説明

質量スペクトルデータを処理する方法

【解決手段】開示される質量スペクトルデータの処理方法は、イオン検出器から出力される第1の信号をデジタル処理して、第1のデジタル信号を生成する。第1のデジタル信号に含まれる第1のピーク群を検出して、第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの到達時間T0とピーク面積S0とを求め、各々が到達時間値とピーク面積値とを備えるデータ対の第1のリストを作成する。第1のリストに含まれる1つ以上のデータ対をフィルタリング除去して、より小さな第2のリストを作成する。ここで、第1のリストに含まれるデータ対のピーク面積値がピーク面積閾値未満であると判定された場合に、第1のリストからそのデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[クロスリファレンス]
本出願は、2009年5月29日に出願された米国仮特許出願No.US61/182,143および2009年5月29日に出願された英国特許出願No.0909289.1に基づく優先権を主張するものであり、前記出願の内容は、参照することにより、その全体があらゆる目的で本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、質量分析計、質量分析の方法および質量スペクトルデータを処理する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
質量スペクトルを取得する周知の方法は、質量分析器のイオン検出器からの出力信号を、高速アナログ・デジタル変換器(ADC)を用いて、時間の関数として記録するものである。周知のように、走査型磁場質量分析器、走査型四重極質量分析器またはイオントラップ型質量分析器と組み合わせてアナログ・デジタル変換器が用いられている。
【0004】
質量分析器を比較的長い時間にわたって(たとえば、クロマトグラフィー分離実験の持続時間にわたって)高速でスキャンさせた場合、アナログ・デジタル変換器を用いると、非常に大量の質量スペクトルデータが得られることは明らかである。大量の質量スペクトルデータを格納して処理するためには、非常に大きなメモリが必要となるという問題が生じる。さらに、大量のデータは、その後のデータ処理速度にも悪影響を与える。これは、特に、データ依存捕捉(DDA)等のリアルタイムの用途において、大きな問題となる。
【0005】
飛行時間型質量分析器と共にアナログ・デジタル変換器を用いた場合にはこのような問題が生じるため、一般に、時間・デジタル変換器(TDC)検出器システムが飛行時間型質量分析器と共に用いられている。時間・デジタル変換器とアナログ・デジタル変換器との大きな違いは、時間・デジタル変換器では、イオンがイオン検出器に到達した時間のみを記録する点にある。このため、時間・デジタル変換器により生成される質量スペクトルデータのデータ量は少なく、以降のデータ処理が容易になる。ただし、時間・デジタル変換器には、イオン到達イベントに関する強度値を出力しない、というデメリットがある。このため、時間・デジタル変換器では、イオン検出器に1つのイオンが到達したのか、あるいは、イオン検出器にほぼ同時に複数のイオンが到達したのかを区別することができない。
【0006】
従来の飛行時間型質量分析器は、時間・デジタル変換器システムにより複数の捕捉において求められたイオン到達時間を合計する。イオン検出器にイオンが到達しない時間にはデータは記録されない。次に、記録されたイオン到達イベントの時間の複合ヒストグラムを形成する。捕捉を次々と行なって多くのイオンがヒストグラムに加えられるにつれて、ヒストグラムが漸次構築されて、イオン数と飛行時間(または質量対電荷比)の質量スペクトルが形成される。
【0007】
従来の飛行時間型質量分析器は、異なる捕捉により得られた数百または数千の異なる飛行時間スペクトルを収集し、合計し、またはヒストグラムに形成し、複合質量スペクトルを形成することができる。イオン到達イベントの質量スペクトルまたはヒストグラムを、コンピュータのメモリに格納するようにしてもよい。
【0008】
従来の飛行時間型質量分析器には、ヒストグラム作成に用いられて質量スペクトルを形成する個々のスペクトルの多くは、ごく少数のイオン到達イベントしか記録されなかった、あるいは、まったくイオン到達イベントが記録されなかった捕捉に関するものである可能性がある、という問題がある。これは、特に、非常に高速の捕捉速度で作動する直交加速飛行時間型質量分析器で大きな問題となる。
【0009】
従来の飛行時間型質量分析器は、マイクロチャンネルプレート(MCP)等の二次電子増倍管や離散ダイノード電子増倍管を有するイオン検出器を備える。二次電子増倍管や離散ダイノード電子増倍管は、イオン検出器へのイオン到達に応じて電子パルスを生成する。次に、電子パルスまたは電流パルスが電圧パルスに変換された後、適当な増幅器を用いて電圧パルスが増幅される。
【0010】
最新式のマイクロチャンネルプレート型イオン検出器では、1つのイオンの到達に応じて信号が生成され、この信号は1〜3nsの半値全幅を有する。イオン信号の検出には時間・デジタル変換器(TDC)が用いられる。電子増倍管により生成された信号が所定の電圧閾値を超えると、イオン到達イベントに関するものとして信号が記録される。イオン到達イベントは、関連する強度の情報を伴わず、時間値としてのみ記録される。到達時間は、イオン信号の先端が電圧閾値と交差した時点に対応するものとして記録される。記録された到達時間は、時間・デジタル変換器の最近傍のクロックステップに対してのみ正確である。最新式の10GHz時間・デジタル変換器は、±50ps内でイオン到達時間を記録することができる。
【0011】
時間・デジタル変換器を用いてイオン到達イベントを記録する場合の利点は、信号または電圧閾値を適用することにより、電子ノイズを効果的に除去できることである。この結果、最終的にヒストグラムに作成した質量スペクトルにはノイズが現れず、イオンフラックスが比較的低ければ、非常に良いSN比(信号対ノイズ比)が得られる。
【0012】
時間・デジタル変換器を用いる別の利点は、1つのイオンによって生成される信号のアナログ幅が、ヒストグラムに作成した質量スペクトル内の所定の質量対電荷比値に関して、イオン到達エンベロープの幅に加算されないことである。イオン到達時間のみが記録されるため、各質量ピークに関するイオン到達時間の広がりおよびイオン到達イベントにより生成された電圧パルス高さの信号閾値に対する変動によって、ヒストグラムに作成した質量スペクトル内の質量ピークの幅が求められる。
【0013】
しかし、時間・デジタル変換器型検出器を用いるイオン検出器を備える従来の飛行時間型質量分析器には、時間・デジタル変換器型検出器では、1つのイオンがイオン検出器に到達したことにより生じる信号と複数のイオンが同時にイオン検出器に到達したことにより生じる信号とを区別することができない、という大きな問題があった。このように1つのイオン到達イベントと複数のイオン到達イベントとを区別できないことにより、形成されたヒストグラムまたは質量スペクトルの強度に歪みが生じる。さらに、イオン検出器からの出力信号が所定の電圧閾値を超えたイオン到達イベントしか記録されない。
【0014】
時間・デジタル変換器システムを内蔵した周知のイオン検出器には、さらに、イオン到達イベントを記録後のリカバリタイム中は、所定の電圧信号閾値を信号が下回ることになる、という問題もあった。この不感時間の間は、イオン到達イベントを記録することができない。
【0015】
イオンフラックスが比較的高い場合には、一回の捕捉時にほぼ同時に複数のイオンがイオン検出器に到達する確率がかなり大きくなる。不感時間の影響により、ヒストグラムに作成した質量スペクトルにおける強度および質量対電荷比の位置に歪みが生じる。時間・デジタル変換器型検出器システムを用いる従来の質量分析器には、したがって、定量的な用途においても、定性的な用途にもいても、ダイナミックレンジがかなり限られているという問題があった。
【0016】
時間・デジタル変換器システムでは限界があるのに対して、アナログ・デジタル変換器システムを用いれば、複数のイオン到達イベントを正確に記録することができる。アナログ・デジタル変換器システムは、クロックサイクルごとに信号強度を記録することができる。
【0017】
周知のアナログ・デジタルレコーダーは、たとえば、2GHzの速度で信号をデジタル処理する一方、信号の強度を最大8ビットのデジタル値として記録することができる。これは、各時間デジタル処理ポイントにおいて、0〜255の強度値に対応する。また、アナログ・デジタル変換器は、周知のように、最大10ビットのデジタル強度値を記録することができるが、スペクトル繰返し率に制限がある。
【0018】
アナログ・デジタル変換器は、電子増倍管から出力される信号に対応する時間の関数として、連続強度プロファイルを生成する。複数の捕捉により得られた飛行時間スペクトルを合計して質量スペクトルを形成することができる。
【0019】
アナログ・デジタル変換器システムには、強度値を出力できるため、強度値の増大を出力することにより複数のイオンがほぼ同時に到達するイオン到達イベントを記録することができる、という利点がある。これに対して、時間・デジタル変換器システムでは、イオン検出器に1つのイオンが到達したのか、あるいは、イオン検出器にほぼ同時に複数のイオンが到達したのか、を区別することができない。
【0020】
アナログ・デジタル変換器は、検出閾値を用いる時間・デジタル変換器と異なり、不感時間の影響を受けない。しかし、アナログ・デジタル変換器には、個々のイオン到達により生じる信号のアナログ幅がイオン到達エンベロープの幅に加算されるという問題があった。これは、時間・デジタル変換器に基づくシステムを用いて作成した同等の質量スペクトルと比較して、合計したまたはヒストグラムに作成した最終的な質量スペクトルの質量分解能が低下する原因となる。
【0021】
アナログ・デジタル変換器には、電子ノイズもデジタル処理されて、各捕捉に対応する飛行時間スペクトルに現れてしまうという問題もあった。このノイズは、合計されて、最終的なまたはヒストグラム化した質量スペクトルにも現れる。この結果、比較的弱いイオン信号がマスクされてしまい、時間・デジタル変換器に基づくシステムを用いた場合の検出限界よりも検出限界が悪くなる結果となる。
【0022】
質量分析計および質量分析の方法の向上が望まれている。
【発明の概要】
【0023】
本発明の一つの態様は、質量分析の方法であって、
イオン検出器から出力された第1の信号をデジタル処理して、第1のデジタル信号を生成する工程と、
前記第1のデジタル信号に含まれる第1のピーク群を検出して、前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの到達時間T0とピーク面積S0とを求め、各々が到達時間値とピーク面積値とを備えるデータ対の第1のリストを作成する工程と、
前記第1のリストから1つ以上のデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てることにより、より小さな第2のリストを作成する工程と、を備え、
前記第1のリストに含まれるデータ対のピーク面積値がピーク面積閾値未満であると判定された場合に、前記第1のリストからそのデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てる。
【0024】
本発明の態様において、別々の捕捉による質量スペクトルデータをヒストグラムに作成または組み合わせて、複合質量スペクトルを構築または形成する前に、前記第1のリストからデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てる工程を実行することが重要である。
【0025】
好適な実施形態において、面積閾値処理をプッシュ方式(push-by-push basis)で実行することにより、個々のイオンピークの形状に関する情報に基づき面積閾値を求める。
【0026】
質量スペクトルデータのヒストグラム作成の後に面積閾値処理を実行する場合には、イオンピークの高さが変動するため、面積閾値がより恣意的なものになる。面積閾値は、スキャン形成に用いられるプッシュ数にも依存する。
【0027】
好適な実施形態において、プッシュ方式(push-by-push)で面積閾値処理を実行することにより、イオンピークの形状および高さの変動および/または幅の変動を特徴づけることができるため、システムは、イオンピークの最小面積をかなり正確に求めることができる。イオンピークの幅は、通常、ほとんど一定であるため、イオンピークの幅の変動を極めて小さい。
【0028】
詳細には後述するように、振幅閾値も用いることができるが、必須ではない。実際のところ、振幅閾値を適用することによって、処理能力に関して言えば、有限帯域幅により、システムが処理すべきデータ量を抑制することができる。一実施形態において、ガウスノイズが想定される場合には、振幅閾値をバックグラウンドノイズレベル未満の3σに設定するようにしてもよい。一実施形態において、バックグラウンドノイズがDCレベル上にある場合には、振幅閾値によりDCレベルは除去できても、バックグラウンドノイズを実質的に除去できない可能性もあるため、振幅閾値をバックグラウンドノイズ未満に設定するようにしてもよい。
【0029】
すなわち、好適な実施形態において、時間および強度のデータ対を組み合わせるまたはヒストグラムに作成する前にプッシュ方式(push-to-push basis)で質量スペクトルデータに面積閾値を適用することによって、時間と強度のデータを組み合わせるまたはヒストグラムに作成する前に、スパイクノイズを除去することができる。
【0030】
一実施形態において、方法は、前記1つ以上のデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てる工程の後に、さらに、
前記より小さな第2のリストに含まれるデータ対に関して求められた到達時間値T0を第1の到達時間Tnと第2の到達時間Tn+1とに変換する、および/または、前記より小さな第2のリストに含まれるデータ対に関して求められたピーク面積値S0を第1のピーク面積Snと第2のピーク面積Sn+1とに変換する工程を備えることが望ましい。
【0031】
一実施形態において、
(i)前記第1の信号は、出力信号、電圧信号、イオン信号、イオン電流、電圧パルス、または電子電流パルスを備える、および/または、
(ii)前記イオン検出器は、マイクロチャンネルプレート、光電子増倍管、または電子増倍管装置を備える、および/または、
(iii)前記イオン検出器は、前記イオン検出器に1つ以上のイオンが到達した際に電圧パルスを生成する電流−電圧変換器または増幅器を備える。
【0032】
一実施形態において、方法は、さらに、前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの前記到達時間T0を求める前に、かつ、前記強度S0を求める前に、前記第1のデジタル信号に振幅閾値を適用して、前記第1のデジタル信号から少なくとも一部のスパイクノイズをフィルタリング除去する工程を備えることが望ましい。
【0033】
一実施形態において、方法は、さらに、前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの前記到達時間T0を求める前に、かつ、前記強度S0を求める前に、移動平均、ボックスカー積分器、Savitzky-GolayまたはHites-Biemannアルゴリズムを用いて前記第1のデジタル信号を平滑化する工程を備えることが望ましい。
【0034】
一実施形態において、方法は、さらに、前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの前記到達時間T0を求める前に、かつ、前記強度S0を求める前に、前記第1のデジタル信号の二次微分または二次差分を求めるまたは取得する工程を備えることが望ましい。
【0035】
一実施形態において、前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの到達時間T0を求める工程が、前記第1のデジタル信号の前記二次微分の1つ以上のゼロ交差点を求めること、を備えることが望ましい。
【0036】
一実施形態において、方法は、さらに、
前記第1のデジタル信号の前記二次微分がゼロまたは他の値を下回る時の直前または直後のデジタル処理間隔に対応するものとして、イオン到達イベントの開始時間T0startを求めるまたは設定する工程と、
前記第1のデジタル信号の前記二次微分がゼロまたは他の値を超える時の直前または直後のデジタル処理間隔に対応するものとして、イオン到達イベントの終了時間T0endを求めるまたは設定する工程と、を備えることが望ましい。
【0037】
一実施形態において、方法は、さらに、
(i)1つ以上のイオン到達イベントに対応し、前記第1のデジタル信号内に存在する1つ以上のピークの強度を求める工程であって、前記開始時間T0startによりおよび/または前記終了時間T0endにより限定された前記第1のデジタル信号内に存在する1つ以上のピークの面積を求めること、を備える前記第1のデジタル信号内に存在する1つ以上のピークの強度を求める工程、および/または、
(ii)1つ以上のイオン到達イベントに対応し、前記第1のデジタル信号内に存在する1つ以上のピークのモーメントを求める工程であって、前記開始時間T0startによりおよび/または前記終了時間T0endにより限定されたピークのモーメントを求めること、を備える前記1つ以上のイオン到達イベントに対応し、前記第1のデジタル信号内に存在する1つ以上のピークのモーメントを求める工程、および/または、
(iii)1つ以上のイオン到達イベントに対応し、前記第1のデジタル信号内に存在する1つ以上のピークの時間重心を求める工程、および/または、
(iv)1つ以上のイオン到達イベントに対応し、前記第1のデジタル信号内に存在する1つ以上のピークの平均時間または代表時間を求める工程、を備えることが望ましい。
【0038】
方法は、さらに、2つ以上の実質的に近傍のまたは隣接する所定のタイムビンまたはメモリロケーションに前記第1の到達時間Tnと前記第2の到達時間Tn+1とを格納する工程を備えることが望ましい。
【0039】
一実施形態において、
(i)前記第1の到達時間Tnは、前記求めた到達時間T0の直前または前記求めた到達時間T0を含むタイムビンまたはメモリロケーションに格納される、および/または、
(ii)前記第2の到達時間Tn+1は、前記求めた到達時間T0の直後または前記求めた到達時間T0を含む所定のタイムビンまたはメモリロケーションに格納される。
【0040】
一実施形態において、方法は、さらに、2つ以上の実質的に近傍のまたは隣接する所定のタイムビンまたはメモリロケーションに前記第1の強度または面積Snと前記第2の強度または面積Sn+1とを格納する工程を備えることが望ましい。
【0041】
一実施形態において、
(i)前記第1の強度または面積Snは、前記求めた到達時間T0の直前または前記求めた到達時間T0を含む所定のタイムビンまたはメモリロケーションに格納される、および/または、
(ii)前記第2の強度または面積Sn+1は、前記求めた到達時間T0の直後または前記求めた到達時間T0を含む所定のタイムビンまたはメモリロケーションに格納される。
【0042】
一実施形態において、所定のタイムビンまたはメモリロケーションは、各々、(i)<1ps、(ii)1−10ps、(iii)10−100ps、(iv)100−200ps、(v) 200−300ps、(vi)300−400ps、(vii)400−500ps、(viii)500−600ps、(ix)600−700ps、(x) 700−800ps、(xi)800−900ps、(xii)900−1000ps、(xiii)1−2ns、(xiv)2−3ns、(xv)3−4 ns、(xvi)4−5ns、(xvii)5−6ns、(xviii)6−7ns、(xix)7−8ns、(xx)8−9ns、(xxi)9−10ns、(xxii)10−100ns、(xxiii)100−500ns、(xxiv)500−1000ns、(xxv)1−10μs、(xxvi)10−100μs、(xxvii)100−500μsおよび(xxviii)>500μsからなる群から選択される範囲内の幅を備える。
【0043】
一実施形態において、
(i)前記求めた強度S0は関係式S0=Sn+Sn+1に従う、および/または、
(ii)S0およびT0は、関係式Sn.Tn+Sn+1.Tn+1 =S0.T0に従う。
【0044】
一実施形態において、方法は、さらに、より少ない第2のピーク群に含まれるピークの少なくとも一部に関して求めた到達時間T0および求めた強度S0を、前記第1の到達時間Tnと前記第1の強度または面積Snおよび前記第2の到達時間Tn+1と前記第2の強度または面積Sn+1と交換する工程を備えることが望ましい。
【0045】
一実施形態において、方法は、さらに、
(i)<1μs、(ii)1−10μs、(iii)10−20μs、(iv)20−30μs、(v)30−40μs、(vi)40−50μs、(vii)50−60μs、(viii)60−70μs、(ix)70−80μs、(x)80−90μs、(xi)90−100μs、(xii) 100−110μs、(xiii)110−120μs、(xiv)120−130μs、(xv)130−140μs、(xvi)140−150μs、(xvii)150−160μs、(xviii)160−170μs、(xix)170−180μs、(xx)180−190μs、(xxi)190−200μs、(xxii)200−250μs、(xxiii)250−300μs、(xxiv)300−350μs、(xxv)350−400μs、(xxvi)450−500μs、(xxvii)500−1000μsおよび(xxviii)>1msからなる群から選択される長さの捕捉期間にわたって前記第1の信号を取得する工程と、
(i)< 100、(ii)100−1000、(iii)1000−10000、(iv)10,000−100,000、(v)100,000−200,000、(vi)200,000−300,000、(vii)300,000−400,000、(viii)400,000−500,000、(ix)500,000−600,000、(x)600,000−700,000、(xi)700,000−800,000、(xii)800,000−900,000、(xiii)900,000−1,000,000、および(xiv)>1,000,000からなる群から選択されるn個のタイムビンまたはメモリロケーションに前記捕捉期間を分割する工程と、を備えることが望ましい。
【0046】
好適な実施形態において、各前記タイムビンまたはメモリロケーションが実質的に同一の長さ、幅または持続時間を有する。ただし、タイムビンまたはメモリロケーションの長さ、幅または持続時間を変える、望ましくは所定の関数に従って変える、ようにしてもよい。たとえば、一実施形態において、時間データを、質量または質量対電荷比データに変換する、あるいは、質量または質量対電荷比データとして記録するようにしてもよい。この場合には、各タイムビンまたはメモリロケーションの幅が少し異なることが望ましい。
【0047】
一実施形態において、方法は、さらに、アナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置を用いて、前記第1の信号をデジタル処理する工程を備えることが望ましい。
【0048】
一実施形態において、
(a)前記アナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置は、nビットのアナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置であり、nは5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20または21以上である、および/または、
(b)前記アナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置は、(i)<1GHz、(ii)1−2GHz、(iii)2−3GHz、(iv)3−4GHz、(v)4−5GHz、(vi)5−6GHz、(vii)6−7GHz、(viii)7−8GHz、(ix)8−9GHz、(x)9−10GHz、および(xi)>10GHzからなる群から選択されるサンプリングまたは捕捉速度を有する、および/または、
(c)前記アナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置は、実質的に均一なまたは不均一なデジタル処理速度を有する。
【0049】
一実施形態において、方法は、さらに、
前記第1のデジタル信号から一定の数または値を減算する工程と、
前記第1のデジタル信号から一定の数または値を減算後に前記第1のデジタル信号の一部がゼロを下回る場合には、前記第1のデジタル信号の一部をゼロに再設定する工程と、を備えることが望ましい。
【0050】
一実施形態において、方法は、望ましくは、さらに、
前記イオン検出器から出力される1つ以上の別の信号をデジタル処理して1つ以上の別のデジタル信号を生成する工程と、
前記1つ以上の別のデジタル信号に含まれる第1のピーク群を検出して、前記1つ以上の別のデジタル信号に対応する前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの到達時間T0と強度S0とを求める工程と、
前記1つ以上の別のデジタル信号に対応する前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの面積を求め、前記1つ以上の別のデジタル信号に対応する前記第1のピーク群に含まれるピークであって、面積閾値未満の面積であると判定されたピークをフィルタリング除去する、減じる、または、捨てることにより、前記1つ以上の別のデジタル信号に対応する前記第1のピーク群のピーク数を削減して、前記1つ以上の別のデジタル信号に対応する、よりピーク数の少ない第2のピーク群を形成する工程と、
前記1つ以上の別のデジタル信号に対応する前記よりピーク数の少ない第2のピーク群に含まれる1つ以上のピークに関して求められた到達時間値T0を第1の到達時間Tnと第2の到達時間Tn+1とに変換する、および/または、前記1つ以上の別のデジタル信号に対応する前記よりピーク数の少ない第2のピーク群に含まれる1つ以上のピークに関して求められた強度S0を第1の強度または面積Snと第2の強度または面積Sn+1とに変換する工程と、を備える。
【0051】
一実施形態において、前記1つ以上の別の信号は、前記イオン検出器から出力される少なくとも5、10、15、20、25、30、35,40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、2000、3000、4000、5000、6000、7000、8000、9000または10000個の信号を含み、各信号が独立した別々の実験または捕捉に対応する。
【0052】
一実施形態において、方法は、望ましくは、前記第1のデジタル信号に対応する前記第1の強度値Snおよび前記第2の強度値Sn+1と、前記1つ以上の別のデジタル信号に対応する前記第1の強度値Snおよび前記第2の強度値Sn+1とを組み合わせて、または、ヒストグラムに作成して、複合時間スペクトルまたは質量スペクトルを形成する工程を備える。
【0053】
本発明の一つの態様は、装置であって、
イオン検出器から出力された第1の信号をデジタル処理して、第1のデジタル信号を生成するように構成および配置されたデバイスと、
前記第1のデジタル信号に含まれる第1のピーク群を検出して、前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの到達時間T0と強度S0とを求めるように構成および配置されたデバイスと、
前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの面積を求め、前記第1のピーク群に含まれるピークであって、面積閾値未満の面積であると判定されたピークをフィルタリング除去する、減じる、または捨てることによって、前記第1のピーク群のピーク数を削減して、よりピーク数の少ない第2のピーク群を作成するように構成および配置されたデバイスと、
前記よりピーク数の少ない第2のピーク群に含まれる1つ以上のピークに関して求められた到達時間値T0を第1の到達時間Tnと第2の到達時間Tn+1とに変換する、および/または、前記よりピーク数の少ない第2のピーク群に含まれる1つ以上のピークに関して求められた強度S0を第1の強度または面積Snと第2の強度または面積Sn+1とに変換するように構成および配置されたデバイスと、を備える。
【0054】
一実施形態において、装置は、さらに、前記第1の信号をデジタル処理するアナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置を備えることが望ましい。
【0055】
一実施形態において、
(a)前記アナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置は、nビットのアナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置であり、nは5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20または21以上である、および/または、
(b)前記アナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置は、(i)<1GHz、(ii)1−2GHz、(iii)2−3GHz、(iv)3−4GHz、(v)4−5GHz、(vi)5−6GHz、(vii)6−7GHz、(viii)7−8GHz、(ix)8−9GHz、(x)9−10GHz、および(xi)>10GHzからなる群から選択されるサンプリングまたは捕捉速度を有する、および/または、
(c)前記アナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置は、実質的に均一なまたは不均一なデジタル処理速度を有する。
【0056】
本発明の一つの態様は、質量分析計であって、上述した装置を備える。
【0057】
一実施形態において、装置は、望ましくは、
(a)(i)エレクトロスプレーイオン化(Electrospray ionization: ESI)イオン源、(ii)大気圧光イオン化(Atmospheric Pressure Photo Ionization: APPI)イオン源、(iii)大気圧化学イオン化(Atmospheric Pressure Chemical Ionization: APCI)イオン源、(iv)マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization: MALDI)イオン源、(v)レーザー脱離イオン化(Laser Desorption Ionization: LDI)イオン源、(vi)大気圧イオン化(Atmospheric Pressure Ionization: API)イオン源、(vii)シリコンを用いた脱離イオン化(Desorption Ionization on Silicon: DIOS)イオン源、(viii)電子衝撃(Electron Impact: EI)イオン源、(ix)化学イオン化(Chemical Ionization: CI)イオン源、(x)電界イオン化(Field Ionization: FI)イオン源、(xi)電界脱離(Field Desorption: FD)イオン源、(xii)誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma: ICP)イオン源、(xiii)高速原子衝撃(Fast Atom Bombardment: FAB)イオン源、(xiv)液体二次イオン質量分析(Liquid Secondary Ion Mass Spectrometry: LSIMS)イオン源、(xv)脱離エレクトロスプレーイオン化(Desorption Electrospray Ionization: DESI)イオン源、(xvi)ニッケル−63放射性イオン源、(xvii)大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Atmospheric Pressure Matrix Assisted Laser Desorption Ionization)イオン源、(xviii)サーモスプレーイオン源、(xix)大気サンプリンググロー放電イオン化(Atmospheric Sampling Glow Discharge Ionization: ASGDI)イオン源および(xx)グロー放電(Glow Discharge: GD)イオン源からなる群から選択されるイオン源、および/または、
(b)1つ以上の連続またはパルスイオン源、および/または、
(c)1つ以上のイオンガイド、および/または、
(d)1つ以上のイオン移動度分離装置および/または1つ以上の電界非対称イオン移動度分光計(Field Asymmetric Ion Mobility Spectrometer)、および/または、
(e)1つ以上のイオントラップまたは1つ以上のイオン捕捉領域、および/または、
(f)1つ以上の衝突、フラグメンテーション(断片化)または反応セルであって、(i)衝突誘起解離(Collisional Induced Dissociation: CID)フラグメンテーション装置、(ii)表面誘起解離(Surface Induced Dissociation: SID)フラグメンテーション装置、(iii)電子移動解離(Electron Transfer Dissociation: ETD)フラグメンテーション装置、(iv)電子捕獲解離(Electron Capture Dissociation: ECD)フラグメンテーション装置、(v)電子衝突(Electron Collision)または電子衝撃解離(Electron Impact Dissociation)フラグメンテーション装置、(vi)光誘起解離(Photo Induced Dissociation: PID)フラグメンテーション装置、(vii)レーザー誘起解離(Laser Induced Dissociation)フラグメンテーション装置、(viii)赤外線誘起解離装置、(ix)紫外線誘起解離装置、(x)ノズル・スキマー・インターフェース・フラグメンテーション装置、(xi)インソースフラグメンテーション装置、(xii)インソース衝突誘起解離(Collision Induced Dissociation)フラグメンテーション装置、(xiii)熱源または温度源フラグメンテーション装置、(xiv)電場誘起フラグメンテーション装置、(xv)磁場誘起フラグメンテーション装置、(xvi)酵素消化または酵素分解フラグメンテーション装置、(xvii)イオン−イオン反応フラグメンテーション装置、(xviii)イオン−分子反応フラグメンテーション装置、(xix)イオン−原子反応フラグメンテーション装置、(xx)イオン−準安定イオン反応フラグメンテーション装置、(xxi)イオン−準安定分子反応フラグメンテーション装置、(xxii)イオン−準安定原子反応フラグメンテーション装置、(xxiii)イオンの反応により付加イオンまたはプロダクトイオン(生成イオン)を形成するイオン−イオン反応装置、(xxiv)イオンの反応により付加イオンまたはプロダクトイオンを形成するイオン−分子反応装置、(xxv)イオンの反応により付加イオンまたはプロダクトイオンを形成するイオン−原子反応装置、(xxvi)イオンの反応により付加イオンまたはプロダクトイオンを形成するイオン−準安定イオン反応装置、(xxvii)イオンの反応により付加イオンまたはプロダクトイオンを形成するイオン−準安定分子反応装置、(xxviii)イオンの反応により付加イオンまたはプロダクトイオンを形成するイオン−準安定原子反応装置、および(xxix)電子イオン化解離(Electron Ionization Dissociation: EID)フラグメンテーション装置、からなる群から選択される衝突、フラグメンテーションまたは反応セル、および/または、
(g)(i)四重極質量分析器、(ii)2次元またはリニア四重極質量分析器、(iii)ポール(Paul)トラップ型または3次元四重極質量分析器、(iv)ペニング(Penning)トラップ型質量分析器、(v)イオントラップ型質量分析器、(vi)磁場型質量分析器、(vii)イオンサイクロトロン共鳴(Ion Cyclotron Resonance: ICR)質量分析器(viii)フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance: FTICR)質量分析器、(ix)静電またはオービトラップ型質量分析器、(x)フーリエ変換(Fourier Transform)静電またはオービトラップ型質量分析器、(xi)フーリエ変換(Fourier Transform)質量分析器、(xii)飛行時間型(Time of Flight)質量分析器、(xiii)直交加速飛行時間型(Time of Flight)質量分析器、および(xiv)線形加速飛行時間型(Time of Flight)質量分析器、からなる群から選択される質量分析器、および/または、
(h)1つ以上のエネルギー分析器または静電エネルギー分析器、および/または、
(i)1つ以上のイオン検出器、および/または、
(j)1つ以上のマスフィルタであって、(i)四重極マスフィルタ、(ii)2次元またはリニア四重極イオントラップ、(iii)ポール(Paul)または3次元四重極イオントラップ、(iv)ペニング(Penning)イオントラップ、(v)イオントラップ、(vi)磁気セクタ型マスフィルタ、(vii)飛行時間型(Time of Flight: TOF)マスフィルタ、および(viii)ウィーン(Wien)フィルタ、からなる群から選択される1つ以上のマスフィルタ、および/または、
(k)イオンをパルス状にするデバイスまたはイオンゲート、および/または、
(l)、実質的に連続的なイオンビームをパルスイオンビームに変換するデバイスを備える.
【0058】
質量分析計は、望ましくは、さらに、
さらに、
(i)C型トラップと、外側たる形電極および同軸の内側紡錘形電極を備える質量分析器と、を備え、第1の動作モードにおいて、イオンは、前記C型トラップに送られ、次に、前記質量分析器に注入され、第2の動作モードにおいて、イオンは、前記C型トラップに、次に、衝突セルまたは電子移動解離(Electron Transfer Dissociation)装置に送られて、少なくとも一部のイオンがフラグメント(断片)イオンにフラグメント化(断片化)され、前記フラグメントイオンは、前記C型トラップに送られた後、オービトラップ型質量分析器に注入される、および/または、
(ii)使用時にイオンを透過させる開口部を各々有する複数の電極を備える積層リング型イオンガイドを備え、前記電極間の間隔がイオン通路の長さ方向に沿って増大し、前記イオンガイドの上流部分に配置される電極の開口部が第1の直径を有する一方で、前記イオンガイドの下流部分に配置される電極の開口部が前記第1の直径よりも小径の第2の直径を有し、使用時に、連続する電極に、逆相のACまたはRF電圧を印加する。
【0059】
本発明の一つの態様は、質量分析の方法であって、
イオン検出器から出力された第1の信号をデジタル処理して、第1のデジタル信号を生成する工程と、
前記第1のデジタル信号に含まれる第1のピーク群を検出して、前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの到達時間T0または質量もしくは質量対電荷比M0と強度S0とを求める工程と、
前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの面積を求め、前記第1のピーク群に含まれるピークであって、面積閾値未満の面積であると判定されたピークをフィルタリング除去する、減じる、または捨てることによって、前記第1のピーク群のピーク数を削減して、よりピーク数の少ない第2のピーク群を作成する工程と、
前記よりピーク数の少ない第2のピーク群に含まれる1つ以上のピークに関して求められた到達時間値T0または質量もしくは質量対電荷比M0を第1の質量または質量対電荷比Mnと第2の質量または質量対電荷比Mn+1とに変換する、および/または、前記よりピーク数の少ない第2のピーク群に含まれる1つ以上のピークに関して求められた強度S0を第1の強度または面積Snと第2の強度または面積Sn+1とに変換する工程と、を備える。
【0060】
本発明の一つの態様は、質量分析計であって、
イオン検出器から出力された第1の信号をデジタル処理して、第1のデジタル信号を生成するように構成および配置されたデバイスと、
前記第1のデジタル信号に含まれる第1のピーク群を検出して、前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの到達時間T0または質量もしくは質量対電荷比M0と強度S0とを求めるように構成および配置されたデバイスと、
前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの面積を求め、前記第1のピーク群に含まれるピークであって、面積閾値未満の面積であると判定されたピークをフィルタリング除去する、減じる、または捨てることによって、前記第1のピーク群のピーク数を削減して、よりピーク数の少ない第2のピーク群を作成するように構成および配置されたデバイスと、
前記よりピーク数の少ない第2のピーク群に含まれる1つ以上のピークに関して求められた到達時間値T0または質量もしくは質量対電荷比M0を第1の質量または質量対電荷比Mnと第2の質量または質量対電荷比Mn+1とに変換する、および/または、前記よりピーク数の少ない第2のピーク群に含まれる1つ以上のピークに関して求められた強度S0を第1の強度または面積Snと第2の強度または面積Sn+1とに変換するように構成および配置されたデバイスと、を備える。
【0061】
本発明の一つの態様は、質量分析計の制御システムにより実行可能なコンピュータプログラムであって、
前記制御システムに、
イオン検出器から出力された第1の信号をデジタル処理して、第1のデジタル信号を生成させ、
前記第1のデジタル信号に含まれる第1のピーク群を検出して、前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの到達時間T0とピーク面積S0とを求め、各々が到達時間値とピーク面積値とを備えるデータ対の第1のリストを作成させ、
前記第1のリストから1つ以上のデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てることにより、より小さな第2のリストを作成させ、
前記第1のリストに含まれるデータ対のピーク面積値がピーク面積閾値未満であると判定された場合に、前記第1のリストからそのデータ対をフィルタリング除去させる、減じさせる、または捨てさせる、ように構成される。
【0062】
本発明の一つの態様は、コンピュータが実行可能な命令が格納されたコンピュータ読み取り可能な媒体であって、
前記命令は、質量分析計の制御システムにより実行可能に構成され、
前記コンピュータプログラムが、前記制御システムに、
イオン検出器から出力された第1の信号をデジタル処理して、第1のデジタル信号を生成させ、
前記第1のデジタル信号に含まれる第1のピーク群を検出して、前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの到達時間T0とピーク面積S0とを求め、各々が到達時間値とピーク面積値とを備えるデータ対の第1のリストを作成させ、
前記第1のリストから1つ以上のデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てることにより、より小さな第2のリストを作成させ、
前記第1のリストに含まれるデータ対のピーク面積値がピーク面積閾値未満であると判定された場合に、前記第1のリストからそのデータ対をフィルタリング除去させる、減じさせる、または捨てさせる、ように構成される。
【0063】
コンピュータ読み取り可能な媒体は、望ましくは、(i)ROM、(ii)EAROM、(iii)EPROM、(iv)EEPROM、(v)フラッシュメモリ、(vi)光ディスク、(vii)RAM、および(viii)ハードディスクドライブからなる群から選択される。
【0064】
一実施形態において、連続もしくは複合時間スペクトルまたは連続もしくは複合質量スペクトルを与えることが望ましい。方法は、望ましくは、さらに、連続もしくは複合時間スペクトルまたは連続もしくは複合質量スペクトルの二次微分または二次差分を求めるまたは得る工程を備えることが望ましい。方法は、さらに、連続もしくは複合時間スペクトルまたは連続もしくは複合質量スペクトルの二次微分または二次差分から1つ以上のイオンまたは質量ピークの到達時間または質量もしくは質量対電荷比を求める工程を備えることが望ましい。
【0065】
連続もしくは複合時間スペクトルまたは連続もしくは複合質量スペクトルの二次微分または二次差分から1つ以上のイオンまたは質量ピークの到達時間または質量もしくは質量対電荷比を求める工程は、望ましくは、連続もしくは複合時間スペクトルまたは連続もしくは複合質量スペクトルの二次微分の1つ以上のゼロ交差点を求めること、を備えることが望ましい。
【0066】
方法は、望ましくは、さらに、連続もしくは複合時間スペクトルまたは連続もしくは複合質量スペクトルの二次微分がゼロまたは他の値を下回る時の直前または直後のステップ間隔に対応するものとして、ピークまたは質量ピークの開始点Mstartを決定するまたは設定する工程を備える。
【0067】
方法は、望ましくは、さらに、連続もしくは複合時間スペクトルまたは連続もしくは複合質量スペクトルの二次微分がゼロまたは他の値を超える時の直前または直後のステップ間隔に対応するものとして、ピークまたは質量ピークの終了点Mendtを決定するまたは設定する工程を備える。
【0068】
一実施形態において、方法は、さらに、連続もしくは複合時間スペクトルまたは連続もしくは複合質量スペクトルからピークまたは質量ピークの強度を求める工程を備える。連続もしくは複合時間スペクトルまたは連続もしくは複合質量スペクトルからピークまたは質量ピークの強度を求める工程は、開始点Mstartおよび/または終了点Mendtにより限定されたピークまたは質量ピークの面積を求めること、を備える。
【0069】
方法は、望ましくは、さらに、連続もしくは複合時間スペクトルまたは連続もしくは複合質量スペクトルからピークまたは質量ピークのモーメントを求める工程を備える。一実施形態において、連続もしくは複合時間スペクトルまたは連続もしくは複合質量スペクトルからピークまたは質量ピークのモーメントを求める工程は、開始点Mstartおよび/または終了点Mendtにより限定されたピークまたは質量ピークのモーメントを求めること、を備える。
【0070】
方法は、望ましくは、さらに、連続もしくは複合時間スペクトルまたは連続もしくは複合質量スペクトルからピークまたは質量ピークの時間重心を求める工程を備える。
【0071】
一実施形態において、方法は、さらに、連続もしくは複合時間スペクトルまたは連続もしくは複合質量スペクトルからピークまたは質量ピークの平均もしくは代表時間または平均もしくは代表質量を求める工程を備える。
【0072】
方法は、望ましくは、さらに、時間データを質量または質量対電荷比データに変換する工程を備える。
【0073】
好適な実施形態において、方法は、望ましくは、さらに、質量スペクトルを表示または出力する工程を備える。質量スペクトルは、望ましくは、複数の質量スペクトルデータ点を備え、各データ点が1つのイオン種を表わすと考えられ、また、各データ点は、強度値と質量または質量対電荷比値とを備える。
【0074】
イオン検出器は、望ましくは、マイクロチャンネルプレート、光電子増倍管、または電子増倍管装置を備える。イオン検出器は、望ましくは、さらに、イオン検出器に1つ以上のイオンが到達した際に電圧パルスを生成する電流−電圧変換器または増幅器を備える。
【0075】
一実施形態において、質量分析器が提供される。質量分析器は、望ましくは、(i)飛行時間型(Time of Flight:TOF)質量分析器、(ii)直交加速飛行時間型(oaTOF)質量分析器、または(iii)軸方向加速飛行時間型質量分析器である。あるいは、質量分析器は、(i)磁場型質量分析器、(ii)ポール(Paul)型または3次元四重極質量分析器、(iii)2次元またはリニア四重極質量分析器、(iv)ペニング(Penning)トラップ型質量分析器、(v)イオントラップ型質量分析器、および(vi)四重極質量分析器からなる群から選択される。
【0076】
装置は、望ましくは、さらに、第1の信号をデジタル処理するアナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置を備える。アナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置は、望ましくは、nビットのアナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置であり、nは8、10,12、14または16である。アナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置は、望ましくは、(i)<1GHz、(ii)1−2GHz、(iii)2−3GHz、(iv)3−4GHz、(v)4−5GHz、(vi)5−6GHz、(vii)6−7GHz、(viii)7−8GHz、(ix)8−9GHz、(x)9−10GHz、および(xi)>10GHzからなる群から選択されるサンプリングまたは捕捉速度を有する。
【0077】
アナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置は、望ましくは、実質的に均一なデジタル処理速度を有する。あるいは、アナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置が実質的に不均一なデジタル処理速度を有するものでもよい。
【0078】
本発明の別の態様は、質量分析計であって、上述した装置を備える。
【0079】
質量分析計がさらにイオン源を備えるものでもよい。イオン源は、望ましくは、(i)エレクトロスプレーイオン化(Electrospray ionization: ESI)イオン源、(ii)大気圧光イオン化(Atmospheric Pressure Photo Ionization: APPI)イオン源、(iii)大気圧化学イオン化(Atmospheric Pressure Chemical Ionization: APCI)イオン源、(iv)マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization: MALDI)イオン源、(v)レーザー脱離イオン化(Laser Desorption Ionization: LDI)イオン源、(vi)大気圧イオン化(Atmospheric Pressure Ionization: API)イオン源、(vii)シリコンを用いた脱離イオン化(Desorption Ionization on Silicon: DIOS)イオン源、(viii)電子衝撃(Electron Impact: EI)イオン源、(ix)化学イオン化(Chemical Ionization: CI)イオン源、(x)電界イオン化(Field Ionization: FI)イオン源、(xi)電界脱離(Field Desorption: FD)イオン源、(xii)誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma: ICP)イオン源、(xiii)高速原子衝撃(Fast Atom Bombardment: FAB)イオン源、(xiv)液体二次イオン質量分析(Liquid Secondary Ion Mass Spectrometry: LSIMS)イオン源、(xv)脱離エレクトロスプレーイオン化(Desorption Electrospray Ionization: DESI)イオン源、(xvi)ニッケル−63放射性イオン源、(xvii)大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Atmospheric Pressure Matrix Assisted Laser Desorption Ionization)イオン源、および(xviii)サーモスプレーイオン源からなる群から選択される。
【0080】
一実施形態において、質量分析計が、連続またはパルスイオン源を備えるようにしてもよい。
【0081】
質量分析計は、望ましくは、さらに、質量分析器を備える。質量分析器は、望ましくは、(i)飛行時間型(Time of Flight:TOF)質量分析器、(ii)直交加速飛行時間型(oaTOF)質量分析器、または(iii)軸方向加速飛行時間型質量分析器である。あるいは、質量分析器は、(i)磁場型質量分析器、(ii)ポール(Paul)型または3次元四重極質量分析器、(iii)2次元またはリニア四重極質量分析器、(iv)ペニング(Penning)トラップ型質量分析器、(v)イオントラップ型質量分析器、および(vi)四重極質量分析器からなる群から選択されるものでもよい。
【0082】
質量分析計は、望ましくは、さらに、衝突、フラグメンテーション(断片化)または反応装置を備える。衝突、フラグメンテーションまたは反応装置は、望ましくは、衝突誘起解離(Collisional Induced Dissociation: CID)によりイオンをフラグメント化(断片化)するように構成される。あるいは、衝突、フラグメンテーションまたは反応装置を、(i)表面誘起解離(Surface Induced Dissociation: SID)フラグメンテーション装置、(ii)電子移動解離(Electron Transfer Dissociation)フラグメンテーション装置、(iii)電子捕獲解離(Electron Capture Dissociation)フラグメンテーション装置、(iv)電子衝突(Electron Collision)または電子衝撃解離(Electron Impact Dissociation)フラグメンテーション装置、(v)光誘起解離(Photo Induced Dissociation: PID)フラグメンテーション装置、(vi)レーザー誘起解離(Laser Induced Dissociation)フラグメンテーション装置、(vii)赤外線誘起解離装置、(viii)紫外線誘起解離装置、(ix)ノズル・スキマー・インターフェース・フラグメンテーション装置、(x)インソースフラグメンテーション装置、(xi)インソース衝突誘起解離(Collision Induced Dissociation)フラグメンテーション装置、(xii)熱源または温度源フラグメンテーション装置、(xiii)電場誘起フラグメンテーション装置、(xiv)磁場誘起フラグメンテーション装置、(xv)酵素消化または酵素分解フラグメンテーション装置、(xvi)イオン−イオン反応フラグメンテーション装置、(xvii)イオン−分子反応フラグメンテーション装置、(xviii)イオン−原子反応フラグメンテーション装置、(xix)イオン−準安定イオン反応フラグメンテーション装置、(xx)イオン−準安定分子反応フラグメンテーション装置、(xxi)イオン−準安定原子反応フラグメンテーション装置、(xxii)イオンの反応により付加イオンまたはプロダクトイオン(生成イオン)を形成するイオン−イオン反応装置、(xxiii)イオンの反応により付加イオンまたはプロダクトイオンを形成するイオン−分子反応装置、(xxiv)イオンの反応により付加イオンまたはプロダクトイオンを形成するイオン−原子反応装置、(xxv)イオンの反応により付加イオンまたはプロダクトイオンを形成するイオン−準安定イオン反応装置、(xxvi)イオンの反応により付加イオンまたはプロダクトイオンを形成するイオン−準安定分子反応装置、および(xxvii)イオンの反応により付加イオンまたはプロダクトイオンを形成するイオン−準安定原子反応装置からなる群から選択するようにしてもよい。
【0083】
本発明の好適な実施形態において、アナログ・デジタル変換器を内蔵したイオン検出器を望ましくは備える飛行時間型質量分析器により、複数の飛行時間スペクトルを取得することが望ましい。検出されたイオン信号は、望ましくは、増幅されて電圧信号に変換される。変換された電圧信号を、高速アナログ・デジタル変換器によりデジタル処理することが望ましい。その後、デジタル信号を処理することが望ましい。
【0084】
イオン検出器に到達した1つ以上のイオンに対応するデジタル信号内に存在する個別の電圧ピークの開始時間を求めることが望ましい。同様に、各個別の電圧ピークの終了時間を求めることが望ましい。また、各個別の電圧ピークの強度とモーメントを求めることが望ましい。各電圧ピークの求められた開始時間および/または終了時間、各電圧ピークの強度および各電圧ピークのモーメントを、以降の処理の雨に用いる、または、記憶することが望ましい。
【0085】
以降の捕捉により得られたデータも同様に処理することが望ましい。複数回の捕捉を実行後、複数回の捕捉により得られたデータを組み合わせて、イオン到達時間とイオン到達イベントに関する対応する強度値とのヒストグラムを形成、作成またはコンパイルすることが望ましい。さらに、複数回の捕捉により得られた時間と対応する強度値とを積分して、連続、複合もしくは連続体スペクトルまたは質量スペクトルを形成することが望ましい。
【0086】
連続、複合もしくは連続体スペクトルまたは質量スペクトルをさらに処理することが望ましい。連続、複合もしくは連続体スペクトルまたは質量スペクトル内に存在するピークまたは質量ピークの強度および飛行時間、質量または質量対電荷比を求めることが望ましい。さらに、イオンの質量対電荷比と対応する強度値とを備える質量スペクトルを生成することが望ましい。
【0087】
好適な実施形態において、望ましくはイオン検出器から出力されるイオン信号または電圧信号の二次微分を求めることが望ましい。イオン信号または電圧信号中に存在する電圧ピークの開始時間を、デジタル信号の二次微分がゼロを下回った時として求めることが望ましい。同様に、電圧ピークの終了時間を、デジタル信号の二次微分がゼロを超えた時として求めることが望ましい。
【0088】
別の実施形態において、デジタル信号が所定の閾値を超えた時を電圧ピークの開始時間とすることもできる。同様に、デジタル信号がその後所定の閾値を下回った時を電圧ピークの終了時間とすることもできる。
【0089】
求めた電圧ピークの開始時間で始まり求めた電圧ピークの終了時間で終わるすべてのデジタル測定値の合計から、電圧ピークの強度を求めることが望ましい。
【0090】
また、電圧ピークの開始時間と終了時間とにより限定されるすべてのデジタル測定値に関して、各デジタル測定値と電圧ピークの開始時間または電圧ピークの終了時間との間のデジタル処理時間間隔の数をそのデジタル測定値に乗算した積の合計から、電圧ピークのモーメントを求めることが望ましい。
【0091】
あるいは、時間間隔ごとに、漸次算出される電圧ピークの現在の強度に、電圧ピークの開始時間から電圧ピークの終了時間までの各デジタル測定値を加えた合計から、電圧ピークのモーメントを求めるようにしてもよい。
【0092】
各捕捉により得られた各電圧ピークの開始時間および/または終了時間、各電圧ピークの強度ならびに各電圧ピークのモーメントを記録して、利用することが望ましい。
【0093】
各電圧ピークの開始時間および/または終了時間、各電圧ピークの強度ならびに各電圧ピークのモーメントを用いて、イオン検出器により検出される1つ以上のイオンに関して、代表飛行時間または平均飛行時間を算出することが望ましい。代表飛行時間または平均飛行時間を、以降の処理に用いるために記録または格納することも望ましい。
【0094】
電圧ピークのモーメントを電圧ピークの強度で除算することにより1つ以上のイオンに関する代表飛行時間または平均飛行時間を算出し、電圧ピークの時間重心を求めるようにしてもよい。電圧ピークの時間重心を、必要に応じて、電圧ピークの開始時間に加えるようにしてもよいし、電圧ピークの終了時間から引くようにしてもよい。デジタル処理時間間隔の精度よりも高い精度で代表飛行時間または平均飛行時間を算出することが望ましい。
【0095】
代表飛行時間または平均飛行時間と対応する強度値とを、各捕捉により得られた各電圧ピークに関連させて、格納することが望ましい。複数回の捕捉により得られたデータを、代表飛行時間または平均飛行時間とそれに対応する強度値とを含む単一データセットにまとめるまたは統合することが望ましい。
【0096】
複数回の捕捉により得られた代表飛行時間または平均飛行時間とそれに対応する強度値とを含む単一データセットを積分して、単一の連続、複合もしくは連続体質量スペクトルを形成することが望ましい。一実施形態において、時間と強度対を積分アルゴリズムを用いて積分するものでもよい。一実施形態において、ボックスカー積分器、移動平均アルゴリズムや他の積分アルゴリズムの1回以上のパスによりデータを積分するようにしてもよい。
【0097】
得られた単一の連続、複合もしくは連続体スペクトルまたは質量スペクトルは、均一または不均一な時間、質量または質量対電荷比間隔で、連続した強度を有することが望ましい。単一の連続、複合もしくは連続体スペクトルまたは質量スペクトルが均一な時間間隔で連続した強度を有する場合、この時間間隔は、アナログ・デジタル変換器のデジタル処理時間間隔の単分数または整数倍に対応するものでもよいし、対応しないものでもよい。
【0098】
好適な実施形態において、強度データ間隔の回数は、1つのピークまたは質量ピークにおける強度データ間隔の数が4より大きいことが望ましく、8より大きいことがさらに望ましい。一実施形態において、1つのピークまたは質量ピークにおける強度データ間隔の数が16以上でもよい。
【0099】
得られた単一の連続、複合もしくは連続体スペクトルまたは質量スペクトルをさらに処理して、データまたは質量スペクトルデータを、強度値に対応する飛行時間、質量または質量対電荷比値に変換するようにしてもよい。
【0100】
好適な実施形態において、単一の連続、複合もしくは連続体スペクトルまたは質量スペクトルを、各捕捉により得られた電圧信号を処理するのと同様な方法でで処理して、連続もしくは連続体スペクトルまたは質量スペクトルを複数の飛行時間およびそれに関連する強度値に変換することが望ましい。離散質量スペクトルを生成して出力するようにしてもよい。
【0101】
好適な実施形態において、連続もしくは連続体スペクトルまたは質量スペクトルで見られる各ピーク、質量ピークまたはデータピークの開始時間または開始点を求めることが望ましい。同様に、各ピーク、質量ピークまたはデータピークの終了時間または終了点を求めることが望ましい。また、各ピーク、質量ピークまたはデータピークの強度を取得することが望ましい。さらに、各ピーク、質量ピークまたはデータピークのモーメントを取得することが望ましい。各ピーク、質量ピークまたはデータピークの開始時間または開始点および/またはそのピーク、質量ピークまたはデータピークの終了時間または終了点と、データピーク複合強度と、そのピーク、質量ピークまたはデータピークの複合モーメントとから、そのピーク、質量ピークまたはデータピークの飛行時間を求めることが望ましい。
【0102】
連続、複合もしくは連続体スペクトルまたは質量スペクトルが所定の閾値を超えた時を、各ピーク、質量ピークまたはデータピークの開始時間または開始点としてもよい。また、連続、複合もしくは連続体スペクトルまたは質量スペクトルが所定の閾値を下回った時を、各ピーク、質量ピークまたはデータピークの終了時間または終了点としてもよい。
【0103】
あるいは、連続、複合もしくは連続体スペクトルまたは質量スペクトルの二次微分がゼロまたは他の値を下回った時または点を、ピーク、質量ピークまたはデータピークの開始時間または開始点としてもよい。同様に、連続、複合もしくは連続体スペクトルまたは質量スペクトルの二次微分がゼロまたは他の値を超えた時または点を、ピーク、質量ピークまたはデータピークの終了時間または終了点としてもよい。
【0104】
あるピーク、質量ピークまたはデータピークの複合強度を、ピーク、質量ピークまたはデータピークの開始時間または開始点およびピーク、質量ピークまたはデータピークの終了時間または終了点により限定されるすべての質量点またはデータ点の強度の合計から求めるようにしてもよい。
【0105】
質量ピークまたはデータピークの開始時間または開始点および終了時間または終了点により限定されるすべての質量点またはデータ点に関して、各質量またはデータ点の強度を、質量またはデータピークの飛行時間と開始時間もしくは開始点または終了時間もしくは終了点との時間差で乗算した積の合計から、各ピーク、質量ピークまたはデータピークの複合モーメントを求めることが望ましい。
【0106】
あるピーク、質量ピークまたはデータピークの複合モーメントをそのピーク、質量ピークまたはデータピークの複合強度で除算することによりそのピーク、質量ピークまたはデータピークの飛行時間を求め、そのピーク、質量ピークまたはデータピークの時間重心を求めるようにしてもよい。ピーク、質量ピークまたはデータピークの時間重心を、必要に応じて、そのピーク、質量ピークまたはデータピークの開始時間または開始点に加えたり、そのピーク、質量ピークまたはデータピークの終了時間もしくは終了点から引いたりすることが望ましい。ピーク、質量ピークまたはデータピークの飛行時間を、デジタル処理時間間隔の精度や各ピーク、質量ピークまたはデータピークの精度よりも高い精度で算出するようにしてもよい。
【0107】
ピーク、質量ピークまたはデータピークの飛行時間と対応する強度値とのセットを、質量または質量対電荷比値と対応する強度値とのセットに変換するようにしてもよい。当該技術分野で周知のように、キャリブレーション(較正)によって得られた関係を用いたデータ変換を行なうことにより、飛行時間データを質量または質量対電荷比データに変換するようにしてもよい。
【0108】
以下、本発明のさまざまな実施形態を、例示を目的とした他の構成と共に、ほんの一例として、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】MALDIイオン源を用いてサンプルをイオン化し、直交加速飛行時間型質量分析器で得られたイオンを解析することにより得られたポリエチレングリコールの未加工・未処理の複合質量スペクトルの一部を示す図。
【図2】一回の実験により得られたスペクトルであって、他のスペクトルと合計することにより図1に示す複合質量スペクトルを得た元となるスペクトルを示す図。
【図3】図2に示すスペクトルを質量対電荷比強度とのデータ対が得られるように加工した後の様子を示す図。
【図4】加工後の48個の異なる飛行時間質量スペクトルを合計または組み合わせた結果を示す図。
【図5】ボックスカー積分器アルゴリズムを用いて図4に示すデータ対を積分して得られた連続質量スペクトルを示す図。
【図6】図5に示す連続質量スペクトルの二次微分を示す図。
【図7】図5に示す連続質量スペクトルを離散質量スペクトルに変換することにより、図4に示すデータから得られた質量ピークを示す図。
【図8】好適な実施例において、時間と強度値とを、隣接するタイムビンに加算される2つの強度値に変換する方法を示す図。
【図9】振幅閾値を質量スペクトルデータに適用して、振幅閾値を超える振幅を持つピークのみを検出する従来の検出器システムを示すフロー図。
【図10】質量スペクトルデータに適用される従来の振幅閾値を示す図。
【図11】質量スペクトルデータに低振幅閾値を適用する本発明の実施例を示す図。
【図12】質量スペクトルデータに面積閾値を適用して、イオンピークとノイズピークとを識別する本発明の好適な実施例を示す図。
【図13】質量スペクトルに低振幅閾値を適用してピークを検出し、比較的大きな面積のイオンピークには影響を与えない一方で、比較的小さな面積のノイズピークを除去する本発明の好適な実施例における検出器システムを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0110】
本発明の一実施形態において、望ましくは、従来の時間・デジタル変換器ではなく、アナログ・デジタル変換器を内蔵した検出器システムを備える飛行時間型質量分析器を用いる。飛行時間型質量分析器によりイオンの質量分析を行ない、イオン検出器で検出することが望ましい。イオン検出器は、マイクロチャンネルプレート(MCP)電子増倍管アセンブリを備えることが望ましい。マイクロチャンネルプレート型イオン検出器から出力される電子パルスに応じて電圧パルスまたは信号を生成する電流・電圧変換器または増幅器を用いることが望ましい。イオン検出器への1つのイオンの到達に応じて生成される電圧パルスまたは信号は、半値幅が1〜3nsであることが望ましい。
【0111】
飛行時間型質量分析器のイオン検出器に1つ以上のイオンが到達することにより得られる電圧パルスまたは信号を、たとえば、8ビットの過渡現象記録装置またはアナログ・デジタル変換器(ADC)を用いてデジタル処理することが望ましい。過渡現象記録装置またはアナログ・デジタル変換器のサンプリング速度は1GHz以上であることが望ましい。
【0112】
アナログ・デジタル変換器からの各出力数から一定の数または値を減算する信号閾値処理を電圧パルスまたは信号に実施して、アナログ・デジタル変換器のノイズの大部分を除去するようにしてもよい。一定の数または値を減算すると信号が負になる場合には、信号の当該部分をゼロに再設定することが望ましい。
【0113】
電圧ピークの開始時間および終了時間の決定
移動平均やボックスカー積分器アルゴリズム等の平滑化アルゴリズムを、アナログ・デジタル変換器から出力されるスペクトルに適用するようにしてもよい。あるいは、Savitzky-GolayアルゴリズムやHites-Biemannアルゴリズムまたはその他の種類の平滑化アルゴリズムをデータに適用するようにしてもよい。たとえば、3つのデジタル処理間隔のウィンドウを用いる移動平均の1回のパスは以下のように規定される。
【数1】

ここで、m(i)は、アナログ・デジタル変換器のタイムビンi内に記録されたビット単位の強度値を示し、s(i)は、平滑化処理の結果を示す。
【0114】
平滑化アルゴリズムを複数パス行なってデータを平滑化するようにしてもよい。
【0115】
飛行時間ADC生データを平滑化した後、平滑化したデータの二次微分または二次差分を取得または決定して、イオン到達イベントまたはピークの存在を検出するようにしてもよい。
【0116】
二次微分のゼロ交差点を求め、これを用いて、測定された各電圧ピークまたはイオン信号ピークの開始点および終了点を示すまたは求めることが望ましい。このようなピークの位置決め手法は、飛行時間スペクトル全体でノイズレベルが一定ではない場合や個々の飛行時間スペクトル間でノイズレベルが変動する場合に、特に好適である。
【0117】
3つのデジタル処理間隔の移動ウィンドウを用いた単純差分計算により、以下の式で示すようなデジタル信号D1(i)の一次微分が得られる。
【数2】

ここで、s(i)は、タイムビンiに対する平滑化処理の結果を示す。
【0118】
3つのデジタル処理間隔の移動ウィンドウを用いた差分計算を繰り返すことが望ましい。これにより、以下の式で示すような一次微分D1(i)の二次微分D2(i)が得られる。
【数3】

【0119】
したがって、二次微分を以下の式で表すことができる。
【数4】

【0120】
異なる幅の移動ウィンドウを用いて、この差分計算を行なうようにしてもよい。電圧パルスの半値幅に対して差分ウィンドウの幅が33%〜100%であることが望ましく、約67%がさらに望ましい。
【0121】
二次微分D2(i)を積分して、測定された電圧ピークの開始時間と終了時間とを位置決めまたは決定することが望ましい。二次微分がゼロを下回った直後のデジタル処理間隔を電圧ピークの開始時間t1としてもよい。また、二次微分がゼロを上回る直前のデジタル処理間隔を電圧ピークの終了時間t2としてもよい。あるいは、二次微分がゼロを下回る直前のデジタル処理間隔を電圧ピークの開始時間t1として、二次微分がゼロを上回った直後のデジタル処理間隔を電圧ピークの終了時間t2としてもよい。
【0122】
電圧ピーク開始時間t1を、アナログ・デジタル変換器の出力値m(i)が閾値レベルを超えたデジタル処理時間から誘導するようにしてもよい。同様に、電圧ピーク終了時間t2を、アナログ・デジタル変換器の出力値m(i)が閾値レベルを下回ったデジタル処理時間から誘導するようにしてもよい。
【0123】
各電圧ピークの強度とモーメントの決定
電圧ピークまたはイオン信号ピークの開始時間および終了時間を求めたのち、開始時間と終了時間とにより限定される電圧ピークまたはイオン信号ピークの強度およびモーメントを求めることが望ましい。
【0124】
電圧またはイオン信号のピーク強度は、望ましくは、ピークまたは信号の面積に対応し、以下の式で表される。
【数5】

ここで、Iは求められた電圧ピーク強度を示し、miはアナログ・デジタル変換器のタイムビンi内に記録されたビット単位の強度値であり、t1は電圧ピークの開始に対応するアナログ・デジタル変換器デジタル処理タイムビンの数を示し、t2は電圧ピークの終了に対応するアナログ・デジタル変換器デジタル処理タイムビンの数を示す。
【0125】
電圧ピークの開始に関するモーメントM1は、望ましくは、以下の式で表される。
【数6】

【0126】
電圧ピークの終了に関するモーメントM2は、望ましくは、以下の式で表される。
【数7】

ここで、σtは以下のように定義される。
【数8】

【0127】
ピークの終了に関するモーメントM2の計算に着目すると、以下の式を用いた計算も可能である。
【数9】

【0128】
この後者の式は、非常に高速の計算式であり、以下の形に書き換えることができる。
【数10】

ここで、Iiは式5により各段階で算出された強度を示す。
【0129】
強度の算出と同様に、モーメントも算出できる。強度を算出する際の各段階における現在強度を総計することによりモーメントを求めることが望ましい。
【0130】
一実施形態において、このような計算を、大規模なデータアレイの計算を原則として並列して実行可能なフィールド・プログラマブル・ゲートアレイ(FPGA)を用いて非常に高速で行うようにしてもよい。
【0131】
算出した強度値およびモーメント値と、電圧ピークまたはイオン信号の開始時間および/または終了時間に対応するタイムビンの数とを、以降の処理のために記録することが望ましい。
【0132】
各電圧ピークに関する飛行時間重心値の決定
電圧ピークのモーメントを電圧ピークの面積または強度で除算することにより、電圧ピークの開始に関するピークの重心時間C1を計算することができる。
【数11】

【0133】
電圧ピークの開始として記録されたタイムビンがt1であれば、電圧ピークに関する代表時間または平均時間tは以下の式で与えられる。
【数12】

【0134】
一方、電圧ピークの終了に関するピークの重心時間C2を以下の式で計算することができる。
【数13】

【0135】
電圧ピークの終了として記録されたタイムビンがt2であれば、電圧ピークに関する代表時間または平均時間tは以下の式で与えられる。
【数14】

【0136】
算出された値tの精度は、式11および式13の除算の精度によって決まる。除算は、一連の工程での他の計算に比べれば比較的遅いため、必要な精度が高ければ高いほど、計算にかかる時間が長くなる。
【0137】
一実施形態において、スペクトル内の各電圧ピークの開始および終了時間t1、t2と、対応する強度値Iと、算出されたモーメントM1またはM2を記録することが望ましい。対応するイオン到達時間tを、オフラインで計算するようにしてもよい。このアプローチにより、必要とされる精度に応じて、イオン到達時間tを計算することができる。あるいは、t値をリアルタイムで計算するようにしてもよい。
【0138】
好適な実施形態において、各イオン信号の到達時間および面積を2つの異なる到達時間および対応する面積に変換する。2つの到達時間を、スペクトルを分割する所定の時間間隔に応じたメモリーロケーション・アレイ内の2つの隣接する位置に格納することが望ましい。2つの面積が格納される2つの位置は、最初に求められた到達時間の直前および直後の所定時間を有する位置であることが望ましい。これらの2つの位置の各々に格納された面積値は、以下の条件を満たすように計算することが望ましい。(i)2つの面積の合計が最初に求められた面積または強度と等しい。(ii)2対の時間位置と面積とから計算できる加重平均到達時間は、最初に求められた値と同じである。
【0139】
2つの面積の計算を図8に示す。メモリロケーション・アレイは、・・・T(n-1)、T(n)、T(n+1)、T(n+2)・・・に対応する所定の割当時間または中心時間を有する。
【0140】
イオンイベントが検出され、その時間重心がTo、面積または強度がSoであり、T(n)<To<T(n+1)であると仮定する。好適な実施形態において、2つの新しい面積S(n)およびS(n+1)を算出して、割当時間T(n)およびT(n+1)を有する時間位置またはタイムビンに加えることが望ましい。
ここで、以下の式が成り立つ。
【数15】

この結果、以下のように書き換えられる。
【数16】

【0141】
好適な実施形態において、元データの精度を維持することが望ましい。
【0142】
イオン到達時間と対応する強度値のメモリロケーション・アレイへの格納
イオン検出器に到達したイオンの数に応じて、1つの飛行時間スペクトルに複数の電圧ピークが存在する場合もある。この場合には、各電圧ピークを解析して、時間および対応する強度値に変換することが望ましい。各電圧ピークの時間および強度値を、時間および対応する面積値のデータ対に変換することが望ましい。これらの値を、メモリロケーション・アレイの隣接するまたは近傍の要素内に格納することが望ましい。メモリロケーション・アレイは、飛行時間スペクトルの所定の時間間隔または区分に対応または相関することが望ましい。たとえば、飛行時間スペクトルの持続時間が100μsであり、スペクトルを500,000個の等しい時間間隔のアレイに分割するようにしてもよい。この場合、各時間間隔または区分の幅または持続時間が、200psになる。
【0143】
複合時間および強度データのさらなる処理
以降の飛行時間スペクトルも、上述と同様の方法で取得し、処理することが望ましい。すなわち、スペクトルを解析して、イオン到達イベントに対応する時間および強度値を求めることが望ましい。さらに、各時間および強度値を隣接するタイムビンを占有する強度値対に変換することによって、時間および強度値のヒストグラムを形成することが望ましい。
【0144】
一実施形態において、時間および強度値のヒストグラムをさらに処理し、データに平滑化関数を適用して、連続スペクトルを得るようにしてもよい。平滑化したデータに対して、上述と同様の方法で、ピーク検出とピーク重心計算とを行なうことが望ましい。このようにして、連続スペクトルの二次微分または二次差分が得られ、ピークの開始時間と終了時間とが求められる。各ピークの強度と時間重心とを求めることが望ましい。平滑化処理と二重差分算出に用いられる幅と増分は、ADCのデジタル処理速度と無関係なものでもよい。
【0145】
好適な実施形態において、複数のスペクトルから得られる強度値と飛行時間値を1つのヒストグラムに統合することが望ましい。複合データセットを、たとえば、移動平均またはボックスカー積分器アルゴリズムを用いて、さらに処理することが望ましい。移動ウィンドウは、時間幅がW(t)で、ウィンドウをステッピングする時間増分がS(t)であることが望ましい。W(t)およびS(t)に、互いに完全に独立で、かつ、アナログ・デジタル変換器のデジタル処理間隔とも無関係な値を割り当てるようにしてもよい。W(t)およびS(t)は、一定の値でもよいし、時間の可変関数でもよい。
【0146】
好適な実施形態において、ピークまたは質量ピークの半値幅に対する積分ウィンドウW(t)の幅が33〜100%であることが望ましく、約67%であることがさらに望ましい。質量ピーク全体に対するステップ数が少なくとも4個、より望ましくは8個、さらに望ましくは16個以上となるようなステップ間隔S(t)が望ましい。
【0147】
各ウィンドウ内の強度データを合計し、合計を算出したステップに対応する時間間隔と共に各強度合計を記録することが望ましい。
【0148】
時間T(n)におけるステップ間隔S(t)のステップ数がnの場合、1つの移動平均またはボックスカー積分器アルゴリズムの第1パスの合計G(n)は以下の式で与えられる。
【数17】

ここで、T(n)は、ステップ間隔S(t)のnステップ後の時間を示し、I(t)は平均または代表飛行時間tと共に記録された電圧ピークの強度を示し、W(T)は時間T(n)における積分ウィンドウの幅を示し、G(n)は時間T(n)を中心とした積分ウィンドウW(T)内の飛行時間におけるすべての電圧ピーク強度の合計を示す。
【0149】
一実施形態において、一つのデータに対して積分アルゴリズムを複数パス行なうようにしてもよい。これにより、平滑な連続複合データセットが得られる。得られた連続複合データセットまたは連続質量スペクトルをさらに解析するようにしてもよい。
【0150】
複合連続スペクトルまたは質量スペクトルの解析
データから計算したピーク重心時間および強度を格納し、すべての取得したデータに関する複合スペクトルを得ることが望ましい。
【0151】
この方法では、個々の測定値の精度を維持すると共に、データ量を圧縮して、処理負荷を低減することが望ましい。
【0152】
好適な実施形態において、強度と対応する飛行時間のヒストグラムを、質量または質量対電荷比値と強度値とを含む質量スペクトルデータに変換して、質量スペクトルを生成することが望ましい。
【0153】
好適な実施形態において、平滑な連続複合データセットまたは連続質量スペクトルの二次微分または二次差分を求めることが望ましい。
【0154】
連続スペクトルまたは質量スペクトルの二次微分のゼロ交差点を求めることが望ましい。二次微分のゼロ交差点は、複合連続データセットまたは質量スペクトルの質量ピークの開始時間と終了時間とを示す。
【0155】
二回連続して差分計算を行なうことにより、一次微分および二次微分を求めることができる。たとえば、3ステップ間隔の移動ウィンドウを用いた差分計算により、以下の式で表される連続データGの一次微分H1(n)が得られる。
【数18】

ここで、G(n)はステップnにおける積分アルゴリズムの1つ以上のパスの最終的な合計を示す。
【0156】
3つのデジタル処理間隔の移動ウィンドウを用いてこの単純差分計算を繰り返すことにより、以下の式で表される一次微分H1(n)の二次微分H2(n)を生成することができる。
【数19】

【0157】
2つの差分計算を組み合わせたものを以下の式で表すことができる。
【数20】

【0158】
このような差分計算を、異なる幅の移動ウィンドウを用いて実行するようにしてもよい。質量ピークの半値幅に対する差分ウィンドウの幅は、望ましくは33〜100%であり、さらに望ましくは約67%である。
【0159】
二次微分H2(n)を用いて、連続スペクトルまたは質量スペクトルに見られるピークまたは質量ピークの開始時間と終了時間とを位置決めすることが望ましい。ピークまたは質量ピークの開始時間T1は、望ましくは、二次微分がゼロを下回った後のステップ間隔である。また、ピークまたは質量ピークの終了時間T2は、望ましくは、二次微分がゼロを超える前のステップ間隔である。あるいは、ピークまたは質量ピークの開始時間T1を二次微分がゼロを下回る前のステップ間隔として、ピークまたは質量ピークの終了時間T2を二次微分がゼロを超えた後のステップ間隔としてもよい。
【0160】
別の実施形態において、ピークまたは質量ピークの開始時間T1を二次微分がゼロを下回る前後のステップ間隔から補間するようにしてもよい。また、ピークまたは質量ピークの終了時間T2を二次微分がゼロを超える前後のステップ間隔から補間するようにしてもよい。
【0161】
また別の実施形態において、ピークまたは質量ピーク開始時間T1とピークまたは質量ピーク終了時間T2とを、積分処理出力値Gが閾値レベルを超えたステップ時間とその後閾値レベルを下回ったステップ時間とから求めることもできる。
【0162】
ピークまたは質量ピークの開始時間および終了時間を求めた後、限定領域内のピークまたは質量ピークの強度およびモーメントに対応する値を求めることが望ましい。ピークまたは質量ピーク開始時間とピークまたは質量ピーク終了時間とにより限定されるピークまたは質量ピークの強度と飛行時間とから、ピークまたは質量ピークの強度およびモーメントを求めることが望ましい。
【0163】
ピークまたは質量ピークの強度は、ピークまたは質量ピークの開始時間とピークまたは質量ピークの終了時間とによって限定された強度値の合計に対応し、以下の式で表される。
【数21】

ここで、Aはピークまたは質量ピークの強度を示し、Itは飛行時間tにおけるピークまたは質量ピークの強度を示し、T1はピークまたは質量ピークの開始時間を示し、T2はピークまたは質量ピークの終了時間を示す。
【0164】
ピークまたは質量ピークの開始時間とピークまたは質量ピークの終了時間とによって限定されたすべてのピークまたは質量ピークのモーメントの合計から、各ピークまたは質量ピークのモーメントを求めることが望ましい。
【0165】
ピークの開始に関するピークまたは質量ピークのモーメントB1は、望ましくは、ピークまたは質量ピークの開始時間に関する各ピークまたは質量ピークの強度と時間差とから求められ、以下の式で表される。
【数22】

【0166】
ピークまたは質量ピークの終了時間に関するモーメントB2は、以下の式で表される。
【数23】

【0167】
ピークまたは質量ピーク開始時間に関するモーメントB1の計算の逆計算でピークまたは質量ピーク終了時間に関するモーメントB2を計算しても特段の効果は得られない。
【0168】
ピークまたは質量ピークに関する代表時間または平均時間Tpkは以下の式で与えられる。
【数24】

【0169】
Tpkの計算値の精度は、式24の除算の精度によって決まり、必要とされる精度に応じて計算することができる。
【0170】
飛行時間データの質量スペクトルデータへの変換
各ピークまたは質量ピークに関するTpk値およびA値をコンピュータメモリ内にリスト形式で格納することが望ましい。このピークまたは質量ピークのリストは、キャリブレーション(較正)により得られる飛行時間と質量との関係と、ピークまたは質量ピークの飛行時間とを用いて、質量または質量対電荷比を割り当てるものでもよい。このようなキャリブレーションの方法は当該分野で周知である。
【0171】
飛行時間型質量分析計における最も単純な形の時間−質量関係は以下の式で与えられる。
【数25】

ここで、t*は飛行時間のオフセットに相当する装置パラメータを示し、kは定数、またMは時間tにおける質量対電荷比を示す。
【0172】
さらに複雑なキャリブレーションアルゴリズムを用いてデータを処理するようにしてもよい。たとえば、GB-2401721(マイクロマス社)またはGB-2405991(マイクロマス社)に開示されるキャリブレーション手法を用いることもできる。
【0173】
飛行時間データを最初に質量スペクトルデータに変換する他の実施形態
他の実施形態において、上述した式25の時間−質量関係を用いて、各電圧ピークに関する飛行時間値を最初に質量または質量対電荷比値に変換するようにしてもよい。質量または質量対電荷比および対応する強度値を、質量スペクトルの所定の間隔または区分に望ましくは対応または相関するメモリロケーション・アレイに格納することが望ましい。
【0174】
上述した時間および強度値を隣接するタイムビンにおける2つの面積に変換する方法に変更を加えて、質量または質量対電荷比値を隣接する質量または質量対電荷比ビンにおける2つの面積に変換することが望ましい。時間と強度値のヒストグラムの場合には処理の最終段階で質量スペクトルに変換するのに対して、この場合には、単一の複合質量スペクトルまたはヒストグラムが初期段階で形成される。
【0175】
積分ウィンドウW(m)および/またはステップ間隔S(m)をそれぞれ一定の値に設定してもよいし、質量関数としてもよい。たとえば、各質量スペクトルピークに対して実質的に一定のステップ数を与えるようなステップ間隔関数S(m)を設定してもよい。
【0176】
本実施形態の方法は、周知の方法と比べていくつかの利点がある。信号の最大値または頂点を単純に測定する従来の方法と比較して、測定の精度や確度を向上させることができる。これは、単に頂点における測定または頂点に対する局所的測定を行なう従来の方法とは異なり、本実施形態の方法では、測定により記録した信号のほぼ全体を用いることに起因する。また、本実施形態の方法は、2つ以上のイオンがほぼ同じ時間に到達したことによりイオン信号が非対称になった場合に、平均到達時間を正確に表すことができる。これに対して、信号の最大値を測定する方法では、これらの信号の平均到達時間や相対強度を反映させることができない。
【0177】
アナログ・デジタル変換器のデジタル処理速度に基づく元々の精度よりも高い精度で、検出された各イオン信号に関する時間値tを計算することができる。たとえば、半値幅2.5nsの電圧ピークの場合、アナログ・デジタル変換器のデジタル処理速度は2GHzであるのに対して、飛行時間の計算精度は通常±125ps以上である。
【0178】
この実施形態において、時間データを最初に質量または質量対電荷比に変換することが望ましい。その後、結合アルゴリズムを質量または質量対電荷比データ上で実行することが望ましい。
【0179】
この実施形態において、各イオン信号に関して算出した到達時間を最初に2乗することが望ましい。これにより、イオン到達に関する値を、イオンの質量または質量対電荷比に直接関連付けることができる。質量または質量対電荷比値に所定の係数を掛けて、質量または質量対電荷比を公称質量に変換するようにしてもよい。
【0180】
各イオン信号に関して算出した質量または質量対電荷比値および面積(すなわち、強度)を、スペクトルを望ましくは分割する所定の質量または質量対電荷比間隔に対応するメモリロケーション・アレイの1つに格納することが望ましい。たとえば、質量または質量対電荷比値と対応する面積とを1/256質量ユニットの間隔のアレイに格納するようにしてもよい。
【0181】
上述した処理を繰り返して、必要な数の飛行時間スペクトルを取得し、質量または質量対電荷比値と対応する強度値の最終的な複合ヒストグラムを生成することが望ましい。
【0182】
平滑化関数を用いて複合質量または質量対電荷比データをさらに処理し、連続質量スペクトルを得るようにしてもよい。ピーク検出とピーク重心計算とを、上述したような方法で、連続質量スペクトルに基づいて行なうことが望ましい。検出・測定されたピークが個々の質量ピークに対応することが望ましい。平滑化および二重差分計算で用いた幅と増分は、質量または質量対電荷比の単位であることが望ましく、また、ADCのデジタル処理速度と無関係であることが望ましい。
【0183】
ピーク重心質量または質量対電荷比および対応する質量ピークの強度を格納し、すべての取得データに対する複合スペクトルを形成することが望ましい。
【0184】
この実施形態において、最初の検出後に直接、各イオン到達時間を質量または質量対電荷比に変換する。
【0185】
バックグラウンドピークの減算
一実施形態において、同じ時間または質量間隔、区分またはメモリアレイ要素内の時間または質量データを結合する処理を、最大3つのスキャン範囲とバックグラウンド係数とを用いて行うようにしてもよい。最初の範囲(Average:平均)は、平均化して対象化合物に関する代表スペクトルを形成するクロマトグラムのピークトップ全体にわたるスキャンの範囲を規定する。
【0186】
2つの他の範囲(Subtract:減算)の各々1つを用いて、ピークの両側におけるクロマトグラムのバックグラウンドスキャンの範囲を規定する。これらのスキャンを平均して、代表バックグラウンドスペクトルを形成することが望ましい。
【0187】
バックグラウンドスペクトル強度にバックグラウンド係数(X)を掛けた後に、平均したピークトップスペクトルから引いて、結合スペクトルを形成するようにしてもよい。
【0188】
この場合、結合処理を3段階で行なうことが望ましい。第1段階で、質量スケールを分割して、Average範囲とSubtract範囲のスペクトルを別々に統合して、統合Average スペクトルと統合Subtractスペクトルとを形成する。第2段階で、減算を実行し、統合スペクトルを形成する。第3段階で質量スケールを再形成する。
【0189】
第1段階および第3段階で、ピーク質量および強度を以下の式に基づいて算出することが望ましい。
【数26】

ここで、MassCurrは、現在の調整質量を示し、MassNewは新しい質量を示し、IntCurrは現在の調整強度を示し、IntNewは新しい強度を示す。
【0190】
第1段階において、たとえば、公称質量を中心とした0.0625amu(原子質量単位)幅の質量ウィンドウに質量範囲を分割してもよい。この場合、以下の境界を用いて、41.00から42.00の質量範囲を分割できる。
40.96875 41.21875 41.46875 41.71875 41.96875
41.03125 41.28125 41.53125 41.78125 42.03125
41.09375 41.34375 41.59375 41.84375
41.15625 41.40625 41.65625 41.90625
【0191】
Average範囲におけるすべてのスキャンを順に用いて、各ピーク質量をこれらの質量ウィンドウの1つに割り当てることが望ましい。特定の質量ウィンドウにピークまたは統合ピークが存在する場合、そのピークは、現在の値(MassCurrおよびIntCurr)に統合される質量(MassNew)および強度(IntNew)を有し、新しい現在値が形成される。
【0192】
たとえば、44.5791の質量と1671の強度のピークを現在質量44.5635と現在強度1556とを有するデータを含む質量ウィンドウに加えると、以下の式で示す統合が開始される。
【数27】

【0193】
Average範囲のすべてのスキャンのすべてのピークを処理した後、各ウィンドウの強度(IntCurr)をAverage範囲のスキャンの総数で割って、統合Averageスペクトルを形成することが望ましい。
【0194】
次に、Subtract範囲のすべてのスキャンを用いて、同様の処理を実行する。得られた強度をSubtract範囲のスキャンの総数で割ることが望ましい。2つのSubtract範囲がある場合には、両方の範囲のスキャン総数で、得られた強度を割ることが望ましい。
【0195】
すべての強度値に拡大係数(X)を掛けて、統合Subtractスペクトルを形成することが望ましい。
【0196】
本発明の実施形態
本発明の好適な態様では、ADCデジタル処理間隔またはADCデジタル処理間隔の単分数に基づく精度よりも実質的に高い精度で、電圧ピーク時間を格納することができる。
【0197】
一実施形態において、各質量スペクトルピーク(イオン到達エンベロープ)全体にわたってステップ間隔の数がほぼ一定になるようなスペクトルを得られるように、データを処理するようにしてもよい。一定のデジタル処理間隔を用いて記録された飛行時間スペクトルに関して、あるいは、一定のビン幅でヒストグラム形成手法を用いて多くの飛行時間スペクトルから形成された飛行時間スペクトルに関して、質量ピーク(イオン到達エンベロープ)当たりのポイント数は、質量と共に増大する。この影響により、処理が複雑になり、格納するべきデータ量が不要に増大する結果となる。本実施形態においては、ステップ間隔の選択に関して制限がなく、各質量ピーク全体にわたって一定のステップ数となるようにステップ間隔関数を設定することができる。
【0198】
以下にこのようなステップ間隔関数の解析例を示す。低質量対電荷比値は別として、直交加速飛行時間型質量分析計の分解能Rは質量対電荷比に対してほぼ一定である。
【数28】

ここで、Rは質量分解能を示し、tは質量ピークの飛行時間を示し、Δtは質量ピークを形成するイオン到達エンベロープの幅を示す。
【0199】
ここで、分解能をほぼ一定とすると、ピーク幅は飛行時間tに比例する。
【数29】

【0200】
したがって、質量ピーク全体にわたってほぼ一定のステップ数を得るためには、飛行時間tにほぼ比例してステップ間隔S(t)を増大させる必要がある。
【0201】
分解能と質量との間の関係がもっと複雑な質量分析計の場合には、ステップ間隔S(t)と飛行時間tに関するもっと複雑な関数を用いることが望ましいと考えられる。
【0202】
本発明の実施例の態様を図1〜8を参照して説明する。
【0203】
図1にポリエチレングリコールサンプルの質量分析により得られた質量スペクトルの一部を示す。マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)イオン源を用いてサンプルをイオン化し、直交加速飛行時間型質量分析器を用いて質量スペクトルを得た。図1に示す質量スペクトルは、48回レーザーを照射した、すなわち、48回の異なる捕捉を行なったことにより得られた48個の異なる飛行時間スペクトルを結合または合計したものである。2GHzの8ビットアナログ・デジタル変換器を用いて、スペクトルを取得または記録した。
【0204】
図2に、図1に示したものと同じ質量対電荷比の範囲における1つのスペクトルを示す。イオン検出器に到達する個々のイオンにより、信号が生じる。
【0205】
図3に、7つの時間デジタル処理ポイントを有する平滑化ウィンドウを用いた移動平均平滑化関数(式1)のパスを2回行なって、図2に示す1つのスペクトルを処理した結果を示す。平滑化した信号を3点移動ウィンドウ差分計算(式4)を用いて二回微分した。スペクトル内の対象信号の開始点および終了点として、二次微分のゼロ交差点を求めた。各信号の重心を式13を用いて求めた。検出した各信号の強度から式14を用いて求めた時間を記録した。処理により得られた質量スペクトルデータを、強度−時間対の形で図3に示す。各イオン到達に関する重心計算の精度は、アナログ・デジタル変換器の個々の時間間隔に基づく精度よりも高かった。
【0206】
図4に、図3を参照して上述した方法で各々予め処理した48個の異なるスペクトルを結合した結果を示す。強度−時間対からなる48個の処理済みデータセットを結合して、複数の強度−時間対からなる複合データ対を形成した。
【0207】
図4に示す複合データセットを取得した後、たとえば、ボックスカー積分器アルゴリズムのパスを2回行なって、複合データセットを積分することが望ましい。一実施例において、積分アルゴリズムは、幅が615psでステップ間隔が246nsであってもよい。積分されて平滑化されたデータセットまたは連続質量スペクトルを図5に示す。図1に示す生のアナログ・デジタル変換器データまたは質量スペクトルと比較して、質量分解能およびスペクトル内のSN比(信号対ノイズ比)が大きく向上したことがわかる。
【0208】
図6に、図5に示す連続質量スペクトルの二次微分を示す。1.23nsの移動ウィンドウを用いて二次微分を導いた。二次微分のゼロ交差点を用いて、連続質量スペクトル内に見られる質量ピークの開始点と終了点とを求めた。
【0209】
図7に、好適な実施例において表示される質量対電荷比と対応する強度値とを示す。図4に示す48個のスペクトルを統合して連続質量スペクトルを形成した後、連続質量スペクトルを離散質量スペクトルに変換した。式24を用いて各質量ピークの飛行時間を求め、式21を用いて各質量ピークの強度を求めた。
【0210】
図1〜7に示すスペクトルすべてに関して、単純なキャリブレーション(較正)手法により得られた時間−質量関係を用いて、時間軸を質量対電荷比軸に変換した。図示した質量におけるADCデジタル処理間隔0.5nsは、質量0.065ダルトンにほぼ相当する。
【0211】
好適な実施例において、飛行時間検出器(二次電子増倍管)が、マイクロチャンネルプレート、光電子増倍管または電子増倍管またはこれらの種類の検出器の組み合わせを備えるものでもよい。
【0212】
ADCのデジタル処理速度は均一でもよいし、不均一でもよい。
【0213】
本発明の一実施例において、複数の電圧ピークに関して計算した強度Iおよび飛行時間tを1つの代表ピークに統合するようにしてもい。スペクトルに含まれる電圧ピークの数が多い、および/または、スペクトルの数が多い場合には、電圧ピークの総数が非常に多くなる可能性がある。したがって、このようにデータを統合することにより、記憶容量および以降の処理時間を抑制することができる。
【0214】
単一の代表ピークは、データの一貫性を低下させることなく、スペクトルまたは質量スペクトルの分解能が維持されるような十分に狭い時間範囲の成分電圧ピークから構成されるものでもよい。ピークを統合しなければ存在したであろう電圧ピークと実質的に同じ電圧ピークからピークまたは質量ピークが構成されるように、ピークまたは質量ピークの開始時間および終了時間を十分な精度で求めることができる。すべての成分電圧ピークの結合強度と結合加重飛行時間とを正確に表す強度と飛行時間とを、単一の代表ピークが有することが望ましい。データ処理において、電圧ピークの統合が行われたか否かに関わりなく、得られたピークまたは質量ピークの強度と飛行時間が実質的に同じであることが望ましい。
【0215】
図8に、ヒストグラムの隣接する2つのタイムビンに加算される2つの強度値にイオン到達時間と対応する強度値とを変換する方法を示す。好適な実施例において、2つの新しい面積S(n)およびS(n+1)を算出して、T(n)およびT(n+1)の割当時間を有する時間位置またはタイムビンに加えることが望ましい。
ここで、以下の式が成り立つ。
【数30】

この結果、以下のように書き換えられる。
【数31】

好適な実施例において、元データの精度を維持することが望ましい。
【0216】
従来の振幅閾値処理ノイズ除去
図9は、ADCの出力を(ピーク面積閾値処理ではなく)振幅閾値処理する質量スペクトルデータの処理方法を示すフロー図である。周知のアプローチでは、振幅閾値未満の振幅を有するものであれば、イオンピークもスパイクノイズもノイズとして除去される。図10に示すように、従来の振幅閾値処理アプローチには、少なくとも一部のイオンピークがノイズとして除去される一方で、一部のスパイクノイズがイオンピークに対応するものとみなされるという問題点があった。
【0217】
図10に、スパイクノイズの除去を目的として、2つのイオンピーク2、3および2つのスパイクノイズ1、4を含む信号に従来の閾値5を適用した例を示す。従来の振幅閾値処理アプローチでは、小さな振幅のスパイクノイズ1を正しく除去し、大きな振幅のイオンピーク2を正しく検出することができる。しかし、従来の振幅閾値処理アプローチでは、小さな振幅のイオンピーク3が間違って除去される一方で、大きな振幅のスパイクノイズ4がイオンピークと間違って解釈されてしまう。
【0218】
好適な実施例
図11に、本発明の好適な実施例に従うさまざまな態様を示す。好適な実施例において、比較的小さな振幅閾値6を最初にADCからの出力信号に適用するようにしてもよい。この実施例において、2つのスパイクノイズ1、4と2つのイオンピーク2、3とが、平均バックグラウンドノイズレベルのすぐ上の比較的低レベルに設定された振幅閾値をパスする一方で、バックグラウンドノイズの大部分はフィルタリング除去される。
【0219】
好適な実施例において、次に、スパイクノイズ1、4とイオンピーク2、3とに対してピーク検出を行なう。ピーク検出ルーチンの結果、スパイクノイズ1、4とイオンピーク2、3が、時間(または質量もしくは質量対電荷比)およびピーク面積(または強度)を含むデータ対に変換される。これを図12に示す。
【0220】
好適な実施例において、スパイクノイズ1、4とイオンピーク2、3を検出後、スパイクノイズ1、4とイオンピーク2、3の面積を解析して、図12に示すように、ピーク面積閾値7と比較する。好適な実施例において、スパイクノイズ1、4はピーク面積閾値7未満のピーク面積を有するため、スパイクノイズに関連するものとして、システムはスパイクノイズ1、4を正しく除去する。これに対して、イオンピーク2、3は、ピーク面積閾値7より大きなピーク面積を有するため、イオンピークに関するものとして正しく判定される。
【0221】
好適な実施例において、スパイクノイズはイオンピークよりも面積が小さい(強度は小さいとは限らない)という性質に基づいて、スパイクノイズとイオンピークとを識別する。また、装置ノイズは、時間に対して均一に分布する。これに対して、イオンピークは、バックグラウンドノイズレベルに対して非対称の分布を示し、スパイクノイズに対応する面積閾値を超えるピーク面積を有する。
【0222】
図13は、本発明の好適な実施例の態様を示すフロー図である。好適な実施例において、ADCからの出力に比較的低い振幅閾値を適用して、少なくとも一部のバックグラウンドノイズを除去する。イオンピークおよび一部のスパイクノイズは、ADCの出力に適用した比較的低い振幅ノイズ閾値ではフィルタリング除去されない。低い振幅閾値でフィルタリング除去されなかったイオンピークとスパイクノイズに対して、次に、ピーク検出を行ない、これにより時間とピーク面積値の形のデータが生成される。好適な実施例において、所望のまたは所定のピーク面積閾値未満のピーク面積を有するピークに関しては、イオンピークではなくスパイクノイズに関するものであるとして、これを捨てる、減じる、またはフィルタリング除去する。所望の面積閾値処理に残った時間および強度データを、他の時間および強度データと結合または統合して、複合質量スペクトルを形成する。好適な実施例において、質量スペクトルデータを結合する前に面積閾値処理を実行することが重要である。すなわち、プッシュ方式(push-by-push basis)でピーク面積閾値処理を行なうことが重要である。
【0223】
以上、本発明をその好適な実施形態を参照して詳述したが、当業者には自明のことであるが、特許請求の範囲に記載される本発明の要旨を逸脱しない範囲において、形態や詳細において、種々の変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析の方法であって、
イオン検出器から出力された第1の信号をデジタル処理して、第1のデジタル信号を生成する工程と、
前記第1のデジタル信号に含まれる第1のピーク群を検出して、前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの到達時間T0とピーク面積S0とを求め、各々が到達時間値とピーク面積値とを備えるデータ対の第1のリストを作成する工程と、
前記第1のリストから1つ以上のデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てることにより、より小さな第2のリストを作成する工程と、を備え、
前記第1のリストに含まれるデータ対のピーク面積値がピーク面積閾値未満であると判定された場合に、前記第1のリストからそのデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てる、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記1つ以上のデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てる工程の後に、さらに、
前記より小さな第2のリストに含まれるデータ対に関して求められた到達時間値T0を第1の到達時間Tnと第2の到達時間Tn+1とに変換する、および/または、前記より小さな第2のリストに含まれるデータ対に関して求められたピーク面積値S0を第1のピーク面積Snと第2のピーク面積Sn+1とに変換する工程を備える、方法。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の方法であって、
(i)前記第1の信号は、出力信号、電圧信号、イオン信号、イオン電流、電圧パルス、または電子電流パルスを備える、および/または、
(ii)前記イオン検出器は、マイクロチャンネルプレート、光電子増倍管、または電子増倍管装置を備える、および/または、
(iii)前記イオン検出器は、前記イオン検出器に1つ以上のイオンが到達した際に電圧パルスを生成する電流−電圧変換器または増幅器を備える、方法。
【請求項4】
請求項1、2または3のいずれかに記載の方法であって、
さらに、前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの前記到達時間T0を求める前に、かつ、前記ピーク面積S0を求める前に、前記第1のデジタル信号に振幅閾値を適用して、前記第1のデジタル信号から少なくとも一部のスパイクノイズをフィルタリング除去する工程を備える、方法。
【請求項5】
前記いずれかの請求項に記載の方法であって、
さらに、前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの前記到達時間T0を求める前に、かつ、前記ピーク面積S0を求める前に、移動平均、ボックスカー積分器、Savitzky-GolayまたはHites-Biemannアルゴリズムを用いて前記第1のデジタル信号を平滑化する工程を備える、方法。
【請求項6】
前記いずれかの請求項に記載の方法であって、
さらに、前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの前記到達時間T0を求める前に、かつ、前記ピーク面積S0を求める前に、前記第1のデジタル信号の二次微分または二次差分を求めるまたは取得する工程を備える、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、
前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの到達時間T0を求める工程が、前記第1のデジタル信号の前記二次微分の1つ以上のゼロ交差点を求めること、を備える方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
さらに、前記第1のデジタル信号の前記二次微分がゼロまたは他の値を下回る時の直前または直後のデジタル処理間隔に対応するものとして、イオン到達イベントの開始時間T0startを求めるまたは設定する工程と、
前記第1のデジタル信号の前記二次微分がゼロまたは他の値を超える時の直前または直後のデジタル処理間隔に対応するものとして、イオン到達イベントの終了時間T0endを求めるまたは設定する工程と、を備える方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、
さらに、
(i)1つ以上のイオン到達イベントに対応し、前記第1のデジタル信号内に存在する1つ以上のピークのピーク面積を求める工程であって、前記開始時間T0startによりおよび/または前記終了時間T0endにより限定された前記第1のデジタル信号内に存在する1つ以上のピークの面積を求めること、を備える前記第1のデジタル信号内に存在する1つ以上のピークのピーク面積を求める工程、および/または、
(ii)1つ以上のイオン到達イベントに対応し、前記第1のデジタル信号内に存在する1つ以上のピークのモーメントを求める工程であって、前記開始時間T0startによりおよび/または前記終了時間T0endにより限定されたピークのモーメントを求めること、を備える前記1つ以上のイオン到達イベントに対応し、前記第1のデジタル信号内に存在する1つ以上のピークのモーメントを求める工程、および/または、
(iii)1つ以上のイオン到達イベントに対応し、前記第1のデジタル信号内に存在する1つ以上のピークの時間重心を求める工程、および/または、
(iv)1つ以上のイオン到達イベントに対応し、前記第1のデジタル信号内に存在する1つ以上のピークの平均時間または代表時間を求める工程、を備える、方法。
【請求項10】
前記いずれかの請求項に記載の方法であって、
さらに、2つ以上の実質的に近傍のまたは隣接する所定のタイムビンまたはメモリロケーションに前記第1の到達時間Tnと前記第2の到達時間Tn+1とを格納する工程を備える、方法。
【請求項11】
前記いずれかの請求項に記載の方法であって、
(i)前記第1の到達時間Tnは、前記求めた到達時間T0の直前または前記求めた到達時間T0を含むタイムビンまたはメモリロケーションに格納される、および/または、
(ii)前記第2の到達時間Tn+1は、前記求めた到達時間T0の直後または前記求めた到達時間T0を含む所定のタイムビンまたはメモリロケーションに格納される、方法。
【請求項12】
前記いずれかの請求項に記載の方法であって、
さらに、2つ以上の実質的に近傍のまたは隣接する所定のタイムビンまたはメモリロケーションに前記第1のピーク面積Snと前記第2のピーク面積Sn+1とを格納する工程を備える、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、
(i)前記第1のピーク面積Snは、前記求めた到達時間T0の直前または前記求めた到達時間T0を含む所定のタイムビンまたはメモリロケーションに格納される、および/または、
(ii)前記第2のピーク面積Sn+1は、前記求めた到達時間T0の直後または前記求めた到達時間T0を含む所定のタイムビンまたはメモリロケーションに格納される、方法。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれかに記載の方法であって、
所定のタイムビンまたはメモリロケーションは、各々、(i)<1ps、(ii)1−10ps、(iii)10−100ps、(iv)100−200ps、(v) 200−300ps、(vi)300−400ps、(vii)400−500ps、(viii)500−600ps、(ix)600−700ps、(x) 700−800ps、(xi)800−900ps、(xii)900−1000ps、(xiii)1−2ns、(xiv)2−3ns、(xv)3−4 ns、(xvi)4−5ns、(xvii)5−6ns、(xviii)6−7ns、(xix)7−8ns、(xx)8−9ns、(xxi)9−10ns、(xxii)10−100ns、(xxiii)100−500ns、(xxiv)500−1000ns、(xxv)1−10μs、(xxvi)10−100μs、(xxvii)100−500μsおよび(xxviii)>500μsからなる群から選択される範囲内の幅を備える、方法。
【請求項15】
前記いずれかの請求項に記載の方法であって、
(i)前記求めたピーク面積S0は関係式S0=Sn+Sn+1に従う、および/または、
(ii)S0およびT0は、関係式Sn.Tn+Sn+1.Tn+1 =S0.T0に従う、方法。
【請求項16】
前記いずれかの請求項に記載の方法であって、
さらに、より少ない第2のピーク群に含まれるピークの少なくとも一部に関して求めた到達時間T0および求めたピーク面積S0を、前記第1の到達時間Tnと前記第1のピーク面積Snおよび前記第2の到達時間Tn+1と前記第2のピーク面積Sn+1と交換する工程を備える、方法。
【請求項17】
前記いずれかの請求項に記載の方法であって、
さらに、(i)<1μs、(ii)1−10μs、(iii)10−20μs、(iv)20−30μs、(v)30−40μs、(vi)40−50μs、(vii)50−60μs、(viii)60−70μs、(ix)70−80μs、(x)80−90μs、(xi)90−100μs、(xii) 100−110μs、(xiii)110−120μs、(xiv)120−130μs、(xv)130−140μs、(xvi)140−150μs、(xvii)150−160μs、(xviii)160−170μs、(xix)170−180μs、(xx)180−190μs、(xxi)190−200μs、(xxii)200−250μs、(xxiii)250−300μs、(xxiv)300−350μs、(xxv)350−400μs、(xxvi)450−500μs、(xxvii)500−1000μsおよび(xxviii)>1msからなる群から選択される長さの捕捉期間にわたって前記第1の信号を取得する工程と、
(i)< 100、(ii)100−1000、(iii)1000−10000、(iv)10,000−100,000、(v)100,000−200,000、(vi)200,000−300,000、(vii)300,000−400,000、(viii)400,000−500,000、(ix)500,000−600,000、(x)600,000−700,000、(xi)700,000−800,000、(xii)800,000−900,000、(xiii)900,000−1,000,000、および(xiv)>1,000,000からなる群から選択されるn個のタイムビンまたはメモリロケーションに前記捕捉期間を分割する工程と、を備え、
各前記タイムビンまたはメモリロケーションが実質的に同一の長さ、幅または持続時間を有する、方法。
【請求項18】
前記いずれかの請求項に記載の方法であって、
さらに、アナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置を用いて、前記第1の信号をデジタル処理する工程を備える、方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、
(a)前記アナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置は、nビットのアナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置であり、nは5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20または21以上である、および/または、
(b)前記アナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置は、(i)<1GHz、(ii)1−2GHz、(iii)2−3GHz、(iv)3−4GHz、(v)4−5GHz、(vi)5−6GHz、(vii)6−7GHz、(viii)7−8GHz、(ix)8−9GHz、(x)9−10GHz、および(xi)>10GHzからなる群から選択されるサンプリングまたは捕捉速度を有する、および/または、
(c)前記アナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置は、実質的に均一なまたは不均一なデジタル処理速度を有する、方法。
【請求項20】
前記いずれかの請求項に記載の方法であって、
さらに、前記第1のデジタル信号から一定の数または値を減算する工程と、
前記第1のデジタル信号から一定の数または値を減算後に前記第1のデジタル信号の一部がゼロを下回る場合には、前記第1のデジタル信号の一部をゼロに再設定する工程と、を備える方法。
【請求項21】
前記いずれかの請求項に記載の方法であって、
さらに、前記イオン検出器から出力される1つ以上の別の信号をデジタル処理して1つ以上の別のデジタル信号を生成する工程と、
前記1つ以上の別のデジタル信号に含まれる第1のピーク群を検出して、前記1つ以上の別のデジタル信号に対応する前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの到達時間T0とピーク面積S0とを求め、各々が到達時間値とピーク面積値とを備えるデータ対の別の第1のリストを作成する工程と、
前記1つ以上の別のデジタル信号に対応する前記別の第1のリストから1つ以上のデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てることにより、別のより小さな第2のリストを作成する工程と、を備え、
前記別の第1のリストに含まれるデータ対のピーク面積値がピーク面積閾値未満であると判定された場合に、前記1つ以上の別のデジタル信号に対応する前記別の第1のリストからそのデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てる、方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であって、
前記1つ以上の別のデジタル信号に対応する前記別の第1のリストから1つ以上のデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てる工程の後に、さらに、
前記1つ以上の別のデジタル信号に対応する前記別のより小さな第2のリストに含まれるデータ対に関して求められた到達時間値T0を第1の到達時間Tnと第2の到達時間Tn+1とに変換する、および/または、前記1つ以上の別のデジタル信号に対応する前記別のより小さな第2のリストに含まれるデータ対に関して求められたピーク面積値S0を第1のピーク面積Snと第2のピーク面積Sn+1とに変換する工程を備える、方法。
【請求項23】
請求項21または22のいずれかに記載の方法であって、
前記1つ以上の別の信号は、前記イオン検出器から出力される少なくとも5、10、15、20、25、30、35,40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、2000、3000、4000、5000、6000、7000、8000、9000または10000個の信号を含み、各信号が独立した別々の実験または捕捉に対応する、方法。
【請求項24】
請求項22または23のいずれかに記載の方法であって、
さらに、前記第1のデジタル信号に対応する前記第1のピーク面積値Snおよび前記第2のピーク面積値Sn+1と、前記1つ以上の別のデジタル信号に対応する前記第1のピーク面積値Snおよび前記第2のピーク面積値Sn+1とを組み合わせて、または、ヒストグラムに作成して、複合時間スペクトルまたは質量スペクトルを形成する工程を備える、方法。
【請求項25】
装置であって、
イオン検出器から出力された第1の信号をデジタル処理して、第1のデジタル信号を生成するように構成および配置されたデバイスと、
前記第1のデジタル信号に含まれる第1のピーク群を検出して、前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの到達時間T0とピーク面積S0とを求め、各々が到達時間値とピーク面積値とを備えるデータ対の第1のリストを作成するように構成および配置されたデバイスと、
前記第1のリストから1つ以上のデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てることにより、より小さな第2のリストを作成するように構成および配置されたデバイスと、を備え、
前記第1のリストに含まれるデータ対のピーク面積値がピーク面積閾値未満であると判定された場合に、前記第1のリストからそのデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てる、装置。
【請求項26】
請求項25に記載の装置であって、
さらに、前記より小さな第2のリストに含まれるデータ対に関して求められた到達時間値T0を第1の到達時間Tnと第2の到達時間Tn+1とに変換する、および/または、前記より小さな第2のリストに含まれるデータ対に関して求められたピーク面積値S0を第1のピーク面積Snと第2のピーク面積Sn+1とに変換するように構成および配置されたデバイスを備える、装置。
【請求項27】
請求項25または26のいずれかに記載の装置であって、
さらに、前記第1の信号をデジタル処理するアナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置を備える、装置。
【請求項28】
請求項27に記載の装置であって、
(a)前記アナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置は、nビットのアナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置であり、nは5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20または21以上である、および/または、
(b)前記アナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置は、(i)<1GHz、(ii)1−2GHz、(iii)2−3GHz、(iv)3−4GHz、(v)4−5GHz、(vi)5−6GHz、(vii)6−7GHz、(viii)7−8GHz、(ix)8−9GHz、(x)9−10GHz、および(xi)>10GHzからなる群から選択されるサンプリングまたは捕捉速度を有する、および/または、
(c)前記アナログ・デジタル変換器または過渡現象記録装置は、実質的に均一なまたは不均一なデジタル処理速度を有する、装置。
【請求項29】
請求項25〜28のいずれかに記載の装置を備える質量分析計。
【請求項30】
請求項29に記載の質量分析計であって、
さらに、
(a)(i)エレクトロスプレーイオン化(Electrospray ionization: ESI)イオン源、(ii)大気圧光イオン化(Atmospheric Pressure Photo Ionization: APPI)イオン源、(iii)大気圧化学イオン化(Atmospheric Pressure Chemical Ionization: APCI)イオン源、(iv)マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization: MALDI)イオン源、(v)レーザー脱離イオン化(Laser Desorption Ionization: LDI)イオン源、(vi)大気圧イオン化(Atmospheric Pressure Ionization: API)イオン源、(vii)シリコンを用いた脱離イオン化(Desorption Ionization on Silicon: DIOS)イオン源、(viii)電子衝撃(Electron Impact: EI)イオン源、(ix)化学イオン化(Chemical Ionization: CI)イオン源、(x)電界イオン化(Field Ionization: FI)イオン源、(xi)電界脱離(Field Desorption: FD)イオン源、(xii)誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma: ICP)イオン源、(xiii)高速原子衝撃(Fast Atom Bombardment: FAB)イオン源、(xiv)液体二次イオン質量分析(Liquid Secondary Ion Mass Spectrometry: LSIMS)イオン源、(xv)脱離エレクトロスプレーイオン化(Desorption Electrospray Ionization: DESI)イオン源、(xvi)ニッケル−63放射性イオン源、(xvii)大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Atmospheric Pressure Matrix Assisted Laser Desorption Ionization)イオン源、(xviii)サーモスプレーイオン源、(xix)大気サンプリンググロー放電イオン化(Atmospheric Sampling Glow Discharge Ionization: ASGDI)イオン源および(xx)グロー放電(Glow Discharge: GD)イオン源からなる群から選択されるイオン源、および/または、
(b)1つ以上の連続またはパルスイオン源、および/または、
(c)1つ以上のイオンガイド、および/または、
(d)1つ以上のイオン移動度分離装置および/または1つ以上の電界非対称イオン移動度分光計(Field Asymmetric Ion Mobility Spectrometer)、および/または、
(e)1つ以上のイオントラップまたは1つ以上のイオン捕捉領域、および/または、
(f)1つ以上の衝突、フラグメンテーション(断片化)または反応セルであって、(i)衝突誘起解離(Collisional Induced Dissociation: CID)フラグメンテーション装置、(ii)表面誘起解離(Surface Induced Dissociation: SID)フラグメンテーション装置、(iii)電子移動解離(Electron Transfer Dissociation: ETD)フラグメンテーション装置、(iv)電子捕獲解離(Electron Capture Dissociation: ECD)フラグメンテーション装置、(v)電子衝突(Electron Collision)または電子衝撃解離(Electron Impact Dissociation)フラグメンテーション装置、(vi)光誘起解離(Photo Induced Dissociation: PID)フラグメンテーション装置、(vii)レーザー誘起解離(Laser Induced Dissociation)フラグメンテーション装置、(viii)赤外線誘起解離装置、(ix)紫外線誘起解離装置、(x)ノズル・スキマー・インターフェース・フラグメンテーション装置、(xi)インソースフラグメンテーション装置、(xii)インソース衝突誘起解離(Collision Induced Dissociation)フラグメンテーション装置、(xiii)熱源または温度源フラグメンテーション装置、(xiv)電場誘起フラグメンテーション装置、(xv)磁場誘起フラグメンテーション装置、(xvi)酵素消化または酵素分解フラグメンテーション装置、(xvii)イオン−イオン反応フラグメンテーション装置、(xviii)イオン−分子反応フラグメンテーション装置、(xix)イオン−原子反応フラグメンテーション装置、(xx)イオン−準安定イオン反応フラグメンテーション装置、(xxi)イオン−準安定分子反応フラグメンテーション装置、(xxii)イオン−準安定原子反応フラグメンテーション装置、(xxiii)イオンの反応により付加イオンまたはプロダクトイオン(生成イオン)を形成するイオン−イオン反応装置、(xxiv)イオンの反応により付加イオンまたはプロダクトイオンを形成するイオン−分子反応装置、(xxv)イオンの反応により付加イオンまたはプロダクトイオンを形成するイオン−原子反応装置、(xxvi)イオンの反応により付加イオンまたはプロダクトイオンを形成するイオン−準安定イオン反応装置、(xxvii)イオンの反応により付加イオンまたはプロダクトイオンを形成するイオン−準安定分子反応装置、(xxviii)イオンの反応により付加イオンまたはプロダクトイオンを形成するイオン−準安定原子反応装置、および(xxix)電子イオン化解離(Electron Ionization Dissociation: EID)フラグメンテーション装置、からなる群から選択される衝突、フラグメンテーションまたは反応セル、および/または、
(g)(i)四重極質量分析器、(ii)2次元またはリニア四重極質量分析器、(iii)ポール(Paul)トラップ型または3次元四重極質量分析器、(iv)ペニング(Penning)トラップ型質量分析器、(v)イオントラップ型質量分析器、(vi)磁場型質量分析器、(vii)イオンサイクロトロン共鳴(Ion Cyclotron Resonance: ICR)質量分析器(viii)フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance: FTICR)質量分析器、(ix)静電またはオービトラップ型質量分析器、(x)フーリエ変換(Fourier Transform)静電またはオービトラップ型質量分析器、(xi)フーリエ変換(Fourier Transform)質量分析器、(xii)飛行時間型(Time of Flight)質量分析器、(xiii)直交加速飛行時間型(Time of Flight)質量分析器、および(xiv)線形加速飛行時間型(Time of Flight)質量分析器、からなる群から選択される質量分析器、および/または、
(h)1つ以上のエネルギー分析器または静電エネルギー分析器、および/または、
(i)1つ以上のイオン検出器、および/または、
(j)1つ以上のマスフィルタであって、(i)四重極マスフィルタ、(ii)2次元またはリニア四重極イオントラップ、(iii)ポール(Paul)または3次元四重極イオントラップ、(iv)ペニング(Penning)イオントラップ、(v)イオントラップ、(vi)磁気セクタ型マスフィルタ、(vii)飛行時間型(Time of Flight: TOF)マスフィルタ、および(viii)ウィーン(Wien)フィルタ、からなる群から選択される1つ以上のマスフィルタ、および/または、
(k)イオンをパルス状にするデバイスまたはイオンゲート、および/または、
(l)、実質的に連続的なイオンビームをパルスイオンビームに変換するデバイスを備える、質量分析計。
【請求項31】
請求項29または30のいずれかに記載の質量分析計であって、
さらに、
(i)C型トラップと、外側たる形電極および同軸の内側紡錘形電極を備える質量分析器と、を備え、第1の動作モードにおいて、イオンは、前記C型トラップに送られ、次に、前記質量分析器に注入され、第2の動作モードにおいて、イオンは、前記C型トラップに、次に、衝突セルまたは電子移動解離(Electron Transfer Dissociation)装置に送られて、少なくとも一部のイオンがフラグメント(断片)イオンにフラグメント化(断片化)され、前記フラグメントイオンは、前記C型トラップに送られた後、オービトラップ型質量分析器に注入される、および/または、
(ii)使用時にイオンを透過させる開口部を各々有する複数の電極を備える積層リング型イオンガイドを備え、前記電極間の間隔がイオン通路の長さ方向に沿って増大し、前記イオンガイドの上流部分に配置される電極の開口部が第1の直径を有する一方で、前記イオンガイドの下流部分に配置される電極の開口部が前記第1の直径よりも小径の第2の直径を有し、使用時に、連続する電極に、逆相のACまたはRF電圧を印加する、質量分析計。
【請求項32】
質量分析の方法であって、
イオン検出器から出力された第1の信号をデジタル処理して、第1のデジタル信号を生成する工程と、
前記第1のデジタル信号に含まれる第1のピーク群を検出して、前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの到達時間T0または質量もしくは質量対電荷比M0とピーク面積S0とを求め、各々が質量または質量対電荷比値とピーク面積値とを備えるデータ対の第1のリストを作成する工程と、
前記第1のリストから1つ以上のデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てることにより、より小さな第2のリストを作成する工程と、を備え、
前記第1のリストに含まれるデータ対のピーク面積値がピーク面積閾値未満であると判定された場合に、前記第1のリストからそのデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てる、方法。
【請求項33】
請求項32に記載の方法であって、
さらに、前記より小さな第2のリストに含まれるデータ対に関して求められた到達時間T0または質量もしくは質量対電荷比M0を第1の質量または質量対電荷比Mnと第2の質量または質量対電荷比Mn+1とに変換する、および/または、より少ない第2のピーク群に含まれるデータ対に関して求められたピーク面積値S0を第1のピーク面積Snと第2のピーク面積Sn+1とに変換する工程を備える、方法。
【請求項34】
質量分析計であって、
イオン検出器から出力された第1の信号をデジタル処理して、第1のデジタル信号を生成するように構成および配置されたデバイスと、
前記第1のデジタル信号に含まれる第1のピーク群を検出して、前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの到達時間T0または質量もしくは質量対電荷比M0とピーク面積S0とを求め、各々が質量または質量対電荷比値とピーク面積値とを備えるデータ対の第1のリストを作成するように構成および配置されたデバイスと、
前記第1のリストから1つ以上のデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てることにより、より小さな第2のリストを作成するように構成および配置されたデバイスと、を備え、
前記第1のリストに含まれるデータ対のピーク面積値がピーク面積閾値未満であると判定された場合に、前記第1のリストからそのデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てる、質量分析計。
【請求項35】
請求項34に記載の質量分析計であって、
さらに、前記より小さな第2のリストに含まれるデータ対に関して求められた到達時間T0または質量もしくは質量対電荷比M0を第1の質量または質量対電荷比Mnと第2の質量または質量対電荷比Mn+1とに変換する、および/または、より少ない第2のピーク群に含まれるデータ対に関して求められたピーク面積値S0を第1のピーク面積Snと第2のピーク面積Sn+1とに変換するように構成および配置されたデバイスを備える、質量分析計。
【請求項36】
質量分析計の制御システムにより実行可能なコンピュータプログラムであって、
前記制御システムに、
イオン検出器から出力された第1の信号をデジタル処理して、第1のデジタル信号を生成させ、
前記第1のデジタル信号に含まれる第1のピーク群を検出して、前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの到達時間T0とピーク面積S0とを求め、各々が到達時間値とピーク面積値とを備えるデータ対の第1のリストを作成させ、
前記第1のリストから1つ以上のデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てることにより、より小さな第2のリストを作成させ、
前記第1のリストに含まれるデータ対のピーク面積値がピーク面積閾値未満であると判定された場合に、前記第1のリストからそのデータ対をフィルタリング除去させる、減じさせる、または捨てさせる、ように構成されるコンピュータプログラム。
【請求項37】
コンピュータが実行可能な命令が格納されたコンピュータ読み取り可能な媒体であって、
前記命令は、質量分析計の制御システムにより実行可能に構成され、
前記コンピュータプログラムが、前記制御システムに、
イオン検出器から出力された第1の信号をデジタル処理して、第1のデジタル信号を生成させ、
前記第1のデジタル信号に含まれる第1のピーク群を検出して、前記第1のピーク群に含まれる1つ以上のピークの到達時間T0とピーク面積S0とを求め、各々が到達時間値とピーク面積値とを備えるデータ対の第1のリストを作成させ、
前記第1のリストから1つ以上のデータ対をフィルタリング除去する、減じる、または捨てることにより、より小さな第2のリストを作成させ、
前記第1のリストに含まれるデータ対のピーク面積値がピーク面積閾値未満であると判定された場合に、前記第1のリストからそのデータ対をフィルタリング除去させる、減じさせる、または捨てさせる、ように構成される、コンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項38】
請求項37に記載のコンピュータ読み取り可能な媒体であって、
記載のコンピュータ読み取り可能な媒体であって、
(i)ROM、(ii)EAROM、(iii)EPROM、(iv)EEPROM、(v)フラッシュメモリ、(vi)光ディスク、(vii)RAM、および(viii)ハードディスクドライブからなる群から選択される、コンピュータ読み取り可能な媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2012−528317(P2012−528317A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512448(P2012−512448)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【国際出願番号】PCT/GB2010/001052
【国際公開番号】WO2010/136765
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(509314666)マイクロマス・ユーケイ・リミテッド (19)
【氏名又は名称原語表記】MICROMASS UK LIMITED
【Fターム(参考)】