質量分析によるタンパク質の新規な定量方法
【課題】質量分析によるタンパク質の新規な定量方法の提供。
【解決手段】本発明は、サンプル中の標的タンパク質を定量的に検出するための方法であって、二次フラグメントイオンを検出し、一連の定量的測定値を得、少なくとも1つの上記定量的測定値を、生成したプロテオタイピックペプチドの量及び上記サンプル中に存在する上記標的タンパク質の量と相関付けを行い、ここで、選択された質量(m/z)2の一次フラグメントイオンは、プロリン及び/又はヒスチジンを1番目に有する二価ペプチドであることを特徴とする、方法に関する。
【解決手段】本発明は、サンプル中の標的タンパク質を定量的に検出するための方法であって、二次フラグメントイオンを検出し、一連の定量的測定値を得、少なくとも1つの上記定量的測定値を、生成したプロテオタイピックペプチドの量及び上記サンプル中に存在する上記標的タンパク質の量と相関付けを行い、ここで、選択された質量(m/z)2の一次フラグメントイオンは、プロリン及び/又はヒスチジンを1番目に有する二価ペプチドであることを特徴とする、方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の定量分析の技術分野に関する。とりわけ、本発明は質量分析によるタンパク質の新規な定量分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
患者から採取した血液サンプル(血清、血漿)等の複雑流体中のタンパク質の分析が、診断において極めて重要であるため、タンパク質を定量分析するための技術が多く開発されている。現在、ELISA(酵素免疫吸着法)が最も広く用いられており、種々の既知のELISA法の中でも、サンドイッチ反応が最も広く用いられている。これは、標的タンパク質に対する2種の抗体を必要とし、そのうち1種を酵素と結合させる。さらに近年、SRM(選択反応モニタリング)や、いくつかのSRM分析を同時に行う場合にはMRM(多重反応モニタリング)といった質量分析技術によって、複雑流体中でタンパク質をそのプロテオタイピック(proteotypic)ペプチドから定量分析することが、出願人他によって実現された(非特許文献1、2、3)。上記質量分析による分析の前工程において、分析対象のタンパク質をペプチドに断片化するために、酵素によって消化する。そして、プロテオタイピックペプチドと呼ばれる、そのタンパク質に固有のペプチドを質量分析によって分析する。
【0003】
ELISA法と比較した場合のSRM又はMRMによる分析の利点は、分析を実現するための経費及び時間をかなり削減できることであり、特にELISA法に必要な抗体を開発する必要がある場合に顕著である。従って、このような質量分析技術は、タンパク質の分析に好適な方法であると思われる。また、上記技術によって、例えば、プロテオーム解析における研究によってマーカー候補と同定された多数のタンパク質の分析という臨床的関心事をより容易に且つより速く実行することができるであろう(非特許文献4)。
【0004】
MRM分析の場合、MRMモードに特に適した三連四重極型質量分析計では、以下に詳述する原理に基づいて、プロテオタイピックペプチドを定量する。最初に、分析対象のペプチドを含むサンプルをイオン源に導入する。該イオン源では、上記ペプチドが気体状態でイオン化され、本来のペプチドに1つ、2つ又は3つものプロトンが付加し、1価、2価又は3価にもなった「分子」イオンに変換される。例えば、電気スプレー型のイオン源では、上記ペプチドは液体状態から気体状態に変化するのと同時にイオン化される(非特許文献5)。逆相液体クロマトグラフィーによってペプチドが事前に分離されている場合には、この型のイオン源が特に好適である。しかしながら、ペプチドのイオン化率は、種々の含有物の濃度及び性質によって変化し得る。この現象は、当業者には周知のマトリックス効果を反映している。また、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)源では、上記ペプチドを固体状態からイオン化することもできる。
【0005】
次いで、四重極型分析器(Q1)では、プロテオタイピックペプチドをその質量電荷比(m/z)に基づいてフィルタリングすることができる。目的とするプロテオタイピックペプチドの質量電荷比(該比を(m/z)1とする)を有するペプチドのみが第2の四重極(q2)に送られ、次に行われる断片化のためのプリカーサーイオンとしての役割を果たす。
【0006】
上記q2分析器は、質量電荷比(m/z)1を有するペプチドを一次フラグメントイオンへと断片化することができる。通常、この断片化は、プリカーサーペプチドと、窒素やアルゴン等の不活性ガスとの衝突によって行われる。
【0007】
上記一次フラグメントイオンは、特定の質量電荷比(該比を(m/z)2とする)に基づいて一次フラグメントイオンをフィルタリングする第3の四重極(Q3)に送られる。目的とするプロテオタイピックペプチドのフラグメントの特徴である上記質量電荷比(m/z)2を有する一次フラグメントイオンのみが、定量のために検出器に送られる。
【0008】
この操作モードは、一方ではプリカーサーイオンの選択に、他方では一次フラグメントイオンの選択に関しており、2重の選択性を有している。従って、MRMモードの質量分析は定量に有利である。
【0009】
上記一次フラグメントイオンによって誘導され、検出器によって測定される電流の強度は、一次フラグメントイオンの量に比例する。一次フラグメントイオンの量自体は、プリカーサーイオンの量に比例し、プリカーサーイオンの量自体は、分析対象のタンパク質の量に比例する。従って、上記一次フラグメントイオンにより誘導され、測定される電流の量は、分析対象のタンパク質の量に正比例する。しかしながら、上記一次フラグメントイオンにより誘導された電流の量に相当する測定ピークの面積を、対応する一次フラグメントイオンの量、最終的には分析対象のタンパク質の量に相関付けできるようにするためには、較正が必要となる。遷移(トランジション)と呼ばれる(m/z)1及び(m/z)2のペアは、MRMモード又はMS/MS(すなわち、MS2)モードで操作することができる種々の質量分析計のモデルで分析することができる。例として、三連四重極型のモデル(非特許文献2)、又はイオントラップ型のモデル(非特許文献6)、さらには飛行時間型のモデル(MALDI−TOF)(非特許文献7)が挙げられる。
【0010】
タンパク質の分析に利用する遷移は、分析対象のタンパク質に特有のものでなければならず、再現性と信頼性の点で可能な限り感度がよく、可能な限り特異的で、可能な限り頑健性の高い分析となるものでなければならない。このため、それらは十分注意して選択されなければならない。
【0011】
プロテオタイピックペプチド(m/z)1及び(m/z)2の選択のために開発された上記方法では、該選択は本質的に応答の強度に基づく。詳細は非特許文献8を参照されたい。また、ペプチド分離の精度、分析の前工程、アミノ酸組成、存在し得る他のタンパク質に同一プリカーサーペプチドが含まれないこと、及び、プリカーサーペプチドの電荷状態も上記選択で考慮される因子である。通常、プリカーサーイオンの断片化によって生成した質量は、MRMモード又はMS/MS(MS2)のモードで測定される。そして、最も強いシグナルとなる一次フラグメントイオンが選択される。次に、得られるシグナルを最大限にするために、プリカーサーイオン断片化条件及び分析条件が最適化される。Q1においては、二価イオンを選択するのが好適であり、Q3においては、一価一次フラグメントイオン、好ましくは上記二価プリカーサーイオンよりm/z比が高い一価一次フラグメントイオンを選択するのが好適であることが知られている。
【0012】
当業者であれば、Applied Biosystems社のMIDAS及びMRMパイロットソフトウェアや、MRMaid(非特許文献9)等の市販のソフトウェアを利用して、考え得るすべて遷移ペアを予想できるであろう。また、当業者であれば、F.Desiereら(非特許文献10)によって構築されたPeptideAtlasと呼ばれるデータベースを利用して、科学界によって報告されたペプチドMRM遷移をすべて集めることができるであろう。このPeptideAtlasデータベースは、インターネット上で無料で入手可能である。
【0013】
上記(m/z)1及び(m/z)2プロテオタイピックペプチドを選択するための他の方法は、他の研究の際に得られたMS/MS断片化スペクトルを用いることである。この研究としては、例えば、プロテオーム解析によってバイオマーカーを発見及び同定する段階であってもよい。この方法は、ユーザーの集会においてThermo Scientific社によって提案された(非特許文献9)。これにより、SIEVEソフトウェア(Thermo Scientific社)を用いて、実験的に同定されたペプチドからの遷移候補のリストを作成することができる。上記(m/z)1及び(m/z)2イオンの選択のためのある基準がJ.Meadら(非特許文献9)によって詳述されており、以下に詳細に説明する。
・内部切断部位、すなわち、内部リシン又はアルギニンを有するペプチドは、そのリシン又はアルギニンの次にプロリンが続くものでなければ、避けるべきである。
・アスパラギン又はグルタミンを有するペプチドは、脱アミノされることがあるので、避けるべきである。
・N末端にグルタミン又はグルタミン酸を有するペプチドは、自然に環化することがあるので、避けるべきである。
・メチオニンを有するペプチドは、酸化されることがあるので、避けるべきである。
・システインを有するペプチドは、起こり得る変性、還元、及び、チオール官能基のブロッキングといった工程中に再現不可能に修飾されることがあるので、避けるべきである。
・プロリンを有するペプチドは、通常、MS/MSにおいて非常に顕著な単一ピークを示す強度の強いフラグメントを生成するので、好ましいと考えられるが、単一の非常に顕著なフラグメントでは、複雑な混合物中で遷移の同定を実行することができない。実際、特有のフラグメントがいくつか同時に存在する場合においてのみ、目的とするプリカーサーイオンが実際に検出されることを確認することができる。
・C末端の隣(n−1番目)、又は、C末端から2番目(n−2番目)にプロリンを有するペプチドは、通常、一次ペプチドフラグメントのサイズが十分な特異性を有するには小さすぎると考えられるので、避けるべきである。
・プリカーサーより質量が大きいフラグメントを選択することが、特異性を向上させるために好ましい。このためには、二価プリカーサーイオンを選択する必要があり、プリカーサーより質量が大きく、最も強度の強い一次フラグメントイオン、すなわち、一価一次フラグメントイオンを選択する必要がある。
【0014】
さらに、最も一般的には、複雑流体(血液、血清、血漿、尿、糞便、唾液等)中に数ng/mlの濃度で含まれるタンパク質の分析に適合する感度及び特異性を確保するために、質量分析による定量分析に先立って、消化工程に加えて、該消化工程の前後に他の工程をはさむべきである。例えば:
【0015】
第一段階:分析対象のタンパク質ではない顕著なタンパク質を除去するためのタンパク質分画、又は、任意の好適な方法(電気泳動、クロマトグラフィー、免疫捕捉(非特許文献11))によるサンプルの精製。しかしながら、後者の方法は、分析対象のタンパク質に対する特異的な抗体の存在又は調製が必要であり、この抗体を得るためには時間及び費用がかかり得る。更に、後に続ける質量分析による分析の性能レベルが、抗体の質及び特異性にある程度影響を受けることになる。
【0016】
第二段階:変性、還元、及び、チオール官能基のブロッキング。
【0017】
第三段階:消化。
【0018】
第四段階:ペプチド分画。
【0019】
第二段階によって、消化率を向上させることができ、再現性と信頼性の点から、分析のさらに高い頑健性を確保することができる。高い感度を必要としない場合には、第一段階及び第四段階は任意である(非特許文献2)。一方、高い感度が必要な場合(数ng/ml)には、それらは不可欠である。このことは、非特許文献1、12、11、13、及び特許文献1に示されている。実際は、Q1及びQ3の三連四重極の精度を考えると、多くのペプチド(同重体又は擬似的同重体(quasi−isobaric)ペプチド)が、同一の遷移、又は装置の質量の許容誤差に含まれる遷移を生成し得る(非特許文献14)。この場合、プロテオタイピックペプチドと、同重体又は擬似的同重体混入物とが同時に投入されると、特異性の欠如のために誤った定量が行われる。質量分析の前工程のクロマトグラフィーによるペプチドの分離では、混入したペプチドの数を減少させることにより、特異性のレベルを補強する(非特許文献15)。しかしながら、この補強的な分画工程は十分でない場合もあり(非特許文献12)、従って、タンパク質の定量に用いるいかなる遷移も注意深く確認する必要がある。さらに、消化工程に加えて第一、第二、及び第四段階を含む完全な分析方法は、第一又は第四段階で抗体を使用しなければならない場合は特に、時間及び費用がかかる。
【0020】
さらに最近では、MRM3として知られる技術が、タンパク質を検出するために用いられている。この技術は、一次フラグメントイオンを選択すること、及び、二次フラグメントイオンを生成するために、それをさらに断片化することからなる。そして、この二次フラグメントイオンが検出される。J.Niessenら(非特許文献16)は、特に以下の三つ組を利用している:プリカーサー/一次フラグメントイオン/二次フラグメントイオン(MRM3遷移と称する)配列番号1:VLLQTLR(二価)/配列番号2:LLQTLR(二価)/配列番号3:LQTLR(一価)。しかしながら、著者らは、特にこのMRM3遷移を選択する理由について考察しておらず、標的タンパク質を分析することなく、その標的タンパク質の存在を単に示すのみに甘んじている。さらに最近では、A.Izrael−Tomasevicら(非特許文献17)が、IFN−αの検出のためにMS3を用いている。MS3は、分析したプロテオタイピックペプチドの性質を示すためにMS3の全スペクトルを用いるという点でMRM3と異なる。このために、著者らは、IFN−α4の検出のために、配列番号4:HDFGFPQEEFGNQFQK(三価)の分子イオンを、2回目の断片化を受ける一次フラグメントイオンとして配列番号5:DFGFPQEEFGNQFQK(二価)のイオンy152+を選択しており、また、すべてのIFN−α4のサブタイプに対しては、配列番号6:YSPCAWEVVR(二価)の分子イオンを、2回目の断片化を受ける一次フラグメントイオンとして配列番号7:PCAWEVVR(二価)のイオンy82+を選択している。MRM3モード及びMS3モードのいずれでも定量分析を行っておらず、著者らは、IFN−αのイオントラップ定量は満足のいくものではないことを強調している。著者らは、MS3において二次フラグメントイオンのシグナル/ノイズ比が改善されるとはしても、カウント数がFT−ICRよりも1000倍以上少ないと記載しており、SRM(MS2)法及びAMT(精密質量−保持時間(Accurate Mass and Time))(断片化を伴わないMS)法が好ましいと結論づけている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0072251号明細書
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】T.Fortinら,MCP,2008,E−pub
【非特許文献2】L.Anderson&C.Hunter,MCP,2006,573−588
【非特許文献3】H.Zhangら,MCP,2007,64−71
【非特許文献4】S.Carr及びL.Anderson,Clin.Cem.2008,1749−1752
【非特許文献5】Gaskell,Electrospray:principles and practise,J.Mass Spectrom.(1997),32,677−688
【非特許文献6】B.Han及びR.Higgs,Brief Funct Genomic Proteomic.2008年9月;7(5):340−54
【非特許文献7】K.−Y.Wangら,Anal Chem,2008,80(16)6159−6167
【非特許文献8】V.Fusaroら,Nature Biotech.27;2009;190−198
【非特許文献9】J.Meadら,MCP,2008年11月15日,E−pub
【非特許文献10】F.Desiereら,Nucleic Acids Res.2006年1月1日;34(database issue):D655−8
【非特許文献11】Kulasingamら,J.Proteome Res.,2008,640−647
【非特許文献12】H.Keshishianら,MCP,2007,2212−2229
【非特許文献13】L.Andersonら,J.Proteome Res.,2004,235−2344
【非特許文献14】J.Shermanら,Proteomics,2008,9:1120−1123
【非特許文献15】M.Duncanら,Proteomics,2009,9:1124−1127
【非特許文献16】J.Niessenら,MCP,February 23,2009,E−Pub
【非特許文献17】A.Izrael−Tomasevicら,Journal of Proteome Research,Targeting Interferon Alpha Subtypes in Serum:A comparison of analytical approaches to the detection and quantitation of proteins in complex biological mixtures,インターネット公開日:2009年4月7日
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0023】
このような現状を鑑みて、本発明は、信頼性があり、実施が容易で、低コストの質量分析法を用いる新規なタンパク質分析方法を提供する。本発明は、MRM3を用いるタンパク質分析方法であって、一次フラグメントイオンを特異的に選択することにも基づき、上記のような良好な定量分析が可能となるタンパク質分析方法を提供する。
【0024】
本発明は、サンプル中の標的タンパク質を定量的に検出するための方法であって、
a)ペプチドを生成するために上記サンプルを処理する工程と、
b)上記標的タンパク質から生成した少なくとも1つのプロテオタイピックペプチドを質量分析法によって定量分析する工程とを含み、
上記質量分析法では、
i)上記プロテオタイピックペプチドをイオン化してプリカーサーイオンを生成し、上記プリカーサーイオンをその質量m/zに基づいてフィルタリングし、目的とする上記標的タンパク質に応じて所定の質量(m/z)1のプリカーサーイオンを選択し、
ii)その選択されたプリカーサーイオンを一次フラグメントイオンへと断片化し、
iii)その生成した一次フラグメントイオンをその質量m/zに基づいてフィルタリングし、目的とする上記標的タンパク質に応じて所定の質量(m/z)2の一次フラグメントイオンを選択し、
iv)その選択された一次フラグメントイオンを二次フラグメントイオンへと断片化し、
v)上記二次フラグメントイオンの少なくとも一部を検出し、一連の定量的測定値を得、
vi)二次フラグメントイオンに関する少なくとも1つの定量的測定値を選択し、上記生成したプロテオタイピックペプチドの量及び上記サンプル中に存在する上記標的タンパク質の量と相関付けを行い、ここで、
選択された上記質量(m/z)2の一次フラグメントイオンは、プロリン及び/又はヒスチジンを1番目に有する二価ペプチドであることを特徴とする、方法に関する。
【0025】
以下の説明により、本発明のさらに明確な理解が可能となる。はじめに、使用する用語のいくつかの定義を以下に示す。
【0026】
「ペプチド」という用語は、少なくとも2つのアミノ酸が連結したものを意味するものである。当該アミノ酸は、天然アミノ酸でもよく、酵素の作用によって修飾されたアミノ酸等の修飾された天然アミノ酸でもよい。
【0027】
通常、「ペプチド」という用語は、2から100個のアミノ酸が連結したものを指す。また、6個より多いアミノ酸が連結したものは「タンパク質」と呼ばれることもあり、これら二つの概念を明瞭な境界線によって区別することはできない。本発明において、「タンパク質」という用語は、サンプル中に元々存在する連結したアミノ酸を意味し、「ペプチド」という用語は、例えば消化、化学的切断、又は質量分析計で断片化されることなどによって、初期タンパク質又はそのペプチドの少なくとも1つのペプチド結合が切断された結果生じる連結したアミノ酸を意味する。「タンパク質」という用語は、核タンパク質、リポタンパク質、リンタンパク質、金属タンパク質及び糖タンパク質、酵素、受容体、抗体及び抗原等のホロタンパク質やヘテロタンパク質を包含している。
【0028】
本発明の方法によって分析することができるタンパク質は、特に、少なくとも1個のプロリンを2番目からn−2番目に、及び/又は、少なくとも1個のヒスチジンを1番目からn−2番目に有する、n個のアミノ酸からなるペプチドを少なくとも1つ含むタンパク質であり、上記ペプチドは最初のタンパク質を切断すると得られる。当該ペプチドは1から15個のアミノ酸を含むことが好ましく、少なくとも6個のアミノ酸を含むことが好ましい。
【0029】
「プロテオタイピックペプチド」という用語は、タンパク質をペプチドに断片化するためのタンパク質の処理によって生成するペプチドを意味し、当該タンパク質又は当該タンパク質が属する極めて類似のタンパク質群に特有のものである。
【0030】
「サンプル」という用語は、検出対象のタンパク質を含有できる任意のサンプルを意味するものである。サンプルは生物(すなわち、動物、植物、ヒト)由来であってもよい。その場合、体液(例えば、全血、血清、血漿、尿、脳脊髄液、有機分泌物)試料、組織試料、又は単離した細胞試料であってもよい。この試料は、そのまま用いてもよく、明細書中、特に記載のない限り、分析の前に、当業者に公知の方法に従って濃縮、抽出、凝縮、精製系の処理を行ってもよい。サンプルは、工業的に得られたもの、すなわち、全てを列挙したものではないものの、空気試料、水試料、表面から採取された試料、成分又は製品、又は食物由来の製品であってもよい。上記食物由来のサンプルの中でも、例えば乳製品(ヨーグルト、チーズ)、肉、魚、卵、果実、野菜、水、又は飲料(牛乳、フルーツジュース、ソーダ等)のサンプルが挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの食物由来サンプルは、出来上がった料理又はソース由来であってもよい。また、食物サンプルは動物飼料、特に、動物用食品等に由来してもよい。
【0031】
上記m/z比は、本発明において用いられるイオン化されたペプチドの質量電荷比である。「質量電荷比」、「比」さらには「質量」という用語が、このm/z比に対して区別することなく使用される。この比の単位はThであるが、その名の「質量」から拡張してDaであってもよい。
【0032】
本発明に係る方法の第一工程a)は、標的サンプルに含まれるタンパク質の処理である。ペプチドへと断片化するために、サンプルのタンパク質すべてを、例えばタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)による、又は化学試薬の作用による消化などによって処理する。実際、タンパク質の切断は、物理化学的処理によって、生物学的処理によって、又はこれら2つの処理の組み合わせによって実行することができる。使用可能な処理の中でも、ヒドロキシルラジカル、特にH2O2による処理が挙げられる。ヒドロキシルラジカルによる処理はペプチド結合の切断を引き起こす。ペプチド結合の切断はタンパク質の任意のペプチド結合に無作為に起こる。ヒドロキシルラジカルの濃度によって、切断の数、すなわち、得られるペプチドフラグメントの長さが決まる。また、例えば、メチオニル残基のカルボキシル基単位でペプチド結合を特異的に切断する臭化シアン(CNBr)による処理等の他の化学的処理も使用可能である。また、タンパク質のトリフルオロ酢酸溶液を1000℃で加熱することにより、アスパラギン酸残基単位での部分的な酸性切断を行うことも可能である。
【0033】
しかしながら、酵素消化によるタンパク質の処理が好ましい。これは、物理化学的処理と比較して、タンパク質の構造がより多く保存され、制御がより容易である。「酵素消化」という用語は、適切な反応条件下での1種又は複数の酵素の単独又は複合的作用を意味するものである。プロテアーゼと称される、タンパク質を分解する酵素は、特定部位でタンパク質を切断する。通常、プロテアーゼはそれぞれ、アミノ酸配列を認識し、その配列内で常に同様の切断を行う。あるプロテアーゼは、単一のアミノ酸、又は、その間を切断する2つのアミノ酸からなる配列を認識し;他のプロテアーゼはさらに長い配列のみを認識する。これらのプロテアーゼは、エンドプロテアーゼであってもよく、エキソプロテアーゼであってもよい。公知のプロテアーゼの中でも、国際公開第2005/098071号に記載されている以下のものが挙げられる:
【0034】
・Arg及びLys残基のカルボキシル基でペプチド結合を切断するトリプシンや、リシンの−CO基のペプチド結合を切断するエンドリシンや、芳香属残基(Phe、Tyr及びTrp)のカルボキシル基でペプチド結合を加水分解するキモトリプシンや、芳香属残基(Phe、Tyr及びTrp)のNH2基で切断するペプシンや、Glu残基のカルボキシル基でペプチド結合を切断する、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)V8株のV8プロテアーゼなどの特異的酵素;
【0035】
・疎水性アミノ酸(Xaa−Leu、Xaa−Ile、Xaa−Phe)のNH2基でペプチド結合を加水分解する、細菌Bacillus thermoproteolyticus由来のサーモリシンや、全ての結合を実質的に加水分解し、制御された反応条件(酵素濃度及び反応時間)下でタンパク質をオリゴペプチドに変換できる細菌プロテアーゼであるサブチリシン及びプロナーゼなどの非特異的酵素。
【0036】
複数のプロテアーゼについて、それらの作用様式が適合する場合、それらを同時に使用することができ、あるいは、それらを連続的に使用することもできる。本発明において、サンプルの消化は、例えばトリプシンといったプロテアーゼの酵素作用によって行われるのが好ましい。
【0037】
このような処理工程によって、サンプル中に存在する、タンパク質に代表される大きな分子をより小さな分子であるペプチドに変換することができる。従って、その後、質量分析で得られる検出の感度が向上する。さらに、上記処理工程によって、所定の標的タンパク質の、リポーターペプチドとも呼ばれるいくつかのプロテオタイピックペプチドを生成することができる。例えば、他のタンパク質が同一のペプチド配列を含まないかどうか、又は他の遷移が阻害しないかどうか、などを確認することにより、各プロテオタイピックペプチドの特異性を実証しなければならない。こうして、上記処理によって、分析対象のタンパク質に特異的なプロテオタイピックペプチドが1つ以上得られる可能性を高めることができる。プロテオタイピックペプチドはそれぞれ、独立した分析によってタンパク質を定量することを可能にする。血液サンプルのような複雑流体中のMRM分析の特異性は確固としたものではない。従って、このような場合、各タンパク質について、いくつかのプロテオタイピックペプチドを分析することによって、それぞれの独立した分析の結果が実際に同じ量となることを確認できるであろう。従って、互いに正しく相関付けられた独立した分析を行うことによって、信頼性と再現性の点から、独立した各分析の特異性及び頑健性を確認することができるであろう。
【0038】
このように、この後の方法において、上記質量分析による分析のために選択される所定の比(m/z)1を有する各プリカーサーイオンとは、分析対象の標的タンパク質のプロテオタイピックペプチドに由来することとなる。
【0039】
サンプルの複雑さ次第では、上記処理工程の前に1つ以上の任意の工程を行ってもよい。サンプルの複雑さを低減するために、標的サンプル中に存在するタンパク質の分画という第一工程を行った後に、残ったタンパク質の処理を行ってもよい。「分画」という用語は、従来通り、存在する多くのタンパク質の精製を意味するものであり、これは、サンプル中の1つ以上のタンパク質を除去すること、又は、分析対象のタンパク質を含む1つ以上のタンパク質を選択することで行い得る。このような工程は、サンプル中に存在するアルブミン、IgG、IgA等の、分析対象の標的タンパク質ではない顕著なタンパク質を除去(depletion)することで行い得る。このような除去は、例えばアフィニティークロマトグラフィーによって行うことができる。この除去により、存在するタンパク質の数を減少させることで、サンプルの複雑さを低減することができる。アルブミン除去は出願人(上記T.Fortinら)によって提案されている。タンパク質のより大きなパネルの除去も、他のチーム(上記H.Keshishianら、及び、上記V.Kulasingamら)によって採用されている。本発明において、これらの方法を用いてもよい。しかしながら、アフィニティークロマトグラフィーには、免疫親和性樹脂を含む場合には、使用するクロマトグラフ媒体が高価であるという欠点がある。更に、上記T.Fortinらによって示されているように、捕獲の特異性が不十分であると、分析対象のタンパク質自体が親和性樹脂により部分的に保持されてしまい、後続の分析に送られないことがある。
【0040】
タンパク質を分画するための別の方法は、標的タンパク質を、例えばアフィニティークロマトグラフィー等によって免疫精製することからなる。この方法によれば、分析対象のタンパク質のみを含む分画(少数の混入したタンパク質も含み得る)を得ることにより、サンプルの複雑さを劇的に低減することができる。このような方法は、上記Kulasingamらによって記載されている。しかしながら、本発明に係る方法では、分析対象のタンパク質に対する抗体を必要とするこのような方法を用いないのが有利である。これは、本発明に係る方法は、分析対象のタンパク質に対して特異性を有するため、残存タンパク質数を非常に少なくするタンパク質の分画を必要としないからである。
【0041】
タンパク質を分画するためのさらに別の方法は、特に上記S.A.Gerberらによって記載されているように、SDS−PAGE電気泳動によって分析対象のサンプルを精製した後、分析対象のタンパク質の分子量に相当するバンドを切り取ることからなる。通常、電気泳動やクロマトグラフィー等に基づく、当業者に周知のすべてのタンパク質分画法が、サンプルの複雑さを低減するために使用可能である。
【0042】
タンパク質の分画を行うのであれば、特に、タンパク質の切断に至る処理工程の前であって、タンパク質の分画工程の後に、変性、還元、及びその後のタンパク質のチオール官能基のブロッキングという別の任意の工程を行ってもよい。任意ではあるが、この工程によって、消化処理率を向上させることができ、後続の分析でのさらに高い頑健性を確保することができる。あるタンパク質は、その三次元構造のおかげで、プロテアーゼのタンパク質分解作用に対して元々耐性がある(V.Brunら,MCP,2007,2139−2149)。このような場合、変性、還元、及びその後のタンパク質のチオール官能基のブロッキングという工程によって、プロテアーゼの作用が促進され、サンプル間で同様の消化処理率が確保される。標的サンプル中に存在するすべてのタンパク質は、例えば、尿素又はグアニジン、及び、ジチオトレイトール(DTT)又はトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)によって変性及び還元することができる(M.Sunら,Bioconjug.Chem.2005,16(5):1282−1290)。その後、生成した遊離のチオール官能基を、例えば、ヨードアセトアミド又はアクリルアミド等によってブロッキングする(B.Herbertら,Electrophoresis,2001,22:2046−2057)。
【0043】
本発明の方法によれば、上記処理工程中に生成した少なくとも1つのプロテオタイピックペプチドを質量分析によって分析する。通常、1つのタンパク質につき1つのプロテオタイピックペプチドを分析するが、1つのタンパク質につきいくつかのペプチドを分析することも可能である。また、種々のタンパク質のプロテオタイピックペプチドを連続的に分析することも可能である。上記処理工程中に生成したすべてのペプチドを、質量分析計に投入することができる。しかしながら、最も一般的には、特に標的タンパク質のプロテオタイピックペプチドに分析を集中させるために、生成したペプチドを分画する。このようなペプチドの分画は、例えば電気泳動法やクロマトグラフィー法によって実行することができる。これらの分離方法は、単独で用いることもでき、また、多次元分離ができるように互いに組み合わせて用いることもできる。例えば、上記T.Fortinら、及び上記H.Keshishianらにより記載されているように、イオン交換クロマトグラフィーによる分離を逆相クロマトグラフィーと組み合わせることによって、多次元クロマトグラフィーを行うことができる。これらの刊行物では、クロマトグラフ媒体はカラム中、又はカートリッジ中(固相抽出)に存在し得る。
【0044】
プロテオタイピックペプチドの電気泳動又はクロマトグラフィーの分画(又は、一次元、若しくは多次元クロマトグラフィーの保持時間)は各ペプチドに特有であるので、これらの方法を用いることによって、分析対象のプロテオタイピックペプチドを選択することができる。生成したペプチドのこのような分画によって、後続の質量分析による分析の特異性を高めることができる。
【0045】
電気泳動法又はクロマトグラフィー法とは別のペプチド分画のための方法は、N−糖ペプチドを特異的に精製することからなる(J.Stal−Zengら,MCP,2007,1809−1817、及び特許出願:国際公開第2008/066629号)。しかしながら、このような精製は、N−グリコシル化型の翻訳後修飾を受けたペプチドの定量のみを可能にするだけであって、あいにく、すべてのタンパク質がグリコシル化されるとは限らないので、その使用は制限される。
【0046】
ペプチドを分画するためのさらに別の方法は、標的ペプチドを、例えばアフィニティークロマトグラフィー等によって免疫精製することからなる。この方法によれば、分析対象のペプチドのみを含む分画(少数の混入したペプチドも含み得る)を得ることにより、サンプルの複雑さを劇的に低減することができる。SISCAPAと呼ばれるこのような方法は、上記L.Andersonら、及び米国特許出願公開第2004/0072251号明細書に記載されている。しかしながら、特異的な抗ペプチド抗体を得ることは困難な場合もあり、この場合、本発明に係る方法では、このような方法を用いない。更に、本発明に係る方法は、分析対象のタンパク質に対して特異性を有するため、分析対象である1つのプロテオタイピックペプチドが得られるペプチドの免疫親和性分画を必要としない。
【0047】
結論として、本発明に係る方法において、生成されたペプチドの質量分析による定量分析(工程b)に相当)よりも先に、工程a)で生成したペプチドのクロマトグラフィー又は電気泳動による分離を行うことが好ましい。このようなクロマトグラフィーによる分離は、逆相クロマトグラフィー、マイクロ流路クロマトグラフィー、すなわち、流量が毎分100μlから500μlのクロマトグラフィーによる分離、又は、固相抽出(SPE)による精製を用いるのが好ましい。
【0048】
本発明に係る方法の工程b)は、これより前の工程中に生成した少なくとも1つのプロテオタイピックペプチドを質量分析法によって検出することからなる。通常、1つのタンパク質当たり1つプロテオタイピックペプチドを分析するが、2つ以上を分析することも可能であり、その送られる順番は、選択したペプチド分画法によって質量分析計の前工程で調整される。
【0049】
本発明では、様々なモデルの質量分析計を使用することができる。これらのモデルでは、m/z比に基づいた3つの分離工程とこれらの分離工程間に行われる2つの連続した断片化、すなわちMS/MS/MS又はMS3と呼ばれるタイプの分析が可能でなけらばならない。例として、三連四重極型(L.Anderson及びC.Hunter,MCP,2006,573−588…)、又はイオントラップ型(B.Han及びR.Higgs,Brief Funct Genomic Proteomic.2008,Sep;7(5):340−54)、あるいは飛行時間型(MALDI−TOF)(K.−Y.Wangら,Anal Chem,2008,80(16),6159−6167)のモデルが挙げられる。しかしながら、イオントラップが組み込まれたハイブリッド三連四重極型モデルが好ましい。分析対象のペプチドは、最も一般的には溶液として、選択された質量分析計に投入され、分析される。
【0050】
第一工程i)では、タンパク質の切断に至るタンパク質の処理によって得られるペプチドが、質量分析計に投入され、分子イオンを生成するためにイオン化される。上記分子イオンは、フラグメントイオンを生成するためにその後、断片化されるため、プリカーサーと呼ばれる。質量分析計に投入するために、通常、ペプチドを水溶液に溶解する。従って、分析対象のサンプルは液体であることが好ましい。分子がイオン化されるイオン源としては、例えば、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)型、又は電気スプレー(ESI(電気スプレーイオン化))型がある。しかしながら、穏やかな条件の下、特に、常圧及び常温で電気スプレーイオン化を行うことが好ましい。
【0051】
その後、生成したプリカーサーイオンは、その質量m/zに基づいてフィルタリングされ、目的とする標的タンパク質に基づいて、所定の質量(m/z)1のプリカーサーイオンが選択される。このために、従来通り、上記イオンを電界で加速し、その質量電荷(m/z)比に依存する軌道に従って電界及び/又は磁界に誘導する。印加する電界及び/又は磁界を変えることによって、プリカーサーイオンの軌道を変えることができるので、目的とする(m/z)1比を選択することができる。本発明の好ましい特徴によれば、選択されたプリカーサーイオンは、アミノ酸数nが6から15であり、且つ、少なくとも1個のプロリンを2番目からn−2番目に、及び/又は、少なくとも1個のヒスチジンを1番目からn−2番目に有する二価ペプチドである。このような選択によって、後続の工程での良好な特異性及び選択性を達成できるとともに、シグナル/ノイズ比が改善されることとなる。好ましい一実施形態によれば、選択されたプリカーサーイオンは二価であり、少なくとも、2個のプロリン、又は、1個のプロリンと1個のヒスチジンとを有する。これは、2個のプロリン、又は、1個のプロリンと1個のヒスチジンとを有するプリカーサーイオンを用いることにより、MS3で生成される二次フラグメントがさらに少なくなり、最も有効な定量分析を行うためによりふさわしいからである。
【0052】
「プロリン(又はヒスチジン)を2番目からn−2番目に有するペプチド」という表現は、プロリン(又はヒスチジン)が2、3、4、5…n−5、n−4、n−3又はn−2番目に位置することを意味するものである。1番目はN末端部に相当し、n番目はC末端部に相当し、nはペプチド中に存在するアミノ酸数である。
【0053】
その後、目的とする標的タンパク質に応じて選択されたプリカーサーイオンが、工程ii)で一次フラグメントイオンへ断片化される。次いで、生成された一次フラグメントイオンは、その質量m/zに基づいてフィルタリングされ、所定の質量(m/z)2の一次フラグメントイオンが工程iii)で選択される。本発明の本質的特徴によれば、上記選択された一次フラグメントイオンは、プロリン又はヒスチジンを1番目(N末端)に有する二価ペプチドである。実際、プリカーサーイオンがプロリン又はヒスチジンを含む場合、そのプロリン又はヒスチジンそれぞれに対するN末端部のペプチド結合が断片化したものに相当する一次フラグメントイオンが存在する。本発明に係る方法の工程iv)では、選択された一次フラグメントイオンに対して、さらなる断片化が行われる。また、プリカーサーイオン及び一次フラグメントイオンの上記特定の選択によって、良好な断片化が行われることとなり、強いピークが得られることとなる。本発明において、比(m/z)1を有するプリカーサーイオン、及び比(m/z)2を有する一次フラグメントイオンは、分析対象のタンパク質に特有なものとなるように、且つ、再現性と信頼性の点からできるだけ感度がよく、できるだけ特異的で、できるだけ頑健性の高い分析ができるように選択される。
【0054】
従来通り、2回の連続した断片化は、電界内で、例えば窒素やアルゴン等の不活性ガスとの衝突によって、又は、単に、例えば飛行時間チューブ内などで電位差を印加することによって行われる。電界の特徴によって、断片化の強度及び性質が決まる。このように、例えば四重極では、不活性ガスの存在下に印加された電界によって、イオンに供給される衝突エネルギーが決まる。当業者であれば、分析対象の遷移の感度が高まるように、この衝突エネルギーを最適化できよう。例えば、Applied Biosystems社(アメリカ合衆国、フォスターシティー)の質量分析計AB SCIEX QTRAP(登録商標)5500のq2では、衝突エネルギーを5から180eVの間で変化させることが可能である。同様に、当業者であれば、可能な限り感度のよい分析ができるように、衝突工程の継続時間と、例えばイオントラップ内などの励起エネルギーとを最適化できよう。例えば、Applied Biosystems社の質量分析計AB SCIEX QTRAP(登録商標)5500のQ3では、励起時間と呼ばれる上記継続時間を0.010から50ミリ秒の間で変化させることが可能であり、上記励起エネルギーを0から1(任意単位)の間で変化させることが可能である。
【0055】
工程i)からiii)は、MRM分析に従来から用いられる工程に相当する。特に、このような工程は、三連四重極で行うことができる。三連四重極は、大抵の場合は短い方の四重極からなる衝突セル(q2と呼ばれる)によって隔てられた2つの直列の四重極分析器(Q1及びQ3と呼ばれる)を含む。もちろん、一次フラグメントイオンを二次フラグメントイオンへと断片化することができる質量分析計で、本発明に係る方法を実施することが必要である。本発明において、二次フラグメントイオンへの一次フラグメントイオンの断片化、及び一次フラグメントイオンの選択は、例えば、イオントラップを備えた三連四重極のQ3で行うことができる。四重極Q3にイオントラップ性能を有するハイブリッド三連四重極を使用してもよい。このような装置は、Applied Biosystems社から3200QTRAP(登録商標)、4000QTRAP(登録商標)又はAB SCIEX QTRAP(登録商標)5500の名称で販売されている。また、任意のイオントラップ型分析器において、MS3モードで一次フラグメントイオンを断片化することも可能である。この場合、プリカーサーイオンは上記イオントラップにおいて選択され、一次フラグメントイオンへと断片化される。今度は、同一イオントラップ装置において一次フラグメントイオンが選択され、二次フラグメントイオンへと断片化される。イオントラップから検出器へ二次イオンが連続して放出されることにより、二次イオンが最終的に検出される。
【0056】
本発明では、従来通りに、四重極型分析器(Q1)によって、選択されたプロテオタイピックペプチドに由来するプリカーサー分子イオンをその質量電荷比(m/z)1に基づいてフィルタリングすることができる。目的とするプリカーサーイオンの質量電荷比(m/z)1を有するペプチドのみが、第二の四重極(q2)に送られる。q2分析器によって、質量電荷比(m/z)1を有するプリカーサーイオンを一次フラグメントイオンへ断片化することができる。通常、上記断片化は、プリカーサーペプチドと、窒素やアルゴン等の不活性ガスとの衝突によって行われる。次いで、一次フラグメントイオンは、質量電荷比(m/z)に基づいて一次フラグメントイオンをフィルタリングする第三の四重極(Q3)に送られる。目的とするプロテオタイピックペプチドに特有のフラグメントの質量電荷比(m/z)2を有する一次フラグメントイオンのみに対して、本発明に係る方法の最終工程が行われることとなる。実際には、本発明に係る方法は、さらなる断片化を含み、後続の工程iv)では、選択された質量(m/z)2の一次フラグメントイオンが、二次フラグメントイオンへと断片化される。目的とするプロテオタイピックペプチドのフラグメントの質量電荷比(m/z)2を有する一次フラグメントイオンがQ3で選択された後、今度はこの一次フラグメントイオンが、例えばイオントラップ等によって断片化される。そして、一次フラグメントイオンの断片化によって生じた種々の二次フラグメントイオンが得られる。次いで、これらの種々の二次イオンは、例えばイオントラップや四重極などからなる質量分析計によって検出器へと放出されることとなる。上記放出は、例えば、無線周波数によって時間の関数として調整された電圧を印加することによって、イオントラップから連続的に行なわれる。
【0057】
誘導される電流を検出するために、上記二次フラグメントイオンが検出器に向けられる。当該検出器では、m/z比に応じて異なる時間で到達する二次フラグメントイオンが収集され、該イオンに関するシグナルが増幅される。本発明に係る方法の実施の一変形例によれば、工程v)において、上記二次フラグメントイオンによって誘導される電流の強度を時間の関数として検出し、所定期間に得られたシグナルを、存在する各種イオンの質量m/zに応じた質量スペクトルに分解し、上記所定期間に存在する検出された二次イオンそれぞれに関する質量ピークを得、選択された少なくとも1つの二次イオンの電流に相当するシグナルを再構成し、その相当する測定電流の強度を、工程vi)で選択される上記定量的測定値とする。一般に、全シグナルは時間の分割(fraction)、すなわち期間tによって得られる。期間tの継続期間は、質量分析器の走査速度、及び走査する質量範囲に依存するが、通常1秒未満である。各所定期間tに得られた全シグナルは、存在する各種イオンの質量m/zに応じた質量スペクトルに分解され、上記期間tに検出された二次イオンそれぞれに関する質量ピークが得られる。二次イオンは、連続するいくつかの期間tにおいて観察される。この連続するいくつかの期間tは、プロテオタイピックペプチドが溶出する期間Tに相当する。プロテオタイピックペプチドによって生成された二次フラグメントイオンのシグナルが最大である期間tは、プロテオタイピックペプチドの溶出時間、すなわち保持時間に相当する。プロテオタイピックペプチドの溶出時間は、精製されたプロテオタイピックペプチドの溶液、又は精製された標的タンパク質の溶液、又はどちらか一方が特に豊富な溶液を用いて、例えば従来通りMRMなどによって、決定することができる。従来法では、期間Tの最小継続期間は5から30秒である。しかしながら、期間Tの継続期間は通常、延長されるので、シグナルの測定値は、プロテオタイピックペプチドの溶出時間の微小変化に影響されない。このように、期間Tの継続期間を、クロマトグラフィーによる分離の総時間に達するように延長することができる。しかしながら、従来通り、期間Tは通常、1分から5分の間で固定され、プロテオタイピックペプチドの溶出時間を中心としたものとなっている。少なくとも1つの二次イオンの電流に相当するシグナルであって、定量するタンパク質由来のプロテオタイピックペプチドに特異的なシグナルは、期間T中、分割期間t毎に選択することができる。そして、このシグナルは、全シグナルから抽出することができる。期間Tの各瞬間t、すなわち期間Tの各分割期間に測定された強度の総和に相当する電流の強度が、工程vi)で選択される定量的測定値に相当することとなる。実際、実施例1に詳述するように、イオンによって生成され、時間の関数として検出された電流に相当するシグナルは、所定期間t(実際は非常に短い期間)毎に分解することができ、例えば、期間Tを最も代表する分割期間で合算され、存在する各種イオンの質量m/zに応じた質量スペクトルが得られる。こうして、工程v)で検出され、且つ、期間Tを最も代表する分割期間に存在する二次イオンに関する質量ピークが得られる。そして、所定の質量を有する1つ以上の二次イオンを選択することができ、その選択されたイオンの電流に相当するシグナルを再構成することができる。こうして、各期間tのフラグメントイオンによって誘導された電流であって、期間Tを最も代表する分割期間中に生じた電流の強度の合計が、プロテオタイピックペプチドの溶出に相当する期間Tを最も代表する分割期間の連続する期間t中に観察されたシグナルの総和を積分することよって得られる。この合計は、例えば、存在するプロテオタイピックペプチドの量の決定を可能にする定量的測定値に相当することとなる。シグナルが合算された、期間Tを最も代表する分割期間の最初の期間t及び最後の期間tは、シグナルが検出器のバックグラウンドノイズより大きい最初の期間t及び最後の期間tと一致させてもよい。このように測定された電流の強度を、存在するプロテオタイピックペプチドの量を決定するための定量的測定値としてもよい。当該定量的測定値は、国際単位系(SI単位)であるmol/m3若しくはkg/m3系統、又はこれらの単位の倍数若しくは約数、又はその倍数若しくは約数を含む国際単位の通常の派生物によって表されるという特徴を有する。非限定的な例として、ng/ml又はfmol/l等の単位が、定量的測定値を特徴づける単位である。工程vi)では、最大のm/zピークを有する二次フラグメントイオンに関する定量的測定値が選択されるのが好ましい。また、各種二次フラグメントイオンの定量的測定値を合算することも可能である。この場合、工程vi)では、例えば、最大のm/zピークを有する二次フラグメントイオンに関する少なくとも2つ(特に2つ又は3つ)の定量的測定値の合計値に基づいて、相関付けが実行される。
【0058】
データ処理コンピューターアセンブリにより、検出器によって受信された情報を質量スペクトルに変換することができる。検出器によって測定された、選択された二次フラグメントイオンによって誘導された電流の強度は、二次フラグメントイオンの量に比例する。二次フラグメントイオンの量自体は、一次フラグメントイオンの量に比例し、一次フラグメントイオンの量自体は、選択されたプロテオタイピックペプチドのイオン化によって得られるプリカーサーイオンの量に比例し、プリカーサーイオンの量自体は、分析対象のタンパク質の量に比例する。従って、二次フラグメントイオンによって誘導された電流の測定量は、分析対象のタンパク質の量に正比例する。二次イオンに関する少なくとも1つの定量的測定値を選択し、この定量的測定値を、生成されたプロテオタイピックペプチドの量、及びサンプルの中に存在するタンパク質の量と相関付けを行うことによって、定量分析を行うことが可能になる。
【0059】
二次フラグメントイオンによって誘導された電流の強度に相当する、測定されたピークの面積を、対応する二次フラグメントイオンの量と相関付けるためには、較正が必要である。上記対応する二次フラグメントイオンの量自体は、対応する一次フラグメントイオンの量と相関付けることができ、対応する一次フラグメントイオンの量自体は、プリカーサーイオンの量と相関付けることができ、プリカーサーイオンの量自体は、標的タンパク質の量と相関付けることができる。このために、本発明において、MRM分析に用いられる従来の較正が行われてもよい。従来、MRM分析は外部標準を用いて較正されるか、又は好ましくは、上記T.Fortinらによって記載されているような内部標準を用いて較正される。定量的測定値、及びプロテオタイピックペプチドの量、延いては標的タンパク質の量の相関は、分析対象の量が公知の標準シグナルに対して、測定されたシグナルを較正することにより得られる。較正曲線により上記較正を行うことができ、当該較正曲線は、例えば、様々な濃度の標準プロテオタイピックペプチドを連続投入すること(外部較正)によって、又は好ましくは内部標準として重ペプチドを用い、例えば、以下に詳述するAQUA法、QconCAT法若しくはPSAQ法などに従った内部較正によって得られる。「重ペプチド」という用語は、プロテオタイピックペプチドに相当するペプチドを意味するものであるが、1つ以上の炭素12(12C)原子が炭素13(13C)で置換されており、且つ/又は、1つ以上の窒素14(14N)原子が窒素15(15N)で置換されている。
【0060】
内部標準(AQUA)としての重ペプチドの使用も、上記S.A.Gerberらによって、さらには米国特許出願公開第2004/0229283号明細書に提案されている。その原理は、通常の天然同位元素より重い同位元素を含むアミノ酸でプロテオタイピックペプチドを人工的に合成することである。そのようなアミノ酸は、例えば、炭素12(12C)原子のうちのいくつかを炭素13(13C)に置換すること、又は、窒素14(14N)原子のうちのいくつかを窒素15(15N)に置換することにより得られる。このように合成された人工ペプチド(AQUA)は、(質量が大きい以外は)天然ペプチドと同一の物理化学的性質を厳密に有している。通常、それを所定の濃度で、質量分光法による分析の前工程、例えば、標的サンプルのタンパク質の切断に至る処理と、該処理工程後に得られたペプチドの断片化との間に、サンプルに添加する。その結果、上記AQUAペプチドは、ペプチドの断片化中に、分析対象の天然ペプチドとともに精製される。従って、これら2つのペプチドは、分析のために、質量分析計に同時に投入される。そして、それらは、上記源で同じイオン化率を示す。天然ペプチドと、濃度既知のAQUAペプチドのピークの面積を比較することによって、天然ペプチドの濃度を算出することができ、それにより分析対象のタンパク質の濃度にもさかのぼることができる。AQUA法の変形例が、QconCATという名でJ.−M.Prattら(Nat.Protoc.2006,1:1029−1043)によって提案されている。この変形例は、特許出願:国際公開第2006/128492号にも記載されている。それは、各種AQUAペプチドを連結すること、及び、組換え重タンパク質として人工ポリペプチドを生成することからなる。当該組換えタンパク質は、重同位元素を含むアミノ酸で合成される。このように、いくつかのタンパク質の同時分析を較正するための標準をより低コストで得ることができる。QconCAT標準は、タンパク質の切断に至る処理の前工程で、並びに、タンパク質の分画、変性、還元、及びその後のタンパク質のチオール官能基のブロッキング工程を行う場合はそれらの工程の前に、最初から添加される。従って、QconCAT標準は、天然タンパク質と同様にタンパク質の切断に至る処理サイクルを受ける。これにより、タンパク質の切断に至る処理工程の収率を考慮することができる。実際は、特に消化による天然タンパク質の処理は完全ではない場合がある。この場合、AQUA標準を用いると、天然タンパク質の量が少なく見積もられるであろう。従って、絶対的な分析のためには、タンパク質の切断に至る処理の収率を考慮することが重要な場合もある。しかしながら、V.Brunら(MCP,2007,2139−2149)によって、おそらくQconCATタンパク質の異なる三次元構造のために、QconCAT標準は、特に消化による天然タンパク質の処理での収率を正確に再現しない場合があることが示されている。
【0061】
従って、上記V.Brunらは、特許出願:国際公開第2008/145763号に記載のPSAQと呼ばれる方法の使用を提案している。この場合、内部標準は、天然タンパク質と同一配列を有するが、重アミノ酸で合成された組換えタンパク質である。この合成は、重アミノ酸を用いてex vivoで行われる。この標準は、(質量が大きい以外は)天然タンパク質と同一の物理化学的性質を厳密に有している。それは、タンパク質分画工程を行う場合はその前に最初から添加される。従って、それはタンパク質分画工程中に天然タンパク質とともに精製される。それは、特に消化による処理において、天然タンパク質と同じ収率を示す。ペプチド分画工程が行われる場合、切断後に得られた重ペプチドも天然ペプチドとともに精製される。従って、2つのペプチドは、質量分析計に同時に投入され、定量分析される。そして、それらは、上記源で同一イオン化率を示す。PSAQ法での天然ペプチド及び標準ペプチドのピーク面積を比較することにより、分析方法の全工程を考慮しつつ、分析対象のタンパク質の濃度を算出することができる。
【0062】
本発明において、上記較正を行うために、質量分析による分析、特にMRM又はMS分析で用いられるこれらすべての方法、すなわちAQUA、QconCAT又はPSAQなどの較正方法を用いてもよい。
【0063】
従って、本発明に係る方法は、特にin vitro診断のためのタンパク質の定量・定性分析のために行ってもよい。本発明に係る方法によって分析することができるいくつかのタンパク質と、選択されたプロテオタイピックペプチドとを下記表1Aで詳細に示す。
【0064】
【表1A】
【0065】
調査したタンパク質は、Swiss Protデータベースの下記番号に対応する:プラスチン−1(Q14651)、エズリン(P15311)、アミノアシラーゼ1(Q03154)、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(P07237)、ケラチン,1型Cytoskeletal20(P35900)、14−3−3シグマタンパク質(P31947)、S100−A11タンパク質 カルギザリン(P31949)。
【0066】
プロテオタイピックペプチドの理論的な質量は、そのアミノ酸配列から求められる。MRM Pilot(Applied Biosystems社)、Sequence Editor(Bruker Daltonik社、ドイツ、ブレーメン)等、多くのソフトウェアパッケージによってこの計算を行うことができる。表1Aに示す計算結果は、MRMパイロットによって行われたものである。二価プリカーサーイオン(M2H+)の理論的な質量は、プロテオタイピックペプチドの理論的な質量に2つのプロトンの質量を加え、得られた合計を2で割ることにより求められる。
【0067】
表1Bに、各タンパク質についての選択された二価プリカーサーイオンに関して、存在するプロリン及びヒスチジンの位置、並びに存在するアミノ酸数を示す(AAはアミノ酸を意味する)。
【0068】
【表1B】
【0069】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼのタンパク質の場合、17個のアミノ酸を有するプロテオタイピックペプチドHNQLPLVIEFTEQTAPK(配列番号14)のみでは、対応する二価プリカーサーイオンの検出には至らず、ケラチン,1型Cytoskeletal20のタンパク質の場合、18個のアミノ酸を有するペプチドSLSSSLQAPVVSTVGMQR(配列番号23)のみでは、対応する二価プリカーサーイオンの検出には至らない。表1Cに、各タンパク質について、存在するプロリン及びヒスチジンの位置と共に、選択された二価一次フラグメントイオンを示す。
【0070】
【表1C】
【0071】
付属の図を参照した以下の実施例は、全く制限するものでなく、本発明の例示を可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1A】全イオンクロマトグラムで時間の関数として得られたシグナルの例を示す。
【図1B】図1A中、11.70分から11.90分の間に溶出した二次フラグメントイオンの質量スペクトルを示す。
【図1C】図1AのPSAのプロテオタイピックペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)の二次フラグメントy5、y6、y7−H2O、y7及びy8の質量に相当する抽出されたイオンのクロマトグラムの、3点で平滑化された総和を示す。
【図1D】較正曲線の例である。
【図2A】天然ペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)(保持時間11.78分)について得られたクロマトグラムを示す。
【図2B】重ペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)(保持時間11.79分)のクロマトグラムを示す。
【図3】較正曲線の他の例である。
【図4A】較正曲線の他の例である。
【図4B】較正曲線の他の例である。
【図5A】図5A、5B及び5Cは、各種衝突エネルギー40、35及び30eVそれぞれで得られた各種質量スペクトルである。
【図5B】図5A、5B及び5Cは、各種衝突エネルギー40、35及び30eVそれぞれで得られた各種質量スペクトルである。
【図5C】図5A、5B及び5Cは、各種衝突エネルギー40、35及び30eVそれぞれで得られた各種質量スペクトルである。
【図5D】誘導された電流の強度の変化を、一次フラグメントイオンの生成に用いられた衝突エネルギー(CE)の関数として示す。
【図6A】図6A、6B及び6Cは、最も強度の強い一価フラグメントイオン(図6A、0.098分から0.300分の間に溶出)、又は、プロリンを含む一価型フラグメントイオン(図6B、0.101分から0.306分の間に溶出)、又は、その同一イオンの二価型(図6C、0.102分から0.298分の間に溶出)のいずれかを一次フラグメントイオンとして選択した時に、Tp435タンパク質のプロテオタイピックペプチドSAPSPLTYR(配列番号53)から得られた二次フラグメントイオンの質量スペクトルを表わす。
【図6B】図6A、6B及び6Cは、最も強度の強い一価フラグメントイオン(図6A、0.098分から0.300分の間に溶出)、又は、プロリンを含む一価型フラグメントイオン(図6B、0.101分から0.306分の間に溶出)、又は、その同一イオンの二価型(図6C、0.102分から0.298分の間に溶出)のいずれかを一次フラグメントイオンとして選択した時に、Tp435タンパク質のプロテオタイピックペプチドSAPSPLTYR(配列番号53)から得られた二次フラグメントイオンの質量スペクトルを表わす。
【図6C】図6A、6B及び6Cは、最も強度の強い一価フラグメントイオン(図6A、0.098分から0.300分の間に溶出)、又は、プロリンを含む一価型フラグメントイオン(図6B、0.101分から0.306分の間に溶出)、又は、その同一イオンの二価型(図6C、0.102分から0.298分の間に溶出)のいずれかを一次フラグメントイオンとして選択した時に、Tp435タンパク質のプロテオタイピックペプチドSAPSPLTYR(配列番号53)から得られた二次フラグメントイオンの質量スペクトルを表わす。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0073】
実施例1:腫瘍マーカーの外部較正を用いたMRM3による定量分析の原理:前立腺特異抗原(PSA)
PSA(前立腺特異抗原、Scipac社(イギリス)製)を、以下の校正範囲のポイントを得るために、女性の血清(フランス血液銀行[French Blood Bank])中、下記濃度で使用する。
・200μg/mlのポイントを得るために、女性の血清165μl中、1.14mg/mlのPSAを35μl
・50μg/mlのポイントを得るために、女性の血清150μl中、上記200μg/mlのポイントを50μl
・10μg/mlのポイントを得るために、女性の血清160μl中、上記50μg/mlのポイントを40μl
・1μg/mlのポイントを得るために、H2O180μl中、上記10μg/mlのポイントを20μl
・100ng/mlのポイントを得るために、H2O180μl中、上記1μg/mlのポイントを20μl
・10ng/mlのポイントを得るために、H2O180μl中、上記100ng/mlのポイントを20μl
・1ng/mlのポイントを得るために、H2O180μl中、上記10ng/mlのポイントを20μl
・5μg/mlのポイントを得るために、H2O180μl中、上記50μg/mlのポイントを20μl
・500ng/mlのポイントを得るために、H2O180μl中、上記5μg/mlのポイントを20μl
・50ng/mlのポイントを得るために、H2O180μl中、上記500ng/mlのポイントを20μl
【0074】
0ng/mlのポイントを得るために、女性の血清200μlを用いる。
【0075】
次いで、上記範囲ポイント、及び、前立腺癌又は良性前立腺肥大症に罹患した患者から採取されたサンプルである分析対象の血清サンプルを、以下のプロトコルに従って消化する。
・pH=8.0の50mM重炭酸塩3mlで、100μlの血清を希釈。
・最終濃度が15mMとなるようにジチオトレイトール(DTT)を添加。
・60℃で40分間還元。
・常温でチューブを冷却。
・最終濃度が25mMとなるようにヨードアセトアミドを添加。
・常温、暗所で40分間アルキル化。
・1/30の比でトリプシンを添加。
・37℃で4時間消化。
・最終濃度が10mMとなるようにDTTを添加。
・60℃で40分間還元。
・常温でチューブを冷却。
・最終濃度が15mMとなるようにヨードアセトアミドを添加し、40分間、常温、暗所でチオール官能基をアルキル化。
・1/30の質量比でトリプシンを添加。
・37℃で一晩、消化。
【0076】
次いで、以下のプロトコルに従って、血清を脱塩し、濃縮する。
・ギ酸(すなわち、最終濃度の0.1%)によるサンプルの酸性化。
・1mlのメタノール、次いで1mlのH2O/0.1%ギ酸でWaters社のHLB Oasisカラムを平衡化。
・サンプルの投入、そのサンプルは重力で流れる。
・1mlのH2O/0.1%ギ酸で洗浄。
・H2O/0.1%ギ酸混合物中の80%メタノール1mlで溶出。
【0077】
その後、溶出した分画をpH3.00の200mM酢酸アンモニウム緩衝液3mlで希釈する。
【0078】
以下のプロトコルに従ってWaters社のOasis MCX SPEカートリッジでサンプルを分画する。
・メタノール1ml、次いでpH3.00の200mM酢酸アンモニウム緩衝液1mlでカートリッジを調整する。
・上記pH3.00の200mM酢酸アンモニウム緩衝液で希釈した血清をすべて、MCXカートリッジに投入し、重力によって流す。
・pH3.00の200mM酢酸アンモニウム緩衝液1ml、次いで80%メタノール+pH3.00の20%酢酸緩衝液の1mlでカートリッジを洗浄する。
・200mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.5)/メタノール(50/50)1mlで溶出を行う。
・体積を約100μlにするために、SpeedVac(登録商標)SPD2010型エバポレータ(Thermo Electron社、アメリカ合衆国、マサチューセッツ州、ウォルサム)で溶出液を2時間蒸発させる。
【0079】
その後、溶出液を10%アセトニトリル(ACN)/90%H2O+0.5%ギ酸の混合液を、200μlとするのに十分量(QS)用いて溶かす。
【0080】
得られたサンプルを100μl投入し、下記条件に従って分析する。
・Dionex社(アメリカ合衆国、カリフォルニア州、サニーベール)製のUltimate 3000クロマトグラフィーシステム
・Waters社のSymmetryC18カラム(内径2.1mm、長さ100mm、粒子径3.5μm)
・溶媒A:H2O+0.1%ギ酸
・溶媒B:ACN+0.1%ギ酸
【0081】
下記表2に定義するHPLC勾配:
【0082】
【表2】
【0083】
クロマトグラフィーカラムから流出する溶出液は、Applied Biosystems社(アメリカ合衆国、フォスターシティー)製のQTRAP(登録商標)5500質量分析計のイオン源に直接投入される。
【0084】
用いる機械パラメーターを以下に示す。
走査タイプ:MS/MS/MS(MS3)
極性:正
走査モード:プロファイル(Profile)
イオン源:Turbo V(登録商標)(Applied BioSystems社)
プリカーサー:636.80Da
一次イオン:472.30Da
Q1設定:ユニット分解能(unit resolution)でフィルタリング
Q3設定:線形イオントラップ
走査スピード:10000Da/秒
Q0でのトラッピング:有
Q3での線形イオントラップ充填時間:200.00ミリ秒
Q3入力電圧:8.00V
断片化:有
励起時間:25.00ミリ秒
Q3でのイオントラップ走査増分:0.12Da
走査開始質量(Da):500.00Da
走査終了質量(Da):850.00Da
時間(秒):0.0350秒
トラッピング無線周波数振幅(開始):4.30
トラッピング無線周波数振幅(終了):4.48
イオントラップ出力電圧(開始):−136.24V
イオントラップ出力電圧(終了):−125.09V
カーテンガス:50.00psi
コーン電圧:5500.00V
源温度:500.00℃
噴霧ガス:50.00psi
加熱ガス:40.00psi
衝突セル充填:高
クラスタ分離電位:50.00V
Q0前の入力電位:3.00V
衝突エネルギー:28.00eV
励起エネルギー(AF2):0.07
【0085】
得られたシグナルは、全イオンクロマトグラムで時間の関数として表わされる(図1A)。
【0086】
各瞬間tにおいて、二次イオンの質量は質量スペクトルとして観察することができる。従って、質量スペクトルは、カラムから溶出し、同時に質量分析計に投入される各種の物質の質量を測定する。11.70分から11.90分の間で溶出した二次フラグメントイオンの質量を図1Bに示す。これらの質量のうちのいくつかは、PSAのプロテオタイピックペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)の二次フラグメントの質量に相当する。従って、質量533.0、646.2、757.6、775.4及び846.6はそれぞれ、フラグメントy5、y6、y7−H2O、y7及びy8に相当する。先行技術では慣例として周知であるように、「y5」フラグメントは、その配列がプロテオタイピックペプチドの配列の最後の5個のアミノ酸であるフラグメントであり、「y6」フラグメントは最後の6個、といったぐあいである。
【0087】
Analyst1.5ソフトウェア(Applied Biosystems社)によって、質量窓に対応するイオン電流を時間の関数として抽出することができる。従って、例えば、標的二次フラグメントそれぞれに対応する、例えば質量単位などの窓のクロマトグラムを得ることができる。このクロマトグラムを、抽出されたイオンクロマトグラムと呼ぶ。また、Analyst1.5ソフトウェアによって、いくつかの抽出されたイオンクロマトグラムを合わせることができる。さらに、Savitzky−Golayアルゴリズム(A.Savitzky及びM.Golay(1964)Smoothing and Differentiation of Data by Simplified Least Squares Procedures.Analytical Chemistry,36:1627−1639)に従って、シグナルを平滑化することができる。このように、図1Cに、PSAのプロテオタイピックペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)の二次フラグメントy5、y6、y7−H2O、y7及びy8の質量に対応する抽出されたイオンクロマトグラムの、3点で平滑化された総和を示す。
【0088】
そして、Analyst1.5ソフトウェアによって、抽出されたイオンクロマトグラムで観察されるピーク下の面積を積分することができる。このように、PSA量が0から1000ng/mlの範囲のポイントについて、ペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)のy5、y6、y7−H2O、y7及びy8イオンの総和のシグナルを測定することにより、下記表3を得ることができた。
【0089】
【表3】
【0090】
これらの結果から、図1Dに示す較正曲線を作成することができる。この曲線は、線形回帰を用いて、方程式(y=1.9×105X+2.76×105)としてモデル化されている。当該方程式により、PSA量が未知の任意のヒト血清サンプルについて、PSA濃度を算出できる。
【0091】
例えば、以下の患者の血清を分析し、表4に示す以下の量を得ることができる。
【0092】
【表4】
【0093】
実施例2:腫瘍マーカーの内部較正を用いたMRM3による定量分析の原理:前立腺特異抗原(PSA)
T.Tortinら(MCP,2008,E−pub)により記載されたプロトコルに従って、ある原子の重同位元素を含むアミノ酸を用いて、内部較正の標準を合成する。
【0094】
こうして、PSAの器官型ペプチド(organotypic peptide)(LSEPAELTDAVK)(配列番号50)は、3つの炭素12(12C)原子の代わりに3つの炭素13(13C)原子を含むアラニンを2個含んで化学合成される。この合成は、ABI433A合成装置(Applied Biosystems社、アメリカ合衆国、フォスターシティー)及びL−(13C3)−アラニン−N−FMOC(Euriso−Top社、フランス、サントーバン)を用いて行われる。合成の最後に、その重ペプチドを30個の4ml容褐色ガラスボトルに分け、凍結乾燥する。
【0095】
質量分析器(LCQイオントラップ、ThermoFisher Scientific社、アメリカ合衆国、マサチューセッツ州、ウォルサム)に連結されたクロマトグラフィーによって、合成重ペプチドの純度を確認する。その純度は、95%を超えることが確認される。そして、褐色ガラスボトル中の重ペプチドの量を、Agilent Technologies社(フランス、マッシー)の1100型アミノ酸分析器により、ボトル3本のサンプルに基づいて確認する。こうして、ボトルが純度95%を超える重ペプチドを790μg含むことがわかる。
【0096】
重ペプチド790μgのボトル1本を、0.5%ギ酸が添加された水1mlに溶かす。濃度6.2×10−10mol/μlの重ペプチド原液が得られる。
【0097】
6.2×10−11mol/μlの溶液を得るために、上記重ペプチド原液をアセトニトリル/水(50/50)に1%ギ酸を加えた混合物で10倍に希釈する。
【0098】
6.2×10−12mol/μlの溶液を得るために、上記6.2×10−11mol/μlの溶液をアセトニトリル/水(50/50)に1%ギ酸を加えた混合物で10倍に希釈する。
【0099】
3.1×10−13mol/μlの溶液を得るために、上記6.2×10−12mol/μlの溶液をアセトニトリル/水(50/50)に1%ギ酸を加えた混合物で20倍に希釈する。
【0100】
3.1×10−14mol/μlの溶液を得るために、上記3.1×10−13mol/μlの溶液をアセトニトリル/水(50/50)に1%ギ酸を加えた混合物で10倍に希釈する。
【0101】
3.1×10−15mol/μlの溶液を得るために、上記3.1×10−14mol/μlの溶液をアセトニトリル/水(50/50)に1%ギ酸を加えた混合物で10倍に希釈する。
【0102】
患者の血清サンプル及びその各範囲ポイントを、実施例1に記載のプロトコルに従って処理し、酵素による消化工程と、Waters社のOasis HLBカラムでの脱塩工程との間で、3.1×10−15mol/μlの重ペプチド溶液50μlを添加する。
【0103】
その後、患者の血清サンプル及びその各範囲ポイントを実施例1に記載のプロトコルに従って分析するとともに、以下の重ペプチドに対応するイオンのモニタリングも行う。
プリカーサー:639.80Da
一次イオン:475.30Da
【0104】
重ペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)は天然ペプチドと同じ物理化学的性質を有しているため、クロマトグラフィーでの保持時間が同じである。従って、2つのペプチドは質量分析計に同時に投入される。このことは、図2Aの天然ペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)(保持時間11.78分)及び図2Bの重ペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)(保持時間11.79分)のクロマトグラムから見て取ることができる。
【0105】
一方、この重ペプチドは、天然PSAペプチドよりも6質量単位多い。その質量は、天然ペプチドの1277.66g/molに対して、1271.66g/molである。
【0106】
重ペプチドの量は、既知であり(1.55×10−13mol)、且つ、範囲ポイントすべてで同じである。従って、再構成されたシグナルは、全範囲にわたって一定とならなければならない。しかしながら、シグナルの変化が重ペプチドにおいて観察され、このことは、この同一の変化が天然ペプチドのシグナルにも影響を及ぼしていることを意味する。従って、軽ペプチドのシグナルを修正するために、重ペプチドのシグナルを用いることができる。これを行うために、抽出されて一緒に添加された特異的な二次天然イオン及び重イオン間のクロマトグラフィーのピーク面積比を、Analyst1.5ソフトウェアで求める。
【0107】
こうして、PSA量が0から1000ng/mlの範囲のポイントで、天然及び重ペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)のy5、y6、y7−H2O、y7及びy8イオンの総和のシグナルを測定することにより、下記表5を得ることができる。
【0108】
【表5】
【0109】
これらの結果から、図3に示す較正曲線を作成することができる。この曲線は、線形回帰を用いて、方程式(y=0.0208(X天然/X重)+0.0154)としてモデル化される。当該方程式により、PSA量が未知の任意のヒト血清サンプルについてPSA濃度を算出できる。
【0110】
例として、以下の患者の血清を分析し、表6に示す量が得られる。
【0111】
【表6】
【0112】
実施例3:外部若しくは内部較正を用いたMRM3、又は、ELISAによって得られた血清PSAの定量分析の比較
患者の血清(その外部又は内部較正を用いたMRM3による分析はそれぞれ実施例1及び2に記載済みである)を、一方ではVidas(登録商標)TPSAキット(ビオメリュー、フランス、マーシー・レトワール)及びVidas(登録商標)自動分析器を用いて、他方では総PSAキット及びModular Analytics E170自動分析器(Roche Diagnostics社、ドイツ、マンハイム)を用いてELISAで分析する。いずれの場合も、製造業者によって記載されたプロトコルを用いる。これらの血清は、前立腺癌(PCa)又は良性前立腺肥大症(BPH)に罹患した患者に対応している。表7に示すように、これらの3つの分析方法によって得られた量の比較を行う。
【0113】
【表7】
【0114】
その結果、外部又は内部較正を用いてMRM3法により求めた量は、従来のELISA法によって求めたものに非常に近いPSA濃度となる。
【0115】
なお、この点において、ELISA分析では血流中に存在するすべてのPSA分子を分析しているわけではない。これは、PSAがα−1抗キモトリプシン(ACT)及びα−2マクログロブリン(A2M)等のある種の血液抗プロテアーゼとともに複合体を形成するからである。A2Mと結合したPSAをELISAでは検出することができないが、T.Fortinら(MCP,2008,E−pub)によって確認されているように、質量分析では分析可能である。PSA−A2M複合体は、総PSAの約10%を占めるが、患者の病的状態によってこの量は変化し得る。このPSAの特有の性質が、ELISA法とMRM3法との間で認められた量の差の原因の一つである。
【0116】
実施例4:ヒト血清中のトレポネーマパリダム組換えタンパク質の定量分析
本実施例は、梅毒の病原菌であるトレポネーマパリダム(Treponema pallidum)由来のタンパク質であり、組み換えにより発現させた2種類のタンパク質(ビオメリュー、フランス、マーシー・レトワール)を用いて行う。組換えタンパク質のin vitroでの発現及び精製を容易にするために、トレポネーマパリダムタンパク質の天然配列は、製造業者により修飾されている。用いた2種類のタンパク質の正確な配列を以下に示す。
【0117】
Tp435梅毒の配列
配列番号51:
MRGSACVSCTTVCPHAGKAKAEKVECALKGGIFRGTLPAADCPGIDTTVTFNADGTAQKVELALEKKSAPSPLTYRGTWMVREDGIVELSLVSSEQSKAPHEKELYELIDSNSVRYMGAPGAGKPSKEMAPFYVLKKTKKGSSKYKYHHHHH
【0118】
Tp574梅毒の配列
配列番号52:
MRGSAHHETHYGYATLSYADYWAGELGQSRDVLLAGNAEADRAGDLDAGMFDAVSRATHGHGAFRQQFQYAVEVLGEKVLSKQETEDSRGRKKWEYETDPSVTKMVRASASFQDLGEDGEIKFEAVEGAVALADRASSFMVDSEEYKITNVKVHGMKFVPVAVPHELKGIAKEKFHFVEDSRVTENTNGLKTMLTEDSFSARKVSSMESPHDLVVDTVGTGYHSRFGSDAEASVMLKRADGSELSHREFIDYVMNFNTVRYDYYGDDASYTNLMASYGTKHSADSWWKTGRVPRISCGINYGFDRFKGSGPGYYRLTLIANGYRDVVADVRFLPKYEGNIDIGLKGKVLTIGGADAETLMDAAVDVFADGQPKLVSDQAVSLGQNVLSADFTPGTEYTVEVRFKEFGSVRAKVVAQSSKYKTHHHHHH
【0119】
Bio−Rad社(アメリカ合衆国、カリフォルニア州、ハーキュリーズ)の「Protein Assay」試薬を用いて、ブラッドフォード法(Bradford,M.M.(1976)A Rapid and Sensitive Method for the Quantitation of Microgram Quantities of Protein Utilizing the Principle of Protein−Dye Binding.Anal.Biochem.72:248−254)に従ったタンパク質分析により、Tp435及びTp574について組換えタンパク質量を求める。
【0120】
結果、Tp435タンパク質バッチの量は0.97mg/mlであり、Tp574タンパク質バッチの量は1.4mg/mlである。
【0121】
Tp435及びTp574組換えタンパク質を以下の方法で消化する。
・各タンパク質80μgをサンプリングし、pH=8.0の50mM重炭酸アンモニウム緩衝液を添加し、最終的に400μlとなるようにする。
・150mMのDTT100μlを添加する。
・95℃で20分間培養する。
・60℃で20分間培養する。
・サンプルを常温に冷却する。
・150mMヨードアセトアミド100μlを添加する。
・常温、暗所で40分間培養する。
・トリプシン4μgを添加する。
・37℃で4時間培養する。
・消化終了時の各タンパク質消化産物の濃度は133.3μg/mlである。
【0122】
「健康」とされる患者(フランス血液銀行[French Blood Bank])の血清100μlを8サンプル、以下のプロトコルに従って同時に消化する。
・100μlの各血清を、pH=8.0の50mM重炭酸アンモニウム3mlで希釈する。
・DTTを最終濃度が15mMとなるように添加する。
・60℃で40分間還元する。
・チューブを常温に冷却する。
・ヨードアセトアミドを最終濃度が25mMとなるように添加する。
・暗所、常温で40分間、アルキル化を行う。
・1/30の質量比でトリプシンを添加する。
・37℃で4時間、消化を行う。
・DTTを最終濃度が10mMとなるように再添加する。
・60℃で40分間還元する。
・チューブを常温に冷却する。
・ヨードアセトアミドを最終濃度が15mMとなるように再添加する。
・暗所、常温でアルキル化を行う。
・1/30の比でトリプシンを再添加する。
・37℃で一晩、消化を行う。
・ギ酸(すなわち最終濃度の0.1%)でサンプルを酸性化する。
・メタノール1ml、次いで「超純」水/0.1%ギ酸の1mlでWaters社Oasis HLBカラムを平衡化する。
・サンプルを投入し、重力で流す。
・1mlの水/0.1%ギ酸混合物で洗浄する。
・水/0.1%ギ酸混合物中の80%メタノール1mlで溶出する。
・体積が約500μlになるまで、SpeedVac(登録商標)SPD2010型のエバポレータ(Thermo Electron社、アメリカ合衆国、マサチューセッツ州、ウォルサム)で1時間、チューブを乾燥させる。
・均質な消化血清プールを得るために、処理した血清のチューブ8本を混合する。
【0123】
以下の較正範囲を調製する。
・133.3μg/mlのTp574タンパク質50μlを133.3μg/mlのTp435タンパク質50μlに添加する。Tp574及びTp435タンパク質それぞれの濃度が26.6μg/mlとなる原液が得られるように、0.1%ギ酸が添加された水400μlに上記混合物をすべて添加する(原液)。そして、各タンパク質が10000ng/mlの溶液が得られるように、上記原液75μlを0.1%ギ酸が添加された水125μlで希釈する。
・5000mg/mlの溶液が得られるように、上記原液37.5μlを0.1%ギ酸が添加された水162.5μlで希釈する。
・1000ng/mlの溶液が得られるように、上記10μg/mlの溶液20μlを水180μlで希釈する。
・100ng/mlの溶液が得られるように、上記1μg/mlの溶液20μlを水180μlで希釈する。
・10ng/mlの溶液が得られるように、上記100ng/mlの溶液20μlを水180μlで希釈する。
・500ng/mlの溶液が得られるように、上記5μg/mlの溶液20μlを水180μlで希釈する。
・50ng/mlの溶液が得られるように、上記500ng/mlの溶液20μlを水180μlで希釈する。
・1、5、10、50、100、500及び1000ng/mlのポイントを含む標準範囲を得るために、消化前の血清100μlに相当する消化された血清サンプルの7つ分に対してそれぞれ、上記の10000から50ng/mlの各溶液10μlを添加する。
・0ng/mlの範囲ポイントを得るために、上記血清サンプルの最後の分に水10μlを添加する。
【0124】
上記サンプル及びその各範囲ポイントを、以下のクロマトグラフィーパラメーターを用い、質量分析計の設定が異なる2つの期間で分析する。
・Dionex社(アメリカ合衆国、カリフォルニア州、サニーベール)のUltimate3000クロマトグラフィーシステム
・Waters社のSymmetry C18カラム(内径2.1mm、長さ100mm、粒子径3.5μm)
・溶媒A:H2O+0.1%ギ酸
・溶媒B:ACN+0.1%ギ酸
【0125】
下記表8に定義するHPLC勾配:
【0126】
【表8】
【0127】
期間1は、Tp435タンパク質のプロテオタイピックペプチドSAPSPLTYR(配列番号53)のモニタリングに相当する。期間2は、Tp574タンパク質のプロテオタイピックペプチドFVPVAVPHELK(配列番号54)のモニタリングに相当する。
【0128】
各プロテオタイピックペプチドについて、以下の機械パラメーターに従って、1番目にプロリンを有する二価一次フラグメントが選択され、断片化される。
【0129】
Tp435タンパク質のための期間1:
以下のパラメーターを除けば、機械パラメーターは実施例1と同じである。
プリカーサー:496.50Da
一次イオン:417.50Da
Q3入力バリア:4.00V
走査開始質量(Da):430.00Da
走査終了質量(Da):750.00Da
時間(秒):0.0320秒
トラッピング無線周波数振幅(開始):2.88
トラッピング無線周波数振幅(終了):4.10
イオントラップ出力電圧(開始):−142.07V
イオントラップ出力電圧(終了):−129.13V
源温度:450.00℃
加熱ガス:50.00psi
クラスタ分離電位:80.00V
衝突エネルギー:18.00eV
励起エネルギー(AF2):0.12
【0130】
Tp574タンパク質のための期間2:
以下のパラメーターを除けば、機械パラメーターは期間1と同じである。
プリカーサー:618.40Da
一次イオン:495.50Da
走査開始質量(Da):500.00Da
走査終了質量(Da):850.00Da
時間(秒):0.0350秒
トラッピング無線周波数振幅(開始):3.15
トラッピング無線周波数振幅(終了):4.48
イオントラップ出力電圧(開始):−139.24V
イオントラップ出力電圧(終了):−125.09V
クラスタ分離電位:90.00V
衝突エネルギー:25.00eV
励起エネルギー(AF2):0.09
【0131】
5から50ng/mlの各範囲ポイントについて、Tp435タンパク質のプロテオタイピックペプチドSAPSPLTYR(配列番号53)のy3及びy5イオン(m/z649.4及び439.4)の総和のシグナルを測定することにより、下記表9を得ることができた。
【0132】
【表9】
【0133】
5から50ng/mlの各範囲ポイントについて、Tp574タンパク質のプロテオタイピックペプチドFVPVAVPHELK(配列番号54)のy5及びy7イオン(m/z623.4及び793.4)の総和のシグナルを測定することにより、下記表10を得ることができた。
【0134】
【表10】
【0135】
これらの結果から、図4A及び4Bにそれぞれ示すTp435タンパク質用及びTp574タンパク質用の較正曲線を作成することができる。
【0136】
これらの曲線は、線形回帰を用いて方程式としてモデル化され、当該方程式により、Tp435量又はTp574量が未知の任意のヒト血清サンプルについて、Tp435及びTp574濃度を算出できる。
【0137】
Tp435濃度は、次の方程式によって算出される。
y=4.14×105X−1.5×106
【0138】
Tp574濃度は、次の方程式によって算出される。
y=4.38×104X−1.5×105
【0139】
実施例5:一次フラグメントとして二価イオンを用いたMRM3法による定量分析の性能レベルの改善
同じサンプル処理条件の下で、従来のMRM分析、又は二価一次フラグメントを用いないMRM3分析で得られた性能レベルと、実施例4において得られた分析性能レベルを比較する。各タンパク質について、上記3つの方法を用いて同じプロテオタイピックペプチド、すなわち、PSAについてはペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)、Tp435タンパク質についてはペプチドSAPSPLTYR(配列番号53)、Tp574タンパク質についてはペプチドFVPVAVPHELK(配列番号54)を分析する。
【0140】
133.3μg/mlのTp574タンパク質50μlと、133.3μg/mlのTp435タンパク質50μlと、133.3μg/mlのPSAタンパク質50μlと、0.1%ギ酸が添加された水350μlとを含む原液を用いて実施例4のプロトコルに従って調製されたサンプルに対して分析を行う。
【0141】
上記3種のタンパク質に対して、実施例4に記載されたクロマトグラフィー法及び質量分析法を使用して、二価一次フラグメントを用いたMRM3分析を行う。質量分析計の設定は、各プロテオタイピックペプチドに適した設定にあたる3つの期間において決定される。本実施例において、この分析を方法1と呼ぶ。
【0142】
一価一次フラグメントを用いたMRM3分析は、m/zが636.8のPSAのプロテオタイピックペプチドに対してはy9イオン(943.5m/z)を、m/zが496.8のTp435のプロテオタイピックペプチドに対してはy5イオン(649.2m/z)を、m/zが618.8のTp574のプロテオタイピックペプチドに対してはy5イオン(623.3m/z)を用いて行う。クロマトグラフィーのピークは、以下の二次フラグメントのシグナルを足し合わせることによって得られる:PSAのプロテオタイピックペプチドに対してはm/z609+627+646+698の二次フラグメントのシグナル、Tp435のプロテオタイピックペプチドに対してはm/z631.2+457.4+475.4の二次フラグメントのシグナル、Tp574のプロテオタイピックペプチドに対してはm/z477.5+364.2+605.4の二次フラグメントのシグナル。本実施例において、この分析を方法2と呼ぶ。
【0143】
方法2では、質量分析計の操作が3つの期間に分かれる。
【0144】
PSAのための期間1:
以下のパラメーターを除けば、機械パラメーターは実施例1と同じである。
プリカーサー:636.80Da
一次イオン:943.50Da
走査開始質量(Da):600.00Da
走査終了質量(Da):800.00Da
時間(秒):0.0200秒
トラッピング無線周波数振幅(開始):3.53
トラッピング無線周波数振幅(終了):4.29イオントラップ出力電圧(開始):−135.20V
イオントラップ出力電圧(終了):−127.11V
源温度:450.00℃
加熱ガス:50.00psi
クラスタ分離電位:120.00V
Q0前の入力電位:4.00V
衝突エネルギー:23.00eV
励起エネルギー(AF2):0.12
【0145】
Tp435タンパク質のための期間2:
以下のパラメーターを除けば、機械パラメーターは期間1と同じである。
プリカーサー:496.50Da
一次イオン:649.20Da
Q3入力バリア:4.00V
走査開始質量(Da):430.00Da
走査終了質量(Da):640.00Da
時間(秒):0.0210秒
トラッピング無線周波数振幅(開始):2.88
トラッピング無線周波数振幅(終了):3.68
イオントラップ出力電圧(開始):−142.07V
イオントラップ出力電圧(終了):−133.58V
クラスタ分離電位:80.00V
衝突エネルギー:23.00eV
励起エネルギー(AF2):0.12
【0146】
Tp574タンパク質のための期間3:
以下のパラメーターを除けば、機械パラメーターは期間1と同じである。
プリカーサー:618.40Da
一次イオン:623.30Da
Q3入力バリア:4.00V
走査開始質量(Da):350.00Da
走査終了質量(Da):620.00Da
時間(秒):0.0270秒
トラッピング無線周波数振幅(開始):2.58
トラッピング無線周波数振幅(終了):3.60
イオントラップ出力電圧(開始):−145.30V
イオントラップ出力電圧(終了):−134.39V
衝突エネルギー:35.00eV
励起エネルギー(AF2):0.10
【0147】
MRM分析は、m/zが636.8のPSAのプロテオタイピックペプチドに対してはy9イオン(943.5m/z)を、m/zが496.8のTp435のプロテオタイピックペプチドに対してはy5イオン(649.2m/z)を、m/zが618.8のTp574のプロテオタイピックペプチドに対してはy5イオン(623.3m/z)を用いて行う。本実施例において、この分析を方法3と呼ぶ。
【0148】
方法3において、質量分析パラメーターは以下のとおりである。
走査タイプ:MRM(MRM)
極性:正
イオン源:Turbo V(登録商標)(Applied BioSystems社)
Q1設定:ユニット分解能でフィルタリング
Q3設定:ユニット分解能でフィルタリング
2回の走査間の中断:5.007ミリ秒
Q1質量(Da):496.20
Q3質量(Da):649.30
走査時間:30.00
クラスタ分離電位:110V
衝突エネルギー:25eV
衝突セル出力電位:10V
【0149】
Q1質量(Da):636.8
Q3質量(Da):943.5
走査時間:35.00
クラスタ分離電位:115V
衝突エネルギー:23eV
衝突セル出力電位:22V
【0150】
Q1質量(Da):618.4
Q3質量(Da):623.4
走査時間:35.00
クラスタ分離電位:120V
衝突エネルギー:29eV
衝突セル出力電位:10V
【0151】
カーテンガス:50.00psi
コーン電圧:5500.00V
源温度:500.00℃
噴霧ガス:50.00psi
加熱ガス:40.00psi
衝突セル充填:9.00(任意単位)
Q0前の入力電位:5.00V
【0152】
表11に示すように、バックグラウンドノイズで割ったシグナルの比が10となるタンパク質量を算出することによって、上記3種のタンパク質の定量限界が求められる。
【0153】
【表11】
【0154】
本発明に記載の方法で得られた定量限界は、方法2及び3で得られたものよりはるかに低い。従って、本発明では、他の方法より感度のよい定量分析となる。
【0155】
実施例6:衝突エネルギー最適化
MRM3を実施するために、プリカーサーイオン及び一次フラグメントの選択は不可欠である。必ずしも最も強度の強い一次フラグメントを選択する必要はない。本発明において、プロリン又はヒスチジンを有する二価イオンは、より特異的な断片化を示し、MS3において生成される二次フラグメントがより少なくなること、及び、それらが最も有効な定量分析を行うのにはるかに適していることが実証された。
【0156】
例として、Tp435タンパク質のプロテオタイピックペプチドSAPSPLTYR(配列番号53)の衝突エネルギーを最適化した。
【0157】
Tp435タンパク質50μlを消化し、Waters社Oasis HLBカラムで脱塩し、0.1%ギ酸を添加したACN/水の50/50混合物300μlに添加する。そして、その混合物を流量10μl/分で質量分析計へ投入する。
【0158】
機械パラメーターは以下のとおりである。
走査タイプ:高感度プロダクトイオン(Enhanced product ion(EPI))
極性:正
走査モード:プロファイル
イオン源:Turbo V(Applied Biosystems社)
プリカーサー:496.20Da
Q1の分解能:ユニット
走査速度:10000Da/秒
Q0でのトラッピング:無
Q3での線形イオントラップ充填時間:1.00ミリ秒
動的充填:アクティブ
TIC標的 EMS走査:10.00×107カウント
TIC標的:10.00×107カウント
最大充填時間:250.000ミリ秒
最小充填時間:0.050ミリ秒
初期設定充填時間:1.000ミリ秒
Q3入力電圧:8.00V
Q3でのイオントラップ走査増分:0.12Da
走査開始質量(Da):200.00Da
走査終了質量(Da):667.01Da
時間(秒):0.0467秒
トラッピング無線周波数振幅(開始):2.19
トラッピング無線周波数振幅(終了):3.82
イオントラップ出力電圧(開始):−149.35V
イオントラップ出力電圧(終了):−125.68V
走査開始質量(Da):667.01Da
走査終了質量(Da):1000Da
時間(秒):0.0333秒
トラッピング無線周波数振幅(開始):3.82
トラッピング無線周波数振幅(終了):4.99
イオントラップ出力電圧(開始):−125.68V
イオントラップ出力電圧(終了):−108.80V
カーテンガス:30.00psi
コーン電圧:5500.00V
源温度:常温
噴霧ガス:18.00psi
加熱ガス:常温
衝突セル充填:高
クラスタ分離電位:100.00V
Q0前の入力電位:10.00V
衝突エネルギー:5〜60eV
【0159】
衝突エネルギーを40eVとする場合(図5A)、衝突エネルギーが35又は30eV(それぞれ図5B及び5C)での断片化と比較して、N末端の位置にプロリンを有する二価一次フラグメントに相当するフラグメント417.2の強度があまり強くないことがわかる。一次フラグメント417.2の強度が低下すると、他のフラグメントの強度は増加する。従って、最も強度の強い一次フラグメント、すなわち一価一次フラグメントに相当する649.5Daのものを選択し、衝突エネルギーを40eVとすることが好ましい。しかしながら、図5Dに見られる衝突エネルギーの最適化に示されるように、この選択が最適ではない。
【0160】
10μl/分で投入し、衝突エネルギーのみを5から60eVに変化させることによって、衝突エネルギーの最適化を行う。前のパラメーターとの違いは、Q1において質量496.5Daを選択し、Q3において質量417.8又は649.5を選択するサイクルタイム100秒のMRMタイプの走査モードとすること、及び、以下のパラメーターの調整だけである。
噴霧ガス:35.00
クラスタ分離電位:80.00
Q0前の入力電位:3.00
【0161】
N末端の位置にプロリンを有する二価フラグメントに相当する遷移496.3/417.8、及び、最も強度の強い一価フラグメントに相当する遷移496.3/649.5の衝突エネルギーを最適化することによって、図5Dに示すように、実施例4に対応する分析において遷移496.3/417.8ではシグナルに著しい利点が得られる。
【0162】
このシグナルの利点は、表12に示されるように、定量限界がより低いという特徴を有する、分析性能レベルがより高い定量分析を反映したものである。
【0163】
【表12】
【0164】
質量分析パラメーターを最適化した場合、本発明に記載の方法に従って二価一次イオンで得られた定量限界は、一価一次イオンで得られたものよりはるかに低い。従って、二価一次イオンを用いる上記方法によって、より感度のよい定量方法を行うことが可能となる。
【0165】
実施例7:一次フラグメントとして二価イオンを用いたMRM3法による定量分析の性能レベルの改善
プロリンを2個有し、そのうち1個は2番目にあるTp435タンパク質のプロテオタイピックペプチドSAPSPLTYR(配列番号53)の断片化を、最も強度の強いフラグメントイオン、又はプロリンを有する一価型フラグメントイオン、又は同イオンの二価型のいずれかを一次イオンとして選択することにより比較した。
【0166】
最も強度の強い一価一次イオンは、m/z649.2のy5イオンである。プロリンを有する一価型又は二価型一次フラグメントイオンは、一価型がm/z833.4の、二価型がm/z417.5のy7イオンである。
【0167】
Tp435タンパク質50μlを消化し、Waters社Oasis HLBカラムで脱塩し、0.1%ギ酸を添加したACN/水の50/50混合物300μlに添加する。その後、その混合物を流量10μl/分で質量分析計へ投入する。
【0168】
機械パラメーターは以下のとおりである。
最も強度の強い一価一次イオンのMS3の場合:
走査タイプ:MS3
極性:正
走査モード:プロファイル
イオン源:Turbo V(Applied Biosystems社)
プリカーサー:496.30Da
一次イオン:649.30Da
Q1の分解能:ユニット
走査速度:10000Da/秒
Q0でのトラッピング:有
Q3での線形イオントラップ充填時間:150.00ミリ秒
動的充填:無
断片化:有
励起時間:25.00ミリ秒
Q3入力電圧:8.00V
Q3でのイオントラップ走査増分:0.12Da
走査開始質量(Da):250.00Da
走査終了質量(Da):640.00Da
トラッピング無線周波数振幅(開始):3.08トラッピング無線周波数振幅(終了):4.36
イオントラップ出力電圧(開始):−144.99Vイオントラップ出力電圧(終了):−122.19Vカーテンガス:20.00psi
コーン電圧:5500.00V
源温度:常温
噴霧ガス:35.00psi
加熱ガス:常温
衝突セル充填:高
クラスタ分離電位:110.00V
Q0前の入力電位:10.00V
衝突エネルギー:24eV
励起エネルギー:0.11eV
【0169】
一価一次イオンy7のMS3の場合:
走査タイプ:MS3
極性:正
走査モード:プロファイル
イオン源:Turbo V(Applied Biosystems社)
プリカーサー:496.30Da
一次イオン:833.40Da
Q1の分解能:ユニット
走査速度:10000Da/秒
Q0でのトラッピング:有
Q3での線形イオントラップ充填時間:150.00ミリ秒
動的充填:無
断片化:有
励起時間:25.00ミリ秒
Q3入力電圧:8.00V
Q3でのイオントラップ走査増分:0.12Da
走査開始質量(Da):300.00Da
走査終了質量(Da):820.00Da
トラッピング無線周波数振幅(開始):3.24
トラッピング無線周波数振幅(終了):4.95
イオントラップ出力電圧(開始):−142.06V
イオントラップ出力電圧(終了):−111.66V
カーテンガス:20.00psi
コーン電圧:5500.00V
源温度:常温
噴霧ガス:35.00psi
加熱ガス:常温
衝突セル充填:高
クラスタ分離電位:110.00V
Q0前の入力電位:10.00V
衝突エネルギー:24eV
励起エネルギー:0.14eV
【0170】
二価一次イオンy7のMS3の場合:
走査タイプ:MS3
極性:正
走査モード:プロファイル
イオン源:Turbo V(Applied Biosystems社)
プリカーサー:496.30Da
一次イオン:417.50Da
Q1の分解能:ユニット
走査速度:10000Da/秒
Q0でのトラッピング:有
Q3での線形イオントラップ充填時間:150.00ミリ秒
動的充填:無
断片化:有
励起時間:25.00ミリ秒
Q3入力電圧:8.00V
Q3でのイオントラップ走査増分:0.12Da
走査開始質量(Da):300.00Da
走査終了質量(Da):850.00Da
トラッピング無線周波数振幅(開始):3.24
トラッピング無線周波数振幅(終了):5.05
イオントラップ出力電圧(開始):−142.06V
イオントラップ出力電圧(終了):−109.91V
カーテンガス:20.00psi
コーン電圧:5500.00V
源温度:常温
噴霧ガス:35.00psi
加熱ガス:常温
衝突セル充填:高
クラスタ分離電位:110.00V
Q0前の入力電位:10.00V
衝突エネルギー:25eV
励起エネルギー:0.12eV
【0171】
図6Aに示すように、m/z=649.2の最も強度の強い一価一次フラグメントイオンでは、上述の場合のようにMS3で行われた断片化は非常に複雑であり、すべての二次断片化ピークにシグナルが分かれている。MS3スペクトルの最も強度の強いピークは、3.2×105カウントである。
【0172】
図6Bに示すように、m/z=833.4の一価一次フラグメントイオンy7では、得られた断片化スペクトルは非常に複雑であり、多くの二次断片化ピークを含む。MS3スペクトルの最も強度の強いピークは、3.8×105カウントである。
【0173】
図6Cに示すように、m/z=417.5の二価一次イオンy7では、行われた断片化がはるかに単純であり、シグナルは5つの大きなピークに集約されている。大きなピークのシグナルは、7.3×106カウントである。
【0174】
これによって、本発明に従ってペプチドを選択することにより、より感度のよい分析を行うことができ、この選択が実施例5において認められた感度の利点をもたらす要因であることが示される。
【0175】
MRM3を行うために、一次フラグメントの選択は不可欠である。本実施例において示されるように、必ずしも最も強度の強い一次フラグメントを選択する必要はない。また、プリカーサーイオンの選択も重要である。本発明において、2個のプロリン、又は、1個のプロリンと1個のヒスチジンとを有する二価プリカーサーイオンが、より特異的な断片化を示し、MS3において生成される二次フラグメントがより少なくなること、及び、それらが最も有効な定量分析を行うのにはるかに適していることが実証された。
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の定量分析の技術分野に関する。とりわけ、本発明は質量分析によるタンパク質の新規な定量分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
患者から採取した血液サンプル(血清、血漿)等の複雑流体中のタンパク質の分析が、診断において極めて重要であるため、タンパク質を定量分析するための技術が多く開発されている。現在、ELISA(酵素免疫吸着法)が最も広く用いられており、種々の既知のELISA法の中でも、サンドイッチ反応が最も広く用いられている。これは、標的タンパク質に対する2種の抗体を必要とし、そのうち1種を酵素と結合させる。さらに近年、SRM(選択反応モニタリング)や、いくつかのSRM分析を同時に行う場合にはMRM(多重反応モニタリング)といった質量分析技術によって、複雑流体中でタンパク質をそのプロテオタイピック(proteotypic)ペプチドから定量分析することが、出願人他によって実現された(非特許文献1、2、3)。上記質量分析による分析の前工程において、分析対象のタンパク質をペプチドに断片化するために、酵素によって消化する。そして、プロテオタイピックペプチドと呼ばれる、そのタンパク質に固有のペプチドを質量分析によって分析する。
【0003】
ELISA法と比較した場合のSRM又はMRMによる分析の利点は、分析を実現するための経費及び時間をかなり削減できることであり、特にELISA法に必要な抗体を開発する必要がある場合に顕著である。従って、このような質量分析技術は、タンパク質の分析に好適な方法であると思われる。また、上記技術によって、例えば、プロテオーム解析における研究によってマーカー候補と同定された多数のタンパク質の分析という臨床的関心事をより容易に且つより速く実行することができるであろう(非特許文献4)。
【0004】
MRM分析の場合、MRMモードに特に適した三連四重極型質量分析計では、以下に詳述する原理に基づいて、プロテオタイピックペプチドを定量する。最初に、分析対象のペプチドを含むサンプルをイオン源に導入する。該イオン源では、上記ペプチドが気体状態でイオン化され、本来のペプチドに1つ、2つ又は3つものプロトンが付加し、1価、2価又は3価にもなった「分子」イオンに変換される。例えば、電気スプレー型のイオン源では、上記ペプチドは液体状態から気体状態に変化するのと同時にイオン化される(非特許文献5)。逆相液体クロマトグラフィーによってペプチドが事前に分離されている場合には、この型のイオン源が特に好適である。しかしながら、ペプチドのイオン化率は、種々の含有物の濃度及び性質によって変化し得る。この現象は、当業者には周知のマトリックス効果を反映している。また、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)源では、上記ペプチドを固体状態からイオン化することもできる。
【0005】
次いで、四重極型分析器(Q1)では、プロテオタイピックペプチドをその質量電荷比(m/z)に基づいてフィルタリングすることができる。目的とするプロテオタイピックペプチドの質量電荷比(該比を(m/z)1とする)を有するペプチドのみが第2の四重極(q2)に送られ、次に行われる断片化のためのプリカーサーイオンとしての役割を果たす。
【0006】
上記q2分析器は、質量電荷比(m/z)1を有するペプチドを一次フラグメントイオンへと断片化することができる。通常、この断片化は、プリカーサーペプチドと、窒素やアルゴン等の不活性ガスとの衝突によって行われる。
【0007】
上記一次フラグメントイオンは、特定の質量電荷比(該比を(m/z)2とする)に基づいて一次フラグメントイオンをフィルタリングする第3の四重極(Q3)に送られる。目的とするプロテオタイピックペプチドのフラグメントの特徴である上記質量電荷比(m/z)2を有する一次フラグメントイオンのみが、定量のために検出器に送られる。
【0008】
この操作モードは、一方ではプリカーサーイオンの選択に、他方では一次フラグメントイオンの選択に関しており、2重の選択性を有している。従って、MRMモードの質量分析は定量に有利である。
【0009】
上記一次フラグメントイオンによって誘導され、検出器によって測定される電流の強度は、一次フラグメントイオンの量に比例する。一次フラグメントイオンの量自体は、プリカーサーイオンの量に比例し、プリカーサーイオンの量自体は、分析対象のタンパク質の量に比例する。従って、上記一次フラグメントイオンにより誘導され、測定される電流の量は、分析対象のタンパク質の量に正比例する。しかしながら、上記一次フラグメントイオンにより誘導された電流の量に相当する測定ピークの面積を、対応する一次フラグメントイオンの量、最終的には分析対象のタンパク質の量に相関付けできるようにするためには、較正が必要となる。遷移(トランジション)と呼ばれる(m/z)1及び(m/z)2のペアは、MRMモード又はMS/MS(すなわち、MS2)モードで操作することができる種々の質量分析計のモデルで分析することができる。例として、三連四重極型のモデル(非特許文献2)、又はイオントラップ型のモデル(非特許文献6)、さらには飛行時間型のモデル(MALDI−TOF)(非特許文献7)が挙げられる。
【0010】
タンパク質の分析に利用する遷移は、分析対象のタンパク質に特有のものでなければならず、再現性と信頼性の点で可能な限り感度がよく、可能な限り特異的で、可能な限り頑健性の高い分析となるものでなければならない。このため、それらは十分注意して選択されなければならない。
【0011】
プロテオタイピックペプチド(m/z)1及び(m/z)2の選択のために開発された上記方法では、該選択は本質的に応答の強度に基づく。詳細は非特許文献8を参照されたい。また、ペプチド分離の精度、分析の前工程、アミノ酸組成、存在し得る他のタンパク質に同一プリカーサーペプチドが含まれないこと、及び、プリカーサーペプチドの電荷状態も上記選択で考慮される因子である。通常、プリカーサーイオンの断片化によって生成した質量は、MRMモード又はMS/MS(MS2)のモードで測定される。そして、最も強いシグナルとなる一次フラグメントイオンが選択される。次に、得られるシグナルを最大限にするために、プリカーサーイオン断片化条件及び分析条件が最適化される。Q1においては、二価イオンを選択するのが好適であり、Q3においては、一価一次フラグメントイオン、好ましくは上記二価プリカーサーイオンよりm/z比が高い一価一次フラグメントイオンを選択するのが好適であることが知られている。
【0012】
当業者であれば、Applied Biosystems社のMIDAS及びMRMパイロットソフトウェアや、MRMaid(非特許文献9)等の市販のソフトウェアを利用して、考え得るすべて遷移ペアを予想できるであろう。また、当業者であれば、F.Desiereら(非特許文献10)によって構築されたPeptideAtlasと呼ばれるデータベースを利用して、科学界によって報告されたペプチドMRM遷移をすべて集めることができるであろう。このPeptideAtlasデータベースは、インターネット上で無料で入手可能である。
【0013】
上記(m/z)1及び(m/z)2プロテオタイピックペプチドを選択するための他の方法は、他の研究の際に得られたMS/MS断片化スペクトルを用いることである。この研究としては、例えば、プロテオーム解析によってバイオマーカーを発見及び同定する段階であってもよい。この方法は、ユーザーの集会においてThermo Scientific社によって提案された(非特許文献9)。これにより、SIEVEソフトウェア(Thermo Scientific社)を用いて、実験的に同定されたペプチドからの遷移候補のリストを作成することができる。上記(m/z)1及び(m/z)2イオンの選択のためのある基準がJ.Meadら(非特許文献9)によって詳述されており、以下に詳細に説明する。
・内部切断部位、すなわち、内部リシン又はアルギニンを有するペプチドは、そのリシン又はアルギニンの次にプロリンが続くものでなければ、避けるべきである。
・アスパラギン又はグルタミンを有するペプチドは、脱アミノされることがあるので、避けるべきである。
・N末端にグルタミン又はグルタミン酸を有するペプチドは、自然に環化することがあるので、避けるべきである。
・メチオニンを有するペプチドは、酸化されることがあるので、避けるべきである。
・システインを有するペプチドは、起こり得る変性、還元、及び、チオール官能基のブロッキングといった工程中に再現不可能に修飾されることがあるので、避けるべきである。
・プロリンを有するペプチドは、通常、MS/MSにおいて非常に顕著な単一ピークを示す強度の強いフラグメントを生成するので、好ましいと考えられるが、単一の非常に顕著なフラグメントでは、複雑な混合物中で遷移の同定を実行することができない。実際、特有のフラグメントがいくつか同時に存在する場合においてのみ、目的とするプリカーサーイオンが実際に検出されることを確認することができる。
・C末端の隣(n−1番目)、又は、C末端から2番目(n−2番目)にプロリンを有するペプチドは、通常、一次ペプチドフラグメントのサイズが十分な特異性を有するには小さすぎると考えられるので、避けるべきである。
・プリカーサーより質量が大きいフラグメントを選択することが、特異性を向上させるために好ましい。このためには、二価プリカーサーイオンを選択する必要があり、プリカーサーより質量が大きく、最も強度の強い一次フラグメントイオン、すなわち、一価一次フラグメントイオンを選択する必要がある。
【0014】
さらに、最も一般的には、複雑流体(血液、血清、血漿、尿、糞便、唾液等)中に数ng/mlの濃度で含まれるタンパク質の分析に適合する感度及び特異性を確保するために、質量分析による定量分析に先立って、消化工程に加えて、該消化工程の前後に他の工程をはさむべきである。例えば:
【0015】
第一段階:分析対象のタンパク質ではない顕著なタンパク質を除去するためのタンパク質分画、又は、任意の好適な方法(電気泳動、クロマトグラフィー、免疫捕捉(非特許文献11))によるサンプルの精製。しかしながら、後者の方法は、分析対象のタンパク質に対する特異的な抗体の存在又は調製が必要であり、この抗体を得るためには時間及び費用がかかり得る。更に、後に続ける質量分析による分析の性能レベルが、抗体の質及び特異性にある程度影響を受けることになる。
【0016】
第二段階:変性、還元、及び、チオール官能基のブロッキング。
【0017】
第三段階:消化。
【0018】
第四段階:ペプチド分画。
【0019】
第二段階によって、消化率を向上させることができ、再現性と信頼性の点から、分析のさらに高い頑健性を確保することができる。高い感度を必要としない場合には、第一段階及び第四段階は任意である(非特許文献2)。一方、高い感度が必要な場合(数ng/ml)には、それらは不可欠である。このことは、非特許文献1、12、11、13、及び特許文献1に示されている。実際は、Q1及びQ3の三連四重極の精度を考えると、多くのペプチド(同重体又は擬似的同重体(quasi−isobaric)ペプチド)が、同一の遷移、又は装置の質量の許容誤差に含まれる遷移を生成し得る(非特許文献14)。この場合、プロテオタイピックペプチドと、同重体又は擬似的同重体混入物とが同時に投入されると、特異性の欠如のために誤った定量が行われる。質量分析の前工程のクロマトグラフィーによるペプチドの分離では、混入したペプチドの数を減少させることにより、特異性のレベルを補強する(非特許文献15)。しかしながら、この補強的な分画工程は十分でない場合もあり(非特許文献12)、従って、タンパク質の定量に用いるいかなる遷移も注意深く確認する必要がある。さらに、消化工程に加えて第一、第二、及び第四段階を含む完全な分析方法は、第一又は第四段階で抗体を使用しなければならない場合は特に、時間及び費用がかかる。
【0020】
さらに最近では、MRM3として知られる技術が、タンパク質を検出するために用いられている。この技術は、一次フラグメントイオンを選択すること、及び、二次フラグメントイオンを生成するために、それをさらに断片化することからなる。そして、この二次フラグメントイオンが検出される。J.Niessenら(非特許文献16)は、特に以下の三つ組を利用している:プリカーサー/一次フラグメントイオン/二次フラグメントイオン(MRM3遷移と称する)配列番号1:VLLQTLR(二価)/配列番号2:LLQTLR(二価)/配列番号3:LQTLR(一価)。しかしながら、著者らは、特にこのMRM3遷移を選択する理由について考察しておらず、標的タンパク質を分析することなく、その標的タンパク質の存在を単に示すのみに甘んじている。さらに最近では、A.Izrael−Tomasevicら(非特許文献17)が、IFN−αの検出のためにMS3を用いている。MS3は、分析したプロテオタイピックペプチドの性質を示すためにMS3の全スペクトルを用いるという点でMRM3と異なる。このために、著者らは、IFN−α4の検出のために、配列番号4:HDFGFPQEEFGNQFQK(三価)の分子イオンを、2回目の断片化を受ける一次フラグメントイオンとして配列番号5:DFGFPQEEFGNQFQK(二価)のイオンy152+を選択しており、また、すべてのIFN−α4のサブタイプに対しては、配列番号6:YSPCAWEVVR(二価)の分子イオンを、2回目の断片化を受ける一次フラグメントイオンとして配列番号7:PCAWEVVR(二価)のイオンy82+を選択している。MRM3モード及びMS3モードのいずれでも定量分析を行っておらず、著者らは、IFN−αのイオントラップ定量は満足のいくものではないことを強調している。著者らは、MS3において二次フラグメントイオンのシグナル/ノイズ比が改善されるとはしても、カウント数がFT−ICRよりも1000倍以上少ないと記載しており、SRM(MS2)法及びAMT(精密質量−保持時間(Accurate Mass and Time))(断片化を伴わないMS)法が好ましいと結論づけている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0072251号明細書
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】T.Fortinら,MCP,2008,E−pub
【非特許文献2】L.Anderson&C.Hunter,MCP,2006,573−588
【非特許文献3】H.Zhangら,MCP,2007,64−71
【非特許文献4】S.Carr及びL.Anderson,Clin.Cem.2008,1749−1752
【非特許文献5】Gaskell,Electrospray:principles and practise,J.Mass Spectrom.(1997),32,677−688
【非特許文献6】B.Han及びR.Higgs,Brief Funct Genomic Proteomic.2008年9月;7(5):340−54
【非特許文献7】K.−Y.Wangら,Anal Chem,2008,80(16)6159−6167
【非特許文献8】V.Fusaroら,Nature Biotech.27;2009;190−198
【非特許文献9】J.Meadら,MCP,2008年11月15日,E−pub
【非特許文献10】F.Desiereら,Nucleic Acids Res.2006年1月1日;34(database issue):D655−8
【非特許文献11】Kulasingamら,J.Proteome Res.,2008,640−647
【非特許文献12】H.Keshishianら,MCP,2007,2212−2229
【非特許文献13】L.Andersonら,J.Proteome Res.,2004,235−2344
【非特許文献14】J.Shermanら,Proteomics,2008,9:1120−1123
【非特許文献15】M.Duncanら,Proteomics,2009,9:1124−1127
【非特許文献16】J.Niessenら,MCP,February 23,2009,E−Pub
【非特許文献17】A.Izrael−Tomasevicら,Journal of Proteome Research,Targeting Interferon Alpha Subtypes in Serum:A comparison of analytical approaches to the detection and quantitation of proteins in complex biological mixtures,インターネット公開日:2009年4月7日
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0023】
このような現状を鑑みて、本発明は、信頼性があり、実施が容易で、低コストの質量分析法を用いる新規なタンパク質分析方法を提供する。本発明は、MRM3を用いるタンパク質分析方法であって、一次フラグメントイオンを特異的に選択することにも基づき、上記のような良好な定量分析が可能となるタンパク質分析方法を提供する。
【0024】
本発明は、サンプル中の標的タンパク質を定量的に検出するための方法であって、
a)ペプチドを生成するために上記サンプルを処理する工程と、
b)上記標的タンパク質から生成した少なくとも1つのプロテオタイピックペプチドを質量分析法によって定量分析する工程とを含み、
上記質量分析法では、
i)上記プロテオタイピックペプチドをイオン化してプリカーサーイオンを生成し、上記プリカーサーイオンをその質量m/zに基づいてフィルタリングし、目的とする上記標的タンパク質に応じて所定の質量(m/z)1のプリカーサーイオンを選択し、
ii)その選択されたプリカーサーイオンを一次フラグメントイオンへと断片化し、
iii)その生成した一次フラグメントイオンをその質量m/zに基づいてフィルタリングし、目的とする上記標的タンパク質に応じて所定の質量(m/z)2の一次フラグメントイオンを選択し、
iv)その選択された一次フラグメントイオンを二次フラグメントイオンへと断片化し、
v)上記二次フラグメントイオンの少なくとも一部を検出し、一連の定量的測定値を得、
vi)二次フラグメントイオンに関する少なくとも1つの定量的測定値を選択し、上記生成したプロテオタイピックペプチドの量及び上記サンプル中に存在する上記標的タンパク質の量と相関付けを行い、ここで、
選択された上記質量(m/z)2の一次フラグメントイオンは、プロリン及び/又はヒスチジンを1番目に有する二価ペプチドであることを特徴とする、方法に関する。
【0025】
以下の説明により、本発明のさらに明確な理解が可能となる。はじめに、使用する用語のいくつかの定義を以下に示す。
【0026】
「ペプチド」という用語は、少なくとも2つのアミノ酸が連結したものを意味するものである。当該アミノ酸は、天然アミノ酸でもよく、酵素の作用によって修飾されたアミノ酸等の修飾された天然アミノ酸でもよい。
【0027】
通常、「ペプチド」という用語は、2から100個のアミノ酸が連結したものを指す。また、6個より多いアミノ酸が連結したものは「タンパク質」と呼ばれることもあり、これら二つの概念を明瞭な境界線によって区別することはできない。本発明において、「タンパク質」という用語は、サンプル中に元々存在する連結したアミノ酸を意味し、「ペプチド」という用語は、例えば消化、化学的切断、又は質量分析計で断片化されることなどによって、初期タンパク質又はそのペプチドの少なくとも1つのペプチド結合が切断された結果生じる連結したアミノ酸を意味する。「タンパク質」という用語は、核タンパク質、リポタンパク質、リンタンパク質、金属タンパク質及び糖タンパク質、酵素、受容体、抗体及び抗原等のホロタンパク質やヘテロタンパク質を包含している。
【0028】
本発明の方法によって分析することができるタンパク質は、特に、少なくとも1個のプロリンを2番目からn−2番目に、及び/又は、少なくとも1個のヒスチジンを1番目からn−2番目に有する、n個のアミノ酸からなるペプチドを少なくとも1つ含むタンパク質であり、上記ペプチドは最初のタンパク質を切断すると得られる。当該ペプチドは1から15個のアミノ酸を含むことが好ましく、少なくとも6個のアミノ酸を含むことが好ましい。
【0029】
「プロテオタイピックペプチド」という用語は、タンパク質をペプチドに断片化するためのタンパク質の処理によって生成するペプチドを意味し、当該タンパク質又は当該タンパク質が属する極めて類似のタンパク質群に特有のものである。
【0030】
「サンプル」という用語は、検出対象のタンパク質を含有できる任意のサンプルを意味するものである。サンプルは生物(すなわち、動物、植物、ヒト)由来であってもよい。その場合、体液(例えば、全血、血清、血漿、尿、脳脊髄液、有機分泌物)試料、組織試料、又は単離した細胞試料であってもよい。この試料は、そのまま用いてもよく、明細書中、特に記載のない限り、分析の前に、当業者に公知の方法に従って濃縮、抽出、凝縮、精製系の処理を行ってもよい。サンプルは、工業的に得られたもの、すなわち、全てを列挙したものではないものの、空気試料、水試料、表面から採取された試料、成分又は製品、又は食物由来の製品であってもよい。上記食物由来のサンプルの中でも、例えば乳製品(ヨーグルト、チーズ)、肉、魚、卵、果実、野菜、水、又は飲料(牛乳、フルーツジュース、ソーダ等)のサンプルが挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの食物由来サンプルは、出来上がった料理又はソース由来であってもよい。また、食物サンプルは動物飼料、特に、動物用食品等に由来してもよい。
【0031】
上記m/z比は、本発明において用いられるイオン化されたペプチドの質量電荷比である。「質量電荷比」、「比」さらには「質量」という用語が、このm/z比に対して区別することなく使用される。この比の単位はThであるが、その名の「質量」から拡張してDaであってもよい。
【0032】
本発明に係る方法の第一工程a)は、標的サンプルに含まれるタンパク質の処理である。ペプチドへと断片化するために、サンプルのタンパク質すべてを、例えばタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)による、又は化学試薬の作用による消化などによって処理する。実際、タンパク質の切断は、物理化学的処理によって、生物学的処理によって、又はこれら2つの処理の組み合わせによって実行することができる。使用可能な処理の中でも、ヒドロキシルラジカル、特にH2O2による処理が挙げられる。ヒドロキシルラジカルによる処理はペプチド結合の切断を引き起こす。ペプチド結合の切断はタンパク質の任意のペプチド結合に無作為に起こる。ヒドロキシルラジカルの濃度によって、切断の数、すなわち、得られるペプチドフラグメントの長さが決まる。また、例えば、メチオニル残基のカルボキシル基単位でペプチド結合を特異的に切断する臭化シアン(CNBr)による処理等の他の化学的処理も使用可能である。また、タンパク質のトリフルオロ酢酸溶液を1000℃で加熱することにより、アスパラギン酸残基単位での部分的な酸性切断を行うことも可能である。
【0033】
しかしながら、酵素消化によるタンパク質の処理が好ましい。これは、物理化学的処理と比較して、タンパク質の構造がより多く保存され、制御がより容易である。「酵素消化」という用語は、適切な反応条件下での1種又は複数の酵素の単独又は複合的作用を意味するものである。プロテアーゼと称される、タンパク質を分解する酵素は、特定部位でタンパク質を切断する。通常、プロテアーゼはそれぞれ、アミノ酸配列を認識し、その配列内で常に同様の切断を行う。あるプロテアーゼは、単一のアミノ酸、又は、その間を切断する2つのアミノ酸からなる配列を認識し;他のプロテアーゼはさらに長い配列のみを認識する。これらのプロテアーゼは、エンドプロテアーゼであってもよく、エキソプロテアーゼであってもよい。公知のプロテアーゼの中でも、国際公開第2005/098071号に記載されている以下のものが挙げられる:
【0034】
・Arg及びLys残基のカルボキシル基でペプチド結合を切断するトリプシンや、リシンの−CO基のペプチド結合を切断するエンドリシンや、芳香属残基(Phe、Tyr及びTrp)のカルボキシル基でペプチド結合を加水分解するキモトリプシンや、芳香属残基(Phe、Tyr及びTrp)のNH2基で切断するペプシンや、Glu残基のカルボキシル基でペプチド結合を切断する、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)V8株のV8プロテアーゼなどの特異的酵素;
【0035】
・疎水性アミノ酸(Xaa−Leu、Xaa−Ile、Xaa−Phe)のNH2基でペプチド結合を加水分解する、細菌Bacillus thermoproteolyticus由来のサーモリシンや、全ての結合を実質的に加水分解し、制御された反応条件(酵素濃度及び反応時間)下でタンパク質をオリゴペプチドに変換できる細菌プロテアーゼであるサブチリシン及びプロナーゼなどの非特異的酵素。
【0036】
複数のプロテアーゼについて、それらの作用様式が適合する場合、それらを同時に使用することができ、あるいは、それらを連続的に使用することもできる。本発明において、サンプルの消化は、例えばトリプシンといったプロテアーゼの酵素作用によって行われるのが好ましい。
【0037】
このような処理工程によって、サンプル中に存在する、タンパク質に代表される大きな分子をより小さな分子であるペプチドに変換することができる。従って、その後、質量分析で得られる検出の感度が向上する。さらに、上記処理工程によって、所定の標的タンパク質の、リポーターペプチドとも呼ばれるいくつかのプロテオタイピックペプチドを生成することができる。例えば、他のタンパク質が同一のペプチド配列を含まないかどうか、又は他の遷移が阻害しないかどうか、などを確認することにより、各プロテオタイピックペプチドの特異性を実証しなければならない。こうして、上記処理によって、分析対象のタンパク質に特異的なプロテオタイピックペプチドが1つ以上得られる可能性を高めることができる。プロテオタイピックペプチドはそれぞれ、独立した分析によってタンパク質を定量することを可能にする。血液サンプルのような複雑流体中のMRM分析の特異性は確固としたものではない。従って、このような場合、各タンパク質について、いくつかのプロテオタイピックペプチドを分析することによって、それぞれの独立した分析の結果が実際に同じ量となることを確認できるであろう。従って、互いに正しく相関付けられた独立した分析を行うことによって、信頼性と再現性の点から、独立した各分析の特異性及び頑健性を確認することができるであろう。
【0038】
このように、この後の方法において、上記質量分析による分析のために選択される所定の比(m/z)1を有する各プリカーサーイオンとは、分析対象の標的タンパク質のプロテオタイピックペプチドに由来することとなる。
【0039】
サンプルの複雑さ次第では、上記処理工程の前に1つ以上の任意の工程を行ってもよい。サンプルの複雑さを低減するために、標的サンプル中に存在するタンパク質の分画という第一工程を行った後に、残ったタンパク質の処理を行ってもよい。「分画」という用語は、従来通り、存在する多くのタンパク質の精製を意味するものであり、これは、サンプル中の1つ以上のタンパク質を除去すること、又は、分析対象のタンパク質を含む1つ以上のタンパク質を選択することで行い得る。このような工程は、サンプル中に存在するアルブミン、IgG、IgA等の、分析対象の標的タンパク質ではない顕著なタンパク質を除去(depletion)することで行い得る。このような除去は、例えばアフィニティークロマトグラフィーによって行うことができる。この除去により、存在するタンパク質の数を減少させることで、サンプルの複雑さを低減することができる。アルブミン除去は出願人(上記T.Fortinら)によって提案されている。タンパク質のより大きなパネルの除去も、他のチーム(上記H.Keshishianら、及び、上記V.Kulasingamら)によって採用されている。本発明において、これらの方法を用いてもよい。しかしながら、アフィニティークロマトグラフィーには、免疫親和性樹脂を含む場合には、使用するクロマトグラフ媒体が高価であるという欠点がある。更に、上記T.Fortinらによって示されているように、捕獲の特異性が不十分であると、分析対象のタンパク質自体が親和性樹脂により部分的に保持されてしまい、後続の分析に送られないことがある。
【0040】
タンパク質を分画するための別の方法は、標的タンパク質を、例えばアフィニティークロマトグラフィー等によって免疫精製することからなる。この方法によれば、分析対象のタンパク質のみを含む分画(少数の混入したタンパク質も含み得る)を得ることにより、サンプルの複雑さを劇的に低減することができる。このような方法は、上記Kulasingamらによって記載されている。しかしながら、本発明に係る方法では、分析対象のタンパク質に対する抗体を必要とするこのような方法を用いないのが有利である。これは、本発明に係る方法は、分析対象のタンパク質に対して特異性を有するため、残存タンパク質数を非常に少なくするタンパク質の分画を必要としないからである。
【0041】
タンパク質を分画するためのさらに別の方法は、特に上記S.A.Gerberらによって記載されているように、SDS−PAGE電気泳動によって分析対象のサンプルを精製した後、分析対象のタンパク質の分子量に相当するバンドを切り取ることからなる。通常、電気泳動やクロマトグラフィー等に基づく、当業者に周知のすべてのタンパク質分画法が、サンプルの複雑さを低減するために使用可能である。
【0042】
タンパク質の分画を行うのであれば、特に、タンパク質の切断に至る処理工程の前であって、タンパク質の分画工程の後に、変性、還元、及びその後のタンパク質のチオール官能基のブロッキングという別の任意の工程を行ってもよい。任意ではあるが、この工程によって、消化処理率を向上させることができ、後続の分析でのさらに高い頑健性を確保することができる。あるタンパク質は、その三次元構造のおかげで、プロテアーゼのタンパク質分解作用に対して元々耐性がある(V.Brunら,MCP,2007,2139−2149)。このような場合、変性、還元、及びその後のタンパク質のチオール官能基のブロッキングという工程によって、プロテアーゼの作用が促進され、サンプル間で同様の消化処理率が確保される。標的サンプル中に存在するすべてのタンパク質は、例えば、尿素又はグアニジン、及び、ジチオトレイトール(DTT)又はトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)によって変性及び還元することができる(M.Sunら,Bioconjug.Chem.2005,16(5):1282−1290)。その後、生成した遊離のチオール官能基を、例えば、ヨードアセトアミド又はアクリルアミド等によってブロッキングする(B.Herbertら,Electrophoresis,2001,22:2046−2057)。
【0043】
本発明の方法によれば、上記処理工程中に生成した少なくとも1つのプロテオタイピックペプチドを質量分析によって分析する。通常、1つのタンパク質につき1つのプロテオタイピックペプチドを分析するが、1つのタンパク質につきいくつかのペプチドを分析することも可能である。また、種々のタンパク質のプロテオタイピックペプチドを連続的に分析することも可能である。上記処理工程中に生成したすべてのペプチドを、質量分析計に投入することができる。しかしながら、最も一般的には、特に標的タンパク質のプロテオタイピックペプチドに分析を集中させるために、生成したペプチドを分画する。このようなペプチドの分画は、例えば電気泳動法やクロマトグラフィー法によって実行することができる。これらの分離方法は、単独で用いることもでき、また、多次元分離ができるように互いに組み合わせて用いることもできる。例えば、上記T.Fortinら、及び上記H.Keshishianらにより記載されているように、イオン交換クロマトグラフィーによる分離を逆相クロマトグラフィーと組み合わせることによって、多次元クロマトグラフィーを行うことができる。これらの刊行物では、クロマトグラフ媒体はカラム中、又はカートリッジ中(固相抽出)に存在し得る。
【0044】
プロテオタイピックペプチドの電気泳動又はクロマトグラフィーの分画(又は、一次元、若しくは多次元クロマトグラフィーの保持時間)は各ペプチドに特有であるので、これらの方法を用いることによって、分析対象のプロテオタイピックペプチドを選択することができる。生成したペプチドのこのような分画によって、後続の質量分析による分析の特異性を高めることができる。
【0045】
電気泳動法又はクロマトグラフィー法とは別のペプチド分画のための方法は、N−糖ペプチドを特異的に精製することからなる(J.Stal−Zengら,MCP,2007,1809−1817、及び特許出願:国際公開第2008/066629号)。しかしながら、このような精製は、N−グリコシル化型の翻訳後修飾を受けたペプチドの定量のみを可能にするだけであって、あいにく、すべてのタンパク質がグリコシル化されるとは限らないので、その使用は制限される。
【0046】
ペプチドを分画するためのさらに別の方法は、標的ペプチドを、例えばアフィニティークロマトグラフィー等によって免疫精製することからなる。この方法によれば、分析対象のペプチドのみを含む分画(少数の混入したペプチドも含み得る)を得ることにより、サンプルの複雑さを劇的に低減することができる。SISCAPAと呼ばれるこのような方法は、上記L.Andersonら、及び米国特許出願公開第2004/0072251号明細書に記載されている。しかしながら、特異的な抗ペプチド抗体を得ることは困難な場合もあり、この場合、本発明に係る方法では、このような方法を用いない。更に、本発明に係る方法は、分析対象のタンパク質に対して特異性を有するため、分析対象である1つのプロテオタイピックペプチドが得られるペプチドの免疫親和性分画を必要としない。
【0047】
結論として、本発明に係る方法において、生成されたペプチドの質量分析による定量分析(工程b)に相当)よりも先に、工程a)で生成したペプチドのクロマトグラフィー又は電気泳動による分離を行うことが好ましい。このようなクロマトグラフィーによる分離は、逆相クロマトグラフィー、マイクロ流路クロマトグラフィー、すなわち、流量が毎分100μlから500μlのクロマトグラフィーによる分離、又は、固相抽出(SPE)による精製を用いるのが好ましい。
【0048】
本発明に係る方法の工程b)は、これより前の工程中に生成した少なくとも1つのプロテオタイピックペプチドを質量分析法によって検出することからなる。通常、1つのタンパク質当たり1つプロテオタイピックペプチドを分析するが、2つ以上を分析することも可能であり、その送られる順番は、選択したペプチド分画法によって質量分析計の前工程で調整される。
【0049】
本発明では、様々なモデルの質量分析計を使用することができる。これらのモデルでは、m/z比に基づいた3つの分離工程とこれらの分離工程間に行われる2つの連続した断片化、すなわちMS/MS/MS又はMS3と呼ばれるタイプの分析が可能でなけらばならない。例として、三連四重極型(L.Anderson及びC.Hunter,MCP,2006,573−588…)、又はイオントラップ型(B.Han及びR.Higgs,Brief Funct Genomic Proteomic.2008,Sep;7(5):340−54)、あるいは飛行時間型(MALDI−TOF)(K.−Y.Wangら,Anal Chem,2008,80(16),6159−6167)のモデルが挙げられる。しかしながら、イオントラップが組み込まれたハイブリッド三連四重極型モデルが好ましい。分析対象のペプチドは、最も一般的には溶液として、選択された質量分析計に投入され、分析される。
【0050】
第一工程i)では、タンパク質の切断に至るタンパク質の処理によって得られるペプチドが、質量分析計に投入され、分子イオンを生成するためにイオン化される。上記分子イオンは、フラグメントイオンを生成するためにその後、断片化されるため、プリカーサーと呼ばれる。質量分析計に投入するために、通常、ペプチドを水溶液に溶解する。従って、分析対象のサンプルは液体であることが好ましい。分子がイオン化されるイオン源としては、例えば、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)型、又は電気スプレー(ESI(電気スプレーイオン化))型がある。しかしながら、穏やかな条件の下、特に、常圧及び常温で電気スプレーイオン化を行うことが好ましい。
【0051】
その後、生成したプリカーサーイオンは、その質量m/zに基づいてフィルタリングされ、目的とする標的タンパク質に基づいて、所定の質量(m/z)1のプリカーサーイオンが選択される。このために、従来通り、上記イオンを電界で加速し、その質量電荷(m/z)比に依存する軌道に従って電界及び/又は磁界に誘導する。印加する電界及び/又は磁界を変えることによって、プリカーサーイオンの軌道を変えることができるので、目的とする(m/z)1比を選択することができる。本発明の好ましい特徴によれば、選択されたプリカーサーイオンは、アミノ酸数nが6から15であり、且つ、少なくとも1個のプロリンを2番目からn−2番目に、及び/又は、少なくとも1個のヒスチジンを1番目からn−2番目に有する二価ペプチドである。このような選択によって、後続の工程での良好な特異性及び選択性を達成できるとともに、シグナル/ノイズ比が改善されることとなる。好ましい一実施形態によれば、選択されたプリカーサーイオンは二価であり、少なくとも、2個のプロリン、又は、1個のプロリンと1個のヒスチジンとを有する。これは、2個のプロリン、又は、1個のプロリンと1個のヒスチジンとを有するプリカーサーイオンを用いることにより、MS3で生成される二次フラグメントがさらに少なくなり、最も有効な定量分析を行うためによりふさわしいからである。
【0052】
「プロリン(又はヒスチジン)を2番目からn−2番目に有するペプチド」という表現は、プロリン(又はヒスチジン)が2、3、4、5…n−5、n−4、n−3又はn−2番目に位置することを意味するものである。1番目はN末端部に相当し、n番目はC末端部に相当し、nはペプチド中に存在するアミノ酸数である。
【0053】
その後、目的とする標的タンパク質に応じて選択されたプリカーサーイオンが、工程ii)で一次フラグメントイオンへ断片化される。次いで、生成された一次フラグメントイオンは、その質量m/zに基づいてフィルタリングされ、所定の質量(m/z)2の一次フラグメントイオンが工程iii)で選択される。本発明の本質的特徴によれば、上記選択された一次フラグメントイオンは、プロリン又はヒスチジンを1番目(N末端)に有する二価ペプチドである。実際、プリカーサーイオンがプロリン又はヒスチジンを含む場合、そのプロリン又はヒスチジンそれぞれに対するN末端部のペプチド結合が断片化したものに相当する一次フラグメントイオンが存在する。本発明に係る方法の工程iv)では、選択された一次フラグメントイオンに対して、さらなる断片化が行われる。また、プリカーサーイオン及び一次フラグメントイオンの上記特定の選択によって、良好な断片化が行われることとなり、強いピークが得られることとなる。本発明において、比(m/z)1を有するプリカーサーイオン、及び比(m/z)2を有する一次フラグメントイオンは、分析対象のタンパク質に特有なものとなるように、且つ、再現性と信頼性の点からできるだけ感度がよく、できるだけ特異的で、できるだけ頑健性の高い分析ができるように選択される。
【0054】
従来通り、2回の連続した断片化は、電界内で、例えば窒素やアルゴン等の不活性ガスとの衝突によって、又は、単に、例えば飛行時間チューブ内などで電位差を印加することによって行われる。電界の特徴によって、断片化の強度及び性質が決まる。このように、例えば四重極では、不活性ガスの存在下に印加された電界によって、イオンに供給される衝突エネルギーが決まる。当業者であれば、分析対象の遷移の感度が高まるように、この衝突エネルギーを最適化できよう。例えば、Applied Biosystems社(アメリカ合衆国、フォスターシティー)の質量分析計AB SCIEX QTRAP(登録商標)5500のq2では、衝突エネルギーを5から180eVの間で変化させることが可能である。同様に、当業者であれば、可能な限り感度のよい分析ができるように、衝突工程の継続時間と、例えばイオントラップ内などの励起エネルギーとを最適化できよう。例えば、Applied Biosystems社の質量分析計AB SCIEX QTRAP(登録商標)5500のQ3では、励起時間と呼ばれる上記継続時間を0.010から50ミリ秒の間で変化させることが可能であり、上記励起エネルギーを0から1(任意単位)の間で変化させることが可能である。
【0055】
工程i)からiii)は、MRM分析に従来から用いられる工程に相当する。特に、このような工程は、三連四重極で行うことができる。三連四重極は、大抵の場合は短い方の四重極からなる衝突セル(q2と呼ばれる)によって隔てられた2つの直列の四重極分析器(Q1及びQ3と呼ばれる)を含む。もちろん、一次フラグメントイオンを二次フラグメントイオンへと断片化することができる質量分析計で、本発明に係る方法を実施することが必要である。本発明において、二次フラグメントイオンへの一次フラグメントイオンの断片化、及び一次フラグメントイオンの選択は、例えば、イオントラップを備えた三連四重極のQ3で行うことができる。四重極Q3にイオントラップ性能を有するハイブリッド三連四重極を使用してもよい。このような装置は、Applied Biosystems社から3200QTRAP(登録商標)、4000QTRAP(登録商標)又はAB SCIEX QTRAP(登録商標)5500の名称で販売されている。また、任意のイオントラップ型分析器において、MS3モードで一次フラグメントイオンを断片化することも可能である。この場合、プリカーサーイオンは上記イオントラップにおいて選択され、一次フラグメントイオンへと断片化される。今度は、同一イオントラップ装置において一次フラグメントイオンが選択され、二次フラグメントイオンへと断片化される。イオントラップから検出器へ二次イオンが連続して放出されることにより、二次イオンが最終的に検出される。
【0056】
本発明では、従来通りに、四重極型分析器(Q1)によって、選択されたプロテオタイピックペプチドに由来するプリカーサー分子イオンをその質量電荷比(m/z)1に基づいてフィルタリングすることができる。目的とするプリカーサーイオンの質量電荷比(m/z)1を有するペプチドのみが、第二の四重極(q2)に送られる。q2分析器によって、質量電荷比(m/z)1を有するプリカーサーイオンを一次フラグメントイオンへ断片化することができる。通常、上記断片化は、プリカーサーペプチドと、窒素やアルゴン等の不活性ガスとの衝突によって行われる。次いで、一次フラグメントイオンは、質量電荷比(m/z)に基づいて一次フラグメントイオンをフィルタリングする第三の四重極(Q3)に送られる。目的とするプロテオタイピックペプチドに特有のフラグメントの質量電荷比(m/z)2を有する一次フラグメントイオンのみに対して、本発明に係る方法の最終工程が行われることとなる。実際には、本発明に係る方法は、さらなる断片化を含み、後続の工程iv)では、選択された質量(m/z)2の一次フラグメントイオンが、二次フラグメントイオンへと断片化される。目的とするプロテオタイピックペプチドのフラグメントの質量電荷比(m/z)2を有する一次フラグメントイオンがQ3で選択された後、今度はこの一次フラグメントイオンが、例えばイオントラップ等によって断片化される。そして、一次フラグメントイオンの断片化によって生じた種々の二次フラグメントイオンが得られる。次いで、これらの種々の二次イオンは、例えばイオントラップや四重極などからなる質量分析計によって検出器へと放出されることとなる。上記放出は、例えば、無線周波数によって時間の関数として調整された電圧を印加することによって、イオントラップから連続的に行なわれる。
【0057】
誘導される電流を検出するために、上記二次フラグメントイオンが検出器に向けられる。当該検出器では、m/z比に応じて異なる時間で到達する二次フラグメントイオンが収集され、該イオンに関するシグナルが増幅される。本発明に係る方法の実施の一変形例によれば、工程v)において、上記二次フラグメントイオンによって誘導される電流の強度を時間の関数として検出し、所定期間に得られたシグナルを、存在する各種イオンの質量m/zに応じた質量スペクトルに分解し、上記所定期間に存在する検出された二次イオンそれぞれに関する質量ピークを得、選択された少なくとも1つの二次イオンの電流に相当するシグナルを再構成し、その相当する測定電流の強度を、工程vi)で選択される上記定量的測定値とする。一般に、全シグナルは時間の分割(fraction)、すなわち期間tによって得られる。期間tの継続期間は、質量分析器の走査速度、及び走査する質量範囲に依存するが、通常1秒未満である。各所定期間tに得られた全シグナルは、存在する各種イオンの質量m/zに応じた質量スペクトルに分解され、上記期間tに検出された二次イオンそれぞれに関する質量ピークが得られる。二次イオンは、連続するいくつかの期間tにおいて観察される。この連続するいくつかの期間tは、プロテオタイピックペプチドが溶出する期間Tに相当する。プロテオタイピックペプチドによって生成された二次フラグメントイオンのシグナルが最大である期間tは、プロテオタイピックペプチドの溶出時間、すなわち保持時間に相当する。プロテオタイピックペプチドの溶出時間は、精製されたプロテオタイピックペプチドの溶液、又は精製された標的タンパク質の溶液、又はどちらか一方が特に豊富な溶液を用いて、例えば従来通りMRMなどによって、決定することができる。従来法では、期間Tの最小継続期間は5から30秒である。しかしながら、期間Tの継続期間は通常、延長されるので、シグナルの測定値は、プロテオタイピックペプチドの溶出時間の微小変化に影響されない。このように、期間Tの継続期間を、クロマトグラフィーによる分離の総時間に達するように延長することができる。しかしながら、従来通り、期間Tは通常、1分から5分の間で固定され、プロテオタイピックペプチドの溶出時間を中心としたものとなっている。少なくとも1つの二次イオンの電流に相当するシグナルであって、定量するタンパク質由来のプロテオタイピックペプチドに特異的なシグナルは、期間T中、分割期間t毎に選択することができる。そして、このシグナルは、全シグナルから抽出することができる。期間Tの各瞬間t、すなわち期間Tの各分割期間に測定された強度の総和に相当する電流の強度が、工程vi)で選択される定量的測定値に相当することとなる。実際、実施例1に詳述するように、イオンによって生成され、時間の関数として検出された電流に相当するシグナルは、所定期間t(実際は非常に短い期間)毎に分解することができ、例えば、期間Tを最も代表する分割期間で合算され、存在する各種イオンの質量m/zに応じた質量スペクトルが得られる。こうして、工程v)で検出され、且つ、期間Tを最も代表する分割期間に存在する二次イオンに関する質量ピークが得られる。そして、所定の質量を有する1つ以上の二次イオンを選択することができ、その選択されたイオンの電流に相当するシグナルを再構成することができる。こうして、各期間tのフラグメントイオンによって誘導された電流であって、期間Tを最も代表する分割期間中に生じた電流の強度の合計が、プロテオタイピックペプチドの溶出に相当する期間Tを最も代表する分割期間の連続する期間t中に観察されたシグナルの総和を積分することよって得られる。この合計は、例えば、存在するプロテオタイピックペプチドの量の決定を可能にする定量的測定値に相当することとなる。シグナルが合算された、期間Tを最も代表する分割期間の最初の期間t及び最後の期間tは、シグナルが検出器のバックグラウンドノイズより大きい最初の期間t及び最後の期間tと一致させてもよい。このように測定された電流の強度を、存在するプロテオタイピックペプチドの量を決定するための定量的測定値としてもよい。当該定量的測定値は、国際単位系(SI単位)であるmol/m3若しくはkg/m3系統、又はこれらの単位の倍数若しくは約数、又はその倍数若しくは約数を含む国際単位の通常の派生物によって表されるという特徴を有する。非限定的な例として、ng/ml又はfmol/l等の単位が、定量的測定値を特徴づける単位である。工程vi)では、最大のm/zピークを有する二次フラグメントイオンに関する定量的測定値が選択されるのが好ましい。また、各種二次フラグメントイオンの定量的測定値を合算することも可能である。この場合、工程vi)では、例えば、最大のm/zピークを有する二次フラグメントイオンに関する少なくとも2つ(特に2つ又は3つ)の定量的測定値の合計値に基づいて、相関付けが実行される。
【0058】
データ処理コンピューターアセンブリにより、検出器によって受信された情報を質量スペクトルに変換することができる。検出器によって測定された、選択された二次フラグメントイオンによって誘導された電流の強度は、二次フラグメントイオンの量に比例する。二次フラグメントイオンの量自体は、一次フラグメントイオンの量に比例し、一次フラグメントイオンの量自体は、選択されたプロテオタイピックペプチドのイオン化によって得られるプリカーサーイオンの量に比例し、プリカーサーイオンの量自体は、分析対象のタンパク質の量に比例する。従って、二次フラグメントイオンによって誘導された電流の測定量は、分析対象のタンパク質の量に正比例する。二次イオンに関する少なくとも1つの定量的測定値を選択し、この定量的測定値を、生成されたプロテオタイピックペプチドの量、及びサンプルの中に存在するタンパク質の量と相関付けを行うことによって、定量分析を行うことが可能になる。
【0059】
二次フラグメントイオンによって誘導された電流の強度に相当する、測定されたピークの面積を、対応する二次フラグメントイオンの量と相関付けるためには、較正が必要である。上記対応する二次フラグメントイオンの量自体は、対応する一次フラグメントイオンの量と相関付けることができ、対応する一次フラグメントイオンの量自体は、プリカーサーイオンの量と相関付けることができ、プリカーサーイオンの量自体は、標的タンパク質の量と相関付けることができる。このために、本発明において、MRM分析に用いられる従来の較正が行われてもよい。従来、MRM分析は外部標準を用いて較正されるか、又は好ましくは、上記T.Fortinらによって記載されているような内部標準を用いて較正される。定量的測定値、及びプロテオタイピックペプチドの量、延いては標的タンパク質の量の相関は、分析対象の量が公知の標準シグナルに対して、測定されたシグナルを較正することにより得られる。較正曲線により上記較正を行うことができ、当該較正曲線は、例えば、様々な濃度の標準プロテオタイピックペプチドを連続投入すること(外部較正)によって、又は好ましくは内部標準として重ペプチドを用い、例えば、以下に詳述するAQUA法、QconCAT法若しくはPSAQ法などに従った内部較正によって得られる。「重ペプチド」という用語は、プロテオタイピックペプチドに相当するペプチドを意味するものであるが、1つ以上の炭素12(12C)原子が炭素13(13C)で置換されており、且つ/又は、1つ以上の窒素14(14N)原子が窒素15(15N)で置換されている。
【0060】
内部標準(AQUA)としての重ペプチドの使用も、上記S.A.Gerberらによって、さらには米国特許出願公開第2004/0229283号明細書に提案されている。その原理は、通常の天然同位元素より重い同位元素を含むアミノ酸でプロテオタイピックペプチドを人工的に合成することである。そのようなアミノ酸は、例えば、炭素12(12C)原子のうちのいくつかを炭素13(13C)に置換すること、又は、窒素14(14N)原子のうちのいくつかを窒素15(15N)に置換することにより得られる。このように合成された人工ペプチド(AQUA)は、(質量が大きい以外は)天然ペプチドと同一の物理化学的性質を厳密に有している。通常、それを所定の濃度で、質量分光法による分析の前工程、例えば、標的サンプルのタンパク質の切断に至る処理と、該処理工程後に得られたペプチドの断片化との間に、サンプルに添加する。その結果、上記AQUAペプチドは、ペプチドの断片化中に、分析対象の天然ペプチドとともに精製される。従って、これら2つのペプチドは、分析のために、質量分析計に同時に投入される。そして、それらは、上記源で同じイオン化率を示す。天然ペプチドと、濃度既知のAQUAペプチドのピークの面積を比較することによって、天然ペプチドの濃度を算出することができ、それにより分析対象のタンパク質の濃度にもさかのぼることができる。AQUA法の変形例が、QconCATという名でJ.−M.Prattら(Nat.Protoc.2006,1:1029−1043)によって提案されている。この変形例は、特許出願:国際公開第2006/128492号にも記載されている。それは、各種AQUAペプチドを連結すること、及び、組換え重タンパク質として人工ポリペプチドを生成することからなる。当該組換えタンパク質は、重同位元素を含むアミノ酸で合成される。このように、いくつかのタンパク質の同時分析を較正するための標準をより低コストで得ることができる。QconCAT標準は、タンパク質の切断に至る処理の前工程で、並びに、タンパク質の分画、変性、還元、及びその後のタンパク質のチオール官能基のブロッキング工程を行う場合はそれらの工程の前に、最初から添加される。従って、QconCAT標準は、天然タンパク質と同様にタンパク質の切断に至る処理サイクルを受ける。これにより、タンパク質の切断に至る処理工程の収率を考慮することができる。実際は、特に消化による天然タンパク質の処理は完全ではない場合がある。この場合、AQUA標準を用いると、天然タンパク質の量が少なく見積もられるであろう。従って、絶対的な分析のためには、タンパク質の切断に至る処理の収率を考慮することが重要な場合もある。しかしながら、V.Brunら(MCP,2007,2139−2149)によって、おそらくQconCATタンパク質の異なる三次元構造のために、QconCAT標準は、特に消化による天然タンパク質の処理での収率を正確に再現しない場合があることが示されている。
【0061】
従って、上記V.Brunらは、特許出願:国際公開第2008/145763号に記載のPSAQと呼ばれる方法の使用を提案している。この場合、内部標準は、天然タンパク質と同一配列を有するが、重アミノ酸で合成された組換えタンパク質である。この合成は、重アミノ酸を用いてex vivoで行われる。この標準は、(質量が大きい以外は)天然タンパク質と同一の物理化学的性質を厳密に有している。それは、タンパク質分画工程を行う場合はその前に最初から添加される。従って、それはタンパク質分画工程中に天然タンパク質とともに精製される。それは、特に消化による処理において、天然タンパク質と同じ収率を示す。ペプチド分画工程が行われる場合、切断後に得られた重ペプチドも天然ペプチドとともに精製される。従って、2つのペプチドは、質量分析計に同時に投入され、定量分析される。そして、それらは、上記源で同一イオン化率を示す。PSAQ法での天然ペプチド及び標準ペプチドのピーク面積を比較することにより、分析方法の全工程を考慮しつつ、分析対象のタンパク質の濃度を算出することができる。
【0062】
本発明において、上記較正を行うために、質量分析による分析、特にMRM又はMS分析で用いられるこれらすべての方法、すなわちAQUA、QconCAT又はPSAQなどの較正方法を用いてもよい。
【0063】
従って、本発明に係る方法は、特にin vitro診断のためのタンパク質の定量・定性分析のために行ってもよい。本発明に係る方法によって分析することができるいくつかのタンパク質と、選択されたプロテオタイピックペプチドとを下記表1Aで詳細に示す。
【0064】
【表1A】
【0065】
調査したタンパク質は、Swiss Protデータベースの下記番号に対応する:プラスチン−1(Q14651)、エズリン(P15311)、アミノアシラーゼ1(Q03154)、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(P07237)、ケラチン,1型Cytoskeletal20(P35900)、14−3−3シグマタンパク質(P31947)、S100−A11タンパク質 カルギザリン(P31949)。
【0066】
プロテオタイピックペプチドの理論的な質量は、そのアミノ酸配列から求められる。MRM Pilot(Applied Biosystems社)、Sequence Editor(Bruker Daltonik社、ドイツ、ブレーメン)等、多くのソフトウェアパッケージによってこの計算を行うことができる。表1Aに示す計算結果は、MRMパイロットによって行われたものである。二価プリカーサーイオン(M2H+)の理論的な質量は、プロテオタイピックペプチドの理論的な質量に2つのプロトンの質量を加え、得られた合計を2で割ることにより求められる。
【0067】
表1Bに、各タンパク質についての選択された二価プリカーサーイオンに関して、存在するプロリン及びヒスチジンの位置、並びに存在するアミノ酸数を示す(AAはアミノ酸を意味する)。
【0068】
【表1B】
【0069】
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼのタンパク質の場合、17個のアミノ酸を有するプロテオタイピックペプチドHNQLPLVIEFTEQTAPK(配列番号14)のみでは、対応する二価プリカーサーイオンの検出には至らず、ケラチン,1型Cytoskeletal20のタンパク質の場合、18個のアミノ酸を有するペプチドSLSSSLQAPVVSTVGMQR(配列番号23)のみでは、対応する二価プリカーサーイオンの検出には至らない。表1Cに、各タンパク質について、存在するプロリン及びヒスチジンの位置と共に、選択された二価一次フラグメントイオンを示す。
【0070】
【表1C】
【0071】
付属の図を参照した以下の実施例は、全く制限するものでなく、本発明の例示を可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1A】全イオンクロマトグラムで時間の関数として得られたシグナルの例を示す。
【図1B】図1A中、11.70分から11.90分の間に溶出した二次フラグメントイオンの質量スペクトルを示す。
【図1C】図1AのPSAのプロテオタイピックペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)の二次フラグメントy5、y6、y7−H2O、y7及びy8の質量に相当する抽出されたイオンのクロマトグラムの、3点で平滑化された総和を示す。
【図1D】較正曲線の例である。
【図2A】天然ペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)(保持時間11.78分)について得られたクロマトグラムを示す。
【図2B】重ペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)(保持時間11.79分)のクロマトグラムを示す。
【図3】較正曲線の他の例である。
【図4A】較正曲線の他の例である。
【図4B】較正曲線の他の例である。
【図5A】図5A、5B及び5Cは、各種衝突エネルギー40、35及び30eVそれぞれで得られた各種質量スペクトルである。
【図5B】図5A、5B及び5Cは、各種衝突エネルギー40、35及び30eVそれぞれで得られた各種質量スペクトルである。
【図5C】図5A、5B及び5Cは、各種衝突エネルギー40、35及び30eVそれぞれで得られた各種質量スペクトルである。
【図5D】誘導された電流の強度の変化を、一次フラグメントイオンの生成に用いられた衝突エネルギー(CE)の関数として示す。
【図6A】図6A、6B及び6Cは、最も強度の強い一価フラグメントイオン(図6A、0.098分から0.300分の間に溶出)、又は、プロリンを含む一価型フラグメントイオン(図6B、0.101分から0.306分の間に溶出)、又は、その同一イオンの二価型(図6C、0.102分から0.298分の間に溶出)のいずれかを一次フラグメントイオンとして選択した時に、Tp435タンパク質のプロテオタイピックペプチドSAPSPLTYR(配列番号53)から得られた二次フラグメントイオンの質量スペクトルを表わす。
【図6B】図6A、6B及び6Cは、最も強度の強い一価フラグメントイオン(図6A、0.098分から0.300分の間に溶出)、又は、プロリンを含む一価型フラグメントイオン(図6B、0.101分から0.306分の間に溶出)、又は、その同一イオンの二価型(図6C、0.102分から0.298分の間に溶出)のいずれかを一次フラグメントイオンとして選択した時に、Tp435タンパク質のプロテオタイピックペプチドSAPSPLTYR(配列番号53)から得られた二次フラグメントイオンの質量スペクトルを表わす。
【図6C】図6A、6B及び6Cは、最も強度の強い一価フラグメントイオン(図6A、0.098分から0.300分の間に溶出)、又は、プロリンを含む一価型フラグメントイオン(図6B、0.101分から0.306分の間に溶出)、又は、その同一イオンの二価型(図6C、0.102分から0.298分の間に溶出)のいずれかを一次フラグメントイオンとして選択した時に、Tp435タンパク質のプロテオタイピックペプチドSAPSPLTYR(配列番号53)から得られた二次フラグメントイオンの質量スペクトルを表わす。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0073】
実施例1:腫瘍マーカーの外部較正を用いたMRM3による定量分析の原理:前立腺特異抗原(PSA)
PSA(前立腺特異抗原、Scipac社(イギリス)製)を、以下の校正範囲のポイントを得るために、女性の血清(フランス血液銀行[French Blood Bank])中、下記濃度で使用する。
・200μg/mlのポイントを得るために、女性の血清165μl中、1.14mg/mlのPSAを35μl
・50μg/mlのポイントを得るために、女性の血清150μl中、上記200μg/mlのポイントを50μl
・10μg/mlのポイントを得るために、女性の血清160μl中、上記50μg/mlのポイントを40μl
・1μg/mlのポイントを得るために、H2O180μl中、上記10μg/mlのポイントを20μl
・100ng/mlのポイントを得るために、H2O180μl中、上記1μg/mlのポイントを20μl
・10ng/mlのポイントを得るために、H2O180μl中、上記100ng/mlのポイントを20μl
・1ng/mlのポイントを得るために、H2O180μl中、上記10ng/mlのポイントを20μl
・5μg/mlのポイントを得るために、H2O180μl中、上記50μg/mlのポイントを20μl
・500ng/mlのポイントを得るために、H2O180μl中、上記5μg/mlのポイントを20μl
・50ng/mlのポイントを得るために、H2O180μl中、上記500ng/mlのポイントを20μl
【0074】
0ng/mlのポイントを得るために、女性の血清200μlを用いる。
【0075】
次いで、上記範囲ポイント、及び、前立腺癌又は良性前立腺肥大症に罹患した患者から採取されたサンプルである分析対象の血清サンプルを、以下のプロトコルに従って消化する。
・pH=8.0の50mM重炭酸塩3mlで、100μlの血清を希釈。
・最終濃度が15mMとなるようにジチオトレイトール(DTT)を添加。
・60℃で40分間還元。
・常温でチューブを冷却。
・最終濃度が25mMとなるようにヨードアセトアミドを添加。
・常温、暗所で40分間アルキル化。
・1/30の比でトリプシンを添加。
・37℃で4時間消化。
・最終濃度が10mMとなるようにDTTを添加。
・60℃で40分間還元。
・常温でチューブを冷却。
・最終濃度が15mMとなるようにヨードアセトアミドを添加し、40分間、常温、暗所でチオール官能基をアルキル化。
・1/30の質量比でトリプシンを添加。
・37℃で一晩、消化。
【0076】
次いで、以下のプロトコルに従って、血清を脱塩し、濃縮する。
・ギ酸(すなわち、最終濃度の0.1%)によるサンプルの酸性化。
・1mlのメタノール、次いで1mlのH2O/0.1%ギ酸でWaters社のHLB Oasisカラムを平衡化。
・サンプルの投入、そのサンプルは重力で流れる。
・1mlのH2O/0.1%ギ酸で洗浄。
・H2O/0.1%ギ酸混合物中の80%メタノール1mlで溶出。
【0077】
その後、溶出した分画をpH3.00の200mM酢酸アンモニウム緩衝液3mlで希釈する。
【0078】
以下のプロトコルに従ってWaters社のOasis MCX SPEカートリッジでサンプルを分画する。
・メタノール1ml、次いでpH3.00の200mM酢酸アンモニウム緩衝液1mlでカートリッジを調整する。
・上記pH3.00の200mM酢酸アンモニウム緩衝液で希釈した血清をすべて、MCXカートリッジに投入し、重力によって流す。
・pH3.00の200mM酢酸アンモニウム緩衝液1ml、次いで80%メタノール+pH3.00の20%酢酸緩衝液の1mlでカートリッジを洗浄する。
・200mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.5)/メタノール(50/50)1mlで溶出を行う。
・体積を約100μlにするために、SpeedVac(登録商標)SPD2010型エバポレータ(Thermo Electron社、アメリカ合衆国、マサチューセッツ州、ウォルサム)で溶出液を2時間蒸発させる。
【0079】
その後、溶出液を10%アセトニトリル(ACN)/90%H2O+0.5%ギ酸の混合液を、200μlとするのに十分量(QS)用いて溶かす。
【0080】
得られたサンプルを100μl投入し、下記条件に従って分析する。
・Dionex社(アメリカ合衆国、カリフォルニア州、サニーベール)製のUltimate 3000クロマトグラフィーシステム
・Waters社のSymmetryC18カラム(内径2.1mm、長さ100mm、粒子径3.5μm)
・溶媒A:H2O+0.1%ギ酸
・溶媒B:ACN+0.1%ギ酸
【0081】
下記表2に定義するHPLC勾配:
【0082】
【表2】
【0083】
クロマトグラフィーカラムから流出する溶出液は、Applied Biosystems社(アメリカ合衆国、フォスターシティー)製のQTRAP(登録商標)5500質量分析計のイオン源に直接投入される。
【0084】
用いる機械パラメーターを以下に示す。
走査タイプ:MS/MS/MS(MS3)
極性:正
走査モード:プロファイル(Profile)
イオン源:Turbo V(登録商標)(Applied BioSystems社)
プリカーサー:636.80Da
一次イオン:472.30Da
Q1設定:ユニット分解能(unit resolution)でフィルタリング
Q3設定:線形イオントラップ
走査スピード:10000Da/秒
Q0でのトラッピング:有
Q3での線形イオントラップ充填時間:200.00ミリ秒
Q3入力電圧:8.00V
断片化:有
励起時間:25.00ミリ秒
Q3でのイオントラップ走査増分:0.12Da
走査開始質量(Da):500.00Da
走査終了質量(Da):850.00Da
時間(秒):0.0350秒
トラッピング無線周波数振幅(開始):4.30
トラッピング無線周波数振幅(終了):4.48
イオントラップ出力電圧(開始):−136.24V
イオントラップ出力電圧(終了):−125.09V
カーテンガス:50.00psi
コーン電圧:5500.00V
源温度:500.00℃
噴霧ガス:50.00psi
加熱ガス:40.00psi
衝突セル充填:高
クラスタ分離電位:50.00V
Q0前の入力電位:3.00V
衝突エネルギー:28.00eV
励起エネルギー(AF2):0.07
【0085】
得られたシグナルは、全イオンクロマトグラムで時間の関数として表わされる(図1A)。
【0086】
各瞬間tにおいて、二次イオンの質量は質量スペクトルとして観察することができる。従って、質量スペクトルは、カラムから溶出し、同時に質量分析計に投入される各種の物質の質量を測定する。11.70分から11.90分の間で溶出した二次フラグメントイオンの質量を図1Bに示す。これらの質量のうちのいくつかは、PSAのプロテオタイピックペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)の二次フラグメントの質量に相当する。従って、質量533.0、646.2、757.6、775.4及び846.6はそれぞれ、フラグメントy5、y6、y7−H2O、y7及びy8に相当する。先行技術では慣例として周知であるように、「y5」フラグメントは、その配列がプロテオタイピックペプチドの配列の最後の5個のアミノ酸であるフラグメントであり、「y6」フラグメントは最後の6個、といったぐあいである。
【0087】
Analyst1.5ソフトウェア(Applied Biosystems社)によって、質量窓に対応するイオン電流を時間の関数として抽出することができる。従って、例えば、標的二次フラグメントそれぞれに対応する、例えば質量単位などの窓のクロマトグラムを得ることができる。このクロマトグラムを、抽出されたイオンクロマトグラムと呼ぶ。また、Analyst1.5ソフトウェアによって、いくつかの抽出されたイオンクロマトグラムを合わせることができる。さらに、Savitzky−Golayアルゴリズム(A.Savitzky及びM.Golay(1964)Smoothing and Differentiation of Data by Simplified Least Squares Procedures.Analytical Chemistry,36:1627−1639)に従って、シグナルを平滑化することができる。このように、図1Cに、PSAのプロテオタイピックペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)の二次フラグメントy5、y6、y7−H2O、y7及びy8の質量に対応する抽出されたイオンクロマトグラムの、3点で平滑化された総和を示す。
【0088】
そして、Analyst1.5ソフトウェアによって、抽出されたイオンクロマトグラムで観察されるピーク下の面積を積分することができる。このように、PSA量が0から1000ng/mlの範囲のポイントについて、ペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)のy5、y6、y7−H2O、y7及びy8イオンの総和のシグナルを測定することにより、下記表3を得ることができた。
【0089】
【表3】
【0090】
これらの結果から、図1Dに示す較正曲線を作成することができる。この曲線は、線形回帰を用いて、方程式(y=1.9×105X+2.76×105)としてモデル化されている。当該方程式により、PSA量が未知の任意のヒト血清サンプルについて、PSA濃度を算出できる。
【0091】
例えば、以下の患者の血清を分析し、表4に示す以下の量を得ることができる。
【0092】
【表4】
【0093】
実施例2:腫瘍マーカーの内部較正を用いたMRM3による定量分析の原理:前立腺特異抗原(PSA)
T.Tortinら(MCP,2008,E−pub)により記載されたプロトコルに従って、ある原子の重同位元素を含むアミノ酸を用いて、内部較正の標準を合成する。
【0094】
こうして、PSAの器官型ペプチド(organotypic peptide)(LSEPAELTDAVK)(配列番号50)は、3つの炭素12(12C)原子の代わりに3つの炭素13(13C)原子を含むアラニンを2個含んで化学合成される。この合成は、ABI433A合成装置(Applied Biosystems社、アメリカ合衆国、フォスターシティー)及びL−(13C3)−アラニン−N−FMOC(Euriso−Top社、フランス、サントーバン)を用いて行われる。合成の最後に、その重ペプチドを30個の4ml容褐色ガラスボトルに分け、凍結乾燥する。
【0095】
質量分析器(LCQイオントラップ、ThermoFisher Scientific社、アメリカ合衆国、マサチューセッツ州、ウォルサム)に連結されたクロマトグラフィーによって、合成重ペプチドの純度を確認する。その純度は、95%を超えることが確認される。そして、褐色ガラスボトル中の重ペプチドの量を、Agilent Technologies社(フランス、マッシー)の1100型アミノ酸分析器により、ボトル3本のサンプルに基づいて確認する。こうして、ボトルが純度95%を超える重ペプチドを790μg含むことがわかる。
【0096】
重ペプチド790μgのボトル1本を、0.5%ギ酸が添加された水1mlに溶かす。濃度6.2×10−10mol/μlの重ペプチド原液が得られる。
【0097】
6.2×10−11mol/μlの溶液を得るために、上記重ペプチド原液をアセトニトリル/水(50/50)に1%ギ酸を加えた混合物で10倍に希釈する。
【0098】
6.2×10−12mol/μlの溶液を得るために、上記6.2×10−11mol/μlの溶液をアセトニトリル/水(50/50)に1%ギ酸を加えた混合物で10倍に希釈する。
【0099】
3.1×10−13mol/μlの溶液を得るために、上記6.2×10−12mol/μlの溶液をアセトニトリル/水(50/50)に1%ギ酸を加えた混合物で20倍に希釈する。
【0100】
3.1×10−14mol/μlの溶液を得るために、上記3.1×10−13mol/μlの溶液をアセトニトリル/水(50/50)に1%ギ酸を加えた混合物で10倍に希釈する。
【0101】
3.1×10−15mol/μlの溶液を得るために、上記3.1×10−14mol/μlの溶液をアセトニトリル/水(50/50)に1%ギ酸を加えた混合物で10倍に希釈する。
【0102】
患者の血清サンプル及びその各範囲ポイントを、実施例1に記載のプロトコルに従って処理し、酵素による消化工程と、Waters社のOasis HLBカラムでの脱塩工程との間で、3.1×10−15mol/μlの重ペプチド溶液50μlを添加する。
【0103】
その後、患者の血清サンプル及びその各範囲ポイントを実施例1に記載のプロトコルに従って分析するとともに、以下の重ペプチドに対応するイオンのモニタリングも行う。
プリカーサー:639.80Da
一次イオン:475.30Da
【0104】
重ペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)は天然ペプチドと同じ物理化学的性質を有しているため、クロマトグラフィーでの保持時間が同じである。従って、2つのペプチドは質量分析計に同時に投入される。このことは、図2Aの天然ペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)(保持時間11.78分)及び図2Bの重ペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)(保持時間11.79分)のクロマトグラムから見て取ることができる。
【0105】
一方、この重ペプチドは、天然PSAペプチドよりも6質量単位多い。その質量は、天然ペプチドの1277.66g/molに対して、1271.66g/molである。
【0106】
重ペプチドの量は、既知であり(1.55×10−13mol)、且つ、範囲ポイントすべてで同じである。従って、再構成されたシグナルは、全範囲にわたって一定とならなければならない。しかしながら、シグナルの変化が重ペプチドにおいて観察され、このことは、この同一の変化が天然ペプチドのシグナルにも影響を及ぼしていることを意味する。従って、軽ペプチドのシグナルを修正するために、重ペプチドのシグナルを用いることができる。これを行うために、抽出されて一緒に添加された特異的な二次天然イオン及び重イオン間のクロマトグラフィーのピーク面積比を、Analyst1.5ソフトウェアで求める。
【0107】
こうして、PSA量が0から1000ng/mlの範囲のポイントで、天然及び重ペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)のy5、y6、y7−H2O、y7及びy8イオンの総和のシグナルを測定することにより、下記表5を得ることができる。
【0108】
【表5】
【0109】
これらの結果から、図3に示す較正曲線を作成することができる。この曲線は、線形回帰を用いて、方程式(y=0.0208(X天然/X重)+0.0154)としてモデル化される。当該方程式により、PSA量が未知の任意のヒト血清サンプルについてPSA濃度を算出できる。
【0110】
例として、以下の患者の血清を分析し、表6に示す量が得られる。
【0111】
【表6】
【0112】
実施例3:外部若しくは内部較正を用いたMRM3、又は、ELISAによって得られた血清PSAの定量分析の比較
患者の血清(その外部又は内部較正を用いたMRM3による分析はそれぞれ実施例1及び2に記載済みである)を、一方ではVidas(登録商標)TPSAキット(ビオメリュー、フランス、マーシー・レトワール)及びVidas(登録商標)自動分析器を用いて、他方では総PSAキット及びModular Analytics E170自動分析器(Roche Diagnostics社、ドイツ、マンハイム)を用いてELISAで分析する。いずれの場合も、製造業者によって記載されたプロトコルを用いる。これらの血清は、前立腺癌(PCa)又は良性前立腺肥大症(BPH)に罹患した患者に対応している。表7に示すように、これらの3つの分析方法によって得られた量の比較を行う。
【0113】
【表7】
【0114】
その結果、外部又は内部較正を用いてMRM3法により求めた量は、従来のELISA法によって求めたものに非常に近いPSA濃度となる。
【0115】
なお、この点において、ELISA分析では血流中に存在するすべてのPSA分子を分析しているわけではない。これは、PSAがα−1抗キモトリプシン(ACT)及びα−2マクログロブリン(A2M)等のある種の血液抗プロテアーゼとともに複合体を形成するからである。A2Mと結合したPSAをELISAでは検出することができないが、T.Fortinら(MCP,2008,E−pub)によって確認されているように、質量分析では分析可能である。PSA−A2M複合体は、総PSAの約10%を占めるが、患者の病的状態によってこの量は変化し得る。このPSAの特有の性質が、ELISA法とMRM3法との間で認められた量の差の原因の一つである。
【0116】
実施例4:ヒト血清中のトレポネーマパリダム組換えタンパク質の定量分析
本実施例は、梅毒の病原菌であるトレポネーマパリダム(Treponema pallidum)由来のタンパク質であり、組み換えにより発現させた2種類のタンパク質(ビオメリュー、フランス、マーシー・レトワール)を用いて行う。組換えタンパク質のin vitroでの発現及び精製を容易にするために、トレポネーマパリダムタンパク質の天然配列は、製造業者により修飾されている。用いた2種類のタンパク質の正確な配列を以下に示す。
【0117】
Tp435梅毒の配列
配列番号51:
MRGSACVSCTTVCPHAGKAKAEKVECALKGGIFRGTLPAADCPGIDTTVTFNADGTAQKVELALEKKSAPSPLTYRGTWMVREDGIVELSLVSSEQSKAPHEKELYELIDSNSVRYMGAPGAGKPSKEMAPFYVLKKTKKGSSKYKYHHHHH
【0118】
Tp574梅毒の配列
配列番号52:
MRGSAHHETHYGYATLSYADYWAGELGQSRDVLLAGNAEADRAGDLDAGMFDAVSRATHGHGAFRQQFQYAVEVLGEKVLSKQETEDSRGRKKWEYETDPSVTKMVRASASFQDLGEDGEIKFEAVEGAVALADRASSFMVDSEEYKITNVKVHGMKFVPVAVPHELKGIAKEKFHFVEDSRVTENTNGLKTMLTEDSFSARKVSSMESPHDLVVDTVGTGYHSRFGSDAEASVMLKRADGSELSHREFIDYVMNFNTVRYDYYGDDASYTNLMASYGTKHSADSWWKTGRVPRISCGINYGFDRFKGSGPGYYRLTLIANGYRDVVADVRFLPKYEGNIDIGLKGKVLTIGGADAETLMDAAVDVFADGQPKLVSDQAVSLGQNVLSADFTPGTEYTVEVRFKEFGSVRAKVVAQSSKYKTHHHHHH
【0119】
Bio−Rad社(アメリカ合衆国、カリフォルニア州、ハーキュリーズ)の「Protein Assay」試薬を用いて、ブラッドフォード法(Bradford,M.M.(1976)A Rapid and Sensitive Method for the Quantitation of Microgram Quantities of Protein Utilizing the Principle of Protein−Dye Binding.Anal.Biochem.72:248−254)に従ったタンパク質分析により、Tp435及びTp574について組換えタンパク質量を求める。
【0120】
結果、Tp435タンパク質バッチの量は0.97mg/mlであり、Tp574タンパク質バッチの量は1.4mg/mlである。
【0121】
Tp435及びTp574組換えタンパク質を以下の方法で消化する。
・各タンパク質80μgをサンプリングし、pH=8.0の50mM重炭酸アンモニウム緩衝液を添加し、最終的に400μlとなるようにする。
・150mMのDTT100μlを添加する。
・95℃で20分間培養する。
・60℃で20分間培養する。
・サンプルを常温に冷却する。
・150mMヨードアセトアミド100μlを添加する。
・常温、暗所で40分間培養する。
・トリプシン4μgを添加する。
・37℃で4時間培養する。
・消化終了時の各タンパク質消化産物の濃度は133.3μg/mlである。
【0122】
「健康」とされる患者(フランス血液銀行[French Blood Bank])の血清100μlを8サンプル、以下のプロトコルに従って同時に消化する。
・100μlの各血清を、pH=8.0の50mM重炭酸アンモニウム3mlで希釈する。
・DTTを最終濃度が15mMとなるように添加する。
・60℃で40分間還元する。
・チューブを常温に冷却する。
・ヨードアセトアミドを最終濃度が25mMとなるように添加する。
・暗所、常温で40分間、アルキル化を行う。
・1/30の質量比でトリプシンを添加する。
・37℃で4時間、消化を行う。
・DTTを最終濃度が10mMとなるように再添加する。
・60℃で40分間還元する。
・チューブを常温に冷却する。
・ヨードアセトアミドを最終濃度が15mMとなるように再添加する。
・暗所、常温でアルキル化を行う。
・1/30の比でトリプシンを再添加する。
・37℃で一晩、消化を行う。
・ギ酸(すなわち最終濃度の0.1%)でサンプルを酸性化する。
・メタノール1ml、次いで「超純」水/0.1%ギ酸の1mlでWaters社Oasis HLBカラムを平衡化する。
・サンプルを投入し、重力で流す。
・1mlの水/0.1%ギ酸混合物で洗浄する。
・水/0.1%ギ酸混合物中の80%メタノール1mlで溶出する。
・体積が約500μlになるまで、SpeedVac(登録商標)SPD2010型のエバポレータ(Thermo Electron社、アメリカ合衆国、マサチューセッツ州、ウォルサム)で1時間、チューブを乾燥させる。
・均質な消化血清プールを得るために、処理した血清のチューブ8本を混合する。
【0123】
以下の較正範囲を調製する。
・133.3μg/mlのTp574タンパク質50μlを133.3μg/mlのTp435タンパク質50μlに添加する。Tp574及びTp435タンパク質それぞれの濃度が26.6μg/mlとなる原液が得られるように、0.1%ギ酸が添加された水400μlに上記混合物をすべて添加する(原液)。そして、各タンパク質が10000ng/mlの溶液が得られるように、上記原液75μlを0.1%ギ酸が添加された水125μlで希釈する。
・5000mg/mlの溶液が得られるように、上記原液37.5μlを0.1%ギ酸が添加された水162.5μlで希釈する。
・1000ng/mlの溶液が得られるように、上記10μg/mlの溶液20μlを水180μlで希釈する。
・100ng/mlの溶液が得られるように、上記1μg/mlの溶液20μlを水180μlで希釈する。
・10ng/mlの溶液が得られるように、上記100ng/mlの溶液20μlを水180μlで希釈する。
・500ng/mlの溶液が得られるように、上記5μg/mlの溶液20μlを水180μlで希釈する。
・50ng/mlの溶液が得られるように、上記500ng/mlの溶液20μlを水180μlで希釈する。
・1、5、10、50、100、500及び1000ng/mlのポイントを含む標準範囲を得るために、消化前の血清100μlに相当する消化された血清サンプルの7つ分に対してそれぞれ、上記の10000から50ng/mlの各溶液10μlを添加する。
・0ng/mlの範囲ポイントを得るために、上記血清サンプルの最後の分に水10μlを添加する。
【0124】
上記サンプル及びその各範囲ポイントを、以下のクロマトグラフィーパラメーターを用い、質量分析計の設定が異なる2つの期間で分析する。
・Dionex社(アメリカ合衆国、カリフォルニア州、サニーベール)のUltimate3000クロマトグラフィーシステム
・Waters社のSymmetry C18カラム(内径2.1mm、長さ100mm、粒子径3.5μm)
・溶媒A:H2O+0.1%ギ酸
・溶媒B:ACN+0.1%ギ酸
【0125】
下記表8に定義するHPLC勾配:
【0126】
【表8】
【0127】
期間1は、Tp435タンパク質のプロテオタイピックペプチドSAPSPLTYR(配列番号53)のモニタリングに相当する。期間2は、Tp574タンパク質のプロテオタイピックペプチドFVPVAVPHELK(配列番号54)のモニタリングに相当する。
【0128】
各プロテオタイピックペプチドについて、以下の機械パラメーターに従って、1番目にプロリンを有する二価一次フラグメントが選択され、断片化される。
【0129】
Tp435タンパク質のための期間1:
以下のパラメーターを除けば、機械パラメーターは実施例1と同じである。
プリカーサー:496.50Da
一次イオン:417.50Da
Q3入力バリア:4.00V
走査開始質量(Da):430.00Da
走査終了質量(Da):750.00Da
時間(秒):0.0320秒
トラッピング無線周波数振幅(開始):2.88
トラッピング無線周波数振幅(終了):4.10
イオントラップ出力電圧(開始):−142.07V
イオントラップ出力電圧(終了):−129.13V
源温度:450.00℃
加熱ガス:50.00psi
クラスタ分離電位:80.00V
衝突エネルギー:18.00eV
励起エネルギー(AF2):0.12
【0130】
Tp574タンパク質のための期間2:
以下のパラメーターを除けば、機械パラメーターは期間1と同じである。
プリカーサー:618.40Da
一次イオン:495.50Da
走査開始質量(Da):500.00Da
走査終了質量(Da):850.00Da
時間(秒):0.0350秒
トラッピング無線周波数振幅(開始):3.15
トラッピング無線周波数振幅(終了):4.48
イオントラップ出力電圧(開始):−139.24V
イオントラップ出力電圧(終了):−125.09V
クラスタ分離電位:90.00V
衝突エネルギー:25.00eV
励起エネルギー(AF2):0.09
【0131】
5から50ng/mlの各範囲ポイントについて、Tp435タンパク質のプロテオタイピックペプチドSAPSPLTYR(配列番号53)のy3及びy5イオン(m/z649.4及び439.4)の総和のシグナルを測定することにより、下記表9を得ることができた。
【0132】
【表9】
【0133】
5から50ng/mlの各範囲ポイントについて、Tp574タンパク質のプロテオタイピックペプチドFVPVAVPHELK(配列番号54)のy5及びy7イオン(m/z623.4及び793.4)の総和のシグナルを測定することにより、下記表10を得ることができた。
【0134】
【表10】
【0135】
これらの結果から、図4A及び4Bにそれぞれ示すTp435タンパク質用及びTp574タンパク質用の較正曲線を作成することができる。
【0136】
これらの曲線は、線形回帰を用いて方程式としてモデル化され、当該方程式により、Tp435量又はTp574量が未知の任意のヒト血清サンプルについて、Tp435及びTp574濃度を算出できる。
【0137】
Tp435濃度は、次の方程式によって算出される。
y=4.14×105X−1.5×106
【0138】
Tp574濃度は、次の方程式によって算出される。
y=4.38×104X−1.5×105
【0139】
実施例5:一次フラグメントとして二価イオンを用いたMRM3法による定量分析の性能レベルの改善
同じサンプル処理条件の下で、従来のMRM分析、又は二価一次フラグメントを用いないMRM3分析で得られた性能レベルと、実施例4において得られた分析性能レベルを比較する。各タンパク質について、上記3つの方法を用いて同じプロテオタイピックペプチド、すなわち、PSAについてはペプチドLSEPAELTDAVK(配列番号50)、Tp435タンパク質についてはペプチドSAPSPLTYR(配列番号53)、Tp574タンパク質についてはペプチドFVPVAVPHELK(配列番号54)を分析する。
【0140】
133.3μg/mlのTp574タンパク質50μlと、133.3μg/mlのTp435タンパク質50μlと、133.3μg/mlのPSAタンパク質50μlと、0.1%ギ酸が添加された水350μlとを含む原液を用いて実施例4のプロトコルに従って調製されたサンプルに対して分析を行う。
【0141】
上記3種のタンパク質に対して、実施例4に記載されたクロマトグラフィー法及び質量分析法を使用して、二価一次フラグメントを用いたMRM3分析を行う。質量分析計の設定は、各プロテオタイピックペプチドに適した設定にあたる3つの期間において決定される。本実施例において、この分析を方法1と呼ぶ。
【0142】
一価一次フラグメントを用いたMRM3分析は、m/zが636.8のPSAのプロテオタイピックペプチドに対してはy9イオン(943.5m/z)を、m/zが496.8のTp435のプロテオタイピックペプチドに対してはy5イオン(649.2m/z)を、m/zが618.8のTp574のプロテオタイピックペプチドに対してはy5イオン(623.3m/z)を用いて行う。クロマトグラフィーのピークは、以下の二次フラグメントのシグナルを足し合わせることによって得られる:PSAのプロテオタイピックペプチドに対してはm/z609+627+646+698の二次フラグメントのシグナル、Tp435のプロテオタイピックペプチドに対してはm/z631.2+457.4+475.4の二次フラグメントのシグナル、Tp574のプロテオタイピックペプチドに対してはm/z477.5+364.2+605.4の二次フラグメントのシグナル。本実施例において、この分析を方法2と呼ぶ。
【0143】
方法2では、質量分析計の操作が3つの期間に分かれる。
【0144】
PSAのための期間1:
以下のパラメーターを除けば、機械パラメーターは実施例1と同じである。
プリカーサー:636.80Da
一次イオン:943.50Da
走査開始質量(Da):600.00Da
走査終了質量(Da):800.00Da
時間(秒):0.0200秒
トラッピング無線周波数振幅(開始):3.53
トラッピング無線周波数振幅(終了):4.29イオントラップ出力電圧(開始):−135.20V
イオントラップ出力電圧(終了):−127.11V
源温度:450.00℃
加熱ガス:50.00psi
クラスタ分離電位:120.00V
Q0前の入力電位:4.00V
衝突エネルギー:23.00eV
励起エネルギー(AF2):0.12
【0145】
Tp435タンパク質のための期間2:
以下のパラメーターを除けば、機械パラメーターは期間1と同じである。
プリカーサー:496.50Da
一次イオン:649.20Da
Q3入力バリア:4.00V
走査開始質量(Da):430.00Da
走査終了質量(Da):640.00Da
時間(秒):0.0210秒
トラッピング無線周波数振幅(開始):2.88
トラッピング無線周波数振幅(終了):3.68
イオントラップ出力電圧(開始):−142.07V
イオントラップ出力電圧(終了):−133.58V
クラスタ分離電位:80.00V
衝突エネルギー:23.00eV
励起エネルギー(AF2):0.12
【0146】
Tp574タンパク質のための期間3:
以下のパラメーターを除けば、機械パラメーターは期間1と同じである。
プリカーサー:618.40Da
一次イオン:623.30Da
Q3入力バリア:4.00V
走査開始質量(Da):350.00Da
走査終了質量(Da):620.00Da
時間(秒):0.0270秒
トラッピング無線周波数振幅(開始):2.58
トラッピング無線周波数振幅(終了):3.60
イオントラップ出力電圧(開始):−145.30V
イオントラップ出力電圧(終了):−134.39V
衝突エネルギー:35.00eV
励起エネルギー(AF2):0.10
【0147】
MRM分析は、m/zが636.8のPSAのプロテオタイピックペプチドに対してはy9イオン(943.5m/z)を、m/zが496.8のTp435のプロテオタイピックペプチドに対してはy5イオン(649.2m/z)を、m/zが618.8のTp574のプロテオタイピックペプチドに対してはy5イオン(623.3m/z)を用いて行う。本実施例において、この分析を方法3と呼ぶ。
【0148】
方法3において、質量分析パラメーターは以下のとおりである。
走査タイプ:MRM(MRM)
極性:正
イオン源:Turbo V(登録商標)(Applied BioSystems社)
Q1設定:ユニット分解能でフィルタリング
Q3設定:ユニット分解能でフィルタリング
2回の走査間の中断:5.007ミリ秒
Q1質量(Da):496.20
Q3質量(Da):649.30
走査時間:30.00
クラスタ分離電位:110V
衝突エネルギー:25eV
衝突セル出力電位:10V
【0149】
Q1質量(Da):636.8
Q3質量(Da):943.5
走査時間:35.00
クラスタ分離電位:115V
衝突エネルギー:23eV
衝突セル出力電位:22V
【0150】
Q1質量(Da):618.4
Q3質量(Da):623.4
走査時間:35.00
クラスタ分離電位:120V
衝突エネルギー:29eV
衝突セル出力電位:10V
【0151】
カーテンガス:50.00psi
コーン電圧:5500.00V
源温度:500.00℃
噴霧ガス:50.00psi
加熱ガス:40.00psi
衝突セル充填:9.00(任意単位)
Q0前の入力電位:5.00V
【0152】
表11に示すように、バックグラウンドノイズで割ったシグナルの比が10となるタンパク質量を算出することによって、上記3種のタンパク質の定量限界が求められる。
【0153】
【表11】
【0154】
本発明に記載の方法で得られた定量限界は、方法2及び3で得られたものよりはるかに低い。従って、本発明では、他の方法より感度のよい定量分析となる。
【0155】
実施例6:衝突エネルギー最適化
MRM3を実施するために、プリカーサーイオン及び一次フラグメントの選択は不可欠である。必ずしも最も強度の強い一次フラグメントを選択する必要はない。本発明において、プロリン又はヒスチジンを有する二価イオンは、より特異的な断片化を示し、MS3において生成される二次フラグメントがより少なくなること、及び、それらが最も有効な定量分析を行うのにはるかに適していることが実証された。
【0156】
例として、Tp435タンパク質のプロテオタイピックペプチドSAPSPLTYR(配列番号53)の衝突エネルギーを最適化した。
【0157】
Tp435タンパク質50μlを消化し、Waters社Oasis HLBカラムで脱塩し、0.1%ギ酸を添加したACN/水の50/50混合物300μlに添加する。そして、その混合物を流量10μl/分で質量分析計へ投入する。
【0158】
機械パラメーターは以下のとおりである。
走査タイプ:高感度プロダクトイオン(Enhanced product ion(EPI))
極性:正
走査モード:プロファイル
イオン源:Turbo V(Applied Biosystems社)
プリカーサー:496.20Da
Q1の分解能:ユニット
走査速度:10000Da/秒
Q0でのトラッピング:無
Q3での線形イオントラップ充填時間:1.00ミリ秒
動的充填:アクティブ
TIC標的 EMS走査:10.00×107カウント
TIC標的:10.00×107カウント
最大充填時間:250.000ミリ秒
最小充填時間:0.050ミリ秒
初期設定充填時間:1.000ミリ秒
Q3入力電圧:8.00V
Q3でのイオントラップ走査増分:0.12Da
走査開始質量(Da):200.00Da
走査終了質量(Da):667.01Da
時間(秒):0.0467秒
トラッピング無線周波数振幅(開始):2.19
トラッピング無線周波数振幅(終了):3.82
イオントラップ出力電圧(開始):−149.35V
イオントラップ出力電圧(終了):−125.68V
走査開始質量(Da):667.01Da
走査終了質量(Da):1000Da
時間(秒):0.0333秒
トラッピング無線周波数振幅(開始):3.82
トラッピング無線周波数振幅(終了):4.99
イオントラップ出力電圧(開始):−125.68V
イオントラップ出力電圧(終了):−108.80V
カーテンガス:30.00psi
コーン電圧:5500.00V
源温度:常温
噴霧ガス:18.00psi
加熱ガス:常温
衝突セル充填:高
クラスタ分離電位:100.00V
Q0前の入力電位:10.00V
衝突エネルギー:5〜60eV
【0159】
衝突エネルギーを40eVとする場合(図5A)、衝突エネルギーが35又は30eV(それぞれ図5B及び5C)での断片化と比較して、N末端の位置にプロリンを有する二価一次フラグメントに相当するフラグメント417.2の強度があまり強くないことがわかる。一次フラグメント417.2の強度が低下すると、他のフラグメントの強度は増加する。従って、最も強度の強い一次フラグメント、すなわち一価一次フラグメントに相当する649.5Daのものを選択し、衝突エネルギーを40eVとすることが好ましい。しかしながら、図5Dに見られる衝突エネルギーの最適化に示されるように、この選択が最適ではない。
【0160】
10μl/分で投入し、衝突エネルギーのみを5から60eVに変化させることによって、衝突エネルギーの最適化を行う。前のパラメーターとの違いは、Q1において質量496.5Daを選択し、Q3において質量417.8又は649.5を選択するサイクルタイム100秒のMRMタイプの走査モードとすること、及び、以下のパラメーターの調整だけである。
噴霧ガス:35.00
クラスタ分離電位:80.00
Q0前の入力電位:3.00
【0161】
N末端の位置にプロリンを有する二価フラグメントに相当する遷移496.3/417.8、及び、最も強度の強い一価フラグメントに相当する遷移496.3/649.5の衝突エネルギーを最適化することによって、図5Dに示すように、実施例4に対応する分析において遷移496.3/417.8ではシグナルに著しい利点が得られる。
【0162】
このシグナルの利点は、表12に示されるように、定量限界がより低いという特徴を有する、分析性能レベルがより高い定量分析を反映したものである。
【0163】
【表12】
【0164】
質量分析パラメーターを最適化した場合、本発明に記載の方法に従って二価一次イオンで得られた定量限界は、一価一次イオンで得られたものよりはるかに低い。従って、二価一次イオンを用いる上記方法によって、より感度のよい定量方法を行うことが可能となる。
【0165】
実施例7:一次フラグメントとして二価イオンを用いたMRM3法による定量分析の性能レベルの改善
プロリンを2個有し、そのうち1個は2番目にあるTp435タンパク質のプロテオタイピックペプチドSAPSPLTYR(配列番号53)の断片化を、最も強度の強いフラグメントイオン、又はプロリンを有する一価型フラグメントイオン、又は同イオンの二価型のいずれかを一次イオンとして選択することにより比較した。
【0166】
最も強度の強い一価一次イオンは、m/z649.2のy5イオンである。プロリンを有する一価型又は二価型一次フラグメントイオンは、一価型がm/z833.4の、二価型がm/z417.5のy7イオンである。
【0167】
Tp435タンパク質50μlを消化し、Waters社Oasis HLBカラムで脱塩し、0.1%ギ酸を添加したACN/水の50/50混合物300μlに添加する。その後、その混合物を流量10μl/分で質量分析計へ投入する。
【0168】
機械パラメーターは以下のとおりである。
最も強度の強い一価一次イオンのMS3の場合:
走査タイプ:MS3
極性:正
走査モード:プロファイル
イオン源:Turbo V(Applied Biosystems社)
プリカーサー:496.30Da
一次イオン:649.30Da
Q1の分解能:ユニット
走査速度:10000Da/秒
Q0でのトラッピング:有
Q3での線形イオントラップ充填時間:150.00ミリ秒
動的充填:無
断片化:有
励起時間:25.00ミリ秒
Q3入力電圧:8.00V
Q3でのイオントラップ走査増分:0.12Da
走査開始質量(Da):250.00Da
走査終了質量(Da):640.00Da
トラッピング無線周波数振幅(開始):3.08トラッピング無線周波数振幅(終了):4.36
イオントラップ出力電圧(開始):−144.99Vイオントラップ出力電圧(終了):−122.19Vカーテンガス:20.00psi
コーン電圧:5500.00V
源温度:常温
噴霧ガス:35.00psi
加熱ガス:常温
衝突セル充填:高
クラスタ分離電位:110.00V
Q0前の入力電位:10.00V
衝突エネルギー:24eV
励起エネルギー:0.11eV
【0169】
一価一次イオンy7のMS3の場合:
走査タイプ:MS3
極性:正
走査モード:プロファイル
イオン源:Turbo V(Applied Biosystems社)
プリカーサー:496.30Da
一次イオン:833.40Da
Q1の分解能:ユニット
走査速度:10000Da/秒
Q0でのトラッピング:有
Q3での線形イオントラップ充填時間:150.00ミリ秒
動的充填:無
断片化:有
励起時間:25.00ミリ秒
Q3入力電圧:8.00V
Q3でのイオントラップ走査増分:0.12Da
走査開始質量(Da):300.00Da
走査終了質量(Da):820.00Da
トラッピング無線周波数振幅(開始):3.24
トラッピング無線周波数振幅(終了):4.95
イオントラップ出力電圧(開始):−142.06V
イオントラップ出力電圧(終了):−111.66V
カーテンガス:20.00psi
コーン電圧:5500.00V
源温度:常温
噴霧ガス:35.00psi
加熱ガス:常温
衝突セル充填:高
クラスタ分離電位:110.00V
Q0前の入力電位:10.00V
衝突エネルギー:24eV
励起エネルギー:0.14eV
【0170】
二価一次イオンy7のMS3の場合:
走査タイプ:MS3
極性:正
走査モード:プロファイル
イオン源:Turbo V(Applied Biosystems社)
プリカーサー:496.30Da
一次イオン:417.50Da
Q1の分解能:ユニット
走査速度:10000Da/秒
Q0でのトラッピング:有
Q3での線形イオントラップ充填時間:150.00ミリ秒
動的充填:無
断片化:有
励起時間:25.00ミリ秒
Q3入力電圧:8.00V
Q3でのイオントラップ走査増分:0.12Da
走査開始質量(Da):300.00Da
走査終了質量(Da):850.00Da
トラッピング無線周波数振幅(開始):3.24
トラッピング無線周波数振幅(終了):5.05
イオントラップ出力電圧(開始):−142.06V
イオントラップ出力電圧(終了):−109.91V
カーテンガス:20.00psi
コーン電圧:5500.00V
源温度:常温
噴霧ガス:35.00psi
加熱ガス:常温
衝突セル充填:高
クラスタ分離電位:110.00V
Q0前の入力電位:10.00V
衝突エネルギー:25eV
励起エネルギー:0.12eV
【0171】
図6Aに示すように、m/z=649.2の最も強度の強い一価一次フラグメントイオンでは、上述の場合のようにMS3で行われた断片化は非常に複雑であり、すべての二次断片化ピークにシグナルが分かれている。MS3スペクトルの最も強度の強いピークは、3.2×105カウントである。
【0172】
図6Bに示すように、m/z=833.4の一価一次フラグメントイオンy7では、得られた断片化スペクトルは非常に複雑であり、多くの二次断片化ピークを含む。MS3スペクトルの最も強度の強いピークは、3.8×105カウントである。
【0173】
図6Cに示すように、m/z=417.5の二価一次イオンy7では、行われた断片化がはるかに単純であり、シグナルは5つの大きなピークに集約されている。大きなピークのシグナルは、7.3×106カウントである。
【0174】
これによって、本発明に従ってペプチドを選択することにより、より感度のよい分析を行うことができ、この選択が実施例5において認められた感度の利点をもたらす要因であることが示される。
【0175】
MRM3を行うために、一次フラグメントの選択は不可欠である。本実施例において示されるように、必ずしも最も強度の強い一次フラグメントを選択する必要はない。また、プリカーサーイオンの選択も重要である。本発明において、2個のプロリン、又は、1個のプロリンと1個のヒスチジンとを有する二価プリカーサーイオンが、より特異的な断片化を示し、MS3において生成される二次フラグメントがより少なくなること、及び、それらが最も有効な定量分析を行うのにはるかに適していることが実証された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中の標的タンパク質を定量的に検出するための方法であって、
a)ペプチドを生成するために前記サンプルを処理する工程と、
b)前記標的タンパク質から生成した少なくとも1つのプロテオタイピックペプチドを質量分析法によって定量分析する工程とを含み、
前記質量分析法では、
i)前記プロテオタイピックペプチドをイオン化してプリカーサーイオンを生成し、前記プリカーサーイオンをその質量m/zに基づいてフィルタリングし、目的とする前記標的タンパク質に応じて所定の質量(m/z)1のプリカーサーイオンを選択し、
ii)その選択されたプリカーサーイオンを一次フラグメントイオンへと断片化し、
iii)その生成した一次フラグメントイオンをその質量m/zに基づいてフィルタリングし、目的とする前記標的タンパク質に応じて所定の質量(m/z)2の一次フラグメントイオンを選択し、
iv)その選択された一次フラグメントイオンを二次フラグメントイオンへと断片化し、
v)前記二次フラグメントイオンの少なくとも一部を検出し、一連の定量的測定値を得、
vi)二次イオンに関する少なくとも1つの定量的測定値を選択し、前記生成したプロテオタイピックペプチドの量及び前記サンプル中に存在する前記標的タンパク質の量と相関付けを行い、ここで、
選択された前記質量(m/z)2の一次フラグメントイオンは、プロリン及び/又はヒスチジンを1番目に有する二価ペプチドであることを特徴とする、方法。
【請求項2】
選択された前記質量(m/z)1のプリカーサーイオンは、アミノ酸数nが6から15であり、且つ、少なくとも1個のプロリンを2番目からn−2番目に、及び/又は、少なくとも1個のヒスチジンを1番目からn−2番目に有する二価ペプチドであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
選択された前記質量(m/z)1のプリカーサーイオンは少なくとも、2個のプロリン、又は、1個のプロリンと1個のヒスチジンとを含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記生成したペプチドの質量分析による定量分析の前に、工程a)で生成した前記ペプチドのクロマトグラフィー又は電気泳動による分離を行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記クロマトグラフィーによる分離は、逆相クロマトグラフィーによる分離を行うことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記生成したペプチドの質量分析による定量分析は、三連四重極を備えた質量分析計を用いて行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記生成したペプチドの質量分析による定量分析は、イオントラップを備えた質量分析計を用いて行うことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記サンプルの処理は、プロテアーゼ酵素、例えばトリプシン等による消化によって行うことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程v)において、前記二次フラグメントイオンの少なくとも一部によって誘導される電流の強度を時間の関数として検出し、所定期間に得られたシグナルを、存在する各種イオンの質量m/zに応じた質量スペクトルに分解し、前記所定期間に存在する検出された二次イオンそれぞれに関する質量ピークを得、選択された少なくとも1つの二次イオンの電流に相当するシグナルを再構成し、その相当する測定電流の強度を、工程vi)で選択される前記定量的測定値とすることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程vi)において、前記所定期間で最大のピークm/zを有する二次フラグメントイオンに関する定量的測定値を選択することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程vi)において、前記相関付けは、少なくとも2つの定量的測定値の合計値に基づいて行い、前記少なくとも2つの定量的測定値はそれぞれ、前記所定期間で最大のピークm/zを有する二次フラグメントイオンに関するものであることを特徴とする、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
工程vi)で行う前記相関付けは、較正曲線を用いて行うことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程vi)で行う前記相関付けは、重ペプチドを用いた内部較正によって行うことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項1】
サンプル中の標的タンパク質を定量的に検出するための方法であって、
a)ペプチドを生成するために前記サンプルを処理する工程と、
b)前記標的タンパク質から生成した少なくとも1つのプロテオタイピックペプチドを質量分析法によって定量分析する工程とを含み、
前記質量分析法では、
i)前記プロテオタイピックペプチドをイオン化してプリカーサーイオンを生成し、前記プリカーサーイオンをその質量m/zに基づいてフィルタリングし、目的とする前記標的タンパク質に応じて所定の質量(m/z)1のプリカーサーイオンを選択し、
ii)その選択されたプリカーサーイオンを一次フラグメントイオンへと断片化し、
iii)その生成した一次フラグメントイオンをその質量m/zに基づいてフィルタリングし、目的とする前記標的タンパク質に応じて所定の質量(m/z)2の一次フラグメントイオンを選択し、
iv)その選択された一次フラグメントイオンを二次フラグメントイオンへと断片化し、
v)前記二次フラグメントイオンの少なくとも一部を検出し、一連の定量的測定値を得、
vi)二次イオンに関する少なくとも1つの定量的測定値を選択し、前記生成したプロテオタイピックペプチドの量及び前記サンプル中に存在する前記標的タンパク質の量と相関付けを行い、ここで、
選択された前記質量(m/z)2の一次フラグメントイオンは、プロリン及び/又はヒスチジンを1番目に有する二価ペプチドであることを特徴とする、方法。
【請求項2】
選択された前記質量(m/z)1のプリカーサーイオンは、アミノ酸数nが6から15であり、且つ、少なくとも1個のプロリンを2番目からn−2番目に、及び/又は、少なくとも1個のヒスチジンを1番目からn−2番目に有する二価ペプチドであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
選択された前記質量(m/z)1のプリカーサーイオンは少なくとも、2個のプロリン、又は、1個のプロリンと1個のヒスチジンとを含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記生成したペプチドの質量分析による定量分析の前に、工程a)で生成した前記ペプチドのクロマトグラフィー又は電気泳動による分離を行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記クロマトグラフィーによる分離は、逆相クロマトグラフィーによる分離を行うことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記生成したペプチドの質量分析による定量分析は、三連四重極を備えた質量分析計を用いて行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記生成したペプチドの質量分析による定量分析は、イオントラップを備えた質量分析計を用いて行うことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記サンプルの処理は、プロテアーゼ酵素、例えばトリプシン等による消化によって行うことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程v)において、前記二次フラグメントイオンの少なくとも一部によって誘導される電流の強度を時間の関数として検出し、所定期間に得られたシグナルを、存在する各種イオンの質量m/zに応じた質量スペクトルに分解し、前記所定期間に存在する検出された二次イオンそれぞれに関する質量ピークを得、選択された少なくとも1つの二次イオンの電流に相当するシグナルを再構成し、その相当する測定電流の強度を、工程vi)で選択される前記定量的測定値とすることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程vi)において、前記所定期間で最大のピークm/zを有する二次フラグメントイオンに関する定量的測定値を選択することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程vi)において、前記相関付けは、少なくとも2つの定量的測定値の合計値に基づいて行い、前記少なくとも2つの定量的測定値はそれぞれ、前記所定期間で最大のピークm/zを有する二次フラグメントイオンに関するものであることを特徴とする、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
工程vi)で行う前記相関付けは、較正曲線を用いて行うことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程vi)で行う前記相関付けは、重ペプチドを用いた内部較正によって行うことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【公表番号】特表2012−528313(P2012−528313A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512431(P2012−512431)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050991
【国際公開番号】WO2010/136706
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(504238301)ビオメリュー (74)
【出願人】(508019311)ユニヴェルシテ クロード ベルナール リヨン 1 (6)
【出願人】(305023584)サントル・ナシオナル・ド・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィック (8)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【住所又は居所原語表記】3 rue Michel Ange, 75794 PARIS CEDEX 16, France
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050991
【国際公開番号】WO2010/136706
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(504238301)ビオメリュー (74)
【出願人】(508019311)ユニヴェルシテ クロード ベルナール リヨン 1 (6)
【出願人】(305023584)サントル・ナシオナル・ド・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィック (8)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【住所又は居所原語表記】3 rue Michel Ange, 75794 PARIS CEDEX 16, France
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]