説明

質量分析システム

【課題】非常に多くの成分や化学ノイズを含むサンプルを分析する場合、検出成分全てのタンデム質量分析スペクトルを効率よく得ることは困難である。
【解決手段】分析対象とするイオンの質量情報(質量m、電荷数z)、LC保持時間、及び、タンデム質量分析スペクトル情報(解離イオンのm/zや強度など)を登録する内部データベースを有する質量分析システムを用いる。質量分析スペクトルが取得した後に、内部データベースを検索し、タンデム質量分析における前駆イオン候補数等に応じて、前駆イオン群を幾つかのグループに分類し、グループ毎に纏めてタンデム質量分析を実施する分析シーケンスを実時間で決定し、質量を分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多種類の成分を含むサンプルの分離分析システムに関し、特にタンパク質やペプチド、糖鎖、代謝産物などの生体関連物質解析に使用する液体クロマトグラフ/質量分析システム、分析方法、装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオ・創薬・診断・食品分野を中心に、生体組織や体液などに含まれるタンパク質やペプチド、糖鎖、代謝産物などの生体関連物質を網羅的に解析するプロテオーム解析やペプチドーム解析、グライコーム解析、メタボローム解析が重要視されている。これらの解析では、サンプルに含まれる多数の成分を、精度よく同定したり、定量したりすることが求められている。
【0003】
上記解析では、高感度分析が可能な液体クロマトグラフ/タンデム質量分析装置(LC/MSn)が用いられることが多い。液体クロマトグラフ(LC)では液体サンプルの分離を行い、分離物質はインターフェース部で気体状イオンに変換され、タンデム質量分析装置(MSn)に導入され、質量分析スペクトルあるいはタンデム質量分析スペクトルを取得することにより、イオン質量や解離イオン質量、及び、それらのイオン強度が決定される。
【0004】
一般に用いられているデータ依存解析では、強度の高い順に、指定された数のイオンをプレカーサーとして選定している。また、イオン質量やイオン電荷数、LC保持時間などについての所定物質の情報を内部データベースに格納し、タンデム質量分析等の要否判断に用いる技術が、[特許文献1]や[特許文献2]に記載されている。この内部データベースを用いると、所定物質について内部データベースを分析の実時間で検索し、タンデム質量分析における前駆イオンの選択肢から除外することにより、その他の成分をタンデム質量分析することなどが可能となる。そのため、内部データベースを用いたタンデム質量分析技術は、特に微量成分の分析に有効である。
【0005】
四重極質量分析計(フィルター)-飛行時間型質量分析計(Q-TOF)では、四重極フィルターで選択された前駆イオンを四重極フィルターとTOFの中間に設置された衝突セルに導入し、衝突誘起解離(CID)させ、解離イオンをTOFで質量分析することができる。このQ-TOFにおいて、特定の質量範囲に含まれるイオン全てを前駆イオンとし、タンデム質量分析する技術の記載が[特許文献3]に見られる。四重極フィルターで特定の質量範囲のイオンを全て透過させる機能を利用した技術であり、複数の前駆イオンをタンデム質量分析することが可能である。また、イオントラップ質量分析計においてタンデム質量分析不要イオンを選択的に排出する技術の記載が[特許文献4]にある。また、四重極フィルターとフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計を結合した装置に関する記述が[非特許文献3]にある。質量分析スペクトルに検出されるイオンに対し、イオンサイクロトロン共鳴質量分析計でアイソレーション、及び、赤外線を用いた赤外多光子解離(IRMPD)または高周波電界(Rf)加熱を用いた解離により生成された解離イオンを分析する。以上のような手法を用いると、同時に複数の前駆イオンのタンデム質量分析スペクトルを得ることが可能である。
【0006】
LCによる分離成分の定量解析においては、ダイナミックレンジの広いイオン検出が可能な質量分析計(MS)を用い、得られる質量分析スペクトルやタンデム質量分析スペクトルにおけるイオン強度の経時的変化を解析する手法(絶対定量)がしばしば用いられる。しかし、同時に他成分が検出される場合には、イオン化効率が変化するために、精度の高い定量解析は困難である。そこで、同位体標識法の導入により、標準サンプルとのイオン強度の相対的な比較を解析する手法(例えば[非特許文献1]、[非特許文献2])がしばしば用いられている。即ち、標準サンプルと比較対照サンプルをそれぞれ別の安定同位体で標識し、これらの混合サンプルを分析すると、LC分離成分として、異なる同位体で標識された同一の分離成分が質量のみ数Da異なるペアとなって検出される。このペアのイオン強度比を決定することにより、相対的定量解析が可能である。定量分析においては、同定精度や定量方法により、質量分析スペクトルにおけるイオン強度を解析する場合と、タンデム質量分析スペクトルを解析する場合と使い分けられている。
【0007】
【特許文献1】特開2004-071420.
【0008】
【特許文献2】特開2005-091344.
【特許文献3】特開11-154486.
【特許文献4】特開2005-108578.
【非特許文献1】Nature Biotechnology 23 (2005) 617-621.
【非特許文献2】Nature Biotechnology 17 (1999) 994-999.
【非特許文献3】Analytical Chemistry 73 (2001) 3312-3322.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
液体クロマトグラフ/タンデム質量分析装置(LC/MSn)では、LCで分離される分離物質の質量分析計(MS)で検出される時間は有限で、典型的には数十秒程度である。一方、タンデム質量分析スペクトル(MS/MSスペクトル)あるいは通常の質量分析スペクトルを取得するには、データ取得に0.1から数秒程度必要とされる。そのため、多数の夾雑成分が混在するサンプルを分析する場合には、検出される全ての分離成分に対してタンデム質量分析を実施することは困難な場合がある。
【0010】
一方、精度の高い定量解析を行なうためには、分離成分のイオン強度に対する時間変化を得る必要がある。そのため、一種類の分離成分に対して3点から10点程度のデータ(質量分析スペクトルまたはタンデム質量分析スペクトル)を取得する必要がある。そのためには、特に夾雑成分が非常に多いサンプルを分析する場合、分離成分を一種類づつタンデム質量分析することが非常に困難である。また、同時に複数の前駆イオンのタンデム質量分析スペクトルを得る際には、得られたタンデム質量分析スペクトルに基づき、元の前駆イオンの同定や強度情報を解析する必要が生じる。
【0011】
近年、高スループット解析技術を用いた多成分の定量解析が、バイオマーカー探索分野を中心に試みられている。そこでは、解析結果の統計的な評価を行うため、多数のサンプルの分析を行なう必要があり、前処理の精製や分離を充分に行なうことが困難な場合がある。その結果、解析に用いられるサンプルの分析における特徴は、1)得られた質量分析スペクトルにおいて非常に多くの成分を含む、2)質量分析スペクトルにおいてブロードなバックグラウンドを形成する極めて微量多種類のイオン(化学ノイズと呼ばれ、電気的ノイズと区別される)を含む、ことが多い点である。このようなサンプルを分析する場合、[特許文献1]、[特許文献2]に記載の内部データベースを用いても、検出成分全てのタンデム質量分析スペクトルを効率よく得ることは困難である。
【0012】
また、質量分析スペクトルで検出されたイオンに対し、[特許文献3]に記載のように、特定の質量範囲に属する全てのイオンをタンデム質量分析する場合には、得られるタンデム質量分析スペクトルは非常に複雑で解析が困難なものとなる。特に、異なる前駆イオン由来の解離イオン(フラグメントイオン)で質量分析計により充分に分離されないものが含まれる場合、解析が極めて困難となる。化学ノイズが前駆イオンに含まれることも、タンデム質量分析スペクトルの解析を困難にする原因となる。[特許文献4]に記載のように、複数種類の前駆イオンをタンデム質量分析する場合も同様の状態が想定される。即ち、例えば、同時に100種類程度の分離成分が検出された場合において、それらの成分を同時にタンデム質量分析するときには、得られるタンデム質量分析スペクトルは複雑になり、元の前駆イオンの解析が困難になる可能性がある。さらに、未知物質由来の解離イオンがタンデム質量分析スペクトルに含まれている場合、その未知物質単独のタンデム質量分析スペクトルを取得し、内容確認を速やかに行なうことが困難である。実際には、そのデータ取得に一回分析を実施する必要が生じ、分析スループットを低下させる原因となる。
【0013】
また、上記の多成分を含む等のようなサンプルを分析する場合には、イオントラップにおいてスペースチャージ効果を無視することができない。即ち、多量のイオンがイオントラップに導入される場合、イオンの捕捉効率が低減し、定量解析に悪影響を与える可能性がある。スペースチャージ効果を防止するために、イオントラップに取り込まれるイオン数を制限することも可能だが、定量の厳密性が損なわれる等、高感度分析に不利な場合が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、以下の構成により解決される。
(1)分析対象とするイオンの質量情報(質量m、電荷数z)、LC保持時間、及び、タンデム質量分析スペクトル情報(解離イオンのm/zや強度など)を登録することができる内部データベースを有し、質量分析スペクトルが取得されると、内部データベース検索を実施し、タンデム質量分析における前駆イオン候補数に応じるなどして、前駆イオン群をイオン強度やタンデム質量分析スペクトル情報に基づいて幾つかのグループに分類し、グループ毎に纏めてタンデム質量分析を実施する分析シーケンスを実時間で決定し、実施することができる高スループット質量分析システム。
(2)得られたタンデム質量分析スペクトルに対し、内部データベースを用いて実時間でデータ解析を実施することにより、未知物質由来の解離イオンがタンデム質量分析スペクトルに含まれているか否かを判別し、未知物質由来の解離イオンがタンデム質量分析スペクトルに含まれている場合には、そのイオンを推定し、そのイオンのみを前駆イオンとするタンデム質量分析スペクトルを取得することができる高スループット質量分析システム。
(3)さらに、(1)と(2)を組み合わせた構成としても勿論よい。
(4)また、タンデム質量分析スペクトルを取得する必要のない場合には、分析対象とするイオンの質量情報(質量m、電荷数z)やLC保持時間を登録することができる内部データベースを有し、質量分析スペクトルが取得されると、内部データベース検索を実施し、分析イオン候補数に応じるなどして、前駆イオン群を幾つかのグループに分類し、グループ毎に纏めて高周波電界(Rf)を用いたアイソレーションを実施することによりスペースチャージ効果を低減させ、定量解析のための質量スペクトルを取得する。
【0015】
質量分析システムの例としては、複数の物質の情報を格納する少なくとも1つのデータベースと、イオントラップ部を具備してかつ試料をイオン化するイオン源と、前記イオン源でイオン化されたイオンについての質量分析を行う質量分析部と、複数のイオンからなるイオン群毎にダンデム質量分析を行うための条件設定をするための入力部と、前記入力部からの入力に基づいて前記イオントラップ部への印加電圧が制御される電源部と、前記質量分析部の分析結果を検出する検出部とを有することを特徴とする。
【0016】
また、コンピューターに読込まれることによって、質量分析システムの制御のためのコンピューターの実行に係るプログラムの例としては、複数のイオンからなるイオン群毎にダンデム質量分析を行うための条件を入力部を介して設定する第1の工程と、データベース検索手段を介してデータベースを検索して、ダンデム質量分析対象のイオンについての情報を得る第2の工程と、質量分析部を介して取得する1次質量分析結果情報と前記情報とに基づき、前記イオン群を決定する第3の工程と、前記第3の工程で決定された結果に基づき、電源制御手段を介してイオントラップ部へダンデム質量分析のための電圧印加を指令する第4の工程とをコンピューターに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非常に多種類の物質が混合したサンプルを分析する場合、従来比で一桁以上の数の物質に対して高スループット定量分析することが可能となる。また、未知物質の検出も効率的に行なうことができる。さらに、内部データベースの利用により、タンデム質量分析スペクトルで検出されるフラグメントイオンと前駆イオンとの対応を明確にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1に、質量分析システムの一実施例におけるシステム構成図を示す。この装置は、液体クロマトグラフとイオントラップ-飛行時間型質量分析装置を結合させた装置である。サンプル液は液体クロマトグラフ用ポンプシステムに導入され、管1を通って、分離用のカラムに導入される。そこで、サンプルに含まれる多種類の物質は分離され、カラム末端部から分離物質が順次エレクトロスプレーイオン化法などの噴霧イオン化法により気体状イオンに変換される。生成されたイオンは、質量分析装置の第一細孔2から真空部に導入され、一定の高周波電界を発生させるイオン輸送部3を通って、イオントラップ4に導入される。第1高周波電源で制御されるイオントラップ4では、10ミリ秒程度の一定時間だけ、導入されるイオンの取り込みが行われる。そして、取り込まれたイオンは、第2高周波電源で制御される多重極ポールからなる衝突減衰器5で細いビーム状に整形され、高真空状態にある飛行時間型質量分析計6に導入される。そして、イオン加速部7でパルス的に加速されたイオンは、リフレクター8でエネルギー収束を受けた後、検出器9で検出される。検出器9にイオンが到達するまでの飛行時間を正確に測定することにより、イオンの質量mを電荷数zで割ったm/zを高精度で決定することができる。非常に多種類の物質が混合したサンプルを分析する場合、液体クロマトグラフの分離カラムでは完全に各成分を分離することができず、検出器9には複数種のイオンが検出されることが多い。情報処理部に入力された検出イオン情報は、ディスプレーなどの表示部で質量スペクトル(MSスペクトル)として表示される。
【0019】
典型的な内部データベース登録情報を、図17に示す。データベースの名称や作成時期、更新時期の情報が含まれることが望ましい。分析された前駆イオン(一種類)のモノアイソトピックイオン質量mや電荷z、mの誤差δm、液体クロマトグラフの保持時間(RT)やRTの誤差δRT、のみならず、MS/MSスペクトルで検出されたフラグメントイオンのモノアイソトピックイオン質量mや電荷z、イオン強度情報(相対強度など)が内部データベースに登録される。なお、質量精度が低い質量分析計を使用する場合などには、mはモノアイソトピックイオン質量ではなく、平均質量としても構わない。保持時間は液体クロマトグラフのグラジエント条件等に依存するため、内部データベースには、液体クロマトグラフの分析条件が含まれることが便利である。また、タンデム質量分析におけるイオン解離方法(CIDやECD、IRMPDなど)の情報も重要である。
【0020】
データベースの作成には、予め関連するサンプルを分析し、イオン情報をデータベースに格納しておく必要がある。分析に用いられるシステムにおける制御部(コンピューター)とその周辺のハードウェアとの構成のブロック図を図18に、データベース作成におけるフローを図19に示す。図19に示すように、MS(1次質量分析)の結果について、イオンピークなどに基づいて制御部のデータベース検索手段によりデータベースへ検索指令を送り、該当イオンの検索を行い、その結果、データベースに登録されていないイオンが検出されていた場合、そのイオンを前駆イオンに優先的に選択し、通常のデータ依存解析(タンデム質量分析)を実施する。そして、分析されたイオン情報を逐次データベースに登録する。これにより、より多くのイオン情報をデータベースに格納することができる。さらに、同一のサンプルを繰り返し分析することにより、多量のイオン情報をデータベースに登録することができる。以上を踏まえ、内部データベースを利用したタンデム質量分析が可能となる。
【0021】
ここで、内部データベースとして様々な種類のデータベースを備えることができる。ここでは、タンデム質量分析の対象から排除する前駆イオンの情報からなる排除データベース(イクスクルージョンデータベース)と、優先的に対象とする前駆イオンの情報からなる優先データベース(インクルージョンデータベース)を備え、各々に分けてイオン情報を登録することができる。例えば、血液分析を対象とするデータベースを作成、登録する際には、血液をサンプルとして得られたイオン情報をインクルージョンデータベースに格納し、また表皮をサンプルとして得られたイオン情報をイクスクルージョンデータベースに格納する。これにより、表皮由来のタンパク質等の混入物を含む血液サンプルの質量分析を行う際、両データベースを用いて質量分析のフロー制御を行い、血液由来の前駆イオンを優先的にダンデム質量分析し、かつ表皮由来の前駆イオンをタンデム質量分析から排除して、血液成分の分析実行の確実化を図ることができる。
【0022】
さらに、イクスクルージョンデータベース、インクルージョンデータベースは、各々、複数のデータベースを備えることができる。例えば、分析条件ごと、サンプル(血液、尿等)ごと、生物種ごと(ヒト、マウス、酵母等)の各々について、イクスクルージョンデータベースとインクルージョンデータベースとを作成し、質量分析の目的に応じてデータベースを選択し、目的に最適な分析実行の確実化を図ることができる。
【0023】
分析開始前の設定について、図19に示す。また、図20に設定のフローを表示する。図21に、分析開始前の表示部(入力部)における表示例を示す。図示する表示部の分析条件設定部において、分析データのデータファイル名を適宜入力し、さらに予め作製された液体クロマトグラフの条件設定(LCメソッド)や質量分析の条件設定(MSメソッド)の選択、及び、インクルージョンデータベースとイクスクルージョンデータベースの選択を、各々、LCメソッド選択部、MSメソッド選択部、インクルージョンデータベース選択部、イクスクルージョンデータベース選択部の各々で行う。ここで、インクルージョンデータベースは、ダンデム質量分析の優先対象とする前駆イオンのデータベースとなる。そこで、MSメソッド選択部には、「マルチ前駆イオン選択」(図示の通り)、「シングル前駆イオン選択」などの選択肢が含まれており、ユーザーが質量分析目的に応じて選択肢を選択する。
【0024】
上記設定が完了すると、図22に示すような画面が表示部で表示される。ここでは、表示部の分析条件確認部において最終的な分析条件の確認を行う。MSメソッド選択部で「マルチ前駆イオン選択」を選択した場合には、表示部において、複数の前駆イオンをタンデム質量分析する条件設定であるとして「マルチ前駆イオン選択モード(図中の「Multi-Precursor Ion Selection Mode」)」が表示される。このとき、タンデム質量分析される前駆イオンの数(特に最大数)も表示される。この最大数は、マルチ先駆イオン選択モードにおける処理部の計算処理能力に応じた数字等とされる。条件確認後、分析開始をクリックすることにより、分析が開始される。なお、表示部での入力により、分析条件情報が情報処理部に入力され、制御部ではこの入力に基づいて、データベースへの検索指令等や高周波電源への制御等を行う。 内部データベースを利用したダンデム質量分析では、サンプルの分析中に、MSスペクトルで検出されたイオンに対して、実時間で内部データベース検索が行なわれ、情報処理部において前駆イオンの選択やMS/MSスペクトルの予測が行われる。図17に示すように、内部データベースには、イオン情報として前駆イオンの情報(モノアイソトピックピークの質量m、電荷数z、液体クロマトグラフ保持時間RT)のみならず、解離イオンの情報(モノアイソトピックピークの質量m、電荷数z、相対強度、解離方法)が登録されている。そのため、選択された前駆イオンとその強度が与えられれば、解離イオンのm/zと相対的イオン強度を計算することにより、MS/MSスペクトルを予測することができる。さらに、MS/MSスペクトルが取得されると、予測されたMS/MSスペクトルとの比較が情報処理部において行なわれ、解離イオンのm/zが異なるなどの不一致が見出される場合には、制御部において次のMS/MSスペクトルの取得に関する指示を高周波電源に発信することが可能となる。この予測スペクトルと検出スペクトルとの照合を情報処理部で実施し、その結果を表示部で表示することも可能である。この場合には、後述するように、未知イオンの検出などを行うことができる。 図23に、内部データベースを利用したダンデム質量分析に係るフローを示す。検出器9で検出されたイオンの情報は、表示部で質量スペクトルとして表示されるとともに、制御部のデータベース検索手段でデータベース検索が実施される。そして、データベースでヒットしたイオンの中からタンデム質量分析の前駆イオンが決定され、一度にタンデム分析が実施されるグループに前駆イオンが分類される。ここで、データベース登録情報を利用することにより、同一グループに分類された前駆イオンをタンデム質量分析した場合に得られるタンデム質量スペクトルを予測することができる。
【0025】
図24にMS結果の検出から前駆イオンの選択によるグループ区別のフローを示す。検出部9で検出されたイオンの情報は、制御部のデータベース検索手段でデータベース検索が実施される。ここで、前駆イオンの選択に関するフローにおいては、基本的にインクルージョンデータベースでの検索が行われる。そして、インクルージョンデータベースでヒットしたイオンを情報処理部がダンデムMSの前駆イオン候補として決定し、データベース検索手段でデータベースでの前駆イオン情報、特に前駆イオンのダンデムMSスペクトルの情報の検索が実行される。これに引き続き、情報処理部では、検索でヒットしたタンデムMSスペクトルの重合スペクトルを算出し、複数の前駆イオン由来の解離イオンにおけるm/z(質量/電荷)の重複の有無を判断する。重複すると予測される場合には、前駆イオンのグループ化を修正する。例えば、重複する前駆イオンの一方を、他のグループへ移す。このようにして、グループ化された前駆イオンの選択が内部データベースを利用して実行される。この結果、高周波電源へグループ毎に対応する電圧が印加され、グループ毎のダンデム質量分析が実行される。
【0026】
以上をふまえた図23のフローへ戻り、以下、説明する。特定の前駆イオンのみがイオントラップ4に取り込まれるように、制御部の電源制御手段は第1高周波電源を制御する。そして、イオントラップ4で最終的に取り込まれた前駆イオンは、高周波電界の印加による加熱か、衝突減衰器5へのイオン輸送で過熱するかなどの手段により、残留ガスとの衝突誘起解離(CID)を受け、複数種類の解離イオン(フラグメントイオン)に変換される。イオンの解離においては、図15に示すように、イオントラップ4と衝突減衰器5との間に設置される衝突セル16で行なっても構わない。これらのイオンは、飛行時間型質量分析計6において質量分離され、検出器9で検出される。検出器9の出力信号は情報処理部に伝えられ、情報処理部に入力された検出イオン情報は、表示部でタンデム質量スペクトル(MS/MSスペクトル)として表示される。
【0027】
インクルージョンデータベースとイクスクルージョンデータベースとは、片方のみ利用することも双方使用することも可能である。図25に、インクルージョンデータベースのみを用いる場合のフローチャートを示す。このときは、タンデム質量分析の優先対象とする前駆イオンの情報からなるデータベースを用いていることから、当該データベースにヒットしないイオンはMS/MS(タンデムMS)の対象とならない。よって、予めタンデム質量分析の優先対象と規定されているイオンについて確実に分析することが可能となる。図26に、インクルージョンデータベースとイクスクルージョンデータベースとを用いる場合のフローチャートを示す。このときは、タンテム質量分析の対象から排除する前駆イオンの情報からなるイクスクルージョンデータベースを用いて、対象排除イオンを前駆イオン候補から除外した上で、タンデム質量分析の優先対象とする前駆イオンの情報からなるインクルージョンデータベースを用いていることから、タンデム質量分析の優先対象と規定されているイオンについての分析の確実性を向上させるとともに、インクルージョンデータベースを用いて処理の効率を高めることが出来る。
図2に、前駆イオンが一種類のタンデム質量分析を行なう場合の、アイソレーション過程を示す。図2の上図に、典型的な質量スペクトルを示す。何種類かのイオンが検出される他、多量の化学ノイズによるベースラインの盛り上がりも観測される。このようなベースラインの盛り上がりは、生体抽出サンプルにおいて、しばしば見られる。一種類の前駆イオンが決定されると、イオントラップのイオン取り込み過程において、大雑把に他のイオンが取り込まれないように、イオントラップのQ値を変更するなど高周波電源を制御することができる。その結果、イオントラップに取り込まれるイオンは中央図に示すように、前駆イオン、及び、近接するイオンや化学ノイズとなる。さらに、イオン取り込み終了後に、前駆イオン以外のイオンを正確に排出するように、高周波電界を高周波電源からイオントラップに印加することにより、前駆イオンのみをアイソレーションすることが可能となる。ここでは、フィルタード・ノイズ・フィールド(FNF)(例えば米国特許第5206507号)を用いることが可能である。そして、アイソレーションされた前駆イオンを解離させることにより、前駆イオンのMS/MSスペクトルを得ることができる。イオン取り込み過程では他のイオンが取り込まれても、その後に、前駆イオン以外のイオンを排出するように高周波電源からイオントラップに高周波電界を印加することにより、前駆イオンのみをアイソレーションすることも可能である。ただ、取り込み過程で多量のイオンがイオントラップに取り込まれた場合、空間電荷効果により正確に前駆イオンのみをアイソレーションすることが困難となることがある。
イオントラップでは、以下の過程により、同時に複数の前駆イオンをアイソレーションすることができる。即ち、図3に示すように、最初に得られる質量スペクトルで検出されるイオンの中から、グループ毎に前駆イオンが選択される。前駆イオンの選択においては、データベース検索でヒットするイオンの中から、イオン強度や解離イオンの重複防止などを考慮して、グループ化が実施される。一つのグループに選択された前駆イオンを、白丸で示す。これらの複数の前駆イオンに対し、イオントラップのイオン取り込み過程において、大雑把に他のイオンが取り込まれないように高周波電源を制御することができる。その結果、イオントラップに取り込まれるイオンは中央図に示すように、前駆イオン、及び、近接するイオンや化学ノイズとなる。さらに、イオン取り込み終了後に、前駆イオン以外のイオンを排出するように高周波電源からイオントラップに高周波電界を印加することにより、前駆イオンのみをアイソレーションすることが可能となる。そして、アイソレーションされた前駆イオンを同時に解離させることにより、複数の前駆イオンに対するMS/MSスペクトルを得ることができる。イオン取り込み過程では他のイオンが取り込まれても、その後に、前駆イオン以外のイオンを排出するように高周波電源からイオントラップに高周波電界を印加することにより、前駆イオンのみをアイソレーションすることも可能である。ただ、取り込み過程で多量のイオンがイオントラップに取り込まれた場合、空間電荷効果により正確に前駆イオンのみをアイソレーションすることが困難となることがある。ここで、分析に先立ち、図21に示す画面でタンデム質量に関する設定を表示部(入力部)で入力を行なうことにより、前駆イオン数の上限を設定し、空間電荷効果によるアイソレーションの困難性を排除し、かつ制御部の情報処理能力に適した条件を設定することができる。特にタンデム質量のイベント設定では、取得するMS/MSスペクトルについて、通常のMS/MSスペクトル(一種類の前駆イオンに対するフラグメントイオンの質量スペクトルを得るモード、シングル前駆イオン選択モード)と、複数の前駆イオンに対するMS/MSスペクトル(マルチ前駆イオン選択モード)とが区別されて設定可能である点が特徴的である。また、利用可能な内部データベースが複数存在する場合には、表示部での図22に示すような表示内容を確認しながら、入力部で選択などを行なう必要がある。
質量分析システムの一実施例における取得データ例を、図4に示す。非常に多種類のイオンが検出される他、多量の化学ノイズによるベースラインの盛り上がりも観測される。このようなベースラインの盛り上がりは、生体抽出サンプルにおいて、しばしば見られる。以下では、MSスペクトル1枚取得後、3枚のMS/MSスペクトルを取得する設定の場合について述べる。得られたMSスペクトルでは、非常に多数のイオンが検出されており、これら全てのイオンは内部データベースでヒットし、前駆イオンとして選択されるべきものである。ところが、上記設定ではこれらの検出イオン全てを個別に前駆イオンに選択することはできない。そこで、イオン強度に応じて、3つのグループに分類し、それぞれのグループに属するイオンはCIDの前駆イオンとして同時にタンデム質量分析される。先ず、第一のグループに分類された比較的強度の高いイオン(図中、白丸で表示)のみに対してアイソレーションを実施し、他のイオンや化学ノイズ成分を除去する。(図4で、アイソレーションされた質量スペクトルは仮想的なもので、実際には表示部で実時間に表示されなくてもよい。)このアイソレーションにおいては、イオン取り込み時や取り込み後にイオントラップ4に様々な周波数や強度の高周波電界を高周波電源より印加される。この高周波電源の制御には、多数のパラメータが使用されるが、それらは情報処理部において計算されるか、予め様々なケースに対応する最適値(計算結果)を保存し、それに基づいて情報処理部でアイソレーション条件に応じた計算を施すことにより、決定することができる。アイソレーションされた前駆イオンは同時にCIDなどの解離過程を受け、MS/MSスペクトルが取得される。前駆イオン強度が充分に高い場合には、一回の分析で充分なS/NのMS/MSスペクトルが取得可能である。しかし、そうでない場合には、何回かの分析を繰り返し、分析結果を積算したMS/MSスペクトルを取得する必要がある。この積算回数やイオントラップにおけるイオン取り込み時間を、グループ毎に最適化することが、分析全体におけるスループット向上に重要である。イオントラップにおけるイオン取り込み時間は、取り込めるイオン量に制限があると考えられるため、ある程度以上に長く設定することは困難である。そのため、積算回数を変化させれば、より確実に分析対象イオンを取り込むことができる。定量解析を行なうため、得られるMS/MSスペクトルには、イオン取り込み時間や積算回数などの分析条件が表示されても構わないが、イオン強度を一定の条件に規格化された値で表示されても構わない。次に、第二のグループに分類された比較的中間的な強度のイオン(図中、黒丸で表示)のみに対してアイソレーションを実施し、纏めて解離させることにより、MS/MSスペクトルを取得する。さらに、第三のグループに分類された比較的強度の低いイオン(図中、三角で表示)のみに対してアイソレーションを実施し、纏めて解離させることにより、MS/MSスペクトルを取得する。このように、前駆イオン候補が多い場合においても、分析スループットの低下を抑制し、MS/MS分析を実施することが可能である。
データ取得における積算回数は、第三のグループが最も多く、第一のグループは最も少ない設定である。得られるMS/MSスペクトルは、一種類の前駆イオンに対して得られた単独のMS/MSスペクトルよりも複雑だが、内部データベースに登録された単独のMS/MSスペクトル情報を組み合わせることにより、解析が可能である。即ち、データベースに登録されたイオン情報に従って、解離イオン情報が得られる。そして、解離イオン情報(MS/MSスペクトルパターン)の重ねあわせにより実際に得られるMS/MSスペクトルを予測することができる。そのため、未知物質が含まれる場合には、予測されるMS/MSスペクトルにはない解離イオンの存在が確認できるので、そのことを速やかに検知することができる。また、内部データベース検索による前駆イオン選択においても、未知物質を検知することができ、その場合には、未知物質のみの単独のMS/MSスペクトルを取得することができる(図5,6の説明を参照)。なお、表示部では、MSスペクトル、あるいは/及び、MS/MSスペクトルが表示される。
以上により質量分析システムで取得したMS/MSスペクトルでは、複数の前駆イオンに対するMS/MSスペクトル取得が可能である。そのため、MS/MSスペクトルデータには関連する複数種類の前駆イオン情報(質量など)が含まれる点が特徴的である。また、質量範囲で前駆イオン選択が行なわれている訳ではなく、複数の前駆イオンの選択においては、前駆イオン強度や内部データベース情報が利用される。
【0028】
なお、第1のグループと第二のグループと第三のグループとのグループ分けの基準は、イオン強度や、解離イオンのm/zに一定値以上(例えば、5ダルトン以上)差があること、及び、グループ化された前駆イオンの数(例えば、20以下)である。また、各グループに未知イオンを一種類のみ含めることも有効である。他に未知イオンが含まれていなければ、未知イオンを高効率に解析することができるからである。
本発明に基づく質量分析システムで取得したMS/MSスペクトルの前駆イオンは、基本的に内部データベースに登録されているため、分析終了後のデータ解析も内部データベース情報を利用することが可能である。
質量分析システムの一実施例における取得データ例を、図5に示す。ここで、黒塗りの逆三角形は、前駆イオン選択において候補から排除すべきイオンを示し、これらのイオン情報も予め内部データベース(イクスクルージョン データベース)に登録されている。MSスペクトルでは、図4の例と同様に、多数のイオンや化学ノイズが検出されており、プレカーサー選択において強度の高いグループに分類されたイオンは白丸で表示されている。これらのグループ化されたイオンを前駆イオンとし、MS/MSスペクトルを取得し、内部データベースに登録されたMS/MSスペクトル情報と照合する。図における上から四番目のスペクトルにおいて、分析結果に対して照合・検証できたイオンは破線で示す。幾つかの実線で示すイオンは、内部データベースに登録されたMS/MSスペクトル情報と不整合のあったものである。このことから、グループ化された前駆イオンの中には、内部データベースに登録されていない未知物質が含まれたことが分かる。さらに、そのフラグメントイオン情報(m、z、イオン強度)から、元の親イオンを推定することが可能である。その推定を確認するために、本実施例では、推定される前駆イオンのみに対し、単独のMS/MSスペクトルを取得している。その結果が、先の実線で示すフラグメントイオン情報と整合が見られると、その情報を新規に内部データベースに登録することができる。図23に示すように、上記各プロセスにおいて、情報処理部で計算が実施されるが、計算時間は分析スループットに影響を与えない短時間である必要があり、典型的には数ミリ秒である。
【0029】
前駆イオン選択では、内部データベース検索を実施するため、先述のように、得られるMS/MSスペクトルで検出されるフラグメントイオンのm/zを予測することができる。そして、別の親イオン由来の解離イオン同士がMS/MSスペクトルで重なることが予測される場合には、どちらかの前駆イオンを次のグループに分類し直し、例えば一方の前駆イオンを積算回数の高いグループに移動させることが有効である。このようにして、得られるMS/MSスペクトルでデータベース情報を高い精度で確認することができる。また、実際に得られたMS/MSスペクトルに対して、内部データベースに登録されたMS/MSスペクトル情報を用いて情報処理部で検証を行なうが、グループ化された前駆イオン(親イオン)の数が多すぎると、上記検証が困難となり、精度が低下する。そのため、前駆イオンのグループ化においては、選択されるイオンの種類に上限を設け、それを超過する場合には、グループ内のイオンの種類を低減させるべく、一部の前駆イオン候補をより強度の低いグループなどに分類し直すことが有効である。例えば、前駆イオン候補数の上限を20に設定した場合には、従来の一つの前駆イオンをタンデム質量する場合に比較して、分析される物質の数が一桁以上(最大20倍)増加することが期待される。また、同一物質の二価イオン、三価イオン、四価イオンなどの多価イオンが同時に検出される場合には、それらのイオンを同一のグループに含めることも有用である。同一の解離イオンが生成されることがあり、高感度分析に有利である。
【0030】
質量分析システムの一実施例における取得データ例を、図6に示す。分析では、一枚のMSスペクトルに対し、三枚のMS/MSスペクトルを取得する分析ルーチンの設定とする。MSスペクトルに対して、内部データベース検索を実施した結果、ヒットしたイオンは三種類の前駆イオングループのいづれかにイオン強度などに応じて分類される他、未知物質の検出が検知されている。本実施例では、先ず、未知物質のみのMS/MSスペクトルを取得し、内部データベースにイオン情報を登録する。次に、白丸で示されたグループの前駆イオンを纏めて解離させ、MS/MSスペクトルを取得する。分析ルーチンを変更させない場合には、黒丸と三角で示される2つのグループに属するイオンを全て前駆イオンとし、MS/MSスペクトルを取得する。
定量解析においては、これまで述べたイオン強度を測定する方法では、イオン化過程において競合する物質が存在するとイオン化効率が低下することも想定される。より高精度な定量方法としては、安定同位体標識試薬や、培養細胞でアミノ酸(リジン、アルギニン、他)を同位体標識する相対定量法を用いることができる。この場合、分析対象サンプルと比較対象のサンプルとを個別に標識し、混合したサンプルを調整し、分析を実施する。図7(一番上の図)に、典型的なMSスペクトルを示す。一定の質量数が異なるイオンのペアが何組か検出されている。これらのペアは、化学的性質は殆ど同一の物質だが、標識する同位体のみが異なる。そのため、液体クロマトグラフの保持時間もほぼ同時に検出される。相対定量解析においては、それぞれイオン強度を時間軸に沿って積算し、面積を求める。そして、面積の比率を決定することにより、相対的な存在比を決定する。分析においては、前駆イオンの決定を内部データベース検索により実施するが、内部データベースにはイオンのペアについての情報(図17に示すデータベース情報では、前駆イオン番号で数字は共通化し末尾にLとHなどの同位体標識であることを示す記号が付加されるなど)が登録されている。そして、前駆イオンの決定に際しては、内部データベースに登録されているイオンのペアで一方のみのイオンにヒットした場合でも前駆イオンとして選択する。このことにより、イオンペアの強度比が著しく異なる場合でも、高精度で定量解析が可能となる。インクルージョンデータベース及びイクスクルージョンデータベースを用いる場合のフローチャートを図27に、インクルージョンデータベースのみを用いる場合のフローチャートを図28に各々示す。
図7の例では、MSスペクトルで検出されたイオンに対し、内部データベース検索を実施する。そして、前駆イオン候補から排除するイオン(逆三角形で表示)と、ペアを形成している前駆イオン候補(白丸で表示)を区別し、前駆イオン候補を纏めてタンデム質量分析している。そして、得られるMS/MSスペクトルに対して、内部データベース検索を実施し、整合性を確認している。このような分析における内部データベースの作成では、比較対象サンプルを調製したものを用いて、予め分析を実施し、解析イオン情報を登録する。次に、同位体標識した場合に変化するイオン質量を考慮し、予測されるイオンペアの情報を内部データベースに登録する。このことにより、イオンペアの一方のみが検出された場合でも、タンデム質量分析の前駆イオンに選定することができる。
質量分析システムの一実施例における取得データ例を、図8に示す。MSスペクトルで検出されたイオンに対し、内部データベース検索を実施した結果、前駆イオン候補から排除するイオン(逆三角形で表示)が一種類検出されている。その他のイオンは、全て同位体標識されたペアで検出されているが、矢印で示すイオンのペアは内部データベースに登録されていない未知物質であり、質量差から同位体標識ペアのイオンであると推測される。そこで、先ず、未知物質のイオンペアを前駆イオンとするタンデム質量分析を実施し、得られるMS/MSスペクトルの情報を内部データベースに登録する。次に、イオン強度で二つのグループに前駆候補イオンを分類し、(ペアを形成するイオンのうち、イオン強度の低い方のイオンにおいて、)強度の比較的高いグループ[1](白丸で表示)の前駆イオンを纏めてタンデム質量分析を行なう。そして、得られたMS/MSスペクトルを取得し、内部データベースに登録されたMS/MSスペクトル情報と照合し確認する。最後に、強度の比較的低いグループ[2](黒丸で表示)の前駆イオンを纏めてタンデム質量分析を行なう。そして、得られたMS/MSスペクトルを取得し、内部データベースに登録されたMS/MSスペクトル情報と照合し確認する。内部データベース情報を用いたMS/MSスペクトルの確認作業においては、異なるフラグメントイオンのm/zが数Da以下になるとイオンピーク(同位体ピークの一部)が重なり合うため、解析精度が低くなる場合が発生する。このような状況を避けるように前駆イオンのグループ化を行うと、上記のような状況を回避することができる。そのため、本実施例では、グループ[2]に分類された前駆イオンの中に、グループ[1]に分類された前駆イオンと比較して強度が同等のものが幾つか含まれている。
また、MS/MSスペクトルを取得せず、MSスペクトルで検出されるイオンの強度のみで定量分析を実施することも可能である。この場合、図16に示すように、内部データベースに登録されたイオンに対して、アイソレーションを実施することが、空間電荷効果を受ける可能性のあるイオントラップや化学ノイズが無視できないサンプルを分析する場合に重要である。モノアイソトピックイオン質量/電荷(m/z)が例えば5Da程度と非常に近接した場合、アイソレーションにおいてイオンのロスが発生することがある。そのため、アイソレーション対象のイオンの選択においては、イオンのm/zにある程度差を持たせるようにグループ化することが重要である。得られるMSスペクトルは、アイソレーションを実施せずに取得したMSスペクトルと比較して、空間電荷効果が低減するため、イオン強度が高くなることがある点が特徴的である。
質量分析システムの一実施例における取得データ例を、図9に示す。MSスペクトルで検出されたイオンに対し、内部データベース検索を実施した結果、図6のような場合と異なり、全てのイオンが内部データベース検索でヒットしている。そこで、前駆イオンはイオン強度に応じて三つのグループに分類され、それぞれに対して纏めてタンデム質量分析が実施される。
【0031】
図10に、質量分析システムの別の一実施例におけるシステム構成図を示す。この装置は、液体クロマトグラフとイオントラップ-飛行時間型質量分析装置を結合させた装置であり、タンデム質量分析においてはCIDのみならず電子捕獲解離(ECD)を用いることができる。サンプル液は液体クロマトグラフ用ポンプシステムに導入され、管1を通って、分離用のカラムに導入される。そこで、サンプルに含まれる多種類の物質は分離され、カラム末端部から分離物質が順次エレクトロスプレーイオン化法などの噴霧イオン化法により気体状イオンに変換される。生成されたイオンは、質量分析装置の第一細孔2から真空部に導入され、一定の高周波電界を発生させるイオン輸送部3を通って、イオントラップ4に導入される。第1高周波電源で制御されるイオントラップ4では、10ミリ秒程度の一定時間だけ、導入されるイオンを取り込みが行われる。そして、取り込まれたイオンは、第2高周波電源で制御される多重極ポールからなる衝突減衰器5で細いビーム状に整形され、高真空状態にある飛行時間型質量分析計6に導入される。そして、イオン加速部7でパルス的に加速されたイオンは、リフレクター8でエネルギー収束を受けた後、検出器9で検出される。検出器9にイオンが到達するまでの飛行時間を正確に測定することにより、イオンの質量mを電荷数zで割ったm/zを高精度で決定することができる。非常に多種類の物質が混合したサンプルを分析する場合、液体クロマトグラフの分離カラムでは完全に各成分を分離することができず、検出器9には複数種のイオンが検出されることが多い。情報処理部に入力された検出イオン情報は、ディスプレーなどの表示部で質量スペクトル(MSスペクトル)として表示される。
さて、検出器9で検出されたイオンの情報は、制御部のデータベース検索手段でデータベース検索が実施され、データベースでヒットしたイオン情報に基づき、タンデム質量分析の前駆イオンが決定される。そして、特定の前駆イオンがイオントラップ4に取り込まれるように、制御部の電源制御手段は第1高周波電源を制御する。そして、イオントラップ4で最終的にアイソレーションされた前駆イオンは、高周波電界の印加による過熱か、衝突減衰器5へのイオン輸送で過熱するかなどの手段により、残留ガスとの衝突誘起解離(CID)を受け、複数種類の解離イオン(フラグメントイオン)に変換される。前駆イオンが多価イオンの場合には、イオントラップ4で最終的にアイソレーションされた前駆イオンは、Qデフレクター10によりECD反応部11に導入される。ECD反応部11では、導入された多価の前駆イオンに対し、低エネルギー電子を照射し、再結合に伴う解離が実現し、多数のフラグメントイオンが生成される。ペプチドやタンパク質の多価イオンにECDを施すと、主鎖が優先的に解離する点が特徴的である。これらのイオンは、Qデフレクター10よりイオン加速部7に導入される。そして、飛行時間型質量分析計6において質量分離され、検出器9で検出される。検出器9の出力信号は情報処理部に伝えられ、情報処理部に入力された検出イオン情報は、表示部でタンデム質量スペクトル(MS/MSスペクトル)として表示される。複数種類のMS/MSスペクトルを取得する場合には、分析開始前に入力部において設定することができる。また、使用可能なデータベースが複数ある場合には、分析開始前に入力部で選択することができる。最終的な分析設定条件は分析開始前に表示部で確認でき、分析の開始を入力部で入力することができる。
【0032】
図11に、質量分析システムのさらに別の一実施例におけるシステム構成図を示す。この装置は、液体クロマトグラフとリニア型イオントラップ質量分析装置を結合させた装置である。リニア型イオントラップ質量分析装置の代わりに、図12に示すような三次元イオントラップ質量分析装置を用いても、同様の効果を得ることができる。
サンプル液は液体クロマトグラフに導入される。そこで、サンプルに含まれる多種類の物質は分離され、カラム末端部から分離物質が順次イオン源に導入され、エレクトロスプレーイオン化法などの噴霧イオン化法により、気体状イオンに変換される。生成されたイオンは、質量分析装置の第一細孔2から真空部に導入され、一定の高周波電界を発生させるイオン輸送部3を通って、イオントラップ4に導入される。第2高周波電源で制御されるイオントラップ4では、10ミリ秒程度の一定時間だけ、導入されるイオンを取り込みが行われる。そして、取り込まれたイオンは、第2高周波電源からイオントラップ4に印加される高周波電界に従って、イオンのm/zに対応するタイミングで、検出器9で検出される。非常に多種類の物質が混合したサンプルを分析する場合、液体クロマトグラフの分離カラムでは完全に各成分を分離することができず、検出器9には複数種のイオンが検出されることが多い。情報処理部に入力された検出イオン情報は、ディスプレーなどの表示部で質量スペクトル(MSスペクトル)として表示される。
さて、検出器9で検出されたイオンの情報は、制御部のデータベース検索手段でデータベース検索が実施され、データベースでヒットしたイオン情報に基づき、タンデム質量分析の前駆イオンが決定される。そして、特定の前駆イオンがイオントラップ4に取り込まれるように、制御部の電源制御手段は第2高周波電源を制御する。そして、イオントラップ4で最終的にアイソレーションされた前駆イオンは、高周波電界のイオン過熱による残留ガスとの衝突誘起解離(CID)や、炭酸ガスレーザー等を用いた赤外多光子解離(IRMPD:図示せず)や紫外線レーザー等の手段により、複数種類の解離イオン(フラグメントイオン)に変換される。検出器9の出力信号は情報処理部に伝えられ、情報処理部に入力された検出イオン情報は、表示部でタンデム質量スペクトル(MS/MSスペクトル)として表示される。複数種類のMS/MSスペクトルを取得する場合には、分析開始前に入力部において設定することができる。また、使用可能なデータベースが複数ある場合には、分析開始前に入力部で選択することができる。最終的な分析設定条件は分析開始前に表示部で確認でき、分析の開始を入力部で入力することができる。
【0033】
図13に、質量分析システムのさらに別の一実施例におけるシステム構成図を示す。この装置は、液体クロマトグラフとリニア型イオントラップ-フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析装置を結合させた装置である。この例では、図10に示す飛行時間型質量分析装置の代わりに、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析装置が用いられている。そのため、イオンの質量分析において、高い分解能と質量精度を容易に得ることができる。
サンプル液は液体クロマトグラフに導入される。そこで、サンプルに含まれる多種類の物質は分離され、カラム末端部から分離物質が順次イオン源に導入され、エレクトロスプレーイオン化法などの噴霧イオン化法により、気体状イオンに変換される。生成されたイオンは、質量分析装置の第一細孔2から真空部に導入され、一定の高周波電界を発生させるイオン輸送部3を通って、イオントラップ4に導入される。第2高周波電源で制御されるイオントラップ4では、10ミリ秒程度の一定時間だけ、導入されるイオンを取り込みが行われる。そして、取り込まれたイオンは、第2高周波電源からイオントラップ4に印加される高周波電界や静電界により、高真空状態にあるフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計12に導入される。そして、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計12には磁石13による磁界が印加され、イオンはそのm/zに従った周期運動を行なう。イオンの周期運動は電界の変化として検知され、運動周期よりイオンのm/zを正確に決定することができる。なお、磁界を用いるフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計12の代わりに、磁界を用いないフーリエ変換質量分析計(オービトラップ)を用いても構わない。非常に多種類の物質が混合したサンプルを分析する場合、液体クロマトグラフの分離カラムでは完全に各成分を分離することができず、検出器9には複数種のイオンが検出されることが多い。情報処理部に入力された検出イオン情報は、ディスプレーなどの表示部で質量スペクトル(MSスペクトル)として表示される。
さて、検出器9で検出されたイオンの情報は、制御部のデータベース検索手段でデータベース検索が実施され、データベースでヒットしたイオン情報に基づき、タンデム質量分析の前駆イオンが決定される。そして、特定の前駆イオンがイオントラップ4に取り込まれるように、制御部の電源制御手段は第2高周波電源を制御する。そして、イオントラップ4で最終的にアイソレーションされた前駆イオンは、高周波電界のイオン過熱による残留ガスとの衝突誘起解離(CID)や、炭酸ガスレーザーを用いた赤外多光子解離(IRMPD:図示せず)等の手段により、複数種類の解離イオン(フラグメントイオン)に変換される。検出器9の出力信号は情報処理部に伝えられ、情報処理部に入力された検出イオン情報は、表示部でタンデム質量スペクトル(MS/MSスペクトル)として表示される。複数種類のMS/MSスペクトルを取得する場合には、分析開始前に入力部において設定することができる。また、使用可能なデータベースが複数ある場合には、分析開始前に入力部で選択することができる。最終的な分析設定条件は分析開始前に表示部で確認でき、分析の開始を入力部で入力することができる。
【0034】
図14に、質量分析システムのさらに別の一実施例におけるシステム構成図を示す。この装置は、液体クロマトグラフとタンデム型イオントラップ質量分析装置を結合させた装置である。
サンプル液は液体クロマトグラフに導入される。そこで、サンプルに含まれる多種類の物質は分離され、カラム末端部から分離物質が順次イオン源に導入され、エレクトロスプレーイオン化法などの噴霧イオン化法により、気体状イオンに変換される。生成されたイオンは、質量分析装置の第一細孔2から真空部に導入され、一定の高周波電界を発生させるイオン輸送部3を通って、イオントラップ4に導入される。第1高周波電源で制御されるイオントラップ4では、10ミリ秒程度の一定時間だけ、導入されるイオンを取り込みが行われる。そして、取り込まれたイオンは、第2高周波電源で制御される多重極ポールからなる衝突セル14を通過し、別のイオントラップ15に導入される。そして、イオントラップ15に取り込まれたイオンは、第2高周波電源からイオントラップ15に印加される高周波電界に従って、イオンのm/zに対応するタイミングで、検出器9で検出される。非常に多種類の物質が混合したサンプルを分析する場合、液体クロマトグラフの分離カラムでは完全に各成分を分離することができず、検出器9には複数種のイオンが検出されることが多い。情報処理部に入力された検出イオン情報は、ディスプレーなどの表示部で質量スペクトル(MSスペクトル)として表示される。非常に多種類の物質が混合したサンプルを分析する場合、液体クロマトグラフの分離カラムでは完全に各成分を分離することができず、検出器9には複数種のイオンが検出されることが多い。情報処理部に入力された検出イオン情報は、ディスプレーなどの表示部で質量スペクトル(MSスペクトル)として表示される。
さて、検出器9で検出されたイオンの情報は、制御部のデータベース検索手段でデータベース検索が実施され、データベースでヒットしたイオン情報に基づき、タンデム質量分析の前駆イオンが決定される。そして、特定の前駆イオンがイオントラップ4に取り込まれるように、制御部の電源制御手段は第2高周波電源を制御される。そして、イオントラップ4で最終的にアイソレーションされた前駆イオンは、ヘリウムなどの不活性ガスが充填された衝突セル14に加速されて導入される。そして、衝突セル14における不活性ガスとの多重衝突により前駆イオンは解離し、解離イオンは別のイオントラップ15に導入される。高周波電源からイオントラップ15に印加される高周波電界に従って、イオンのm/zに対応するタイミングで、検出器9で検出される。検出器9の出力信号は情報処理部に伝えられ、情報処理部に入力された検出イオン情報は、表示部でタンデム質量スペクトル(MS/MSスペクトル)として表示される。複数種類のMS/MSスペクトルを取得する場合には、分析開始前に入力部において設定することができる。また、使用可能なデータベースが複数ある場合には、分析開始前に入力部で選択することができる。最終的な分析設定条件は分析開始前に表示部で確認でき、分析の開始を入力部で入力することができる。
【0035】
なお、これまではオンラインLC/MSn装置について重点的に述べたが、オフライン装置においても同様の機能を保有することは有効である。その場合には、イオン化法として、噴霧イオン化法ではなく、パルスレーザー光を用いたMALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)などを用いることができる。即ち、液体クロマトグラフ(LC)の分離成分を順次MALDIプレートに塗布し、質量分析することができる。このようなオフライン分析を実施する場合は、オンラインLC/MSn装置における時間的な制約が緩和されるため、前駆イオンのグループ化において、選択される前駆イオンの数の上限を比較的低く設定することができる。そして、得られるタンデム質量スペクトルの解析を簡単化させることができる。ただ、この上限の数を低くし過ぎると、分析スループットが極度に低くなる。そのため、前駆イオンの数の上限は、分析スループットとのバランスで決定すべきである。
【0036】
【特許文献5】米国特許第5206507号
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は多種類の成分を含むサンプルの分離分析システムに関し、特にタンパク質やペプチド、糖鎖、代謝産物などの生体関連物質の分析に使用する液体クロマトグラフ/質量分析システム、分析方法、装置に関する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】質量分析システムの一実施例におけるシステム構成図。
【図2】タンデム質量分析を行なう場合の、アイソレーション過程。
【図3】複数の前駆イオンに対するアイソレーション過程。
【図4】質量分析システムの一実施例における取得データ例。
【図5】質量分析システムの一実施例における取得データ例。
【図6】質量分析システムの一実施例における取得データ例。
【図7】質量分析システムを用いた同位体標識サンプルの典型的な取得データ例。
【図8】質量分析システムの一実施例における取得データ例。
【図9】質量分析システムの一実施例における取得データ例
【図10】質量分析システムの別の一実施例におけるシステム構成図。
【図11】質量分析システムのさらに別の一実施例におけるシステム構成図。
【図12】質量分析システムのさらに別の一実施例におけるシステム構成図。
【図13】質量分析システムのさらに別の一実施例におけるシステム構成図。
【図14】質量分析システムのさらに別の一実施例におけるシステム構成図。
【図15】質量分析システムの一実施例におけるシステム構成図。
【図16】質量分析システムを用いた同位体標識サンプルの取得データ例。
【図17】内部データベース登録情報の例。
【図18】システムにおける制御部とその周辺のハードウェアとの構成のブロック図。
【図19】質量分析システムにおけるフローの図。
【図20】質量分析システムにおけるフローの図。
【図21】質量分析システムにおける表示部の表示例。
【図22】質量分析システムにおける表示部の表示例。
【図23】質量分析システムにおけるフローの図。
【図24】質量分析システムにおけるフローの図。
【図25】質量分析システムにおけるシステム制御のフローチャート。
【図26】質量分析システムにおけるシステム制御のフローチャート。
【図27】質量分析システムにおけるシステム制御のフローチャート。
【図28】質量分析システムにおけるシステム制御のフローチャート。
【符号の説明】
【0039】
1:管1、2:第一細孔、3:イオン輸送部、4:イオントラップ、5:衝突減衰器、6:飛行時間型質量分析計、7:イオン加速部、8:リフレクター、9:検出器、10:Qデフレクタ、11:ECD反応部、12:フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計、13:磁石、14:衝突セル、15:別のイオントラップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の物質の情報を格納する少なくとも1つのデータベースと、
イオントラップ部を具備してかつ試料をイオン化するイオン源と、
前記イオン源でイオン化されたイオンについての質量分析を行う質量分析部と、
複数のイオンからなるイオン群毎にダンデム質量分析を行うための条件設定をするための入力部と、
前記入力部からの入力に基づいて前記イオントラップ部への印加電圧が制御される電源部と、
前記質量分析部の分析結果を検出する検出部とを有することを特徴とする質量分析システム。
【請求項2】
前記データベースは、ダンデム質量分析優先対象イオンの情報を格納する第1データベースを含むことを特徴とする請求項1に記載の質量分析システム。
【請求項3】
前記少なくとも1つのデータベースは、ダンデム質量分析優先対象イオンの情報を格納する少なくとも1つの第1データベースと、ダンデム質量分析対象外イオンの情報を格納する少なくとも1つの第2データベースであることを特徴とする請求項1に記載の質量分析システム。
【請求項4】
データベース検索手段と情報処理部とをさらに有し、前記情報処理部は、前記データベース検索手段により前記データベースから検索される前記複数の物質の情報に基づき、ダンデム質量分析の予測スペクトルを算出することを特徴とする請求項1に記載の質量分析システム。
【請求項5】
前記情報処理部は、前記予測スペクトルに基づき、前記イオン群を決定することを特徴とする請求項4に記載の質量分析システム。
【請求項6】
前記情報処理部は、前記予測スペクトルに基づき、解離イオンの質量対電荷比に重複が生じないように前記イオン群を決定することを特徴とする請求項5に記載の質量分析システム。
【請求項7】
情報処理部は、前記検出部で検出される1次質量分析結果のイオン強度に基づき、前記イオン群を決定することを特徴とする請求項4に記載の質量分析システム。
【請求項8】
前記入力部は、前記データベースを選択するためのデータベース選択部と、質量分析の条件を選択するための質量分析条件選択部とを有することを特徴とする請求項1に記載の質量分析システム。
【請求項9】
前記質量分析条件選択部は、前記イオン群をダンデム質量分析する質量分析条件を表示することを特徴とする請求項8に記載の質量分析システム。
【請求項10】
前記入力部からの入力の結果を表示する表示部をさらに有し、前記表示部は、前記イオン群をダンデム質量分析する質量分析条件の選択の有無を表示することを特徴とする請求項1に記載の質量分析システム。
【請求項11】
前記入力部からの入力の結果を表示する表示部をさらに有し、前記表示部は、ダンデム質量分析する前記イオン群のイオンの数を表示することを特徴とする請求項1に記載の質量分析システム。
【請求項12】
前記複数の物質の情報は、前記物質のイオン質量、電荷、及びダンデム質量分析スペクトルを含むことを特徴とする請求項1に記載の質量分析システム。
【請求項13】
前記試料を分離するための液体クロマトグラフをさらに有し、前記複数の物質の情報は、
物質のイオン質量、電荷、ダンデム質量分析スペクトル、及び前記液体クロマトグラフの保持時間を含むことを特徴とする請求項1に記載の質量分析システム。
【請求項14】
前記予測スペクトルと前記検出部で検出されたダンデム質量分析スペクトルとについて表示する表示部をさらに有することを特徴とする請求項4に記載の質量分析システム。
【請求項15】
複数のイオンからなるイオン群毎にダンデム質量分析を行うための条件を入力部を介して設定する第1の工程と、
データベース検索手段を介してデータベースを検索して、ダンデム質量分析対象のイオンについての情報を得る第2の工程と、
質量分析部を介して取得する1次質量分析結果情報と前記情報とに基づき、前記イオン群を決定する第3の工程と、
前記第3の工程で決定された結果に基づき、電源制御手段を介してイオントラップ部へダンデム質量分析のための電圧印加を指令する第4の工程とをコンピューターに実行させるためのプログラム。
【請求項16】
前記情報に基づき、ダンデム質量分析の予測スペクトルを算出する第5の工程をさらに有し、前記第3の工程は、前記1次質量分析結果情報と前記情報と前記予測スペクトルとに基づき、前記イオン群を決定することを特徴とする請求項15に記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2007−46966(P2007−46966A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230234(P2005−230234)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】