説明

質量分析システム

【課題】プリカーサイオンスキャンやニュートラルロススキャンが容易に行えるといった三連四重極型質量分析装置の特徴を活かしつつ、目的成分の質量精度を向上させたり構造解析に必要なMSスペクトルを取得したりできるようにする。
【解決手段】三連四重極型質量分析装置3とイオントラップ飛行時間型質量分析装置4とにほぼ同時並行的に試料を導入し、三連四重極型質量分析装置3ではニュートラルロスキャンを実行し、特定のイオンが検出されたときにデータ処理部38は制御部46に分析の実行を指示する。制御部46は、上記特定のイオンに対する高い精度での質量分析が実行されるように、イオントラップ飛行時間型質量分析装置4の各部を制御する。データ処理部38、47でそれぞれ得られた分析結果は、データ統合処理部5においてあたかも単一の質量分析装置で得られた結果のように統合され、例えば表示部6に表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の質量分析装置を用いて同一の試料を分析する質量分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
分子量が大きな物質の同定やその構造の解析を行うために、質量分析の1つの手法としてMS/MS分析(タンデム分析)という手法が知られている。MS/MS分析を行うために、最も操作や扱いが容易であるのが三連四重極(TQ)型質量分析装置である。
【0003】
例えば特許文献1などに記載されているように、三連四重極型質量分析装置では、イオン源で生成された試料成分由来のイオンが第1段四重極に導入され、特定の質量(質量電荷比m/z)を有するイオンがプリカーサイオンとして選別される。このプリカーサイオンが、第2段四重極が内装されたコリジョンセルに導入される。コリジョンセルにはアルゴン等の衝突誘起解離(CID)ガスが供給され、コリジョンセル内でプリカーサイオンはCIDガスに衝突して開裂し、各種のプロダクトイオンが生成される。このプロダクトイオンが第3段四重極に導入され、特定の質量を有するプロダクトイオンが選別されて検出器に到達し検出される。
【0004】
三連四重極型質量分析装置では、第1段四重極に印加する高周波電圧及び直流電圧を変化させることにより、プリカーサイオンの質量を走査することができる。また、第3段四重極に印加する高周波電圧及び直流電圧を変化させることにより、検出器に到達するプロダクトイオンの質量を走査することができ、それによってMSスペクトルを作成することができる。
【0005】
また三連四重極型質量分析装置では、特定のプロダクトイオンを生じる全てのプリカーサイオンを検出するプリカーサイオンスキャンや、特定の中性断片(中性化学種)が脱離する全てのプリカーサイオンを検出するニュートラルロススキャンなどの、特徴的な分析を行うことができ、それによって試料の化学構造の推定などに有用な情報を得ることができる。また、三連四重極型質量分析装置は、イオンの開裂効率や透過効率が良好であるために、高い検出感度が得られ、特に定量性に優れている。
【0006】
一方、三連四重極型質量分析装置はあまり質量精度や質量分解能が高くないために、上述のような特徴的な分析手法で得た質量情報が十分に活かせない場合がある。また、近年、分析対象物の分子量はますます大きくなる傾向にあり、1段の開裂操作では分析に適した小さなイオンにならない場合もあるが、三連四重極型質量分析装置では2段以上の開裂操作を行うことができず、中途半端な分析結果しか得られないという問題も生じている。
【0007】
【特許文献1】特開平7−201304号公報
【特許文献2】特開2005−353340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような点に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、三連四重極型質量分析装置の特徴を活かしつつ、例えば質量分離手法などが相違する他の質量分析装置を併用し、しかもそれら複数の質量分析装置の動作を適切に連携させることで、試料に関する豊富な情報を簡便に収集することができる質量分析システムを提供することである。
【0009】
なお、例えば特許文献2に記載のように、複数の質量分析装置に同一の試料を導入して並行的に分析を行うことは、従来知られているところである。しかしながら、これは専ら、異なる種類のイオン源を併用することが目的であり、上記のような課題を解決することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された第1発明に係る質量分析システムは、
a)三連四重極型質量分析装置である第1の質量分析装置と、
b)第1の質量分析装置とは異なる質量分離手法を利用したもので、且つ第1の質量分析装置よりも高い質量精度を実現可能な第2の質量分析装置と、
c)同一の試料を第1の質量分析装置及び第2の質量分析装置の両方に同時に又は所定の時間遅延を与えた上で並行的に導入する試料導入手段と、
d)前記試料導入手段により導入される試料に対し第1の質量分析装置での質量分析により得られた検出信号に基づいて、予め定められた特定のイオンに関連した情報を抽出する情報抽出手段と、
e)前記情報抽出手段により得られた、前記試料導入手段により導入される試料に由来する特定のイオンに対する質量分析を第2の質量分析装置で実行するように、該装置の動作を制御する制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0011】
また上記課題を解決するために成された第2発明に係る質量分析システムは、
a)三連四重極型質量分析装置である第1の質量分析装置と、
b)第1の質量分析装置とは異なる質量分離手法を利用したもので、且つ第1の質量分析装置よりも高い質量精度を実現可能な第2の質量分析装置と、
c)同一の試料を第1の質量分析装置及び第2の質量分析装置のいずれかに選択的に導入する試料導入手段と、
d)前記試料導入手段により導入される試料に対し第1の質量分析装置での質量分析により得られた検出信号に基づいて、予め定められた特定のイオンに関連した情報を抽出する情報抽出手段と、
e)前記情報抽出手段により得られた特定のイオンに関連した情報を用い、その特定のイオンに対する質量分析を第2の質量分析装置で実行するための分析条件や手順を含むファイルを作成するファイル作成手段と、
f)前記ファイル作成手段により作成されたファイルに則って、前記試料導入手段により導入される試料に由来する特定のイオンに対する質量分析を第2の質量分析装置で実行するように、該装置の動作を制御する制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0012】
また上記課題を解決するために成された第3発明に係る質量分析システムは、
a)三連四重極型質量分析装置である第1の質量分析装置と、
b)特定のイオンを選別しその選別したイオンを開裂させるという操作を2回以上繰り返した上で生成されたプロダクトイオンを質量分析することで、MS分析(nは3以上の整数)結果を得ることが可能な第2の質量分析装置と、
c)同一の試料を第1の質量分析装置及び第2の質量分析装置の両方に同時に又は所定の時間遅延を与えた上で並行的に導入する試料導入手段と、
d)前記試料導入手段により導入される試料に対し第1の質量分析装置での質量分析により得られた検出信号に基づいて、予め定められた特定のイオンに関連した情報を抽出する情報抽出手段と、
e)前記情報抽出手段により得られた、前記試料導入手段により導入される試料に由来する特定のイオンを目的イオンとしたMS分析を第2の質量分析装置で実行するように、該装置の動作を制御する制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0013】
さらにまた上記課題を解決するために成された第4発明に係る質量分析システムは、
a)三連四重極型質量分析装置である第1の質量分析装置と、
b)特定のイオンを選別しその選別したイオンを開裂させるという操作を2回以上繰り返した上で生成されたプロダクトイオンを質量分析することで、MS分析(nは3以上の整数)結果を得ることが可能な第2の質量分析装置と、
c)同一の試料を第1の質量分析装置及び第2の質量分析装置のいずれかに選択的に導入する試料導入手段と、
d)前記試料導入手段により導入される試料に対し第1の質量分析装置での質量分析により得られた検出信号に基づいて、予め定められた特定のイオンに関連した情報を抽出する情報抽出手段と、
e)前記情報抽出手段により得られた特定のイオンに関連した情報を用い、その特定のイオンに対するMS分析を第2の質量分析装置で実行するための分析条件や手順を含むファイルを作成するファイル作成手段と、
f)前記ファイル作成手段により作成されたファイルに則って、前記試料導入手段により導入される試料に由来する特定のイオンに対するMS分析を第2の質量分析装置で実行するように、該装置の動作を制御する制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0014】
第2の質量分析装置としては、質量分離部に飛行時間型質量分離部を用いた構成とすればよい。この構成では、三連四重極型質量分析装置に比べて質量精度を十倍以上高くすることができる。また、MS分析を行う場合には、リニアイオントラップでもよいが、好ましくは三次元四重極型のイオントラップを利用するとよい。
【0015】
第1乃至第4発明に係る質量分析システムの一態様として、第1の質量分析装置においてプリカーサイオンスキャン又はニュートラルロススキャンを実行して得られた結果を利用して特定のイオンを検出する構成とすることができる。プリカーサイオンスキャンは、三連四重極型質量分析装置において、後段の質量分離器(第3段四重極)で選別される質量又は質量範囲を固定し、前段(第1段四重極)で選別される質量又は質量範囲を走査することで容易に実現できる。また、ニュートラルロススキャンは、三連四重極型質量分析装置において、前段の質量分離器(第1段四重極)で選別される質量又は質量範囲と、後段(第3段四重極)で選別される質量又は質量範囲との差を固定しつつ、前段の質量分離器で選別される質量又は質量範囲を走査することで容易に実現できる。
【発明の効果】
【0016】
第1乃至第4発明に係る質量分析システムによれば、上述のようにプリカーサイオンスキャンやニュートラルロススキャンなどにより三連四重極型質量分析装置で特徴的に検出される特定のイオンに関する詳細な情報、具体的には詳細な(高精度の)質量情報や、そのイオンの開裂により生じる多様なプロダクトイオンの詳細な質量情報などを、簡便に収集することができる。これにより、三連四重極型質量分析装置の特徴を活かして試料中の目的とする成分を探索しつつ、目的成分について三連四重極型質量分析装置では得られない高い質量精度での質量情報を得ることが可能となる。
【0017】
また特に、第1発明及び第3発明に係る質量分析システムでは、第1の質量分析装置での質量分析と第2の質量分析装置での質量分析(又はMS分析)とがほぼ同時並行的に実施されるので、例えばガスクロマトグラフや液体クロマトグラフなど或る程度時間を要する分離操作と質量分析とを組み合わせた分析を実行する際にも、分析の所要時間が長くなることを避けることができる。
【0018】
一方、第2発明及び第4発明に係る質量分析システムでは、まず第1の質量分析装置で1回目の分析を実行し、それにより得られた結果に基づいてファイル作成手段が2回目の、つまりは同一試料に対する第2の質量分析装置を用いた質量分析(又はMS分析)のための制御用のファイルを作成する。したがって、2回の分析を別の時間に行うという点でトータルの分析時間は長くなるが、逆に言えば、第1の質量分析装置での1回目の分析が妥当であったのかどうか等を検証する時間的余裕が生まれ、場合によっては、第2の質量分析装置での2回目の分析の実行を回避することができる。
【0019】
また、第1発明及び第3発明に係る質量分析システムでは、クロマトグラフで成分分離された試料のように時間経過に伴って導入される成分が変化する場合に、同一成分に対する分析を第1及び第2の質量分析装置で実施するには、例えば第1の質量分析装置に導入する試料をデータ処理に相当する時間だけ遅延させて第2の質量分析装置に導入するように、試料導入の時間調整が必要であった。それに対し、第2発明及び第4発明に係る質量分析システムでは、もともと別の時間に第1及び第2の質量分析装置で独立して分析を実行するため、上記のような試料導入の時間調整は不要である。
【0020】
なお、第1乃至第4発明に係る質量分析システムでは、第1の質量分析装置と第2の質量分析装置とでそれぞれ別々に分析結果、例えばマススペクトルなどが得られるが、ユーザにとってはそれら分析結果が一体に、つまりはあたかも単一の質量分析装置で得られる結果のように表示されたり、解析処理可能であったりしたほうが都合がよい。そこで、同一試料に対して第1の質量分析装置で得られた分析結果と第2の質量分析装置で得られた分析結果とを統合して表示又は処理可能とする構成とすることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
[第1実施例]
以下、本発明に係る質量分析システムの一実施例(第1実施例)について図面を参照して説明する。図1は第1実施例によるGC/MSの要部の構成図である。
【0022】
このGC/MSは、質量分析装置として、三連四重極型質量分析装置3とイオントラップ飛行時間型質量分析装置4とを備え、ガスクロマトグラフ(GC)部1で成分分離された試料が試料導入部2により両質量分析装置3、4に並行的に導入される。なお、後述するようなデータ処理等に要する時間を考慮して、イオントラップ飛行時間型質量分析装置4に導入される試料を、三連四重極型質量分析装置3に導入される試料よりも少し遅れるようにするのが望ましい。こうした試料導入の時間調整は、試料導入のための管路の長さで調整可能なほか、例えば途中でメイクアップガスを導入し、そのガス流量を調整することによっても行うことが可能である。
【0023】
三連四重極型質量分析装置3は、図示しない真空ポンプにより真空排気される分析室30内に、試料をイオン化するイオン源31、第1質量分離部としての第1段四重極32、第2段四重極34を内装するコリジョンセル33、第2質量分離部としての第3段四重極35、及び、イオンを検出する検出器36、を備え、これらの動作は制御部37により制御され、検出器36の検出信号はデータ処理部38に入力される。通常、第1段四重極32及び第3段四重極35には高周波電圧と直流電圧とを重畳した電圧が印加され、第2段四重極34には高周波電圧のみが印加されるが、場合によっては各四重極32、34、35にさらに直流バイアス電圧が印加されるようにしてもよい。なお、第2段四重極34は質量選別の機能を持たず、高周波電場によってイオンを収束させながら後方に輸送するのが目的であるため、4本のロッド電極から成る四重極ではなく、六重極、八重極など、四重極以外の多重極の構成としてもよい。
【0024】
イオントラップ飛行時間型質量分析装置4は、図示しない真空ポンプにより真空排気される分析室40内に、試料をイオン化するイオン源41、イオンを一時的に保持する三次元四重極型のイオントラップ42、イオンを反射させるリフレクトロン電極44が飛行空間に配置された飛行時間型質量分離部43、及び、イオンを検出する検出器45、を備え、これらの動作は制御部46により制御され、検出器45の検出信号はデータ処理部47に入力される。制御部46はデータ処理部38から得られる信号や情報に基づいて制御の手順や条件を設定する機能を有している。
【0025】
また、データ統合処理部5は、三連四重極型質量分析装置3側のデータ処理部38で収集されたデータとイオントラップ飛行時間型質量分析装置4側のデータ処理部47で収集されたデータとを受けて、あたかも単一の質量分析装置で得られたデータと同じような形式にデータを統合し、そうしたデータを図示しない記憶装置に格納するとともに表示部6に出力する。
【0026】
本実施例のGC/MSにおける特徴的な動作の一例を説明する。分析対象の試料に含まれる各種成分はGC部1で時間的に分離され、それぞれ時間差がついて試料導入部2から両質量分析装置3、4のイオン源31、41に供給される。
【0027】
三連四重極型質量分析装置3では、試料導入部2より導入される試料から生成された各種イオンに対し、ニュートラルロススキャンにより、特定の質量差を持つような開裂を生じる特異的なイオン(プリカーサイオン)を探索する。図3はニュートラルロススキャンで得られるマススペクトルの概念を示す図である。
【0028】
第1段四重極32で選別されるプリカーサイオンの質量M(Ma、Mb)と第3段四重極35で選別されるプロダクトイオンの質量m(ma、mb)との差Δm=M−mは一定値になる。そのために、制御部37は、質量差Δmが或る一定値になるように、第1段四重極32への印加電圧と第3段四重極35への印加電圧とをそれぞれ走査し、その走査を繰り返す。この質量差Δmは、分析対象の成分に対応して予め決めておくことができる。一般的には、開裂により特定の部分構造や官能基由来の共通の質量を持つ断片が脱離することが既知である場合に、こうした脱離する部分構造や断片の対応する質量差Δmを設定しておくようにすることができる。
【0029】
データ処理部38はニュートラルロススキャンの繰り返しに応じて検出器36で得られる検出信号を順に受け、例えば1回のスキャンで得られるイオン強度を合算したトータルイオンクロマトグラムを作成する。このクロマトグラム上でピークが出現したときに、目的とする成分がGC部1から溶出したと判断できる。そこで、データ処理部38はこのピーク検出を行い、ピークが検出されたときのプリカーサイオンの質量情報を取得する。この質量情報は速やかに制御部46に送られ、制御部46はこの質量を持つイオンに対する詳細な質量分析を実行するようにイオントラップ飛行時間型質量分析装置4の各部を制御する。
【0030】
即ち、試料導入部2を経て導入された試料中の成分を元にイオン源41で生成されたイオンをイオントラップ42に導入し、イオンのクーリングを行って一旦蓄積する。上記のように三連四重極型質量分析装置3に特定イオンの元となった目的成分が導入されてから、データ処理部38で特定のイオンが検出されるまでに時間的な遅延があるが、試料導入に遅延を持たせることで、目的成分に由来する特定イオンをイオントラップ42に蓄積することができる。そして、所定のタイミングで、イオントラップ42内に保持していたイオンにほぼ一斉にエネルギーを付与してイオントラップ42から出射させ、飛行時間型質量分離部43に導入する。
【0031】
飛行時間型質量分離部43において、イオンはリフレクトロン電極44により形成されている直流電場により折り返され、最終的に検出器45に到達する。この飛行時間はイオンの質量に応じてものとなるから、データ処理部47で飛行時間を精度よく計測することでイオンが持つ質量を精度よく求めることができる。飛行時間型質量分析装置の質量精度や質量分解能は高く、三連四重極型質量分析装置3と比べると10倍から100倍程度良好である。
【0032】
上述のようにイオントラップ飛行時間型質量分析装置4では、飛行時間の計測の精度が質量分析精度となるから、質量精度を上げるには或る程度以上の飛行時間を確保する必要があり、短い周期での繰り返し分析は困難である。しかしながら、上記構成では、三連四重極型質量分析装置3の分析により特定イオンの出現が確認されたときにイオントラップ飛行時間型質量分析装置4でその特定イオンに対する詳細な分析を実行すればよいので、ユーザが着目している特定のイオンについての高い精度の質量情報を取得することができる。こうしてデータ処理部38、47でそれぞれ得られたデータはデータ統合処理部5に集められ、単一の質量分析装置で得られた結果と同様の形式にまとめられる。これにより、ユーザは別々の質量分析装置3、4でデータが得られたことを全く意識することなく、且つ、1つの質量分析装置で得られた結果を観察したり解析処理したりするのと同じ手軽さで取り扱うことができる。
【0033】
なお、三連四重極型質量分析装置3では、上述したニュートラルロススキャン以外に様々な分析手法を用いることができる。例えば図4はプリカーサイオンスキャンで得られるマススペクトルの概念を示す図である。プリカーサイオンスキャンでは、開裂により特定の質量mを持つプロダクトイオンを生成するような全てのプリカーサイオンをスキャンするものである。この場合、第3段四重極35には特定の質量を持つイオンのみが通過するような電圧を印加した状態で、第1段四重極32に印加する電圧を走査してプリカーサイオンをスキャンする。そして、第3段四重極35を通過した特定のプロダクトイオンが検出器36で検出されたとき、第1段四重極32で選別されたプリカーサイオンを特定する。
【0034】
また、イオントラップ飛行時間型質量分析装置4では、イオントラップ42内にCIDガスを導入してイオンとCIDガスとの衝突によりイオンを開裂させ、それにより生成された各種プロダクトイオンの中で特定の質量を有するプロダクトイオンを選別し、その選別したイオンをプリカーサイオンとして再びCIDガスとの衝突により開裂させる、という操作を複数回繰り返すことができる。そこで、三連四重極型質量分析装置3での質量分析により、特定のイオンが検出されると、そのイオンをイオントラップ42で所定回数開裂させ、それにより生成されたプロダクトイオンを質量分析してMSスペクトルを得ることができる。三連四重極型質量分析装置3では開裂操作を1回のみしか行うことができず、MSスペクトル(通常のマススペクトル)又はMSスペクトルしか得ることができないが、イオントラップ飛行時間型質量分析装置4ではnが3以上のMSスペクトルを得ることができる。目的成分の分子量が大きい場合や開裂しにくい物質である場合、1回の開裂操作では十分に小さな質量まで開裂しないことも多いが、多段階の開裂操作を行うことで十分に小さな質量にまで開裂させ、分子構造の解析などに有用な情報を得ることができる。
【0035】
[第2実施例]
上記第1実施例では、試料を並行的に両質量分析装置3、4に導入しており、分析時間を節約できる利点があるものの、上述のように試料導入のタイミングを適切に合わせるべく遅延量の調整を行う必要がある。これに対し、第2実施例のGC/MSでは、同一試料に対する両質量分析装置3、4での分析を同時ではなく異なる時点で行うようにしている。図2はこの第2実施例のGC/MSの要部の構成図である。第1実施例の構成と同じ要素には同一符号を付して説明を略す。
【0036】
この構成では、GC部1で成分分離された試料を流路切替部21により第1試料導入部22又は第2試料導入部23のいずれかに選択的に振り分け、三連四重極型質量分析装置3又はイオントラップ飛行時間型質量分析装置4のいずれかに導入する。三連四重極型質量分析装置3及びイオントラップ飛行時間型質量分析装置4の構成は第1実施例と同じであるが、三連四重極型質量分析装置3のデータ処理部38による情報や信号は分析メソッドファイル作成部39に入力される。
【0037】
分析メソッドファイル作成部39は、三連四重極型質量分析装置3による分析により特定されたイオンをイオントラップ飛行時間型質量分析装置4で分析するための分析条件や手順などをまとめた分析メソッドファイルを作成する機能を有する。この分析メソッドファイルには、例えば、GC部1への試料注入の時点を基準とした目的成分のリテンションタイム(目的成分が三連四重極型質量分析装置3に導入されるまでの経過時間)などの情報を含む。この分析メソッドファイルが制御部46に渡され、分析実行開始の指示を受けて制御部46は分析メソッドファイルに則ってイオントラップ飛行時間型質量分析装置4の各部を制御する。
【0038】
したがって、この第2実施例のGC/MSでは、分析メソッドファイルを用い、GC部1とイオントラップ飛行時間型質量分析装置4との組合せで同じ試料を分析することにより、目的成分についての詳細な、つまり高い質量精度での質量情報やMSスペクトルなどを取得することができる。
【0039】
なお、上記実施例はいずれも一例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜修正や変更、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。例えば、上記実施例は本発明に係る質量分析システムをGC/MSに適用した例であるが、LC/MSに適用することも可能であるし、或いは、クロマトグラフとの組合せではない単独の質量分析システムとしても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施例によるGC/MSの要部の構成図。
【図2】本発明の他の実施例によるGC/MSの要部の構成図。
【図3】ニュートラルロススキャンで得られるマススペクトルの概念図。
【図4】プリカーサイオンスキャンで得られるマススペクトルの概念図。
【符号の説明】
【0041】
1…GC部
2…試料導入部
21…流路切替部
22…第1試料導入部
23…第2試料導入部
3…三連四重極型質量分析装置
30…分析室
31…イオン源
32…第1段四重極
33…コリジョンセル
34…第2段四重極
35…第3段四重極
36…検出器
37…制御部
38…データ処理部
39…分析メソッドファイル作成部
4…イオントラップ飛行時間型質量分析装置
40…分析室
41…イオン源
42…イオントラップ
43…飛行時間型質量分離部
44…リフレクトロン電極
45…検出器
46…制御部
47…データ処理部
5…データ統合処理部
6…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)三連四重極型質量分析装置である第1の質量分析装置と、
b)第1の質量分析装置とは異なる質量分離手法を利用したもので、且つ第1の質量分析装置よりも高い質量精度を実現可能な第2の質量分析装置と、
c)同一の試料を第1の質量分析装置及び第2の質量分析装置の両方に同時に又は所定の時間遅延を与えた上で並行的に導入する試料導入手段と、
d)前記試料導入手段により導入される試料に対し第1の質量分析装置での質量分析により得られた検出信号に基づいて、予め定められた特定のイオンに関連した情報を抽出する情報抽出手段と、
e)前記情報抽出手段により得られた、前記試料導入手段により導入される試料に由来する特定のイオンに対する質量分析を第2の質量分析装置で実行するように、該装置の動作を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする質量分析システム。
【請求項2】
a)三連四重極型質量分析装置である第1の質量分析装置と、
b)第1の質量分析装置とは異なる質量分離手法を利用したもので、且つ第1の質量分析装置よりも高い質量精度を実現可能な第2の質量分析装置と、
c)同一の試料を第1の質量分析装置及び第2の質量分析装置のいずれかに選択的に導入する試料導入手段と、
d)前記試料導入手段により導入される試料に対し第1の質量分析装置での質量分析により得られた検出信号に基づいて、予め定められた特定のイオンに関連した情報を抽出する情報抽出手段と、
e)前記情報抽出手段により得られた特定のイオンに関連した情報を用い、その特定のイオンに対する質量分析を第2の質量分析装置で実行するための分析条件や手順を含むファイルを作成するファイル作成手段と、
f)前記ファイル作成手段により作成されたファイルに則って、前記試料導入手段により導入される試料に由来する特定のイオンに対する質量分析を第2の質量分析装置で実行するように、該装置の動作を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする質量分析システム。
【請求項3】
a)三連四重極型質量分析装置である第1の質量分析装置と、
b)特定のイオンを選別しその選別したイオンを開裂させるという操作を2回以上繰り返した上で生成されたプロダクトイオンを質量分析することで、MS分析(nは3以上の整数)結果を得ることが可能な第2の質量分析装置と、
c)同一の試料を第1の質量分析装置及び第2の質量分析装置の両方に同時に又は所定の時間遅延を与えた上で並行的に導入する試料導入手段と、
d)前記試料導入手段により導入される試料に対し第1の質量分析装置での質量分析により得られた検出信号に基づいて、予め定められた特定のイオンに関連した情報を抽出する情報抽出手段と、
e)前記情報抽出手段により得られた、前記試料導入手段により導入される試料に由来する特定のイオンを目的イオンとしたMS分析を第2の質量分析装置で実行するように、該装置の動作を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする質量分析システム。
【請求項4】
a)三連四重極型質量分析装置である第1の質量分析装置と、
b)特定のイオンを選別しその選別したイオンを開裂させるという操作を2回以上繰り返した上で生成されたプロダクトイオンを質量分析することで、MS分析(nは3以上の整数)結果を得ることが可能な第2の質量分析装置と、
c)同一の試料を第1の質量分析装置及び第2の質量分析装置のいずれかに選択的に導入する試料導入手段と、
d)前記試料導入手段により導入される試料に対し第1の質量分析装置での質量分析により得られた検出信号に基づいて、予め定められた特定のイオンに関連した情報を抽出する情報抽出手段と、
e)前記情報抽出手段により得られた特定のイオンに関連した情報を用い、その特定のイオンに対するMS分析を第2の質量分析装置で実行するための分析条件や手順を含むファイルを作成するファイル作成手段と、
f)前記ファイル作成手段により作成されたファイルに則って、前記試料導入手段により導入される試料に由来する特定のイオンに対するMS分析を第2の質量分析装置で実行するように、該装置の動作を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする質量分析システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の質量分析システムであって、第1の質量分析装置においてプリカーサイオンスキャン又はニュートラルロススキャンを実行して得られた結果を利用して特定のイオンを検出することを特徴とする質量分析システム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の質量分析システムであって、同一試料に対して第1の質量分析装置で得られた分析結果と第2の質量分析装置で得られた分析結果とを統合して表示又は処理可能としたことを特徴とする質量分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−174994(P2009−174994A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13664(P2008−13664)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】