説明

質量分析におけるバックグラウンドノイズ低減用の多重極イオンガイドインタフェース

質量分析のためにイオン源から質量分析計まで運ばれるイオンには、多くの場合、イオン源から生じる、光子、中性粒子およびクラスタまたはエアロゾルイオンなどのバックグラウンド粒子が伴う。バックグラウンド粒子は、質量分析計検出器までの見通し線の存在する圧力のより高い領域における、バックグラウンド気体分子との衝突中の散乱およびイオンの中性化によっても生じる。いずれの場合にも、そのようなバックグラウンド粒子は、質量スペクトルにノイズを発生させる。複数の真空ステージを通じて効率的にイオンを運ぶように多重極イオンガイドが構成されるとともに、イオン源において、またイオン輸送の経路に沿って生じるバックグラウンド粒子が検出器へ到達することを妨げることによって質量スペクトルにおける信号対雑音を改良する、装置および方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析に関する。詳細には、本発明は、バックグラウンド粒子ノイズの低減された複数の真空ポンピングステージを通じて多重極イオンガイドによりイオンを運ぶための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析計は、イオン源において試料から発生したイオンの質量対電荷比(m/z)を測定することによって、固体、液体、および気体の試料を分析するために用いられる。多くの種類のイオン源は、比較的高い圧力、すなわち、質量分析計および/または検出器が必要とする真空圧力よりも高い圧力で動作する。例えば、エレクトロスプレー(ES)、大気圧化学イオン化(APCI)、誘導結合プラズマ(ICP)、および大気圧(AP−)MALDI、ならびにレーザアブレーションのイオン源など、一部の種類のイオン源は、大気圧または大気圧近くで動作する。グロー放電、中間圧力(IP−)MALDI、およびレーザアブレーションのイオン源など、他の種類のイオン源は、中間の真空圧力で動作する。イオン源の動作中に真空圧力が上昇する真空領域においては、電子イオン化および化学イオン化のイオン源など、さらに他の種類のイオン源が構成されている。
【0003】
より高い圧力で動作するイオン源は、通常、より高い圧力の上流ステージから質量分析計および検出器を隔離する1つ以上の示差的なポンピング真空ステージを介して、質量分析計の真空領域へイオンを送達するように構成されている。そのような構成では、イオン光学的構成は、イオン源から複数の真空ポンピングステージを通じて質量分析計の入口へイオンを移動させるために、イオン源と質量分析計の入口との間に構成されており、同時に、バックグラウンド気体が質量分析計領域へ流れ込むことが制限されている。
【0004】
イオン源から質量分析計へ効率的にイオンを移動させるとともに、そのようなイオン光学的構成は、多くの場合、イオン源から生じるバックグラウンド粒子が質量分析計の検出器へ到達することを妨げるようにも構成されている(バックグラウンド粒子が質量分析計の検出器へ到達すると、質量スペクトルにバックグラウンドノイズが発生する)。イオン源の種類によって、そのような粒子は、光子、脱溶媒和されていないクラスタイオンおよび中性粒子、電子、ならびに荷電エアロゾル粒子および非荷電エアロゾル粒子を含む場合がある。そのような粒子が、質量分析計によって少しでも有効に除去されない場合、記録される質量スペクトルにバックグラウンドノイズが発生することによって、達成可能な信号対雑音比が制限される。このため、用いられるイオン源の種類および機器の構成に応じて、そのようなバックグラウンド粒子が質量分析計の検出器へ到達することを妨げるための様々な手法が考案されている。
【0005】
現在一般に行われている1つの手法は、イオン源からの視界の外に検出器を配置することである。これについては、例えば、非特許文献1に記載されている。これらのいわゆる「軸外(off−axis)」検出器構成では、イオン源から放出される大部分の光子および中性粒子は検出器を外れる飛行経路を辿り、質量の分析される関心のイオンは電場によって偏向され、検出器と交差する。これらの構成の大部分は、単に検出器を質量分析計の出口に整合させないことからなり、場合によっては、検出器へイオンを導くための何らかの静電型偏向器と組み合わされている。しかしながら、そのような構成の比較的複雑な変形形態も提案されている。これについては、例えば、ブルベイカー(Brubaker)による特許文献1に記載されており、この文献では、湾曲したイオンガイドは、質量の分析されたイオンを四重極質量分析計の出口から検出器へ運ぶように構成されている。
【0006】
しかしながら、通常、より有利なのは、質量分析計へ進入する前に望ましくない粒子をイオンの経路から除去することである。この1つの理由は、質量分析計中の表面にそのような粒子が衝突すると、表面を汚染する電気絶縁性の層が形成され、電場を歪めて性能を低下させる電荷が蓄積される場合があるためである。別の理由は、表面にそのような粒子が衝突すると二次的な粒子が生成し、この二次的な粒子が質量分析計検出器への進路を見出して、ノイズを生成する場合があるためである。このため、例えば、ブルベイカーは、特許文献2においてさらに複数の構成について記載しており、この文献では、湾曲したイオンガイドが四重極マスフィルタの入口の前に配置、構成されることによって、関心のイオンはマスフィルタ入口へ案内され、光子および中性粒子は偏向されずに進行するのでマスフィルタへ進入しない。
【0007】
複数の代替構成が、以来、光子、中性粒子、荷電液滴など、イオン源から生じるバックグラウンド粒子が質量分析計の検出器へ到達するのを妨げるという1つ以上の目的により開発されている。例えば、Mylchreestらは、特許文献3に、キャピラリオリフィスから真空へ放出される高速な液滴または粒子が大気圧イオン(API)源から質量分析計の入口のレンズ領域へ進行するのを妨げるための装置および方法について記載している。本質的には、Mylchreestらは、質量分析計の入口レンズの真空領域からキャピラリ出口の真空領域を分離するスキマーオリフィスまたはアパーチャからキャピラリの軸が離間されるようにキャピラリを配向することについて記載している。したがって、キャピラリの軸に沿って移動する高速な液滴および粒子が質量分析計の領域へ進行することが阻止されるとともに、関心のイオンは軸から逸れて、キャピラリ出口からのその自由噴流膨張によってオリフィスまたはアパーチャを通じて移動する。しかしながら、そのような構成ではオリフィスまたはアパーチャ上に汚染物が蓄積し、静電的な帯電による不安定な動作が生じる。また、イオンの伝達効率は、この比較的高い圧力領域におけるバックグラウンド気体分子に由来する、逸れた飛行経路外へのイオンの散乱のために低下する。
【0008】
タカダ(Takada)らは、特許文献4において、API源と質量分析計への入口との間に配置された静電式レンズを組み込むことについて記載している。質量分析計の軸とイオン源およびインタフェースオプティクスの軸とは、液滴および中性粒子が質量分析計の入口アパーチャを越えて進行することを妨げるように離間されており、静電式レンズは、イオン源およびインタフェースオプティクスの軸から質量分析計の入口アパーチャへ関心のイオンを再配向するように構成されている。そのような構成に伴う1つの難点は、そのようなAP/真空インタフェースを介して真空へ進入するイオンは、通常、その質量とは幾分関係なく同様の速度分布を示すということである。これによって、イオンの質量に強く依存するイオン運動エネルギーが生じ、真空における静電式レンズの集束作用はイオンの運動エネルギーおよびイオンの電荷にのみ依存し、イオンの質量には依存しないので、そのような構成では相当な同位体差別効果が導かれる。
【0009】
モルデハイ(Mordehai)らは特許文献5乃至7において、イオン源と質量分析計への入口との間に多重極RFイオンガイドが配置された構成について記載している。イオンは、イオンガイドの軸に対して一定の角度にある軸に沿って、イオン源からイオンガイドの入力端へ運ばれる。イオンはイオンガイドの入力端に進入し、イオン源から、またはキャピラリなどのイオン輸送デバイスから放出される空気力学的な噴射とともに運ばれる。イオンガイドの入力領域に進入するイオンは、イオンガイドにおけるRF場の作用によってイオンガイドの軸に沿って移動するように再び方向付けられ、イオンガイドによって質量分析計の入口まで運ばれる。中性粒子およびエネルギー荷電粒子は、幾らかはその本来の軌跡に沿って移動を継続し、周囲の表面から失われる。しかしながら、上記の特許文献4に記載のタカダらによる装置および方法を用いると、空気力学的な噴射とともに運ばれるイオンは、イオンの質量に依存するイオン運動エネルギーを有する。したがって、
イオンガイドにおけるRF場によって良好な効率でイオンを再び方向付けるには、バックグラウンド気体分子イオンとの衝突によってイオンが速やかに衝突冷却されることが必要である。これは、イオンの質量が、したがってイオンのエネルギーが大きくなるほど、次第に重要となる。したがって、モルデハイらは、この目的で余分な「バッファ」(または衝突)気体を導入するため、別の気体入口を提供している。イオンガイドが完全に単一の真空ステージ内に配置されているので、この気体の圧力はイオンガイドの一端から他端まで実質的に変わらない。したがって、イオンがイオンガイドを出るときにイオンとバックグラウンド気体分子との間に衝突が起きる確率は、モルデハイらの装置においては有意であり、この領域における輸送効率は低下する。そのような散乱が、この領域のRFフリンジ場において散乱したイオンが加速することや、そのような加速したイオンが電荷を交換して中性化してエネルギー中性粒子を生成することにより、検出器におけるバックグラウンドノイズを増加させることも知られている(後述)。
【0010】
ウェルズ(Wells)は特許文献8において、異なるセグメントが非依存的な電圧で動作させられる複数のセグメントにより構成された、多重極イオンガイドについて記載している。これによって、イオンガイドを通じて移動するイオンを、イオンガイド内の互いに離間された異なる光学軸に沿って1つのセグメントから次のセグメントへ案内することが可能となる。ウェルズの記載によるそうしたイオンガイド構成では、イオンおよび中性粒子が進入軸に沿ってイオンガイドへ進入すると、イオンは進入軸から離間した出口軸に沿ってイオンガイドを出るように案内される。中性粒子は進入軸方向に沿って進行するので、イオンガイド出口を越えて進行することは妨げられる。この場合も、イオン移動の効率は、エネルギーイオンがイオンガイドへ進入するときに衝突によって冷却されることに依存する。例えば、ウェルズは、一実施形態のコンピュータシミュレーションによって、イオンガイドにおける気体圧力が、平均自由行程1mmに対応する圧力から平均自由行程10mmに対応する圧力まで減少されると、さらに多くのイオンがイオンガイド電極から失われることを示している。したがって、モルデハイらの記載した装置および方法を用いた場合、上述のように、イオンがイオンガイドを出る領域に有意なバックグラウンド気体圧力が存在すると予想され、この領域においてイオンとバックグラウンド気体分子との間に衝突が起き、最終的には下流の検出器におけるバックグラウンドノイズを増大させることになる。
【0011】
特許文献9では、サイカ(Syka)は、タンデム型四重極質量分析計構成について記載している。この構成の一部には、最終の四重極質量分析計および検出器の直前に配置された、屈曲または傾斜した四重極イオンガイドが含まれる。この屈曲または傾斜した四重極イオンガイドは、イオン源の見通し線(line−of−sight)から検出器を除去するため、励起された高速の中性粒子およびイオン源から放出される高速のイオンが検出器へ到達するのを妨げることによって、ノイズを減少させると記載されている。そのような屈曲した四重極イオンガイドの入口端および出口端は同じ真空ステージに存在し、屈曲した四重極イオンガイド内のイオンは単一の真空ステージポンピング速度によって制約された単一のバックグラウンド圧力領域を通じて移動するように制限されている。
【0012】
カリニチェンコ(Kalinitchenko)は、特許文献10において、ICPイオン源と四重極質量分析計との間に静電型ミラーを組み込んだICP/MS機器の構成について記載している。このミラーは、イオン源からイオンを逸らす(例えば、90度だけ)フォーカス静電場を提供し、四重極質量分析計の入口のアパーチャを通じてイオンを集束させる。そのような構成では、イオン源から検出器への見通し線が存在することが回避されることによって、光子およびエネルギー中性粒子などイオン源から生じるバックグラウンド粒子が検出器へ到達することが妨げられる。カリニチェンコは、分析物のppm当たりのカウント/秒として測定した感度が従来技術に対し有意に増大したと報告している。しかしながら、この増大は「バックグラウンドノイズにおける随伴する増大なしで」達
成されたものであり、反射ミラーであるにもかかわらず、従来の構成におけるように、有意なバックグラウンドノイズが残存していたものと示唆される。
【0013】
上述の従来技術は全て、イオン源から放出される望ましくない粒子によって主としてもたらされるバックグラウンドノイズを低減または除去する装置および方法について記載したものである。しかしながら、バックグラウンド粒子ノイズはイオン源以外の源からも生じることがあると認識されている。例えば、上述の特許文献10に記載のカリニチェンコの反射ミラー構成では、イオン源と検出器との間に見通し線が提供されることはないが、それにもかかわらず以前に観察された有意なバックグラウンドノイズが残存しており、そのようなバックグラウンド粒子ノイズが実際にはイオン源自体とは別の過程から生じていることを示している。観察された非イオン源関連のバックグラウンドノイズは、カリニチェンコによる特許文献11に続いて記載されているように、四重極質量分析計の入口と四重極入口アパーチャとの間に1組の湾曲または傾斜した「フリンジ」電極を組み込むことによって有意に減少される。カリニチェンコは、イオンが装置の残留気体によって加速されるときにエネルギー中性粒子が発生することを示唆している。すなわち、一部のイオンが、例えば、共鳴電荷交換過程によってバックグラウンド気体分子と相互作用し、加速したイオンがエネルギー中性粒子へ変換されることは不可避である。これとは別に、そのような加速によって、ある程度のイオンのフラグメント(断片)化が起こり、質量分析計の検出器へ到達する好ましい飛跡上にあるエネルギー中性フラグメントを生じるという説明も可能である。
【0014】
カリニチェンコはさらに、そのような衝突は反射ミラー領域においてなど、イオンの軸運動方向に沿ったイオンの加速中のみならず、例えば、RF多重極イオンガイドの端部と端部に近いアパーチャとの間のフリンジ場においてなど、イオンの軸方向に直交する方向に沿っても起きると記載している。したがって、カリニチェンコによって特許文献11に記載されている湾曲または傾斜した「フリンジ」電極では、静電型ミラー真空領域において、また、入口アパーチャの領域および「フリンジ」電極構造の上流部分において生成されるエネルギー中性粒子が検出器へ到達することが妨げられた。
【0015】
一方、イオンとバックグラウンド気体分子との間の相互作用には、イオンの中性化のみならずビーム経路外へのイオンの散乱も含まれ、さらなるイオンの損失を生じていることは周知である。イオンの損失は、RF多重極イオンガイドの入口または出口の近くのフリンジ場を振動させることによる散乱によっても生じる。いずれの場合にも、カリニチェンコによる特許文献11に記載された装置および方法におけるイオン伝達効率は、バックグラウンド気体分子が、真空インタフェースアパーチャを通じて、反射ミラーのバックグラウンド圧力が比較的高い真空領域から移動し、インタフェースアパーチャとRF「フリンジ」場電極との間の領域を通じて移動するときのバックグラウンド気体分子による散乱によって失われるイオンのために、低下する。
【0016】
バックグラウンド気体圧力のより高い真空領域におけるバックグラウンド気体分子による散乱によるイオンの損失は、多くの場合、RF多重極イオンガイド内のそのような領域を通じてイオンを運ぶことによって最小化される。そのようなイオンガイド内のRF場は、イオンビーム方向に対し直角に配向された(すなわち、イオンガイド軸に対し直交した)有効な反発力を発生させ、ビーム経路外のそのような分散を打ち消す。さらに、そのような衝突はイオンの運動エネルギーを弱めるように働き、イオンがイオンガイド軸のより近くに位置するようになることによって輸送効率が改良される。しかしながら、それにもかかわらず、イオンがバックグラウンド気体分子との衝突が起こりそうな領域においてイオンガイドを出る場合、有意な散乱損失が生じる。これは、静電場真空隔壁によって異なる真空ステージが分離されている従来の多真空ステージ真空系では、通常生じる問題である。比較的真空圧力の高い1つの真空ステージを通じてイオンガイド内を移動するイオン
は、イオンガイドを出て、真空隔壁に設けられるアパーチャを通じて移動し、そのような従来の真空ステージ構成では、より低い気体圧力を有する次の真空ステージへと移動する。イオンは、イオンガイドを出ると、バックグラウンド気体分子との衝突による散乱のために失われる。また、イオンは、アパーチャと上流の真空ステージのイオンガイド出口との間、またはアパーチャと下流の真空ステージのイオンガイド入口との間のフリンジ場による散乱のためにも失われる。次の真空ステージの気体圧力が十分に低い場合でも、平均的にはイオンと気体分子との間のそのような衝突はまれであるが、それにもかかわらず、イオンは、インタフェースアパーチャの近傍において、バックグラウンド気体圧力のより高い上流の真空ステージから圧力のより低い下流の真空ステージへと流れる気体分子との衝突を頻繁に経験する場合がある。
【0017】
真空ステージ間を移動中のイオン損失の問題は、ホワイトハウス(Whitehouse)らによる特許文献12乃至15において有効に対処されている。これらの文献には、2つ以上の真空ステージ間の真空隔壁を通じてRF多重極イオンガイドを延ばすことについて記載されている。本質的には、これらの文献は、バックグラウンド気体圧力の高い真空ステージおよびバックグラウンド気体圧力の低い真空ステージを通じて、それらのステージの間で有効にイオンを運び、真空隔壁のアパーチャまたはオリフィスと同様、真空ステージ間の気体フローを有効に制限するように働くべく断面積を十分に小さく構成された、RF多重極イオンガイドについて記載されたものである。ホワイトハウスらは、さらに、これらの文献において、API源と質量分析計との間の複数の真空ポンピングステージを通じて延びている多重極イオンガイドを組み込むことについて記載している。
【0018】
これと同じ状況は、気体圧力の十分に高い領域に多重極イオンガイドが配置されているためにイオンがイオンガイドを横断するときにバックグラウンド気体分子と衝突する、従来の衝突セルの入口および出口にも存在する。イオンは、イオンガイドのRF場によってイオンガイドの横断中にビーム経路外へ散乱することを妨げられているが、通常、衝突セル内の領域と衝突セル外の真空領域との間の圧力差の維持を補助する衝突セルの端部のアパーチャを介してイオンガイドの出入りを行う。したがって、イオンが衝突セルの出入りを行うとき、イオンは衝突気体分子との衝突によって散乱され、イオン損失が生じる。さらにまた、衝突によるフラグメント化を誘導するためにイオンが衝突セルへと加速されている結果、エネルギー中性粒子の形態のバックグラウンド粒子が生成する場合がある。これらのエネルギー中性粒子の一部は、衝突セルの出口を通じ、下流に配置された質量分析計および検出器へと移動を続けることによって、バックグラウンド粒子ノイズを生成する場合がある。さらに、衝突セルを出るイオンは、イオンガイド出口端と衝突セルの出口アパーチャとの間のRFフリンジ場を通過する必要がある。これは、イオンと気体分子との間の衝突が起き、イオンの散乱損失やイオンの中性化(例えば、電荷交換による)が生じる領域でもある。上述のように、そのようなRFフリンジ場においてイオンがより高いエネルギーまで加速される場合があり、エネルギーイオンの中性化によってエネルギー中性粒子が生成されると、このエネルギー中性粒子は下流に移動を続け、質量分析計および検出器においてバックグラウンドノイズを生じることは知られている。
【0019】
従来の衝突セルの内外へのイオンの移動中のイオン損失の問題も、ホワイトハウスらによる特許文献16において対処されている。この文献では、衝突セルの内部から外部まで連続的に延びる多重極イオンガイドを含む構成について記載されており、多重極イオンガイドの終端は、イオンとバックグラウンド気体分子との間の衝突がほぼ起こらない、バックグラウンド圧力の十分低い領域にある。そのような構成では、イオンは、バックグラウンド気体分子との衝突がほぼ発生しないバックグラウンド気体圧力の十分に低い真空領域に至るまで、RFフリンジ場を経験しない。それにもかかわらず、イオンが衝突セルへと加速されるときにイオンと衝突気体分子との間の衝突によって生成されるエネルギー中性粒子は、衝突セルの下流に配置された質量分析計の検出器におけるバックグラウンド粒子
ノイズの潜在源として残っている。
【0020】
ホワイトハウスにより特許文献12乃至16に記載されている構成では全て、多重極イオンガイドは、イオン源と質量分析計の入口との間で軸整合するように構成されていた。換言すると、イオン源から放出される、もしくはビーム経路に沿って生成されるバックグラウンド粒子がバックグラウンド気体分子と衝突すること、質量分析計へ進入すること、または質量分析計の検出器へ到達することを妨げるためには、何も与えられていない。したがって、バックグラウンド気体圧力がより高い領域(イオンとバックグラウンド気体分子との間で衝突が起きる)と、バックグラウンド気体圧力がより低い領域(そのような衝突がほぼ起こらない)との間でイオンを効率的に運びつつ、イオン源から生じるおよび/または移動中のイオンとバックグラウンド気体分子との間の衝突により生じるバックグラウンド粒子が質量分析計の検出器へ到達すること、またそれによって質量スペクトルにバックグラウンドノイズを生じることを妨げるという問題に対する解決策は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許第3,410,997号明細書
【特許文献2】米国特許第3,473,020号明細書
【特許文献3】米国特許第5,171,990号明細書
【特許文献4】米国特許第5,481,107号明細書
【特許文献5】米国特許第5,672,868号明細書
【特許文献6】米国特許第5,818,041号明細書
【特許文献7】米国特許第6,069,355号明細書
【特許文献8】米国特許第6,730,904号明細書
【特許文献9】欧州特許第0237259A2号明細書
【特許文献10】米国特許第6,614,021号明細書
【特許文献11】米国特許第6,762,407号明細書
【特許文献12】米国特許第5,652,527号明細書
【特許文献13】米国特許第5,962,851号明細書
【特許文献14】米国特許第6,188,066号明細書
【特許文献15】米国特許第6,403,953号明細書
【特許文献16】米国特許第7,034,292号明細書
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Dawson、「四重極質量分析法およびその応用(Quadrupole Mass Spectrometry and its Applications)」、p.34〜35、138〜139
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
したがって、本発明の1つの目的は、イオン源から放出され、質量分析計の検出器へ到達するバックグラウンド粒子の数を減少させつつ、質量分析計に対するイオンの伝達効率を改良することである。
【0024】
本発明の別の目的は、イオンとバックグラウンド気体分子との間の衝突から生じ、質量分析計の検出器へ到達するバックグラウンド粒子の数を減少させつつ、質量分析計に対するイオンの伝達効率を改良することである。
【0025】
本発明の別の目的は、イオンとバックグラウンド気体分子との間の衝突と、イオン源か
ら放出されるバックグラウンド粒子との両方から生じ、質量分析計の検出器へ到達するバックグラウンド粒子の数を減少させつつ、質量分析計に対するイオンの伝達効率を改良することである。
【0026】
本発明のさらに別の目的は、イオン源から放出されるのと、イオンとバックグラウンド気体分子との間の衝突によって生じるのとの両方の、質量分析計へ進入し得るバックグラウンド粒子の数を減少させつつ、質量分析計に対するイオンの伝達効率を改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
これらの目的および他の目的は、多真空ポンピングステージ真空系において、気体圧力のより高い上流領域(質量分析計の検出器からより遠い)と気体圧力のより低い下流領域との間の1つ以上の真空隔壁を通じて連続的に延びる、RF多重極イオンガイドを提供することによって達成される。このイオンガイドは、質量分析計への進入に続くイオンビームの方向に対して傾斜、屈曲、または湾曲した軸を有するとともに、上流のイオン源領域や、イオンとバックグラウンド気体分子との間の衝突が起こる圧力のより高い任意のまたは全ての領域と、質量分析計の検出器との間に見通し線が存在することを妨げるべく、構成されている。詳細には、本開示の発明では、RF多重極イオンガイドが延びており、イオンとバックグラウンド気体分子との間の衝突が起こるバックグラウンド気体圧力のより高い上流領域と、そのような衝突が有意に起こらないバックグラウンド気体圧力のより低い続く下流の真空領域とを分離する、真空隔壁の近傍に形成される質量分析計の検出器へバックグラウンド粒子が到達することが妨げられる。したがって、この真空隔壁を本明細書では「高圧真空隔壁」と呼ぶ。本発明の一部の実施形態では、質量分析計の検出器に加え、バックグラウンド粒子が生成する任意のそのような領域と、質量分析計の入口との間の見通し線も除去される。
【0028】
したがって、本発明の実施形態では、真空ポンピングステージを通じて真空ポンピングステージの間でイオンが効率的に運ばれるとともに、イオン源から放出されるバックグラウンド粒子や、イオン輸送中にイオンとバックグラウンド気体分子との間の衝突により生じるバックグラウンド粒子から生じるバックグラウンドノイズが除去される。この結果、本発明では、従来技術に比べ、信号が改良され、バックグラウンド粒子ノイズが減少されるとともに、費用および複雑さの低減された装置および方法が提供される。
【0029】
4つのカテゴリのバックグラウンドノイズ粒子を本明細書では区別する:(1)荷電液滴および非荷電液滴ならびにエネルギー中性粒子およびイオンなど、イオン源から直接放出され、検出器に直接衝突することによってバックグラウンドノイズを生じるバックグラウンド粒子;(2)イオン源から直接放出され、質量分析計内または検出器近くの表面に衝突することによって、続いて検出器に衝突してバックグラウンドノイズを生じる二次粒子を生じるバックグラウンド粒子;(3)エネルギー中性粒子およびイオン粒子など、質量分析計の入口へ向かっての移動中にイオンがバックグラウンド気体分子と衝突するときに生成され、検出器に直接衝突することによってバックグラウンドノイズを生じるバックグラウンド粒子;(4)イオンが移動中にバックグラウンド気体分子と衝突するときに生成され、質量分析計内または検出器近くの表面に衝突することによって、続いて検出器に衝突してバックグラウンドノイズを生じる二次粒子を生じるバックグラウンド粒子。対象となる発明の全ての実施形態では、カテゴリ(1)および(3)の粒子からのバックグラウンドノイズを妨げる、すなわち、質量分析計の外を起源とするバックグラウンド粒子が質量分析計の検出器へ直接到達することを妨げる。対象となる発明の一部の実施形態では、カテゴリ(2)および(4)の粒子からのバックグラウンドノイズも妨げる、すなわち、任意の起源のバックグラウンド粒子が質量分析計の入口を通過することも妨げる。さらに他の実施形態では、「高圧真空隔壁」の上流で生成されるバックグラウンド粒子が、こ
の真空隔壁を越えて下流の低圧真空領域へ移ることを妨げる。
【0030】
幾つかの実施形態では、直線的な多重極イオンガイドが、2つの真空ポンピングステージの間に、真空隔壁(すなわち「高圧真空隔壁」)を通じて、上流の真空ポンピングステージから下流の真空ポンピングステージへ連続的に延びるように構成されており、イオンガイドの中心軸は下流に配置された質量分析計の進入軸に対して傾斜した配向角を有するように構成される。イオンガイド出口の配置された真空ポンピングステージのバックグラウンド気体圧力は十分に低く、イオンは、バックグラウンド気体分子と衝突することなく、イオンガイドの出口から質量分析計の入口まで移動することが可能である。しかしながら、直前の真空ポンピングステージのバックグラウンド気体圧力は、そのような衝突が有意な頻度で起こるのに十分なほど高くてよい。イオンガイドは、ホワイトハウスらにより特許文献12乃至15に記載されているように、多重極イオンガイドのロッド(棒)または極を支持するマウント用構造が、イオンガイドの出口の配置されている真空ステージと、直前の真空ステージとの間の真空隔壁の延長部分として一体化されるように構成されているので、イオンガイドはそれらの真空ポンピングステージの間の気体の流れを有効に制限するように働く。この隔壁は、本発明の実施形態では、この隔壁の近傍においてイオンとバックグラウンド気体分子との間の衝突によって生じ得るバックグラウンド粒子には、イオンガイド軸と質量分析計の入口の軸との間の傾斜角により、質量分析計の検出器への見通し飛跡が存在しないことを保証するのに十分なだけ質量分析計の入口から離れた距離に構成される。
【0031】
そのような構成では、この真空隔壁の上流の任意の領域と質量分析計の検出器との間に見通し線が存在しないことも保証されるので、上流のイオン源もしくは衝突セルなど圧力のより高い領域またはイオンガイドの入口領域から生じる任意のバックグラウンド粒子には質量分析計の検出器に対する見通し線が存在しないことも保証される。したがって、そのような多重極イオンガイド構成の組み込まれた本明細書に開示の実施形態では、カテゴリ(1)および(3)の粒子からのバックグラウンドノイズが質量分析計の検出器へ到達することが妨げられる。
【0032】
幾つかの実施形態では、イオンガイド出口は質量分析計の入口近くに配置されているので、イオンはイオンガイドを出た直後に質量分析計へ向けられる(場合によってはイオンガイド出口に配置された静電型の操縦または偏向電極に補助を受けて)。しかしながら、イオンガイド出口が質量分析計入口からいくらか距離を離して配置されてもよく、その場合、イオンガイド出口から質量分析計入口まで効率的にイオンを運ぶために、静電式レンズおよび/または偏向デバイスなど1つ以上の追加のイオン輸送デバイス、および/または1つ以上の追加の多重極イオンガイド(いずれも当技術分野においてはよく知られている)が用いられてよい。イオンガイドの出口と質量分析計の入口との間の距離間隔に応じて、直線的なイオンガイド軸と質量分析計入口の軸との間の傾斜角を、イオンガイド出口と質量分析計入口との間の間隔と組み合わせることで、バックグラウンド粒子が質量分析計入口を通過することも妨げられ、それによって、カテゴリ(1)および(3)と同様にカテゴリ(2)および(4)のバックグラウンド粒子も除去することによりバックグラウンド粒子ノイズからのさらなる保護が提供される。
【0033】
開示の本発明の他の実施形態では、「高圧真空隔壁」を通じて連続的に延びる多重極イオンガイドは、真空隔壁の下流に配置された屈曲部または湾曲部によって構成されており、その出口端におけるイオンガイドの軸が質量分析計入口と共軸となる。質量分析計入口の軸は、先に記載した実施形態におけるように、イオンガイドが「高圧真空隔壁」を通じて延びる点におけるイオンガイドの軸に対する接線に対し、一定の角度に配向される。しかしながら、これらの他の実施形態では、イオンガイドにおける屈曲または湾曲のため、イオンは、質量分析計の進入軸に沿って移動するように再配向されても依然として多重極
イオンガイド内に存在するので、先に記載した実施形態のように、イオンが質量分析計入口の軸に再配向される前に多重極イオンガイドを出る必要はない。この代替の構成は、先に記載した傾斜した直線的なイオンガイドの構成に比べ、質量分析計入口へのイオン輸送効率は良好であり、複雑さおよび費用も減少される。
【0034】
さらに、一部の実施形態では、「高圧真空隔壁」を通過する点におけるイオンガイドの中心軸と、イオンビームがイオンガイドへ進入するときのイオンビームの軸との間に傾斜した配向角も組み込まれる。そのような構成では、イオン源または衝突セルなど圧力のより高い領域からなど、イオンガイドの上流から生じるバックグラウンド粒子や、イオンガイド入口領域にて生成されるバックグラウンド粒子までもが、真空隔壁を越えて動くことが妨げられ、したがって、そのような粒子が質量分析計の検出器にてノイズを生じることが不可能となることがさらに保証される。この場合にも、傾斜した直線的な多重極イオンガイドの組み込まれた実施形態については、イオンガイド入口端への最大のイオン輸送効率を保証するために、追加の静電型イオンガイドデバイスおよび/またはRFイオンガイドが随意で用いられてよい。または、これに代えて、イオンガイドのこの上流部分を通じたイオン輸送効率を最適化するために、上述の下流の屈曲部または湾曲部と同様に、真空隔壁の上流のイオンガイド軸に屈曲部または湾曲部が組み込まれてもよい。
【0035】
バックグラウンドノイズを最も減少させるために、この「上流傾斜角」(イオンガイドが「高圧真空隔壁」を通過する点におけるイオンガイドの中心軸と、イオンビームがイオンガイドへ進入するときのイオンビームの軸との間の角度)の向きや大きさと、「下流傾斜角」(イオンガイドが「高圧真空隔壁」を通過する点におけるイオンガイドの軸と質量分析計の進入軸とによって定義される)との間に特定の関係が存在する必要はない。しかしながら、通常は、「下流傾斜角」に対し「上流傾斜角」の大きさを等しく、かつ、向きを反対に構成することが、より簡単であり、したがって、より複雑でなく高価でないことが分かる。この特別な場合では、イオンガイド入口の上流およびイオンガイド出口の下流におけるイオンビーム方向は平行となるが、側方(軸ビーム方向に対して直角)では位置を異にしている。そのような位置構成では、機器の設計および組立が容易となる。
【0036】
本発明の別の特別な実施形態では、「高圧真空隔壁」を通じて連続的に延びる多重極イオンガイドが組み込まれ、多重極イオンガイドは連続的に湾曲する軸を有するように、例えば、イオンガイド軸は90度の円弧を通じて延びるように、構造化される。そのような一実施形態では、イオンガイドが真空隔壁を通じて延びているときに、軸が湾曲する。
【0037】
本発明のさらなる実施形態では、「高圧真空隔壁」の下流に「S」字形の湾曲部が組み込まれる。例えば、イオンガイド入口はイオンビーム経路の上流部分と共軸であり、「高圧真空隔壁」を通じて真っ直ぐ延びる。「高圧真空隔壁」の下流のイオンガイド軸における「S」字形の湾曲部は、次いで、イオンガイドの出口でのイオンガイドの軸が、その入口でのイオンガイド軸と平行であるが側方に動かされたように、イオンガイド軸を平行移動させる。したがって、イオンビームは湾曲を通じてイオンガイド出口へ、続いて下流に配置された質量分析計へと案内されるが、「圧力真空隔壁」の近傍(および上流)で生成したバックグラウンド粒子は全て、イオンガイド軸における湾曲を通り抜けないので、質量分析計へ進入することができない。
【0038】
これに加えて、全ての場合において、汚染および結果として生じる静電的な帯電効果を最小化するには、多重極イオンガイドのロッド(すなわち、極)を、上流の源からのバックグラウンド粒子が、極に衝突するのではなく、極間の間隙を通過する可能性が高くなるように配向させるほうが、通常、有利である。
【0039】
さらにまた、用いられる質量分析計および/または検出器の真空要件に応じて、質量分
析計および/または検出器の空間内の圧力をさらに低くするには、イオンガイド出口と質量分析計入口との間に1つ以上の追加の真空隔壁を提供すること、すなわち、多重極イオンガイドの出口端が配置されているまたは位置する真空ポンピングステージの下流の真空ポンピングステージに質量分析計および検出器を配置することが有利な場合がある。そのような場合、そのような追加の真空隔壁を通じて多重極イオンガイドが連続的に延ばされ、隔壁を通じてイオン輸送を行ってもよく、代わりに、追加の真空隔壁を通じて連続的に延びる別個のイオンガイドが用いられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態を示す概略図。最適なイオン輸送を提供するために、ESIイオン源からのイオンが誘電性キャピラリを介して真空へ運ばれ、スキマーを通過し、次いで、真空隔壁を通じて延びる多重極イオンガイドによって四重極質量分析計へ運ばれる。多重極イオンガイドは、バックグラウンド粒子が質量分析計の検出器へ到達することを妨げるためにマスフィルタの進入軸に対して一定の角度に傾斜している。キャピラリ軸に対するイオンガイドの傾斜によってもバックグラウンド粒子が減少される。
【図2】本発明の一実施形態を示す概略図。四重極質量分析計にイオンを運ぶために、ESIイオン源からのイオンが誘電性キャピラリを介して真空へ運ばれ、アパーチャレンズを通過し、次いで、2つの真空隔壁を通じて連続的に延びる多重極イオンガイドへ直接入る。このイオンガイドは、バックグラウンド粒子が質量分析計の検出器へ到達することを妨げるためにマスフィルタの進入軸に対して一定の角度に傾斜している。
【図2A】本発明の一実施形態を示す概略図。四重極質量分析計にイオンを運ぶために、ESIイオン源からのイオンが誘電性キャピラリを介して真空へ運ばれ、アパーチャレンズを通過し、次いで、3つの真空隔壁を通じて連続的に延びる多重極イオンガイドへ直接入る。このイオンガイドは、バックグラウンド粒子が質量分析計の検出器へ到達することを妨げるためにマスフィルタの進入軸に対して一定の角度に傾斜しており、また、イオンガイドに屈曲部を含む。
【図3】本発明の一実施形態を示す概略図。ESIイオン源からのイオンが誘電性キャピラリを介して真空へ運ばれ、アパーチャレンズを通過し、次いで、1つの真空隔壁を通じて連続的に延びる多重極イオンガイドセグメントへ直接入る。第2のセグメントは、次いで、第2の真空隔壁を通じて四重極質量分析計へイオンを運ぶ。2つのセグメントは共軸であり、バックグラウンド粒子が質量分析計の検出器へ到達することを妨げるためにマスフィルタの進入軸に対して一定の角度に傾斜している。
【図4】本発明の一実施形態を示す概略図。ESIイオン源からのイオンが誘電性キャピラリを介して真空へ運ばれ、アパーチャレンズを通過し、次いで、2つの真空隔壁を通じて連続的に延びる第1の多重極イオンガイドセグメントへ直接入る。第2のセグメントは、次いで、第2の真空隔壁を通じて四重極質量分析計へイオンを運ぶ。第1のセグメントはキャピラリ軸と共軸であるが、第2のセグメントは、バックグラウンド粒子が質量分析計の検出器へ到達することを妨げるためにマスフィルタの進入軸に対して一定の角度に傾斜している。
【図5】本発明の一実施形態を示す概略図。最適なイオン輸送を提供するために、ESIイオン源からのイオンが誘電性キャピラリを介して真空へ運ばれ、スキマーを通過し、次いで、3つの真空隔壁を通じて延びる多重極イオンガイドによって四重極質量分析計へ運ばれる。イオンガイドは、その長さに沿って2つの屈曲部を含んでいる。イオンガイドの入口部分はキャピラリ軸と共軸であり、中央部分は第1の部分に対して一定の角度にあり、出口部分はマスフィルタの進入軸と共軸である。これによって、バックグラウンド粒子が質量分析計の検出器へ到達することが妨げられる。
【図5A】本発明の一実施形態を示す概略図。四重極質量分析計に対する最適なイオン輸送を行うために、ESIイオン源からのイオンが誘電性キャピラリを介して真空へ運ばれ、アパーチャレンズを通過し、次いで、4つの真空隔壁を通じて連続的に延びる多重極イオンガイドへ直接入る。イオンガイドは、その長さに沿って2つの屈曲部を含んでいる。イオンガイドの入口部分はキャピラリ軸と共軸であり、中央部分は第1の部分に対して一定の角度にあり、出口部分はマスフィルタの進入軸と共軸である。これによって、バックグラウンド粒子が質量分析計の検出器へ到達することが妨げられる。
【図6】本発明の一実施形態を示す概略図。四重極質量分析計に対する最適なイオン輸送を行うために、ESIイオン源からのイオンが誘電性キャピラリを介して真空へ運ばれ、スキマーを通過し、次いで、1つの真空隔壁を通じて連続的に延びる多重極イオンガイドへ入る。イオンガイドは、その長さに沿って2つの屈曲部を含んでいる。イオンガイドの入口部分はキャピラリ軸と共軸であり、中央部分は第1の部分に対して一定の角度にあり、出口部分はマスフィルタの進入軸と共軸である。これによって、バックグラウンド粒子が質量分析計の検出器へ到達することが妨げられる。
【図7】本発明の一実施形態を示す概略図。四重極質量分析計に対する最適なイオン輸送を行うために、ESIイオン源からのイオンが誘電性キャピラリを介して真空へ運ばれ、スキマーを通過し、次いで、1つの真空隔壁を通じて連続的に延びる多重極イオンガイドへ入る。イオンガイドは、その長さに沿って連続的な湾曲を有するように構成されている。イオンガイドの入口部分はキャピラリ軸と共軸であり、出口部分はマスフィルタの進入軸と共軸であり、キャピラリの軸に対して90度の角度にある。これによって、バックグラウンド粒子が質量分析計の検出器へ到達することが妨げられる。
【図7A】本発明の一実施形態を示す概略図。四重極質量分析計に対する最適なイオン輸送を行うために、ESIイオン源からのイオンが誘電性キャピラリを介して真空へ運ばれ、スキマーを通過し、次いで、2つの真空隔壁を通じて連続的に延びる多重極イオンガイドへ入る。イオンガイドは、その長さに沿って連続的な湾曲を有するように構成されている。イオンガイドの入口部分はキャピラリ軸と共軸であり、出口部分はマスフィルタの進入軸と共軸であり、キャピラリの軸に対して90度の角度にある。これによって、バックグラウンド粒子が質量分析計の検出器へ到達することが妨げられる。
【図8】「三段四重極」構成における本発明の一実施形態を示す概略図。最適なイオン輸送を提供するために、ESIイオン源からのイオンが誘電性キャピラリを介して真空へ運ばれ、スキマーを通過し、次いで、真空隔壁を通じて延びる多重極イオンガイドによって第1の四重極質量分析計へ運ばれる。この多重極イオンガイドは、バックグラウンド粒子が第1の質量分析計の下流の衝突セルへ進行することを妨げるために、マスフィルタの進入軸に対して一定の角度に傾斜している。衝突セルは、その長さに沿って連続的な湾曲を有するイオンガイドによって構成されている。イオンガイドの入口部分は第1の四重極マスフィルタと共軸であり、出口部分は第2の四重極マスフィルタの進入軸と共軸であり、第1の四重極マスフィルタの軸に対して90度の角度にある。これによって、衝突セルから(または衝突セルの上流から)のバックグラウンド粒子が第2の四重極マスフィルタの下流に配置された検出器へ到達することが妨げられる。
【図9】「三段四重極」構成における本発明の一実施形態を示す概略図。最適なイオン輸送を提供するために、ESIイオン源からのイオンが誘電性キャピラリを介して真空へ運ばれ、スキマーを通過し、次いで、真空隔壁を通じて延びる多重極イオンガイドによって第1の四重極質量分析計へ運ばれる。この多重極イオンガイドは、バックグラウンド粒子が第1の質量分析計の下流の衝突セルへ進行することを妨げるために、マスフィルタの進入軸に対して一定の角度に傾斜している。衝突セルは、その長さに沿って連続的な湾曲を有するイオンガイドによって構成されている。イオンガイドの入口部分は第1の四重極マスフィルタと共軸であり、出口部分は第2の四重極マスフィルタの進入軸と共軸であり、第1の四重極マスフィルタの軸に対して90度の角度にある。これによって、衝突セルから(または衝突セルの上流から)のバックグラウンド粒子が第2の四重極マスフィルタの下流に配置された検出器へ到達することが妨げられる。衝突セルの出口隔壁を通じて最適なイオン輸送を提供するために、衝突セルのイオンガイドの出口部分は衝突セルの出口隔壁を通じて連続的に延びている。
【図10】「三段四重極」構成における本発明の一実施形態を示す概略図。最適なイオン輸送を提供するために、ESIイオン源からのイオンが誘電性キャピラリを介して真空へ運ばれ、スキマーを通過し、次いで、真空隔壁を通じて延びる多重極イオンガイドによって第1の四重極質量分析計へ運ばれる。この多重極イオンガイドは、バックグラウンド粒子が第1の質量分析計の下流の衝突セルへ進行することを妨げるために、マスフィルタの進入軸に対して一定の角度に傾斜している。衝突セルは、連続的な湾曲に沿った2つのイオンガイドセグメントによって構成されている。第1のイオンガイドセグメントの入口部分は第1の四重極マスフィルタと共軸であり、第2のセグメントの出口部分は第2の四重極マスフィルタの進入軸と共軸であり、第1の四重極マスフィルタの軸に対して90度の角度にある。これによって、衝突セルから(または衝突セルの上流から)のバックグラウンド粒子が第2の四重極マスフィルタの下流に配置された検出器へ到達することが妨げられる。衝突セルの出口隔壁を通じて最適なイオン輸送を提供するために、第2の衝突セルのイオンガイドセグメントの出口部分は衝突セルの出口隔壁を通じて連続的に延びている。セグメント化された衝突セルイオンガイドでは、MS/MSの機能など、さらなる分析機能が提供される。
【図11】本発明による様々な可能なイオンガイド構成を示す概略的な断面図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の好適な実施形態を図1に示す。この実施形態は、ほぼ大気圧で動作し、4つの真空ポンピングステージ2、3、4、5を備える真空系に取り付けられている、空気霧化支援部(pneumatic nebulization assist)を備える従来のエレクトロスプレーイオン化(ESI)イオン源1によって構成されている。イオン源1は、本質的には、液体試料送達チューブを備える空気霧化支援エレクトロスプレープローブ6を備える。この液体試料送達チューブは、液体試料7をチューブ端8へ送達する。チューブ端8とキャピラリ真空インタフェース10の入口端9との間の電圧差は、高電圧DC電源(図示せず)によって与えられる。試料送達チューブ端8の近傍の得られる静電場によって、試料送達チューブ端8から生じる試料液体7からのエレクトロスプレープルーム11が形成される。霧化およびイオン化の効率を高めるため、噴霧化気体12が、液体試料送達チューブ出口端8に近い(理想的には共軸である)出口開口部を備える噴霧化気体チューブを通じて送達されてよい。カウンタ電流乾燥気体13は乾燥気体ヒータ14により加熱され、加熱されたカウンタ電流乾燥気体15としてキャピラリ真空インタフェース10の入口端9を越えて流れ、エレクトロスプレープルーム11の液滴の蒸発を支援する。試料イオンはプルーム11内の荷電液滴を蒸発させることによって放出され、このイオンが、任意の残存する荷電および非荷電液滴ならびにエアロゾル粒子とともに、バックグラウンド気体とともに運ばれ、キャピラリ真空オリフィス16へ流れ込む。このイオン、液滴およびエアロゾル粒子は気体とともにキャピラリ10のボア17を通じてキャピラリ出口端18まで運ばれ、キャピラリ10の出口オリフィス19を通過して第1の真空ポンピングステージ2へ入る。通常、この気体はキャピラリ出口オリフィス19を出ると超音波膨張を受け、イオン、液滴およびエアロゾル粒子は、通常、膨張する気体における気体分子と同様の速度分布を獲得する。したがって、任意のそのような粒子の獲得した運動エネルギーは、その粒子の質量に幾らかは比例する。この結果、液滴およびエアロゾル粒子が、関心のイオンより大きな運動エネルギーを獲得する場合がある。
【0042】
このイオン、液滴およびエアロゾル粒子は、絶縁体22により取り付けられているスキマー21のオリフィス20を通過し、スキマーの下流のポンピングステージ3へ荷電粒子を集束させるべくスキマーに電圧が印加される。スキマー21のオリフィス20を通過するイオン、液滴およびエアロゾル粒子は、スキマー21のオリフィス20のものと同様、ほぼキャピラリ10のボア17の軸であるイオンビーム軸36に沿って、直線的な多重極イオンガイド24の入口端23へ進行する、直線的な多重極イオンガイド24は、共通の軸26に対して対称的に構成された6つのロッド25を備える六重極イオンガイドである。4つ、8つ、または8以上のそのようなロッドを備える多重極イオンガイドも同様に用いられてよい。図1に示す本発明の実施形態では、直線的な多重極イオンガイド24の軸
26および軸36は互いに対し、ある角度37で配向されている。しかしながら、本発明の他の実施形態では、直線的な多重極イオンガイド軸26は、キャピラリ10のボア17およびスキマー21のアパーチャ20の軸36と共軸であってもよい。
【0043】
多重極イオンガイド24のロッド25は絶縁体27および真空隔壁28を介して支持されており、そのような構成では、本質的には、真空ステージ3,4の間のガスフロー用の唯一の導管は、ロッド25内およびロッド25間の空間である。一部の構成では、気体はロッド25の近くまたは外側寄りの空間を流れてもよい。したがって、多重極イオンガイド24は、真空ポンピングステージ3,4の間に連続的に延びるとともに、真空ポンピングステージ3,4の間の気体の流れを制限するように構成される。入口端23にて多重極イオンガイド24へ進入するイオンは、多重極イオンガイド24のロッド25に印加されたRF電圧を切り替えることにより発生したRF電場を振動させることによって、多重極イオンガイド24の軸26に沿って案内される。イオンガイド24内のRF場は、イオンがイオンガイド24の軸26に対し直交する方向にロッド25を越えて動くのを妨げ、イオンはイオンガイド軸26に対しほぼ平行にイオンガイド出口端29まで移動する。
【0044】
イオンは出口端29を通じて多重極イオンガイド24を出て、真空隔壁31においてアパーチャ30を通じて配向される。次いで、イオンは四重極マスフィルタ33の入口32へ進行する。イオンは、その質量対電荷の値に従って四重極マスフィルタ33によりふるい分けられ、四重極マスフィルタ33の横断に成功したイオンは、次いで、四重極マスフィルタ33の出口アパーチャ34を通過する。これらのイオンは、次いで、検出器35へ配向されることによって、または衝突変換ダイノード36へ配向されることによって検出される。衝突変換ダイノード36は二次的な荷電粒子を生成し、この二次的な荷電粒子が検出のために検出器35へ配向される。
【0045】
図1に示す実施形態では、イオン源1および/またはキャピラリ10のボア17において、および/またはキャピラリ10の出口18とスキマー21のアパーチャ20との間、および/またはスキマー21のアパーチャ20とイオンガイド入口23との間の領域において生じ得る、荷電および非荷電液滴、ならびにエアロゾル粒子、エネルギーイオンおよび中性粒子など、大多数のバックグラウンド粒子は、イオンガイド24におけるRF場に反応せず(または、十分には反応せず)、幾らかはイオンガイド24の入口23を越えて自身の軌跡に沿って進行し、四重極マスフィルタ33の四重極入口32へ到達する前に表面に衝突する。そのような表面には、イオンガイド24のロッド25、真空隔壁28、絶縁体27、および真空隔壁31の表面が含まれる。
【0046】
同時に、イオンガイド24内のRF場へ適切に反応するイオンは、イオンガイド軸26に沿って案内される。真空ポンピングステージ3へ延びるイオンガイド24の部分内のバックグラウンド気体圧力は、イオンとバックグラウンド気体分子との間に衝突を起こし、イオンがイオンガイド24を横断するときにイオンの運動エネルギーを減少させるのに十分なほど高い。一般に、イオンガイド33のこの部分内の平均バックグラウンド気体圧力は、少なくとも、イオンとバックグラウンド気体分子との間の衝突と衝突との間の平均自由行程が、ほぼイオンガイド24の入口端23とイオンガイド24が真空隔壁28を通過する場所近くの位置40との間をイオンが横断する距離よりも大きくなるのに十分なほど高い。したがって、イオンガイド24の軸26に沿って案内され、そうした衝突のために運動エネルギーを失うイオンは、イオンガイド24内のRF場によってイオンガイド24の軸26に沿って形成されるウェル、すなわち、周知のいわゆる「擬似ポテンシャル」ウェルの働きのため、その運動エネルギーが減少するにつれ、軸26のより近くに存在することになる。
【0047】
イオンがイオンガイド24を通じて真空ポンピングステージ4へ移動すると、バックグ
ラウンド気体圧力はより低く、イオンとバックグラウンド気体分子との間の衝突がほぼ起こらないので、イオンは、バックグラウンド気体分子と有意な衝突を起こさずに、真空隔壁28の近傍からイオンガイド24の出口端29まで移動する。したがって、図1に示す装置においてイオンとバックグラウンド気体分子との間の衝突によってバックグラウンド粒子が生成され得る最後の位置は、真空隔壁28の下流およびその近くのイオンガイド24内の位置40である。
【0048】
イオンはイオンガイド24の出口端29へ到達するとき、真空隔壁31のアパーチャ30を通じて配向され、次いで、四重極マスフィルタ入口32を通じて四重極マスフィルタ33へ移動する。このとき、イオンビーム方向はイオンガイド24の軸26からマスフィルタ33の軸37までの角度39を通じて変化する。位置40にて生成された任意のバックグラウンド粒子、または位置40の上流にて生じ得る任意のバックグラウンド粒子には、四重極入口32を通じる見通し線飛跡が存在し得るが、イオンガイド24の軸26と質量分析計33の軸37との間の角度39と、質量分析計33の入口32と位置40との間の距離との組み合わせのために、アパーチャ34を越えて検出器35または検出器35の領域における任意の表面に至る見通し線飛跡は存在しない。したがって、そのようなバックグラウンド粒子が、検出器35または変換ダイノード36に衝突すること、または検出器35および変換ダイノード36の領域の表面を包囲することによって、バックグラウンド粒子ノイズを生じることが妨げられる。
【0049】
そのようなバックグラウンド粒子には、例えば、キャピラリ10の出口オリフィス19を通じて生じる任意のバックグラウンド粒子、またはキャピラリ10の出口オリフィス19とイオンガイド24の入口23との間で生成されるバックグラウンド粒子が含まれる。これらの粒子は、その一部にはイオンガイド24の入口23の上流の領域から質量分析計33の入口32を通じる見通し線が存在するように、キャピラリ10のボア17の軸16に対して傾いた軌跡を有する場合がある。これに代えて、本発明の他の実施形態は、0に等しい角度38によって構成される場合があり、その場合、それらのバックグラウンド粒子のうちのさらに多くが質量分析計33の入口32を通過することが予想される。いずれの構成においても、イオンガイド24の軸26と質量分析計33の軸37との間の角度39と、質量分析計33の入口32とそのようなバックグラウンド粒子が生じ得るイオンガイド24の入口23の上流の位置との間の距離との組み合わせによって、アパーチャ34のから検出器35または検出器35の領域の任意の表面までそのような粒子が通過することが妨げられる。
【0050】
本発明において、検出器35または周囲の表面への到達を妨げられる他のバックグラウンド粒子には、イオンとイオンガイド24の部分内のバックグラウンド気体分子との間の衝突によって生成され得るエネルギー中性粒子が含まれる。このイオンガイド24は、そのような衝突が起こるガス圧力のより高い領域に配置されている。本発明では、真空ポンピングステージ3などの領域、および真空隔壁28近くから位置40までの領域におけるそうしたバックグラウンド粒子の生成は、イオンガイド24の軸26と質量分析計33の軸37との間の角度39と、質量分析計33の入口32とそのようなバックグラウンド粒子が生じ得る位置40の上流のイオンガイド24内の位置との間の距離との組み合わせによって、その生成点から検出器35にまたは検出器35を包囲する領域に至るまでの見通し線飛跡経路を存在させないことにより妨げられる。この結果、本発明では、そのようなバックグラウンド粒子が、検出器35もしくは変換ダイノード36または検出器35および変換ダイノード36の領域の周囲の表面に衝突することによってバックグラウンド粒子ノイズを生じることも妨げられる。
【0051】
したがって、図1に示す本発明の実施形態では、直線的な多重極イオンガイドは、真空隔壁を通じて改良されたイオン輸送を行うように構成されるとともに、イオンとバックグ
ラウンド気体分子との間の衝突により発生するバックグラウンド粒子や、イオン源から発生するバックグラウンド粒子によって生じるバックグラウンド粒子ノイズを減少させる。
【0052】
本発明の代替の一実施形態を図2に示す。図1の同じ機能要素に対応する要素には同じ符号を付ける。図2には、本発明の一実施形態を示す。この実施形態では、直線的な多重極イオンガイド24は、キャピラリ10の出口オリフィス19が配置された第1の真空ステージ2から、第2の真空ポンピングステージ3を通じて、第3の真空ポンピングステージ4まで、2つの真空隔壁42、28を通じて連続的に延びている。この実施形態では、図1のスキマー21は除去されており、キャピラリ10の出口オリフィス19とイオンガイド24の入口23との間に、アパーチャ43を備えた平坦レンズ電極41が配置されている。主として、図2の構成では図1の構成よりもキャピラリ10の出口オリフィス19とイオンガイド24の入口23との間がより近づくことにより、この構成では、キャピラリ10の出口オリフィス19とイオンガイド24の入口23との間に図1の構成と比べて改良されたイオン輸送効率が可能となる。イオンは、イオンガイド24の入口23へ進入すると、イオンガイド24内のRF場によって、キャピラリ10の軸36ではなくイオンガイド24の軸26に沿って移動するように再配向される。この場合にも、位置40の上流において生じるバックグラウンド粒子は、イオンガイド24の軸26と質量分析計33の軸37との間の角度39と、質量分析計33の入口32とバックグラウンド粒子が生じ得る位置40の上流の位置との間の距離との組み合わせによって、その生成点から検出器35にまたは検出器35を包囲する領域に至るまでの見通し線飛跡経路を存在させないことにより妨げられる。この結果、バックグラウンド粒子が検出器35もしくは変換ダイノード36または検出器35および変換ダイノード36の領域の周囲の表面に衝突することが妨げられることによって、本発明のこの実施形態では、バックグラウンド粒子ノイズの生成が妨げられる。
【0053】
本発明の代替の実施形態には、3より多くの真空ポンピングステージへ連続的に延びるイオンガイドや、イオンガイド軸に沿って屈曲部または湾曲部の組み込まれたイオンガイドを含む追加の特徴が組み込まれてよい。そのような特徴を、図2Aに示す本発明の実施形態により示す。図2Aには、4ステージ真空ポンプ装置を示す。ここでは、図2の構成と同様に、多重極イオンガイド24の入口23は第1の真空ポンピングステージ2から始まる。キャピラリ10の出口オリフィス19から流れるイオンは、レンズ電極41のアパーチャ43を通過して、多重極イオンガイド24の入口23へ移動する。イオンは、イオンガイド24の入口23へ進入すると、イオンガイド24内のRF場によって、キャピラリ10の軸36ではなくイオンガイド24の軸26に沿って移動するように再配向される。図2の実施形態におけるように、イオンガイド24は第1の真空ポンピングステージ2から、真空隔壁42、第2の真空ポンピングステージ3、および真空隔壁28を通じて、連続的に延びるように構成されている。しかしながら、図2Aに示す構成では、イオンガイド24は、第3の真空ポンピングステージ4を通じ、真空隔壁45を通じて、質量分析計33および検出器35の配置された真空ポンピングステージ5へ連続的に延びている。イオンガイド24が真空ポンピングステージ5まで延びているとき、イオンガイド24はイオンガイド軸26に屈曲部44を備えるように構成される。この屈曲は、屈曲部44の下流のイオンガイド24の部分のイオンガイド軸26が質量分析計軸37と共軸であるように、屈曲部44の上流のイオンガイド24の部分に沿ったイオンガイド24の軸26と、質量分析計軸37との間の角度39に等しい屈曲角度を有するように構成される。したがって、イオンが屈曲部44の上流のイオンガイド24の軸26に沿った方向および質量分析計軸37からの角度39によって再配向されるとき、イオンガイド24における屈曲部44は、図2に示す構成に比べ、より良好にイオンを運ぶことができる。この場合にも、位置40の上流において生じるバックグラウンド粒子は、イオンガイド24の軸26と質量分析計33の軸37との間の角度39と、質量分析計33の入口32とバックグラウンド粒子が生じ得る位置40の上流の位置との間の距離との組み合わせによって、その生
成点から検出器35にまたは検出器35を包囲する領域に至るまでの見通し線飛跡経路を存在させないことにより妨げられる。この結果、バックグラウンド粒子が検出器35もしくは変換ダイノード36または検出器35および変換ダイノード36の領域の周囲の表面に衝突することが妨げられることによって、本発明のこの実施形態では、バックグラウンド粒子ノイズの生成が妨げられる。
【0054】
図2の実施形態の代替の一変更形態を図3に示す。図3には、この発明が図2の実施形態と同様に構成されることを示す。主な違いは、傾斜した直線的な多重極イオンガイドが、共通の傾斜したイオンガイド軸26に沿った2つの別個の独立したイオンガイドへと区分されていることである。第1のイオンガイドセグメント48は、イオンガイドロッド49を備えて構成され、第1のポンピングステージ2のイオンガイド入口23から、真空隔壁42を通じて、真空ポンピングステージ3へ連続的に延びている。第1のイオンガイドセグメントは、イオンガイドセグメント48の出口端50にて終わる。小さい間隙51の後、第2のイオンガイドセグメント52は、真空ステージ3のイオンガイドセグメント52の入口端54から、真空隔壁28を通じて、真空ポンピングステージ4へ連続的に延びている。
【0055】
キャピラリ10の出口オリフィス19を出るイオンは、イオンガイドセグメント49の入口端23へ移動し、イオンガイドセグメント49内のRF場によって、真空隔壁42を通じてイオンガイドセグメント49の出口端50まで案内される。イオンガイドセグメント49の出口端50から、イオンは、間隙51を通じてイオンガイドセグメント52の入口端54へ配向される。イオンガイドセグメント52内のRF場は、イオンガイドセグメント52の出口端29までイオンを案内するように働く。イオンは、次いで、質量分析および検出器35による検出のため、オリフィス30を通じて質量分析計入口32へ向けられる。
【0056】
イオンガイドセグメント48、52は独立に動作するので、異なるRFおよびDC電圧が印加されることができる。特に、それらに対し印加されるRF電圧は同じであるが、印可されるDCオフセット電圧が各々に対して異なる場合、イオンガイドセグメント49の出口端50から、間隙51を通じて、イオンガイドセグメント52の入口端まで、イオンが加速される。間隙51の配置された真空ステージ3は、イオンとバックグラウンド気体分子との間で衝突が起こるのに十分なほど高いバックグラウンド気体圧力を有する。間隙51を通じたイオンの加速が十分に大きいと、イオンとバックグラウンド気体分子との間の衝突によって、フラグメントイオンおよび中性粒子へのイオンの衝突誘起解離(CID)が生じる。フラグメントイオン(および任意の残存する「親」イオン)はイオンガイド52を通じて案内され、その運動エネルギーは、間隙51を通じた加速の結果、増大している場合があるが、イオンが間隙51と位置40との間で移動するにつれ、続くバックグラウンド気体分子との衝突によって弱められた後、バックグラウンド気体圧力がイオンとバックグラウンド気体分子との間の衝突が起こらないのに十分なほど低くなる。この場合にも、位置40の上流において生じるバックグラウンド粒子(この場合には、特に、CID衝突の結果として生じるエネルギー中性粒子)は、イオンガイド24の軸26と質量分析計33の軸37との間の角度39と、質量分析計33の入口32とバックグラウンド粒子が生じ得る位置40の上流の位置との間の距離との組み合わせによって、その生成点から検出器35にまたは検出器35を包囲する領域に至るまでの見通し線飛跡経路を存在させないことにより妨げられる。この結果、バックグラウンド粒子が検出器35もしくは変換ダイノード36または検出器35および変換ダイノード36の領域の周囲の表面に衝突することが妨げられることによって、本発明では、バックグラウンド粒子ノイズの生成が妨げられる。
【0057】
図4には、図3の一修飾形態を示す。ここでは、図3の第1のイオンガイドセグメント
48はキャピラリ10の軸36と共軸に配向され、真空隔壁42を通じて第1の真空ポンピングステージ2と第2の真空ポンピングステージ3との間にしか延びていないが、追加(図3の実施形態との比較)の真空隔壁56を通じても延びている。この追加の真空隔壁56は、図3の真空ポンピングステージ3を、図4に真空ポンピングステージ55として示す追加の真空ポンピングステージへと分割する。イオンガイドセグメント58の出口端59は、図4の第3の真空ポンピングステージ55に配置されている。第2のイオンガイドセグメント52は、軸36に対して一定の角度38で配向されており、この実施形態の構成は図3の間隙51の下流と同じである。
【0058】
図3の実施形態に対する図4に示す実施形態の利点は、軸36に沿って第1のイオンガイドセグメント58へ進入するイオンがイオンガイドセグメント58に沿って進行するので、そのビーム方向がキャピラリ10の軸36からイオンガイドセグメント52の軸26へ再配向される前に、イオン運動エネルギーの衝突冷却を受けられることである。イオンを案内または再配向するための特定のRF場の強さの有効性は、イオンの運動エネルギーが増大するにつれて減少するので、イオンの運動エネルギーの冷却によってイオンガイド内のRF場がイオンのビーム経路を再配向できることにより、効率が改良される。したがって、図4の真空ステージ3におけるバックグラウンド気体分子との衝突によりイオンの運動エネルギーを弱めることによって、例えば、図3のイオンガイドセグメント48に比べ、図4のイオンガイドセグメント58による捕捉および再配向の効率が向上することが保証される。これは、質量対電荷比のより高いイオンの場合、それらのイオンは、膨張する気体の速度分布と同様の速度分布を有してキャピラリ10の出口オリフィス19を出るので、その質量にほぼ比例した運動エネルギーを有するため、特に重要となる。また、図3の実施形態におけるように、イオンガイドセグメント58、52に対し印加されるRFおよびDC電圧は異なっていてもよく、CIDが上述の図3の実施形態と同様に行われることが可能となる。
【0059】
本発明の別の代替の実施形態を図5に示す。この実施形態は、イオンガイド24の軸26に2つの屈曲部60、44を有し、イオンガイド24の入口端23にてイオンガイド24の軸26がキャピラリ10の軸36と共軸であるように、また、イオンガイド24の出口端29にてイオンガイド24の軸26が質量分析計33の軸37と共軸であるように構成されたイオンガイド24により、構成されている。したがって、イオンビーム方向は、イオンガイド24の入口端23においてキャピラリ10の軸36からイオンガイド24の軸26へと、また、イオンガイド24の出口端29においてイオンガイド24の軸26から質量分析計33の軸37へと変えられる。このとき、イオンがイオンガイド24の案内RF場内に留まることによって、そうしたビーム方向の変化のあいだの効率的なイオン輸送が保証される。また、イオンガイド入口23と屈曲部60(キャピラリ10の軸36と共軸である)との間のイオンガイド24の部分によって、ビームが屈曲部44に再配向される前にイオン運動エネルギーが冷却されることが可能となり、これによって、質量のより高いイオンについても、屈曲部44を通じた効率的なイオン輸送が保証される。上述のように、そのような質量のより高いイオンは、キャピラリ10の出口オリフィス19を通じて出ると、より高い運動エネルギーを有するようになるので、その運動エネルギーの衝突冷却前にRF場によって再配向することがより困難となる。
【0060】
この場合にも、位置40の上流において生じるバックグラウンド粒子は、イオンガイド屈曲部44,60の間のイオンガイド24の軸26と質量分析計33の軸37との間の角度39と、質量分析計33の入口32とバックグラウンド粒子が生じ得る位置40の上流の位置との間の距離との組み合わせによって、その生成点から検出器35にまたは検出器35を包囲する領域に至るまでの見通し線飛跡経路を存在させないことにより妨げられる。この結果、バックグラウンド粒子が検出器35もしくは変換ダイノード36または検出器35および変換ダイノード36の領域の周囲の表面に衝突することが妨げられることに
よって、本発明のこの実施形態では、バックグラウンド粒子ノイズの生成が妨げられる。
【0061】
より低い製造コストおよびより簡単な機器設計のために、角度38、39の方向がほぼ等しくなるように、またはほぼ反対となるように構成することによって、キャピラリ10の軸19を質量分析計33の軸37に平行となるように構成することもできる。また、図5示した実施形態は、真空隔壁31のアパーチャ30によって提供されるガスフロー制限に加えて、イオンガイド24の出口端29を支持し、真空ポンピングステージ4、5の間のガスフロー制限を増大する絶縁体65を有するように構成されている。
【0062】
図5に示した本発明の実施形態の別の修飾形態も組み込まれる。例えば、図5Aに示す本発明の実施形態には、図5におけるように2つの屈曲部60、44を有するように構成されたイオンガイドが示されているが、スキマー21は除去され、イオンガイド24の延びる真空隔壁42に置き換えられている。イオンガイド24の入口23は第1の真空ポンピングステージ2に配置され、イオンガイド24は、イオンガイド24の絶縁体22とともに、真空ポンピングステージ2、3の間のガスフローの制限された導管を形成している。また、キャピラリ10の出口オリフィス19とイオンガイド24の入口23との間に、アパーチャ43を備えた平坦レンズ電極41が配置されている。主として、図5Aの構成では図5の構成よりもキャピラリ10の出口オリフィス19とイオンガイド24の入口23との間がより近づくことにより、この構成では、キャピラリ10の出口オリフィス19とイオンガイド24の入口23との間に図5のスキマー21の構成と比べて改良されたイオン輸送効率が可能となる。さらに、図5の実施形態の絶縁体支持部65と、アパーチャ30を備えた真空隔壁31とは、図5Aでは真空隔壁66および絶縁体67として再構成されている。絶縁体67は、イオンガイド出口端29近くのイオンガイド24を支持し、イオンガイド24と共に、真空ポンピングステージ4、5の間のガスフロー制限部を形成する。
【0063】
この場合にも、位置40の上流において生じるバックグラウンド粒子は、イオンガイド屈曲部44,60の間のイオンガイド24の軸26と質量分析計33の軸37との間の角度39と、質量分析計33の入口32とバックグラウンド粒子が生じ得る位置40の上流の位置との間の距離との組み合わせによって、その生成点から検出器35にまたは検出器35を包囲する領域に至るまでの見通し線飛跡経路を存在させないことにより妨げられる。この結果、バックグラウンド粒子が検出器35もしくは変換ダイノード36または検出器35および変換ダイノード36の領域の周囲の表面に衝突することが妨げられることによって、本発明のこの実施形態では、バックグラウンド粒子ノイズの生成が妨げられる。
【0064】
本発明の追加の一実施形態を図6に示す。図6には、ほぼ図1に示した構成を示すが、イオンガイド24は、図5および図5Aのイオンガイド24における屈曲部44、60と同様に、2つの屈曲部44、60が組み込まれたものに置き換えられている。図6のイオンガイド24は1つの真空隔壁28を通じてのみ延びているので、この実施形態の構成は、図5および図5Aに示した実施形態より高価でなく、製造および組立がより簡単である。しかしながら、質量分析計が配置される真空ステージ5のバックグラウンド気体圧力は、図5および図5Aの実施形態ほど低くない場合がある。
【0065】
上述の本発明の実施形態には全て、イオンガイドの1つ以上の部分が直線的なイオンガイド部分として構成されているイオンガイドが組み込まれている。これに代えて、本発明では、イオンガイド全体が完全に湾曲して構成されていてもよい。例えば、図7には、90度の円弧の経路を辿るとともに真空隔壁28を通じて延びている中心軸26を有する多重極イオンガイド24の組み込まれた、本発明の別の実施形態を示す。キャピラリ10のオリフィス19を出るイオンは、スキマー21のアパーチャ20を通過し、湾曲したイオンガイド24の入口23へ移動する。湾曲したイオンガイド24の軸は、湾曲したイオン
ガイド24の入口23にてキャピラリ10の軸36と共軸となるように構成されている。真空ステージ2のバックグラウンド気体圧力は、イオンがこの真空ステージ内でイオンガイドを横断するときに、イオンとバックグラウンド気体分子との間の衝突が起こるのに十分なほど高い。しかしながら、真空ステージ4内のバックグラウンド気体圧力は、少なくとも位置40の下流において、イオンが真空ステージ4内でイオンガイド24を横断するときに、イオンとバックグラウンド気体分子との間の衝突がほぼ起こらないのに十分なほど低い。図7の構成では、位置40の上流において生じるバックグラウンド粒子には、絶縁体69とともに真空隔壁68の部分を形成するレンズ70のアパーチャ30を通過することを可能とする見通し線の軌跡は存在しない。この結果、バックグラウンド粒子が検出器35もしくは変換ダイノード36または検出器35および変換ダイノード36の領域の周囲の表面に衝突することが妨げられることによって、この本発明の実施形態では、バックグラウンド粒子ノイズの生成が妨げられる。
【0066】
図7に示した実施形態に対する代替の一構成を図7Aに示す。図7と図7Aとの実施形態の間の差は、図7のレンズ70が除去されており、湾曲したイオンガイド24が真空隔壁68を通じて連続的に延びており、絶縁体69が真空隔壁の部分を形成するばかりでなく、ロッド25を支持していることである。したがって、図7においてレンズ70のアパーチャ30によって提供されていたガスフローに対する伝搬の制限は、図7Aでは、イオンガイド24のロッド25内の、間の、およびその他イオンガイド24のロッド25近くの限られた空いた空間によって提供される。この構成では、アパーチャ30が除去されているために、イオンガイド24の出口29から質量分析計33の入口32へのよりよいイオン伝達が提供される。
【0067】
本発明の別の代替の実施形態を図8に示す。図8には、いわゆる「三段四重極」構成による本発明の一実施形態を示す。ここでは、イオン源1からのイオンは、傾斜したイオンガイド24を介して真空ポンピングステージ5の四重極マスフィルタ33まで運ばれる。「娘」イオンを発生させるために続いてフラグメント化される「親」イオンは、四重極マスフィルタ33において選択され、レンズ71を通じて集束され、加速される。図8には、レンズ71を、四重極マスフィルタ軸72に沿って衝突セル73への3要素レンズとして示す。加速された親イオンは、親イオンが娘イオンフラグメントおよび中性フラグメントへと断片化するのに十分な運動エネルギーを有し、衝突セル73の衝突気体分子と衝突する。衝突セル73は、筐体84内の湾曲した四重極イオンガイド77を備えるとともに、調節弁75および気体送達チューブ74を介して衝突気体76を有する筐体84内に備えられている。これに代えて、6つ、8つ、または8つより多くのロッドにより、湾曲したイオンガイド77が構成されてもよい。フラグメントイオンおよび任意の残存する親イオンは、湾曲したイオンガイド77によって衝突セルの出口アパーチャ85まで案内され、そこでイオンが3要素中心レンズ80を通じて真空ポンピングステージ6の四重極マスフィルタ81へ集束され、次いで、質量の分析されたイオンが検出器35により検出される。
【0068】
図8に示した実施形態の構成は、イオン源から四重極マスフィルタ33を通じる図1の構成とほぼ同じように示されている。したがって、上述において図1の実施形態に関連して記載したように、傾斜角39(また、この場合には傾斜角38も)のため、イオンガイド24における位置40の上流で生じたバックグラウンド粒子に四重極マスフィルタ33の出口端のレンズ71のアパーチャを越える見通し線が存在することは妨げられる。この結果、そのようなバックグラウンド粒子が衝突セル73に進入することが妨げられる。エネルギーが高いためおよび/または電荷の欠如のために四重極マスフィルタ33によっては十分にふるい分けられないエネルギーバックグラウンド粒子は、衝突セル73に進入することが可能であった場合、衝突気体分子と衝突し、バックグラウンド粒子からバックグラウンドフラグメントイオンを発生させる。そのようなバックグラウンドフラグメントイ
オンは、四重極マスフィルタ81によって得られるフラグメントイオン質量スペクトルに現れ、分析が複雑となる。
【0069】
さらに、本発明のこの実施形態では、湾曲した衝突セルによって、衝突セル73内の軸72に沿ったすべての場所から分析装置の検出器35または出口レンズ88の下流の検出器35近くの表面までの見通し線が妨げられる。したがって、本発明のこの実施形態では、衝突セル73におけるイオンと衝突気体分子との間の衝突の結果として生じる任意のエネルギーフラグメントイオンまたは中性フラグメントには、検出器35までの見通し線が存在しないため、バックグラウンド粒子ノイズが生じることが妨げられる。これに加えて、真空ステージ5と真空ステージ6との間のイオンの移動は、衝突セル73を真空ステージ5、6の間に連続的に延びるように構成することによって改良される。
【0070】
図9に示す本発明の実施形態は、湾曲したイオンガイド77の湾曲したロッド78が、衝突セル73の筐体84の延長部分を形成する絶縁体79を介して取り付けられる点を除き、図8の実施形態とほぼ同一である。この構成では、図9に示すように、湾曲した衝突セルイオンガイド77が衝突セルの内部から衝突セルの外部まで連続的に延びることが可能となる。そのような構成によって、本発明では、図8に示したような衝突セル筐体84への延長部分を形成する出口アパーチャ85の従来の構成と比較して、衝突セルを出るイオンによりよいイオン輸送効率が与えられるとともに、バックグラウンド粒子ノイズが小さくなる。図9のよりよいイオン輸送効率の理由は、図8の実施形態では、イオンは、湾曲したイオンガイド77の湾曲したロッド78に対し印加されるRF電圧のため、出口アパーチャ85におけるRFフリンジ場によって散乱され得るからである。イオンは、図8の実施形態では、図8の実施形態における湾曲したイオンガイド77内の案内RF場を出て出口アパーチャ85を通じて移動するとき、出口アパーチャ85近くの領域の衝突気体分子との衝突によっても散乱され、イオン損失や、そのような衝突から生じるバックグラウンド粒子の発生が起きる。対照的に、図9の実施形態では、イオンは、湾曲したイオンガイド77内のRF場によって、図9の湾曲した衝突セル84の出口87を通じて案内され、案内RF場の外へ、真空ステージ6内(すなわち、イオンとバックグラウンド気体分子との間の衝突がほぼ起こらないのに十分なほど低いバックグラウンド圧力内)の出口アパーチャ85を通じて移動するのみであり、よりよいイオン輸送効率が得られるとともに、イオンがアパーチャ85近くのRFフリンジ場を通過するときのバックグラウンド粒子の生成が回避される。
【0071】
さらに、図9の構成では、イオンが衝突気体分子と衝突し得る最後の位置は衝突セル出口87のすぐ下流の位置86(図9)でもあるため、図8の構成と比べて低いバックグラウンド粒子ノイズが得られる。位置86は、イオンガイド77において出口アパーチャ85の幾らか上流に離れた場所に、すなわち、湾曲したイオンガイド77が依然として曲がっている場所にある。この構成のため、位置86におけるイオンと衝突気体分子との間の衝突により生じるバックグラウンド粒子には、検出器35、または四重極出口レンズ88の下流の検出器35の領域の表面までの見通し線は存在しない。したがって、図9の本発明の実施形態では、マウント用絶縁体79を介し衝突セル隔壁84を通じて連続的に延びるイオンガイド77の延長部分によって、衝突セル73から続く四重極マスフィルタ81への改良されたイオン輸送が提供されるとともに、イオンと衝突気体分子との間の衝突から生じるバックグラウンド粒子が検出器35においてバックグラウンド粒子ノイズを生成することが妨げられる。
【0072】
図10には、図10の実施形態では図9の衝突セル73のイオンガイド77が3つの別個の独立したイオンガイドセグメント90、91、92へと区分されているという点を除き、図9の実施形態とほぼ同じである、本発明の一実施形態を示す。任意のまたは全てのイオンガイドセグメント90、91、92に別個のDCおよびRF電圧が印可されてもよ
い。衝突セル73においてセグメント90、91、92へのイオンガイドを構成することによって、図9の実施形態に対する追加の機能が可能となる。例えば、四重極マスフィルタ33からイオンガイドセグメント90へ親イオンを加速することによって、CIDによりフラグメントイオンを発生させることもできる。同時に、RF電圧がイオンガイドセグメント90のロッドに対し印加されることによって、選択したm/z値を有するフラグメントイオン以外の全てのイオンの共鳴周波数励起ラジアル放出を起こすことも可能である。これらのm/zの選択されたフラグメントイオンは、次いで、イオンガイドセグメント90、91の間のDCオフセット電圧差によって軸方向に加速され、選択されたフラグメントイオンのCIDを生じてもよい。得られた二次生成フラグメントイオンは、次いで、イオンガイドセグメント92を通じて、質量分析計81および検出器35へ配向されることによって、m/zが分析されてもよい。
【0073】
上述の本発明の実施形態のうちのいずれにおいても、イオンガイドまたはイオンガイドセグメントは、図11Aの断面に示すように、中心軸について対称に配置された四重極(4つの極を有する)イオンガイドまたはロッドとして構成されてよいことが理解される。これに代えて、より多くのロッド(または極)が、先に記載したいずれのRFイオンガイドまたはイオンガイドセグメントにおいて用いられてもよい。例えば、図11Dに示すように、6つのロッドまたは極が組み込まれてもよく、図11Cに示すような、8つの極またはロッド、または8より多くのロッドまたは極が、本明細書に記載のイオンガイドまたはイオンガイドセグメントにおいて用いられてもよい。また、本明細書に記載のイオンガイドまたはイオンガイドセグメントは、断面が円形でない極を有するように構成されてもよいことが理解される。例えば、図11Bの四重極構成に示すように、平板も本発明の範囲内にある。さらに、いわゆる「スタック環」RFイオンガイドが本発明の実施形態におけるイオンの輸送用のイオンガイドとして組み込まれることも、本発明の範囲内にある。
【0074】
本明細書に記載の実施形態にはイオン源としてESIイオン源が組み込まれているが、本発明の範囲内において、これに代えて任意の実施形態において任意のイオン源が代わりに用いられてよいことが理解される。特に、大気圧化学イオン化(APCI)、誘導結合プラズマ(ICP)、および大気圧(AP−)MALDI、ならびにレーザアブレーションのイオン源など、大気圧または大気圧近くで動作する他のイオン源が本発明の範囲内において組み込まれる。グロー放電、中間圧力(IP−)MALDI、およびレーザアブレーションのイオン源など、中間の真空圧力で動作する他の種類のイオン源、または電子イオン化および化学イオン化のイオン源など、イオン源の動作中に真空圧力が有意に上昇する真空領域において構成される他の種類のイオン源も、本発明の範囲内で用いられる。
【0075】
加えて、イオン源から第1のイオンガイドの入口までイオンを運ぶために用いられる方法および/または装置は、上述の実施形態に記載されているような誘電性キャピラリインタフェースには制限されず、本発明の範囲内で、対象のイオン源および真空条件に適切であるように、金属キャピラリ、ノズルもしくはオリフィス、オリフィスのアレイ、またはこの目的に用いることのできる他の導管も含まれることが、さらに理解される。
【0076】
さらに、本明細書に記載の実施形態では四重極マスフィルタが構成されているが、三次元イオントラップ、扇形磁場型質量分析計、軸方向パルスまたは直交方向パルスのいずれかを用いる飛行時間型質量分析計、軸共鳴放出を用いる二次元イオントラップなど、他の種類の質量分析計も本発明の範囲に含まれることが理解される。
【0077】
示した実施形態により本発明について記載したが、それらの実施形態に対する変形形態が可能であり、如何なる変形形態も本発明の精神および範囲の内にあることが当業者には容易に認められる。
【0078】
本発明の原理と、それによって様々な実施形態および想定される特定の使用に適するような様々な修飾形態において当業者が本発明を実施することが可能であるような実際の適用とを最もよく示すように、好適な実施形態について記載したことが理解される。そのような修飾形態および変形形態は全て、法律上公正にかつ公平に権利の付与される幅にしたがって解釈されたときに添付の特許請求の範囲によって決定される本発明の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料物質の分析用の装置であって、
a.試料物質からイオンを発生させるためのイオン源と、
b.隔壁によって互いから分離されるとともに、前記イオンが前記隔壁を通じて移動することが可能であるように互いに連通している、2つ以上の真空領域と、
c.前記真空領域のうちの1つ以上に配置された質量分析計と、前記イオンは前記質量分析計へ進入する進入軸を有することと、
d.検出器領域に配置された質量分析計検出器と、
e.入口端と出口端とを備える1つ以上の多重極イオンガイドと、前記多重極イオンガイドは、前記1つ以上の多重極イオンガイドの少なくとも第1の部分に沿って延びる第1の軸と、前記多重極イオンガイドの少なくとも第2の部分に沿って延びる第2の軸とを有することと、前記第2の部分は前記イオンガイドの出口端を含むことと、前記イオンガイドは1つの真空領域から1つ以上の続く真空領域へ連続的に延びていることと、前記イオンは前記1つ以上の多重極イオンガイドを通じて前記1つの真空領域から前記1つ以上の続く真空領域へ、さらに前記出口端まで運ばれることと、
f.前記イオン源から前記多重極イオンガイドの入口端へ前記イオンを移動させるための手段と、
g.バックグラウンド粒子が前記検出器に到達するのを妨げるための手段と、を備える装置。
【請求項2】
バックグラウンド粒子が前記検出器に到達するのを妨げるための前記手段は、前記イオンガイドの第1の軸と前記質量分析計の進入軸との間の傾斜部または屈曲部を含み、前記傾斜部または屈曲部の位置の上流において生成したバックグラウンド粒子は前記検出器または検出器領域に対する見通し線をほぼ有しない請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記イオンガイドの第1の軸は前記イオンガイドの出口軸と共軸であり、前記傾斜部または屈曲部は前記イオンガイドの出口軸と前記質量分析計の進入軸との間に配置されている、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記質量分析計の進入軸は前記イオンガイドの出口軸と共軸であり、前記傾斜部または屈曲部は前記多重極イオンガイド内に配置されている、請求項2に記載の装置。
【請求項5】
バックグラウンド粒子が前記検出器に到達するのを妨げるための前記手段は、前記第1の軸の湾曲部を含み、前記湾曲部は同湾曲部の開始部および同湾曲部の終了部を含み、前記湾曲部の終了部の上流において生成したバックグラウンド粒子は前記検出器または検出器領域に対する見通し線をほぼ有しない請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記多重極イオンガイドは2つ以上の多重極イオンガイドセグメントを備える請求項1乃至5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記2つ以上の真空領域は3つ以上の真空領域である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記2つ以上の真空領域は3つ以上の真空領域である請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記イオン源は、ほぼ大気圧で動作する請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記イオン源は、エレクトロスプレーイオン源、大気圧マトリックス支援レーザ脱離イオン源、またはレーザアブレーションイオン源である請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記イオン源は大気圧未満で動作する請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記イオン源は、グロー放電イオン源、中間圧力マトリックス支援レーザ脱離イオン源、レーザアブレーションイオン源、電子イオン化イオン源、または化学イオン化イオン源である請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記質量分析計は、四重極マスフィルタ、三次元イオントラップ、扇形磁場型質量分析計、軸方向パルスを伴う飛行時間型質量分析計、直交方向パルスを伴う飛行時間型質量分析計、または軸共鳴放出を伴う二次元イオントラップである請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記多重極イオンガイドは、4つの極、6つの極、8つの極、または8より多くの極を備える請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記極は丸棒または平板である請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記多重極イオンガイドは、積み重ねられた環イオンガイドを含む複数の環を備える請求項1に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図2A】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図5A】
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【図6】
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【図7】
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【図7A】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【公表番号】特表2010−531031(P2010−531031A)
【公表日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510468(P2010−510468)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/064984
【国際公開番号】WO2009/038825
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(310017091)アナリティカ オブ ブランフォード インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】ANALYTICA OF BRANFORD,INC
【Fターム(参考)】