質量分析を用いた物質の同定方法
【課題】物質の構造に関する情報の取得効率を向上し、測定及び物質同定の時間を短縮し、同定精度を向上することのできる質量分析システムを提供する。
【解決手段】イオン化された試料を質量分析する工程、質量分析で観測されたイオンの中から第1のイオンを選択して断片化する第1の断片化工程、第1の断片化工程によって生じた複数の断片イオンを質量分析する工程、質量分析の結果を用いて、第1のイオンを再構成できる断片イオンの組み合わせを求める工程、断片イオンの組み合わせに含まれる断片イオンを断片化する第2の断片化工程、第2の断片化工程で生じた断片イオンを質量分析する工程を有する。
【解決手段】イオン化された試料を質量分析する工程、質量分析で観測されたイオンの中から第1のイオンを選択して断片化する第1の断片化工程、第1の断片化工程によって生じた複数の断片イオンを質量分析する工程、質量分析の結果を用いて、第1のイオンを再構成できる断片イオンの組み合わせを求める工程、断片イオンの組み合わせに含まれる断片イオンを断片化する第2の断片化工程、第2の断片化工程で生じた断片イオンを質量分析する工程を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多種類の成分を含むサンプルの分離分析システムに関し、特にタンパク質やペプチド、糖鎖、代謝産物などの生体関連物質解析に使用する液体クロマトグラフ/質量分析システム、分析方法、装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオ・創薬・食品分野を中心に、生体組織や体液などに含まれるタンパク質や糖鎖、代謝産物などの生体関連物質を網羅的に解析するプロテオーム解析、グライコーム解析、メタボローム解析が有効な戦略と認識されるようになりつつある。そして、これらの解析に向けて、主に質量分析法を用いた高スループット解析技術の開発が重要視されている。
【0003】
質量分析法においては、高分子量の生体由来分子を高効率にイオン化する技術が進歩してきた。質量分析機により、イオン化された分子の質量電荷比m/zを測定することができる。
【0004】
また、イオンを構成する分子に一定の割合で同位体元素が含まれるために、同位体を含む一連のイオンも同時に観測される。そのm/z軸における間隔は1/zとなることにより、イオンの価数を判定することが可能である。m/z及びz値から、イオンの質量mが算出される。更に、イオントラップを用いると、1回目の質量スペクトル(MS1と表記する)に観測されたイオンのうちの1つを選択的に残し、これを親イオンとして、CID(衝突誘起解離)、IRMPD(赤外多光子解離)又はECD(電子捕獲解離)により断片化し、断片イオンのスペクトルを得ることが可能である(MS2と表記する。生じた断片イオンを娘イオンとも言う)。得られた断片のうちの何れかを更に断片化することも可能である(MS3、MS4‥。以下、n≧2の測定について、MSnと表記する)。断片化方法の種類、及び断片化のエネルギーを制御することにより、分子内の特定の種類の結合について、断片化の過程で解離させることができる。断片化により生じた断片イオンから、親イオンの分子構造に関する情報を得ることができる。情報が不足する場合は、MSn測定を続けていくことで、更に情報が得られる。
【0005】
例えば、アミノ酸が数十分子重合したものであるペプチドの分析では、アミノ酸とアミノ酸の間の結合を切るような断片化を行い、何れかの結合が切断されて生じた多種の断片のうちから、その質量の差がアミノ酸20種類のうちの何れかと一致するような断片を順に見出すことにより、ペプチドのアミノ酸配列を端から読み取ることができる。この時、スペクトルに観測されたペプチドの断片からアミノ酸配列を読み取る処理を次のスペクトル取得までの時間内に自動で行い、次の断片化の親イオンとして最も適切なイオンを選択することで、効率よく物質同定のための情報を得ることができる。特にLC/MS(液体クロマトグラフ/質量分析)測定を行う場合には、ある成分がLCから溶出する時間幅は限られていることから、有用な技術であると言える(特許文献1)。
【0006】
例えば糖鎖の分析では、単糖と単糖の間の結合、あるいは単糖の環構造を切るような断片化を行い、データベースに構造情報が登録された(以下「既知」)糖鎖に特有の断片を観測することで、被分析糖鎖が同定できる場合がある(非特許文献1)。
【0007】
糖は、同質量の立体異性体が多数存在し、また環化様式も立体的に異なるα、βの2種が存在し、更に、単糖が鎖状に重合した物質である糖鎖には枝分かれ構造を有するものもある為、同じ質量の糖鎖であっても、多数の構造が可能性として考えられる。従って、質量分析により、データベースに構造情報が登録されていない(以下「未知」)糖鎖構造を一意的に決定することは困難である。
【0008】
そこで、複数種類の既知物質について、ある一定のイオン化、及び断片化条件における断片の質量スペクトルを予め用意すれば、被分析物質を同条件により測定して質量スペクトルを取得し、スペクトルパターンを比較する「パターンマッチ」を行うことで、既知物質と同一物質であるかどうかを判定することが出来る。
【0009】
また、断片化に際して脱離しやすい物質のデータベースを予め構築しておき、これを検索して断片イオンの帰属を行い、断片イオンと脱離物質の組み合わせを見つけることで、親イオンの候補を決定する事が出来る(特許文献2)。
【特許文献1】特開2004−257922号公報
【特許文献2】特開平8−124519号公報
【非特許文献1】Journal of the American Society for Mass Spectrometry (2002) p.1138-1148
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
あるイオンを断片化し、分子構造について更に情報を得るために、断片イオンの何れかを更に断片化するMSn測定を行うことができる。従来は、同時に複数の断片イオンが観測された場合、次の断片化の親イオンとして、イオン強度の強いものから順に選択していた。その理由は、MS2、MS3‥と断片化を続けていくにつれて、得られるスペクトル中に観測されるイオンのイオン強度が下がるため、強度の強いイオンを親イオンとして選んだ方が感度の面で有利だからである。
【0011】
例えば、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (2004) p.13417-13422では、ペプチドイオンについて、MS2測定を行い、観測された複数の断片イオンのうち3つを親イオンとして選択してMS3測定を行っている。たまたまペプチドのC末端を含む断片と、N末端を含む断片が、強度の強い断片イオン3つの中に含まれている場合、ペプチド配列の大部分を読み取ることができ、ペプチドを同定できる。
【0012】
しかし、観測される断片イオンのうち、片方の末端を含む一連の断片イオンはイオン強度が強いが、反対の末端を含む一連の断片イオンはイオン強度が低い場合には問題が発生する。それは、片方の末端が属する断片イオンばかりを次の断片化の親イオンとして選択することになり、反対の末端側の分子構造の情報が得られない点である。データ取得後、データ解析を行い、観測された各イオンの帰属を試みた時点で反対の末端側の情報が不足していることが分かった場合、再度測定をしなければならず、時間の無駄が生じる。
【0013】
また、質量分析の前段階として液体クロマトグラフ(LC)や電気泳動などの分離手段を用いた場合には、複数物質の混合物が分離カラムなどにより分離され、物質によって異なる時間に溶出され、イオン化手段によりオンラインでイオン化されて質量分析機に導入される。複数物質のうち1つの物質について見てみると、この物質が質量分析機に導入される時間は分離バンドの時間幅に限られる。質量分析機が1スペクトル取得するためには、装置の性能に依存するある一定以上の時間が必要であることを考慮すると、1つの物質についてMSn測定ができる回数には上限があることが分かる。例えば、ある物質Aの分離バンド幅が5秒で、質量分析機が1スペクトル取得に1秒を要する場合には、物質Aについて測定できる回数の上限は5回である。5回の測定のうち、1回目の測定はMS1、2回目の測定はMS1で観測されたイオンのうち、最も強度の大きいものについてMS2、3回目〜5回目の測定はMS2で観測された断片イオンのうち3つを親イオンとしてそれぞれMS3測定、を行ったとする。ここで、MS3の親イオンとして選んだ3つの断片イオンが、物質Aの質量のそれぞれ(1)20%、(2)30%、(3)50%の質量だったとする。3つのイオンの分子構造に全く重複がない場合、MS3測定により物質Aの分子構造のうち、20+30+50=100%についての情報が得られる。一方、(1)と(2)のイオンの分子構造がそれぞれ、(3)のイオンの分子構造中に含まれる場合、MS3測定を行っても物質Aの分子構造の50%についての情報しか得られない。このように、1つの物質についてMSn測定で得られた分子構造についての情報に偏りがある場合、十分な情報が得られず同定に至らない可能性がある。
【0014】
この問題の対策として、従来のLC/MSn自動測定装置においては、同じイオンを一定回数以上はMS2の親イオンとして選択しない機能を有するものや、測定前に予め親イオンとして選択する、あるいは選択しないイオンのm/zを指定する機能を有するものがある。しかし、MSn測定の親イオンは強度の強いイオンから順に自動選択するのが現状であり、分子構造全体についての情報を得るための対策はとられていない。
【0015】
本発明は、物質の構造に関する情報の取得効率を向上し、測定及び物質同定の時間を短縮し、同定精度を向上することのできる質量分析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明では、1スペクトル測定ごとにデータの解析を行い、次のMSn測定の親イオンとして適切なイオンを選択する機構を導入し、分子構造についての情報取得効率を向上させる。
【0017】
本発明による質量分析システムは、イオン化された試料を質量分析する質量分析機と、情報処理部とを含み、質量分析機は質量スペクトルに現れた特定のm/zを有するイオンを選択的に断片化して、断片化されたイオンを質量分析する機能を有し、情報処理部は、1つの親イオンと、当該親イオンから派生した複数の娘イオンの情報を受けて、親イオンを再構成できる娘イオンの組み合わせを求める断片イオン組み合わせ読み取り処理部を有し、断片イオン組み合わせ読み取り処理部によって求めた娘イオンの組み合わせに含まれる娘イオンを断片化して質量分析する指示を質量分析機に行う機能を有する。
【0018】
断片イオン組み合わせ読み取り処理部は、親イオンの質量をm、複数の娘イオンの質量をm1、m2、…、mn(nは2以上の正の整数)、親イオンの断片化の際に脱離する分子の質量をAとするとき、次式(1)を満たす娘イオンの組み合わせを求める。
m=m1+m2+…+ms+A(sは2以上でnより小さい正の整数) …(1)
【0019】
本発明による質量分析方法は、試料をイオン化する工程と、イオン化された試料を質量分析する工程と、質量分析で観測されたイオンの中から第1のイオンを選択して断片化する第1の断片化工程と、第1の断片化工程によって生じた複数の断片イオンを質量分析する工程と、質量分析の結果を用いて、第1のイオンを再構成できる断片イオンの組み合わせを求める工程と、断片イオンの組み合わせに含まれる断片イオンを断片化する第2の断片化工程と、第2の断片化工程で生じた断片イオンを質量分析する工程と、を有する。
【0020】
また、本発明によると、質量分析機から、1つの親イオンと当該親イオンの断片化によって発生した複数の娘イオンに関する情報を受けて、親イオンを再構成できる娘イオンの組み合わせを求める工程、求めた娘イオンの組み合わせに含まれる娘イオンを断片化して質量分析する指示を前記質量分析機に行う工程、をコンピュータに実行させるためのプログラムが提供される。このプログラムにおいて、親イオンを再構成できる娘イオンの組み合わせを求める工程では、前記式(1)を満たす断片イオンの組み合わせを求める。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、質量分析による物質の同定において、物質の構造に関する情報を取得する効率が向上し、測定及び物質同定の時間が短縮され、同定精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1に、本発明に基づく質量分析システムの装置構成例を示す。図1は、LC/MSn測定を行って得たスペクトルデータを実時間解析する質量分析システムの構成例を示し、液体クロマトグラフ10、イオン源20、質量分析機30、コンピュータ40、データ表示及びパラメータ入力部50を備える。
【0023】
試料である複数物質の混合物は、液体クロマトグラフ10に導入される。液体クロマトグラフ10には、物質の性質によって物質を分離する分離カラムが装着されており、分離カラムを通過した試料は、成分ごとに異なる時間に溶出する。溶出した試料の各成分は、イオン源20により、イオン化される。イオンは質量分析機30に導入される。質量分析機30は、質量分析部31、質量スペクトル検出部32、及び断片化制御部33を備える。質量スペクトル検出部32は、導入されたイオンの質量スペクトルを取得する。断片化制御部33は、イオンの断片化条件を制御する。質量スペクトルは、コンピュータ40内の情報処理部41へ送られる。コンピュータ40は、情報処理部41、既知物質についてMSn(n=1,2,3,…)のスペクトルデータを格納した既知物質データベース格納部42、測定データ格納部43を備える。情報処理部41は、イオン価数z・質量m決定部44、解析手順決定部45、パターンマッチ処理部46、断片イオン組み合わせ読み取り処理部47、最適親イオン及び断片化条件決定部48を有する。情報処理部41は、あるイオンについて得られたスペクトルを既知物質のデータと照合し、同定に至らない場合には、そのイオンについて更にデータを取得するべく、次の質量スペクトル取得の条件決定を行う。断片イオン組み合わせ読み取り処理部47では、あるイオンを親イオンとして、これを断片化して得られたスペクトル(MSnスペクトル、n≧2)に観測されたイオンの中から、もとの親イオン全体を構成する断片イオンの組み合わせを読み取る。
【0024】
このシステム構成により、LC/MSn測定において、実時間でスペクトルデータの解析を行い、次の測定の条件を逐次決定することができるため、効率的なスペクトル取得が可能である。
【0025】
図2に、本発明に基づく、典型的な糖鎖のMSnスペクトルの実時間解析の一例を示す。
【0026】
被分析物質は、各種糖鎖のうちの一例として、8つのマンノース、2つのN−アセチルグルコサミンからなる、枝分かれ構造を有する糖鎖を示している。マンノースには、1〜8まで番号付けをして表示している。
【0027】
この糖鎖を親イオンとして、断片化を行ったスペクトルを図2中に示す。親イオンの分子内の結合は、同時に1箇所以上切断される可能性があるが、本実施例では、もとの糖鎖の中の1箇所のみで結合が切れた場合のMS2スペクトルを示す。スペクトル中に、マンノース間の結合のうち、3−4、4−5、7−8、5−8間の結合が切れた断片が観測されており、それぞれのピークの帰属をa〜fに示す。
【0028】
この物質の構造が未知であり、更に構造についての情報を得たい場合、断片のうちいくつかを更に断片化し、MS3スペクトルを得ることができる。
【0029】
断片化の親イオンの選択に際し、本発明の、断片組み合わせ読み取りを行った場合を考える。もとの糖鎖の中の1箇所のみで結合が切断された場合、2断片が生じる。そこで、2断片組み合わせ読み取りの設定で読み取りを行うと、ピークaとf、bとe、cとdが、それぞれ、親イオン中の1結合が切れて生じた断片の組み合わせとして検出される。MS3の親イオンとしては、これら組み合わせのうちの何れを選んでも、分子全体の構造についての情報が得られるが、例えばこれらの組み合わせのうちで、2断片のイオン強度の和の大きい順に優先順位づけをすると、優先順位はピークcとd、bとe、aとfの順となる。この場合、MS3の1回目にピークc、MS3の2回目にピークdを断片化することとなり、糖鎖の非還元末端側、及び還元末端側、両方のMS3スペクトルが得られる。
【0030】
これに対して、従来法どおり、イオン強度の大きさ順に親イオンを選択すると、優先順位はピークc,b,a,d,e,fの順となる。しかし、ピークc,b,aは何れも、非還元末端側の糖鎖断片であり、MS3の1回目、2回目、3回目まででは、還元末端側の情報が得られない結果となる。
【0031】
以上のように、断片イオン組み合わせ読み取り処理を行うことにより、効率的に分子構造についての情報を得ることが出来る。
【0032】
本発明における既知物質データベース42としては、タンパク質、糖鎖、脂質、核酸、などの生体物質のデータベースや、人工合成物質のデータベースが挙げられるが、ここでは、タンパク質、及び糖鎖の既知物質データベースの例について以下に述べる。
【0033】
図3に、タンパク質の解析のためのデータベースの一例として、タンパク質の由来、名前、分子量、等電点、アミノ酸配列等の情報を備えたタンパク質データベースを示す。また、ワールドワイドウェブ上に公開されている遺伝子データベースに格納された遺伝子の塩基配列や、ユーザが独自に解読した遺伝子配列を翻訳してタンパク質のアミノ酸配列として用いてもよい。タンパク質のアミノ酸配列を用い、計算機により、タンパク質を酵素消化して生成するペプチドのリストを作成する。更にその各々のペプチドについて、質量分析機でペプチドを断片化した際に生成する断片リストを作成する。この断片リストを、既知物質のMSnスペクトルと見なすことができる。
【0034】
図4に、糖鎖の解析のためのデータベースの一例として、糖鎖の種類を示す記号、分子量、糖鎖構造、質量スペクトル等、の情報を備えた糖鎖データベースを示す。糖鎖構造が不明の場合は、不明である旨表記する。2次元糖鎖マップにおける位置が判明している場合には、その情報も備えていてもよい。一般に公開されている糖鎖質量分析データベースがある場合は、それを用いてもよいが、ユーザがいくつかの糖鎖を予め質量分析し、その情報を登録しておくこともできる。糖鎖の質量分析データとしては、MS1、MS2、MS3、MS4、‥スペクトルを登録しておく。MSnのnの値に上限はないが、典型的には20以下程度である。これらスペクトルを取得した装置、測定の条件を格納したメソッドファイル名も同時に記録する。各MSnスペクトルには、測定モード(+又は−)、親イオンの情報を添付する。更に、ユーザが予めいくつかの糖鎖をLC/MS分析し、保持時間の情報を添付しておくことも出来る。
【0035】
更には、ある1つの試料の測定であっても、断片化のエネルギーや、CID、ECDといった断片化の方法を変えて測定する場合が考えられる。更には、質量分析の方式として、イオントラップ、飛行時間型、磁場型、などがあり、質量分析の方式を変えて測定する場合が考えられる。測定条件を変えて測定する場合にも、既知物質データベースを利用可能とするための方法の一例を以下に述べる。
【0036】
1.一定の断片化条件で測定を行う場合
既知物質データベースは、ある一定の断片化条件で、既知物質に関して断片化を行ったスペクトルを格納する。格納されうる情報は、各既知物質について、それぞれ、親イオンのm/z、m、z値、MSn(n=2,3‥)スペクトルに現れた娘イオンのm/z、m、z値及びイオン強度情報である。LCによる分離についての知見が得られている場合、分離カラムの種類と溶離液の種類と保持時間に関する情報も含めてよい。
2.断片化条件を可変として測定を行う場合
既知物質データベースは、上記1の「一定の断片化条件で測定を行う場合」に格納される情報に加え、各断片化条件における親イオンのm/z、m、z値、娘イオンのm/z、m、z値及びイオン強度情報も格納される。
3.断片化方式、及びスペクトル取得方式の異なる測定装置を用いて測定を行う場合
既知物質全てに関して、全断片化条件におけるMSnスペクトルを取得することは不可能である。更に、イオンの断片化のされ方、得られるMSnスペクトルは、測定装置の方式(イオン化方法、断片化方法、質量分析方法、等)に依存するため、ある測定装置で得られたスペクトルと同じものが、他の方式の測定装置で得られるとは限らない。
【0037】
そこで、ある測定装置で得られたスペクトル情報を格納する既知物質データベースを、他方式採用の測定装置で得たスペクトルにも適用できるようにする方法として、次のような方法が考えられる。まず、典型的な複数の標準物質を定める。他方式採用の測定装置において、この複数の標準物質を、複数の断片化条件で測定し、MSnスペクトルデータを得る。このMSnスペクトルデータを、既知物質データベース内の同物質のMSmスペクトルデータと比較する。このとき、nとmは一致していなくてもよい。以上により、既知物質データベースに格納されたMSnスペクトルデータを他方式採用の測定装置で得られるMSnスペクトルデータに変換する関数を決定し、以後、既知物質データベースを参照する場合には、この関数で変換したスペクトルを適用する。
【0038】
以上のような既知物質データベースを有するシステムでは、確実なパターンマッチ処理が可能であり、その後の断片読み取りに進むか否かを適切に判断することが出来る。
【0039】
実際に測定した質量分析スペクトルから、既知物質データベースに格納されている既知物質の質量分析スペクトル情報と比較することで、物質の同定を行う方法の1つとして、パターンマッチが挙げられる。図5に、パターンマッチの方法の一例を示す。
【0040】
測定で得た質量スペクトルを、データベースに格納されたスペクトルのうちの1つと比較し、その一致度を判定することを考える。このとき、データベースに格納された全てのスペクトルについて各々比較を行ってもよいが、測定で得た質量スペクトルについての情報、例えばLCにおける保持時間や被測定試料の由来など、が既知の場合、比較するべきデータベースのデータを予め限定しておき、パターンマッチの回数を削減して処理時間を短縮することが可能である。
【0041】
図5に示すように、測定で得た質量スペクトルを、データベースに格納されたスペクトルのうちの1つと重ねあわせ、スペクトル中の全てのピークについて、ピークのイオン強度Iの値から、その一致度に相当する数値を計算する。その値が一定値以上、あるいは一定値以下の場合に、2つのスペクトルは同一であると判定する。一致度の計算方法として一例を以下に述べる。測定装置のm/zの精度Δ、データベースに格納された質量スペクトルにおける質量mのイオンの強度をI1(m)、データベースに格納された質量スペクトルにおけるピークの、頂点のm/z値をM、実際に測定した質量スペクトルにおける質量mのイオンの強度をI2(m)で表すとき、次式(2)で表されるε値を算出する。
【0042】
【数1】
【0043】
このε値は、2つのピークの重なり度合いを表し、大きいほど一致度は高い。このε値を全てのピークについて算出する。そして、例えば、それらのピーク全てについてε値がある一定値ε0より大きい場合に、2つのスペクトルは一致していると判定する。ε0は、装置の測定精度や、標準物質の測定結果をもとに、ユーザが決定することも可能である。
【0044】
この操作により、既知物質と同定されたイオンについては更なる解析に進まなくて良いと判断することで、解析時間の短縮化を図ることができる。
【0045】
図6に、実時間解析の手順の一例を示す。図1に示した本発明の質量分析システムは以下の手順により解析を行う。
【0046】
あるm/zをもつイオンXに対し、MS2測定を行う(S11)。断片化の際に、中性物質脱離だけが生じ、分子内の結合が切れた断片が得られない場合には、更に断片化が必要であるが、この例では、MS2において、中性物質脱離だけでなく、分子内の結合の解離した断片も得られたとする。質量スペクトル検出部31において質量スペクトルを取得し、イオン価数z・質量m決定部44において親イオンのm/z値と同位体ピーク間隔から、z、mとを算出する(S12)。
【0047】
質量分析の前段階で液体クロマトグラフによる分離を行った場合、その保持時間の情報により、候補既知物質の絞込みを行う。次に、パターンマッチ処理部46において、既知物質データベース42からm値の一致する既知物質イオンを検索し、それら既知物質イオンのMSnスペクトルと、実際に測定したイオンのMS2スペクトルのパターンマッチを行う(S13)。既知物質については、データベース42にn=1、2、3‥のスペクトルデータが格納されており、これら全てと、実測MS2スペクトルとのパターンマッチを行う。パターンマッチにより、既知物質と同定された場合には、この親イオンに関する解析手順は終了する(S14、Yes)。
【0048】
パターンマッチにより既知物質と判定されなかった場合(S14、No)には、親イオンのmをもとに、親イオン由来の断片の組み合わせを検出する(S15)。組み合わせる断片の数は2つ以上の任意の値をユーザが指定できるが、ここでは2つと指定した場合の断片イオン読み取り手順の一例を、図7に示す。この処理は、断片イオン組み合わせ読み取り処理部47で実行される。測定で得られたMS2スペクトルに観測された断片イオンのうち2つのイオンの質量がそれぞれma、mbであるとき、次式(3)を満たすma、mbの組み合わせを検出する。
m=ma+mb …(3)
【0049】
結合の解離の際に、H2Oなどが同時に脱離する場合は、これを考慮し、脱離物質の総質量をAとすると、次式(4)を満たす2イオンを見出すことになる。
m=ma+mb+A …(4)
【0050】
図7中の脱離物質質量リストに示す物質は、ペプチドの断片化の際に脱離することが知られている物質の一例である。本実施例では、上式中のAに相当する値として、これらの質量を用いて計算を行う。試料であるペプチドがリン酸化されていないことが分かっている場合には、事前にリン酸脱離を選択肢から削除してもよく、組み合わせ読み取り処理の精度が向上する。他の脱離物質についても、当該測定で脱離しないことが分かっていれば、事前に選択肢から削除することで、組み合わせ読み取り処理の精度が向上する。図7の実施例では、H2OとNH3が脱離する可能性のある物質と設定された場合の断片イオン組み合わせ読み取り処理について示している。このように、脱離物質のデータベースも同時に有し、組み合わせ検出の際に参照することで、検出される組み合わせの信頼性を向上させることができる。
【0051】
図6に戻り、最適親イオン及び断片化条件決定部48は、検出された組み合わせのうちで、MSn+1測定の親イオンとして適した組み合わせの順位付けを行う(S16)。順位付けの基準の一例として、断片ピークのイオン強度と、断片の価数zによる優先順位付けが挙げられる。親イオンのイオン強度が強いほど、MSn+1のピーク強度が大きく、解析しやすくなる。また、親イオンの価数が2価の方が、1価に比べて効率よく断片化する。従って、組み合わせに含まれるピークの強度が大きく、更に2価のイオンが多い組み合わせから順に、MSn+1測定の親イオンとして優先順位づけする、という方法が考えられる。次に、最適親イオン及び断片化条件決定部48は、MSn+1測定の親イオンとして選択した組み合わせに含まれる断片について、適切な断片が得られるようなCIDなどの解離条件を決定し、情報処理部41は質量分析機30の断片化制御部33に解離条件を設定してMSn+1測定を行う(S18)。適切な組み合わせがない場合は、イオンXについての解析手順を終了する(S17、No)。
【0052】
以上の解析手順により、観測イオンと既知物質との照合、更なるデータ取得の要不要の判断、及び更なるデータ取得の為の親イオン選択を効率的に行うことが出来る。
【0053】
図8に、本発明に基づいて行う糖鎖解析を想定した、質量分析データ処理システムにおける各部間での情報の流れの一例を示す。
【0054】
質量分析データ処理システムは、図1に示すように、ユーザパラメータ入力部50、質量スペクトル検出部32、CID制御部(断片化制御部33)、イオン価数z・質量m決定部44、解析手順決定部45、パターンマッチ処理部46、断片イオン組み合わせ読み取り処理部47、最適親イオン及びCID条件決定部48、既知糖鎖データベース格納部42、測定データ格納部43を有する。液体クロマトグラフ10で分離された溶液あるいは気体試料が、オンラインで質量分析機30に導入される場合、保持時間計測部も有する。以下に、図8に示した質量分析データ処理システムにおける情報の流れを述べる。
【0055】
1.ユーザパラメータ入力部50で設定された解析パラメータを、解析手順決定部45に一時的に保存する。次に測定を開始し、MS1で観測されたイオンのうちの1つに関して、スペクトル中に、適当な断片イオンを観測するまでMSn測定を行う。
2.クロマトグラフや電気泳動で分離された溶液あるいは気体試料がオンラインで質量分析機に導入される場合、保持時間、溶媒組成等のデータが解析手順決定部45に一時的に保存される。
3.質量スペクトル検出部32から、質量スペクトルデータが、イオン価数z・質量m決定部44へ送られ、イオン価数z・質量m決定部44では、各ピークのz、mを算出して、質量スペクトルデータに付加する。このデータはさらに解析手順決定部45に一時的に保存される。
4.解析手順決定部45から、測定データ格納部43へ、保持時間と質量分析スペクトルデータを1組の情報として書き込む。
5.既知糖鎖のデータを、既知糖鎖データベース格納部42に要求する。データベース検索の際に保持時間情報を使用する設定の場合、許容変動値を含む保持時間範囲に出現することが知られる既知糖鎖のデータを要求する。
【0056】
6.既知糖鎖データベース42から、解析手順決定部45に、一時的に既知糖鎖データを得る。
7.解析手順決定部45からパターンマッチ処理部46へ、質量分析スペクトルデータと既知糖鎖のスペクトルデータを送る。
8.パターンマッチ処理部46から解析手順決定部45へ、パターンマッチ判定結果を送る。
9.パターンマッチの判定結果A(既知糖鎖と判定)の場合で、判定確度が一定値以上の場合(A−1)、質量分析スペクトルデータに、同定情報を付加する。ここで該イオンに対する実時間解析を終了する。
10.パターンマッチの判定結果A(既知糖鎖と判定)の場合で、判定確度が一定値以下の場合(A−2)、更に情報を得るために、MSn+1測定を行うべく、断片イオン組み合わせ読み取り処理部47に質量スペクトルデータを送る。次に項目13.へ進む。
【0057】
11.パターンマッチの判定結果B(該当する既知糖鎖なしと判定)の場合で、判定確度が一定値以上の場合(B−1)、質量分析スペクトルデータに、未知糖鎖である旨情報を付加する。ここで該イオンに対する実時間解析を終了する。
12.パターンマッチの判定結果B(該当する既知糖鎖なしと判定)の場合で、判定確度が一定値以下の場合(B−2)、更に情報を得るために、MSn+1測定を行うべく、断片イオン組み合わせ読み取り処理部47に質量スペクトルデータを送る。項目13.へ進む。
13.断片イオン組み合わせ読み取り結果を、最適親イオン及びCID条件決定部に送る。最適親イオンがある場合は、項目17.へ進む。
14.最適親イオンなしと判定された場合、ここで該イオンに対する実時間解析を終了する。
15.パターンマッチの判定結果C(混合物)の場合、パターンマッチ処理部46で再度、2種類の糖鎖の混合物を仮定してパターンマッチを行う。
【0058】
16.判定結果を解析手順決定部45に送り、項目9.に進む。
17.最適親イオン及びCID条件決定部48から解析手順決定部45へ、MSn+1親イオンの組み合わせの優先順位と、それぞれの候補イオンについて最適CID条件のリストを解析手順決定部45へ送る。
18.優先順位第一位のイオンの一つ目に関して、CID条件をCID制御部33へ送る。
19.優先順位第一位のイオンの一つ目に関して、MSn+1測定を質量分析部31にて行う。
20.解析手順決定部45は、保持時間計測部から保持時間情報を得る。
【0059】
21.質量スペクトル検出部32より、MSn+1スペクトルデータがイオン価数z・質量m決定部44へ送られ、イオン価数z・質量m決定部44では、各ピークのz、mを算出して、質量スペクトルデータに付加する。このデータはさらに解析手順決定部に一時保存される。
22.解析手順決定部45から、保持時間情報、MSn+1スペクトルデータを測定データ格納部43に送る。
【0060】
以下、優先順位第一位の断片イオン組み合わせのうちの二つ目のイオン、三つ目のイオン‥に関して、項目18.〜22.と同様の操作を行う。
【0061】
以上の解析手順により、観測イオンと既知物質との照合、更なるデータ取得の要不要の判断、及び更なるデータ取得の為の親イオン選択を効率的に行うことが出来る。
【0062】
図9、図10に、糖鎖の質量分析測定において、単糖が脱離した断片イオンが観測される場合の解析例を以下に述べる。
【0063】
測定対象物質が糖鎖の場合、MSn測定において、糖鎖の末端の糖が一つずつ脱離したイオンが連続的に観測される場合がある。
【0064】
図9に、単糖が一つずつ外れていく例を示す。図9中スペクトル#2は、m/z 1403.4の1価イオンを親イオンとして取得されたMS2スペクトルであり、断片化されずに残った親イオンであるm/z 1403.4の1価イオンの他に、m/z 1257.3の1価イオンが観測されている。2つのピークから算出される、イオンの質量差から、m/z 1257.3の1価イオンは、m/z 1403.4の1価イオンから単糖であるフコースが1つ脱離したものであることが分かる。これを、図10中ではFucで示している。次に、スペクトル#3は、m/z 1257.3の1価イオンを親イオンとして取得されたMS3スペクトルであり、ここでは、更にフコースが1つ脱離した、m/z 1095.2の1価イオンが観測されている。次に、スペクトル#4は、m/z 1095.2の1価イオンを親イオンとして取得されたMS4スペクトルであり、ここでは、更にヘキソースが1つ脱離した、m/z 933.1の1価イオンが観測されている。これを、図9中ではHexで示している。次に、スペクトル#5は、m/z 933.1の1価イオンを親イオンとして取得されたMS5スペクトルであり、ここでは、更にヘキソースが1つ脱離した、m/z 771.0の1価イオンが観測されている。
【0065】
単糖脱離の場合、イオン強度の減少はほとんどなく、適当な断片イオンが観測されるまでMSnを繰り返すことができる。親イオンの質量と娘イオンの質量の差から、脱離物質が単糖であることを判断できる。フコース、ヘキソース、ヘキソサミン、N−アセチルヘキソサミン、シアル酸、ペントースなどは、それぞれ質量が異なるため、区別することができる。
【0066】
図10に、単糖が一つ、二つ、三つ‥と外れた糖鎖が同時に観測される場合の一例を示す。図10中スペクトル#2は、m/z 1403.4の1価イオンを親イオンとして取得されたMS2スペクトルであり、断片化されずに残った親イオンであるm/z 1403.4の1価イオンの他に、m/z 1257.3の1価イオンが観測されている。2つのピークから算出される、イオンの質量差から、m/z 1257.3の1価イオンは、m/z 1403.4の1価イオンから単糖であるフコースが1つ脱離したものであることが分かる。これを、図10中ではFucで示している。次に、スペクトル#3は、m/z 1257.3の1価イオンを親イオンとして取得されたMS3スペクトルであり、ここでは、さらにフコースが1つ脱離したイオン、フコース1つとヘキソース1つが脱離したイオン、フコース1つとヘキソース2つが脱離したイオン、が同時に観測されている。
【0067】
ただし、糖鎖には枝分かれ構造があり、末端から糖が1つずつ読み取れても、枝分かれについての情報は得られない。従って、枝分かれ構造の残った状態のイオンを断片化し、枝分かれの根元部分の糖が解離したイオン(aイオンと呼ばれる)等を観測することで、判定の為の情報を得る必要がある。そのような適切な断片が観測されるMSnスペクトルを得るまで、CID条件等を調整しながらMSn測定を繰り返し行い、適切な断片が観測されたら、パターンマッチ及び断片組み合わせ読み取りにより、同定、あるいは構造情報を更に得るためのMSn測定を行う。
【0068】
また、ヘキソースには立体異性体が存在することから、端から糖が1つずつ読み取れても、糖鎖構造の候補は多数存在し、同定はできない。そこで、LCを用い、糖鎖の立体構造により保持時間の異なる分離カラムで分離を行うことで、同質量で立体構造が異なる複数の糖鎖のうち、一部に絞り込むことができ、同定の効率が向上する。
【0069】
図11に、単糖脱離がおこる場合の実時間解析手順の一例を示す。図1に示すような質量分析システムは、以下の手順により解析を行う。
【0070】
あるm/zをもつイオンXに対し、MS2測定を行う(S21、S22)。主に電気的に中性な単糖の脱離(ニュートラルロス)のみがおこった質量スペクトルが得られた場合には、更に断片化を行い、適当な断片イオンが観測されるまでMSn測定を繰り返す(S23、S24)。親イオンのm/z値と同位体ピーク間隔から、z、mを算出する(S25)。質量分析の前段階で液体クロマトグラフによる分離を行った場合、その保持時間の情報により、候補既知物質の絞込みを行う。次に、m値の一致する既知物質イオンを検索し、それら既知物質イオンのMSnスペクトルと、実際に測定したイオンのMSnスペクトルのパターンマッチを行う(S26)。パターンマッチにより、既知物質と同定された場合には、この親イオンに関する解析手順は終了する(S27、Yes)。
【0071】
パターンマッチにより既知物質と判定されなかった場合(S27、No)には、親イオンのmをもとに、親イオン由来の断片の組み合わせを検出し(S28)、MSn+1の親イオンとして最適な断片を選択する(S29)。断片の数を2と指定した場合には前記式(3)あるいは式(4)に基づいてMSn+1の親イオンとして最適な断片を選択することになる。適当な断片組み合わせがない場合は解析を終了する(S30、No)。適当な断片組み合わせがある場合(S30、Yes)は、その組み合わせに含まれる断片イオン各々を親イオンとして、MSn+1測定を行う(S31)。
【0072】
図12に、既知糖鎖、未知糖鎖の混合試料の測定の場合の実時間解析手順の一例を示す。これは、試料中に含まれる既知糖鎖の同定を目的としたものである。図12中で、「部分的に構造解析」内の操作は、点線にて囲った部分と同様の操作を行うものとする。以下に、質量分析データ処理システムにおける解析手順を述べる。
【0073】
まず、MS1スペクトルデータを取得する(S41)。ここで観測されたイオンのm、zを算出する。次に、予めユーザが指定したパラメータ、例えばm、z、保持時間、に従い、MS1スペクトルに観測されたイオンと一致する既知糖鎖を検索する(S42)。
【0074】
検索の結果、既知糖鎖に一致しなかった場合(S43、No)、更なる解析を行うかは、ユーザが予め指定できるようにしておく。ユーザが更なる解析を行う設定にした場合、MS2を行って(S44)、糖鎖に特徴的な断片ピークが現れるか否かを確認することで、糖鎖以外の不純物であるかどうかを判定する(S45)。不純物であると判定した場合には、その旨データ格納部に書き込んで、解析を終了する(S46)。糖鎖であると判定された場合、部分的に既知糖鎖と同等の構造をもつ可能性があるので、既知糖鎖データベースを検索し、観測された断片イオンのうちで、既知糖鎖の断片化で観測されたものを検出する。検出されたイオンのうちで、強度やm/zなどが適当なイオンを親イオンとして選択し、MSn測定を行う(S47)。その後、データ格納分格納するデータに未知糖鎖の部分化学構造候補を添付して、手順を終了する(S48)。ただし、未知糖鎖の部分構造解析をするか否かは、ユーザが予め選択できるようになっている。
【0075】
ステップ43の判定で既知糖鎖と一致した場合、MS1で観測されたイオンを親イオンとして、MS2測定を行う。ここで、MS2スペクトルに、脱シアル酸、脱フコースなど、単糖が脱離したピークが現れた場合には、更にMS3、MS4‥と断片化を繰り返し、単糖脱離以外の、分子内部の結合が切れたイオンピークが現れるまでMSn測定を行う(S49)。得られた質量スペクトルを、候補となっている既知糖鎖のMSnスペクトルデータと照合し、パターンマッチを行う(S50)。一成分以上含まれると判定された場合には、更に多成分を仮定してパターンマッチを行い、成分比率を算出する。また、判定の確度値を算出する(S51)。
【0076】
既知糖鎖であると判定された場合で、判定確度が一定値以上の場合(S52、Yes)、データに既知糖鎖と同定された旨情報を添付して、手順を終了する(S53)。未知糖鎖であると判定された場合で、判定確度が一定値以上の場合(S54、Yes)、部分的に既知糖鎖と同等の構造をもつ可能性があるので、既知糖鎖データベースを検索し、観測された断片イオンのうちで、既知糖鎖の断片化で観測されたものを検出する。そのうちで、強度やm/zなど適当なイオンを選択し、それらを親イオンとしてMSn測定を行う(S55)。その後、データ格納部に格納するデータに未知糖鎖の化学構造候補を添付して、手順を終了する(S56)。ただし、未知糖鎖の部分構造解析をするか否かは、ユーザが予め選択できるようになっている。
【0077】
既知糖鎖あるいは未知糖鎖として判定された場合で、判定確度が一定値以下の場合、実時間解析手順により、次のMSn+1測定の親イオンとして適当なイオンの組み合わせを検出する(S59)。ここで適当なイオンがない場合は、手順を終了する(S60、S58)。適当なイオンが見つかった場合は、MSn+1測定を行い、更なる断片化スペクトルを得る(S60、S61)。nの値が、予めユーザの設定した最大値に達した場合(S57、Yes)データ格納部に格納するデータに、未同定である旨情報を添付して、手順を終了する(S58)。
【0078】
以上のような解析手順により、既知糖鎖、未知糖鎖、の混合物から、既知糖鎖を効率的に同定することが可能となる。
【0079】
図13に、本発明に基づく糖鎖解析用質量分析システムにおける、ユーザパラメータ入力部の一例を示す。各項目においてユーザが入力する情報について説明する。
・実時間解析の選択:実時間でパターンマッチや断片読み取りといった、データ解析を行うか否かを選択する。OFFの場合、従来のように、強度順の親イオン選択を行うこととし、別に設ける条件設定用画面で条件を設定する。
・使用データベース選択:一般公開データベース、自作データベース等を選択可能にする。
【0080】
・糖鎖末端修飾:還元末端のピリジルアミノ化等の誘導体化についての情報を選択する。ユーザ独自の誘導体化の場合は、その質量を入力する。糖ペプチドも選択可能とする。
・親イオンピーク強度閾値:MSn測定の親イオンとして選択するイオンの強度の最低値を指定する。
【0081】
・データベース検索における保持時間情報の使用:LCで分離された溶液あるいは気体試料が、オンラインで質量分析機に導入される場合、物質の保持時間の情報を検索条件として使用するかを選択する。液体クロマトグラフ使用の場合は、送液メソッドを選択、ダウンロードする。分離の保持時間の情報を用いる場合、保持時間の変動の許容値を設定し、その保持時間範囲内にある既知糖鎖について、パターンマッチによる同定を行う。
・MSn測定親イオンのm/z範囲:MSnの親イオンとして選択するイオンのm/z範囲を設定する。予め、特にMSn測定すべきイオン、MSn測定を行いたくないイオンが明確な場合は、その情報を入力しておくことができる。
【0082】
・パターンマッチ:断片イオン組み合わせ読み取りに先立ち、パターンマッチによる判定を行うか否かを選択する。
・断片イオン組み合わせ読み取り:断片イオン組み合わせ読み取りを行うか否かを選択する。また、脱離イオンを除くいくつのイオンを組み合わせて、親イオンを構成するものを検出するかを指定する。例えば、チェックボックス3がチェックされた場合、親イオン質量をm、断片イオンaの質量をma、断片イオンbの質量をmb、断片イオンcの質量をmc、脱離物質の質量の和をAとするとき、
m=ma+mb+mc+A
なる3つのイオンa、b、cの組み合わせをスペクトル中より検出する。また、読み取った情報を測定データとともに保存するかどうかを選択する。
【0083】
・未知糖鎖への断片読み取り、MSn: パターンマッチで未知糖鎖と判定されたものについて、断片イオン組み合わせ読み取り及びMSn測定を行うか否かを選択する。
・低強度イオンに対するMSn繰り返し:低強度のイオンを親イオンとする場合に、繰り返しMSn測定を行うかどうかを選択する。繰り返し測定して積算することでS/Nを向上させることができる。繰り返し測定するべき親イオンのイオン強度の最大値を設定する。また、積算の最大回数を指定する。
【0084】
以上により、ユーザは実時間解析を必要に応じて設定することが出来る。
測定データ格納部に格納される、測定データについての情報の項目の例を説明する。測定データには、スペクトル番号、測定条件(正/負イオンモード、イオン取り込み時間、CIDエネルギー、等)、スペクトル中に観測されたイオンのm/zとイオン強度I(m/z)のリスト、MSn(n≧2)の場合には各MSn測定における親イオンのm/z、が含まれる。同位体ピークの間隔によりzの判定、mの算出を行った場合は、その情報も付加される。パターンマッチ処理により既知物質と判定された物質のイオンに関しては、該当する既知物質のコード番号と、判定に用いた確度値の情報も付加される。パターンマッチ処理により未知物質と判定された物質のイオンに関しては、未知物質であることを示す記号と、判定に用いた確度値の情報も付加される。
【0085】
図14に、断片イオン組み合わせ読み取り処理を行った場合の、保存される測定データの一例を示す。1スペクトルごとに、組み合わせと判定された断片イオンの組み合わせのリストを、脱離イオンの情報と共に記録する。
【0086】
以上の項目のうち、スペクトル番号、親イオンm/z、スペクトル中に観測されたイオンのm/zとイオン強度I(m/z)のリスト、は必須項目であるが、それ以外はデータ容量や、後処理の速度を考慮して、ユーザが保存するか否かを設定できる。あるいは別ファイルに保存する設定とし、必要に応じて参照する。
【0087】
図15、図16に、測定中あるいは測定後に、測定済みのデータをユーザが確認するとき、画面に表示されるスペクトル情報の表示方法の一例を示す。
【0088】
図15では、質量分析機で取得したスペクトルを時系列順に#1、#2‥と番号づけしたうちの、#57から#62までの質量スペクトルを示している。このスペクトル番号は、保持時間で表示してもよい。MSn測定の場合には、親イオンのm/zとzを表記する。次にMSn+1測定を行った場合には、その親イオンとなったピークに印を付ける。例えば、図15中のスペクトル#58は、#57で観測されたイオンのうちの1つを親イオンとして取得したMS2スペクトルである。従って、#57のスペクトル中の、親イオンとなったピークに、図15中▼で示したような印を付ける。断片イオン組み合わせ読み取り処理を行い、組み合わせに含まれる複数断片を親イオンとしてMSn+1測定を行った場合は、その組み合わせごとに印の色又は形状を変えて表示する。例えば、図15中のスペクトル#58について断片イオン読み取りの実時間解析を行った結果、▽で示した1組のイオンと▲で示した1組のイオンの計2組のイオンが、元のイオンを構成する断片イオンの組み合わせとして検出された。そこで、これら4つのイオンをそれぞれ親イオンとして取得したのが、#59から#62の4つのMS3スペクトルである。
【0089】
単糖脱離の読み取りを行った場合は、図16に示すように、脱離した糖の種類を示す。例えば、図16中スペクトル#31では、2種類のイオンが観測されており、それらはフコース1つ分の質量差をもっている。従って、これらのピークの間に、Fucと表記する。また、質量の小さいほうのイオンである、m/z 1234.5の1価イオンを親イオンとしてMS2スペクトルを取得した場合、m/z 1234.5の1価イオンに、▼で示したような印を付ける。m/z 1234.5の1価イオンを親イオンとして取得したMS2スペクトルが、#32である。ここでは、親イオンと比較した質量差から、ヘキソースが1つ脱離したイオン、及びヘキソースが2つ脱離したイオンが検出されている。そこで、これらピークの間に、Hexと表記する。また、ヘキソースが2つ脱離したイオンである、m/z 910.3の1価イオンを親イオンとしてMS3スペクトルを取得した場合、m/z 910.3の1価イオンに、▼で示したような印を付ける。
【0090】
以上のような表示方法により、実時間処理の内容を、測定後にユーザが一目で読み取ることが出来る。
【0091】
図17に、本発明に基づく、糖ペプチドのMSn測定の例を示す。被分析物質は、アミノ酸配列がNLTKであるペプチドのアスパラギンNに、N−アセチルグルコサミン2つ、マンノース5つからなる糖鎖が結合した、質量1690.8の糖鎖結合ペプチドである。
【0092】
MSスペクトルには、糖鎖結合ペプチドにプロトンが2つ付加した2価イオンが、m/z 846.4に観測されている(m/z=(1690.8+1.0×2)÷2=846.4)。次に、この糖鎖結合ペプチドの2価イオンを親イオンとして、MS2測定を行った。MS2スペクトルについて、2断片組み合わせ読み取り処理を行ったところ、m/z 1014.4の1価イオンと、m/z 678.4の1価イオンが、断片組み合わせとして検出された。即ち、付加したプロトンを除いて計算すると、
(1014.4−1.0)+(678.4−1.0)=1690.8
であり、脱離イオンなしで親イオンと質量が一致した。
【0093】
そこで次に、MS2スペクトルに観測された、m/z 1014.4、及びm/z 678.4のイオンそれぞれを親イオンとして、MS3測定を行った。m/z 1014.4を親イオンとして得たMS3スペクトルを解析したところ、m/z 852.4、690.3、528.2、366.2の1価イオンが観測された。親イオン、及びこれらピーク間の質量差は、
1014.4−852.4=162.0、
852.4−690.3=162.1、
690.3−528.2=162.1、
528.2−366.2=162.0
と、マンノース1つが脱離する際の質量162.05と測定誤差の範囲で一致しており、また、m/z 366.2は、典型的な糖鎖のコア構造である、N−アセチルグルコサミンにマンノースが結合した分子にプロトンが付加した質量366.23と、測定誤差の範囲で一致した。従って、 m/z 1014.4の親イオンは、典型的な糖鎖のコア構造である、N−アセチルグルコサミンにマンノースが結合したManGlcNAc構造に、さらに4つのマンノースが結合した糖鎖であると同定された。
【0094】
また、m/z 678.4を親イオンとして得たMS3スペクトルを解析したところ、m/z 475.3、458.3、329.2、248.2、228.1の1価イオンのピークが出ていることから、アミノ酸配列NLTKのペプチドであると同定された。また、プロトンを除いて考えたアミノ酸配列NLTKのペプチドの質量474.3と、プロトンを除いて考えた親イオンの質量677.4の差203.1は、GlcNAcが1つ脱離する際の質量203.07と測定誤差の範囲で一致した。
【0095】
以上より、MS1スペクトルに観測されたm/z 846.4の2価のイオンは、アミノ酸配列NLTKのペプチドに、マンノース5つ、N−アセチルグルコサミン2つからなる糖鎖が結合したものであると同定された。図17中に、被分析物質の構造と、観測されたピークの帰属を示す。
【0096】
以上のように、断片イオン組み合わせ読み取り処理を行うことで、糖鎖結合ペプチドの糖鎖組成と、ペプチドのアミノ酸配列を、2回という最小限の回数のMS3測定により同定でき、短時間で確実な同定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明に基づく質量分析システムの装置構成例を示す図。
【図2】典型的糖鎖について、MS2測定で適当な断片が観測され、断片組み合わせ読み取り処理を行う方法の図。
【図3】既知タンパク質データベースに格納されたタンパク質データの例を示す図。
【図4】既知糖鎖データベースに格納された糖鎖データの例を示す図。
【図5】2つの質量スペクトルのパターンマッチの方法の説明図。
【図6】実時間で物質同定を行う解析手順の例を示す図。
【図7】断片組み合わせ読み取り処理の手順の例を示す図。
【図8】質量分析システム内の各部間での情報の流れの例を示す図。
【図9】単糖脱離が起こった場合の質量スペクトルの例を示す図。
【図10】単糖脱離が起こった場合の質量スペクトルの例を示す図。
【図11】糖鎖のMSn測定において単糖脱離が起こった場合の実時間解析手順を示す図。
【図12】複数種の糖鎖混合物をLC/MSn分析する際の実時間測定手順を示す図。
【図13】実時間解析する機能を持つ質量分析システムにおける、ユーザパラメータ入力画面の例を示す図。
【図14】実時間でパターンマッチ、及び断片組み合わせ読み取り処理を行った測定データについて、測定データ格納部に保存されるデータの図。
【図15】実時間で断片組み合わせ読み取り処理を行った測定データについて、測定後にユーザが確認するデータ画面の例を示す図。
【図16】実時間で単糖脱離読み取り処理を行った測定データについて、測定後にユーザが確認するデータ画面の例を示す図。
【図17】糖鎖結合ペプチドを試料として測定したMS2スペクトルに断片イオン読み取り処理を適用して得られたMS3スペクトルの図。
【符号の説明】
【0098】
10:液体クロマトグラフ、20:イオン源、30:質量分析機、31:質量分析部、32:質量スペクトル検出部、33:断片化制御部、40:コンピュータ、41:情報処理部、42:既知物質データベース格納部、43:測定データ格納部、44:イオン価数z・質量m決定部、45:解析手順決定部、46:パターンマッチ処理部、47:断片イオン組み合わせ読み取り処理部、48:最適親イオン及び断片化条件決定部、50:データ表示及びパラメータ入力部
【技術分野】
【0001】
本発明は多種類の成分を含むサンプルの分離分析システムに関し、特にタンパク質やペプチド、糖鎖、代謝産物などの生体関連物質解析に使用する液体クロマトグラフ/質量分析システム、分析方法、装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオ・創薬・食品分野を中心に、生体組織や体液などに含まれるタンパク質や糖鎖、代謝産物などの生体関連物質を網羅的に解析するプロテオーム解析、グライコーム解析、メタボローム解析が有効な戦略と認識されるようになりつつある。そして、これらの解析に向けて、主に質量分析法を用いた高スループット解析技術の開発が重要視されている。
【0003】
質量分析法においては、高分子量の生体由来分子を高効率にイオン化する技術が進歩してきた。質量分析機により、イオン化された分子の質量電荷比m/zを測定することができる。
【0004】
また、イオンを構成する分子に一定の割合で同位体元素が含まれるために、同位体を含む一連のイオンも同時に観測される。そのm/z軸における間隔は1/zとなることにより、イオンの価数を判定することが可能である。m/z及びz値から、イオンの質量mが算出される。更に、イオントラップを用いると、1回目の質量スペクトル(MS1と表記する)に観測されたイオンのうちの1つを選択的に残し、これを親イオンとして、CID(衝突誘起解離)、IRMPD(赤外多光子解離)又はECD(電子捕獲解離)により断片化し、断片イオンのスペクトルを得ることが可能である(MS2と表記する。生じた断片イオンを娘イオンとも言う)。得られた断片のうちの何れかを更に断片化することも可能である(MS3、MS4‥。以下、n≧2の測定について、MSnと表記する)。断片化方法の種類、及び断片化のエネルギーを制御することにより、分子内の特定の種類の結合について、断片化の過程で解離させることができる。断片化により生じた断片イオンから、親イオンの分子構造に関する情報を得ることができる。情報が不足する場合は、MSn測定を続けていくことで、更に情報が得られる。
【0005】
例えば、アミノ酸が数十分子重合したものであるペプチドの分析では、アミノ酸とアミノ酸の間の結合を切るような断片化を行い、何れかの結合が切断されて生じた多種の断片のうちから、その質量の差がアミノ酸20種類のうちの何れかと一致するような断片を順に見出すことにより、ペプチドのアミノ酸配列を端から読み取ることができる。この時、スペクトルに観測されたペプチドの断片からアミノ酸配列を読み取る処理を次のスペクトル取得までの時間内に自動で行い、次の断片化の親イオンとして最も適切なイオンを選択することで、効率よく物質同定のための情報を得ることができる。特にLC/MS(液体クロマトグラフ/質量分析)測定を行う場合には、ある成分がLCから溶出する時間幅は限られていることから、有用な技術であると言える(特許文献1)。
【0006】
例えば糖鎖の分析では、単糖と単糖の間の結合、あるいは単糖の環構造を切るような断片化を行い、データベースに構造情報が登録された(以下「既知」)糖鎖に特有の断片を観測することで、被分析糖鎖が同定できる場合がある(非特許文献1)。
【0007】
糖は、同質量の立体異性体が多数存在し、また環化様式も立体的に異なるα、βの2種が存在し、更に、単糖が鎖状に重合した物質である糖鎖には枝分かれ構造を有するものもある為、同じ質量の糖鎖であっても、多数の構造が可能性として考えられる。従って、質量分析により、データベースに構造情報が登録されていない(以下「未知」)糖鎖構造を一意的に決定することは困難である。
【0008】
そこで、複数種類の既知物質について、ある一定のイオン化、及び断片化条件における断片の質量スペクトルを予め用意すれば、被分析物質を同条件により測定して質量スペクトルを取得し、スペクトルパターンを比較する「パターンマッチ」を行うことで、既知物質と同一物質であるかどうかを判定することが出来る。
【0009】
また、断片化に際して脱離しやすい物質のデータベースを予め構築しておき、これを検索して断片イオンの帰属を行い、断片イオンと脱離物質の組み合わせを見つけることで、親イオンの候補を決定する事が出来る(特許文献2)。
【特許文献1】特開2004−257922号公報
【特許文献2】特開平8−124519号公報
【非特許文献1】Journal of the American Society for Mass Spectrometry (2002) p.1138-1148
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
あるイオンを断片化し、分子構造について更に情報を得るために、断片イオンの何れかを更に断片化するMSn測定を行うことができる。従来は、同時に複数の断片イオンが観測された場合、次の断片化の親イオンとして、イオン強度の強いものから順に選択していた。その理由は、MS2、MS3‥と断片化を続けていくにつれて、得られるスペクトル中に観測されるイオンのイオン強度が下がるため、強度の強いイオンを親イオンとして選んだ方が感度の面で有利だからである。
【0011】
例えば、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (2004) p.13417-13422では、ペプチドイオンについて、MS2測定を行い、観測された複数の断片イオンのうち3つを親イオンとして選択してMS3測定を行っている。たまたまペプチドのC末端を含む断片と、N末端を含む断片が、強度の強い断片イオン3つの中に含まれている場合、ペプチド配列の大部分を読み取ることができ、ペプチドを同定できる。
【0012】
しかし、観測される断片イオンのうち、片方の末端を含む一連の断片イオンはイオン強度が強いが、反対の末端を含む一連の断片イオンはイオン強度が低い場合には問題が発生する。それは、片方の末端が属する断片イオンばかりを次の断片化の親イオンとして選択することになり、反対の末端側の分子構造の情報が得られない点である。データ取得後、データ解析を行い、観測された各イオンの帰属を試みた時点で反対の末端側の情報が不足していることが分かった場合、再度測定をしなければならず、時間の無駄が生じる。
【0013】
また、質量分析の前段階として液体クロマトグラフ(LC)や電気泳動などの分離手段を用いた場合には、複数物質の混合物が分離カラムなどにより分離され、物質によって異なる時間に溶出され、イオン化手段によりオンラインでイオン化されて質量分析機に導入される。複数物質のうち1つの物質について見てみると、この物質が質量分析機に導入される時間は分離バンドの時間幅に限られる。質量分析機が1スペクトル取得するためには、装置の性能に依存するある一定以上の時間が必要であることを考慮すると、1つの物質についてMSn測定ができる回数には上限があることが分かる。例えば、ある物質Aの分離バンド幅が5秒で、質量分析機が1スペクトル取得に1秒を要する場合には、物質Aについて測定できる回数の上限は5回である。5回の測定のうち、1回目の測定はMS1、2回目の測定はMS1で観測されたイオンのうち、最も強度の大きいものについてMS2、3回目〜5回目の測定はMS2で観測された断片イオンのうち3つを親イオンとしてそれぞれMS3測定、を行ったとする。ここで、MS3の親イオンとして選んだ3つの断片イオンが、物質Aの質量のそれぞれ(1)20%、(2)30%、(3)50%の質量だったとする。3つのイオンの分子構造に全く重複がない場合、MS3測定により物質Aの分子構造のうち、20+30+50=100%についての情報が得られる。一方、(1)と(2)のイオンの分子構造がそれぞれ、(3)のイオンの分子構造中に含まれる場合、MS3測定を行っても物質Aの分子構造の50%についての情報しか得られない。このように、1つの物質についてMSn測定で得られた分子構造についての情報に偏りがある場合、十分な情報が得られず同定に至らない可能性がある。
【0014】
この問題の対策として、従来のLC/MSn自動測定装置においては、同じイオンを一定回数以上はMS2の親イオンとして選択しない機能を有するものや、測定前に予め親イオンとして選択する、あるいは選択しないイオンのm/zを指定する機能を有するものがある。しかし、MSn測定の親イオンは強度の強いイオンから順に自動選択するのが現状であり、分子構造全体についての情報を得るための対策はとられていない。
【0015】
本発明は、物質の構造に関する情報の取得効率を向上し、測定及び物質同定の時間を短縮し、同定精度を向上することのできる質量分析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明では、1スペクトル測定ごとにデータの解析を行い、次のMSn測定の親イオンとして適切なイオンを選択する機構を導入し、分子構造についての情報取得効率を向上させる。
【0017】
本発明による質量分析システムは、イオン化された試料を質量分析する質量分析機と、情報処理部とを含み、質量分析機は質量スペクトルに現れた特定のm/zを有するイオンを選択的に断片化して、断片化されたイオンを質量分析する機能を有し、情報処理部は、1つの親イオンと、当該親イオンから派生した複数の娘イオンの情報を受けて、親イオンを再構成できる娘イオンの組み合わせを求める断片イオン組み合わせ読み取り処理部を有し、断片イオン組み合わせ読み取り処理部によって求めた娘イオンの組み合わせに含まれる娘イオンを断片化して質量分析する指示を質量分析機に行う機能を有する。
【0018】
断片イオン組み合わせ読み取り処理部は、親イオンの質量をm、複数の娘イオンの質量をm1、m2、…、mn(nは2以上の正の整数)、親イオンの断片化の際に脱離する分子の質量をAとするとき、次式(1)を満たす娘イオンの組み合わせを求める。
m=m1+m2+…+ms+A(sは2以上でnより小さい正の整数) …(1)
【0019】
本発明による質量分析方法は、試料をイオン化する工程と、イオン化された試料を質量分析する工程と、質量分析で観測されたイオンの中から第1のイオンを選択して断片化する第1の断片化工程と、第1の断片化工程によって生じた複数の断片イオンを質量分析する工程と、質量分析の結果を用いて、第1のイオンを再構成できる断片イオンの組み合わせを求める工程と、断片イオンの組み合わせに含まれる断片イオンを断片化する第2の断片化工程と、第2の断片化工程で生じた断片イオンを質量分析する工程と、を有する。
【0020】
また、本発明によると、質量分析機から、1つの親イオンと当該親イオンの断片化によって発生した複数の娘イオンに関する情報を受けて、親イオンを再構成できる娘イオンの組み合わせを求める工程、求めた娘イオンの組み合わせに含まれる娘イオンを断片化して質量分析する指示を前記質量分析機に行う工程、をコンピュータに実行させるためのプログラムが提供される。このプログラムにおいて、親イオンを再構成できる娘イオンの組み合わせを求める工程では、前記式(1)を満たす断片イオンの組み合わせを求める。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、質量分析による物質の同定において、物質の構造に関する情報を取得する効率が向上し、測定及び物質同定の時間が短縮され、同定精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1に、本発明に基づく質量分析システムの装置構成例を示す。図1は、LC/MSn測定を行って得たスペクトルデータを実時間解析する質量分析システムの構成例を示し、液体クロマトグラフ10、イオン源20、質量分析機30、コンピュータ40、データ表示及びパラメータ入力部50を備える。
【0023】
試料である複数物質の混合物は、液体クロマトグラフ10に導入される。液体クロマトグラフ10には、物質の性質によって物質を分離する分離カラムが装着されており、分離カラムを通過した試料は、成分ごとに異なる時間に溶出する。溶出した試料の各成分は、イオン源20により、イオン化される。イオンは質量分析機30に導入される。質量分析機30は、質量分析部31、質量スペクトル検出部32、及び断片化制御部33を備える。質量スペクトル検出部32は、導入されたイオンの質量スペクトルを取得する。断片化制御部33は、イオンの断片化条件を制御する。質量スペクトルは、コンピュータ40内の情報処理部41へ送られる。コンピュータ40は、情報処理部41、既知物質についてMSn(n=1,2,3,…)のスペクトルデータを格納した既知物質データベース格納部42、測定データ格納部43を備える。情報処理部41は、イオン価数z・質量m決定部44、解析手順決定部45、パターンマッチ処理部46、断片イオン組み合わせ読み取り処理部47、最適親イオン及び断片化条件決定部48を有する。情報処理部41は、あるイオンについて得られたスペクトルを既知物質のデータと照合し、同定に至らない場合には、そのイオンについて更にデータを取得するべく、次の質量スペクトル取得の条件決定を行う。断片イオン組み合わせ読み取り処理部47では、あるイオンを親イオンとして、これを断片化して得られたスペクトル(MSnスペクトル、n≧2)に観測されたイオンの中から、もとの親イオン全体を構成する断片イオンの組み合わせを読み取る。
【0024】
このシステム構成により、LC/MSn測定において、実時間でスペクトルデータの解析を行い、次の測定の条件を逐次決定することができるため、効率的なスペクトル取得が可能である。
【0025】
図2に、本発明に基づく、典型的な糖鎖のMSnスペクトルの実時間解析の一例を示す。
【0026】
被分析物質は、各種糖鎖のうちの一例として、8つのマンノース、2つのN−アセチルグルコサミンからなる、枝分かれ構造を有する糖鎖を示している。マンノースには、1〜8まで番号付けをして表示している。
【0027】
この糖鎖を親イオンとして、断片化を行ったスペクトルを図2中に示す。親イオンの分子内の結合は、同時に1箇所以上切断される可能性があるが、本実施例では、もとの糖鎖の中の1箇所のみで結合が切れた場合のMS2スペクトルを示す。スペクトル中に、マンノース間の結合のうち、3−4、4−5、7−8、5−8間の結合が切れた断片が観測されており、それぞれのピークの帰属をa〜fに示す。
【0028】
この物質の構造が未知であり、更に構造についての情報を得たい場合、断片のうちいくつかを更に断片化し、MS3スペクトルを得ることができる。
【0029】
断片化の親イオンの選択に際し、本発明の、断片組み合わせ読み取りを行った場合を考える。もとの糖鎖の中の1箇所のみで結合が切断された場合、2断片が生じる。そこで、2断片組み合わせ読み取りの設定で読み取りを行うと、ピークaとf、bとe、cとdが、それぞれ、親イオン中の1結合が切れて生じた断片の組み合わせとして検出される。MS3の親イオンとしては、これら組み合わせのうちの何れを選んでも、分子全体の構造についての情報が得られるが、例えばこれらの組み合わせのうちで、2断片のイオン強度の和の大きい順に優先順位づけをすると、優先順位はピークcとd、bとe、aとfの順となる。この場合、MS3の1回目にピークc、MS3の2回目にピークdを断片化することとなり、糖鎖の非還元末端側、及び還元末端側、両方のMS3スペクトルが得られる。
【0030】
これに対して、従来法どおり、イオン強度の大きさ順に親イオンを選択すると、優先順位はピークc,b,a,d,e,fの順となる。しかし、ピークc,b,aは何れも、非還元末端側の糖鎖断片であり、MS3の1回目、2回目、3回目まででは、還元末端側の情報が得られない結果となる。
【0031】
以上のように、断片イオン組み合わせ読み取り処理を行うことにより、効率的に分子構造についての情報を得ることが出来る。
【0032】
本発明における既知物質データベース42としては、タンパク質、糖鎖、脂質、核酸、などの生体物質のデータベースや、人工合成物質のデータベースが挙げられるが、ここでは、タンパク質、及び糖鎖の既知物質データベースの例について以下に述べる。
【0033】
図3に、タンパク質の解析のためのデータベースの一例として、タンパク質の由来、名前、分子量、等電点、アミノ酸配列等の情報を備えたタンパク質データベースを示す。また、ワールドワイドウェブ上に公開されている遺伝子データベースに格納された遺伝子の塩基配列や、ユーザが独自に解読した遺伝子配列を翻訳してタンパク質のアミノ酸配列として用いてもよい。タンパク質のアミノ酸配列を用い、計算機により、タンパク質を酵素消化して生成するペプチドのリストを作成する。更にその各々のペプチドについて、質量分析機でペプチドを断片化した際に生成する断片リストを作成する。この断片リストを、既知物質のMSnスペクトルと見なすことができる。
【0034】
図4に、糖鎖の解析のためのデータベースの一例として、糖鎖の種類を示す記号、分子量、糖鎖構造、質量スペクトル等、の情報を備えた糖鎖データベースを示す。糖鎖構造が不明の場合は、不明である旨表記する。2次元糖鎖マップにおける位置が判明している場合には、その情報も備えていてもよい。一般に公開されている糖鎖質量分析データベースがある場合は、それを用いてもよいが、ユーザがいくつかの糖鎖を予め質量分析し、その情報を登録しておくこともできる。糖鎖の質量分析データとしては、MS1、MS2、MS3、MS4、‥スペクトルを登録しておく。MSnのnの値に上限はないが、典型的には20以下程度である。これらスペクトルを取得した装置、測定の条件を格納したメソッドファイル名も同時に記録する。各MSnスペクトルには、測定モード(+又は−)、親イオンの情報を添付する。更に、ユーザが予めいくつかの糖鎖をLC/MS分析し、保持時間の情報を添付しておくことも出来る。
【0035】
更には、ある1つの試料の測定であっても、断片化のエネルギーや、CID、ECDといった断片化の方法を変えて測定する場合が考えられる。更には、質量分析の方式として、イオントラップ、飛行時間型、磁場型、などがあり、質量分析の方式を変えて測定する場合が考えられる。測定条件を変えて測定する場合にも、既知物質データベースを利用可能とするための方法の一例を以下に述べる。
【0036】
1.一定の断片化条件で測定を行う場合
既知物質データベースは、ある一定の断片化条件で、既知物質に関して断片化を行ったスペクトルを格納する。格納されうる情報は、各既知物質について、それぞれ、親イオンのm/z、m、z値、MSn(n=2,3‥)スペクトルに現れた娘イオンのm/z、m、z値及びイオン強度情報である。LCによる分離についての知見が得られている場合、分離カラムの種類と溶離液の種類と保持時間に関する情報も含めてよい。
2.断片化条件を可変として測定を行う場合
既知物質データベースは、上記1の「一定の断片化条件で測定を行う場合」に格納される情報に加え、各断片化条件における親イオンのm/z、m、z値、娘イオンのm/z、m、z値及びイオン強度情報も格納される。
3.断片化方式、及びスペクトル取得方式の異なる測定装置を用いて測定を行う場合
既知物質全てに関して、全断片化条件におけるMSnスペクトルを取得することは不可能である。更に、イオンの断片化のされ方、得られるMSnスペクトルは、測定装置の方式(イオン化方法、断片化方法、質量分析方法、等)に依存するため、ある測定装置で得られたスペクトルと同じものが、他の方式の測定装置で得られるとは限らない。
【0037】
そこで、ある測定装置で得られたスペクトル情報を格納する既知物質データベースを、他方式採用の測定装置で得たスペクトルにも適用できるようにする方法として、次のような方法が考えられる。まず、典型的な複数の標準物質を定める。他方式採用の測定装置において、この複数の標準物質を、複数の断片化条件で測定し、MSnスペクトルデータを得る。このMSnスペクトルデータを、既知物質データベース内の同物質のMSmスペクトルデータと比較する。このとき、nとmは一致していなくてもよい。以上により、既知物質データベースに格納されたMSnスペクトルデータを他方式採用の測定装置で得られるMSnスペクトルデータに変換する関数を決定し、以後、既知物質データベースを参照する場合には、この関数で変換したスペクトルを適用する。
【0038】
以上のような既知物質データベースを有するシステムでは、確実なパターンマッチ処理が可能であり、その後の断片読み取りに進むか否かを適切に判断することが出来る。
【0039】
実際に測定した質量分析スペクトルから、既知物質データベースに格納されている既知物質の質量分析スペクトル情報と比較することで、物質の同定を行う方法の1つとして、パターンマッチが挙げられる。図5に、パターンマッチの方法の一例を示す。
【0040】
測定で得た質量スペクトルを、データベースに格納されたスペクトルのうちの1つと比較し、その一致度を判定することを考える。このとき、データベースに格納された全てのスペクトルについて各々比較を行ってもよいが、測定で得た質量スペクトルについての情報、例えばLCにおける保持時間や被測定試料の由来など、が既知の場合、比較するべきデータベースのデータを予め限定しておき、パターンマッチの回数を削減して処理時間を短縮することが可能である。
【0041】
図5に示すように、測定で得た質量スペクトルを、データベースに格納されたスペクトルのうちの1つと重ねあわせ、スペクトル中の全てのピークについて、ピークのイオン強度Iの値から、その一致度に相当する数値を計算する。その値が一定値以上、あるいは一定値以下の場合に、2つのスペクトルは同一であると判定する。一致度の計算方法として一例を以下に述べる。測定装置のm/zの精度Δ、データベースに格納された質量スペクトルにおける質量mのイオンの強度をI1(m)、データベースに格納された質量スペクトルにおけるピークの、頂点のm/z値をM、実際に測定した質量スペクトルにおける質量mのイオンの強度をI2(m)で表すとき、次式(2)で表されるε値を算出する。
【0042】
【数1】
【0043】
このε値は、2つのピークの重なり度合いを表し、大きいほど一致度は高い。このε値を全てのピークについて算出する。そして、例えば、それらのピーク全てについてε値がある一定値ε0より大きい場合に、2つのスペクトルは一致していると判定する。ε0は、装置の測定精度や、標準物質の測定結果をもとに、ユーザが決定することも可能である。
【0044】
この操作により、既知物質と同定されたイオンについては更なる解析に進まなくて良いと判断することで、解析時間の短縮化を図ることができる。
【0045】
図6に、実時間解析の手順の一例を示す。図1に示した本発明の質量分析システムは以下の手順により解析を行う。
【0046】
あるm/zをもつイオンXに対し、MS2測定を行う(S11)。断片化の際に、中性物質脱離だけが生じ、分子内の結合が切れた断片が得られない場合には、更に断片化が必要であるが、この例では、MS2において、中性物質脱離だけでなく、分子内の結合の解離した断片も得られたとする。質量スペクトル検出部31において質量スペクトルを取得し、イオン価数z・質量m決定部44において親イオンのm/z値と同位体ピーク間隔から、z、mとを算出する(S12)。
【0047】
質量分析の前段階で液体クロマトグラフによる分離を行った場合、その保持時間の情報により、候補既知物質の絞込みを行う。次に、パターンマッチ処理部46において、既知物質データベース42からm値の一致する既知物質イオンを検索し、それら既知物質イオンのMSnスペクトルと、実際に測定したイオンのMS2スペクトルのパターンマッチを行う(S13)。既知物質については、データベース42にn=1、2、3‥のスペクトルデータが格納されており、これら全てと、実測MS2スペクトルとのパターンマッチを行う。パターンマッチにより、既知物質と同定された場合には、この親イオンに関する解析手順は終了する(S14、Yes)。
【0048】
パターンマッチにより既知物質と判定されなかった場合(S14、No)には、親イオンのmをもとに、親イオン由来の断片の組み合わせを検出する(S15)。組み合わせる断片の数は2つ以上の任意の値をユーザが指定できるが、ここでは2つと指定した場合の断片イオン読み取り手順の一例を、図7に示す。この処理は、断片イオン組み合わせ読み取り処理部47で実行される。測定で得られたMS2スペクトルに観測された断片イオンのうち2つのイオンの質量がそれぞれma、mbであるとき、次式(3)を満たすma、mbの組み合わせを検出する。
m=ma+mb …(3)
【0049】
結合の解離の際に、H2Oなどが同時に脱離する場合は、これを考慮し、脱離物質の総質量をAとすると、次式(4)を満たす2イオンを見出すことになる。
m=ma+mb+A …(4)
【0050】
図7中の脱離物質質量リストに示す物質は、ペプチドの断片化の際に脱離することが知られている物質の一例である。本実施例では、上式中のAに相当する値として、これらの質量を用いて計算を行う。試料であるペプチドがリン酸化されていないことが分かっている場合には、事前にリン酸脱離を選択肢から削除してもよく、組み合わせ読み取り処理の精度が向上する。他の脱離物質についても、当該測定で脱離しないことが分かっていれば、事前に選択肢から削除することで、組み合わせ読み取り処理の精度が向上する。図7の実施例では、H2OとNH3が脱離する可能性のある物質と設定された場合の断片イオン組み合わせ読み取り処理について示している。このように、脱離物質のデータベースも同時に有し、組み合わせ検出の際に参照することで、検出される組み合わせの信頼性を向上させることができる。
【0051】
図6に戻り、最適親イオン及び断片化条件決定部48は、検出された組み合わせのうちで、MSn+1測定の親イオンとして適した組み合わせの順位付けを行う(S16)。順位付けの基準の一例として、断片ピークのイオン強度と、断片の価数zによる優先順位付けが挙げられる。親イオンのイオン強度が強いほど、MSn+1のピーク強度が大きく、解析しやすくなる。また、親イオンの価数が2価の方が、1価に比べて効率よく断片化する。従って、組み合わせに含まれるピークの強度が大きく、更に2価のイオンが多い組み合わせから順に、MSn+1測定の親イオンとして優先順位づけする、という方法が考えられる。次に、最適親イオン及び断片化条件決定部48は、MSn+1測定の親イオンとして選択した組み合わせに含まれる断片について、適切な断片が得られるようなCIDなどの解離条件を決定し、情報処理部41は質量分析機30の断片化制御部33に解離条件を設定してMSn+1測定を行う(S18)。適切な組み合わせがない場合は、イオンXについての解析手順を終了する(S17、No)。
【0052】
以上の解析手順により、観測イオンと既知物質との照合、更なるデータ取得の要不要の判断、及び更なるデータ取得の為の親イオン選択を効率的に行うことが出来る。
【0053】
図8に、本発明に基づいて行う糖鎖解析を想定した、質量分析データ処理システムにおける各部間での情報の流れの一例を示す。
【0054】
質量分析データ処理システムは、図1に示すように、ユーザパラメータ入力部50、質量スペクトル検出部32、CID制御部(断片化制御部33)、イオン価数z・質量m決定部44、解析手順決定部45、パターンマッチ処理部46、断片イオン組み合わせ読み取り処理部47、最適親イオン及びCID条件決定部48、既知糖鎖データベース格納部42、測定データ格納部43を有する。液体クロマトグラフ10で分離された溶液あるいは気体試料が、オンラインで質量分析機30に導入される場合、保持時間計測部も有する。以下に、図8に示した質量分析データ処理システムにおける情報の流れを述べる。
【0055】
1.ユーザパラメータ入力部50で設定された解析パラメータを、解析手順決定部45に一時的に保存する。次に測定を開始し、MS1で観測されたイオンのうちの1つに関して、スペクトル中に、適当な断片イオンを観測するまでMSn測定を行う。
2.クロマトグラフや電気泳動で分離された溶液あるいは気体試料がオンラインで質量分析機に導入される場合、保持時間、溶媒組成等のデータが解析手順決定部45に一時的に保存される。
3.質量スペクトル検出部32から、質量スペクトルデータが、イオン価数z・質量m決定部44へ送られ、イオン価数z・質量m決定部44では、各ピークのz、mを算出して、質量スペクトルデータに付加する。このデータはさらに解析手順決定部45に一時的に保存される。
4.解析手順決定部45から、測定データ格納部43へ、保持時間と質量分析スペクトルデータを1組の情報として書き込む。
5.既知糖鎖のデータを、既知糖鎖データベース格納部42に要求する。データベース検索の際に保持時間情報を使用する設定の場合、許容変動値を含む保持時間範囲に出現することが知られる既知糖鎖のデータを要求する。
【0056】
6.既知糖鎖データベース42から、解析手順決定部45に、一時的に既知糖鎖データを得る。
7.解析手順決定部45からパターンマッチ処理部46へ、質量分析スペクトルデータと既知糖鎖のスペクトルデータを送る。
8.パターンマッチ処理部46から解析手順決定部45へ、パターンマッチ判定結果を送る。
9.パターンマッチの判定結果A(既知糖鎖と判定)の場合で、判定確度が一定値以上の場合(A−1)、質量分析スペクトルデータに、同定情報を付加する。ここで該イオンに対する実時間解析を終了する。
10.パターンマッチの判定結果A(既知糖鎖と判定)の場合で、判定確度が一定値以下の場合(A−2)、更に情報を得るために、MSn+1測定を行うべく、断片イオン組み合わせ読み取り処理部47に質量スペクトルデータを送る。次に項目13.へ進む。
【0057】
11.パターンマッチの判定結果B(該当する既知糖鎖なしと判定)の場合で、判定確度が一定値以上の場合(B−1)、質量分析スペクトルデータに、未知糖鎖である旨情報を付加する。ここで該イオンに対する実時間解析を終了する。
12.パターンマッチの判定結果B(該当する既知糖鎖なしと判定)の場合で、判定確度が一定値以下の場合(B−2)、更に情報を得るために、MSn+1測定を行うべく、断片イオン組み合わせ読み取り処理部47に質量スペクトルデータを送る。項目13.へ進む。
13.断片イオン組み合わせ読み取り結果を、最適親イオン及びCID条件決定部に送る。最適親イオンがある場合は、項目17.へ進む。
14.最適親イオンなしと判定された場合、ここで該イオンに対する実時間解析を終了する。
15.パターンマッチの判定結果C(混合物)の場合、パターンマッチ処理部46で再度、2種類の糖鎖の混合物を仮定してパターンマッチを行う。
【0058】
16.判定結果を解析手順決定部45に送り、項目9.に進む。
17.最適親イオン及びCID条件決定部48から解析手順決定部45へ、MSn+1親イオンの組み合わせの優先順位と、それぞれの候補イオンについて最適CID条件のリストを解析手順決定部45へ送る。
18.優先順位第一位のイオンの一つ目に関して、CID条件をCID制御部33へ送る。
19.優先順位第一位のイオンの一つ目に関して、MSn+1測定を質量分析部31にて行う。
20.解析手順決定部45は、保持時間計測部から保持時間情報を得る。
【0059】
21.質量スペクトル検出部32より、MSn+1スペクトルデータがイオン価数z・質量m決定部44へ送られ、イオン価数z・質量m決定部44では、各ピークのz、mを算出して、質量スペクトルデータに付加する。このデータはさらに解析手順決定部に一時保存される。
22.解析手順決定部45から、保持時間情報、MSn+1スペクトルデータを測定データ格納部43に送る。
【0060】
以下、優先順位第一位の断片イオン組み合わせのうちの二つ目のイオン、三つ目のイオン‥に関して、項目18.〜22.と同様の操作を行う。
【0061】
以上の解析手順により、観測イオンと既知物質との照合、更なるデータ取得の要不要の判断、及び更なるデータ取得の為の親イオン選択を効率的に行うことが出来る。
【0062】
図9、図10に、糖鎖の質量分析測定において、単糖が脱離した断片イオンが観測される場合の解析例を以下に述べる。
【0063】
測定対象物質が糖鎖の場合、MSn測定において、糖鎖の末端の糖が一つずつ脱離したイオンが連続的に観測される場合がある。
【0064】
図9に、単糖が一つずつ外れていく例を示す。図9中スペクトル#2は、m/z 1403.4の1価イオンを親イオンとして取得されたMS2スペクトルであり、断片化されずに残った親イオンであるm/z 1403.4の1価イオンの他に、m/z 1257.3の1価イオンが観測されている。2つのピークから算出される、イオンの質量差から、m/z 1257.3の1価イオンは、m/z 1403.4の1価イオンから単糖であるフコースが1つ脱離したものであることが分かる。これを、図10中ではFucで示している。次に、スペクトル#3は、m/z 1257.3の1価イオンを親イオンとして取得されたMS3スペクトルであり、ここでは、更にフコースが1つ脱離した、m/z 1095.2の1価イオンが観測されている。次に、スペクトル#4は、m/z 1095.2の1価イオンを親イオンとして取得されたMS4スペクトルであり、ここでは、更にヘキソースが1つ脱離した、m/z 933.1の1価イオンが観測されている。これを、図9中ではHexで示している。次に、スペクトル#5は、m/z 933.1の1価イオンを親イオンとして取得されたMS5スペクトルであり、ここでは、更にヘキソースが1つ脱離した、m/z 771.0の1価イオンが観測されている。
【0065】
単糖脱離の場合、イオン強度の減少はほとんどなく、適当な断片イオンが観測されるまでMSnを繰り返すことができる。親イオンの質量と娘イオンの質量の差から、脱離物質が単糖であることを判断できる。フコース、ヘキソース、ヘキソサミン、N−アセチルヘキソサミン、シアル酸、ペントースなどは、それぞれ質量が異なるため、区別することができる。
【0066】
図10に、単糖が一つ、二つ、三つ‥と外れた糖鎖が同時に観測される場合の一例を示す。図10中スペクトル#2は、m/z 1403.4の1価イオンを親イオンとして取得されたMS2スペクトルであり、断片化されずに残った親イオンであるm/z 1403.4の1価イオンの他に、m/z 1257.3の1価イオンが観測されている。2つのピークから算出される、イオンの質量差から、m/z 1257.3の1価イオンは、m/z 1403.4の1価イオンから単糖であるフコースが1つ脱離したものであることが分かる。これを、図10中ではFucで示している。次に、スペクトル#3は、m/z 1257.3の1価イオンを親イオンとして取得されたMS3スペクトルであり、ここでは、さらにフコースが1つ脱離したイオン、フコース1つとヘキソース1つが脱離したイオン、フコース1つとヘキソース2つが脱離したイオン、が同時に観測されている。
【0067】
ただし、糖鎖には枝分かれ構造があり、末端から糖が1つずつ読み取れても、枝分かれについての情報は得られない。従って、枝分かれ構造の残った状態のイオンを断片化し、枝分かれの根元部分の糖が解離したイオン(aイオンと呼ばれる)等を観測することで、判定の為の情報を得る必要がある。そのような適切な断片が観測されるMSnスペクトルを得るまで、CID条件等を調整しながらMSn測定を繰り返し行い、適切な断片が観測されたら、パターンマッチ及び断片組み合わせ読み取りにより、同定、あるいは構造情報を更に得るためのMSn測定を行う。
【0068】
また、ヘキソースには立体異性体が存在することから、端から糖が1つずつ読み取れても、糖鎖構造の候補は多数存在し、同定はできない。そこで、LCを用い、糖鎖の立体構造により保持時間の異なる分離カラムで分離を行うことで、同質量で立体構造が異なる複数の糖鎖のうち、一部に絞り込むことができ、同定の効率が向上する。
【0069】
図11に、単糖脱離がおこる場合の実時間解析手順の一例を示す。図1に示すような質量分析システムは、以下の手順により解析を行う。
【0070】
あるm/zをもつイオンXに対し、MS2測定を行う(S21、S22)。主に電気的に中性な単糖の脱離(ニュートラルロス)のみがおこった質量スペクトルが得られた場合には、更に断片化を行い、適当な断片イオンが観測されるまでMSn測定を繰り返す(S23、S24)。親イオンのm/z値と同位体ピーク間隔から、z、mを算出する(S25)。質量分析の前段階で液体クロマトグラフによる分離を行った場合、その保持時間の情報により、候補既知物質の絞込みを行う。次に、m値の一致する既知物質イオンを検索し、それら既知物質イオンのMSnスペクトルと、実際に測定したイオンのMSnスペクトルのパターンマッチを行う(S26)。パターンマッチにより、既知物質と同定された場合には、この親イオンに関する解析手順は終了する(S27、Yes)。
【0071】
パターンマッチにより既知物質と判定されなかった場合(S27、No)には、親イオンのmをもとに、親イオン由来の断片の組み合わせを検出し(S28)、MSn+1の親イオンとして最適な断片を選択する(S29)。断片の数を2と指定した場合には前記式(3)あるいは式(4)に基づいてMSn+1の親イオンとして最適な断片を選択することになる。適当な断片組み合わせがない場合は解析を終了する(S30、No)。適当な断片組み合わせがある場合(S30、Yes)は、その組み合わせに含まれる断片イオン各々を親イオンとして、MSn+1測定を行う(S31)。
【0072】
図12に、既知糖鎖、未知糖鎖の混合試料の測定の場合の実時間解析手順の一例を示す。これは、試料中に含まれる既知糖鎖の同定を目的としたものである。図12中で、「部分的に構造解析」内の操作は、点線にて囲った部分と同様の操作を行うものとする。以下に、質量分析データ処理システムにおける解析手順を述べる。
【0073】
まず、MS1スペクトルデータを取得する(S41)。ここで観測されたイオンのm、zを算出する。次に、予めユーザが指定したパラメータ、例えばm、z、保持時間、に従い、MS1スペクトルに観測されたイオンと一致する既知糖鎖を検索する(S42)。
【0074】
検索の結果、既知糖鎖に一致しなかった場合(S43、No)、更なる解析を行うかは、ユーザが予め指定できるようにしておく。ユーザが更なる解析を行う設定にした場合、MS2を行って(S44)、糖鎖に特徴的な断片ピークが現れるか否かを確認することで、糖鎖以外の不純物であるかどうかを判定する(S45)。不純物であると判定した場合には、その旨データ格納部に書き込んで、解析を終了する(S46)。糖鎖であると判定された場合、部分的に既知糖鎖と同等の構造をもつ可能性があるので、既知糖鎖データベースを検索し、観測された断片イオンのうちで、既知糖鎖の断片化で観測されたものを検出する。検出されたイオンのうちで、強度やm/zなどが適当なイオンを親イオンとして選択し、MSn測定を行う(S47)。その後、データ格納分格納するデータに未知糖鎖の部分化学構造候補を添付して、手順を終了する(S48)。ただし、未知糖鎖の部分構造解析をするか否かは、ユーザが予め選択できるようになっている。
【0075】
ステップ43の判定で既知糖鎖と一致した場合、MS1で観測されたイオンを親イオンとして、MS2測定を行う。ここで、MS2スペクトルに、脱シアル酸、脱フコースなど、単糖が脱離したピークが現れた場合には、更にMS3、MS4‥と断片化を繰り返し、単糖脱離以外の、分子内部の結合が切れたイオンピークが現れるまでMSn測定を行う(S49)。得られた質量スペクトルを、候補となっている既知糖鎖のMSnスペクトルデータと照合し、パターンマッチを行う(S50)。一成分以上含まれると判定された場合には、更に多成分を仮定してパターンマッチを行い、成分比率を算出する。また、判定の確度値を算出する(S51)。
【0076】
既知糖鎖であると判定された場合で、判定確度が一定値以上の場合(S52、Yes)、データに既知糖鎖と同定された旨情報を添付して、手順を終了する(S53)。未知糖鎖であると判定された場合で、判定確度が一定値以上の場合(S54、Yes)、部分的に既知糖鎖と同等の構造をもつ可能性があるので、既知糖鎖データベースを検索し、観測された断片イオンのうちで、既知糖鎖の断片化で観測されたものを検出する。そのうちで、強度やm/zなど適当なイオンを選択し、それらを親イオンとしてMSn測定を行う(S55)。その後、データ格納部に格納するデータに未知糖鎖の化学構造候補を添付して、手順を終了する(S56)。ただし、未知糖鎖の部分構造解析をするか否かは、ユーザが予め選択できるようになっている。
【0077】
既知糖鎖あるいは未知糖鎖として判定された場合で、判定確度が一定値以下の場合、実時間解析手順により、次のMSn+1測定の親イオンとして適当なイオンの組み合わせを検出する(S59)。ここで適当なイオンがない場合は、手順を終了する(S60、S58)。適当なイオンが見つかった場合は、MSn+1測定を行い、更なる断片化スペクトルを得る(S60、S61)。nの値が、予めユーザの設定した最大値に達した場合(S57、Yes)データ格納部に格納するデータに、未同定である旨情報を添付して、手順を終了する(S58)。
【0078】
以上のような解析手順により、既知糖鎖、未知糖鎖、の混合物から、既知糖鎖を効率的に同定することが可能となる。
【0079】
図13に、本発明に基づく糖鎖解析用質量分析システムにおける、ユーザパラメータ入力部の一例を示す。各項目においてユーザが入力する情報について説明する。
・実時間解析の選択:実時間でパターンマッチや断片読み取りといった、データ解析を行うか否かを選択する。OFFの場合、従来のように、強度順の親イオン選択を行うこととし、別に設ける条件設定用画面で条件を設定する。
・使用データベース選択:一般公開データベース、自作データベース等を選択可能にする。
【0080】
・糖鎖末端修飾:還元末端のピリジルアミノ化等の誘導体化についての情報を選択する。ユーザ独自の誘導体化の場合は、その質量を入力する。糖ペプチドも選択可能とする。
・親イオンピーク強度閾値:MSn測定の親イオンとして選択するイオンの強度の最低値を指定する。
【0081】
・データベース検索における保持時間情報の使用:LCで分離された溶液あるいは気体試料が、オンラインで質量分析機に導入される場合、物質の保持時間の情報を検索条件として使用するかを選択する。液体クロマトグラフ使用の場合は、送液メソッドを選択、ダウンロードする。分離の保持時間の情報を用いる場合、保持時間の変動の許容値を設定し、その保持時間範囲内にある既知糖鎖について、パターンマッチによる同定を行う。
・MSn測定親イオンのm/z範囲:MSnの親イオンとして選択するイオンのm/z範囲を設定する。予め、特にMSn測定すべきイオン、MSn測定を行いたくないイオンが明確な場合は、その情報を入力しておくことができる。
【0082】
・パターンマッチ:断片イオン組み合わせ読み取りに先立ち、パターンマッチによる判定を行うか否かを選択する。
・断片イオン組み合わせ読み取り:断片イオン組み合わせ読み取りを行うか否かを選択する。また、脱離イオンを除くいくつのイオンを組み合わせて、親イオンを構成するものを検出するかを指定する。例えば、チェックボックス3がチェックされた場合、親イオン質量をm、断片イオンaの質量をma、断片イオンbの質量をmb、断片イオンcの質量をmc、脱離物質の質量の和をAとするとき、
m=ma+mb+mc+A
なる3つのイオンa、b、cの組み合わせをスペクトル中より検出する。また、読み取った情報を測定データとともに保存するかどうかを選択する。
【0083】
・未知糖鎖への断片読み取り、MSn: パターンマッチで未知糖鎖と判定されたものについて、断片イオン組み合わせ読み取り及びMSn測定を行うか否かを選択する。
・低強度イオンに対するMSn繰り返し:低強度のイオンを親イオンとする場合に、繰り返しMSn測定を行うかどうかを選択する。繰り返し測定して積算することでS/Nを向上させることができる。繰り返し測定するべき親イオンのイオン強度の最大値を設定する。また、積算の最大回数を指定する。
【0084】
以上により、ユーザは実時間解析を必要に応じて設定することが出来る。
測定データ格納部に格納される、測定データについての情報の項目の例を説明する。測定データには、スペクトル番号、測定条件(正/負イオンモード、イオン取り込み時間、CIDエネルギー、等)、スペクトル中に観測されたイオンのm/zとイオン強度I(m/z)のリスト、MSn(n≧2)の場合には各MSn測定における親イオンのm/z、が含まれる。同位体ピークの間隔によりzの判定、mの算出を行った場合は、その情報も付加される。パターンマッチ処理により既知物質と判定された物質のイオンに関しては、該当する既知物質のコード番号と、判定に用いた確度値の情報も付加される。パターンマッチ処理により未知物質と判定された物質のイオンに関しては、未知物質であることを示す記号と、判定に用いた確度値の情報も付加される。
【0085】
図14に、断片イオン組み合わせ読み取り処理を行った場合の、保存される測定データの一例を示す。1スペクトルごとに、組み合わせと判定された断片イオンの組み合わせのリストを、脱離イオンの情報と共に記録する。
【0086】
以上の項目のうち、スペクトル番号、親イオンm/z、スペクトル中に観測されたイオンのm/zとイオン強度I(m/z)のリスト、は必須項目であるが、それ以外はデータ容量や、後処理の速度を考慮して、ユーザが保存するか否かを設定できる。あるいは別ファイルに保存する設定とし、必要に応じて参照する。
【0087】
図15、図16に、測定中あるいは測定後に、測定済みのデータをユーザが確認するとき、画面に表示されるスペクトル情報の表示方法の一例を示す。
【0088】
図15では、質量分析機で取得したスペクトルを時系列順に#1、#2‥と番号づけしたうちの、#57から#62までの質量スペクトルを示している。このスペクトル番号は、保持時間で表示してもよい。MSn測定の場合には、親イオンのm/zとzを表記する。次にMSn+1測定を行った場合には、その親イオンとなったピークに印を付ける。例えば、図15中のスペクトル#58は、#57で観測されたイオンのうちの1つを親イオンとして取得したMS2スペクトルである。従って、#57のスペクトル中の、親イオンとなったピークに、図15中▼で示したような印を付ける。断片イオン組み合わせ読み取り処理を行い、組み合わせに含まれる複数断片を親イオンとしてMSn+1測定を行った場合は、その組み合わせごとに印の色又は形状を変えて表示する。例えば、図15中のスペクトル#58について断片イオン読み取りの実時間解析を行った結果、▽で示した1組のイオンと▲で示した1組のイオンの計2組のイオンが、元のイオンを構成する断片イオンの組み合わせとして検出された。そこで、これら4つのイオンをそれぞれ親イオンとして取得したのが、#59から#62の4つのMS3スペクトルである。
【0089】
単糖脱離の読み取りを行った場合は、図16に示すように、脱離した糖の種類を示す。例えば、図16中スペクトル#31では、2種類のイオンが観測されており、それらはフコース1つ分の質量差をもっている。従って、これらのピークの間に、Fucと表記する。また、質量の小さいほうのイオンである、m/z 1234.5の1価イオンを親イオンとしてMS2スペクトルを取得した場合、m/z 1234.5の1価イオンに、▼で示したような印を付ける。m/z 1234.5の1価イオンを親イオンとして取得したMS2スペクトルが、#32である。ここでは、親イオンと比較した質量差から、ヘキソースが1つ脱離したイオン、及びヘキソースが2つ脱離したイオンが検出されている。そこで、これらピークの間に、Hexと表記する。また、ヘキソースが2つ脱離したイオンである、m/z 910.3の1価イオンを親イオンとしてMS3スペクトルを取得した場合、m/z 910.3の1価イオンに、▼で示したような印を付ける。
【0090】
以上のような表示方法により、実時間処理の内容を、測定後にユーザが一目で読み取ることが出来る。
【0091】
図17に、本発明に基づく、糖ペプチドのMSn測定の例を示す。被分析物質は、アミノ酸配列がNLTKであるペプチドのアスパラギンNに、N−アセチルグルコサミン2つ、マンノース5つからなる糖鎖が結合した、質量1690.8の糖鎖結合ペプチドである。
【0092】
MSスペクトルには、糖鎖結合ペプチドにプロトンが2つ付加した2価イオンが、m/z 846.4に観測されている(m/z=(1690.8+1.0×2)÷2=846.4)。次に、この糖鎖結合ペプチドの2価イオンを親イオンとして、MS2測定を行った。MS2スペクトルについて、2断片組み合わせ読み取り処理を行ったところ、m/z 1014.4の1価イオンと、m/z 678.4の1価イオンが、断片組み合わせとして検出された。即ち、付加したプロトンを除いて計算すると、
(1014.4−1.0)+(678.4−1.0)=1690.8
であり、脱離イオンなしで親イオンと質量が一致した。
【0093】
そこで次に、MS2スペクトルに観測された、m/z 1014.4、及びm/z 678.4のイオンそれぞれを親イオンとして、MS3測定を行った。m/z 1014.4を親イオンとして得たMS3スペクトルを解析したところ、m/z 852.4、690.3、528.2、366.2の1価イオンが観測された。親イオン、及びこれらピーク間の質量差は、
1014.4−852.4=162.0、
852.4−690.3=162.1、
690.3−528.2=162.1、
528.2−366.2=162.0
と、マンノース1つが脱離する際の質量162.05と測定誤差の範囲で一致しており、また、m/z 366.2は、典型的な糖鎖のコア構造である、N−アセチルグルコサミンにマンノースが結合した分子にプロトンが付加した質量366.23と、測定誤差の範囲で一致した。従って、 m/z 1014.4の親イオンは、典型的な糖鎖のコア構造である、N−アセチルグルコサミンにマンノースが結合したManGlcNAc構造に、さらに4つのマンノースが結合した糖鎖であると同定された。
【0094】
また、m/z 678.4を親イオンとして得たMS3スペクトルを解析したところ、m/z 475.3、458.3、329.2、248.2、228.1の1価イオンのピークが出ていることから、アミノ酸配列NLTKのペプチドであると同定された。また、プロトンを除いて考えたアミノ酸配列NLTKのペプチドの質量474.3と、プロトンを除いて考えた親イオンの質量677.4の差203.1は、GlcNAcが1つ脱離する際の質量203.07と測定誤差の範囲で一致した。
【0095】
以上より、MS1スペクトルに観測されたm/z 846.4の2価のイオンは、アミノ酸配列NLTKのペプチドに、マンノース5つ、N−アセチルグルコサミン2つからなる糖鎖が結合したものであると同定された。図17中に、被分析物質の構造と、観測されたピークの帰属を示す。
【0096】
以上のように、断片イオン組み合わせ読み取り処理を行うことで、糖鎖結合ペプチドの糖鎖組成と、ペプチドのアミノ酸配列を、2回という最小限の回数のMS3測定により同定でき、短時間で確実な同定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明に基づく質量分析システムの装置構成例を示す図。
【図2】典型的糖鎖について、MS2測定で適当な断片が観測され、断片組み合わせ読み取り処理を行う方法の図。
【図3】既知タンパク質データベースに格納されたタンパク質データの例を示す図。
【図4】既知糖鎖データベースに格納された糖鎖データの例を示す図。
【図5】2つの質量スペクトルのパターンマッチの方法の説明図。
【図6】実時間で物質同定を行う解析手順の例を示す図。
【図7】断片組み合わせ読み取り処理の手順の例を示す図。
【図8】質量分析システム内の各部間での情報の流れの例を示す図。
【図9】単糖脱離が起こった場合の質量スペクトルの例を示す図。
【図10】単糖脱離が起こった場合の質量スペクトルの例を示す図。
【図11】糖鎖のMSn測定において単糖脱離が起こった場合の実時間解析手順を示す図。
【図12】複数種の糖鎖混合物をLC/MSn分析する際の実時間測定手順を示す図。
【図13】実時間解析する機能を持つ質量分析システムにおける、ユーザパラメータ入力画面の例を示す図。
【図14】実時間でパターンマッチ、及び断片組み合わせ読み取り処理を行った測定データについて、測定データ格納部に保存されるデータの図。
【図15】実時間で断片組み合わせ読み取り処理を行った測定データについて、測定後にユーザが確認するデータ画面の例を示す図。
【図16】実時間で単糖脱離読み取り処理を行った測定データについて、測定後にユーザが確認するデータ画面の例を示す図。
【図17】糖鎖結合ペプチドを試料として測定したMS2スペクトルに断片イオン読み取り処理を適用して得られたMS3スペクトルの図。
【符号の説明】
【0098】
10:液体クロマトグラフ、20:イオン源、30:質量分析機、31:質量分析部、32:質量スペクトル検出部、33:断片化制御部、40:コンピュータ、41:情報処理部、42:既知物質データベース格納部、43:測定データ格納部、44:イオン価数z・質量m決定部、45:解析手順決定部、46:パターンマッチ処理部、47:断片イオン組み合わせ読み取り処理部、48:最適親イオン及び断片化条件決定部、50:データ表示及びパラメータ入力部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン化された試料を質量分析する質量分析機と、
情報処理部とを含み、
前記質量分析機は質量スペクトルに現れた特定のm/zを有するイオンを選択的に断片化して、断片化されたイオンを質量分析する機能を有し、
前記情報処理部は、1つの親イオンと、当該親イオンから派生した複数の娘イオンの情報を受けて、前記親イオンを再構成できる娘イオンの組み合わせを求める断片イオン組み合わせ読み取り処理部を有し、前記断片イオン組み合わせ読み取り処理部によって求めた娘イオンの組み合わせに含まれる娘イオンを断片化して質量分析する指示を前記質量分析機に行う機能を有することを特徴とする質量分析システム。
【請求項2】
請求項1記載の質量分析システムにおいて、前記情報処理部は、前記断片イオン組み合わせ読み取り処理部によって求められた娘イオンの組み合わせが複数ある時、イオン強度が大きい娘イオンの組み合わせに含まれる娘イオンを断片化して質量分析する指示を行うことを特徴とする質量分析システム。
【請求項3】
請求項1記載の質量分析システムにおいて、試料を分離するクロマトグラフと、前記クロマトグラフで分離された試料をイオン化するイオン源とを有し、前記質量分析機は前記イオン源でイオン化された試料を質量分析することを特徴とする質量分析システム。
【請求項4】
請求項1記載の質量分析システムにおいて、前記断片イオン組み合わせ読み取り処理部は、前記親イオンの質量をm、前記複数の娘イオンの質量をm1、m2、…、mn(nは2以上の正の整数)、前記親イオンの断片化の際に脱離する分子の質量をAとするとき、次式(1)を満たす娘イオンの組み合わせを求めることを特徴とする質量分析システム。
m=m1+m2+…+ms+A(sは2以上でnより小さい正の整数) …(1)
【請求項5】
試料をイオン化する工程と、
前記イオン化された試料を質量分析する工程と、
前記質量分析で観測されたイオンの中から第1のイオンを選択して断片化する第1の断片化工程と、
前記第1の断片化工程によって生じた複数の断片イオンを質量分析する工程と、
前記質量分析の結果を用いて、前記第1のイオンを再構成できる断片イオンの組み合わせを求める工程と、
前記断片イオンの組み合わせに含まれる断片イオンを断片化する第2の断片化工程と、
前記第2の断片化工程で生じた断片イオンを質量分析する工程と、
を有することを特徴とする質量分析方法。
【請求項6】
請求項5記載の質量分析方法において、前記断片イオンの組み合わせを求める工程では、前記第1のイオンの質量をm、前記第1の断片化工程によって生じた複数の断片イオンの質量をm1、m2、…、mn(nは2以上の正の整数)、前記第1の断片化工程で脱離する分子の質量をAとするとき、次式(2)を満たす断片イオンの組み合わせを求めることを特徴とする質量分析方法。
m=m1+m2+…+ms+A(sは2以上でnより小さい正の整数) …(2)
【請求項7】
請求項6記載の質量分析方法において、前記式(2)を満たす断片イオンの組み合わせが複数ある時、前記複数の断片イオンのイオン強度が大きな組み合わせに含まれる断片イオンを前記第2の断片化工程で断片化することを特徴とする質量分析方法。
【請求項8】
請求項5記載の質量分析方法において、前記試料はクロマトグラフで分離された試料であることを特徴とする質量分析方法。
【請求項9】
質量分析機から、1つの親イオンと当該親イオンの断片化によって発生した複数の娘イオンに関する情報を受けて、前記親イオンを再構成できる娘イオンの組み合わせを求める工程、
求めた娘イオンの組み合わせに含まれる娘イオンを断片化して質量分析する指示を前記質量分析機に行う工程、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項10】
請求項9記載のプログラムにおいて、前記親イオンを再構成できる娘イオンの組み合わせを求める工程では、前記親イオンの質量をm、前記複数の娘イオンの質量をm1、m2、…、mn(nは2以上の正の整数)、前記親イオンの断片化の際に脱離する分子の質量をAとするとき、次式(3)を満たす断片イオンの組み合わせを求めることを特徴とするプログラム。
m=m1+m2+…+ms+A(sは2以上でnより小さい正の整数) …(3)
【請求項1】
イオン化された試料を質量分析する質量分析機と、
情報処理部とを含み、
前記質量分析機は質量スペクトルに現れた特定のm/zを有するイオンを選択的に断片化して、断片化されたイオンを質量分析する機能を有し、
前記情報処理部は、1つの親イオンと、当該親イオンから派生した複数の娘イオンの情報を受けて、前記親イオンを再構成できる娘イオンの組み合わせを求める断片イオン組み合わせ読み取り処理部を有し、前記断片イオン組み合わせ読み取り処理部によって求めた娘イオンの組み合わせに含まれる娘イオンを断片化して質量分析する指示を前記質量分析機に行う機能を有することを特徴とする質量分析システム。
【請求項2】
請求項1記載の質量分析システムにおいて、前記情報処理部は、前記断片イオン組み合わせ読み取り処理部によって求められた娘イオンの組み合わせが複数ある時、イオン強度が大きい娘イオンの組み合わせに含まれる娘イオンを断片化して質量分析する指示を行うことを特徴とする質量分析システム。
【請求項3】
請求項1記載の質量分析システムにおいて、試料を分離するクロマトグラフと、前記クロマトグラフで分離された試料をイオン化するイオン源とを有し、前記質量分析機は前記イオン源でイオン化された試料を質量分析することを特徴とする質量分析システム。
【請求項4】
請求項1記載の質量分析システムにおいて、前記断片イオン組み合わせ読み取り処理部は、前記親イオンの質量をm、前記複数の娘イオンの質量をm1、m2、…、mn(nは2以上の正の整数)、前記親イオンの断片化の際に脱離する分子の質量をAとするとき、次式(1)を満たす娘イオンの組み合わせを求めることを特徴とする質量分析システム。
m=m1+m2+…+ms+A(sは2以上でnより小さい正の整数) …(1)
【請求項5】
試料をイオン化する工程と、
前記イオン化された試料を質量分析する工程と、
前記質量分析で観測されたイオンの中から第1のイオンを選択して断片化する第1の断片化工程と、
前記第1の断片化工程によって生じた複数の断片イオンを質量分析する工程と、
前記質量分析の結果を用いて、前記第1のイオンを再構成できる断片イオンの組み合わせを求める工程と、
前記断片イオンの組み合わせに含まれる断片イオンを断片化する第2の断片化工程と、
前記第2の断片化工程で生じた断片イオンを質量分析する工程と、
を有することを特徴とする質量分析方法。
【請求項6】
請求項5記載の質量分析方法において、前記断片イオンの組み合わせを求める工程では、前記第1のイオンの質量をm、前記第1の断片化工程によって生じた複数の断片イオンの質量をm1、m2、…、mn(nは2以上の正の整数)、前記第1の断片化工程で脱離する分子の質量をAとするとき、次式(2)を満たす断片イオンの組み合わせを求めることを特徴とする質量分析方法。
m=m1+m2+…+ms+A(sは2以上でnより小さい正の整数) …(2)
【請求項7】
請求項6記載の質量分析方法において、前記式(2)を満たす断片イオンの組み合わせが複数ある時、前記複数の断片イオンのイオン強度が大きな組み合わせに含まれる断片イオンを前記第2の断片化工程で断片化することを特徴とする質量分析方法。
【請求項8】
請求項5記載の質量分析方法において、前記試料はクロマトグラフで分離された試料であることを特徴とする質量分析方法。
【請求項9】
質量分析機から、1つの親イオンと当該親イオンの断片化によって発生した複数の娘イオンに関する情報を受けて、前記親イオンを再構成できる娘イオンの組み合わせを求める工程、
求めた娘イオンの組み合わせに含まれる娘イオンを断片化して質量分析する指示を前記質量分析機に行う工程、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項10】
請求項9記載のプログラムにおいて、前記親イオンを再構成できる娘イオンの組み合わせを求める工程では、前記親イオンの質量をm、前記複数の娘イオンの質量をm1、m2、…、mn(nは2以上の正の整数)、前記親イオンの断片化の際に脱離する分子の質量をAとするとき、次式(3)を満たす断片イオンの組み合わせを求めることを特徴とするプログラム。
m=m1+m2+…+ms+A(sは2以上でnより小さい正の整数) …(3)
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−317326(P2006−317326A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−141124(P2005−141124)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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