説明

質量分析のための生物試料担体

【解決手段】本発明は、親和性ゾーン、不用ゾーンおよび/またはMALDIマトリックスによって占められるゾーンを含む超疎性の表面を備えた試料担体に関する。さらに、本発明は、物質混合物からのある物質の単離およびその後の処理のための方法、ならびに物質の精製のための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親和性ゾーン、不用ゾーンおよび/またはMALDIマトリックスによって占められるゾーンを含む超疎性(ultraphobic)の表面を備えた試料担体(sample carrier)に関する。さらに、本発明は、物質の精製のための方法と物質混合物からの物質の単離およびその後の処理のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析による生体分子の分析において、単離されるべき物質、通常生体分子は、物質混合物から最初に分離され、および/または精製されなければならない。これは、いわゆる親和性物質で頻繁に実施される。したがって、過去に、それらの分析に先立って、生体分子の単離/精製のための試料担体および/または方法を用意する試みは少なくなかった。ここに、例として知られている上記した試みとして、DE 100 43 042Av1、WO94/28418およびWO05/016530がある。しかしながら、これらの刊行物に記載された方法または試料担体は、試料担体を製造することが比較的難しく、および/または、単離/精製における方法が比較的扱い難いという不利な点を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の目的は、最新技術の問題のない試料担体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
その目的は、超疎性領域、親和性ゾーンおよび不用ゾーンおよび/またはMALDIマトリックスによって占められるゾーンを含む試料担体で解決された。
【0005】
分析下での生体分子の簡単な濃縮および/または精製が、本発明に記載の試料担体を用いて可能になるということは、当業者にとって非常に驚くべきことであり、かつ予期しなかったことである。本発明に記載の試料担体は、製造するのが簡単でコスト効率が良い。本発明に記載の試料担体の好ましい具体例では、単離された分子のMALDI分析用試料担体を同時に使用することが可能である。
【0006】
本発明の意味の範囲内における試料担体は、任意に構成された表面を備えた任意に形作られた物である。しかしながら、試料担体は、平坦面を備えたプレートが好ましく、最も特に好ましくは、凹所のない好ましい試料担体である。最も好ましくは、本発明に記載の平面体は、超疎性の表面を含むフィルムである。好ましくは、本発明に記載の平面体の表面は実質的に平面であり;超疎性の表面に必要な表面地形学(topography)を有するが、液体が蓄積しうる微容積を有さない。
【0007】
本発明によれば、平面体には超疎性の表面がある。本発明の意味における超疎性の表面は、表面にある水および/または油の滴(drop)の接触角が、150°より大きく、好ましくは160°より大きく、最も特に好ましくは170°より大きく、および回転オフ(roll−off)角度は10°を超えないという点で特徴付けられる。回転オフ角度は、10μlの流れのない水および/または油の滴が表面を傾けることに対する重力によって移動する、水平型(the horizontal)に関連のある基本的に平面構造の表面の傾斜角であると理解される。上記超疎性の表面は、例えば、WO 98/23549、WO 96/04123、WO 96/21523、WO 99/10323、WO 00/39368、WO 00/39239、WO 00/39051、WO 00/38845およびWO 96/34697に示され、ここで参照として導入され、およびしたがって、開示部分に含まれる。
【0008】
好ましい具体例において、超疎性の表面には、積分限界がlog (f1/m-1) = −3およびlog (f2/mm-1) = 3の間で計算される積分S(log (f)) = a (f).fにより表現される、個々のフーリエ・コンポーネントおよびそれらの振幅の空間周波数が少なくとも0.3であり、および疎水性もしくは特にオレオホービック(oleophobic)な材料からなる、または、永続性の疎水性および/または特に永続性のオレオホービックな材料で被覆されている、表面地形学を有する。上記超疎性の表面は国際特許出願WO 00/39240に記載され、ここで参照として導入され、およびしたがって、開示部分に含まれる。
【0009】
さらに、本発明によれば、本発明に記載の試料担体は親和性ゾーンを含む。親和性ゾーンは、物質混合物を精製し、および/または、物質混合物からある物質を単離するために役立つ。本発明の意味における物質は、1つあるいはいくつかの分子を含みうる。好ましくは、分子は、例えばタンパク質、ペプチドおよび/またはDNA(DANN)混合物のような生体分子である。親和性ゾーンは、好ましくは、物質混合物から取り除かれるべき物質が吸着され、および/または単離されるべき物質が吸着され、精製/単離のための親和性吸着剤を含む。したがって、たとえば、C4−C18占有部を備えた吸着剤物質(ポロス、PE、バイオシステムズ)または磁化可能球体の海綿状のミクロスフェアは、ペプチド/タンパク質またはDNA混合物の精製にはるかに適しているとわかった。親和性ゾーンは当業者によく知られている方法で試料担体に適用できる。例えば、親和性吸着剤は、気相に置かれうる。それによって、試料担体は、親和性吸着剤で被覆することができない試料担体部分を覆うマスクを用いて覆われる。
【0010】
さらに、本発明によれば、本発明に係る試料担体には、ある分子が親和性ゾーンで吸着されている滴、または、例えば、ペプチド、タンパク質もしくはDNA混合物を精製するのに必要な洗浄液のいずれかが除去される不用ゾーンがある。本発明によれば、親和性ゾーンは、試料担体、および好ましくは親和性ゾーンの近隣に直接置かれる。
【0011】
親和性ゾーンおよび不用ゾーンは、好ましくは、超疎性セクションによって互いに離れている。
【0012】
さらに、親和性ゾーンおよび/または不用ゾーンは、好ましくは超疎性の表面より親油性および/または親水性である。本発明の意味における親水性および/または親油性は、水および/または油の滴がこれらのゾーンに置かれることがあることを意味する;すなわち、ピペッティングシステムを用いて懸濁される、水および/または油の滴は、親水性および/または親油性ゾーンと接触させられ、それに付着し続け、およびしたがってピペッティングシステムから分離される。10μlの水または油の滴は、好ましくは、接触角が<120°、好ましくは、<110°、最適に好ましくは<90°であり、および/または滴の回転オフ角度が10°を超えることを想定する。上記不用ゾーンは、例えば、超疎性コーティングの破壊によって製造されうる。
【0013】
不用ゾーンは、好ましくは、親和性ゾーンより大きい。
【0014】
さらに、好ましく、または本発明によれば、試料担体にはMALDIマトリックスによって占められるゾーンがある。
【0015】
本発明の意味におけるMALDIマトリックスは、たとえば、ノルドホフら(Nordhoff et al.)の「最大150,000ダルトンまでの分子量を持つ核酸(DNAおよびRNA)の分析のための新しい方法としてのMALDI−MS(プラント科学研究の現代質量分析方法の適用、オックスフォード大学出版、1996年、86〜101頁」に記載されている、いわゆるMALDI質量分析を実施するために必要である。
【0016】
好ましいMALDIマトリックスは、3−ヒドロキシピコリン酸、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、シナピン酸、2,4,6−トリヒドロキシアセトヘネノン、ニトロベンジルアルコール、ニコチン酸、フェルラ酸、カフェー酸、2−アミノ安息香酸、ピコリン酸、3−アミノ安息香酸、2,3,4−トリヒドロキシアセトフェネノン、6−アザ−2−チオチミジン、尿素、コハク酸、アジピン酸、マロン酸またはそれらの混合物である。MALDIマトリックスは、好ましくは、たとえば、ここで参照として導入され、およびしたがって、開示部分に含まれる、DE 102 58 674.8で開示されている通り、蒸着(deposition)によって試料担体に適用される。
【0017】
親和性ゾーンも、好ましくは、MALDIマトリックスにより占められるゾーンから超疎性セクションによって分離される。
【0018】
さらに本発明の目的は、物質混合物からのある物質の単離のための方法であり、その後、単離されるべき物質を有する滴が親和性ゾーンに適用され、滴(5)において単離されるべき物質が濃縮され、および滴がその後別のゾーンに移され、および分析物質で処理される工程のための方法である。
【0019】
本発明に係る方法で、物質混合物から物質を単離し、およびその後それを簡単かつコスト効果的に処理することが可能であることは、当業者にとって驚くべきことであり、かつまったく予期しなかったことであった。滴が濃縮後に移されるためのゾーンおよび親和性ゾーンに関して、参照が前述の開示でなされる。
【0020】
本発明に係る方法において、物質混合物が位置する滴は親和性ゾーンに適用される。親和性ゾーンにおいては、後で分析できず、および/または、分析の邪魔をする分子が、できるだけ完全に結合され、特に吸収される。その結果、分析されるべき物質はほとんど完全に単離される。続いて、したがって単離されおよび/または精製された物質は、分析物質、好ましくはMALDIマトリックスで処理される別のゾーンへ移される。
【0021】
さらに本発明の目的は、本発明に係る試料担体を使用する物質の精製のための方法であり、単離されるべき物質を含む滴が親和性ゾーンに適用され、上記物質は親和性ゾーンに固定、好ましくは結合され、上記滴は除去され、および/または洗浄液が加えられ、ならびに上記滴および/または洗浄液は不用ゾーンに移される。
【0022】
本発明に係る方法が実施するために簡単かつコスト効率が良いということは、当業者にとって驚くべきで、かつまったく予期しなかったことであった。特に、本発明に係る方法は、例えば後の分析を邪魔する材料から物質を遊離することを可能にする。
【0023】
好ましくは、洗浄液は、最も大きな滴部分が親和性ゾーンから不用ゾーンへ自力で移動するまで、親和性ゾーン上に成長した滴を形成する少量で加えられる。滴がある大きさを達成し、および/またはしたがって不用へある近さ(certain proximity)に達するとすぐに、滴は不用ゾーン上にほぼ完全に置かれる。
【0024】
さらに、それぞれの滴が親和性ゾーンから不用ゾーンへ移った場合、洗浄液の追加が常に繰り返し連続して起こることが好ましい。
【0025】
固定された物質は、精製、好ましくは溶出後、再び移動される。これらの物質がその後位置する液体は、その後好ましくは、分析物質で処理され、このために、滴が好ましくは分析物質が加えられる前に別のゾーンに移される。
【0026】
精製されるべき物質は、好ましくは、生体分子であり、および分析物質は、特に好ましくはMALDIマトリックスである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、図1〜4によって下記で例示される。これらの例示は単に典型的なものであり、および一般的な発明概念を制限しない。例示は等しくすべての発明概念に当てはまる。
【0028】
図1aにおいて、超疎性の表面13を有する本発明に係る試料担体1が例示される。さらに、本発明に係る試料担体は、不用ゾーン2、MATRIXゾーン3および親和性ゾーン4を含む。液体は試料担体、好ましくは親和性ゾーン4にピペット6、例えばピペット・ロボットの部品を用いて適用されうる。ゾーン2、3、4は、たとえば、試料担体が各場合において各所望のゾーンへの位置および大きさに対応する隙間がある、毎回異なるマスクを含む際に気相(蒸着)からの分離によって製造される。
【0029】
ある物質、たとえば、滴5における生体分子の濃縮のための本発明に係る試料担体の使用は、図1bの中で示される。これについては、滴5はピペット6を用いて親和性ゾーン4に適用され、および、滴5中の不要な物質が親和性ゾーン4にできるだけ完全に吸着されるまで、それはそこに存在する。示されている通りに、この滴は後でMALDIゾーン3へ移され、およびそこで分析されうる。
【0030】
本発明に係る試料担体を用いた物質の精製は、図2aおよび2bにおいて示される。第1に、滴は図1に示されるような親和性ゾーン4に適用され、および精製されるべき物質は親和性ゾーン4上で吸着される。次に、そこに位置づけられた滴が不用ゾーンに荒々しく横切る、矢印により示されているようにまで、洗浄液7はピペット6を用いて親和性ゾーンに適用される。この転置は図2bの中で示される。ごく少量の液体部分8が親和性ゾーン4に残っている間に、滴7のより大きな部分9は不用ゾーン2に置かれる。親和性ゾーン上に吸着された生体分子が十分に精製されるまで、この操作順序は繰り返されうる。
【0031】
精製された生体分子の分析は図3aおよび3bの中で示される。これらの生体分子は親和性ゾーンに置かれる(図3aを参照)。3bの中で示されるように、その後、溶出液10は親和性ゾーンから分析されるべき生体分子を放出するためにピペット6を用いて親和性ゾーン4に適用される。放出が実施された後、図3bおよび図3cの中で矢印によって示されるように、滴10がMATRIXゾーン3上にピペット6を用いて親和性ゾーン4から取り出される。当業者は、滴の移動がさらに他の手段によって起こりうることを認識する。そこで、それは次にMALDIマトリックスを溶解し、その後乾燥される。しかし、その結果、分析されるべき生体分子はMALDIマトリックスに取り込まれる。マトリックスと生体分子の結晶化合物は、図3eにあるようなレーザー12で衝突され(bombarded)、MALDI方法によって分析される。
【0032】
図4は物質の精製を上部で示し、不純物に関連する分画がすべての精製ステップに落ち込む。ボリュームV7への洗浄液7の滴の添加およびボリュームV8への急激な減少は、図4の下部で示される。この例において、洗浄液7は3回加えられる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1a】図1aは本発明に係る試料担体を示す。
【図1b】図1bは、本発明の試料担体への滴の適用を示す。
【図2a】図2aおよび2bは、吸着された物質の精製を示す。
【図2b】図2aおよび2bは、吸着された物質の精製を示す。
【図3a】図3は、精製された生体分子のMALDI分析を示す。
【図3b】図3は、精製された生体分子のMALDI分析を示す。
【図3c】図3は、精製された生体分子のMALDI分析を示す。
【図3d】図3は、精製された生体分子のMALDI分析を示す。
【図3e】図3は、精製された生体分子のMALDI分析を示す。
【図4】図4は、各洗浄サイクルを通じた不純物の減少を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親和性ゾーン(4)、不用ゾーン(2)および/またはMALDIマトリックスによって占められるゾーンを含むという点で特徴づけられる、超疎性の表面を備えた試料担体。
【請求項2】
親和性ゾーン(4)および不用ゾーン(2)が超疎性セクション(6)によって互いに分離されているという点で特徴づけられる、請求項1に記載の試料担体。
【請求項3】
親和性ゾーン(2)が生体分子に対する親和性吸着剤を含むという点で特徴づけられる、請求項1または2に記載の試料担体。
【請求項4】
親和性ゾーン(4)および不用ゾーン(2)が超疎性の表面より親水性であるという点で特徴づけられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の試料担体。
【請求項5】
不用ゾーン(2)が親和性ゾーン(4)より大きいという点で特徴づけられる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の試料担体。
【請求項6】
MALDIマトリックスによって占められるゾーン(3)を含むという点で特徴づけられる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の試料担体。
【請求項7】
ゾーン(3)が超疎性セクション(6)によって親和性ゾーン(4)から分離されているという点で特徴づけられる、請求項6に記載の試料担体。
【請求項8】
単離されるべき物質を含む滴(5)が親和性ゾーン(2)に適用され、単離されるべき物質が滴(5)において濃縮され、および滴がさらに別のゾーン(3)に移され、かつ分析物質で処理されるという点で特徴づけられる、物質混合物からの物質の単離およびその後の分析のための方法。
【請求項9】
下記の点で特徴づけられる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の試料担体を使用する物質の精製のための方法。
−精製されるべき物質を含む滴(5)が親和性ゾーン(2)に適用され、
−物質が親和性ゾーン(4)で固定され、好ましくは結合され、
−滴(5)が除去され、および/または、洗浄液(7)が親和性ゾーンに適用され、
−滴(5)および/または洗浄液(7)が不用ゾーン上に廃棄される。
【請求項10】
滴のより大きな部分が親和性ゾーン(2)から不用ゾーン(2)に移るまで、親和性ゾーン(2)上に成長した滴を形成する少量形で洗浄液が適用されるという点で特徴づけられる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
洗浄液の添加が数回繰り返されるという点で特徴づけられる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
物質が、単離後に再び動かされ、好ましくは溶解されるという点で特徴づけられる、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
単離される物質が分析物質で処理されるという点で特徴づけられる、請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
物質が分析物質の添加前に別のゾーン(3)に移されるという点で特徴づけられる、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
単離されるべき物質が生体分子であるという点で特徴づけられる、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
分析物質がMALDIマトリックスであるという点で特徴づけられる、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。

【図1a】
image rotate

【図1b】
image rotate

【図2a】
image rotate

【図2b】
image rotate

【図3a】
image rotate

【図3b】
image rotate

【図3c】
image rotate

【図3d】
image rotate

【図3e】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2008−541067(P2008−541067A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510439(P2008−510439)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【国際出願番号】PCT/EP2006/003732
【国際公開番号】WO2006/119858
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(599072611)キアゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (83)
【Fターム(参考)】