Notice: Undefined variable: fterm_desc_sub in /mnt/www/biblio_conv.php on line 353
質量分析システム及びコンピュータプログラム
説明

質量分析システム及びコンピュータプログラム

【課題】測定可能な時間が制限されている場合であっても、物質の有無の判定、種類の同定、又は物質の種類ごとの定量を高精度に行うことが可能な質量分析システムを提供する。
【解決手段】質量分析システムに、(1) 予め与えられた測定可能時間に応じ、MS分析及びMSn分析(ただしn≧2)の組み合わせにより与えられる測定スケジュールを決定する動作計画部と、(2) 測定スケジュールを構成する各測定動作の実行により得られる各質量スペクトルを出力するタンデム型質量分析機能を有する質量分析部を搭載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンデム型質量分析機能を有する質量分析部を有する質量分析システム及び当該システムの測定動作を制御するコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
タンデム型質量分析機能を有する質量分析部を用いる分析方法は、2つに大別することができる。
【0003】
1つの方法は、イオン化した全ての物質について、その質量対電荷比(m/z)毎に量を計測する方法である。この方法は、MS分析(又はMS1析)と呼ばれる。
【0004】
もう1つの方法は、イオン化した全物質の中から特定の m/zを有するイオン(プリカーサイオンと呼ばれる。)だけを選択してその他のイオンから分離し(単離と呼ばれる。)、更にプリカーサイオンを解離することによりフラグメント化したイオン(プロダクトイオンと呼ばれる。)に対して m/z毎に量を計測する方法である。この方法は、MSn分析と呼ばれる。MSn分析は、プリカーサイオンの選択、単離、解離を繰り返す回数により、MS2(1回の解離)、MS3(2回の解離)、・・・MSn((n-1)回の解離)と呼ばれる。
【0005】
一般に、測定対象によっては、異なる物質のイオンが、同じ m/zに出現することがある。このため、MS分析だけでは、そのような物質を区別することができない。これに対し、MSn分析は、プロダクトイオンがどのような m/zとして現れるかにより、測定対象とする物質をより詳細に区別することができる。このように、MSn分析の方が、MS分析よりも情報量が一般に大きくなる。
【0006】
ここでの情報量とは、測定対象とする物質の有無を判定できるだけの情報の量、物質の種類を同定できるだけの情報の量、又は、物質の種類毎の定量ができるだけの情報の量を意味する。特に、不純物が多い場合や測定したい物質が微量である場合には、MSn分析で得られる情報量の方がMS分析で得られる情報量よりも大きくなる。
【0007】
ただし、MSn分析の所要時間は、単離や解離の工程の分だけ、MS分析より長くなる。しかも、試料の消費量は、質量分析の時間に応じて増加する。このため、測定時間が長いと、測定中に測定対象とする物質が無くなって、その後は情報が得られなくなる可能性がある。従って、試料の測定は、限られた時間内に、効率的に実行される必要がある。特に、イオン化効率が高い対象物質は早く消費される。従って、その測定時間は短時間である必要がある。このように、獲得可能な情報量と測定時間の間には、トレードオフの関係が認められる。
【0008】
そこで、実際の測定では、MS分析とMSn分析を組み合わせ、情報量と測定時間の両立を図っている。例えば特許文献1には、MS分析で取得された質量スペクトルのうちピーク強度が所定の閾値以上であった m/zのみをMS2分析のためのプリカーサイオンとして選択し、MS2分析の実行回数を限定するタンデム型質量分析システムが記載されている。
【0009】
このシステムは、MS分析を1回だけ行い、選択されたプリカーサイオンの数だけMS2分析を行う、という一連の流れを繰り返し実行する。そして、各回のプリカーサイオンの m/zに対するMS2分析で得られる質量スペクトルによりデータベースを検索し、各イオンの物質の種類を同定する。このように、MS2分析の実行回数を限定することにより、特許文献1のシステムは、測定に要する時間の短縮を図っている。なお、各回のプリカーサイオンの選択に際し、一つ前の反復までに同定されていない m/zのみを選択することにより(すなわち、一度同定された m/zは再度のMS2分析を行わないことにより)、測定時間を更に低減する。以上説明した方法により、特許文献1に記載のシステムは、試料の効率的な分析を実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−3387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ただし、従来方法には、下記に示す課題がある。
(1)測定可能な時間が短く制限されている場合に、その時間内に測定を完了すること、有無の判定を完了すること、種類の同定を完了すること、又は物質の種類毎の定量を完了すること
(2)長時間の測定が可能な場合に、その時間の長さに応じ、物質の有無の判定精度を高めること、種類の同定精度を高めること、又は物質の種類毎の定量精度を高めること
【0012】
なお、従来方法の場合にも、測定可能時間で測定を強制的に打ち切る機能を導入することにより、(1)の課題に一応は対応することができる。ただし、測定時間を満たしたとしても、全ての対象物質についてMS2分析が実行される前に測定が終了される可能性があり、一部の物質については、有無の判定、種類の同定又は物質の種類毎の定量に至らない可能性がある。
【0013】
また、従来方法は、測定可能時間な十分であったとしても、同定された物質に対してはMS2分析が行われない。このため、(2)の課題を解決することはできない。
【0014】
そこで、本発明は、測定可能な時間が制限されている場合にも、その時間内に物質の有無の判定、種類の同定、又は物質の種類毎の定量を完了でき、しかも与えられた時間長に応じた各分析精度の向上を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このため、本発明に係る質量分析システムとして、(1) 予め与えられた測定可能時間に応じ、MS分析及びMSn分析(ただしn≧2)の組み合わせにより与えられる測定スケジュールを決定する動作計画部と、(2) 測定スケジュールを構成する各測定動作の実行により得られる質量スペクトルを出力するタンデム型質量分析機能を有する質量分析部を有するものを提案する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、測定可能時間に応じて測定スケジュールを決定する。このため、測定可能時間が短く制限された場合、動作計画部は、MS分析の頻度を上げる一方、MSn(n≧2)分析の頻度を下げるように測定スケジュールを決定する。このように、測定可能時間に制限がある場合でも、全ての対象物質について、物質の有無判定、同定又は定量を実行することができる。また、測定可能時間が十分長く設定された場合、動作計画部は、MS分析の頻度を下げる一方、MSn(n≧2)分析の頻度を上げるように測定スケジュールを決定する。この結果、測定可能時間に余裕がある場合には、その範囲内で、物質の有無の判定精度、種類の同定精度、又は、物質の種類毎の定量精度を高めることができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例に係る質量分析システムのハードウェア構成を示す図。
【図2】実施例に係る質量分析システムの機能ブロック構成を示す図。
【図3】判定ルール学習部で実行される処理手順を示すフローチャート。
【図4】質量スペクトルデータベースのデータ構造例を示す図。
【図5】測定別事前優先度算出部で実行される処理手順を示すフローチャート。
【図6】測定別事前優先度データベースのデータ構造例を示す図。
【図7】動作計画部で実行される処理手順を示すフローチャート。
【図8】測定別所要時間データベースのデータ構造例を示す図。
【図9】測定可能時間が短く制限されている場合の測定動作系列例を示す図。
【図10】測定可能時間が十分長く設定されている場合の測定動作系列例を示す図。
【図11】TCOM=1の場合の動作計画部と質量分析部の実行タイミング例を示す図。
【図12】TCOM=2の場合の動作計画部と質量分析部の実行タイミング例を示す図。
【図13】現時刻精度算出部で実行される処理手順を示すフローチャート。
【図14】ネットワーク経由で外部計算機と接続された質量分析システムのハードウェア構成を示す図。
【図15】ユーザインタフェース部の画面構成例を示す図。
【図16】推奨時間算出部で実行される処理手順を示すフローチャート。
【図17】他の実施例に係る質量分析システムの機能ブロック構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の実施態様は、後述する形態例に限定されるものではなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。なお、本発明は、爆発物探知システム、土壌分析システム、水質分析システム、薬物検出システム、室内環境測定システムに限らず、物質の有無を判定するシステム、物質の種類を同定するシステム又は物質を定量するシステムに適用することができる。
【0019】
[形態例1]
[システム構成1]
図1に、形態例に係る質量分析システムのハードウェア構成を示す。質量分析システムは、質量分析部100、中央演算装置104、ユーザインタフェース部105、記憶媒体109、揮発性メモリ110で構成される。なお、質量分析部100は、試料導入部101、イオン化部102、高周波電源103、検出器106、イオン輸送部107、イオントラップ108、ポンプ111から構成される。
【0020】
試料導入部101は、蒸気、霧状液滴又は微粒子の状態でイオン化部102に試料を導入する。導入された試料は、イオン源を有するイオン化部102においてイオン化される。イオン化には、エレクトロスプレーイオン化法、ソニックスプレーイオン化法その他のイオン化技術が用いられる。
【0021】
生成されたイオンは、イオン化部102からイオン輸送部107を介してイオントラップ108に送られる。イオントラップ108には、四重極イオントラップ、リニアトラップ等が用いられる。高周波電源103は、高周波電圧をイオントラップ108に供給する。供給されたイオンは、イオントラップ108の内部にトラップされる。イオントラップ108に印加する高周波電圧を時間的に変化させることにより、トラップされたイオンは、 m/z毎に、異なる時刻に検出器106に送られる。検出器106に到達したイオンの量が電圧値に変換され、中央演算装置104に送られる。
【0022】
中央演算装置104は、時系列に出現する電圧信号の各時刻をイオンの m/zに変換することにより、電圧信号を各 m/zに対応するイオンの量を表すデータ(「質量スペクトル」と呼ぶ。)に置き換え、揮発性メモリ110に格納する。中央演算装置104は、揮発性メモリ110に格納された質量スペクトルに基づいて、対象物質の有無を判定する。この処理は、記憶媒体109に格納された、過去に得られている質量スペクトルのデータ及びそれらデータに基づいて予め算出された判定ルールに基づいて実行される。また、記憶媒体109は、測定別事前優先度データベース213(図2)及び測定別所要時間データベースのデータ214(図2)を格納している。有無判定結果は、ユーザインタフェース部105が有する判定結果提示部205(図2)を通じてユーザに提示される。中央演算装置104は、特許請求の範囲おける「動作計画部」として動作する。
【0023】
ユーザインタフェース部105は、例えば情報入力と情報提示が可能なタッチパネルディスプレイで構成される。ユーザインタフェース部105は、測定可能時間入力部202(図2)、有無閾値入力部、現時刻精度提示部210(図2)、予測精度提示部211(図2)、推奨測定時間提示部、測定動作提示部216(図2)を有する。なお、ユーザインタフェース部105は、ネットワーク経由で外部接続された計算機で実行されるソフトウェアを通じて実現しても良い。
【0024】
[システム構成2]
この他、形態例に係るシステムは、図14に示すように、ネットワーク1403を通じて外部接続された中央演算装置1401及び記憶媒体1402を加えた構成であっても良い。この場合、記憶媒体1402には、過去に得られている質量スペクトルs’のデータ、それらデータに基づいて予め算出された判定ルールR(c, j)のデータ、測定別事前優先度データベース213(図2)のデータ及び測定別所要時間データベース214(図2)のデータを格納しておけば良い。これにより、記憶媒体109の容量を小さく抑えることができる。また、判定ルールR(c, j)の算出や、後述する測定別事前優先度P(c, j)の算出には、中央演算装置1401を用いれば良い。これにより、中央演算装置104の処理性能を小さく抑えることができる。
【0025】
[中央演算装置の機能構成]
図2に、中央演算装置104上で実行されるコンピュータプログラムを通じて実現される機能ブロック構成を示す。
【0026】
[閾値濃度入力部207]
閾値濃度入力部207を通じ、有無判定の閾値とする濃度(閾値濃度)A1が入力される。閾値濃度入力部207は、ユーザインタフェース部105に対応する。閾値濃度入力部207が存在しないシステム構成の場合、予め設定した適当なデフォルト値が、閾値濃度A1として入力される。
【0027】
[判定ルール学習部206]
判定ルール学習部206は、閾値濃度A1と、予め得られている質量スペクトルデータベース212の質量スペクトルs’とに基づいて、判定ルールの学習を行う。
【0028】
図4は、質量スペクトルデータベース212のデータ構造例を示す。この形態例の場合、 M種類の物質c_1〜c_Mを測定対象とする。測定動作の候補は、MS分析と、N通り(m_1〜m_N)のプリカーサイオンの m/zに対するMS2分析との計(N+1)通りである。これらN+1通りの測定動作を測定動作群COMとする。勿論、測定動作群COMは、MS分析とMS2分析だけでなく、より一般的なMSn(n>2)を含んでいても良い。
【0029】
図4の場合、質量スペクトルデータベース212には、L回分の測定に対応する質量スペクトルs’の組が格納されている。各レコード(番号1〜L)301には、前述したN+1通りの測定動作302のいずれかと、M種類の物質のそれぞれがどれだけの濃度で含まれているかを示した測定時試料含有物質リスト303と、適当に離散化された m/zの番号(i=1〜S)に対応する強度値304(1)〜304(S)とが格納されている。
【0030】
図3に、判定ルール学習部206で実行される処理手順例を示す。
処理S305において、測定動作の番号jが0に初期化される。以降、各測定動作Mjに対して、学習処理が実行される。
【0031】
処理S306において、判定ルール学習部206は、jが測定動作群COMの数以下か否か判定し、測定動作群COMの数以下の場合には処理S301以降の処理を実行する。一方、測定動作Mjが測定動作群COMの数を超える場合には、判定ルール学習部206は、学習処理を終了する。
【0032】
処理S301において、判定ルール学習部206は、質量スペクトルデータベース212から、測定動作Mjに対応する質量スペクトル群Dを読み出す。
【0033】
処理S302において、判定ルール学習部206は、質量スペクトル群Dを濃度情報付き特徴ベクトル群D’に変換する。質量スペクトルs’を特徴ベクトルに変換する方法は、例えば質量スペクトルのS個の強度をそのままS次元ベクトルに変換する方法であって良く、測定対象の物質c_1〜c_Mに対応するM個の m/z番号i(c_1)〜i(c_M)の強度を要素とするM次元ベクトルに変換する方法であっても良く、測定の際に標準物質c^STDも同時に導入する場合には、c^STDに対応した m/z番号i(c^STD)の強度も要素として含んだ(M+1)次元ベクトルに変換する方法でも良く、K個の夾雑物c^CNT_1〜c^CNT_Kに対応した m/z番号i(c^CNT_1)〜i(c^CNT_K)の強度も要素として含んだ(M+K)次元ベクトルに変換する方法でも良い。
【0034】
また、質量スペクトルs’を特徴ベクトルに変換する方法は、i(c_1)〜i(c_M)及びi(c^CNT_1)〜i(c^CNT_K)のそれぞれをプリカーサイオンとしたMS2分析での各物質F個のフラグメントのピーク m/z番号i(c_1, 2, 1)〜i(c_1, 2, F)、…、i(c_M, 2, 1)〜i(c_M, 2, F)、i(c^CNT_1, 2, 1)〜i(c^CNT_1, 2, F)、…、i(c^CNT_K, 2, 1)〜i(c^CNT_K, 2, F)の強度を要素とするF×(M+K)次元も加え、(F+1)×(M+K)次元のベクトルに変換する方法でも良い。
【0035】
また、質量スペクトルs’を特徴ベクトルに変換する方法は、これらいずれかの方法で変換したベクトルを、主成分分析、判別分析、独立成分分析、非負値行列因子分解等のいずれかの方法で次元削減したベクトルに変換する方法でも良い。
【0036】
これらの特徴ベクトル群D’自体が質量スペクトルデータベース212に格納されていても良い。その場合、特徴ベクトルへの変換の計算量の削減や記憶領域の削減というメリットがある。
【0037】
処理S303において、判定ルール学習部206は、各特徴ベクトルに紐づいた測定時試料含有物質リストにおける濃度値が閾値濃度以上か未満かを判定する。濃度値が閾値以上であった場合、判定ルール学習部206は、特徴ベクトルに教師信号(値“+1”)を付与し、それ以外の場合、判定ルール学習部206は、特徴ベクトルに教師信号(値“-1”)を付与する。これにより、判定ルール学習部206は、教師信号付きの特徴ベクトル群Vを生成する。
【0038】
次のS304において、判定ルール学習部206は、教師信号付き特徴ベクトル群Vに基づいて、物質c毎に測定動作Mjに対する判定ルールR(c, j)の学習を行う。判定ルールR(c, j)は、例えば線形識別関数であって良く、区分線形識別関数であっても良く、非線形識別関数であっても良く、決定木であっても良く、多層パーセプトロンのようなニューラルネットワークであっても良い。線形識別関数、非線形識別関数に関しては、それらの代表的学習方法であるサポートベクターマシンで学習すれば良い。決定木に関しては、その代表的学習方法であるID3又はC4.5で学習すれば良い。ニューラルネットワークに関しては、その代表的学習方法である誤差逆伝搬法で学習すれば良い。
【0039】
この後、処理S307において、判定ルール学習部206は、jに1を加算し、次の測定動作に対して学習処理を行う。
【0040】
[測定別事前優先度算出部208]
測定別事前優先度算出部208は、判定ルール学習部206から出力された判定ルールR(c, j)と、質量スペクトルデータベース212の質量スペクトルs’とを用い、測定別事前優先度P(c, j)を算出する。測定動作Mjに対する測定別事前優先度P(c, j)は、例えば測定動作Mjで得られる質量スペクトルs’に基づく判定が正解する確率であっても良い。
【0041】
図5に、測定別事前優先度算出部208が実行する処理手順を示す。処理S501、S502、S503、S504、S505については、それぞれ判定ルール学習部206の処理S305、S306、S301、S302、S303と同様である。すなわち、各測定動作Mjに対して、教師信号付き特徴ベクトル群Vが生成される。
【0042】
処理S506以降は、特徴ベクトルVの各要素v_k(k=0,…, L)に対して処理を行う。処理S506では要素を識別するkを初期化する。
【0043】
処理S507において、測定別事前優先度算出部208は、kが、特徴ベクトル群Vの要素数より小さいか否か判定する。肯定結果が得られた場合、測定別事前優先度算出部208は処理S508に進み、否定結果が得られた場合、測定別事前優先度算出部208は処理S516に進む。
【0044】
処理S508において、測定別事前優先度算出部208は、生成サンプル番号ii、及び、物質c毎の正解数COUNT(c)を初期化する。
【0045】
処理S509において、測定別事前優先度算出部208は、生成サンプル番号iiが反復回数LL未満か否か判定する。生成サンプル番号iiが反復回数LL未満の場合、測定別事前優先度算出部208は処理S510に進み、特徴ベクトル群Vの要素v_kを式1に代入し、確率的にv’(ii)を生成する。
【0046】
【数1】

【0047】
ただし、Dは特徴ベクトルの次元数、Σは共分散行列を表わす。Σは、例えば所与の値でも良く、予め同じ試料に対する複数回の測定により算出された値でも良い。
【0048】
処理S512において、測定別事前優先度算出部208は、v’(ii)に対する判定ルールR(c, j)による判定結果が物質c毎に教師信号と一致するかどうかを判定し、教師信号と一致する場合、COUNT(c)に1を加算する。
【0049】
処理S513において、測定別事前優先度算出部208は、生成サンプル番号iiに1を加算する。測定別事前優先度算出部208は、生成サンプル番号iiが反復回数LLに達するまで、確率的サンプル生成と判定を繰り返す。
【0050】
この後、生成サンプル番号iiが反復回数LLに達すると、測定別事前優先度算出部208は処理S514に進み、式2に基づいてp_k(c)を算出する。
【0051】
【数2】

【0052】
処理S515において、測定別事前優先度算出部208は、kに1を加算し、処理S507に戻る。このように、測定別事前優先度算出部208は、処理S507〜S515までのループを特徴ベクトル群Vの全ての要素に対して繰り返す。特徴ベクトルVの全ての要素に対する一連の処理が終了すると、測定別事前優先度算出部208は処理S516に進み、式3に基づいて測定別事前優先度P(c, j)を算出する。
【0053】
【数3】

【0054】
処理S517において、測定別事前優先度算出部208はjに1を加算し、その後、処理S502に戻る。全ての測定動作Mjに対し、測定別事前優先度P(c, j)が算出されると、測定別事前優先度算出部208は処理を終了する。
【0055】
測定別事前優先度算出部208は、算出された測定別事前優先度P(c, j)を測定別事前優先度データベース213に格納する。
【0056】
図6に、測定別事前優先度データベース213のデータ構造を示す。測定別事前優先度データベース213はj行c列で構成され、測定動作Mjと測定対象の物質c_m(mは、1、2…M)の組み合わせ位置に、測定別事前優先度P(c, j)が格納される。
【0057】
ここまでの処理は、測定動作を開始する以前に完了することができ、測定動作中に処理する必要はない。以降では、測定動作中に実行される処理を中心に残りの実施形態を述べる。
【0058】
[測定可能時間入力部202]
測定可能時間入力部202を通じ、測定可能時間T_Cが入力される。測定可能時間入力部202は、ユーザインタフェース部105に対応する。
【0059】
[動作計画部201]
動作計画部201は、測定可能時間T_Cに測定動作が完了するように、MS分析及びMSn分析(ただしn≧2)を組み合わせた測定スケジュールを決定する機能を適用する。この際、動作計画部201は、処理動作中も、測定スケジュールを構成する測定動作の組み合わせを測定の進行状況に応じて逐次更新する機能を提供する。その際、動作計画部201は、測定可能時間T_Cを越えない範囲で、測定スケジュールを構成するMSn分析の比率を最大化する。
【0060】
図7に、動作計画部201で実行される処理手順を示す。
処理S701において、動作計画部201は、測定別所要時間データベース214から各測定動作Mjの所要時間T(j)を読み出す。図8に、測定別所要時間データベース214のデータ構造例を示す。MSn分析における解離方法には、衝突誘起解離、電子捕獲解離その他の解離方法が存在する。これら異なる解離方法によっても測定別所要時間T(j)は異なる。また、イオンの蓄積工程、排出工程、単離工程、解離工程のそれぞれの時間の設定値によっても、測定別所要時間T(j)は異なる。測定別所要時間データベース214には、これら分析方法の設定と、各工程の時間設定に依存して、予め測定別所要時間T(j)が自動的に登録されている。
【0061】
処理S702において、動作計画部201は、測定別事前優先度データベース213から、各測定動作Mj、物質cの測定別事前優先度P(c, j)を読み出す。
【0062】
処理S703において、動作計画部201は、各測定動作Mjにおける各物質c、測定動作Mjに対する現時刻精度r(c, j)を読み出す。なお、測定開始時刻t=0において、現時刻精度算出部209から出力される現時刻精度r(c, j)は、適当な値に初期化されている。
【0063】
処理S704において、動作計画部201は、閾値MIN_MAX_z(後述する予測値zの最大値MAX_zについて要求される最小値)に十分大きい値を格納し、初期化する。
【0064】
処理S705において、動作計画部201は、閾値MIN_MAX_z が更新されなかった回数NNを0に初期化する。
【0065】
処理S706において、動作計画部201は、各測定動作Mjの実行回数g(j)を、式4を満たすベクトルG=(g(1), …, g(#(COM)))としてランダムに選択する。
【0066】
【数4】

【0067】
ここで、tは、測定開始からの経過時刻である。従って、測定開始時(t=0)、式4の右辺は、測定可能時間T_Cに一致する。すなわち、同式は、測定スケジュールを構成する各測定動作Mjの処理時間の合計が測定可能時間T_Cに一致することを意味する。
【0068】
処理S707において、動作計画部201は、式5により、各対象物質cに対して、測定完了時のあいまいさの予測値z(c)を算出する。
【0069】
【数5】

【0070】
式5の右辺のΣの中の第一項は、現時点までの測定で残ったあいまい度を表し、Σ内の第二項は、今後の測定で得られる情報量を表わす。式5は、測定動作群COMに含まれる測定動作Mjの全ての情報を予測値に含めるための式である。
なお、予測値z(c)の算出は、必ずしも式5によらなくても良く、式6等であっても良い。
【0071】
【数6】

【0072】
ここで、式6は、測定動作群COMに含まれる各測定動作Mjについて算出される値のうちで最も小さい値を予測値として使用するための式である。
【0073】
処理S708において、動作計画部201は、全ての対象物質cにわたって、予測値z(c)の最大値MAX_zを求める。
【0074】
処理S709において、動作計画部201は、最大値MAX_zが、閾値MIN_MAX_zより小さいか否か判定する。ここでの最大値MAX_zが閾値MIN_MAX_zより小さい場合(肯定結果の場合)、動作計画部201は、処理S710に進む。
【0075】
処理S710において、動作計画部201は、閾値MIN_MAX_zにMAX_zの値を代入し、現時点での最適実行回数ベクトルG’にGを代入する。この後、処理S711において、更新されなかった回数NNを0に再初期化する。
【0076】
一方、最大値MAX_zが閾値MIN_MAX_z以上の場合(処理709で否定結果の場合)、動作計画部201は、処理S712で回数NNに1を加算する。
【0077】
処理S713において、動作計画部201は、回数NNが閾値TH_NNより小さいか否か判定する。小さいと判定された場合(肯定結果の場合)、動作計画部201は、処理S706に戻る。ここでの処理S706〜処理S713が繰り返し実行されることにより、個々の予測値z(c)の最大値MAX_zを最小化する実行回数が、全ての物質cについて求められる。
【0078】
この実行回数の組は、実行回数ベクトルG’=(g’(1), …, g’(#(COM)))を構成する。このことは、全ての物質cを、最も高い信頼度で測定するための測定動作Mjの実行回数の組み合わせが求まることを意味する。
【0079】
ここでは、最適化方法として、全探索法を例示しているが、代表的な最適化方法である最急降下法を適用しても良く、準ニュートン法を適用しても良い。
【0080】
処理S713の判定処理で否定結果が得られた場合、動作計画部201は、処理S714に進む。処理S714において、動作計画部201は、式7で与えられる発生確率Pr(j)を最大にする測定動作Mjを、次の測定動作Mj(t+1)として選択すればよい。この処理は、確定した測定動作Mjの組み合わせ内での実行順序を決定する動作に対応する。すなわち、測定スケジュールの決定動作に対応する。
【0081】
【数7】

【0082】
なお、式7の発生確率Pr(j)に基づいて、ランダムに次に実行する測定動作Mj(t+1)を選択する方法を適用しても良い。
【0083】
ここで、次回の測定動作Mj(t+1)だけでなく、次回以降の測定回τ=t+2〜t+TCOMの測定動作Mj(t+2)〜Mj(t+TCOM)も同様に選択しても良い。ただし、この場合は、式8のように、測定回τの選択では、τまでにそれぞれの測定動作Mjを選択した回数SELECT_NUM(τ, j)を差し引いた選択回数に基づいて発生確率Pr(τ, j)を求め、当該Pr(τ, j)が最大となる測定動作Mjを選択しても良い。
【0084】
【数8】

【0085】
また、Pr(τ, j)の発生確率に従ってランダムに測定動作Mjを選択しても良い。
図9及び図10に、以上の処理動作の実行により決定される測定動作系列と従来手法で決定される測定動作系列の違いを示す。
【0086】
図9は、測定可能時間T_Cが比較的短く制限されている場合の動作系列例である。図9(A)は、測定可能時間の制約を考慮せず、未判定の物質に対してMS2分析を実行する場合(従来方式)の測定動作系列を示している。この場合、測定可能時間T_Cの制約がないので、時間を要してでも、全ての物質についてMS2分析を行う。このため、物質の測定に要する時間は、測定可能時間T_Cを超過してしまう。
【0087】
図9(B)は、測定可能時間T_Cの制約下において、全ての測定対象物質に対するあいまいさが最小となるように、動作計画部201が測定動作Mjを選択した場合(本形態例)に得られる測定動作系列を示している。この場合、測定対象物質に対して測定可能時間T_Cが短いので、MS1分析の頻度が高くなるように、動作計画部201が測定スケジュールを決定する。この結果、全ての測定対象物質のあいまいさを偏りなく低減させながら、全ての測定動作を測定可能時間T_C内に終了させることができている。
【0088】
図10は、測定可能時間T_Cが十分長く設定されている場合の動作系列例である。図10(A)は、測定可能時間T_Cの制約を考慮せず、未判定の物質に対してMS2分析を実行する場合(従来方式)の測定動作系列を示している。この場合、同定済みの物質に対しては、MS2分析を行わないので、全ての物質が一度判定されると残り時間が十分にあったとしてもMS1分析が繰り返され得る。
【0089】
MS1分析はMS2分析に比べ、全ての測定対象物質について、ある程度の情報を同時に得ることができる。しかし、夾雑成分の影響により、MS1分析を繰り返しても、ある一定以上は、情報は得ることができず、あいまいさは低減されない可能性がある。
【0090】
図10(B)は、測定可能時間T_Cの制約下において、全ての測定対象物質に対するあいまいさが最小となるように、動作計画部201が測定動作Mjを選択した場合(本形態例)に得られる測定動作系列を示している。測定可能時間T_Cが十分長い場合、MS1分析と比べて測定別所要時間T(i)が長いものの測定別事前優先度P(c, j)が高い、MS2分析を優先的に選択することができる。このように、測定時間に余裕がある限り、本形態例の場合にはMS2分析が実行され、あいまいさが低減される。
処理S715において、動作計画部201は、式9に基づいて、予測精度xを計算する。
【0091】
【数9】

【0092】
[予測精度提示部211]
予測精度提示部211は、動作計画部201から出力された予測精度xをユーザに提示するユーザインタフェース部105である。例えば表示装置である。
【0093】
[測定動作提示部216]
測定動作提示部216は、動作計画部201から出力された測定動作Mjの履歴をユーザに提示するユーザインタフェースである。例えば表示装置である。履歴には、実行されたMSn分析とそのプリカーサイオンが含まれる。
【0094】
[質量分析部100]
質量分析部100は、動作計画部201から出力された測定スケジュール(測定動作系列Mj(t+1)〜Mj(t+TCOM)(TCOMは1以上の定数))に従って、経過時刻t以降に予定されている測定動作Mjを実行する。勿論、測定開始時点の経過時刻tはゼロである。
【0095】
図11及び図12に、動作計画部201の処理タイミングと、質量分析部100の測定動作タイミングの関係を示す。因みに、図11は、TCOM=1の場合の動作例である。この例は、質量分析部100の各回の測定毎に、動作計画部201が、次回の測定動作の内容を決定する場合を示している。図12は、TCOM=2の場合の動作例である。この例は、質量分析部100の2回分の測定毎に、動作計画部201が、その次に実行する2回分の測定動作を決定する場合を示している。
【0096】
後者のように、複数回の測定動作を同時に選択する場合には、動作計画部201の計算量が節約できるという利点がある。勿論、TCOMをの値を大きく設定することにより、測定開始時点で測定可能時間T_C内の全ての測定動作を決定するという運用も可能である。この場合、測定時間内の測定動作計画が不要であり、必要な計算機資源も少なくてよい。また、測定可能期間T_Cまでの残り時間に予定される全ての測定動作系列を、質量分析部100の測定回毎に又は複数回毎に与えても構わない。
【0097】
[質量スペクトル提示部203]
質量スペクトル提示部203は、質量分析部100から出力された質量スペクトルsを逐次提示するユーザインタフェース部105に対応する。
【0098】
[有無判定部204]
有無判定部204は、質量分析部100から出力された質量スペクトルsと、判定ルール学習部206が出力した判定ルールR(c, j)に基づいて物質の有無判定を実行する。前述の通り、判定ルールR(c, j)は、線形識別関数であって良く、区分線形識別関数であっても良く、非線形識別関数であっても良く、決定木であっても良く、多層パーセプトロンのようなニューラルネットワークであっても良い。有無判定部204は、判定結果A2(値“+1”又は“-1”)を判定結果提示部205に出力する。
【0099】
[判定結果提示部205]
判定結果提示部205は、判定結果A2を入力し、物質の有無を提示するユーザインタフェース部105に対応する。
【0100】
[現時刻精度算出部209]
現時刻精度算出部209は、質量スペクトルsと判定ルールR(c, j)に基づいて、物質cと測定動作Mj毎の現時刻精度r(c,j)を算出する。ここで、現時刻精度r(c,j)は、経過時刻(すなわち現在時刻)tまでに測定されたデータの精度の指標を表す。現時刻精度r(c,j)は、例えば測定動作jで得られているスペクトルに基づいて物質cを判定する場合における正解率の推定値であっても良い。
【0101】
図13に、現時刻精度算出部209で実行される処理手順例を示す。
処理S1301において、現時刻精度算出部209は、jを初期化する。
【0102】
処理S1302において、現時刻精度算出部209は、jが測定動作群COMの要素数より小さいか否か判定する。肯定結果が得られた場合、現時刻精度算出部209は、処理S1303以降を実行する。jが測定動作群COMの要素数を越える場合、現時刻精度算出部209は、処理を終了する。
【0103】
処理S1303において、現時刻精度算出部209は、測定時刻t(すなわち現在時刻)までに測定された質量スペクトルを特徴ベクトル群Wに変換する。質量スペクトルを特徴ベクトルに変換する方法は、判定ルール学習部206の処理S302と同様であって良い。
【0104】
処理S1304以降において、現時刻精度算出部209は、特徴ベクトル群Wの各要素w_k(k = 0, 1, 2, …)に対して処理を実行する。
【0105】
処理S1304において、現時刻精度算出部209は、要素を識別するkを初期化する。
処理S1305において、現時刻精度算出部209は、要素w_kが特徴ベクトル群Wの要素数より小さいか否か判定する。現時刻精度算出部209は、肯定結果が得られた場合、処理S1306に進み、否定結果が得られた場合、処理S1313に進む。
【0106】
処理S1306において、現時刻精度算出部209は、生成サンプル番号ii、及び、物質c毎の正解数COUNT(c)を初期化する。
【0107】
処理S1307において、現時刻精度算出部209は、生成サンプル番号iiが反復回数LL未満か否か判定する。生成サンプル番号iiが反復回数LL未満の場合、現時刻精度算出部209は処理S1308に進み、生成サンプル番号iiが反復回数LL以上の場合、現時刻精度算出部209は処理S1311に進む。
【0108】
処理S1308において、現時刻精度算出部209は、式10により、特徴ベクトル群Wの要素w_kに対して確率的にw’(ii)を生成する。
【0109】
【数10】

【0110】
ただし、Dは特徴ベクトルの次元数を表し、Σは共分散行列を表している。Σには、例えば所与のパラメータである。もっとも、Σは、予め同じ試料に対する複数回の測定に対して予め算出しておいても良い。
【0111】
処理S1309において、現時刻精度算出部209は、判定ルールR(c, j)でw’(ii)を判定した結果と、判定ルールR(c, j)でw_kを判定した結果とが一致するか否かを判定する。両者が一致する場合、現時刻精度算出部209は、正解数COUNT(c)に1を加算する。
【0112】
処理S1310において、現時刻精度算出部209は、生成サンプル番号iiに1を加算する。生成サンプル番号iiが反復回数LLに達するまで、現時刻精度算出部209は、確率的なサンプルの生成と判定を繰り返す。
【0113】
そして、生成サンプル番号iiが反復回数LLに達すると(処理S1307で肯定結果)、現時刻精度算出部209は、処理S1311に進む。
処理S1311において、現時刻精度算出部209は、式11に基づいて、b_k(c)を算出する。
【0114】
【数11】

【0115】
処理S1312において、現時刻精度算出部209はkに1を加算し、処理S1305に戻る。
これら処理S1305〜S1312までのループ処理が特徴ベクトル群Wの全ての要素w_kに対して繰り返し実行される。
【0116】
やがて、特徴ベクトル群Wの全ての要素w_kについて処理S1305〜S1312のループ処理が完了すると(処理S1305で否定結果)、現時刻精度算出部209は、処理S1313に進む。
【0117】
処理S1313において、現時刻精度算出部209は、式12に基づいて現時刻精度r(c, j)を算出する。
【0118】
【数12】

【0119】
処理S1314において、現時刻精度算出部209はjに1を加算し、処理S1302に戻る。全ての測定動作Mjに対して、現時刻精度r(c, j)が算出されると、現時刻精度算出部209は処理を終了する。
【0120】
前述したように、現時刻精度算出部209が算出した現時刻精度r(c, j)は、動作計画部201において、測定動作Mjを選択するために用いられる。また、現時刻精度r(c, j)は、現時刻精度提示部210を通じてユーザに提示される。
【0121】
[現時刻精度提示部210]
現時刻精度提示部210は、ユーザインタフェース部105に対応する。
【0122】
[要求精度入力部217]
要求精度入力部217は、ユーザインタフェース部105に対応する。
【0123】
[推奨測定時間算出部215]
推奨測定時間算出部215は、ユーザが要求精度入力部217を通じて要求精度yを入力した場合に実行され、要求精度yを満たすために必要な推奨測定時間T_Hを算出する。
【0124】
図16に、推奨測定時間算出部215で実行される処理手順例を示す。
処理S1601において、推奨測定時間算出部215は、入力された要求精度yの値を、不図示の記憶領域に格納する。
【0125】
処理S1602において、推奨測定時間算出部215は、推奨測定時間T_Hを初期化するため、測定可能時間T_Cの適当な下限値を代入する。
【0126】
処理S1603において、推奨測定時間算出部215は、測定可能時間T_Cに、推奨測定時間T_Hを代入し、動作計画部201に問い合わせる。これを受けて、動作計画部201は、変更された測定可能時間T_C(=T_H)に対して処理を実行し、予測精度xを計算する。
【0127】
処理S1604において、推奨測定時間算出部215は、予測精度x と要求精度yを比較する。予測精度xの方が要求精度yより大きい場合、推奨測定時間算出部215は、そのまま処理を終了する。一方、予測精度xが要求精度yより小さい場合、推奨測定時間算出部215は、処理S1605に進む。
【0128】
処理S1605において、推奨測定時間算出部215は、推奨測定時間T_Hに微小量ΔTを加えて処理S1603に戻る。
【0129】
このように計算された推奨測定時間T_Hを、推奨測定時間算出部215は、測定可能時間入力部202に提示すると同時に、入力値をT_H-λ以上T_H+λ以下の範囲に制限する。また、推奨測定時間算出部215は、測定可能時間T_Cに推奨測定時間T_Cを自動的に代入し、代入後の時間値を測定可能時間候補A3として動作計画部201に与える。この機能を用いれば、要求精度の実現に必要な測定可能時間が自動入力されることになるため、ユーザに求められる操作が簡便となる。
【0130】
[ユーザインタフェース部105]
図15に、ユーザインタフェース部105の提示画面例を示す。ユーザインタフェース部105の提示画面には、前述したように、測定可能時間入力部202、判定結果提示部205、閾値濃度入力部207、現時刻精度提示部210、予測精度提示部211、測定動作提示部216、要求精度入力部217に対応する領域が配置される。
【0131】
図15の提示画面を構成する表示内容は、上段から順番に、「要求精度」、「測定可能時間」、「閾値濃度」、「判定結果」、「現時刻精度」、「測定動作系列」である。
【0132】
この例の場合、測定可能時間T_Cは、入力可能な時間範囲(1分〜60分)内で、測定可能時間の値をスライドバーの位置により入力することができる。このように、ユーザは、スライドバーの移動だけで測定可能時間を簡便にチューニングすることができる。スライドバーには、入力可能な制限範囲が網掛けで表示されており、ユーザは、網掛けで示される制限範囲以外の時間を入力することはできないようになっている。このため、ユーザは、適切な範囲内で簡便に特定時間T_Cを調整することができる。
【0133】
また、「測定動作系列」の表示欄には、測定動作系列(測定スケジュール)を構成するMS分析及びMSn分析の内容と、各実行タイミングが対応付けられて表示される。このため、ユーザは、各分析がどのように実行されるかを画面上において容易に確認することができる。
【0134】
[同定部218]
同定部218は、質量分析部100から出力された質量スペクトルsと、質量スペクトルデータベースに格納された質量スペクトルs’に基づいて物質を同定する。同定部218は、それぞれの質量スペクトルsとs’を、判定ルール学習部206の処理S302と同様、特徴ベクトルφとφ’に変換し、その特徴ベクトル間のコサイン類似度が最大となるφ’に対応した最大濃度の含有物質の名称を同定結果A4として出力する。
【0135】
[同定結果提示部219]
同定結果提示部219は、同定結果A4を、ユーザインタフェース部105を通じてユーザに提示する。
【0136】
[定量部220]
定量部220は、質量分析部100から出力された質量スペクトルsと、質量スペクトルデータベースに格納された質量スペクトルs’とに基づいて物質を定量する。定量部220は、それぞれの質量スペクトルsとs’を、判定ルール学習部206の処理S302と同様、特徴ベクトルφとφ’に変換し、その特徴ベクトル間のコサイン類似度が最大となるφ’を求める。次に、定量部220は、φ’に対応した最大濃度の含有物質の濃度d’を用い、推定濃度d(= d’×|φ|/|φ’|)を計算する。定量部220は、最大濃度の含有物質の名称と推定濃度dを定量結果A5として定量結果提示部221に出力する。
【0137】
[定量結果提示部220]
定量結果提示部220は、定量結果A5を、ユーザインタフェース部105を通じてユーザに提示する。
【0138】
[形態例2]
[システム構成]
前述した図2に示す構成は、質量分析システムを構成する質量分析部100、中央演算装置104、及び揮発性メモリ110に対する電源の供給に時間上の制限が無い場合に好適である。ただし、質量分析部100等に対する電源供給時間が制限されている場合、質量分析システムによる測定可能時間T_Cの最大値は、電源供給時間に制限される。
【0139】
このような場合、図17に示すハードウェア構成の質量分析システムの採用が望ましい。図17には、図2との対応部分に同一符号を付して示している。図17に示すシステムと図2に示すシステムとの違いは、測定可能時間入力部202、推奨測定時間算出部215及び要求精度入力部217を取り除いた点と、新たに電源管理部1701を設けた点の2点である。もっとも、図2に示すシステムに対して、電源管理部1701を単純に追加しても良い。
【0140】
電源管理部1701は、電源供給時間の残時間を逐次モニタリングしている機能部である。当該機能も、中央演算装置104上で実行されるコンピュータプログラムを通じて実現される。電源管理部1701は、電源の供給が可能な残時間を、測定可能時間として出力する。この機能を搭載することにより、電源供給の終了により測定が途中で停止することを防止することができる。
【0141】
[まとめ]
前述したように、形態例に係る質量分析システムは、測定可能時間T_Cに応じて、MS分析及びMSn分析(ただしn≧2)の組み合わせにより与えられる測定動作系列(測定スケジュール)を決定又は逐次更新する機能を動作計画部201に実装する。
【0142】
この動作計画部201は、測定可能時間T_Cが短く制限されている場合には、MS分析の頻度を上げた測定スケジュールを決定する。このため、測定可能時間T_C内に、全ての対象物質の有無判定、同定又は定量を完了させることができる。また、動作計画部201は、測定可能時間T_Cが十分長く設定された場合には、MSn(n≧2)分析の頻度を上げるように測定スケジュールを決定する。このため、測定可能時間T_Cの長さに応じ、対象物質の有無の判定精度、物質の種類の同定精度、又は、物質の種類毎の定量精度を高めることができる。
【0143】
この結果、質量分析システムは、測定可能時間T_C内に、しかも、可能な限り高い精度に、測定対象とする全ての物質の有無の判定、同定、定量を実現することができる。
【0144】
なお、測定スケジュールは、MSn分析におけるプリカーサイオンの質量対電荷比を含むものとする。このため、各測定動作Mjの実行に必要となる時間や予測精度xを考慮した測定スケジュールの決定が可能となる。
【0145】
また、動作計画部201は、測定別所要時間T(i)、測定別事前優先度P(c, j)、現時刻精度r(c, j)に基づいて測定動作系列(測定スケジュール)を逐次選択するため、測定可能時間T_C内に全ての測定動作を確実に完了させることができる。
【0146】
また、動作計画部201は、質量分析部100におけるイオンの解離方法の設定値、又は蓄積工程、排出工程、単離工程、解離工程のそれぞれの時間の設定値に基づいて測定別所要時間T(i)を変更する。このため、測定スケジュールを構成する測定動作系列の選択精度を高めることができる。
【0147】
また、動作計画部201は、外部計算機又は質量分析装置に対する電源供給時間が制限されている場合にも、その残時間に応じて測定可能時間T_Cを変更することができ、電源供給が終了するまでに全ての測定を完了させることができる。
【0148】
[他の形態例]
なお、本発明は上述した形態例に限定されるものでなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した形態例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある形態例の一部を他の形態例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある形態例の構成に他の形態例の構成を加えることも可能である。また、各形態例の構成の一部について、他の構成を追加、削除又は置換することも可能である。
【0149】
また、上述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路その他のハードウェアとして実現しても良い。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することにより実現しても良い。すなわち、ソフトウェアとして実現しても良い。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、ICカード、SDカード、DVD等の記憶媒体に格納することができる。
【0150】
また、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示すものであり、製品上必要な全ての制御線や情報線を表すものでない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。
【符号の説明】
【0151】
100…質量分析部
101…試料導入部
102…イオン化部
103…高周波電源
104…中央演算装置
105…ユーザインタフェース部
106…検出器
107…イオン輸送部
108…イオントラップ
109…記憶媒体
110…揮発性メモリ
111…ポンプ
201…動作計画部
202…測定可能時間入力部
203…質量スペクトル提示部
204…有無判定部
205…判定結果提示部
206…判定ルール学習部
207…閾値濃度入力部
208…測定別事前優先度算出部
209…現時刻精度算出部
210…現時刻精度提示部
211…予測精度提示部
212…質量スペクトルデータベース
213…測定別事前優先度データベース
214…測定別所要時間データベース
215…推奨測定時間算出部
216…測定動作提示部
218…同定部
219…同定結果提示部
220…定量部
221…定量結果提示部
1401…中央演算装置
1402…記憶媒体
1403…ネットワーク
1701…電源管理部
Mj…測定動作
P(c, j)…測定別事前優先度
R(c, j)…判定ルール
r(c, j)…現時刻精度
s…質量スペクトル
s’…質量スペクトル
T(i)…測定別所要時間
x…予測精度
y…要求精度
A1…閾値濃度
A2…判定結果
A3…測定可能時間候補
A4…同定結果
A5…定量結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析システムであって、
予め与えられた測定可能時間に応じ、MS分析及びMSn分析(ただしn≧2)の組み合わせにより与えられる測定スケジュールを決定する動作計画部と、
前記測定スケジュールを構成する各測定動作の実行により得られる質量スペクトルを出力するタンデム型質量分析機能を有する質量分析部と
を有する質量分析システム。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分析システムにおいて、
前記動作計画部は、測定開始後も、前記測定スケジュールを構成する測定動作の組み合わせを逐次更新する
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項3】
請求項2に記載の質量分析システムにおいて、
前記測定スケジュールには、MSn分析によるプリカーサイオンの質量対電荷比を測定する測定動作が含まれる
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項4】
請求項1に記載の質量分析システムにおいて、
前記測定可能時間が短い場合、前記動作計画部は、前記測定スケジュールに出現するMSn分析の頻度を相対的に下げる一方、MS分析の頻度を相対的に上げるように、前記測定スケジュールを決定又は更新する
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項5】
請求項2に記載の質量分析システムにおいて、
前記動作計画部は、更新後の測定スケジュールによる測定が、測定開始から前記測定可能時間内に完了するように、前記測定スケジュールを更新する
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項6】
請求項1に記載の質量分析システムにおいて、
前記動作計画部は、測定動作別の所要時間及び測定動作別の事前優先度に基づいて、前記測定スケジュールを決定又は更新する
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項7】
請求項6に記載の質量分析システムにおいて、
前記動作計画部は、
前記質量分析部におけるイオンの解離方法の設定値、又は、蓄積工程、排出工程、単離工程及び解離工程に対応する各所要時間の設定値に基づいて、前記測定動作の所要時間を変更し、
更に、前記測定動作別の所要時間に基づいて前記測定スケジュールを構成する測定動作を決定又は更新する
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項8】
請求項6に記載の質量分析システムにおいて、
前記測定動作別の所要時間を格納する所要時間データベースと、
前記測定動作別の事前優先度を格納する事前優先度データベース
を有することを特徴とする質量分析システム。
【請求項9】
請求項6に記載の質量分析システムにおいて、
測定動作、物質別の含有量、質量スペクトルの組を格納する質量スペクトルデータベースと、
前記質量スペクトルデータベースに基づいて、測定動作別の前記事前優先度を算出する事前優先度算出部と
を有することを特徴とする質量分析システム。
【請求項10】
請求項9に記載の質量分析システムにおいて、
前記質量スペクトルデータベースは、前記質量スペクトルに基づいて変換された特徴ベクトルのデータを含む
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項11】
請求項1に記載の質量分析システムにおいて、
前記質量分析部が出力する前記質量スペクトルに基づいて、現時刻精度を算出する現時刻精度算出部を有し、
前記動作計画部は、前記現時刻精度に応じ、前記測定スケジュールを決定又は逐次更新する
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項12】
請求項9に記載の質量分析システムにおいて、
前記物質別の含有量の閾値を入力するための含有量閾値入力部と、
前記質量スペクトルデータベースのデータ及び前記含有量の閾値に基づいて、判定ルールを学習する判定ルール学習部と、
前記質量分析部が出力する前記質量スペクトル及び前記判定ルールに基づいて物質の有無を判定し、その判定結果を出力する有無判定部と、
前記判定結果をユーザに提示する判定結果提示部と
を有する質量分析システム。
【請求項13】
請求項1に記載の質量分析システムにおいて、
前記測定可能時間をユーザが入力するための測定可能時間入力部と、
前記動作計画部が算出する予測精度に応じ、推奨測定時間を算出する推奨測定時間算出部とを有し、
前記測定可能時間入力部は、前期推奨測定時間に応じ、前記測定可能時間入力部に入力される値の範囲を制限する
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項14】
請求項1に記載の質量分析システムにおいて、
前記動作計画部は予測精度を算出し、
推奨測定時間算出部は、前記予測精度に応じ、推奨測定時間を算出する
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項15】
請求項1に記載の質量分析システムにおいて、
電源供給の残時間を逐次モニタリングする電源管理部を有し、
前記動作計画部は、前記残時間に応じて前記測定可能時間を変更することにより、前記測定スケジュールを決定又は逐次更新する
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項16】
請求項1に記載の質量分析システムにおいて、
前記質量分析部が出力する前記質量スペクトルに応じて物質の種類を同定し、その結果を出力する同定部と、
同定結果をユーザに提示する同定結果提示部と
を有することを特徴とする質量分析システム。
【請求項17】
請求項1に記載の質量分析システムにおいて、
前記質量分析部が出力する前記質量スペクトルに応じて物質の含有量を推定し、その結果を出力する定量部と、
定量結果をユーザに提示する定量結果提示部と
を有することを特徴とする質量分析システム。
【請求項18】
請求項1に記載の質量分析システムにおいて、
前記測定スケジュールのうち既に実行が完了した測定動作の系列又は実行が予定されている測定動作の系列を提示する測定動作提示部
を有することを特徴とする質量分析システム。
【請求項19】
質量分析システムを構成するコンピュータに、
予め与えられた測定可能時間に応じ、MS分析及びMSn分析(ただしn≧2)の組み合わせにより与えられる測定スケジュールを決定する処理と、
前記測定スケジュールを構成する各測定動作の実行により得られる質量スペクトルを出力する処理と
を実行させるコンピュータプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2012−242337(P2012−242337A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115189(P2011−115189)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】