質量スペクトル分析を用いた統計的に確実性のあるポリマー配列決定のための方法および装置
【課題】本発明の視点の1つは質量分析で集められる情報を利用してポリマー類の配列決定を行なうための統合された方法を指向するものであり、この分野にまつわる問題点を実質的に克服する方法の提供。
【解決手段】質量既知の複数のモノマーを含むポリマーに関する配列情報を得るための方法であって、該方法は、a)ポリマーフラグメントの1群を提供するステップであって、該ポリマーフラグメントの各々は、モノマー1つ分以上異なっている、ステップ;
b)少なくとも1対のポリマーフラグメントについてその質量/電荷比の差xを測定するステップ;c)該質量既知の複数のモノマーのうちの1つのモノマーの既知の質量/電荷比に対応する、平均差μを確定するステップと、d)μに対する所望の信頼水準を選定するステップとe)該選定した信頼水準においてxが統計的にμと異なるかどうかを判断するためにxを分析するステップと、を含む、方法。
【解決手段】質量既知の複数のモノマーを含むポリマーに関する配列情報を得るための方法であって、該方法は、a)ポリマーフラグメントの1群を提供するステップであって、該ポリマーフラグメントの各々は、モノマー1つ分以上異なっている、ステップ;
b)少なくとも1対のポリマーフラグメントについてその質量/電荷比の差xを測定するステップ;c)該質量既知の複数のモノマーのうちの1つのモノマーの既知の質量/電荷比に対応する、平均差μを確定するステップと、d)μに対する所望の信頼水準を選定するステップとe)該選定した信頼水準においてxが統計的にμと異なるかどうかを判断するためにxを分析するステップと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、質量スペクトル分析を用いてポリマー類、特にバイオポリマー(生物高分子物質)類の配列を決定するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
生化学者達は、バイオポリマーの配列の信頼性の高いかつ迅速な決定に頼ることが多い。たとえば、配列情報はペプチド・スクリーン、遺伝子プローブ、遺伝子マッピング、および薬剤モデル化の研究および開発、ならびに診断用および/または治療用に製造されるバイオポリマー類の品質管理に極めて重要なものである。
【0003】
アミノ酸、炭水化物およびヌクレオチド類で構成されたポリマー類の配列決定用としては各種の方法が知られている。たとえば、ペプチド配列決定のための既存の方法としては、エドマン分解のN末端化学法、NおよびC末端の酵素的方法、ならびにC末端化学法がある。オリゴヌクレオチド類の配列決定の既存の方法としては、マクサムーギルバート[Maxam−Gilbert]塩基特異性化学開裂法、およびジデオキシ塩基特異性ターミネーション法による酵素的ラダー(段階的)合成法がある。それぞれの方法には固有の限界があるため、それらを専ら完全な一次構造同定のために使用することが妨げられている。今日までのところ、エドマン配列法およびその応用法が特定の蛋白質およびペプチド類の残基ごとの配列決定のために最も広く使用されている道具となっており、一方酵素的合成法はオリゴヌクレオチド類の配列決定に好適とされている。
【0004】
蛋白質およびペプチド配列決定の場合には、化学法によるC末端配列決定は特に難しいとされており、せいぜいほんの少し役に立つ程度である(たとえば、スピース[Spiess],J.(1986)蛋白質特性付け法:実用ハンドブック(シブリー[Shively],J.E.編)、Humana Press、N.J.刊)363−377頁;ツギタ[Tsugita]ら(1994)J.Protein Chemistry、13:476−479参照)。
【0005】
その結果、C末端は信頼性の高い方法がないためにしばしば分析できない領域として残っている。
【0006】
ペプチドおよびオリゴヌクレオチド類の場合はともに、化学配列決定に代わる方法は酵素開裂配列決定法である。オリゴヌクレオチド類の場合、150以上の異なる酵素が単離されており、これらはオリゴヌクレオチド・フラグメントの調製に好適とされている。ペプチド類の場合は、セリンカルボキシペプチダーゼ類が蛋白質またはペプチドのC末端からアミノ酸を残基ごとに順番に開裂させる簡単な方法を提供するものとして過去20年以上にわたり多用されている。
【0007】
カルボキシペプチダーゼY(CPY)は特に、プロリンを含めすベての残基をC末端から非特異的に開裂するということから魅力的な酵素である(たとえば、ブレダム[Breddam]ら、(1987)Carlsburg Res.Commun.52:55−63参照)。
【0008】
カルボキシペプチダーゼ消化によるペプチド類の配列決定は伝統的に、解離されたアミノ酸を残基ごとに手間のかかる直接分析することによって行われてきた。この方法は手間がかかるだけでなく、酵素および蛋白質/ペプチド溶液中のアミノ酸夾雑物や酵素の自己分解によって複雑なものとなる。この種の配列決定作業すべてにおけるさらなる障害は、使用する特定の酵素による個々の残基の加水分解および解離に関する良好な動力学的情報が絶対的に必要とされる点である。
【0009】
フィールド・ディソープション法(ホン[Hong]ら(1983)、Biomed.Mass Spectrom.10:450−457)、エレクトロ・スプレー法(スミス[Smith]ら(1993)4 Techniques Protein Chem.463−470)、およびサーモ・スプレ一法(スタチョイアック[Stachowiak]ら(1988)、J.Am.Chem.Soc.110:1758−1765)など、高質量物質の分析が可能な質量スペクトル分析技術の進歩によって、CPY消化で得られるペプチド・フラグメントなどの配列順序が保存されている大きなバイオポリマー類の直接質量分析を行なうことが可能となり、解離されたアミノ酸を残基ごとにアミノ酸分析をする必要性が回避されることとなった。この“ラダー(段階的)”配列決定方式では、隣接するペプチドピーク間の質量差を計算することにより、配列を正しい順序で導き出すことができる−つまり、測定された差は特定のアミノ酸残基の消失を表すものである。
【0010】
さらに最近では、飛行時間型のマトリックス支援レーザー・ディソープション・イオン化(飛行時間型マトリックス支援レーザー脱離イオン化)(MALDI−TOF:Matrix−Assisted Laser Desorption ionization Time−of−Flight)質量スペクトル分析もまた、高い感度、分解能、および質量精度を有するとして、ラダー配列分析に好適であることが示されている。チャイト[Chait]ら((1993)262 Science 89−92)はこうしたMALDI−TOFの長所を、エドマン分解法による化学消化の各ステップの部分的遮断により形成されるN末端ラダーのラダー配列決定に活用している。この方式もなお、プロセスの複雑さ、時間のかかるプロセスの性質、ならびにC末端情報の欠如といった従来のエドマン化学と同じ限界を抱えている。しかしながら、この方法はペプチドラダー・シナリオを使用したペプチドの配列決定に対するMALDI−TOFの有用性を認めるものである。他の研究者達もまた、得られた短縮によるペプチド混合物を分析するためにペプチドのカルボキシペプチダーゼ消化をMALDI−TOFと組み合わすことができることを示している。たとえば、ヒト副甲状腺ホルモンの1−34フラグメントのC末端から8つの連続したアミノ酸配列が決定されている(シャー[Schar]ら(1991)、Chimia 45:123−126)。
【0011】
さらに、ペプチドのカルボキシペプチダーゼ消化はプラズマ・ディソープション法などその他の質量分析法とも組み合わされている(ワン[Wang]ら(1992)Techniques Protein Chemistry III(R.H.アンゲレッティ[Angeletti]編、Academic Press,,N.Y.刊)503−515頁)。しかしながら上述の配列決定方法はすべて、単調かつ時間のかかる予備的な最適化ステップを必要とする。さらに、そうした予備的最適化ステップは試薬ならびに通常限られた量しか得られないポリマーのサンプルを不必要に消費してしまう。そのうえ、上述の配列決定方法は終局的には数が限られた単一の質量分析スペクトルおよび単一の質量/電荷比データに頼ることになり、これは最終的なポリマー配列を決定するためには統計的に不十分な根拠を与えるものにしかならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的の1つは、質量分析およびポリマーの時間非依存性/濃度依存性の加水分解を利用して、ポリマー類、特にバイオポリマー類の配列決定を行なうための方法および装置を提供することにある。さらに詳細には、複数の並列質量スペクトルから得られる質量/電荷比データを総合することをベースとするデータ解釈戦略を組み入れた配列情報を得るための方法を提供するのが本発明の1つの目的である。本発明の別の目的は、先行技術の方法で必要とされる時間のかかる最適化および方法強化を回避して、配列情報を得るための迅速な方法を提供することにある。本発明のさらなる目的は、感度の高い質量分光分析と、加水分解を質量スペクトル分析と緊密に統合することによるサンプル損失の排除を組み合わせて、少ないポリマー総量を使用して配列情報を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の要旨
本発明によって以下が提供される:
(1)a)1以上のモノマーが異なるポリマー・フラグメントのセットを提供するステップと、
b)少なくとも一対のフラグメント間の質量/電荷比の差xを測定するステップと、
c)ステップbで測定されたフラグメント対の質量/電荷比間の平均差μ、ただしμは1以上の異なるモノマーの既知の質量/電荷比に相当するもの、を確定するステップと、 d)μに対する望ましい信頼水準を選定するステップと、
e)選定した信頼水準においてxが統計的にμと異なるかどうかを判断するためにxを分析するステップと、
を含む、質量既知の複数のモノマーを含むポリマーに関する配列情報を得る方法。
(2)ステップe)の分析において確定された統計的差が、選定した信頼水準において確定平均μを質量差xに割り当てできないことを示す項目1記載の方法。
(3)ステップc)からe)のステップを全ての望ましいμが確定されるまで繰り返すことを含む項目2の方法。
(4)ステップe)の分析が、1実験平均に対する両側t検定を含む項目2記載の方法。
(5)ステップe)における分析が、
f)ステップb)を複数回であるn回繰り返し、少なくとも一対のフラグメント間の測定平均質量/電荷比の差
【化1】
を決定するステップと、
g)ステップf)で決定した平均質量/電荷比の
【化2】
、標準偏差sを決定するステップと、
h)
【化3】
を確定平均差μと比較するステップと、
i) ステップc)からh)のステップを全ての望ましいμが確定されるまで繰り返すステップを含む、項目1記載の方法。
(6)
追加のフラグメント対についてステップb)からステップi)までを繰り返すことを含む項目5記載の方法。
(7)
ステップh)の比較が確定平均差の絶対値を取ることである項目5記載の方法。
(8)
ステップe)の分析に基づいて測定回数nを決定するステップをさらに含む項目5記載の方法。
(9)ポリマーがバイオポリマーである項目1記載の方法。
(10)バイオポリマーが、DNA、RNA、PNA、蛋白質、ペプチド、炭水化物およびそれらの修飾物類からなる群より選択される項目9記載の方法。
(11)ステップa)でポリマー・フラグメントを得るためにポリマーを加水分解するステップをさらに含む項目1記載の方法。
(12)反応表面においてポリマーを加水分解剤により加水分解することをさらに含む項目1記載の方法。
(13)ポリマーが反応表面で加水分解され、当該表面が異なる量の加水分解剤を提供し、該加水分解剤が該ポリマーを加水分解することによって、前記ポリマーのモノマー間結合を破壊する、項目12記載の方法。
(14)加水分解剤がエキソヒドロラーゼまたはエンドヒドロラーゼである項目11、12または13記載の方法。
(15)前記エキソヒドロラーゼによる加水分解が前記ポリマーの配列決定ラダーを含む一連のフラグメントを産生するものである項目14記載の方法。
(16)エキソヒドロラーゼが、エキソヌクレアーゼ、エキソグリコシダーゼ、およびエキソペプチダーゼからなる群より選択される項目15記載の方法。
(17)エキソペプチダーゼが、カルボキシペプチダーゼY、カルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼB、カルボキシペプチダーゼP、アミノペプチダーゼ1、ロイシンアミノペプチダーゼ、プロリンアミノジペプチダーゼおよびカテプシンCからなる群より選択される項目16記載の方法。
(18)エキソグリコシダーゼが、
a)α−マンノシダーゼI
b)α−マンノシダーゼ
c)β−ヘキソサミニダーゼ
d)β−ガラクトシダーゼ
e)α−フコシダーゼIおよびII
f)α−ガラクトシダーゼ
g)α−ノイラミニダーゼ
h)α−グルコシダーゼIおよびII、
からなる群より選択される、項目16記載の方法。
(19)エキソヌクレアーゼが、
a) エキソヌクレアーゼ
b) λ−エキソヌクレアーゼ
c) t7遺伝子エキソヌクレアーゼ
d) エキソヌクレアーゼIII
e) エキソヌクレアーゼI
f) エキソヌクレアーゼV
g) エキソヌクレアーゼII
h) DNAポリメラーゼII、
からなる群より選択される、項目16記載の方法。
(20)前記エンドヒドロラーゼによる加水分解が前記ポリマーのマップを規定する一連のフラグメントを産生するものである項目14記載の方法。
(21)前記エンドヒドロラーゼが、トリプシン、キモトリプシン、エンドプロテイナーゼLys−C、エンドプロテイナーゼArg−Cおよびテルモリシンからなる群より選択されるエンドペプチダーゼである項目20記載の方法。
(22)薬剤が酵素以外の加水分解剤である、項目12記載の方法。
(23)前記ポリマーを加水分解する能力のある前記薬剤が、少なくとも1酵素と酵素以外の少なくとも1つの薬剤の組み合わせを含む、項目12記載の方法。
(24)反応表面が区分された分離できるゾーンのアレイを包含し、各ゾーンが異なる量の前記加水分解剤を含むものである、項目13記載の方法。
(25)反応表面が前記加水分解剤の非区分勾配を含むものである項目13記載の方法。
(26)前記反応表面が一定量の前記ポリマーを含むものである項目12記載の方法。
(27)前記反応表面が異なる量の前記ポリマーの区分された分離できるゾーンのアレイを含むものである、項目12記載の方法。
(28)前記反応表面が前記ポリマーの非区分勾配を含むものである項目12記載の方法。
(29)前記反応表面が一定量の前記薬剤を含むものである項目12記載の方法。
(30)ステップb)で質量/電荷比を測定する前に、さらにポリマー・フラグメントにマトリックスを添加することを含む項目1記載の方法。
(31)前記比をマトリックス支援レーザー・ディソープション質量分析法により分析する項目1記載の方法。
(32)ステップb)がプラズマ・ディソープション・イオン化またはファースト・アトム・バンバードメント・イオン化により行われる項目1記載の方法。
(33)ステップb)が飛行時間型、四重極型、イオントラップ型、およびセクター型からなる群より選択される質量分析方式を用いて行われる項目1記載の方法。
(34)前記反応表面が、その上にマイクロ反応容器が配置された質量分析計サンプル・ホルダを含む項目12記載の方法。
(35)前記反応表面が、質量分析計サンプル・プローブを含む、項目12記載の方法。
(36)前記反応表面が金属、箔、プラスチック、セラミック、およびワックス類からなる群より選択される基質を含むものである項目12記載の方法。
(37)加水分解が脱水した加水分解剤を用いて前記反応表面上で行われる項目12記載の方法。
(38)加水分解が前記薬剤を前記反応表面上に固定化することにより行われる項目12記載の方法。
(39)加水分解が液体またはゲル形状の加水分解剤を使用して行われ、当該液状またはゲル形状の加水分解剤が物理的転移に抵抗性のあるものである項目12記載の方法。
(40)ステップb)の前に、光吸収性マトリックスを前記フラグメントと組み合わせる追加のステップを含む項目1記載の方法。
(41)ステップb)の前に、加水分解された配列の質量を選択的にシフトするための成分を前記ポリマー・フラグメントと組み合わせる追加のステップを含む、項目1記載の方法。
(42)ステップb)の前に、イオン化を改善するための成分を前記ポリマー・フラグメントと組み合わせる追加のステップを含むこ、項目1記載の方法。
(43)
a)1以上のモノマーが異なるポリマー・フラグメントのセットを供するステップと、
b)一対のフラグメントの質量/電荷比の差xを測定するステップと、
c)1以上のモノマーの既知の質量/電荷比に関連する平均差μを確定するステップと、 d)μに対する望ましい信頼水準を選定するステップと、
e)測定回数nとするためにステップb)を繰り返すことにより、一対のフラグメント間の測定平均質量/電荷比の差xを決定するステップと、
f)ステップe)で決定した測定平均質量/電荷比の差xの標準偏差sを決定するステップと、
g)下記の演算式:によりテストの統計tcalculatedを計算するステップ、
を含むポリマーに関する配列情報を得る方法。
(44)ステップg)における計算した検定統計量tcalculatedを測定回数および望ましい信頼水準に相当するt分布と比較することをさらに含む項目43記載の方法。
(45)追加のフラグメント対についてステップb)からステップg)までを繰り返すことにより、配列情報を得ることをさらに含む項目43記載の方法。
(46)測定数nをステップh)での比較に基づいて決定するステップをさらに含む項目44記載の方法。
(47)ポリマーがバイオポリマーである項目43記載の方法。
(48)バイオポリマーがDNA、RNA、PNA、蛋白質、ペプチド、炭水化物およびそれらの修飾物類からなる群より選択される項目47記載の方法。
(49)ステップa)でフラグメントを得るためにポリマーを加水分解剤で加水分解するステップをさらに含む項目43記載の方法。
(50)加水分解剤が、前記ポリマーの配列を規定するラダーを含む一連のフラグメントを産生するエキソヒドロラーゼである項目49記載の方法。
(51)エキソヒドロラーゼがエキソヌクレアーゼ、エキソグリコシダーゼ、およびエキソペプチダーゼ類からなる群より選択される項目50記載の方法。
(52)エキソペプチダーゼが、カルボキシペプチダーゼY、カルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼB、カルボキシペプチダーゼP、アミノペプチダーゼ1、ロイシンアミノペプチダーゼ、プロリンアミノジペプチダーゼおよびカテプシンCからなる群より選択される項目51記載の方法。
(53)エキソグリコシダーゼが、 a) α−マンノシダーゼI b) α−マンノシダーゼ c) β−ヘキソサミニダーゼ d) β−ガラクトシダーゼ e) α−フコシダーゼIおよびII f) α−ガラクトシダーゼ g) α−ノイラミニダーゼ h) α−グルコシダーゼIおよびII、からなる群より選択される項目51記載の方法。
(54)エキソヌクレアーゼが、
a)エキソヌクレアーゼ
b)λ−エキソヌクレアーゼ
c)t7遺伝子エキソヌクレアーゼ
d)エキソヌクレアーゼIII
e)エキソヌクレアーゼI
f)エキソヌクレアーゼV
g)エキソヌクレアーゼII
h) DNAポリメラーゼII、
からなる群より選択される項目51記載の方法。
(55)加水分解剤が酵素以外のものである項目49記載の方法。
(56)前記薬剤が、少なくとも1酵素と酵素以外の少なくとも1つの薬剤の組み合わせを含むものである項目49記載の方法。
(57)加水分解が反応表面で行われ、当該表面が異なる量の加水分解剤を提供する項目49記載の方法。
(58)反応表面が区分された分離できるゾーンのアレイを包含し、各ゾーンが異なる量の前記加水分解剤を含むものである項目57記載の方法。
(59)反応表面が加水分解剤の連続濃度勾配を含むものである項目49記載の方法。
(60)ステップb)で質量/電荷比を測定する前に、さらにポリマー・フラグメントにマトリックスを添加することを含む項目43記載の方法。
(61)
a)1以上のモノマーが異なるポリマー・フラグメントのセットを供するステップと、
b)一対のフラグメント間の質量/電荷比の差xを測定するステップと、
c)ステップbで測定されたフラグメント対の質量/電荷比に関連する平均差μ、
ただしμは1以上の異なるモノマーの既知の質量/電荷比に相当するもの、を確定するステップと、
d)μに対する望ましい信頼水準を選定するステップと、
e)選定した信頼水準においてxが統計的にμと異なるかどうかを判断するためにXを分析するステップと、
f)ステップb)−e)を、全ての望ましいμが確定されるまで複数回であるn回繰り返すステップと、
g)ステップb)−f)を追加のフラグメント対について繰り返すステップ、
とを含む質量既知の複数のモノマーを有するポリマーに関する配列情報を得る方法。
(62)ポリマーがバイオポリマーである項目61記載の方法。
(63)バイオポリマーがDNA、RNA、PNA、蛋白質、ペプチド、炭水化物およびそれらの修飾物類からなる群より選択される項目62記載の方法。
(64)ステップa)のポリマーフラグメントがポリマーの濃度依存性加水分解により作り出される項目61記載の方法。
(65)ステップa)でポリマー・フラグメントを作り出すために、さらに前記ポリマーを加水分解剤により加水分解するステップをさらに含む項目61記載の方法。
(66)加水分解剤がエキソヒドロラーゼである項目65記載の方法。
(67)前記エキソヒドラーゼによる加水分解が、前記ポリマーのラダーを規定する一連のフラグメントを産生する項目66記載の方法。
(68)エキソヒドロラーゼが、エキソヌクレアーゼ、エキソグリコシダーゼ、およびエキソペプチダーゼ類からなる群より選択される項目66記載の方法。
(69)エキソグリコシダーゼが、
a)α−マンノシダーゼI
b)α−マンノシダーゼ
c)β−ヘキソサミニダーゼ
d)β−ガラクトシダーゼ
e)α−フコシダーゼIおよびII
f)α−ガラクトシダーゼ
g)α−ノイラミニダーゼ
h)α−グルコシダーゼIおよびII、
からなる群より選択される項目68記載の方法。
(70)エキソヌクレアーゼが、
a)エキソヌクレアーゼ
b)λ−エキソヌクレアーゼ
c)t7遺伝子エキソヌクレアーゼ
d)エキソヌクレアーゼIII
e)エキソヌクレアーゼI
f)エキソヌクレアーゼV
g)エキソヌクレアーゼII
h)DNAポリメラーゼII、
からなる群より選択される項目68記載の方法。
(71)エキソペプチダーゼが、カルボキシペプチダーゼY、カルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼB、カルボキシペプチダーゼP、アミノペプチダーゼI、ロイシンアミノペプチダーゼ、プロリンアミノペプチダーゼおよびカテプシンCからなる群より選択される項目68記載の方法。
(72)前記薬剤が酵素以外の加水分解剤を含む項目65記載の方法。
(73)ポリマー・フラグメントが、少なくとも1酵素と酵素以外の少なくとも1つの薬剤の組み合わせを用いる加水分解により得られる項目65記載の方法。
(74)加水分解が反応表面で起こり、当該表面が異なる量の加水分解剤を提供する項目65記載の方法。
(75)反応表面が区分された分離できるゾーンのアレイを包含し、各ゾーンが異なる量の加水分解剤を含む項目74記載の方法。
(76)反応表面が前記加水分解剤の濃度勾配を含む項目74記載の方法。
(77)ステップb)で質量/電荷比を測定する前に、さらにポリマー・フラグメントにマトリックスを添加することを含むことを特徴とする項目61記載の方法。
(78)a)それぞれ1以上のモノマーの異なるポリマー・フラグメントのセットを保持するサンプル・プレートを有する質量分析計と、b)i)一対のポリマー・フラグメント間の質量/電荷比の差xを決定し、ii)ステップi)で決定されたフラグメント対の質量/電荷比間の平均差μ、ただしμは1以上の異なるモノマーの既知の質量/電荷比に相当するもの、を確定し、iii)統計的差が確定平均μは望ましい信頼水準においてxに割り当てられないことを示すものである場合に、望ましい信頼水準においてxが統計的にμと異なるかどうかを判断するためにxを分析し、iv)ステップii)−iii)を、全ての望ましいμが確定されるまで繰り返し、v)ステップi)−iv)を追加のフラグメント対について繰り返す、ための質量分析計に応答するコンピュータを備える、質量既知の複数のモノマーを有するポリマーに関する配列情報を得るための装置。
(79)コンピュータがポリマー・フラグメント対間の確定質量/電荷比の差を決定する項目78記載の装置。
(80)サンプルプレートが、前記ポリマーを加水分解することによってモノマー間結合を破壊する加水分解剤の異なる量を提供する反応表面を含む項目78記載の装置。
(81)前記反応表面が前記薬剤の異なる量の区分された分離できるゾーンのアレイまたは前記薬剤の比区分勾配のアレイを含む項目80記載の装置。
(82)前記反応表面が前記薬剤の勾配を含む項目80記載の装置。
(83)マトリックス支援レーザー・ディソープション質量分析計に好適な光吸収性マトリックスをさらに含む項目78記載の装置。
(84)A.a) イオンを発生する手段と b) イオンを加速する手段と、 c) イオンを検出する手段を含む質量分析計と、 B.d) 一対のポリマー・フラグメント間の質量/電荷比の差xを決定する手段と、 e) フラグメント対間の質量/電荷比間の平均差μ、ただしμは1以上の異なるモノマーの既知の質量/電荷比に相当するもの、を確定する手段と、 f) 望ましい信頼水準においてxが統計的にμと異なるかどうかを判断するためにxを分析する手段と、 g) 望ましい数のμが確定されたことを判断する手段を含む質量分析計に応答するコンピュータを含む質量既知の複数のモノマーを有するポリマーに関する配列情報を得るための装置。
(85)既知の質量の1以上のモノマーを含むポリマーに関する配列情報を質量分析法により得るためのキットであって、当該キットが、
a)それぞれ1以上のモノマーが異なるポリマー・フラグメントのセットを保持する質量分析計用サンプル・プレートと、
b)i)少なくとも一対のポリマー・フラグメント間の質量/電荷比の差xを決定し、ii)ステップi)で決定されたポリマー・フラグメント対の質量/電荷比の差を分析し、それらが望ましい信頼水準において確定された質量/電荷比の差μと統計的に異なるかどうかを判断し、ここで、μは既知の質量/電荷比に相当するものであり、また統計的差がμをxに割り当てられないことを示し、iii)ステップi)からii)を繰り返すステップを行なうためにコンピュータを質量分析計に応答せしめるためのコンピュータ読み取り可能ディスクを備えるキット。
(86)サンプル・プレートが反応表面を包含し、当該表面が前記ポリマーを前記フラグメントに加水分解する異なる量の加水分解剤を提供する項目85のキット。
(87)サンプル・プレートがさらにマトリックス支援レーザー・ディソープション質量分析計に好適なマトリックスを含む項目85記載のキット。
(88)i)複数のモノマーを有するポリマーから作り出された、1以上のモノマーが異なる少なくとも一対のポリマー・フラグメント間の質量/電荷比の差xを決定し、 ii)所定の信頼区間においてxが統計的に確定質量/電荷比の差と異なるかどうかを判断するために質量/電荷比の差を分析し、iii) ステップii)を追加の確定質量/電荷比について繰り返し、iv)ステップi)からii)を追加のフラグメント対に繰り返す、ようにコンピュータを質量分析計に応答させるためのコンピュータ読み取り可能ディスク。
(89)a)複数のモノマーを有するポリマーから作り出された、1以上のモノマーが異なる少なくとも一対の配列を規定するポリマー・フラグメント間の質量/電荷比の差xを決定する手段と、b) 所定の信頼区間においてxが統計的に確定質量/電荷比と異なるかどうかを判断するために質量/電荷比を分析する手段と、 c) すべての望ましい確定差が確定されるまでステップb)を繰り返す手段と、 d) 配列情報が得られるまでステップa)−c)を繰り返す手段を含む、質量分析計に応答するコンピュータ。
(90)a) 複数のモノマーを有するポリマーから作り出された、1以上のモノマーが異なる少なくとも一対の配列を規定するポリマー・フラグメント間の質量/電荷比の差xを決定する手段と、 b)所定の信頼区間において統計的に確定質量/電荷比の差と異なるxを判断するために質量/電荷比の差を分析する手段と、c)すべての望ましい確定差が確定されるまでステップb)を繰り返す手段と、d)配列情報が得られるまでステップa)−c)を繰り返す手段を含む質量分析計に応答するコンピュータ。
(91)望ましい信頼水準でポリマーの同一性について情報が得られるまで、ステップb)−f)を追加のフラグメントに配列情報が得られるまで繰り返す項目90記載の方法。
(92)ステップc)における仮の同定成分が既知の配列のコンピュータ・データベースから導き出された既知の成分に相当するものである項目90記載の方法。
(93)配列情報を得ようとするポリマー・フラグメントを含むサンプルを液体クロマトグラフィ・カラムから溶離するステップをさらに含む項目1、43、61または90のいずれかに記載の方法。
(94)ステップb)に先立ち緩衝液と接触させることによりカラムから溶離されるサンプルを質量分析計に適合するようにする項目93記載の方法。
(95) (1) 反応表面に少なくとも、(i) 前記ポリマーを加水分解することによりモノマー間結合を破壊し、ポリマー・フラグメントの前記セットを産生する一定量の加水分解剤、ならびに(ii)前記反応表面上に薬剤とポリマーの異なる比を形成させるための前記ポリマーのサンプルを提供するステップと、(2)加水分解されたポリマー・フラグメントの複数のシリーズを得るために十分な時間ステップ(1)の産物をインキュベートするステップと、(3) 中に含まれている加水分解ポリマー・フラグメントの質量/電荷比データを得るために前記シリーズの複数のフラグメントに対して質量分析を行なうステップをさらにステップa)に含む項目1、43、61または90記載の方法。
(96)前記サンプル・プレートが、ポリマーを加水分解する能力のある脱水型の薬剤をその中に少なくとも一定量配置した平面状固体表面を含む項目78記載の装置。
(97)前記サンプル・プレートが、ポリマーを加水分解する能力のある固定化型の薬剤を少なくとも一定量その上に配置した平面状固体表面を含む項目78記載の装置。
(98)前記サンプル・プレートが、物理的転移に抵抗性のある液状またはゲル状の加水分解剤を少なくとも一定量のその上に配置した平面状固体表面を含む項目78記載の装置。
(99)一連の種々のモノマーを含むポリマーに関する配列情報を得るのに質量分析装置とともに使用するための質量分析計用サンプル・プレートであって、ポリマーを加水分解する能力のある脱水型の薬剤を少なくとも一定量配置した平面状固体表面を含む、質量分析計用サンプル・プレート。
(100) 質量分析装置を一連の種々のモノマーを含むポリマーに関する配列情報を得るのに使用できるようにするための、ポリマーを加水分解する能力のある固定化型の薬剤を少なくとも一定量配置した平面状固体表面を含む、質量分析計用サンプル・プレート。
(101) 質量分析装置を一連の種々のモノマーを含むポリマーに関する配列情報を得るのに使用できるようにするための、物理的転移に抵抗性のある液状またはゲル状の少なくとも一定量の加水分解剤をその上に配置した平面状固体表面を含む、質量分析計用サンプル・プレート。
(102) 前記表面が前記薬剤の異なる量の区分された分離できるゾーンのアレイを含む項目78、85、99、100または101のいずれか記載のサンプル・プレート。
(103) 前記表面が異なる量の前記薬剤の非区分勾配を含む項目78、85、99、100または101のいずれか記載のサンプル・プレート。
(104) 前記表面が前記薬剤の一定量を含む項目78、85、99、100または101のいずれか記載のサンプル・プレート。
(105) 光吸収性マトリックスをさらに含む項目78、85、99、100または101のいずれか記載のサンプル・プレート。
(106)マイクロ反応容器をさらに含む項目78、85、99、100または101のいずれか記載のサンプル・プレート。
(107) 前記プレートが使い捨てのものである項目78、85、99、100または101のいずれか記載のサンプル・プレート。
【0014】
したがって、本発明の視点の1つは質量分析で集められる情報を利用してポリマー類の配列決定を行なうための統合された方法を指向するものであり、この方法はこの分野にまつわる問題点を実質的に克服するものである。ここに概説するように、本発明は質量既知の複数のモノマーを包含するポリマーについての配列情報を得る方法を提供するものである。当業者はまず、ポリマーの加水分解で作り出された1組のフラグメント、ただし各セットは1以上のモノマーが異なるものを調製し、そして少なくとも一対のフラグメントの質量/電荷比の差を決定する。次に、1以上の異なるモノマーの既知の質量/電荷比に対応する平均の質量/電荷比を確定する(assert)。この確定平均値を測定平均値と比較し、これら2つの値が望ましい信頼水準において統計的に異なるかどうかを判断する。もし統計的差異がある場合には、確定平均差は実際の測定差に割り当てることはできない。現在の好ましい実施方法のいくつかでは、測定平均差の精度を上げるために、フラグメント対間の差の追加測定値を採用している。このような方法のステップを、一対のフラグメント間の単一差として望ましいすべてのμを確定するまで反復する。その他の追加フラグメント対についても、望ましい配列情報が得られるまでこの方法を反復する。
【0015】
本発明でクレームされた方法は、DNA、RNA、PNA、蛋白質、ペプチドおよび炭水化物ならびにこれらポリマー類の修飾物などのバイオポリマー類を含め、すべてのポリマーに適用可能である。ポリマー・フラグメントのセットは、そのポリマーのモノマー間結合を加水分解することによって作り出すことができる。前述のポリマーに関しては、本発明は、一連の種々のモノマーで特徴付けられる、天然に存在する成分および合成によよる成分の両方を企図している。ある実施態様においては、ポリマーを修飾することもできる。本発明はまた、加水分解を起こさせるための加水分解剤を包含させることも企図する。加水分解剤は、酵素または酵素以外の試薬、およびそれらのいかなる組み合わせでもよい。
【0016】
現在の好ましい実施態様の1つにおいて、ポリマーの配列情報を得る方法は、当該ポリマーを加水分解することによって作り出されるポリマー・フラグメントのセット(ただしそれぞれのフラグメントは既知の質量の1以上のモノマーが異なるもの)を調製すること;フラグメント対間の質量/電荷比の差xを測定することを包含する。次に、1以上のモノマーの既知の質量/電荷比と関連する平均差μを確定し、またμについて所望する信頼水準を選択する。フラグメント対間の質量/電荷比の差xを測定するステップを反復して測定数nを得ることにより、測定フラグメント対間の統計的平均質量/電荷比差x
【0017】
を求める。測定平均
【0018】
【数1−1】
【0019】
を使用して、先に決定した、測定における平均質量/電荷比の差
【0020】
【数1−2】
【0021】
の標準偏差sを決定し、以下の計算方法により、検定統計量tcalculatedを計算し得る:
【0022】
【数1−4】
【0023】
。
【0024】
そしてフラグメント対間の質量/電荷比の差について望ましいμがすべて確定されるまでこの方法のステップを繰り返す。ポリマーの配列情報は、さらにこの方法のステップを追加のフラグメント対に繰り返すことによって得られる。
【0025】
本明細書に開示した別の実施態様においては、本発明はさらに一連の種々のモノマーを包含するポリマーに関する配列情報を得る方法も提供するが、この方法は、反応表面上に、当該ポリマーを加水分解してモノマー間結合を破壊する少なくとも1用量(one amount)の加水分解剤とポリマー・サンプルを供して、異なる加水分解剤/ポリマー比を作り出すこと;これを複数のシリーズの加水分解ポリマー・フラグメントを得るのに十分な時間インキュベートすること;この複数のシリーズについて質量分析を行なってそのシリーズに含まれている加水分解ポリマー・フラグメントの質量/電荷比データを得ること;ならびに、上記のように、複数のシリーズからのデータを総合してポリマー・サンプルに特徴的な配列情報を得ることを包含する。
【0026】
本発明は配列決定ラダーを作るためのポリマー加水分解能のある加水分解剤を使用する実施態様、ならびにポリマー・マップを形成する能力のある加水分解剤を使用する別の実施態様も企図している。さらに別の実施態様においては、本発明はそれら加水分解剤の組み合わせによるポリマーの加水分解、ならびに酵素的および非酵素的な加水分解剤を使用するポリマー加水分解法も提供する。現在好ましい方法とされているものでは、加水分解剤は区分された分離ゾーン(separate zone)のアレイの形で反応表面上に配置される。いくつかの実施態様においては、1以上の異なる用量の加水分解剤を有する反応表面上でポリマーを加水分解することによって、複数のポリマー・フラグメントのセットの配列が決定される。最も好ましい実施態様においては、濃度依存性加水分解が並列で起きるように、加水分解剤を反応表面上にスペースをあけて別々の異なる用量で供する。別の実施態様においては、加水分解剤を勾配をもって配置する。さらに別の実施態様においては、加水分解剤を一定量で反応表面に配置する。別の実施態様においてはポリマーを反応表面上に同様に配置する。すべての実施態様において、複数のシリーズの加水分解ポリマー・フラグメントを得るために、異なるポリマー/加水分解剤比率のものを反応表面上に配置し、そしてインキュベートする。そのような異なる比率を作り出す種々の方法については当業者は承知している。
【0027】
たとえば、一連の濃度の加水分解剤を、パーセプティブ・バイオシステムズ[PerSeptive Biosystems Inc.]社製のVoyagerTM MALDI−TOF Biospectrometry・ワークステーションのサンプル・プレートのμLうウェル1列に分散させる。自然蒸発後に、マトリックスを各ウェルに加え、サンプル・プレートをMALDI−TOF質量分析計で「読みとる」。時間依存性の消化および濃度依存性の消化は類似した配列情報をもたらすが、濃度依存性の方法を使用する方が容易に自動化できること、すべてのサンプルが同時に用意でき、また反応容器から分析プレートへの移動により失われるサンプル物質が少ないという理由から好ましい。したがって濃度依存性のオン・プレート加水分解を行い、次いでMALDI質量分析計による分析を行なうのが好ましい。これはMALDIの良好な感度と消化段階から分析段階への移動にかかわるサンプル損失がないということがあいまって、全ペプチドとして数ピコモルしか必要としないからである。
【0028】
MALDIにより配列情報を得る場合、質量/電荷比の測定前のいつの時点でも、適当な光吸収性マトリックスをポリマー・フラグメントに加えることもできる。たとえば、マトリックスを反応表面上にあらかじめ乗せて置くこともでき、あるいは代わりに加水分解の前、途中、あるいは後に、加水分解混合物に加えることもできる。
【0029】
別の実施態様のいくつかにおいては、本法はまた加水分解剤とポリマーをその他の有用な成分(moiety)と組み合わせる方法も提供する。1つの実施態様では、加水分解されたフラグメントを質量スペクトル分析の前に選択的にシフトする成分が含まれている。別の実施態様においては、加水分解されたフラグメントのイオン化を改善する能力のある成分が含まれている。さらに別の実施態様においては、光吸収性マトリックスを含めるための方法を提供している。本発明の方法はまた1以上の上記成分のいずれかを、質量スペクトル分析の前に加水分解剤とポリマーに組み合わせる実施態様も企図している。
【0030】
本発明の別の視点は、ポリマーの配列を決定するための装置およびキットに関するものである。種々の実施態様における本発明の装置およびキット類は、質量スペクトル分析計とそれに応答するコンピュータまたは質量スペクトル分析計に連動するコンピュータのいずれかを含む。実施態様の1つにおける本発明の装置は、イオンを発生させる手段と、イオンを加速する手段ならびにイオンを判別する手段を有する質量スペクトル分析計を含む。この質量スペクトル分析計は質量スペクトル分析計に応答するコンピュータと連動し、このコンピュータが本発明の方法を実施する手段を有する。
【0031】
さらに別の実施態様における本発明の装置は、質量スペクトル分析計との組み合わせで本発明の方法を実施するのに必要な情報を収納したコンピュータ読み取り可能なディスクを含む。別の実施態様においては、本装置は本発明の方法を実施する手段を有するコンピュータそのものを含む。
【0032】
さらに具体的には、本発明の装置の実施態様の1つでは質量分析計用の新規な形のサンプル・プレートまたはサンプル・ホルダを含む。このサンプル・プレートまたはサンプル・ホルダは、異なるポリマー/加水分解剤比率を有する別々の間隔をあけた領域を持つ反応表面を包含する。加水分解剤が各領域のポリマーのモノマー間結合を加水分解する適当なインキュベーション期間の後、加水分解されたポリマー・フラグメントを含む複数の、典型的にはすべての、領域が質量分析計の中で、典型的には連続的に、イオン化され、これらフラグメントの質量/電荷比を表すデータが得られる。1以上のこれらの領域は多かれ少なかれ、有用なラダー成分またはその他のポリマー・フラグメントを発生させるのに適した加水分解剤/ポリマー比率を有する。サンプル・ホルダ上のいくつかの領域は、配列情報を導き出すには役に立たない過度に加水分解されたポリマー・フラグメントを含むことがある。別の領域は実質的に加水分解されていないポリマーを含むこともある。しかしながら、すべての領域の質量分析をすることにより、少なくとも1以上の領域で発生したフラグメントからいくつかの質量/電荷比のデータを得ることができる。したがって様々な領域からのデータを総合することによって、本発明の方法は加水分解剤/ポリマーの比率を適当なものとするために経験的にサンプルを調製する必要性、ならびに従来必要とされていた最適反応時間や注意深い反応温度の制御といった必要性を回避できる。そのうえ、さらに有用な加水分解フラグメントを発生させるために、サンプル・ホルダ上の異なる一連の領域に異なる加水分解剤を使用することができ、これらから得られるデータを配列決定プロセスを改善するために統合的に利用することができる。データ分析を本発明に基づくコンピュータ・プログラムによって実施すれば、全プロセスを前記インキュベーション終了後数分内に完了させることができる。
【0033】
現在好ましいとされている実施態様のあるものにおいては、質量分析計のサンプル・プレートまたはサンプル・ホルダは少なくともその上に配置されたポリマーを加水分解することができる1用量の加水分解剤を含む平面状固相表面を有する。実施態様の1つにおいては、加水分解剤は脱水した形で反応表面上に配置される。別の実施態様においては、加水分解剤は反応表面上に固定化される。さらに別の実施態様においては、加水分解剤は反応表面上に、物理的転位(dislocation)に抵抗性のある液体またはゲル状の形で配置される。さらに別の実施態様においては、サンプル・ホルダの表面上に光吸収性マトリックスが配置される。加えて、サンプル・ホルダのそれら実施態様の1つ以上においては、それらの表面にさらにマイクロ反応容器を備える。上記サンプル・ホルダの実施態様のあるものは使い捨て型のものである。さらにこの反応表面をさまざまな基質で作り上げ、質量分析計用として好適なさまざまな形状としたものも企図されている。本明細書に開示するように、サンプル・プレートまたはサンプル・ホルダのすべての実施態様は、ポリマーの配列決定に質量分析装置を応用するのに有用なものである。
【0034】
当業者には明らかな通り、本発明に基づく配列情報を得るための方法および装置は従来のポリマー配列決定法にまつわる問題点を解決するものである。前述のように、従来の液相消化方法を用いて作り出したペプチド・ラダー、すなわち、酵素消化物から決められた時間間隔で取り出したサンプルのアリコートは多くの欠点を抱えている。たとえば、可能性のあるすべての配列情報を保存しながら短時間に顕著な消化を得るためには、多くの展開(準備)時間と、大量の酵素およびペプチドが必要とされる。配列情報を導き出そうとするそれぞれのペプチドについて、実際の配列分析に先立って時間のかかる方法を展開しなければならないのである。なぜならば1つのペプチドに対する最適条件の組み合わせは、たとえばCPYのようなさまざまな酵素剤の加水分解速度が組成依存的であることを考えると、別のペプチドに対して有用ということは殆どありえないからである。本発明で企図されているように、これに代わる戦略は消化をMALDIサンプル表面で実施することである。たとえば、本発明に基づいてエキソペプチダーゼ消化のようなオン・プレートでのポリマー加水分解を実施する場合、全体的なポリマー配列決定作業は先行技術の時間依存性の消化に比べて次の点で優れる。すなわち、方法が極めて簡便であり、手間のかかる最適化の必要性を省くことができること;反応容器から反応表面への移送によるサンプルの損失が減ること;使用する酵素およびペプチドの量が少ないこと;そして大規模に応用する場合に特に重要なこととして、使用/自動化が容易なことである。同様に、本発明の質量分析用サンプル・プレートまたはサンプル・ホルダは当業者が従来得ることができなかった利点を与えるものである。たとえば実施態様のあるものは試薬の操作を最小限にし、サンプル処理を著しく容易にする。当業者は単にポリマーのサンプルを提供するだけでよい。その他の実験的パラメータもほとんどすべてが事前に最適化される。
【0035】
本発明の前述およびその他の目的、特徴および利点は以下の詳細な説明でより明らかになるであろう。前述の一般的な説明および以下の詳細な説明は例示的かつ説明的なものであり、請求項に記載の本発明をさらに詳しく説明することを意図したものである。添付の図面は本発明の理解を深めるために組み入れたもので、本明細書の一部を構成するものであり、本発明のいくつかの実施態様を説明するものであって、明細書とともに本発明の原理を説明するためのものである。
【0036】
本発明の前述およびその他の目的、特徴および利点、ならびに本発明そのものについては、以下の好ましい実施態様を添付の図面と合わせて読むことによってさらに完全に理解されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
発明の詳細な説明
以下に詳細を説明するように、本発明は質量分析計を用いてポリマー類の配列決定をなうための方法、キットおよび装置に関する。本発明は既知の質量の複数のモノマー類を含むポリマーに関する配列情報を得るための統合的な戦略を提供する。具体的には本発明はポリマー・フラグメントのセット(複数)と質量分析計を用いて、質量分析計により得られた配列データを解釈する方法を提供するが、これにより迅速な、自動化された、かつコスト効果が高い、統計的確実性を有するポリマーの配列決定が可能となる。本発明はさらにポリマーおよび加水分解剤を反応表面上に配置して利用する方法も提供する。加水分解剤は酵素あるいは非酵素的なものである。これら加水分解剤はポリマーと反応し、配列を規定するポリマー・ラダーまたはポリマー・マップを作り出す。本発明の方法はさらに、加水分解したポリマー・シリーズに関連する質量分析データを得るステップと、複数のポリマー・シリーズのデータを総合してポリマー配列を決定するステップを含む。本発明の質量分析法はすべてのイオン形成方式ならびにすべての質量分析方法に適用可能である。本発明のキットと装置は、その一部分は、本発明の方法に基づいてポリマーの配列情報を得るように質量分析計を適応させるための質量分析計用サンプル・プレートまたはサンプル・ホルダに関する。具体的には、サンプル・プレートはその上に脱水型、固定化型、液体および/またはゲル形状の加水分解剤、ならびに/または光吸収性マトリックスを配置する。任意には、本発明のサンプル・プレートのあるものは使い捨て型のものである。本発明の装置の別の実施態様は、ポリマーの配列決定をする前記の方法に使用するのに適する質量分析計、コンピュータおよびコンピュータ・ディスクに関する。
【0038】
本明細書で使用するように、“ポリマー”とは、本発明の方法に適切に使用できる一連の種々のモノマー群を包含するあらゆる部分を意味するものとする。つまり、そのモノマー間結合が加水分解に感受性である一連の種々のモノマー群を包含するすべての成分は、本明細書に開示する方法に使用するのに適している。たとえば、ペプチドは特定のモノマー類、すなわちアミノ酸で構成されたポリマーであり、これらは酵素または化学薬品のいずれかで加水分解できる。同様に、DNAは別のモノマー類、すなわち塩基ヌクレオチド類で構成されたポリマーであり、これらはさまざまな薬剤により加水分解できる。
【0039】
ポリマーは、天然に存在する部分ならびに合成による部分のいずれでもよい。現在好ましいとされている実施態様においては、ポリマーは蛋白質、ペプチド、DNA、RNA、PNA(ペプチド核酸)、炭水化物、およびそれらの修飾型などのからなる群より選択されるバイオポリマーであるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
“配列情報”とは、本明細書で使用しているように、ポリマーまたはそれらの部分の中の一連の種々のモノマー群の一次構造に関連するすべての情報を意味するものとする。配列情報には様々なモノマー類の化学的同一性、ならびにポリマー内でのそれらの特定の位置に関する情報が含まれる。一次配列が既知のポリマー類、ならびに一次配列が未知のポリマー類も、本発明の方法に使用するのに適している。末端モノマー群ならびに内部モノマー群に関する配列情報も、本明細書に開示した方法を使用して得ることができるように企図されている。ある応用では欠陥のない完全なポリマーのサンプルを使用して配列情報を得ることができる。他の応用では、欠陥のない完全なポリマーに満たないもの(たとえば、ポリマー・フラグメント)を含むサンプルを使用して配列情報を得ることができる。それらフラグメントは、天然に存在するもの、単離および精製した人工産物、および/または当業者によりin vitroで作り出されたものとすることができる。さらに、ポリマー・フラグメントは、本発明の方法に使用する前に、高性能液体クロマトグラフィなどさまざまな分別および分離法などにより取り出して調製したものでもよい。
【0041】
本発明の方法における“反応表面”とは、対象するポリマーを対象とする薬剤で加水分解するのに好適な表面すべてを含む。反応表面は、様々な基質(substrate)にから作製され、この基質は、金属、箔、プラスチック、セラミック、およびワックス類などから選択されれるが、これらには限定されない。反応表面は、すべて質量分析装置に使用するのに適したものでなければならない。本発明の反応表面は特定の質量分析装置に使用するのに適したあらゆる形状のものとすることができる。たとえば、反応表面は平面状の固相表面とすることができる。あるいは、この表面はマイクロ反応容器をその上面に配置したものでもよい。さらに別の実施態様においては、特定の質量分析計装置での使用に適したプローブ形状とすることができる。いくつかの実施態様においては、本発明に基づくポリマーの配列決定を強化または容易にするために、反応表面を活性化および/または誘導化できることを、当業者は認識する。
【0042】
本発明は、質量分析によって得られた質量/電荷比のデータ分析の方法に関する。以下に詳しく例示するように、本方法は、フラグメントのセットを提供し、このフラグメントのセットは、ポリマーの加水分解によって作り出され、各々のセットは、1以上のモノマーで異なっている。少なくとも一対のフラグメントの質量/電荷比の差が決定される。次に、1以上の様々なモノマー類の既知の質量/電荷比に相当する平均質量/電荷比を確定する。この確定平均値を測定平均値と比較し、これら2つの値が望ましい信頼水準で統計的に異なるかどうかを判別する。もし統計的差異がある場合には、この確定平均差は実際に測定された差異に割り当てることはできない。いくつかの実施態様においては、一対のフラグメント間の差の追加測定値を取り、測定平均差の精度を高める。本方法のこのステップは、1対のフラグメント間の個々の差異に対する所望の平均差が確定するまで繰り返される。
【0043】
上述の方法を追加のフラグメント対についても反復し、複数の並行質量スペクトルからの質量/電荷比のデータを総合し、望ましい配列情報が得られるまで繰り返す。したがって、本発明は最も広い視点においては、質量が既知の複数のモノマー群を包含するポリマーに関する配列情報を作り出す総合的な方法である。本方法は、フラグメント対間のモノマーの差異を統計的に同定するために、ポリマーから得られるフラグメント・セット(複数)の質量/電荷比データを解釈することを含む。過去においては、研究者達はいくつかの質量測定値について既知の分子質量をMALDIで導いた質量と比較し、機器による測定の質量精度について一般的な表現をしようと試みてきた。総体的に、本発明の方法は多段階の統合されたステップを含むものであり、これらは本発明に基づいて自動化することができる。
【0044】
1以上のモノマーが異なるポリマー・フラグメントのセットを用意した後、少なくとも一対のフラグメント間の質量/電荷比の差xを測定する。次に、測定されたフラグメント対間の質量/電荷比の平均差μを確定する。ただし、μは1以上の異なるモノマーの既知の質量/電荷比に相当するものである。そして次にxを分析して、選択した信頼水準でxが統計的にμと異なるかどうかを判断する。
【0045】
もし統計的差が存在すると判断した場合、確定されたμは選定した信頼水準では質量差xに割り当てることはできない。
【0046】
上記のステップを、すべての望ましいμが確定されるまで繰り返し、さらに追加のフラグメント対についても繰り返す。
【0047】
ある実施態様においては、xがμと統計的に異なるかどうかを判断する分析は、xをn回反復測定し、少なくとも一対のフラグメント間の測定平均質量/電荷比差xを求めることを包含する。そして測定平均xの標準偏差sを決定し、その測定平均xを確定平均μと比較し、それらが望ましい信頼水準で統計的に異なるかどうかを判断する。
【0048】
本発明のある実施態様においては、1セットのポリマー・フラグメントをオン・プレート消化または外部源のいずれかから得、一対のフラグメントの質量/電荷比の1以上の測定値を取得する。1以上のモノマーの消失を表すピークをt値(t-statistics)を用いて分析して、望ましい信頼区間で割り当てを行なうことができる。1実験平均に関する両側t検定には下記の式を適用する。
【0049】
【数2】
【0050】
施した反復複製数であり、sは平均の実験標準偏差である。すべての考えられる質量(1残基、2残基、3残基...など、ならびに修飾残基の質量)を確定質量差μとして使用してtcalculatedのリストを作り、これを次に特定の信頼区間でt分布表の値と比較する。確定質量と統計的に異ならないすべての質量、つまりtcalculated<ttabledは所定の信頼水準でその残基に割り当てられる。この情報は、仮定の組成物をチェックするため、あるいは配列のデータベースを検索するために使用することができる。データベース検索をする場合、これらの信頼水準は高い“ヒット(hit)”を得る助けとするための道具として、検索アルゴリズムに利用することができる。
【0051】
終局的には、この技法は未知の配列のペプチドの配列決定に使用されるものである。研究者達はいくつかの質量測定値について既知の分子質量をMALDIで導いた質量と比較し、機器による測定の質量精度について一般的な表現(たとえば、0.1%より良い)をしようと試みてきた。しかし残基割当ての目的でこの質量精度を個々の質量測定値に当てはめるのは統計的な有効性がなく、したがって真の残基割当てや未知のものへの直接適用は難しい。ラダー配列決定/MALDI戦略によりアミノ酸配列を得るためには、残基割り当てに統計的な信頼水準を課さなければならないのである。
【0052】
本明細書に開示するように、上記のデータ統合法にはさらに以下のステップを包含させることができることが企図される:すなわち、反応表面上に、ポリマーを加水分解してモノマー間結合を破壊してポリマー・フラグメントのセットを作り出す少なくとも1用量の加水分解剤とポリマー・サンプルを、反応表面上で異なる加水分解剤/ポリマー比ができるように提供するステップと、ポリマーと加水分解剤の混合物を、複数の一連の加水分解ポリマー・フラグメントを得るのに十分な時間インキュベートするステップ、ならびに質量/電荷比データを得るために複数の一連のものについて質量分析を行なうステップ。
【0053】
たとえば、ポリマーの内部加水分解(endohydrolysis)で作り出されたポリマー・フラグメントのセットを本発明の実施に利用することができる。典型的には、エンドヒドロラーゼの使用によって前記ポリマーのマップを規定するフラグメントのセットを作り出す。フラグメントの質量/電荷比を測定し、測定したフラグメントの仮の成分同定が行われる。仮の同定成分は参照ポリマーのフラグメントの既知の同一成分に対応する。参照ポリマーの情報は本法で使用するデータベースに簡単に組み入れることができる。望ましい信頼水準を選定した後、確定された仮の成分同定が行われたフラグメントの質量/電荷比が、確定された既知のポリマーのフラグメントの質量/電荷比と統計的に異なるかどうかを判断する。もし統計的な差がある場合、これらのステップを異なる追加の仮のフラグメントで繰り返す。この方法は望ましい信頼水準でポリマーを同定できる十分な情報が得られるまで、そのフラグメントについて繰り返される。したがってマップを検討する場合、ポリマー・フラグメントが既知のポリマーのフラグメントに、ポリマーを同定するために十分な確実性をもって対応するかどうかを基本的に判断する。確定された仮の同一性(仮の同定成分)が既知の配列のコンピュータ・データベースから取り出された既知の同定成分に相当するものであることが好ましい。
【0054】
本発明の方法はまた、同一ポリマーの複数の異なるフラグメント・セット、すなわちマップおよびラダーを提供し、最大限の配列情報を得ることも考案している。
【0055】
ポリマー・フラグメントのセットはいかなる方法でも作り出すことができる。本発明の方法のあるものは、フラグメントを得るために加水分解剤によりポリマーを加水分解するステップ、あるいはフラグメントの合成、ならびに事前に得たフラグメントのセットを単に提供するというステップも考案している。本明細書で使用しているように、“加水分解剤”という用語は特定のポリマー中のモノマー間結合を破壊することのできるすべての薬品を意味するものとする。つまり、ポリマーの一次配列を切断することができる薬剤はすべて本明細書開示の方法に使用するのに適している。加水分解剤はポリマーのいずれかの末端でモノマーを解離するか、あるいは内部結合を破断することのいずれかによって働き、それにより対象ポリマーのフラグメントまたは一部分を作り出し得る。一般的に、好ましい加水分解剤は特定のモノマーの前または後を切断することにより一次配列を破壊する。つまり、加水分解剤はポリマー中の好ましい加水分解部位として加水分解剤により認識される特定のモノマーまたは特定のモノマー配列において、ポリマーと特異的に相互作用する。現在好ましいものとして本明細書に記述している加水分解剤はすべてシグマ・ケミカル[Sigma Chemicals]社(ミズーリ州セントルイス)などの薬剤供給者から市販品を入手することができるものである。
【0056】
好ましい実施態様のあるものでは、賦形剤を加水分解剤に添加して、加水分解剤と併用する。ここで意図する賦形剤は、加水分解剤の凍結乾燥および/または溶解を促進する。たとえば、フコースおよび本発明の使用に好適なその他の糖類が企図される。使用に好適とは、それらを使用することによって質量分析に何ら干渉が起こらないことを意味する。本発明に有用なその他の賦形剤は酢酸アンモニウムなどのpH調節剤である。さらに本明細書に開示した方法および装置での使用に好適なその他の賦形剤は、加水分解剤の一体性の安定化剤として働くものである。賦形剤に関しては、当業者であれば通常の実験操作だけで好適なものを見つけることができよう。好ましい賦形剤のいくつかを上に挙げたが、それらに匹敵する相当品を見つけだすことは当業者の技術の範囲内のことである。
【0057】
現在好ましいとされる実施態様の1つにおいては、加水分解剤はヒドロラーゼ酵素である。ヒドロラーゼ類のあるものはエンドヒドロラーゼであり、他のものはエキソヒドロラーゼである。使用する特定のヒドロラーゼはポリマーの性質および/または希望する配列情報のタイプによって決められる。その決定は当業者が通常の実験以上のことをすることなく容易に行うことができる。たとえば、現在好ましいとされるエンドヒドロラーゼ類としてはエンドヌクレアーゼ、エンドペプチダーゼ、エンドグリコシダーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エンドプロテイナーゼLys−C、エンドプロテイナーゼArg−C、およびサーモリシンなどであるが、これらに限定されるものではない。現在好ましいとされるエキソヒドロラーゼ類としては、エキソヌクレアーゼ、エキソグリコシダーゼ、およびエキソペプチダーゼなどがあるが、これらに限定されるものではない。現在好ましいとされているエキソヌクレアーゼ類としては、ホスホジエステラーゼタイプIおよびII、エキソヌクレアーゼVII、λ−エキソヌクレアーゼ、T7遺伝子1エキソヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼIII、BAL−31、エキソヌクレアーゼI、エキソヌクレアーゼV、エキソヌクレアーゼII、ならびにDNAポリメラーゼIIIなどがあるが、これらに限定されるものではない。現在好ましいとされるエキソグリコシダーゼ類としては、α−マンノシダーゼI、α−マンノシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、α−フコシダーゼI、α−フコシダーゼII、α−ガラクトシダーゼ、α−ノイラミニダーゼ、α−グルコシダーゼI、およびα−グルコシダーゼIIなどがあるが、これらに限定されるものではない。現在好ましいとされているエキソペプチダーゼ類としては、カルボキシペプチダーゼY、カルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼB、カルボキシペプチダーゼP、アミノペプチダーゼ1、LAP、プロリンアミノジペプチダーゼ、ロイシンアミノペプチダーゼ、ならびにカテプシンCなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
その他の実施態様のあるものでは、加水分解剤は酵素以外の薬剤である。たとえば、そうした薬剤は酸のような化学薬品でもよい。酵素以外で現在好ましいとされている薬剤としては、臭化シアン、塩酸、硫酸、およびペンタフルオロプロピオン酸フルオロハイドライドなどがあるが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施態様においては、加水分解は本明細書に開示した方法に基づいて部分的な酸加水分解を利用して行なうことができる。ここでも、酵素以外の加水分解剤の決定はポリマーの性質および希望する配列情報のタイプによって決められる。好適な薬剤の決定ならびにそれら薬剤の好ましい条件の決定は当業者の能力の範囲内のことである。
【0059】
本発明の方法はさらに上記個々の加水分解剤を組み合わせて使用する方法も提供する。たとえば、本願発明において酵素の組み合わせを使用することができる。酵素以外の加水分解剤の組み合わせもまた使用することができる。さらに、酵素と酵素以外の薬剤との組み合わせもまた本発明の方法に使用することができる。ここでも、具体的な組み合わせおよびそのような組み合わせが適当な条件はポリマーの性質および希望する配列情報により異なることになる。当業者であればどのような場合に加水分解剤の組み合わせが本開示の方法の使用に好適であるかを承知している。
【0060】
加水分解剤/ポリマー配列特異的相互作用についての多くの例が当分野では周知となっている。たとえば上記のように、蛋白質およびDNAなどの現在好ましいとされているポリマー類はそれぞれプロテイナーゼ類およびヌクレアーゼ類と特異的に相互作用する。好ましいプロテイナーゼのあるものは蛋白質のアミノ酸配列のC−末端(カルボキシペプチダーゼY)またはN−末端(アミノペプチダーゼ1)を特異的に認識する。好ましいヌクレアーゼ類のあるものは、ポリヌクレオチドの塩基配列の5’末端または3’末端を特異的に認識する。ヌクレアーゼ類のあるものは、一本鎖ポリヌクレオチド類を認識し、他のものは二本鎖ポリヌクレオチド類を、またさらにその他のものはこれら両者を認識する。
【0061】
本発明は、蛋白質、ペプチド、核酸、炭水化物などの天然バイオポリマー、ならびにPNAおよびチオリン酸化(phosphothiolate)核酸などの合成バイオポリマー類すべての配列決定に適用することができる。ラダーは、エキソヒドロラーゼ類、エンドヒドロラーゼ類を使用して酵素的に、あるいはサンガー[Sanger]法および/または短縮による合成による化学的方法ないしは失敗配列決定(failure sequencing)などの手法により意識的に作り出すことができる。オン・プレート消化を利用し、カルボキシペプチダーゼY、カルボキシペプチダーゼPおよびアミノペプチダーゼI消化により数多くのペプチド類から作り出されたペプチド・ラダーを解釈する方法を利用することが好ましい。
【0062】
本発明に基づいて、エキソヒドロラーゼ類はポリマーの配列を規定する“ラダー”を包含する一連の加水分解フラグメントを作り出す。つまりこれらの薬剤は一連の加水分解フラグメントを作り出し、それら一連の各加水分解フラグメントは“ラダー要素”であり、これらが集合的にポリマーの配列を規定する“ラダー”を構成することなる。ラダー要素は加水分解フラグメントであり、それらからモノマー類が連続的および/または漸進的に、ポリマー末端の一端または他端に作用するエキソヒドロラーゼによって解離される。したがって、ラダー要素は短縮された加水分解ポリマー・フラグメントであり、またラダーそれ自体はこれら短縮された加水分解ポリマー・フラグメントの集合連結物ということになる。このような方法により、たとえば蛋白質のアミノ酸配列に関する配列情報を、カルボキシ末端に作用する薬剤であるカルボキシペプチダーゼYを使用することによって得ることができる。アミノ酸残基の連続、反復解離で相互に関連した一連の蛋白質加水分解物を作り出すための開示した本法を使用することにより当業者は、以下に詳細を説明するように完全な蛋白質ポリマーの一次配列を再構築することができる。
【0063】
同様に、ポリマーの末端の1端または他端に同じく作用するエキソヒドロラーゼ類以外の加水分解剤も、配列を規定する一連のラダーを集合的に構成するラダー要素を作り出す。たとえば、この目的のために周知のエドマン分解技法および関連試薬を本発明の方法に使用するのに応用することができる。したがって上記の減法型(subtractive−type)の配列決定法もまた、蛋白質ポリマーからの連続的なアミノ末端残基の反復除去が起こり得ることから、本明細書に開示した酵素以外の加水分解剤を利用して行なうことができる。
【0064】
前述のように、配列情報はまた内部モノマー間結合を破壊する働きをする加水分解剤を使用して得ることもできる。たとえばエンドヒドロラーゼは、最終的にポリマーの“マップ”を構築するのに有用な一連の加水分解フラグメントを作り出すことができる。つまりこの薬剤は一連の関連する加水分解フラグメントを作り出し、これらはポリマーの配列を規定する“マップ”に集合的に寄与する情報となる。たとえばペプチドマップは、トリプシン内部加水分解(endohydrolysis)を臭化シアン内部加水分解(endohydrolysis)と連繋させ、重複するアミノ酸配列を有する加水分解フラグメントを得ることにより、作り出すことができる。それら重複フラグメントは最終的に完全なポリマーのアミノ酸配列全体を再構築するのに有用なものである。たとえばこの加水分解剤の組み合わせは、複数の有用な加水分解フラグメントのシリーズを作り出す。なぜならばトリプシンはカルボキシ基がリジンまたはアルギニンモノマーのいずれかによって生成されたペプチド結合の加水分解だけを特異的に触媒し、一方臭化シアンはカルボニル基がメチオニンモノマー類によって生成されたペプチド結合だけを切断するからである。したがってトリプシンと臭化シアン加水分解を併用することにより、2つの異なるシリーズの加水分解された“マッピング”用フラグメントを得ることができる。これらのマッピング・フラグメントのシリーズを次に質量分析で検査し、トリプシンによる第1の加水分解からの特定の加水分解産物と連続および/または重複するアミノ酸配列を持つ第2の臭化シアン加水分解からの特定の加水分解産物を同定する。第2の加水分解からの重複配列は第1のトリプシン加水分解により産生された加水分解フラグメントの正しい配列順に関する情報を提供する。これらのペプチド・マッピングの一般的な原理は先行技術で公知となっているが、これらの原理を本明細書の開示のように質量分析により配列情報を得るために利用することは当分野ではこれまで知られてなかった。
【0065】
当業者にとっては、ある場合には上記のラダー・シナリオを利用して配列を決定するのが最善であり、一方マッピング・シナリオがより適するケースがあることは周知のことである。ある場合にはラダー法と本開示のマッピングによる配列決定法の組み合わせが最適の配列情報を提供する。ルーチンの実験手法を利用するだけで、当業者はラダーおよび/またはマッピング法と複数の一連の加水分解ポリマー・フラグメントの質量分析を組み合わせて利用することによって最適の配列情報を得ることができる。
【0066】
本方法で企図されているように、ポリマーのサンプルとしては対象のポリマーを含む(または含むと考えられる)生物学的流体も含む。本明細書で使用しているように、ポリマーのサンプルとしてはまた単離および精製ポリマーも含むものとする。さらに、ポリマーのサンプルは水性または非水性のものでもよい。
【0067】
反応表面へのポリマーのサンプルの添加は、さまざまな方法により行なうことができる。たとえば、サンプルを個々のアリコートとして導入することもでき、あるいはサンプルを分取処理または定性カラムから溶離するサンプルとするような連続的な方法で導入することもできる。この両方の場合とも、サンプルは手操作または自動化された手段で導入することができる。
【0068】
ポリマーのサンプルおよび加水分解剤を反応表面に添加するに際し、本発明の方法は異なる濃度の加水分解剤、または異なる加水分解剤/ポリマー比を当該反応表面に形成する方法を提供する。たとえば、もしポリマーのサンプルが均一な量のポリマーを含むものである場合、本法では異なった量の薬剤を反応表面に配置するように考案している。これによって異なる薬剤/ポリマー比がもたらされることになる。異なる薬剤の量は、一定量のポリマーが添加される区分された分離ゾーンの形とすることもできる。あるいは、異なる薬剤の量を少量から大量の範囲の非区分的勾配の形、おそらくは適当な長さと幅のストリップという形、にすることもできる。一定量のポリマーを含む等しい長さと幅のポリマー・ストリップを導入することにより、異なる薬剤/ポリマー比が作り出される。本発明で考案しているように、薬剤とポリマーはどのような形でも、またどのような量でも存在させることができる。すなわち、唯一必要なことは薬剤とポリマーの組み合わせが異なった比率で反応表面上に配置されることである。薬剤/ポリマーの異なる比率はまた、一定量の薬剤を反応表面上に配置し、異なる量のポリマーを、たとえば、ポリマー勾配または異なる量のポリマーもしくはポリマー溶液の区分された分離ゾーンにより添加する方法によって達成できることは当業者によって明らかである。ポリマー勾配とする場合、ガウス分布勾配の形でカラムから溶離されるポリマーの形が現在好まれている。
【0069】
本方法はさらに上記薬剤/ポリマー比のものを、必要な複数シリーズの加水分解ポリマー・フラグメントを得るのに必要な時間インキュベートする方法も提供する。インキュベーションは、ポリマーを加水分解するのに好適であれば、いかなる条件下でも、かつ複数のシリーズの加水分解フラグメントを得るのに必要とされるいかなる時間にわたっても進行させることができる。一般的に言えば、開示の方法は、たとえば、1時間以内という比較的短時間で配列情報を得ることが可能である。
【0070】
しかしながら、インキュベーション時間はポリマーおよび/または加水分解剤の性質により短くしたり、長くしたりすることができる。適当なインキュベーション時間をいかにして求め、かつそれをいかに最適化するかは当業者には自明のことである。インキュベーション反応は蒸発によって終了させることができる。
【0071】
本明細書で使用しているように、加水分解ポリマー・フラグメントの“複数のシリーズ”とは、加水分解フラグメントが少なくとも2つの異なる薬剤/ポリマー比で作り出され、かつそれぞれの薬剤/ポリマー比が1シリーズの加水分解フラグメントを作り出すことを意味する。たとえば、一定量のポリマーを異なる量の薬剤を含む2つの区分された薬剤ゾーンに添加する場合、各ゾーンが1つの薬剤/ポリマー比を表し、また各ゾーンが1シリーズの加水分解フラグメントを作り出すことになる。これらを合わせると、この2つのゾーンが複数のシリーズの加水分解ポリマー・フラグメントを集合的に含むということになる。本明細書に開示および例示するように、本方法は複数のシリーズの加水分解フラグメントについて質量分析を行い、その中に含まれている加水分解ポリマー・フラグメントの質量/電荷比を得ることによって配列情報を得る方法を教示するものである。この方法は少なくとも2つの異なる薬剤/ポリマー比を用意し、質量分析により分析することを考案したものである。
【0072】
本請求の発明は当分野で公知のあらゆるタイプの質量分析法を使用して実施することができる。そのうえ、質量/電荷比データを得るためには、マトリックス支援レーザー・ディソープション・イオン化、プラズマ・ディソープション・イオン化、エレクトロスプレー・イオン化、サーモスプレー・イオン化、およびファースト・アトム・ボンバードメント・イオン化(高速原子衝突イオン化)など、これらに限定されないが、あらゆるイオン形成方式を適用することができる。加えて、本発明に使用する質量分析方式としては、飛行時間型、四重極型、イオン・トラップ型、ならびにセクター分析型など、これらに限定されないが、あらゆる方式が好適に使用できる。現在好まれている質量分析計装置は、改良された飛行時間型の装置であり、これは同日付けで出願した同時係属中の米国特許願第08/446,544号(代理人書類番号SYP−111)に記載されているように、サンプルおよび抽出要素の電位差の独立した制御が可能なものであるが、これをレファレンスとして本明細書に援用する。ある実施態様においては、本発明を実施するために使用される質量分析計は、イオン発生手段、イオン加速手段、ならびにイオン検出手段を含むものである。あらゆるイオン化方法を使用することができ、たとえばディソープション、負イオン・ファースト・アトム・ボンバードメント、マトリックス支援レーザー・ディソープションおよびエレクトロスプレー・イオン化方式などが使用できる。マトリックス支援レーザー・ディソープション質量分析法を使用するのが好ましい。
【0073】
本発明の方法はすべてさらに本明細書に記載のとおり、配列情報を得ようとするポリマーまたはポリマー・フラグメントを含むサンプルを液体クロマトグラフィ・カラムから溶離させるステップを包含させることができることがさらに企図される。そのような実施態様の場合、カラムから溶離されるサンプルは質量/電荷比を決定するステップの前に適当な緩衝液と接触させることにより質量分析計に適合性のあるものにする。
【0074】
本発明の方法はまた質量分析に有用な成分を包含させることも提供する。たとえば、光吸収性マトリックスをレーザー・ディソープションによる質量分析を行なう前の適当な時点で導入することができる。光吸収性マトリックスは特にバイオポリマー類の分析用として有用である。マトリックス支援レーザー・ディソープションイオン化技法、ならびにそれらに適するさまざまなマトリックス類は当分野では周知であり、たとえば米国特許第5,288,644号(1994年2月22日発行)および米国特許願08/156,316(代理人書類番号Vestec−14−2、1995年4月18日許可)に記載されており、これらの開示を本明細書にレファレンスとして援用する。
【0075】
本法に有用なその他の成分としては、ある種の加水分解フラグメントの質量を選択的にシフトする能力のあるものが含まれる。これらもまた質量分析に先立ついかなる時点でも添加することができる。現在好ましいとされている質量シフト成分としては、アルキル、アリール、アルケニル、アシル、チオアシル、オキシカルボニル、カルバミル、チオカルバミル、スルフォニル、イミノ、グアニル、ウレイド、およびシリルなどの反応生成物を産生する成分などが含まれるが、これらに限定されるものではない。それら成分の加水分解ポリマーへの付加は確立された付加化学法を利用して行われる。特定の配列決定に最適の特定の成分は、ポリマーおよび加水分解フラグメントの性質により異なる。当業者であればもし使うべき成分があるとすれば、どの成分を使用するかを決定することができるであろう。
【0076】
本方法に使用するのに好適なその他の成分グループは、加水分解フラグメントのイオン化を改善することができるものである。そのような成分は質量分析に先立ついかなる時点でも導入することができる。現在好ましいとされているイオン化改善成分としては、以下のものに限定はされないが、アミノ、第四級アミノ、ピリジノ、イミジノ、グアニジノ、オキソニウム、およびスルホニウム反応生成物を産生する成分である。そのような成分の調製および/または使用については当分野では周知のことである。
【0077】
もう1つ別の視点において、本発明は質量分析計のサンプル・プレートまたはサンプル・ホルダを提供する。本明細書で使用しているように“サンプル・プレート”および“サンプル・ホルダ”という用語は同義語的に使用される。本発明のサンプル・プレートは、開示の方法に基づいて配列情報を得るためにあらゆる質量分析計装置を適用するのに有用なものである。現在好まれている実施態様の1つにおいては、このサンプル・ホルダは平面状の固相表面を有し、その上に加水分解剤が配置される。もう1つ別の現在好まれている実施態様においては、サンプル・ホルダは特定の質量分析計装置に有用なプローブの形状を有する。サンプル・プレートまたはホルダのすべての実施態様において、薬剤は脱水型、固定化型、液体および/またはゲル形状とすることができる。薬剤を液体またはゲル形状とする実施態様においては、薬剤は物理的転移に対する抵抗性があり、かつ少なくとも約1ないし2ヵ月間化学的に安定なもので、それにより輸送と貯蔵が容易なものとする。これらの配慮は特に、本発明のサンプル・プレートを含む商業的な利用において有用なことである。さらに、薬剤は異なる量の分離された区分ゾーン、または非区分勾配の形で配置することができる。あるいは、薬剤はサンプル・プレートの表面上に一定量を配置することもできる。他の実施態様においては、サンプル・プレートがその表面上に光吸収性マトリックスを配置され、これは加水分解剤と併用または加水分解剤なしとすることができる。
【0078】
本発明の現在好ましい実施態様のあるものでは、ポリマーを加水分解する能力のある少なくとも一定量の脱水型薬剤をサンプル・プレートの平面状固相表面に配置する。同様にポリマーを加水分解する能力のある少なくとも一定量の固定化した薬剤をその上に配置することもできる。
【0079】
さらに別の好ましい実施態様においては、サンプル・プレートの上に少なくとも1用量の液体またはゲル形状の加水分解剤を配置する。当該液体またはゲル形状は物理的転移に抵抗性のあるものである。
【0080】
サンプル・プレートはまたその表面にマイクロ反応容器を配置したものとすることもできる。実施態様の1つにおいては、これらの容器は化学エッチングまたは類似の技法により作られたプレート表面上の窪みとすることができる。サンプル・プレートは金属、箔、プラスチック、セラミック、およびワックス類など、これらには限定されないがさまざまな基質で作ることができる。ある実施態様においては、このサンプル・プレートは使い捨て型のものである。別のある実施態様においては、本明細書に開示したサンプル・プレートは質量分析によりポリマーの配列を決定するために有用なキットの1要素となっている。
【0081】
本明細書に考案されているサンプル・プレートまたはサンプル・ホルダのすべてに関しては、その表面に前記薬剤の異なる量の区分された分離ゾーンのアレイを包含するものとすることができる。あるいは、その表面が前記薬剤の非区分型勾配、または前記薬剤の一定量を含むものとすることができる。
【0082】
加えて、実施態様はすべてさらに光吸収性マトリックス、および/またはマイクロ反応容器を包含することができ、そして/または、使い捨て材料で組み立られ得る。
【0083】
さらに別の視点においては、本発明は反応表面を包含するサンプル・プレートまたはホルダを有するキットを提供するが、当該表面は前記ポリマーを前記フラグメントに加水分解するための加水分解剤を異なる量で提供する。実施態様の1つにおいては、当該キットはマトリックス支援レーザー・ディソープション質量分析に適するマトリックスを包含するサンプル・プレートまたはホルダを含む。
【0084】
本請求の発明はまた、上記の方法を実施する他の質量分析計装置およびキットにも関する。ポリマーに関する配列情報を得るための本発明の装置の実施態様の1つでは、サンプルからイオンを発生させるための手段、発生したイオンを加速する手段、ならびに検出手段を有する質量分析計を包含する。これらの基本的な要素については多くの実施形態において利用可能であり、したがって本発明は特定のタイプの質量分析計に限定されるものではない。この装置はさらに質量分析計に応答するコンピュータも包含するが、このコンピュータは一対のポリマー・フラグメント間の質量/電荷比の差xを決定する手段と、フラグメント対間の質量/電荷比の平均差μを確定する手段、ただしμは1以上のモノマーの既知の質量/電荷比に相当するもの、ならびに望ましい信頼水準においてxがμと統計的に差があるかどうかを判断するためにxを分析する手段、および望ましい数の(可能性のある)μが確定されたことを判断する手段を包含するものである。
【0085】
加えて、本請求の方法に必要な情報はコンピュータで読み取り可能なディスク上に組み入れることができるが、このディスクは分析を実施するためにコンピュータを質量分析計に応答させるようにするものである。請求したソフトウェアはデータを取得し解釈するプロセスを、ソフトウェア・フィードバック制御を利用して知的な方法で自動化する。データ解釈ソフトウェアは、アミノ酸割り当てのための複数の候補を統計的に差別化するのに要求される取得データ数(最低2)をコントロールするものである。オペレータは割り当てが適合しなければならない最低の統計的信頼水準の規定をコントロールすることになる。
【実施例】
【0086】
本発明の実施は以下の実施例によりさらに理解されるであろうが、これらの実施例は説明のためだけに提示するものであり、本発明をいかなる形でも限定するものでないことはいうまでもない。
【0087】
実施例1
材料と方法
(a)ACTH 7−38フラグメントの液相消化:
時間依存消化のために、予め0.5mLエッペンドルフ管中で乾燥固化させた500Pモルの合成ヒト副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)フラグメント(7−38[FRWGKPVGKKRRPVKVYPNGAEDESAEAFPLE](配列番号22):シグマ・ケミカル社(モンタナ州セントルイス)から入手)を、33.3μLのHPLCグレード水(ニュージャージー州フィリプスバーグのJ.T.ベーカー[Baker]社製)に再懸濁させた。予め乾燥した0.5mLエッペンドルフ管に、シグマ社から購入したパン酵母由来のカルボキシペプチダーゼY(E.C.3.416.1)の3.05ユニット(pH=6.75で25℃において1分当たり、1ユニットは1.0μモルのN−CBZ−phe−alaをN−CBZ−フェニルアラニン+アラニンに加水分解する)を610μLのHPLCグレード水に再懸濁させた。20μLのACTH 7−38フラグメント溶液に10μLのCPY溶液を加え、反応を開始させた。最終濃度は、10pモル/μL ACTHおよび1.67x10−3U/μL CPYであり、酵素/基質比が1.67×10−8U CPY/モルACTH(CPY分子量=61,000と想定するとモル比は1:37)であった。反応容器から1μLのアリコートを、反応時間にして、15秒、60秒、75秒、105秒、2分、135秒、4分、5分、6分、7分、8分、9分、10分、15分および25分に採取した。25分時点で、15μLの5x10−3U/μL CPYをその反応容器に加えた。合計反応時間1時間および24時間時点で2μLのアリコートを取り出した。上述の反応を、室温で2分間進行させ、その後、その温度を37℃まで上昇させた。すべてのアリコートを、シグマ社から入手した9μLのMALDIマトリックスであるα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)に加えた。このCHCAは、1:1アセトニトリル(ACN):0.1%トリフロロ酢酸(TFA))中で濃度が5mg/mLであった。ただしl時間と24時間アリコートについては、8μLのそのマトリックスに添加した。マトリックス溶液中のACTH消化アリコートの最終全ペプチド濃度は1pモル/μLであった。2μLの15秒、105秒、6分および25分におけるアリコートを混ぜ合わせて集合ペプチド溶液を調製した。MALDIサンプル・プレート上の個々のμLウェルに各アリコート溶液1μLを配分し、質量分析計へ挿入する前に蒸発乾燥させた。
【0088】
(b)オン・プレート消化:
すべてのオン・プレート消化は、1pモル/μL濃度の0.5μLのペプチドをピペットにより、マサチューセッツ州フラミンガムのパーセプティブ・バイオシステムズ社で製造・供給し、商標VoyagerTMとして知られる質量分析装置に使用できるように作られたものと同様に形成されたサンプル・プレートの1列各10個の1μLウェルに入れて行なった。表1に挙げたすべてのペプチドはシグマ社から購入したものであり、提供されるもののうち最高純度のものである。第1のウェルでの反応を開始させるために、0.0122U/μLのCPYを、0.5μL添加した。続く9個のウェルには、CPYをそれぞれ、6.10×10−3、3.05×10−3、1.53×10−3、6.10×10−4、3.05×10−4、1.53×10−4、7.63×10−5、3.81×10−5および0U/μLの濃度で加えた。各ウェルで1μLの反応容器をピペット先端で前後に動かして確実に混合させた。反応は1μL全量がプレート上で蒸発するまで(約10分間)室温で進行させた。その時点で各ウェルに、1:1ACN:0.1%TFAに入れた5mg/mL CHCAの1μLを攪拌せずに加え、質量分析に先立って約10分間蒸発させた。
【0089】
(c)MALDI−TOF質量分析:
VoyagerTMバイオスペクトロメトリーTMワークステーション(マサチューセッツ州ケンブリッジのパーセプティブ・バイオシステムズ社製)を使用してMALDI−TOF質量分析を行なった。質量分析のための1.2mの直線飛行チューブに正に荷電したイオンを導入するために、28.125KVの電圧勾配をサンプル・プレートとイオン光学加速プレートを含むイオン源にかけた。ACTH 7−38フラグメントとグルカゴン消化物のデータを採取するために、低質量ゲートを使用してマトリックス・イオンが検出プレートに衝突しないようにした。低質量ゲートを適用するために、ガイドワイヤにパルスを短時間与えて低質量イオン(約1000ダルトン未満)をそらせた。その他のすべてのスペクトルは低質量ゲートをオフにして記録した。信号/ノイズ比を良くするために、窒素レーザー(337nm)からの64−128シングル・ショットを平均化させて各質量スペクトルに適用した。ここに提示したデータは11ポイントのSavitsky−Golay二次フィルタを使用して滑らかにした。すべてのデータは、ブラジキニン(MH+=1061.2)および酸化インスリンB鎖(MH+=3496.9)(ともにシグマ社から購入)の外部較正用標準混合物を5mg/mL CHCAマトリックス溶液中に1pモル/μLの濃度で使用して較正した。
【0090】
(d)統計的質量割り当て:
以下に詳細を説明するように、ここに開示した統計的プロトコルでは両側t検定の式を使用した:
【0091】
【数3】
【0092】
そしてsは実験の標準偏差である。実験的に導かれたΔ質量へ残基を割り当てるために、各確定平均質量(それぞれ可能性のあるアミノ酸割当て)に対するtcalculatedを、所定の信頼区間でttabledと比較した。「tcalculated>ttabled」は、所定の信頼水準において、実験質量が確定質量とは異なる平均値を有する母集団からくるものであることを示す。
【0093】
実施例2
バイオポリマー類の配列決定
(a)液相配列決定:
図2は、ACTH7−38フラグメントの液相時間依存性CPY消化の1分、5分および25分時点で取り出したアリコートのMALDIスペクトルを示す。ピーク・ラベルの英数字は表示したアミノ酸の消失から得られたペプチド群を示す。C−末端からの19個のアミノ酸のピークの消失が認められる。*記号は2倍に荷電されたイオンを示し、#記号はm/z=2001.0および2744.4ダルトンにおける未確認ピークを示す。
【0094】
酵素消化において相の制御をしないことがペプチド・ラダーを作り出していることがこの図で観察された。消化1分後(図2A)では、完全なACTH 7−38フラグメントおよびC−末端からの最初の8個のアミノ酸の消失を示すペプチド類を含む9個の検出可能ペプチド群がある。5分時点でのアリコート(図2B)は、Ala(32)およびSer(31)の消失が、1分時点でのアリコートよりさらに支配的になっていることを表すペプチド群を示している。この消化時点で、Ala(32)からVal(22)までの11のアミノ酸残基の消失が見られる。図2Cは、4つの主要ペプチド群として最終的に検出されたLys(21)およびVal(20)を示している。酵素濃度を25分時点で2倍に増加したが、24時間までそれ以上の消化は認められなかった。消化はVal(20)まで進み、「ペプチド−KKRRP」という一続きのアミノ酸の位置で停止した。CPYはプロリン(たとえばPro(24))までは迅速に進み得るものの、この場合最後から2番目のアルギニンがCPYに対して不応である組み合わせてであることが証明された。
【0095】
相の制御をしないことと加水分解速度の変化が重なると、酵素的配列決定に特有の問題が生ずる。図2におけるピークのイオン強度の変化は主として加水分解速度によるもので、これはC−末端とその直前位置のアミノ酸の違いによるものである。残基が隣接の残基に比べて低速で加水分解される場合、その濃度と、したがってその残基の消失を表すペプチド群の信号(シグナル)は先行アミノ酸のそれらに比較して小さくなる。これが図2に示されている質量スペクトルに見られる。Ala(34)の切断は緩やかなようであり、Phe(35)の消失を表す大きな信号が見られる。グリシンとバリンの加水分解もまた低速のようであり、Ala(27)とTyr(23)の消失を表すピークはGly(26)とVal(22)のそれらに比べてそれぞれ比較的強い。
【0096】
ここに提示した先行技術の時間依存性の方法は、広範な方法の最適化をしたものであり、最短時間で最大の配列情報を得るように最適化されている。この特に最適化されたケースでは、25分間で検出可能な量のすべての成分が3つの選定時間アリコートに認められた。こうした最適化条件の選択に至る過程で行った多くの予備的な液相消化の場合にはこのようにはならなかった。高濃度のCPYではGlu(28)およびPro(24)の消失を表すピークがしばしば観察されなかったが、これはアラニンとチロシンがそれぞれ末端直前位置にある場合にCPYがこれらの残基を極めて簡単に切断することを示している。低濃度のCPYではすべてのアミノ酸が配列されたが、この場合は十分な消化のためには、たとえば何日もという長時間を必要とすることが多かった。ここに開示したケースでは最終的に、酵素/基質比として1.67x108U CPY/ペプチド・モルが、25分間の消化で十分な配列情報をもたらすことが突きとめられた。
【0097】
代わりに、全反応時間の15秒、105秒、6分、および25分時点でのアリコートを集めると、MALDI分析ではC−末端からのほとんどすべてのアミノ酸の消失を表すピークを含むペプチド・ラダーが形成されていることを示している(図3)。Glu(28)、Asn(25)、およびPro(24)を除いたすべてのアミノ酸消失が観察されたが、観察されなかった3つは6分時点のアリコートでは小さなピークとして存在していたが、この集合画分では検出不能濃度に希釈されていた。
【0098】
Glu(28)、Asn(25)、およびPro(24)の消失を表すペプチド群として配列ギャップが存在することが、信号/ノイズ比3未満で認められる。これらの成分は6分時点アリコートの質量スペクトルでは小ピークとして認められたが、他のアリコートによる4倍希釈では検出できないほどの低濃度となった。このことは各時点アリコートの個々の質量スペクトルを記録しておく必要性を強調するものである。集めたアリコートを表す単一のスペクトルを記録するという時間のかからない方法は、単に配列ギャップを作り出すだけでなく、消化の時間依存性の経過を分からなくしてしまうことになる。
【0099】
上述のように、液相消化には多くの欠点がある。可能性のあるすベての配列情報を保存しながら短時間に顕著な消化を得るためには、多くの時間と、大量の酵素およびペプチドが必要とされる。配列情報を導き出そうとするペプチドそれぞれについて、時間のかかる方法を展開しなければならない。なぜならば1つのペプチドに対する最適条件のセットは、CPYの組成依存的加水分解速度を考えると、別のペプチドに有用ということはありえない。これに代わる戦略は、以下に説明するように消化をMALDIサンプル表面で実施することである。
【0100】
(b)オン・プレートでの配列決定:
図1は、ステンレス・スチールの基盤に1μLのウェルを10×10グリッド状にエッチングしたMALDI分析用のVoyagerTMのサンプル・プレートを示す。これらのウェルは、その中でオン・プレート消化が行われるマイクロ反応容器となる。プレートの形状寸法は57×57mmで、ウェルは直径2.54mmである。
【0101】
酵素と基質合わせて1/2μLをウェルに入れ、ピペット先端で混合した。消化は約10分間、溶剤蒸発によって反応が停止されるまで続けた。この時点で1μLのマトリックスをウェルの中に入れることにより消化混合物を再懸濁させた。CHCAマトリックスは1:1ACN:0.1TFAに溶解されているため、消化混合物からの親水性および疎水性の両方のペプチド群は、低pHでそれ以上のCPY活性が抑制されながら再懸濁されなければならない。マトリックスの結晶状態は(時間法実験に比べて)、オン・プレート消化を行なうことによって変化したようには見えない。このオン・プレート戦略は、複数の濃度依存(時間依存)消化を並行して実施することが可能なために、この方法の最適化する時間を著しく短縮した。また、反応容器から分析プレートへのサンプル移動による損失は、オン・プレート方式を使うことによりすべての消化された物質が質量測定用に使えることになり回避された。
【0102】
図4のパネルAおよびBにはそれぞれ、CPY濃度6.10×10−4および1.53×10−3U/μLのACTH 7−38フラグメントのオン・プレート濃度依存消化に対応するMALDIスペクトルが示されている。パネルAおよびBは、それぞれ6.10×10−4および1.53×10−3U/μlの濃度のCPYを使用した消化で得られたスペクトルを示す。ピーク分解能を犠牲にしてスペクトル中の小ピークのシグナル/ノイズ比を改善するために、閾値より相当大きいレーザー出力を使用した。*記号は2倍に荷電されたイオンを示し、#記号はm/z=2517.6ダルトンにおける未確認ピークを示す。
【0103】
低濃度消化ではC−末端からの11個のアミノ酸消失を表す12の顕著なピークが得られた。高濃度のCPY消化では低濃度消化で存在したペプチド群、ならびにVal(20)までのアミノ酸の消失を表すペプチド群といくらか重複していることを示した。最初の数個のアミノ酸の消失を表すペプチドの濃度は、Leu(37)のピークを除いて検出レベルまで(約10fモル未満)減少した。両図の情報を総合することにより、ACTH 7−38フラグメントの配列はギャップなしにC−末端からの19個のアミノ酸を読み取ることができ、時間依存消化と同じく一続きのアミノ酸「ペプチド−RRKKP」で停止している。図4は、同時に実施した9つのCPY濃度のうちの2つを示す。この場合において、方法の最適化は上述の戦略において本来的に内在するものであった。このオン・プレート方式採用の場合の、方法の進行(最適消化条件選定)、消化、データ収集およびデータ分析の総時間は30分未満であった。ペプチドと酵素両方の消費量は極めて少なく、9つの消化用ウェルとのペプチドおよび水を含む1つウェルを含む1列に並んだ10ウェルで合計5pモルのペプチドが消費された。また、すべての実験で僅か1.97pモルのCPY(100U/mgおよび分子量=61,000として)が必要とされただけであった。
【0104】
【表1】
【0105】
注:1:計算値 2.pH6.5における値 3.配列情報得られず。
【0106】
表1に掲げたのは、この新規オン・プレート戦略を使用して消化および分析したペプチド類である。これらのペプチドはアミノ酸組成、大きさ(分子量=3659.15まで)、電荷および極性の異なるペプチドを表すものとして選択した。太字のアミノ酸は、1列消化から得られた1以上のMALDIスペクトルでその残基の消失を表すピークが観察されたものを示している。残基の同定を可能にするためには、そのアミノ酸の消失を表すピークとその直前のアミノ酸が存在しなければならない。括弧で囲んだ残基は、配列順が導き出されなかったものである。全体としてCPYは消化したペプチドのほとんどについてC−末端からのいくつかの配列情報を提供し、配列情報が得られなかったのは22のケースでわずかに3つだけであった。これら3つのケースのうち2つでは、C−末端がリジンで直前位置が酸性残基であった。CPYはC−末端の塩基性残基に近づくにつれ活性が減ることが報告されているが、隣接する酸性残基の存在がさらに活性を減らすようである。黄体ホルモン放出ホルモン(LH−RH)の場合、直前位置がプロリンのアミド化グリシンのC−末端はCPY活性を抑制したが、これはCPYがプロリンとグリシン残基の両方で抑制されるという報告(ハヤシ[Hayashi]ら(1975)J.Biochem.77:69−79;ハヤシ[Hayashi],R.(1976)Methods Enzymol.45:568−587)と一致している。CPYはジペプチド類のアミド化C−末端残基を加水分解することが知られているが、ここでもフィサラエミン、カシニン、サブスタンスP、ボメシン、およびα−MSHを切断したことが示されている。
【0107】
表1のデータに見られるように、CPYはLH−RHを除き、ブロックされたN−末端残基を有するすべてのペプチドから配列情報を導き出すことができた(フィサラエミン、ボンベシンおよびα−MSH)。これらのペプチド類はエドマン法では全く情報が得られないことから重要なことである。多くのペプチドが、短縮型ペプチドのピークの検出がCHCAマトリックスイオンの存在によって阻害されるところまで(600ダルトン未満)配列決定された。その他のペプチド類の配列決定は、C−末端および直前位置の残基の組み合わせがCPY活性を抑制するところまでは進まなかった。先に議論したようにボンベシン、アンギオゲニンおよびグルカゴンは、緩やかに切断される残基がより迅速に加水分解される残基に続くことから配列にギャップをもたらした。オン・プレートCPY消化/MALDI検出戦略の実行可能性はペプチドの全体的な極性および電荷とは無関係のようである。
【0108】
図5は、それぞれ3.05×10−3、3.05×10−4、および6.10×10−4U/μlのCPY濃度を使用したオン・プレート消化により得られたオステオカルシン7−19フラグメント、アンギオテンシン1およびブラジキニンのオン・プレート消化結果を示す。記号Naはナトリウム付加物のピークを示し、#はm/z=568.5ダルトンにおけるマトリックス・ピークを示す。
【0109】
各スペクトルは1列のウェルで行われた9個の消化のうちの1つの結果を示す。オステオカルシン7−19フラグメントの場合、CPYはプロリンまで進行し(マーチン[Martin],B.(1977)Carlsburg Res.Commun.42:99−102;ブレダム[Breddam]ら、(1987)Carsburg Res.Commun.52:55−63;ブレダム[Breddam],K.ら、(1986)Carsburg Res.Commun.51:83−128;ハヤシ[Hayashi],R.(1977)Methods Enzymol.74:84−94;ハヤシ[Hayashi]ら(1973)J.Biolog.Chem.248:2296−2302)、2つのペプチドのそれぞれ最後から2番目の位置でのAspとHisの存在が以後のCPY活性を抑制した。ブラジキニンは、マトリックスがピーク検出を干渉し始めるまでのものが配列決定された。選択したペプチド3つについてはすべて、全部で9つのウェルでの消化で得られた全体の配列情報を表示の単一の消化で示している。その他多くのペプチドについてはこのようにはしていない。全体の配列情報は、図4に示したACTH 7−38フラグメントの場合のように多くは2以上のウェルから導かれた。
【0110】
実施例3
MALDIによるラダー配列決定の統計的分析
(a)本発明に基づく統計的分析の一般原理
先に開示したように、短縮によるラダーが形成された後マトリックスをウェルに加え、それらのウェルから複数の測定値を取るが、それらのウェルにはアミノ酸の消失を表すピークが存在する。統計的な解釈にはt−検定を使用し、関連する信頼区間での割り当てを行う。1つの実験平均値に対する両側検定に、次の式を適用する。
【0111】
【数4】
【0112】
ただしxは実験平均質量差、μは確定質量差、nは実施した複製標本数であり、そしてsは平均値の実験標準偏差である。すべての測定質量(1残基、2残基、3残基...など、ならびに修飾残基の質量)を確定質量μとして使用してtcalculatedのリストを作り、これを次に特定の信頼区間でt分布表の値と比較する。確定質量と統計的に異ならないすべての質量、つまりtcalculated<ttabled、は所定の信頼水準でその残基に割り当てられる。この情報は仮定の組成物をチェックするため、または配列のデータベースを検索するために使用することができる。データベース検索をする場合、これらの信頼水準は品質的な“ヒット”を得る助けとするための道具として、検索アルゴリズムに利用することができる。
【0113】
さらに、データの解釈にはソフトウェア・フィードバック制御を利用してデータを取得し解釈する自動化されたプロセスを使用した。データ解釈ソフトウェアは、アミノ酸割り当てのための複数の候補を統計的に差別化するのに要求される取得データ数(最低2)をコントロールするものである。オペレータは割り当てに適合する最低の統計的信頼水準の規定をコントロールすることになる。
【0114】
(b)実験的に得た質量/電荷比データの分析:ペプチド類
短縮によるラダーの分析のためにMALDIを使用するのは、本明細書に開示しているように正確な配列データを得るために決定的に重要なことである。先行技術においては、この技法は規定された配列を有するペプチドを配列することに専ら利用されてきたが、その場合は質量の測定精度はあまり重要ではない。対照的に、ここに開示した方法は未知の配列のペプチド類の配列決定に有用なものである。技術者達は従来、既知の分子の質量をMALDIで導かれた質量とほんの数回の質量測定値について比較することにより、計器による質量測定精度について一般的に表現(たとえば、0.1%より良いと)するだけであったが、この質量精度を残基割り当ての目的で個々の質量測定値に当てはめるのは統計的妥当性がない。したがって、真の残基割り当ておよび未知のものに対する直接的な応用は今までは難しくかつ試験的なものであった。アミノ酸配列をラダ一配列決定/MALDI戦略で導き出すためには、本明細書に開示するように統計的な信頼水準を残基割り当てに課さなければならない。
【0115】
残基割り当てに信頼水準を課すためには、まず最初に実験的誤差の性格を規定しなければならない。誤差がランダム(無作為)のシステムにおいては、単純なt−統計学をアミノ酸割り当てに利用することができる。
【0116】
前述の短縮によるペプチド・ラダーのMALDI分析を支配する誤差の性質を評価するために、前記のACTH 7−38フラグメントの時間依存性消化から取り出された15アリコート(各アリコートに1つのスペクトル)で行われたすべてのアミノ酸割り当てに関するΔ質量差(すなわち、実験質量差−実際のアミノ酸質量)を測定して、平均0.0089±0.605(n=107)のガウス分布を得た。この実験におけるtcalculated(0.152)<ttabled(1.99)は、平均Δ質量差=0という帰無仮説は95%信頼水準では棄却できないことを示している。このことは誤差がランダムで、統計的に有意なシステム上の誤差がないことを示している。これは2点の質量測定での不正確なy切片値といった個々のペプチドピークの質量割り当てにおいて存在するシステム上の誤差と同じように、2つの隣接ピークの質量差を計算する時には相殺されるものと考えられる。同位体の部分的分解によって起きる2つの隣接ピークの片方の質量中心の不正確な計算のような、相殺されないシステム上の誤差要素はありうる。この現象は平滑化フィルタの使用によって、すべてのピークが実際の平均質量値で検出されるようにすることによって回避された。
【0117】
【表2】
【0118】
注:*1 表示の質量は平均値で単位はダルトン。
【0119】
*2 実験質量測定値の不確実性は標準偏差で与えられている。(括弧内は平均値の95%信頼区間)
表2はACTH 7−38フラグメントの配列された残基の実際の平均質量、ならびに時間依存性消化について計算した実験質量差とその標準偏差および95%信頼区間を比較したものである。複製の数は、特定の残基の質量差測定に必要な検出可能な隣接ピークを有していたスペクトルの数を示す。平均値を確定するために相当な測定数が必要なことはこの表から明らかであるが、これは95%信頼水準が測定数の平方根で減少するからである。配列されたすべての残基については、実際の質量は実験質量分布の±3σに収まった。それぞれのケースの計算t値は95%信頼区間でttabled未満であり、このことは実験質量が実際の既知の質量とは有意に異なっていなかったということを意味する。統計的に残基に割り当てるためには、それぞれ可能性のあるアミノ酸の計算されたt値(the calculated t−value)をttabledと比較しなければならない。言い換えれば、可能性のある割当てのそれぞれについて、計算されたt値(the calculated t−value)がt分布表の値(the tabulated value)に対して比較され得るように、可能性のあるすべてのアミノ酸の実際の質量を確定平均μとして使用し、そして、帰無仮説(すなわち、
【0120】
【数5】
【0121】
−μ=0)を立てねばならない。
【0122】
20の通常の無修飾アミノ酸だけ可能性があると想定して、これを先行技術の時間依存性ACTH 7−38フラグメント消化について行なった。結果の要約が表3に示されている。太字の数値は実験平均値が確定アミノ酸平均値と大きく異ならなかったものである。ここでも十分な母集団サンプリング数が必要なことは明らかである。Glu(28)についてはわずか2つの測定値だけが観察されたので、95%信頼区間は4.22ダルトンとなった(表2)。このことは、Gln、Lys、GluおよびMetを区分することは不可能ということになる(表3)。Glu(30)が認められた12例から、95%信頼区間は0.39ダルトンとなり、これによりGln、LysおよびMetは統計的にアミノ酸割り当てはできないこととなる。
【0123】
表3は20の通常の無修飾アミノ酸の確定平均値を与えた場合のACTH 7−38フラグメントの19の配列アミノ酸の実験平均値に対する計算t値を表す。ttabledはそれぞれの欄の最後に示されている。tcalculated<ttabledは、実験平均値が95%信頼区間で確定アミノ酸の平均値と有意に異ならないことを示している。このケースに該当するそれぞれのtcalculatedは太字で示されている。
【0124】
【0125】
注:適当な自由度v、ここではv=n−1、に対応するt分布の片側の0.025領域に関するttabled。
【0126】
表4は、先行技術の時間依存性戦略を利用してACTH 7−38フラグメントのC−末端から配列された19のアミノ酸に対する統計的アミノ酸割り当ての結果を要約したものである。表に掲げたアミノ酸の質量はこの信頼水準においては実験的に導かれた質量差と統計的には差が見られない。太字で示されたアミノ酸はその位置に存在する既知の残基である。表示した信頼区間は、示されたもの以外のすべてのアミノ酸質量が実験平均値と統計的に異なるという、最高の水準である。
【0127】
【表4】
【0128】
注:20の通常の無修飾アミノ酸だけを可能性のある候補と想定。
【0129】
たとえば残基21のアミノ酸割り当てにおけるGlnおよびLysの区分は、実験平均値(128.15ダルトン)がちょうどGln(128.13ダルトン)およびLys(128.17ダルトン)の確定平均値を2分したためできなかった。同じ現象は残基37の割り当てについても発生した。実験平均値(113.63ダルトン)がLeu(Ile)の確定平均値(113.16ダルトン)およびAsnの確定平均値(114.10ダルトン)を2分した。28および38位置のアミノ酸の割り当ては、複製数が少ない(それぞれ2および3)ために困難であった。残基28は、95%以上98%以下の信頼区間でGln/Lys/Glu/Metと割り当てられた。表3はこの残基に関して、最小のtcalculatedとなった確定アミノ酸質量はメチオニンのものであることを示している。信頼区間80%を使用すると、Gluの正しい割り当ては統計的にできないと考えられる。同様に残基38の割り当ては95%信頼水準でGln/Lys/Gluとされたが、正しい割り当て(Glu)はここでも80%水準では統計的にできないことになる。
【0130】
誤差はランダムに分散しているため、十分な母集団サンプリングをすることによって、すべてのアミノ酸(LeuおよびIleを除いて)を区別することができる。
【0131】
実験の標準偏差をすべての実験について上記のs=0.604に近似させると、GlnとLys(Δ質量=0.04ダルトン)を95%信頼区間で区別するためには>876の測定値(ttabled=1.960)が必要となる。この数字は実験的には実施不可能なものであるが、実験平均値の標準偏差を小さくすることによってこれを著しく減らすことができる。実験の標準偏差を減らすことは、2つのアミノ酸を区分するのに必要とされるサンプル数が質量差の実験標準偏差の平方根に比例することから、重要な価値を有する。ペプチド母集団を干渉マトリックスの外に移動させるために質量シフト試薬を使用することが、低質量領域(<600ダルトン)に現れるペプチドに関する実験誤差を改善する可能性のある化学的手段と考えられる。リフレクトロンおよび/または拡張型飛行チューブ形状の使用もまた誤差を減らすのに適した器具的な方法と考えられる。
【0132】
ここに開示したオン・プレート戦略を使用した残基の統計的割り当てのプロトコルは、消化を実施する各穴から複数のサンプリングをすることになる。必要とされる複製の数は、1種類のCPY濃度で配列されることになるアミノ酸の種類によって異なる。たとえば、ただ1つの割り当てを除いては統計的に確実にありえないとするためには、113−115ダルトン(Ile/Leu、AsnおよびAsp)ならびに128−129ダルトン(Gln/Lys/Glu)あたりの質量差については、163(Tyr)または57(Gly)あたりの質量差の場合よりもより多くの複製数が必要とされる。この方法(1サンプルにつき複数の複製)の実験誤差は、時間依存性消化(1サンプルにつき1つの複製)と同じようにランダムになると思われる。
【0133】
残基割り当てに関するこの一般的な統計的プロトコルを、2以上のアミノ酸の消失を表す2つの隣接ピークに適用した。このケースでは、t値を計算するためにすべてのジペプチド、トリペプチドなどの確定平均値を使用することができる。
【0134】
残基の順番に関する情報は失われるが、組成は導き出すことができる。ただ1つのアミノ酸およびジペプチド質量を確定平均値として使用して、Phe−Argの配列ギャップを有するアンギオゲニンについて実施した(表1)。Arg(15)とPhe(13)の消失を表すピークの間の平均実験質量差は303.45±0.328(n=5)であった。Phe/Arg以外のすべての単一アミノ酸およびジペプチド質量については、99.8%の信頼区間において計算t値はttabledより大きかった。この特定のケースでは、ギャップを包含するアミノ酸は同定されたが、それらの順番は実験的には解明されなかった。この統計的戦略はまた、ラダー配列決定/MALDI実験の双方向データ分析および解釈を行なうためにコンピュータ・アルゴリズムに組み入れた。
【0135】
かくして上記のように、CPY消化をMALDI検出と組み合わせて使用することは、ここに開示の通りC−末端配列情報を得るのに有効であった。ACTH 7−38フラグメントでは、C−末端からギャップなしに19のアミノ酸の配列情報が得られた。このオン・プレートの濃度依存性による方式は、時間と試薬を消費する展開方法を回避して、複数の消化を並行して行なう方法として有用であることを示している。
【0136】
このオン・プレート戦略は物理的な操作が少なく、かつ酵素とペプチドの総量が少なくて済む。オン・プレート方式を利用した22ペプチドでの試みでは、3例を除いてすべてが何らかのC−末端配列情報を得ることに成功した。CPYはまたアミド化C−末端残基を切断するが、C−末端およびその直前位置に存在する特定の残基の組み合わせに対しては活性を有さないことが示された。
【0137】
要約すれば、“オン・プレート”のCおよびN末端ペプチド・ラダー配列決定実験から残基割り当てを作り出すための統合された1つの戦略が開発された。この戦略は以下の作業の論理的な組み合わせをベースとしたものである: 1)VoyagerTMサンプル・プレートのμL穴をマイクロ反応容器として使用する濃度依存性エキソペプチダーゼ消化戦略からペプチド・ラダーを作り出し、 2)ペプチド・フラグメントの質量を割り出すための道具としてVoyagerTM MALDI−TOFワークステーションを使用し、 3)t統計学をベースとした解釈アルゴリズムにより確定割り当て候補を排除し、そして、 4)統計をベースとした割り当てを完全に行うか、またはコスト効果の高い点まで導くために取得する複製数を統御する解釈アルゴリズムからのデータ取得ソフトウェアのフィードバック制御。
【0138】
(c)実験的に得た質量/電荷比データの分析:核酸類 ここに開示した方法をまた、40塩基を含む核酸ポリマーに関する配列情報を得るために使用した。3’末端に特異性のエキソヌクレアーゼを使用した加水分解を、0.002μU/μLから0.05μU/μLの範囲の異なる濃度のPhos I(ホスホジエステラーゼI)を使用して行なった。加水分解は3分間進行させた。MALDI−T0Fを使用した加水分解配列のスペクトルが図6A−6Eに示されている。本明細書に開示したデータ統合により、この配列は、CGC TCT CCC TTA TGC GAC TCC TGC ATT AGG AAG CAG CCC A(配列番号23)であると確認された。
【0139】
別の実験において、光吸収性マトリックスCHCAの添加を評価した。40塩基を含む核酸ポリマー(上記の通り)をマトリックスと、5’末端に特異性のエキソヌクレアーゼPhos II(ホスホジエステラーゼII)0.4μU/μLに混合した。マトリックスの存在下での加水分解を10分間進行させた。MALDI−TOFにより得られたそのスペクトルを図7に示す。これらのデータは、ポリマー、加水分解剤およびマトリックスを質量スペクトル分析に先立って混合する効力を裏付けている。この混合によって試薬の取り扱い操作が減り、サンプルの処理が促進される。図7と同様のデータを使用して、この核酸ポリマーの配列が上記の通りであることが追認された。
【0140】
実施例4
本発明のその他の利用
本明細書に開示したように、この戦略は、蛋白質、ペプチド、核酸、炭水化物、およびそれらの修飾物などの天然バイオポリマー、ならびにPNAやチオリン酸化核酸などの合成バイオポリマー類すべての配列に適用することができる。ラダーはエキソヒドロラーゼ類、エンドヒドロラーゼ類を使用して酵素的に、あるいはサンガー法および/または短縮による合成または失敗配列による化学的な方法により作り出すことができる。
【0141】
本明細書に開示したCPY/MALDIラダー配列決定法の有用性を拡大するために、その他の方式を取り入れることができると考えられる。
【0142】
たとえば、異なる酵素特異性を利用することにより、CPY活性を抑制する残基の組み合わせを配列する手段ならびに配列ギャップを防止する手段として、開示したオン・プレート戦略を利用したカルボキシペプチダーゼ混合物の使用を進めることができる。また、小ペプチド類にN−末端および/またはC−末端リンカーを共有結合させることにより、すべての配列ピークを低質量マトリックス領域外に現れるようにすることも考えられる。MALDIを上記のカルボキシペプチダーゼ混合物と質量シフト試薬修正物と組み合わせることによって、ギャップなしにペプチドのN−末端を完全に配列決定することができることも考えられる。
【0143】
均等
本発明の精神または基本的な特徴から逸脱することなく、本発明をその他特定の形で実施することができるであろう。したがって前記の実施態様は、すべての点においてここに開示した発明を限定するものではなく、説明するためのものである。したがって本発明の範囲は、前記の説明によるものではなく添付の請求項により示されるものとし、それら請求項の意味するところと均等範囲内にあるすべての変更は本発明の範疇に属するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】図1は、MALDI分析のための例示的なサンプル・プレートまたはサンプル・ホルダである。ウェルはマイクロ反応容器として働き、その中でオン・プレート消化が行われる。プレートの寸法は57×57mmで、ウェルは直径2.54mmである。
【図2A】図2A、2Bおよび2Cは、ACTH 7−38フラグメント[FRWGKPVGKKRRPVKVYPNGAEDESAEAFPLE](配列番号22)の時間依存性CPY消化における1分(2A)、5分(2B)、および25分(2C)のMALDIスペクトルを示す。ピーク・ラベルの英数字は、示されたアミノ酸の消失により生じたペプチド群を示す。ピークはC末端からの19個のアミノ酸の消失を示す。*記号は2倍に荷電されたイオンを示し、#記号はm/z=2001.0および2744.4ダルトンにおける未確認ピークを示す。
【図2B】図2A、2Bおよび2Cは、ACTH 7−38フラグメント[FRWGKPVGKKRRPVKVYPNGAEDESAEAFPLE](配列番号22)の時間依存性CPY消化における1分(2A)、5分(2B)、および25分(2C)のMALDIスペクトルを示す。ピーク・ラベルの英数字は、示されたアミノ酸の消失により生じたペプチド群を示す。ピークはC末端からの19個のアミノ酸の消失を示す。*記号は2倍に荷電されたイオンを示し、#記号はm/z=2001.0および2744.4ダルトンにおける未確認ピークを示す。
【図2C】図2A、2Bおよび2Cは、ACTH 7−38フラグメント[FRWGKPVGKKRRPVKVYPNGAEDESAEAFPLE](配列番号22)の時間依存性CPY消化における1分(2A)、5分(2B)、および25分(2C)のMALDIスペクトルを示す。ピーク・ラベルの英数字は、示されたアミノ酸の消失により生じたペプチド群を示す。ピークはC末端からの19個のアミノ酸の消失を示す。*記号は2倍に荷電されたイオンを示し、#記号はm/z=2001.0および2744.4ダルトンにおける未確認ピークを示す。
【図3】図3は、ACTH 7−38フラグメントの時間依存性CPY消化からの15秒、105秒、6分および25分の反応を停止させたアリコートを集めて混ぜ合わせたものを示すMALDI質量スペクトルである。6分のアリコートで小ピークとして認められ、かつこの集められた画分では希釈されて検出できない濃度となったGlu(28)、Asn(25)およびPro(24)を除いて、すべてのアミノ酸消失が認められる。すべての条件は本文中に記載されている。
【図4A】図4Aおよび図4Bは、種々の濃度のカルボキシペプチダーゼY(CPY)(6.10x10−4U/μL(4A);1.53x10−3U/μL(4B)によるACTH 7−38フラグメントのオン・プレート消化による種々のMALDIスペクトルを示す。パネルAおよびBは、それぞれ6.10x10−4および1.53x10−3U/μLの濃度のCPYを使用した消化で得られたスペクトルを示す。ピーク分解能を犠牲にしてスペクトル中の小ピークのシグナル/ノイズ比を改善するために、閾値より相当大きいレーザー出力を使用した。*記号は2倍に荷電されたイオンを示し、#記号はm/z=2517.6ダルトンにおける未確認ピークを示す。
【図4B】図4Aおよび図4Bは、種々の濃度のカルボキシペプチダーゼY(CPY)(6.10x10−4U/μL(4A);1.53x10−3U/μL(4B)によるACTH 7−38フラグメントのオン・プレート消化による種々のMALDIスペクトルを示す。パネルAおよびBは、それぞれ6.10x10−4および1.53x10−3U/μLの濃度のCPYを使用した消化で得られたスペクトルを示す。ピーク分解能を犠牲にしてスペクトル中の小ピークのシグナル/ノイズ比を改善するために、閾値より相当大きいレーザー出力を使用した。*記号は2倍に荷電されたイオンを示し、#記号はm/z=2517.6ダルトンにおける未確認ピークを示す。
【図5A】図5A、5Bおよび5Cは、以下の3種類の選定ペプチドのそれぞれ3.05×10−3、3.05×10−4、および6.10×x10−4U/μLの濃度のCPYを使用したオン・プレート消化により得られた種々のMALDIスペクトルを示す:オステオカルシン7−19フラグメント[GAPVPYPDPLEPR(配列番号13)(5A)、アンギオテンシン1[DRVYIHPFHL(配列番号8)(5B)、およびブラジキニン[RPPGFSPFR](配列番号5)(5C)。記号Naはナトリウム付加物のピークを示し、#はm/z=568.5ダルトンにおけるマトリックス・ピークを示す。
【図5B】図5A、5Bおよび5Cは、以下の3種類の選定ペプチドのそれぞれ3.05×10−3、3.05×10−4、および6.10×x10−4U/μLの濃度のCPYを使用したオン・プレート消化により得られた種々のMALDIスペクトルを示す:オステオカルシン7−19フラグメント[GAPVPYPDPLEPR(配列番号13)(5A)、アンギオテンシン1[DRVYIHPFHL(配列番号8)(5B)、およびブラジキニン[RPPGFSPFR](配列番号5)(5C)。記号Naはナトリウム付加物のピークを示し、#はm/z=568.5ダルトンにおけるマトリックス・ピークを示す。
【図5C】図5A、5Bおよび5Cは、以下の3種類の選定ペプチドのそれぞれ3.05×10−3、3.05×10−4、および6.10×x10−4U/μLの濃度のCPYを使用したオン・プレート消化により得られた種々のMALDIスペクトルを示す:オステオカルシン7−19フラグメント[GAPVPYPDPLEPR(配列番号13)(5A)、アンギオテンシン1[DRVYIHPFHL(配列番号8)(5B)、およびブラジキニン[RPPGFSPFR](配列番号5)(5C)。記号Naはナトリウム付加物のピークを示し、#はm/z=568.5ダルトンにおけるマトリックス・ピークを示す。
【図6A】図6A−6Eは、種々の濃度(0.002μU/μL(6A);0.005μU/μL(6B);0.01μU/μL(6C);0.02μU/μL(6D);0.05μU/μL(6E))のホスホジエステラーゼI(PhosI)による核酸ポリマー(配列番号23)のエキソヌクレアーゼ加水分解の種々のMALDIスペクトルを示す。
【図6B】図6A−6Eは、種々の濃度(0.002μU/μL(6A);0.005μU/μL(6B);0.01μU/μL(6C);0.02μU/μL(6D);0.05μU/μL(6E))のホスホジエステラーゼI(PhosI)による核酸ポリマー(配列番号23)のエキソヌクレアーゼ加水分解の種々のMALDIスペクトルを示す。
【図6C】図6A−6Eは、種々の濃度(0.002μU/μL(6A);0.005μU/μL(6B);0.01μU/μL(6C);0.02μU/μL(6D);0.05μU/μL(6E))のホスホジエステラーゼI(PhosI)による核酸ポリマー(配列番号23)のエキソヌクレアーゼ加水分解の種々のMALDIスペクトルを示す。
【図6D】図6A−6Eは、種々の濃度(0.002μU/μL(6A);0.005μU/μL(6B);0.01μU/μL(6C);0.02μU/μL(6D);0.05μU/μL(6E))のホスホジエステラーゼI(PhosI)による核酸ポリマー(配列番号23)のエキソヌクレアーゼ加水分解の種々のMALDIスペクトルを示す。
【図6E】図6A−6Eは、種々の濃度(0.002μU/μL(6A);0.005μU/μL(6B);0.01μU/μL(6C);0.02μU/μL(6D);0.05μU/μL(6E))のホスホジエステラーゼI(PhosI)による核酸ポリマー(配列番号23)のエキソヌクレアーゼ加水分解の種々のMALDIスペクトルを示す。
【図7】図7は、加水分解された核酸ポリマー(配列番号23)と光吸収性マトリックスの組み合わせめMALDIスペクトルを示す。(配列表)
【0145】
【数6−1】
【0146】
【数6−1】
【0147】
【数6−1】
【0148】
【数6−1】
【0149】
【数6−1】
【0150】
【数6−1】
【0151】
【数6−1】
【0152】
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【0153】
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【0156】
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【0157】
【数6−1】
【0158】
【数6−1】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、質量スペクトル分析を用いてポリマー類、特にバイオポリマー(生物高分子物質)類の配列を決定するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
生化学者達は、バイオポリマーの配列の信頼性の高いかつ迅速な決定に頼ることが多い。たとえば、配列情報はペプチド・スクリーン、遺伝子プローブ、遺伝子マッピング、および薬剤モデル化の研究および開発、ならびに診断用および/または治療用に製造されるバイオポリマー類の品質管理に極めて重要なものである。
【0003】
アミノ酸、炭水化物およびヌクレオチド類で構成されたポリマー類の配列決定用としては各種の方法が知られている。たとえば、ペプチド配列決定のための既存の方法としては、エドマン分解のN末端化学法、NおよびC末端の酵素的方法、ならびにC末端化学法がある。オリゴヌクレオチド類の配列決定の既存の方法としては、マクサムーギルバート[Maxam−Gilbert]塩基特異性化学開裂法、およびジデオキシ塩基特異性ターミネーション法による酵素的ラダー(段階的)合成法がある。それぞれの方法には固有の限界があるため、それらを専ら完全な一次構造同定のために使用することが妨げられている。今日までのところ、エドマン配列法およびその応用法が特定の蛋白質およびペプチド類の残基ごとの配列決定のために最も広く使用されている道具となっており、一方酵素的合成法はオリゴヌクレオチド類の配列決定に好適とされている。
【0004】
蛋白質およびペプチド配列決定の場合には、化学法によるC末端配列決定は特に難しいとされており、せいぜいほんの少し役に立つ程度である(たとえば、スピース[Spiess],J.(1986)蛋白質特性付け法:実用ハンドブック(シブリー[Shively],J.E.編)、Humana Press、N.J.刊)363−377頁;ツギタ[Tsugita]ら(1994)J.Protein Chemistry、13:476−479参照)。
【0005】
その結果、C末端は信頼性の高い方法がないためにしばしば分析できない領域として残っている。
【0006】
ペプチドおよびオリゴヌクレオチド類の場合はともに、化学配列決定に代わる方法は酵素開裂配列決定法である。オリゴヌクレオチド類の場合、150以上の異なる酵素が単離されており、これらはオリゴヌクレオチド・フラグメントの調製に好適とされている。ペプチド類の場合は、セリンカルボキシペプチダーゼ類が蛋白質またはペプチドのC末端からアミノ酸を残基ごとに順番に開裂させる簡単な方法を提供するものとして過去20年以上にわたり多用されている。
【0007】
カルボキシペプチダーゼY(CPY)は特に、プロリンを含めすベての残基をC末端から非特異的に開裂するということから魅力的な酵素である(たとえば、ブレダム[Breddam]ら、(1987)Carlsburg Res.Commun.52:55−63参照)。
【0008】
カルボキシペプチダーゼ消化によるペプチド類の配列決定は伝統的に、解離されたアミノ酸を残基ごとに手間のかかる直接分析することによって行われてきた。この方法は手間がかかるだけでなく、酵素および蛋白質/ペプチド溶液中のアミノ酸夾雑物や酵素の自己分解によって複雑なものとなる。この種の配列決定作業すべてにおけるさらなる障害は、使用する特定の酵素による個々の残基の加水分解および解離に関する良好な動力学的情報が絶対的に必要とされる点である。
【0009】
フィールド・ディソープション法(ホン[Hong]ら(1983)、Biomed.Mass Spectrom.10:450−457)、エレクトロ・スプレー法(スミス[Smith]ら(1993)4 Techniques Protein Chem.463−470)、およびサーモ・スプレ一法(スタチョイアック[Stachowiak]ら(1988)、J.Am.Chem.Soc.110:1758−1765)など、高質量物質の分析が可能な質量スペクトル分析技術の進歩によって、CPY消化で得られるペプチド・フラグメントなどの配列順序が保存されている大きなバイオポリマー類の直接質量分析を行なうことが可能となり、解離されたアミノ酸を残基ごとにアミノ酸分析をする必要性が回避されることとなった。この“ラダー(段階的)”配列決定方式では、隣接するペプチドピーク間の質量差を計算することにより、配列を正しい順序で導き出すことができる−つまり、測定された差は特定のアミノ酸残基の消失を表すものである。
【0010】
さらに最近では、飛行時間型のマトリックス支援レーザー・ディソープション・イオン化(飛行時間型マトリックス支援レーザー脱離イオン化)(MALDI−TOF:Matrix−Assisted Laser Desorption ionization Time−of−Flight)質量スペクトル分析もまた、高い感度、分解能、および質量精度を有するとして、ラダー配列分析に好適であることが示されている。チャイト[Chait]ら((1993)262 Science 89−92)はこうしたMALDI−TOFの長所を、エドマン分解法による化学消化の各ステップの部分的遮断により形成されるN末端ラダーのラダー配列決定に活用している。この方式もなお、プロセスの複雑さ、時間のかかるプロセスの性質、ならびにC末端情報の欠如といった従来のエドマン化学と同じ限界を抱えている。しかしながら、この方法はペプチドラダー・シナリオを使用したペプチドの配列決定に対するMALDI−TOFの有用性を認めるものである。他の研究者達もまた、得られた短縮によるペプチド混合物を分析するためにペプチドのカルボキシペプチダーゼ消化をMALDI−TOFと組み合わすことができることを示している。たとえば、ヒト副甲状腺ホルモンの1−34フラグメントのC末端から8つの連続したアミノ酸配列が決定されている(シャー[Schar]ら(1991)、Chimia 45:123−126)。
【0011】
さらに、ペプチドのカルボキシペプチダーゼ消化はプラズマ・ディソープション法などその他の質量分析法とも組み合わされている(ワン[Wang]ら(1992)Techniques Protein Chemistry III(R.H.アンゲレッティ[Angeletti]編、Academic Press,,N.Y.刊)503−515頁)。しかしながら上述の配列決定方法はすべて、単調かつ時間のかかる予備的な最適化ステップを必要とする。さらに、そうした予備的最適化ステップは試薬ならびに通常限られた量しか得られないポリマーのサンプルを不必要に消費してしまう。そのうえ、上述の配列決定方法は終局的には数が限られた単一の質量分析スペクトルおよび単一の質量/電荷比データに頼ることになり、これは最終的なポリマー配列を決定するためには統計的に不十分な根拠を与えるものにしかならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的の1つは、質量分析およびポリマーの時間非依存性/濃度依存性の加水分解を利用して、ポリマー類、特にバイオポリマー類の配列決定を行なうための方法および装置を提供することにある。さらに詳細には、複数の並列質量スペクトルから得られる質量/電荷比データを総合することをベースとするデータ解釈戦略を組み入れた配列情報を得るための方法を提供するのが本発明の1つの目的である。本発明の別の目的は、先行技術の方法で必要とされる時間のかかる最適化および方法強化を回避して、配列情報を得るための迅速な方法を提供することにある。本発明のさらなる目的は、感度の高い質量分光分析と、加水分解を質量スペクトル分析と緊密に統合することによるサンプル損失の排除を組み合わせて、少ないポリマー総量を使用して配列情報を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の要旨
本発明によって以下が提供される:
(1)a)1以上のモノマーが異なるポリマー・フラグメントのセットを提供するステップと、
b)少なくとも一対のフラグメント間の質量/電荷比の差xを測定するステップと、
c)ステップbで測定されたフラグメント対の質量/電荷比間の平均差μ、ただしμは1以上の異なるモノマーの既知の質量/電荷比に相当するもの、を確定するステップと、 d)μに対する望ましい信頼水準を選定するステップと、
e)選定した信頼水準においてxが統計的にμと異なるかどうかを判断するためにxを分析するステップと、
を含む、質量既知の複数のモノマーを含むポリマーに関する配列情報を得る方法。
(2)ステップe)の分析において確定された統計的差が、選定した信頼水準において確定平均μを質量差xに割り当てできないことを示す項目1記載の方法。
(3)ステップc)からe)のステップを全ての望ましいμが確定されるまで繰り返すことを含む項目2の方法。
(4)ステップe)の分析が、1実験平均に対する両側t検定を含む項目2記載の方法。
(5)ステップe)における分析が、
f)ステップb)を複数回であるn回繰り返し、少なくとも一対のフラグメント間の測定平均質量/電荷比の差
【化1】
を決定するステップと、
g)ステップf)で決定した平均質量/電荷比の
【化2】
、標準偏差sを決定するステップと、
h)
【化3】
を確定平均差μと比較するステップと、
i) ステップc)からh)のステップを全ての望ましいμが確定されるまで繰り返すステップを含む、項目1記載の方法。
(6)
追加のフラグメント対についてステップb)からステップi)までを繰り返すことを含む項目5記載の方法。
(7)
ステップh)の比較が確定平均差の絶対値を取ることである項目5記載の方法。
(8)
ステップe)の分析に基づいて測定回数nを決定するステップをさらに含む項目5記載の方法。
(9)ポリマーがバイオポリマーである項目1記載の方法。
(10)バイオポリマーが、DNA、RNA、PNA、蛋白質、ペプチド、炭水化物およびそれらの修飾物類からなる群より選択される項目9記載の方法。
(11)ステップa)でポリマー・フラグメントを得るためにポリマーを加水分解するステップをさらに含む項目1記載の方法。
(12)反応表面においてポリマーを加水分解剤により加水分解することをさらに含む項目1記載の方法。
(13)ポリマーが反応表面で加水分解され、当該表面が異なる量の加水分解剤を提供し、該加水分解剤が該ポリマーを加水分解することによって、前記ポリマーのモノマー間結合を破壊する、項目12記載の方法。
(14)加水分解剤がエキソヒドロラーゼまたはエンドヒドロラーゼである項目11、12または13記載の方法。
(15)前記エキソヒドロラーゼによる加水分解が前記ポリマーの配列決定ラダーを含む一連のフラグメントを産生するものである項目14記載の方法。
(16)エキソヒドロラーゼが、エキソヌクレアーゼ、エキソグリコシダーゼ、およびエキソペプチダーゼからなる群より選択される項目15記載の方法。
(17)エキソペプチダーゼが、カルボキシペプチダーゼY、カルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼB、カルボキシペプチダーゼP、アミノペプチダーゼ1、ロイシンアミノペプチダーゼ、プロリンアミノジペプチダーゼおよびカテプシンCからなる群より選択される項目16記載の方法。
(18)エキソグリコシダーゼが、
a)α−マンノシダーゼI
b)α−マンノシダーゼ
c)β−ヘキソサミニダーゼ
d)β−ガラクトシダーゼ
e)α−フコシダーゼIおよびII
f)α−ガラクトシダーゼ
g)α−ノイラミニダーゼ
h)α−グルコシダーゼIおよびII、
からなる群より選択される、項目16記載の方法。
(19)エキソヌクレアーゼが、
a) エキソヌクレアーゼ
b) λ−エキソヌクレアーゼ
c) t7遺伝子エキソヌクレアーゼ
d) エキソヌクレアーゼIII
e) エキソヌクレアーゼI
f) エキソヌクレアーゼV
g) エキソヌクレアーゼII
h) DNAポリメラーゼII、
からなる群より選択される、項目16記載の方法。
(20)前記エンドヒドロラーゼによる加水分解が前記ポリマーのマップを規定する一連のフラグメントを産生するものである項目14記載の方法。
(21)前記エンドヒドロラーゼが、トリプシン、キモトリプシン、エンドプロテイナーゼLys−C、エンドプロテイナーゼArg−Cおよびテルモリシンからなる群より選択されるエンドペプチダーゼである項目20記載の方法。
(22)薬剤が酵素以外の加水分解剤である、項目12記載の方法。
(23)前記ポリマーを加水分解する能力のある前記薬剤が、少なくとも1酵素と酵素以外の少なくとも1つの薬剤の組み合わせを含む、項目12記載の方法。
(24)反応表面が区分された分離できるゾーンのアレイを包含し、各ゾーンが異なる量の前記加水分解剤を含むものである、項目13記載の方法。
(25)反応表面が前記加水分解剤の非区分勾配を含むものである項目13記載の方法。
(26)前記反応表面が一定量の前記ポリマーを含むものである項目12記載の方法。
(27)前記反応表面が異なる量の前記ポリマーの区分された分離できるゾーンのアレイを含むものである、項目12記載の方法。
(28)前記反応表面が前記ポリマーの非区分勾配を含むものである項目12記載の方法。
(29)前記反応表面が一定量の前記薬剤を含むものである項目12記載の方法。
(30)ステップb)で質量/電荷比を測定する前に、さらにポリマー・フラグメントにマトリックスを添加することを含む項目1記載の方法。
(31)前記比をマトリックス支援レーザー・ディソープション質量分析法により分析する項目1記載の方法。
(32)ステップb)がプラズマ・ディソープション・イオン化またはファースト・アトム・バンバードメント・イオン化により行われる項目1記載の方法。
(33)ステップb)が飛行時間型、四重極型、イオントラップ型、およびセクター型からなる群より選択される質量分析方式を用いて行われる項目1記載の方法。
(34)前記反応表面が、その上にマイクロ反応容器が配置された質量分析計サンプル・ホルダを含む項目12記載の方法。
(35)前記反応表面が、質量分析計サンプル・プローブを含む、項目12記載の方法。
(36)前記反応表面が金属、箔、プラスチック、セラミック、およびワックス類からなる群より選択される基質を含むものである項目12記載の方法。
(37)加水分解が脱水した加水分解剤を用いて前記反応表面上で行われる項目12記載の方法。
(38)加水分解が前記薬剤を前記反応表面上に固定化することにより行われる項目12記載の方法。
(39)加水分解が液体またはゲル形状の加水分解剤を使用して行われ、当該液状またはゲル形状の加水分解剤が物理的転移に抵抗性のあるものである項目12記載の方法。
(40)ステップb)の前に、光吸収性マトリックスを前記フラグメントと組み合わせる追加のステップを含む項目1記載の方法。
(41)ステップb)の前に、加水分解された配列の質量を選択的にシフトするための成分を前記ポリマー・フラグメントと組み合わせる追加のステップを含む、項目1記載の方法。
(42)ステップb)の前に、イオン化を改善するための成分を前記ポリマー・フラグメントと組み合わせる追加のステップを含むこ、項目1記載の方法。
(43)
a)1以上のモノマーが異なるポリマー・フラグメントのセットを供するステップと、
b)一対のフラグメントの質量/電荷比の差xを測定するステップと、
c)1以上のモノマーの既知の質量/電荷比に関連する平均差μを確定するステップと、 d)μに対する望ましい信頼水準を選定するステップと、
e)測定回数nとするためにステップb)を繰り返すことにより、一対のフラグメント間の測定平均質量/電荷比の差xを決定するステップと、
f)ステップe)で決定した測定平均質量/電荷比の差xの標準偏差sを決定するステップと、
g)下記の演算式:によりテストの統計tcalculatedを計算するステップ、
を含むポリマーに関する配列情報を得る方法。
(44)ステップg)における計算した検定統計量tcalculatedを測定回数および望ましい信頼水準に相当するt分布と比較することをさらに含む項目43記載の方法。
(45)追加のフラグメント対についてステップb)からステップg)までを繰り返すことにより、配列情報を得ることをさらに含む項目43記載の方法。
(46)測定数nをステップh)での比較に基づいて決定するステップをさらに含む項目44記載の方法。
(47)ポリマーがバイオポリマーである項目43記載の方法。
(48)バイオポリマーがDNA、RNA、PNA、蛋白質、ペプチド、炭水化物およびそれらの修飾物類からなる群より選択される項目47記載の方法。
(49)ステップa)でフラグメントを得るためにポリマーを加水分解剤で加水分解するステップをさらに含む項目43記載の方法。
(50)加水分解剤が、前記ポリマーの配列を規定するラダーを含む一連のフラグメントを産生するエキソヒドロラーゼである項目49記載の方法。
(51)エキソヒドロラーゼがエキソヌクレアーゼ、エキソグリコシダーゼ、およびエキソペプチダーゼ類からなる群より選択される項目50記載の方法。
(52)エキソペプチダーゼが、カルボキシペプチダーゼY、カルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼB、カルボキシペプチダーゼP、アミノペプチダーゼ1、ロイシンアミノペプチダーゼ、プロリンアミノジペプチダーゼおよびカテプシンCからなる群より選択される項目51記載の方法。
(53)エキソグリコシダーゼが、 a) α−マンノシダーゼI b) α−マンノシダーゼ c) β−ヘキソサミニダーゼ d) β−ガラクトシダーゼ e) α−フコシダーゼIおよびII f) α−ガラクトシダーゼ g) α−ノイラミニダーゼ h) α−グルコシダーゼIおよびII、からなる群より選択される項目51記載の方法。
(54)エキソヌクレアーゼが、
a)エキソヌクレアーゼ
b)λ−エキソヌクレアーゼ
c)t7遺伝子エキソヌクレアーゼ
d)エキソヌクレアーゼIII
e)エキソヌクレアーゼI
f)エキソヌクレアーゼV
g)エキソヌクレアーゼII
h) DNAポリメラーゼII、
からなる群より選択される項目51記載の方法。
(55)加水分解剤が酵素以外のものである項目49記載の方法。
(56)前記薬剤が、少なくとも1酵素と酵素以外の少なくとも1つの薬剤の組み合わせを含むものである項目49記載の方法。
(57)加水分解が反応表面で行われ、当該表面が異なる量の加水分解剤を提供する項目49記載の方法。
(58)反応表面が区分された分離できるゾーンのアレイを包含し、各ゾーンが異なる量の前記加水分解剤を含むものである項目57記載の方法。
(59)反応表面が加水分解剤の連続濃度勾配を含むものである項目49記載の方法。
(60)ステップb)で質量/電荷比を測定する前に、さらにポリマー・フラグメントにマトリックスを添加することを含む項目43記載の方法。
(61)
a)1以上のモノマーが異なるポリマー・フラグメントのセットを供するステップと、
b)一対のフラグメント間の質量/電荷比の差xを測定するステップと、
c)ステップbで測定されたフラグメント対の質量/電荷比に関連する平均差μ、
ただしμは1以上の異なるモノマーの既知の質量/電荷比に相当するもの、を確定するステップと、
d)μに対する望ましい信頼水準を選定するステップと、
e)選定した信頼水準においてxが統計的にμと異なるかどうかを判断するためにXを分析するステップと、
f)ステップb)−e)を、全ての望ましいμが確定されるまで複数回であるn回繰り返すステップと、
g)ステップb)−f)を追加のフラグメント対について繰り返すステップ、
とを含む質量既知の複数のモノマーを有するポリマーに関する配列情報を得る方法。
(62)ポリマーがバイオポリマーである項目61記載の方法。
(63)バイオポリマーがDNA、RNA、PNA、蛋白質、ペプチド、炭水化物およびそれらの修飾物類からなる群より選択される項目62記載の方法。
(64)ステップa)のポリマーフラグメントがポリマーの濃度依存性加水分解により作り出される項目61記載の方法。
(65)ステップa)でポリマー・フラグメントを作り出すために、さらに前記ポリマーを加水分解剤により加水分解するステップをさらに含む項目61記載の方法。
(66)加水分解剤がエキソヒドロラーゼである項目65記載の方法。
(67)前記エキソヒドラーゼによる加水分解が、前記ポリマーのラダーを規定する一連のフラグメントを産生する項目66記載の方法。
(68)エキソヒドロラーゼが、エキソヌクレアーゼ、エキソグリコシダーゼ、およびエキソペプチダーゼ類からなる群より選択される項目66記載の方法。
(69)エキソグリコシダーゼが、
a)α−マンノシダーゼI
b)α−マンノシダーゼ
c)β−ヘキソサミニダーゼ
d)β−ガラクトシダーゼ
e)α−フコシダーゼIおよびII
f)α−ガラクトシダーゼ
g)α−ノイラミニダーゼ
h)α−グルコシダーゼIおよびII、
からなる群より選択される項目68記載の方法。
(70)エキソヌクレアーゼが、
a)エキソヌクレアーゼ
b)λ−エキソヌクレアーゼ
c)t7遺伝子エキソヌクレアーゼ
d)エキソヌクレアーゼIII
e)エキソヌクレアーゼI
f)エキソヌクレアーゼV
g)エキソヌクレアーゼII
h)DNAポリメラーゼII、
からなる群より選択される項目68記載の方法。
(71)エキソペプチダーゼが、カルボキシペプチダーゼY、カルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼB、カルボキシペプチダーゼP、アミノペプチダーゼI、ロイシンアミノペプチダーゼ、プロリンアミノペプチダーゼおよびカテプシンCからなる群より選択される項目68記載の方法。
(72)前記薬剤が酵素以外の加水分解剤を含む項目65記載の方法。
(73)ポリマー・フラグメントが、少なくとも1酵素と酵素以外の少なくとも1つの薬剤の組み合わせを用いる加水分解により得られる項目65記載の方法。
(74)加水分解が反応表面で起こり、当該表面が異なる量の加水分解剤を提供する項目65記載の方法。
(75)反応表面が区分された分離できるゾーンのアレイを包含し、各ゾーンが異なる量の加水分解剤を含む項目74記載の方法。
(76)反応表面が前記加水分解剤の濃度勾配を含む項目74記載の方法。
(77)ステップb)で質量/電荷比を測定する前に、さらにポリマー・フラグメントにマトリックスを添加することを含むことを特徴とする項目61記載の方法。
(78)a)それぞれ1以上のモノマーの異なるポリマー・フラグメントのセットを保持するサンプル・プレートを有する質量分析計と、b)i)一対のポリマー・フラグメント間の質量/電荷比の差xを決定し、ii)ステップi)で決定されたフラグメント対の質量/電荷比間の平均差μ、ただしμは1以上の異なるモノマーの既知の質量/電荷比に相当するもの、を確定し、iii)統計的差が確定平均μは望ましい信頼水準においてxに割り当てられないことを示すものである場合に、望ましい信頼水準においてxが統計的にμと異なるかどうかを判断するためにxを分析し、iv)ステップii)−iii)を、全ての望ましいμが確定されるまで繰り返し、v)ステップi)−iv)を追加のフラグメント対について繰り返す、ための質量分析計に応答するコンピュータを備える、質量既知の複数のモノマーを有するポリマーに関する配列情報を得るための装置。
(79)コンピュータがポリマー・フラグメント対間の確定質量/電荷比の差を決定する項目78記載の装置。
(80)サンプルプレートが、前記ポリマーを加水分解することによってモノマー間結合を破壊する加水分解剤の異なる量を提供する反応表面を含む項目78記載の装置。
(81)前記反応表面が前記薬剤の異なる量の区分された分離できるゾーンのアレイまたは前記薬剤の比区分勾配のアレイを含む項目80記載の装置。
(82)前記反応表面が前記薬剤の勾配を含む項目80記載の装置。
(83)マトリックス支援レーザー・ディソープション質量分析計に好適な光吸収性マトリックスをさらに含む項目78記載の装置。
(84)A.a) イオンを発生する手段と b) イオンを加速する手段と、 c) イオンを検出する手段を含む質量分析計と、 B.d) 一対のポリマー・フラグメント間の質量/電荷比の差xを決定する手段と、 e) フラグメント対間の質量/電荷比間の平均差μ、ただしμは1以上の異なるモノマーの既知の質量/電荷比に相当するもの、を確定する手段と、 f) 望ましい信頼水準においてxが統計的にμと異なるかどうかを判断するためにxを分析する手段と、 g) 望ましい数のμが確定されたことを判断する手段を含む質量分析計に応答するコンピュータを含む質量既知の複数のモノマーを有するポリマーに関する配列情報を得るための装置。
(85)既知の質量の1以上のモノマーを含むポリマーに関する配列情報を質量分析法により得るためのキットであって、当該キットが、
a)それぞれ1以上のモノマーが異なるポリマー・フラグメントのセットを保持する質量分析計用サンプル・プレートと、
b)i)少なくとも一対のポリマー・フラグメント間の質量/電荷比の差xを決定し、ii)ステップi)で決定されたポリマー・フラグメント対の質量/電荷比の差を分析し、それらが望ましい信頼水準において確定された質量/電荷比の差μと統計的に異なるかどうかを判断し、ここで、μは既知の質量/電荷比に相当するものであり、また統計的差がμをxに割り当てられないことを示し、iii)ステップi)からii)を繰り返すステップを行なうためにコンピュータを質量分析計に応答せしめるためのコンピュータ読み取り可能ディスクを備えるキット。
(86)サンプル・プレートが反応表面を包含し、当該表面が前記ポリマーを前記フラグメントに加水分解する異なる量の加水分解剤を提供する項目85のキット。
(87)サンプル・プレートがさらにマトリックス支援レーザー・ディソープション質量分析計に好適なマトリックスを含む項目85記載のキット。
(88)i)複数のモノマーを有するポリマーから作り出された、1以上のモノマーが異なる少なくとも一対のポリマー・フラグメント間の質量/電荷比の差xを決定し、 ii)所定の信頼区間においてxが統計的に確定質量/電荷比の差と異なるかどうかを判断するために質量/電荷比の差を分析し、iii) ステップii)を追加の確定質量/電荷比について繰り返し、iv)ステップi)からii)を追加のフラグメント対に繰り返す、ようにコンピュータを質量分析計に応答させるためのコンピュータ読み取り可能ディスク。
(89)a)複数のモノマーを有するポリマーから作り出された、1以上のモノマーが異なる少なくとも一対の配列を規定するポリマー・フラグメント間の質量/電荷比の差xを決定する手段と、b) 所定の信頼区間においてxが統計的に確定質量/電荷比と異なるかどうかを判断するために質量/電荷比を分析する手段と、 c) すべての望ましい確定差が確定されるまでステップb)を繰り返す手段と、 d) 配列情報が得られるまでステップa)−c)を繰り返す手段を含む、質量分析計に応答するコンピュータ。
(90)a) 複数のモノマーを有するポリマーから作り出された、1以上のモノマーが異なる少なくとも一対の配列を規定するポリマー・フラグメント間の質量/電荷比の差xを決定する手段と、 b)所定の信頼区間において統計的に確定質量/電荷比の差と異なるxを判断するために質量/電荷比の差を分析する手段と、c)すべての望ましい確定差が確定されるまでステップb)を繰り返す手段と、d)配列情報が得られるまでステップa)−c)を繰り返す手段を含む質量分析計に応答するコンピュータ。
(91)望ましい信頼水準でポリマーの同一性について情報が得られるまで、ステップb)−f)を追加のフラグメントに配列情報が得られるまで繰り返す項目90記載の方法。
(92)ステップc)における仮の同定成分が既知の配列のコンピュータ・データベースから導き出された既知の成分に相当するものである項目90記載の方法。
(93)配列情報を得ようとするポリマー・フラグメントを含むサンプルを液体クロマトグラフィ・カラムから溶離するステップをさらに含む項目1、43、61または90のいずれかに記載の方法。
(94)ステップb)に先立ち緩衝液と接触させることによりカラムから溶離されるサンプルを質量分析計に適合するようにする項目93記載の方法。
(95) (1) 反応表面に少なくとも、(i) 前記ポリマーを加水分解することによりモノマー間結合を破壊し、ポリマー・フラグメントの前記セットを産生する一定量の加水分解剤、ならびに(ii)前記反応表面上に薬剤とポリマーの異なる比を形成させるための前記ポリマーのサンプルを提供するステップと、(2)加水分解されたポリマー・フラグメントの複数のシリーズを得るために十分な時間ステップ(1)の産物をインキュベートするステップと、(3) 中に含まれている加水分解ポリマー・フラグメントの質量/電荷比データを得るために前記シリーズの複数のフラグメントに対して質量分析を行なうステップをさらにステップa)に含む項目1、43、61または90記載の方法。
(96)前記サンプル・プレートが、ポリマーを加水分解する能力のある脱水型の薬剤をその中に少なくとも一定量配置した平面状固体表面を含む項目78記載の装置。
(97)前記サンプル・プレートが、ポリマーを加水分解する能力のある固定化型の薬剤を少なくとも一定量その上に配置した平面状固体表面を含む項目78記載の装置。
(98)前記サンプル・プレートが、物理的転移に抵抗性のある液状またはゲル状の加水分解剤を少なくとも一定量のその上に配置した平面状固体表面を含む項目78記載の装置。
(99)一連の種々のモノマーを含むポリマーに関する配列情報を得るのに質量分析装置とともに使用するための質量分析計用サンプル・プレートであって、ポリマーを加水分解する能力のある脱水型の薬剤を少なくとも一定量配置した平面状固体表面を含む、質量分析計用サンプル・プレート。
(100) 質量分析装置を一連の種々のモノマーを含むポリマーに関する配列情報を得るのに使用できるようにするための、ポリマーを加水分解する能力のある固定化型の薬剤を少なくとも一定量配置した平面状固体表面を含む、質量分析計用サンプル・プレート。
(101) 質量分析装置を一連の種々のモノマーを含むポリマーに関する配列情報を得るのに使用できるようにするための、物理的転移に抵抗性のある液状またはゲル状の少なくとも一定量の加水分解剤をその上に配置した平面状固体表面を含む、質量分析計用サンプル・プレート。
(102) 前記表面が前記薬剤の異なる量の区分された分離できるゾーンのアレイを含む項目78、85、99、100または101のいずれか記載のサンプル・プレート。
(103) 前記表面が異なる量の前記薬剤の非区分勾配を含む項目78、85、99、100または101のいずれか記載のサンプル・プレート。
(104) 前記表面が前記薬剤の一定量を含む項目78、85、99、100または101のいずれか記載のサンプル・プレート。
(105) 光吸収性マトリックスをさらに含む項目78、85、99、100または101のいずれか記載のサンプル・プレート。
(106)マイクロ反応容器をさらに含む項目78、85、99、100または101のいずれか記載のサンプル・プレート。
(107) 前記プレートが使い捨てのものである項目78、85、99、100または101のいずれか記載のサンプル・プレート。
【0014】
したがって、本発明の視点の1つは質量分析で集められる情報を利用してポリマー類の配列決定を行なうための統合された方法を指向するものであり、この方法はこの分野にまつわる問題点を実質的に克服するものである。ここに概説するように、本発明は質量既知の複数のモノマーを包含するポリマーについての配列情報を得る方法を提供するものである。当業者はまず、ポリマーの加水分解で作り出された1組のフラグメント、ただし各セットは1以上のモノマーが異なるものを調製し、そして少なくとも一対のフラグメントの質量/電荷比の差を決定する。次に、1以上の異なるモノマーの既知の質量/電荷比に対応する平均の質量/電荷比を確定する(assert)。この確定平均値を測定平均値と比較し、これら2つの値が望ましい信頼水準において統計的に異なるかどうかを判断する。もし統計的差異がある場合には、確定平均差は実際の測定差に割り当てることはできない。現在の好ましい実施方法のいくつかでは、測定平均差の精度を上げるために、フラグメント対間の差の追加測定値を採用している。このような方法のステップを、一対のフラグメント間の単一差として望ましいすべてのμを確定するまで反復する。その他の追加フラグメント対についても、望ましい配列情報が得られるまでこの方法を反復する。
【0015】
本発明でクレームされた方法は、DNA、RNA、PNA、蛋白質、ペプチドおよび炭水化物ならびにこれらポリマー類の修飾物などのバイオポリマー類を含め、すべてのポリマーに適用可能である。ポリマー・フラグメントのセットは、そのポリマーのモノマー間結合を加水分解することによって作り出すことができる。前述のポリマーに関しては、本発明は、一連の種々のモノマーで特徴付けられる、天然に存在する成分および合成によよる成分の両方を企図している。ある実施態様においては、ポリマーを修飾することもできる。本発明はまた、加水分解を起こさせるための加水分解剤を包含させることも企図する。加水分解剤は、酵素または酵素以外の試薬、およびそれらのいかなる組み合わせでもよい。
【0016】
現在の好ましい実施態様の1つにおいて、ポリマーの配列情報を得る方法は、当該ポリマーを加水分解することによって作り出されるポリマー・フラグメントのセット(ただしそれぞれのフラグメントは既知の質量の1以上のモノマーが異なるもの)を調製すること;フラグメント対間の質量/電荷比の差xを測定することを包含する。次に、1以上のモノマーの既知の質量/電荷比と関連する平均差μを確定し、またμについて所望する信頼水準を選択する。フラグメント対間の質量/電荷比の差xを測定するステップを反復して測定数nを得ることにより、測定フラグメント対間の統計的平均質量/電荷比差x
【0017】
を求める。測定平均
【0018】
【数1−1】
【0019】
を使用して、先に決定した、測定における平均質量/電荷比の差
【0020】
【数1−2】
【0021】
の標準偏差sを決定し、以下の計算方法により、検定統計量tcalculatedを計算し得る:
【0022】
【数1−4】
【0023】
。
【0024】
そしてフラグメント対間の質量/電荷比の差について望ましいμがすべて確定されるまでこの方法のステップを繰り返す。ポリマーの配列情報は、さらにこの方法のステップを追加のフラグメント対に繰り返すことによって得られる。
【0025】
本明細書に開示した別の実施態様においては、本発明はさらに一連の種々のモノマーを包含するポリマーに関する配列情報を得る方法も提供するが、この方法は、反応表面上に、当該ポリマーを加水分解してモノマー間結合を破壊する少なくとも1用量(one amount)の加水分解剤とポリマー・サンプルを供して、異なる加水分解剤/ポリマー比を作り出すこと;これを複数のシリーズの加水分解ポリマー・フラグメントを得るのに十分な時間インキュベートすること;この複数のシリーズについて質量分析を行なってそのシリーズに含まれている加水分解ポリマー・フラグメントの質量/電荷比データを得ること;ならびに、上記のように、複数のシリーズからのデータを総合してポリマー・サンプルに特徴的な配列情報を得ることを包含する。
【0026】
本発明は配列決定ラダーを作るためのポリマー加水分解能のある加水分解剤を使用する実施態様、ならびにポリマー・マップを形成する能力のある加水分解剤を使用する別の実施態様も企図している。さらに別の実施態様においては、本発明はそれら加水分解剤の組み合わせによるポリマーの加水分解、ならびに酵素的および非酵素的な加水分解剤を使用するポリマー加水分解法も提供する。現在好ましい方法とされているものでは、加水分解剤は区分された分離ゾーン(separate zone)のアレイの形で反応表面上に配置される。いくつかの実施態様においては、1以上の異なる用量の加水分解剤を有する反応表面上でポリマーを加水分解することによって、複数のポリマー・フラグメントのセットの配列が決定される。最も好ましい実施態様においては、濃度依存性加水分解が並列で起きるように、加水分解剤を反応表面上にスペースをあけて別々の異なる用量で供する。別の実施態様においては、加水分解剤を勾配をもって配置する。さらに別の実施態様においては、加水分解剤を一定量で反応表面に配置する。別の実施態様においてはポリマーを反応表面上に同様に配置する。すべての実施態様において、複数のシリーズの加水分解ポリマー・フラグメントを得るために、異なるポリマー/加水分解剤比率のものを反応表面上に配置し、そしてインキュベートする。そのような異なる比率を作り出す種々の方法については当業者は承知している。
【0027】
たとえば、一連の濃度の加水分解剤を、パーセプティブ・バイオシステムズ[PerSeptive Biosystems Inc.]社製のVoyagerTM MALDI−TOF Biospectrometry・ワークステーションのサンプル・プレートのμLうウェル1列に分散させる。自然蒸発後に、マトリックスを各ウェルに加え、サンプル・プレートをMALDI−TOF質量分析計で「読みとる」。時間依存性の消化および濃度依存性の消化は類似した配列情報をもたらすが、濃度依存性の方法を使用する方が容易に自動化できること、すべてのサンプルが同時に用意でき、また反応容器から分析プレートへの移動により失われるサンプル物質が少ないという理由から好ましい。したがって濃度依存性のオン・プレート加水分解を行い、次いでMALDI質量分析計による分析を行なうのが好ましい。これはMALDIの良好な感度と消化段階から分析段階への移動にかかわるサンプル損失がないということがあいまって、全ペプチドとして数ピコモルしか必要としないからである。
【0028】
MALDIにより配列情報を得る場合、質量/電荷比の測定前のいつの時点でも、適当な光吸収性マトリックスをポリマー・フラグメントに加えることもできる。たとえば、マトリックスを反応表面上にあらかじめ乗せて置くこともでき、あるいは代わりに加水分解の前、途中、あるいは後に、加水分解混合物に加えることもできる。
【0029】
別の実施態様のいくつかにおいては、本法はまた加水分解剤とポリマーをその他の有用な成分(moiety)と組み合わせる方法も提供する。1つの実施態様では、加水分解されたフラグメントを質量スペクトル分析の前に選択的にシフトする成分が含まれている。別の実施態様においては、加水分解されたフラグメントのイオン化を改善する能力のある成分が含まれている。さらに別の実施態様においては、光吸収性マトリックスを含めるための方法を提供している。本発明の方法はまた1以上の上記成分のいずれかを、質量スペクトル分析の前に加水分解剤とポリマーに組み合わせる実施態様も企図している。
【0030】
本発明の別の視点は、ポリマーの配列を決定するための装置およびキットに関するものである。種々の実施態様における本発明の装置およびキット類は、質量スペクトル分析計とそれに応答するコンピュータまたは質量スペクトル分析計に連動するコンピュータのいずれかを含む。実施態様の1つにおける本発明の装置は、イオンを発生させる手段と、イオンを加速する手段ならびにイオンを判別する手段を有する質量スペクトル分析計を含む。この質量スペクトル分析計は質量スペクトル分析計に応答するコンピュータと連動し、このコンピュータが本発明の方法を実施する手段を有する。
【0031】
さらに別の実施態様における本発明の装置は、質量スペクトル分析計との組み合わせで本発明の方法を実施するのに必要な情報を収納したコンピュータ読み取り可能なディスクを含む。別の実施態様においては、本装置は本発明の方法を実施する手段を有するコンピュータそのものを含む。
【0032】
さらに具体的には、本発明の装置の実施態様の1つでは質量分析計用の新規な形のサンプル・プレートまたはサンプル・ホルダを含む。このサンプル・プレートまたはサンプル・ホルダは、異なるポリマー/加水分解剤比率を有する別々の間隔をあけた領域を持つ反応表面を包含する。加水分解剤が各領域のポリマーのモノマー間結合を加水分解する適当なインキュベーション期間の後、加水分解されたポリマー・フラグメントを含む複数の、典型的にはすべての、領域が質量分析計の中で、典型的には連続的に、イオン化され、これらフラグメントの質量/電荷比を表すデータが得られる。1以上のこれらの領域は多かれ少なかれ、有用なラダー成分またはその他のポリマー・フラグメントを発生させるのに適した加水分解剤/ポリマー比率を有する。サンプル・ホルダ上のいくつかの領域は、配列情報を導き出すには役に立たない過度に加水分解されたポリマー・フラグメントを含むことがある。別の領域は実質的に加水分解されていないポリマーを含むこともある。しかしながら、すべての領域の質量分析をすることにより、少なくとも1以上の領域で発生したフラグメントからいくつかの質量/電荷比のデータを得ることができる。したがって様々な領域からのデータを総合することによって、本発明の方法は加水分解剤/ポリマーの比率を適当なものとするために経験的にサンプルを調製する必要性、ならびに従来必要とされていた最適反応時間や注意深い反応温度の制御といった必要性を回避できる。そのうえ、さらに有用な加水分解フラグメントを発生させるために、サンプル・ホルダ上の異なる一連の領域に異なる加水分解剤を使用することができ、これらから得られるデータを配列決定プロセスを改善するために統合的に利用することができる。データ分析を本発明に基づくコンピュータ・プログラムによって実施すれば、全プロセスを前記インキュベーション終了後数分内に完了させることができる。
【0033】
現在好ましいとされている実施態様のあるものにおいては、質量分析計のサンプル・プレートまたはサンプル・ホルダは少なくともその上に配置されたポリマーを加水分解することができる1用量の加水分解剤を含む平面状固相表面を有する。実施態様の1つにおいては、加水分解剤は脱水した形で反応表面上に配置される。別の実施態様においては、加水分解剤は反応表面上に固定化される。さらに別の実施態様においては、加水分解剤は反応表面上に、物理的転位(dislocation)に抵抗性のある液体またはゲル状の形で配置される。さらに別の実施態様においては、サンプル・ホルダの表面上に光吸収性マトリックスが配置される。加えて、サンプル・ホルダのそれら実施態様の1つ以上においては、それらの表面にさらにマイクロ反応容器を備える。上記サンプル・ホルダの実施態様のあるものは使い捨て型のものである。さらにこの反応表面をさまざまな基質で作り上げ、質量分析計用として好適なさまざまな形状としたものも企図されている。本明細書に開示するように、サンプル・プレートまたはサンプル・ホルダのすべての実施態様は、ポリマーの配列決定に質量分析装置を応用するのに有用なものである。
【0034】
当業者には明らかな通り、本発明に基づく配列情報を得るための方法および装置は従来のポリマー配列決定法にまつわる問題点を解決するものである。前述のように、従来の液相消化方法を用いて作り出したペプチド・ラダー、すなわち、酵素消化物から決められた時間間隔で取り出したサンプルのアリコートは多くの欠点を抱えている。たとえば、可能性のあるすべての配列情報を保存しながら短時間に顕著な消化を得るためには、多くの展開(準備)時間と、大量の酵素およびペプチドが必要とされる。配列情報を導き出そうとするそれぞれのペプチドについて、実際の配列分析に先立って時間のかかる方法を展開しなければならないのである。なぜならば1つのペプチドに対する最適条件の組み合わせは、たとえばCPYのようなさまざまな酵素剤の加水分解速度が組成依存的であることを考えると、別のペプチドに対して有用ということは殆どありえないからである。本発明で企図されているように、これに代わる戦略は消化をMALDIサンプル表面で実施することである。たとえば、本発明に基づいてエキソペプチダーゼ消化のようなオン・プレートでのポリマー加水分解を実施する場合、全体的なポリマー配列決定作業は先行技術の時間依存性の消化に比べて次の点で優れる。すなわち、方法が極めて簡便であり、手間のかかる最適化の必要性を省くことができること;反応容器から反応表面への移送によるサンプルの損失が減ること;使用する酵素およびペプチドの量が少ないこと;そして大規模に応用する場合に特に重要なこととして、使用/自動化が容易なことである。同様に、本発明の質量分析用サンプル・プレートまたはサンプル・ホルダは当業者が従来得ることができなかった利点を与えるものである。たとえば実施態様のあるものは試薬の操作を最小限にし、サンプル処理を著しく容易にする。当業者は単にポリマーのサンプルを提供するだけでよい。その他の実験的パラメータもほとんどすべてが事前に最適化される。
【0035】
本発明の前述およびその他の目的、特徴および利点は以下の詳細な説明でより明らかになるであろう。前述の一般的な説明および以下の詳細な説明は例示的かつ説明的なものであり、請求項に記載の本発明をさらに詳しく説明することを意図したものである。添付の図面は本発明の理解を深めるために組み入れたもので、本明細書の一部を構成するものであり、本発明のいくつかの実施態様を説明するものであって、明細書とともに本発明の原理を説明するためのものである。
【0036】
本発明の前述およびその他の目的、特徴および利点、ならびに本発明そのものについては、以下の好ましい実施態様を添付の図面と合わせて読むことによってさらに完全に理解されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
発明の詳細な説明
以下に詳細を説明するように、本発明は質量分析計を用いてポリマー類の配列決定をなうための方法、キットおよび装置に関する。本発明は既知の質量の複数のモノマー類を含むポリマーに関する配列情報を得るための統合的な戦略を提供する。具体的には本発明はポリマー・フラグメントのセット(複数)と質量分析計を用いて、質量分析計により得られた配列データを解釈する方法を提供するが、これにより迅速な、自動化された、かつコスト効果が高い、統計的確実性を有するポリマーの配列決定が可能となる。本発明はさらにポリマーおよび加水分解剤を反応表面上に配置して利用する方法も提供する。加水分解剤は酵素あるいは非酵素的なものである。これら加水分解剤はポリマーと反応し、配列を規定するポリマー・ラダーまたはポリマー・マップを作り出す。本発明の方法はさらに、加水分解したポリマー・シリーズに関連する質量分析データを得るステップと、複数のポリマー・シリーズのデータを総合してポリマー配列を決定するステップを含む。本発明の質量分析法はすべてのイオン形成方式ならびにすべての質量分析方法に適用可能である。本発明のキットと装置は、その一部分は、本発明の方法に基づいてポリマーの配列情報を得るように質量分析計を適応させるための質量分析計用サンプル・プレートまたはサンプル・ホルダに関する。具体的には、サンプル・プレートはその上に脱水型、固定化型、液体および/またはゲル形状の加水分解剤、ならびに/または光吸収性マトリックスを配置する。任意には、本発明のサンプル・プレートのあるものは使い捨て型のものである。本発明の装置の別の実施態様は、ポリマーの配列決定をする前記の方法に使用するのに適する質量分析計、コンピュータおよびコンピュータ・ディスクに関する。
【0038】
本明細書で使用するように、“ポリマー”とは、本発明の方法に適切に使用できる一連の種々のモノマー群を包含するあらゆる部分を意味するものとする。つまり、そのモノマー間結合が加水分解に感受性である一連の種々のモノマー群を包含するすべての成分は、本明細書に開示する方法に使用するのに適している。たとえば、ペプチドは特定のモノマー類、すなわちアミノ酸で構成されたポリマーであり、これらは酵素または化学薬品のいずれかで加水分解できる。同様に、DNAは別のモノマー類、すなわち塩基ヌクレオチド類で構成されたポリマーであり、これらはさまざまな薬剤により加水分解できる。
【0039】
ポリマーは、天然に存在する部分ならびに合成による部分のいずれでもよい。現在好ましいとされている実施態様においては、ポリマーは蛋白質、ペプチド、DNA、RNA、PNA(ペプチド核酸)、炭水化物、およびそれらの修飾型などのからなる群より選択されるバイオポリマーであるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
“配列情報”とは、本明細書で使用しているように、ポリマーまたはそれらの部分の中の一連の種々のモノマー群の一次構造に関連するすべての情報を意味するものとする。配列情報には様々なモノマー類の化学的同一性、ならびにポリマー内でのそれらの特定の位置に関する情報が含まれる。一次配列が既知のポリマー類、ならびに一次配列が未知のポリマー類も、本発明の方法に使用するのに適している。末端モノマー群ならびに内部モノマー群に関する配列情報も、本明細書に開示した方法を使用して得ることができるように企図されている。ある応用では欠陥のない完全なポリマーのサンプルを使用して配列情報を得ることができる。他の応用では、欠陥のない完全なポリマーに満たないもの(たとえば、ポリマー・フラグメント)を含むサンプルを使用して配列情報を得ることができる。それらフラグメントは、天然に存在するもの、単離および精製した人工産物、および/または当業者によりin vitroで作り出されたものとすることができる。さらに、ポリマー・フラグメントは、本発明の方法に使用する前に、高性能液体クロマトグラフィなどさまざまな分別および分離法などにより取り出して調製したものでもよい。
【0041】
本発明の方法における“反応表面”とは、対象するポリマーを対象とする薬剤で加水分解するのに好適な表面すべてを含む。反応表面は、様々な基質(substrate)にから作製され、この基質は、金属、箔、プラスチック、セラミック、およびワックス類などから選択されれるが、これらには限定されない。反応表面は、すべて質量分析装置に使用するのに適したものでなければならない。本発明の反応表面は特定の質量分析装置に使用するのに適したあらゆる形状のものとすることができる。たとえば、反応表面は平面状の固相表面とすることができる。あるいは、この表面はマイクロ反応容器をその上面に配置したものでもよい。さらに別の実施態様においては、特定の質量分析計装置での使用に適したプローブ形状とすることができる。いくつかの実施態様においては、本発明に基づくポリマーの配列決定を強化または容易にするために、反応表面を活性化および/または誘導化できることを、当業者は認識する。
【0042】
本発明は、質量分析によって得られた質量/電荷比のデータ分析の方法に関する。以下に詳しく例示するように、本方法は、フラグメントのセットを提供し、このフラグメントのセットは、ポリマーの加水分解によって作り出され、各々のセットは、1以上のモノマーで異なっている。少なくとも一対のフラグメントの質量/電荷比の差が決定される。次に、1以上の様々なモノマー類の既知の質量/電荷比に相当する平均質量/電荷比を確定する。この確定平均値を測定平均値と比較し、これら2つの値が望ましい信頼水準で統計的に異なるかどうかを判別する。もし統計的差異がある場合には、この確定平均差は実際に測定された差異に割り当てることはできない。いくつかの実施態様においては、一対のフラグメント間の差の追加測定値を取り、測定平均差の精度を高める。本方法のこのステップは、1対のフラグメント間の個々の差異に対する所望の平均差が確定するまで繰り返される。
【0043】
上述の方法を追加のフラグメント対についても反復し、複数の並行質量スペクトルからの質量/電荷比のデータを総合し、望ましい配列情報が得られるまで繰り返す。したがって、本発明は最も広い視点においては、質量が既知の複数のモノマー群を包含するポリマーに関する配列情報を作り出す総合的な方法である。本方法は、フラグメント対間のモノマーの差異を統計的に同定するために、ポリマーから得られるフラグメント・セット(複数)の質量/電荷比データを解釈することを含む。過去においては、研究者達はいくつかの質量測定値について既知の分子質量をMALDIで導いた質量と比較し、機器による測定の質量精度について一般的な表現をしようと試みてきた。総体的に、本発明の方法は多段階の統合されたステップを含むものであり、これらは本発明に基づいて自動化することができる。
【0044】
1以上のモノマーが異なるポリマー・フラグメントのセットを用意した後、少なくとも一対のフラグメント間の質量/電荷比の差xを測定する。次に、測定されたフラグメント対間の質量/電荷比の平均差μを確定する。ただし、μは1以上の異なるモノマーの既知の質量/電荷比に相当するものである。そして次にxを分析して、選択した信頼水準でxが統計的にμと異なるかどうかを判断する。
【0045】
もし統計的差が存在すると判断した場合、確定されたμは選定した信頼水準では質量差xに割り当てることはできない。
【0046】
上記のステップを、すべての望ましいμが確定されるまで繰り返し、さらに追加のフラグメント対についても繰り返す。
【0047】
ある実施態様においては、xがμと統計的に異なるかどうかを判断する分析は、xをn回反復測定し、少なくとも一対のフラグメント間の測定平均質量/電荷比差xを求めることを包含する。そして測定平均xの標準偏差sを決定し、その測定平均xを確定平均μと比較し、それらが望ましい信頼水準で統計的に異なるかどうかを判断する。
【0048】
本発明のある実施態様においては、1セットのポリマー・フラグメントをオン・プレート消化または外部源のいずれかから得、一対のフラグメントの質量/電荷比の1以上の測定値を取得する。1以上のモノマーの消失を表すピークをt値(t-statistics)を用いて分析して、望ましい信頼区間で割り当てを行なうことができる。1実験平均に関する両側t検定には下記の式を適用する。
【0049】
【数2】
【0050】
施した反復複製数であり、sは平均の実験標準偏差である。すべての考えられる質量(1残基、2残基、3残基...など、ならびに修飾残基の質量)を確定質量差μとして使用してtcalculatedのリストを作り、これを次に特定の信頼区間でt分布表の値と比較する。確定質量と統計的に異ならないすべての質量、つまりtcalculated<ttabledは所定の信頼水準でその残基に割り当てられる。この情報は、仮定の組成物をチェックするため、あるいは配列のデータベースを検索するために使用することができる。データベース検索をする場合、これらの信頼水準は高い“ヒット(hit)”を得る助けとするための道具として、検索アルゴリズムに利用することができる。
【0051】
終局的には、この技法は未知の配列のペプチドの配列決定に使用されるものである。研究者達はいくつかの質量測定値について既知の分子質量をMALDIで導いた質量と比較し、機器による測定の質量精度について一般的な表現(たとえば、0.1%より良い)をしようと試みてきた。しかし残基割当ての目的でこの質量精度を個々の質量測定値に当てはめるのは統計的な有効性がなく、したがって真の残基割当てや未知のものへの直接適用は難しい。ラダー配列決定/MALDI戦略によりアミノ酸配列を得るためには、残基割り当てに統計的な信頼水準を課さなければならないのである。
【0052】
本明細書に開示するように、上記のデータ統合法にはさらに以下のステップを包含させることができることが企図される:すなわち、反応表面上に、ポリマーを加水分解してモノマー間結合を破壊してポリマー・フラグメントのセットを作り出す少なくとも1用量の加水分解剤とポリマー・サンプルを、反応表面上で異なる加水分解剤/ポリマー比ができるように提供するステップと、ポリマーと加水分解剤の混合物を、複数の一連の加水分解ポリマー・フラグメントを得るのに十分な時間インキュベートするステップ、ならびに質量/電荷比データを得るために複数の一連のものについて質量分析を行なうステップ。
【0053】
たとえば、ポリマーの内部加水分解(endohydrolysis)で作り出されたポリマー・フラグメントのセットを本発明の実施に利用することができる。典型的には、エンドヒドロラーゼの使用によって前記ポリマーのマップを規定するフラグメントのセットを作り出す。フラグメントの質量/電荷比を測定し、測定したフラグメントの仮の成分同定が行われる。仮の同定成分は参照ポリマーのフラグメントの既知の同一成分に対応する。参照ポリマーの情報は本法で使用するデータベースに簡単に組み入れることができる。望ましい信頼水準を選定した後、確定された仮の成分同定が行われたフラグメントの質量/電荷比が、確定された既知のポリマーのフラグメントの質量/電荷比と統計的に異なるかどうかを判断する。もし統計的な差がある場合、これらのステップを異なる追加の仮のフラグメントで繰り返す。この方法は望ましい信頼水準でポリマーを同定できる十分な情報が得られるまで、そのフラグメントについて繰り返される。したがってマップを検討する場合、ポリマー・フラグメントが既知のポリマーのフラグメントに、ポリマーを同定するために十分な確実性をもって対応するかどうかを基本的に判断する。確定された仮の同一性(仮の同定成分)が既知の配列のコンピュータ・データベースから取り出された既知の同定成分に相当するものであることが好ましい。
【0054】
本発明の方法はまた、同一ポリマーの複数の異なるフラグメント・セット、すなわちマップおよびラダーを提供し、最大限の配列情報を得ることも考案している。
【0055】
ポリマー・フラグメントのセットはいかなる方法でも作り出すことができる。本発明の方法のあるものは、フラグメントを得るために加水分解剤によりポリマーを加水分解するステップ、あるいはフラグメントの合成、ならびに事前に得たフラグメントのセットを単に提供するというステップも考案している。本明細書で使用しているように、“加水分解剤”という用語は特定のポリマー中のモノマー間結合を破壊することのできるすべての薬品を意味するものとする。つまり、ポリマーの一次配列を切断することができる薬剤はすべて本明細書開示の方法に使用するのに適している。加水分解剤はポリマーのいずれかの末端でモノマーを解離するか、あるいは内部結合を破断することのいずれかによって働き、それにより対象ポリマーのフラグメントまたは一部分を作り出し得る。一般的に、好ましい加水分解剤は特定のモノマーの前または後を切断することにより一次配列を破壊する。つまり、加水分解剤はポリマー中の好ましい加水分解部位として加水分解剤により認識される特定のモノマーまたは特定のモノマー配列において、ポリマーと特異的に相互作用する。現在好ましいものとして本明細書に記述している加水分解剤はすべてシグマ・ケミカル[Sigma Chemicals]社(ミズーリ州セントルイス)などの薬剤供給者から市販品を入手することができるものである。
【0056】
好ましい実施態様のあるものでは、賦形剤を加水分解剤に添加して、加水分解剤と併用する。ここで意図する賦形剤は、加水分解剤の凍結乾燥および/または溶解を促進する。たとえば、フコースおよび本発明の使用に好適なその他の糖類が企図される。使用に好適とは、それらを使用することによって質量分析に何ら干渉が起こらないことを意味する。本発明に有用なその他の賦形剤は酢酸アンモニウムなどのpH調節剤である。さらに本明細書に開示した方法および装置での使用に好適なその他の賦形剤は、加水分解剤の一体性の安定化剤として働くものである。賦形剤に関しては、当業者であれば通常の実験操作だけで好適なものを見つけることができよう。好ましい賦形剤のいくつかを上に挙げたが、それらに匹敵する相当品を見つけだすことは当業者の技術の範囲内のことである。
【0057】
現在好ましいとされる実施態様の1つにおいては、加水分解剤はヒドロラーゼ酵素である。ヒドロラーゼ類のあるものはエンドヒドロラーゼであり、他のものはエキソヒドロラーゼである。使用する特定のヒドロラーゼはポリマーの性質および/または希望する配列情報のタイプによって決められる。その決定は当業者が通常の実験以上のことをすることなく容易に行うことができる。たとえば、現在好ましいとされるエンドヒドロラーゼ類としてはエンドヌクレアーゼ、エンドペプチダーゼ、エンドグリコシダーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エンドプロテイナーゼLys−C、エンドプロテイナーゼArg−C、およびサーモリシンなどであるが、これらに限定されるものではない。現在好ましいとされるエキソヒドロラーゼ類としては、エキソヌクレアーゼ、エキソグリコシダーゼ、およびエキソペプチダーゼなどがあるが、これらに限定されるものではない。現在好ましいとされているエキソヌクレアーゼ類としては、ホスホジエステラーゼタイプIおよびII、エキソヌクレアーゼVII、λ−エキソヌクレアーゼ、T7遺伝子1エキソヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼIII、BAL−31、エキソヌクレアーゼI、エキソヌクレアーゼV、エキソヌクレアーゼII、ならびにDNAポリメラーゼIIIなどがあるが、これらに限定されるものではない。現在好ましいとされるエキソグリコシダーゼ類としては、α−マンノシダーゼI、α−マンノシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、α−フコシダーゼI、α−フコシダーゼII、α−ガラクトシダーゼ、α−ノイラミニダーゼ、α−グルコシダーゼI、およびα−グルコシダーゼIIなどがあるが、これらに限定されるものではない。現在好ましいとされているエキソペプチダーゼ類としては、カルボキシペプチダーゼY、カルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼB、カルボキシペプチダーゼP、アミノペプチダーゼ1、LAP、プロリンアミノジペプチダーゼ、ロイシンアミノペプチダーゼ、ならびにカテプシンCなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
その他の実施態様のあるものでは、加水分解剤は酵素以外の薬剤である。たとえば、そうした薬剤は酸のような化学薬品でもよい。酵素以外で現在好ましいとされている薬剤としては、臭化シアン、塩酸、硫酸、およびペンタフルオロプロピオン酸フルオロハイドライドなどがあるが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施態様においては、加水分解は本明細書に開示した方法に基づいて部分的な酸加水分解を利用して行なうことができる。ここでも、酵素以外の加水分解剤の決定はポリマーの性質および希望する配列情報のタイプによって決められる。好適な薬剤の決定ならびにそれら薬剤の好ましい条件の決定は当業者の能力の範囲内のことである。
【0059】
本発明の方法はさらに上記個々の加水分解剤を組み合わせて使用する方法も提供する。たとえば、本願発明において酵素の組み合わせを使用することができる。酵素以外の加水分解剤の組み合わせもまた使用することができる。さらに、酵素と酵素以外の薬剤との組み合わせもまた本発明の方法に使用することができる。ここでも、具体的な組み合わせおよびそのような組み合わせが適当な条件はポリマーの性質および希望する配列情報により異なることになる。当業者であればどのような場合に加水分解剤の組み合わせが本開示の方法の使用に好適であるかを承知している。
【0060】
加水分解剤/ポリマー配列特異的相互作用についての多くの例が当分野では周知となっている。たとえば上記のように、蛋白質およびDNAなどの現在好ましいとされているポリマー類はそれぞれプロテイナーゼ類およびヌクレアーゼ類と特異的に相互作用する。好ましいプロテイナーゼのあるものは蛋白質のアミノ酸配列のC−末端(カルボキシペプチダーゼY)またはN−末端(アミノペプチダーゼ1)を特異的に認識する。好ましいヌクレアーゼ類のあるものは、ポリヌクレオチドの塩基配列の5’末端または3’末端を特異的に認識する。ヌクレアーゼ類のあるものは、一本鎖ポリヌクレオチド類を認識し、他のものは二本鎖ポリヌクレオチド類を、またさらにその他のものはこれら両者を認識する。
【0061】
本発明は、蛋白質、ペプチド、核酸、炭水化物などの天然バイオポリマー、ならびにPNAおよびチオリン酸化(phosphothiolate)核酸などの合成バイオポリマー類すべての配列決定に適用することができる。ラダーは、エキソヒドロラーゼ類、エンドヒドロラーゼ類を使用して酵素的に、あるいはサンガー[Sanger]法および/または短縮による合成による化学的方法ないしは失敗配列決定(failure sequencing)などの手法により意識的に作り出すことができる。オン・プレート消化を利用し、カルボキシペプチダーゼY、カルボキシペプチダーゼPおよびアミノペプチダーゼI消化により数多くのペプチド類から作り出されたペプチド・ラダーを解釈する方法を利用することが好ましい。
【0062】
本発明に基づいて、エキソヒドロラーゼ類はポリマーの配列を規定する“ラダー”を包含する一連の加水分解フラグメントを作り出す。つまりこれらの薬剤は一連の加水分解フラグメントを作り出し、それら一連の各加水分解フラグメントは“ラダー要素”であり、これらが集合的にポリマーの配列を規定する“ラダー”を構成することなる。ラダー要素は加水分解フラグメントであり、それらからモノマー類が連続的および/または漸進的に、ポリマー末端の一端または他端に作用するエキソヒドロラーゼによって解離される。したがって、ラダー要素は短縮された加水分解ポリマー・フラグメントであり、またラダーそれ自体はこれら短縮された加水分解ポリマー・フラグメントの集合連結物ということになる。このような方法により、たとえば蛋白質のアミノ酸配列に関する配列情報を、カルボキシ末端に作用する薬剤であるカルボキシペプチダーゼYを使用することによって得ることができる。アミノ酸残基の連続、反復解離で相互に関連した一連の蛋白質加水分解物を作り出すための開示した本法を使用することにより当業者は、以下に詳細を説明するように完全な蛋白質ポリマーの一次配列を再構築することができる。
【0063】
同様に、ポリマーの末端の1端または他端に同じく作用するエキソヒドロラーゼ類以外の加水分解剤も、配列を規定する一連のラダーを集合的に構成するラダー要素を作り出す。たとえば、この目的のために周知のエドマン分解技法および関連試薬を本発明の方法に使用するのに応用することができる。したがって上記の減法型(subtractive−type)の配列決定法もまた、蛋白質ポリマーからの連続的なアミノ末端残基の反復除去が起こり得ることから、本明細書に開示した酵素以外の加水分解剤を利用して行なうことができる。
【0064】
前述のように、配列情報はまた内部モノマー間結合を破壊する働きをする加水分解剤を使用して得ることもできる。たとえばエンドヒドロラーゼは、最終的にポリマーの“マップ”を構築するのに有用な一連の加水分解フラグメントを作り出すことができる。つまりこの薬剤は一連の関連する加水分解フラグメントを作り出し、これらはポリマーの配列を規定する“マップ”に集合的に寄与する情報となる。たとえばペプチドマップは、トリプシン内部加水分解(endohydrolysis)を臭化シアン内部加水分解(endohydrolysis)と連繋させ、重複するアミノ酸配列を有する加水分解フラグメントを得ることにより、作り出すことができる。それら重複フラグメントは最終的に完全なポリマーのアミノ酸配列全体を再構築するのに有用なものである。たとえばこの加水分解剤の組み合わせは、複数の有用な加水分解フラグメントのシリーズを作り出す。なぜならばトリプシンはカルボキシ基がリジンまたはアルギニンモノマーのいずれかによって生成されたペプチド結合の加水分解だけを特異的に触媒し、一方臭化シアンはカルボニル基がメチオニンモノマー類によって生成されたペプチド結合だけを切断するからである。したがってトリプシンと臭化シアン加水分解を併用することにより、2つの異なるシリーズの加水分解された“マッピング”用フラグメントを得ることができる。これらのマッピング・フラグメントのシリーズを次に質量分析で検査し、トリプシンによる第1の加水分解からの特定の加水分解産物と連続および/または重複するアミノ酸配列を持つ第2の臭化シアン加水分解からの特定の加水分解産物を同定する。第2の加水分解からの重複配列は第1のトリプシン加水分解により産生された加水分解フラグメントの正しい配列順に関する情報を提供する。これらのペプチド・マッピングの一般的な原理は先行技術で公知となっているが、これらの原理を本明細書の開示のように質量分析により配列情報を得るために利用することは当分野ではこれまで知られてなかった。
【0065】
当業者にとっては、ある場合には上記のラダー・シナリオを利用して配列を決定するのが最善であり、一方マッピング・シナリオがより適するケースがあることは周知のことである。ある場合にはラダー法と本開示のマッピングによる配列決定法の組み合わせが最適の配列情報を提供する。ルーチンの実験手法を利用するだけで、当業者はラダーおよび/またはマッピング法と複数の一連の加水分解ポリマー・フラグメントの質量分析を組み合わせて利用することによって最適の配列情報を得ることができる。
【0066】
本方法で企図されているように、ポリマーのサンプルとしては対象のポリマーを含む(または含むと考えられる)生物学的流体も含む。本明細書で使用しているように、ポリマーのサンプルとしてはまた単離および精製ポリマーも含むものとする。さらに、ポリマーのサンプルは水性または非水性のものでもよい。
【0067】
反応表面へのポリマーのサンプルの添加は、さまざまな方法により行なうことができる。たとえば、サンプルを個々のアリコートとして導入することもでき、あるいはサンプルを分取処理または定性カラムから溶離するサンプルとするような連続的な方法で導入することもできる。この両方の場合とも、サンプルは手操作または自動化された手段で導入することができる。
【0068】
ポリマーのサンプルおよび加水分解剤を反応表面に添加するに際し、本発明の方法は異なる濃度の加水分解剤、または異なる加水分解剤/ポリマー比を当該反応表面に形成する方法を提供する。たとえば、もしポリマーのサンプルが均一な量のポリマーを含むものである場合、本法では異なった量の薬剤を反応表面に配置するように考案している。これによって異なる薬剤/ポリマー比がもたらされることになる。異なる薬剤の量は、一定量のポリマーが添加される区分された分離ゾーンの形とすることもできる。あるいは、異なる薬剤の量を少量から大量の範囲の非区分的勾配の形、おそらくは適当な長さと幅のストリップという形、にすることもできる。一定量のポリマーを含む等しい長さと幅のポリマー・ストリップを導入することにより、異なる薬剤/ポリマー比が作り出される。本発明で考案しているように、薬剤とポリマーはどのような形でも、またどのような量でも存在させることができる。すなわち、唯一必要なことは薬剤とポリマーの組み合わせが異なった比率で反応表面上に配置されることである。薬剤/ポリマーの異なる比率はまた、一定量の薬剤を反応表面上に配置し、異なる量のポリマーを、たとえば、ポリマー勾配または異なる量のポリマーもしくはポリマー溶液の区分された分離ゾーンにより添加する方法によって達成できることは当業者によって明らかである。ポリマー勾配とする場合、ガウス分布勾配の形でカラムから溶離されるポリマーの形が現在好まれている。
【0069】
本方法はさらに上記薬剤/ポリマー比のものを、必要な複数シリーズの加水分解ポリマー・フラグメントを得るのに必要な時間インキュベートする方法も提供する。インキュベーションは、ポリマーを加水分解するのに好適であれば、いかなる条件下でも、かつ複数のシリーズの加水分解フラグメントを得るのに必要とされるいかなる時間にわたっても進行させることができる。一般的に言えば、開示の方法は、たとえば、1時間以内という比較的短時間で配列情報を得ることが可能である。
【0070】
しかしながら、インキュベーション時間はポリマーおよび/または加水分解剤の性質により短くしたり、長くしたりすることができる。適当なインキュベーション時間をいかにして求め、かつそれをいかに最適化するかは当業者には自明のことである。インキュベーション反応は蒸発によって終了させることができる。
【0071】
本明細書で使用しているように、加水分解ポリマー・フラグメントの“複数のシリーズ”とは、加水分解フラグメントが少なくとも2つの異なる薬剤/ポリマー比で作り出され、かつそれぞれの薬剤/ポリマー比が1シリーズの加水分解フラグメントを作り出すことを意味する。たとえば、一定量のポリマーを異なる量の薬剤を含む2つの区分された薬剤ゾーンに添加する場合、各ゾーンが1つの薬剤/ポリマー比を表し、また各ゾーンが1シリーズの加水分解フラグメントを作り出すことになる。これらを合わせると、この2つのゾーンが複数のシリーズの加水分解ポリマー・フラグメントを集合的に含むということになる。本明細書に開示および例示するように、本方法は複数のシリーズの加水分解フラグメントについて質量分析を行い、その中に含まれている加水分解ポリマー・フラグメントの質量/電荷比を得ることによって配列情報を得る方法を教示するものである。この方法は少なくとも2つの異なる薬剤/ポリマー比を用意し、質量分析により分析することを考案したものである。
【0072】
本請求の発明は当分野で公知のあらゆるタイプの質量分析法を使用して実施することができる。そのうえ、質量/電荷比データを得るためには、マトリックス支援レーザー・ディソープション・イオン化、プラズマ・ディソープション・イオン化、エレクトロスプレー・イオン化、サーモスプレー・イオン化、およびファースト・アトム・ボンバードメント・イオン化(高速原子衝突イオン化)など、これらに限定されないが、あらゆるイオン形成方式を適用することができる。加えて、本発明に使用する質量分析方式としては、飛行時間型、四重極型、イオン・トラップ型、ならびにセクター分析型など、これらに限定されないが、あらゆる方式が好適に使用できる。現在好まれている質量分析計装置は、改良された飛行時間型の装置であり、これは同日付けで出願した同時係属中の米国特許願第08/446,544号(代理人書類番号SYP−111)に記載されているように、サンプルおよび抽出要素の電位差の独立した制御が可能なものであるが、これをレファレンスとして本明細書に援用する。ある実施態様においては、本発明を実施するために使用される質量分析計は、イオン発生手段、イオン加速手段、ならびにイオン検出手段を含むものである。あらゆるイオン化方法を使用することができ、たとえばディソープション、負イオン・ファースト・アトム・ボンバードメント、マトリックス支援レーザー・ディソープションおよびエレクトロスプレー・イオン化方式などが使用できる。マトリックス支援レーザー・ディソープション質量分析法を使用するのが好ましい。
【0073】
本発明の方法はすべてさらに本明細書に記載のとおり、配列情報を得ようとするポリマーまたはポリマー・フラグメントを含むサンプルを液体クロマトグラフィ・カラムから溶離させるステップを包含させることができることがさらに企図される。そのような実施態様の場合、カラムから溶離されるサンプルは質量/電荷比を決定するステップの前に適当な緩衝液と接触させることにより質量分析計に適合性のあるものにする。
【0074】
本発明の方法はまた質量分析に有用な成分を包含させることも提供する。たとえば、光吸収性マトリックスをレーザー・ディソープションによる質量分析を行なう前の適当な時点で導入することができる。光吸収性マトリックスは特にバイオポリマー類の分析用として有用である。マトリックス支援レーザー・ディソープションイオン化技法、ならびにそれらに適するさまざまなマトリックス類は当分野では周知であり、たとえば米国特許第5,288,644号(1994年2月22日発行)および米国特許願08/156,316(代理人書類番号Vestec−14−2、1995年4月18日許可)に記載されており、これらの開示を本明細書にレファレンスとして援用する。
【0075】
本法に有用なその他の成分としては、ある種の加水分解フラグメントの質量を選択的にシフトする能力のあるものが含まれる。これらもまた質量分析に先立ついかなる時点でも添加することができる。現在好ましいとされている質量シフト成分としては、アルキル、アリール、アルケニル、アシル、チオアシル、オキシカルボニル、カルバミル、チオカルバミル、スルフォニル、イミノ、グアニル、ウレイド、およびシリルなどの反応生成物を産生する成分などが含まれるが、これらに限定されるものではない。それら成分の加水分解ポリマーへの付加は確立された付加化学法を利用して行われる。特定の配列決定に最適の特定の成分は、ポリマーおよび加水分解フラグメントの性質により異なる。当業者であればもし使うべき成分があるとすれば、どの成分を使用するかを決定することができるであろう。
【0076】
本方法に使用するのに好適なその他の成分グループは、加水分解フラグメントのイオン化を改善することができるものである。そのような成分は質量分析に先立ついかなる時点でも導入することができる。現在好ましいとされているイオン化改善成分としては、以下のものに限定はされないが、アミノ、第四級アミノ、ピリジノ、イミジノ、グアニジノ、オキソニウム、およびスルホニウム反応生成物を産生する成分である。そのような成分の調製および/または使用については当分野では周知のことである。
【0077】
もう1つ別の視点において、本発明は質量分析計のサンプル・プレートまたはサンプル・ホルダを提供する。本明細書で使用しているように“サンプル・プレート”および“サンプル・ホルダ”という用語は同義語的に使用される。本発明のサンプル・プレートは、開示の方法に基づいて配列情報を得るためにあらゆる質量分析計装置を適用するのに有用なものである。現在好まれている実施態様の1つにおいては、このサンプル・ホルダは平面状の固相表面を有し、その上に加水分解剤が配置される。もう1つ別の現在好まれている実施態様においては、サンプル・ホルダは特定の質量分析計装置に有用なプローブの形状を有する。サンプル・プレートまたはホルダのすべての実施態様において、薬剤は脱水型、固定化型、液体および/またはゲル形状とすることができる。薬剤を液体またはゲル形状とする実施態様においては、薬剤は物理的転移に対する抵抗性があり、かつ少なくとも約1ないし2ヵ月間化学的に安定なもので、それにより輸送と貯蔵が容易なものとする。これらの配慮は特に、本発明のサンプル・プレートを含む商業的な利用において有用なことである。さらに、薬剤は異なる量の分離された区分ゾーン、または非区分勾配の形で配置することができる。あるいは、薬剤はサンプル・プレートの表面上に一定量を配置することもできる。他の実施態様においては、サンプル・プレートがその表面上に光吸収性マトリックスを配置され、これは加水分解剤と併用または加水分解剤なしとすることができる。
【0078】
本発明の現在好ましい実施態様のあるものでは、ポリマーを加水分解する能力のある少なくとも一定量の脱水型薬剤をサンプル・プレートの平面状固相表面に配置する。同様にポリマーを加水分解する能力のある少なくとも一定量の固定化した薬剤をその上に配置することもできる。
【0079】
さらに別の好ましい実施態様においては、サンプル・プレートの上に少なくとも1用量の液体またはゲル形状の加水分解剤を配置する。当該液体またはゲル形状は物理的転移に抵抗性のあるものである。
【0080】
サンプル・プレートはまたその表面にマイクロ反応容器を配置したものとすることもできる。実施態様の1つにおいては、これらの容器は化学エッチングまたは類似の技法により作られたプレート表面上の窪みとすることができる。サンプル・プレートは金属、箔、プラスチック、セラミック、およびワックス類など、これらには限定されないがさまざまな基質で作ることができる。ある実施態様においては、このサンプル・プレートは使い捨て型のものである。別のある実施態様においては、本明細書に開示したサンプル・プレートは質量分析によりポリマーの配列を決定するために有用なキットの1要素となっている。
【0081】
本明細書に考案されているサンプル・プレートまたはサンプル・ホルダのすべてに関しては、その表面に前記薬剤の異なる量の区分された分離ゾーンのアレイを包含するものとすることができる。あるいは、その表面が前記薬剤の非区分型勾配、または前記薬剤の一定量を含むものとすることができる。
【0082】
加えて、実施態様はすべてさらに光吸収性マトリックス、および/またはマイクロ反応容器を包含することができ、そして/または、使い捨て材料で組み立られ得る。
【0083】
さらに別の視点においては、本発明は反応表面を包含するサンプル・プレートまたはホルダを有するキットを提供するが、当該表面は前記ポリマーを前記フラグメントに加水分解するための加水分解剤を異なる量で提供する。実施態様の1つにおいては、当該キットはマトリックス支援レーザー・ディソープション質量分析に適するマトリックスを包含するサンプル・プレートまたはホルダを含む。
【0084】
本請求の発明はまた、上記の方法を実施する他の質量分析計装置およびキットにも関する。ポリマーに関する配列情報を得るための本発明の装置の実施態様の1つでは、サンプルからイオンを発生させるための手段、発生したイオンを加速する手段、ならびに検出手段を有する質量分析計を包含する。これらの基本的な要素については多くの実施形態において利用可能であり、したがって本発明は特定のタイプの質量分析計に限定されるものではない。この装置はさらに質量分析計に応答するコンピュータも包含するが、このコンピュータは一対のポリマー・フラグメント間の質量/電荷比の差xを決定する手段と、フラグメント対間の質量/電荷比の平均差μを確定する手段、ただしμは1以上のモノマーの既知の質量/電荷比に相当するもの、ならびに望ましい信頼水準においてxがμと統計的に差があるかどうかを判断するためにxを分析する手段、および望ましい数の(可能性のある)μが確定されたことを判断する手段を包含するものである。
【0085】
加えて、本請求の方法に必要な情報はコンピュータで読み取り可能なディスク上に組み入れることができるが、このディスクは分析を実施するためにコンピュータを質量分析計に応答させるようにするものである。請求したソフトウェアはデータを取得し解釈するプロセスを、ソフトウェア・フィードバック制御を利用して知的な方法で自動化する。データ解釈ソフトウェアは、アミノ酸割り当てのための複数の候補を統計的に差別化するのに要求される取得データ数(最低2)をコントロールするものである。オペレータは割り当てが適合しなければならない最低の統計的信頼水準の規定をコントロールすることになる。
【実施例】
【0086】
本発明の実施は以下の実施例によりさらに理解されるであろうが、これらの実施例は説明のためだけに提示するものであり、本発明をいかなる形でも限定するものでないことはいうまでもない。
【0087】
実施例1
材料と方法
(a)ACTH 7−38フラグメントの液相消化:
時間依存消化のために、予め0.5mLエッペンドルフ管中で乾燥固化させた500Pモルの合成ヒト副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)フラグメント(7−38[FRWGKPVGKKRRPVKVYPNGAEDESAEAFPLE](配列番号22):シグマ・ケミカル社(モンタナ州セントルイス)から入手)を、33.3μLのHPLCグレード水(ニュージャージー州フィリプスバーグのJ.T.ベーカー[Baker]社製)に再懸濁させた。予め乾燥した0.5mLエッペンドルフ管に、シグマ社から購入したパン酵母由来のカルボキシペプチダーゼY(E.C.3.416.1)の3.05ユニット(pH=6.75で25℃において1分当たり、1ユニットは1.0μモルのN−CBZ−phe−alaをN−CBZ−フェニルアラニン+アラニンに加水分解する)を610μLのHPLCグレード水に再懸濁させた。20μLのACTH 7−38フラグメント溶液に10μLのCPY溶液を加え、反応を開始させた。最終濃度は、10pモル/μL ACTHおよび1.67x10−3U/μL CPYであり、酵素/基質比が1.67×10−8U CPY/モルACTH(CPY分子量=61,000と想定するとモル比は1:37)であった。反応容器から1μLのアリコートを、反応時間にして、15秒、60秒、75秒、105秒、2分、135秒、4分、5分、6分、7分、8分、9分、10分、15分および25分に採取した。25分時点で、15μLの5x10−3U/μL CPYをその反応容器に加えた。合計反応時間1時間および24時間時点で2μLのアリコートを取り出した。上述の反応を、室温で2分間進行させ、その後、その温度を37℃まで上昇させた。すべてのアリコートを、シグマ社から入手した9μLのMALDIマトリックスであるα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)に加えた。このCHCAは、1:1アセトニトリル(ACN):0.1%トリフロロ酢酸(TFA))中で濃度が5mg/mLであった。ただしl時間と24時間アリコートについては、8μLのそのマトリックスに添加した。マトリックス溶液中のACTH消化アリコートの最終全ペプチド濃度は1pモル/μLであった。2μLの15秒、105秒、6分および25分におけるアリコートを混ぜ合わせて集合ペプチド溶液を調製した。MALDIサンプル・プレート上の個々のμLウェルに各アリコート溶液1μLを配分し、質量分析計へ挿入する前に蒸発乾燥させた。
【0088】
(b)オン・プレート消化:
すべてのオン・プレート消化は、1pモル/μL濃度の0.5μLのペプチドをピペットにより、マサチューセッツ州フラミンガムのパーセプティブ・バイオシステムズ社で製造・供給し、商標VoyagerTMとして知られる質量分析装置に使用できるように作られたものと同様に形成されたサンプル・プレートの1列各10個の1μLウェルに入れて行なった。表1に挙げたすべてのペプチドはシグマ社から購入したものであり、提供されるもののうち最高純度のものである。第1のウェルでの反応を開始させるために、0.0122U/μLのCPYを、0.5μL添加した。続く9個のウェルには、CPYをそれぞれ、6.10×10−3、3.05×10−3、1.53×10−3、6.10×10−4、3.05×10−4、1.53×10−4、7.63×10−5、3.81×10−5および0U/μLの濃度で加えた。各ウェルで1μLの反応容器をピペット先端で前後に動かして確実に混合させた。反応は1μL全量がプレート上で蒸発するまで(約10分間)室温で進行させた。その時点で各ウェルに、1:1ACN:0.1%TFAに入れた5mg/mL CHCAの1μLを攪拌せずに加え、質量分析に先立って約10分間蒸発させた。
【0089】
(c)MALDI−TOF質量分析:
VoyagerTMバイオスペクトロメトリーTMワークステーション(マサチューセッツ州ケンブリッジのパーセプティブ・バイオシステムズ社製)を使用してMALDI−TOF質量分析を行なった。質量分析のための1.2mの直線飛行チューブに正に荷電したイオンを導入するために、28.125KVの電圧勾配をサンプル・プレートとイオン光学加速プレートを含むイオン源にかけた。ACTH 7−38フラグメントとグルカゴン消化物のデータを採取するために、低質量ゲートを使用してマトリックス・イオンが検出プレートに衝突しないようにした。低質量ゲートを適用するために、ガイドワイヤにパルスを短時間与えて低質量イオン(約1000ダルトン未満)をそらせた。その他のすべてのスペクトルは低質量ゲートをオフにして記録した。信号/ノイズ比を良くするために、窒素レーザー(337nm)からの64−128シングル・ショットを平均化させて各質量スペクトルに適用した。ここに提示したデータは11ポイントのSavitsky−Golay二次フィルタを使用して滑らかにした。すべてのデータは、ブラジキニン(MH+=1061.2)および酸化インスリンB鎖(MH+=3496.9)(ともにシグマ社から購入)の外部較正用標準混合物を5mg/mL CHCAマトリックス溶液中に1pモル/μLの濃度で使用して較正した。
【0090】
(d)統計的質量割り当て:
以下に詳細を説明するように、ここに開示した統計的プロトコルでは両側t検定の式を使用した:
【0091】
【数3】
【0092】
そしてsは実験の標準偏差である。実験的に導かれたΔ質量へ残基を割り当てるために、各確定平均質量(それぞれ可能性のあるアミノ酸割当て)に対するtcalculatedを、所定の信頼区間でttabledと比較した。「tcalculated>ttabled」は、所定の信頼水準において、実験質量が確定質量とは異なる平均値を有する母集団からくるものであることを示す。
【0093】
実施例2
バイオポリマー類の配列決定
(a)液相配列決定:
図2は、ACTH7−38フラグメントの液相時間依存性CPY消化の1分、5分および25分時点で取り出したアリコートのMALDIスペクトルを示す。ピーク・ラベルの英数字は表示したアミノ酸の消失から得られたペプチド群を示す。C−末端からの19個のアミノ酸のピークの消失が認められる。*記号は2倍に荷電されたイオンを示し、#記号はm/z=2001.0および2744.4ダルトンにおける未確認ピークを示す。
【0094】
酵素消化において相の制御をしないことがペプチド・ラダーを作り出していることがこの図で観察された。消化1分後(図2A)では、完全なACTH 7−38フラグメントおよびC−末端からの最初の8個のアミノ酸の消失を示すペプチド類を含む9個の検出可能ペプチド群がある。5分時点でのアリコート(図2B)は、Ala(32)およびSer(31)の消失が、1分時点でのアリコートよりさらに支配的になっていることを表すペプチド群を示している。この消化時点で、Ala(32)からVal(22)までの11のアミノ酸残基の消失が見られる。図2Cは、4つの主要ペプチド群として最終的に検出されたLys(21)およびVal(20)を示している。酵素濃度を25分時点で2倍に増加したが、24時間までそれ以上の消化は認められなかった。消化はVal(20)まで進み、「ペプチド−KKRRP」という一続きのアミノ酸の位置で停止した。CPYはプロリン(たとえばPro(24))までは迅速に進み得るものの、この場合最後から2番目のアルギニンがCPYに対して不応である組み合わせてであることが証明された。
【0095】
相の制御をしないことと加水分解速度の変化が重なると、酵素的配列決定に特有の問題が生ずる。図2におけるピークのイオン強度の変化は主として加水分解速度によるもので、これはC−末端とその直前位置のアミノ酸の違いによるものである。残基が隣接の残基に比べて低速で加水分解される場合、その濃度と、したがってその残基の消失を表すペプチド群の信号(シグナル)は先行アミノ酸のそれらに比較して小さくなる。これが図2に示されている質量スペクトルに見られる。Ala(34)の切断は緩やかなようであり、Phe(35)の消失を表す大きな信号が見られる。グリシンとバリンの加水分解もまた低速のようであり、Ala(27)とTyr(23)の消失を表すピークはGly(26)とVal(22)のそれらに比べてそれぞれ比較的強い。
【0096】
ここに提示した先行技術の時間依存性の方法は、広範な方法の最適化をしたものであり、最短時間で最大の配列情報を得るように最適化されている。この特に最適化されたケースでは、25分間で検出可能な量のすべての成分が3つの選定時間アリコートに認められた。こうした最適化条件の選択に至る過程で行った多くの予備的な液相消化の場合にはこのようにはならなかった。高濃度のCPYではGlu(28)およびPro(24)の消失を表すピークがしばしば観察されなかったが、これはアラニンとチロシンがそれぞれ末端直前位置にある場合にCPYがこれらの残基を極めて簡単に切断することを示している。低濃度のCPYではすべてのアミノ酸が配列されたが、この場合は十分な消化のためには、たとえば何日もという長時間を必要とすることが多かった。ここに開示したケースでは最終的に、酵素/基質比として1.67x108U CPY/ペプチド・モルが、25分間の消化で十分な配列情報をもたらすことが突きとめられた。
【0097】
代わりに、全反応時間の15秒、105秒、6分、および25分時点でのアリコートを集めると、MALDI分析ではC−末端からのほとんどすべてのアミノ酸の消失を表すピークを含むペプチド・ラダーが形成されていることを示している(図3)。Glu(28)、Asn(25)、およびPro(24)を除いたすべてのアミノ酸消失が観察されたが、観察されなかった3つは6分時点のアリコートでは小さなピークとして存在していたが、この集合画分では検出不能濃度に希釈されていた。
【0098】
Glu(28)、Asn(25)、およびPro(24)の消失を表すペプチド群として配列ギャップが存在することが、信号/ノイズ比3未満で認められる。これらの成分は6分時点アリコートの質量スペクトルでは小ピークとして認められたが、他のアリコートによる4倍希釈では検出できないほどの低濃度となった。このことは各時点アリコートの個々の質量スペクトルを記録しておく必要性を強調するものである。集めたアリコートを表す単一のスペクトルを記録するという時間のかからない方法は、単に配列ギャップを作り出すだけでなく、消化の時間依存性の経過を分からなくしてしまうことになる。
【0099】
上述のように、液相消化には多くの欠点がある。可能性のあるすベての配列情報を保存しながら短時間に顕著な消化を得るためには、多くの時間と、大量の酵素およびペプチドが必要とされる。配列情報を導き出そうとするペプチドそれぞれについて、時間のかかる方法を展開しなければならない。なぜならば1つのペプチドに対する最適条件のセットは、CPYの組成依存的加水分解速度を考えると、別のペプチドに有用ということはありえない。これに代わる戦略は、以下に説明するように消化をMALDIサンプル表面で実施することである。
【0100】
(b)オン・プレートでの配列決定:
図1は、ステンレス・スチールの基盤に1μLのウェルを10×10グリッド状にエッチングしたMALDI分析用のVoyagerTMのサンプル・プレートを示す。これらのウェルは、その中でオン・プレート消化が行われるマイクロ反応容器となる。プレートの形状寸法は57×57mmで、ウェルは直径2.54mmである。
【0101】
酵素と基質合わせて1/2μLをウェルに入れ、ピペット先端で混合した。消化は約10分間、溶剤蒸発によって反応が停止されるまで続けた。この時点で1μLのマトリックスをウェルの中に入れることにより消化混合物を再懸濁させた。CHCAマトリックスは1:1ACN:0.1TFAに溶解されているため、消化混合物からの親水性および疎水性の両方のペプチド群は、低pHでそれ以上のCPY活性が抑制されながら再懸濁されなければならない。マトリックスの結晶状態は(時間法実験に比べて)、オン・プレート消化を行なうことによって変化したようには見えない。このオン・プレート戦略は、複数の濃度依存(時間依存)消化を並行して実施することが可能なために、この方法の最適化する時間を著しく短縮した。また、反応容器から分析プレートへのサンプル移動による損失は、オン・プレート方式を使うことによりすべての消化された物質が質量測定用に使えることになり回避された。
【0102】
図4のパネルAおよびBにはそれぞれ、CPY濃度6.10×10−4および1.53×10−3U/μLのACTH 7−38フラグメントのオン・プレート濃度依存消化に対応するMALDIスペクトルが示されている。パネルAおよびBは、それぞれ6.10×10−4および1.53×10−3U/μlの濃度のCPYを使用した消化で得られたスペクトルを示す。ピーク分解能を犠牲にしてスペクトル中の小ピークのシグナル/ノイズ比を改善するために、閾値より相当大きいレーザー出力を使用した。*記号は2倍に荷電されたイオンを示し、#記号はm/z=2517.6ダルトンにおける未確認ピークを示す。
【0103】
低濃度消化ではC−末端からの11個のアミノ酸消失を表す12の顕著なピークが得られた。高濃度のCPY消化では低濃度消化で存在したペプチド群、ならびにVal(20)までのアミノ酸の消失を表すペプチド群といくらか重複していることを示した。最初の数個のアミノ酸の消失を表すペプチドの濃度は、Leu(37)のピークを除いて検出レベルまで(約10fモル未満)減少した。両図の情報を総合することにより、ACTH 7−38フラグメントの配列はギャップなしにC−末端からの19個のアミノ酸を読み取ることができ、時間依存消化と同じく一続きのアミノ酸「ペプチド−RRKKP」で停止している。図4は、同時に実施した9つのCPY濃度のうちの2つを示す。この場合において、方法の最適化は上述の戦略において本来的に内在するものであった。このオン・プレート方式採用の場合の、方法の進行(最適消化条件選定)、消化、データ収集およびデータ分析の総時間は30分未満であった。ペプチドと酵素両方の消費量は極めて少なく、9つの消化用ウェルとのペプチドおよび水を含む1つウェルを含む1列に並んだ10ウェルで合計5pモルのペプチドが消費された。また、すべての実験で僅か1.97pモルのCPY(100U/mgおよび分子量=61,000として)が必要とされただけであった。
【0104】
【表1】
【0105】
注:1:計算値 2.pH6.5における値 3.配列情報得られず。
【0106】
表1に掲げたのは、この新規オン・プレート戦略を使用して消化および分析したペプチド類である。これらのペプチドはアミノ酸組成、大きさ(分子量=3659.15まで)、電荷および極性の異なるペプチドを表すものとして選択した。太字のアミノ酸は、1列消化から得られた1以上のMALDIスペクトルでその残基の消失を表すピークが観察されたものを示している。残基の同定を可能にするためには、そのアミノ酸の消失を表すピークとその直前のアミノ酸が存在しなければならない。括弧で囲んだ残基は、配列順が導き出されなかったものである。全体としてCPYは消化したペプチドのほとんどについてC−末端からのいくつかの配列情報を提供し、配列情報が得られなかったのは22のケースでわずかに3つだけであった。これら3つのケースのうち2つでは、C−末端がリジンで直前位置が酸性残基であった。CPYはC−末端の塩基性残基に近づくにつれ活性が減ることが報告されているが、隣接する酸性残基の存在がさらに活性を減らすようである。黄体ホルモン放出ホルモン(LH−RH)の場合、直前位置がプロリンのアミド化グリシンのC−末端はCPY活性を抑制したが、これはCPYがプロリンとグリシン残基の両方で抑制されるという報告(ハヤシ[Hayashi]ら(1975)J.Biochem.77:69−79;ハヤシ[Hayashi],R.(1976)Methods Enzymol.45:568−587)と一致している。CPYはジペプチド類のアミド化C−末端残基を加水分解することが知られているが、ここでもフィサラエミン、カシニン、サブスタンスP、ボメシン、およびα−MSHを切断したことが示されている。
【0107】
表1のデータに見られるように、CPYはLH−RHを除き、ブロックされたN−末端残基を有するすべてのペプチドから配列情報を導き出すことができた(フィサラエミン、ボンベシンおよびα−MSH)。これらのペプチド類はエドマン法では全く情報が得られないことから重要なことである。多くのペプチドが、短縮型ペプチドのピークの検出がCHCAマトリックスイオンの存在によって阻害されるところまで(600ダルトン未満)配列決定された。その他のペプチド類の配列決定は、C−末端および直前位置の残基の組み合わせがCPY活性を抑制するところまでは進まなかった。先に議論したようにボンベシン、アンギオゲニンおよびグルカゴンは、緩やかに切断される残基がより迅速に加水分解される残基に続くことから配列にギャップをもたらした。オン・プレートCPY消化/MALDI検出戦略の実行可能性はペプチドの全体的な極性および電荷とは無関係のようである。
【0108】
図5は、それぞれ3.05×10−3、3.05×10−4、および6.10×10−4U/μlのCPY濃度を使用したオン・プレート消化により得られたオステオカルシン7−19フラグメント、アンギオテンシン1およびブラジキニンのオン・プレート消化結果を示す。記号Naはナトリウム付加物のピークを示し、#はm/z=568.5ダルトンにおけるマトリックス・ピークを示す。
【0109】
各スペクトルは1列のウェルで行われた9個の消化のうちの1つの結果を示す。オステオカルシン7−19フラグメントの場合、CPYはプロリンまで進行し(マーチン[Martin],B.(1977)Carlsburg Res.Commun.42:99−102;ブレダム[Breddam]ら、(1987)Carsburg Res.Commun.52:55−63;ブレダム[Breddam],K.ら、(1986)Carsburg Res.Commun.51:83−128;ハヤシ[Hayashi],R.(1977)Methods Enzymol.74:84−94;ハヤシ[Hayashi]ら(1973)J.Biolog.Chem.248:2296−2302)、2つのペプチドのそれぞれ最後から2番目の位置でのAspとHisの存在が以後のCPY活性を抑制した。ブラジキニンは、マトリックスがピーク検出を干渉し始めるまでのものが配列決定された。選択したペプチド3つについてはすべて、全部で9つのウェルでの消化で得られた全体の配列情報を表示の単一の消化で示している。その他多くのペプチドについてはこのようにはしていない。全体の配列情報は、図4に示したACTH 7−38フラグメントの場合のように多くは2以上のウェルから導かれた。
【0110】
実施例3
MALDIによるラダー配列決定の統計的分析
(a)本発明に基づく統計的分析の一般原理
先に開示したように、短縮によるラダーが形成された後マトリックスをウェルに加え、それらのウェルから複数の測定値を取るが、それらのウェルにはアミノ酸の消失を表すピークが存在する。統計的な解釈にはt−検定を使用し、関連する信頼区間での割り当てを行う。1つの実験平均値に対する両側検定に、次の式を適用する。
【0111】
【数4】
【0112】
ただしxは実験平均質量差、μは確定質量差、nは実施した複製標本数であり、そしてsは平均値の実験標準偏差である。すべての測定質量(1残基、2残基、3残基...など、ならびに修飾残基の質量)を確定質量μとして使用してtcalculatedのリストを作り、これを次に特定の信頼区間でt分布表の値と比較する。確定質量と統計的に異ならないすべての質量、つまりtcalculated<ttabled、は所定の信頼水準でその残基に割り当てられる。この情報は仮定の組成物をチェックするため、または配列のデータベースを検索するために使用することができる。データベース検索をする場合、これらの信頼水準は品質的な“ヒット”を得る助けとするための道具として、検索アルゴリズムに利用することができる。
【0113】
さらに、データの解釈にはソフトウェア・フィードバック制御を利用してデータを取得し解釈する自動化されたプロセスを使用した。データ解釈ソフトウェアは、アミノ酸割り当てのための複数の候補を統計的に差別化するのに要求される取得データ数(最低2)をコントロールするものである。オペレータは割り当てに適合する最低の統計的信頼水準の規定をコントロールすることになる。
【0114】
(b)実験的に得た質量/電荷比データの分析:ペプチド類
短縮によるラダーの分析のためにMALDIを使用するのは、本明細書に開示しているように正確な配列データを得るために決定的に重要なことである。先行技術においては、この技法は規定された配列を有するペプチドを配列することに専ら利用されてきたが、その場合は質量の測定精度はあまり重要ではない。対照的に、ここに開示した方法は未知の配列のペプチド類の配列決定に有用なものである。技術者達は従来、既知の分子の質量をMALDIで導かれた質量とほんの数回の質量測定値について比較することにより、計器による質量測定精度について一般的に表現(たとえば、0.1%より良いと)するだけであったが、この質量精度を残基割り当ての目的で個々の質量測定値に当てはめるのは統計的妥当性がない。したがって、真の残基割り当ておよび未知のものに対する直接的な応用は今までは難しくかつ試験的なものであった。アミノ酸配列をラダ一配列決定/MALDI戦略で導き出すためには、本明細書に開示するように統計的な信頼水準を残基割り当てに課さなければならない。
【0115】
残基割り当てに信頼水準を課すためには、まず最初に実験的誤差の性格を規定しなければならない。誤差がランダム(無作為)のシステムにおいては、単純なt−統計学をアミノ酸割り当てに利用することができる。
【0116】
前述の短縮によるペプチド・ラダーのMALDI分析を支配する誤差の性質を評価するために、前記のACTH 7−38フラグメントの時間依存性消化から取り出された15アリコート(各アリコートに1つのスペクトル)で行われたすべてのアミノ酸割り当てに関するΔ質量差(すなわち、実験質量差−実際のアミノ酸質量)を測定して、平均0.0089±0.605(n=107)のガウス分布を得た。この実験におけるtcalculated(0.152)<ttabled(1.99)は、平均Δ質量差=0という帰無仮説は95%信頼水準では棄却できないことを示している。このことは誤差がランダムで、統計的に有意なシステム上の誤差がないことを示している。これは2点の質量測定での不正確なy切片値といった個々のペプチドピークの質量割り当てにおいて存在するシステム上の誤差と同じように、2つの隣接ピークの質量差を計算する時には相殺されるものと考えられる。同位体の部分的分解によって起きる2つの隣接ピークの片方の質量中心の不正確な計算のような、相殺されないシステム上の誤差要素はありうる。この現象は平滑化フィルタの使用によって、すべてのピークが実際の平均質量値で検出されるようにすることによって回避された。
【0117】
【表2】
【0118】
注:*1 表示の質量は平均値で単位はダルトン。
【0119】
*2 実験質量測定値の不確実性は標準偏差で与えられている。(括弧内は平均値の95%信頼区間)
表2はACTH 7−38フラグメントの配列された残基の実際の平均質量、ならびに時間依存性消化について計算した実験質量差とその標準偏差および95%信頼区間を比較したものである。複製の数は、特定の残基の質量差測定に必要な検出可能な隣接ピークを有していたスペクトルの数を示す。平均値を確定するために相当な測定数が必要なことはこの表から明らかであるが、これは95%信頼水準が測定数の平方根で減少するからである。配列されたすべての残基については、実際の質量は実験質量分布の±3σに収まった。それぞれのケースの計算t値は95%信頼区間でttabled未満であり、このことは実験質量が実際の既知の質量とは有意に異なっていなかったということを意味する。統計的に残基に割り当てるためには、それぞれ可能性のあるアミノ酸の計算されたt値(the calculated t−value)をttabledと比較しなければならない。言い換えれば、可能性のある割当てのそれぞれについて、計算されたt値(the calculated t−value)がt分布表の値(the tabulated value)に対して比較され得るように、可能性のあるすべてのアミノ酸の実際の質量を確定平均μとして使用し、そして、帰無仮説(すなわち、
【0120】
【数5】
【0121】
−μ=0)を立てねばならない。
【0122】
20の通常の無修飾アミノ酸だけ可能性があると想定して、これを先行技術の時間依存性ACTH 7−38フラグメント消化について行なった。結果の要約が表3に示されている。太字の数値は実験平均値が確定アミノ酸平均値と大きく異ならなかったものである。ここでも十分な母集団サンプリング数が必要なことは明らかである。Glu(28)についてはわずか2つの測定値だけが観察されたので、95%信頼区間は4.22ダルトンとなった(表2)。このことは、Gln、Lys、GluおよびMetを区分することは不可能ということになる(表3)。Glu(30)が認められた12例から、95%信頼区間は0.39ダルトンとなり、これによりGln、LysおよびMetは統計的にアミノ酸割り当てはできないこととなる。
【0123】
表3は20の通常の無修飾アミノ酸の確定平均値を与えた場合のACTH 7−38フラグメントの19の配列アミノ酸の実験平均値に対する計算t値を表す。ttabledはそれぞれの欄の最後に示されている。tcalculated<ttabledは、実験平均値が95%信頼区間で確定アミノ酸の平均値と有意に異ならないことを示している。このケースに該当するそれぞれのtcalculatedは太字で示されている。
【0124】
【0125】
注:適当な自由度v、ここではv=n−1、に対応するt分布の片側の0.025領域に関するttabled。
【0126】
表4は、先行技術の時間依存性戦略を利用してACTH 7−38フラグメントのC−末端から配列された19のアミノ酸に対する統計的アミノ酸割り当ての結果を要約したものである。表に掲げたアミノ酸の質量はこの信頼水準においては実験的に導かれた質量差と統計的には差が見られない。太字で示されたアミノ酸はその位置に存在する既知の残基である。表示した信頼区間は、示されたもの以外のすべてのアミノ酸質量が実験平均値と統計的に異なるという、最高の水準である。
【0127】
【表4】
【0128】
注:20の通常の無修飾アミノ酸だけを可能性のある候補と想定。
【0129】
たとえば残基21のアミノ酸割り当てにおけるGlnおよびLysの区分は、実験平均値(128.15ダルトン)がちょうどGln(128.13ダルトン)およびLys(128.17ダルトン)の確定平均値を2分したためできなかった。同じ現象は残基37の割り当てについても発生した。実験平均値(113.63ダルトン)がLeu(Ile)の確定平均値(113.16ダルトン)およびAsnの確定平均値(114.10ダルトン)を2分した。28および38位置のアミノ酸の割り当ては、複製数が少ない(それぞれ2および3)ために困難であった。残基28は、95%以上98%以下の信頼区間でGln/Lys/Glu/Metと割り当てられた。表3はこの残基に関して、最小のtcalculatedとなった確定アミノ酸質量はメチオニンのものであることを示している。信頼区間80%を使用すると、Gluの正しい割り当ては統計的にできないと考えられる。同様に残基38の割り当ては95%信頼水準でGln/Lys/Gluとされたが、正しい割り当て(Glu)はここでも80%水準では統計的にできないことになる。
【0130】
誤差はランダムに分散しているため、十分な母集団サンプリングをすることによって、すべてのアミノ酸(LeuおよびIleを除いて)を区別することができる。
【0131】
実験の標準偏差をすべての実験について上記のs=0.604に近似させると、GlnとLys(Δ質量=0.04ダルトン)を95%信頼区間で区別するためには>876の測定値(ttabled=1.960)が必要となる。この数字は実験的には実施不可能なものであるが、実験平均値の標準偏差を小さくすることによってこれを著しく減らすことができる。実験の標準偏差を減らすことは、2つのアミノ酸を区分するのに必要とされるサンプル数が質量差の実験標準偏差の平方根に比例することから、重要な価値を有する。ペプチド母集団を干渉マトリックスの外に移動させるために質量シフト試薬を使用することが、低質量領域(<600ダルトン)に現れるペプチドに関する実験誤差を改善する可能性のある化学的手段と考えられる。リフレクトロンおよび/または拡張型飛行チューブ形状の使用もまた誤差を減らすのに適した器具的な方法と考えられる。
【0132】
ここに開示したオン・プレート戦略を使用した残基の統計的割り当てのプロトコルは、消化を実施する各穴から複数のサンプリングをすることになる。必要とされる複製の数は、1種類のCPY濃度で配列されることになるアミノ酸の種類によって異なる。たとえば、ただ1つの割り当てを除いては統計的に確実にありえないとするためには、113−115ダルトン(Ile/Leu、AsnおよびAsp)ならびに128−129ダルトン(Gln/Lys/Glu)あたりの質量差については、163(Tyr)または57(Gly)あたりの質量差の場合よりもより多くの複製数が必要とされる。この方法(1サンプルにつき複数の複製)の実験誤差は、時間依存性消化(1サンプルにつき1つの複製)と同じようにランダムになると思われる。
【0133】
残基割り当てに関するこの一般的な統計的プロトコルを、2以上のアミノ酸の消失を表す2つの隣接ピークに適用した。このケースでは、t値を計算するためにすべてのジペプチド、トリペプチドなどの確定平均値を使用することができる。
【0134】
残基の順番に関する情報は失われるが、組成は導き出すことができる。ただ1つのアミノ酸およびジペプチド質量を確定平均値として使用して、Phe−Argの配列ギャップを有するアンギオゲニンについて実施した(表1)。Arg(15)とPhe(13)の消失を表すピークの間の平均実験質量差は303.45±0.328(n=5)であった。Phe/Arg以外のすべての単一アミノ酸およびジペプチド質量については、99.8%の信頼区間において計算t値はttabledより大きかった。この特定のケースでは、ギャップを包含するアミノ酸は同定されたが、それらの順番は実験的には解明されなかった。この統計的戦略はまた、ラダー配列決定/MALDI実験の双方向データ分析および解釈を行なうためにコンピュータ・アルゴリズムに組み入れた。
【0135】
かくして上記のように、CPY消化をMALDI検出と組み合わせて使用することは、ここに開示の通りC−末端配列情報を得るのに有効であった。ACTH 7−38フラグメントでは、C−末端からギャップなしに19のアミノ酸の配列情報が得られた。このオン・プレートの濃度依存性による方式は、時間と試薬を消費する展開方法を回避して、複数の消化を並行して行なう方法として有用であることを示している。
【0136】
このオン・プレート戦略は物理的な操作が少なく、かつ酵素とペプチドの総量が少なくて済む。オン・プレート方式を利用した22ペプチドでの試みでは、3例を除いてすべてが何らかのC−末端配列情報を得ることに成功した。CPYはまたアミド化C−末端残基を切断するが、C−末端およびその直前位置に存在する特定の残基の組み合わせに対しては活性を有さないことが示された。
【0137】
要約すれば、“オン・プレート”のCおよびN末端ペプチド・ラダー配列決定実験から残基割り当てを作り出すための統合された1つの戦略が開発された。この戦略は以下の作業の論理的な組み合わせをベースとしたものである: 1)VoyagerTMサンプル・プレートのμL穴をマイクロ反応容器として使用する濃度依存性エキソペプチダーゼ消化戦略からペプチド・ラダーを作り出し、 2)ペプチド・フラグメントの質量を割り出すための道具としてVoyagerTM MALDI−TOFワークステーションを使用し、 3)t統計学をベースとした解釈アルゴリズムにより確定割り当て候補を排除し、そして、 4)統計をベースとした割り当てを完全に行うか、またはコスト効果の高い点まで導くために取得する複製数を統御する解釈アルゴリズムからのデータ取得ソフトウェアのフィードバック制御。
【0138】
(c)実験的に得た質量/電荷比データの分析:核酸類 ここに開示した方法をまた、40塩基を含む核酸ポリマーに関する配列情報を得るために使用した。3’末端に特異性のエキソヌクレアーゼを使用した加水分解を、0.002μU/μLから0.05μU/μLの範囲の異なる濃度のPhos I(ホスホジエステラーゼI)を使用して行なった。加水分解は3分間進行させた。MALDI−T0Fを使用した加水分解配列のスペクトルが図6A−6Eに示されている。本明細書に開示したデータ統合により、この配列は、CGC TCT CCC TTA TGC GAC TCC TGC ATT AGG AAG CAG CCC A(配列番号23)であると確認された。
【0139】
別の実験において、光吸収性マトリックスCHCAの添加を評価した。40塩基を含む核酸ポリマー(上記の通り)をマトリックスと、5’末端に特異性のエキソヌクレアーゼPhos II(ホスホジエステラーゼII)0.4μU/μLに混合した。マトリックスの存在下での加水分解を10分間進行させた。MALDI−TOFにより得られたそのスペクトルを図7に示す。これらのデータは、ポリマー、加水分解剤およびマトリックスを質量スペクトル分析に先立って混合する効力を裏付けている。この混合によって試薬の取り扱い操作が減り、サンプルの処理が促進される。図7と同様のデータを使用して、この核酸ポリマーの配列が上記の通りであることが追認された。
【0140】
実施例4
本発明のその他の利用
本明細書に開示したように、この戦略は、蛋白質、ペプチド、核酸、炭水化物、およびそれらの修飾物などの天然バイオポリマー、ならびにPNAやチオリン酸化核酸などの合成バイオポリマー類すべての配列に適用することができる。ラダーはエキソヒドロラーゼ類、エンドヒドロラーゼ類を使用して酵素的に、あるいはサンガー法および/または短縮による合成または失敗配列による化学的な方法により作り出すことができる。
【0141】
本明細書に開示したCPY/MALDIラダー配列決定法の有用性を拡大するために、その他の方式を取り入れることができると考えられる。
【0142】
たとえば、異なる酵素特異性を利用することにより、CPY活性を抑制する残基の組み合わせを配列する手段ならびに配列ギャップを防止する手段として、開示したオン・プレート戦略を利用したカルボキシペプチダーゼ混合物の使用を進めることができる。また、小ペプチド類にN−末端および/またはC−末端リンカーを共有結合させることにより、すべての配列ピークを低質量マトリックス領域外に現れるようにすることも考えられる。MALDIを上記のカルボキシペプチダーゼ混合物と質量シフト試薬修正物と組み合わせることによって、ギャップなしにペプチドのN−末端を完全に配列決定することができることも考えられる。
【0143】
均等
本発明の精神または基本的な特徴から逸脱することなく、本発明をその他特定の形で実施することができるであろう。したがって前記の実施態様は、すべての点においてここに開示した発明を限定するものではなく、説明するためのものである。したがって本発明の範囲は、前記の説明によるものではなく添付の請求項により示されるものとし、それら請求項の意味するところと均等範囲内にあるすべての変更は本発明の範疇に属するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】図1は、MALDI分析のための例示的なサンプル・プレートまたはサンプル・ホルダである。ウェルはマイクロ反応容器として働き、その中でオン・プレート消化が行われる。プレートの寸法は57×57mmで、ウェルは直径2.54mmである。
【図2A】図2A、2Bおよび2Cは、ACTH 7−38フラグメント[FRWGKPVGKKRRPVKVYPNGAEDESAEAFPLE](配列番号22)の時間依存性CPY消化における1分(2A)、5分(2B)、および25分(2C)のMALDIスペクトルを示す。ピーク・ラベルの英数字は、示されたアミノ酸の消失により生じたペプチド群を示す。ピークはC末端からの19個のアミノ酸の消失を示す。*記号は2倍に荷電されたイオンを示し、#記号はm/z=2001.0および2744.4ダルトンにおける未確認ピークを示す。
【図2B】図2A、2Bおよび2Cは、ACTH 7−38フラグメント[FRWGKPVGKKRRPVKVYPNGAEDESAEAFPLE](配列番号22)の時間依存性CPY消化における1分(2A)、5分(2B)、および25分(2C)のMALDIスペクトルを示す。ピーク・ラベルの英数字は、示されたアミノ酸の消失により生じたペプチド群を示す。ピークはC末端からの19個のアミノ酸の消失を示す。*記号は2倍に荷電されたイオンを示し、#記号はm/z=2001.0および2744.4ダルトンにおける未確認ピークを示す。
【図2C】図2A、2Bおよび2Cは、ACTH 7−38フラグメント[FRWGKPVGKKRRPVKVYPNGAEDESAEAFPLE](配列番号22)の時間依存性CPY消化における1分(2A)、5分(2B)、および25分(2C)のMALDIスペクトルを示す。ピーク・ラベルの英数字は、示されたアミノ酸の消失により生じたペプチド群を示す。ピークはC末端からの19個のアミノ酸の消失を示す。*記号は2倍に荷電されたイオンを示し、#記号はm/z=2001.0および2744.4ダルトンにおける未確認ピークを示す。
【図3】図3は、ACTH 7−38フラグメントの時間依存性CPY消化からの15秒、105秒、6分および25分の反応を停止させたアリコートを集めて混ぜ合わせたものを示すMALDI質量スペクトルである。6分のアリコートで小ピークとして認められ、かつこの集められた画分では希釈されて検出できない濃度となったGlu(28)、Asn(25)およびPro(24)を除いて、すべてのアミノ酸消失が認められる。すべての条件は本文中に記載されている。
【図4A】図4Aおよび図4Bは、種々の濃度のカルボキシペプチダーゼY(CPY)(6.10x10−4U/μL(4A);1.53x10−3U/μL(4B)によるACTH 7−38フラグメントのオン・プレート消化による種々のMALDIスペクトルを示す。パネルAおよびBは、それぞれ6.10x10−4および1.53x10−3U/μLの濃度のCPYを使用した消化で得られたスペクトルを示す。ピーク分解能を犠牲にしてスペクトル中の小ピークのシグナル/ノイズ比を改善するために、閾値より相当大きいレーザー出力を使用した。*記号は2倍に荷電されたイオンを示し、#記号はm/z=2517.6ダルトンにおける未確認ピークを示す。
【図4B】図4Aおよび図4Bは、種々の濃度のカルボキシペプチダーゼY(CPY)(6.10x10−4U/μL(4A);1.53x10−3U/μL(4B)によるACTH 7−38フラグメントのオン・プレート消化による種々のMALDIスペクトルを示す。パネルAおよびBは、それぞれ6.10x10−4および1.53x10−3U/μLの濃度のCPYを使用した消化で得られたスペクトルを示す。ピーク分解能を犠牲にしてスペクトル中の小ピークのシグナル/ノイズ比を改善するために、閾値より相当大きいレーザー出力を使用した。*記号は2倍に荷電されたイオンを示し、#記号はm/z=2517.6ダルトンにおける未確認ピークを示す。
【図5A】図5A、5Bおよび5Cは、以下の3種類の選定ペプチドのそれぞれ3.05×10−3、3.05×10−4、および6.10×x10−4U/μLの濃度のCPYを使用したオン・プレート消化により得られた種々のMALDIスペクトルを示す:オステオカルシン7−19フラグメント[GAPVPYPDPLEPR(配列番号13)(5A)、アンギオテンシン1[DRVYIHPFHL(配列番号8)(5B)、およびブラジキニン[RPPGFSPFR](配列番号5)(5C)。記号Naはナトリウム付加物のピークを示し、#はm/z=568.5ダルトンにおけるマトリックス・ピークを示す。
【図5B】図5A、5Bおよび5Cは、以下の3種類の選定ペプチドのそれぞれ3.05×10−3、3.05×10−4、および6.10×x10−4U/μLの濃度のCPYを使用したオン・プレート消化により得られた種々のMALDIスペクトルを示す:オステオカルシン7−19フラグメント[GAPVPYPDPLEPR(配列番号13)(5A)、アンギオテンシン1[DRVYIHPFHL(配列番号8)(5B)、およびブラジキニン[RPPGFSPFR](配列番号5)(5C)。記号Naはナトリウム付加物のピークを示し、#はm/z=568.5ダルトンにおけるマトリックス・ピークを示す。
【図5C】図5A、5Bおよび5Cは、以下の3種類の選定ペプチドのそれぞれ3.05×10−3、3.05×10−4、および6.10×x10−4U/μLの濃度のCPYを使用したオン・プレート消化により得られた種々のMALDIスペクトルを示す:オステオカルシン7−19フラグメント[GAPVPYPDPLEPR(配列番号13)(5A)、アンギオテンシン1[DRVYIHPFHL(配列番号8)(5B)、およびブラジキニン[RPPGFSPFR](配列番号5)(5C)。記号Naはナトリウム付加物のピークを示し、#はm/z=568.5ダルトンにおけるマトリックス・ピークを示す。
【図6A】図6A−6Eは、種々の濃度(0.002μU/μL(6A);0.005μU/μL(6B);0.01μU/μL(6C);0.02μU/μL(6D);0.05μU/μL(6E))のホスホジエステラーゼI(PhosI)による核酸ポリマー(配列番号23)のエキソヌクレアーゼ加水分解の種々のMALDIスペクトルを示す。
【図6B】図6A−6Eは、種々の濃度(0.002μU/μL(6A);0.005μU/μL(6B);0.01μU/μL(6C);0.02μU/μL(6D);0.05μU/μL(6E))のホスホジエステラーゼI(PhosI)による核酸ポリマー(配列番号23)のエキソヌクレアーゼ加水分解の種々のMALDIスペクトルを示す。
【図6C】図6A−6Eは、種々の濃度(0.002μU/μL(6A);0.005μU/μL(6B);0.01μU/μL(6C);0.02μU/μL(6D);0.05μU/μL(6E))のホスホジエステラーゼI(PhosI)による核酸ポリマー(配列番号23)のエキソヌクレアーゼ加水分解の種々のMALDIスペクトルを示す。
【図6D】図6A−6Eは、種々の濃度(0.002μU/μL(6A);0.005μU/μL(6B);0.01μU/μL(6C);0.02μU/μL(6D);0.05μU/μL(6E))のホスホジエステラーゼI(PhosI)による核酸ポリマー(配列番号23)のエキソヌクレアーゼ加水分解の種々のMALDIスペクトルを示す。
【図6E】図6A−6Eは、種々の濃度(0.002μU/μL(6A);0.005μU/μL(6B);0.01μU/μL(6C);0.02μU/μL(6D);0.05μU/μL(6E))のホスホジエステラーゼI(PhosI)による核酸ポリマー(配列番号23)のエキソヌクレアーゼ加水分解の種々のMALDIスペクトルを示す。
【図7】図7は、加水分解された核酸ポリマー(配列番号23)と光吸収性マトリックスの組み合わせめMALDIスペクトルを示す。(配列表)
【0145】
【数6−1】
【0146】
【数6−1】
【0147】
【数6−1】
【0148】
【数6−1】
【0149】
【数6−1】
【0150】
【数6−1】
【0151】
【数6−1】
【0152】
【数6−1】
【0153】
【数6−1】
【0154】
【数6−1】
【0155】
【数6−1】
【0156】
【数6−1】
【0157】
【数6−1】
【0158】
【数6−1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載されるような、ポリマーについての配列情報を得るための方法。
【請求項1】
明細書に記載されるような、ポリマーについての配列情報を得るための方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図7】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図7】
【公開番号】特開2007−206054(P2007−206054A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274536(P2006−274536)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【分割の表示】特願平8−535084の分割
【原出願日】平成8年5月17日(1996.5.17)
【出願人】(595165597)パーセプティブ バイオシステムズ,インコーポレイテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】PerSeptive Biosystems,Inc.
【住所又は居所原語表記】500 Old Connecticut Path,Framingham,Massachusetts 01701,United States of America
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【分割の表示】特願平8−535084の分割
【原出願日】平成8年5月17日(1996.5.17)
【出願人】(595165597)パーセプティブ バイオシステムズ,インコーポレイテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】PerSeptive Biosystems,Inc.
【住所又は居所原語表記】500 Old Connecticut Path,Framingham,Massachusetts 01701,United States of America
【Fターム(参考)】
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