質量分析データ解析方法及び解析装置
【課題】夾雑物等の影響により目的化合物由来のプリカーサイオンピークにほかのピークが重なっているような場合でも、MS2スペクトル上のピークの中から目的化合物由来のプロダクトイオンピークを的確に選出し化合物同定等に供する。
【解決手段】取得したイメージングMS2データからピクセル(測定点位置)とm/zとを行及び列とし強度値を要素とするデータマトリクスを作成し、目的化合物由来のプリカーサイオンの空間強度分布と類似した空間強度分布を示すm/z値を基準ピークとして選出する。目的化合物由来のプロダクトイオンは基準ピークと類似した空間強度分布を示す筈であるから、上記データマトリクスにおいて基準ピークと他ピークとのデータの相関計数を計算する。順相関で大きな相関係数値を与えるピークがプロダクトイオンピークであると判断し、該ピークのm/z値を選出して組成解析や同定処理に供する。
【解決手段】取得したイメージングMS2データからピクセル(測定点位置)とm/zとを行及び列とし強度値を要素とするデータマトリクスを作成し、目的化合物由来のプリカーサイオンの空間強度分布と類似した空間強度分布を示すm/z値を基準ピークとして選出する。目的化合物由来のプロダクトイオンは基準ピークと類似した空間強度分布を示す筈であるから、上記データマトリクスにおいて基準ピークと他ピークとのデータの相関計数を計算する。順相関で大きな相関係数値を与えるピークがプロダクトイオンピークであると判断し、該ピークのm/z値を選出して組成解析や同定処理に供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の2次元領域内の複数の微小領域に対しそれぞれ質量分析を実行して収集される質量分析イメージジングデータを解析する質量分析データ解析方法及び解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織等の試料の形態観察を行うと同時に、その試料上の所定領域に存在する物質(分子)の分布を測定する装置として、顕微質量分析装置或いはイメージング質量分析装置などと呼ばれる装置が開発されている(非特許文献1など参照)。こうした装置によれば、試料をすり潰したり破砕したりすることなく試料の形態をほぼ維持したまま、顕微観察に基づいて指定された試料上の任意の領域に含まれる特定の質量電荷比m/zをもつイオンの分布画像(マッピング画像)を得ることが可能であり、特に、生化学分野、医療・薬学分野などにおいて、例えば生体内細胞に含まれる特定のタンパク質等の成分の分布情報を得るといった応用が期待されている。
【0003】
イメージング質量分析装置を利用した生体試料の測定においては、試料上で特異的に分布している物質が何であるか、またその物質の組成・構造はどのようなものであるのか、といったことを調べたいことがよくある。一般に、質量分析を利用してタンパク質等の高分子量の化合物を同定したり組成・構造解析したりするためには、MS/MS分析、或いはさらに多段の開裂操作を伴うMSn分析(n≧3の整数)により得られたデータが必要となる。
【0004】
典型的には、特定の質量電荷比を持つプリカーサイオンを衝突誘起解離(CID)などにより開裂させ、それにより得られたプロダクトイオンの質量電荷比に基づいて化合物の開裂部位を推定し、その推定情報に基づいて化合物の組成・構造の推定や同定が行われる。開裂部位の推定には、市販されたり無償で公開されたりしているデータベースが用いられることが多く、MSnスペクトルにおいてSN比が大きい又は信号強度が高いピークがプロダクトイオンピークであるとみなされ、そうした判断の下に選択されたプロダクトイオンのm/z値が上記のようなデータベースを利用した検索のための情報として解析ソフトウエアに入力される。したがって、開裂部位を高い精度で推定するためには、目的化合物由来のプロダクトイオンの正確なm/z値を情報として解析ソフトウエアに与えることが重要である。
【0005】
ところが、分析対象の試料が生体試料である場合、所望の化合物の測定の障害となり得る夾雑物が含まれることが多い。イメージング質量分析でない通常の質量分析では、クロマトグラフ等を用いることで予め夾雑物を目的化合物と分離することが可能であるが、イメージング質量分析の場合にはそうした夾雑物の分離手法を採用することができない。そのため、MSスペクトルにおける一つのピークに複数の物質由来のイオンピークが重複してしまっている場合がよくある。このようなピークをプリカーサイオンとして選択してMS/MS分析を行うと、それにより得られるMS/MSスペクトルには複数の物質由来のプロダクトイオンピークが混在することになる。こうしたMS/MSスペクトルを分析者が観察して一種類の物質由来のイオンピークを選別することは困難である。しかしながら、そうした選別を行わずに全てのプロダクトイオン情報を用いて組成解析や同定を行おうとしても、目的化合物由来でないプロダクトイオン情報が少なからず含まれるため、組成解析や同定の確度が低くなることが避けられない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】小河潔、ほか5名、「顕微質量分析装置の開発」、島津評論、株式会社島津製作所、平成18年3月31日発行、第62巻、第3・4号、p.125-135
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、イメージング質量分析により収集されたデータに基づいて試料上に分布している成分の同定や組成解析を行う際に、目的化合物と同一の又はごく近い質量電荷比を持つ夾雑物が存在していた場合であっても、MSnスペクトルデータの中から目的化合物由来のプロダクトイオンを的確に選出して同定や組成解析を行うことができる質量分析データ解析方法及び解析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
同一物質に由来する複数種のイオン(或る物質の分子イオンや該分子イオンが開裂して生じた各種プロダクトイオンなど)同士は、試料上において空間的に互いに近い位置に存在している筈である。したがって、同定したい又は組成解析したい目的化合物に由来する一つのイオンの特異的な空間強度分布が分かれば或いは高い確度で推定できれば、その空間強度分布に近い空間強度分布を示すMSn分析のプロダクトイオンは、目的化合物に由来するイオンであると推定できる。本発明はこうした知見に基づいてなされたものであり、MSn分析におけるプロダクトイオンの空間強度分布情報を各プロダクトイオンが目的化合物由来のイオンであるか否かの選別に利用する方法及び装置である。
【0009】
即ち、上記課題を解決するために成された第1発明は、試料上の2次元領域内に設定された複数の微小領域に対してそれぞれMSn(n≧2の整数)分析を実行することにより収集されたデータを解析処理する質量分析データ解析方法であって、
a)微小領域毎に得られるMSnスペクトルデータから強度値と質量電荷比とを含むピーク情報を収集するピーク情報収集ステップと、
b)各微小領域のピーク情報を集め、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布を基準とし他の各ピークの強度値を用いた統計的解析処理を行うことにより、前記目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と類似性の高い空間強度分布を示すピークを選出する統計的解析ステップと、
c)選出されたピークが目的化合物由来のプロダクトイオンによるピークであると判断し、該プロダクトイオンの少なくとも質量電荷比を利用して目的化合物の同定又は組成・構造解析を実施する化合物解析ステップと、
を有することを特徴としている。
【0010】
また、上記課題を解決するために成された第2発明は、第1発明に係る質量分析データ方法を実施するための装置であり、試料上の2次元領域内に設定された複数の微小領域に対してそれぞれMSn(n≧2の整数)分析を実行することにより収集されたデータを解析処理する質量分析データ解析装置であって、
a)微小領域毎に得られるMSnスペクトルデータから強度値と質量電荷比とを含むピーク情報を収集するピーク情報収集手段と、
b)各微小領域のピーク情報を集め、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布を基準とし他の各ピークの強度値を用いた統計的解析処理を行うことにより、前記目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と類似性の高い空間強度分布を示すピークを選出する統計的解析手段と、
c)選出されたピークが目的化合物由来のプロダクトイオンによるピークであると判断し、該プロダクトイオンの少なくとも質量電荷比を利用して目的化合物の同定又は組成・構造解析を実施する化合物解析手段と、
を備えることを特徴としている。
【0011】
本発明に係る質量分析データ解析方法及び解析装置では、典型的にはnは2であるが、nが3以上、つまり2回以上のプリカーサイオン選択と開裂操作とを実行するものでもよい。
【0012】
また、基準とされる、上記目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布とは例えば、1段目の開裂操作の際のプリカーサイオンの空間強度分布、又は、そのプリカーサイオンの空間強度分布に類似した空間強度分布を持つMSn分析のプロダクトイオンの空間強度分布、とすればよい。
【0013】
また、本発明に係る質量分析データ解析方法及び解析装置において、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と類似性の高い空間強度分布を示すピークを選択するための統計的解析処理としては、幾つかの解析手法を採用し得る。
【0014】
例えば、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布を基準とし、この基準と他のピークの空間強度分布との相関係数を求める等、相関性を計算する処理を用いることができる。この場合、順相関の相関係数が大きいほど空間強度分布が類似しているから、例えば相関係数の大きい順に所定個数のピークを選出する、相関係数が所定閾値以上を示すピークを選出する、といった規則で以てピークを選出すればよい。
【0015】
また、各ピークの空間強度分布情報に基づいたクラスタ分析によりピークをクラスタリングし、基準とされた目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と同じクラスタに分類された他のピークを選出するようにしてもよい。
【0016】
さらにまた、各ピークの空間強度分布情報に基づいた主成分分析を実行して各ピクセルのスコアや各ピークのローディング等の指標値を算出し、例えば基準とされた目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークと同一主成分においてローディング値が大きい順に所定個数のピークを選出する、ローディング値が所定閾値以上を示すピークを選出する、といった規則で以てピークを選出するようにしてもよい。
【0017】
上記いずれの手法によっても、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と類似性の高い空間強度分布を示すピーク(通常は複数のピーク)が選出される筈であるから、該ピークに対応する質量電荷比を例えば組成推定ソフトウエアや、データベース検索ソフトウエア等の成分同定ソフトウエアをコンピュータ上で動作させることにより具現化される化合物解析手段に供することにより、目的化合物の同定や組成・構造解析を実施する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る質量分析データ解析方法及び解析装置によれば、試料上の一部の領域で分析対象である目的化合物と夾雑物とが混在していた場合であっても、MSn分析によるプロダクトイオンの空間強度分布情報を利用して、夾雑物の影響を除外して目的化合物由来のプロダクトイオンを的確に選出することができる。それによって、同定や組成解析に供される情報の正確性が向上するため、目的化合物の同定や組成解析の精度・確度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る質量分析データ解析装置を利用したイメージング質量分析装置の一実施例の概略構成図。
【図2】本実施例のイメージング質量分析装置におけるマススペクトルデータ収集動作及びデータ解析動作の概略説明図。
【図3】本実施例のイメージング質量分析装置における特徴的なデータ解析動作のフローチャート。
【図4】グルタチオンを滴下した肝臓ホモジネートサンプルのイメージングMS平均強度スペクトルの一例を示す図。
【図5】グルタチオンを滴下した肝臓ホモジネートサンプルに対しm/z306.08をプリカーサイオンとして得られたイメージングMS2平均強度スペクトルの一例を示す図。
【図6】試料上の分析領域における光学顕微画像の一例(a)、イメージングMS、イメージングMS2での分析領域を示す図(b)、(a)に示した分析領域に対するイメージングMSで得られたm/z306.08の空間強度分布画像を示す図(c)、及び、(a)に示した分析領域に対するイメージングMS2で得られたm/z254.09の空間強度分布画像を示す図(d)。
【図7】図6に示したイメージングMS及びイメージングMS2スペクトルデータに基づく基準ピーク(m/z254.09)及び他ピークの相関係数の算出結果を示す図。
【図8】試料上の分析領域における光学顕微画像と、図7に示した基準ピーク(m/z 254.09)及び順相関となった23個のピーク中の13個のピークに対して得られた空間強度分布画像を示す図。
【図9】図7に示した基準ピーク(m/z 254.09)及び順相関となった23個のピーク中の10個のピークに対して得られた空間強度分布画像を示す図。
【図10】図7に示した基準ピーク(m/z 254.09)及び逆相関となったm/z279.08のピークに対して得られた空間強度分布画像を示す図。
【図11】グルタチオンの構造式から算出したフラグメントイオンの質量を示す図。
【図12】図11中の4個のプロダクトイオンの開裂部位を示す図。
【図13】組成推定ソフトウエア(Formula Predictor)で推定された3つの候補組成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る質量分析データ解析装置を用いたイメージング質量分析装置の一実施例について、添付図面を参照して説明する。図1は本実施例によるイメージング質量分析装置の概略構成図である。
【0021】
このイメージング質量分析装置は、試料8上の2次元測定対象領域8aの顕微観察を行うとともに該領域8a内のイメージング質量分析を実行するイメージング質量分析本体部1と、イメージング質量分析本体部1で収集された質量分析スペクトルデータ(MSスペクトルデータ、MSnスペクトルデータ)を解析処理するデータ処理部2と、質量分析スペクトルデータを記憶しておくデータ記憶部3と、イメージング質量分析本体部1で撮影された画像信号を処理して光学顕微画像を構成する顕微画像処理部4と、それら各部を制御する制御部5と、制御部5に接続された操作部6及び表示部7と、を備える。
【0022】
図示しないが、イメージング質量分析本体部1は例えば、非特許文献1などに記載のように、MALDIイオン源、イオン輸送光学系、イオントラップ、飛行時間型質量分析器、などを含み、所定サイズの微小領域に対する所定の質量電荷比範囲に亘る質量(MS)分析や、1回以上のプリカーサイオンの選択及びイオン開裂操作を伴うMSn分析を実行する。また、イメージング質量分析本体部1は試料8が載置されたステージを互いに直交するx、yの2軸方向に高精度で移動させる駆動部を含み、試料8を所定ステップ幅で移動させる毎に上記MS分析やMSn分析を実行することにより、任意の2次元測定対象領域8aに対するMSスペクトルデータ、MSnスペクトルデータの収集が可能である。
【0023】
後述する特徴的なデータ処理を実行するために、データ処理部2は、データマトリクス作成部21、統計解析処理部22、プロダクトイオンピーク選定部23、組成推定部24などを機能ブロックとして含む。なお、データ処理部2、データ記憶部3、顕微画像処理部4、制御部5、などの機能の少なくとも一部は、パーソナルコンピュータに搭載された専用の処理・制御ソフトウエアを実行することにより達成されるようにすることができる。
【0024】
本実施例のイメージング質量分析装置は、イメージング質量分析本体部1により収集された膨大な量のMSスペクトルデータ、MSnスペクトルデータを解析処理して表示部7の画面上に表示するデータ処理部2におけるデータ解析処理にその特徴を有する。図2は本実施例のイメージング質量分析装置におけるマススペクトルデータ収集動作及びデータ解析動作の概略説明図、図3は本実施例のイメージング質量分析装置における特徴的なデータ解析手順を示すフローチャートである。また、図4〜図13はいずれもこのデータ解析処理を適用した検証例である。図2〜図13を参照して、本発明に特徴的なデータ解析処理の一例を詳細に説明する。
【0025】
試料8に対する分析実行時に、イメージング質量分析本体部1は、図2中に示すように、試料8上に設定された所定の2次元測定対象領域8a内をx方向、y方向にそれぞれ細かく区分した微小領域8b毎にMSスペクトルデータ及びMS2スペクトルデータを取得する。MSスペクトルデータは所定の質量電荷比範囲に亘る強度信号を示すマススペクトルを構成するデータである。また、MS2スペクトルデータは、一つの微小領域8bにおいて得られたMSスペクトルに出現している各種ピークの中から自動的に選択された(又は分析者により手動で選択された)ピーク(図2中ではm/zがmpであるピーク)をプリカーサイオンとしてイオントラップにおいて開裂操作を行い、それにより生成されたプロダクトイオンを質量分析することにより得られたものである。MS2分析のプリカーサイオンは解析対象である目的化合物由来のイオンである。なお、微小領域8bは図2に示すように2次元測定対象領域8a内全体に密に設けられていなくてもよく、例えば疎らに存在していてもよい。
【0026】
通常、微小領域8bの1辺の長さは試料8が載置されたステージの移動ステップ幅により決まる。後述する或る質量電荷比における空間強度分布を示すマッピング画像では、1個の微小領域8b毎にカラー2次元表示画像上の表示色が定められる。したがって、色付けなどの画像処理上ではこの微小領域が最小単位となるので、画像処理上のピクセルと微小領域とは同義であり、以下の説明では微小領域をピクセルと呼ぶ。即ち、図2に示すように、ここでは2次元測定対象領域8a内に格子状にピクセルが配列されている。
【0027】
図3に示したデータ解析処理は、試料上の2次元測定対象領域8aに対するMSイメージングデータ及びMS2イメージングデータがデータ記憶部3に格納されている状態で実行される。図4〜図13に示した検証例において利用されるデータは、マウスの肝臓ホモジネートサンプル上に標準物質であるグルタチオン(略称:GSH、化学組成式:C10H17N3O6S、モノアイソトピック質量:307.08u)を滴下し、負イオン化モードでのイメージングMS分析及びイメージングMS2分析を行って得られたものである。MALDIのためのマトリクスである9-アミノアクリジン(aminoacridine)は蒸着法により塗布した。図6(a)の光学顕微画像に示したように、ホモジネートによりマウスの肝臓の組織構造は殆ど失われており、4箇所の略円形状のGSHの滴下痕のみが明瞭に確認可能である。
【0028】
上記サンプルに対し分析点間隔を10μmに設定してイメージングMS分析を行った場合の、分析領域全体のMS平均強度スペクトルを図4に示す。イメージングMS分析で検出できた各イオンピークの空間強度分布画像を確認したところ、m/z306.08で光学顕微画像に類似した特異的な空間強度分布を示した(図6(c)参照)。このピークのm/z値はGSHの脱プロトン化分子[M−H]-の質量と一致する。さらに、このピークに対応した物質を同定するために、m/z306.08をプリカーサイオンとするイメージングMS2分析を行った。ここで、分析領域を物質の局在部位としたいため、イメージングMS2分析とイメージングMS分析とにおけるイオン化レーザ光照射位置が完全に重なるのを避けるべく、イメージングMS2分析領域8a2をイメージングMS分析領域8a1から5μmだけずらした入れ子状態に設定した(図6(b)参照)。イメージングMS2分析で得られた分析領域全体のMS2平均強度スペクトルを図5に示す。図6(d)は、イメージングMS2分析で検出できたm/z254.09のイオンの空間強度分布である。上記のようなMS平均強度スペクトルやMS2平均強度スペクトルを求めるためのピクセル毎のMSスペクトルデータ及びMS2スペクトルデータがデータ記憶部3に格納されているものとする。
【0029】
解析開始が指示されると、データ処理部2においてデータマトリクス作成部21はデータ記憶部3から処理対象であるMSイメージングデータ及びMS2イメージングデータを読み込む(ステップS1)。そして、分析領域全体のMS2平均強度スペクトル(又はMS2積算スペクトル)を求め、このMS2平均強度スペクトルに対してピークピッキング処理を実行して有意なピークを所定個数選出する(ステップS2)。典型的には、信号強度が高いピークから順に所定個数のピークを選出すればよい。これにより、信号強度の小さなノイズピークは除去される。なお、ピークピッキングの手法はこれに限るものでなく、例えば、信号強度が高くても予め指定された特定の質量電荷比を持つピークや特定の質量電荷比範囲に含まれるピークを選出から除外したり、逆に、信号強度が低くても予め指定された特定の質量電荷比を持つピークや特定の質量電荷比範囲に含まれるピークを優先的に選出したりする、といった処理を加えることも考えられる。なお、上記検証例では強度上位の50個のピークを選出した。
【0030】
データマトリクス作成部21は次に、選出された所定個数のピークの質量電荷比(m/z値)とピクセルの番号とを行方向及び列方向のパラメータとし、強度値をマトリクスの要素とした2次元データマトリクスを作成する(ステップS3)。図2中には、ステップS3で作成されるデータマトリクスの一例を示している。このデータマトリクスにおいては、縦方向の一列の各要素が同一m/z値(例えばm1、m2、m3、…)に対する各ピクセル(例えばp1、p2、p3、…)における強度値であるから、特定のm/z値に対する空間強度分布情報を示すことになる。一方、横方向の一行の各要素は1個のピクセルにおける各m/z値の強度値であるから、特定のピクセルのスペクトル情報を示すことになる。
【0031】
MS2イメージングデータに基づくデータマトリクスが作成されると、統計解析処理部22は同定したい又は組成解析をしたい特異的な空間強度分布を示す一つのピーク(m/z値)を基準ピークとして自動的に選出する(ステップS4)。例えば平均強度が最も大きくなるピークを基準ピークとして自動的に選出するようにしてもよいが、平均強度が最大であるピークが必ずしも特異的な空間強度分布を示さない場合がある。一般的には、MS2分析実行時のプリカーサイオンの空間強度分布に類似した空間強度分布を示すプロダクトイオンのピークは目的化合物由来のものであると考えられるから、平均強度が高く且つプリカーサイオンの空間強度分布に類似した空間強度分布を示すピークを基準ピークとするとよい。また、各ピークの空間強度分布画像を作成して表示部7の画面上に表示させ、分析者がそれを目視で確認しながら、特異的な空間強度分布を示すピークを基準ピークとして選出できるようにしてもよい。上記検証例では、図6(d)に示したm/z254.09のイオンの空間強度分布が図6(c)に示したプリカーサイオンの空間強度分布に類似しており、平均強度も高いことから、このm/z254.09を基準ピークとして選出した。
【0032】
基準ピークが決まると統計解析処理部22は、データマトリクスの要素として選出されているピークに対して統計解析を適用し、基準ピークと類似した空間強度分布を示すピークを抽出する(ステップS5)。具体的な一例として、図2中に示すように、基準ピークの空間強度分布を示すデータ(データマトリクスの縦一列のデータであり、図2の例ではm/z=m3のデータ)と他の一つのピークの空間強度分布を示すデータとの相関係数を計算する。上記検証例について、基準ピークと他ピークとの相関係数を計算した結果が図7である。相関係数の符号が正(順相関)であって値が大きいピークほど、基準ピークと類似した空間強度分布である可能性が高い。逆に、相関係数の符号が負(逆相関)となるピークは空間強度分布が基準ピークと反転している可能性があり、プロダクトイオンではあり得ないといえる。なお、No.1は基準ピークであるから相関係数は1.000である。
【0033】
なお、ステップS5における統計解析手法としては、相関係数を用いる方法のほかに、クラスタ分析や主成分分析などの多変量解析手法を利用してもよい。クラスタ分析の場合には、基準ピークと同一クラスタに分類されたピークを、基準ピークと類似した空間強度分布を持つピークとして選出すればよい。また、主成分分析の場合には、基準ピークと同一主成分においてローディング値の大きなピークを、基準ピークと類似した空間強度分布を持つピークとして選出すればよい。
【0034】
次にプロダクトイオンピーク選定部23は、ステップS5の処理の結果、基準ピークと類似した空間強度分布である可能性が高いと判断された1乃至複数のピークの空間強度分布画像を作成し、これを表示部7の画面上に表示する(ステップS6)。分析者は表示された空間強度分布画像を確認し、特異的な分布を示す(具体的にはプリカーサイオンの空間強度分布に類似した分布を示す)ピークを目的化合物由来のプロダクトイオンピークであると判断し、操作部6によりその旨を指示する。この指示に応じてプロダクトイオンピーク選定部23は目的化合物由来のプロダクトイオンピークを選出する(ステップS7)。なお、プロダクトイオンピーク選定部23は順相関であって相関係数の大きな所定個数のピークを自動的に目的化合物由来のプロダクトイオンピークとして選出してもよい。
【0035】
上記検証例では、ステップS6の処理により、図8〜図10に示したような空間強度分布画像が作成・表示されることになる。もちろん、必ずしも全ての画像を作成・表示しなくてもよい。ここでは、図8〜図10に示した画像から、基準ピーク(m/z254.09)と順相関となった23個のピーク(図7中のN0.2〜No.24)のうち、順相関で且つ強度上位の3個のピーク(m/z272.08、m/z179.06、m/z288.08)がGSH由来のプロダクトイオンピークであると判断した。一方、図5のMS2スペクトルではm/z279.08のピーク強度は比較的大きく上位から4番目であるが、基準ピーク(m/z254.09)に対し逆相関であることから、これは目的化合物以外の物質由来のもの(例えば目的化合物由来のプリカーサイオンと偶然に質量電荷比が一致した別の物質由来のプロダクトイオンなど)であると考えられる。このことは図10に示した空間強度分布画像からも理解できる。
【0036】
上記検証例では、図5に示したMS2平均強度スペクトルのピーク強度のみを基準として判断した場合に、目的化合物由来のプロダクトイオンであると判断されてしまう4個のピークについて、本実施例のデータ処理によれば、目的化合物由来のプロダクトイオンピークとそれ以外のピークとに選別することができることが分かる。
【0037】
検証例における解析対象物質であるグルタチオンは、グルタミン酸(E)、システイン(C)、グリシン(G)がこの順に結合したトリペプチドであり、グルタチオンの構造式からフラグメントイオンの質量を計算すると図11に示すようになる。この図11中の4個のプロダクトイオンの開裂部位を示したのが図12である。図11を見ると、上記データ処理によりGSH由来のプロダクトイオンピークであると判断された3個のピーク(m/z272.08、m/z179.06、m/z288.08)及び基準ピークは図11中に含まれる、つまりGSHの構造式から算出したフラグメントイオンの質量と一致することが確認できる。一方、上記データ処理により目的化合物以外の物質由来であると判断された1個のピーク(m/z279.08)は図11中に含まれない。なお、図12に示した構造式は公開データベースであるHuman Metabolome Databaseから引用したものである。
【0038】
ステップS7において目的化合物由来のプロダクトイオンが選出されると、組成推定部24は、MS2分析のプリカーサイオンに関する情報(質量電荷比)と、上記選出されたプロダクトイオンに関する情報とを入力値とし、データベース検索を実行することにより目的化合物の組成推定又は同定を行う(ステップS8、S9)。上記検証例では、プリカーサイオンm/z306.08と4個のプロダクトイオンピークm/z254.09、m/z272.08、m/z179.06、m/z279.08を組成推定ソフトウエアFormula Predictor(島津製作所製)に入力し、候補組成を求めた。得られた3種類の候補組成を図13に示す。さらに、これら3種類の候補組成が化合物として存在するものか否かを確認するため、有機化合物辞書データベース「日本化学物質辞書(日化辞)」を用いて検索したところ、GSHの組成(C10H17N3O6S)のみがヒットした。以上の検証結果から、上述したデータ処理により的確な組成推定が行え、それに基づく物質同定も正しく行えることが確認できた。
【0039】
なお、上記実施例は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【0040】
例えば、上記実施例のステップS4ではMS2スペクトルから基準ピークを選定する代わりに、MS2分析のプリカーサイオンピーク(検証例ではm/z306.08)を基準ピークとしてもよい。特に、上記実施例のようにMS分析領域とMS2分析領域が入れ子状に設定され、且つ互いの分析点間隔が狭い場合には、MS2スペクトルから基準ピークを選んだ場合と同程度の正確さで相関係数の算出が可能である。
【符号の説明】
【0041】
1…イメージング質量分析本体部
2…データ処理部
21…データマトリクス作成部
22…統計解析処理部
23…プロダクトイオンピーク選定部
24…組成推定部
3…データ記憶部
4…顕微画像処理部
5…制御部
6…操作部
7…表示部
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の2次元領域内の複数の微小領域に対しそれぞれ質量分析を実行して収集される質量分析イメージジングデータを解析する質量分析データ解析方法及び解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織等の試料の形態観察を行うと同時に、その試料上の所定領域に存在する物質(分子)の分布を測定する装置として、顕微質量分析装置或いはイメージング質量分析装置などと呼ばれる装置が開発されている(非特許文献1など参照)。こうした装置によれば、試料をすり潰したり破砕したりすることなく試料の形態をほぼ維持したまま、顕微観察に基づいて指定された試料上の任意の領域に含まれる特定の質量電荷比m/zをもつイオンの分布画像(マッピング画像)を得ることが可能であり、特に、生化学分野、医療・薬学分野などにおいて、例えば生体内細胞に含まれる特定のタンパク質等の成分の分布情報を得るといった応用が期待されている。
【0003】
イメージング質量分析装置を利用した生体試料の測定においては、試料上で特異的に分布している物質が何であるか、またその物質の組成・構造はどのようなものであるのか、といったことを調べたいことがよくある。一般に、質量分析を利用してタンパク質等の高分子量の化合物を同定したり組成・構造解析したりするためには、MS/MS分析、或いはさらに多段の開裂操作を伴うMSn分析(n≧3の整数)により得られたデータが必要となる。
【0004】
典型的には、特定の質量電荷比を持つプリカーサイオンを衝突誘起解離(CID)などにより開裂させ、それにより得られたプロダクトイオンの質量電荷比に基づいて化合物の開裂部位を推定し、その推定情報に基づいて化合物の組成・構造の推定や同定が行われる。開裂部位の推定には、市販されたり無償で公開されたりしているデータベースが用いられることが多く、MSnスペクトルにおいてSN比が大きい又は信号強度が高いピークがプロダクトイオンピークであるとみなされ、そうした判断の下に選択されたプロダクトイオンのm/z値が上記のようなデータベースを利用した検索のための情報として解析ソフトウエアに入力される。したがって、開裂部位を高い精度で推定するためには、目的化合物由来のプロダクトイオンの正確なm/z値を情報として解析ソフトウエアに与えることが重要である。
【0005】
ところが、分析対象の試料が生体試料である場合、所望の化合物の測定の障害となり得る夾雑物が含まれることが多い。イメージング質量分析でない通常の質量分析では、クロマトグラフ等を用いることで予め夾雑物を目的化合物と分離することが可能であるが、イメージング質量分析の場合にはそうした夾雑物の分離手法を採用することができない。そのため、MSスペクトルにおける一つのピークに複数の物質由来のイオンピークが重複してしまっている場合がよくある。このようなピークをプリカーサイオンとして選択してMS/MS分析を行うと、それにより得られるMS/MSスペクトルには複数の物質由来のプロダクトイオンピークが混在することになる。こうしたMS/MSスペクトルを分析者が観察して一種類の物質由来のイオンピークを選別することは困難である。しかしながら、そうした選別を行わずに全てのプロダクトイオン情報を用いて組成解析や同定を行おうとしても、目的化合物由来でないプロダクトイオン情報が少なからず含まれるため、組成解析や同定の確度が低くなることが避けられない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】小河潔、ほか5名、「顕微質量分析装置の開発」、島津評論、株式会社島津製作所、平成18年3月31日発行、第62巻、第3・4号、p.125-135
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、イメージング質量分析により収集されたデータに基づいて試料上に分布している成分の同定や組成解析を行う際に、目的化合物と同一の又はごく近い質量電荷比を持つ夾雑物が存在していた場合であっても、MSnスペクトルデータの中から目的化合物由来のプロダクトイオンを的確に選出して同定や組成解析を行うことができる質量分析データ解析方法及び解析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
同一物質に由来する複数種のイオン(或る物質の分子イオンや該分子イオンが開裂して生じた各種プロダクトイオンなど)同士は、試料上において空間的に互いに近い位置に存在している筈である。したがって、同定したい又は組成解析したい目的化合物に由来する一つのイオンの特異的な空間強度分布が分かれば或いは高い確度で推定できれば、その空間強度分布に近い空間強度分布を示すMSn分析のプロダクトイオンは、目的化合物に由来するイオンであると推定できる。本発明はこうした知見に基づいてなされたものであり、MSn分析におけるプロダクトイオンの空間強度分布情報を各プロダクトイオンが目的化合物由来のイオンであるか否かの選別に利用する方法及び装置である。
【0009】
即ち、上記課題を解決するために成された第1発明は、試料上の2次元領域内に設定された複数の微小領域に対してそれぞれMSn(n≧2の整数)分析を実行することにより収集されたデータを解析処理する質量分析データ解析方法であって、
a)微小領域毎に得られるMSnスペクトルデータから強度値と質量電荷比とを含むピーク情報を収集するピーク情報収集ステップと、
b)各微小領域のピーク情報を集め、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布を基準とし他の各ピークの強度値を用いた統計的解析処理を行うことにより、前記目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と類似性の高い空間強度分布を示すピークを選出する統計的解析ステップと、
c)選出されたピークが目的化合物由来のプロダクトイオンによるピークであると判断し、該プロダクトイオンの少なくとも質量電荷比を利用して目的化合物の同定又は組成・構造解析を実施する化合物解析ステップと、
を有することを特徴としている。
【0010】
また、上記課題を解決するために成された第2発明は、第1発明に係る質量分析データ方法を実施するための装置であり、試料上の2次元領域内に設定された複数の微小領域に対してそれぞれMSn(n≧2の整数)分析を実行することにより収集されたデータを解析処理する質量分析データ解析装置であって、
a)微小領域毎に得られるMSnスペクトルデータから強度値と質量電荷比とを含むピーク情報を収集するピーク情報収集手段と、
b)各微小領域のピーク情報を集め、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布を基準とし他の各ピークの強度値を用いた統計的解析処理を行うことにより、前記目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と類似性の高い空間強度分布を示すピークを選出する統計的解析手段と、
c)選出されたピークが目的化合物由来のプロダクトイオンによるピークであると判断し、該プロダクトイオンの少なくとも質量電荷比を利用して目的化合物の同定又は組成・構造解析を実施する化合物解析手段と、
を備えることを特徴としている。
【0011】
本発明に係る質量分析データ解析方法及び解析装置では、典型的にはnは2であるが、nが3以上、つまり2回以上のプリカーサイオン選択と開裂操作とを実行するものでもよい。
【0012】
また、基準とされる、上記目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布とは例えば、1段目の開裂操作の際のプリカーサイオンの空間強度分布、又は、そのプリカーサイオンの空間強度分布に類似した空間強度分布を持つMSn分析のプロダクトイオンの空間強度分布、とすればよい。
【0013】
また、本発明に係る質量分析データ解析方法及び解析装置において、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と類似性の高い空間強度分布を示すピークを選択するための統計的解析処理としては、幾つかの解析手法を採用し得る。
【0014】
例えば、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布を基準とし、この基準と他のピークの空間強度分布との相関係数を求める等、相関性を計算する処理を用いることができる。この場合、順相関の相関係数が大きいほど空間強度分布が類似しているから、例えば相関係数の大きい順に所定個数のピークを選出する、相関係数が所定閾値以上を示すピークを選出する、といった規則で以てピークを選出すればよい。
【0015】
また、各ピークの空間強度分布情報に基づいたクラスタ分析によりピークをクラスタリングし、基準とされた目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と同じクラスタに分類された他のピークを選出するようにしてもよい。
【0016】
さらにまた、各ピークの空間強度分布情報に基づいた主成分分析を実行して各ピクセルのスコアや各ピークのローディング等の指標値を算出し、例えば基準とされた目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークと同一主成分においてローディング値が大きい順に所定個数のピークを選出する、ローディング値が所定閾値以上を示すピークを選出する、といった規則で以てピークを選出するようにしてもよい。
【0017】
上記いずれの手法によっても、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と類似性の高い空間強度分布を示すピーク(通常は複数のピーク)が選出される筈であるから、該ピークに対応する質量電荷比を例えば組成推定ソフトウエアや、データベース検索ソフトウエア等の成分同定ソフトウエアをコンピュータ上で動作させることにより具現化される化合物解析手段に供することにより、目的化合物の同定や組成・構造解析を実施する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る質量分析データ解析方法及び解析装置によれば、試料上の一部の領域で分析対象である目的化合物と夾雑物とが混在していた場合であっても、MSn分析によるプロダクトイオンの空間強度分布情報を利用して、夾雑物の影響を除外して目的化合物由来のプロダクトイオンを的確に選出することができる。それによって、同定や組成解析に供される情報の正確性が向上するため、目的化合物の同定や組成解析の精度・確度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る質量分析データ解析装置を利用したイメージング質量分析装置の一実施例の概略構成図。
【図2】本実施例のイメージング質量分析装置におけるマススペクトルデータ収集動作及びデータ解析動作の概略説明図。
【図3】本実施例のイメージング質量分析装置における特徴的なデータ解析動作のフローチャート。
【図4】グルタチオンを滴下した肝臓ホモジネートサンプルのイメージングMS平均強度スペクトルの一例を示す図。
【図5】グルタチオンを滴下した肝臓ホモジネートサンプルに対しm/z306.08をプリカーサイオンとして得られたイメージングMS2平均強度スペクトルの一例を示す図。
【図6】試料上の分析領域における光学顕微画像の一例(a)、イメージングMS、イメージングMS2での分析領域を示す図(b)、(a)に示した分析領域に対するイメージングMSで得られたm/z306.08の空間強度分布画像を示す図(c)、及び、(a)に示した分析領域に対するイメージングMS2で得られたm/z254.09の空間強度分布画像を示す図(d)。
【図7】図6に示したイメージングMS及びイメージングMS2スペクトルデータに基づく基準ピーク(m/z254.09)及び他ピークの相関係数の算出結果を示す図。
【図8】試料上の分析領域における光学顕微画像と、図7に示した基準ピーク(m/z 254.09)及び順相関となった23個のピーク中の13個のピークに対して得られた空間強度分布画像を示す図。
【図9】図7に示した基準ピーク(m/z 254.09)及び順相関となった23個のピーク中の10個のピークに対して得られた空間強度分布画像を示す図。
【図10】図7に示した基準ピーク(m/z 254.09)及び逆相関となったm/z279.08のピークに対して得られた空間強度分布画像を示す図。
【図11】グルタチオンの構造式から算出したフラグメントイオンの質量を示す図。
【図12】図11中の4個のプロダクトイオンの開裂部位を示す図。
【図13】組成推定ソフトウエア(Formula Predictor)で推定された3つの候補組成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る質量分析データ解析装置を用いたイメージング質量分析装置の一実施例について、添付図面を参照して説明する。図1は本実施例によるイメージング質量分析装置の概略構成図である。
【0021】
このイメージング質量分析装置は、試料8上の2次元測定対象領域8aの顕微観察を行うとともに該領域8a内のイメージング質量分析を実行するイメージング質量分析本体部1と、イメージング質量分析本体部1で収集された質量分析スペクトルデータ(MSスペクトルデータ、MSnスペクトルデータ)を解析処理するデータ処理部2と、質量分析スペクトルデータを記憶しておくデータ記憶部3と、イメージング質量分析本体部1で撮影された画像信号を処理して光学顕微画像を構成する顕微画像処理部4と、それら各部を制御する制御部5と、制御部5に接続された操作部6及び表示部7と、を備える。
【0022】
図示しないが、イメージング質量分析本体部1は例えば、非特許文献1などに記載のように、MALDIイオン源、イオン輸送光学系、イオントラップ、飛行時間型質量分析器、などを含み、所定サイズの微小領域に対する所定の質量電荷比範囲に亘る質量(MS)分析や、1回以上のプリカーサイオンの選択及びイオン開裂操作を伴うMSn分析を実行する。また、イメージング質量分析本体部1は試料8が載置されたステージを互いに直交するx、yの2軸方向に高精度で移動させる駆動部を含み、試料8を所定ステップ幅で移動させる毎に上記MS分析やMSn分析を実行することにより、任意の2次元測定対象領域8aに対するMSスペクトルデータ、MSnスペクトルデータの収集が可能である。
【0023】
後述する特徴的なデータ処理を実行するために、データ処理部2は、データマトリクス作成部21、統計解析処理部22、プロダクトイオンピーク選定部23、組成推定部24などを機能ブロックとして含む。なお、データ処理部2、データ記憶部3、顕微画像処理部4、制御部5、などの機能の少なくとも一部は、パーソナルコンピュータに搭載された専用の処理・制御ソフトウエアを実行することにより達成されるようにすることができる。
【0024】
本実施例のイメージング質量分析装置は、イメージング質量分析本体部1により収集された膨大な量のMSスペクトルデータ、MSnスペクトルデータを解析処理して表示部7の画面上に表示するデータ処理部2におけるデータ解析処理にその特徴を有する。図2は本実施例のイメージング質量分析装置におけるマススペクトルデータ収集動作及びデータ解析動作の概略説明図、図3は本実施例のイメージング質量分析装置における特徴的なデータ解析手順を示すフローチャートである。また、図4〜図13はいずれもこのデータ解析処理を適用した検証例である。図2〜図13を参照して、本発明に特徴的なデータ解析処理の一例を詳細に説明する。
【0025】
試料8に対する分析実行時に、イメージング質量分析本体部1は、図2中に示すように、試料8上に設定された所定の2次元測定対象領域8a内をx方向、y方向にそれぞれ細かく区分した微小領域8b毎にMSスペクトルデータ及びMS2スペクトルデータを取得する。MSスペクトルデータは所定の質量電荷比範囲に亘る強度信号を示すマススペクトルを構成するデータである。また、MS2スペクトルデータは、一つの微小領域8bにおいて得られたMSスペクトルに出現している各種ピークの中から自動的に選択された(又は分析者により手動で選択された)ピーク(図2中ではm/zがmpであるピーク)をプリカーサイオンとしてイオントラップにおいて開裂操作を行い、それにより生成されたプロダクトイオンを質量分析することにより得られたものである。MS2分析のプリカーサイオンは解析対象である目的化合物由来のイオンである。なお、微小領域8bは図2に示すように2次元測定対象領域8a内全体に密に設けられていなくてもよく、例えば疎らに存在していてもよい。
【0026】
通常、微小領域8bの1辺の長さは試料8が載置されたステージの移動ステップ幅により決まる。後述する或る質量電荷比における空間強度分布を示すマッピング画像では、1個の微小領域8b毎にカラー2次元表示画像上の表示色が定められる。したがって、色付けなどの画像処理上ではこの微小領域が最小単位となるので、画像処理上のピクセルと微小領域とは同義であり、以下の説明では微小領域をピクセルと呼ぶ。即ち、図2に示すように、ここでは2次元測定対象領域8a内に格子状にピクセルが配列されている。
【0027】
図3に示したデータ解析処理は、試料上の2次元測定対象領域8aに対するMSイメージングデータ及びMS2イメージングデータがデータ記憶部3に格納されている状態で実行される。図4〜図13に示した検証例において利用されるデータは、マウスの肝臓ホモジネートサンプル上に標準物質であるグルタチオン(略称:GSH、化学組成式:C10H17N3O6S、モノアイソトピック質量:307.08u)を滴下し、負イオン化モードでのイメージングMS分析及びイメージングMS2分析を行って得られたものである。MALDIのためのマトリクスである9-アミノアクリジン(aminoacridine)は蒸着法により塗布した。図6(a)の光学顕微画像に示したように、ホモジネートによりマウスの肝臓の組織構造は殆ど失われており、4箇所の略円形状のGSHの滴下痕のみが明瞭に確認可能である。
【0028】
上記サンプルに対し分析点間隔を10μmに設定してイメージングMS分析を行った場合の、分析領域全体のMS平均強度スペクトルを図4に示す。イメージングMS分析で検出できた各イオンピークの空間強度分布画像を確認したところ、m/z306.08で光学顕微画像に類似した特異的な空間強度分布を示した(図6(c)参照)。このピークのm/z値はGSHの脱プロトン化分子[M−H]-の質量と一致する。さらに、このピークに対応した物質を同定するために、m/z306.08をプリカーサイオンとするイメージングMS2分析を行った。ここで、分析領域を物質の局在部位としたいため、イメージングMS2分析とイメージングMS分析とにおけるイオン化レーザ光照射位置が完全に重なるのを避けるべく、イメージングMS2分析領域8a2をイメージングMS分析領域8a1から5μmだけずらした入れ子状態に設定した(図6(b)参照)。イメージングMS2分析で得られた分析領域全体のMS2平均強度スペクトルを図5に示す。図6(d)は、イメージングMS2分析で検出できたm/z254.09のイオンの空間強度分布である。上記のようなMS平均強度スペクトルやMS2平均強度スペクトルを求めるためのピクセル毎のMSスペクトルデータ及びMS2スペクトルデータがデータ記憶部3に格納されているものとする。
【0029】
解析開始が指示されると、データ処理部2においてデータマトリクス作成部21はデータ記憶部3から処理対象であるMSイメージングデータ及びMS2イメージングデータを読み込む(ステップS1)。そして、分析領域全体のMS2平均強度スペクトル(又はMS2積算スペクトル)を求め、このMS2平均強度スペクトルに対してピークピッキング処理を実行して有意なピークを所定個数選出する(ステップS2)。典型的には、信号強度が高いピークから順に所定個数のピークを選出すればよい。これにより、信号強度の小さなノイズピークは除去される。なお、ピークピッキングの手法はこれに限るものでなく、例えば、信号強度が高くても予め指定された特定の質量電荷比を持つピークや特定の質量電荷比範囲に含まれるピークを選出から除外したり、逆に、信号強度が低くても予め指定された特定の質量電荷比を持つピークや特定の質量電荷比範囲に含まれるピークを優先的に選出したりする、といった処理を加えることも考えられる。なお、上記検証例では強度上位の50個のピークを選出した。
【0030】
データマトリクス作成部21は次に、選出された所定個数のピークの質量電荷比(m/z値)とピクセルの番号とを行方向及び列方向のパラメータとし、強度値をマトリクスの要素とした2次元データマトリクスを作成する(ステップS3)。図2中には、ステップS3で作成されるデータマトリクスの一例を示している。このデータマトリクスにおいては、縦方向の一列の各要素が同一m/z値(例えばm1、m2、m3、…)に対する各ピクセル(例えばp1、p2、p3、…)における強度値であるから、特定のm/z値に対する空間強度分布情報を示すことになる。一方、横方向の一行の各要素は1個のピクセルにおける各m/z値の強度値であるから、特定のピクセルのスペクトル情報を示すことになる。
【0031】
MS2イメージングデータに基づくデータマトリクスが作成されると、統計解析処理部22は同定したい又は組成解析をしたい特異的な空間強度分布を示す一つのピーク(m/z値)を基準ピークとして自動的に選出する(ステップS4)。例えば平均強度が最も大きくなるピークを基準ピークとして自動的に選出するようにしてもよいが、平均強度が最大であるピークが必ずしも特異的な空間強度分布を示さない場合がある。一般的には、MS2分析実行時のプリカーサイオンの空間強度分布に類似した空間強度分布を示すプロダクトイオンのピークは目的化合物由来のものであると考えられるから、平均強度が高く且つプリカーサイオンの空間強度分布に類似した空間強度分布を示すピークを基準ピークとするとよい。また、各ピークの空間強度分布画像を作成して表示部7の画面上に表示させ、分析者がそれを目視で確認しながら、特異的な空間強度分布を示すピークを基準ピークとして選出できるようにしてもよい。上記検証例では、図6(d)に示したm/z254.09のイオンの空間強度分布が図6(c)に示したプリカーサイオンの空間強度分布に類似しており、平均強度も高いことから、このm/z254.09を基準ピークとして選出した。
【0032】
基準ピークが決まると統計解析処理部22は、データマトリクスの要素として選出されているピークに対して統計解析を適用し、基準ピークと類似した空間強度分布を示すピークを抽出する(ステップS5)。具体的な一例として、図2中に示すように、基準ピークの空間強度分布を示すデータ(データマトリクスの縦一列のデータであり、図2の例ではm/z=m3のデータ)と他の一つのピークの空間強度分布を示すデータとの相関係数を計算する。上記検証例について、基準ピークと他ピークとの相関係数を計算した結果が図7である。相関係数の符号が正(順相関)であって値が大きいピークほど、基準ピークと類似した空間強度分布である可能性が高い。逆に、相関係数の符号が負(逆相関)となるピークは空間強度分布が基準ピークと反転している可能性があり、プロダクトイオンではあり得ないといえる。なお、No.1は基準ピークであるから相関係数は1.000である。
【0033】
なお、ステップS5における統計解析手法としては、相関係数を用いる方法のほかに、クラスタ分析や主成分分析などの多変量解析手法を利用してもよい。クラスタ分析の場合には、基準ピークと同一クラスタに分類されたピークを、基準ピークと類似した空間強度分布を持つピークとして選出すればよい。また、主成分分析の場合には、基準ピークと同一主成分においてローディング値の大きなピークを、基準ピークと類似した空間強度分布を持つピークとして選出すればよい。
【0034】
次にプロダクトイオンピーク選定部23は、ステップS5の処理の結果、基準ピークと類似した空間強度分布である可能性が高いと判断された1乃至複数のピークの空間強度分布画像を作成し、これを表示部7の画面上に表示する(ステップS6)。分析者は表示された空間強度分布画像を確認し、特異的な分布を示す(具体的にはプリカーサイオンの空間強度分布に類似した分布を示す)ピークを目的化合物由来のプロダクトイオンピークであると判断し、操作部6によりその旨を指示する。この指示に応じてプロダクトイオンピーク選定部23は目的化合物由来のプロダクトイオンピークを選出する(ステップS7)。なお、プロダクトイオンピーク選定部23は順相関であって相関係数の大きな所定個数のピークを自動的に目的化合物由来のプロダクトイオンピークとして選出してもよい。
【0035】
上記検証例では、ステップS6の処理により、図8〜図10に示したような空間強度分布画像が作成・表示されることになる。もちろん、必ずしも全ての画像を作成・表示しなくてもよい。ここでは、図8〜図10に示した画像から、基準ピーク(m/z254.09)と順相関となった23個のピーク(図7中のN0.2〜No.24)のうち、順相関で且つ強度上位の3個のピーク(m/z272.08、m/z179.06、m/z288.08)がGSH由来のプロダクトイオンピークであると判断した。一方、図5のMS2スペクトルではm/z279.08のピーク強度は比較的大きく上位から4番目であるが、基準ピーク(m/z254.09)に対し逆相関であることから、これは目的化合物以外の物質由来のもの(例えば目的化合物由来のプリカーサイオンと偶然に質量電荷比が一致した別の物質由来のプロダクトイオンなど)であると考えられる。このことは図10に示した空間強度分布画像からも理解できる。
【0036】
上記検証例では、図5に示したMS2平均強度スペクトルのピーク強度のみを基準として判断した場合に、目的化合物由来のプロダクトイオンであると判断されてしまう4個のピークについて、本実施例のデータ処理によれば、目的化合物由来のプロダクトイオンピークとそれ以外のピークとに選別することができることが分かる。
【0037】
検証例における解析対象物質であるグルタチオンは、グルタミン酸(E)、システイン(C)、グリシン(G)がこの順に結合したトリペプチドであり、グルタチオンの構造式からフラグメントイオンの質量を計算すると図11に示すようになる。この図11中の4個のプロダクトイオンの開裂部位を示したのが図12である。図11を見ると、上記データ処理によりGSH由来のプロダクトイオンピークであると判断された3個のピーク(m/z272.08、m/z179.06、m/z288.08)及び基準ピークは図11中に含まれる、つまりGSHの構造式から算出したフラグメントイオンの質量と一致することが確認できる。一方、上記データ処理により目的化合物以外の物質由来であると判断された1個のピーク(m/z279.08)は図11中に含まれない。なお、図12に示した構造式は公開データベースであるHuman Metabolome Databaseから引用したものである。
【0038】
ステップS7において目的化合物由来のプロダクトイオンが選出されると、組成推定部24は、MS2分析のプリカーサイオンに関する情報(質量電荷比)と、上記選出されたプロダクトイオンに関する情報とを入力値とし、データベース検索を実行することにより目的化合物の組成推定又は同定を行う(ステップS8、S9)。上記検証例では、プリカーサイオンm/z306.08と4個のプロダクトイオンピークm/z254.09、m/z272.08、m/z179.06、m/z279.08を組成推定ソフトウエアFormula Predictor(島津製作所製)に入力し、候補組成を求めた。得られた3種類の候補組成を図13に示す。さらに、これら3種類の候補組成が化合物として存在するものか否かを確認するため、有機化合物辞書データベース「日本化学物質辞書(日化辞)」を用いて検索したところ、GSHの組成(C10H17N3O6S)のみがヒットした。以上の検証結果から、上述したデータ処理により的確な組成推定が行え、それに基づく物質同定も正しく行えることが確認できた。
【0039】
なお、上記実施例は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【0040】
例えば、上記実施例のステップS4ではMS2スペクトルから基準ピークを選定する代わりに、MS2分析のプリカーサイオンピーク(検証例ではm/z306.08)を基準ピークとしてもよい。特に、上記実施例のようにMS分析領域とMS2分析領域が入れ子状に設定され、且つ互いの分析点間隔が狭い場合には、MS2スペクトルから基準ピークを選んだ場合と同程度の正確さで相関係数の算出が可能である。
【符号の説明】
【0041】
1…イメージング質量分析本体部
2…データ処理部
21…データマトリクス作成部
22…統計解析処理部
23…プロダクトイオンピーク選定部
24…組成推定部
3…データ記憶部
4…顕微画像処理部
5…制御部
6…操作部
7…表示部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上の2次元領域内に設定された複数の微小領域に対してそれぞれMSn(n≧2の整数)分析を実行することにより収集されたデータを解析処理する質量分析データ解析方法であって、
a)微小領域毎に得られるMSnスペクトルデータから強度値と質量電荷比とを含むピーク情報を収集するピーク情報収集ステップと、
b)各微小領域のピーク情報を集め、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布を基準とし他の各ピークの強度値を用いた統計的解析処理を行うことにより、前記目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と類似性の高い空間強度分布を示すピークを選出する統計的解析ステップと、
c)選出されたピークが目的化合物由来のプロダクトイオンによるピークであると判断し、該プロダクトイオンの少なくとも質量電荷比を利用して目的化合物の同定又は組成・構造解析を実施する化合物解析ステップと、
を有することを特徴とする質量分析データ解析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分析データ解析方法であって、
前記統計的解析処理は、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と他のピークの空間強度分布との相関性を計算する処理であることを特徴とする質量分析データ解析方法。
【請求項3】
請求項1に記載の質量分析データ解析方法であって、
前記統計的解析処理は、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と他のピークの空間強度分布とに対する主成分分析であることを特徴とする質量分析データ解析方法。
【請求項4】
請求項1に記載の質量分析データ解析方法であって、
前記統計的解析処理は、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と他のピークの空間強度分布とに対するクラスタ分析であることを特徴とする質量分析データ解析方法。
【請求項5】
試料上の2次元領域内に設定された複数の微小領域に対してそれぞれMSn(n≧2の整数)分析を実行することにより収集されたデータを解析処理する質量分析データ解析装置であって、
a)微小領域毎に得られるMSnスペクトルデータから強度値と質量電荷比とを含むピーク情報を収集するピーク情報収集手段と、
b)各微小領域のピーク情報を集め、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布を基準とし他の各ピークの強度値を用いた統計的解析処理を行うことにより、前記目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と類似性の高い空間強度分布を示すピークを選出する統計的解析手段と、
c)選出されたピークが目的化合物由来のプロダクトイオンによるピークであると判断し、該プロダクトイオンの少なくとも質量電荷比を利用して目的化合物の同定又は組成・構造解析を実施する化合物解析手段と、
を備えることを特徴とする質量分析データ解析装置。
【請求項1】
試料上の2次元領域内に設定された複数の微小領域に対してそれぞれMSn(n≧2の整数)分析を実行することにより収集されたデータを解析処理する質量分析データ解析方法であって、
a)微小領域毎に得られるMSnスペクトルデータから強度値と質量電荷比とを含むピーク情報を収集するピーク情報収集ステップと、
b)各微小領域のピーク情報を集め、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布を基準とし他の各ピークの強度値を用いた統計的解析処理を行うことにより、前記目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と類似性の高い空間強度分布を示すピークを選出する統計的解析ステップと、
c)選出されたピークが目的化合物由来のプロダクトイオンによるピークであると判断し、該プロダクトイオンの少なくとも質量電荷比を利用して目的化合物の同定又は組成・構造解析を実施する化合物解析ステップと、
を有することを特徴とする質量分析データ解析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分析データ解析方法であって、
前記統計的解析処理は、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と他のピークの空間強度分布との相関性を計算する処理であることを特徴とする質量分析データ解析方法。
【請求項3】
請求項1に記載の質量分析データ解析方法であって、
前記統計的解析処理は、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と他のピークの空間強度分布とに対する主成分分析であることを特徴とする質量分析データ解析方法。
【請求項4】
請求項1に記載の質量分析データ解析方法であって、
前記統計的解析処理は、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と他のピークの空間強度分布とに対するクラスタ分析であることを特徴とする質量分析データ解析方法。
【請求項5】
試料上の2次元領域内に設定された複数の微小領域に対してそれぞれMSn(n≧2の整数)分析を実行することにより収集されたデータを解析処理する質量分析データ解析装置であって、
a)微小領域毎に得られるMSnスペクトルデータから強度値と質量電荷比とを含むピーク情報を収集するピーク情報収集手段と、
b)各微小領域のピーク情報を集め、目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布を基準とし他の各ピークの強度値を用いた統計的解析処理を行うことにより、前記目的化合物由来である又は目的化合物由来であると推定されるピークの空間強度分布と類似性の高い空間強度分布を示すピークを選出する統計的解析手段と、
c)選出されたピークが目的化合物由来のプロダクトイオンによるピークであると判断し、該プロダクトイオンの少なくとも質量電荷比を利用して目的化合物の同定又は組成・構造解析を実施する化合物解析手段と、
を備えることを特徴とする質量分析データ解析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図11】
【図12】
【図13】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図11】
【図12】
【図13】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−40808(P2013−40808A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176669(P2011−176669)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
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