説明

質量スペクトルのライブラリをキュレーションするためのシステム及び方法

【課題】質量スペクトルライブラリをキュレーションするシステムと方法の提供
【解決手段】一般に、本明細書で提供されるシステムと方法は、(a)関心のある化合物の実験的に導出された質量スペクトルを取得し、(b)関心のある化合物のフラグメントイオンの実験的m/z値を表す質量スペクトルのピークを識別し、(c)関心のある化合物に対応しない任意のピークを前記質量スペクトルから除去し、(d)ステップ(b)で識別されたピークの実験的m/z値を、フラグメントイオンの計算された理論的m/z値と置き換えることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、質量スペクトル解析に関する。より具体的には、本発明は、質量スペクトルのライブラリ(以降、質量スペクトルライブラリと称する)をキュレーションするためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量スペクトルライブラリにおいて、固有の計測エラーは、理論的に予想される値から離れている、前駆イオン及び個々のフラグメントイオンの質量対電荷(m/z)の値という結果になる可能性がある。係る計測エラーは、ライブラリ検索のスコアにおける特異性の喪失およびより低い識別(discrimination:区別)という結果になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Darland他著、「Superior Molecular Formula Generation from Accurate-Mass Data」、Agilent Technologiesにより発行、2008年1月4日
【非特許文献2】Hill及びMortishire-Smith著、「Rapid Commun. Mass Spectrom. 2005」、19:3111〜3118
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
更に、スペクトルライブラリは、関心のある分析される化合物から生じていないピークを含む可能性がある。係るピークは代わりに、関心のある化合物と共に、分離された他の化合物から生じる化学的ノイズ、又は電子的ノイズを表す可能性がある。係るピークは、未知の化合物を探索している場合に、検索スコアに悪影響を与える。理想的には、スペクトルライブラリは、関心のある化合物から導出されたフラグメントイオンのみを含むべきである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
質量スペクトルライブラリのキュレーションのためのシステムと方法が本明細書で提供される。概して、本明細書で提供されるシステムと方法は、(a)関心のある化合物の実験的に導出された質量スペクトルを取得し、(b)関心のある化合物のフラグメントイオンの実験的m/z値を表す質量スペクトルのピークを識別し、(c)関心のある化合物に対応しない任意のピークを前記質量スペクトルから除去し、(d)ステップ(b)で識別されたピークの実験的m/z値を、フラグメントイオンの計算された理論的m/z値と置き換えることを含む。
【0006】
本明細書に組み込まれる添付図面は、明細書の一部を形成する。この記載された説明と共に、図面は更に、本発明のシステム及び方法の原理を説明するのに役立ち、当業者が本発明のシステム及び方法を作成する及び使用することを可能にするのに役立つ。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、スペクトルライブラリの前駆イオン及びフラグメントイオンのm/z値を補正することが可能になる。また、スペクトルライブラリの自動キュレーションが可能になり、それにより正確な質量含有率のライブラリの効率的な作成が可能になる。また、信号ノイズを除去することにより、スペクトルライブラリの品質も改善する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】質量スペクトルライブラリをキュレーションする方法を示す流れ図である。
【図2】本明細書で提示される一実施形態による、図1の方法のサブプロトコルを示す流れ図である。
【図3A】本明細書で提示される別の実施形態による、図1の方法の代替のサブプロトコルを示す流れ図である。
【図3B】本明細書で提示される更に別の実施形態による、図1の方法の代替のサブプロトコルを示す流れ図である。
【図4】本明細書で説明される方法を実行するためのコンピュータシステムの略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書で提供されるシステム及び方法は、スペクトルライブラリにおける前駆イオン及びフラグメントイオンのm/z値を補正することを可能にする。実際には、実験的に導出されたm/z値は、系統的手法を用いて、理論的に予想される値(即ち、理論値)に補正される。一実施形態において、ターゲットの分子式の知識と併用した、分子式生成アルゴリズムは、補正されるべきm/z値を識別するために使用される。代案として、構造相関性アルゴリズム(MSC)を用いてm/z値を補正することができる。MSCは、系統的結合切断手法および/またはフラグメンテーション規則を用いて、既知の分子構造でフラグメントイオンのm/z値を補正しようと試みる。
【0010】
理論値に補正されたm/z値を有する、ライブラリの化合物のスペクトルに対して未知の化合物のスペクトルを探索する場合、より厳格な許容誤差がスペクトルマッチングアルゴリズムで使用されることができ、未知のスペクトルの質量精度は、より高い特異性に利用され得る。より高い特異性は、より少ないライブラリ検索のヒット、及び検索スコアのより高い識別という結果になる。
【0011】
また、本明細書で提供されるシステム及び方法は、スペクトルライブラリにおけるピークの認識およびフィルタリングも可能にする。言い換えれば、関心のある化合物から生じていないピークは、ライブラリのスペクトルから取り除かれる。そういうものだから、本明細書で提供されるシステム及び方法は、より高い特異性という結果になる、順方向検索および逆検索の双方のスペクトルマッチングのスコアを増大させる。
【0012】
理論値にm/z値を補正すること、及び/又は関心のある化合物から生じていないフラグメントイオンの除去は、スペクトルライブラリの「キュレーション(curation)」を意味する。以下で説明される系統的手法は、非常に高いスループットでスペクトルライブラリの自動キュレーションを可能にし、それにより正確な質量含有率のライブラリの効率的な作成が可能になる。また、本明細書で提供されるキュレーションの方法は、閾値ノイズフィルタリングの初期段階を通過する可能性がある信号ノイズを除去することにより、スペクトルライブラリの品質も改善する。
【0013】
図面に関する以下の詳細な説明は、例示的な実施形態を示す添付図面を参照する。他の実施形態も可能である。変形が、本発明の思想および範囲から逸脱せずに、本明細書に記載された実施形態に行われ得る。従って、以下の詳細な説明は、制限することを意図されていない。
【0014】
図1は、質量スペクトルライブラリをキュレーションする方法100を示す流れ図である。本明細書で使用される限り、用語「ライブラリ」は、質量スペクトル及び/又は質量含有率の情報からなる任意のタイプの集合またはデータベースを含むと広く解釈されるべきである。方法100は、コンピュータシステムが関連する質量分析計(MS)に直接接続されようとなかろうと、コンピュータシステムで実行され得る。一実施形態において、キュレーションの方法100は、正確な質量MS/MSスペクトルライブラリをキュレーションするために使用される。正確な質量ライブラリは、200ppm以下の質量精度、又は100ppm以下の質量精度、又は50ppm以下の質量精度、又は20ppm以下の質量精度、又は10ppm以下の質量精度、又は1ppm以下の質量精度を有するライブラリとして定義される。様々な実施形態において、係るライブラリは、シングル四重極型(例えば、GC/MS EI ライブラリ)質量分析計、三連四重極型質量分析計、Q−T型質量分析計、オービタルトラッピング型質量分析計、磁場型質量分析計、イオントラップを用いる機器、又は正確な質量測定を行うことができる任意の他の適切な質量分析計から取得され得る。更に、方法100は、質量スペクトルライブラリを開始する、準備する、及び/又は追加するために「リアルタイム」で実行され得るか、又は代案として既存の質量スペクトルライブラリに対する後処理プロトコルとして行われてもよい。
【0015】
ステップ102において、関心のある化合物の実験的に導出された質量スペクトルが取得される。一実施形態において、質量スペクトルは、正確な質量MS/MS分析計から取得される。本明細書で使用される限り、「実験的に導出された質量スペクトルを取得する」ことは、スペクトル分析を行う動作、実験的に導出された質量スペクトルを分析計の機器から直接的に受け取る動作、及び/又は既存のライブラリから質量スペクトルを受け取る(押し込む又は引き抜く)動作を広く含むことが意図されている。ステップ102は更に、実験的に導出された質量スペクトルに対して既知の後処理アルゴリズムを行うことを含むことができる。例えば、一実施形態において、ステップ102は、実験的に導出された質量スペクトルに対してバックグラウンド減算アルゴリズムを行うことを更に含む。
【0016】
ステップ104において、関心のある化合物に対応するピークが識別(特定)される。以下で説明される図2、図3A、及び図3Bは、関心のある化合物に対応するピークを識別するための代替の実施形態を提供する。図2、図3A、及び図3Bに説明されるサブプロトコルは、逐次に又は並行してひとまとめにして利用され得るか、又は個別的に利用され得る。関心のある化合物に対応するピークが識別された後、関心のある化合物に対応しない任意の及び/又は全てのピークが、ステップ106においてスペクトルから除去される。本明細書で使用される限り、用語「任意」は、「1つ、又は幾つか、或いはどんなものでも、或いはどちらのものでも」を意味することが意図されている。用語「任意」は「全て」を意味することができるが、必ずしも「全て」を意味するわけではない。任意の対応しないピークの除去は、スペクトルの特異性を増大させる。
【0017】
ステップ108において、各残りのピークの実験的m/z値が、それぞれのピークの計算された理論的m/z値と置き換えられる。実験的に導出されたm/z値を理論的m/z値に置き換えることにより、計測エラー(誤差)が最小限にされ、キュレーションされたスペクトルに対する未知の化合物の今後の探索が、より厳格な許容誤差およびより大きい特異性で行われ得る。
【0018】
図2は、本明細書で提示される一実施形態による、図1の識別ステップ104のサブプロトコルを示す流れ図である。図2のサブプロトコル104は、実験的(即ち、実験的に測定された)スペクトルライブラリのどのピークが関心のある化合物に対応しているかを識別するために分子式生成(Molecular Formula Generation:MFG)アルゴリズムを利用する。
【0019】
ステップ201において、スペクトルライブラリは、低レベルのピークを切り捨てるために、絶対的および/または相対的閾値フィルタにさらされる。ステップ201はオプションのステップであり、代替の実施形態において、ステップ106の一部として行われ得る。絶対的および/または相対的閾値フィルタを行うためのアルゴリズムは、当該技術において知られている。
【0020】
ステップ203において、分子式は、MFGアルゴリズムを用いて、スペクトルの各残りのピークに関して計算される。MFGアルゴリズムは当該技術において知られている。例えば、参照により全体として本明細書に組み込まれる非特許文献1のTechnical Overviewは、MFGアルゴリズムの説明を提供する。一実施形態において、質量分析計で測定される未知の化合物に関する分子式の計算は、結果として生じる質量が測定された質量および使用される質量分析計の質量精度により定義される質量ウィンドウ内に入るように、様々な構成分子の質量を合計し、許容される構成分子の様々な番号を通じて並べ替えることにより行われる。正確な計算は、電子の質量を考慮に入れる。計算された分子式の信頼性を更に増大させるために、計算された分子式の理論的同位体パターンが、同位体の相対存在量および間隔の双方を用いて、実験的な同位体パターンと比較される。更なる識別が、フラグメントイオンの測定された正確な質量、及び前駆イオンと各フラグメントイオンとの間のニュートラルディファレンスも用いることにより達成され得る。各フラグメントイオンとその対応するニュートラルディファレンスの計算された分子式は、結果的に前駆イオンの提案された分子式にならなければならない。
【0021】
ステップ205において、MFGアルゴリズムを用いて、許容される構成分子の考えられる組合せを通じて並べ替え、且つ結果として生じるm/z値を実験的m/z値と比較することにより、同位体の理論的m/z値も計算する。MFGアルゴリズムは、理論的m/z値と実験的m/z値の質量の違いを考慮に入れることができる。更なる化学的規則が、化学的意味をなさない分子式を除外するように適用され得る。
【0022】
ステップ207において、ピークが関心のある化合物を表しているか否かに関して判定が行われる。関心のある化合物を表しているピークは、スペクトルライブラリに保持され、プロセスはステップ108に続く。関心のある化合物を表していないピークは、ステップ106においてスペクトルから除去される。例えば、スペクトルの各ピークについて、MFGアルゴリズムが、アルゴリズムに与えられる元の分子式に基づいて、考えられるサブ分子式のリストを計算する。MFGアルゴリズムがピークの任意のサブ分子式を考え出さない場合、そのピークに関する所与の質量許容誤差(〜10ppm)内の元の分子式から導出され得るサブ分子式は存在しない。従って、ピークは、説明できず、関心のある化合物から生じていないと考えられる。故に、当該ピークがスペクトルから除去される。MFGがピークの1つ又は複数のサブ分子式を生成することができる場合、ピークは保持され、実験的ピークから最少距離を有するサブ分子式のm/z値(ステップ108)に補正される。
【0023】
図3Aは、本明細書で提示される別の実施形態による、図1の識別ステップ104の別のサブプロトコルを示す流れ図である。図3Aのサブプロトコル104は、実験的なスペクトルライブラリのどのピークが関心のある化合物に対応するかを特定するために構造相関性(MSC)アルゴリズムを利用する。
【0024】
ステップ301において、スペクトルライブラリが、低レベルのピークを切り捨てるために、絶対的および/または相対的閾値フィルタにさらされる。ステップ301はオプションのステップであり、代替の実施形態においてステップ106の一部として行われ得る。絶対的および/または相対的閾値フィルタを行うためのアルゴリズムは、当該技術において知られている。
【0025】
ステップ303において、MSCアルゴリズムが、系統的結合切断手法を用いて、スペクトルのピークを関心のある化合物と一致させようと試みる。結合切断手法を利用するMSCアルゴリズムが当該技術で知られており、例えば、参照により全体として本明細書に組み込まれる非特許文献2である。ステップ305において、各フラグメントイオンに関して、以下に限定されないが、実験的m/z値の精度、フラグメントイオンを形成するのに必要な結合切断の数、切断される必要がある結合のタイプ、フラグメントイオンに必要な水素の転移、及びそれらの任意の組合せを含むことができるスコアが計算される。また、MSCアルゴリズムは、スコアの計算の基準を満たす各フラグメントイオンの分子式も計算する。特定の閾値を上回るスコアを有する各フラグメントイオンは、関心のある化合物から生じていると考えられ、スペクトルライブラリに保持される。ステップ106において、全ての他のフラグメントイオンが切り捨てられる。ステップ108において、ライブラリの化合物に属すると考えられる各ピークに関して、実験的m/z値が、計算されたサブ分子式に関して計算された理論的m/z値と置き換えられる。
【0026】
図3Bは、本明細書で提示される更に別の実施形態による、図1の識別ステップ104の代替のサブプロトコルを示す流れ図である。図3Bのサブプロトコル104は、代替の構造相関性アルゴリズム(MSC)を利用して、化合物の実験的なスペクトルライブラリのどのピークが関心のある化合物に属するかを特定する。図3Bのサブプロトコルは、以下で説明されるように、そのステップ303がステップ304と置き換えられることを除いて、図3Aのサブプロトコルに類似する。
【0027】
ステップ301において、スペクトルライブラリが、低レベルのピークを切り捨てるために、絶対的および/または相対的閾値フィルタにさらされる。ステップ301はオプションのステップであり、代替の実施形態においてステップ106の一部として行われ得る。絶対的および/または相対的閾値フィルタを行うためのアルゴリズムは、当該技術において知られている。
【0028】
ステップ304において、MSCアルゴリズムが、関心のある化合物の既知の化学構造に一組のフラグメンテーション規則を適用し、どのフラグメントイオンが化学的構造に基づいて形成され得るかを予測する。フラグメンテーションの経路という結果になる、分子の多数のフラグメンテーションが考察され得る。係るMSCアルゴリズムが当該技術に知られており、例えば、ACD Labs(MS Fragmenter)及びMass Frontierにより製品化されている。次いで、係るアルゴリズムは、実験的に見出されたフラグメントイオンを予測されたフラグメントイオンと比較する。ステップ305において、各予測されたフラグメントイオンに関して理論的m/z値に比較して、実験的m/z値の精度に基づいて、スコアが計算される。特定の閾値を上回るスコアを有する各実験的なフラグメントイオンは、関心のある化合物構造から生じていると考えられ、スペクトルライブラリに保持され、ステップ106において、全ての他のフラグメントイオンが切り捨てられる。係るアルゴリズムの出力が予想されたフラグメントイオンの基礎構造および分子式を含むので、ステップ108において、実験的m/z値が、スペクトルライブラリの理論的m/z値に補正され得る。
【0029】
提示された方法、或いはその任意の部分(単数または複数)又は機能(単数または複数)は、ハードウェア、ソフトウェア、又はそれらの組合せを用いて実施されることができ、1つ又は複数のコンピュータシステム、又は他の処理システムで実現され得る。更に、提示された方法は、1つ又は複数の正確な質量分析計、TOF、トラップ、四重極、オービトラップ型、FT、又は磁場型機器の使用により実現され得る。提示された方法が、一般に知的活動に関連した操作、例えばキュレーションする、取得する、計算する、補正する、又は行うなどを表す場合、人間の操作者の係る能力は必要でない。言い換えれば、本明細書で説明される任意の及び全ての動作は、機械動作とすることができる。方法の動作を実行するための有用な機械は、汎用デジタルコンピュータ又は類似したデバイスを含む。
【0030】
実際には、一実施形態において、本発明は、本明細書で説明された機能を実行することができる1つ又は複数のコンピュータシステムに向けられる。コンピュータシステム400の例が図4に示される。コンピュータシステム400は、プロセッサ404のような1つ又は複数のプロセッサを含む。プロセッサ404は、通信インフラストラクチャ(基礎的施設)406(例えば、通信バス、クロスオーババー、又はネットワーク)に接続される。コンピュータシステム400は、局所または遠隔のディスプレイユニット430で表示するために、通信インフラストラクチャ406から(又は図示されないフレームバッファから)グラフィックス、テキスト、及び他のデータを送出するディスプレイインターフェース402を含むことができる。
【0031】
また、コンピュータシステム400は、ランダムアクセスメモリ(RAM)のようなメインメモリ408も含み、二次メモリ410も含むことができる。二次メモリ410は、例えば、ハードディスクドライブ412、及び/又はリムーバブル記憶ドライブ414(フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、磁気テープドライブ、光ディスクドライブ、フラッシュメモリデバイスなどを表す)を含むことができる。リムーバブル記憶ドライブ414は、よく知られた態様でリムーバブル記憶ユニット418から読み出し及び/又は当該リムーバブル記憶ユニット418に書き込む。リムーバブル記憶ユニット418は、フロッピー(登録商標)ディスク、磁気テープ、光ディスク、フラッシュメモリデバイスなどを表し、それは、リムーバブル記憶ドライブ414により読み書きされる。理解されるように、リムーバブル記憶ユニット418は、コンピュータソフトウェア及び/又はデータを内部に格納したコンピュータ使用可能記憶媒体を含む。
【0032】
代替の実施形態において、二次メモリ410は、コンピュータプログラム又は他の命令がコンピュータシステム400にロードされることを可能にするための他の同様のデバイスを含むことができる。係るデバイスは、例えば、リムーバブル記憶ユニット422及びインターフェース420を含むことができる。係る例には、プログラムカートリッジ及びカートリッジインターフェース(ビデオゲーム機で見出されるような)、リムーバブルメモリチップ(例えば、消去可能プログラマブルROM(EPROM)、又はプログラマブルROM(PROM)など)及び関連したソケット、並びにソフトウェア及びデータがリムーバブル記憶ユニット422からコンピュータシステム400に伝達されることを可能にする他のリムーバブル記憶ユニット422及びインターフェース420が含まれ得る。
【0033】
また、コンピュータシステム400は、通信インターフェース424も含むことができる。通信インターフェース424により、ソフトウェア及びデータがコンピュータシステム400と外部装置との間で伝達されることが可能になる。通信インターフェース424の例には、モデム、ネットワークインターフェース(例えば、イーサネット(登録商標)カードなど)、通信ポート、PCメモリカード国際協会(Personal Computer Memory Card International Association:PCMCIA)スロット及びカードなどが含まれ得る。通信インターフェース424を介して伝達されるソフトウェア及びデータは、信号428の形態をとり、信号428は、電子、電磁気、光、又は通信インターフェース424により受け取られることができる他の信号とすることができる。これら信号428は、通信経路(例えば、チャネル)426を介して通信インターフェース424に供給される。このチャネル426は、信号428を伝え、ワイヤ又はケーブル、光ファイバ、電話線、セルラーリンク、無線周波数(RF)リンク、ワイヤレス通信リンク、及び他の通信チャネルを用いて実施され得る。
【0034】
本明細書において、用語「コンピュータ可読記憶媒体」、「コンピュータプログラム媒体」、及び「コンピュータ使用可能媒体」は、リムーバブル記憶ドライブ414、リムーバブル記憶ユニット418、422のような媒体、通信インターフェース424を介して伝達されるデータ、及び/又はハードディスクドライブ412に実装されたハードディスクを概して表すために使用される。これらコンピュータプログラム製品は、コンピュータシステム400にソフトウェアを提供する。本発明の実施形態は、係るコンピュータプログラム製品に向けられる。
【0035】
コンピュータプログラム(コンピュータ制御ロジックとも呼ばれる)は、メインメモリ408及び/又は二次メモリ410に格納される。また、コンピュータプログラムは、通信インターフェース424を介して受け取られてもよい。係るコンピュータプログラムは、実行された場合、コンピュータシステム400が、本明細書で説明されたような本発明の特徴を実行することが可能になる。特に、コンピュータプログラムは、実行された場合、プロセッサ404が提示された方法の特徴を実行することが可能になる。従って、係るコンピュータプログラムは、コンピュータシステム400のコントローラを表す。かくして、必要に応じて、プロセッサ404、関連するコンポーネント、並びに同等のシステム及びサブシステムは、選択された動作および機能を実行するための「手段」となる。
【0036】
本発明がソフトウェアを用いて実施される実施形態において、ソフトウェアは、コンピュータプログラム製品に格納され、リムーバブル記憶ドライブ414、インターフェース420、ハードドライブ412、又は通信インターフェース424を用いてコンピュータシステム400にロードされ得る。制御ロジック(ソフトウェア)がプロセッサ404により実行される場合、プロセッサ404が、本明細書で説明された機能および方法を実行する。
【0037】
別の実施形態において、方法は主として、例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)のようなハードウェアコンポーネントを用いて、ハードウェアで実施される。本明細書で説明された機能および方法を実行するようなハードウェアのステートマシンの実現は、当業者には明らかであろう。更に別の実施形態において、方法は、ハードウェア及びソフトウェアの組合せを用いて実施される。
【0038】
また、本発明の実施形態は、1つ又は複数のプロセッサにより読み出されて実行され得る機械可読媒体に格納された命令として実施され得る。機械可読媒体は、機械(例えば、計算装置)により読み取り可能な形式の情報を格納または伝達するための任意の機構を含むことができる。例えば、機械可読媒体は、読み出し専用メモリ(ROM);ランダムアクセスメモリ(RAM);磁気ディスク記憶媒体;光記憶媒体;フラッシュメモリデバイス;電気、光、音、又は他の形態の伝搬信号(例えば、搬送波、赤外線信号、デジタル信号など)、及びその他を含むことができる。更に、ファームウェア、ソフトウェア、ルーチン、命令は、本明細書において特定の動作を実行するものとして説明され得る。しかしながら、理解されるべきは、係る説明は、単に便宜のためであり、係る動作は実際には、計算装置、プロセッサ、コントローラ、又はファームウェア、ソフトウェア、ルーチン、命令などを実行する他の装置による。
【0039】
本発明の上記の説明は、例証および説明のために提示された。網羅的にする、又は本発明を開示された全く同一の形態に制限することは意図されていない。上記の教示に鑑みて、他の変更および変形が可能であるかもしれない。実施形態は、本発明の原理およびその実用的な用途を最も良く説明するために、及びそれにより当業者が、企図された特定の使用に適合するように、様々な実施形態および様々な変形形態で本発明を最も良く利用することを可能にするために選択されて説明された。添付の特許請求の範囲は、等価な構造、コンポーネント、方法、及び手段を含む、本発明の他の代替の実施形態を含むと解釈されることが意図されている。
【0040】
その他によって定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術の当業者により一般に理解されるような同じ意味を有する。本明細書で開示されたものに類似または等価な任意の方法および材料も、本発明の実施またはテストで使用され得るが、代表的な例示的な方法および材料がここで説明される。
【0041】
理解されるように、明確にするために別個の実施形態に関連して説明された本発明の特定の特徴は、単一の実施形態において組合せて提供されてもよい。逆に、簡潔のために単一の実施形態に関連して説明された本発明の様々な特徴は、別々に又は任意の適切な下位の組合せで提供されてもよい。実施形態の全ての組合せは特に、本発明により包含され、それぞれ及びあらゆる組合せが、係る組合せが動作可能なプロセッサ及び/又はデバイス/システム/キットを包含する範囲まで個々に及び明確に開示されるように、単に本明細書で開示される。
【0042】
本明細書を読む際に当業者に明らかになるように、本明細書で説明および例示された個々の実施形態のそれぞれは、別個のコンポーネント及び機構を有し、当該別個のコンポーネント及び機構は、本発明の範囲または思想から逸脱せずに、任意の他の幾つかの実施形態の機構から容易に分離され、又は任意の他の幾つかの実施形態の機構と容易に組み合わされ得る。任意の列挙された方法は、列挙された事象の順序で、又は論理的に可能な任意の他の順序で行われ得る。
【0043】
理解されるべきは、課題を解決するための手段および要約のセクションではなくて、発明を実施するための形態のセクションは、特許請求の範囲を解釈するために使用されることが意図されている。課題を解決するための手段および要約のセクションは、本発明者(単数または複数)により企図されたような本発明の1つ又は複数の、全てではない例示的な実施形態を記載しており、従って、本発明および添付の特許請求の範囲を制限することが決して意図されていない。
【0044】
以下においては、本発明の種々の構成要件の組合せからなる例示的な実施形態を示す。
1.質量スペクトルライブラリをキュレーションする方法であって、
(a)関心のある化合物の実験的に導出された質量スペクトルを取得し、
(b)関心のある化合物のフラグメントイオンの実験的m/z値を表す質量スペクトルのピークを識別し、
(c)関心のある化合物に対応しない任意のピークを前記質量スペクトルから除去し、
(d)ステップ(b)で識別されたピークの前記実験的m/z値を、前記フラグメントイオンの計算された理論的m/z値と置き換えることを含む、方法。
2.前記実験的に導出された質量スペクトルが、10ppm又はそれ未満の質量精度を有する、上記1に記載の方法。
3.ステップ(b)が、
関心のある化合物の分子式または化学構造を取得することを更に含む、上記1に記載の方法。
4.ステップ(b)が、
前記質量スペクトルのピークについて分子式生成アルゴリズムを行うことを更に含む、上記1に記載の方法。
5.ステップ(b)が、
前記分子式生成アルゴリズムに基づいて、前記フラグメントイオンの理論的m/z値を識別することを更に含む、上記4に記載の方法。
6.ステップ(b)が、
前記質量スペクトルのピークについて構造相関性アルゴリズムを行うことを更に含む、上記1に記載の方法。
7.ステップ(b)が、
実験的m/z値の精度、フラグメントイオンを形成するのに必要な結合切断の数、切断される必要がある結合のタイプ、フラグメントイオンに必要な水素の転移、及びそれらの任意の組合せからなるグループに選択された因子に基づいて前記ピークのスコアを計算することを更に含む、上記6に記載の方法。
8.ステップ(b)が、
前記質量スペクトルのピークについて構造相関性アルゴリズムを行うことを更に含み、前記構造相関性アルゴリズムが、フラグメンテーションの解析を含む、上記1に記載の方法。
9.ステップ(b)が、
前記フラグメンテーションの解析に基づいて、前記ピークのスコアを計算することを更に含む、上記8に記載の方法。
10.質量スペクトルライブラリをキュレーションするためのコンピュータ可読記憶媒体であって、
少なくとも1つの処理装置により実行可能な命令を含み、前記命令は、実行された場合に、前記処理装置に、
(a)関心のある化合物の実験的に導出された質量スペクトルを取得させ、
(b)関心のある化合物のフラグメントイオンの実験的m/z値を表す質量スペクトルのピークを識別させ、
(c)関心のある化合物に対応しない任意のピークを前記質量スペクトルから除去させ、
(d)ステップ(b)で識別されたピークの前記実験的m/z値を、前記フラグメントイオンの計算された理論的m/z値と置き換えさせる、コンピュータ可読記憶媒体。
11.前記命令が更に、前記処理装置に、前記ステップ(b)の前に、前記質量スペクトルにおける低レベルのピークの閾値フィルタを行わせる、上記10に記載のコンピュータ可読記憶媒体。
12.前記命令が更に、前記処理装置に、関心のある化合物の分子式または化学構造を取得させる、上記10に記載のコンピュータ可読記憶媒体。
13.前記命令が更に、前記処理装置に、前記質量スペクトルのピークについて分子式生成アルゴリズムを行わせる、上記10に記載のコンピュータ可読記憶媒体。
14.前記命令が更に、前記処理装置に、前記分子式生成アルゴリズムに基づいて前記フラグメントイオンの前記理論的m/z値を識別させる、上記11に記載のコンピュータ可読記憶媒体。
15.前記命令が更に、前記処理装置に、前記質量スペクトルのピークについて構造相関性アルゴリズムを行わせる、上記10に記載のコンピュータ可読記憶媒体。
16.前記命令が更に、前記処理装置に、実験的m/z値の精度、フラグメントイオンを形成するのに必要な結合切断の数、切断される必要がある結合のタイプ、フラグメントイオンに必要な水素の転移、及びそれらの任意の組合せからなるグループに選択された因子に基づいて前記ピークのスコアを計算させる、上記15に記載のコンピュータ可読記憶媒体。
17.前記命令が更に、前記処理装置に、前記質量スペクトルのピークについて構造相関性アルゴリズムを行わせ、前記構造相関性アルゴリズムが、フラグメンテーションの解析を含む、上記10に記載のコンピュータ可読記憶媒体。
18.前記命令が更に、前記処理装置に、前記フラグメンテーションの解析に基づいて、前記ピークのスコアを計算させる、上記17に記載のコンピュータ可読記憶媒体。
19.上記10に記載のコンピュータ可読記憶媒体を含む質量分析計システム。
20.質量スペクトルライブラリをキュレーションする方法であって、
(a)関心のある化合物の実験的に導出された質量スペクトルを取得し、前記質量スペクトルが10ppm又はそれ未満の質量精度を有し、
(b)分子式生成アルゴリズム又は構造相関性アルゴリズムを用いて、関心のある化合物の分子式または化学構造を取得し、
(c)ステップ(b)に基づいて、関心のある化合物のフラグメントイオンの実験的m/z値を表す質量スペクトルのピークを識別し、
(d)関心のある化合物に対応しない任意のピークを前記質量スペクトルから除去し、
(d)ステップ(c)で識別されたピークの前記実験的m/z値を、前記フラグメントイオンの計算された理論的m/z値と置き換え、
(e)前記質量スペクトルを前記質量スペクトルライブラリに保存することを含む、方法。
【符号の説明】
【0045】
400 コンピュータシステム
402 ディスプレイインターフェース
404 プロセッサ
406 通信インフラストラクチャ
408 メインメモリ
410 二次メモリ
424 通信インターフェース
426 通信経路
430 ディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量スペクトルライブラリをキュレーションする方法であって、
(a)関心のある化合物の実験的に導出された質量スペクトルを取得し、
(b)関心のある化合物のフラグメントイオンの実験的m/z値を表す質量スペクトルのピークを識別し、
(c)関心のある化合物に対応しない任意のピークを前記質量スペクトルから除去し、
(d)ステップ(b)で識別されたピークの前記実験的m/z値を、前記フラグメントイオンの計算された理論的m/z値と置き換えることを含む、方法。
【請求項2】
前記実験的に導出された質量スペクトルが、10ppm又はそれ未満の質量精度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(b)が、
関心のある化合物の分子式または化学構造を取得することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(b)が、
前記質量スペクトルのピークについて分子式生成アルゴリズムを行うことを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(b)が、
前記分子式生成アルゴリズムに基づいて、前記フラグメントイオンの理論的m/z値を識別することを更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(b)が、
前記質量スペクトルのピークについて構造相関性アルゴリズムを行うことを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(b)が、
実験的m/z値の精度、フラグメントイオンを形成するのに必要な結合切断の数、切断される必要がある結合のタイプ、フラグメントイオンに必要な水素の転移、及びそれらの任意の組合せからなるグループに選択された因子に基づいて前記ピークのスコアを計算することを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(b)が、
前記質量スペクトルのピークについて構造相関性アルゴリズムを行うことを更に含み、前記構造相関性アルゴリズムが、フラグメンテーションの解析を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(b)が、
前記フラグメンテーションの解析に基づいて、前記ピークのスコアを計算することを更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
質量スペクトルライブラリをキュレーションする方法であって、
(a)関心のある化合物の実験的に導出された質量スペクトルを取得し、前記質量スペクトルが10ppm又はそれ未満の質量精度を有し、
(b)分子式生成アルゴリズム又は構造相関性アルゴリズムを用いて、関心のある化合物の分子式または化学構造を取得し、
(c)ステップ(b)に基づいて、関心のある化合物のフラグメントイオンの実験的m/z値を表す質量スペクトルのピークを識別し、
(d)関心のある化合物に対応しない任意のピークを前記質量スペクトルから除去し、
(d)ステップ(c)で識別されたピークの前記実験的m/z値を、前記フラグメントイオンの計算された理論的m/z値と置き換え、
(e)前記質量スペクトルを前記質量スペクトルライブラリに保存することを含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−98276(P2012−98276A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218837(P2011−218837)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【Fターム(参考)】