、体積が200μL以下となるように窒素によって乾燥させた。その溶液に、冷たく冷したエーテルを添加して白色粉末状の生成物(酸型MBIT試薬)を沈殿させた。沈殿した生成物は、冷たく冷したエーテルで3回または4回洗浄した後、減圧条件で完全に乾燥させた。
【0098】
(b)液相有機合成法を用いた合成
物質
2−アミノ−4−ペンテン酸、無水酢酸(Ac2O−d0)、Boc−l−アラニン−d0、TFA、4−オクテン、5−デケン、1−ヘプテン、およびグラブス触媒(Grubb’s catalyst、2nd generation)はSigma−Aldrich(St.Louis、MO)から購入し、dl−アラニン−d3、および過重水素化無水酢酸(Ac2O−d6)はCDN Isotopes(Quebec、カナダ)から購入した。
【0099】
合成過程
1)段階1
2−アミノ−4−ペンテン酸(2mmoL)をpH9〜10の水(4mL)に溶かし、無水酢酸(4.0mmoL)を0℃で投入した。8M NaOHを投入してpH10程度に調節し、反応混合物を4時間0℃で攪拌した。濃い塩酸溶液を投入してpH2以下に作って反応を終了した。生成物はメタノールに溶かし、精製して乾燥させて2−アセトアミド−4−ペンテン酸を固体として回収した。
【0100】
2)段階2
アラニンベンジルエステルは、Bocで保護されたアラニンに臭化ベンジルを加えてBoc−アラニンベンジルエステルを作った後、TFAを加えてBocを除去する過程によって作られる。ジオキサンと水との混合物(2/1、v/v)に0.33Mで溶けた1−アラニン−d3(1mmoL)に、1.5mLの1M NaOHとジ−3次−ブチルジカルボネート(1.1mmoL)を投入した後、室温で6時間攪拌した。ジオキサンを蒸発させた後、氷を用いて混合物を冷却し、KHSO4飽和水溶液を加えてpHを2〜3程度に低めた。有機生成物は3回にわたって10mLの酢酸エチル(EA)で抽出され、無水Na2SO4の下で乾燥した。シリカゲルクロマトグラフィー精製によって、Boc−dl−アラニン−d3(0.14g、0.74mmoL)が得られた。0.5mmoLのBoc−dl−アラニン−d0またはBoc−dl−アラニン−d3を無水アセトン(5mL)に溶かし、炭酸カリウム(0.75mmoL)と臭化ベンジル(0.55mmoL)を加えた。5時間の還流後、反応生成物は室温に冷却し、濃縮された後、クロロホルム(10mL)に溶解された。有機層を炭酸ナトリウムの飽和水溶液(30mL)で洗浄し、Na2SO4の下で乾燥させた後、シリカゲルクロマトグラフィーで精製してBoc−アラニン−d0ベンジルエステルまたはBoc−アラニン−d3ベンジルエステルを白色固体として得た。Boc−アラニン−d0ベンジルエステルまたはBoc−アラニン−d3ベンジルエステル(0.98mmoL)を無水DCM(10mL)に溶かし、8mmoLのTFAを0℃で加えて1時間攪拌した。減圧の下で溶媒を除去した後、残留物は高真空の下で乾燥させた。油状生成物(アラニン−d0ベンジルエステルまたはアラニン−d3ベンジルエステル)は無水THF(2mL)に保管した。
【0101】
3)段階3
段階2で製造された、THF(5mL)に溶けたアラニン−d0ベンジルエステルまたはアラニン−d3ベンジルエステル(0.55mmoL)に、BOP試薬(1.01mmoL)を加えた後、30分間室温で攪拌した。DIPEA(3.36mmoL)を0℃で投入し、さらに室温で15分間攪拌した後、段階1で製造された、無水THFに溶けた2−アセト−d3−アミド−4−ペンテン酸または2−アセト−d0−アミド−4−ペンテン酸を加えた後、一晩室温で攪拌した。溶媒を蒸発させた後、残留物はEAに溶解させた。有機層を水で洗浄した。残留油状生成物をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーで精製することにより、ベンジル2−(2−アセトアミド−4−ペンテンアミド)プロパネートを無色固体として得た。
【0102】
4)段階4
DCMに、段階3で製造されたベンジル2−(2−アセトアミド−4−ペンテンアミド)プロパネート、アルケン(4−オクテン、5−デケン、または1−ヘプテン)、およびグラブス触媒を仕込んで40℃で24時間還流させた。触媒と溶媒を除去した後、シリカゲルクロマトグラフィーで精製した。この反応生成物は、20mol%のPd(OH)2と共に無水エタノールで混合した後、室温で一晩1気圧のH2圧力下で攪拌した。触媒をフィルターリングして濾した後、生成物を真空下で濃縮し、メタノールとエーテルの1:1混合物を用いた再結晶を行うことにより、酸型MBIT試薬を得た。
【0103】
2.MBIT試薬と分析体ペプチドとの結合
物質
無水アセトニトリル(ACN、HPLCグレード)、無水DMF、ヒドロキシルアミンヒドロクロライド、トリフルオロ酢酸(TFA、HPLCグレード)、α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸(HCCA)、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)は、Sigma−Aldrich(St.Louis、MO)から購入した。1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)は、Pierce(Rockford、Il)から購入した。ウシ血清アルブミン(BSA)パウダーはCalbiochemから購入した。
【0104】
MBIT試薬の活性エステル製造およびモデルペプチドとの反応
図7はMBIT試薬を分析対象ペプチドと反応させるために活性エステルを形成する過程、およびこれにより形成されたMBIT活性エステルを分析対象ペプチドと反応させる実験方法を示す概略図である。
【0105】
MBIT試薬のスクインイミジルエステル(OSu)を製造する方法、およびモデルペプチドに反応させる過程は図7に概略に示されている。DMFに溶けているXMBIT−OH(X=LまたはH)、EDC、およびNHSを最終濃度がそれぞれ60、35、40mMとなるように混合し、室温で45分間攪拌した。このように生成されたXMBIT−OSu溶液は追加精製過程なしで分析体との反応に直ちに利用した。
【0106】
モデルペプチドとしては、アンジオテンシンII(DRVYIHPF)またはロイシンエンケファリン(YGGFL)を使用した。アミノ酸残基が質量調節基として使用され且つ前記質量調節基がアラニン(Ala)、セリン(Ser)、ヒスチジン(His)、バリン(Val)、グルタミン(Gln)、フェニルアラニン(Phe)、アルギニン(Arg)、およびチロシン(Tyr)などの天然アミノ酸側鎖であるMBIT試薬で実験した場合には、アンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンが1:1のモル比で混合されたモデルペプチド混合物を使用し、残りのエチル(C2)、プロピル(C3)、ブチル(C4)、ペンチル(C5)、ヘキシル(C6)、ヘプチル(C7)またはオクチル(C8)を質量調節基として使用した場合はアンジオテンシンIIのみをモデルペプチドとして使用した。
【0107】
モデルペプチドまたはモデルペプチド混合物を、0.4mMの濃度となるように50mMの重炭酸ナトリウム(NaHCO3)バッファに溶かした。このモデルペプチド溶液10μLを、準備されたLMBIT−OSuまたはHMBIT−OSu溶液10μLと混ぜ、室温で5時間攪拌した。その後、10μLのヒドロキシルアミン溶液(80mM in 100mM NaHCO3)を仕込み、少なくとも5時間以上攪拌して副反応を可逆させ、過量のMBIT−OSu試薬を不活性化させた。しかる後に、10%TFAを5μL添加して反応を完全に終結させた。
【0108】
BSAのトリプシンペプチドに対するMBIT反応
アミノ酸残基が質量調節基として使用され且つ該当質量調節基がアラニン(Ala)、セリン(Ser)、ヒスチジン(His)、バリン(Val)、グルタミン(Gln)、フェニルアラニン(Phe)、アルギニン(Arg)、またはチロシン(Tyr)などの天然アミノ酸側鎖であるMBIT試薬を用いて、BSAのトリプシンペプチドを標識する反応を行った。
【0109】
pH8.1の100mM重炭酸ナトリウムバッファに溶解したBSA(0.6mg/mL)は、0.1%酢酸に溶解した改質トリプシン(0.1μg/μL)と60:1の重量比で混合して38℃で12時間培養した。得られたトリプシンペプチド溶液を16μLずつ分取してHMBIT−OSuまたはLMBIT−OSu溶液14μLと混合して30分間攪拌した。その後、さらにHMBIT−OSuまたはLMBIT−OSu溶液6μLを仕込み、30分〜2時間さらに攪拌した。その後、10μLの100mMヒドロキシルアミンを仕込み、少なくとも4時間攪拌して副反応を可逆させた後、残っているXMBIT−OSuを除去した。反応は10μLの10%TFAを仕込んで完全に終結させた。
【0110】
Hsc82のトリプシンペプチドに対するMBIT反応
エチル(C2)、プロピル(C3)、ブチル(C4)、ペンチル(C5)、ヘキシル(C6)、ヘプチル(C7)またはオクチル(C8)を質量調節基として使用した場合のうち、アミノ酸残基を質量調節基として有し且つ該当質量調節基がヘキシル(C6)、ヘプチル(C7)またはオクチル(C8)であるMBIT試薬を用いて、Hsc82のトリプシンペプチドに標識する反応を行った。
【0111】
N末端ヘマグルチン(HA)標識Hsc82タンパク質は、4つの相異なる生長条件で得られた。HA−Hsc82タンパク質を発現させた条件は、Hsc82のようなHsp90ファミリーであるHsp82タンパク質の存在有無と酵母の生長温度とを組み合わせて、図22の(a)に示すように合計4つの場合に分けられる。norm30はHsp82とHsc82タンパク質の両方ともを持っている酵母を30℃で生育させた場合であり、norm39はHsp82とHsc82タンパク質の両方ともを持っている酵母を、これらのタンパク質を過発現させるために39℃で育てて場合であり、del30はHsp82タンパク質のみが除去された酵母を30℃で育てて場合であり、del39はHsp82タンパク質のみが除去された酵母を39℃で生育させて過発現させた場合である。これらの条件下で生成されたHA−Hsc82タンパク質は、酵母から抽出されてアンチ−HAマトリクス(clone3F10、Roche)とSDS−ポリアクリルアミドゲルを用いて分離および精製された。発現されたHA−Hsc82タンパク質の量はSypro Ruby Stain(Molecular Probes、Eugene、OR)で染色した後、VersaDoc 5000MPゲルイミジ化システム(Bio−Rad、Hercules、CA)で定量した。
【0112】
Hsc82のペプチドを得るために、次の方法でトリプシンを用いて各試料を酵素分解した。ゲルからタンパク質バンドを切り出した後、100mM NaHCO3バッファに20分間放置した。バッファを除去した後、ゲルを細かく切断し、ACNを加えて水を除去した。各試料に、50mM NaHCO3バッファに溶けているトリプシン0.66μgを加えた後、37℃で20時間反応させた。蒸留水とACNとの混合溶液を用いてゲル断片からペプチドを抽出した後、各試料別に乾燥させた。
【0113】
乾燥した各試料に35μLの蒸留水を加えて溶かした。このように準備された各試料溶液を4μLずつ分取してHMBIT−OSuとLMBIT−OSu溶液4μLと混合して5時間攪拌した。この際、norm39とLX6−Alaを、del30とLX7−Alaを、del39とLX8−Alaを、norm30とHX6−Ala、 HX7−AlaおよびHX8−Alaをそれぞれ反応させた。その後、4μLのヒドロキシルアミン溶液(80mM)を仕込み、少なくとも5時間以上攪拌して副反応を可逆させ、過量のMBIT−OSu試薬を不活性化させた。しかる後に、10%TFAを2μL添加して反応を完全に終結させた。
【0114】
MBIT−モデルペプチドのMALDI試料の製造
XMBITが連結されたモデルペプチド溶液は、MALDI質量分析のために0.1%TFA溶液に500倍希釈した。LMBITおよびHMBITが連結されたモデルペプチドは、7つの多様な比率で混合した。([L]/[H]=1/1、2.3/1、4/1、6.3/1、9/1、12.3/1、16/1)の7つの混合比で準備された各試料は、マトリクス溶液(5mg/mL HCCA in 50/50/0.1、H2O/ACN/TFA)と1:1の体積比で混合した。試料/マトリクス混合物1μLがMALDIプレートにロードされた。一つの試料スポット当りロードされたモデルペプチドの量はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンがそれぞれ約250fmolずつであった。
【0115】
MBITに連結されたBSAまたはHsc82トリプシンペプチドのLC−MALDI試料の製造
HMBITまたはLMBITに連結されたトリプシンペプチド1:1の比率で混合し、その一分取量(6.4μL)を、PepMapカラム(孔径100Å、粒径3mm、内径75mm、長さ150mm)を取り付けた逆相ナノ液相クロマトグラフィー(Reverse-Phase Nano-Liquid Chromatography、RP−nano−LC)分離機(LC−packings社、Sunnyvale、CA)に注入した。LCは流速0.3μL/分で60分間作動し、2−溶媒勾配を用いて作動した。体積比でH2O/ACN/TFA=95/5/0.1の溶媒AとACN=TFA=100/0.1の溶媒Bが2−溶媒勾配に利用された。[溶媒A]/[溶媒B]勾配は100/0から始まり、0〜20分の間に30/70に変わり、20〜40の間に0/100に変わり、40〜45分まで0/100に維持された。45分となる時点で100/0に急激に落ち、45〜60分の間100/0の比率が維持された。溶出される試料は、マトリクス溶液と共に25秒毎に単一MALDIスポットにProbot microfraction collectorを用いて集められた。60分間合計144個のMALDIスポットにLC溶出してくる試料が分取されて塗布された。
【0116】
MALDI−MSおよびMS/MS
前記方法によってMALDIターゲットに塗布された試料を分析するために、4700 Proteomic Analyzer(Applied Biosystems社、Foster City、CA)が陽イオンモードで質量対電荷比の範囲500〜2500Thで使用された。各塗布されたスポットに対してTime−of−Flight(TOF)スペクトルは1000個の反復レーザーショットに対する結果を蓄積することにより得られた。
【0117】
XMBITに連結されたモデルペプチドのイオンは質量調節基RTの種類によって相異なる質量対電荷比の位置で検出され、それぞれのXMBITに連結されたペプチドはタンデム質量分析のための親イオンとして選択された。XMBITに連結されたBSAトリプシンペプチドの場合、多様な配列のペプチドが多様な溶出時間で検出されることを確認した。
【0118】
タンデム質量分析のために、各選択された衝突誘起解離(Collision-Induced Dissociation、CID)を1.3×10−6torrの大気圧下で行った。このCIDスペクトルは、2000回の反復レーザーショットに対する結果を蓄積することにより得られた。CIDスペクトルは、ABI−4700 Proteomic Analyzerに共に提供されているDataExplorerプログラムを用いてベースラインが補正された。ベースライン補正の後、LbS、HbSイオンの強さを測定して相対的な量の比を決定した。各CIDスペクトルをPEAKS4.5(Bioinformatics Solutions Inc.,カナダ)を用いて分析することにより、デノボ(de novo)配列分析が行われた。
【0119】
3.MBITを用いた実際実験結果
(a)質量調節基がアラニン(Ala)、セリン(Ser)、ヒスチジン(His)、バリン(Val)、グルタミン(Gln)、フェニルアラニン(Phe)、アルギニン(Arg)、またはチロシン(Tyr)などの天然アミノ酸の側鎖である場合
−MBIT試薬の検証
製造されたMBIT試薬に正常的に合成されたかを検証するために、それぞれのMBIT試薬をアンジオテンシンII(1046.5Th)に標識して[MAG(1)+H]+イオンの質量を検出し(図8(a)〜図8(h))、タンデム質量分析(図9)を行った。LMBITとHMBITでそれぞれ標識されたアンジオテンシンIIは、同一の質量値で検出された。[MAG(1)+H]+イオンの質量値は、質量調節基がそれぞれアラニン側鎖の場合には1233.6Th、セリン側鎖の場合には1249.6Th、バリン側鎖の場合には1261.7Th、グルタミン側鎖の場合には1290.7Th、ヒスチジン側鎖の場合には1299.7Th、フェニルアラニン側鎖の場合には1309.7Th、アルギニン側鎖の場合には1318.7Th、チロシン側鎖の場合には1325.7Thである。標識シグニチャーと定量信号質量値は、質量調節基がアラニン側鎖の場合には188Th(b0)、114Th(LbS)、および117Th(HbS)、セリン側鎖の場合には204Th(b0)、130Th(LbS)および133Th(HbS)、バリン側鎖の場合には216Th(b0)、142Th(LbS)および145Th(HbS)、グルタミン側鎖の場合には245Th(b0)、171Th(LbS)および174Th(HbS)、ヒスチジン側鎖の場合には254Th(b0)、180Th(LbS)、および183Th(HbS)、フェニルアラニン側鎖の場合には264Th(b0)、190Th(LbS)および193Th(HbS)、アルギニン側鎖の場合には273Th(b0)、199Th(LbS)および202Th(HbS)、そしてチロシン側鎖の場合は280Th(b0)、206Th(LbS)および209Th(HbS)でそれぞれ計測された。前記結果より、本発明で製造された天然アミノ酸残基を用いたMBIT試薬が正常的に合成されたことが分かる。
【0120】
−MBIT連結されたモデルペプチドのタンデム質量分析
図8(a)〜図8(h)はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンとのペプチド混合物を8種のMBIT試薬対で反応させた後、それぞれをMALDI質量分析した結果を概略的に示す図である。図2の(b)に示した8つの相異なる質量調節基RTを有する8種のMBIT試薬対それぞれをモデルペプチドと反応させてMALDI−TOF質量分析した結果を図8(a)〜図8(h)に示す。図8(a)〜図8(h)に示すように、[MXX(n)+H]+のXXはペプチドの種類を示し(AG=アンジオテンシンII、LE=ロシンエンケファリン)、nはペプチドに連結されたMBIT試薬の個数を示す。N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(N−アセチル−XXX−AlaまたはAc−XA)において、質量調節基を含むXxx(またはX)がアラニン(図8(a))、セリン(図8(b))、バリン(図8(c))、グルタミン(図8(d))、ヒスチジン(図8(e))、フェニルアラニン(図8(f))、アルギニン(図8(g))、およびチロシン(図8(h))の場合をそれぞれ示した。質量調節基がアラニンの場合には1233.6Th、セリンの場合には1249.6Th、バリンの場合には1261.7Th、グルタミンの場合には1290.7Th、ヒスチジンの場合には1299.7Th、フェニルアラニンの場合には1309.7Th、アルギニンの場合には1318.7Th、チロシンの場合には1325.7ThでアンジオテンシンIIに該当する[MAG(1)+H]+イオンが検出された。また、質量調節基がヒスチジンの場合とアルギニンの場合、809.5Thと828.5Thでロイシンエンケファリンに該当する[MLE(1)+H]+イオンがそれぞれ検出された。モデルペプチドにそれぞれのMBIT試薬で反応が行われた後で増加する質量値が、該当MBIT試薬によって理論的に増加しなければならない質量値と一致するので、各MBIT試薬は成功的に合成された。
【0121】
ロイシンエンケファリンは、質量調節基(RT)が塩基性を呈する場合にのみH+が付いている状態で検出された。MBITに連結されたアンジオテンシンII[MAG(1)+H]+)は、質量調節基RTの種類と関係なく全てMALDI質量分析によって検出された。アンジオテンシンIIのチロシン側鎖に副反応がさらに行われたと思われる[MAG(2)+H]+も発見されたが、[MAG(1)+H]+に比べて強さが弱かった。反応が行われていないアンジオテンシンII([MAG(0)+H]+)は、図8(e)に示すように、ヒスチジンの側鎖が質量調節基RTとして使用された場合(Ac−HA MBIT)にのみ比較的大きく現れた。これはAc−HA MBITの合成および分離精製過程を最適化して試薬の純度を高めることさえすれば解決される問題である。このAc−HA MBITを除いた残りのMBITをペプチドに連結する反応は図8(a)〜図8(h)の信号強さ比から推定したときに完結に近く行われた。
【0122】
ロイシンエンケファリンは、アンジオテンシンIIとは異なり、ペプチド配列に塩基性のアミノ酸が存在しないため、MALDIイオン化の収率が低下する。よって、一般にMALDI質量分析スペクトル上であまり検出されない。ところが、図8(e)と図8(f)に示すように、塩基性の質量調節基RTを有するAc−HAとAc−RA MBITがロイシンエンケファリンに連結されたときには、強い信号強さでMALDI質量分析によって検出された。これにより、塩基性質量調節基を有するMBIT試薬は既存のMALDI質量分析によってあまり検出されなかったペプチドのイオン化収率を増大させて検出を可能にする付加的な機能を持っていることが分かった。
【0123】
図9は8種のMBIT試薬対でそれぞれMBIT反応が行われたアンジオテンシンIIイオン[MAG(1)+H]+)のMALDIタンデム質量分析結果を示す図であって、各MBIT試薬対に対してHMBITで反応したペプチドとLMBITで反応したペプチドを1:1の混合比で混ぜてタンデム質量分析した結果である。互いに異なるアミノ酸残基を有するMBIT試薬が連結されたそれぞれのアンジオテンシンIIイオンのCIDスペクトルを示すもので、図7の(a〜h)においてそれぞれAc−AA、Ac−SA、Ac−VA、Ac−QA、Ac−HA、Ac−FA、Ac−RA、およびAc−YAのMBITが連結されたアンジオテンシンIIのCIDスペクトルである。各種類のMBIT試薬に対して[L]/[H]の混合比が1:1である試料のCIDスペクトルを示した。N末端の1次アミンにMBIT試薬が連結されるため、C末端を含んでいる断片としてのyタイプイオンは、MBIT試薬の種類を問わずに同一の質量対電荷比の値をもって検出された。これに対し、N末端を含んでいる断片a−またはb−タイプイオンは質量調節基の種類によって互いに異なる位置で検出された。図8(g)のAc−RA MBITが連結された場合を除けば、残りの7種のMBITは通常CIDスペクトルにおける断片イオン分布が類似であった。Ac−RA MBITのアルギニン側鎖の強い塩基性が断片イオンの分布に変化を及ぼすということが分かった。標識シグニチャー(b0)および定量信号として使用されるXbSイオン対(X=LまたはH)は、MBITの種類によって異なる質量対電荷比の値で現れた。Ac−AA MBITの場合は188Th(b0)、114Th(LbS)、117Th(HbS)で、Ac−SA MBITの場合は204Th(b0)、130Th(LbS)、133Th(HbS)で、Ac−VA MBITの場合は216Th(b0)、142Th(LbS)、145Th(HbS)で、Ac−QA MBITの場合は245Th(b0)、171Th(LbS)、174Th(HbS)で、Ac−HA MBITの場合は254Th(b0)、180Th(LbS)、183Th(HbS)で、Ac−FA MBITの場合は264Th(b0)、190Th(LbS)、193Th(HbS)で、Ac−RA MBITの場合は273Th(b0)、199Th(LbS)、202Th(HbS)で、Ac−YA MBITの場合は280Th(b0)、206Th(LbS)、209Th(HbS)でそれぞれ定量信号イオン対が現れた。これは図2の(b)で予想される値と一致し、これによってもMBIT試薬が完璧に合成されたことが分かる。
【0124】
XbSイオン対は、CID過程に由来する剰余エネルギーによってさらに分解が起こり得る。図9に示すように、Ac−RA MBITに連結された場合は、アルギニン側鎖における中性NH3損失が大きいため、XbS−NH3の信号が182、185Thでさらに観測された。 XbSから中性CO損失に該当する28Daの質量が減少したXaSイオンが、 残り7種のMBITのうち、 Ac−AA MBITの場合には86Th(LaS)、89Th(HaS)で、Ac−SA MBITの場合には102Th(LaS)、105Th(HaS)で、Ac−VA MBITの場合には114Th(LaS)、117Th(HaS)で、Ac−QA MBITの場合には143Th(LaS)、146Th(HaS)で、Ac−HA MBITの場合には152Th(LaS)、155Th(HaS)で、Ac−FA MBITの場合には162Th(LaS)、165Th(HaS)で、Ac−YA MBITの場合には178Th(LaS)、181Th(HaS)でさらに検出された。
【0125】
図10は定量信号対XbSが現れる位置を各MBITの種類別に拡大して示す図である。図10に示すように、[L]/[H]混合比1/1にほぼ一致する[LbS]/[HbS]の信号強さ比を示している。Ac−AA MBITを用いた場合、XbS対が現れる114、117Th近くで、ペプチド由来のものと推定される未知の雑音信号が大きく検出された。Ac−SAの場合は定量信号の強さが相対的に弱く、1/1の混合比とよく一致しない信号強さ比を示した。ところが、残り6種のMBITを用いた場合、近くで雑音信号も殆ど見えず、混合比とほぼ類似している定量信号強さ比が観察された。
【0126】
図11はMBITに連結されたロイシンエンケファリンのCIDスペクトルを示す図である。図11の(a)はAc−HAが連結されて検出されたロイシンエンケファリンの結果であり、(b)はAc−RAが連結されて検出された結果である。上述したMBITに連結されたアンジオテンシンIIのCID結果と同様に、yタイプイオンの位置はMBITの種類を問わずに一定に維持されるが、a−、b−タイプイオンの位置は質量調節基の質量差によって異なった。また、Ac−RAに連結されたロイシンエンケファリンの場合、N末端の方面にアルギニン側鎖が存在するため、a−およびb−タイプイオンで中性NH3損失が多く発見された。また、Ac−HAとAc−RAに連結されたロイシンエンケファリンの場合、それぞれ断片イオンの分布に対する大きい差を示した。これは、連結されたMBITの種類に応じて、分析体ペプチドの物理化学的性質を様々に調節することができることをいい、質量調節基RTが定量信号質量の変化だけでなく分析体の物性も調節することができることを示唆する。
【0127】
図12はMBIT試薬の種類による各定量信号の強さを全体断片イオンの強さの総合に対する比率で計算して示した。正確な定量分析のためには優先的に定量信号となるXbSイオンの強さが強くなければならず、定量信号イオンがさらに分解してはならない。質量調節基がグルタミン、ヒスチジン側鎖の場合には、定量信号質量の強さが最も強く現れ、定量信号質量に対する追加分解イオンの強さが相対的に弱かった。ヒスチジンの側鎖が質量調節基の場合には、XbSイオンの強さが最も強く現れてアルギニン側鎖が使用された場合の5倍以上の定量信号が増幅したことが分かった。グルタミン側鎖が使用された場合には、XbSで追加分解が起こって生成されるXaSイオンの強さが相対的に最も弱く現れた。このような結果より、多様な質量調節基のうちヒスチジン或いはグルタミンの側鎖が、MBITを用いたペプチドおよびタンパク質の定量分析において最も優れた性能を示すことが分かった。
【0128】
図13(a)〜図13(h)はLMBITが連結れたアンジオテンシンIIとHMBITが連結されたアンジオテンシンIIを前述した多様な混合比で混ぜて定量分析し、各混合比と測定によって得られた比との線形性を比較した図である。Ac−SA MBITを除いた残り7種のMBITは、アンジオテンシンIIの定量分析において混合比と一致する測定比を示していることが分かる。特にグルタミン、ヒスチジンの側鎖が質量調節基として使用されたAc−QA MBITとAc−HA MBITの場合、各測定値の標準偏差も最も小さく(測定値の20%以内)、線形性も最も良好に現れた。これは前述したようにAc−QAとAc−HA MBITの場合に定量信号の強さが強く現れるためであると推定される。この結果より、Ac−QAとAc−HAがペプチドおよびタンパク質定量分析において最も良い性能を発揮するMBITであることを確認することができた。Ac−SAを用いた結果よりは、混合比と実験により得られた測定比とが全く一致せず、何の線形性も示さないことが分かった。これはAc−SAが連結されたアンジオテンシンIIのCIDで定量信号強さの異なるMBITを用いた場合に比べて小さいうえ、定量信号が現れる位置130、133Thに予想できない雑音信号が現れるためであると推定される。この雑音信号はMBITで標識されていないアンジオテンシンIIにおいても現れる雑音信号である。
【0129】
図14はロイシンエンケファリンの定量分析の線形性を確認する図であって、実際検出されたAc−HA MBITが連結された場合と、Ac−RA MBITが連結された場合に対する結果である。図13(a)〜図13(h)のアンジオテンシンIIの結果と同様に、混合比と実験により測定した測定比とが良い線形性をもってよく一致することを確認することができる。
【0130】
図15はMBITで標識された分析体の定量分析測定限界を確認した結果である。LMBIT−とHMBIT−でそれぞれ標識されたアンジオテンシンIIを3:1の比率で混合した後、タンデム質量分析した結果のうち、定量信号質量(bS)が表示される領域を拡大した図である。N−末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxが(a)バリン、(b)グルタミン、(c)ヒスチジン、(d)フェニルアラニン、(e)アルギニン、および(f)チロシンである場合を示している。一つのMALDIスポットに250fmolの試料が塗布された場合から濃度を2倍ずつ持続的に薄め、現れる定量信号の信号対雑音比を観察した。これは検出限界が約4〜8fmolに達することを示す。これは本発明に使用したMALDI質量分析機器の測定限界に該当する値であって、さらに良い装備を使用すればMBIT試薬の測定限界はさらに低くなるだろうと期待される。
【0131】
図16(a)〜図16(i)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図である。YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示す。図16(a)は8種のMBIT対で標識されたYLYEIARペプチドが分離されてくる液相クロマトグラフィー結果を示し、図16(b)〜図16(i)は、質量調節基がそれぞれアラニン(図16(b))、セリン(図16(c))、バリン(図16(d))、グルタミン(図16(e))、ヒスチジン(図16(f))、フェニルアラニン(図16(g))、アルギニン(図16(h))、およびチロシン(図16(i))側鎖の場合、各MBIT対で標識されたYLYEIARがクロマトグラフィーで検出されるそれぞれの分取(fraction)をMALDIタンデム質量分析で定量分析した結果を示す。定量分析して得られた相対的量の平均と標準偏差が数値でそれぞれ表示された。タンパク質の定量および配列分析のために、液相クロマトグラフィーの活用が普遍的なので、MBITが実際分析体の定量および配列分析を正しくするためにはHMBITに連結されたペプチドとLMBITに連結された同一のペプチドがクロマトグラフィー上で同一の時間で溶出されなければならない。HMBITとLMBITにそれぞれ連結された同一のペプチドは各分取別に混合比が一定に観察されるため、クロマトグラフィー上で溶出時間が同一であることが分かる。
【0132】
(b)質量調節基がエチル(C2)、プロピル(C3)、ブチル(C4)、ペンチル(C5)、ヘキシル(C6)、ヘプチル(C7)またはオクチル(C8)の場合
−MBIT試薬の検証
製造されたMBIT試薬に正常的に合成されたかを検証するために、それぞれのMBIT試薬をアンジオテンシンII(1046.5Th)に標識して[MAG(1)+H]+イオンの質量を検出し(図17)、タンデム質量分析(図18)を行った。LMBITとHMBITでそれぞれ標識されたアンジオテンシンIIは同一の質量値で検出された。[MAG(1)+H]+イオンの質量値は、質量調節基がそれぞれエチルの場合には1247.7Th、プロピルの場合には1261.7Th、ブチルの場合には1275.7Th、ペンチルの場合には1289.7Th、ヘキシルの場合には1303.7Th、ヘプチルの場合には1317.7Th、オクチルの場合には1331.8Thで分析体がそれぞれ観察された。標識シグニチャーと定量信号質量値は、質量調節基がエチルの場合にはそれぞれ202Th(b0)、128Th(LbS)、および131Th(HbS)で、質量調節基がプロピルの場合にはそれぞれ216Th(b0)、142Th(LbS)、および145Th(HbS)で、質量調節基がブチルの場合にはそれぞれ230Th(b0)、156Th(LbS)、および159Th(HbS)で、質量調節基がペンチルの場合にはそれぞれ244Th(b0)、170Th(LbS)、および173Th(HbS)で、質量調節基がヘキシルの場合にはそれぞれ258Th(b0)、184Th(LbS)、および187Th(HbS)で、質量調節基がヘプチルの場合にはそれぞれ272Th(b0)、198Th(LbS)、および201Th(HbS)で、質量調節基がオクチルの場合にはそれぞれ286Th(b0)、212Th(LbS)、および215Th(HbS)で観測された。前記結果より、本発明で製造されたエチル(C2)、プロピル(C3)、ブチル(C4)、ペンチル(C5)、ヘキシル(C6)、ヘプチル(C7)またはオクチル(C8)を質量調節基として用いたMBIT試薬が正常的に合成されたことが分かる。
【0133】
−MBIT連結された標準ペプチドのタンデム質量分析
製造されたMBIT試薬とペプチドとの反応性を確認するために、それぞれのMBIT試薬をアンジオテンシンII(1046.5Th)で反応させて質量分析した。図17は互いに異なる質量調節基RTを有する7種のMBIT試薬対それぞれをモデルペプチドとしてのアンジオテンシンIIと反応させてMALDI−TOF質量分析した結果である。MBIT試薬において、質量調節基が(a)エチル、(b)プロピル、(c)ブチル、(d)ペンチル、(e)ヘキシル、(f)ヘプチル、および(g)オクチルの場合をそれぞれ示した。図17から分かるように、質量調節基がエチルの場合には1247.7Th、質量調節基がプロピルの場合には1261.7Th、質量調節基がブチルの場合には1275.7Th、質量調節基がペンチルの場合には1289.7Th、質量調節基がヘキシルの場合には1303.7Th、質量調節基がヘプチルの場合には1317.7Th、質量調節基がオクチルの場合には1331.8Thでそれぞれ分析体が観測された。また、各分析体に対してタンデム質量分析によって標識シグニチャーおよび定量信号の質量値を確認した。その結果より、反応の行われていないペプチドまたはMBITが2つ以上付いているペプチドなしで、アンジオテンシンIIに一つのMBITが付いている反応結果物のみが存在するので、反応がよく行われたことが分かる。
【0134】
また、該当MBIT試薬対が与える定量信号質量を確認するために、7種のMBIT試薬でそれぞれ反応が行われたアンジオテンシンIIイオンをMALDIタンデム質量分析した。図18は各MBIT試薬対に対してHMBITが連結されたペプチドとLMBITが連結されたペプチドを1:1の混合比で混ぜてタンデム質量分析した結果を示す。図18の(a)〜(g)は、それぞれエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、およびオクチルの質量調節基 を有する、MBITに連結されたアンジオテンシンIIのCIDスペクトルである。その結果、図3の(b)の予想値のように、標識シグニチャーと定量信号質量値は、質量調節基がエチルの場合にはそれぞれ202Th(b0)128Th(LbS)、および131Th(HbS)で、質量調節基がプロピルの場合にはそれぞれ216Th(b0)、142Th(LbS)、および145Th(HbS)で、質量調節基がブチルの場合にはそれぞれ230Th(b0)、156Th(LbS)、および159Th(HbS)で、質量調節基がペンチルの場合にはそれぞれ244Th(b0)、170Th(LbS)、および173Th(HbS)で、質量調節基がヘキシルの場合にはそれぞれ258Th(b0)、184Th(LbS)、および187Th(HbS)で、質量調節基がヘプチルの場合にはそれぞれ272Th(b0)、198Th(LbS)、および201Th(HbS)で、質量調節基がオクチルの場合にはそれぞれ286Th(b0)、212Th(LbS)、および215Th(HbS)で観測された。N末端の1次アミンにMBIT試薬が連結されるため、C末端を含んでいる断片としてのyタイプイオンは、MBIT試薬の種類を問わずに同一の質量対電荷比の値をもって検出された。また、全ての場合に大抵CIDスペクトルにおける断片イオンの分布が類似であった。これは各質量調節基の長さ差が断片イオンの分布に影響を及ぼさないことを示唆する。このような結果より、MBIT試薬が正しく合成されたこと、およびモデルペプチドとの反応が完璧に行われたことを確認することができる。
【0135】
図19はMBIT試薬の種類による各定量信号の強さを全体断片の強さの総合に対する比率で計算して示す。XbSの相対的大きさは、質量調節基がプロピル乃至オクチルの場合には3.8%程度と均一であり、質量調節基がメチルとエチルの場合にはそれぞれ1.9%、2.7%と他のMBITに比べて小さかった。XaSイオンの強さは質量調節基の長さが長いほど強く現れる。
【0136】
図20はLMBITが連結されたアンジオテンシンIIとHMBITが連結されたアンジオテンシンIIを上述した多様な混合比で混ぜて定量分析し、各混合比と測定によって得られた比との線形性を示す図である。
【0137】
それぞれエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチルおよびオクチルの質量調節基を有するMBIT定量信号XaS(白色円)とXbS(黒色円)を用いた定量分析結果は図20の(a)〜(g)に示した。点線はXaSを用いた実験結果の趨勢線である。実線は XbSを用いた実験結果の趨勢線である。本発明に使用された全てのMBITが、アンジオテンシンIIの定量分析において、混合比とよく一致する測定比を示していることが分かった。XaSを用いた定量分析においても、XbSと同じ程度の線形性を示す。これはXbSだけでなくXaSも定量に利用可能であることを示す。
【0138】
図21はMBITで標識された分析体の定量分析測定限界を確認した結果である。LMBITとHMBITでそれぞれ標識されたアンジオテンシンIIを2:1の比率で混合した後、濃度を2倍ずつ持続的に薄めた試料をタンデム質量分析した結果のうち、定量信号質量( XbS)が表示される領域を拡大した図である。質量調節基が(a)エチル、(b)ブチル、(c)ペンチル、(d)ヘキシル、(e)ヘプチル、および(f)オクチルの場合を示した。一つのMALDIスポットに250fmolの試料が塗布された場合から濃度を2倍ずつ持続的に薄め、現れる定量信号の信号対雑音比を観察した。全ての場合に約5fmol程度の試料を測定することができることを確認した。これは本発明に使用したMALDI質量分析機器の測定限界に該当する値であって、さらによい装備を使用する場合には、MBIT試薬の測定限界はさらに低くなるだろうと期待される。
【0139】
図22は4つの相異なる成長条件で得られたHA−Hsc82タンパク質の量と定量分析のためにそれぞれの試料に使用したMBIT試薬を示す図である。HA−Hsc82タンパク質を発現させた条件を図22の(a)に示した。norm30はHsp82とHsc82タンパク質の両方ともを持っている酵母を30℃で育てた場合であり、norm39はHsp82とHsc82タンパク質の両方ともを持っている酵母を39℃で育てた場合であり、del30はHsp82タンパク質のみが除去された酵母を30℃で育てた場合であり、del39はHsp82タンパク質のみが除去された酵母を39℃で育てた場合である。これらの条件下で生成されたHA−Hsc82タンパク質を酵母から抽出および精製して電気泳動した後、Sypro Ruby stainで染色した結果を図22の(b)に示した。ゲルイミジ化システムでタンパク質の量を測定した結果、norm30は3.49μg、norm39は5.74μg、del30は2.93μg、del39は4.90μgであった。4つの条件のHA−Hsc82タンパク質のゲルバンドを切り出してトリプシンで酵素分解した後、MBIT試薬に反応させたが、各タンパク質グループに反応したMBIT試薬を図22の(c)に示した。この際、norm39とLX6−Alaを、del30とLX7−Alaを、del39とLX8−Alaを、norm30とHX6−Ala、HX7−Alaおよび HX8−Alaをそれぞれ反応させた(XnはCnの質量調節基を有するNアシル化アミノ酸またはN−アシル−Alaアミノ酸を意味する。)。それぞれのLMBITとHMBITを1:1で混ぜて定量分析したときに予想される比率は、質量調節基がヘキシルの場合には1.64であり、ヘプチルの場合には0.84であり、オクチルの場合には1.40である(norm30:norm39:del30:del39=1:1.64:0.84:1.40)。
【0140】
図23は図22(c)の6種の分析体を同量混合し、ZipTiPで精製した後、質量分析した結果を示す図である。各分析体には、ヘキシル(三角形)、ヘプチル(四角形)、およびオクチル(円形)の質量調節基を有するMBIT試薬が付いている。質量スペクトル上で、同一の分析体はそれぞれに標識されたMBITの質量差異(14Da)だけずつ分離されて現れる。観測されたペプチドのうち、5つのペプチドがタンデム質量分析に使用された(VLEIR、EIFLR、LLDAPAAIR、QLETEPDLFIR、GVVDSEDLPLNLSR)。
【0141】
図24はゲルイミジ化システムで定量した結果と、MBIT対で標識された分析体をMALDIタンデム質量分析で定量した結果とを比較して示す図である。ヘキシルの質量調節基を有するMBITから得た結果(norm39/norm30)の平均は1.65であってゲルイミジ化システムで定量した結果に比べて0.8%大きく観測され、ヘプチルの質量調節基を有するMBITから得た結果(del39/norm30)は0.85であって1.1%の差異を示し、 オクチルの質量調節基を有するMBITから得た結果(del39/norm30)は1.46であって4.0%の差異を示した。ゲルイミジ化システムで定量した結果と類似している結果を示すことが分かる。この結果より、3対のMBIT試薬を用いて4つの成長条件で得られたHSc82タンパク質の相対的な量を同時に確認することができる(norm30:norm39:del30:del39=1:1.65:0.85:1.46)。
【0142】
図25はヘキシル、ヘプチルおよびオクチルの質量調節基を有するMBIT対で標識された5種の分析体のMALDIタンデム質量分析結果からデノボ配列分析(de novo sequencing)した結果を示す。アミノ酸コードに引かれた下線はそのアミノ酸の配列分析が正確に行われたことを意味する。アミノ酸コードの後ろに続く星印はそのアミノ酸にMBITが標識されていることを示す。ロイシンとイソロイシンが同一の元素構成を持つため、全てロイシンのみで表記した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変質量ラベリング剤と、これを用いたペプチド配列およびタンパク質多重定量同時分析方法に係り、さらに詳しくは、水素同位元素を含み、物性および質量を調節することにより相異なる質量値において定量信号を表示することが可能な可変質量ラベリング剤と、これを用いたペプチド配列およびタンパク質多重定量同時分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析技術は、タンパク質とペプチドの配列および定量分析に広く用いられている。例えば、タンパク質を同定するために、タンパク質を酵素分解して生成されたペプチド断片をMALDI(Matrix-Assisted Laser Desorption/Ionization)イオン化法またはエレクトロスプレーイオン化法(Electrospray Ionization、ESI)を用いてイオン化させた後、質量分析器によって質量を測定してタンパク質の特徴を明らかにする。さらに正確には、一部のペプチドをさらに断片に切断してペプチドの配列を同定する方法を使用する。
【0003】
質量分析器を用いたタンパク質とペプチドの定量分析のためには、同位元素を含んでいる化学標識を分析対象のタンパク質またはペプチドに付けて質量分析する方法が広く用いられてきている。お互い量を比較すべき同一種類の各種試料に、同位元素標識の異なる同一の化学標識を付けて質量分析を行うと、同位元素の質量差のため、質量分析スペクトルまたはタンデム質量分析スペクトル上で各試料の質量が異なるから、その相対的強さを比較することによりタンパク質の定量分析が可能になる。
【0004】
最近、前述したペプチドの定量分析と配列分析を同時に行うために、同重体化学変形法が用いられている。米国特許公開US2005/0148087号および国際特許公開WO2005/068446号などでは、ペプチドと反応させて結合させた後、タンデム質量分析過程で定量信号が現れるように、同位元素で標識された同重体化合物を開示している。
【0005】
ところが、前記従来の技術に用いられるラベリング剤は、炭素、窒素または酸素などの同位元素を使用しているため、価格が高いという問題点を持つ。また、定量信号の現れる質量範囲が限定されているため、実験で引き起こされる雑音信号によって分析が妨害されるおそれがあるという問題点も持っている。これにより、相対的に価格が低い水素同位元素を用いてペプチド配列とタンパク質の量を同時に確認することが可能な新規の同重体ラベリング剤が要求される。また、定量信号の質量および物性を調節して広範囲な生体分子分析に対して有利となるように特性が与えられた、新規の同重体可変質量ラベリング剤が要求される。
【0006】
本発明者は、韓国特許出願第2008−0070272号によって、水素同位元素のみを用い、定量信号の質量調節が可能であるうえ、ジペプチド構造を持つMBIT(mass−balanced1H/2H−isotope tag)と命名された新規の同重体ラベリング剤を提示したことがある。また、韓国特許出願第2009−0019444号によって、2つの同重体ラベリング剤の質量調節基の役割を果たすアミノ酸残基をそれぞれ多様な物性の天然アミノ酸の各種残基に変えて定量信号質量を多変化させ、同重体ラベリング剤の物性を調節することができることを示した。天然アミノ酸を用いた多様なMBITでは、アミノ酸残基の多様な物性差異により、各MBIT試薬の定量信号の強さが最大10倍も異なった。質量範囲の多変化した可変質量MBITを2つ以上組み合わせて多様な試料を同時に多重定量分析するためには、互いに類似または均一の定量信号強さを有するMBIT試薬を組み合わせなければならず、そうしなければ正確な結果を期待することができない。したがって、多重定量同時分析用試薬の開発のために、類似の定量信号強さが持てるように、同一の物性を有する様々なMBIT試薬の開発が要求された。よって、韓国特許出願第10−2009−0054540号では、同一の物性を有し且つ質量が多変化した同重体ラベリング剤およびラベリング剤セットとこれを用いた多重定量分析方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許公開US2005/0148087号
【特許文献2】国際特許公開WO2005/068446号
【特許文献3】韓国特許出願第2008−0070272号
【特許文献4】韓国特許出願第2009−0019444号
【特許文献5】韓国特許出願第10−2009−0054540号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような一連の発明によって、本発明者は、天然アミノ酸または人工アミノ酸を用いて定量信号質量を多変化させ且つ物性を調節することができる、ペプチド配列およびタンパク質多重定量同時分析用同重体ラベリング剤を提示し、2種以上のラベリング剤を用いたタンパク質多重定量同時分析方法を提示しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、同位元素を含む、ペプチド配列およびタンパク質定量同時分析用新規同重体ラベルを提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、水素同位元素を含む、ペプチド配列およびタンパク質定量同時分析用同重体ラベルを提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、水素同位元素を含む、2つ以上のペプチド配列およびタンパク質定量同時分析用同重体ラベルからなる可変質量ラベリング剤を提供することにある。
【0012】
本発明の別の目的は、水素同位元素を含み、且つ天然または人工アミノ酸を用いて質量を多変化させることができる、ペプチド配列およびタンパク質定量同時分析用同重体可変質量ラベルを提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、水素同位元素を含み、且つ天然または人工アミノ酸を用いて質量を多変化させることができる、2つ以上のペプチド配列およびタンパク質定量同時分析用同重体ラベルからなる可変質量ラベリング剤セットを提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、水素同位元素を含み、且つ天然または人工アミノ酸の使用により質量が多変化することにより相異なる質量値において定量信号が現れる、2つ以上のペプチド配列およびタンパク質定量同時分析用同重体人工可変質量ラベリング剤セットを提供することにある。
【0015】
本発明の別の目的は、水素同位元素を含み、且つ同一物性の天然または人工アミノ酸を用いて質量を多変化させることができる、2つ以上のペプチド配列およびタンパク質多重定量同時分析用同重体ラベルからなる可変質量ラベリング剤セットを提供することにある。
【0016】
本発明の別の目的は、水素同位元素を含み、且つ同一物性の天然または人工アミノ酸の使用により質量が多変化することにより相異なる質量値において定量信号が現れるが、定量信号の強さは類似している、2つ以上のペプチド配列およびタンパク質多重定量同時分析用同重体可変質量ラベリング剤セットを提供することにある。
【0017】
本発明の別の目的は、水素同位元素を含む、同重体可変質量ラベリング剤セットを用いてペプチド配列を分析すると同時にタンパク質を定量分析する方法を提供することにある。
【0018】
本発明の別の目的は、水素同位元素を含み且つ質量が多変化した、2つ以上の同重体可変質量ラベリング剤セットの組み合わせを用いてペプチド配列を分析すると同時にタンパク質を多重定量分析する方法を提供することにある。
【0019】
本発明の前記およびその他の目的は、後述する本発明によって全て達成できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、新しい同位元素として水素同位元素を含み、物性および質量が多変化することにより相異なる質量値において定量信号を表示することが可能な可変質量ラベリング剤、可変質量ラベリング剤セット、および多重可変質量ラベリング剤セットを提供し、水素同位元素を含む同重体可変質量ラベリング剤セットを用いてペプチド配列を分析すると同時にタンパク質を定量分析する方法、および前記可変質量ラベリング剤セットを用いてペプチド配列を分析すると同時にタンパク質を多重定量分析する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1はMBIT試薬および技術の基本概念を示す概略図であって、(a)はMBIT試薬の構造であり、(b)はMBIT試薬が1次アミン基に反応して標識される過程であり、(c)はMBIT試薬セットで区分標識されたペプチドをタンデム質量分析した場合に生成可能な断片イオンを示し、(d)は概略的なタンデム質量分析スペクトルを示す。
【図2】図2はMBIT技術で質量調節基(RT)として使用できるアミノ酸残基の種類を示す概略図であって、(a)はMBIT技術において定量信号質量を調節することが可能な質量調節基(RT)として使用できるアミノ酸残基と当該アミノ酸を用いたときに現れる定量信号質量対の質量値を、ペプチドをダンタム質量分析する場合に200Th以下の質量値で生成できる断片イオンの分布と共に示し、(b)は本発明で用いられた8種の質量調節基であって、200Th以下の質量値を持つ断片イオンとの干渉が少ない質量調節基を示す。
【図3】図3はMBIT技術で質量調節基(RT)としてアルキル基を用いた場合の各MBITの固有値を示す図であって、(a)はMBIT定量信号対の質量値を、タンデム質量分析する場合に220Th以下の質量値で生成できる断片イオンの分布と共に示し、(b)は質量調節基として使用されたアルキル基の種類による各MBITの固有標識シグニチャーと定量信号質量値を示す。
【図4】図4はMBITを用いて行うことが可能なタンパク質の相対および絶対定量分析過程を示す概略図であって、(a)は相異なる条件で生成された同一タンパク質の未知量を相対定量分析するときに使用される定量分析過程であり、(b)は 同定されたタンパク質の未知量を絶対定量分析するときに使用される定量分析過程である。
【図5(a)】図5(a)は同一の物性を有し且つ多様な質量値を有するMBITセットのタンデム質量スペクトルで現れる特性を示す概略図である。
【図5(b)】図5(b)は、同一の物性を有し且つ多様な質量値を有するMBITセットを2種以上用いて3つ以上の試料を同時に多重定量分析する過程を示す概略図である。
【図5(c)】図5(c)は、同一の物性を有し且つ多様な質量値を有するMBITセットを2種以上用いて3つ以上の試料を同時に多重定量分析する過程を示す概略図である。
【図6】図6はN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬を(a)固相合成法と(b)液相有機合成法を用いて合成する過程を示す概略図である。
【図7】図7はMBIT試薬を分析対象ペプチドと反応させるために活性エステルを形成する過程、およびこれにより形成されたMBIT活性エステルを分析対象ペプチドと反応させる実験方法を示す概略図である。
【図8(a)】図8(a)はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンとのペプチド混合物を8種のN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬対と反応させた後、それぞれをMALDI質量分析した結果を示す概略図であり、質量調節基を有するAc−Xxx−AlaのXxxがアラニンである図である。
【図8(b)】図8(b)はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンとのペプチド混合物を8種のN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬対と反応させた後、それぞれをMALDI質量分析した結果を示す概略図であり、質量調節基を有するAc−Xxx−AlaのXxxがセリンである図である。
【図8(c)】図8(c)はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンとのペプチド混合物を8種のN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬対と反応させた後、それぞれをMALDI質量分析した結果を示す概略図であり、質量調節基を有するAc−Xxx−AlaのXxxがバリンである図である。
【図8(d)】図8(d)はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンとのペプチド混合物を8種のN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬対と反応させた後、それぞれをMALDI質量分析した結果を示す概略図であり、質量調節基を有するAc−Xxx−AlaのXxxがグルタミンである図である。
【図8(e)】図8(e)はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンとのペプチド混合物を8種のN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬対と反応させた後、それぞれをMALDI質量分析した結果を示す概略図であり、質量調節基を有するAc−Xxx−AlaのXxxがヒスチジンである図である。
【図8(f)】図8(f)はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンとのペプチド混合物を8種のN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬対と反応させた後、それぞれをMALDI質量分析した結果を示す概略図であり、質量調節基を有するAc−Xxx−AlaのXxxがフェニルアラニンである図である。
【図8(g)】図8(g)はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンとのペプチド混合物を8種のN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬対と反応させた後、それぞれをMALDI質量分析した結果を示す概略図であり、質量調節基を有するAc−Xxx−AlaのXxxがアルギニンである図である。
【図8(h)】図8(h)はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンとのペプチド混合物を8種のN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬対と反応させた後、それぞれをMALDI質量分析した結果を示す概略図であり、質量調節基を有するAc−Xxx−AlaのXxxがチロシンである図である。
【図9】図9は8種のN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬対でそれぞれMBIT反応が行われたアンジオテンシンIIイオン[MAG(1)+H]+のMALDIタンデム質量分析結果を示す図である[質量調節基を有するAc−Xxx−Ala Xxxは(a)アラニン、(b)セリン、(c)バリン、(d)グルタミン、(e)ヒスチジン、(f)フェニルアラニン、(g)アルギニン、および(h)チロシン]。
【図10】図10は図9の定量信号質量が表示される質量領域を拡大して示す図であって、ペプチドをタンデム質量分析する場合に200Th以下で生成できる断片イオンの分布と共に示した。N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxが(a)アラニン、(b)セリン、(c)バリン、(d)グルタミン、(e)ヒスチジン、(f)フェニルアラニン、(g)アルギニン、および(h)チロシンである場合のそのそれぞれの結果を示す。
【図11】図11はMBIT反応の後、H+が付いている形で検出されたロイシンエンケファリンイオン([MLE(1)+H]+)のタンデム質量分析結果スペクトルである。N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxが塩基性の(a)ヒスチジン、(b)アルギニンである場合のそれぞれの結果を示す。
【図12】図12はMBIT試薬の質量調節基の種類による定量信号(XbS、X=HまたはL)の強さ、および定量信号から誘導される追加分解イオン(XaSまたはXbS−NH3)の強さが全体断片イオンの信号強さの総合における占有比率を示す図である。エラーバーは8回の反復実験による標準偏差を意味する。
【図13(a)】図13(a)はMBIT試薬で区分標識して多様な比率で混ぜたアンジオテンシンIIをタンデム質量分析で定量分析して得た標準定量分析曲線を示す図であり、N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxがアラニンである場合の結果を示す図である。エラーバーは8回の反復実験による標準偏差を意味する。
【図13(b)】図13(b)はMBIT試薬で区分標識して多様な比率で混ぜたアンジオテンシンIIをタンデム質量分析で定量分析して得た標準定量分析曲線を示す図であり、N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxがセリンである場合の結果を示す図である。エラーバーは8回の反復実験による標準偏差を意味する。
【図13(c)】図13(c)はMBIT試薬で区分標識して多様な比率で混ぜたアンジオテンシンIIをタンデム質量分析で定量分析して得た標準定量分析曲線を示す図であり、N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxがバリンである場合の結果を示す図である。エラーバーは8回の反復実験による標準偏差を意味する。
【図13(d)】図13(d)はMBIT試薬で区分標識して多様な比率で混ぜたアンジオテンシンIIをタンデム質量分析で定量分析して得た標準定量分析曲線を示す図であり、N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxがグルタミンである場合の結果を示す図である。エラーバーは8回の反復実験による標準偏差を意味する。
【図13(e)】図13(e)はMBIT試薬で区分標識して多様な比率で混ぜたアンジオテンシンIIをタンデム質量分析で定量分析して得た標準定量分析曲線を示す図であり、N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxがヒスチジンである場合の結果を示す図である。エラーバーは8回の反復実験による標準偏差を意味する。
【図13(f)】図13(f)はMBIT試薬で区分標識して多様な比率で混ぜたアンジオテンシンIIをタンデム質量分析で定量分析して得た標準定量分析曲線を示す図であり、N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxがフェニルアラニンである場合の結果を示す図である。エラーバーは8回の反復実験による標準偏差を意味する。
【図13(g)】図13(g)はMBIT試薬で区分標識して多様な比率で混ぜたアンジオテンシンIIをタンデム質量分析で定量分析して得た標準定量分析曲線を示す図であり、N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxがアルギニンである場合の結果を示す図である。エラーバーは8回の反復実験による標準偏差を意味する。
【図13(h)】図13(h)はMBIT試薬で区分標識して多様な比率で混ぜたアンジオテンシンIIをタンデム質量分析で定量分析して得た標準定量分析曲線を示す図であり、N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxがチロシンである場合の結果を示す図である。エラーバーは8回の反復実験による標準偏差を意味する。
【図14】図14はMBIT試薬で区分標識して多様な比率で混ぜたロイシンエンケファリンをタンデム質量分析で定量分析して得た標準定量分析曲線を示す図である。N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxが(a)ヒスチジン、(b)アルギニンである場合のそれぞれの結果を示す。
【図15】図15はN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBITで標識された分析体の定量分析測定限界を確認した結果である。
【図16(a)】図16(a)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図であり、YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示しており、8種のMBIT対で標識されたYLYEIARペプチドの液相クロマトグラフィー結果である。
【図16(b)】図16(b)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図であり、YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示しており、質量調節基がアラミン側鎖である場合、各MBIT対で標識されたYLYEIARがクロマトグラフィーで検出されるそれぞれの分取(fraction)をMALDIタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図である。定量分析して得られた相対的量の平均と標準偏差が数値でそれぞれ表示される。
【図16(c)】図16(c)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図であり、YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示しており、質量調節基がセリン側鎖である場合、各MBIT対で標識されたYLYEIARがクロマトグラフィーで検出されるそれぞれの分取(fraction)をMALDIタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図である。定量分析して得られた相対的量の平均と標準偏差が数値でそれぞれ表示される。
【図16(d)】図16(d)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図であり、YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示しており、質量調節基がバリン側鎖である場合、各MBIT対で標識されたYLYEIARがクロマトグラフィーで検出されるそれぞれの分取(fraction)をMALDIタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図である。定量分析して得られた相対的量の平均と標準偏差が数値でそれぞれ表示される。
【図16(e)】図16(e)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図であり、YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示しており、質量調節基がグルタミン側鎖である場合、各MBIT対で標識されたYLYEIARがクロマトグラフィーで検出されるそれぞれの分取(fraction)をMALDIタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図である。定量分析して得られた相対的量の平均と標準偏差が数値でそれぞれ表示される。
【図16(f)】図16(f)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図であり、YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示しており、質量調節基がヒスチジン側鎖である場合、各MBIT対で標識されたYLYEIARがクロマトグラフィーで検出されるそれぞれの分取(fraction)をMALDIタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図である。定量分析して得られた相対的量の平均と標準偏差が数値でそれぞれ表示される。
【図16(g)】図16(g)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図であり、YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示しており、質量調節基がフェニルアラニン側鎖である場合、各MBIT対で標識されたYLYEIARがクロマトグラフィーで検出されるそれぞれの分取(fraction)をMALDIタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図である。定量分析して得られた相対的量の平均と標準偏差が数値でそれぞれ表示される。
【図16(h)】図16(h)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図であり、YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示しており、質量調節基がアルギニン側鎖である場合、各MBIT対で標識されたYLYEIARがクロマトグラフィーで検出されるそれぞれの分取(fraction)をMALDIタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図である。定量分析して得られた相対的量の平均と標準偏差が数値でそれぞれ表示される。
【図16(i)】図16(i)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図であり、YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示しており、質量調節基がチロシン側鎖である場合、各MBIT対で標識されたYLYEIARがクロマトグラフィーで検出されるそれぞれの分取(fraction)をMALDIタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図である。定量分析して得られた相対的量の平均と標準偏差が数値でそれぞれ表示される。
【図17】図17は7種のアルキル基MBIT試薬対で反応が行われたアンジオテンシンIIのMALDI質量分析結果を示す概略図である。MBIT試薬において、質量調節基が(a)エチル、(b)プロピル、(c)ブチル、(d)ペンチル、(e)ヘキシル、(f)ヘプチル、および(g)オクチルの場合をそれぞれ示す。ここで、XnはCnの質量調節基を有するNアシル化アミノ酸またはN−アシル−Alaアミノ酸を意味する。
【図18】図18は7種のMBIT試薬対でそれぞれMBIT反応が行われたアンジオテンシンIIイオンのMALDIタンデム質量分析結果を示す図であって、各MBIT試薬対に対してHMBITで反応したペプチドとLMBITで反応したペプチドを1:1の混合比で混ぜてタンデム質量分析した結果である。 が(a)エチル、(b)プロピル、(c)ブチル、(d)ペンチル、(e)ヘキシル、(f)ヘプチル、(g)オクチルの質量調節基を有するMBITが連結されたアンジオテンシンIIのCIDスペクトルである。ここで、XnはCnの質量調節基を有するNアシル化アミノ酸またはN−アシル−Alaアミノ酸を意味する。
【図19】図19はMBIT試薬種類による各定量信号の強さを全体断片イオンの強さの総合に対する比率で計算して示す。
【図20】図20はLMBITが連結されたアンジオテンシンIIと、HMBITが連結されたアンジオテンシンIIとを多様な混合比で混ぜて定量分析し、各混合比と測定によって得られた比の線形性を比較した図である。
【図21】図21はMBITで標識された分析体の定量分析測定限界を確認した結果である。LMBIT−とHMBIT−でそれぞれ標識されたアンジオテンシンIIを2:1の比率で混合した後、濃度を2倍ずつ持続的に薄めた試料をタンデム質量分析した結果のうち、定量信号質量(bS)が表示される領域を拡大した図である。MBIT試薬において、質量調節基が(a)エチル(C2)、(b)ブチル(C4)、(c)ペンチル(C5)、(d)ヘキシル(C6)、(e)ヘプチル(C7)、および(f)オクチル(C8)の場合をそれぞれ示す。
【図22】図22は4つの相異なる生長条件で得られたHA−Hsc82タンパク質の量、および定量分析を行うためにそれぞれの試料に使用したMBIT試薬を示す図である。HA−Hsc82タンパク質を発現させた条件を(a)に示し、これらの条件下に生成されたHA−Hsc82タンパク質を酵母から抽出および精製して電気泳動した後、Sypro Ruby stainで染色した結果を(b)に示す。4つの条件のHA−Hsc82タンパク質のゲルバンドを切り出してトリプシンで酵素分解した後、MBIT試薬に反応させたが、各タンパク質グループに反応したMBIT試薬を(c)に示す。ここで、XnはCnの質量調節基を有するNアシル化アミノ酸またはN−アシル−Alaアミノ酸を意味する。
【図23】図23は図22(c)の6種の分析体を同量混合し、ZipTipで精製した後、質量分析した結果を示す図である。各分析体にはヘキシル(三角形)、ヘプチル(四角形)、およびオクチル(円形)の質量調節基を有するMBIT試薬が付いている。5種のペプチドがタンデム質量分析に使用された。ここで、XnはCnの質量調節基を有するNアシル化アミノ酸またはN−アシル−Alaアミノ酸を意味する。
【図24】図24はゲルイミジ化システムで定量した結果と、MBIT対で標識された分析体をMALDIタンデム質量分析で定量した結果とを比較して示す図である。 4つの生長条件で得られたHsc82タンパク質の相対的な量は3対のMBIT試薬を用いて同時に定量することができる。
【図25】図25は(a)ヘキシル、(b)ヘプチル、(c)オクチルの質量調節基 を有するMBIT対で標識された5種のペプチドのMALDIタンデム質量分析した結果からデノボ配列分析した結果を示す。アミノ酸コードに引かれた下線はその配列分析が正確に行われたことを意味する。アミノ酸コードに続く星印はそのアミノ酸にMBITが標識されていることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、下記化学式1で表される可変質量ラベリング剤を提供する。
[化学式1]
【0023】
【化1】
【0024】
ここで、RSおよびRBはそれぞれ直鎖または分枝鎖のC1〜C18アルキルであり、RSおよびRBの少なくとも一つは一つ以上の重水素を含み、RTは質量調節基であり、リンカーは分析体との結合を誘導する反応性リンカーである。
【0025】
本発明で使用される用語「反応性リンカー」は、アミンの求核攻撃に離脱基となる活性エステルであることを意味する。前記アミンは1次アミンであることを特徴とする。また、反応性リンカーは、N−ヒドロキシスクシンイミジル基、N−ヒドロキシスルホスクシンイミジル基、ベンゾトリアゾール−1−イルオキシル基、ペンタハロベンジル基、4−ニトロフェニル基、および2−ニトロフェニル基よりなる群から選択できる。本発明の実施においては、N−ヒドロキシスクシンイミジル基がリンカーとして使用された。
【0026】
本発明で使用される用語「前記質量調節基」は、分析体と結合した後、タンデム質量分析過程で分解されるとき、N-アシル化アミノ酸断片の質量を調節して定量信号がスペクトル上で他の断片と重ならないようにするために導入されるものを意味するものであって、RTの種類を変えることにより、定量信号の質量を多様に変化させることができる。前記質量調節基は、類似または同一物性を有する天然または人工アミノ酸残基の側鎖のいずれか一つであることを特徴とする。
【0027】
前記質量調節基のうち、天然アミノ酸残基の側鎖としては、アラニン(Ala)、セリン(Sr)、ヒスチジン(His)、バリン(Val)、グルタミン(Gln)、フェニルアラニン(Phe)、アルギニン(Arg)、またはチロシン(Tyr)の側鎖であり得る。
【0028】
また、前記質量調節基は、直鎖または分枝鎖のC2〜C18アルキルであってもよく、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチルまたはオクチルなどの直鎖または分枝鎖のアルキルであってもよい。
【0029】
前記RSおよびRBは、重水素を含んで同位元素の質量差による定量分析を可能とする役割を果たす。このため、前記RSまたはRBはそれぞれ直鎖または分枝鎖C1〜C18アルキルであり、RSおよびRBの少なくとも一つは一つ以上の重水素を含み、好ましくは前記RSおよびRBはメチルまたは一つ以上の重水素を含むメチルであることを特徴とする。前記RSおよびRBは炭素の個数が同じアルキルからなっているが、含まれた重水素の数が互いに異ならなければならない。このような観点から、前記RSとRBはそれぞれCH3およびCD3であり、或いはCD3およびCH3であることが好ましい。すなわち、前記化合物において、RSとRBは、RSがCH3であればRBはCD3であり、RBがCH3であればRSはCD3である。
【0030】
前記化学式1は、N末端がアシル化され、C末端にはアミンの求核攻撃に離脱基となるリンカーが付き、同位元素で標識されるジペプチドであることを特徴とする。また、前記ジペプチドは重水素で標識されるジペプチドであることを特徴とする。
【0031】
また、本発明は、前記化学式1で表される可変質量ラベリング剤を2種以上含む可変質量ラベリング剤セットを提供する。
【0032】
前記可変質量ラベリング剤セットは、前記化学式1で表される相異なる2化合物の対が一つのセットを成す。前記化合物対が、RSとRBに含まれた重水素の総数が一定な化合物対になると、同位元素の質量差のため、スペクトル上で各試料の質量が異なり、その相対的強さを比較して定量分析を行うことができる。このような観点から、前記2種類以上の可変質量ラベリング剤それぞれのRSとRBに含まれた重水素の数が互いに異なり、前記2種類以上の可変質量ラベリング剤は互いに重水素の数が同一であることが好ましい。
【0033】
すなわち、前記化合物対のRSとRBは、同一の炭素数を有する直鎖または分枝鎖のアルキルであり、第1化合物においてRSにRBより多い数の重水素を含んでいると、第2化合物ではRBの重水素の数がRSに比べて第1化合物の差異だけ多くなるように構成される。結果として、第1化合物と第2化合物の全体的な質量は同一に構成される。発明の実施において、実際合成されて使用された化合物対は、前記RSとRBがそれぞれCH3、CD3である化合物と、RSとRBがそれぞれCD3、CH3である化合物との対である。
【0034】
また、本発明は、前記可変質量ラベリング剤セットを2種以上含む多重可変質量ラベリング剤セットを提供する。
【0035】
また、本発明は、可変質量ラベリング剤で標識された分析体を含む混合物、その塩またはその水和物を提供する。本発明の実施において、前記化合物と分析体との結合は、リンカーが分析体のアミンと反応して離脱基として作用して分離されることにより行われる。
【0036】
ここで、前記分析体は、タンパク質、炭水化物または脂質であることを特徴とする。また、前記分析体はペプチドであることを特徴とする。また、前記分析体は核酸または核酸誘導体であることを特徴とする。また、前記分析体はステロイドであることを特徴とする。
【0037】
また、本発明は、可変質量ラベリング剤セットを分析体に結合させる段階と、前記可変質量ラベリング剤セットが結合した分析体を分解し、前記分析体を定量する段階とを含んでなることを特徴とする、ペプチド配列およびタンパク質定量同時分析方法を提供する。
【0038】
ここで、前記定量のための分解法はタンデム質量分析法であることを特徴とする。
【0039】
前記タンデム質量分析法は、ラベリング剤の質量調節基に応じて、分析における定量信号質量の位置が変わることを特徴とする。
【0040】
前記定量信号質量を与える定量信号は、bSイオン、aSイオン、bS−NH3イオン、
ySion、およびRB含有内部断片イオンよりなる群から選ばれる1種以上の断片イオンであることを特徴とする。
【0041】
前記質量調節基が天然アミノ酸側鎖であれば、定量信号質量と標識シグニチャーは次のとおりである。
【0042】
前記質量調節基がメチル基の場合、定量信号質量(bS)が114と117Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が86と89Thで現れ、標識シグニチャーが188Thで現れることを特徴とする。
【0043】
前記質量調節基がセリン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が130と133Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が102と105Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が204Thで現れることを特徴とする。
【0044】
前記質量調節基がバリン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が142と145Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が114と117Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が216Thで現れることを特徴とする。
【0045】
前記質量調節基がグルタミン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が171と174Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が143と146Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が245Thで現れることを特徴とする。
【0046】
前記質量調節基がヒスチジン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が180と183Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が152と155Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が254Thで現れることを特徴とする。
【0047】
前記質量調節基がフェニルアラニン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が190と193Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が162と165Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が264Thで現れることを特徴とする。
【0048】
前記質量調節基がアルギニン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が199と202Thで現れ、別の定量信号質量(bS−NH3)が182と185Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が273Thで現れることを特徴とする。
【0049】
前記質量調節基がチロシン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が206と209Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が178と181Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が280Thで現れることを特徴とする。
【0050】
前記質量調節基が人工アミノ酸側鎖の場合、定量信号質量と標識シグニチャーは次のとおりである。
【0051】
前記質量調節基がエチル基の場合、定量信号質量(bS)が128と131Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が100と103Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が202Thで現れることを特徴とする。
【0052】
前記質量調節基が直鎖または分枝鎖プロピル基の場合、定量信号質量(bS)が142と145Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が114と117Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が216Thで現れることを特徴とする。
【0053】
前記質量調節基が直鎖または分枝鎖ブチル基の場合、定量信号質量(bS)が156と159Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が128と131Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が230Thで現れることを特徴とする。
【0054】
前記質量調節基が直鎖または分枝鎖ペンチル基の場合、定量信号質量(bS)が170と173Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が142と145Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が244Thで現れることを特徴とする。
【0055】
前記質量調節基が直鎖または分枝鎖ヘキシル基の場合、定量信号質量(bS)が184と187Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が156と159Thで現れ、標識シグニチ(b0)ャが258Thで現れることを特徴とする。
【0056】
前記質量調節基が直鎖または分枝鎖ヘプチル基の場合、定量信号質量(bS)が198と201Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が170と173Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が272Thで現れることを特徴とする。
【0057】
前記質量調節基が直鎖または分枝鎖オクチル基の場合、定量信号質量(bS)が212と215Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が184と187Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が286Thで現れることを特徴とする。
【0058】
また、本発明は、本発明に係る多重可変質量ラベリング剤セットを別の分析体に結合させ、分解して該当分析体を定量することを特徴とする、ペプチド配列およびタンパク質定量同時分析方法を提供する。
【0059】
また、本発明は、本発明に係る多重可変質量ラベリング剤セットを分析体に結合させて定量する過程で、1種の試料と残りのそれぞれ異なる試料との比率を、質量調節基に応じて異なる定量信号質量によってそれぞれ別々に定量することにより、全体試料間の量を多重定量する分析方法を提供する。
【0060】
以下、本発明の原理について図面を参照して具体的に説明する。
【0061】
図1はMBIT試薬および技術を示す概略図であって、(a)はMBIT試薬の構造、(b)はMBIT試薬が1次アミン基に反応して標識される過程、(c)はMBIT試薬セットで区分標識されたペプチドをタンデム質量分析した場合に生成可能な断片イオン、(d)は概略的なタンデム質量分析スペクトルをそれぞれ示す。
【0062】
図1に示すように、理論的に限定されるのではないが、本発明に係る化合物1はN末端がアシル化され且つC末端にはリンカーが付いているジペプチドであって、図1(a)に表現されたような機能に区分できる。
【0063】
このような化合物は、分析体の1次アミンと反応して図1(b)に示すように分析体と結合することができる。同一の分子式に重水素が標識された部位のみが異なるMBIT試薬対を、便宜上、HMBITとLMBITに区分するが(H:heavy、L:Light)、RSに重水素が標識されたものをHMBITといい、RBに重水素が標識されたものをLMBITという。このLMBITとHMBITとが結合した分析体は、全体的な重量は同一である。ところが、タンデム質量分析で現れる切断断片のうち、RSとRBのいずれか一方のみを含んでいる断片は、LMBITが連結された場合とHMBITが連結された場合に対して相異なる質量値を有し、図1の(c−d)におけるbSイオンのようにスペクトル上で異なる位置に現れる。これらピークの相対的強度はこれらが付いていた分析体の相対的な量として定量できる。これに対し、RSとRBを全て含み或いは全く含まない切断断片の場合、質量値がLMBIT、HMBITに関係なく一定に現れる。また、分析体がMBIT試薬によって標識された場合、bSイオンだけでなく、boイオンもスペクトル上で発見される。このboイオンはLMBIT、HMBITを問わずに一定に現れ、特定のMBITによって分析体が標識されたことを確認可能にするから、標識シグニチャーイオン(tagging signature ion)として用いられる。
【0064】
図2はMBIT技術において質量調節基(RT)として使用できる天然アミノ酸残基の種類を示す概略図であって、(a)はMBIT技術において定量信号質量を調節することが可能な質量調節基(RT)として使用できるアミノ酸残基と当該アミノ酸を用いたときに現れる定量信号質量対の質量値を、ペプチドをタンデム質量分析する場合に200Th以下の質量値で生成できる断片イオンの分布と共に示し、(b)は本発明で用いられた8種の質量調節基であって、220Th以下の質量値を有する断片イオンとの干渉が少ない質量調節基を示す。
【0065】
質量調節基RTの質量によって定量ピークの位置が異なるが、図2に示すように、アラニン(Ala)側鎖の場合には114/117Thで現れ、セリン(Ser)側鎖の場合には130/133Thで現れ、ヒスチジン(His)側鎖の場合には180/183Thで現れ、バリン(Val)側鎖の場合には142/145Thで現れ、グルタミン(Gln)側鎖の場合には171/174Thで現れ、フェニルアラニン(Phe)側鎖の場合には190/193Thで現れ、アルギニン(Arg)側鎖の場合には199/202Thで現れ、チロシン(Tyr)側鎖の場合には206/209Thで現れる。前述した質量調節基の場合、タンデム質量分析過程で生成される他の断片との重なりが少ない。前述した質量調節基以外にも、図2に示すようにトレオニン(Thr)、シスチン(Cys)、ロイシン(Leu)/イソロイシン(Ile)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、メチオニン(Met)の場合も質量調節基として使用される可能性を持っている。本特許の実施においては、図2bに示したアラニン(Ala)、セリン(Ser)、バリン(Val)、グルタミン(Gln)、ヒスチジン(His)、フェニルアラニン(Phe)、アルギニン(Arg)、およびチロシン(Tyr)の8つのアミノ酸側鎖が使用された。
【0066】
図3はMBIT技術において質量調節基(RT)として直鎖または分枝鎖のアルキル基を使用した場合の各MBITの固有値を示す図であって、(a)はMBIT定量信号対の質量値を、タンデム質量分析する場合に220Th以下の質量値で生成できる断片イオンの分布と共に概略に示し、(b)は質量調節基として使用されたアルキル基の炭素数による各MBITの固有標識シグニチャーと定量信号質量値を示す。
【0067】
質量調節基RTの質量によって定量信号XbSの位置が変わるが、図3に示すように、メチル(C1)の場合には114/117Thで現れ、エチル(C2)の場合には128/131Thで現れ、直鎖または分枝鎖プロピル(C3)の場合には142/145Thで現れ、直鎖または分枝鎖ブチル(C4)の場合には156/159Thで現れ、直鎖または分枝鎖ペンチル(C5)の場合には170/173Thで現れ、直鎖または分枝鎖ヘキシル(C6)の場合には184/187Thで現れ、直鎖または分枝鎖ヘプチル(C7)の場合には198/201Thで現れ、直鎖または分枝鎖オクチル(C8)の場合には212/215Thで現れる。XbSから中性CO損失したXaSイオンは、質量調節基がメチルの場合には86/89Thで検出され、質量調節基がエチルの場合には100/103Thで検出され、質量調節基が直鎖または分枝鎖プロピルの場合には114/117Thで検出され、質量調節基が直鎖または分枝鎖ブチルの場合には128/131Thで検出され、質量調節基が直鎖または分枝鎖ペンチルの場合には142/145Thで検出され、質量調節基が直鎖または分枝鎖ヘキシルの場合には156/159Thで検出され、質量調節基が直鎖または分枝鎖ヘプチルの場合には170/173Thで検出され、質量調節基が直鎖または分枝鎖オクチルの場合には184/187Thで検出される。また、各MBITの固有標識シグニチャー(bo)イオンは、質量調節基がメチルの場合には188Thで現れ、質量調節基がエチルの場合には202Thで現れ、質量調節基が直鎖または分枝鎖プロピルの場合には216Thで現れ、質量調節基が直鎖または分枝鎖ブチルの場合には230Thで現れ、質量調節基が直鎖または分枝鎖ペンチルの場合には244Thで現れ、質量調節基が直鎖または分枝鎖ヘキシルの場合には258Thで現れ、質量調節基が直鎖または分枝鎖ヘプチルの場合には272Thで現れ、質量調節基が直鎖または分枝鎖オクチルの場合には286Thで現れる。
【0068】
本発明の一側面において、本発明は、下記化学式2で表される化合物と下記化合物とを結合させた分析体に関する。
[化学式2]
【0069】
【化2】
【0070】
ここで、RSまたはRBは一つ以上の重水素を含む直鎖または分枝鎖のC1〜C18アルキルであり、RTは質量調節基である。本発明において、前記RSまたはRBは含まれる重水素の数が互いに異なる同一のアルキルである。本発明の実施において、RSまたはRBは、RSがCH3であればRBはCD3であり、RBがCH3であればR2はCD3である。本発明の実施において、前記質量調節基RTは、製造上の便宜上、類似または同一物性の天然または人工アミノ酸の側鎖基の中からいずれか一つが選択できる。前記化学式2で表される化合物は、適切な活性化試薬との反応によって化学式1への変換が可能である。これに利用可能な活性化試薬としてはN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)/1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)の組み合わせ、1−ベンゾトリアゾール(HOBt)/N,N’−ジイソプロピルカルボイミド(DIC)の組み合わせ、(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシル)トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(BOP)などがあり、本発明の実施においてはNHS/EDCの組み合わせが用いられた。
【0071】
図4はMBITを用いて行うことが可能なタンパク質の相対および絶対定量分析過程を示す概略図であって、(a)は互いに異なる条件で生成された 同一タンパク質の未知量を相対定量分析するときに使用される定量分析過程を示し、(b)は同定されたタンパク質の未知量を絶対定量分析するときに使用される定量分析過程を示す。
【0072】
前記MBIT化合物は、図4のような方式でタンパク質の配列および定量同時分析に活用される。図4の(a)および(b)に示すように、MBIT化合物を用いて、両試料間の相対的量の比を定量する相対定量分析、およびある試料の絶対量を求める絶対定量分析の両方ともが可能である。
【0073】
2−plex相対定量分析は、図4の(a)に示されている過程によって行われる。両試料(未知量)のタンパク質をそれぞれ酵素分解する。試料1由来のペプチドと試料2由来のペプチドをそれぞれHMBITまたはLMBITで区分標識した後、混合してクロマトグラフィーで分離し、しかる後に、これをタンデム質量分析過程によって配列分析および同時定量分析する。
【0074】
前述した相対定量分析と同様の過程を経るが、2つの試料の一方を既知量のタンパク質またはペプチドにして実験を行う場合、図4の(b)に示すように絶対定量分析が可能となる。
【0075】
図5(a)は同一物性を有し且つ多様な質量値を有するMBITセットのタンデム質量スペクトルに現れる特性を示す概略図であり、図5(b)および図5(c)は、2種以上のMBITセットを用いて3つ以上の試料を同時に多重定量分析する過程を示す概略図である。
【0076】
質量調節基の物性調節によって定量信号の質量値は異なり定量信号の強さは各MBITの間で類似に現れるので、同一物性の多数のMBITを使用した多重定量分析が可能になる。
【0077】
まず、多重定量分析のために、互いに異なる条件または環境で生成されたタンパク質試料を酵素分解してペプチドに作る。第1の多重定量分析方法は次の過程によって行われる。準備されたペプチドのうち、一つの条件で収穫したペプチドを比較対象の個数だけ同一の量で分取し、それぞれを、相異なる質量信号値を有するHMBIT(またはLMBIT)可変質量ラベリング剤と反応させる。比較しようとする対象ペプチドは、それぞれ相異なる質量信号値を有するLMBIT(またはHMBIT)可変質量ラベリング剤と反応させる。
【0078】
第2の多重定量方法は、準備された各ペプチドを二等分した後、それぞれに相異なる種類のMBIT試薬(HMBIT(n−1)とLMBIT(n)、またはLMBIT(n−1)とHMBIT(n))を反応させる。このように標識された全てのペプチドを混合してクロマトグラフィーで分離し、それぞれの同重体親イオンをタンデム質量分析して配列分析および定量分析すると、同時に多数の試料の量を定量分析することができる。第1の多重定量分析法は、同一の対照群を使用するので、対照群との比較によって多数のサンプル間の相対的な量を直ちに知ることができる。
【0079】
第1の多重定量分析法を使用するとき、それぞれの比較対象試料を標識するMBIT化合物の種類を変えて定量分析を繰返し行うか、或いは対照群を別の条件の試料として選択すると、多重試料の定量分析結果を統計的に多様な組み合わせで得ることができるため、定量結果の正確度を高めることができる。第2の定量方法は、相対的な量の差異が大きいため、只1回の比較によって相対的な量を知り難い場合に適用する場合、第1の方法より正確な定量が可能になる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例および添付図面を参照して、本発明に係る可変質量ラベリング剤とこれを用いたペプチド酸配列およびタンパク質定量同時分析方法について詳細に説明する。ところが、本発明が後述の内容に限定されるのではなく、当該分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想を逸脱することなく、本発明を多様な形態に具現することができるであろう。
【0081】
下記では、質量調節基がアラニン(Ala)、セリン(Ser)、ヒスチジン(His)、バリン(Val)、グルタミン(Gln)、フェニルアラニン(Phe)、アルギニン(Arg)またはチロシン(Tyr)側鎖であるものと、エチル(C2)、プロピル(C3)、ブチル(C4)、ペンチル(C5)、ヘキシル(C6)、ヘプチル(C7)またはオクチル(C8)であるものを区分して実施した。
【0082】
エチル(C2)、プロピル(C3)、ブチル(C4)、ペンチル(C5)、ヘキシル(C6)、ヘプチル(C7)またはオクチル(C8)の質量調節基を有するMBIT試薬の場合、該当ジペプチド構造を便宜上HXn−AlaまたはLXn−Ala(H:Heavy、L:light)で表記する。
【0083】
1.酸型MBIT試薬の合成
酸型MBIT試薬(XMBIT−OH、X=LまたはH)は、標準固相ペプチド合成法または液相有機合成法によって合成された。標準固相ペプチド合成法としては、アミノ酸残基が質量調節基として使用され、該当質量調節基がアラニン(Ala)、セリン(Ser)、ヒスチジン(His)、バリン(Val)、グルタミン(Gln)、フェニルアラニン(Phe)、アルギニン(Arg)またはチロシン(Tyr)などの天然アミノ酸の側鎖であるMBIT試薬と、アシル基またはアミノ酸残基が質量調節基として使用され、該当質量調節基がエチル(C2)、プロピル(C3)、ブチル(C4)、ペンチル(C5)、ヘキシル(C6)、ヘプチル(C7)またはオクチル(C8)である全てのMBIT試薬を合成することができる。液相有機合成法としては、アミノ酸残基が質量調節基として使用され、当該質量調節基がヘキシル(C6)、ヘプチル(C7)またはオクチル(C8)である場合の酸型MBIT試薬を合成することができる。
【0084】
図6の(a)はN末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬を固相合成法を用いて合成する過程を概略に示し、図6の(b)は液相有機合成法による酸型MBIT試薬の合成過程を示す。
【0085】
(a)固相ペプチド合成法を用いた合成
物質
無水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ピペリジン、ジクロロメタン(DCM、HPLCグレード)、トリフルオロ酢酸(TFA、HPLCグレード)、チオアニソール(TA、>99.5%)、エタンジチオール(EDT、>99.5%)、無水酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、N−Fmoc−アラニンはSigma−Aldrich(St.Louis、MO)から購入した。酢酸−d3、N−Fmoc−アラニン−3,3,3,−d3はCDN isotope(Toronto、カナダ)から購入した。2−塩化トリチルレジンはMerckから購入した。N,N’−ジイソプロピルカルボイミド(DIC)、1−ベンゾトリアゾール、およびN末端がFmocで保護された他の全てのアミノ酸はAdvanced ChemTechから購入した。
【0086】
合成過程
1)段階1
N−Fmoc−アラニンまたはN−Fmoc−アラニン−3,3,3−d3(75mg)を、水分が完全に除去されたジクロロメタン溶液1mLに溶かした。ジクロロメタンのみではよく溶けないので、100μLのDMFを入れて完全に溶解させた。準備したN−Fmocアミノ酸溶液と170μLのDIPEAを、火炎乾燥したバイアルに入っている2−塩化トリチルレジン0.1gと混合し、2〜4時間緩やかに攪拌した。レジンをペプチド合成用ポリプロピレン材質のカートリッジ(総量:5mL)に移した後、十分な量のジクロロメタン/メタノール/DIPEA混合溶液(17/2/1、v/v/v)で3回洗浄した。その後、十分な量のジクロロメタンで3回、DMFで2回さらに洗浄した後、ジクロロメタンで2回さらに洗浄し、しかる後に、レジンから溶液を完全に除去し、減圧条件で完全に乾燥させる。
【0087】
2)段階2
段階1で製造された乾燥レジンに約3mL程度のDMFを入れて2〜3分間十分振とうし、DMFを除去する過程を約5回繰返し行ってレジンをDMFに十分浸漬した。DMFに混ざっている25%ピペリジン溶液を約3mL程度レジンに混ぜ、5分間攪拌した後、溶液を除去した。その後、さらに25%ピペリジン溶液を3mL程度レジンにさらに入れた後、15分間攪拌し、溶液を除去した。しかる後に、レジンを十分な量のDMFで3回、メタノールで3回洗浄し、さらにDMFで3回洗浄した。
【0088】
3)段階3
アミノ酸側鎖が質量調節基として使用されるMBIT試薬を合成する場合には次のように製造した。
【0089】
段階2で製造されたレジンに、DMFに0.6M濃度で溶かしたFmoc−アミノ酸(アラニン、セリン、バリン、グルタミン、ヒスチジン、フェニルアラニン、アルギニン、およびチロシンのいずれか一つ)溶液を1mL仕込んだ。同様に、DMFにそれぞれ0.6M濃度で溶かした1−ベンゾトリアゾール溶液、DIC溶液を1mLずつ仕込み、2時間30分ゆっくり攪拌した。その後、混合溶液を除去し、レジンを十分な量のDMFで3回、メタノールで3回洗浄し、さらにDMFで3回洗浄した。
【0090】
アシル基が質量調節基として使用されるMBIT試薬を合成する場合には次のように製造した。
【0091】
段階2で製造されたアラニン−d3(またはアラニン−d0)が付いているレジンに、DMFに0.6M濃度で溶かしたFmoc−アラニン−d0溶液(またはFmoc−アラニン−3,3,3−d3)、1−ベンゾトリアゾール溶液、およびDIC溶液を1mLずつ仕込み、2時間30分ゆっくり攪拌した。その後、混合溶液を除去し、レジンをDMFで3回、メタノールで3回洗浄し、さらにDMFで3回洗浄した。
【0092】
4)段階4
段階3で製造されたレジンに、DMFに混ざっている25%ピペリジン溶液を約3mL程度添加し、5分間攪拌した後、溶液を除去した。その後、さらに25%ピペリジン溶液を3mL程度レジンにさらに加えた後、15分間攪拌し、溶液を除去した。その後、レジンを十分な量のDMFで3回、メタノールで3回洗浄し、さらにDMFで3回洗浄した。
【0093】
5)段階5
アミノ酸側鎖が質量調節基として使用されるMBIT試薬を合成する場合には次のように製造した。
【0094】
段階4で製造されたレジンに、0.6M濃度でDMFにそれぞれ溶かした酢酸または酢酸−d3を1mL加えた。レジンに最初反応させたものがFmoc−アラニンの場合には酢酸−d3を使用し、Fmoc−アラニン−3,3,3−d3の場合には重水素で標識されていない酢酸を使用した。また、0.6M濃度でDMFにそれぞれ溶かした1−ベンゾトリアゾール溶液とDIC溶液を1mLずつレジンに混ぜ、2時間30分ゆっくり攪拌した。その後、混合溶液を除去し、レジンを十分な量のDMFで3回、メタノールで3回、DMFで3回、さらにメタノールで3回洗浄した後、減圧条件で完全に乾燥させてバイアルに移した。
【0095】
アシル基が質量調節基として使用されるMBIT試薬を合成する場合には次のように製造した。
【0096】
段階4で製造されたレジンに、0.6M濃度でDMFにそれぞれ溶かしたカルボン酸(プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、またはノナン酸)、1−ベンゾトリアゾール溶液、およびDIC溶液を1mLずつ仕込み、2時間30分ゆっくり攪拌した。その後、混合溶液を除去し、レジンをDMFで3回、メタノールで3回、DMFで3回、さらにメタノールで3回洗浄した後、減圧条件で完全に乾燥させてバイアルに移した。
【0097】
6)段階6
段階5で製造されたレジンに、TFA/ベンゼン/TA/蒸留水/EDT混合溶液(16.5/1/1/1/0.5、v/v/v/v)2mLを混ぜ、3時間攪拌した。この過程で合成された酸型MBIT試薬がレジンから分離された。レジンは全て濾過し、残った溶液を別途に集め、体積が200μL以下となるように窒素によって乾燥させた。その溶液に、冷たく冷したエーテルを添加して白色粉末状の生成物(酸型MBIT試薬)を沈殿させた。沈殿した生成物は、冷たく冷したエーテルで3回または4回洗浄した後、減圧条件で完全に乾燥させた。
【0098】
(b)液相有機合成法を用いた合成
物質
2−アミノ−4−ペンテン酸、無水酢酸(Ac2O−d0)、Boc−l−アラニン−d0、TFA、4−オクテン、5−デケン、1−ヘプテン、およびグラブス触媒(Grubb’s catalyst、2nd generation)はSigma−Aldrich(St.Louis、MO)から購入し、dl−アラニン−d3、および過重水素化無水酢酸(Ac2O−d6)はCDN Isotopes(Quebec、カナダ)から購入した。
【0099】
合成過程
1)段階1
2−アミノ−4−ペンテン酸(2mmoL)をpH9〜10の水(4mL)に溶かし、無水酢酸(4.0mmoL)を0℃で投入した。8M NaOHを投入してpH10程度に調節し、反応混合物を4時間0℃で攪拌した。濃い塩酸溶液を投入してpH2以下に作って反応を終了した。生成物はメタノールに溶かし、精製して乾燥させて2−アセトアミド−4−ペンテン酸を固体として回収した。
【0100】
2)段階2
アラニンベンジルエステルは、Bocで保護されたアラニンに臭化ベンジルを加えてBoc−アラニンベンジルエステルを作った後、TFAを加えてBocを除去する過程によって作られる。ジオキサンと水との混合物(2/1、v/v)に0.33Mで溶けた1−アラニン−d3(1mmoL)に、1.5mLの1M NaOHとジ−3次−ブチルジカルボネート(1.1mmoL)を投入した後、室温で6時間攪拌した。ジオキサンを蒸発させた後、氷を用いて混合物を冷却し、KHSO4飽和水溶液を加えてpHを2〜3程度に低めた。有機生成物は3回にわたって10mLの酢酸エチル(EA)で抽出され、無水Na2SO4の下で乾燥した。シリカゲルクロマトグラフィー精製によって、Boc−dl−アラニン−d3(0.14g、0.74mmoL)が得られた。0.5mmoLのBoc−dl−アラニン−d0またはBoc−dl−アラニン−d3を無水アセトン(5mL)に溶かし、炭酸カリウム(0.75mmoL)と臭化ベンジル(0.55mmoL)を加えた。5時間の還流後、反応生成物は室温に冷却し、濃縮された後、クロロホルム(10mL)に溶解された。有機層を炭酸ナトリウムの飽和水溶液(30mL)で洗浄し、Na2SO4の下で乾燥させた後、シリカゲルクロマトグラフィーで精製してBoc−アラニン−d0ベンジルエステルまたはBoc−アラニン−d3ベンジルエステルを白色固体として得た。Boc−アラニン−d0ベンジルエステルまたはBoc−アラニン−d3ベンジルエステル(0.98mmoL)を無水DCM(10mL)に溶かし、8mmoLのTFAを0℃で加えて1時間攪拌した。減圧の下で溶媒を除去した後、残留物は高真空の下で乾燥させた。油状生成物(アラニン−d0ベンジルエステルまたはアラニン−d3ベンジルエステル)は無水THF(2mL)に保管した。
【0101】
3)段階3
段階2で製造された、THF(5mL)に溶けたアラニン−d0ベンジルエステルまたはアラニン−d3ベンジルエステル(0.55mmoL)に、BOP試薬(1.01mmoL)を加えた後、30分間室温で攪拌した。DIPEA(3.36mmoL)を0℃で投入し、さらに室温で15分間攪拌した後、段階1で製造された、無水THFに溶けた2−アセト−d3−アミド−4−ペンテン酸または2−アセト−d0−アミド−4−ペンテン酸を加えた後、一晩室温で攪拌した。溶媒を蒸発させた後、残留物はEAに溶解させた。有機層を水で洗浄した。残留油状生成物をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーで精製することにより、ベンジル2−(2−アセトアミド−4−ペンテンアミド)プロパネートを無色固体として得た。
【0102】
4)段階4
DCMに、段階3で製造されたベンジル2−(2−アセトアミド−4−ペンテンアミド)プロパネート、アルケン(4−オクテン、5−デケン、または1−ヘプテン)、およびグラブス触媒を仕込んで40℃で24時間還流させた。触媒と溶媒を除去した後、シリカゲルクロマトグラフィーで精製した。この反応生成物は、20mol%のPd(OH)2と共に無水エタノールで混合した後、室温で一晩1気圧のH2圧力下で攪拌した。触媒をフィルターリングして濾した後、生成物を真空下で濃縮し、メタノールとエーテルの1:1混合物を用いた再結晶を行うことにより、酸型MBIT試薬を得た。
【0103】
2.MBIT試薬と分析体ペプチドとの結合
物質
無水アセトニトリル(ACN、HPLCグレード)、無水DMF、ヒドロキシルアミンヒドロクロライド、トリフルオロ酢酸(TFA、HPLCグレード)、α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸(HCCA)、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)は、Sigma−Aldrich(St.Louis、MO)から購入した。1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)は、Pierce(Rockford、Il)から購入した。ウシ血清アルブミン(BSA)パウダーはCalbiochemから購入した。
【0104】
MBIT試薬の活性エステル製造およびモデルペプチドとの反応
図7はMBIT試薬を分析対象ペプチドと反応させるために活性エステルを形成する過程、およびこれにより形成されたMBIT活性エステルを分析対象ペプチドと反応させる実験方法を示す概略図である。
【0105】
MBIT試薬のスクインイミジルエステル(OSu)を製造する方法、およびモデルペプチドに反応させる過程は図7に概略に示されている。DMFに溶けているXMBIT−OH(X=LまたはH)、EDC、およびNHSを最終濃度がそれぞれ60、35、40mMとなるように混合し、室温で45分間攪拌した。このように生成されたXMBIT−OSu溶液は追加精製過程なしで分析体との反応に直ちに利用した。
【0106】
モデルペプチドとしては、アンジオテンシンII(DRVYIHPF)またはロイシンエンケファリン(YGGFL)を使用した。アミノ酸残基が質量調節基として使用され且つ前記質量調節基がアラニン(Ala)、セリン(Ser)、ヒスチジン(His)、バリン(Val)、グルタミン(Gln)、フェニルアラニン(Phe)、アルギニン(Arg)、およびチロシン(Tyr)などの天然アミノ酸側鎖であるMBIT試薬で実験した場合には、アンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンが1:1のモル比で混合されたモデルペプチド混合物を使用し、残りのエチル(C2)、プロピル(C3)、ブチル(C4)、ペンチル(C5)、ヘキシル(C6)、ヘプチル(C7)またはオクチル(C8)を質量調節基として使用した場合はアンジオテンシンIIのみをモデルペプチドとして使用した。
【0107】
モデルペプチドまたはモデルペプチド混合物を、0.4mMの濃度となるように50mMの重炭酸ナトリウム(NaHCO3)バッファに溶かした。このモデルペプチド溶液10μLを、準備されたLMBIT−OSuまたはHMBIT−OSu溶液10μLと混ぜ、室温で5時間攪拌した。その後、10μLのヒドロキシルアミン溶液(80mM in 100mM NaHCO3)を仕込み、少なくとも5時間以上攪拌して副反応を可逆させ、過量のMBIT−OSu試薬を不活性化させた。しかる後に、10%TFAを5μL添加して反応を完全に終結させた。
【0108】
BSAのトリプシンペプチドに対するMBIT反応
アミノ酸残基が質量調節基として使用され且つ該当質量調節基がアラニン(Ala)、セリン(Ser)、ヒスチジン(His)、バリン(Val)、グルタミン(Gln)、フェニルアラニン(Phe)、アルギニン(Arg)、またはチロシン(Tyr)などの天然アミノ酸側鎖であるMBIT試薬を用いて、BSAのトリプシンペプチドを標識する反応を行った。
【0109】
pH8.1の100mM重炭酸ナトリウムバッファに溶解したBSA(0.6mg/mL)は、0.1%酢酸に溶解した改質トリプシン(0.1μg/μL)と60:1の重量比で混合して38℃で12時間培養した。得られたトリプシンペプチド溶液を16μLずつ分取してHMBIT−OSuまたはLMBIT−OSu溶液14μLと混合して30分間攪拌した。その後、さらにHMBIT−OSuまたはLMBIT−OSu溶液6μLを仕込み、30分〜2時間さらに攪拌した。その後、10μLの100mMヒドロキシルアミンを仕込み、少なくとも4時間攪拌して副反応を可逆させた後、残っているXMBIT−OSuを除去した。反応は10μLの10%TFAを仕込んで完全に終結させた。
【0110】
Hsc82のトリプシンペプチドに対するMBIT反応
エチル(C2)、プロピル(C3)、ブチル(C4)、ペンチル(C5)、ヘキシル(C6)、ヘプチル(C7)またはオクチル(C8)を質量調節基として使用した場合のうち、アミノ酸残基を質量調節基として有し且つ該当質量調節基がヘキシル(C6)、ヘプチル(C7)またはオクチル(C8)であるMBIT試薬を用いて、Hsc82のトリプシンペプチドに標識する反応を行った。
【0111】
N末端ヘマグルチン(HA)標識Hsc82タンパク質は、4つの相異なる生長条件で得られた。HA−Hsc82タンパク質を発現させた条件は、Hsc82のようなHsp90ファミリーであるHsp82タンパク質の存在有無と酵母の生長温度とを組み合わせて、図22の(a)に示すように合計4つの場合に分けられる。norm30はHsp82とHsc82タンパク質の両方ともを持っている酵母を30℃で生育させた場合であり、norm39はHsp82とHsc82タンパク質の両方ともを持っている酵母を、これらのタンパク質を過発現させるために39℃で育てて場合であり、del30はHsp82タンパク質のみが除去された酵母を30℃で育てて場合であり、del39はHsp82タンパク質のみが除去された酵母を39℃で生育させて過発現させた場合である。これらの条件下で生成されたHA−Hsc82タンパク質は、酵母から抽出されてアンチ−HAマトリクス(clone3F10、Roche)とSDS−ポリアクリルアミドゲルを用いて分離および精製された。発現されたHA−Hsc82タンパク質の量はSypro Ruby Stain(Molecular Probes、Eugene、OR)で染色した後、VersaDoc 5000MPゲルイミジ化システム(Bio−Rad、Hercules、CA)で定量した。
【0112】
Hsc82のペプチドを得るために、次の方法でトリプシンを用いて各試料を酵素分解した。ゲルからタンパク質バンドを切り出した後、100mM NaHCO3バッファに20分間放置した。バッファを除去した後、ゲルを細かく切断し、ACNを加えて水を除去した。各試料に、50mM NaHCO3バッファに溶けているトリプシン0.66μgを加えた後、37℃で20時間反応させた。蒸留水とACNとの混合溶液を用いてゲル断片からペプチドを抽出した後、各試料別に乾燥させた。
【0113】
乾燥した各試料に35μLの蒸留水を加えて溶かした。このように準備された各試料溶液を4μLずつ分取してHMBIT−OSuとLMBIT−OSu溶液4μLと混合して5時間攪拌した。この際、norm39とLX6−Alaを、del30とLX7−Alaを、del39とLX8−Alaを、norm30とHX6−Ala、 HX7−AlaおよびHX8−Alaをそれぞれ反応させた。その後、4μLのヒドロキシルアミン溶液(80mM)を仕込み、少なくとも5時間以上攪拌して副反応を可逆させ、過量のMBIT−OSu試薬を不活性化させた。しかる後に、10%TFAを2μL添加して反応を完全に終結させた。
【0114】
MBIT−モデルペプチドのMALDI試料の製造
XMBITが連結されたモデルペプチド溶液は、MALDI質量分析のために0.1%TFA溶液に500倍希釈した。LMBITおよびHMBITが連結されたモデルペプチドは、7つの多様な比率で混合した。([L]/[H]=1/1、2.3/1、4/1、6.3/1、9/1、12.3/1、16/1)の7つの混合比で準備された各試料は、マトリクス溶液(5mg/mL HCCA in 50/50/0.1、H2O/ACN/TFA)と1:1の体積比で混合した。試料/マトリクス混合物1μLがMALDIプレートにロードされた。一つの試料スポット当りロードされたモデルペプチドの量はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンがそれぞれ約250fmolずつであった。
【0115】
MBITに連結されたBSAまたはHsc82トリプシンペプチドのLC−MALDI試料の製造
HMBITまたはLMBITに連結されたトリプシンペプチド1:1の比率で混合し、その一分取量(6.4μL)を、PepMapカラム(孔径100Å、粒径3mm、内径75mm、長さ150mm)を取り付けた逆相ナノ液相クロマトグラフィー(Reverse-Phase Nano-Liquid Chromatography、RP−nano−LC)分離機(LC−packings社、Sunnyvale、CA)に注入した。LCは流速0.3μL/分で60分間作動し、2−溶媒勾配を用いて作動した。体積比でH2O/ACN/TFA=95/5/0.1の溶媒AとACN=TFA=100/0.1の溶媒Bが2−溶媒勾配に利用された。[溶媒A]/[溶媒B]勾配は100/0から始まり、0〜20分の間に30/70に変わり、20〜40の間に0/100に変わり、40〜45分まで0/100に維持された。45分となる時点で100/0に急激に落ち、45〜60分の間100/0の比率が維持された。溶出される試料は、マトリクス溶液と共に25秒毎に単一MALDIスポットにProbot microfraction collectorを用いて集められた。60分間合計144個のMALDIスポットにLC溶出してくる試料が分取されて塗布された。
【0116】
MALDI−MSおよびMS/MS
前記方法によってMALDIターゲットに塗布された試料を分析するために、4700 Proteomic Analyzer(Applied Biosystems社、Foster City、CA)が陽イオンモードで質量対電荷比の範囲500〜2500Thで使用された。各塗布されたスポットに対してTime−of−Flight(TOF)スペクトルは1000個の反復レーザーショットに対する結果を蓄積することにより得られた。
【0117】
XMBITに連結されたモデルペプチドのイオンは質量調節基RTの種類によって相異なる質量対電荷比の位置で検出され、それぞれのXMBITに連結されたペプチドはタンデム質量分析のための親イオンとして選択された。XMBITに連結されたBSAトリプシンペプチドの場合、多様な配列のペプチドが多様な溶出時間で検出されることを確認した。
【0118】
タンデム質量分析のために、各選択された衝突誘起解離(Collision-Induced Dissociation、CID)を1.3×10−6torrの大気圧下で行った。このCIDスペクトルは、2000回の反復レーザーショットに対する結果を蓄積することにより得られた。CIDスペクトルは、ABI−4700 Proteomic Analyzerに共に提供されているDataExplorerプログラムを用いてベースラインが補正された。ベースライン補正の後、LbS、HbSイオンの強さを測定して相対的な量の比を決定した。各CIDスペクトルをPEAKS4.5(Bioinformatics Solutions Inc.,カナダ)を用いて分析することにより、デノボ(de novo)配列分析が行われた。
【0119】
3.MBITを用いた実際実験結果
(a)質量調節基がアラニン(Ala)、セリン(Ser)、ヒスチジン(His)、バリン(Val)、グルタミン(Gln)、フェニルアラニン(Phe)、アルギニン(Arg)、またはチロシン(Tyr)などの天然アミノ酸の側鎖である場合
−MBIT試薬の検証
製造されたMBIT試薬に正常的に合成されたかを検証するために、それぞれのMBIT試薬をアンジオテンシンII(1046.5Th)に標識して[MAG(1)+H]+イオンの質量を検出し(図8(a)〜図8(h))、タンデム質量分析(図9)を行った。LMBITとHMBITでそれぞれ標識されたアンジオテンシンIIは、同一の質量値で検出された。[MAG(1)+H]+イオンの質量値は、質量調節基がそれぞれアラニン側鎖の場合には1233.6Th、セリン側鎖の場合には1249.6Th、バリン側鎖の場合には1261.7Th、グルタミン側鎖の場合には1290.7Th、ヒスチジン側鎖の場合には1299.7Th、フェニルアラニン側鎖の場合には1309.7Th、アルギニン側鎖の場合には1318.7Th、チロシン側鎖の場合には1325.7Thである。標識シグニチャーと定量信号質量値は、質量調節基がアラニン側鎖の場合には188Th(b0)、114Th(LbS)、および117Th(HbS)、セリン側鎖の場合には204Th(b0)、130Th(LbS)および133Th(HbS)、バリン側鎖の場合には216Th(b0)、142Th(LbS)および145Th(HbS)、グルタミン側鎖の場合には245Th(b0)、171Th(LbS)および174Th(HbS)、ヒスチジン側鎖の場合には254Th(b0)、180Th(LbS)、および183Th(HbS)、フェニルアラニン側鎖の場合には264Th(b0)、190Th(LbS)および193Th(HbS)、アルギニン側鎖の場合には273Th(b0)、199Th(LbS)および202Th(HbS)、そしてチロシン側鎖の場合は280Th(b0)、206Th(LbS)および209Th(HbS)でそれぞれ計測された。前記結果より、本発明で製造された天然アミノ酸残基を用いたMBIT試薬が正常的に合成されたことが分かる。
【0120】
−MBIT連結されたモデルペプチドのタンデム質量分析
図8(a)〜図8(h)はアンジオテンシンIIとロイシンエンケファリンとのペプチド混合物を8種のMBIT試薬対で反応させた後、それぞれをMALDI質量分析した結果を概略的に示す図である。図2の(b)に示した8つの相異なる質量調節基RTを有する8種のMBIT試薬対それぞれをモデルペプチドと反応させてMALDI−TOF質量分析した結果を図8(a)〜図8(h)に示す。図8(a)〜図8(h)に示すように、[MXX(n)+H]+のXXはペプチドの種類を示し(AG=アンジオテンシンII、LE=ロシンエンケファリン)、nはペプチドに連結されたMBIT試薬の個数を示す。N末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(N−アセチル−XXX−AlaまたはAc−XA)において、質量調節基を含むXxx(またはX)がアラニン(図8(a))、セリン(図8(b))、バリン(図8(c))、グルタミン(図8(d))、ヒスチジン(図8(e))、フェニルアラニン(図8(f))、アルギニン(図8(g))、およびチロシン(図8(h))の場合をそれぞれ示した。質量調節基がアラニンの場合には1233.6Th、セリンの場合には1249.6Th、バリンの場合には1261.7Th、グルタミンの場合には1290.7Th、ヒスチジンの場合には1299.7Th、フェニルアラニンの場合には1309.7Th、アルギニンの場合には1318.7Th、チロシンの場合には1325.7ThでアンジオテンシンIIに該当する[MAG(1)+H]+イオンが検出された。また、質量調節基がヒスチジンの場合とアルギニンの場合、809.5Thと828.5Thでロイシンエンケファリンに該当する[MLE(1)+H]+イオンがそれぞれ検出された。モデルペプチドにそれぞれのMBIT試薬で反応が行われた後で増加する質量値が、該当MBIT試薬によって理論的に増加しなければならない質量値と一致するので、各MBIT試薬は成功的に合成された。
【0121】
ロイシンエンケファリンは、質量調節基(RT)が塩基性を呈する場合にのみH+が付いている状態で検出された。MBITに連結されたアンジオテンシンII[MAG(1)+H]+)は、質量調節基RTの種類と関係なく全てMALDI質量分析によって検出された。アンジオテンシンIIのチロシン側鎖に副反応がさらに行われたと思われる[MAG(2)+H]+も発見されたが、[MAG(1)+H]+に比べて強さが弱かった。反応が行われていないアンジオテンシンII([MAG(0)+H]+)は、図8(e)に示すように、ヒスチジンの側鎖が質量調節基RTとして使用された場合(Ac−HA MBIT)にのみ比較的大きく現れた。これはAc−HA MBITの合成および分離精製過程を最適化して試薬の純度を高めることさえすれば解決される問題である。このAc−HA MBITを除いた残りのMBITをペプチドに連結する反応は図8(a)〜図8(h)の信号強さ比から推定したときに完結に近く行われた。
【0122】
ロイシンエンケファリンは、アンジオテンシンIIとは異なり、ペプチド配列に塩基性のアミノ酸が存在しないため、MALDIイオン化の収率が低下する。よって、一般にMALDI質量分析スペクトル上であまり検出されない。ところが、図8(e)と図8(f)に示すように、塩基性の質量調節基RTを有するAc−HAとAc−RA MBITがロイシンエンケファリンに連結されたときには、強い信号強さでMALDI質量分析によって検出された。これにより、塩基性質量調節基を有するMBIT試薬は既存のMALDI質量分析によってあまり検出されなかったペプチドのイオン化収率を増大させて検出を可能にする付加的な機能を持っていることが分かった。
【0123】
図9は8種のMBIT試薬対でそれぞれMBIT反応が行われたアンジオテンシンIIイオン[MAG(1)+H]+)のMALDIタンデム質量分析結果を示す図であって、各MBIT試薬対に対してHMBITで反応したペプチドとLMBITで反応したペプチドを1:1の混合比で混ぜてタンデム質量分析した結果である。互いに異なるアミノ酸残基を有するMBIT試薬が連結されたそれぞれのアンジオテンシンIIイオンのCIDスペクトルを示すもので、図7の(a〜h)においてそれぞれAc−AA、Ac−SA、Ac−VA、Ac−QA、Ac−HA、Ac−FA、Ac−RA、およびAc−YAのMBITが連結されたアンジオテンシンIIのCIDスペクトルである。各種類のMBIT試薬に対して[L]/[H]の混合比が1:1である試料のCIDスペクトルを示した。N末端の1次アミンにMBIT試薬が連結されるため、C末端を含んでいる断片としてのyタイプイオンは、MBIT試薬の種類を問わずに同一の質量対電荷比の値をもって検出された。これに対し、N末端を含んでいる断片a−またはb−タイプイオンは質量調節基の種類によって互いに異なる位置で検出された。図8(g)のAc−RA MBITが連結された場合を除けば、残りの7種のMBITは通常CIDスペクトルにおける断片イオン分布が類似であった。Ac−RA MBITのアルギニン側鎖の強い塩基性が断片イオンの分布に変化を及ぼすということが分かった。標識シグニチャー(b0)および定量信号として使用されるXbSイオン対(X=LまたはH)は、MBITの種類によって異なる質量対電荷比の値で現れた。Ac−AA MBITの場合は188Th(b0)、114Th(LbS)、117Th(HbS)で、Ac−SA MBITの場合は204Th(b0)、130Th(LbS)、133Th(HbS)で、Ac−VA MBITの場合は216Th(b0)、142Th(LbS)、145Th(HbS)で、Ac−QA MBITの場合は245Th(b0)、171Th(LbS)、174Th(HbS)で、Ac−HA MBITの場合は254Th(b0)、180Th(LbS)、183Th(HbS)で、Ac−FA MBITの場合は264Th(b0)、190Th(LbS)、193Th(HbS)で、Ac−RA MBITの場合は273Th(b0)、199Th(LbS)、202Th(HbS)で、Ac−YA MBITの場合は280Th(b0)、206Th(LbS)、209Th(HbS)でそれぞれ定量信号イオン対が現れた。これは図2の(b)で予想される値と一致し、これによってもMBIT試薬が完璧に合成されたことが分かる。
【0124】
XbSイオン対は、CID過程に由来する剰余エネルギーによってさらに分解が起こり得る。図9に示すように、Ac−RA MBITに連結された場合は、アルギニン側鎖における中性NH3損失が大きいため、XbS−NH3の信号が182、185Thでさらに観測された。 XbSから中性CO損失に該当する28Daの質量が減少したXaSイオンが、 残り7種のMBITのうち、 Ac−AA MBITの場合には86Th(LaS)、89Th(HaS)で、Ac−SA MBITの場合には102Th(LaS)、105Th(HaS)で、Ac−VA MBITの場合には114Th(LaS)、117Th(HaS)で、Ac−QA MBITの場合には143Th(LaS)、146Th(HaS)で、Ac−HA MBITの場合には152Th(LaS)、155Th(HaS)で、Ac−FA MBITの場合には162Th(LaS)、165Th(HaS)で、Ac−YA MBITの場合には178Th(LaS)、181Th(HaS)でさらに検出された。
【0125】
図10は定量信号対XbSが現れる位置を各MBITの種類別に拡大して示す図である。図10に示すように、[L]/[H]混合比1/1にほぼ一致する[LbS]/[HbS]の信号強さ比を示している。Ac−AA MBITを用いた場合、XbS対が現れる114、117Th近くで、ペプチド由来のものと推定される未知の雑音信号が大きく検出された。Ac−SAの場合は定量信号の強さが相対的に弱く、1/1の混合比とよく一致しない信号強さ比を示した。ところが、残り6種のMBITを用いた場合、近くで雑音信号も殆ど見えず、混合比とほぼ類似している定量信号強さ比が観察された。
【0126】
図11はMBITに連結されたロイシンエンケファリンのCIDスペクトルを示す図である。図11の(a)はAc−HAが連結されて検出されたロイシンエンケファリンの結果であり、(b)はAc−RAが連結されて検出された結果である。上述したMBITに連結されたアンジオテンシンIIのCID結果と同様に、yタイプイオンの位置はMBITの種類を問わずに一定に維持されるが、a−、b−タイプイオンの位置は質量調節基の質量差によって異なった。また、Ac−RAに連結されたロイシンエンケファリンの場合、N末端の方面にアルギニン側鎖が存在するため、a−およびb−タイプイオンで中性NH3損失が多く発見された。また、Ac−HAとAc−RAに連結されたロイシンエンケファリンの場合、それぞれ断片イオンの分布に対する大きい差を示した。これは、連結されたMBITの種類に応じて、分析体ペプチドの物理化学的性質を様々に調節することができることをいい、質量調節基RTが定量信号質量の変化だけでなく分析体の物性も調節することができることを示唆する。
【0127】
図12はMBIT試薬の種類による各定量信号の強さを全体断片イオンの強さの総合に対する比率で計算して示した。正確な定量分析のためには優先的に定量信号となるXbSイオンの強さが強くなければならず、定量信号イオンがさらに分解してはならない。質量調節基がグルタミン、ヒスチジン側鎖の場合には、定量信号質量の強さが最も強く現れ、定量信号質量に対する追加分解イオンの強さが相対的に弱かった。ヒスチジンの側鎖が質量調節基の場合には、XbSイオンの強さが最も強く現れてアルギニン側鎖が使用された場合の5倍以上の定量信号が増幅したことが分かった。グルタミン側鎖が使用された場合には、XbSで追加分解が起こって生成されるXaSイオンの強さが相対的に最も弱く現れた。このような結果より、多様な質量調節基のうちヒスチジン或いはグルタミンの側鎖が、MBITを用いたペプチドおよびタンパク質の定量分析において最も優れた性能を示すことが分かった。
【0128】
図13(a)〜図13(h)はLMBITが連結れたアンジオテンシンIIとHMBITが連結されたアンジオテンシンIIを前述した多様な混合比で混ぜて定量分析し、各混合比と測定によって得られた比との線形性を比較した図である。Ac−SA MBITを除いた残り7種のMBITは、アンジオテンシンIIの定量分析において混合比と一致する測定比を示していることが分かる。特にグルタミン、ヒスチジンの側鎖が質量調節基として使用されたAc−QA MBITとAc−HA MBITの場合、各測定値の標準偏差も最も小さく(測定値の20%以内)、線形性も最も良好に現れた。これは前述したようにAc−QAとAc−HA MBITの場合に定量信号の強さが強く現れるためであると推定される。この結果より、Ac−QAとAc−HAがペプチドおよびタンパク質定量分析において最も良い性能を発揮するMBITであることを確認することができた。Ac−SAを用いた結果よりは、混合比と実験により得られた測定比とが全く一致せず、何の線形性も示さないことが分かった。これはAc−SAが連結されたアンジオテンシンIIのCIDで定量信号強さの異なるMBITを用いた場合に比べて小さいうえ、定量信号が現れる位置130、133Thに予想できない雑音信号が現れるためであると推定される。この雑音信号はMBITで標識されていないアンジオテンシンIIにおいても現れる雑音信号である。
【0129】
図14はロイシンエンケファリンの定量分析の線形性を確認する図であって、実際検出されたAc−HA MBITが連結された場合と、Ac−RA MBITが連結された場合に対する結果である。図13(a)〜図13(h)のアンジオテンシンIIの結果と同様に、混合比と実験により測定した測定比とが良い線形性をもってよく一致することを確認することができる。
【0130】
図15はMBITで標識された分析体の定量分析測定限界を確認した結果である。LMBIT−とHMBIT−でそれぞれ標識されたアンジオテンシンIIを3:1の比率で混合した後、タンデム質量分析した結果のうち、定量信号質量(bS)が表示される領域を拡大した図である。N−末端がアシル化されたジペプチド構造のMBIT試薬(Ac−Xxx−Ala)において、質量調節基を含むXxxが(a)バリン、(b)グルタミン、(c)ヒスチジン、(d)フェニルアラニン、(e)アルギニン、および(f)チロシンである場合を示している。一つのMALDIスポットに250fmolの試料が塗布された場合から濃度を2倍ずつ持続的に薄め、現れる定量信号の信号対雑音比を観察した。これは検出限界が約4〜8fmolに達することを示す。これは本発明に使用したMALDI質量分析機器の測定限界に該当する値であって、さらに良い装備を使用すればMBIT試薬の測定限界はさらに低くなるだろうと期待される。
【0131】
図16(a)〜図16(i)は同量のウシ血清アルブミンをトリプシンで酵素分解して生成されたペプチドをMBIT試薬対で区分標識した後、混合して液相クロマトグラフィーおよびタンデム質量分析で定量分析した結果を示す図である。YLYEIARの配列を有するペプチドの結果を示す。図16(a)は8種のMBIT対で標識されたYLYEIARペプチドが分離されてくる液相クロマトグラフィー結果を示し、図16(b)〜図16(i)は、質量調節基がそれぞれアラニン(図16(b))、セリン(図16(c))、バリン(図16(d))、グルタミン(図16(e))、ヒスチジン(図16(f))、フェニルアラニン(図16(g))、アルギニン(図16(h))、およびチロシン(図16(i))側鎖の場合、各MBIT対で標識されたYLYEIARがクロマトグラフィーで検出されるそれぞれの分取(fraction)をMALDIタンデム質量分析で定量分析した結果を示す。定量分析して得られた相対的量の平均と標準偏差が数値でそれぞれ表示された。タンパク質の定量および配列分析のために、液相クロマトグラフィーの活用が普遍的なので、MBITが実際分析体の定量および配列分析を正しくするためにはHMBITに連結されたペプチドとLMBITに連結された同一のペプチドがクロマトグラフィー上で同一の時間で溶出されなければならない。HMBITとLMBITにそれぞれ連結された同一のペプチドは各分取別に混合比が一定に観察されるため、クロマトグラフィー上で溶出時間が同一であることが分かる。
【0132】
(b)質量調節基がエチル(C2)、プロピル(C3)、ブチル(C4)、ペンチル(C5)、ヘキシル(C6)、ヘプチル(C7)またはオクチル(C8)の場合
−MBIT試薬の検証
製造されたMBIT試薬に正常的に合成されたかを検証するために、それぞれのMBIT試薬をアンジオテンシンII(1046.5Th)に標識して[MAG(1)+H]+イオンの質量を検出し(図17)、タンデム質量分析(図18)を行った。LMBITとHMBITでそれぞれ標識されたアンジオテンシンIIは同一の質量値で検出された。[MAG(1)+H]+イオンの質量値は、質量調節基がそれぞれエチルの場合には1247.7Th、プロピルの場合には1261.7Th、ブチルの場合には1275.7Th、ペンチルの場合には1289.7Th、ヘキシルの場合には1303.7Th、ヘプチルの場合には1317.7Th、オクチルの場合には1331.8Thで分析体がそれぞれ観察された。標識シグニチャーと定量信号質量値は、質量調節基がエチルの場合にはそれぞれ202Th(b0)、128Th(LbS)、および131Th(HbS)で、質量調節基がプロピルの場合にはそれぞれ216Th(b0)、142Th(LbS)、および145Th(HbS)で、質量調節基がブチルの場合にはそれぞれ230Th(b0)、156Th(LbS)、および159Th(HbS)で、質量調節基がペンチルの場合にはそれぞれ244Th(b0)、170Th(LbS)、および173Th(HbS)で、質量調節基がヘキシルの場合にはそれぞれ258Th(b0)、184Th(LbS)、および187Th(HbS)で、質量調節基がヘプチルの場合にはそれぞれ272Th(b0)、198Th(LbS)、および201Th(HbS)で、質量調節基がオクチルの場合にはそれぞれ286Th(b0)、212Th(LbS)、および215Th(HbS)で観測された。前記結果より、本発明で製造されたエチル(C2)、プロピル(C3)、ブチル(C4)、ペンチル(C5)、ヘキシル(C6)、ヘプチル(C7)またはオクチル(C8)を質量調節基として用いたMBIT試薬が正常的に合成されたことが分かる。
【0133】
−MBIT連結された標準ペプチドのタンデム質量分析
製造されたMBIT試薬とペプチドとの反応性を確認するために、それぞれのMBIT試薬をアンジオテンシンII(1046.5Th)で反応させて質量分析した。図17は互いに異なる質量調節基RTを有する7種のMBIT試薬対それぞれをモデルペプチドとしてのアンジオテンシンIIと反応させてMALDI−TOF質量分析した結果である。MBIT試薬において、質量調節基が(a)エチル、(b)プロピル、(c)ブチル、(d)ペンチル、(e)ヘキシル、(f)ヘプチル、および(g)オクチルの場合をそれぞれ示した。図17から分かるように、質量調節基がエチルの場合には1247.7Th、質量調節基がプロピルの場合には1261.7Th、質量調節基がブチルの場合には1275.7Th、質量調節基がペンチルの場合には1289.7Th、質量調節基がヘキシルの場合には1303.7Th、質量調節基がヘプチルの場合には1317.7Th、質量調節基がオクチルの場合には1331.8Thでそれぞれ分析体が観測された。また、各分析体に対してタンデム質量分析によって標識シグニチャーおよび定量信号の質量値を確認した。その結果より、反応の行われていないペプチドまたはMBITが2つ以上付いているペプチドなしで、アンジオテンシンIIに一つのMBITが付いている反応結果物のみが存在するので、反応がよく行われたことが分かる。
【0134】
また、該当MBIT試薬対が与える定量信号質量を確認するために、7種のMBIT試薬でそれぞれ反応が行われたアンジオテンシンIIイオンをMALDIタンデム質量分析した。図18は各MBIT試薬対に対してHMBITが連結されたペプチドとLMBITが連結されたペプチドを1:1の混合比で混ぜてタンデム質量分析した結果を示す。図18の(a)〜(g)は、それぞれエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、およびオクチルの質量調節基 を有する、MBITに連結されたアンジオテンシンIIのCIDスペクトルである。その結果、図3の(b)の予想値のように、標識シグニチャーと定量信号質量値は、質量調節基がエチルの場合にはそれぞれ202Th(b0)128Th(LbS)、および131Th(HbS)で、質量調節基がプロピルの場合にはそれぞれ216Th(b0)、142Th(LbS)、および145Th(HbS)で、質量調節基がブチルの場合にはそれぞれ230Th(b0)、156Th(LbS)、および159Th(HbS)で、質量調節基がペンチルの場合にはそれぞれ244Th(b0)、170Th(LbS)、および173Th(HbS)で、質量調節基がヘキシルの場合にはそれぞれ258Th(b0)、184Th(LbS)、および187Th(HbS)で、質量調節基がヘプチルの場合にはそれぞれ272Th(b0)、198Th(LbS)、および201Th(HbS)で、質量調節基がオクチルの場合にはそれぞれ286Th(b0)、212Th(LbS)、および215Th(HbS)で観測された。N末端の1次アミンにMBIT試薬が連結されるため、C末端を含んでいる断片としてのyタイプイオンは、MBIT試薬の種類を問わずに同一の質量対電荷比の値をもって検出された。また、全ての場合に大抵CIDスペクトルにおける断片イオンの分布が類似であった。これは各質量調節基の長さ差が断片イオンの分布に影響を及ぼさないことを示唆する。このような結果より、MBIT試薬が正しく合成されたこと、およびモデルペプチドとの反応が完璧に行われたことを確認することができる。
【0135】
図19はMBIT試薬の種類による各定量信号の強さを全体断片の強さの総合に対する比率で計算して示す。XbSの相対的大きさは、質量調節基がプロピル乃至オクチルの場合には3.8%程度と均一であり、質量調節基がメチルとエチルの場合にはそれぞれ1.9%、2.7%と他のMBITに比べて小さかった。XaSイオンの強さは質量調節基の長さが長いほど強く現れる。
【0136】
図20はLMBITが連結されたアンジオテンシンIIとHMBITが連結されたアンジオテンシンIIを上述した多様な混合比で混ぜて定量分析し、各混合比と測定によって得られた比との線形性を示す図である。
【0137】
それぞれエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチルおよびオクチルの質量調節基を有するMBIT定量信号XaS(白色円)とXbS(黒色円)を用いた定量分析結果は図20の(a)〜(g)に示した。点線はXaSを用いた実験結果の趨勢線である。実線は XbSを用いた実験結果の趨勢線である。本発明に使用された全てのMBITが、アンジオテンシンIIの定量分析において、混合比とよく一致する測定比を示していることが分かった。XaSを用いた定量分析においても、XbSと同じ程度の線形性を示す。これはXbSだけでなくXaSも定量に利用可能であることを示す。
【0138】
図21はMBITで標識された分析体の定量分析測定限界を確認した結果である。LMBITとHMBITでそれぞれ標識されたアンジオテンシンIIを2:1の比率で混合した後、濃度を2倍ずつ持続的に薄めた試料をタンデム質量分析した結果のうち、定量信号質量( XbS)が表示される領域を拡大した図である。質量調節基が(a)エチル、(b)ブチル、(c)ペンチル、(d)ヘキシル、(e)ヘプチル、および(f)オクチルの場合を示した。一つのMALDIスポットに250fmolの試料が塗布された場合から濃度を2倍ずつ持続的に薄め、現れる定量信号の信号対雑音比を観察した。全ての場合に約5fmol程度の試料を測定することができることを確認した。これは本発明に使用したMALDI質量分析機器の測定限界に該当する値であって、さらによい装備を使用する場合には、MBIT試薬の測定限界はさらに低くなるだろうと期待される。
【0139】
図22は4つの相異なる成長条件で得られたHA−Hsc82タンパク質の量と定量分析のためにそれぞれの試料に使用したMBIT試薬を示す図である。HA−Hsc82タンパク質を発現させた条件を図22の(a)に示した。norm30はHsp82とHsc82タンパク質の両方ともを持っている酵母を30℃で育てた場合であり、norm39はHsp82とHsc82タンパク質の両方ともを持っている酵母を39℃で育てた場合であり、del30はHsp82タンパク質のみが除去された酵母を30℃で育てた場合であり、del39はHsp82タンパク質のみが除去された酵母を39℃で育てた場合である。これらの条件下で生成されたHA−Hsc82タンパク質を酵母から抽出および精製して電気泳動した後、Sypro Ruby stainで染色した結果を図22の(b)に示した。ゲルイミジ化システムでタンパク質の量を測定した結果、norm30は3.49μg、norm39は5.74μg、del30は2.93μg、del39は4.90μgであった。4つの条件のHA−Hsc82タンパク質のゲルバンドを切り出してトリプシンで酵素分解した後、MBIT試薬に反応させたが、各タンパク質グループに反応したMBIT試薬を図22の(c)に示した。この際、norm39とLX6−Alaを、del30とLX7−Alaを、del39とLX8−Alaを、norm30とHX6−Ala、HX7−Alaおよび HX8−Alaをそれぞれ反応させた(XnはCnの質量調節基を有するNアシル化アミノ酸またはN−アシル−Alaアミノ酸を意味する。)。それぞれのLMBITとHMBITを1:1で混ぜて定量分析したときに予想される比率は、質量調節基がヘキシルの場合には1.64であり、ヘプチルの場合には0.84であり、オクチルの場合には1.40である(norm30:norm39:del30:del39=1:1.64:0.84:1.40)。
【0140】
図23は図22(c)の6種の分析体を同量混合し、ZipTiPで精製した後、質量分析した結果を示す図である。各分析体には、ヘキシル(三角形)、ヘプチル(四角形)、およびオクチル(円形)の質量調節基を有するMBIT試薬が付いている。質量スペクトル上で、同一の分析体はそれぞれに標識されたMBITの質量差異(14Da)だけずつ分離されて現れる。観測されたペプチドのうち、5つのペプチドがタンデム質量分析に使用された(VLEIR、EIFLR、LLDAPAAIR、QLETEPDLFIR、GVVDSEDLPLNLSR)。
【0141】
図24はゲルイミジ化システムで定量した結果と、MBIT対で標識された分析体をMALDIタンデム質量分析で定量した結果とを比較して示す図である。ヘキシルの質量調節基を有するMBITから得た結果(norm39/norm30)の平均は1.65であってゲルイミジ化システムで定量した結果に比べて0.8%大きく観測され、ヘプチルの質量調節基を有するMBITから得た結果(del39/norm30)は0.85であって1.1%の差異を示し、 オクチルの質量調節基を有するMBITから得た結果(del39/norm30)は1.46であって4.0%の差異を示した。ゲルイミジ化システムで定量した結果と類似している結果を示すことが分かる。この結果より、3対のMBIT試薬を用いて4つの成長条件で得られたHSc82タンパク質の相対的な量を同時に確認することができる(norm30:norm39:del30:del39=1:1.65:0.85:1.46)。
【0142】
図25はヘキシル、ヘプチルおよびオクチルの質量調節基を有するMBIT対で標識された5種の分析体のMALDIタンデム質量分析結果からデノボ配列分析(de novo sequencing)した結果を示す。アミノ酸コードに引かれた下線はそのアミノ酸の配列分析が正確に行われたことを意味する。アミノ酸コードの後ろに続く星印はそのアミノ酸にMBITが標識されていることを示す。ロイシンとイソロイシンが同一の元素構成を持つため、全てロイシンのみで表記した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される可変質量ラベリング剤:
[化学式1]
【化1】
ここで、RSおよびRBはそれぞれ直鎖または分枝鎖のC1〜C18アルキルであり、RSおよびRBの少なくとも一つは一つ以上の重水素を含み、
RTは天然または人工アミノ酸残基の側鎖であり、
リンカーはアミンの求核性攻撃に離脱基となる活性エステルまたはヒドロキシ基である。
【請求項2】
前記RSおよびRBはそれぞれメチルであり、RSおよびRBの少なくとも一つは一つ以上の重水素を含むことを特徴とする、請求項1に記載の可変質量ラベリング剤。
【請求項3】
前記RSおよびRBはそれぞれCH3およびCD3であり、或いはそれぞれCD3およびCH3であることを特徴とする、請求項2に記載の可変質量ラベリング剤。
【請求項4】
前記RTはアラニン(Ala)、セリン(Sr)、ヒスチジン(His)、バリン(Val)、グルタミン(Gln)、フェニルアラニン(Phe)、アルギニン(Arg)、またはチロシン(Tyr)の側鎖であることを特徴とする、請求項1に記載の可変質量ラベリング剤。
【請求項5】
前記RTは直鎖または分枝鎖のC2〜C18アルキルであることを特徴とする、請求項1に記載の可変質量ラベリング剤。
【請求項6】
前記RTは直鎖または分枝鎖のエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチルまたはオクチルであることを特徴とする、請求項5に記載の可変質量ラベリング剤。
【請求項7】
前記リンカーは、N−ヒドロキシスクシンイミジル基、N−ヒドロキシスルホスクシンイミジル基、ベンゾトリアゾール−1−イルオキシル基、ペンタハロベンジル基、および4−ニトロフェニル基よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の可変質量ラベリング剤。
【請求項8】
請求項1の化学式1で表される可変質量ラベリング剤を2種以上含む、可変質量ラベリング剤セット。
【請求項9】
前記2種以上の可変質量ラベリング剤はそれぞれのRSとRBに含まれた重水素数が相異し、
前記2種以上の可変質量ラベリング剤は互いに重水素の数が同一であることを特徴とする、請求項8記載のの可変質量ラベリング剤セット。
【請求項10】
請求項8の可変質量ラベリング剤セットを2種以上含む、多重可変質量ラベリング剤セット。
【請求項11】
請求項1〜10の可変質量ラベリング剤で標識された分析体を含む混合物、その塩またはその水和物。
【請求項12】
前記分析体はタンパク質、炭水化物または脂質であることを特徴とする、請求項11に記載の混合物、その塩またはその水和物。
【請求項13】
前記分析体はペプチドであることを特徴とする、請求項11に記載の混合物、その塩またはその水和物。
【請求項14】
前記分析体は核酸または核酸誘導体であることを特徴とする、請求項11に記載の混合物、その塩またはその水和物。
【請求項15】
前記分析体はステロイドであることを特徴とする、請求項11に記載の混合物、その塩またはその水和物。
【請求項16】
請求項8または9の可変質量ラベリング剤セットを分析体に結合させる段階と、
前記可変質量ラベリング剤セットが結合している分析体を分解して前記分析体を定量する段階とを含むことを特徴とする、ペプチド配列およびタンパク質定量同時分析方法。
【請求項17】
前記定量のための分解法はタンデム質量分析法であることを特徴とする、請求項16に記載のペプチド配列およびタンパク質定量同時分析方法。
【請求項18】
前記タンデム質量分析法は、ラベリング剤のRTに応じて、定量信号質量を与える定量信号の位置が変わることを特徴とする、請求項17に記載のペプチド配列およびタンパク質定量同時分析方法。
【請求項19】
前記定量信号質量を与える定量信号はbSイオン、aSイオン、およびRBイオンよりなる群から選択される1種以上の内部断片イオンによることを特徴とする、請求項18に記載のペプチド配列およびタンパク質定量同時分析方法。
【請求項20】
1)前記RTがメチル基の場合、定量信号質量(bS)が114と117Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が86と89Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が188Thで現れ、
2)前記RTがセリン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が130と133Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が102と105Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が204Thで現れ、
3)前記RTがバリン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が142と145Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が114と117Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が216Thで現れ、
4)前記RTがグルタミン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が171と174Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が143と146Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が245Thで現れ、
5)前記RTがヒスチジン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が180と183Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が152と155Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が254Thで現れ、
6)前記RTがフェニルアラニン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が190と193Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が162と165Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が264Thで現れ、
7)前記RTがアルギニン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が199と202Thで現れ、別の定量信号質量(bS−NH3)が182と185Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が273Thで現れ、または
8)前記RTがチロシン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が206と209Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が178と181Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が280Thで現れることを特徴とする、請求項16に記載のペプチド配列およびタンパク質定量同時分析方法。
【請求項21】
1)前記RTがエチル基の場合、定量信号質量(bS)が128と131Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が100と103Thで現れ、標識シグニチャーが202Thで現れ、
2)前記RTが直鎖または分枝鎖プロピル基の場合、定量信号質量(bS)が142と145Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が114と117Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が216Thで現れ、
3)前記RTが直鎖または分枝鎖ブチル基の場合、定量信号質量(bS)が156と159Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が128と131Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が230Thで現れ、
4)前記RTが直鎖または分枝鎖ペンチル基の場合、定量信号質量(bS)が170と173Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が142と145Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が244Thで現れ、
5)前記RTが直鎖または分枝鎖ヘキシル基の場合、定量信号質量(bS)が184と187Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が156と159Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が258Thで現れ、
6)前記質量調節基が直鎖または分枝鎖ヘプチル基の場合、定量信号質量(bS)が198と201Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が170と173Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が272Thで現れ、または
7)前記質量調節基が直鎖または分枝鎖オクチル基の場合、定量信号質量(bS)が212と215Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が184と187Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が286Thで現れることを特徴とする、請求項16に記載のペプチド配列およびタンパク質定量同時分析方法。
【請求項22】
請求項10による多重可変質量ラベリング剤セットを分析体に結合させ、分解して該当分析体を定量する、ペプチド配列およびタンパク質定量同時分析方法。
【請求項23】
請求項10による多重可変質量ラベリング剤セットを分析体に結合させて定量する過程で、1種の試料と残りのそれぞれ異なる試料との比率を請求項20または21に該当する方法でそれぞれ別々に定量する、多重定量分析方法。
【請求項1】
下記化学式1で表される可変質量ラベリング剤:
[化学式1]
【化1】
ここで、RSおよびRBはそれぞれ直鎖または分枝鎖のC1〜C18アルキルであり、RSおよびRBの少なくとも一つは一つ以上の重水素を含み、
RTは天然または人工アミノ酸残基の側鎖であり、
リンカーはアミンの求核性攻撃に離脱基となる活性エステルまたはヒドロキシ基である。
【請求項2】
前記RSおよびRBはそれぞれメチルであり、RSおよびRBの少なくとも一つは一つ以上の重水素を含むことを特徴とする、請求項1に記載の可変質量ラベリング剤。
【請求項3】
前記RSおよびRBはそれぞれCH3およびCD3であり、或いはそれぞれCD3およびCH3であることを特徴とする、請求項2に記載の可変質量ラベリング剤。
【請求項4】
前記RTはアラニン(Ala)、セリン(Sr)、ヒスチジン(His)、バリン(Val)、グルタミン(Gln)、フェニルアラニン(Phe)、アルギニン(Arg)、またはチロシン(Tyr)の側鎖であることを特徴とする、請求項1に記載の可変質量ラベリング剤。
【請求項5】
前記RTは直鎖または分枝鎖のC2〜C18アルキルであることを特徴とする、請求項1に記載の可変質量ラベリング剤。
【請求項6】
前記RTは直鎖または分枝鎖のエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチルまたはオクチルであることを特徴とする、請求項5に記載の可変質量ラベリング剤。
【請求項7】
前記リンカーは、N−ヒドロキシスクシンイミジル基、N−ヒドロキシスルホスクシンイミジル基、ベンゾトリアゾール−1−イルオキシル基、ペンタハロベンジル基、および4−ニトロフェニル基よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の可変質量ラベリング剤。
【請求項8】
請求項1の化学式1で表される可変質量ラベリング剤を2種以上含む、可変質量ラベリング剤セット。
【請求項9】
前記2種以上の可変質量ラベリング剤はそれぞれのRSとRBに含まれた重水素数が相異し、
前記2種以上の可変質量ラベリング剤は互いに重水素の数が同一であることを特徴とする、請求項8記載のの可変質量ラベリング剤セット。
【請求項10】
請求項8の可変質量ラベリング剤セットを2種以上含む、多重可変質量ラベリング剤セット。
【請求項11】
請求項1〜10の可変質量ラベリング剤で標識された分析体を含む混合物、その塩またはその水和物。
【請求項12】
前記分析体はタンパク質、炭水化物または脂質であることを特徴とする、請求項11に記載の混合物、その塩またはその水和物。
【請求項13】
前記分析体はペプチドであることを特徴とする、請求項11に記載の混合物、その塩またはその水和物。
【請求項14】
前記分析体は核酸または核酸誘導体であることを特徴とする、請求項11に記載の混合物、その塩またはその水和物。
【請求項15】
前記分析体はステロイドであることを特徴とする、請求項11に記載の混合物、その塩またはその水和物。
【請求項16】
請求項8または9の可変質量ラベリング剤セットを分析体に結合させる段階と、
前記可変質量ラベリング剤セットが結合している分析体を分解して前記分析体を定量する段階とを含むことを特徴とする、ペプチド配列およびタンパク質定量同時分析方法。
【請求項17】
前記定量のための分解法はタンデム質量分析法であることを特徴とする、請求項16に記載のペプチド配列およびタンパク質定量同時分析方法。
【請求項18】
前記タンデム質量分析法は、ラベリング剤のRTに応じて、定量信号質量を与える定量信号の位置が変わることを特徴とする、請求項17に記載のペプチド配列およびタンパク質定量同時分析方法。
【請求項19】
前記定量信号質量を与える定量信号はbSイオン、aSイオン、およびRBイオンよりなる群から選択される1種以上の内部断片イオンによることを特徴とする、請求項18に記載のペプチド配列およびタンパク質定量同時分析方法。
【請求項20】
1)前記RTがメチル基の場合、定量信号質量(bS)が114と117Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が86と89Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が188Thで現れ、
2)前記RTがセリン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が130と133Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が102と105Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が204Thで現れ、
3)前記RTがバリン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が142と145Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が114と117Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が216Thで現れ、
4)前記RTがグルタミン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が171と174Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が143と146Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が245Thで現れ、
5)前記RTがヒスチジン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が180と183Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が152と155Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が254Thで現れ、
6)前記RTがフェニルアラニン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が190と193Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が162と165Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が264Thで現れ、
7)前記RTがアルギニン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が199と202Thで現れ、別の定量信号質量(bS−NH3)が182と185Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が273Thで現れ、または
8)前記RTがチロシン側鎖の場合、定量信号質量(bS)が206と209Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が178と181Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が280Thで現れることを特徴とする、請求項16に記載のペプチド配列およびタンパク質定量同時分析方法。
【請求項21】
1)前記RTがエチル基の場合、定量信号質量(bS)が128と131Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が100と103Thで現れ、標識シグニチャーが202Thで現れ、
2)前記RTが直鎖または分枝鎖プロピル基の場合、定量信号質量(bS)が142と145Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が114と117Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が216Thで現れ、
3)前記RTが直鎖または分枝鎖ブチル基の場合、定量信号質量(bS)が156と159Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が128と131Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が230Thで現れ、
4)前記RTが直鎖または分枝鎖ペンチル基の場合、定量信号質量(bS)が170と173Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が142と145Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が244Thで現れ、
5)前記RTが直鎖または分枝鎖ヘキシル基の場合、定量信号質量(bS)が184と187Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が156と159Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が258Thで現れ、
6)前記質量調節基が直鎖または分枝鎖ヘプチル基の場合、定量信号質量(bS)が198と201Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が170と173Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が272Thで現れ、または
7)前記質量調節基が直鎖または分枝鎖オクチル基の場合、定量信号質量(bS)が212と215Thで現れ、別の定量信号質量(aS)が184と187Thで現れ、標識シグニチャー(b0)が286Thで現れることを特徴とする、請求項16に記載のペプチド配列およびタンパク質定量同時分析方法。
【請求項22】
請求項10による多重可変質量ラベリング剤セットを分析体に結合させ、分解して該当分析体を定量する、ペプチド配列およびタンパク質定量同時分析方法。
【請求項23】
請求項10による多重可変質量ラベリング剤セットを分析体に結合させて定量する過程で、1種の試料と残りのそれぞれ異なる試料との比率を請求項20または21に該当する方法でそれぞれ別々に定量する、多重定量分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5(a)】
【図5(b)】
【図5(c)】
【図6】
【図7】
【図8(a)】
【図8(b)】
【図8(c)】
【図8(d)】
【図8(e)】
【図8(f)】
【図8(g)】
【図8(h)】
【図9】
【図10】
【図11(a)】
【図11(b)】
【図12】
【図13(a)】
【図13(b)】
【図13(c)】
【図13(d)】
【図13(e)】
【図13(f)】
【図13(g)】
【図13(h)】
【図14】
【図15】
【図16(a)】
【図16(b)】
【図16(c)】
【図16(d)】
【図16(e)】
【図16(f)】
【図16(g)】
【図16(h)】
【図16(i)】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5(a)】
【図5(b)】
【図5(c)】
【図6】
【図7】
【図8(a)】
【図8(b)】
【図8(c)】
【図8(d)】
【図8(e)】
【図8(f)】
【図8(g)】
【図8(h)】
【図9】
【図10】
【図11(a)】
【図11(b)】
【図12】
【図13(a)】
【図13(b)】
【図13(c)】
【図13(d)】
【図13(e)】
【図13(f)】
【図13(g)】
【図13(h)】
【図14】
【図15】
【図16(a)】
【図16(b)】
【図16(c)】
【図16(d)】
【図16(e)】
【図16(f)】
【図16(g)】
【図16(h)】
【図16(i)】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公表番号】特表2010−534856(P2010−534856A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520953(P2010−520953)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【国際出願番号】PCT/KR2009/003808
【国際公開番号】WO2010/008159
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(509327541)ポステク アカデミー−インダストリー ファウンデイション (3)
【氏名又は名称原語表記】POSTECH ACADEMY−INDUSTRY FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】Pohang University of Science and Technology,San 31,Hyoja−dong,Nam−gu,Pohang−si,Gyeongsangbuk−do 790−784,Republic of Korea
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【国際出願番号】PCT/KR2009/003808
【国際公開番号】WO2010/008159
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(509327541)ポステク アカデミー−インダストリー ファウンデイション (3)
【氏名又は名称原語表記】POSTECH ACADEMY−INDUSTRY FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】Pohang University of Science and Technology,San 31,Hyoja−dong,Nam−gu,Pohang−si,Gyeongsangbuk−do 790−784,Republic of Korea
【Fターム(参考)】
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