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質量分析データ解析方法
説明

質量分析データ解析方法

【課題】MSn分析によって得られたデータを基に未知物質の構造推定を容易に行うことのできる質量分析データ解析方法を提供する。
【解決手段】未知物質のプリカーサイオンの質量電荷比からその組成式を推定し(S12)、該未知物質に類似する既知物質の構造式と所定の構造変化パターンを組み合わせることで該組成式と同様の組成式が得られる構造候補を作成する(S14)。該構造候補から発生するフラグメントイオンピークを推定し(S15)、それを基に前記構造候補を蓋然性の高い順にランク付けする(S16)。次に、未知物質と既知物質のマススペクトルを比較し、両者に共通するフラグメントイオンピークを探索する(S19)、共通するピークが存在した場合には該ピークに対応する既知物質の部分構造が未知物質にも含まれているものと推定し、該部分構造情報を基に上記構造候補の絞り込みを行う(S21)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析対象試料に由来するプリカーサイオンを1回又は複数回開裂させ、該開裂によって発生したフラグメントイオンを質量分析するMSn分析によって得られたデータを解析するための質量分析データ解析方法に関し、特に或る構造既知の物質に類似した未知物質の構造を推定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオントラップ型質量分析装置などを用いた質量分析においてはMS/MS分析という手法が知られている。一般的なMS/MS分析では、まず分析対象物から目的とする特定の質量電荷比を有するイオンをプリカーサイオン(親イオン)として選別し、その選別したプリカーサイオンをCID(Collision Induced Dissociation:衝突誘起分解)によって開裂させ、開裂イオンを生成する。開裂様式は元の化合物の構造に依存するため、開裂によって生成したフラグメントイオンを質量分析することによって、目的とするイオンの質量や化学構造についての情報を取得することができる。
【0003】
近年、こうした装置で分析しようとする試料はますます分子量が大きくなり、構造(組成)も複雑になる傾向にある。そのため、試料の性質によっては、一段階の開裂操作だけでは十分に小さな質量までイオンが開裂しない場合がある。そうした場合には、開裂の操作を複数回(n-1回)繰り返し、生成したフラグメントイオンを質量分析するMSn分析が行われることもある(例えば特許文献1、2など参照)。なお、上記のような1回の開裂操作によるフラグメントイオンの質量分析はMS2分析である。
【0004】
このようなMSn分析により得られたデータから未知物質の構造を推定するための解析処理としては、マススペクトルデータベースを用いたいわゆるパターンマッチングという処理が挙げられる。マススペクトルデータベースには、様々な既知化合物についての情報、すなわち、所定のイオン化法を用いて質量分析を行ったときに得られるマススペクトルのデータの他、化合物名、分子量、組成式、構造式等の情報が含まれている。このような既知化合物のマススペクトルと未知物質のマススペクトルとを指定された検索条件の下でパターンマッチングすることにより、該未知物質のスペクトルピークパターンに一致する物質を特定することができる。
【0005】
【特許文献1】特開平10−142196号公報
【特許文献2】特開2001−249114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、データベースが厖大であったとしても分析対象の全ての化合物が登録されている訳ではない。特に、農薬、医薬品等では、化合物の基本骨格が同一であって一部に成分又は置換基を置き換えた(例えばメチル基をエチル基に、塩素を臭素に置換する)ものが多く、これらを全てライブラリに登録しておくことは実際上不可能である。そのため、目的とする未知物質がデータベースに登録されていない場合があり、このような場合には、該未知物質の分子構造を推定することは困難であった。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、MSn分析によって得られたデータを基に、未知物質の構造推定を容易に行うことのできる質量分析データ解析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析データ解析方法の第1の態様のものは、未知物質に由来するプリカーサイオンをn-1(n≧2)段階に開裂させ、発生したフラグメントイオンを質量分析するMSn分析を行った結果に基づいて前記未知物質の構造を推測する質量分析データ解析方法であって、
a) 前記MSn分析により得られた未知物質のマススペクトルと該未知物質と類似する既知物質のMSn分析により得られるマススペクトルとを比較し、両者に共通に存在するフラグメントイオンピークを抽出するステップと、
b) 該共通するフラグメントイオンピークに対応する前記既知物質の部分構造を特定するステップと、
c) 前記部分構造を前記未知物質の部分構造として決定するステップと、
を有することを特徴としている。
【0009】
また、本発明の質量分析データ解析方法の第2の態様のものは、上記構成に加えて更に、
h) 上記未知物質に由来するプリカーサイオンの質量電荷比から該プリカーサイオンの組成式を導出するステップと、
i) 上記既知物質の構造と既知の構造変化パターンとを組み合わせることにより、前記組成式と同様の組成式が得られるような構造候補を作成するステップと、
j) 前記構造候補からMSn分析により発生するフラグメントイオンピークを推定するステップと、
k) 該フラグメントイオンピークを上記未知物質のMSn分析によって得られたフラグメントイオンピークと比較することにより、前記構造候補を該未知物質の構造として蓋然性の高い順にランク付けするステップと、
を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
上記構成を有する本発明の第1の態様に係る質量分析データ解析方法は、未知物質について得られたMSn分析のマススペクトルと該未知物質に類似した既知物質のMSn分析により得られるマススペクトルを比較することにより、該未知物質の構造推定を行うものである。既知物質から生じるフラグメントイオンピークは該既知物質の部分構造に帰属させることができるため、該既知物質と前記未知物質の両方から共通して発生するフラグメントイオンピークを特定することにより、該未知物質に含まれる部分構造を推定することができる。このため、データベースに登録されていない物質であってもその構造推定を容易に行うことができるようになり、分析効率を向上させることができる。なお、前記「既知物質のMSn分析により得られるマススペクトル」とは、該既知物質について予めMSn分析を行って測定されたものであってもよく、あるいは該既知物質の構造から推定されたものであってもよい。
【0011】
上記本発明の第1の態様のものにおいては、前記未知物質のMSn分析結果と既知物質の情報とを比較する際に、上記のフラグメントイオンピークの情報に加えてプリカーサイオンの質量電荷比とMSn分析の各段階におけるフラグメントイオンの質量電荷比の差の値を用いるようにしてもよい。この場合、予め既知物質について前記のような質量電荷比差の値を求めておき、これを未知物質のMSn分析結果から算出される前記質量電荷比差の値と比較することにより、両者に共通するものを抽出する。該質量電荷比差はプリカーサイオンの開裂によって脱離した要素に起因するものであり、前記既知物質の部分構造に帰属させることができるため、該既知物質と前記未知物質の両方から得られる質量電荷比差の値を求めることにより、該未知物質に含まれる部分構造を推定することができる。更に、前記質量電荷比差としてはプリカーサイオンとフラグメントイオンの質量電荷比差のみならず、多段階の開裂操作を伴うMSn分析の各段階で生じるフラグメントイオンの質量電荷比と該フラグメントイオンの基となった前段のフラグメントイオン又はプリカーサイオンの質量電荷比の差を用いることもできる。
【0012】
また、上記構成を有する本発明の第2の態様に係る質量分析データ解析方法によれば、分析対象である未知物質に類似した既知物質の構造と既知の構造変化パターンとの組み合わせから該未知物質の全体構造を推定することができる。前記未知物質は前記既知物質の構造の一部が変化したものであると考えられるため、まず未知物質のプリカーサイオンの質量電荷比からその組成式を推定し、上記組み合わせにより該組成式と同じ組成式が得られるような修飾を受けた既知物質の構造を作成し、前記未知物質の構造候補として列挙する。続いて、該構造候補に対してMSn分析を行った場合に発生すると予想されるフラグメントイオンピークを導出し、該フラグメントイオンピークの情報に基づいて前記未知物質のMSn分析により生じたフラグメントイオンをよく説明できる順に前記構造候補をランク付けする。これにより、未知物質の構造をより容易に推定できるようになると共に、上述のような未知物質と既知物質に共通するフラグメントイオンピーク等が見つからない場合であっても該未知物質の構造推定を行うことができるようになる。
【0013】
なお、本発明の質量分析データ解析方法による未知物質の構造推定を行うためには、該未知物質と類似した構造を有する既知物質の情報が必要となる。従って、例えば構造未知の物質に対してMSn分析を行い、上述のようなデータベースを用いたパターンマッチングによって該未知物質に類似するものとして或る既知物質がヒットしたような場合に、前記未知物質のMSn分析結果と前記データベースに記載された該類似物質の情報を用いて本発明を実施することができる。また、薬物動態試験における代謝物の定量・構造解析や医薬品等の合成における反応副産物や分解生成物等の類縁不純物の同定等のように、多数の成分が混在する試料に対してMSn分析を行い、該混合試料中に含まれる既知物質と類似する成分を該MSn分析のデータから選出した上でその構造解析を行うような場合にも本発明を適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る質量分析データ解析方法を実行する質量分析データ解析装置(以下、単に「データ解析装置」とする)の一実施例について図面を参照しながら説明する。なお、ここでは、液体クロマトグラフ質量分析装置による分析結果を利用する場合を例にとるが、ガスクロマトグラフ質量分析装置等の他のクロマトグラフ質量分析装置や、試料の直接導入を行う質量分析装置を用いる場合も同様である。
【0015】
図1は本実施例のデータ解析装置10の構成を示す図である。データ解析装置10は、液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)20から送出される検出データを処理するものであり、中央制御部11、スペクトルデータ作成部12、解析処理部13、測定データ記憶部14、参照データ記憶部15、及び構造変化パターン記憶部16を備えている。測定データ記憶部14、参照データ記憶部15、及び構造変化パターン記憶部16は中央制御部11に接続されている。また、中央制御部11には入力装置30及び表示装置40が接続されている。なお中央制御部11は、LC/MS20の各部の動作を制御する機能も兼ね備えている。
【0016】
上記において、中央制御部11、スペクトルデータ作成部12、及び解析処理部13はコンピュータ・プログラムに従って動作するCPUにより構成することができる。測定データ記憶部14にはハードディスク(HD)や光磁気ディスク(MO)等の読出/書込可能な記憶装置が利用できる。参照データ記憶部15及び構造変化パターン記憶部16にもHD等が利用可能であるが、参照データ記憶部15及び構造変化パターン記憶部16へのデータの書込を行わないような構成とする場合は、CD−ROMのような読出専用の装置を用いてもよい。参照データ記憶部15には様々な化合物に関するデータ(構造式、組成式、MSn分析の各段におけるスペクトルデータ、及び該スペクトルデータ中の各フラグメントイオンピークに対応する部分構造の情報など)が格納されており、分析者が入力装置30を操作することにより前記化合物の中から適当な化合物を指定することができるようになっている。構造変化パターン記憶部16には既知の構造変化パターン(例えば、置換基の置き換え、付加、脱離など)に関する情報が格納されている。また、図1では、測定データ記憶部14、参照データ記憶部15、及び構造変化パターン記憶部16がそれぞれ独立に配置されているが、これらの記憶部は、単一の記憶装置(HD等)を論理的に分割して構成することも可能である。なお、入力装置30にはキーボードやマウス等を利用することができ、表示装置40にはCRTやプリンタ等が利用できる。
【0017】
このようなデータ解析装置10は、LC/MS専用の制御・解析ユニットとして具現化してもよく、あるいはパーソナルコンピュータ等の汎用コンピュータに本発明の解解析方法を実行するためのプログラムをインストールすることにより具現化してもよい。
【0018】
LC/MS20は、混合試料を時間的に分離するためのカラムを有する液体クロマトグラフ装置とMSn分析(少なくともMS2分析)が可能な質量分析装置で構成される。このような質量分析装置としては、例えば、三連四重極型の質量分析装置やイオントラップ型の質量分析装置等を用いることができる。クロマトグラフ装置のカラムから溶出される試料成分は質量分析装置によって順次イオン化されてMSn分析に供される。このとき、各試料成分由来のイオンから適当な質量電荷比を有するイオンがプリカーサイオンとして自動的に選択され、該プリカーサイオンを開裂させて発生したフラグメントイオンの質量分離・検出が行われる。また、必要に応じてこのようなイオンの選択・開裂・検出を複数回繰り返すこともできる。
【0019】
試料の測定中は、LC/MS20からデータ解析装置10に対し、各質量電荷比毎に検出されたイオン数に応じた電流による検出データ(デジタル化された検出信号)が送られる。スペクトルデータ作成部12は、所定のアルゴリズムに従って該検出データを処理することにより、質量電荷比と該質量電荷比におけるピーク強度(相対信号強度)とが対となったスペクトルデータを算出し、測定データ記憶部14に格納する。また、開裂操作を行わないMS1分析により得られたスペクトルデータを基にトータルイオンクロマトグラム(Total Ion Chromatogram:TIC)が作成され同様に測定データ記憶部14に格納される。
【0020】
次に、試料の測定終了後の解析処理について説明する。ここでは、上記LC/MS20及びデータ解析装置10を用いて複数成分を含有する混合試料に対してMS2分析を行い、取得されたデータから所定の既知物質に類似した未知物質を選出した上で、該未知物質に対して本発明の質量分析データ解析方法による構造解析を実施する場合を例に挙げて説明を行う。
【0021】
まず中央制御部11は測定データ記憶部14及び参照データ記憶部15からそれぞれ前記TIC上の各ピークに対応するスペクトルデータ(MSn分析の各段階において得られたスペクトルデータ)及び分析者により指定された既知物質のスペクトルデータを読み出して解析処理部13へ転送する。
【0022】
解析処理部13は、これらのスペクトルデータに基づいて、後述の多変量解析に使用する変数を導出してテーブル化する。ここで、多変量解析に用いられる変数としては、例えば、(1)MSn分析の各段におけるフラグメントイオンの質量電荷比、(2)MSn分析の各段におけるフラグメントイオンの質量電荷比と上記プリカーサイオンの質量電荷比の差、(3)MSn分析の各段におけるフラグメントイオンの質量電荷比と該フラグメントイオンの基となった前段のフラグメントイオン又はプリカーサイオンの質量電荷比の差、(4)プリカーサイオンの同位体分布パターンなどを用いることができる。
【0023】
続いて、解析処理部13において前記テーブルに基づく多変量解析が実行される。ここで用いられる多変量解析の手法としては、例えば、階層的クラスター分析(Hierarchical Cluster Analysis:HCA)、主成分分析(Principal Component Analysis:PCA)、部分最小二乗法(Partial Least Squares:PLS)等が挙げられる。
【0024】
その後、解析処理部13における多変量解析の結果が表示装置40に出力され、該結果に基づいて類似成分候補が選出される。なお、類似成分候補を選出する手段としては、分析者が表示装置40に表示された解析結果を目で確認することにより行うものとしてもよく、あるいは、既知物質との類似度が予め設定された所定の閾値よりも高かったものをデータ解析装置10が自動的に選出して表示装置40に表示するものとしてもよい。
【0025】
以上により、未知物質のMSnデータと該未知物質に類似した既知物質の情報が得られたことになる。以下、これらの情報に基づいて上記類似成分候補として選出された未知物質の構造推定を行う際の手順について図2のフローチャートを参照しながら説明する。
【0026】
まず、中央制御部11は測定データ記憶部14から解析対象となる未知物質(類似成分候補)に由来するプリカーサイオンの質量電荷比を読み出して解析処理部13に転送する(ステップS11)。解析処理部13は該プリカーサイオンの質量電荷比から推定される組成式を導出する(ステップS12)。続いて、中央制御部11は参照データ記憶部15から前記既知物質の構造式を読み出して解析処理部13に転送する(ステップS13)。解析処理部13は構造変化パターン記憶部16を参照し、該既知物質の構造式と既知の構造変化パターンとを組み合わせることにより、前記未知物質の組成式と同様の組成式が得られるような構造候補を作成する(ステップS14)。
【0027】
続いて解析処理部13はステップS14において導出された構造候補のそれぞれについてMS2分析により各構造候補から生じると予想されるフラグメントイオンピークを導出し(ステップS15)、導出された各フラグメントイオンピークの質量電荷比及びピークの高さを考慮して未知物質の構造候補として蓋然性の高い順に各構造候補をランク付けする(ステップS16)。
【0028】
次に、中央制御部11は上記既知物質のMS2スペクトル及び未知物質のMS2スペクトルをそれぞれ参照データ記憶部15及び測定データ記憶部14から読み出して解析処理部13へと転送する(ステップS17、S18)。解析処理部13は両者を比較して、既知物質のMS2スペクトル及び未知物質のMS2スペクトルに共通して存在するフラグメントイオンピークを探索する(ステップS19)。ステップS19において共通するピークが発見された場合には、該フラグメントイオンピークに対応する既知物質の部分構造が未知物質にも含まれていると推定することができる。
【0029】
例えば、上記既知物質に関する情報として、参照データ記憶部15に図3(a)、(b)に示すようなMSスペクトル及びMS2スペクトル(MSスペクトル上のm/z=402.1923のピークを開裂させて得られたもの)が格納されているとする。更に、該既知物質は図3(b)の構造式で示す分子構造を有すると共に、MS2スペクトル上の各フラグメントイオンピークはそれぞれ該構造式において丸で囲まれた領域に由来し、これらの分子構造及び部分構造に関する情報についても参照データ記憶部15に格納されているものとする。このとき、上記未知物質について得られたMSスペクトル及びMS2スペクトルが図4(a)及び図4(b)に示すようなものであった場合、両者を比較するとm/z=227のピークとm/z=268のピークが共通していることが分かる。従って、該未知物質は図3(b)に示すような、m/z=227とm/z=268のフラグメントイオンピークに対応する部分構造を有していると推定することができる。
【0030】
上記ステップS19において共通するピークが存在していた場合には、中央制御部11は該共通ピークに対応する既知物質の部分構造の情報を参照データ記憶部15から読み出して解析処理部13に転送する(ステップS20)。解析処理部13は該部分構造の情報を用いてステップS16で得られた構造候補の絞り込みを行い(ステップS21)、その結果が蓋然性の高い順に表示装置40に表示される(ステップS22)。一方、ステップS19において共通するピークが発見されなかった場合には、このような絞り込みは行われず、ステップS16の結果が蓋然性の高い順にそのまま表示装置40に表示される(ステップS22)。
【0031】
なお、本発明に係る質量分析データ解析方法は、上記フローチャートに従った構造推定を行うものとするほか、上記未知物質と既知物質に共通するフラグメントイオンピークの探索及び未知物質の部分構造の推定(上記ステップS17〜S20に相当)のみを行うものとしてもよい。例えば、上述の多変量解析により所定の既知物質に対する類似成分候補として選出された複数の未知物質及び該既知物質について、更に、上記変数を用いた多変量解析を行ってこれらの類似成分候補を特徴別にグループ分けし、各グループに属する未知物質についてそれぞれ上記本発明による共通ピークの探索を行う。これにより各グループ内の未知物質と上記既知物質に共通に存在するピークを特定することができる。該ピークは、該グループに属する未知物質と前記既知物質に共通する構造があることを示すものであり、該ピークに対応する既知物質の部分構造から該共通構造を特定することができる。
【0032】
以上、実施例を用いて本発明の質量分析データ解析方法について説明を行ったが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で種々の変更が許容されるものである。例えば、上記実施例ではMS2分析(MS/MS分析)のデータに基づく解析を例に説明したが、2段階以上の開裂を行うMSn分析に基づく解析を行う場合についても同様に本発明を適用することができる。
【0033】
また、上記実施例では、ステップS19〜S21において既知物質と未知物質に共通するフラグメントイオンピークを探索し、その結果を基に構造候補の絞り込みを行うものとしたが、このほかに、各フラグメントイオンの質量電荷比mdとプリカーサイオンの質量電荷比mpとの差を利用するものとしてもよい。この場合、予め既知物質に関する情報としてMS2分析のスペクトルデータや該スペクトルデータ中の各フラグメントイオンピークに対応する部分構造の情報の他に、各フラグメントイオンピークに関する前記質量電荷比差(mp-md)の値、及び該質量差に対応する部分構造の情報を参照データ記憶部15に格納して
おく。該質量電荷比差(mp-md)は開裂によってプリカーサイオンから脱離した要素に相当するものであり、フラグメントイオンピークと同様に既知物質の部分構造に帰属させることができる。従って、未知物質の測定結果からMSnスペクトルの各フラグメントイオンピークについて上記質量電荷比差(mp-md)を算出し、未知物質と既知物質とで共通する質量電荷比差が発見された場合、該質量電荷比差に対応する既知物質の部分構造が未知物質にも含まれていると推定することができる。なお、ここで2段階以上の開裂を行うMSn分析の結果を用いる場合には、上記プリカーサイオンの質量電荷比と各段におけるフラグメントイオンとの質量電荷比差の他に、各段におけるフラグメントイオンとその基になった前段のフラグメントイオン又はプリカーサイオンの質量電荷比差の情報を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る質量分析データ解析方法を実施するための装置の一例を示す概略構成図。
【図2】本発明に係る質量分析データ解析方法による未知物質の構造解析の手順を示すフローチャート。
【図3】本発明の質量分析データ解析方法に用いられる既知物質の(a)MSスペクトル、及び(b)MS2スペクトルの一例を示す図。
【図4】本発明の質量分析データ解析方法に用いられる未知物質の(a)MSスペクトル、及び(b)MS2スペクトルの一例を示す図。
【符号の説明】
【0035】
10...データ解析装置
11...中央制御部
12...スペクトルデータ作成部
13...解析処理部
14...測定データ記憶部
15...参照データ記憶部
16...構造変化パターン記憶部
20...LC/MS
30...入力装置
40...表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未知物質に由来するプリカーサイオンをn-1(n≧2)段階に開裂させ、発生したフラグメントイオンを質量分析するMSn分析を行った結果に基づいて前記未知物質の構造を推測する質量分析データ解析方法であって、
a) 前記MSn分析により得られた未知物質のマススペクトルと該未知物質と類似する既知物質のMSn分析により得られるマススペクトルとを比較し、両者に共通に存在するフラグメントイオンピークを抽出するステップと、
b) 該共通するフラグメントイオンピークに対応する前記既知物質の部分構造を特定するステップと、
c) 前記部分構造を前記未知物質の部分構造として決定するステップと、
を有することを特徴とする質量分析データ解析方法。
【請求項2】
更に、
d) 上記未知物質に対するMSn分析の各段におけるフラグメントイオンの質量電荷比と上記プリカーサイオンの質量電荷比の差、及び/又は該MSn分析の各段におけるフラグメントイオンの質量電荷比と該フラグメントイオンの基となった前段のフラグメントイオン又はプリカーサイオンの質量電荷比の差を算出するステップと、
e) 未知物質に関する上記質量電荷比差の値と既知物質に関する上記質量電荷比差の値とを比較し、両者に共通するものを抽出するステップと、
f) 前記共通する質量電荷比差の値に対応する前記既知物質の部分構造を特定するステップと、
g) 前記部分構造を前記未知物質の部分構造として決定するステップと、
を有することを特徴とする請求項1に記載の質量分析データ解析方法。
【請求項3】
更に、
h) 上記未知物質に由来するプリカーサイオンの質量電荷比から該プリカーサイオンの組成式を導出するステップと、
i) 上記既知物質の構造と既知の構造変化パターンとを組み合わせることにより、前記組成式と同様の組成式が得られるような構造候補を作成するステップと、
j) 前記構造候補からMSn分析により発生するフラグメントイオンピークを推定するステップと、
k) 該フラグメントイオンピークを上記未知物質のMSn分析によって得られたフラグメントイオンピークと比較することにより、前記構造候補を該未知物質の構造として蓋然性の高い順にランク付けするステップと、
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の質量分析データ解析方法。
【請求項4】
未知物質に由来するプリカーサイオンをn-1(n≧2)段階に開裂させ、発生したフラグメントイオンを質量分析するMSn分析を行った結果に基づいて前記未知物質の構造を推測する質量分析データ解析装置であって、
a) 前記MSn分析により得られた未知物質のマススペクトルを読み込む測定データ取得手段と、
b) 前記未知物質と類似する既知物質のMSn分析により得られるマススペクトル、及び該マススペクトル上のフラグメントイオンピークに対応する該既知物質の部分構造情報を格納しておくための記憶手段と、
c) 前記測定データ取得手段により得られた未知物質のマススペクトルと前記記憶手段から読み出された既知物質のマススペクトルとを比較し、両者に共通に存在するフラグメントイオンピークを抽出する共通ピーク抽出手段と、
d) 該共通するフラグメントイオンピークに対応する前記既知物質の部分構造情報を前記記憶手段から読み出す部分構造読み出し手段と、
e) 該部分構造を前記未知物質の部分構造として決定する部分構造決定手段と、
を有することを特徴とする質量分析データ解析装置。
【請求項5】
上記記憶手段が、更に、上記既知物質に関するMSn分析の各段におけるフラグメントイオンの質量電荷比と上記プリカーサイオンの質量電荷比の差、及び/又はMSn分析の各段におけるフラグメントイオンの質量電荷比と該フラグメントイオンの基となった前段のフラグメントイオン又はプリカーサイオンの質量電荷比の差を格納するものであって、
更に、
f) 上記未知物質に関するMSn分析の各段におけるフラグメントイオンの質量電荷比と上記プリカーサイオンの質量電荷比の差、及び/又はMSn分析の各段におけるフラグメントイオンの質量電荷比と該フラグメントイオンの基となった前段のフラグメントイオン又はプリカーサイオンの質量電荷比の差を算出する質量電荷比差算出手段と、
g) 前記質量電荷比差算出手段より得られた未知物質に関する質量電荷比差の値と上記記憶部から読み出された既知物質に関する質量電荷比差の値を比較し、両者に共通するものを抽出する共通質量電荷比差抽出手段と、
h) 該共通する質量電荷比差に対応する前記既知物質の部分構造を前記記憶手段から読み出す部分構造読み出し手段と、
i) 前記部分構造を前記未知物質の部分構造として決定する構造決定手段と、
を有することを特徴とする請求項4に記載の質量分析データ解析装置。
【請求項6】
更に、
j) 上記未知物質に由来するプリカーサイオンの質量電荷比から該プリカーサイオンの組成式を導出する組成式導出手段と、
k) 上記既知物質の構造と既知の構造変化パターンとを組み合わせることにより、前記組成式と同様の組成式が得られるような構造候補を作成する構造候補作成手段と、
l) 該構造候補からMSn分析により発生するフラグメントイオンピークを推定するフラグメントイオン推定手段と、
m) 該フラグメントイオンピークを未知物質のMSn分析によって得られたフラグメントイオンピークと比較することにより、前記構造候補を該未知物質の構造として蓋然性の高い順にランク付けするランク付け手段と、
を有することを特徴とする請求項4又は5に記載の質量分析データ解析装置。
【請求項7】
コンピュータを請求項4〜6のいずれかに記載の質量分析データ解析装置として動作させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−57695(P2013−57695A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−287124(P2012−287124)
【出願日】平成24年12月28日(2012.12.28)
【分割の表示】特願2006−115031(P2006−115031)の分割
【原出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】