説明

質量分析システム

【課題】
本発明の目的は、タンパク質やペプチドをタンデム質量分析により、構造解析する際、既に計測済みの、多量に発現するタンパク質由来のペプチドイオンをタンデム質量分析ターゲットとして回避し、これまで分析が困難であった微量なタンパク質由来のペプチドなどをタンデム質量分析ターゲットとして自動的に、測定の実時間内に判定処理することである。
【解決手段】
本発明では、上記課題を、既に計測した蛋白質、及び、それに由来するペプチドデータを内部データベースに自動格納し、それらと計測データを高精度に照合、同位体ピーク判定することにより、未計測のペプチドピークを、次のタンデム分析ターゲットとして選定する処理を計測の実時間内に実施し、同じタンパク質由来のペプチドの重複計測を回避する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置を用いた質量分析スペクトルの解析システムに係り、ポリペプチド,糖などの生体高分子の化学構造を高精度かつ効率的に同定するために、測定の実時間内で最適な質量分析フローを自動判定するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な質量分析法では、測定対象の試料をイオン化した後、生成された様々なイオンを質量分析装置に送り込み、イオンの質量数m,価数zの比である質量対電荷比m/z毎に、イオン強度を測定する。この結果得られたマススペクトルは、各質量対電荷比m/z値に対する、測定されたイオン強度のピーク(イオンピーク)からなる。このように、試料をイオン化した、そのものを質量分析することをMS と呼ぶ。多段階離が可能なタンデム型質量分析装置では、MS で検出されたイオンピークのうち、ある特定の質量対電荷比m/zの値を有するイオンピークを選定して(選択したイオン種を親イオンと呼ぶ)、更に、そのイオンを、ガス分子との衝突等により解離分解し、生成した解離イオン種に対し、質量分析して、同様にマススペクトルが得られる。ここで、親イオンをn段階離して、その解離イオン種を質量分析することをMSn+1と呼ぶ。このように、タンデム型質量分析装置では、親イオンを多段(1段,2段,…,n段)に解離させ、各段階で生成したイオン種の質量数を分析する(MS,MS,…,MSn+1)。
(1)タンデム分析可能な質量分析装置のほとんどの場合、MS分析する際の親イオンをMSにおけるイオンピークから選択する際、強度の高いイオンピークの順に、(例えば、強度の上位10位以内のイオンピークを)親イオンとして選択して、解離,質量分析(MS)する、データディペンデント(Data Dependent)機能を有する。
(2)Finnigan社製のイオントラップ型質量分析装置では、MS分析する際の親イオンMSにおけるイオンピークから選択する際、ユーザが予め指定した質量対電荷比m/z値を持つイオン種を、親イオンとして選択回避する、ダイナミックイクスクルージョン(Dynamic Exclusion)機能を備えている。
(3)測定されたイオン種と計測済みイオン種の一致度の判定に関する公知例としては、特許文献1,2が挙げられる。
【0003】
特許文献1では、1段目のスペクトルデータ内の特徴的なピークとそれに対応するイオン種の2段目のスペクトルデータをデータベースに格納する。以後の測定において、前記データベース中の2段目のスペクトルデータに対して、測定対象試料の2段目の質量分析により得られたスペクトルデータと比較して、一致度を検証する。最も一致度の高いデータ成分を比較結果として出力する。
【0004】
特許文献2では、多段階離測定において、測定中に試料注入処理を挟まずに連続測定することで、MSとMSn+1データ間の注入によるイオン強度変動を回避する。これにより、標準試料の添加が不要となり、効率的な定量分析が可能としている。MSとMSn+1データ分析において、既に収集した指定イオンデータと一致するか否かにより、MSn+1に戻るもしくは、次のMS測定を実施する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−249114号公報
【特許文献2】特開平10−142196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(1)「従来の技術」の(1)に示すデータディペンデント(Data Dependent)機能では、多量に発現する蛋白質、或いは、蛋白質由来のペプチドを優先的にタンデム分析することになる為、既に同定された蛋白質やペプチドに対して、重複して計測する可能性が高い。これは、計測時間と試料の無駄につながる。これまでは、多量に発現する蛋白質中心に分析されてきたが、今後、病変蛋白質など微量な蛋白質の分析に移行してくると考えられる。データディペンデント(Data Dependent)機能によると、微量な蛋白質を詳細にタンデム分析することは困難である。
【0007】
(2)「従来の技術」の(2)に示すダイナミックイクスクルージョン(Dynamic Exclusion)機能では、ユーザが予め指定した質量対電荷比m/z値を持つイオン種か否かを、質量対電荷比m/z値によって判定している為、質量対電荷比m/z値が同じでも、イオンの質量数mや価数zが異なるイオン種に対しても同様に、MS分析のターゲットから排除されてしまう可能性がある。
【0008】
これを回避する為には、予め指定したイオン種か否かを判定する際、各イオンピークの質量対電荷比m/zはマススペクトルから明らかであるが、質量対電荷比m/z値から判定するのではなく、各イオンピークの価数z,質量数mから判定する必要がある。このとき、この各イオンピークの価数z,質量数mを、測定中の実時間で算出することが必要となる。
【0009】
前記特許1及び2においては、MSデータ分析には、データベース等との照合により、特定イオン種の同定を実施する。前記特許1及び2においても、データベース上の登録値は、質量対電荷比m/z値であり、必ずしも質量数m自体が使用されていない、もしくは、1価イオン(z=1)を前提としていた。また、MS分析から質量対電荷比m/zの測定値以外の情報(例えば、価数z,質量数mの個別の特性データ)が使用されることはなく、必ずしも、効率的イオン選定のために適切な情報を使用していなかった。
【0010】
(3)ペプチド鎖を構成するアミノ酸残基数をKとし、アミノ酸の種類を20とすると、可能なアミノ酸配列の数は20にもなる。これに、アミノ酸側鎖の化学修飾を考えると、その数は更に増大する。更に、アミノ酸残基数が増大すると、ペプチド鎖の同位体の数も増大する。特に、小さなペプチド鎖においては、同位体ピークの強度は小さいが、大きなペプチド鎖となると、同位体ピーク強度の方が増大する。同位体ピークを次の解離測定の親イオン種と設定すると、最終的に行う蛋白質データベース検索・照合の精度が極端に低下して、大きなペプチドでは、データ処理が困難となる。
【0011】
上記の課題を解決するためには、MSの各段階において、MSスペクトルに含まれる情報を有効に活用し、次の分析内容の判定、MSn+1分析を実施する際の親イオンの選定を、測定の実時間内に、高効率、かつ、高精度に実施する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、タンデム分析可能な質量分析装置において、前記の課題(1)−(3)を解決するため、主に以下の(1)−(5)の手段を採用し、ターゲットイオンをn−1回解離し、質量分析して得られたマススペクトル(MS)を、測定の実時間内に高速解析し、次の分析内容を判定するシステムである。
【0013】
(1)マススペクトル(MS)における各イオンピークに対して、高速に同位体ピークか否かを判定する。
【0014】
(2)同位体ピーク判定された場合、同位体ピーク間の間隔1/zから、当該イオンピークの価数z,イオンピークの質量数mを算出し、この質量数mに基づき、予め指定されたイオン種と一致するか否かを判定する。
【0015】
(3)質量分析装置の前段に液体クロマトグラフィー(LC)が設置されている場合、質量数mが同じであるが異なる構造を持つイオン種間を区別する為、LCの保持時間(リテンションタイム)も、判定材料に用いる。
【0016】
(4)測定を重複させない為、一度測定されたペプチドや、既に同定された蛋白質由来のペプチドの、質量数やリテンションタイムのデータを質量分析システム内蔵の内部データベースに格納し、マススペクトル(MS)における各イオンピークに対して、一致するか否かを高速判定する。
【0017】
次の分析のターゲットを選定する際、同位体ピークを避ける。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明は、多段階解離して質量分析(MS)する際、MSの各段階において、MSスペクトルに含まれる情報を有効に活用し、次の分析内容の判定、MSn+1 分析を実施する際の親イオンの選定などの分析フローの最適化を、測定の実時間内に、高効率、かつ、高精度に実施する自動判定するシステムであるため、計測の無駄なく、ユーザの欲するターゲットのタンデム質量分析が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一実施例による質量分析フローの自動判定処理の流れの概略図である。
【図2】本発明の第一実施例による質量分析データを計測する質量分析システム全体の概略図である。
【図3A】多段階離質量分析フローの一例である。
【図3B】多段階離質量分析フローの一例である。
【図3C】多段階離質量分析フローの一例である。
【図4】本発明の内部データベース自動格納の処理内容の概略図である。
【図5】本発明の内部データベース格納内容の概略図である。
【図6】本発明の同位体ピーク判定処理内容の概略図である。
【図7】本発明の同位体ピーク判定処理における推定同位体列挙過程の概略図である。
【図8】本発明の同位体ピーク判定処理における価数,質量数の算出過程の概略図である。
【図9A】生体内のアミノ酸20種の出現確率、及び、ペプチド鎖状での質量数を示す。
【図9B】本発明の同位体ピーク判定処理における同位体ピーク強度分布算出及び最終同位体ピーク判定過程の概略図である。
【図10】本発明の同位体ピーク判定処理の結果による各ピークのm/z,m,z及び、包含同位体数の表示例である。
【図11】本発明の図1,図12,図13,図14,図20に示す処理を、質量分析計測中の実時間内で実施する場合の実施タイミングの一例である。
【図12】本発明の第二実施例による質量分析フローの自動判定処理の概略図である。
【図13】本発明の第三実施例による質量分析フローの自動判定処理の概略図である。
【図14】本発明の第四実施例による質量分析フローの自動判定処理の概略図である。
【図15】質量数に応じた、同位体ピークの強度分布パターンを表す。
【図16】本発明の第五実施例における同位体判定処理内容の概略図である。
【図17】本発明の第六実施例におけるタンデム質量分析の親イオン選択の概略図である。
【図18】本発明の第七実施例における同一のm/z値を持つ複数イオン種の同位体パターン例である。
【図19】本発明の第八実施例における同位体標識時の次のタンデム質量分析ターゲット選定の概念図である。
【図20】本発明の第九実施例による質量分析フローの自動判定処理の概略図である。
【図21】本発明の第十実施例における次のタンデム質量分析ターゲット選定の概念図である。
【図22】本発明の第十一実施例による質量分析システム全体の概略図である。
【図23】本発明の第十二実施例による質量分析システム全体の概略図である。
【図24】本発明の第十三実施例による質量分析システム全体の概略図である。
【図25】本発明の第十四実施例による質量分析システム全体の概略図である。
【図26】本発明の第十五実施例による質量分析フローの自動判定処理の概略図である。
【図27】本発明の第十五実施例における内部データベースの概略図である。
【図28】本発明の第十五実施例における質量分析データのquality 評価の概念図である。
【図29】本発明の第十六実施例における内部データベースのデータ処理の概念図である。
【図30】本発明の第十六実施例による質量分析フローの自動判定処理の概略図である。
【図31】本発明の第十七実施例におけるMSデータとMS(n≧3)データの加算処理の概念図である。
【図32】本発明の第十八実施例における異なる解離方法を用いたデータの加算処理の概念図である。
【図33】本発明の第十九実施例における複数のマススペクトルデータの加算処理条件変化の概念図である。
【図34】本発明の第二十実施例による同位体ピーク強度のモノアイソトピックピーク強度への加算処理の概念図である。
【図35a】従来におけるタンパク質解析およびタンパク質同定の典型的フローの概念図である。
【図35b】本発明の第二十二実施例におけるタンパク質解析およびタンパク質同定のフローの概念図である。
【図36】本発明の第二十二実施例におけるシステム処理判定フロー図である。
【図37】本発明の第二十二実施例の解析結果の例である。
【図38】本発明の第二十三実施例におけるシステム処理判定フロー図である。
【図39】本発明の第二十四実施例におけるシステム処理判定フロー図である。
【図40】本発明の第二十五実施例におけるピーク群の概念図である。
【図41】本発明の第二十五実施例におけるシステム処理判定フロー図である。
【図42】本発明の第二十五実施例におけるシステム処理判定フロー図である。
【図43】本発明の第一実施例における装置構成例を示す図である。
【図44】本発明の第一実施例における装置構成例を示す図である。
【図45】本発明の第一実施例における装置構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【0021】
まず、第一の実施例について説明する。図1は、本発明の第一の実施例である質量分析システムにおける分析内容を自動判定処理するフロー図である。質量分析データ1とは、図2に示す質量分析装置19において計測されたデータである。質量分析装置19では、分析対象の試料は、液体クロマトグラフィーなどの前処理系11で前処理される。例えば、大元の試料であるタンパク質である場合、前処理系11にて、消化酵素によりポリペプチドの大きさに分解され、ガスクロマトグラフィー(GC)又は液体クロマトグラフィー(LC)により分離・分画される。以下、前処理系11での分離・分画系としてLCを採用した場合の例を示す。試料の分離・分画の後、イオン化部12でイオン化され、質量分析部13で、イオンの質量対電荷比m/zに応じて分離される。ここで、mはイオン質量、zはイオンの帯電価数である。分離されたイオンは、イオン検出部14で検出され、データ処理部15でデータ整理・処理され、その分析結果である質量分析データ1は表示部16にて表示される。この一連の質量分析過程−試料のイオン化,試料イオンビームの質量分析部13への輸送及び入射,質量分離過程、及び、イオン検出,データ処理−の全体を制御部17で制御している。
【0022】
質量分析方法には、試料をイオン化してそのまま分析する方法(MS分析法)と、特定の試料イオン(親イオン)を質量選択し、それを解離させて生成した解離イオンを質量分析するタンデム質量分析法がある。タンデム質量分析法には、解離イオンの中から、特定の質量対電荷比を持つイオン(前駆イオン)を選択し、更に、その前駆イオンを解離し、その際生成した解離イオンの質量分析を行うといったように、解離・質量分析を多段に行う(MS)機能もある。つまり、大元である試料中の物質の質量分析分布をマススペクトルデータ(MS)として計測後、あるm/z値を持つ親イオンを選択し、それを解離し、得られた解離イオンの質量分析データ(MS)を計測後、MSデータのうち、選択された前駆イオンを更に解離し、得られた解離イオンの質量分析データ(MS)を計測するといったように、解離・質量分析を多段に行う(MS(n≧3))。各解離段階毎に、解離前の状態である前駆体イオンの分子構造情報が得られ、前駆体イオンの構造推定に非常に有効である。これら前駆体の構造情報が詳細になるほど、大元の構造である親イオン構造を推定する際の推定精度が向上する。
【0023】
本実施例では、前駆イオンの解離方法として、まず、ヘリウムなどのバッファーガスと衝突させて解離させる衝突解離(Collision Induced Dissociation)法を採用した場合について言及する。衝突解離する為には、ヘリウムガスなどの中性ガスが必要となる為、図2に示すように、衝突解離するためのコリジョンセル(collision cell)13Aとして、質量分析部13とは別に設けている場合もあるが、質量分析部13に中性ガスを充満させて、質量分析部13内で衝突解離させてもよい。その場合、コリジョンセル13Aは不要になる。また、解離手段として、低エネルギーの電子を照射し、親イオンに多量に低エネルギー電子を捕獲させることにより、ターゲットイオンを解離させる電子捕獲解離(Electron Capture Dissociation)を採用しても良い。
【0024】
図3Aに、従来手法による、タンデム質量分析のフローの自動判定法を示す。試料中の物質の質量分析分布であるMSにおけるスペクトルの中から、さらに、解離し、質量分析するターゲット(親イオン)を選択する際、従来は、強度の高いピークの順に選択され、MS 以降の前駆イオン選択時でも、同様に、高い強度のイオンピークが選択されてきた。このようなタンデム質量分析のフローの自動判定法では、例えば、試料がタンパク質の場合、多量に発現するタンパク質から酵素分解されたペプチドイオンが、タンデム質量分析のターゲットになりやすくなる。従って、多量に発現するタンパク質ばかりを、重複して分析する可能性が高くなる。
【0025】
そこで、本発明では、予め指定したタンパク質を酵素分解した際に生成が予想される全ペプチドの質量数mや、LCのリテンションタイム(保持時間)が、計測されたMSの各イオンピークの値と一致するか否かを判定し、それに基づいて、計測中の実時間(例えば、100msec,10msec,5msec,1msecのいずれかの時間内)で次のタンデム質量分析のターゲットとなる親イオンを自動判定する。例えば、多量に発現するタンパク質Aを既に計測・同定し、未計測の微量のタンパク質のみをタンデム質量分析したい場合、図4に示すように、同定済みタンパク質として、予め指定されたタンパク質Aのアミノ酸配列に対し、酵素消化によって切断されて生成されると予想されるペプチドを列挙する。この際、ユーザがユーザ入力部18にて予め入力した、前処理系11で使用した消化酵素の種類に基づいて、アミノ酸の切断の仕方を変更する。例えば、ユーザが前処理系11で消化酵素として、トリプシンを選択した場合、タンパク質のアミノ酸配列におえる切断の特徴として、アミノ酸配列にアルギニン(R)、或いは、リジン(K)がある場合、そのC末端側に結合されているアミノ酸との間の結合が切断される。但し、例外として、R又はKのC末端側にプロリン(P)が結合されている場合は、その結合は切れない。つまり、切断されたペプチドの特徴として、常に、C末端のアミノ酸はR又はKとなり、大元のタンパク質のアミノ酸配列においてN末端のアミノ酸がPである場合を除いては、N末端のアミノ酸はPとはならない。
【0026】
このような切断ルールは、消化酵素によって異なる。消化切断の例として、タンパク質Aがヒトミオグロビンの場合を示す。図4に示すアミノ酸配列を持つ、ヒトミオグロビンをトリプシン酵素消化した際には、上記のトリプシン酵素消化の切断ルールに基づいて、図4に示される22種のペプチドの生成が予想される。このように、消化酵素の切断ルールに応じた、切断ペプチドを導出し、導出された各ペプチドに対し、アミノ酸配列及び質量数を求めて、内部データベース10に格納する。
【0027】
ここで、図3Bに示す、「予め或いは測定中に指定したイオン種」として、上記のように導出した、ユーザ指定のタンパク質由来のペプチドイオンとすると、既にその特性データ(質量数や、LCのリテンションタイムデータがあればリテンションタイムデータ等)が内部データベース10に格納されている為、計測されたばかりのMSデータを高速で解読し、内部データベース10の格納データとある裕度で一致しているかどうかを次の測定までの準備時間内(例えば、100msec,10msec,5msec,1msecのいずれかの時間内)に検索し、内部データベース10の格納データとある裕度で一致していないイオン種のピークのうち、強度の高い順に次のタンデム分析であるMSの親イオンとして選択し、それを解離して得られた解離イオンを質量分析するMS分析に進む。
【0028】
ここで、例えば、MSデータに出現したピークが全て内部データベース10の格納データとある裕度で一致した場合は、MS分析の親イオンとして該当するピークが無いと判定し、次の分析として、MS分析に進まず、MS分析の計測に自動的に進む。従って、本実施例によれば、多量に発現するタンパク質や一度計測・同定したタンパク質を予め指定し、そのタンパク質由来のペプチドの特性データ(質量数やLCのリテンションタイム等)を内部データベース10に格納した場合、多量に発現するタンパク質由来ペプチドは、次のタンデム分析のターゲットから回避される為、比較的強度の低いイオンピークもタンデム質量分析のターゲットとなる可能性が高くなる。つまり、従来のように、高強度イオンを中心にタンデム分析する場合に比べ、本実施例によれば、同定されるタンパク質の数の増加が期待できる。
【0029】
ここで、内部データベース10に特性データを格納する対象物質として、多量に発現するタンパク質や一度計測・同定したタンパク質由来のペプチドとしたが、図5に示すように、一度、MS(n≧2)分析まで実施したイオン種(ペプチドや糖鎖や修飾構造付きペプチドや化学物質)の特性データを、計測中に随時、内部データベース10に格納し、同じイオン種のタンデム分析の重複を回避することもできる。また、本実施例によれば、ノイズや不純物由来のイオン種の特性データを内部データベース10に格納して、ノイズや不純物のタンデム質量分析(MS)を回避することも可能となる。ノイズや不純物由来イオン種の指定は、ユーザが予め実施しても良く、或いは、測定中にノイズと判定されたものを内部データベース10に測定中に自動的に格納しても良い。
【0030】
ここで、ユーザ入力部18にて、ユーザは、消化酵素の種類の他、同位体ピーク判定必要性の有無や、内部データベースとの照合・検索の必要性の有無や内部データベースとの照合・検索におけるデータ一致性を判定する為の裕度、親イオン選定時の分解能などを予め入力することが出来る。
【0031】
さらに、本実施例では、予め、或いは、測定中に指定するイオン種の特性データとして、質量対電荷比m/zではなく、質量数を用いることを特徴とする。内部データベース10の格納データと照合する特性データとして質量対電荷比m/zを利用すると、m/z値が一致し、イオン種の質量数m,価数zが異なるイオン種も、タンデム質量分析のターゲットとしての選択を回避されてしまう。本実施例のように、照合するデータとして質量数mを利用すれば、m/z値が一致し、イオン種の質量数m,価数zが異なるイオン種も識別でき、より高精度にタンデム質量分析のターゲットの選択が可能となる。また、同じイオン種(質量数mが同じ)で、価数zが異なり、m/z値が異なる場合でも、同じイオン種として判定され、何度もタンデム質量分析のターゲットとして選択されることを回避することも可能となる。ここで、質量数mが同じで価数zの異なるものは別のイオン種として、タンデム質量分析の対象としても良い。
【0032】
さらに、質量数mが同じで、異なるイオン種も存在することから、前処理11におけるLCのリテンションタイムのデータも、内部データベース10に格納し、利用しても良い。試料がLCカラムを通過する際、物質の化学的性質によりLCカラムへの吸着と脱着の平衡定数が異なるため、カラムから出てくる時間(リテンションタイム、或いは、保持時間)が異なる。この点を利用して、質量数mが同じで、異なるイオン種場合でも、化学構造や化学的性質が異なれば、LCのリテンションタイムも異なり、区別することが可能となる。従って、本実施例によると、質量数やLCのリテンションタイム等のよりイオン種を特定できるデータに基づいて、予め、或いは、測定中に指定したイオン種か否かの判定をするため、タンデム質量分析したいターゲットのみの分析を高精度に実施でき、計測の無駄無く、ユーザが求める解析データを得ることが可能となる。
【0033】
ここでは、特性データの内容について言及する。図5に示すように、MS(n≧2)分析まで実施したイオン種(ペプチドや糖鎖や修飾構造付きペプチドや化学物質やノイズや不純物由来物質)に対しては、質量数m,価数z,質量対電荷比m/z,LCの保持時間τ,イオン強度,分析条件等が特性データとして格納される。ここで、質量数mは、質量数mを導出する際に参照したイオン種のピークが同位体ピークを伴っている場合は、同位体を含まないピークの質量数である。
【0034】
また、分析条件とは、質量分析装置の運転条件(電極への印加電圧値や分析シークエンスなど)や、当該イオン種に対して実施されたタンデム分析MS(n≧2)のnの値、測定日時や使用したLC或いはGCのカラム番号などである。
【0035】
この他、LC或いはGCの溶媒或いは移動相比率や、LC或いはGCの流量やグラジエントや、2次元LCを用いる場合は1次元LCのイオン交換にて分割されたサンプルの番号や、MADLIイオン源を用いる場合の試料プレートにおけるスポット位置や番号や座標や、格納された特性データと一致したイオン種に対する対処内容(つまり、格納された特性データと一致したイオン種を、MS(n≧2)分析のターゲットとして回避するか、或いは、MS(n≧2)分析のターゲットとして優先選定するか、或いは、質量分析系にイオンを入射させる際、又は、入射させる以前に除去するかの対処内容)なども、内部データベース10に格納しても良い。
【0036】
格納された特性データと一致したイオン種に対する対処内容は、ユーザ指定などによりイオン種毎に指定してもよい。ここで、格納された特性データと一致したイオン種に対する対処内容として、試料を質量分析系に入射時或いは入射させる以前に除去すると指定した場合、イオントラップ(図22b)やリニアトラップ(図24b)のように、イオン溜め込み部や機能を備えている場合、イオンをイオン溜め込み部に入射させる際に、除去したいイオン種を共鳴排出させる補助電圧を重畳印加するなど(図22bや図24b)、イオン溜め込み部にトラップされないようにするなどの方法を備えても良い。特に、非常に強度が高い分析不要イオン等は、「質量分析系にイオンを入射させる際、又は、入射させる以前に除去する」として、内部データベースに登録すると、大量の不純物イオンの溜め込みを回避できる為、低強度イオンの高効率に溜め込むことが出来、低強度イオンの高精度分析が期待できる。
【0037】
また、格納された特性データと一致したイオン種に対する対処内容(つまり、格納された特性データと一致したイオン種を、MS(n≧2)分析のターゲットとして回避するか、或いは、MS(n≧2)分析のターゲットとして優先選定するか、或いは、質量分析系にイオンを入射させる際、又は、入射させる以前に除去するかの対処内容)に応じて、予め、内部データベースを分割あるいは層状構造にしても良い。
【0038】
図43に、本発明の質量分析システムの一実施例に基づく装置構成図を示す。質量分析装置は四重極イオントラップ−飛行時間型質量分析装置である。液体クロマトグラフなどの液体分離部37により分離されたサンプル溶液は、イオン源(イオン化部)12に導入され、エレクトロスプレーイオン化法やソニックスプレーイオン化法などの噴霧イオン化法により、気体状イオンに変換される。
【0039】
生成された気体状イオンは、細孔31より差動排気部32に導入される。さらに、細孔33より高真空部34に導入され、気体状イオンは多重極ポールなどで構成されるイオン輸送部35を通過し、イオントラップ20に導入される。イオントラップ20には高周波電圧が高周波電源36より供給され、四重極電界によりイオントラップ20の中心部に気体状イオンはトラップされる。イオントラップ20にトラップさせたくないイオン(分析対象外イオン)に対しては、そのイオンをイオン輸送部35で排除するように、イオン輸送部の多重極ポールに高周波電圧を印加することができる。
【0040】
また、イオン輸送部35に多重極ポールが使用されない場合には、イオントラップ20で分析対象外イオンを共鳴排出などにより排除し、それ以外のイオンをトラップする高周波電圧がイオントラップ20に印加される。一定時間トラップされた気体状イオンは、電気的な力により右方に輸送され、飛行時間型質量分析計21のイオン加速部38に導入される。イオン加速部38では、導入された気体状イオンに対し、特定のタイミングでパルス状の高電圧を印加し、気体状イオンを特定の運動エネルギーになるまで加速する。加速された気体状イオンはリフレクター39により軌道の変更を受け、エネルギー収束されて、検出器40で検出される。
【0041】
イオン加速部38から検出器40に至るイオン軌道の長さは一定であり、イオン速度はイオンのm/z(質量/電荷数)が大きいほど低いため、検出器40にはm/zの低いイオンから順次検出される。検出器40の出力は情報処理部に導入され、イオン検出時間に基づいてイオンのm/zが決定される。このようにして得られた1次質量分析(MS)結果より、2次質量分析(MS)の対象とするイオンの優先順位を情報処理部(データ処理部15)で決定する。次に、イオントラップ20に導入されるイオンの中から2次質量分析(MS)の対象とするイオンだけを単離(アイソレーション)するための高周波電圧をイオントラップ20に印加するため、情報処理部(データ処理部15)から高周波電源36に指示が出される。さらに、単離イオンをCIDなどで解離するための指示が情報処理部(データ処理部15)から高周波電源36に出され、解離したフラグメントイオンがイオントラップ20に生成される。フラグメントイオンは、電気的な力により右方に輸送され、飛行時間型質量分析計21のイオン加速部38に導入される。
【0042】
イオン加速部38では、導入された気体状イオンに対し、特定のタイミングでパルス状の高電圧を印加し、気体状イオンを特定の運動エネルギーになるまで加速する。加速された気体状イオンはリフレクター39により軌道の変更を受け、検出器40で検出される。検出器40の出力は情報処理部(データ処理部15)に導入され、イオン検出時間に基づいてイオンのm/zが決定される。このようにして、2次質量分析が実現する。一定数の優先順位付けされた2次質量分析対象イオンは、その優先順位に従い、順次2次質量分析が行われる。
【0043】
イオントラップ20には、四重極イオントラップの代わりに、図44に示すような四重極ポールから構成されるリニアトラップ22を用いても構わない。四重極イオントラップと比較して、リニアトラップは同等の機能を有するが、一度にトラップできるイオンの量を増加させることができる点が特徴的である。リニアトラップには、分析対象外イオンを除去し、分析対象とするイオンはトラップできる高周波電圧を印加する。
【0044】
また、図45に示すように、質量分析計は四重極イオントラップ質量分析計だけにすることも可能である。液体クロマトグラフなどの液体分離部37により分離されたサンプル溶液は、イオン源12に導入され、気体状イオンに変換される。生成された気体状イオンは、細孔31より差動排気部32に導入される。さらに、細孔33より高真空部34に設置されたイオン輸送部35を通過し、イオントラップ20に導入される。イントラップ20には高周波電圧が高周波電源より供給され、イオントラップ20の中心部に気体状イオンはトラップされる。イオントラップ20には、分析対象外イオンを除去し、分析対象とするイオンはトラップできる高周波電圧が印加される。
【0045】
一定時間トラップされた気体状イオンは、イオントラップ20に印加される高周波電圧を連続的に変化させることにより、イオンのm/zに応じてイオントラップ20より排出され、検出器40で検出される。検出器40の出力は情報処理部に導入され、イオン検出時間によりイオンのm/zを決定(1次質量分析)することができる。さらに、2次質量分析を行うこともできる。飛行時間型質量分析計に比較して、四重極イオントラップでは質量分析範囲や質量分解能,質量精度は低いが、装置が小型化でき、高感度な分析が可能である。
【0046】
以上の図43,図44,図45に示された実施例においては、情報処理部からの指示を受けて高周波電源からの高周波電圧を印加することにより、分析対象外イオンを1次質量分析前に除去し、分析したい微量成分について確実に質量分析が行われる。特に図44に示されたリニアトラップを用いる場合には、リニアトラップは例えば四重極イオントラップと比較してトラップ可能な容量が8倍程度から2桁程度高いものであるため、微量成分をより確実に質量分析することができる。
【0047】
また、LCの保持時間τは、計測毎に多少変動する可能性があるため、試料に、既に内部データベースに格納されている、少なくとも1種類以上の基準物質を包含し、その基準物質の保持時間と、実測の基準物質の保持時間とを比較し、その差異Δτを導出し、その他のイオン種の保持時間に対しても、Δτを利用して、自動的に補正・校正させても良い。このとき、LCの保持時間τが、計測毎に変動する場合でも、内部データベースに格納した保持時間を利用して、次のタンデム分析MS(n≧2)のターゲットイオン種を安定して選定可能となる。
【0048】
また、質量対電荷比m/z値において、測定開始からの経過時間によって、マス軸(質量対電荷比m/z値)が変動する場合がある。これを回避する為、m/z値が既知である、少なくとも1種類以上の基準物質を試料に含み、基準物質が複数の場合は、LCやGCの保持時間の異なる基準物質を選定し、実測された基準物質のm/z値と、既知であるm/z値とを比較することにより、測定開始からの経過時間によって変動するm/z値を自動的に補正・校正する機能を有してもよい。このとき、m/z値が自動補正されている為、MSデータの計測結果からペプチドやタンパク質同定する際など、擬陽性配列の列挙を抑制することが可能となる。但し、この機能に関しては、全ての計測が終了後、後処理的に実施しても良い。
【0049】
また、n=1のタンデム質量分析、つまり、MSまでの分析しかしていないイオン種に対し、今後の測定においてMS分析のターゲットとする為には、内部データベース10には登録しないようにする。つまり、内部データベース10に格納対象となるイオン種は、タンデム分析MS(n≧2)を実施したイオン種となる。また、このとき、物質名や構造が既知である場合、それらの情報も内部データベース10に格納する。
【0050】
また、ペプチドに対して、修飾構造が付加していると判定された場合は、その種類と付加部分(アミノ酸配列の中で、修飾構造が付加していたアミノ酸)も内部データベース10に格納しても良い。一度計測・同定したタンパク質由来のペプチドに対しては、ペプチドのアミノ酸配列,元のタンパク質名,質量数m,価数z,質量対電荷比m/z,LCの保持時間τ,イオン強度,分析条件等が特性データとして格納される。これらのデータは、計測中あるいは計測後、自動的に内部データベース10に格納される。これらのデータの内部データベース10への格納処理は、測定が実施されている実時間内に、随時実施するのが望ましいが、処理量が多い場合、例えば、タンパク質由来のペプチドの導出などが発生する場合、測定の実時間内で実施しなくても良い。
【0051】
また、ここで、上記には、タンデム質量分析を回避したいイオン種の特性データを、内部データベース10に格納し、内部データベース10の格納データと一致したイオン種をタンデム質量分析のターゲットから外していたが、タンデム質量分析を実施したいイオン種の特性データを、内部データベース10に格納し、内部データベース10の格納データと一致したイオン種をタンデム質量分析のターゲットとして選定してもよい。
【0052】
また、本発明の特徴である、予め、或いは、測定中に指定したイオン種の特性データとして、イオン種の質量対電荷比m/z値ではなく、イオン種の質量数mを参照する為には、MSスペクトルデータが得られてからの、次の分析までの準備時間或いは移行時間内(例えば、100msec,10msec,5msec,1msecのいずれかの時間内)に得られた計測データを解析する必要がある。質量分析データ(MS)1は、質量対電荷比m/zの値に対するイオン強度を表す為、得られる計測データは、質量対電荷比m/zである。この質量対電荷比m/zから、イオン種の質量数mを導出する方法として、本実施例では、図1に示すように、マススペクトルに対し、ピーク判定2を実施し、ピークと判定されたNp個のピークに対して、同位体ピーク判定3を実施する。図6に、同位体ピーク判定3の処理内容を示す。まず、ピークのスペクトルデータ(x=m/z,y=強度)に対して、同位体推定ピークの列挙3−1,各イオンピークの価数,質量数の算出3−2,同位体ピーク強度分布算出及び最終同位体ピーク判定3−3の処理を実施する。同位体推定ピークの列挙3−1の内容としては、ピークi(x,y)とピークi+1(xi+1(>x),yi+1)間の間隔Δ(m/z)=xi+1−xが、Δ(m/z)<1.1となる場合、ピークi+1は、ピークiに対して、同位体1つを多く含む同位体ピークの可能性ありと推定し、Δ(m/z)≧1.1となる場合は、ピークi+1は、ピークiに対して、同位体を含まないピークと判定する。同位体推定ピークの列挙3−1の例を図7に示す。P1−0 のピークに対して、各々Δm/z=1.0ずつ離れた、P1−1,P1−2,P1−3の3つのピークが同位体ピークと推定される。同様に、P2−0のピークに対する同位体推定ピークはP2−1,P3−0のピークに対する同位体推定ピークはP3−1,P3−2,P3−3と推定される。次に、
各イオンピークの価数,質量数の算出3−2について、図8を用いて説明する。試料がペプチドやタンパク質の場合は、構成元素は、C,O,N,H,Sに限られる。自然存在比とペプチド内での包含数を考えると、炭素Cの同位体数が多くなる。C12とその同位体であるC13との間の質量数差は、1.003354≒1.0[Da]である。従って、ピークi+1は、ピークiの同位体ピークと推定された場合、ピークi(x,y)とピークi+1(xi+1(>x),yi+1)間の、計測された間隔(Δ(m/z)≒1.0[Da]/z)から、イオン種の価数zを求めることができる((1)式)。このとき、1/Δ(m/z)は必ずしも整数化されないため、四捨五入のような処理を施して整数化する。また、イオンが中性状態のときの質量数をmとすると、中性状態の質量数mにプロトンイオンの質量数分(価数×質量数mH)を加算した質量数となる((2)式)。
【0053】
z=1/Δ(m/z) (1)
m/z=(m+z×mH)/z (2)
従って、(1),(2)式より、各イオンピークの価数、及び中性状態での質量数mを求めることが出来る。図7で用いた例では、図8に示すように、m/z=500[Da]であるP1−0のイオンピークの価数zは1、質量数m=499,m/z=513であるP2−0のイオンピークの価数zは1、質量数m=512[Da],m/z=520であるP3−0のイオンピークの価数zは2、質量数m=1038[Da]となる。上記の同位体ピーク判定方法により、各イオンピークの質量数,価数を求めてもよく、また、イオンピークの強度がある程度高い場合(例えば、強度≧1000など)に限り、次に記述するように、同位体無しのピークと同位体ピークの強度分布から、更に詳細に判定しても良い。
【0054】
同位体ピーク強度分布算出及び最終同位体ピーク判定3−3の処理内容として、図9A,図9Bを用いて説明する。例えば、試料が、タンパク質やペプチド等のアミノ酸配列の場合、アミノ酸の構成元素は、C,O,N,H,Sに限られ、タンパク質データベース(Swiss Prot)から導出された20種の各アミノ酸の出現確率、及び、各アミノ酸の質量数を図9Aに示す。但し、アミノ酸の質量数は、ペプチド鎖状のアミノ酸(−NH−CR−CO−)の質量数である。ここで、R とは、アミノ酸種によって異なる残鎖のことである。これらのデータから、アミノ酸の平均質量数(111.1807 [Da])、及び、それを構成する各構成元素数の平均値nC,nO,nN,nH,nSが求まる。それらを、表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
つまり、タンパク質やペプチドを表1に示した、質量数111.1807[Da]の平均アミノ酸から構成されると仮定して、タンパク質やペプチドの質量数mから、C,O,N,H,Sの構成元素数の概算数Nc,No,Nn,Nh,Nsが各々求まる。次に、同位体ピークの強度分布を導出する。表2に各同位体元素の存在比を示す。
【0057】
【表2】

【0058】
各同位体元素のうち、存在比が最も高いのはC13である。そこで、同位体C13のみを考慮する場合、包含される同位体数がNisのときの同位体ピーク強度は次式で算出できる。
【0059】
Nis=[NcNis・pC(1)(Nc−Nis)・pC(2)Nis]×pH(1)Nh・pN(1)Nn・pO(1)No・pS(1)Ns …(3)
ここで、pC(1),pC(2),pH(1),pN(1),pO(1),pS(1)は、表2中の存在比を表す。(3)式を用いて、質量数に応じた同位体ピークの強度分布の算出例を図15に示す。このように、過程3−2により算出した質量数mから求めた同位体ピークの強度分布と、過程3−1において、推定された同位体ピークの強度分布との比較を行い、推定された同位体ピークの同位体無しピークに対する強度比が50%未満の誤差で一致する場合、推定同位体ピークを同位体ピークと最終判定し、推定された同位体ピークの同位体無しピークに対する強度比が50%以上異なる場合、その推定同位体ピークは同位体ピークと判定しない。
【0060】
図7で用いた例では、図9Bに示すように、同位体ピークの強度分布を考慮し、推定同位体ピークのうち、最終的に同位体ピークで無いと判定されたのは、m/z=513であるP2−0と、Δ(m/z)=1.0離れ、強度がP2−0 より高い、推定同位体ピークP2−1 である。以上のような同位体ピーク判定処理3により、得られたデータである、各イオンピークの価数z,中性状態の質量数m,同位体ピークか否か、及び、包含された同位体数Nisの情報に対して、ファイル出力、或いは、表示部16にスペクトルを表示した際に、図10に示したように表示しても良い。以上のような情報は、ユーザにとって、タンデム質量分析のターゲットを決定する為、及び、測定終了後にスペクトルデータを解析する際には非常に有用な情報である。
【0061】
また、本実施例では、次のタンデム質量分析として、MSのイオンピークのうち、親イオンを選定して、さらにそれを解離・質量分析するMSn+1を採用する。ここで、親イオン対象候補の有無の判定5を実施し、親イオン対象候補がある場合は、MSn+1分析内容決定7にて、次のMSn+1の親イオンを決定し、また、その親イオンが高効率に選択・解離出来るように、運転条件などを最適化変更しても良い。また、親イオン対象候補が無い場合は、次の試料分析(MS)や計測終了となる。このとき、本発明により自動的に判定された次の分析内容(タンデム質量分析MSのn,n≧2の場合は、そのターゲットイオン等)は、表示部16により表示され、また、必要であれば、表示された、次の分析内容に対して、ユーザの確認が得られるようなインターフェースを備え、ユーザの確認取得後に、実際に、自動判定された次の分析内容の分析を実施するシステムであっても良い。
【0062】
さらに、本発明では、上記の処理を測定中の実時間内に高速処理する事を特徴とする。測定中の実時間内の例として、図11を用いて説明する。図11はタンデム質量分析(MS,MS,MS )する場合の装置の運転シークエンスを示す。
【0063】
本発明により、自動的に判定された、MS、或いは、MSのターゲットイオン種に応じて、質量分析系に印加される電圧やイオンの導入、イオンの蓄積時間などの分析条件が自動的に変化・調整される。MSからMS,MSからMSに移行する際、MSスペクトルデータが得られてからの、次の分析までの準備時間或いは移行時間ΔTp(例えば、100msec,10msec,5msec,1msecのいずれかの時間内)に、図1に示す一連の処理を実施する。このような高速処理のために、処理に必要なデータの格納のためにキャッシュメモリやハードディスクを確保し、必要であれば、並列計算機、又は、クラスター計算機など複数の情報処理部から成る情報処理部を用いても良い。このとき、1つの内部データベース10を分割し、分割した内部データベース毎に、検索処理を並列化しても良い。或いは、内部データベース10とは別の、複数のデータベースを検索用データベースとする場合、各データベース毎に、検索処理を並列化しても良い。
【0064】
また、基本的に、内部データベース10内の格納データは、ハードディスクに格納され、内部データベース10使用する場合に、ハードディスク上の内部データベースの中身がメモリに書き込まれる。このとき、ハードディスク上の内部データベースの中身を、ある時間間隔で定期的にメモリに書き込んでも良く、また、計測を開始する前に、ハードディスクからメモリに内部データベース内容を書き込み、測定中に追加・変更された内部データベースの内容はメモリに追加・変更され、格納される。計測終了後に、メモリー上の内部データベースの中身をハードディスクに格納してもよい。ハードディスクへのアクセスは比較的時間を要するが、内部データベース内容をメモリに移し、メモリにアクセスすることにより、内部データベース検索を測定中に実施することが可能となる。
【0065】
このような本発明のシステムを用いて、試料をLC−MSにて質量分析する場合、分析対象の試料をn分割して(n≧2)、LCにおいて溶出開始から分割試料が全て溶出するまでの間、質量分析を実施する、一連の質量分析計測を、試料分割した回数n回、繰り返しても良い。この場合、n=1回目で、高強度イオン種が順次、MS分析(n≧2)され、内部データベースにそれらの特性データが格納される。従って、n=2回目以降で、高強度イオン種は、既に内部データベースに格納されている為、高強度イオン種以外の低強度イオン等、タンデム分析(MS分析(n≧2))未計測のイオン種もMS 分析(n≧2)のターゲット化され、最終的に得られたn回の一連計測の結果から、同定されるタンパク質数の増加が期待できる。
【0066】
このように、本実施例によれば、測定の実時間内にMSのスペクトルを高速解析し、次のタンデム質量分析MSn+1のターゲットか否かを実時間で高精度に判定し、3Bに示すような、微量のイオンピークに対しても、タンデム質量分析が可能となる。
【0067】
次に、本発明の第二の実施例について図12を用いて説明する。ここでは、微量ペプチドのみの分析に限定し、実施例1にて実施する内部データベースとの照合処理4をする代わりに、単に、MS のスペクトルの各イオンピークに対し、最大強度のピークとの強度比を算出し、その強度比が、例えば、70%未満のピークを列挙し、次のタンデム質量分析MSn+1のターゲットを実時間に判定する。但し、ここでも、同位体ピーク判定を実施し、該当するピークのうち、同位体ピークを、次のタンデム質量分析MSn+1のターゲット対象から排除した方が望ましい。ここで、最大強度のピークとの強度比として、ユーザが入力しても良い。この場合、内部データベースとの照合処理4を実施する必要が無い為、確実に測定の実時間内に、微量のイオンピーク判定が可能となり、微量のイオンピークに対しても、タンデム質量分析が可能となる。
【0068】
次に、本発明の第三の実施例について図3C,図13を用いて説明する。ここでは、次のタンデム質量分析として、MSn+1ではなく、再度MSをすることを特徴とする。つまり、MSのスペクトルを測定した際にターゲットにした親イオンとは異なるm/z値のイオンピークをMSn−1のイオンピークから選択し、再度、MSを実施する。その概念図を図3Cに示す。MS においてm/z=1000(m=1000,z=1)のイオンピークを親イオンに選定し、MS分析を実施した結果、MSの解離スペクトルが少なく、アミノ酸配列を同定するには不十分と判定される場合など、MSにおいてターゲットの質量数が同じで価数が異なるイオンピークを(m/z=500(m=1000,z=2))を親イオンに選定し、再度MSを実施する。この場合、親イオンのm/zが1/2になる為、親イオンを選択・解離する際、高効率に実施できるように、運転条件などを変更しても良い。
【0069】
このように、ターゲットの質量数が同じで価数が異なるイオンピークに対して、MSを繰り返すことにより、アミノ酸配列を同定するために、十分な数の解離ピークが得られることが多い。また、本実施例は、タンデム質量分析機能として、MSまでの機能しかない装置にも適用可能である。
【0070】
次に、本発明の第四の実施例について、図14を用いて説明する。ここでは、内部データベースとの照合処理4を行わずに、同位体ピークの判定を中心に実施することを特徴とする。ここで、同位体ピークでないと判定されたピークに対して、従来のように、強度の高い順に次のタンデム質量分析のターゲットを判定してもよい。図15に示すように、質量数が増加するにつれ、同位体ピークの方が高強度になる。従来のように、単に、強度の高いピークからタンデム質量分析すると、親イオンとして、同位体ピークを選定しかねない。その場合、同位体が含まれている分、マススペクトルのm/zがずれる為、データ解析した結果が、擬陽性の可能性が高くなる。本実施例によれば、同位体無しピークに対してのみ、強度の高い順に次のタンデム質量分析のターゲットに選定されるため、上記のような問題は回避される。
【0071】
次に、本発明の第五の実施例について、図15,図16を用いて説明する。ここでは、図6に示した同位体判定処理3の代わりに、予め、図15に示すような、質量数に応じた同位体強度分布パターンを記憶しておき、実際の計測データとパターンマッチングすることにより、同位体ピークか否かを判定する。そのフロー図を図16に示す。本実施例によれば、実時間での同位体ピークの強度分布計算は実施せずに単なるマッチングで済むため、より確実に実時間での同位体判定処理が可能となる。
【0072】
次に、本発明の第六の実施例について、図17を用いて説明する。これまでの実施例では、次のタンデム質量分析のターゲットイオンを選定する際に、同位体ピークを回避して選択したが、同位体ピークを含むように選定しても良い。このとき、親イオンの選定分解能を、同位体ピークの出現範囲に合わせて低下するように、分析条件を設定する。本実施例によれば、親イオンが元々微量で、さらに、同位体ピークの方が高強度の場合などに、同位体ピークを含めて、解離・質量分析できるため、解離ピークの強度を稼ぐことが可能となる。
【0073】
次に、本発明の第七の実施例について、図18を用いて説明する。ここでは、m/z値が同じ、或いは、非常に近い値で、質量数m,価数zが共に異なるイオン種のピークが重なっている場合、同位体ピークの強度分布により、複数のイオン種の重なりを判定する。その実施例を図18に示す。イオン(1)はm=1059.7,z=1のイオン種であり、イオン(2)はm=2119.5,z=2のイオン種である。各々の場合の同位体無しピークと同位体ピークを示す。これらのイオンピークが同時に存在する場合、同位体無しのピーク位置で重なり、m/z=1060.7の位置で2種が混在してしまう。
【0074】
これを、タンデム質量分析すると、2種のイオンの解離ピークが出現し、データ解析が非常に困難となる、或いは、データ解析した結果が間違ったアミノ酸配列を推定してしまう可能性がある。そこで、本実施例では、予め、複数のイオン種のm/zが一致する場合を推定して、それらの同位体ピークの強度分布を算出し、両者を重ね合わせた図18の3段目の分布を算出しておいて、記憶し、実施例五に示したように、それらの分布と計測したデータをパターンマッチング処理して、複数のイオン種が混在するかどうかを判定する。尚、複数のイオン種が混在する場合、そのイオンピークを次のタンデム質量分析のターゲットとして回避し、データ解析が困難な2種類のイオンの解離ピーク混在を防ぐ。
【0075】
また、複数のイオン種が混在する場合、そのイオンピークを次のタンデム質量分析のターゲットとして選択する場合、その可能性を表示し、ユーザに知らせる。また、複数のイオン種の混在を判定した際に得られた情報(mやz)をファイルなどに排出して、測定終了後のデータ解析に用いてもよい。
【0076】
次に、本発明の第八の実施例について、図19を用いて説明する。ここでは、例えば、健常者と疾患者の発現タンパク質試料に対して、片方のタンパク質を同位体で標識し、発現量の違いなどを比較する場合など、それらのタンパク質由来のペプチドをMS分析した際に、両者で強度比が発生した場合に、同位体標識した方、或いは、同位体標識しない方を、次のタンデム質量分析のターゲットに選択することを特徴とする。本実施例によれば、病変の可能性のあるタンパク質由来のペプチドを自動的に判定し、詳細に構造解析することが可能となる。
【0077】
次に、本発明の第九の実施例について、図20を用いて説明する。ここでは、実施例1に示したような、計測されたMSデータにおける各ピーク間隔からの、価数や同位体ピークの判定を行わず、また、計測されたMS データにおける各ピークのm/z値の質量数mへの変換を行わずに、内部データベース内の質量数m(例えば、m=2000)に対して、単に想定範囲内の価数z(例えば、z=1,2,3,4,5)で割ったm/z値に変換して、(例えば、m/z=2000,1000,666.7,500,400)に基づいて、内部データベースとの照合を行う。この場合、非常に処理内容が軽くなる為、確実に計測の実時間内で処理が可能となる。
【0078】
次に、本発明の第十の実施例について、図21を用いて説明する。ここでは、測定の実時間に測定されたMS データにおける各ピークがノイズか否かを自動的に判定し、ノイズと判定されたピークは有効なピークのピークリストから除外される機能を有する。例えば、同じ試料に対して、時間を隔てて、複数回、質量分析した結果、図21に示すように、各々の計測スペクトルで、ほとんどのピークに対して強度分布傾向に大きな違いが無い一方、強度が50%以上も変動しているピークがある場合、そのような変動ピークをノイズピークと判定し、次のタンデム質量分析のターゲット対象から自動的に外すことを特徴とする。本実施例によれば、ノイズピークが偶発的に大きくなってしまった場合などに、そのようなノイズピークをタンデム分析してしまうことを回避できる。
【0079】
或いは、別のノイズ判定法としては、あるm/z値のイオン種が検出され始めてから、ある期間T以上の間、ある閾値S以上の強度で何度も検出されている場合には、そのイオン種を自動的にノイズや不純物由来のピークと判定しても良い。ここで、上記のある期間T、ある閾値Sはユーザによって指定されてもよい。また、あるm/z値のイオン種が検出され始めてから(t=0)、ある期間T以上経過した後も、何度も検出されている場合は(t>T)、タンデム分析(MS(n≧2))のターゲットから外され、ある期間T以内の間に、何度も検出されている場合は(t≦T)、この間(t≦T)に、一度タンデム質量分析(MS(n≧2))のターゲットとなり、内部データベースに格納されたとしても、t≦Tであれば、何度でもタンデム質量分析(MS(n≧2))のターゲットと成り得るというシステムにしても良い。その場合、同じイオン種に対して得られた、タンデム質量分析(MS(n≧2))結果は、後処理としてマージ処理を実施する。
【0080】
次に、本発明の第十一の実施例について、図22a,図22bを用いて説明する。図22aに示すように、ここでは、質量分析部として、イオントラップ型質量分析部を設置することを特徴とする。イオントラップ型質量分析部の構成を図22bに示す。イオントラップは、リング状電極とそれを向かい合わせで挟むように設置された2つのエンドキャップ電極から構成され、リング電極と2つのエンドキャップ電極間には、高周波(RF)電圧VRFcosΩtが印加される。従って、イオントラップ内には、高周波の四重極電界が主に生成され、イオンはそのm/z値に応じて、異なる振動周波数で振動してトラップ(蓄積)される。ここで、タンデム質量分析する際の解離方法として、衝突誘起解離(CID)を採用する場合、Heガスなどの中性ガスを充填させた、イオントラップ自身がコリジョンセルの役割を果たす為、コリジョンセルを別途設ける必要が無い。
【0081】
タンデム質量分析MS(n≧2)のターゲットが本発明により自動判定された後、そのm/z値を持つ、特定イオン種のみを残して、その他の全てのイオン種を共鳴出射させ、イオントラップ内に残された特定イオン種をイオントラップから出射しない程度に共鳴振動させ、中性ガスと強制衝突させて、タンデム質量分析MS(n≧2)のターゲットイオン種を解離させる。
【0082】
このとき、エンドキャップ電極間に共鳴電圧を印加する。この共鳴電圧とは、特定イオン種がイオントラップ内での振動の振動周波数ωとほぼ同じ周波数ω(≒ω)で、位相を逆転させた電圧±Vrecosωtであり、+Vrecosωt,−Vrecosωtは、各々、各エンドキャップ電極に印加される。本発明のシステムにより自動的に判定された、次のターゲットイオン種の質量対電荷費比m/z値に応じて、上記のタンデム質量分析の際に、高周波電圧の振幅値や、共鳴電圧の周波数,振幅などが自動的に調整・最適化制御される。以上のように、イオントラップは、タンデム質量分析MS(n≧2)が実施できる為、本発明のような、自動的に次のターゲットを判定するシステムは非常に有効である。
【0083】
次に、本発明の第十二の実施例について、図23を用いて説明する。ここでは、質量分析部として、イオントラップ−飛行時間型(TOF)質量分析部を設置することを特徴とする。この場合、実施例11と同様に、イオントラップは、イオンの蓄積,親イオンの選択、及び、コリジョンセルとしての役割を示す。このとき、本発明のシステムにより自動的に判定された、次のターゲットイオン種の質量対電荷費比m/z値に応じて、上記のタンデム質量分析の際に、イオントラップの印加電圧である、高周波電圧の振幅値や、共鳴電圧の周波数,振幅などが自動的に調整・最適化制御されることは、実施例11と同様である。実際の質量分析は、TOF部にて高分解能分析される。
【0084】
本発明の内部データベースとの照合により、タンデム分析が必要と判定された場合は、イオントラップにて親イオンを選択・解離、TOFにて質量分析し、タンデム分析が必要と判定され無い場合は、イオントラップを通過してTOFにて質量分析される。従って、本実施例によれば、タンデム分析の必要性を自動的に判定できる為、非常に高効率に分析が可能となる。
【0085】
次に、本発明の第十三の実施例について、図24a,図24bを用いて説明する。図24aに示すように、ここでは、質量分析部として、リニアトラップ−飛行時間型(TOF)質量分析部を設置することを特徴とする。イオントラップ型質量分析部の構成を図24bに示す。リニアトラップは、ポール状の4本の電極(四重極電極)からなり、四重極電極間に中性ガスが充填され、イオンの蓄積,親イオンの選択、及び、コリジョンセルとしての役割を示す。このとき、向かい合わせの電極を同電位の電極1組として、2組の電極間に、逆位相の高周波電圧±VRFcosΩtが各々印加される。
【0086】
従って、リニアトラップ内には、高周波の四重極電界が主に生成され、イオンはそのm/z値に応じて、異なる振動周波数で振動してトラップ(蓄積)される。タンデム質量分析MS(n≧2)のターゲットが本発明により自動判定された後、そのm/z値を持つ、特定イオン種のみを残して、その他の全てのイオン種を共鳴出射させ、リニアトラップ内に残された特定イオン種をリニアトラップから出射しない程度に共鳴振動させ、中性ガスと強制衝突させて、タンデム質量分析MS(n≧2)のターゲットイオン種を解離させる。このとき、向かい合う1組の電極間に共鳴電圧を印加する。この共鳴電圧とは、特定イオン種がリニアトラップ内での振動の振動周波数ωとほぼ同じ周波数ω(≒ω)で、位相を逆転させた電圧±Vrecosωtであり、+Vrecosωt,−Vrecosωtは、各々、向かい合う1組の各電極に印加される。
【0087】
本発明のシステムにより自動的に判定された、次のターゲットイオン種の質量対電荷費比m/z値に応じて、上記のタンデム質量分析の際に、高周波電圧の振幅値や、共鳴電圧の周波数,振幅などが自動的に調整・最適化制御される。実施例十二に比べて、イオンのトラップ率が大幅(約8倍)に向上する。従って、本実施例によれば、高感度データに基づいて、次の分析内容を決定する為、非常に高精度に、判定を実施することが可能となる。
【0088】
次に、本発明の第十四の実施例について、図25を用いて説明する。ここでは、質量分析部として、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)質量分析部を設置することを特徴とする。本実施例の質量分析部では、タンパク質のトップダウン解析、つまり、酵素消化などの前処理無しない状態のタンパク質を直接、タンデム質量分析可能であるため、微量なタンパク質の分析等に適している。
【0089】
次に、本発明の第十五の実施例について、図26,図27,図28を用いて説明する。ここでは、MS分析(n≧2)を行った場合に、分析を行ったイオンに関する情報及び測定条件を質量分析システムが内部で保有する内部データベースに、各データに固有の登録番号を与え、自動的に格納する。図26に示すように、n段目の判定27を行い、nが2以上の場合は、得られたマススペクトルデータの評価28を行った後、イオンに関する情報及び測定条件を質量分析システムが内部で保有する内部データベースに、各データに固有の登録番号を与え、自動的に格納29する。
【0090】
図27に示すように、内部データベースに格納する際に与える登録番号は実際に測定したマススペクトルデータとリンクしており、測定終了後、この登録番号をクリックすることにより、ユーザはマススペクトルデータを呼び出すことが可能である。本実施例によれば、ユーザは、必要とするイオン種のマススペクトルデータを効率よく参照,表示あるいはファイルを排出することができる。自動格納するイオン種の情報としては、登録番号,イオンの質量数m,イオンの価数z,LCでの保持時間τ、測定条件としてはイオントラップなどのイオンため込み部がある場合は、イオン種のAccumulation Time (蓄積時間)がある(図27)。
【0091】
また、測定したマススペクトルデータの質を評価する指標として、ここではquality を5段階で評価しており、質の高いマススペクトルデータであれば、その値は高くなる。図28を用いて、マススペクトルデータの評価例を説明する。LCにより時間的に分離されたイオンは図28Aに示すように各イオンに応じた保持時間で検出される。対応する各時間にイオンは検出されるが、検出時間に対するイオンピークは数十〜数百秒程度の幅があり(図28B)、測定対象のイオンが検出されていたとしても、時間によって得られるマススペクトルデータは異なる。イオンが検出され始めた時点、あるいはイオンが検出し尽くされた時点でMS 分析を行った場合(つまり図28Bのピーク裾付近)は、イオンの絶対量が少ないため、結果としてS/N比の悪い質の低いマススペクトルデータが得られる可能性が高い(図28C)。
【0092】
一方、イオンの検出量が最大となるピーク頂点でMS分析を行った場合には、S/N比の良い質の高いマススペクトルデータが得られる可能性が高い(図28C)。このように、同一物質のマススペクトルデータであっても、測定する時間によりデータの質が異なることがあることから、本発明では、各マススペクトルデータの質を評価する指標として、マススペクトルデータのquality を評価し、その結果quality表示を行う。本実施例によれば、ユーザは各測定データの質を容易に判断し、精度の高い解析を行うことが可能である。また、測定対象がペプチドである場合には、MS(n≧2)のマススペクトルデータから読み取れるアミノ酸に関する情報(例えば、アミノ酸配列や修飾部位など)を評価の対象として用いてもよい。
【0093】
また、アミノ酸に関する情報を評価の対象とする際には、その根拠となる判定理由や判定に用いたデータも同時に出力するのが望ましい。また、データの評価およびqualityの格納に関しては、全ての測定が終了した後に、実行することも可能である。
【0094】
次に、本発明の第十六の実施例について、図29,図30を用いて説明する。ここでは、内部データベースに格納されたイオン種の情報に関して、同一とみなせるイオン種の情報を整理する。図29の登録No.7〜21までのイオン種は、質量数裕度:±0.05[Da],保持時間裕度:±1.0[min]とした場合、質量数,価数,保持時間の値から同一のイオン種とみなすことが可能である。このとき、これらの裕度はユーザが設定しても良い。この判定は図30の内部データベース格納データ処理30で行われ、特定のデータ以外は、重複するデータをデータベース内から自動的に削除する。このとき、特定のデータとは、例えば、最もqualityが高いもの、強度が高いもの、あるいは複数の重複データを加算処理したデータなどである。
【0095】
本実施例によれば、このように重複するデータをデータベース内から自動的に削除することで、データベースの冗長度を減少させることができる。また、実際に測定したマススペクトルデータに関しても、内部DB格納データ処理30にて、同一とみなせるイオン種のデータを削除、あるいは同一とみなせるイオン種の複数のマススペクトルデータを加算処理して、一つにまとめる。また、本実施例のデータ処理に関しては、全ての測定が終了した後に、実行することも可能である。また、このデータベースの重複するデータに対する整理機能は、データベースが複数ある場合、各データベース間で格納データを比較し、データベースを跨っても実施可能である。
【0096】
次に、本発明の第十七の実施例について、図31を用いて説明する。ここでは、MS(n≧3)分析を行った際に、MSのマススペクトルデータとMS(n≧3)のマススペクトルデータとの加算処理を行う。或いは、MS(n≧3)分析の変わりに、MSを実施した際のターゲットイオン種と同じ質量数mで、価数の異なる(つまり、m/z値が異なる)ピークが存在する場合、それをターゲット(親イオン)として、MSを再度行った際には、同じ質量数mで、価数の異なるピークをターゲットとして得られた、1度目のMSのマススペクトルデータと2度目のMSのマススペクトルデータとの加算処理を行う。測定対象がペプチドである場合、一般的に得られたマススペクトルデータの解析には、データベースサーチが用いられる。
【0097】
しかし、データベースサーチに用いられるデータベースはMS分析データを元に構築されたものであり、MS(n≧3)の分析データをそのまま用いることは難しい。このため、本発明では、MS分析を行った際には、図30の内部DB格納データ処理30にて、MSのマススペクトルデータとMS(n≧3)のマススペクトルデータを組み合わせることが可能である。このとき、組み合わせるMSのデータには、ある特定の重みを加えても良い。本実施例によれば、ユーザは測定されたMSのマススペクトルデータを容易にデータベースサーチを用いて解析することが可能となる。また、本実施例のデータ処理に関しては、全ての測定が終了した後に、実行することも可能である。
【0098】
次に、本発明の第十八の実施例について、図32を用いて説明する。ここでは、異なる解離方法を用いて得られたマススペクトルデータの加算処理を行う。同一のイオンに対して、異なる解離方法を用いてマススペクトルデータを測定した場合、解離方法によって解離効率や得られるイオンの傾向は異なる。このため、異なる解離方法から得られたデータを組み合わせて解析することにより、測定対象の同定精度の向上が見込める。ここでは、衝突誘起解離(CID)と電子捕獲解離(ECD)を用いてマススペクトルデータを得た場合について説明する。測定対象がペプチドである場合、解離方法にCIDを用いると、bイオン及びyイオンが主に検出される。一方、ECDを解離方法に用いた場合、主にcイオン及びzイオンが検出されることが報告されている。
【0099】
そこで本発明では、図30の内部DB格納データ処理30にて、異なる解離方法により得られた複数のデータを加算処理する。本実施例によれば、同定精度の向上、およびそれぞれの解離方法では、同定が困難であったイオンに対する同定確率の向上が見込める。また、本実施例のデータ処理に関しては、全ての測定が終了した後に、実行することも可能である。
【0100】
次に、本発明の第十九の実施例について、図33を用いて説明する。ここでは、図30の内部DB格納データ処理30にて、複数のマススペクトルデータを加算処理する際に(例えば、実施例十七,十八)、ユーザがその割合を指定することが可能である。例えば、解析したいイオンが非常に微量にしか存在しない場合など、加算処理の割合を変化させることで、解離させる親イオンの量を考慮して、マススペクトルデータの解析を行うことができる。本実施例では二つのデータ処理を示しているが、二つ以上の複数のデータに関しても同様に指定することが可能である。本実施例によれば、フラグメント強度を考慮したより高精度な解析が可能となる。また、本実施例のデータ処理に関しては、全ての測定が終了した後に、実行することも可能である。また、全てのMS計測データに対し、1価イオンデータに変換する機能を備えていても良い。
【0101】
次に、本発明の第二十の実施例について、図34を用いて説明する。ここでは、同位体ピークと判定されたイオンの強度を、モノアイソトピックピークに加算することが可能である。本発明の第一の実施例で示したように、イオン強度およびピーク間隔から判定された同位体ピークの強度を、図30の内部DB格納データ処理30にて、モノアイソトピックピークの強度に加算する。本実施例によれば、測定対象の全イオン強度を考慮したより高精度な解析が可能となる。また、本実施例のデータ処理に関しては、全ての測定が終了した後に、実行することも可能である。
【0102】
次に、本発明の第二十一の実施例として、分析データの質量補正方法について、説明する。蛋白質のショットガン解析などでは、質量分析結果に基づいて、遺伝子や蛋白質などの外部データベース検索を実施し、生体高分子の化学構造などを最終的に同定する。この場合、分析されたイオンの質量精度が高いほど、高精度かつ効率的に生体高分子の同定を行うことができる。そのため、このような解析には、比較的質量精度の高い飛行時間型(TOF)質量分析計やフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)質量分析計を用いることが重要である。ところが、例えば、飛行時間型(TOF)質量分析計の質量精度は、設置されている場所の室温などに影響されることがある。そして、何らかの理由で質量精度が予想外に変動した場合、外部データベース検索を実施しても、正確に生体高分子を同定できなくなる。そこで、分析直前に予め検出イオンのm/zが分かっている内部標準物質を分析し、分析結果に基づき、質量分析計のm/zを校正することがしばしば行われる。
【0103】
しかし、何時間も連続して分析を行うLC/MSでは、予想外に質量精度が変動する可能性がある。そこで、質量分析で検出されるイオンの中で、質量対電荷比m/zが予め分かっている既知イオンが検出されると、その情報に基づき他の検出イオンのm/z補正により対処することが可能である。複数の既知イオンが検出されると、補正後のm/zは非常に高精度となる。この方法の問題点は、分析データを一種のマニュアル操作により補正するため、煩雑性が要求される点である。しかし、内部データベース10に予め検出されうるイオンのmやm/z,LCの保持時間τなどの情報があれば、それを用いてMS で検出される既知イオンを同定することができる。そして、複数の既知イオンを同定することにより、m/zの時間的な変動も情報処理技術により推測することができ、解析イオンのm/zを自動的に補正することができる。
【0104】
このことは、質量分析計の質量精度が予想外に変動した場合でも、高い質量精度のデータを容易に取得することができることを意味する。また、このような情報処理技術を有する質量分析計を用いる場合には、必ずしも分析開始前に既知物質を分析する必要がなく、ユーザの負担を低減することができる。このように、内部データベース10の情報は、実時間タンデム質量分析の制御のみならず、分析データのm/z校正や補正に利用することが実質的に有効である。
(リアルタイム高速de novo)
次に本発明の第二十二の実施例について、説明する。図35aはタンデム質量分析を用いた比較例のタンパク質解析から同定までのフロー図である。タンパク質試料は、酵素消化などにより断片化されたペプチド試料となり、LCまたはGCによって分離された後、イオン化される。その後、質量分析(MS)を実施し、検出されたイオンの中からMS分析を行う前駆イオン(親イオン)を選択する。選択された前駆イオンを解離した後、質量分析(MS)を実施し、マススペクトルデータを取得する。得られたマススペクトルデータは計測終了後に後処理として、ノイズピーク及び同位体ピークの除去,イオンの価数判定等のデータ処理(48)を行い、既知のタンパク質から構成されるタンパク質データベースを用いて、データベースサーチ(49)を行う。
【0105】
この同定フローでは、得られたMSマススペクトルデータの検討が計測終了後に後処理として実施するため、MSマススペクトルデータの有効性を測定中のリアルタイムに判定することは不可能である。一方、病変タンパク質など、試料が極微量にしか存在しない場合、再度、質量分析を行うことは困難なため、一度の測定で出来るだけ多くの情報を得ることが重要となっている。
【0106】
そこで、本発明では、MS(n≧2)データをリアルタイムに(質量分析装置稼動中に)解析し、それに基づいて次の分析内容を判定することで、分析フローを最適化することが可能である。ここで、リアルタイムとは、MSスペクトルデータが得られてからの、次の分析までの準備時間或いは移行時間ΔTp(例えば、100msec,10msec,5msec,1msecのいずれかの時間)以内であることとする。
【0107】
図35bは、本実施例による、タンデム質量分析を用いた際のタンパク質解析から同定までのフロー図である。従来のフローである図35aとの違いは、取得されたMSマススペクトルに対して測定中にMSマススペクトルデータを解析して、その結果に基づき、次の分析内容の判定にフィードバックしている点である。ここで、取得されたMSマススペクトルに対して測定中にデータ解析して、その結果に基づき、次の分析内容の判定は、図2の質量分析システムにおける制御部17或いはデータ処理部15にて実施される。図36は、本実施例である、取得されたMSマススペクトルを測定中にデータ解析して、その結果に基づき、次の分析内容を自動判定する際の、データ処理部15にて実施される詳細な処理フロー図である。
【0108】
図2,図35b,図36に示すように、酵素消化などにより断片化されたタンパク質試料がLCまたはGCによって分離後、イオン化され、質量分析部13にて質量分析(MS)される。質量分析(MS)の結果を元に、特定のイオン(親イオン)を選択し、親イオンをコリジョンセル13A内にて解離させ(親イオンの選択・解離45)、得られた解離フラグメントに対して、質量分析部13にて質量分析(MS:n≧2)を実施する。次に、得られたMS(n≧2)マススペクトルデータに対して、制御部17或いはデータ処理部15にて、図36に示すように、MS(n≧2)マススペクトルデータのピーク判定2,同位体ピーク判定3を実施し、更に、アミノ酸質量数に対応するピーク間隔抽出53を実施し、解離形態(例えば、aイオン,bイオン,cイオン,xイオン,yイオン,zイオンなど)或いはアミノ酸由来の質量数との一致度などからスコア付け54を実施し、アミノ酸配列の解読55を行う。
【0109】
このとき、解読されたアミノ酸とは、スコア付け54によりスコアリングされたスコアが、指定されたある値以上のアミノ酸と定義している。この後、このとき、解読されたアミノ酸の数に応じて、次の分析内容を判定する(56)。解読されたアミノ酸の数が指定された数以上である場合には、解析に必要な情報が十分MS(n≧2)マススペクトルデータに含まれているとみなして、次の溶出試料のMS、或いは、別の親イオンのMS測定或いは測定を終了する。一方、解読できたアミノ酸の数が指定された数に満たない場合には、解析に必要な情報がMS(n≧2)マススペクトルデータに十分含まれていないとみなし、特定の解離イオン(前駆イオン)の選定57a,57bを自動的に行い、そのイオンに対してMSn+1(n≧2)分析またはMS′(n≧2)分析を行う。
【0110】
ここで、MS′分析とは、MSデータを取得する際に選択・解離した親イオンと、質量数mがほぼ等しく、価数zが異なるイオン種のピークがMSn−1スペクトルデータにおいて観測された場合に、そのイオン種を親イオンとして選択して、再度MS 分析を行うことを指す。MSn+1(n≧2)分析またはMS′(n≧2)分析で、親イオンの自動選定基準が異なる。MSn+1(n≧2)分析の場合は、親イオンは、スコア付け54によりスコアリングされたスコアが低いアミノ酸を含むピークのうち、m/z或いは質量数の大きいもの、或いは、yイオンを優先的に選定する。MS′(n≧2)分析の場合は、親イオンは、MSデータを取得する際に選択・解離した親イオンと、質量数mがほぼ等しく、価数zが異なるイオン種であり、可能であれば、MS分析の際に選択した親イオンよりも価数の大きいイオンを選ぶ方が望ましい。
【0111】
これは、価数が大きい方がより多くの解離フラグメントを得られるという知見に基づくものである(参考文献:V. H. Wysocki, G. Tsaprailis, L. L. Smith and L. A. Breci, J. Mass Spectrom.35,1399(2000))。
【0112】
MSn+1分析或いはMS′分析を実施する際に、解析を行うMSマススペクトルデータの親イオンの価数が1価で質量数がMpである場合には、MSn−1マススペクトルデータにおいて、質量数がMpで価数が2価以上であるイオンピークが検出されている場合、そのイオン種を親イオンとしてMS′分析を優先的に実施し、MSマススペクトルデータの親イオンの価数が既に2価以上である場合にはMSn+1分析を優先的に実施することが望ましい。これは、1価の場合には、アルギニン(R)やリジン(K)などの塩基性アミノ酸が配列に含まれている場合は、プロトンはそれらの塩基性アミノ酸に強くトラップされ、アミノ酸配列の主鎖内周辺を自由に動き回れるプロトン(モバイルプロトン)を持たないペプチドが多い。
【0113】
このモバイルプロトンが、アミノ酸間の結合の解離に大きく影響していると言われている(上記参考文献)。従って、モバイルプロトンを持たないペプチドは切れにくく、MSスペクトルデータにおいて、解離イオンピーク数が少ない傾向にある。一方、複数のプロトンが付加された多価イオンの場合は、1つのプロトンH が塩基性アミノ酸に強くトラップされても、他のプロトンHが、動き回れるモバイルプロトンである可能性が高く、アミノ酸間の各結合で解離する確率が向上すると考えられるためである。また、MSn+1分析またはMS′分析の選択はユーザ入力部において、ユーザが指定することも可能である。制御部17或いはデータ処理部15にて判定した結果は、全体制御部17を通じて次の分析情報として利用される。次の分析情報に応じて、質量分析部13への印加電圧などの運転条件が、全体制御部17により自動的に最適化調節される。
【0114】
図37を用いて、本発明フローに基づいて質量分析することで同定精度が向上した例を説明する。本実施例では、データ処理部15において実施する処理のうち、MS(n≧2)マススペクトル解析処理(同位体ピーク,価数判定,アミノ酸配列解読,解読したアミノ酸数が一定値に満たない際の次分析内容の決定)を10msec以内(または100msec以内)で実施することを特徴とする。導入部より導入された試料41は、LCにて分離(42)、イオン部にてイオン化される(43)。
【0115】
イオン化法にはESI(Electro Spray Ionization)法を用いた。イオン化された試料は質量分析部にて質量分析(MS)される(44)。イオン検出部にて検出されたイオンのうち、特定のイオン(m/z=808)に対して、イオントラップ内にて選定・解離を実施し(45)、質量分析(MS)を行う(46)。得られたMSマススペクトルデータ(47)に対して、ピーク判定2,同位体ピーク,価数判定及び同位体ピーク除去3,価数変換を実施した後、アミノ酸配列解読53を行う。
【0116】
本実施例では、判定に用いる解読アミノ酸数を5と設定した。解読されたアミノ酸の数が5未満の場合には、MS分析(58)或いはMS′分析(59)が実施される。アミノ酸の解読では、まず、マスピーク間隔がアミノ酸の質量数に一定の裕度以内で一致するかを判定(53)し、一致した場合、一致したピークがどのような解離形態をもつイオンかを判定する。本システムでは、検出されるイオンの解離形態の種類(例えば、aイオン,bイオン,cイオン,xイオン,yイオン,zイオンなど)によって、スコア付けを行っている。
【0117】
ここで、検出されやすいイオンの種類は、スコアが高くなるよう設定されている。例えば、解離手法がCIDである場合は、bイオンやyイオンが高いスコアに設定され、解離手法がECDである場合には、cイオンやzイオンが高いスコアに設定される。これらの質量裕度やスコアリングのパラメータはユーザが装置や解離手法などの条件に応じて変更することも可能である。また、アミノ酸配列間の解離の生じやすさ(切れ易さ)が実験またはシミュレーションにより事前に評価できている場合には、それをデータベースとして、アミノ酸配列解読に利用することも可能である。これを利用した場合、マススペクトルデータの強度情報を判定に加えることが出来るので、より高精度なアミノ酸解読が可能となる。次に、裕度以内であり、ある値以上のスコアを持つと判定されたマスピーク間隔に対して、親イオンのm値からペプチドのN末端側,C末端側の両側からアミノ酸解読(55)を実施し、実際に解読できたアミノ酸数を導出する。
【0118】
データ処理部15にて、得られたMSマススペクトルデータに対して、同位体ピーク除去,価数判定,価数変換を実施した後、アミノ酸配列解読を行う本システムでは、解読されたアミノ酸の数が指定値を満たすか否かを判定する(56)。解読されたアミノ酸の数が指定値に満たない場合には、MS分析或いはMS′分析いずれかから、次の分析内容を判定する。MS分析或いはMS′分析どちらを実施するかは、最初にユーザが指定しておくことも可能である。
【0119】
ここでは、次の分析としてMS 分析を選択するよう設定した。ここで、MS 分析(58)に進む場合、親イオンとして、スコアの低い領域(推定アミノ酸)を含むピークを優先的に選択する。また、解離方法がCIDである場合、yイオンと考えられるピークを優先的に選択する。これはトリプシンによる酵素消化を行った場合、プロトンをトラップしやすいアルギニン(R)やリジン(K)がC末端に来るため、yイオンが高強度で検出されやすいためである。一方、MS′分析(59)では、質量数mが等しく、価数zの異なるイオンに対して再度MS 分析を実施するが、より大きい価数zを持つイオンがある場合には、そのイオンを前駆イオンとして優先的に選択する。
【0120】
また、2価イオンを前駆イオンに選択した場合、得られる解離フラグメントの大部分が1価として検出される為、後処理としてデータ解析する際に、容易である。MS分析で解析したイオンの価数が1価である場合には、2価イオンをMS′分析の前駆イオンとして優先的に選択する。また、解析結果により、更に、MSn+1(n≧3)を繰り返した場合、前駆イオンの質量数は徐々に減少するため、親イオンの質量数に応じて、判定する解読アミノ酸数を変化させる、あるいは親イオンの質量数が一定値以下になった場合には次の測定に進むまたは計測を終了することも、ユーザ入力部にてユーザ指定が可能である。
【0121】
ここでは、m/z=563.2のイオンがMS分析の親イオンに選択された。選択されたイオンに対して、解離した後、MS分析し、得られたMSマススペクトルデータに対して、再度アミノ酸配列解読を実施すると、7つのアミノ酸が解読された。
【0122】
本実施例においては、いずれもマススペクトル解析処理に要した時間は10msec以内であり、マススペクトルデータ測定中のリアルタイムな評価および判定が可能である。図37に示すように、単独のMSのマススペクトルデータ、及び、MSマススペクトルデータとMSマススペクトルデータを混合したマススペクトルデータを、データベース検索ソフトウェア(MASCOT)を用いて解析した(現在のデータベースは、MSマススペクトルデータしか対象としていないため)。MSマススペクトルデータを用いた解析では、正解配列(MIFVGIK)は10位以下となり1位にランクされないが、MS,MS混合マススペクトルデータを用いた場合には、正解配列が1位にランクされた。以上の結果から、本発明によると、測定対象の同定精度の向上が可能なことが示された。
【0123】
また、本発明ではアミノ酸配列がある値以上解読可能なMSマススペクトルデータに対してはMSn+1分析またはMS′分析を行わずに、次の試料の計測(MS又は別のイオンを親イオンとしたMS)に進むので、無駄な計測をすることなく、高スループットな分析が可能となる。また、本発明は糖鎖や修飾構造付きのタンパク質、または、高分子など、限られた種類の基本構造を構造単位とする化合物であれば同等の効果が得られる。
(リアルタイムデータベース検索)
次に、本発明の第二十三の実施例について説明する。タンパク質の同定にはde novo ペプチドシークエンス法を用いる方法とデータベース検索を用いる方法があるが、ここでは、データベース検索の方に言及する。本実施例では、得られたMS マススペクトルデータに対して、リアルタイムにデータベース検索を行う。図38は本実施例の処理フローを示したものである。得られたMS(n≧2)マススペクトルデータに対して、公開データベースなどに登録されている、既知の、多くのタンパク質の配列を酵素消化した際のペプチド配列、及び、当該ペプチド配列から予測される全ての解離フラグメントペプチド配列に対して、それらの質量数を格納した、膨大なデータベースによるデータベース検索を測定中にリアルタイムに実施する。
【0124】
ここで、リアルタイムとは、MS(n≧2)マススペクトル解析処理(同位体ピーク,価数判定,データベース検索60、(n>2の場合にはMSマススペクトルデータとMSマススペクトルデータの加算処理))を10msec(または100msec)以内に実施することを意味する。ここで、データベース検索60に用いるデータベースにはMSマススペクトルデータに対応するデータしか存在しない場合は、MS(n>2)のマススペクトルデータはMSマススペクトルデータに加算処理する必要がある。また、従来の後処理として用いるデータベース検索では1スペクトルあたり1分程度の時間が検索に必要であるが、データ処理部15として、並列計算機やPCクラスター等を採用して、データ処理の並列化、或いは、データベース分割によりデータベース検索の並列化による高速化が実現され、リアルタイム解析が可能となる。
(特定の条件→MS/MS′)
次に、本発明の第二十四の実施例について説明する。図39は、本実施例システムの処理フローを示したものである。本実施例では、リアルタイム解析されたMS データがユーザ等により指定された条件を満たす場合、MSn+1分析やMS′分析を行うというものである。表3は、一つのアミノ酸残基の質量数と、それに近い二つのアミノ酸が結合したジペプチドの質量数を示したものである。
【0125】
【表3】

【0126】
表3より、例えばリジン(Lys)の質量数と、グリシン(Gly)とアラニン(Ala)によるジペプチド(Gly−AlaまたはAla−Gly)の質量数はほぼ同一であり、分解能の低い装置では区別できない。このため、実施例二十二(リアルタイムde novo)のMS(n≧2)マススペクトルデータのリアルタイム解析において、Lysなど、2つのアミノ酸残基の質量数の和と等しくなると考えられるアミノ酸が含まれる可能性があると判定された場合には、自動的にMSn+1分析またはMS′分析を実施することが可能である。また、表4は、アミノ酸の化学修飾の種類の一例を示したものである。
【0127】
【表4】

【0128】
表4に示すようにアミノ酸にリン酸等の修飾構造が付加している可能性がある場合には、修飾構造が脱離しているピークを親イオンとして、MSn+1分析またはMS′分析を実施することが可能である。また、配列中にグリシン(Gly)−グリシン(Gly)など、解離が生じにくい(切れ難い)と考えられる配列を予め入力し、そのような配列や、或いはユーザ指定の配列が含まれる可能性があるか否かを判定する(61)。当該アミノ酸や配列が含まれる可能性があると判定された場合には、それらを含むイオンを親イオンとして選択し(62)、MSn+1分析またはMS′分析を実施することが可能である。これらの条件はユーザがユーザ入力部にて、入力することができ、ユーザが指定した特定の条件を満たす場合にのみ、MSn+1分析またはMS′分析を実施することにより、より詳細な構造情報を含むタンデム質量分析データを得ることが可能である。また、本実施例のアミノ酸配列解析手法は、リアルタイム処理としてでなく、後処理としても用いることが可能である。
【0129】
一般に、データベース検索では、情報量の少ない信頼性の低いマススペクトルデータも全て含めて解析した場合、検索時間が増加するだけでなく、擬陽性のタンパク質が同定されてしまう可能性があるため、信頼性の低いマススペクトルデータは除去したほうが良い場合がある。この場合、本アミノ酸配列解析手法を用いて評価することにより、膨大なデータのうち、情報量の多い信頼性の高いマススペクトルデータかどうかを評価できる為、信頼性の高いマススペクトルデータのみをデータベース検索に用いることで、従来に比べ、信頼性の高い解析を高速に行うことが可能である。
(ピーク数,ピーク群による判定)
次に、本発明の第二十五の実施例について、図40〜図42を用いて説明する。図41,図42は本実施例のシステムの処理フローを示している。データベース検索を用いてペプチドの解析を行う場合、ペプチドのアミノ酸配列から予測される全ての解離フラグメントが得られなくともある程度のフラグメントイオンのピーク数が得られれば、ペプチドを同定することは可能である。このため、解離フラグメントイオンのピーク数によりマススペクトルデータの持つ情報量を判定することも可能である。図40に示すように、アミノ酸配列解読から推定されるピークからの脱水ピークまたは脱アンモニアピークなど、アミノ酸由来と推定される、一つ或いは複数のマスピークが検出された場合には、それらのピークを同一種からなるピーク群として処理し、同一種ピーク群の数を導出する。
【0130】
また、一つのアミノ酸由来の脱水ピークまたは脱アンモニアピークなどが出現する可能性の高い、m/zの範囲(例えば、bイオン或いはyイオンピークのm/z値からm/z=±40の範囲)に出現するピークの一纏まりをピーク群と処理し、これらのピーク群の数を導出してもよい。このピーク群の数が、ある一定の数以上か否かの判定63により、ピーク群の数がある一定の数以上であれば、同定に必要な情報量を含むとみなし、次の試料の測定(MS又は別のイオン種を親イオンとしたMS)または測定を終了する。ここで、ピーク群の数はユーザ入力部より指定することが可能である。
【0131】
一方、ピーク群数がある数に満たない場合には、MSn+1分析またはMS′分析を実施する。このとき、MSn+1分析の親イオン選定64として、各ピーク群間の間隔が最も大きくなる、ピーク群のうち、m/z値の大きいピーク群の中から強度の大きいピークを親イオンとして選択する。これにより、ピークの検出されていない情報量の少ない部分を含んだイオンに対してMSn+1 分析を実施でき、同定精度の向上が見込める。また、この判定はピーク群に対してではなく、ある閾値以上の値を持つピークの本数を導出し(65)、そのピーク本数がある一定の数以上か否かの判定66を実施して、ピーク数がある一定の数以上であれば、同定に必要な情報量を含むとみなし、次の試料の測定(MS又は別のイオン種を親イオンとしたMS)または測定を終了する。
【0132】
一方、ピーク数がある数に満たない場合には、MSn+1分析またはMS′分析を実施する。このとき、MSn+1分析の親イオン選定67として、単純に、最も強度の大きいピークを親イオンとして選択する。これにより、ピークの検出されていない情報量の少ない部分を含んだイオンに対してMSn+1分析を実施でき、同定精度の向上が見込める。ここで、閾値およびピーク本数はユーザ入力部にて、ユーザが指定することが可能である。
(測定対象が糖鎖)
次に、本発明の第二十六の実施例について、説明する。試料が糖鎖である場合、その構造単位は単糖となる。このため、MS マススペクトルデータの解析においては、マスピーク間隔から該当する単糖を推定する。ここで、実施例二十二(リアルタイムde novo)と同様に、同位体ピーク除去,価数判定,価数変換を実施したMS マススペクトルデータに対して、ある一定の裕度以内或いはある一定の値以上のスコアを持つピーク間隔を抽出し、糖鎖の末端から解読可能な単糖の数を導出する。解読された単糖数がユーザ等により指定された一定値以上である場合には、次の試料の測定実施または測定を終了する。一方、解読された単糖数が指定された一定値に満たない場合には、MSn+1分析またはMS′分析を実施する。MSn+1分析を実施する親イオンとしては、スコアの低い領域を含むピークを優先的に選択する。以上の処理は、測定の実時間中(10msec以内或いは100msec以内)に実施され、最適な分析フローが自動的に選択される。
【0133】
なお、本発明の構成例を以下に列挙する。
【0134】
(1)質量分析装置の測定対象となる物質をイオン化し、生成した様々なイオン種の中から特定の質量対電荷比m/zを持つイオン種を選択して解離させ、更に、測定対象となるイオン種の選択と解離および測定を多段階繰り返すタンデム型質量分析装置を用いた質量分析システムにおいて、n−1回(nはn≧1の整数)のイオン種の選択・解離を行い、それに対し質量分析して得られたn段階目の質量分析結果である、イオンの質量対電荷比m/zに対する測定強度のピークで表された、マススペクトル測定結果に対し、所定のイオン種の特性データmと一致する可能性の有無を判定し、その結果に基づき、n段階目の質量分析の次の分析内容を或る特定時間内に自動的に判定することを特徴とする質量分析システム。
【0135】
(2)(1)に記載の質量分析システムにおいて、予め指定されたイオン種の特性データは、質量分析システムが内部で保有するデータベースに格納されることを特徴とする質量分析システム。
【0136】
(3)(2)に記載の質量分析システムにおいて、質量分析システムが内部で保有するデータベースは、一度測定されたイオン種の特性データ、或いは、一度同定された蛋白質に対して、指定された酵素により分解・発生が予測される様々なペプチドに対する特性データを自動格納することを特徴とする質量分析システム。
【0137】
(4)(2)に記載の質量分析システムにおいて、質量分析システムが内部で保有するデータベースは、ユーザが予め入力・指定した蛋白質に対して、指定された酵素により分解・発生が予測される様々なペプチドに対する特性データを格納することを特徴とする質量分析システム。
【0138】
(5)(2)に記載の質量分析システムにおいて、質量分析システムが内部で保有するデータベースは、ユーザが予め入力・指定した、ノイズや不純物由来の特定のイオン種等に対する特性データを格納することを特徴とする質量分析システム。
【0139】
(6)(2)に記載の質量分析システムにおいて、質量分析システムが内部で保有するデータベースは、測定中においても内部データベースに、既計測データが随時格納されることを特徴とする質量分析システム。
【0140】
(7)(1)に記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析結果であるマススペクトルは、イオンの質量対電荷比m/zに対する測定強度のピークで表され、特性データと一致すると判定された、或るm/z値を持つイオンピークを、n+1段階目の分析の選択・解離のターゲットイオン種とする、或いは、ターゲットとならないように回避することを特徴とする質量分析システム。
【0141】
(8)(7)に記載の質量分析システムにおいて、特性データと一致しないと判定されたピークのうち、強度の高い順にn+1段階目の分析のターゲットイオン種とすることを特徴とする質量分析システム。
【0142】
(9)(1)に記載の質量分析システムにおいて、前記或る特定時間とは、n段階目のマススペクトル測定から次の分析測定を中断しない時間、n段階目のマススペクトル測定から次の分析へ移行する移行時の準備時間、又は100msecのいずれかの時間であることを特徴とする質量分析システム。
【0143】
(10)(1)に記載の質量分析システムにおいて、前記n段階目の次の分析内容とは、n段階目のマススペクトルのうち、或るm/z値を持つイオンピークの選択とn回目の解離およびn+1段階目のマススペクトル質量分析測定とすることを特徴とする質量分析システム。
【0144】
(11)(1)に記載の質量分析システムにおいて、n段階目の次の分析内容とは、n段階目のマススペクトル測定結果を得た際に、n−1段階目のマススペクトルにおいて選定した、或るm/z値を持つイオンピークとは異なるm/z値を持つイオンピークを、n−1段階目のマススペクトル測定結果から選定・解離し、再度n段階目のマススペクトル質量分析測定することを特徴とする質量分析システム。
【0145】
(12)(8)に記載の質量分析システムにおいて、前記n段階目のマススペクトル測定結果を得た際に、n−1段階目のマススペクトルにおいて選定した、或るm/z値を持つイオンピークとは、質量数mが同じで価数zが異なるイオンピークを、n−1段階目のマススペクトル測定結果から選定・解離し、再度n段階目のマススペクトル質量分析測定することを特徴とする質量分析システム。
【0146】
(13)(1)に記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析の次の分析内容とは、それ以上の多段階離分析するタンデム質量分析には進まず、次の試料に対して、1段階目の質量分析を行う、又は測定を終了することを特徴とする質量分析システム。
【0147】
(14)(1)に記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析の次の分析内容に応じて、タンデム質量分析装置の電圧などの運転条件を自動的に調節することを特徴とする質量分析システム。
【0148】
(15)(14)に記載の質量分析システムにおいて、n≧2の場合、選択・解離ターゲットである親イオンの質量対電荷比m/zの値に応じて、タンデム質量分析装置の電圧などの運転条件を自動的に調節することを特徴とする質量分析システム。
【0149】
(16)(1)に記載の質量分析システムにおいて、前記所定の特性データとは、イオン種の質量数,価数,質量対電荷比m/z値、又は検出強度,クロマトグラフィーの保持時間,クロマトグラフィーの溶媒,クロマトグラフィーの移動相比率,クロマトグラフィーの異相比率,クロマトグラフィーの流量,クロマトグラフィーのグラジエント,2次元液体クロマトグラフィーを用いる場合の1次元液体クロマトグラフィーのイオン交換にて分割されたサンプルの番号,MADLIイオン源を用いる場合の試料プレートにおけるスポット位置,番号又は座標,ユーザ指定などによりイオン種毎に指定される格納された特性データと一致したイオン種に対する対処内容,測定日時や使用したクロマトグラフィーのカラム番号,タンデム質量分析の質量分析の次数n,質量分析装置の運転条件、又はイオン種に対する推定される構造に関する情報であることを特徴とする質量分析システム。
【0150】
(17)(16)に記載の質量分析システムにおいて、前記所定の特性データがクロマトグラフィーの保持時間であり、前記指定された基準物質の実測された保持時間と、内部に保有するデータベースに格納されている基準物質の保持時間との比較により、実測データのリテンションタイムを自動的に補正する機能を有することを特徴とする質量分析システム。
(18)(16)に記載の質量分析システムにおいて、質量数が導出される際に同位体ピークを伴っている場合は同位体無しのピークの質量数とし、質量対電荷比m/z値が導出される際に、測定開始からの経過時間によって変動する場合、m/z値が既知である少なくとも1種類以上の基準物質を試料に含み、基準物質が複数の場合は、クロマトグラフィーの保持時間の異なる基準物質を選定し、実測された基準物質のm/z値と、既知であるm/z値とを比較することにより、測定開始からの経過時間によって変動するm/z値を自動的に補正する機能を有することを特徴とする質量分析システム。
(19)(1)に記載の質量分析システムにおいて、所定のイオン種の特性データとは、ペプチドの特性データとすることを特徴とする質量分析システム。
(20)(1)に記載の質量分析システムにおいて、所定のイオン種の特性データとは、特定の蛋白質由来のペプチドの特性データとすることを特徴とする質量分析システム。
(21)(1)に記載の質量分析システムにおいて、所定のイオン種の特性データとは、
特定の糖鎖などの修飾構造の特性データとすることを特徴とする質量分析システム。
(22)(1)に記載の質量分析システムにおいて、所定のイオン種の特性データとは、特定の化学物質の特性データとすることを特徴とする質量分析システム。
(23)(1)に記載の質量分析システムにおいて、消化酵素,同位体ピーク判定の必要性の有無,内部データベースとの照合の必要性の有無,イオン選定分解能とすることを特徴とする質量分析システム。
(24)(1)に記載の質量分析システムにおいて、所定のイオン種の特性データとは、リン酸化の修飾構造つきの蛋白質又はペプチドの特性データとすることを特徴とする質量分析システム。
(25)(1)に記載の質量分析システムにおいて、前記所定のイオン種の特性データと一致する可能性の有無を判定する際に、ユーザ指定などにより指定された裕度又は範囲内で一致するか否かを判定することを特徴とする質量分析システム。
(26)(1)に記載の質量分析システムにおいて、前記質量分析システムにより決定されたn段階目の質量分析の次の分析内容をディスプレー又はファイルに表示することを特徴とする質量分析システム。
(27)(1)に記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析のマススペクトル測定結果に対し、所定のイオン種の特性データと一致する可能性の有無を判定し、その結果に基づき、MSの次の分析内容を或る特定時間内に自動的に判定することを特徴とする質量分析システムにおいて、質量分析装置の前段に液体クロマトグラフィー或いはガスクロマトグラフィーが設置されている場合に、試料を液体クロマトグラフィー或いはガスクロマトグラフィーに通すことにより、通過時の保持時間の違いにより、時間的に分離された試料が、その後段の質量分析部により、質量分析される分析に対し、試料がすべて液体クロマトグラフィー或いはガスクロマトグラフィーを通過し質量分析される計測を、同じ試料に対して少なくとも2回以上繰り返し計測し、前回の計測で、内部に保有するデータベースに格納した、MS 分析を実施した、高強度などの親イオンに関する特性データを利用して、2回目以降は、低強度などの未計測の低強度イオンを優先的にMS 分析することを特徴とする質量分析システム。
【0151】
(28)質量分析装置の測定対象となる物質をイオン化し、生成した様々なイオン種の中から特定の質量対電荷比m/zを持つイオン種を選択して解離させ、更に、測定対象となるイオン種の選択と解離および測定を多段階繰り返すタンデム型質量分析装置を用いた質量分析システムにおいて、n−1回のイオン種の選択・解離を行い、それに対し質量分析して得られたn段階目の質量分析結果である、イオンの質量対電荷比m/zに対する測定強度のピークで表された、マススペクトル測定結果に対し、同位体ピークを判定し、その結果に基づき、n段階目の質量分析の次の分析内容を或る特定時間内に自動的に判定することを特徴とする質量分析システム。
【0152】
(29)(1)に記載の質量分析システムにおいて、n−1回のイオン種の選択・解離を行い、それに対し質量分析して得られたn段階目のマススペクトル測定結果に対し、所定のイオン種の特性データと一致する可能性の有無を判定する方法において、n段階目のマススペクトル測定結果における、異なるm/z値を持つ各イオンピークに対し、同位体ピークを判定し、同位体ピークと推定されたピークとの間隔からイオン価数を導出し、各イオンピークの質量数mを算出し、その結果に基づき、n段階目の質量分析システムの次の分析内容を或る特定時間内に自動的に判定することを特徴とする質量分析システム。
【0153】
(30)(28)又は(29)に記載の質量分析システムにおいて、イオンピーク間隔が1.1Da以下となるピークで、質量対電荷比m/zの大きい方のピークを同位体ピークと推定し、同位体ピークと推定されたピークとの間隔からイオン価数を導出し、各イオンピークの質量数mを算出し、その質量数mの値に基づいて、n段階目の質量分析の次の分析内容を或る特定時間内に自動的に判定する質量分析システム。
【0154】
(31)(30)に記載の質量分析システムにおいて、同位体ピーク判定により、算出されたイオン価数又はイオンピークの質量数mを、ディスプレーやファイルに表示することを特徴とする質量分析システム。
【0155】
(32)(28)〜(31)のいずれかに記載の質量分析システムにおいて、同位体ピークと推定されたピークが、推定算出された各イオンピークの質量数mから同位体ピークの強度分布を算出し、その算出した強度分布に一致、或いは、誤差50%未満で一致しているかで同位体ピークか否かを或る特定時間内に自動的に判定する質量分析システム。
【0156】
(33)(28)〜(30)のいずれかに記載の質量分析システムにおいて、予めイオンの質量数mに応じて、同位体ピークの強度分布を計算し、その結果である同位体ピークの分布パターンをメモリやデータベースなどの記憶媒体で記憶しておき、推定算出された各イオンピークの質量数mに対する同位体ピークの分布パターンが、推定同位体ピークの分布パターンと一致、或いは、誤差50%未満で一致しているかで同位体ピークか否かを或る特定時間内に自動的に判定する質量分析システム。
【0157】
(34)(28)〜(30)のいずれかに記載の質量分析システムにおいて、各イオンピークに対する価数z、及び、質量数m、或いは、質量数から推定される元素構成分布等のデータを、表示部により、表示する、或いは、データファイルとして排出、或いは、内部データベースに格納することを特徴とする質量分析システム。
【0158】
(35)(28)〜(30)のいずれかに記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析の次の分析のターゲットとするイオンピークの選定の際、同位体ピークを選択回避する、或いは、同位体を含まないピークを選択することを特徴とする質量分析システム。
【0159】
(36)(28)〜(30)のいずれかに記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析の次の分析の選択・解離ターゲットとするイオンピークの選定の際、同位体ピークも含めて、選択することを特徴とする質量分析システム。
【0160】
(37)(28)〜(30)のいずれかに記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析の次の分析の選択・解離ターゲットとするイオンピークの選定の際、価数が2価以上のイオン種を優先的に選択することを特徴とする質量分析システム。
【0161】
(38)(33)に記載の質量分析システムにおいて、予めイオンの質量数mに応じて、同位体ピークの強度分布を計算し、その結果である同位体ピークの分布パターンをメモリやデータベースなどの記憶媒体で記憶しておき、推定算出された各イオンピークの質量数mに対する同位体ピークの分布パターンが、推定同位体ピークの分布パターンと一致、或いは、誤差50%未満で一致しているかで同位体ピークか否かを或る特定時間内に自動的に判定する方法において、非常に近い質量対電荷比m/z値を持ち、質量数mや価数zが異なる複数のイオン種に対して、各々の質量数mに応じて、予め同位体ピークの強度分布を計算し、その結果である同位体ピークの分布パターンをメモリやデータベースなどの記憶媒体で記憶して、n段階目のマススペクトル測定結果におけるピークの分布パターンと一致、或いは、誤差50%未満で一致しているかで、複数イオン種が混在するピークか否かを或る特定時間内に自動的に判定することを特徴とする質量分析システム。
【0162】
(39)(38)に記載の質量分析システムにおいて、非常に近い質量対電荷比m/z値を持ち、質量数mや価数zが異なる複数のイオン種に対して、各々の質量数mに応じて、予め同位体ピークの強度分布を計算し、その結果である同位体ピークの分布パターンをメモリやデータベースなどの記憶媒体で記憶して、n段階目のマススペクトル測定結果におけるピークの分布パターンと一致、或いは、誤差50%未満で一致しているかで、複数イオン種が混在するピークか否かを或る特定時間内に自動的に判定するシステムにおいて、複数のイオン種が混在すると判定されたピークを、MSの次の分析のターゲットとして、選択回避する、或いは、選択することを特徴とする質量分析システム。
【0163】
(40)(39)に記載の質量分析システムにおいて、複数のイオン種の混在の可能性を表示し、複数のイオン種の混在を判定した際に得られた情報である、複数のイオン種の質量数mや価数zを、n段階目の質量分析の次の分析の結果得られたデータ解析に用いることを特徴とする質量分析システム。
【0164】
(41)(1)に記載の質量分析システムにおいて、予め指定されたイオン種の特性データとは、質量分析の前処理の段階で、同位体でラベル化された試料と同位体ラベル化されない試料が混合された場合、同位体でラベル化された試料由来のイオンの特性データとすることを特徴とする質量分析システム。
【0165】
(42)(1)に記載の質量分析システムにおいて、予め指定されたイオン種の質量数m、及び、想定範囲内の価数(1≦z≦Nz)から算出される質量対電荷比m/z値に基づき、n段階目のマススペクトル測定結果における、各イオンピークのm/z値に対し、一致するか否かを判定することを特徴とする質量分析システム。
【0166】
(43)(1)に記載のn段階目の質量分析のスペクトルデータを解析し、或る特定時間内に得られた各マスピークがノイズか否かを判定し、ノイズと判定されたピークは自動的に除外されることを特徴とする質量分析システム。
【0167】
(44)(1),(28)又は(43)のいずれかに記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析の次の分析内容を或る特定時間内に自動的に判定する際にて、n段階目の質量分析結果における各イオンピークにおいて、計測時間毎に強度が50%以上変化するピークは、MS の次の分析の選択・解離のターゲットイオン種とする、或いは、ターゲットとならないように回避することを特徴とする質量分析システム。
(45)(1)〜(28)のいずれかに記載の質量分析システムにおいて、測定対象となるイオン種の選択と解離および測定を多段階繰り返すタンデム型質量分析装置を用いた質量分析システムにおいて、質量分析装置として、イオントラップ型質量分析装置であることを特徴とする質量分析システム。
(46)(1)〜(28)に記載の質量分析装置において、測定対象となるイオン種の選択と解離および測定を多段階繰り返すタンデム型質量分析装置を用いた質量分析システムにおいて、質量分析装置として、イオントラップ−飛行時間型質量分析装置であることを特徴とする質量分析システム。
(47)(1)〜(28)のいずれかに記載の質量分析装置において、測定対象となるイオン種の選択と解離および測定を多段階繰り返すタンデム型質量分析装置を用いた質量分析システムにおいて、質量分析装置として、リニアトラップ−飛行時間型質量分析装置であることを特徴とする質量分析システム。
(48)(45)又は(46)に記載の質量分析システムにおいて、イオントラップ、或いは、(33)に記載のリニアトラップにおいて、n段階目の質量分析の次の分析内容がMS(n≧2)の場合、選択・解離ターゲットイオン種の質量対電荷比m/zに応じて、ターゲットイオン種のトラップ・アイソレーション時のイオントラップ又はリニアトラップに印加する高周波電圧を自動的に調整させることを特徴とする質量分析システム。
(49)(45)〜(47)のいずれかに記載の質量分析システムにおいてn段階目の質量分析の次の分析内容がn≧2の場合、解離ターゲットイオン種を、(37)に記載の衝突誘起解離により解離する場合、解離ターゲットイオン種の質量対電荷比m/zに応じて、ターゲットイオン種のトラップ・アイソレーション時のイオントラップ又はリニアトラップに印加される高周波電圧の他に重畳印加する衝突誘起解離用の補助交流を自動的に調整・変化させることを特徴とする質量分析システム。
(50)(1)〜(28)のいずれかに記載の質量分析システムにおいて、測定対象となるイオン種の選択と解離および測定を多段階繰り返すタンデム型質量分析装置を用いた質量分析システムにおいて、質量分析装置として、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型質量分析装置であることを特徴とする質量分析システム。
(51)(1)〜(28)のいずれかに記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析の次の分析内容を或る特定時間内に自動的に判定処理する質量分析システムにおける計算処理に対し、並列計算機を利用することを特徴とする質量分析システム。
(52)(1)〜(28)のいずれかに記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析の次の分析内容を或る特定時間内に自動的に判定処理する質量分析システムにおける計算処理に対し、必要なデータの格納に、キャッシュメモリや、ハードディスクを利用することを特徴とする質量分析システム。
(53)(52)に記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析の次の分析内容を或る特定時間内に自動的に判定処理する質量分析システムにおける計算処理に対し、内部に保有するデータベース格納データなどの必要なデータの格納に、メモリや、ハードディスクを利用する方法において、ユーザ指定などにより決められたある時間間隔で、ハードディスク内の必要なデータをメモリに書き込み、質量分析の測定の間は、メモリに常時アクセス可能な状態とし、メモリ上のデータを利用及びデータ格納することにより、n段階目の質量分析の次の分析内容を或る特定時間内に自動的に判定処理することを特徴とする質量分析システム。
(54)(52)に記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析の次の分析内容を或る特定時間内に自動的に判定処理する質量分析システムにおける計算処理に対し、内部に保有するデータベース格納データなどの必要なデータの格納に、メモリや、ハードディスクを利用する方法において、質量分析の測定が開始する際に、ハードディスク内の必要なデータをメモリに書き込み、質量分析の測定の間は、メモリに常時アクセス可能な状態とし、メモリ上のデータを解析処理に利用及びデータ格納し、質量分析の測定が終了する際に、メモリ上の必要なデータをハードディスクに書き込みすることにより、n段階目の質量分析の次の分析内容を或る特定時間内に自動的に判定処理することを特徴とする質量分析システム。
(55)(1)〜(28)のいずれかに記載の質量分析システムにおいて、測定対象となるイオン種の選択と解離および測定を多段階繰り返すタンデム型質量分析装置を用いた質量分析システムにおいて、イオン種の解離方法として、衝突誘起解離、或いは、電子捕獲解離を採用することを特徴とする質量分析システム。
【0168】
(56)(2),(28)又は(50)のいずれかに記載の質量分析システムにおいて、測定対象となるイオン種の選択と解離および測定を多段階繰り返すタンデム型質量分析装置を用いた質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析結果における各イオンピークにおいて、最大強度を持つピークに対し、最大強度に対する強度比が70%未満であるイオンピークを、n段階目の質量分析の次の分析の選択・解離のターゲットイオン種とする、或いは、ターゲットとならないように回避することを特徴とする質量分析システム。
【0169】
(57)(1),(28)のいずれかに記載の質量分析システムにおいて、測定対象となるイオン種の選択と解離および測定を多段階繰り返すタンデム型質量分析装置を用いた質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析結果における各イオンピークにおいて、ユーザ指定などにより決められた、ある期間以上に亘って、何度も検出され続けているイオン種に対して、n段階目の質量分析の次の分析の選択・解離のターゲットイオン種とする、或いは、不純物由来ノイズピークと判定して、n段階目の質量分析の次の分析の選択・解離のターゲットイオン種とならないように回避することを特徴とする質量分析システム。
【0170】
(58)(1),(28)のいずれかに記載の質量分析システムにおいて、測定対象となるイオン種の選択と解離および測定を多段階繰り返すタンデム型質量分析装置を用いた質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析結果における各イオンピークにおいて、ユーザ指定などにより決められた、ある期間以内で、何度も検出され続けているイオン種に対して、n段階目の質量分析の次の分析の選択・解離のターゲットイオン種とする、或いは、不純物由来ノイズピークと判定して、n段階目の質量分析の次の分析の選択・解離のターゲットイオン種とならないように回避することを特徴とする質量分析システム。
【0171】
(59)(58)に記載のユーザ指定などにより決められた、ある期間以内で、何度も検出され続けているイオン種に対して、内部に保有するデータベースに格納されたデータと、リテンションタイム以外のデータもある裕度で一致し、リテンションタイムもある裕度で一致していても、前記のユーザ指定などにより決められた、ある期間以内であれば、何度でもn段階目の次の分析の選択・解離のターゲットイオン種としたn+1段階目の質量分析が実施され、前記のユーザ指定などにより決められた、ある期間以内に得られた、同じイオン種を選択・解離のターゲットイオン種としたn+1段階目の質量分析データは、測定中、あるいは、測定後に積算処理されることを特徴とする質量分析システム。
【0172】
(60)(2)に記載の質量分析システムにおいて、質量分析システムが内部で保有するデータベースに、質量分析を行ったイオン種の情報および測定情報・条件を、データの一纏まりとして、自動的に登録番号を付けて格納することを特徴とする質量分析システム。
【0173】
(61)(60)に記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析を行ったイオン種の情報および測定情報・測定条件は、イオンの質量数m,価数z,イオン強度,液体クロマトグラフィーまたはガスクロマトグラフィーでの保持時間、及び、イオンを蓄積する手段を有する場合は、イオン種の蓄積時間であることを特徴とする質量分析システム。
【0174】
(62)(60)に記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析を行ったイオン種の情報および測定情報・測定条件を、質量分析システムが内部で保有するデータベースに、登録番号を付けて格納する方法において、登録番号、乃至は、データセット内のデータの条件を指定することにより、該当した登録番号、乃至は、データの条件を満足するデータを含むデータセットに対して、実測マススペクトルデータを参照,表示、またはファイルを排出することを特徴とする質量分析システム。
【0175】
(63)(60)に記載の質量分析システムにおいて、質量分析を行ったイオン種の情報および測定情報・測定を、質量分析システムが内部で保有するデータベースに、登録番号を付けて格納する方法において、測定したマススペクトルデータに対して自動的に評価または解析を行い、その結果である評価指標を前記データベースに自動的に格納することを特徴とする質量分析システム。
【0176】
(64)(63)に記載の質量分析システムにおいて、測定したマススペクトルデータに対して自動的に評価または解析を行い、その結果である評価指標をデータベースに自動的に格納する方法において、測定スペクトルデータの信頼性や品質を評価することを特徴とする質量分析システム。
【0177】
(65)(63)に記載の質量分析システムにおいて、測定したマススペクトルデータの評価指標は、測定対象の測定時間と測定対象の液体クロマトグラフィーまたはガスクロマトグラフィーから溶出するイオンの検出強度がピークになる時点と、測定時点での時間的ずれ、あるいはS/N比を評価した指標であることを特徴とする質量分析システム。
【0178】
(66)(63)に記載の質量分析システムにおいて、測定したマススペクトルデータに対して自動的に評価または解析を行い、その結果である評価指標をデータベースに自動的に格納する方法において、測定対象がペプチドである場合には、MS スペクトルデータを解析した結果、読み取れたアミノ酸の数およびその判定理由・アミノ酸解読結果を前記データベースに格納することを特徴とする質量分析システム。
【0179】
(67)(60)に記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析を行ったイオン種の情報および測定情報・測定条件を、質量分析システムが内部で保有するデータベースに、登録番号を付けて格納する方法において、MS分析において、前記データベースに格納したデータセット(イオン種及び測定情報・測定条件)から、ある裕度の範囲内で一致すると判定されたデータベース登録データセットが複数ある場合、自動的に重複するデータセットを削除、あるいは加算処理することを特徴とする質量分析システム。
【0180】
(68)(67)に記載の質量分析システムにおいて、同一のデータセットと評価する裕度や価数,質量数又は保持時間の情報はユーザが指定することを特徴とする質量分析システム。
【0181】
(69)(60)に記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析を行ったイオン種の情報および測定情報・測定条件を、質量分析システムが内部で保有するデータベースに、登録番号を付けて格納する方法において、前記データベースに格納したイオン種情報から、同一のイオンと判定されるイオン種情報を包含するデータセットが複数ある場合には、自動的に、重複するイオン種情報を包含するデータセットを削除することを特徴とする質量分析システム。
【0182】
(70)(69)に記載の質量分析システムにおいて、質量分析システムが内部で保有するデータベースに格納したイオン種情報のうち、同一のイオンと判定されるイオン種情報を包含するデータセットが複数ある場合には、自動的に、重複するイオン種情報を包含するデータセットを削除する方法において、自動的に重複するイオン種情報を包含するデータセットと対応するマススペクトルデータを削除する、または重複するイオン種情報を包含するデータセットと対応するマススペクトルデータを加算処理することを特徴とする質量分析システム。
【0183】
(71)(69)に記載の質量分析システムにおいて、データベースに格納したイオン種の情報から、同一のイオンと判定する方法において、同一のイオンとは、質量数,価数,液体クロマトグラフィーまたはガスクロマトグラフィーの保持時間が一定の裕度内で一致するイオンであることを特徴とする質量分析システム。
【0184】
(72)(1)に記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析の次の分析内容として、(9)に記載の既に計測したn段階目の質量分析の際に選択・解離のターゲットイオン種と、質量数が同じで価数が異なるイオン種を選択・解離ターゲットイオン種として、n段階目の質量分析を行う場合、既に計測した質量分析のスペクトルデータに、質量数が同じで価数が異なるイオン種を選択・解離ターゲットイオン種として、得られた質量分析スペクトルデータを融合或いは加算する処理を実施することを特徴とする質量分析システム。
【0185】
(73)(60)に記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析を行ったイオン種の情報および測定情報を、質量分析システムが内部で保有するデータベースに、登録番号を付けて格納する方法において、n段階目の質量分析MS(n≧3)を行った場合には、n段階目の質量分析(n≧3)の対象とした前駆イオンを構造中に含むイオン種を2段階目の質量分析を行った際のマススペクトルデータとn段階目の質量分析を行った際のマススペクトルデータを加算処理したものを、前記データベースに登録番号を付けて格納することを特徴とする質量分析システム。
【0186】
(74)(60)に記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析MS (n≧2)を行ったイオン種の情報および測定情報を、質量分析システムが内部で保有するデータベースに、登録番号を付けて格納する方法において、同一物質に対して、異なる解離方法を用いて2段階目の質量分析を行った際に得られたマススペクトルデータがある場合には、それらのマススペクトルデータを加算処理したものを、前記データベースに登録番号をつけて格納することを特徴とする質量分析システム。
【0187】
(75)(74)に記載の質量分析装置において、異なる解離方法とは、衝突誘起解離あるいは電子捕獲解離であることを特徴とする質量分析システム。
【0188】
(76)(72)〜(74)のいずれかに記載の質量分析システムにおいて、複数のマススペクトルデータを加算処理する方法において、各マススペクトルデータを加算する割合をユーザが指定可能なことを特徴とする質量分析システム。
【0189】
(77)(2)に記載の質量分析システムにおいて、質量分析システムが内部で保有するデータベースは、蛋白質やペプチドを分析対象として得られたn段階目の質量分析のスペクトルデータを解析した結果、リン酸化などの修飾構造が付加していると推定された場合、推定される修飾構造の種類,修飾構造が付加している部位の情報も格納することを特徴とする質量分析システム。
【0190】
(78)(2)に記載の質量分析システムにおいて、質量分析システムが内部で保有するデータベースとして、公開されているような汎用的な蛋白質のアミノ酸配列データベースに格納されている、全ての、或いは、一部の蛋白質に対して、様々な種類の酵素により酵素消化した際に生成されるペプチド配列、或いは、酵素消化して生成される各ペプチド配列の質量数を格納し、MSの質量スペクトルデータ上のイオンピークに対して、当該データベースに格納されたデータと一致する可能性の有無を判定し、その結果に基づき、n段階目の質量分析の次の分析内容を或る特定時間内に自動的に判定することを特徴とする質量分析システム。
【0191】
(79)(78)に記載の質量分析装置において、1段階目の質量分析の質量スペクトルデータ上のイオンピークに対して、前記酵素消化ペプチド配列、或いは、酵素消化ペプチド質量数のデータベース格納されたデータと一致する可能性の有無を判定し、ある裕度で一致するイオン種、或いは、一致しないイオン種を、MS分析の選択・解離ターゲットイオン種として2段階目の質量分析を、質量分析の次の分析として、或る特定時間内に自動的に判定することを特徴とする質量分析システム。
【0192】
(80)(62)に記載の質量分析システムにおいて、質量分析システムが内部に保有するデータベースに格納されたデータのうち、指定された、登録番号、乃至は、データの条件を満足するデータを含むデータセットに対して、実測マススペクトルデータを参照,表示、またはファイルを排出する方法において、実際に測定したマススペクトルデータから、同位体ピークを除去し、様々な価数のイオンピークを1価に変換する機能を有することを特徴とする質量分析システム。
【0193】
(81)(62)に記載の質量分析システムにおいて、質量分析システムが内部に保有するデータベースに格納されたデータのうち、指定された、登録番号、乃至は、データの条件を満足するデータを含むデータセットに対して、実測マススペクトルデータを参照,表示、またはファイルを排出する方法において、同位体ピークと判定されたピークのイオン強度を、モノアイソトピックピークの強度に足し合わせることを特徴とする質量分析システム。
【0194】
(82)質量分析装置の測定対象となる物質をイオン化し、生成した様々なイオン種の中から特定の質量対電荷比m/zを持つイオン種を選択して解離させ、更に、測定対象となるイオン種の選択と解離および測定を多段階繰り返すタンデム型質量分析装置を用いた質量分析システムにおいて、n−1回(n≧2)のイオン種の選択・解離を行い、それに対し質量分析して得られたn段階目の質量分析結果である、イオンの質量対電荷比m/zに対する測定強度のピークで表された、マススペクトルデータを測定の実時間内に解析し、その結果に基づき、質量分析の次の分析内容を或る特定時間内に自動的に判定することを特徴とする質量分析システム。
【0195】
(83)(82)に記載の質量分析システムにおいて、質量分析装置の測定対象となる物質が、タンパク質やペプチド或いは修飾構造付きのペプチドであることを特徴とする質量分析システム。
【0196】
(84)(82)に記載の質量分析システムにおいて、質量分析装置の測定対象となる物質が、糖鎖などの修飾構造、或いは、修飾構造を持つ化合物であることを特徴とする質量分析システム。
【0197】
(85)(82)に記載の質量分析システムにおいて、質量分析装置の測定対象となる物質が、限られた種類の基本構造を構造単位として、それらが結合して構成されている物質であることを特徴とする質量分析システム。
【0198】
(86)(82)に記載の質量分析システムにおいて、n段目の質量分析結果である、イオンの質量対電荷比m/zに対する測定強度のピークで表された、マススペクトルデータに対して行う解析とは、マススペクトルデータにおけるマスピーク間隔,質量対電荷比m/z、および強度分布から、アミノ酸,修飾構造付きアミノ酸,単糖など、親イオンを構成する構造単位、或いは、構造単位が幾つか結合された構造を、ある特定時間内に推定することを特徴とする質量分析システム。
【0199】
(87)(86)に記載の質量分析システムにおいて、親イオンを構成する構造単位をある特定時間内に推定する際に、質量分析装置の測定対象となる物質が、ペプチドや修飾構造付きペプチドである場合、マススペクトルデータのマスピーク間隔から、該当するアミノ酸、或いは、アミノ酸が幾つか結合された構造を推定することを特徴とする質量分析システム。
【0200】
(88)(87)に記載の質量分析システムにおいて、マススペクトルデータのマスピーク間隔から、該当するアミノ酸を推定する際に、アミノ酸鎖から成るペプチドのN末端,C末端の両端から、順次、解離されたアミノ酸の推定を実施することを特徴とする質量分析システム。
【0201】
(89)(87)に記載の質量分析システムにおいて、マススペクトルデータのマスピーク間隔から、該当するアミノ酸を推定する際に、ある一定値以上の精度またはスコアで推定されたアミノ酸の数を導出することを特徴とする質量分析システム。
【0202】
(90)(89)に記載の質量分析システムにおいて、n段目の質量分析マススペクトルデータ(n≧2)を解析した結果、ある一定値以上の精度またはスコアで推定されたアミノ酸の数が、ユーザ指定等で指定されたある数以上の場合は、次の1段階目の質量分析測定を実施、または測定を終了し、指定されたある数未満の場合は、n段階目の質量分析データ(n≧2)で検出されたイオン種の一つを選定・解離し質量分析するn+1段階目の質量分析、或いは、n段階目の質量分析の親イオンとほぼ同じ質量数で価数の異なるイオン種がn−1段階目の質量分析データで検出されていた場合は、そのイオン種を選定・解離し、再度質量分析を、自動的に実施することを特徴とする質量分析システム。
【0203】
(91)(90)に記載の質量分析システムにおいて、ある一定値以上の精度またはスコアで推定されたアミノ酸の数が、指定されたある数未満であり、n段階目の質量分析(n≧2)で検出されたイオン種の一つを選定・解離し質量分析するn+1段階目の質量分析を実施する場合に、n段階目の質量分析(n≧2)で検出されたイオン種において、精度またはスコアが一定値に満たないアミノ酸を含むピークのうち、m/z値の最も大きいピークを親イオンとして自動的に選定することを特徴とする質量分析システム。
【0204】
(92)(87)に記載の質量分析システムにおいて、マススペクトルデータのマスピーク間隔から推定された1つのアミノ酸の質量数が、他の種類のアミノ酸が2つ以上結合した際の質量数の和とほぼ等しい場合、そのアミノ酸を含むピークを親イオンとして、n+1段階目の質量分析または再度n段階目の質量分析を自動的に実施することを特徴とする質分析システム。
【0205】
(93)(87)に記載の質量分析システムにおいて、マススペクトルデータのマスピーク間隔を解析した結果、推定されるアミノ酸がリン酸化糖の修飾構造を付加している可能性がある場合には、そのアミノ酸を含むピークを親イオンとして、n+1段階目の質量分析または再度n段階目の質量分析を自動的に実施することを特徴とする質量分析システム。
【0206】
(94)(82)に記載の質量分析システムにおいて、n段回目の質量分析結果である、イオンの質量対電荷比m/zに対する測定強度のピークで表された、マススペクトルデータに対して行う解析とは、該当するアミノ酸などの構造単位が脱離したピークからの脱水ピーク、または脱NHピークなど、一つの構造単位由来と推定される、一つ或いは複数のマスピークを同一種のピーク群として処理し、同一種ピーク群の数を算出することを特徴とする質量分析システム。
【0207】
(95)(94)に記載の質量分析システムにおいて、同一種ピーク群の数が、ユーザ指定等により指定されたある数以上の場合は、次のイオンの測定を実施、または測定を終了し、指定されたある数未満の場合は、n+1段階目の質量分析または再度n段階目の質量分析を実施することを特徴とする質量分析システム。
【0208】
(96)(95)に記載の質量分析システムにおいて、同一種ピーク群の数が、ユーザ指定等により指定されたある数未満で、n+1段階目の質量分析または再度n段階目の質量分析を実施する場合には、親イオンに、ピーク群とピーク群の間隔が最大となる、m/z値の大きいピーク群の中から親イオンを自動的に選定することを特徴とする質量分析システム。
【0209】
(97)(82)に記載の質量分析システムにおいて、n段目の質量分析結果である、イオンの質量対電荷比m/zに対する測定強度のピークで表された、マススペクトル測定結果に対して測定の時間内に行う解析において、測定対象となる物質が糖鎖の場合には、マススペクトルデータのマスピーク間隔から、該当する単糖、或いは、単糖が幾つか結合された構造を推定することを特徴とする質量分析システム。
【0210】
(98)(97)に記載の質量分析システムにおいて、マススペクトルデータのマスピーク間隔から、該当する単糖、或いは、単糖が幾つか結合された構造を推定する際に、ある一定値以上の精度またはスコアで推定された単糖、或いは、単糖が幾つか結合された構造の数を導出することを特徴とする質量分析システム。
【0211】
(99)(99)に記載の質量分析システムにおいて、ある一定値以上の精度またはスコアで推定された単糖の数が、ユーザ指定等から指定されたある数以上である場合は、次のMS分析測定を実施、または測定を終了し、指定されたある数未満の場合は、n段階目の質量分析(n≧2)で検出されたイオン種の一つを選定・解離し質量分析するn+1段階目の質量分析、或いは、n段階目の質量分析の親イオンとほぼ同じ質量数で価数の異なるイオン種がn−1段階目の質量分析で検出されていた場合は、そのイオン種を親イオンとして選定・解離し、再度n段階目の質量分析を、自動的に実施することを特徴とする質量分析システム。
【0212】
(100)(84)において、ある一定値以上の精度またはスコアで推定された単糖の数が、ユーザ指定等から指定されたある数未満で、n+1段階目の質量分析または再度n段階目の質量分析を実施する場合に、親イオンに、精度またはスコアが一定値に満たない単糖を含むピークのうち、m/z値の最も大きいピークを自動的に選定することを特徴とする質量分析システム。
【0213】
(101)(82)に記載の質量分析システムにおいて、n段目の質量分析結果である、イオンの質量対電荷比m/zに対する測定強度のピークで表された、マススペクトル測定結果に対して測定の実時間内に行う解析は、ある特定時間内に同位体ピークを判定し、同位体ピークを除いて得られたn段階目の質量分析(n≧2)スペクトルデータに対して実施することを特徴とする質量分析システム。
【0214】
(102)(82)に記載の質量分析システムにおいて、n段目の質量分析結果である、イオンの質量対電荷比m/zに対する測定強度のピークで表された、マススペクトル測定結果に対して測定の実時間内に行う解析は、ある特定時間内に同位体ピーク及び各イオンの価数を判定し、同位体ピークを除き、更に1価に変換したスペクトルデータ或いはピークリストに対して実施することを特徴とする質量分析システム。
【0215】
(103)(82)に記載の質量分析システムにおいて、n段目の質量分析結果である、イオンの質量対電荷比m/zに対する測定強度のピークで表された、マススペクトル測定結果に対して測定の実時間内に行う解析とは、同位体ピークの判定とイオンの価数の判定であることを特徴とする質量分析システム。
【0216】
(104)(82)に記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析の次の分析内容とは、n段階目の質量分析(n≧2)で検出されたイオン種の一つを選定・解離し質量分析するn+1段階目の質量分析(n≧2)分析であることを特徴とする質量分析システム。
【0217】
(105)(82)に記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析の次の分析内容として、n段階目の質量分析の親イオンとほぼ同じ質量数で価数の異なるイオン種がn−1段階目の質量分析で検出されていた場合に、そのイオン種を親イオンとして選定・解離し、再度n段階目の質量分析を実施することを特徴とする質量分析システム。
【0218】
(106)(82)に記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析の分析内容とは、1段階目の質量分析であることを特徴とする質量分析システム。
【0219】
(107)(86)に記載の質量分析システムにおいて、マススペクトルデータにおける強度分布に関して、各アミノ酸間の解離し易さ、または強度分布のデータベースに基づいて解析することを特徴とする質量分析システム。
【0220】
(108)(90)に記載の質量分析システムにおいて、ある一定値以上の精度またはスコアで推定されたアミノ酸の数が、指定されたある数未満であり、n+1段階目の質量分析または再度n段階目の質量分析を実施する場合に、親イオンとして、yイオンを優先的に選定することを特徴とする質量分析システム。
【0221】
(109)(90)に記載の質量分析システムにおいて、ある一定値以上の精度またはスコアで推定されたアミノ酸の数が、指定されたある数未満であり、n+1段階目の質量分析または再度n段階目の質量分析を実施する場合に、親イオンとして、2価イオンを優先的に選定することを特徴とする質量分析システム。
【0222】
(110)(87)に記載の質量分析システムにおいて、マススペクトルデータのマスピーク間隔から推定されたアミノ酸配列に、解離が生じにくい配列が含まれる場合は、n+1段階目の質量分析又は再度n段階目の質量分析を実施することを特徴とする質量分析システム。
【0223】
(111)(87)に記載の質量分析システムにおいて、マススペクトルデータのマスピーク間隔から推定されたアミノ酸配列に、指定した配列が含まれる場合は、n+1段階目の質量分析または再度n段階目の質量分析を実施することを特徴とする質量分析システム。
【0224】
(112)(86)に記載の質量分析システムにおいて、親イオンを構成する構造単位を、ある特定時間内に推定する方法とは、de novoペプチドシークエンス法であることを特徴とする質量分析システム。
【0225】
(113)(82)に記載の質量分析システムにおいて、n段目の質量分析結果である、イオンの質量対電荷比m/zに対する測定強度のピークで表された、マススペクトル測定結果に対して測定の時間内に行う解析において、ユーザ指定或いは自動的に設定された閾値未満の強度のピークを除去した後、残ったピーク数を導出し、マスピーク数により、次の分析内容を決定することを特徴とする質量分析システム。
【0226】
(114)(113)に記載の質量分析システムにおいて、次の分析内容とは、マスピーク数が、ユーザ指定等により決まったある数以上の場合は、次の1段階目の質量分析測定を実施、または測定を終了し、指定されたある数未満の場合は、n段階目の質量分析(n≧2)で検出されたイオン種の一つを選定・解離し質量分析するn+1段階目の質量分析、或いは、n段階目の質量分析の親イオンとほぼ同じ質量数で価数の異なるイオン種がn−1段階目の質量分析で検出されていた場合は、そのイオン種を親イオンとして選定・解離し、再度n段階目の質量分析を、自動的に実施することを特徴とする質量分析システム。
【0227】
(115)(82)に記載の質量分析システムにおいて、n段階目の質量分析結果である、イオンの質量対電荷比m/zに対する測定強度のピークで表された、マススペクトル測定結果に対して測定の時間内に行う解析とは、タンパク質の配列を酵素消化した際のペプチド配列或いは当該ペプチド配列の質量数を格納したデータベース検索を行うことを特徴とする質量分析システム。
【0228】
(116)(115)に記載の質量分析システムにおいて、マススペクトル測定データに対し、前記データベース内のペプチド配列を更に部分配列化し、更に、それらの質量数を格納したデータベース検索を実施し、ペプチドが同定されなかったイオンに対してのみ、n+1段階目の質量分析または再度n段階目の質量分析を実施することを特徴とする質量分析システム。
【0229】
(117)(90)に記載の質量分析システムにおいて、解読されたアミノ酸の数が指定されたある数未満の場合は、n+1段階目の質量分析または再度n段階目の質量分析を自動的に実施する際に、解読を行ったn段階目の質量分析マススペクトルデータの親イオンの価数が1価であり、n段階目の質量分析の親イオンとほぼ同じ質量数で価数の異なるイオン種がn−1段階目の質量分析で検出されていた場合は、そのイオン種を親イオンとして選定・解離し、再度n段階目の質量分析を実施することを特徴とする質量分析システム。
【0230】
(118)(90)に記載の質量分析システムにおいて、解読されたアミノ酸の数が指定されたある数未満の場合は、n+1段階目の質量分析または再度n段階目の質量分析を自動的に実施する際に、解読を行ったn段階目の質量分析のマススペクトルデータの親イオンの価数が2価以上である場合には、n+1段階目の質量分析を実施することを特徴とする質量分析システム。
【符号の説明】
【0231】
1…質量分析データ(MS)、2…ピーク判定処理、3…同位体ピーク判定処理、4…内部データベースとの照合処理、5…次のタンデム分析の対象イオンの有無の判定、6…別の試料のMS分析、或いは、計測流量判定、7…MSn+1 分析内容決定処理、8…MSn+1分析、9…結果の内部DB自動格納、10…内部データベース、11…前処理系、12…イオン化部、13…質量分析部、14…イオン検出部、15…データ処理部、16…表示部、17…制御部、18…ユーザ入力部、19…質量分析装置、20…イオントラップ、21…飛行時間型質量分析部、22…リニアトラップ、23…四重極(Qポール)、24…コリジョンセル、25…各ピーク強度、26…同位体ピーク強度パターンDB、27…質量分析の段数の判定、28…データの評価、29…内部DBへ自動データ格納、30…内部DB格納データ処理、31,33…細孔、32…差動排気部、34…高真空部、35…イオン輸送部、36…高周波電源、37…液体分離部、38…イオン加速部、39…リフレクター、40…検出器、41…試料導入、42…試料分離、43…イオン化、44…質量分析(MS)、45…親イオンの選択・解離、46…質量分析(MS)、47…MSマススペクトルの取得、48…データ処理、49…データベースサーチ、50…リアルタイムデータ解析、51…次の分析内容自動判定処理、52…質量分析(MS )、53…アミノ酸配列解読、54…スコア付け、55…アミノ酸解読、56…解読アミノ酸数≧Xの判定、57a,57b…解離イオンの選定、58…MS 分析、59…MS′ 分析、60…データベース検索、61…ユーザ指定の条件に関する判定、62…親イオンの選択(本発明の第二十四実施例のMSn+1分析時)、63…ピーク群数に関する判定、64…親イオンの選択(本発明の第二十五実施例のMSn+1分析時)、65…閾値以上のピーク数のカウント、66…ピーク数に関する判定、67…親イオンの選択(本発明の第二十五実施例のMSn+1分析時)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析の前処理系としてのクロマトグラフと、該クロマトグラフにより分離された試料を、質量分析装置の測定対象となる物質をイオン化するイオン化手段と、前記イオン化手段により生成されたイオンの中から特定の質量対電荷比m/zを持つイオン種を選択して解離させる手段と、測定対象となるイオン種の選択と解離および測定を複数段階繰り返す質量分析システムにおいて、
n−1回(nはn≧1の整数)のイオン種の選択及び解離を行い、前記選択および解離が行われたイオンの質量対電荷比に対する測定強度のピークを取得するマススペクトルデータ取得手段と、
前記マススペクトルデータ取得手段により取得された前記ピークの質量数m、データベースに格納されたイオン種及び前記クロマトグラフの保持時間を含む特性データとを比較することにより前記選択および解離が行われたイオンが前記所定のイオン種と一致する可能性の有無を参照し、前記マススペクトルデータが得られてから次の分析までの準備時間或いは移行時間内に判定する一致度判定手段と、
前記一致度判定手段の判定結果に基づき、n段階目の質量分析の次の分析内容を判定する次分析内容判定手段と、
を有することを特徴とする質量分析システム。
【請求項2】
請求項1において、前記一致度判定手段において予め指定されたイオン種と一致すると判定されたイオンに対応するイオンピークを次の分析の選択および解離のターゲットとしないことを特徴とする質量分析システム。
【請求項3】
請求項1において、前記次分析内容判定手段の前記n段階目の質量分析の次の分析内容が、n段階目のマススペクトルのうち、或るm/z値を持つイオンピークの選択とn回目の解離およびn+1段階目のマススペクトル質量分析測定であることを特徴とする質量分析システム。
【請求項4】
請求項1において前記次分析内容判定手段のn段階目の質量分析の次の分析内容が、n段階目のマススペクトル測定結果を得た際に、n−1段階目のマススペクトルにおいて選定した、或るm/z値を持つイオンピークとは異なるm/z値を持つイオンピークを、n−1段階目のマススペクトル測定結果から選定および解離し、再度n段階目のマススペクトル質量分析測定することを特徴とする質量分析システム。
【請求項5】
請求項1において前記一致度判定手段は所定の裕度或いは範囲内で一致するか否かを判定することを特徴とする質量分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35a】
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【図35b】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【公開番号】特開2010−117377(P2010−117377A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44603(P2010−44603)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【分割の表示】特願2004−152693(P2004−152693)の分割
【原出願日】平成16年5月24日(2004.5.24)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】