説明

質量分析におけるノイズを低減するための方法および装置

【課題】質量分析計におけるキャリアガスの準安定状態原子(分子)の数を減少させることによって、質量分析におけるノイズを低減させる。
【解決手段】質量分析計において試料中の検体のイオンを生成するために前記試料をイオン化するステップと、生じたイオンを質量電荷比によって分離するステップと、検出器によって前記分離したイオンを検出するステップと、質量分析計内のイオン化の後でかつ検出の前に、準安定状態原子(分子)を減じたガスを導入するステップとを含有する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析に関する発明である。特に、質量分析におけるノイズを低減するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析(MS)は、試料の構成要素の性質および/もしくは量の検出のための周知の技術である。質量分析計は、質量と電荷の比(これ以降、m/zもしくはm/z比)によって、試料の構成要素である検体を分離することが出来る。粒子のm/z比による分離するのに異なった原理により作動する質量分析計には多くの異なったデザインがあるが、多くの質量分析計は四つの基本的な部分から成る。特に、事実上すべての質量分析計は、試料からイオンを生じさせるイオンソース、異なるm/z比のイオンを分離するための質量分析器、それぞれのm/z比の生じたイオンの数を検出するための検出器、および、データを集めて質量スペクトルを作るためのデータ分析器を備える。質量分析計のこれらのステージのそれぞれに対して、種々の既知の技術が存在する。
【0003】
質量分析計のソースステージは典型的にイオン化領域を備え、ここでは試料の構成要素がイオン化される。たとえば、気相質量分析において、試料ガスを運搬するキャリアガスがイオン化領域に導入される。一般的なキャリアガスは、ヘリウム、水素、窒素を含む。電子衝撃イオン化技術および化学イオン化技術を含む試料をイオン化するための周知の技術があるがそれらに限定するものではない。
【0004】
たとえば、電子衝撃イオン化において、通常は、多くの検体をイオン化するのに必要なエネルギーよりも大きい約70eVという既知のエネルギーを持つイオン化ソースからの電子ビームによって、試料が衝撃を受ける。このエネルギーはまた、イオンおよび非イオン化の、励起準安定状態のキャリアガスを形成するのに十分である。
【0005】
イオンをm/z比によって分離するための質量分析器には、いくつかの型の周知のものがまた存在する。そのような型の一つは四重極質量分析器であり、そこでは、4個の長い極の間において周波数(RF)と直流(DC)信号とを、特定のm/z比のイオンを選択的に安定化させる一方、それ以外のm/z比のイオンを不安定化させるるために調整されたRFで、印加することによって電磁場が生成される。安定化されたイオンは、棒と平行でありかつ棒の間の軌道を伝わって移動し、一方、不安定化されたイオンは半径方向に軌道から外に導かれていく。
【0006】
次に、検出器は、選択されたm/z比のイオンを受け取り検出するために配置される。最後に、データ分析器は検出器の出力を分析して、イオンのm/z比および/もしくはそれらの濃度を測定し、試料の構成要素とそれらの量を決定する。
【0007】
異なった種類のイオンが同じm/z比を持つ可能性があるので、単一のステージの質量分析計による、同じもしくは非常に近いm/z比を有する、試料中の二つの種類間の区別は、必然的に不可能である。従って、タンデム質量分析計が知られており、そこでは、二個もしくはそれ以上の質量分析器のステージが連続的に配置されており、場合によってはステージ間に衝突セルを伴う。例えば、最初のMSステージは、既知のMS技術の一つを用いて、検体をm/z比によって分離するであろう。その後、最初のステージを通り抜けたイオンは衝突セルに導入され、そこでは、それらのイオンは、それらをより小さいイオン化された構成要素へと断片化するのに十分なエネルギーをもってして他の分子と衝突する。それらの断片はその後、二番目のMSステージに導入され、そこでは、それらの断片は同じかもしくは異なったMS技術によって、m/z比で分離される。この事は、類似のm/z比を持つ二つの異なった分子が同じm/z比を持つ衝突断片を生じることは起こりそうも無いことなので、試料中の、同じかもしくは非常に近いm/z比を持つ二つの原子的に似ていない検体を区別するのにより強力な能力を提供する。
【0008】
イオン化領域における励起状態のキャリアガス分子の生成は、上述のように、MS測定システムにおける、シグナルノイズ比を下げて装置の感度を下げるノイズのソースだと考えられている。そのようなノイズの正確な原因のすべての詳細が完全に解明されていないものの、少なくともノイズのいくらかは、それらキャリアガスの準安定状態原子(分子)が検出器表面にぶつかり、そして検出される結果であると考えられている。
【0009】
多くの質量分析計は、準安定状態の原子が検出器に到達するのを防ぐために、曲線のイオンガイドを組み込むことを画定する。特に、準安定状態の原子は荷電されていないため、曲線のイオンの軌道に沿って荷電されたイオンをガイドするための電磁ガイド場によってガイドされない。むしろ、それらは一般的にまっすぐの軌道をたどり、それゆえ、検出器に到達しない。どちらのアプローチもシステムの性能に妥協と制約とを要求する。さらに、両方のアプローチが組み合わされても、顕著なノイズが未だ残されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明者は、試料中のキャリアガスの準安定状態原子(分子)の存在の結果生じるノイズの少なくともかなりの部分は、イオン化領域と検出器表面の間の任意の場所でのバックグランドガスと衝突するキャリアガスの準安定状態原子(分子)のためにバックグランドのガスのイオンを生成する結果であると推量する。特に、検出器ステージにおいて、可能な限り真空に近い状態(検体イオン以外)を生じさせる試みが行われたのだが、質量分析計において全てのバックグランドガスを排除するのは実質上不可能である。いくつかのバックグランドガス(酸素、窒素、二酸化炭素、アルゴンなどのような典型的に予想される環境的なガス)および、流体(もっとも一般的には水)は、質量分析計内に事実上いつも浸透する。実際、窒素とアルゴンは、質量分析計において、イオンを断片化するのに用いられる衝突セル内の衝突ガスとして、しばしば意図的に導入される。そのような事例において、衝突ガスは有用なのだが、それにも関わらず、衝突セルから質量分析計の他のステージに浸出すると、真空に不利な影響を与える。
【0011】
キャリアガスの準安定状態原子(分子)は、質量分析計の内部のいずれの場所でもいずれの時間においても、バックグランドガス分子もしくは衝突ガス分子と衝突することができ、バックグランドガスのイオンを生成する。それゆえ、バックグランドガスのイオンはいつでも検出器表面にぶつかることができ、それによりノイズを構成する。
【0012】
検出器の近くで起こるそのような衝突によって生成されるバックグランドガスのイオンは、バックグランドガスのイオンが生成される検出器により近いほど、イオンが検出器表面にぶつかる可能性がより高くなり、そしてシグナルノイズになる場合において、特に問題である。特に、イオンを検出する多くの方法がある一方で、一般的に決められた開口部をイオンが通り過ぎる時、もしくは決められた検出表面にぶつかる時(この開口部もしくは表面が検出器表面である)、検出器は誘発された電荷もしくは生成された電流を記録する。イオンが、質量分析計の最後の質量分析ステージの後で、キャリアガスの準安定状態原子(分子)との衝突によって生成された場合、試料中の検体イオンがそうであるように、質量によって分離されない。それゆえ、それらはm/z比に関係なく、任意の時間にで検出器表面にぶつかることができ、検出器表面にぶつかる特定の時に相当する特定のm/z比を有するイオンであると見なされる。このように、この現象はシステムにおいてノイズを構成し、システムの感度を下げる。
【0013】
さらに、発明者は、キャリアガスの準安定状態原子(分子)それ自体が検出器表面にぶつかることが出来、更なるノイズを構成するという広く支持されている考えが真実であるだろうと考える。特に、キャリアガスの準安定状態原子(分子)は励起された分子であるが、イオンでは無い。それゆえ、それらは電荷を持っていない。結果的に、準安定状態原子(分子)は、検体イオンをそれらのm/z比によって分離するよう作用するガイド電場および/もしくは磁場によって影響されない。それゆえ、それらは、それらのm/z比に関係ない、任意の時間に検出器に到達する。
【0014】
本発明は、それゆえ、質量分析計におけるキャリアガスの準安定状態原子(分子)の数を減少させることによって、質量分析におけるノイズを低減させることを追求する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によると、試料およびキャリアガス(または他の任意の付随するガスもしくは他の運搬メカニズム)が、準安定状態原子(分子)を減じたガス(以下、準安定状態原子(分子)を減じたガスと定義)を意図的に有する、イオン化の後しかし検出の前のいずれかの場所に配置された領域を、結果的に横断する。準安定状態原子(分子)を減じたガスは、準安定状態原子(分子)を減じたガスの安定状態の分子とキャリアガスの準安定状態の分子との間の衝突が、キャリアガスの準安定状態原子(分子)を安定したエネルギー状態に戻す結果になるように、キャリアガス(もしくは他の付随するガス)の種類に対して選択された種類である。このように、準安定状態原子(分子)を減じたガスはキャリアガスの準安定状態原子(分子)の数を減ずる。一つの実施様態において、準安定状態原子(分子)を減じたガスは、検体を運ぶキャリアガスと同じ種類のガスである。しかしながら、理論上、準安定状態原子(分子)を減じたガスは、キャリアガスの原子もしくは分子と衝突することができてキャリアガスの準安定状態原子(分子)がそのエネルギーを消散して安定状態に戻るような、任意のガスであり得る。これは一般的に、その原子もしくは分子がキャリアガスと同じかもしくは類似の励起エネルギー状態を有する任意のガスを包含する。(以下、分子という用語は、別に述べられるか前後関係から要求されない限り、単一の原子ならびに複数の原子の分子を包含する。)準安定状態原子(分子)を減じたガスは、イオン化領域の後でかつ検出器表面の前の任意の場所で質量分析計に導入される。
【0016】
ノイズの低減は、準安定状態原子(分子)を減じたガスの安定状態の分子がキャリアガスの準安定状態の分子と衝突し、それゆえ、準安定原子(分子)がエネルギーを失い安定状態に再びなった結果と考えられる。この質量分析計におけるキャリアガスの準安定状態原子(分子)の数の減少は、そのような準安定状態原子(分子)と衝突することによるイオン化され、検出器表面にぶつかりノイズとなるであろうバックグランドガスの量を減ずるため、ノイズを低減する。それはまた、試料のフロー軌道において、検出器表面にぶつかりノイズとなるであろうキャリアガスの準安定状態原子(分子)の量を減少させることによってノイズを低減する。
【0017】
質量分析計におけるキャリアガス(または、別々の種類であるなら、キャリアガスおよび準安定状態原子(分子)を減じたガス)の分子の全体的な増加は、全体的な増加が安定状態の分子から構成され、かつ、安定状態の分子はバックグランドガス分子と衝突することによりそれらをイオン化させないため、問題とならない。また、準安定状態原子(分子)を減じたガスの、安定状態の分子それ自体は、たとえもしそれらが検出器表面にぶつかったとしてもそれらが電荷を有していないので検出器によって検出されないため、ノイズを増加させない。実際、たとえもし、準安定状態のヘリウム分子が安定な基底状態のヘリウム分子と共鳴的にエネルギーを転移するように衝突し、それによって、他の準安定状態のヘリウム原子を生成したとしても、その原子は実質的にランダムの軌道を有する。それゆえ、いずれの場合においても、検出器表面にぶつかることは起こりにくいであろう。このように、この技術は質量分析計における準安定状態のヘリウム原子の数を減ずるだけでなく、ビームにおける準安定状態のヘリウム原子の空間的な拡散を引き起こす。
【0018】
さらに、質量分析計におけるキャリアガスの圧力を増加させる、すなわちより多くのキャリアガスを導入することは本質的に質量分析計におけるキャリアガスイオンの生成をもまた増加させる可能性がある一方、ビームにおける安定状態のキャリアガス分子と準安定状態のキャリアガス分子との間の衝突の数は、さらに大きな量で増加する。それゆえ、総じて、質量分析計の内部における、励起状態のヘリウム原子の数は、実質的に減少する。このように、より多くのキャリアガス(もしくは他の準安定状態原子(分子)を減じたガス)を質量分析計へと導入することは、非常に直感的でなく、質量分析計内のキャリアガスの準安定状態の原子の数を実質的に減ずる。転じて、このことは質量分析計内に生じるバックグランドガスのイオンの数を減ずる。
【0019】
このように、たとえば、GC/MS測定システムのガスクロマトグラフにおける移動相(すなわちキャリアガス)がヘリウムである時、質量分析計内のイオン化領域の後でかつ検出器表面より前の任意の場所にヘリウムを準安定状態原子(分子)を減じたガスとして導入することで、GC/MS測定システムの質量分析計相の感度は実質的に上昇する。準安定状態原子(分子)を減じたガスは安定状態において導入されるべきである。上述のように、準安定状態原子(分子)を減じたガスはキャリアガスと同一のものである必然性はないが、キャリアガスの準安定状態原子(分子)と同じかもしくは近い量子化された共鳴しやすいエネルギー状態を有した違うガスであるべきである。そのようなガスはまた、比較的高い可能性で、準安定状態のキャリアガスと衝突してそれの安定状態へ戻すべきである。キャリアガスの準安定状態原子(分子)のエネルギー状態の約1eV以内の量子化された共鳴しやすいエネルギー状態を持つ他のガスの種類の分子は、キャリアガスの準安定状態原子(分子)を減ずることで、有意な効果を持つに違いない。0.1eV以内の量子化された共鳴しやすいエネルギー状態の分子はより大きな効果を持つに違いない。
【0020】
上述のように、質量分析計の、イオン化領域より後でかつ検出器表面より前の任意の場所に準安定状態原子(分子)を減じたガスを導入することは、バックグランドノイズを低減ずる。しかし、準安定状態原子(分子)を減じたガスを導入するのにもっとも効果的な場所を決定する特定の要素と考えられているものがある。たとえば、準安定状態原子(分子)を減じたガスを導入する第一の目的は準安定状態原子(分子)を減じたガスとキャリアガスの準安定状態原子(分子)との間の衝突を引き起こすことであるため、準安定状態原子(分子)を減じたガスは、準安定状態原子(分子)を減じたガスとキャリアガスの準安定状態原子(分子)との間の衝突が最大になるように設計された場所おいてもしくは方法によって導入されるべきである。このように、(1)そのような衝突が起こるのに合理的な範囲の長い距離と(2)その領域での合理的な範囲の高いガス圧とを有した、高圧の準安定状態原子(分子)を減じたガスの領域を提供することが望ましい。
【0021】
たとえば、実際上、質量分析計内で10−7torrの低さの気圧を達成することは可能である一方、質量分析計のチャンバへ1torrの高さの気圧で準安定状態原子(分子)を減じたガスを導入することが望ましくあり得る。しかしながら、より高いガス圧は、逆効果を感度もしくは質量分析計の特定の部分の操作に対して与えるため、より少ない量で気圧を上昇させることが望ましくあり得る。たとえば、準安定状態原子(分子)を減じたガスが、検出器もしくは質量分析計のガス圧を上昇させる場所に導入される場合、約10−4torr未満の気圧にガス圧を上昇するのが望ましくあり得る。一方、準安定状態原子(分子)を減じたガスが、衝突セルの内部のような、重量分析器および検出器からの伝導性境界の反対側の位置に導入される時、気圧を10−1(100mTorr)まで多く、もしくは1torrまで上昇されることが合理的であり得る。
【0022】
より高い気圧の準安定状態原子(分子)を減じたガスが存在する距離は他の設計の制限により与えられた現実的な長さとなるべきである。単なる例として、10mmという短い距離もしくはより短い距離は、特に気圧がその全長にわたりとても高いとき、ノイズを実質的に低減させるのに十分な衝突を起こすのに足りる。一方、特定の質量分析計の設計は、準安定状態原子(分子)を減じたガスが、1メーターもしくはそれ以上の長さであり得る、イオン化とイオンの検出の間の質量分析計の全体の範囲にわたって存在するのを可能にする。他の例では、準安定状態原子(分子)を減じたガスが衝突セルの内部に導入されるとき、一般的な衝突セルの軌道の長さは約50mmから約200mmの範囲に入る。上述の長さは例示に過ぎず、もっとも適切な距離は、利用可能な空間、気圧、伝導性境界の存在もしくは不在、キャリアガスおよび準安定状態原子(分子)を減じたガスの種類などを含む、多くの実際的な考察に応じたものになるであろう。
【0023】
さらに、キャリアガスの励起準安定状態原子との衝突の、新しいイオンの生成に対する比が合理的に大きいところに、準安定状態原子(分子)を減じたガスを導入することは望ましい。この要素は、準安定状態原子(分子)を減じたガスの分子が、それらが準安定状態分子になるであろうイオン化領域に入り込む機会を最小化する方法によってもしくは場所に準安定状態原子(分子)を減じたガスを導入することを決定付けるであろう。これは、下流のガスを上流に引っ張ってイオン化領域もしくはイオン化領域の伝導性境界の反対側に入るのを防ぐのを助けるように、質量分析計のソースチャンバを異なったポンプ運動をすることで達成されるであろう。
【0024】
図1は、本発明による特徴を組み込んだ二つのステージの質量分析計100のブロック図である。それはソースチャンバ103とそれに続く分析器チャンバ105とそれらの間にある伝導性境界110とを備える。ソースチャンバ103は、たとえば上述されたように電子衝撃イオン化などによってイオンが生成されるイオン化領域107を含む。イオン化領域107は、試料とキャリアガスが質量分析器へと入る場所であるから、典型的には、ソースチャンバ103の残りの部分とは異なるより高い気圧に維持される。ソースチャンバ103はまた、イオン化した検体のビームを分析器チャンバ105へと導くために、通常、図1において一般的に参照番号109によって示される、レンズと他のイオン光学要素を備える。イオン配向光学系109は、典型的には、加圧型のイオン化領域107の外にあり、ソースチャンバ103の残りの部分と同じ気圧である。イオン化領域107以外のソースチャンバ103は、一般に、合理的に可能な限りの低い気圧に維持される。
【0025】
この例において、イオン化されて分析される検体は、ガスクロマトグラフ111のような先行するステージからイオン化領域107に供される。特に、多くの検体を有した複雑な試料においては、たとえタンデム質量分析計を用いても、m/z比によるそれぞれの検体を正確に分離するのがまだ難しいであろう。従って、質量分析計に導入するより前に、他の性質に基づいて試料中の構成要素の検体を分離するために、先行するステージを提供するのは一般的である。ガスクロマトグラフもしくはGCは、それを通じて試料の検体構成要素がガス流(キャリアガスもしくは移動相)の中を通過するフロースルーナローカラム(flow−through narrow column)を用いる。カラムは、試料中の検体を吸着し脱着する特定の固体もしくは液体(固定相)を備える。キャリアガスは、検体分子をカラムを通り抜けるように一掃するのだが、この動きは検体分子の固定相への吸着によって妨げられる。分子がカラムに沿って進む速度は吸着の強さに依存し、これは転じて、分子の型、固定相の材料、および温度に依存する。異なった型の分子は、カラムを通って進む異なった速度を持つため、試料中の種々の検体は異なった時間(保持時間)にカラムの終点に到達する。それゆえ、試料は、時間に応じてすでに分離されているその検体の少なくともいくらかの部分に分かれて、質量分析計の投入口に、到達する。
【0026】
いずれの事象においても、試料とキャリアガスは、GC111から質量分析計のイオン化領域107へと導入され、ここで試料はイオン化される。イオンは、イオン配向光学系109によって、この例において衝突セル115によって分けられる二つの質量分析器113と117を備える分析器チャンバ105へ配向される。たとえば、最初の質量分析器113は、イオンをそのm/z比に応じて分離する四重極質量フィルタであり得る。四重極質量フィルタの動作は当業者に周知であるため、ここではこれ以上説明しない。また、四重極質量フィルタは例示に過ぎず、本発明の原理は本質的にどのような型の質量分析器を用いる質量分析計に対しても適応できることは理解されるべきである。
【0027】
最初の質量分析器113からの出力は、イオンが衝突ガスの分子と、それらイオンが断片化するのに十分な強さによって衝突するようにされた、衝突セル115へと送り出される。衝突ガスは衝突ガスリザーバ114からポートを通じて衝突セルへと導入される。断片化されたイオンは二番目の質量分析器117へと送り出されるが、それは例えば他の四重極質量フィルタを備えていても良く、この四重極質量フィルタ117はまた、断片化したイオンを、検出器119へ向けてm/z比に依存した方法で送るように作動する。
【0028】
検出器119は、m/z比に依存した時間依存的な方法で検出器表面にぶつかる断片化したイオンを検出し、それによって、試料中の断片化したイオンの質的な(m/z比)性質と量的な(量)性質とを測定する。検出器の出力は、検出器の出力データから試料の検体構成要素を決定するデータ分析器121へと供される。
【0029】
図は、構成する目的でいくつかの構成要素をボックスで(もしくはブロックで)図解するが、構成要素は、それらの間の気圧の変化を維持することの出来る物理的な障壁(つまり伝導性境界)によってお互いに分離されている必然性は無いことは理解されるであろう。図1において、点線によって画定されるブロックは、それらとシステムの他の構成要素との間に伝導性境界を典型的に持たない質量分析計の構成要素に対応する。一方、実線で画定されるブロックは、それらとシステムの他の構成要素との間に伝導性境界を典型的に持つ構成要素に対応する。このように、たとえば上述のように、イオン化領域107はそれと質量分析計の他の構成要素との間に伝導性境界を典型的に有する。また、質量分析計は、常にではないが、しばしば、図1に図解されるように、ソースチャンバ103と質量分析器105との間に伝導性境界を持つ。
【0030】
図1は図中AからFで標識された6つの異なる例示的位置を図解し、そこで準安定状態原子(分子)を減じたガスがソース112から質量分析計へと導入され得る。
【0031】
たとえば、例示的実施様態Eによると、ガスは衝突セルへと導入される。
【0032】
ガスは、マスフローコントローラもしくは質量分析計へのポートに連結した電気気圧センサを含む任意の適切な方法によって導入されるが、それらに限定するものではない。
【0033】
図1の例示的実施様態において、ノイズの低減は、準安定状態原子(分子)を減じたガスがポイントE、つまり衝突セルにおいて導入されたとき、特に劇的である。この実施様態において、準安定状態原子(分子)を減じたガスが有意な軌道の長さを有した領域に導入され、そこでガス圧が比較的高く設定され、質量分析計の繊細な質量分析器ステージおよび検出器ステージにおいてガス圧を有意に上昇させることが無いため、ノイズの低減は特に劇的である。この実施様態は、準安定状態原子(分子)を減じたガスの分子と準安定状態のヘリウムイオンとの間の衝突の十分な機会を提供する。
【0034】
同様に、衝突セル11(つまりポイントE)は、イオン化領域から2つの伝導性境界(つまり、ソースチャンバ103と分析チャンバ105との間の伝導性境界と衝突セルそれ自体の伝導性境界)によって分けられており、このため、準安定状態原子(分子)を減じたガスがイオン化領域へと流れ込みより多くの準安定性原子(分子)を生成する機会を減ずる。質量分析計の多くのパーツの動作と感度はより高い気圧によって負の影響を受け、特に顕著なのは質量分析器と検出器であるため、衝突セル自体の伝導性境界は特に有用である。これは質量分析計の気圧レベルが、イオン化領域を除いて、通常、可能な限り低く保たれていることの理由である。このように、衝突セル115に準安定状態原子(分子)を減じたガスを導入することは、そこは既に分析ステージの中で高圧領域であり、準安定状態原子(分子)を減じたガスは、上昇した圧によって負の影響を受ける質量分析器113、117および検出器119の気圧を有意に上昇させることなく導入できるので、特別に有益である。
【0035】
図1の例示的実施様態において、準安定状態原子(分子)を減じたガスおよび衝突ガスは、衝突セル115に対して、二つの別のポートを通じて導入され、衝突セル内で混合する。しかしながら、図2Aに図解される代替的な実施様態において、衝突ガスおよび衝突ガスは、試料のフロー軌道の外側の混合セル236(別々のリザーバ231、234からの二つのガスを供給される)内で混合されることができ、衝突セル115に対して一つのポートを通じて導入される。
【0036】
準安定状態原子(分子)を減じたガスを導入するための他の有用な場所は、検出器表面の直前で、図1にFで図解される。検出器ブロック119は検出器を設置したブロックに対応することに注意されたい。従って、実施様態Fに図解されるように、準安定状態原子(分子)を減じたガスは、それが実質的な検出器表面より前である限りは、検出器ブロック119からでさえも導入されても良い。これはまた、そこが質量分析器と質量分析計の分画化機能とに対して最小の衝撃を有するため、準安定状態原子(分子)を減じたガスを導入するのに特別に良い場所だと考えられている。これは、たとえば、ほんの短い距離の高圧の副室118を検出器119に対して付け加えることによって、達成することが出来る。
【0037】
場所EとFが、準安定状態原子(分子)を減じたガスを導入するための特に有用な位置である一方、他の位置もまた適切である。実際、準安定状態原子(分子)を減じたガスを、場所Dで図解されるような、分析チャンバ105に対して導入することは、ノイズを低減させることにおいて、いくらかの効果を持つ。さらに、準安定状態原子(分子)を減じたガスは、大部分のヘリウムの準安定状態の原子が生成され得るイオン化領域107の外側に導入される限り、ソースチャンバ103に対して導入することが出来る。つまり、たとえば、準安定状態原子(分子)を減じたガスが、ソースチャンバ103のレンジング部分(lensing portion)109である、ポイントBに導入されても良い。一つの実施形態(図解されていない)において、イオン配向光学系109は分離されて、高気圧に保たれて良く、準安定状態原子(分子)を減じたガスがその中に導入される。そのような実施形態は、より高い気圧が望ましくないシステムのいずれの場所において気圧を有意に上昇させることなく、他の方法で実際的に達成可能なよりも高圧ゾーンを提供し、準安定状態原子(分子)を減じたガスにキャリアガスの準安定状態原子(分子)を衝突させる利点を持つ。
【0038】
代替的に、準安定状態原子(分子)を減じたガスを、イオン配向光学系109よりも後であるがまだソースチャンバ103内である、図1に図解されるポイントCに導入することも可能である。
【0039】
一つの端にあるイオン化領域107(もしくはもう一方の端にある検出器表面)にどれだけ近づけるかは、質量分析計測定システムの特定の設計に完全に依存する。従って、準安定状態原子(分子)を減じたガスを導入するポイントAは、質量分析計のソースチャンバ103の具体的な設計により、準安定状態原子(分子)を減じたガスをイオン化領域107の直後に導入することすら可能であるという事実を図解する。
【0040】
図1において、ポイントA,BおよびCの間には伝導性境界が存在しないゆえに、実際問題として、これらのポイントの間には有意な差は存在しない。それら三つの場所の任意の場所に導入された準安定状態原子(分子)を減じたガスは、ソースチャンバ103全体に拡散し、ソースチャンバ全体(伝導性境界を有し、ソースチャンバ103の残りの部分とは異なった気圧である実際のイオン化領域107の外側で)の圧を上昇させる。実際、いくつかのシステムにおいて、イオン化チャンバと分析チャンバの分離を画定するよう図1に図解された伝導性境界110のような伝導性境界が存在すらしないこともあり得る。そのようなケースにおいて、場所A、B、CおよびDのいずれの間において実際的な差は少ししかない。
【0041】
上述の図1および2Aに関連した例示的なシステムは例示でしかなく、本発明は、任意の数のステージを持ち、任意の型の質量分析技術、イオン化技術、衝突技術、検出技術、もしくはデータ分析技術を用いた任意の質量分析計へと応用することが可能であることは理解されるべきである。準安定状態原子(分子)を減じたガスが導入される、例示的な実施様態に図1と関連して図解される特定の場所は例示に過ぎなく、準安定状態原子(分子)を減じたガスはイオン化領域と検出器表面との間の実質的にいずれの場所ででも導入されるということは理解されるべきである。
【0042】
たとえば、図2Bは本発明の原理を組み込んだ質量分析計200の非常に単純な実施形態を図解する。質量分析計200の気圧制御部分はボックス202の中に見られる。この単純な実施様態において、試料ガスを含んだキャリアガスはポート201を介してイオン化領域207に導入される。イオン化領域207で生成されたイオンは、レンジングおよび他のイオン光学系209によって準安定状態減少チャンバ210へと配向される。ソース212からの準安定状態原子(分子)を減じたガスは準安定状態減少チャンバ210へと導入され、準安定状態原子(分子)を減じたガスの分子とキャリアガスの任意の準安定状態原子(分子)との間の衝突を引き起こす。準安定状態減少チャンバ210は、チャンバ210と質量分析計の残りの部分との間の伝導性境界を備え、それは異なったより高い気圧に維持され得る。準安定状態減少チャンバ210の構造は試料イオンの断片化のために用いられないのであるが、既存の衝突セルと大部分同一である。準安定状態減少チャンバ210は、十分な数のキャリアガスの準安定原子(分子)が、このチャンバ内の準安定状態原子(分子)を減じたガスの分子との衝突を起こすと仮定される十分な軌道の長さと気圧とを持つべきである。準安定状態減少チャンバ210の後に質量分析器215と検出器219が続く。検出器からのデータはデータ分析器221へと送られる。
【0043】
図3は、本発明を採用したものと本発明を採用していないものとの両方の、図1に一般的に図解される設計による分析計を用いて比較した、バックグランドノイズレベルを示す実験結果を描くグラフである。
【0044】
特に、図3の曲線301は、一つの検体、特に、ヘキサクロロベンゼンを有した実験試料に対する測定結果を示す。質量スペクトルにおけるピークは、曲線301において、303に現れる。線301で表されるスペクトルの残りの部分はバックグランドノイズである。
【0045】
同一の試料が、同じシステムであるが、しかし追加のキャリアガスが、図1のポイントEで図解される衝突セルに2.5ml/分の速さで導入されたシステムにおいて実行された。この実験は図3の線305で表される。見て取れるように、ピーク307は(試料の投入とデータ取得の開始との間の同期化の不足による微妙な時間のずれを無視すれば)ピーク303と本質的に同一である。曲線305におけるバックグランドノイズレベルは、曲線301と比較して十分に低減していることに注目されたい。実際、約一桁分もの低減である。また見て取れるように、ピーク307は曲線301のピーク303と比較して減少しており、これは、当然、スペクトルの他の全ての場所にノイズがあるように、そのピークにノイズがあるためであると推測できる。
【0046】
このように、本発明は、一桁分もシグナルノイズ比を増大させ、それゆえ、既存の最先端技術に比べ、一桁分もの低い検体濃度での検出を可能にする。
【0047】
準安定状態原子(分子)を減じたガスの質量分析計への導入は、試料の検体のイオンに対して実質的に影響を与えることは無い。
【0048】
準安定状態原子(分子)を減じたガスを衝突セルに導入することはノイズの低減において、特に効果的であるので、いくつかの応用において、図2Bに図解されるように、準安定状態原子(分子)を減じたガスを導入し、準安定状態原子(分子)を減じたガスの分子を試料の分子と衝突させる(ここで「準安定状態減少チャンバ」と呼ばれる)目的のために、別のより高い気圧のセルを加えることは望ましい。準安定状態減少チャンバは、たとえば、衝突セルときわめて似ているか同一であり得る。準安定状態減少チャンバをイオン化領域もしくは検出器表面に可能な限り近づけて配置することは有利であるかも知れない。衝突セルが断片化された検体を生じるような衝突を引き起こすために組み込まれた他の実施様態において、図2Aに図解されるように、衝突ガスと組み合わせた準安定状態原子(分子)を減じたガスを含有するガス混合物は、質量分析計の外側で生成され得、混合ガスとして衝突セルへと導入される。
【0049】
図4は、本発明の原理による、質量分析計の基本的なプロセスを図解するフロー図である。ブロック401において、図1および2に図解されるイオン化領域のように、キャリアガスで運搬される試料はイオン化される。ブロック403において、準安定状態原子(分子)を減じたガスは試料とキャリアガスとに導入され、準安定状態原子(分子)を減じたガスの分子と、キャリアガスおよび試料ガスに含まれるキャリアガスの任意の準安定状態原子(分子)との間の衝突を引き起こす。上述の通り、衝突プロセスは、試料のイオン化の後でかつイオンの検出の前のプロセスのいずれでも起こりうる。次に、ブロック405において、イオンは、任意の適切な技術および/もしくは質量分析器を用いて、それらの重量電荷比によって分離される。最後に、ブロック407において、分離されたイオンは検出され、試料ガスの構成要素および/もしくはそれら構成要素の濃度を決定するために定性的におよび/もしくは定量的に測定される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、本発明の原理によるガスクロマトグラフ/質量分析計の実施様態の最初のセットを図解するブロック図である。
【図2A】図2Aは、本発明の原理による質量分析計の他の実施様態を図解するブロック図である。
【図2B】図2Bは、本発明の原理による質量分析計のさらに他の実施様態を図解するブロック図である。
【図3】図3は、測定システムにおいて本発明の原理を用いて達成された、本発明を採用していない同等のシステムと比較したバックグランドのノイズの低減を示す、実験結果を表すグラフである。
【図4】図4は、本発明の特定の実施様態に関連したステップを図解したフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明の例示的実施形態
本発明の例示的実施形態は以下のものを含むが限定するものではない:
1. 質量分析計において検体を含む可能性のある試料に対する質量分析を実施する方法であって:
前記試料中の検体のイオンを生成するために前記試料をイオン化するステップと;
前記生じたイオンを質量電荷比によって分離するステップと;
検出器によって前記分離したイオンを検出するステップと;そして
前記質量分析計内のイオン化の後でかつ検出の前に、準安定状態原子(分子)を減じたガスを導入するステップ
を含有する方法。

2. 前記試料がキャリアガスを伴い、ここで前記準安定状態原子(分子)を減じたガスが前記キャリアガスの準安定化状態のエネルギー状態と類似の励起エネルギー状態を有した種類である、実施様態1に記載の方法

3. 前記準安定状態原子(分子)を減じたガスおよび前記キャリアガスが同じ種類である、実施様態2に記載の方法。

4. 前記キャリアガスおよび前記準安定状態原子(分子)を減じたガスが両方ともヘリウムである、実施様態3に記載の方法。

5. 前記導入が前記分離の後に起こる、実施様態1〜4のいずれかに記載の方法。

6. 前記イオンが前記イオン化と前記検出の間にあるチャンバを通過し、ここで前記チャンバが前記準安定状態原子(分子)を減じたガスを含有している、実施様態1〜4のいずれかに記載の方法。

7. 前記チャンバが衝突セルであり、そして前記方法が、前記衝突セルと前記検出の間で質量電荷比によって前記イオンを二度目に分離するステップをさらに含有する、実施様態6に記載の方法。

8. 実施様態1〜6のいずれかに記載の方法であって、さらに:
前記分離と前記検出の間で前記イオンに衝突セルを通り抜けさせるステップと、
前記衝突セルと前記検出の間で質量電荷比によって前記イオンを二度目に分離するステップとを含有し、
ここで、前記導入が前記二度目の分離と前記検出の間に起こる、
方法。

9. 質量分析計であって:
試料のフロー軌道で、前記フロー軌道が:
試料を受け入れる受け入れ投入口;
前記試料中に存在する検体からイオンが生成されるイオン化領域を備えるイオンソース;
前記イオンを受け入れ、前記イオンの質量電荷比によってイオンを分離する質量分析器;および
前記質量分析器によって分離されたイオンを検出するための検出器表面を有する検出器を備える、フロー軌道と;
ならびに、混合チャンバであって、一番目のガスを前記混合チャンバに導入するための一番目の投入ポートと二番目のガスを前記混合チャンバに導入するための二番目の投入ポートと、イオン化領域と検出器表面との間に配置されてそれを通じて一番目のガスと二番目のガスとの混合物が試料のフロー軌道に導入される出力ポートとを有する混合チャンバとを含有する、質量分析計。

10. 前記質量分析器と前記検出器の間に衝突セルをさらに備え、ここで前記出力ポートが前記混合物を前記衝突セルへと導入するように配置される、実施様態9に記載の質量分析計。

11. 質量分析計であって:
試料を受け入れるための投入ポートと;
前記試料中に存在する検体からイオンが生成されるイオン化領域を備えるイオンソースと;
前記イオンを受け入れ、イオンを前記イオンの質量電荷比によって分離する質量分析器と;
前記質量分析器によって分離されたイオンを検出するための検出器表面を有する検出器と;
前記イオン化領域と前記検出器表面の間に配置され、それを通じて準安定状態原子(分子)を減じたガスが質量分析計に導入される、一番目のポートと;
および、前記イオン化領域と前記検出器表面の間に配置され、それを通じて衝突ガスが前記試料のイオンを断片化するために質量分析計に導入される、二番目のポートとを備える、質量分析計。

12. 前記質量分析器と前記検出器の間に衝突セルをさらに備え、ここで前記一番目のポートと前記二番目のポートが、それぞれ前記一番目のガスと前記二番目のガスを前記衝突セルに導入するために配置される、実施様態11に記載の質量分析計。

13. 前記イオン化領域と前記検出器表面の間にチャンバをさらに備え、前記一番目のポートが前記チャンバと、前記準安定状態原子(分子)を減じたガスを前記チャンバに導入するために接続され、
ならびに、
前記イオン化領域と前記検出器表面の間に衝突セルをさらに備え、前記二番目のポートが前記衝突セルと、前記衝突ガスを前記衝突セルに導入するために接続される、
実施様態11に記載の質量分析計。

14. 質量分析計であって:
試料を受け入れるための投入ポートと;
前記試料中に存在する検体からイオンが生成されるイオン化領域を備えるイオンソースと;
一つでかつ唯一の質量分析器であって、前記イオンを受け入れイオンを前記イオンの質量電荷比に応じて分離し、ここで前記質量分析器がイオントラップでない質量分析器と;
前記質量分析器によって分離されたイオンを検出するための検出器表面を有した検出器と;
ならびに、
前記イオン化領域と前記検出器表面との間に配置され、それを通じて準安定状態原子(分子)を減じたガスが前記質量分析計に導入されることが可能である、ポートとを含有する、質量分析計。

15. 前記ポートが前記質量分析器と前記検出器表面との間にある、実施様態14に記載の質量分析計。

16. 前記イオン化領域と前記検出器表面の間にチャンバをさらに備え、前記ポートが前記準安定状態原子(分子)を減じたガスを前記チャンバに供給する、実施様態14に記載の質量分析計。

17. 前記試料を前記投入口へ供給するための出力部を有した、ガスクロマトグラフもしくは液体クロマトグラフをさらに備える、実施様態14〜16のいずれかに記載の質量分析計。

18. 前記質量分析器が四重極質量分析器である、実施様態14に記載の質量分析計。

19. 四重極質量分析器を備えた、実施様態9〜13のいずれかに記載の質量分析計。

20. 質量分析計であって:
試料を受け入れるための受け入れ投入口と;
前記試料中に存在する検体からイオンが生成されるイオン化領域を備えるイオンソースと;
前記イオンを受け入れ、イオンを前記イオンの質量電荷比によって分離する質量分析器と;
前記質量分析器によって分離されたイオンを検出するための検出器表面を有する検出器と;
前記イオン化領域と前記検出器表面の間に配置され、準安定状態原子(分子)を減じたガスを含有し、前記準安定状態原子(分子)を減じたガスが、前記準安定状態原子(分子)を減じたガスの分子と前記試料に付随する準安定状態原子(分子)との間の衝突が準安定状態を安定エネルギー状態になるようにするよう選択される種類である、領域
とを備える質量分析計。

21. 前記試料がキャリアガスを伴い、前記準安定状態原子(分子)を減じたガスが前記キャリアガスの準安定状態のエネルギー状態と類似の励起エネルギー状態を有している種類である、実施様態20に記載の質量分析計。

22. 前記キャリアガスと準安定状態原子(分子)を減じたガスとが同じ種類である、実施様態21に記載の質量分析計。

23. 前記試料を前記受け入れ投入口へと供給する出力部を有したガスクロマトグラフをさらに備えた、実施様態20−22のいずれかに記載の質量分析計。

24. 前記領域が前記質量分析器と前記検出器表面にある、実施様態20〜23のいずれかに記載の質量分析計。

25. 前記質量分析器と前記検出器の間にさらに衝突セルを備えた、実施様態20〜24のいずれかに記載の質量分析計。

26. 前記領域が前記衝突セルの中にある、実施様態25に記載の質量分析計。

27. 質量分析計を用いて実施される質量分析においてノイズを低減させる方法であって:
試料中の検体のイオンを生成するために試料をイオン化するステップと;
質量電荷比によって、前記生じたイオンを分析するステップと;
検出器によって前記分離されたイオンを検出するステップと;そして
準安定状態原子(分子)を減じたガスを前記質量分析計の前記イオン化の後でかつ前記検出の前に導入するステップ
を含有する、方法。

28. 前記試料がキャリアガスを伴い、前記準安定状態原子(分子)を減じたガスが前記キャリアガスの準安定状態のエネルギー状態と類似の励起エネルギー状態を有している種類である、実施様態27に記載の方法。

29.前記準安定状態原子(分子)を減じたガスと前記キャリアガスとが同じ種類である、実施様態28に記載の方法。

30. 前記キャリアガスと前記準安定状態原子(分子)を減じたガスとがどちらもヘリウムである、実施様態29に記載の方法。

31. 前記導入が前記分離のあとにおこる、実施様態27〜30のいずれかに記載の方法。

32. 前記イオンが、前記イオン化と前記検出の間のチャンバを通過し、ここで、前記チャンバが前記準安定状態原子(分子)を減じたガスを含有する、実施様態27〜30のいずれかに記載の方法。

33. 前記チャンバが衝突セルであり、前記方法が前記衝突セルと前記検出の間に、前記イオンを質量電荷比によって二度目に分離するステップをさらに含有する、実施様態32に記載の方法。

34. イオンに前記分離と前記検出の間の衝突セルを通過させるステップと;および
前記衝突セルと前記検出の間に、前記イオンを質量電荷比によって二度目に分離するステップとをさらに含有し、
ここで、前記導入が前記二度目の分離と前記検出との間に起こる、
実施様態27〜32のいずれかに記載の方法。
【0052】
本発明は上に、気相質量分析計の形態の一連の例示的実施様態と関連して記載されるが、ここに紹介される発明のコンセプトは、その種類が、試料それ自体の一部であったり、試料を運ぶメカニズムの一部であったりその他であったりするのにも関わらず、ノイズを生成する可能性を持つ他の種類のガスもしくは液体を伴う、任意の試料に関連した質量分析計においてノイズを低減するために適用され得ることは理解されるべきである。
【0053】
本発明のいくつかの特定の実施形態が記載されるが、種々の変更、修正および改善は当業者にとって容易に実施される。本開示によって明白な、そのような変更、修正および改善は、ここにはっきりと記載されていないとしても、本明細書の一部であると意図され、本発明の精神と範囲に入ると意図される。従って、上述の記載は例示の目的のためだけであり、限定するものでない。本発明は後に続く請求項によって定義されるものとそれの同等物によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析計において、検体を含む可能性のある試料に対して質量分析を実施する方法であって:
前記試料中の検体のイオンを生成するために前記試料をイオン化するステップと;
前記生じたイオンを質量電荷比によって分離するステップと;
検出器によって前記分離したイオンを検出するステップと;そして
前記質量分析計内のイオン化の後でかつ検出の前に、準安定状態原子(分子)を減じたガスを導入するステップと
を含有する方法。
【請求項2】
前記試料がキャリアガスを伴い、ここで前記準安定状態原子(分子)を減じたガスが前記キャリアガスの準安定化状態のエネルギー状態と類似の励起エネルギー状態を有した種類である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記準安定状態原子(分子)を減じたガスと前記キャリアガスとが同じ種類である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記キャリアガスと前記準安定状態原子(分子)を減じたガスとが両方ともヘリウムである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記導入が前記分離の後に起こる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記イオンが前記イオン化と前記検出の間にあるチャンバを通過させられ、ここで前記チャンバが前記準安定状態原子(分子)を減じたガスを含有している、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記チャンバが衝突セルであり、そして前記方法が、前記衝突セルと前記検出の間で質量電荷比によって前記イオンを二度目に分離するステップをさらに含有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記イオンに前記分離と前記検出の間で衝突セルを通過させるステップと、
前記衝突セルと前記検出の間で質量電荷比によって前記イオンを二度目に分離するステップとをさらに含有し、
ここで、前記導入が前記二度目の分離と前記検出の間に起こる、
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
質量分析計であって:
試料のフロー軌道であって、前記フロー軌道が:
試料を受け入れる受け入れ投入口と;
前記試料中に存在する検体からイオンが生成されるイオン化領域を備えるイオンソースと;
前記イオンを受け入れ、前記イオンの質量電荷比に応じてイオンを分離する質量分析器と;および
前記質量分析器によって分離されたイオンを検出するための検出器表面を有する検出器とを備える、フロー軌道と;
ならびに、混合チャンバであって、一番目のガスを前記混合チャンバに導入するための一番目の投入ポートと、二番目のガスを前記混合チャンバに導入するための二番目の投入ポートと、前記イオン化領域と前記検出器表面との間に配置されそれを通じて前記一番目のガスと前記二番目のガスとの混合物が前記試料のフロー軌道に導入される出力ポートとを有する、混合チャンバとを備える、質量分析計。
【請求項10】
前記質量分析器と前記検出器の間に衝突セルをさらに備え、ここで前記出力ポートが前記混合物を前記衝突セルへと導入するように配置される、請求項9に記載の質量分析計。
【請求項11】
質量分析計であって:
試料を受け入れるための投入ポートと;
前記試料中に存在する検体からイオンが生成されるイオン化領域を備えるイオンソースと;
前記イオンを受け入れ、イオンを前記イオンの質量電荷比に応じて分離する質量分析器と;
前記質量分析器によって分離されたイオンを検出するための検出器表面を有する検出器と;
前記イオン化領域と前記検出器表面の間に配置され、それを通じて準安定状態原子(分子)を減じたガスが前記質量分析計に導入され得る、一番目のポートと;
および、前記イオン化領域と前記検出器表面の間に配置され、それを通じて衝突ガスが前記試料のイオンを断片化するために前記質量分析計に導入される、二番目のポートとを備える、質量分析計。
【請求項12】
前記質量分析器と前記検出器の間に衝突セルをさらに備え、ここで前記一番目のポートと前記二番目のポートが、それぞれ前記一番目のガスと前記二番目のガスを前記衝突セルに導入するために配置される、請求項11に記載の質量分析計。
【請求項13】
前記イオン化領域と前記検出器表面の間にチャンバをさらに備え、前記準安定状態原子(分子)を減じたガスを前記チャンバに導入するために前記一番目のポートが前記チャンバと接続され、
ならびに、
前記イオン化領域と前記検出器表面の間に衝突セルをさらに備え、前記衝突ガスを前記衝突セルに導入するために前記二番目のポートが前記衝突セルと接続される、
請求項11に記載の質量分析計。
【請求項14】
質量分析計であって:
試料を受け入れるための投入ポートと;
前記試料中に存在する検体からイオンが生成されるイオン化領域を備えるイオンソースと;
一つでかつ唯一の質量分析器であって、前記イオンを受け入れイオンを前記イオンの質量電荷比に応じて分離し、ここで前記質量分析器がイオントラップでない、質量分析器と;
前記質量分析器によって分離されたイオンを検出するための検出器表面を有した検出器と;
ならびに、
前記イオン化領域と前記検出器表面との間に配置され、それを通じて準安定状態原子(分子)を減じたガスが前記質量分析計に導入されることが可能である、ポートとを含有する、質量分析計。
【請求項15】
前記ポートが前記質量分析器と前記検出器表面との間にある、請求項14に記載の質量分析計。
【請求項16】
前記イオン化領域と前記検出器表面の間にチャンバをさらに備え、前記ポートが前記準安定状態原子(分子)を減じたガスを前記チャンバに供給する、請求項14に記載の質量分析計。
【請求項17】
前記試料を前記投入口へ供給するための出力部を有した、ガスクロマトグラフをさらに備える、請求項14に記載の質量分析計。
【請求項18】
前記質量分析器が四重極質量分析器である、請求項14に記載の質量分析計。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−180731(P2009−180731A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19968(P2009−19968)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【Fターム(参考)】