質量分析定量法
アナライトを分析する方法であって、(a)前記アナライトを含んでいてもよい試験サンプルと、各アリコートが既知の量のアナライトを含む少なくとも2の異なるアナライト含有アリコートを含むキャリブレーションサンプルとを混合する工程であって、前記試験サンプルと前記キャリブレーションサンプルの各アリコートとを質量分析法によって区別できるように、サンプル及び各アリコートを、質量分析上種類の異なる質量マーカー基をそれぞれ有する1以上の同重質量標識体を用いて相互に異なるように標識する工程と、(b)質量分析法によって、前記試験サンプル中のアナライトの量及び前記キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの量を測定し、前記キャリブレーションサンプルのアリコート中の既知の且つ測定されたアナライトの量に対して、前記試験サンプル中のアナライトの量を較正する工程とを含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験サンプル及びキャリブレーションサンプルを同重(isobaric)質量標識体で標識することによってアナライトを分析する質量分析法に関する。本発明により特に、所望のアナライトの相対的定量及び絶対的定量の少なくともいずれかが容易となる。
【背景技術】
【0002】
放射性原子、蛍光色素、発光試薬、電子捕獲試薬、及び光吸収色素等を用いた、所望の分子を標識する様々な方法が当該技術分野において知られている。これらの標識体系は、それぞれ、特定の用途には適しているが、他の用途には適さないという特徴を有する。安全性の点から、非放射性標識系への関心が高まり、特に遺伝分析のための蛍光標識法が商業的に広く開発されている。蛍光標識法によれば、比較的少数の分子の同時標識が可能で、通常4、最大でおそらく8の標識体を同時に使用できる。しかし、検出装置が高価であり、生じたシグナルの分析が困難であるため、蛍光検出法で同時に使用できる標識体数は制限される。
【0003】
ごく最近、所望の分子に開裂可能に結合した標識体の検出方法が、質量分析法の分野において開発されている。分子生物学への応用において、多くの場合、所望の分子を分析前に分離することが必要であり、その分離する方法として一般的に液相分離法が用いられる。最近の質量分析法では、液相分離用インターフェースが多数開発されており、これにより質量分析法がこのような応用において検出方法として特に効果的なものとなっている。最近まで、液体クロマトグラフィー質量分析法がアナライトイオン及びそのフラグメントイオンのいずれかを直接的に検出するために用いられていたが、核酸分析等多くの場合では、間接標識によってアナライト構造を決定することができる。これは、特に質量分析法の使用に対して有利である。その理由は、DNAのような複雑な生体分子は複雑な質量スペクトルを持つので、検出感度が比較的低くなるからである。間接検出とは、もとのアナライトの同定に標識体分子を用いることができることを意味し、その場合には、高検出感度及び質量スペクトルが単純になるようにその標識体を作製する。質量スペクトルが単純であるとは、複数のアナライトの同時分析に複数の標識体を用いることができることを意味する。
【0004】
特許文献1に記載されている核酸プローブのアレイは、開裂可能な標識体に共有結合し、その標識体は質量分析法で検出可能であり、共有結合した核酸プローブ配列を同定するのに使用される。この出願の標識したプローブは、Nu−L−M構造を有し、式中、NuはLに共有結合した核酸、Lは質量標識体Mに共有結合した開裂可能リンカーである。この出願において好ましい開裂可能リンカーは、質量分析計のイオン源内で開裂する。質量標識体は、置換ポリアリールエーテルであることが好ましい。この出願において、質量分析法により質量標識体を分析する具体的な方法として、様々なイオン化法と四重極質量分析計、TOF分析計、及び磁場型装置による分析が開示されている。
【0005】
特許文献2において、リガンドが開示されており、具体的には質量タグ分子に開裂可能に結合した核酸が開示されている。開裂可能リンカーは光開裂可能であることが好ましい。この出願では、質量分析法による質量標識体を分析する具体的な方法として、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)−TOF(飛行時間)質量分析法が開示されている。
【0006】
特許文献3において、放出可能な非揮発性の質量標識体分子が開示されている。好ましい実施形態では、質量標識体は高分子からなり、この高分子は通常、反応性基及びリガンドのいずれか、即ちプローブに開裂可能に結合した生体高分子である。開裂可能リンカーは、化学的及び酵素的のいずれかに開裂可能であることが好ましいと考えられる。質量分析法による質量標識体を分析する具体的な方法として、MALDI−TOF質量分析法が開示されている。
【0007】
特許文献4、特許文献5、及び特許文献6において、リガンドが開示されており、具体的には質量タグ分子に開裂可能に結合した核酸が具体的に開示されている。開裂可能リンカーは化学的に開裂可能及び光開裂可能のいずれかであることが好ましいと考えられる。これらの出願において、質量分析法により質量標識体を分析する具体的な方法として、様々なイオン化法と四重極質量分析計、TOF分析計、及び磁場型装置による分析とが開示されている。
【0008】
これらの従来技術の出願において、タンデム型及び直列型のいずれかの質量分析を用いて質量標識体を分析することについては触れられていない。
【0009】
非特許文献1において、同位体コード化アフィニティータグを用いてタンパク質からペプチドを捕獲し、タンパク質の発現分析を可能とすることが開示されている。この論文において、チオール反応性のビオチンリンカーを、システインを有する捕獲ペプチドに対して使用することが記載されている。一の材料から得られたタンパク質のサンプルをビオチンリンカーと反応させ、エンドペプチダーゼにより開裂する。ビオチン化システイン含有ペプチドをアビジンビーズで単離することにより、後続する質量分析法による分析が可能となる。1番目のサンプルをビオチンリンカーで標識し、2番目のサンプルを重水素化したビオチンリンカーで標識することで、これらの2つのサンプルを量的に比較することができる。そして、それらのサンプルにおける各ペプチドは、質量スペクトルにおいて一対のピークと現れる。質量スペクトルの各タグに対応するピークを積分することにより、タグに結合したペプチドの相対発現量を得ることができる。
【0010】
特許文献7において、2以上の質量標識体からなるセットが開示されている。セットの各標識体は、質量正規化部分に開裂可能リンカーを介して結合するフラグメンテーション耐性の質量マーカー部分からなる。セット中の各標識体の総質量は同一でも異なっていてもよく、また、セットの各標識体の質量マーカー部分の質量も同一でも異なっていてもよい。共通の質量の質量マーカー部分を有するセット中の任意の標識体のグループにおいては、各標識体の総質量はそのグループにおける他の全ての標識体とは異なる。また、共通の総質量を有するセット中の任意の標識体のグループにおいては、各標識体はそのグループにおける他の全ての質量マーカー部分とは異なる質量を有する質量マーカー部分を有する。これにより、セットの全ての質量標識体は、質量分析法により相互に識別可能である。この出願において、上述のように定義した質量標識体の2以上のセットからなる質量標識体アレイも開示されている。任意のセットにおける各質量標識体の総質量は、アレイの他の全てのセットの各質量標識体の総質量と異なる。この出願において、アナライト固有の1の質量標識体及び2以上の質量標識体のいずれかを質量分析法により同定し、アナライトを検出する工程を含む分析方法も更に開示されている。非常に多くの異なる具体的な質量標識体がこの出願において開示されている。質量標識体はM−L−X構造を有することが好ましく、式中、Mは質量正規化基、Lは開裂可能リンカー、Xは質量マーカー部分である。M及びXの性質は特に限定されるものではない。
【0011】
特許文献8において、2以上の質量標識体からなるセットが開示されている。セットの各標識体は少なくとも1のアミド結合を介して質量正規化部分に結合する質量マーカー部分からなる。質量マーカー部分はアミノ酸からなり、質量正規化部分もアミノ酸からなる。特許文献7では、セットにおける各標識体の総質量は同一でも異なっていてもよく、セットにおける各標識体の質量マーカー部分の質量も同一でも異なっていてもよい。これにより、セットの全ての質量標識体が質量分析法により互いに識別可能となる。また、特許文献7と同様に、この出願においても質量標識体アレイ及び分析方法が開示されている。この出願は、特に、ペプチド分析と少なくとも1のアミノ酸からなる質量正規化部分と質量マーカー部分を有する質量標識体に関する。
【0012】
特許文献7及び特許文献8に開示される質量標識体及び分析方法が全般的に成功しているとはいえ、改善された試薬を提供し、アナライトに対応する質量標識参照物質を用いて相対的に又は絶対的にアナライトを定量する方法であって、標識参照材料を、前記アナライトを含有するサンプルに添加し、前記アナライト及び前記参照材料をタンデム型質量分析によって同時に定量し同定することができる方法を提供する必要性が依然として存在する。
【0013】
1990年代後半における同重質量タグの開発は、バイオマーカーの発見に革命をもたらした。その単一のLC−MS/MSワークフローで理論的には無制限の数のサンプルを分析する能力は、処理量を増加させる一方、同時に分析におけるばらつきを減少させている。これらの方法の適用によってバイオマーカーの発見が向上するとはいえ、バイオマーカーの検証、及び多数のサンプルを解析可能なルーチン分析の開発においては著しいボトルネックが存在する。このボトルネックは、候補となる各バイオマーカーに対して、通常は抗体の形態の、特異性の高い試薬を準備する必要があることに起因する。抗体の製造には、多くの労力を要し、費用がかかり、そして成功の保証も無いのに数ヶ月かかる。
【0014】
費用及び時間の制約に加えて、バイオマーカーの検証を行うために抗体に基づく方法を使用することは、広範囲に亘る各正常濃度範囲及び調節濃度範囲を有するアナライトを検出するこのような方法の限界によっても制約される。例えば、抗体アレイを使用する一回の多重アッセイにおいては、10を超え20までの異なるアナライトを測定することは、殆ど不可能である。このようなタンパク質の正常濃度が、対数値(log)で1を超える数だけ離れている場合(即ち、ナノモルに対してマイクロモル)、このような多重抗体アレイにおいて各アナライトを正確に定量できる可能性は更に低下し、そして多重率はこの結果著しく低下する。
【0015】
したがって、様々なサンプル中のアナライトを質量分析法によって定量的に検出しそしてルーチン測定する改善された方法が依然として必要とされている。
【0016】
タンパク質バイオマーカーの発見の大多数は、様々なタンパク質分離法に連結した質量分析法を使用して達成されている。ごく最近、多数のグループが、1以上の同位体標識した参照ペプチドに基づく、質量分析計を使用したタンパク質の絶対的定量を提案している。特許文献9には、参照基準として1以上の安定同位体標識アミノ酸を取り込んだ合成ペプチドを使用する「AQUA」と呼ばれる、このような実施形態の1つが開示されている。このようなペプチドは、通常、そのイオン化挙動、物理化学的特性、並びに製造の容易さ及び費用などの多数の判断基準に基づいて選択される。Aquaによる実験では、参照ペプチドが、注目するサンプル中に規定された濃度で加えられる。安定同位体で標識されているため、参照ペプチドは、注目するサンプル中の天然型ペプチドとははっきりと異なるピークを与える。通常、AQUAペプチドの質量は、天然ペプチドのそれに比較して約5〜50ダルトン増加した質量として分離される。天然ペプチドとそのAQUA相当物の相対ピーク強度を比較することによって、サンプル中の親ペプチドの絶対量を決定できる。
【0017】
AQUAは一回の実験において複数のタンパク質の絶対量を測定できるとはいえ、天然のアナライトの濃度範囲をカバーする参照物質の標準曲線を作製するのには適していない。バイオマーカーの検証の研究において、これは問題となる場合がある。それは、タンパク質発現の調節によって、所定のタンパク質の濃度は、10倍以上の差を生じることがあるからである。単一の参照基準の使用は、調節の極値に当たる天然ペプチドレベルの定量を不正確にすることがあるので、容易に識別可能な参照ペプチドを、前記生理学的範囲をカバーする数点の異なる濃度で包含し、サンプル中の標的ペプチドレベルを読み取ることのできる適切な標準曲線を与える手段を提供するのが望ましい。各添加ペプチドがMSのプロフィールを複雑にするので、AQUAを使用してこのような曲線を作製するのは困難である。加えて、前記標準曲線を前記参照ペプチドのみで作製することを確実にするためには、サンプル中の標的ペプチドと同様に各参照ペプチドの配列の確認をMS/MSによって達成することが、絶対必要とは言わないまでも望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際出願番号PCT/GB98/00127明細書
【特許文献2】国際出願番号PCT/GB94/01675明細書
【特許文献3】国際出願番号PCT/US97/22639明細書
【特許文献4】国際出願番号PCT/US97/01070明細書
【特許文献5】国際出願番号PCT/US97/01046明細書
【特許文献6】国際出願番号PCT/US97/01304明細書
【特許文献7】国際出願番号PCT/GB01/01122明細書
【特許文献8】国際出願番号PCT/GB02/04240明細書
【特許文献9】国際公開第03/016861号パンフレット
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Gygiら “Quantitative analysis of complex protein mixtures using isotope−coded affinity tags”,Nature Biotechnology (1999),17巻,pp.994−999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、上述の従来技術が抱える複数の問題点を解決することである。特に、本発明の目的は、アナライトを分析する改善された質量分析法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
従来技術の限界を克服するために、本発明者らは、同重タグを付与した参照生体分子及び複合生体材料のいずれか(例えばペプチドなど)を使用して注目する分子を定量する方法であって、MSを複雑にせずに複数点を有する各アナライトの標準曲線を作製することを可能にする方法を開発している。
【0022】
その結果、本発明は、アナライトを分析する方法であって、
(a)前記アナライトを含んでいてもよい試験サンプルと、各アリコートが異なる既知の量の前記アナライトを含む少なくとも2の異なるアナライト含有アリコートを含むキャリブレーションサンプルとを混合する工程であって、前記試験サンプルと前記キャリブレーションサンプルの各アリコートとを質量分析法によって区別できるように、前記サンプル及び各アリコートを、質量分析上種類の異なる質量マーカー基をそれぞれ有する1以上の同重質量標識体を用いて相互に異なるように標識する工程と、
(b)質量分析法によって、前記試験サンプル中の前記アナライトの量及び前記キャリブレーションサンプルの各アリコート中の前記アナライトの量を測定し、前記キャリブレーションサンプルのアリコート中の既知且つ測定されたアナライトの量に対して、前記試験サンプル中のアナライトの量を求める工程とを含むことを特徴とする方法を提供する。
【0023】
異なるアリコートは、それぞれ既知量のアナライトを有する。用語「既知量」は、前記キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの絶対量及び定性的量(qualitative quantity)のいずれかが既知であることを意味する。定性的量は、本明細書では、絶対量が知られていない量であって、特定の状態を有する被検体、例えば健常状態及び罹患状態のいずれかにある被検体などにおいて予期される範囲の量、及び調査している試験サンプルの種類に依存して予期される何らかの他の範囲の量のいずれかであってもよい量を意味する。各アリコートは、異なる量のアナライトを含有するので、「異なる」。通常は、この様式は、標準サンプルから異なる体積を採取することによって達成され、特に、絶対量を知る必要なしに異なる体積を採取することで各アリコート中に異なる量を望ましい比で採取することを確実にする定性的量の採取において有効である。
【0024】
工程(b)は、
(i)質量分析計において、質量標識体で標識したアナライトに相当する質量電荷比のイオンを選択しそしてフラグメント化し、フラグメントイオンの質量スペクトルを検出及び作製し、及び前記質量標識体の質量マーカー基に相当するフラグメントイオンを同定する工程と、
(ii)質量スペクトルにおけるキャリブレーションサンプルのアリコートの質量マーカー基の量に対する、同一の質量スペクトルにおける各試験サンプル中のアナライトの質量マーカー基の量に基づいて、前記各試験サンプル中のアナライトの量を測定する工程とを含むのが好ましい。
【0025】
通常は、フラグメント化を衝突誘起解離(CID)、表面誘起解離(SID)、電子捕獲解離(ECD)、電子移動解離(ETD)、及び高速原子衝突のいずれかによって行う。
【0026】
電子捕獲解離(ECD)は、タンデム型質量分光分析(構造解明)のために、多数荷電した(プロトン化した)ペプチドイオン及びタンパク質イオンのいずれかをフラグメント化する方法である。この方法では、多数プロトン化したペプチド及びタンパク質のいずれかを、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)質量分析計のぺニングトラップ中に閉じ込め、これに近−熱エネルギーを有する電子を照射する。プロトン化ペプチドによる熱電子の捕獲は、発熱的であり(≒6eV;1eV=1.602×10−19J)、非エルゴード的プロセス(即ち、分子内振動エネルギーの再配分を伴わないプロセス)によるペプチド骨格のフラグメント化を引き起こす。
加えて、1以上のタンパク質カチオンを低エネルギー電子で中和し、結合の特異的開裂を引き起こし、例えば衝突活性化解離(CAD;衝突誘起解離(CID)としても知られる)などの他の技術によって形成されるb、y生成物とは対照的な、c、z生成物を形成させることができる。RF 3D四重極型イオントラップ(QIT)機器、四重極型飛行時間機器、及びRFリニア2D四重極型イオントラップ(QLT)機器のいずれかのRF場に導入される熱電子は、その熱エネルギーを1マイクロ秒の何分の1かの間しか保持できず、これらの装置にトラップされないので、依然としてECDは、最も高価な種類のMS機器であるFTICRで排他的に用いられる技術である。
【0027】
電子移動解離(ETD)は、タンデム型質量分光分析(構造解明)のために、多数プロトン化したペプチドイオン及びタンパク質イオンのいずれかをフラグメント化する方法である。電子捕獲解離(ECD)と同様に、ETDでは、電子を移動させることによって、カチオン(例えば多数荷電したペプチド及びタンパク質のいずれか)のフラグメント化を誘発する。ECDと対照的に、ETDではこの目的のために自由電子を使用せず、ラジカルアニオン(例えば十分に低い電子親和力を有し電子供与体として作用するアントラセンアニオン及びアゾベンゼンアニオンのいずれか)を使用する。
電子移動の結果、ETDでは、ECDと同様なフラグメント化パターン、即ちいわゆるc及びzイオンの形成を生じる。電子移動方法が異なることに基づいて、ETDを、ECDには適切でない四重極型イオントラップ(QIT)機器及びRFリニア2D四重極型イオントラップ(QLT)機器のいずれかなどの様々な「低価格」質量分析計に用いることができる。適切な参考文献としては、John E.P.Syka,Joshua J.Coon,Melanie J.Schroeder,Jeffrey Shabanowitz,及びDonald F.Hunt, PNAS,第101巻,26号,pp.9528−9533を参照のこと。
【0028】
衝突誘起解離によってフラグメント化を引き起こす実施形態が最も好ましい。衝突誘起解離は、MS/MS実験の間に用いられる。用語「MS/MS」は、質量分析の文脈では、イオンを選択し、選択したイオンをCIDで処理し、そしてフラグメントイオンを更に分析することを伴う実験をいう。
【0029】
本方法によって、MSを複雑化することなく各アナライトの量を多数点のキャリブレーションによって求めることが可能になる。MS/MSプロフィールにおいてアナライトを定量することで、サンプル及びキャリブレーションサンプル中のアナライトをタンデム型質量分析計で同時に定量及び同定することができる。本方法によって、一回のLC−MS/MS実験で、10までの、20までの、50以上までのアナライトを測定する手段が与えられる。
【0030】
前記方法は、工程(a)より前に更に、1以上の同重質量標識体で各試験サンプル及びキャリブレーションサンプルの各アリコートのいずれかを相互に異なるように標識する工程を含んでいてもよい。前記方法が、工程(a)より前に、前記相互に異なるように標識されたアリコートを混合してキャリブレーションサンプルを調製する更なる工程も含む実施形態が好ましい。
【0031】
前記試験サンプルは、複数の異なるアナライトを含むことができる。この場合各異なるアナライトに対して1個のキャリブレーションサンプルを与え、各異なるアナライトに対して工程(b)を繰り返してもよい。1の実施形態においては、複数のアナライトが、工程(a)より前にタンパク質及びポリペプチドのいずれかの化学的処理及び酵素的処理のいずれかによって生成される前記タンパク質及びポリペプチドのいずれかのペプチド断片である。特定の実施形態においては、複数のアナライトは、同一のタンパク質及びポリペプチドのいずれかに由来するペプチドである。
【0032】
1実施形態においては、複数の試験サンプルにおいてアナライトを分析する。特定の実施形態においては、複数の試験サンプルにおいてそれぞれ分析されるアナライトは、同一である。この場合、試験サンプルのそれぞれを、1以上の同重質量標識体で相互に異なるように標識し、工程(a)において単一のキャリブレーションサンプルと混合し、工程(b)において各サンプル中のアナライトの量を同時に測定してもよい。別の実施形態では、各試験サンプルを同一の質量標識体で標識し、各異なるサンプルに対して工程(a)及び(b)を繰り返す。分析される各試験サンプルに対して同一のキャリブレーションサンプルを使用することができる。通常、少なくとも2個のアナライト含有アリコートからなる同一の既知体積のキャリブレーションサンプルを各異なる試験サンプルに添加する。この方法は、患者から複数のサンプルを採取する臨床研究において特に有用である。大量のキャリブレーションサンプルを調製し、画分を採取したら、同一のキャリブレーションサンプルを複数の試験室で使用し、試験横断的比較及び試験室横断的比較を容易にすることができる。
【0033】
本発明に係る方法においては、キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの量は既知の絶対量である。これにより、試験サンプル中のアナライトの絶対量を工程(b)において決定することが可能になる。
【0034】
別の方法においては、キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの絶対量は未知である。この実施形態においては、キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの量は、既知の定性的量である。較正工程には、キャリブレーションサンプルのアリコート中のアナライトの定性的且つ測定された量に対して試験サンプル中のアナライトの量を較正することが含まれる。特定の実施形態においては、前記定性的量は、健常状態及び罹患状態のいずれかなどの特定の状態を有する被検体におけるアナライトに予期される範囲の量である。
【0035】
各異なるアリコート中のアナライトの量が、試験サンプルにおけるアナライトの量の既知の変動及び推測される変動のいずれかを反映するようにして選択される実施形態が好ましい。健常被検体及び罹患被検体のいずれかの試験サンプル中に見出されるアナライトの既知の量及び推測される量のいずれかの範囲内の上限及び下限、並びに任意に中間点に相当する量のアナライトを含むアリコートが提供される実施形態が、なお更に好ましい。異なるアリコート中に存在するアナライトの異なる量を、異なる期間インキュベートした試験サンプル中に存在するアナライトの既知の量及び推測される量のいずれかにさせてもよい。
【0036】
キャリブレーションサンプルは、特定の疾患の有無及びその段階の少なくともいずれかを示す量のアナライトを含んでいてもよい。キャリブレーションサンプルは、治療の有効性及び毒性の少なくともいずれかを示す量のアナライトを含んでいてもよい。
【0037】
本発明の方法は、工程(a)より前に、更に、サンプルの成分を分離する工程を含んでいてもよい。前記方法は、工程(a)より前に、サンプルの成分を少なくとも1種類の酵素を用いて消化する、各サンプルを消化する工程を含んでいてもよい。1実施形態においては、消化より前にサンプルを同重質量標識体で標識する。別の実施形態においては、消化工程より後に標識工程を行う。前記酵素消化工程を、工程(a)の後であるが工程(b)の前に行うこともできる。
【0038】
別の実施形態では、本方法において使用する質量標識体は、更にアフィニティー捕獲リガンドを含む。前記質量標識体のアフィニティー捕獲リガンドは、工程(a)の後であるが工程(b)よりは前に同重標識アナライトを非標識アナライトから分離するために、カウンターリガンドに結合させられる。前記アフィニティー捕獲リガンドによって、注目するアナライトを濃縮する手段が与えられ、これによって分析感度が向上させられる。
【0039】
本発明の方法は、工程(a)の後であるが工程(b)より前に、同重標識したアナライトを電気泳動及びクロマトグラフィーのいずれかによって分離する工程を更に含んでいてもよい。
【0040】
本発明において使用される質量標識体の構造は、これらが同重標識されており質量分析上はっきり異なる質量マーカー基(部分)を有するならば、特に制限されないが、前記質量標識体が以下の構造式:
X−L−M
(式中、Xが質量マーカー部分、Lが開裂可能リンカー、そしてMが質量正規化部分を示す)からなる実施形態が好ましい。Lは、単一結合であっても、Xの一部分であっても、Mの一部分であってもよい。これらの質量標識体は、その任意の部分で、例えばM、L、及びXのいずれかなどを介して、試験サンプル及びキャリブレーションサンプルのいずれかの中のアナライトに結合することができる。しかしこれらは、Mを介して結合させることが好ましく、例えば標識体は以下の構造からなる:
(X−L−M)−
これは、通常、前記質量標識体中に反応性官能基を包含させることで実施され、これにより前記質量標識体をアナライトに結合させることが可能になる、例えば:
X−L−M−(反応性官能基)である。
【0041】
標識体が反応性官能基を含む場合、これらは反応性質量標識体と呼ばれる。
【0042】
Xが以下の基からなる質量マーカー部分である実施形態が好ましい:
【化1】
(式中、環状ユニットは芳香族及び脂肪族のいずれかであり、0〜3個の二重結合を独立に隣接した任意の2原子間に有し;各Zは、独立してN、N(R1)、C(R1)、CO、CO(R1)(即ち−O−C(R1)−及び−C(R1)−O−のいずれか)、C(R1)2、O、及びSのいずれかであり;Xは、N、C、及びC(R1)のいずれかであり;各R1は、独立してH、置換及び非置換のいずれかの直鎖及び分岐のいずれかのC1−C6アルキル基、置換及び非置換のいずれかの環状脂肪族基、置換及び非置換のいずれかの芳香族基、及び置換及び非置換のいずれかの複素環基のいずれかであり;並びに、yは、0〜10の整数である)。
【0043】
質量標識体をアナライトに結合させるための前記反応性官能基は、特に制限されず、任意の適切な反応性基を含んでいてよい。
【0044】
本明細書において使用される用語「質量標識体」は、測定のためにアナライトを標識するのに好適な分子部分を呼ぶ。用語「標識体」は、用語「タグ」の同義語である。
【0045】
本明細書において使用される用語「質量マーカー部分」は、質量分析によって検出される部分を呼ぶ。用語「質量マーカー部分」は、用語「質量マーカー基」或いは用語「レポーター基」と同義語である。
【0046】
本明細書において使用される用語「質量正規化部分」は、質量分析法によって検出される必要はないが、質量標識体が所望の総質量を有するのを確実にするために存在する部分を呼ぶ。前記「質量正規化部分」は、構造的には特に制限されず、単に前記質量標識体の総質量を変化させる役目を担っている。
【0047】
前記一般式において、ZがC(R1)2である場合、炭素原子上の各R1は同一でも異なっていてもよい(即ち各R1は独立している)。このように、C(R1)2基は、CH(R1)基(式中、一方のR1はHであり、もう一方のR1が上述の定義のR1から選択される別の基である)などの基を含む。
【0048】
前記の一般式においては、Xと環を構成しないZとの間の結合は、この位置で選択されるX基及びZ基に従って、単結合でも二重結合でもよい。例えば、XがN及びC(R1)のいずれかである場合、Xと環を構成しないZとの間の結合は、単結合でなければならない。XがCである場合、Xと環を構成しないZとの間の結合は、選択される環を構成しないZ基及び環を構成するZ基に従って、単結合にも二重結合にもなり得る。前記環を構成しないZ基がN及びC(R1)のいずれかである場合、Xと環を構成しないZとの間の結合は、単結合であるか、yが0である場合、選択されるX基及び前記環を構成しないZに結合する基に従って二重結合であり得る。前記環を構成しないZがN(R1)、CO(R1)、CO、C(R1)2、O、及びSのいずれかである場合、前記Xとの結合は、単結合でなければならない。当業者は、容易に、前記の式に従って正しい結合価(単結合連結及び二重結合連結のいずれか)を有する適切なX、Z、及び(CR12)y基を選択することができる。
【0049】
本発明者らは、上に定義した質量標識体が質量分析計で容易に同定でき、高感度定量も可能にすることを発見している。
【0050】
好ましい実施形態において、質量標識体の総分子量は600ダルトン以下、500ダルトン以下がより好ましく、400ダルトン以下が特に好ましく、300ダルトン〜400ダルトンが最も好ましい。質量標識体の分子量は、324、338、339、及び380ダルトンであることが特に好ましい。質量標識体のサイズが小さいということは、質量標識体で標識した場合の検出されるペプチドのサイズの増加が最小になるということであるため、これらの好ましい実施形態は特に有利である。そのため、質量分析による分析の際に、前記質量標識体により標識したペプチドを標識されていないペプチドと同一の質量スペクトルウィンドー中に見ることができるようになる。これにより、質量標識体自体からのピークの同定が容易となる。
【0051】
好ましい実施形態において、質量マーカー部分の分子量は300ダルトン以下、250ダルトン以下がより好ましく、100ダルトン〜250ダルトンが特に好ましく、100ダルトン〜200ダルトンが最も好ましい。質量マーカー部分のサイズが小さいということは、質量スペクトルのサイレント領域にピークが現れるため、質量スペクトルから質量マーカーを容易に同定でき、高感度定量を行うことも可能であることを意味するので、これらの好ましい実施形態は特に有利である。
【0052】
本明細書中において使用される用語「質量スペクトル(例えば、MS/MSスペクトル)のサイレント領域」とは、標識したペプチドのフラグメント化により生成されるフラグメントの存在に関係するピークによって引き起こされるバックグラウンド「ノイズ」が少ない質量スペクトルの領域を呼ぶ。緩衝剤、変性剤、及び界面活性剤等の不純物がMS/MSスペクトルに現れないように、MSモードにおける1のピークのフラグメント化によってMS/MSスペクトルが得られる。これにより、MS/MSモードおける定量が有利になる。このように、用語「サイレント領域」とは、検出するペプチドと関連したピークによって引き起こされる「ノイズ」が少ない質量スペクトルの領域を呼ぶ。ペプチド及びタンパク質のいずれかを検出する場合、前記質量スペクトルのサイレント領域は200ダルトン未満の領域である。
【0053】
本発明者らは、上で定義した反応性質量標識体が容易に急速にタンパク質と反応し、標識化タンパク質を形成することも発見している。
【0054】
本発明においては、2以上の質量標識体のセットが使用される。前記セット中の標識体は、異なる質量の質量マーカーをそれぞれ有する同重質量標識体である。このように、前記セット中の各標識体は、上で定義したとおりであり、各質量正規化部分は、前記質量標識体が所望の総質量を有することを確実にし、前記セットは、セット中の他の全ての質量マーカー部分と異なる質量を有する質量マーカー部分をそれぞれ有する質量標識体を含み、前記セット中の各標識体は、共通の総質量を有し、前記セット中の全ての質量標識体は、質量分析法によって相互に識別可能である。
【0055】
用語「同重(isobaric)」は、質量分析法によって測定される前記質量標識体の総質量が実質的に同一であることを意味する。通常は、前記同重質量標識の平均分子量は、相互に±0.5Daの範囲に入る。用語「標識体」は、用語「タグ」の同義語である。当業者は、本発明の文脈において、用語「質量マーカー部分」と用語「レポーター基」とが同一の意味で使用できることを理解する。
【0056】
セットの標識体数は、セットが複数の標識体からなれば特に制限されないが、セットは2以上、3以上、4以上、及び5以上のいずれかの標識体からなることが好ましく、6以上の標識体からなることがより好ましく、8以上の標識体からなることが最も好ましい。
【0057】
本明細書における用語「総質量」とは、質量標識体の全質量を意味する。即ち、質量標識体の質量マーカー部分、開裂可能リンカー、質量正規化部分、及びその他の成分の質量の合計を意味する。
【0058】
質量正規化部分の質量は、セット中の各質量標識体間において異なる。個々の質量標識体における質量正規化部分の質量は、共通の総質量から、その質量標識体における特定の質量マーカー部分の質量及び開裂可能リンカーの質量を減算することにより求められる。
【0059】
セットにおける全ての質量標識体は、質量分析法により相互に識別可能である。したがって、質量分析計によって、質量標識体を区別することができる。即ち、個々の質量標識体に由来するピークを相互に明確に分離することができる。質量マーカー部分の間で質量が異なるということは、質量分析計によって、異なる質量標識体及び異なる質量マーカー部分のいずれかに由来するイオンを識別することが可能になることを意味している。
【0060】
本発明は、2以上の上に定義した質量標識体セットからなり、任意のセットの各質量標識体の総質量はアレイの他のセットの各質量標識体の総質量と異なる質量標識体のアレイも使用する。
【0061】
本発明の好ましい実施形態において、質量標識体のアレイは全て化学的に同一であること(実質的に化学的に同一であること)が好ましい。用語「実質的に化学的に同一であること」は、質量標識体が、同一の化学構造を有し、そこに特定の同位体を導入置換することができるか特定の置換基を結合することができることを意味する。
【0062】
本発明の更に好ましい実施形態において、質量標識体は増感基からなってもよい。この質量標識体は以下の構造を有していることが好ましい。
(増感基)−X−L−M−(反応性官能基)
この例において、増感基を用いる目的は、質量分析計において質量マーカー部分の検出感度を高めるためであるので、増感基は、通常、質量マーカー部分に結合させられる。反応性官能基は増感基とは異なる部分に結合し存在するように示されているが、質量標識体はこの配置に限定される必要はなく、幾つかの場合増感基を反応性官能基と同一の部分に結合させてもよい。
【0063】
更なる態様において、本発明は、サンプル中の低存在量のアナライトを分析する方法を提供する。この方法は、上で定義したような質量分析法からなり、そこではキャリブレーションサンプルが分析しようとするアナライトを多量に含み、サンプルは前記アナライトを低存在量で含んでいてもよい。この方法においては、工程(b)より前に、1次元ゲル電気泳動或いは2次元ゲル電気泳動、フリーフロー電気泳動、キャピラリー電気泳動、オフゲル等電点電気泳動、及び液体クロマトグラフィー質量分析のいずれかなどの方法によって前記サンプル中のアナライトと共に、前記キャリブレーションサンプル中のアナライトを容易に検出及び分離できるような量で、前記アナライトをキャリブレーションサンプル中に存在させる。好ましくは、前記サンプル中のアナライトは、タンパク質であり、前記キャリブレーションサンプル中のアナライトは、前記サンプル中のタンパク質の組み替え型である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
添付の図面を参照して本発明をここで更に説明するが、これはほんの1例に過ぎない。
【図1】図1は、本発明による方法の概略図である。
【図2】図2は、1のBSAトリプシンペプチドのMS/MSプロフィールである。上段のパネルが全MS/MSスペクトルを示す。下段のパネルが、同重質量マーカー部分領域の拡大図であり、ピークの異なる強度は、試験サンプル(126)及びキャリブレーションサンプル(128、129、130、131)中の同一ペプチドの異なる存在量を反映している。
【図3】図3は、キャリブレーションサンプル中の同重標識ウシ血清アルブミンアリコートのセットに対して作製した4点検量線である。
【図4】図4は、本発明において使用される血漿サンプルを調製する方法の概略図である。
【図5】図5は、本発明による方法の概略図を示し、そこでは質量分光分析より前に、試験サンプルとキャリブレーションサンプルとからなる混合物が1D PAGE ゲルにかけられ、ゲル上の適切なスポットが取り出され消化される。
【図6】図6は、複数のサンプル中のアナライトを分析する本発明による方法の概略図を示す。
【図7】図7は、以下の実施例3において説明されるクラスタリン由来の標識ペプチドの保持プロフィールからの蓄積MSである。挿入図は、注目するペプチドを示す915〜935のm/z領域の拡大図である。
【図8】図8は、クラスタリン由来の標識ペプチドの蓄積MS/MSスペクトルである。挿入図:質量マーカー領域の拡大図である。
【図9】図9は、選択されたクラスタリンペプチドの検量線である。
【図10】図10は、以下の実施例4において説明されるペプチドFQVDNNNRのMALDI MS/MSスペクトルである。
【図11】図11は、以下の実施例4において説明されるペプチドGAYPLSIEPIGVRのMALDI MS/MSスペクトルである。
【図12】図12は、以下の実施例4において説明されるペプチドGQYCYELDEKのMALDI MS/MSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0065】
ここで本発明を詳細に説明する。
【0066】
本発明によって、ペプチド、タンパク質、ヌクレオチド、及び核酸などのアナライトの相対量及び絶対量の少なくともいずれかを測定するための有用な試薬、並びにその生産手段が提供される。具体的には、本発明は、タンデム型質量分析法によって検出される同重標識アナライト及びキャリブレーションサンプルの少なくともいずれかに関し、このようなキャリブレーションサンプルが添加された試験サンプルを分析する関連する方法に関する。本発明によって、特に、アナライトの相対的定量及び絶対的定量の少なくともいずれか容易になる。
【0067】
本発明は、人間科学、獣医学、植物学、微生物学、薬学、環境科学、及び安全保障科学における細胞、組織、及び液体中のタンパク質、脂質、炭水化物、及び核酸の変化の測定を含む様々な状況設定において質量分析法によりアナライトを分析するための新たな方法を提供する。
【0068】
本発明による方法においては、試験サンプル中及びキャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの量を質量分析法によって測定する。質量分析法により測定された前記試験サンプル中のアナライトの量を前記試験サンプル中の実際のアナライトの量に関係づけるために、検量関数を使用する。この検量関数においては、前記キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの量(分析前のアリコート中に存在する実際の量と、これに相当する質量分析法によって測定される量の両方)を変数として使用する。
【0069】
前記方法が、各アリコート中のアナライトの量に対する質量分析法により測定される各アリコート中のアナライトの量の関係を示すグラフを作図する工程を含む実施形態が好ましい。この工程は、代わりに単純に計算を伴ってもよい。次に、前記サンプル中のアナライトの量を、前記検量グラフを使用して、質量分析法により測定される前記サンプル中の量から、計算する。本発明の文脈において、「質量分析法により測定される量」とは、通常、アナライトの量に関係し、質量分析法により測定されるイオン存在量、イオン強度、及び他のシグナルを意味する。
【0070】
通常、本方法は、
(i)質量分析計において、質量標識体で標識したアナライトに相当する質量電荷比のイオンを選択しそしてフラグメント化し、フラグメントイオンの質量スペクトルを検出及び作製し、及び前記質量標識体の質量マーカー基に相当するフラグメントイオンを同定する工程と、
(ii)質量スペクトルにおけるキャリブレーションサンプルのアリコートの質量マーカー基の量に対する、同一の質量スペクトルにおける各試験サンプル中のアナライトの質量マーカー基の量に基づいて、前記各試験サンプル中のアナライトの量を測定する工程とを含む。
【0071】
特定の実施形態において、本方法は、
1.任意に、本発明によるセットの質量標識体と反応させることによって、参照生体分子及び参照生体分子の混合物のいずれかを含有する同重標識された参照材料を調製する工程と、
2.生体分子及び生体分子の混合物のいずれかの量を定量する予定のサンプルを、本発明に従い上の工程1において使用したものと同一の質量標識体のセットからの1の質量標識体と反応させて標識する工程と、
3.既知の量の同重標識参照材料を工程2において調製した同重標識試験サンプル中に添加する工程と、
4.任意に、同重標識生体分子を、電気泳動法及びクロマトグラフィーのいずれかによって分離する工程と、
5.質量分析計において標識生体分子をイオン化する工程と、
6.質量分析器において、標識生体分子の好ましいイオンの質量電荷比に相当する所定の質量電荷比のイオンを選択する工程と、
7.これらの選択されたイオンの解離を、衝突及び電子移動のいずれかによって誘起する工程と、
8.質量標識体を示す衝突生成物イオンを同定するために前記衝突生成物を検出する工程と、
9.前記質量標識体を示す前記衝突生成物イオンの強度に基づいて、イオンの強度と生体分子の量の関係を示す標準曲線を作製する工程と、
10.前記生体分子及び生体分子の混合物のいずれかの絶対存在量及び相対存在量を計算する工程とを含む。
【0072】
本発明に関して、用語「質量分析法」は、フラグメント化分析が可能な任意の種類の質量分析法を含む。本発明における使用に好適な質量分析計としては、衝突チャンバーを備えた三段四重極型質量分析計、高速原子衝突、衝突誘起解離、電子移動解離、及び他の任意の型の親イオンフラグメント化法のいずれかにより、選択された前駆体イオンをフラグメント化可能なイオントラップ質量分析計、並びに双対性飛行時間(TOF/TOF)分析器及び親イオンフラグメント化手段を装着するマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析計などの任意の型のMS/MS分析機を含む機器が挙げられる。
【0073】
ある種の実施形態においては、所定の質量電荷比のイオンを選択する工程は、シリアル機器の第1の質量分析器において実施される。選択されたイオンは、次に、別個の衝突セル中に導かれ、そこで気体及び固体表面のいずれかと衝突させられる。衝突生成物は、次に、シリアル機器の衝突生成物を検出するための更なる質量分析器中へと導かれる。典型的なシリアル機器としては、三段四重極型質量分析計、タンデムセクター型機器、及び四重極型飛行時間質量分析計が挙げられる。
【0074】
他の実施形態において、所定の質量電荷比のイオンを選択する工程、気体と選択したイオンとを衝突させる工程、及び衝突生成物を検出する工程は、質量分析計の同一のゾーンにおいて実施される。この方式は、例えば、イオントラップ質量分析器及びフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型質量分析計において使用することができる。
【0075】
本発明において、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)技術を使用することができる。MALDIにおいては、生体分子溶液を、大モル過剰の光励起可能な「マトリックス」中に埋め込む必要がある。適切な振動数のレーザー光の照射によって前記マトリックスは励起され、これにより、マトリックスに閉じ込められた生体分子と共に前記マトリックスの急速な蒸発がもたらされる。酸性のマトリックスから生体分子へプロトン移動が行われることによって、正イオン質量分析法、特に飛行時間(TOF)質量分析法によって検出することのできるプロトン化型の生体分子が生じる。MALDI TOFでは、負イオン質量分析法も実施可能である。この技術において、多量の並進エネルギーがイオンに与えられるが、それにも拘わらず過剰のフラグメント化は誘起しない傾向にある。この技術においてフラグメント化を制御するために、レーザーエネルギーとイオン源からイオンを加速するために使用する電位差の印加のタイミングの調節とが利用できる。この技術は、広い質量範囲を有し、質量スペクトルにおいて1価イオンを優勢にし、そして複数のペプチドを同時に分析することを可能にするので、多用される。本発明においては、前記TOF/TOF技術が使用できる。
【0076】
前記光励起可能マトリックスは、「色素」、即ち特定の振動数の光を強く吸収し、好ましいことには、蛍光及びりん光のいずれかによってエネルギーを放出するのではなく、エネルギーを熱として、即ち振動モードを通して、消散する化合物を含む。レーザー励起によって引き起こされるマトリックスの振動によって、前記色素の急速な昇華が生じ、これにより埋め込まれたアナライトが同時に気相中に搬送される。
【0077】
本発明の文脈においてはMALDI技術が有用であるが、本発明はこの種の技術に限定されず、当業者が必要に応じて当技術分野において一般的な他の技術を本発明において使用することも可能である。例えば、エレクトロスプレー質量分析法或いはナノエレクトロスプレー質量分析法を使用することができる。
【0078】
用語「アナライト」は、特に制限されず、本発明による方法を使用することによって、質量分析法によって分析でき、質量分析上異なる種類の質量マーカー基を有する同重質量標識体により標識可能であるならば、如何なる種類の分子も分析することが可能になる。アナライトしては、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、核酸、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、ペプチド核酸、糖、澱粉及び複合糖質、脂肪及び複合脂質、高分子並びに薬剤及び薬剤様分子などの小型有機分子が挙げられる。アナライトが、ペプチド、タンパク質、ヌクレオチド、及び核酸のいずれかであるのが好ましい。
【0079】
本発明に関しては、用語「タンパク質」は、ジペプチド、トリペプチド、ペプチド、ポリペプチド、及びタンパク質などの2以上のアミノ酸からなる任意の分子を包含する。
【0080】
本発明に関しては、用語「核酸」は、ジヌクレオチド、トリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、デオキシリボ核酸、リボ核酸、及びペプチド核酸などの2以上のヌクレオチド塩基からなる任意の分子を包含する。
【0081】
本発明に関しては、用語「アナライト」は、用語「生体分子」の同義語である。
【0082】
本発明においてアナライトのタグに使用される質量標識を、ここでより詳細に説明する。
【0083】
当業者であれば、同重質量標識の性質が、特に制限されないことが理解されよう。当技術分野においては、様々な適切な同重質量標識体が知られている。例えば、国際公開第01/68664号パンフレット(本明細書中に参考として援用する)及び国際公開第03/025576号パンフレット(本明細書中に参考として援用する)において開示されるタンデム質量タグ(Thompsonら,Anal.Chem.,2003,75巻(8号),pp.1895−1904(本明細書中に参考として援用する))、米国特許第6824981号明細書(本明細書中に参考として援用する)に開示されるiPROTタグ、及びiTRAQタグ(Pappinら,Methods in Clinical Proteomics Manuscript,2004,M400129−MCP200(本明細書中に参考として援用する))が挙げられる。これらの同重質量標識体のいずれもが、サンプル及びキャリブレーションサンプルの調製のため及び本発明の方法を実施するために好適である。
【0084】
(質量マーカー部分)
好ましい実施形態において、本発明は、上述のように定義された質量標識体であって、質量マーカー部分の分子量が300ダルトン以下、好ましくは250ダルトン以下、より好ましくは100ダルトン〜250ダルトン、最も好ましくは100ダルトン〜200ダルトンである質量標識体を使用する。質量マーカー部分の分子量は、125、126、153、及び154ダルトン、及び1以上又は全ての12C原子を13C原子で置換した場合における分子量のいずれかであることが特に好ましい。例えば、分子量が125である非置換質量マーカー部分では、その置換された化合物の質量は、1、2、3、4、5、及び6の13C原子でそれぞれ置換された場合及び1以上又は全ての14N原子を15N原子により置換した場合の少なくともいずれかにおいて、それぞれ126、127、128、129、130、及び131ダルトンとなる。
【0085】
本発明の質量マーカー部分の構成要素は、フラグメンテーション耐性であることが好ましい。そのため、衝突誘起解離(CID)、表面誘起解離、電子捕獲解離(ECD)、電子移動解離(ETD)、及び高速原子衝突のいずれかにより容易に壊れるような結合を行うことにより、マーカーのフラグメント化部位を制御することができる。前記結合がCIDにより容易に壊れる結合である実施形態が最も好ましい。
【0086】
本発明において使用される質量マーカー部分は、典型的には、以下の基
【化2】
(式中、環状ユニットは、芳香族及び脂肪族のいずれかであり、0〜3個の二重結合を独立に隣接した任意の2原子間に有し;各Zは、独立してN、N(R1)、C(R1)、CO、CO(R1)(即ち、−O−C(R1)−及び−C(R1)−O−のいずれか)、C(R1)2、O、及びSのいずれかであり;Xは、N、C、及びC(R1)のいずれかであり;各R1は、独立してH、置換及び非置換のいずれかの直鎖及び分岐のいずれかのC1−C6アルキル基、置換及び非置換のいずれかの環状脂肪族基、置換及び非置換のいずれかの芳香族基、及び置換及び非置換のいずれかの複素環基であり;並びにyは、0〜10の整数である)からなる。
【0087】
質量マーカー部分の置換基は特に制限されるものではなく、任意の有機基及び周期表のIIIA、IVA、VA、VIA及びVIIA族のいずれかからの1以上の原子の少なくともいずれかからなってもよく、前記原子としては、B、Si、N、P、O、若しくはS原子、又はハロゲン原子等(例えば、F、Cl、Br、及びIのいずれか)が挙げられる。
【0088】
置換基が有機基からなる場合、有機基は炭化水素基からなることが好ましい。炭化水素基は、直鎖、分岐鎖及び環状基のいずれかからなっていてもよい。独立して、炭化水素基は脂肪族基及び芳香族基のいずれかからなってもよい。更に独立して、炭化水素基は飽和基及び不飽和基のいずれかからなってもよい。
【0089】
炭化水素が不飽和基からなる場合、1以上のアルケン官能基及び1以上のアルキン官能基の少なくともいずれかからなってもよい。炭化水素が直鎖及び分岐鎖のいずれかの基からなる場合、1以上の第一級、第二級及び第三級アルキル基の少なくともいずれかからなってもよい。炭化水素が環状基からなる場合、芳香族環、脂肪族環、複素環基及びこれらの縮合環誘導体からなってもよい。そのため、環状基は、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、インデン、フルオレン、ピリジン、キノリン、チオフェン、ベンゾチオフェン、フラン、ベンゾフラン、ピロール、インドール、イミダゾール、チアゾール及びオキサゾール基の少なくともいずれか、並びにこれらの基の位置異性体からなってもよい。
【0090】
炭化水素基の炭素原子数は特に限定されないが、炭化水素基が1〜40の炭素原子からなることが好ましい。そのため、炭化水素基は低級炭化水素(1〜6のC原子)及び高級炭化水素(7以上の炭素原子、例えば7〜40のC原子)のいずれかであってもよい。環状基の環中の原子数は特に限定されないが、3、4、5、6、及び7のいずれかの原子等、3〜10の原子から環状基の環がなることが好ましい。
【0091】
上述したヘテロ原子からなる基並びに上述のように定義された他の任意の基は、周期表のIIIA、IVA、VA、VIA、及びVIIA族のいずれかの1以上のヘテロ原子からなってもよく、前記へテロ原子は、B、Si、N、P、O、若しくはS原子、又はハロゲン原子等(例えば、F、Cl、Br、及びIのいずれか)などである。そのため、置換基は、例えばヒドロキシ基、カルボン酸基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、アミン基、アミド基、イミン基、チオール基、チオエーテル基、硫酸塩基、スルフォン酸基、リン酸塩基等の、有機化学において一般的な官能基のいずれかの1以上からなってもよい。置換基は、カルボン酸無水物及びカルボン酸ハロゲン化物等これら基の誘導体からなってもよい。
【0092】
更に、いずれの置換基も、置換基及び上述のように定義された官能基の少なくともいずれかの2以上の組み合わせからなっていてもよい。
【0093】
(リンカー)
本発明において使用される質量標識体の開裂可能リンカーは、特に制限されない。開裂可能リンカーが、衝突誘起解離、表面誘起解離、電子捕獲解離(ECD)、電子移動解離(ETD)、及び高速原子衝突のいずれかにより開裂可能であるリンカーであることが好ましい。前記結合がCIDにより開裂可能である実施形態が最も好ましい。前記リンカーは、アミド結合からなってもよい。
【0094】
上述及び後述する考察において、所望の分子を本発明において使用する質量標識体化合物に結合させるために使用することができるリンカー基について言及する。様々なリンカーが当該技術分野において知られており、これらのリンカーを、本発明の質量標識体とこれらに共有結合した生体分子との間に導入することができる。これらのリンカーの一部は開裂可能であってもよい。オリゴ−或いはポリ−エチレングリコール及びこれらの誘導体のいずれかをリンカーとして用いることができ、例えばMaskos, U. & Southern, E.M. Nucleic Acids Research,1992,20巻,pp.1679−1684に開示されたものを用いることができる。コハク酸系リンカーも広く用いられているが、オリゴヌクレオチドを標識するのに関与する用途にはあまり好まれていない。この理由は、当該リンカーが一般に塩基に不安定であるため、多数のオリゴヌクレオチド合成で使用されている塩基介在脱保護ステップには不適合だからである。
【0095】
プロパルギルアルコールは二官能リンカーであり、オリゴヌクレオチド合成の条件下において安定した結合を提供し、オリゴヌクレオチドに対して本発明を使用するのに好ましいリンカーである。同様に、6−アミノヘキサノールも、適切に官能基を付与した分子を結合するのに有用な二官能試薬であり、好ましいリンカーである。
【0096】
光開裂可能リンカーなどの多様な既知の開裂可能リンカー基を本発明において使用される化合物と併用できる。オルソニトロベンジル基は、光開裂可能リンカーとして公知であり、特に、2−ニトロベンジルエステルや2−ニトロベンジルアミンは、ベンジルアミン結合で開裂する。開裂可能リンカーの論評については、Lloyd−Williamsら、 Tetrahedron,1993,49巻,pp.11065−11133を参照されたい。これは、様々な光開裂可能及び化学的開裂可能リンカーについて言及している。
【0097】
国際公開第00/02895号パンフレットにおいて、開裂可能リンカーとしてビニルスルフォン化合物が開示されている。これらは本発明においても使用することができ、特にポリペプチド、ペプチド及びアミノ酸を標識するのに用いられる。この出願の内容を参照により本明細書に援用する。
【0098】
国際公開第00/02895号パンフレットにおいて、気相中で塩基により開裂可能なリンカーであるシリコン化合物の使用が開示されている。これらのリンカーも本発明においても使用することができ、特にオリゴヌクレオチドを標識するのに用いられる。この出願の内容を参照として本明細書に援用する。
【0099】
(質量正規化部分)
質量標識体が所望の総質量を有することを確実にするのに適したものであれば、本発明において使用される質量標識体の質量正規化部分の構造は特に限定されない。しかし、質量正規化部分は、直鎖及び分岐のいずれかのC1−C20置換及び非置換のいずれかの脂肪族基及び1以上の置換及び非置換のいずれかのアミノ酸の少なくともいずれかからなることが好ましい。
【0100】
質量正規化部分は、C1−C6の置換及び非置換のいずれかの脂肪族基からなることが好ましく、C1、C2、C3、C4、C5の置換及び非置換のいずれかの脂肪族基からなることがより好ましく、C1、C2、及びC5のいずれかの置換及び非置換のいずれかの脂肪族基又はC1メチル置換基からなることが特に好ましい。
【0101】
1以上の置換及び非置換のいずれかのアミノ酸は、任意の必須及び可欠のいずれかの天然及び人工のいずれかのアミノ酸でもよい。好ましいアミノ酸として、アラニン、β−アラニン及びグリシンが挙げられる。
【0102】
質量正規化部分の置換基は特に限定されるものではなく、任意の有機基及び周期表のIIIA、IVA、VA、VIA、及びVIIAのいずれかの族の1以上の原子の少なくともいずれかであってよく、前記原子は、例えばB、Si、N、P、O、若しくはS原子、又はハロゲン原子等(例えば、F、Cl、Br、及びIのいずれか)などである。
【0103】
置換基が有機基からなる場合、有機基は炭化水素基からなることが好ましい。炭化水素基は、直鎖、分岐鎖、及び環状基のいずれかから構成されてもよい。独立して、炭化水素基は脂肪族基及び芳香族基のいずれかからなってもよい。更に独立して、炭化水素基は飽和及び不飽和のいずれかの基からなってもよい。
【0104】
炭化水素が不飽和基からなる場合、1以上のアルケン官能基及び1以上のアルキン官能基の少なくともいずれかからなってもよい。炭化水素が直鎖及び分岐鎖のいずれかの基からなる場合、1以上の第一級、第二級及び第三級の少なくともいずれかのアルキル基からなってもよい。炭化水素が環状基からなる場合、芳香族環、脂肪族環、複素環基及びこれらの縮合環誘導体の少なくともいずれかからなってもよい。そのため、環状基は、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、インデン、フルオレン、ピリジン、キノリン、チオフェン、ベンゾチオフェン、フラン、ベンゾフラン、ピロール、インドール、イミダゾール、チアゾール及びオキサゾール基の少なくともいずれか、並びにこれらの位置異性体からなってもよい。
【0105】
炭化水素基の炭素原子数は特に限定されないが、炭化水素が1〜40個の炭素原子からなることが好ましい。そのため、炭化水素基は低級炭化水素(1〜6個の炭素原子)及び高級炭化水素(7個以上の炭素原子、例えば7〜40個の炭素原子)のいずれかであってもよい。環状基の環中の原子数は特に限定されないが、3個、4個、5個、6個、及び7個のいずれかの原子等、環状基の環は3〜10個の原子からなることが好ましい。
【0106】
上述したヘテロ原子からなる基並びに上述のように定義された他の任意の基は、周期表のIIIA、IVA、VA、VIA、及びVIIAのいずれかの族の1以上のヘテロ原子からなってもよく、前記へテロ原子は、B、Si、N、P、O、若しくはS原子又はハロゲン原子等(例えば、F、Cl、Br、及びIのいずれか)などである。そのため、置換基は、例えばヒドロキシ基、カルボン酸基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、アミン基、アミド基、イミン基、チオール基、チオエーテル基、硫酸塩基、スルフォン酸基、リン酸塩基等の、有機化学において一般的な官能基のいずれかの1以上からなってもよい。置換基は、カルボン酸無水物及びカルボン酸ハロゲン化物等これら基の誘導体からなってもよい。
【0107】
更に、いずれの置換基も、置換基及び上述のように定義された2以上の官能基の少なくともいずれかの2以上の組み合わせからなっていてもよい。
【0108】
(反応性質量標識体)
質量分析法により生体分子を標識し検出する本発明の反応性質量標識体は、通常、上述のように定義された質量標識体、及び質量標識体の生体分子への結合又は結合を容易にする反応性官能基からなる。本発明の好ましい実施形態において、反応性官能基により、質量標識体が、好ましくはアミノ酸、ペプチド、及びポリペプチドのいずれかのアナライトと共有結合的に反応することが可能になる。反応性官能基はリンカーを介して質量標識体に結合してもよく、リンカーは開裂可能であってもなくてもよい。反応性官能基は、質量標識体の質量マーカー部分に結合しても、質量標識体の質量正規化部分に結合してもよい。
【0109】
本発明の質量標識体には、様々な反応性官能基を用いることができる。標識する生体分子の1以上の反応性部位と反応することができるのであれば、反応性官能基の構造は特に制限されない。反応性官能基は、求核性試薬及び求電子性試薬のいずれかであることが好ましい。
【0110】
最も簡単な実施形態において、これは、N−ヒドロキシスクシンイミドエステルであってもよい。N−ヒドロキシスクシンイミド活性化質量標識体は、ヒドラジンと反応することにより、ヒドラジド反応性官能基を生成することもできる。これは、例えば、過ヨウ素酸酸化糖部分を標識するのに用いることができる。場合によっては、アミノ基及びチオールのいずれかを反応性官能基として用いることもできる。リシンを用いて、質量標識体を遊離カルボキシル官能基に結合することができる。この場合、カルボジイミドをカップリング剤として用いる。本発明の質量標識体に他の反応性官能基を導入するにあたって、最初にリシンを用いることもできる。リシンεアミノ基を無水マレイン酸に反応させることにより、チオール反応性マレイミド官能基を導入することができる。様々なアルケニルスルフォン化合物を合成するのにあたって、チオールとアミンに反応する有用なタンパク質標識試薬であるシステインチオール基を最初に用いることができる。アミノヘキサン酸等の化合物を用いて、質量変動質量マーカー部分又は質量正規化部分と反応性官能基との間に、スペーサーを設けることができる。
【0111】
下記表1に、生体分子の求核性官能基と反応して共有結合する幾つかの反応性官能基を列挙する。オリゴヌクレオチドの合成における使用においては、第一級アミン又はチオールが分子の終端に頻繁に導入され、標識が可能となる。以下に列挙された官能基であれば、いずれも本発明の化合物に導入することができ、質量マーカーを所望の生体分子に結合させることができる。必要であれば、反応性官能基を用いて反応性官能基を更に有するリンカー基を更に導入することができる。尚、表1は全てを網羅したものではなく、本発明は列挙された官能基のみの使用に限定されない。
【0112】
【表1】
【0113】
本発明の好ましい実施形態において、反応性官能基は以下の基
【化3】
(式中、各R2は独立してH、置換及び非置換のいずれかの直鎖及び分岐のいずれかのC1−C6アルキル基、置換及び非置換のいずれかの環状脂肪族基、置換及び非置換のいずれかの芳香族基、及び置換及び非置換のいずれかの複素環基のいずれかである)からなる。
【0114】
反応性官能基の置換基は特に限定されるものではなく、任意の有機基及び周期表のIIIA、IVA、VA、VIA又はVIIA族の1以上の原子の少なくともいずれかからなってもよく、前記原子は、B、Si、N、P、O若しくはS原子又はハロゲン原子等(例えば、F、Cl、Br、及びIのいずれか)である。
【0115】
置換基が有機基からなる場合、有機基は炭化水素基からなることが好ましい。炭化水素基は、直鎖、分岐鎖及び環状基のいずれかから構成されてもよい。独立して、炭化水素基は脂肪族基及び芳香族基のいずれかからなってもよい。更に独立して、炭化水素基は飽和及び不飽和のいずれかの基からなってもよい。
【0116】
炭化水素が不飽和基からなる場合、1以上のアルケン官能基及び1以上のアルキン官能基の少なくともいずれかからなってもよい。炭化水素が直鎖及び分岐鎖のいずれかの基からなる場合、1以上の第一級、第二級及び第三級の少なくともいずれかのアルキル基からなってもよい。炭化水素が環状基からなる場合、芳香族環、脂肪族環、複素環基及びこれらの縮合環誘導体の少なくともいずれかからなってもよい。そのため、環状基は、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、インデン、フルオレン、ピリジン、キノリン、チオフェン、ベンゾチオフェン、フラン、ベンゾフラン、ピロール、インドール、イミダゾール、チアゾール及びオキサゾール基の少なくともいずれか、並びにこれらの位置異性体からなってもよい。
【0117】
炭化水素の炭素原子数は特に限定されないが、炭化水素基が1〜40個の炭素原子からなることが好ましい。そのため、炭化水素基は低級炭化水素(1〜6個の炭素原子)及び高級炭化水素(7個以上の炭素原子、例えば7〜40個の炭素原子)のいずれかであってもよい。環状基の環中の原子数は特に限定されないが、3個、4個、5個、6個、及び7個のいずれかの原子等、環状基の環は3〜10個の原子からなることが好ましい。
【0118】
上述したヘテロ原子からなる基及び上述のように定義された他の任意の基は、B、Si、N、P、O若しくはS原子又はハロゲン原子等(例えば、F、Cl、Br及びIのいずれか)の周期表のIIIA、IVA、VA、VIA、及びVIIAのいずれかの族の1以上のヘテロ原子からなってもよい。そのため、置換基は、例えばヒドロキシ基、カルボン酸基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、アミン基、アミド基、イミン基、チオール基、チオエーテル基、硫酸塩基、スルフォン酸基、リン酸塩基等の、有機化学において一般的な官能基のいずれかの1以上からなってもよい。置換基は、カルボン酸無水物及びカルボン酸ハロゲン化物等これら基の誘導体からなってもよい。
【0119】
更に、いずれの置換基も、置換基及び上述のように定義された2以上の官能基の少なくともいずれかの2以上の組み合わせからなっていてもよい。
【0120】
より好ましい実施形態において、反応性官能基は以下の基
【化4】
からなる。
【0121】
本発明の好ましい実施形態において、反応性質量標識体は以下の構造の1を有する。
【化5】
3−[2−(2,6−ジメチル−ピペリジン−1−イル)−アセチルアミノ]−プロパン酸−(2,5−ジオキソ−ピロリジン−1−イル)−エステル(DMPip−βAla−Osu)
【化6】
3−[2−(ピリミジン−2−イルスルファニル)−アセチルアミノ]−プロパン酸−(2,5−ジオキソ−ピロリジン−1−イル)−エステル(Pyrm−βAla−Osu)
【化7】
6−[(ピリミジン−2−イルスルファニル)−アセチルアミノ]−ヘキサン酸−(2,5−ジオキソ−ピロリジン−1−イル)−エステル(Pyrm−C6−Osu)
【化8】
2−[2−(2,6−ジメチル−ピペリジン−1−イル)−アセチルアミノ]−プロパン酸−(2,5−ジオキソ−ピロリジン−1−イル)−エステル(DMPip−Ala−Osu)
【化9】
[2−(2,6−ジメチル−ピペリジン−1−イル)−アセチルアミノ]−酢酸−(2,5−ジオキソ−ピロリジン−1−イル)−エステル(Pyrm−Gly−Osu)
【0122】
本発明による方法においては、セット中の各標識体は、共通の総質量を有し、そして固有の質量を有する質量マーカー部分を有する。
【0123】
セットの各質量マーカー部分が共通の基本構造を有し、セットの各質量正規化部分が共通の基本構造を有し、セットの各質量標識体が1以上の質量調整部分を含み、質量調整部分が質量マーカー部分の基本構造及び質量正規化部分の基本構造の少なくともいずれかに結合し及びその中に位置することのいずれかであることが好ましい。この実施形態において、セットの各質量マーカー部分は異なる数の質量調整部分からなり、セットの各質量標識体は同数の質量調整部分を有する。
【0124】
この説明を通じて、共通の基本構造により、2以上の部分が実質同一の骨格構造、バックボーン、及びコアのいずれかを共有することを意味する。骨格構造は、上記式の質量マーカー部分及び上述のように定義された質量正規化部分のいずれかからなり、更にアミド結合で結合された複数のアミノ酸を含んでもよい。アリールエーテルユニット等の他のユニットも存在してよい。共通の基本構造を変化させない範囲で、骨格構造及びバックボーンのいずれかは、ペンダント置換基を含んでいても、原子及び同位体のいずれかで置換されていてもよい。
【0125】
好ましい実施形態において、本発明による質量標識体及び反応性質量標識体のいずれかのセットは、以下の構造:
M(A)y−L−X(A)z
(式中、Mは質量正規化部分であり、Xは質量マーカー部分であり、Aは質量調整部分であり、Lは開裂可能リンカーであり、y及びzは0以上の整数であり、y+zは1以上の整数である)を有する質量標識体からなる。Mがフラグメンテーション耐性基であり、Lが他の分子及び原子のいずれかと衝突した際にフラグメンテーション感受性であるリンカーであり、Xが予備イオン化されたフラグメンテーション耐性基であることが好ましい。
【0126】
MとXの質量の合計はセットのすべての標識体にて同一である。MとXは同一の基本構造及びコア構造のいずれかを有することが好ましく、この構造は質量調整部分により修飾される。質量調整部分は、MとXの質量の合計がセットの全ての質量標識体において同一であることを確実にし、各Xが異なる(固有の)質量を有することも確実にする。
【0127】
前記質量調整部分(A)は
(a)質量マーカー部分及び質量正規化部分の少なくともいずれかの内に位置する同位体置換基、並びに
(b)質量マーカー部分及び質量正規化部分の少なくともいずれかに結合した置換原子及び置換基のいずれか、から選択されることが好ましい。
【0128】
質量調整部分は、ハロゲン原子置換基、メチル基置換基、及び2H、15N、18O、及び13Cのいずれかの同位体置換基から選択されることが好ましい。
【0129】
本発明の好ましい1実施形態においては、上述のように定義された質量標識体セットの各質量標識体は、以下の構造:
X(*)n−L−M(*)m
(式中、セットの各標識体が固有の質量を有する質量マーカー部分を有し、セットの各標識体が共通の総質量を有するように、Xは質量マーカー部分であり、Lは開裂可能リンカーであり、Mは質量正規化部分であり、*は同位体質量調整部分であり、及びn及びmは0以上の整数である。)を有する。
【0130】
Xは、以下の基:
【化10】
(式中、セットの各標識体が固有の質量を有する質量マーカー部分からなり、そして共通の総質量を有するように、R1、Z、X、及びyは上述のように定義され、セットの各標識体は0、1、及びこれを超える数のいずれかの数の*からなる)からなる。
【0131】
更なる好ましい実施形態においては、本発明の反応性質量標識体は、以下の反応性官能基を含む。
【化11】
(式中、セットの各標識体が固有の質量を有する質量マーカー部分からなり、そして共通の総質量を有するように、R2は、上述のように定義され、セットは、0、1、及びこれを超える数のいずれかの数の*からなる)からなる。
【0132】
以上全ての好ましい構造式において、同位体種*は、アナライトに標識体を結合することを容易にするために存在する任意の反応性部分に位置するのではなく、質量マーカー部分、リンカー、及び質量調整部分の少なくともいずれかの内に位置することが特に好ましい。同位体置換基の数は特に制限されないが、セットの標識体数に従って決定することができる。通常、同位体種*の数は0〜20、より好ましくは0〜15、最も好ましくは1〜10であり、例えば1、2、3、4、5、6、7及び8のいずれかである。2の標識体を有するセットにおいて、同位体種*の数は1であることが好ましく、5の標識体を有するセットにおいては同位体種数が4であることが好ましく、6の標識体を有するセットにおいては同位体種数が5であることが好ましい。しかしながら、標識体の化学構造によっては、同位体種数を異なるものとしてもよい。
【0133】
必要であれば、標識体が1以上の硫黄原子を含有する場合、異種同位体Sを質量調整部分に用いてもよい。
【0134】
質量調整部分が15N及び13Cのいずれかである特に好ましい実施形態において、反応性質量標識体のセットは以下の構造:
【化12】
【化13】
を有する2の質量標識体からなる。
【0135】
質量調整部分が15N及び13Cのいずれかである代替の特に好ましい他の実施形態において、反応性質量標識体セットは以下の構造:
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
を有する5の質量標識体からなるセットからなる。
【0136】
質量調整部分が15N及び13Cのいずれかである代替の特に好ましい他の実施形態において、反応性質量標識体のセットは以下の構造:
【化19】
有する6の質量標識体I−VI及びこれらの構造の立体異性体のいずれかからなる。
【0137】
本発明による方法は、工程(a)より前に、サンプルの成分を分離する更なる工程を含んでもよい。前記方法は、工程(a)より前に、サンプルの成分を消化するために少なくとも1の酵素を用いて各サンプルを消化する工程を含んでもよい。前記酵素消化工程を、工程(a)の後だが工程(b)より前に実施してもよい。
【0138】
更なる実施形態において、前記方法において使用される質量標識体は、アフィニティー捕獲リガンドを更に含有していてもよい。工程(a)の後で工程(b)の前に、非標識アナライトから同重標識アナライトを分離するために、質量標識体の前記アフィニティー捕獲リガンドをカウンターリガンドに結合させる。
【0139】
アフィニティー捕獲リガンドは、特異性の高い結合相手を有するリガンドである。これらの結合相手は、結合相手がリガンドでタグされた分子を選択的に捕獲することを可能とする。結合相手により固体担体が誘導体化することが好ましく、それによりアフィニティーリガンドによりタグされた分子は選択的に固相担体に捕獲できる。好ましいアフィニティー捕獲リガンドはビオチンであり、当技術分野において既知の標準的な方法により本発明の質量標識体に導入することができる。特にリシン残基は、質量マーカー部分及び質量正規化部分のいずれかの後に導入することができ、これを介してアミン反応性ビオチンを質量標識体に結合させることできる(例えば、Geahlen R.L.ら,“A general method for preparation of peptides biotinylated at the carboxy terminus.”, Anal Biochem,1992, 202巻(1号),pp.68−67;Sawutz D.G.ら,“Synthesis and molecular characterization of a biotinylated analogue of [Lys]bradykinin.”, Peptides,1991,12巻(5号),pp.1019−1012;Natarajan S.ら,“Site−specific biotinylation. A novel approach and its application to endothelin−1 analogues and PTH−analogue.” Int J Pept Protein Res,1992,40巻(6号),pp.567−567を参照)。イミノビオチンを用いることもできる。ビオチンに対する様々なアビジンカウンターリガンドを使用することができる。アビジンカウンターリガンドには単量体及び四量体アビジン及びストレプトアビジンがあり、これら全てを多数の固相担体に用いることができる。
【0140】
他のアフィニティー捕獲リガンドとして、ジゴキシゲニン、フルオレセイン、ニトロフェニル部分、並びにc−mycエピトープ等の多数のペプチドエピトープがあり、それらに対してカウンターリガンドとして選択的モノクローナル抗体が存在する。容易にNi2+イオンに結合するヘキサヒスチジン等の金属イオン結合リガンドを用いることもできる。例えば、イミノ二酢酸キレート化Ni2+イオンを与えるクロマトグラフィー樹脂が市販されている。これらの固定化ニッケルカラムは、質量標識体を捕獲するのに用いることができる。更なる代替のアフィニティー捕獲リガンドとして、アフィニティー捕獲官能基が、適切に誘導体化された固相担体と選択的に反応できる物も使用できる。例えば、ボロン酸は、隣接したシス−ジオール及びサリチルヒドロキサム酸等の化学的に類似したリガンドに選択的に反応することが知られている。
【0141】
本発明による方法は、更に、工程(a)の後であるが工程(b)の前に、同重標識したアナライトを電気泳動及びクロマトグラフィーのいずれかによって分離する工程を含んでもよい。好ましい実施形態においては、強カチオン交換クロマトグラフィーが使用される。
【0142】
用語「試験サンプル」は、アナライトが存在し得る任意の被検査物のことを呼ぶ。前記試験サンプルは、1のアナライトのみからなってもよい。或いは、前記試験サンプルは、複数の異なるアナライトからなってもよい。この実施形態においては、各異なるアナライトに対して1個のキャリブレーションサンプルが与えられる。前記試験サンプルは、天然源由来のものでも、合成的に製造されたものでもよい。合成的に製造されたサンプルの例は、組み換えタンパク質の混合物である。1の実施形態においては、前記試験サンプルは、複雑な混合物、例えば、植物及び動物のいずれかからのサンプルである。好ましい1実施形態においては、前記サンプルは、ヒトからのものである。
【0143】
本発明において分析される試験サンプルの例としては、哺乳類組織、血液等の体液、血漿、血清、脳脊髄液、滑液、眼液、尿、涙及び涙管滲出液、気管支肺胞洗浄液等の肺吸引物、母乳、乳頭吸引液、精液、洗浄液、細胞抽出物、細胞株及び細胞質オルガネラ、固体器官組織等の組織、哺乳類、魚、鳥類、昆虫類、環形動物類、原生動物類、及び細菌類に由来する細胞培養上清及び調製物のいずれか、組織培養抽出物、植物組織、植物体液、植物細胞培養抽出物、細菌、ウイルス、真菌、発酵もろみ液、食料品、医薬品、及び任意の中間生産物が挙げられる。
【0144】
好ましい実施形態においては、前記試験サンプルは血漿である。前記試験サンプルがタンパク質除去血漿である実施形態が特に好ましい。このタンパク質除去血漿は、前記サンプル中のタンパク質負荷を減少させ、それゆえ前記サンプル中のアナライトの数を減少させるために、アルブミン等の最も豊富に存在する血漿タンパク質を精製して除去した血漿である。
【0145】
用語「キャリブレーションサンプル」は、少なくとも2個の異なるアナライト含有アリコートからなるサンプルのことを呼ぶ。前記異なるアリコートは、それぞれアナライトを既知の量で有する。用語「既知の量」とは、前記キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの絶対量及び定性的量のいずれかが既知であることを意味する。本明細書において「定性的量」とは、絶対量は知られていないが、特定の状態を有する被検体、例えば健常状態及び罹患状態のいずれかにある被検体などにおいて予期される範囲の量、及び調査している試験サンプルの種類に依存して予期される何らかの他の範囲の量のいずれかであってもよい量を意味する。
【0146】
各アリコートは、異なる量のアナライトを含有するので、「異なる」。通常は、この様式は、標準サンプルから異なる体積を採取することによって達成され、特に、絶対量を知る必要なしに異なる体積を採取することで各アリコート中に異なる量を望ましい比で採取することを確実にする定性的量の採取において有効である。代替のアリコートでは、各アリコートは別個に調製され、同一サンプルからは採取されない。1の実施形態においては、各異なるアリコートは、同一の体積を有するが、異なる量のアナライトを含有する。
【0147】
前記キャリブレーションサンプルは、分析するサンプルに関しては、体液及び組織抽出物のいずれかなどの天然サンプルでも合成物でもよい。前記キャリブレーションサンプルは、組み換え技術を使用して発現させたタンパク質、合成的に製造したペプチド及び合成的に製造したオリゴヌクレオチドのいずれかを含むことができる。加えて、組み換えタンパク質発現によって多数の異なるペプチドをコンカテネートした配列で製造することが可能である。欧州特許出願公開第1736480号明細書においては、AQUA法に類似の様式で、複数の参照ペプチドを、コンカテネートさせた組み換えタンパク質として製造し、多重反応モニタリング実験において使用する方法が開示されている。このような製造方法を、同重質量標識体と組み合わせ、本発明の種々の態様のいずれかによるキャリブレーションサンプルを提供することもできる。
【0148】
前記キャリブレーションサンプルは、分析されるサンプルを標準化した形態でもよい。前記キャリブレーションサンプルは、分析されるサンプルの成分全てを含有してもよいが、特定の量で含有する。例えば、キャリブレーションサンプルは、哺乳類の組織の標準化調製物、血液等の体液、血漿、血清、脳脊髄液、滑液、眼液、尿、涙及び涙管滲出液、気管支肺胞洗浄液等の肺吸引物、母乳、乳頭吸引液、精液、洗浄液、細胞抽出物、細胞株及び細胞質オルガネラ、固体器官組織等の組織、哺乳類、魚、鳥類、昆虫類、環形動物類、原生動物類、及び細菌類に由来する細胞培養上清及び調製物のいずれか、組織培養抽出物、植物組織、植物体液、植物細胞培養抽出物、細菌、ウイルス、真菌、発酵もろみ液、食料品、医薬品、及び任意の中間生産物を含んでいてもよい。注目するアナライトがタンパク質である場合、キャリブレーションサンプル中の全てのタンパク質が標識されるので、このようなサンプルの全プロテオームを研究サンプルの全てのタンパク質の参照として使用することができる。
【0149】
あるいは、前記キャリブレーションサンプルは、前記サンプル中の分析されるアナライトのみを含有し、前記サンプルの他のいかなる成分も含有しないことができる。1以上のアナライトを含有するキャリブレーションサンプルを製造し、外部で同重標識し、そして前記アナライトを含有する複合混合物へ添加することができる。例えば、前記サンプルが血漿サンプルであり、特定のタンパク質のみが前記血漿サンプルにおいて分析される場合、異なる組み換え型タンパク質のアリコートからなるキャリブレーションサンプルを調製することができる。
【0150】
本発明による1方法においては、キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの量が、既知の絶対量である。これは、工程(b)において試験サンプル中のアナライトの絶対量が測定されることを考慮している。
【0151】
代替の方法においては、キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの絶対量は、未知である。この実施形態においては、キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの量は、既知の定性的量である。較正工程には、キャリブレーションサンプルのアリコート中のアナライトの定性的且つ測定された量に対して試験サンプル中のアナライトの量を較正することが含まれる。特定の実施形態においては、前記定性的量は、健常状態及び罹患状態のいずれかなどの特定の状態を有する被検体におけるアナライトに予期される範囲の量である。相対的定量のためにこのようなキャリブレーションサンプルが与えられる分析は、バイオマーカーの発見、工業微生物学、医薬品及び食品の製造、並びにヒト及び家畜の疾病の診断及び管理等の広範囲の用途を有する。
【0152】
相対的定量実験は、血漿等の複合生体サンプルを分析する場合に、しばしば有用である。具体的な実施形態においては、大量のヒト血漿全体を数個(即ち4個)のアリコートに分け、異なる同重質量標識体で個々に標識する。例えば、6−plex Tandem Mass Tag 試薬(前記を参照のこと)を使用して、血漿の4個の標識アリコートを製造することができる。6TMT−128、6TMT−129、6TMT−130、及び6TMT−131を標識のために使用できる。全ての個々の血漿試験のサンプルは、この同重質量タグのもう1個の異なる種類、即ち6TMT−126で標識される。今検量線を作製するために、血漿のアリコートを使用できるようになっている。例えば、4個のアリコートをそれぞれ0.5μL、1μL、2μL、5μLずつ用い、混合し、キャリブレーションサンプルを製造し、そして次に1μLの試験サンプルを添加することができる。サンプルに4個の相互に異なるように標識したアリコートからなるキャリブレーションサンプルを混合することによって、この材料を用いて実施される殆どすべてのMS/MS実験において、5種のレポーターイオン(キャリブレーションサンプルから4個及びサンプルから1個)からなるグループが得られる。このようにして、全プロテオームを4点検量線の作製に使用することができる。全ての血漿試験サンプルに、同一量のキャリブレーションサンプルが添加される場合、全ての試験サンプルにわたる相対的定量が可能になる。複数の試験室においてこのキャリブレーションサンプルを使用できるので、試験横断的比較及び試験室横断的比較が可能である。
【0153】
アナライトの絶対量は、知られていない可能性があるのに対して、量の%変化率を検量線から計算することができる。用途に従い、検量線の比率及び幅を調節することができる。
【0154】
キャリブレーションサンプルの各異なるアリコート中のアナライトの量が、試験サンプルにおけるアナライトの量の既知の変動及び推測される変動のいずれかを反映するようにして選択される実施形態が好ましい。健常被検体及び罹患被検体のいずれかの試験サンプル中に見出されるアナライトの既知の量及び推測される量のいずれかの範囲内の上限及び下限、並びに任意に中間点に相当する量のアナライトを含むアリコートが提供される実施形態が、なお更に好ましい。
【0155】
各アナライトは、試験サンプル中の他の全てのアナライトと独立に定量されるので、それぞれが他の全てのキャリブレーションサンプルとは大きく濃度の異なるキャリブレーションサンプルの複数のセットを調製し、実験のダイナミック・レンジを向上させることが考えられる。各アナライトに対して多数の参照生体分子を調製する方法において、各生体分子を重複する量範囲で提供し、これにより所定のアナライトの標準曲線の総範囲を拡張することも可能である。例としては、タンデム型質量分析計における能力に基づいて、参照標準として使用するために、標的タンパク質からの多数の異なるトリプシンペプチドを選択することができる。前記参照ペプチドは、質量スペクトルにおける前記ペプチドに相当するイオンのイオン強度に基づいて選択することも、前記ペプチドに相当するイオンが出現するスペクトルの領域における信号対雑音比に基づいて選択することもできる。或いは、前記参照ペプチドは、同重種を有するペプチドを回避するようにして選択することもできる。タンパク質型ペプチド、即ち特定のタンパク質中にのみ存在するペプチドの選択が特に多用される。
【0156】
各標準ペプチドを独立に、同重質量タグの6部セットの5以下の異なるタグを用いて標識する場合、これらを異なる比率で混合し、5点標準曲線を作製することができる。第2の標準ペプチド群、第3の標準ペプチド群、第4の標準ペプチド群及びこれらを超える標準ペプチド群のいずれかを標識するのに同一の同重質量標識体群が使用でき、標準ペプチド群のそれぞれを、同一のアナライトのためのその他の参照ペプチド群のそれぞれによってカバーされる範囲とは異なる範囲の濃度をカバーするような異なる比率で混合することができる。
【0157】
標的タンパク質に由来する各ペプチドに対して、各検量線が異なる濃度範囲をカバーするようにして、1の異なる検量線を作製する。次に各ペプチドの濃度をそれぞれの検量線から決定するが、これは標的タンパク質の濃度に結びつけることができる。検量線の幾つかでは、試験サンプル中のペプチド量を、検量線の中間に位置させることができ、サンプル中の実際量の正確な決定が行われる。異なる濃度範囲をカバーする他の検量線については、試験サンプル中のペプチ量が検量線の範囲の外に位置することがある。それぞれが注目する単一のアナライトに由来する複数のペプチドを使用することによって、複数の検量線を作製することができ、これにより同一のアナライトの量を求めることができ、次に最も正確な検量を選択することで、1以上のペプチドの濃度から試験サンプル中のアナライトの濃度を決定することができる。このようにして、分析感度について妥協することなく、広いダイナミック・レンジをカバーすることができる。
【0158】
キャリブレーションサンプルは、正常な量のアナライトからなることができる。前記キャリブレーションサンプル中のアナライトの量は、植物、動物或いは好ましくはヒトが健常であることを示す可能性がある。或いは、キャリブレーションサンプルは、特定の疾患の存在及びステージの少なくともいずれかを示す量のアナライトからなってもよい。更なる実施形態では、キャリブレーションサンプルは、治療法の有効性及び毒性の少なくともいずれかを示す量のアナライトを含む。疾患の存在及びステージの少なくともいずれか、治療に対する反応、及び毒性の少なくともいずれか等の特定の特性についての既知のマーカーの標準的パネルが与えられる。同重質量タグで標識した体液及び組織抽出物のいずれかからなるキャリブレーションサンプルを、これらに限られるわけではないが、腫瘍、神経変性疾患、心臓血管疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、呼吸器疾患、代謝性疾患、炎症性疾患、及び伝染性疾患等のよく特徴づけられた疾患に罹患している患者から調製することができる。既知量のこのようなサンプルを複数の試験サンプルに添加し、共通のキャリブレーションサンプルのイオン強度に基づいて一連の分析についてのMS/MSスキャンのイオン強度を正規化することができ、これにより別個の分析間での比較の正確性を高め、試験の分析変動を減少させることができるようにする。
【0159】
冠状動脈医療の場合においては、ミオグロビン、トロポニン−I、CK−MB、BNP、pro−BNP、及びNT−pro−BNP等の既知の心臓疾患マーカーのトリプシン消化物に由来する1連のペプチドを合成し、これらを3のアリコートに分ける。各参照ペプチドの各アリコートを、このような同重質量タグのセットからの3の同重質量タグの1で標識するが、このとき前記セット中の全てのタグは、実質的に質量分析法によって決定される総質量が同一であり、前記セット中の各タグは、質量分析計中での衝突誘起解離に際して固有の質量を与える質量レポーターイオンを放出する。各固有の参照ペプチド−質量タグ分子に、次に、3の相互に異なるように標識した同一参照ペプチド含有アリコートの濃度を変動させ、この変動幅が心臓疾患を罹患している患者における親タンパク質の通常生体濃度をカバーするように、既知の濃度でMS適合性緩衝液等の担体溶液を添加する。結果として生じた参照ペプチドパネルに、規定の体積比で、参照ペプチドを標識するために使用した同重質量タグのセットと同一のセットからの第4の同重質量タグで標識されている試験サンプルを添加する。この添加済みサンプルを、次に、タンデム型質量分析法にかける。ここでは、指示に従ってサーベイスキャンが実施され、同重標識参照ペプチドのそれぞれに対応する特徴的保持時間と質量の前駆体イオンの同定のみが行われる。各選択済みイオンに対して、MS/MSスキャンは、高濃度、中濃度、及び低濃度の参照ペプチド及び試験サンプルに由来するレポーターイオンを発生させる。
【0160】
単純標準曲線を参照ペプチドレポーターイオン強度から簡単に作製することによって、試験サンプル中の同一ペプチドからの第4のレポーターイオンの濃度を前記検量線を用いて読み取ることができる。この方法によって、複数の生物学的に関連するタンパク質の絶対濃度を、1回のMS/MS実験において決定することができる。当業者であれば、それに対して参照ペプチドを調製する異なるタンパク質の数は特に制限する必要はないことに気付くであろう。その数は1〜100の範囲であり、1〜50の範囲が最も好ましい。同様に代表ペプチドの数は1〜20の範囲であり、1〜10の範囲が好ましく、1〜5の範囲がより好ましく、そして1〜3の範囲が最も好ましい。当業者には、上述の例が一般的例であり、そこで説明された原理が、任意の疾患の既知のマーカーに適用でき、疾患の診断、疾患の進行のモニタリング、及び治療に対する患者の反応のモニタリングのいずれかに適用できることが理解される。
【0161】
更に、これらのキャリブレーションサンプルの用途としては経時的実験における使用がある。経時変化するサンプルの「状況」を、(4)の異なるアリコートを、実験を開始後0時間の時点、1時間の時点、8時間の時点、及び24時間の時点(マウス及びヒトへの薬剤投与、E.coli及び酵母における発酵の誘起などにおいて)、慢性疾患の進行及び治療への反応についての数週間及び数ヶ月の長期のタイムスケール等の4の異なる時点から採取することでキャリブレーションサンプルに反映させることができる。
【0162】
本発明の更なる態様においては、キャリブレーションサンプルのアリコートの1が、MSスキャンの間の又は非スキャンMS/MSの間にMS/MSスキャンを開始するためのトリガーの役目を果たす量のアナライトを含有する。
【0163】
非スキャンMS/MS状態とは、質量分析計における質量分析器において所定のm/z比を有する特定のイオンがいずれも選択されず、その代わり本質的に全てのアナライトがフラグメント化され非特異的フラグメントスペクトルを与えている状態である。通常、これは、全てのイオンを第1の質量分析器から衝突室へと通過させ、衝突室で、従来のMS/MSのような特定の選択されたイオンではなくサンプル中の全てのアナライトに対してCIDを実施することで生じる。このMS/MSスペクトルは、特定のアナライトに対して特異的な訳ではないが、トリガーに由来するレポーターイオンは、ちょうどその時注目するアナライトが質量分析計に侵入していることを示す指標として使用することができる。好ましい実施形態においては、トリガーからのレポーターイオンの存在は、LC−MSにおいてその時注目するアナライトがLCカラムから溶出していることを示す。これによって、予め規定されたMS/MS実験が開始される。
【0164】
このトリガーは、必ずしも同重質量標識体で標識したアナライトでなくてもよい。前記トリガーは、LC−MSの間に注目する標識アナライトと共溶出及び実質的な共溶出のいずれかをする他の任意の標識アナライトであってもよい。前記トリガーアナライトの前記標識は、キャリブレーションサンプルの同重質量標識体の質量と異なる質量を有していてもよい。例えば、1の実施形態において、キャリブレーションサンプルは、同重質量標識体で相互に異なるように標識したアナライトのアリコートと、更に、化学的には同一だが、好ましくは同重質量標識体の質量と5Daの質量差を有する同位体的に異なる質量標識体で標識されたアナライトのアリコートを含む。前記同位体的に異なる質量標識体は、次に「トリガー」の役目を果たすことができる。分析のMS段階において、同位体的に異なる標識体及び同重標識体を保持するキャリブレーションサンプル中の各アナライトは、同重標識体と同位体的に異なる標識体との間の質量差の分だけ分離した1対のピークとして出現する。このとき同位体的に異なる標識体を保持するアナライトは、容易に検出可能な量で出現する。質量分析計は、このような対のピークのうち同重標識したアナライトに対して、この用途専用のMS/MS実験を実施するようにプログラムされており、これにより注目するアナライトの定量分析が開始される。
【0165】
好ましい1実施形態においては、同位体的に異なる質量標識体トリガーは、同位体置換基を有さず、同重質量標識体は、好ましくは2H、15N、18O、及び13Cのいずれかの同位体置換基を複数有する。これにより、キャリブレーションサンプルの同重質量標識体で標識されたアナライトとトリガー標識体で標識されたアナライトとの間に質量差が与えられる。このトリガー標識体は、同位体置換基を含まないので、費用のかかる同位体標識を行う必要も無しに、この標識体は、必要に応じて多量に使用できる。
【0166】
本発明は、サンプル中の低存在量アナライトの検出能を向上させる方法も提供する。注目する低存在量タンパク質に対する組み換え参照タンパク質を発現させ、次に同重質量タグで標識することができる。次に試験サンプルを、同一セットの同重質量標識体からの第2の標識体で標識し、大量の同重標識組み換え参照タンパク質をこの試験サンプルに、1次元ゲル電気泳動及び2次元ゲル電気泳動のいずれか、フリーフロー電気泳動、キャピラリー電気泳動、オフゲル等電点電気泳動、並びにLC−MS/MS、LC−MS″、及びLC−TOF/TOFの少なくともいずれか等の選択される任意の方法によって容易に検出可能である濃度で、添加する。同重標識参照材料の検出の後で、MS/MSスキャン及びTOF/TOF分析のいずれかを実施し、前記参照材料及び試験サンプルのレポーターの質量を定量する。同重質量タグのセットから数個のタグを使用することにより、より生理学的に関連性のある濃度を有しそしてそれゆえ分析の全体の正確度を改善する複数点検量線を提供することが可能になる。この実施形態において、非同重標識を注目する標識アナライトと共に検出することができる場合、例えばトリガーアナライトと同重標識アナライトとがゲル上の同一スポットに出現及びLC−MSにおいて共溶出のいずれかをする場合、トリガーアナライトを標識するために非同重標識を使用することも可能である。
【実施例】
【0167】
本発明を以下の実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0168】
(実施例1.ウシ血清アルブミンについての4点絶対定量標準の調製)
本発明の原理を説明するために、ウシ血清アルブミン(BSA)に対する参照試薬のセットを調製した。1mgのBSAを緩衝液中に溶解し、還元し、アルキル化し、次にトリプシンで消化した。当業者であれば、タンデム型質量分析法による分析に適合性があり、トリプシンペプチドを調製するのに適切な如何なる方法も使用できることを十分に理解するであろう。
【0169】
前記トリプシン消化物を4個のアリコートに分け、各アリコートを国際公開第2007/012849号パンフレットの6プレックスTMT標識体の異なる標識体で標識した。これにより、第1のアリコートを質量マーカー部分の質量が128DaであるTMT標識体で、第2のアリコートを質量マーカー部分の質量が129DaであるTMT標識体で、第3のアリコートを質量マーカー部分の質量が130DaであるTMT標識体で、最後のアリコートを質量マーカー部分の質量が131DaであるTMT標識体で標識した。各TMT標識体試薬ストック溶液(60mMアセトニトリル溶液)を各サンプルに、TMT試薬の最終濃度が15mMになるようにして、添加することにより標識工程を実施した。
【0170】
次に、サンプルを室温で1時間インキュベートした。最後に、各サンプルにおいて部分的に生じた副反応と、標識サンプルの凝集とを元に戻すために、ヒドロキシルアミンストック液(50% w/v 水溶液)を各タンパク質サンプルに添加して(ヒドロキシルアミンの最終濃度が0.25% [w/v]になるようにして)処理し、そして室温で15分間インキュベートした。
【0171】
BSA参照標準を準備するために、異なるアリコートのTMT−標識消化物を、TMT−標識消化物の最終濃度が以下のようになるようにして、混合した。
128−TMT 15.6μgmL−1
129−TMT 46.9μgmL−1
130−TMT 140.6μgmL−1
131−TMT 421.9μgmL−1
各分析のためには、10μLの参照材料を試験サンプルに添加し、これにより参照TMT−標識消化物の量が0.156μg、0.469μg、1.406μg、及び4.219μgとなるようにした。
【0172】
(実施例2.タンデム型質量分析法によるウシ血清アルブミン溶液の分析)
実施例1において調製したBSA標準を用いた定量の正確度を、既知のBSA濃度を有する1連の溶液にBSA標準溶液を添加して分析することによって判定した。
【0173】
個々のBSA溶液を緩衝液を用いて調製し、上述のようにして処理しトリプシン消化物とした。各トリプシン消化物を、本質的に上述のようにして、質量126Daの質量マーカー部分を有するTMT標識体を使用して標識した。
【0174】
タンデム型質量分析法による分析に先立って、10μLのBSA標準ストック溶液を126−TMT標識BSA溶液それぞれの10μLに添加し、この全量をQTOF IIエレクトロスプレー質量分析計のイオン化源に注入した。
【0175】
<LC ESI MSプロトコール>
粒子サイズが3μm、流速が300μL/minでMicromass QTOF IIに連結した、サイズが75μm、150mmのRP−C18カラムを有するWaters Cap−LCからなる本発明者らのパイプラインを介して、MS/MSデータを発生させた。MS/MS実験は、データ依存測定モード(DDA)により実施した。稼動の間、MS/MS実験を、1MSスキャンに対し1.0秒のデータ収集時間、及び続くそれぞれ1.4秒の4種の最も存在量が多かったイオン種の4連続MS/MSスキャンという条件で実施した。図2に、BSAトリプシンペプチド AEFVEVTK のMS/MSプロフィールを示す。上段にフルMS/MSスペクトルを示す。下段に同重質量マーカー部分領域の拡大表示を示すが、ここでは同一ペプチドの試験サンプル(126)中及び参照材料(128、129、130、及び131)中での異なる存在量を反映した異なる強度のピークが示されている。
【0176】
次にMS/MSスペクトルをSequestTMを用いて分析し、IPIデータベースの現行のリリースに適合させた。プロテインID(受託番号及びMS/MSスキャンから抽出した部分配列)、保持時間、並びに全てのレポーター(126Da、128Da、129Da、130Da、及び131Da)のレポーターイオン強度をExcelのスプレッドシートにエクスポートした。
【0177】
実験の条件及び分析の間の個々のペプチドの挙動に従って、定量するペプチドの数を1、4、10、及びそれを超える数のいずれかに選択する。低強度のレポーターを有するペプチドは、それのもたらす分析精度及び品質が疑わしい場合には排除し、並びにレポーターが規定される強度閾値外にあるペプチドも排除した。
【0178】
上述の10μLの4点BSA参照標準を添加した10μLの100μgmL−1126−TMT標識BSAを含有するBSA溶液の分析の結果を表2に示す。
【0179】
この実験のための標準曲線は、BSA由来トリプシンペプチドの全てのTMT質量マーカー部分強度(それぞれ128Da、129Da、130Da、及び131Da)をBSAの各参照ペプチド量について加算し、注入したBSAの絶対量に対して合計イオン強度をプロットすることによって計算される。この標準曲線を、図3に示す。分析サンプル中のBSAの量を計算するためには、全ての126Da TMT質量マーカー部分のイオン強度を加算し、前記標準曲線を用いてこの値から読み取る。この方法によってBSAの注入量は、0.892μgと計算された(1個の外れ値ペプチドを解析のために除外した)。個々のペプチドについてのデータを使用した場合、計算値は0.751μgBSAから1.016μgBSAの範囲にあった。
【0180】
【表2】
【0181】
(実施例3.特異的タンパク質バイオマーカー候補を検出するための血漿サンプルの分析)
10個の粗ヒト血漿サンプルを使用した。
本発明を使用して定量すべき対象のアナライトは、タンパク質のクラスタリンとした。以下に示すアミノ酸配列を有する1個のクラスタリンペプチドを、参照物質として使用した。
VTTVASHTSDSDVPSGVTEVVVK
【0182】
このペプチドの分子量は、2,313.17Da(モノアイソトピック)及び2,314.53Da(平均)である。このペプチドは、SwissProtエントリー(CLUS_HUMAN)内の386〜408残基に相当し、分子量25,878Daの成熟クラスタリンのα鎖の一部である。このペプチドは、3×TFAカウンターイオンを含有し、ペプチドストック液を生成する場合は、2,655g/molの分子量の増加を引き起こすと推定されている。
【0183】
<ペプチドからのキャリブレーションサンプルの製造>
1.66mgのペプチドから1μg/μLのペプチドストック液を製造した。それぞれ200μLの4ポーションを、それぞれTMT6−128、TMT6−129、TMT6−130、及びTMT6−131で標識した。これらのペプチドをNH2OHで処理し、生じ得るチロシン、セリン、及びトレオニンへの標識化を元に戻した。次に、相互に異なるように標識したペプチドサンプルを、1:2:4:8の比で混合した。図6は、使用した方法を例示する概略図である。LC−MS/MSによる初期の分析から、部分的に生じる過剰標識化状態を完全に元に戻すことはできず、従って第2の処理が必要であることが示された。このキャリブレーションサンプルは、TMT6−128標識血漿サンプルに混合する前に、528倍希釈した。
【0184】
<血漿サンプルの処理>
ELISAによって測定されるクラスタリン含量に基づいて、10個の血漿サンプルをコホートから選択した。1.66μLの各血漿サンプルを198.33μLの緩衝液(100mM TEAB、0.1%SDS、pH 8.5)で希釈し、全タンパク質量を142μg〜200μg(タンパク質濃度は、0.71μg/μL〜1.00μg/μL)とした。次に、各血漿サンプルをTMT6−126で標識し、最適条件に従ってNH2OH処理を実施した。次に、4μLの希釈キャリブレーションサンプルを10%の各サンプルに添加した。次に、このサンプルを逆相クロマトグラフィー並びに強カチオンイオン交換クロマトグラフィーによって精製した。
【0185】
<LC−MS/MS>
LC−MS/MSを、Qtof−2質量分析計(Waters,マンチェスター、イギリス)に連結したCapLCを用いて実施した。
1稼動当り5μLの精製サンプル(40nLの粗血漿に相当)を注入した。図7は、クラスタリン由来の標識ペプチドの保持プロフィールの質量スペクトルである。クラスタリン由来TMT−標識ペプチドから標的とするものを選んで行うMS/MSデータ収集を、次に、クラスタリン由来のTMT−標識ペプチドのm/zのリストを用いて実施した。衝突エネルギーパラメーターの最適化を行い、質量マーカー基イオン強度を増加させた。図8は、クラスタリン由来の標識ペプチドのMS/MSスペクトルである。挿入図は、質量マーカーイオンを示すMS/MSスペクトルの領域を示す。
【0186】
<データ解析>
全ての対応するMS/MSスキャンを手作業で蓄積し、1稼動当り1個のMS/MSファイルを作製した。次に、ピーク処理及びIDを、標準的方法を使用して実施した。各MS/MSファイルに対して、1本の検量線を、質量マーカーイオン強度128〜131(直線回帰)に基づいて作製した(図9)。各サンプル中に存在するペプチドの量を、次に、前記検量線を使用して決定した(表3)。最後に、μg/mLで表したサンプル当りのクラスタリン濃度を、クラスタリンα鎖の分子量に基づいて計算した。
【0187】
【表3】
【0188】
(実施例4.全プロテオーム定性参照標準の調製)
多くの状況下、例えば初期バイオマーカーの発見ワークフローにおいては、絶対定量参照標準を準備することは必ずしも必要ではなく、むしろ代表的、均一な標準であって、如何なる所定のアナライトの絶対量も知られておらず、参照サンプルの通常の範囲内にあると考えられる分析する全プロテオームをカバーする標準が準備される。このような全プロテオーム標準の1例が、ヒト血漿である。本発明を使用することにより、全てのタンパク質及びペプチドの少なくともいずれかが同重標識多重定性標準として存在する、一般的で均一な参照標準血漿を調製することが可能である。このような標準を、全てのタンパク質及びペプチドの少なくともいずれかを前記参照標準血漿に用いたものと同一の同重標識体のセットからの異なる標識体で標識した試験サンプルに添加する場合、MSにおいて検出される全ての前駆体イオンについての定量的MS/MS分析を実施することが可能であり、そして試験サンプル中のアナライトの参照標準に対する相対存在量を決定することも可能である。
【0189】
当業者であればこのコンセプトを、これらに限定するわけではないが、全血漿及びタンパク質除去血漿のいずれか、血清、脳脊髄液、滑液、尿、精液、乳頭吸引液、組織ホモジネート、細胞培養上清、細胞抽出液、細胞亜分画、膜調製物等の任意の定性標準に適用できること、及び特異的なサンプル種を代表する参照材料を個々に調製し、例えば多施設臨床試験においてバイオマーカー試験を正規化できることが十分に理解されよう。
【0190】
このような参照材料の1例を示すために、ヒト参照血漿の調製を実施した。4種の異なる同重質量タグを用いて、血漿を標識し、これらを混合し、全血漿プロテオームキャリブレーション混合物を作製した。強カチオン交換体(SCX)により24画分へ分離し(1)、逆相HPLCによりステンレス鋼MALDI−標的上の480スポットへ分離する(2)クロマトグラフィーによる分離の後、スポットを、4800 MALDI Tof/Tof質量分析計(Applied Biosystems、USA)においてMS及びMS/MSにより分析した。
【0191】
ヒト血漿は、Dade Behringから購入した(Standard Plasma)。この血漿に、以下の2種のタンパク質を添加した。
1)リボヌクレアーゼA、タイプI−AS:ウシ膵臓から(Sigma、R−5503)、分子量13.7kDa;pI 9.6;純度85%。リボヌクレアーゼA、タイプI−ASを1.8mg、170μLの水に溶解し、この溶液の10μLを、高存在量タンパク質の除去前の血漿1mLに添加した。
2)トリプシンインヒビター、タイプI−S:ダイズから(Sigma、T−9003);分子量20.1kDa;pI 4.5;タンパク質含量90%;α鎖分子量20,090Da;β鎖分子量20,036Da;γ鎖分子量20,163Da。トリプシンインヒビター、タイプI−Sを8.8mg、196μLの水に溶解し、この溶液の10μLを、高存在量タンパク質の除去前の血漿1mLに添加した。
【0192】
同重質量標識に先立って、6種の高存在量タンパク質(ヒトアルブミン、IgG、アンチトリプシン、IgA、トランスフェリン、及びハプトグロビン)を、Applied BiosystemsのBioCAD Vision HPLCに装着したAglient high capacity MARS4.6×100mmカラム(Part−Nr.518−5333)を用いて除去した。
【0193】
<還元、アルキル化、及びトリプシンによる消化>
タンパク質処理を、以下の標準プロトコールに従い実施した。タンパク質を希釈して、100mMホウ酸塩緩衝剤及び0.1%ドデシル硫酸ナトリウム中に溶解したpH7.5の1g/Lタンパク質溶液とした。システインの1mM TCEPによる還元を、室温で30分間かけて実施した。次に、このシステインを、ヨードアセトアミドを用いて、室温で1時間かけてアルキル化した。最後に440μgのトリプシンを添加し、37℃で18〜24時間、インキュベートした。
【0194】
<体積比1:2:4:8の混合物の調製及びTMT6を用いた標識>
トリプシン消化の後、タンパク質除去血漿を4個のアリコートに分け、各アリコートを独立に異なる同重標識体TMT6plex試薬、即ちTMT6−128、TMT6−129、TMT6−130、及びTMT6−131で標識した。標識処理の後、アリコートをそれぞれ1:2:4:8の体積比で混合し、血漿の4点キャリブレーション混合物を作製した(図1)。この参照材料のプロテオームカバー率を測定するために、この参照材料を多次元クロマトグラフィー及びタンデム型質量分光分析法によって分析した。
【0195】
<24の強カチオン交換体分画の採取>
質量分析法に先立って、SCXカラム(Poly LC、4.6mm(内径)×100mm;ポリスルホエチルA)に装着したBioCAD Vision HPLC(Applied Biosystems)を用いて、第1の分離を実施した。サンプルをWaters Sunfire RP PreColumn(4.0mm(内径)×10mm)に捕獲し、50%アセトニトリルのパルスを与えることでSCXカラムへ溶出した。PreColumnをオフラインに切替え、SCXカラムのための勾配をかけた溶出を開始した。SCX勾配は、溶媒C(水75%、アセトニトリル25%、KH2PO4を5mM、pH3)と30分間で濃度を0%から50%に変化させる溶媒D(水75%、アセトニトリル25%、KH2PO4を5mM、pH3、KClを500mM、pH3)とを用いて形成した。この分離工程で、24のSCX分画を採取した。各分画を、次に逆相分離にかけた。
【0196】
<逆相HPLC>
第2の分離システムは、Waters nanoAQUITY UPLC Systemによる逆相クロマトグラフィーである。MALDIワークフローにおいては、クロマトグラフィーとMS測定が連結されていないので、HPLCの条件を高ピーク容量が得られるように最適化することができた。カラム:75μm(内径)×250mm、1.7μmBEH 130 C18充填剤(Waters,part Nr.:186003545)を充填。カラムオーブン温度60℃。5μLの各SCX分画を、如何なるプレカラムも装着していないUPLCカラムに、直接注入した。
【0197】
【表4】
【0198】
<MALDI標的へのスポッティング>
nanoAQUITY UPLC Systemの前記分離カラムを、Dionex Probot spotterの注入口に連結し、MALDI調製物中のペプチドを、4800 Tof/Tof MALDI機器のためのMicrotiter format MALDIサンプル標的上で分画した。MALDI標的上においては、1920の個々の分画を採取することができる。1のMALDI標的に対してそれぞれ480のスポットを有する4のRPクロマトグラムを作製した。スポッティングは、保持時間50分から開始し、保持時間210分で終了し、1のスポットに対して20秒間のスポッティング持続期間で実施された。前記スポッター上で、0.35μL/minの溶離液流に0.6μL/minのMALDIマトリックス溶液流(80%アセトニトリル中に溶解したα−シアン−4−ヒドロキシ桂皮酸の5g/L溶液、19.8%の水、0.2%のトリフルオロ酢酸)を混合した。各MALDI調製物の体積は、約330nLであった。
【0199】
<4800 Tof/Tof機器でのMALDI MS及びMS/MS分析>
4800 Tof/Tof機器で、スポットに対しては2のモードの稼動が実施された。第1の稼動においては、リフレクターモードの従来からのMSスペクトルが記録された。個々のMSスペクトルそれぞれに対して、合計1,000のMALDIショットが行われた。スペクトルを、m/zが568.138のマトリックストリマーシグナルを用いて内部で較正した。ペプチドピークの溶出プロフィールの計算を含むLC MALDIストラテジー(分画対分画の質量トレランスが100ppm、200解像度内の前駆体の排除)を用いて、“4000 Series Explorer”機器ソフトウェアの解釈ツールにより、MS/MS実験の前駆体リストが発生させられる。後のMS/MS分析のために選択される前駆体として、1個のスポットに対して5個以下の前駆体が与えられた。MS/MSデータ収集を、最初に最も強い前駆体から行った。1のスペクトルに対して1,000のレーザーショットが必要であった。このMS/MSスペクトルを、TMT6−131フラグメントイオンの理論質量値131.1387を用いて内部で較正した。
【0200】
<MASCOTデータベース検索による同定>
15,818クエリーのデータベース検索をMASCOT Version 2.1.04を用いて実施した。ヒトタンパク質をIPIヒトデータベース(IPI_Human_20071024; 68348配列; 28969400残基)を用いた検索において同定した。添加したタンパク質は、両方ともIPIヒトデータベース中には存在しなかった;これらは、Swissprotデータベースにおいて、「他の哺乳類」という分類上のキーを使用して検索した。質量126、127、128、129、130、131のピーク面積を、Sequest ToolboxからのTOFTOF Matcherにより抽出した。
【0201】
(結果)
<定量分析>
GPS Oracle データベースからのピーク面積の抽出によって、質量128Da、129Da、130Da、及び131Daに存在するレポーターピークの計量を行った。ピーク面積の計算の後、検量線(1:2:4:8の比)の品質を確認するために、回帰分析を行った。レポーターピークの直線への適合について解析することによって、各ペプチドMS/MS実験の成功度を調べた。全てのMS/MSスペクトルについて、直線回帰が達成された。
【0202】
図10、図11、及び図12は、MS/MSスペクトルの代表例を示す。拡大図においては、連続するbイオンとyイオンとが見られる。挿入図として、1:2:4:8の混合比を有する128m/z、129m/z、130m/z、及び131m/zのレポーターを有するレポーター領域の拡大表示が示される。
【0203】
回帰分析によって、12,000のMS/MSスペクトルがある一定のR2値を達成していることが示された(表5を参照)。
【0204】
【表5】
【0205】
レポーターイオン強度が定量化のために強度に求められる基準を満たしていることを示す、合計約12,000のMS/MSスペクトルが得られた。MALDI TofTof MS/MSスペクトルにより、TMTタグフラグメントイオンが、定量化が可能になる良好な強度を有していることが示される。ペプチドのMS/MSスペクトル中の前記yイオン及びbイオンの一続きを、ペプチドIDのために使用した。控え目の閾で行ったデータベース検索では、IPIヒトデータベースにおける141のヒトタンパク質がサンプル中に同定された。添加タンパク質は、両方とも、Swissprotデータベース及び種に関連するフィルタリングを用いて確認された。同定したヒトタンパク質の中には、例えば、18のMS/MSスペクトル及び25%の配列カバー率を有するクラスタリンが見つかった。回帰分析によれば、半分を超えるMS/MSスペクトルのR2値が0.99を超え、90%のMS/MSスペクトルのR2値が0.94を超えた。
【0206】
20の最小ペプチドスコア閾及び45を超えるタンパク質閾を用いた場合、添加タンパク質の他に、141のヒトタンパク質が同定された(表6、表7、表8、表9)。
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験サンプル及びキャリブレーションサンプルを同重(isobaric)質量標識体で標識することによってアナライトを分析する質量分析法に関する。本発明により特に、所望のアナライトの相対的定量及び絶対的定量の少なくともいずれかが容易となる。
【背景技術】
【0002】
放射性原子、蛍光色素、発光試薬、電子捕獲試薬、及び光吸収色素等を用いた、所望の分子を標識する様々な方法が当該技術分野において知られている。これらの標識体系は、それぞれ、特定の用途には適しているが、他の用途には適さないという特徴を有する。安全性の点から、非放射性標識系への関心が高まり、特に遺伝分析のための蛍光標識法が商業的に広く開発されている。蛍光標識法によれば、比較的少数の分子の同時標識が可能で、通常4、最大でおそらく8の標識体を同時に使用できる。しかし、検出装置が高価であり、生じたシグナルの分析が困難であるため、蛍光検出法で同時に使用できる標識体数は制限される。
【0003】
ごく最近、所望の分子に開裂可能に結合した標識体の検出方法が、質量分析法の分野において開発されている。分子生物学への応用において、多くの場合、所望の分子を分析前に分離することが必要であり、その分離する方法として一般的に液相分離法が用いられる。最近の質量分析法では、液相分離用インターフェースが多数開発されており、これにより質量分析法がこのような応用において検出方法として特に効果的なものとなっている。最近まで、液体クロマトグラフィー質量分析法がアナライトイオン及びそのフラグメントイオンのいずれかを直接的に検出するために用いられていたが、核酸分析等多くの場合では、間接標識によってアナライト構造を決定することができる。これは、特に質量分析法の使用に対して有利である。その理由は、DNAのような複雑な生体分子は複雑な質量スペクトルを持つので、検出感度が比較的低くなるからである。間接検出とは、もとのアナライトの同定に標識体分子を用いることができることを意味し、その場合には、高検出感度及び質量スペクトルが単純になるようにその標識体を作製する。質量スペクトルが単純であるとは、複数のアナライトの同時分析に複数の標識体を用いることができることを意味する。
【0004】
特許文献1に記載されている核酸プローブのアレイは、開裂可能な標識体に共有結合し、その標識体は質量分析法で検出可能であり、共有結合した核酸プローブ配列を同定するのに使用される。この出願の標識したプローブは、Nu−L−M構造を有し、式中、NuはLに共有結合した核酸、Lは質量標識体Mに共有結合した開裂可能リンカーである。この出願において好ましい開裂可能リンカーは、質量分析計のイオン源内で開裂する。質量標識体は、置換ポリアリールエーテルであることが好ましい。この出願において、質量分析法により質量標識体を分析する具体的な方法として、様々なイオン化法と四重極質量分析計、TOF分析計、及び磁場型装置による分析が開示されている。
【0005】
特許文献2において、リガンドが開示されており、具体的には質量タグ分子に開裂可能に結合した核酸が開示されている。開裂可能リンカーは光開裂可能であることが好ましい。この出願では、質量分析法による質量標識体を分析する具体的な方法として、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)−TOF(飛行時間)質量分析法が開示されている。
【0006】
特許文献3において、放出可能な非揮発性の質量標識体分子が開示されている。好ましい実施形態では、質量標識体は高分子からなり、この高分子は通常、反応性基及びリガンドのいずれか、即ちプローブに開裂可能に結合した生体高分子である。開裂可能リンカーは、化学的及び酵素的のいずれかに開裂可能であることが好ましいと考えられる。質量分析法による質量標識体を分析する具体的な方法として、MALDI−TOF質量分析法が開示されている。
【0007】
特許文献4、特許文献5、及び特許文献6において、リガンドが開示されており、具体的には質量タグ分子に開裂可能に結合した核酸が具体的に開示されている。開裂可能リンカーは化学的に開裂可能及び光開裂可能のいずれかであることが好ましいと考えられる。これらの出願において、質量分析法により質量標識体を分析する具体的な方法として、様々なイオン化法と四重極質量分析計、TOF分析計、及び磁場型装置による分析とが開示されている。
【0008】
これらの従来技術の出願において、タンデム型及び直列型のいずれかの質量分析を用いて質量標識体を分析することについては触れられていない。
【0009】
非特許文献1において、同位体コード化アフィニティータグを用いてタンパク質からペプチドを捕獲し、タンパク質の発現分析を可能とすることが開示されている。この論文において、チオール反応性のビオチンリンカーを、システインを有する捕獲ペプチドに対して使用することが記載されている。一の材料から得られたタンパク質のサンプルをビオチンリンカーと反応させ、エンドペプチダーゼにより開裂する。ビオチン化システイン含有ペプチドをアビジンビーズで単離することにより、後続する質量分析法による分析が可能となる。1番目のサンプルをビオチンリンカーで標識し、2番目のサンプルを重水素化したビオチンリンカーで標識することで、これらの2つのサンプルを量的に比較することができる。そして、それらのサンプルにおける各ペプチドは、質量スペクトルにおいて一対のピークと現れる。質量スペクトルの各タグに対応するピークを積分することにより、タグに結合したペプチドの相対発現量を得ることができる。
【0010】
特許文献7において、2以上の質量標識体からなるセットが開示されている。セットの各標識体は、質量正規化部分に開裂可能リンカーを介して結合するフラグメンテーション耐性の質量マーカー部分からなる。セット中の各標識体の総質量は同一でも異なっていてもよく、また、セットの各標識体の質量マーカー部分の質量も同一でも異なっていてもよい。共通の質量の質量マーカー部分を有するセット中の任意の標識体のグループにおいては、各標識体の総質量はそのグループにおける他の全ての標識体とは異なる。また、共通の総質量を有するセット中の任意の標識体のグループにおいては、各標識体はそのグループにおける他の全ての質量マーカー部分とは異なる質量を有する質量マーカー部分を有する。これにより、セットの全ての質量標識体は、質量分析法により相互に識別可能である。この出願において、上述のように定義した質量標識体の2以上のセットからなる質量標識体アレイも開示されている。任意のセットにおける各質量標識体の総質量は、アレイの他の全てのセットの各質量標識体の総質量と異なる。この出願において、アナライト固有の1の質量標識体及び2以上の質量標識体のいずれかを質量分析法により同定し、アナライトを検出する工程を含む分析方法も更に開示されている。非常に多くの異なる具体的な質量標識体がこの出願において開示されている。質量標識体はM−L−X構造を有することが好ましく、式中、Mは質量正規化基、Lは開裂可能リンカー、Xは質量マーカー部分である。M及びXの性質は特に限定されるものではない。
【0011】
特許文献8において、2以上の質量標識体からなるセットが開示されている。セットの各標識体は少なくとも1のアミド結合を介して質量正規化部分に結合する質量マーカー部分からなる。質量マーカー部分はアミノ酸からなり、質量正規化部分もアミノ酸からなる。特許文献7では、セットにおける各標識体の総質量は同一でも異なっていてもよく、セットにおける各標識体の質量マーカー部分の質量も同一でも異なっていてもよい。これにより、セットの全ての質量標識体が質量分析法により互いに識別可能となる。また、特許文献7と同様に、この出願においても質量標識体アレイ及び分析方法が開示されている。この出願は、特に、ペプチド分析と少なくとも1のアミノ酸からなる質量正規化部分と質量マーカー部分を有する質量標識体に関する。
【0012】
特許文献7及び特許文献8に開示される質量標識体及び分析方法が全般的に成功しているとはいえ、改善された試薬を提供し、アナライトに対応する質量標識参照物質を用いて相対的に又は絶対的にアナライトを定量する方法であって、標識参照材料を、前記アナライトを含有するサンプルに添加し、前記アナライト及び前記参照材料をタンデム型質量分析によって同時に定量し同定することができる方法を提供する必要性が依然として存在する。
【0013】
1990年代後半における同重質量タグの開発は、バイオマーカーの発見に革命をもたらした。その単一のLC−MS/MSワークフローで理論的には無制限の数のサンプルを分析する能力は、処理量を増加させる一方、同時に分析におけるばらつきを減少させている。これらの方法の適用によってバイオマーカーの発見が向上するとはいえ、バイオマーカーの検証、及び多数のサンプルを解析可能なルーチン分析の開発においては著しいボトルネックが存在する。このボトルネックは、候補となる各バイオマーカーに対して、通常は抗体の形態の、特異性の高い試薬を準備する必要があることに起因する。抗体の製造には、多くの労力を要し、費用がかかり、そして成功の保証も無いのに数ヶ月かかる。
【0014】
費用及び時間の制約に加えて、バイオマーカーの検証を行うために抗体に基づく方法を使用することは、広範囲に亘る各正常濃度範囲及び調節濃度範囲を有するアナライトを検出するこのような方法の限界によっても制約される。例えば、抗体アレイを使用する一回の多重アッセイにおいては、10を超え20までの異なるアナライトを測定することは、殆ど不可能である。このようなタンパク質の正常濃度が、対数値(log)で1を超える数だけ離れている場合(即ち、ナノモルに対してマイクロモル)、このような多重抗体アレイにおいて各アナライトを正確に定量できる可能性は更に低下し、そして多重率はこの結果著しく低下する。
【0015】
したがって、様々なサンプル中のアナライトを質量分析法によって定量的に検出しそしてルーチン測定する改善された方法が依然として必要とされている。
【0016】
タンパク質バイオマーカーの発見の大多数は、様々なタンパク質分離法に連結した質量分析法を使用して達成されている。ごく最近、多数のグループが、1以上の同位体標識した参照ペプチドに基づく、質量分析計を使用したタンパク質の絶対的定量を提案している。特許文献9には、参照基準として1以上の安定同位体標識アミノ酸を取り込んだ合成ペプチドを使用する「AQUA」と呼ばれる、このような実施形態の1つが開示されている。このようなペプチドは、通常、そのイオン化挙動、物理化学的特性、並びに製造の容易さ及び費用などの多数の判断基準に基づいて選択される。Aquaによる実験では、参照ペプチドが、注目するサンプル中に規定された濃度で加えられる。安定同位体で標識されているため、参照ペプチドは、注目するサンプル中の天然型ペプチドとははっきりと異なるピークを与える。通常、AQUAペプチドの質量は、天然ペプチドのそれに比較して約5〜50ダルトン増加した質量として分離される。天然ペプチドとそのAQUA相当物の相対ピーク強度を比較することによって、サンプル中の親ペプチドの絶対量を決定できる。
【0017】
AQUAは一回の実験において複数のタンパク質の絶対量を測定できるとはいえ、天然のアナライトの濃度範囲をカバーする参照物質の標準曲線を作製するのには適していない。バイオマーカーの検証の研究において、これは問題となる場合がある。それは、タンパク質発現の調節によって、所定のタンパク質の濃度は、10倍以上の差を生じることがあるからである。単一の参照基準の使用は、調節の極値に当たる天然ペプチドレベルの定量を不正確にすることがあるので、容易に識別可能な参照ペプチドを、前記生理学的範囲をカバーする数点の異なる濃度で包含し、サンプル中の標的ペプチドレベルを読み取ることのできる適切な標準曲線を与える手段を提供するのが望ましい。各添加ペプチドがMSのプロフィールを複雑にするので、AQUAを使用してこのような曲線を作製するのは困難である。加えて、前記標準曲線を前記参照ペプチドのみで作製することを確実にするためには、サンプル中の標的ペプチドと同様に各参照ペプチドの配列の確認をMS/MSによって達成することが、絶対必要とは言わないまでも望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際出願番号PCT/GB98/00127明細書
【特許文献2】国際出願番号PCT/GB94/01675明細書
【特許文献3】国際出願番号PCT/US97/22639明細書
【特許文献4】国際出願番号PCT/US97/01070明細書
【特許文献5】国際出願番号PCT/US97/01046明細書
【特許文献6】国際出願番号PCT/US97/01304明細書
【特許文献7】国際出願番号PCT/GB01/01122明細書
【特許文献8】国際出願番号PCT/GB02/04240明細書
【特許文献9】国際公開第03/016861号パンフレット
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Gygiら “Quantitative analysis of complex protein mixtures using isotope−coded affinity tags”,Nature Biotechnology (1999),17巻,pp.994−999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、上述の従来技術が抱える複数の問題点を解決することである。特に、本発明の目的は、アナライトを分析する改善された質量分析法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
従来技術の限界を克服するために、本発明者らは、同重タグを付与した参照生体分子及び複合生体材料のいずれか(例えばペプチドなど)を使用して注目する分子を定量する方法であって、MSを複雑にせずに複数点を有する各アナライトの標準曲線を作製することを可能にする方法を開発している。
【0022】
その結果、本発明は、アナライトを分析する方法であって、
(a)前記アナライトを含んでいてもよい試験サンプルと、各アリコートが異なる既知の量の前記アナライトを含む少なくとも2の異なるアナライト含有アリコートを含むキャリブレーションサンプルとを混合する工程であって、前記試験サンプルと前記キャリブレーションサンプルの各アリコートとを質量分析法によって区別できるように、前記サンプル及び各アリコートを、質量分析上種類の異なる質量マーカー基をそれぞれ有する1以上の同重質量標識体を用いて相互に異なるように標識する工程と、
(b)質量分析法によって、前記試験サンプル中の前記アナライトの量及び前記キャリブレーションサンプルの各アリコート中の前記アナライトの量を測定し、前記キャリブレーションサンプルのアリコート中の既知且つ測定されたアナライトの量に対して、前記試験サンプル中のアナライトの量を求める工程とを含むことを特徴とする方法を提供する。
【0023】
異なるアリコートは、それぞれ既知量のアナライトを有する。用語「既知量」は、前記キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの絶対量及び定性的量(qualitative quantity)のいずれかが既知であることを意味する。定性的量は、本明細書では、絶対量が知られていない量であって、特定の状態を有する被検体、例えば健常状態及び罹患状態のいずれかにある被検体などにおいて予期される範囲の量、及び調査している試験サンプルの種類に依存して予期される何らかの他の範囲の量のいずれかであってもよい量を意味する。各アリコートは、異なる量のアナライトを含有するので、「異なる」。通常は、この様式は、標準サンプルから異なる体積を採取することによって達成され、特に、絶対量を知る必要なしに異なる体積を採取することで各アリコート中に異なる量を望ましい比で採取することを確実にする定性的量の採取において有効である。
【0024】
工程(b)は、
(i)質量分析計において、質量標識体で標識したアナライトに相当する質量電荷比のイオンを選択しそしてフラグメント化し、フラグメントイオンの質量スペクトルを検出及び作製し、及び前記質量標識体の質量マーカー基に相当するフラグメントイオンを同定する工程と、
(ii)質量スペクトルにおけるキャリブレーションサンプルのアリコートの質量マーカー基の量に対する、同一の質量スペクトルにおける各試験サンプル中のアナライトの質量マーカー基の量に基づいて、前記各試験サンプル中のアナライトの量を測定する工程とを含むのが好ましい。
【0025】
通常は、フラグメント化を衝突誘起解離(CID)、表面誘起解離(SID)、電子捕獲解離(ECD)、電子移動解離(ETD)、及び高速原子衝突のいずれかによって行う。
【0026】
電子捕獲解離(ECD)は、タンデム型質量分光分析(構造解明)のために、多数荷電した(プロトン化した)ペプチドイオン及びタンパク質イオンのいずれかをフラグメント化する方法である。この方法では、多数プロトン化したペプチド及びタンパク質のいずれかを、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)質量分析計のぺニングトラップ中に閉じ込め、これに近−熱エネルギーを有する電子を照射する。プロトン化ペプチドによる熱電子の捕獲は、発熱的であり(≒6eV;1eV=1.602×10−19J)、非エルゴード的プロセス(即ち、分子内振動エネルギーの再配分を伴わないプロセス)によるペプチド骨格のフラグメント化を引き起こす。
加えて、1以上のタンパク質カチオンを低エネルギー電子で中和し、結合の特異的開裂を引き起こし、例えば衝突活性化解離(CAD;衝突誘起解離(CID)としても知られる)などの他の技術によって形成されるb、y生成物とは対照的な、c、z生成物を形成させることができる。RF 3D四重極型イオントラップ(QIT)機器、四重極型飛行時間機器、及びRFリニア2D四重極型イオントラップ(QLT)機器のいずれかのRF場に導入される熱電子は、その熱エネルギーを1マイクロ秒の何分の1かの間しか保持できず、これらの装置にトラップされないので、依然としてECDは、最も高価な種類のMS機器であるFTICRで排他的に用いられる技術である。
【0027】
電子移動解離(ETD)は、タンデム型質量分光分析(構造解明)のために、多数プロトン化したペプチドイオン及びタンパク質イオンのいずれかをフラグメント化する方法である。電子捕獲解離(ECD)と同様に、ETDでは、電子を移動させることによって、カチオン(例えば多数荷電したペプチド及びタンパク質のいずれか)のフラグメント化を誘発する。ECDと対照的に、ETDではこの目的のために自由電子を使用せず、ラジカルアニオン(例えば十分に低い電子親和力を有し電子供与体として作用するアントラセンアニオン及びアゾベンゼンアニオンのいずれか)を使用する。
電子移動の結果、ETDでは、ECDと同様なフラグメント化パターン、即ちいわゆるc及びzイオンの形成を生じる。電子移動方法が異なることに基づいて、ETDを、ECDには適切でない四重極型イオントラップ(QIT)機器及びRFリニア2D四重極型イオントラップ(QLT)機器のいずれかなどの様々な「低価格」質量分析計に用いることができる。適切な参考文献としては、John E.P.Syka,Joshua J.Coon,Melanie J.Schroeder,Jeffrey Shabanowitz,及びDonald F.Hunt, PNAS,第101巻,26号,pp.9528−9533を参照のこと。
【0028】
衝突誘起解離によってフラグメント化を引き起こす実施形態が最も好ましい。衝突誘起解離は、MS/MS実験の間に用いられる。用語「MS/MS」は、質量分析の文脈では、イオンを選択し、選択したイオンをCIDで処理し、そしてフラグメントイオンを更に分析することを伴う実験をいう。
【0029】
本方法によって、MSを複雑化することなく各アナライトの量を多数点のキャリブレーションによって求めることが可能になる。MS/MSプロフィールにおいてアナライトを定量することで、サンプル及びキャリブレーションサンプル中のアナライトをタンデム型質量分析計で同時に定量及び同定することができる。本方法によって、一回のLC−MS/MS実験で、10までの、20までの、50以上までのアナライトを測定する手段が与えられる。
【0030】
前記方法は、工程(a)より前に更に、1以上の同重質量標識体で各試験サンプル及びキャリブレーションサンプルの各アリコートのいずれかを相互に異なるように標識する工程を含んでいてもよい。前記方法が、工程(a)より前に、前記相互に異なるように標識されたアリコートを混合してキャリブレーションサンプルを調製する更なる工程も含む実施形態が好ましい。
【0031】
前記試験サンプルは、複数の異なるアナライトを含むことができる。この場合各異なるアナライトに対して1個のキャリブレーションサンプルを与え、各異なるアナライトに対して工程(b)を繰り返してもよい。1の実施形態においては、複数のアナライトが、工程(a)より前にタンパク質及びポリペプチドのいずれかの化学的処理及び酵素的処理のいずれかによって生成される前記タンパク質及びポリペプチドのいずれかのペプチド断片である。特定の実施形態においては、複数のアナライトは、同一のタンパク質及びポリペプチドのいずれかに由来するペプチドである。
【0032】
1実施形態においては、複数の試験サンプルにおいてアナライトを分析する。特定の実施形態においては、複数の試験サンプルにおいてそれぞれ分析されるアナライトは、同一である。この場合、試験サンプルのそれぞれを、1以上の同重質量標識体で相互に異なるように標識し、工程(a)において単一のキャリブレーションサンプルと混合し、工程(b)において各サンプル中のアナライトの量を同時に測定してもよい。別の実施形態では、各試験サンプルを同一の質量標識体で標識し、各異なるサンプルに対して工程(a)及び(b)を繰り返す。分析される各試験サンプルに対して同一のキャリブレーションサンプルを使用することができる。通常、少なくとも2個のアナライト含有アリコートからなる同一の既知体積のキャリブレーションサンプルを各異なる試験サンプルに添加する。この方法は、患者から複数のサンプルを採取する臨床研究において特に有用である。大量のキャリブレーションサンプルを調製し、画分を採取したら、同一のキャリブレーションサンプルを複数の試験室で使用し、試験横断的比較及び試験室横断的比較を容易にすることができる。
【0033】
本発明に係る方法においては、キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの量は既知の絶対量である。これにより、試験サンプル中のアナライトの絶対量を工程(b)において決定することが可能になる。
【0034】
別の方法においては、キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの絶対量は未知である。この実施形態においては、キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの量は、既知の定性的量である。較正工程には、キャリブレーションサンプルのアリコート中のアナライトの定性的且つ測定された量に対して試験サンプル中のアナライトの量を較正することが含まれる。特定の実施形態においては、前記定性的量は、健常状態及び罹患状態のいずれかなどの特定の状態を有する被検体におけるアナライトに予期される範囲の量である。
【0035】
各異なるアリコート中のアナライトの量が、試験サンプルにおけるアナライトの量の既知の変動及び推測される変動のいずれかを反映するようにして選択される実施形態が好ましい。健常被検体及び罹患被検体のいずれかの試験サンプル中に見出されるアナライトの既知の量及び推測される量のいずれかの範囲内の上限及び下限、並びに任意に中間点に相当する量のアナライトを含むアリコートが提供される実施形態が、なお更に好ましい。異なるアリコート中に存在するアナライトの異なる量を、異なる期間インキュベートした試験サンプル中に存在するアナライトの既知の量及び推測される量のいずれかにさせてもよい。
【0036】
キャリブレーションサンプルは、特定の疾患の有無及びその段階の少なくともいずれかを示す量のアナライトを含んでいてもよい。キャリブレーションサンプルは、治療の有効性及び毒性の少なくともいずれかを示す量のアナライトを含んでいてもよい。
【0037】
本発明の方法は、工程(a)より前に、更に、サンプルの成分を分離する工程を含んでいてもよい。前記方法は、工程(a)より前に、サンプルの成分を少なくとも1種類の酵素を用いて消化する、各サンプルを消化する工程を含んでいてもよい。1実施形態においては、消化より前にサンプルを同重質量標識体で標識する。別の実施形態においては、消化工程より後に標識工程を行う。前記酵素消化工程を、工程(a)の後であるが工程(b)の前に行うこともできる。
【0038】
別の実施形態では、本方法において使用する質量標識体は、更にアフィニティー捕獲リガンドを含む。前記質量標識体のアフィニティー捕獲リガンドは、工程(a)の後であるが工程(b)よりは前に同重標識アナライトを非標識アナライトから分離するために、カウンターリガンドに結合させられる。前記アフィニティー捕獲リガンドによって、注目するアナライトを濃縮する手段が与えられ、これによって分析感度が向上させられる。
【0039】
本発明の方法は、工程(a)の後であるが工程(b)より前に、同重標識したアナライトを電気泳動及びクロマトグラフィーのいずれかによって分離する工程を更に含んでいてもよい。
【0040】
本発明において使用される質量標識体の構造は、これらが同重標識されており質量分析上はっきり異なる質量マーカー基(部分)を有するならば、特に制限されないが、前記質量標識体が以下の構造式:
X−L−M
(式中、Xが質量マーカー部分、Lが開裂可能リンカー、そしてMが質量正規化部分を示す)からなる実施形態が好ましい。Lは、単一結合であっても、Xの一部分であっても、Mの一部分であってもよい。これらの質量標識体は、その任意の部分で、例えばM、L、及びXのいずれかなどを介して、試験サンプル及びキャリブレーションサンプルのいずれかの中のアナライトに結合することができる。しかしこれらは、Mを介して結合させることが好ましく、例えば標識体は以下の構造からなる:
(X−L−M)−
これは、通常、前記質量標識体中に反応性官能基を包含させることで実施され、これにより前記質量標識体をアナライトに結合させることが可能になる、例えば:
X−L−M−(反応性官能基)である。
【0041】
標識体が反応性官能基を含む場合、これらは反応性質量標識体と呼ばれる。
【0042】
Xが以下の基からなる質量マーカー部分である実施形態が好ましい:
【化1】
(式中、環状ユニットは芳香族及び脂肪族のいずれかであり、0〜3個の二重結合を独立に隣接した任意の2原子間に有し;各Zは、独立してN、N(R1)、C(R1)、CO、CO(R1)(即ち−O−C(R1)−及び−C(R1)−O−のいずれか)、C(R1)2、O、及びSのいずれかであり;Xは、N、C、及びC(R1)のいずれかであり;各R1は、独立してH、置換及び非置換のいずれかの直鎖及び分岐のいずれかのC1−C6アルキル基、置換及び非置換のいずれかの環状脂肪族基、置換及び非置換のいずれかの芳香族基、及び置換及び非置換のいずれかの複素環基のいずれかであり;並びに、yは、0〜10の整数である)。
【0043】
質量標識体をアナライトに結合させるための前記反応性官能基は、特に制限されず、任意の適切な反応性基を含んでいてよい。
【0044】
本明細書において使用される用語「質量標識体」は、測定のためにアナライトを標識するのに好適な分子部分を呼ぶ。用語「標識体」は、用語「タグ」の同義語である。
【0045】
本明細書において使用される用語「質量マーカー部分」は、質量分析によって検出される部分を呼ぶ。用語「質量マーカー部分」は、用語「質量マーカー基」或いは用語「レポーター基」と同義語である。
【0046】
本明細書において使用される用語「質量正規化部分」は、質量分析法によって検出される必要はないが、質量標識体が所望の総質量を有するのを確実にするために存在する部分を呼ぶ。前記「質量正規化部分」は、構造的には特に制限されず、単に前記質量標識体の総質量を変化させる役目を担っている。
【0047】
前記一般式において、ZがC(R1)2である場合、炭素原子上の各R1は同一でも異なっていてもよい(即ち各R1は独立している)。このように、C(R1)2基は、CH(R1)基(式中、一方のR1はHであり、もう一方のR1が上述の定義のR1から選択される別の基である)などの基を含む。
【0048】
前記の一般式においては、Xと環を構成しないZとの間の結合は、この位置で選択されるX基及びZ基に従って、単結合でも二重結合でもよい。例えば、XがN及びC(R1)のいずれかである場合、Xと環を構成しないZとの間の結合は、単結合でなければならない。XがCである場合、Xと環を構成しないZとの間の結合は、選択される環を構成しないZ基及び環を構成するZ基に従って、単結合にも二重結合にもなり得る。前記環を構成しないZ基がN及びC(R1)のいずれかである場合、Xと環を構成しないZとの間の結合は、単結合であるか、yが0である場合、選択されるX基及び前記環を構成しないZに結合する基に従って二重結合であり得る。前記環を構成しないZがN(R1)、CO(R1)、CO、C(R1)2、O、及びSのいずれかである場合、前記Xとの結合は、単結合でなければならない。当業者は、容易に、前記の式に従って正しい結合価(単結合連結及び二重結合連結のいずれか)を有する適切なX、Z、及び(CR12)y基を選択することができる。
【0049】
本発明者らは、上に定義した質量標識体が質量分析計で容易に同定でき、高感度定量も可能にすることを発見している。
【0050】
好ましい実施形態において、質量標識体の総分子量は600ダルトン以下、500ダルトン以下がより好ましく、400ダルトン以下が特に好ましく、300ダルトン〜400ダルトンが最も好ましい。質量標識体の分子量は、324、338、339、及び380ダルトンであることが特に好ましい。質量標識体のサイズが小さいということは、質量標識体で標識した場合の検出されるペプチドのサイズの増加が最小になるということであるため、これらの好ましい実施形態は特に有利である。そのため、質量分析による分析の際に、前記質量標識体により標識したペプチドを標識されていないペプチドと同一の質量スペクトルウィンドー中に見ることができるようになる。これにより、質量標識体自体からのピークの同定が容易となる。
【0051】
好ましい実施形態において、質量マーカー部分の分子量は300ダルトン以下、250ダルトン以下がより好ましく、100ダルトン〜250ダルトンが特に好ましく、100ダルトン〜200ダルトンが最も好ましい。質量マーカー部分のサイズが小さいということは、質量スペクトルのサイレント領域にピークが現れるため、質量スペクトルから質量マーカーを容易に同定でき、高感度定量を行うことも可能であることを意味するので、これらの好ましい実施形態は特に有利である。
【0052】
本明細書中において使用される用語「質量スペクトル(例えば、MS/MSスペクトル)のサイレント領域」とは、標識したペプチドのフラグメント化により生成されるフラグメントの存在に関係するピークによって引き起こされるバックグラウンド「ノイズ」が少ない質量スペクトルの領域を呼ぶ。緩衝剤、変性剤、及び界面活性剤等の不純物がMS/MSスペクトルに現れないように、MSモードにおける1のピークのフラグメント化によってMS/MSスペクトルが得られる。これにより、MS/MSモードおける定量が有利になる。このように、用語「サイレント領域」とは、検出するペプチドと関連したピークによって引き起こされる「ノイズ」が少ない質量スペクトルの領域を呼ぶ。ペプチド及びタンパク質のいずれかを検出する場合、前記質量スペクトルのサイレント領域は200ダルトン未満の領域である。
【0053】
本発明者らは、上で定義した反応性質量標識体が容易に急速にタンパク質と反応し、標識化タンパク質を形成することも発見している。
【0054】
本発明においては、2以上の質量標識体のセットが使用される。前記セット中の標識体は、異なる質量の質量マーカーをそれぞれ有する同重質量標識体である。このように、前記セット中の各標識体は、上で定義したとおりであり、各質量正規化部分は、前記質量標識体が所望の総質量を有することを確実にし、前記セットは、セット中の他の全ての質量マーカー部分と異なる質量を有する質量マーカー部分をそれぞれ有する質量標識体を含み、前記セット中の各標識体は、共通の総質量を有し、前記セット中の全ての質量標識体は、質量分析法によって相互に識別可能である。
【0055】
用語「同重(isobaric)」は、質量分析法によって測定される前記質量標識体の総質量が実質的に同一であることを意味する。通常は、前記同重質量標識の平均分子量は、相互に±0.5Daの範囲に入る。用語「標識体」は、用語「タグ」の同義語である。当業者は、本発明の文脈において、用語「質量マーカー部分」と用語「レポーター基」とが同一の意味で使用できることを理解する。
【0056】
セットの標識体数は、セットが複数の標識体からなれば特に制限されないが、セットは2以上、3以上、4以上、及び5以上のいずれかの標識体からなることが好ましく、6以上の標識体からなることがより好ましく、8以上の標識体からなることが最も好ましい。
【0057】
本明細書における用語「総質量」とは、質量標識体の全質量を意味する。即ち、質量標識体の質量マーカー部分、開裂可能リンカー、質量正規化部分、及びその他の成分の質量の合計を意味する。
【0058】
質量正規化部分の質量は、セット中の各質量標識体間において異なる。個々の質量標識体における質量正規化部分の質量は、共通の総質量から、その質量標識体における特定の質量マーカー部分の質量及び開裂可能リンカーの質量を減算することにより求められる。
【0059】
セットにおける全ての質量標識体は、質量分析法により相互に識別可能である。したがって、質量分析計によって、質量標識体を区別することができる。即ち、個々の質量標識体に由来するピークを相互に明確に分離することができる。質量マーカー部分の間で質量が異なるということは、質量分析計によって、異なる質量標識体及び異なる質量マーカー部分のいずれかに由来するイオンを識別することが可能になることを意味している。
【0060】
本発明は、2以上の上に定義した質量標識体セットからなり、任意のセットの各質量標識体の総質量はアレイの他のセットの各質量標識体の総質量と異なる質量標識体のアレイも使用する。
【0061】
本発明の好ましい実施形態において、質量標識体のアレイは全て化学的に同一であること(実質的に化学的に同一であること)が好ましい。用語「実質的に化学的に同一であること」は、質量標識体が、同一の化学構造を有し、そこに特定の同位体を導入置換することができるか特定の置換基を結合することができることを意味する。
【0062】
本発明の更に好ましい実施形態において、質量標識体は増感基からなってもよい。この質量標識体は以下の構造を有していることが好ましい。
(増感基)−X−L−M−(反応性官能基)
この例において、増感基を用いる目的は、質量分析計において質量マーカー部分の検出感度を高めるためであるので、増感基は、通常、質量マーカー部分に結合させられる。反応性官能基は増感基とは異なる部分に結合し存在するように示されているが、質量標識体はこの配置に限定される必要はなく、幾つかの場合増感基を反応性官能基と同一の部分に結合させてもよい。
【0063】
更なる態様において、本発明は、サンプル中の低存在量のアナライトを分析する方法を提供する。この方法は、上で定義したような質量分析法からなり、そこではキャリブレーションサンプルが分析しようとするアナライトを多量に含み、サンプルは前記アナライトを低存在量で含んでいてもよい。この方法においては、工程(b)より前に、1次元ゲル電気泳動或いは2次元ゲル電気泳動、フリーフロー電気泳動、キャピラリー電気泳動、オフゲル等電点電気泳動、及び液体クロマトグラフィー質量分析のいずれかなどの方法によって前記サンプル中のアナライトと共に、前記キャリブレーションサンプル中のアナライトを容易に検出及び分離できるような量で、前記アナライトをキャリブレーションサンプル中に存在させる。好ましくは、前記サンプル中のアナライトは、タンパク質であり、前記キャリブレーションサンプル中のアナライトは、前記サンプル中のタンパク質の組み替え型である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
添付の図面を参照して本発明をここで更に説明するが、これはほんの1例に過ぎない。
【図1】図1は、本発明による方法の概略図である。
【図2】図2は、1のBSAトリプシンペプチドのMS/MSプロフィールである。上段のパネルが全MS/MSスペクトルを示す。下段のパネルが、同重質量マーカー部分領域の拡大図であり、ピークの異なる強度は、試験サンプル(126)及びキャリブレーションサンプル(128、129、130、131)中の同一ペプチドの異なる存在量を反映している。
【図3】図3は、キャリブレーションサンプル中の同重標識ウシ血清アルブミンアリコートのセットに対して作製した4点検量線である。
【図4】図4は、本発明において使用される血漿サンプルを調製する方法の概略図である。
【図5】図5は、本発明による方法の概略図を示し、そこでは質量分光分析より前に、試験サンプルとキャリブレーションサンプルとからなる混合物が1D PAGE ゲルにかけられ、ゲル上の適切なスポットが取り出され消化される。
【図6】図6は、複数のサンプル中のアナライトを分析する本発明による方法の概略図を示す。
【図7】図7は、以下の実施例3において説明されるクラスタリン由来の標識ペプチドの保持プロフィールからの蓄積MSである。挿入図は、注目するペプチドを示す915〜935のm/z領域の拡大図である。
【図8】図8は、クラスタリン由来の標識ペプチドの蓄積MS/MSスペクトルである。挿入図:質量マーカー領域の拡大図である。
【図9】図9は、選択されたクラスタリンペプチドの検量線である。
【図10】図10は、以下の実施例4において説明されるペプチドFQVDNNNRのMALDI MS/MSスペクトルである。
【図11】図11は、以下の実施例4において説明されるペプチドGAYPLSIEPIGVRのMALDI MS/MSスペクトルである。
【図12】図12は、以下の実施例4において説明されるペプチドGQYCYELDEKのMALDI MS/MSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0065】
ここで本発明を詳細に説明する。
【0066】
本発明によって、ペプチド、タンパク質、ヌクレオチド、及び核酸などのアナライトの相対量及び絶対量の少なくともいずれかを測定するための有用な試薬、並びにその生産手段が提供される。具体的には、本発明は、タンデム型質量分析法によって検出される同重標識アナライト及びキャリブレーションサンプルの少なくともいずれかに関し、このようなキャリブレーションサンプルが添加された試験サンプルを分析する関連する方法に関する。本発明によって、特に、アナライトの相対的定量及び絶対的定量の少なくともいずれか容易になる。
【0067】
本発明は、人間科学、獣医学、植物学、微生物学、薬学、環境科学、及び安全保障科学における細胞、組織、及び液体中のタンパク質、脂質、炭水化物、及び核酸の変化の測定を含む様々な状況設定において質量分析法によりアナライトを分析するための新たな方法を提供する。
【0068】
本発明による方法においては、試験サンプル中及びキャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの量を質量分析法によって測定する。質量分析法により測定された前記試験サンプル中のアナライトの量を前記試験サンプル中の実際のアナライトの量に関係づけるために、検量関数を使用する。この検量関数においては、前記キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの量(分析前のアリコート中に存在する実際の量と、これに相当する質量分析法によって測定される量の両方)を変数として使用する。
【0069】
前記方法が、各アリコート中のアナライトの量に対する質量分析法により測定される各アリコート中のアナライトの量の関係を示すグラフを作図する工程を含む実施形態が好ましい。この工程は、代わりに単純に計算を伴ってもよい。次に、前記サンプル中のアナライトの量を、前記検量グラフを使用して、質量分析法により測定される前記サンプル中の量から、計算する。本発明の文脈において、「質量分析法により測定される量」とは、通常、アナライトの量に関係し、質量分析法により測定されるイオン存在量、イオン強度、及び他のシグナルを意味する。
【0070】
通常、本方法は、
(i)質量分析計において、質量標識体で標識したアナライトに相当する質量電荷比のイオンを選択しそしてフラグメント化し、フラグメントイオンの質量スペクトルを検出及び作製し、及び前記質量標識体の質量マーカー基に相当するフラグメントイオンを同定する工程と、
(ii)質量スペクトルにおけるキャリブレーションサンプルのアリコートの質量マーカー基の量に対する、同一の質量スペクトルにおける各試験サンプル中のアナライトの質量マーカー基の量に基づいて、前記各試験サンプル中のアナライトの量を測定する工程とを含む。
【0071】
特定の実施形態において、本方法は、
1.任意に、本発明によるセットの質量標識体と反応させることによって、参照生体分子及び参照生体分子の混合物のいずれかを含有する同重標識された参照材料を調製する工程と、
2.生体分子及び生体分子の混合物のいずれかの量を定量する予定のサンプルを、本発明に従い上の工程1において使用したものと同一の質量標識体のセットからの1の質量標識体と反応させて標識する工程と、
3.既知の量の同重標識参照材料を工程2において調製した同重標識試験サンプル中に添加する工程と、
4.任意に、同重標識生体分子を、電気泳動法及びクロマトグラフィーのいずれかによって分離する工程と、
5.質量分析計において標識生体分子をイオン化する工程と、
6.質量分析器において、標識生体分子の好ましいイオンの質量電荷比に相当する所定の質量電荷比のイオンを選択する工程と、
7.これらの選択されたイオンの解離を、衝突及び電子移動のいずれかによって誘起する工程と、
8.質量標識体を示す衝突生成物イオンを同定するために前記衝突生成物を検出する工程と、
9.前記質量標識体を示す前記衝突生成物イオンの強度に基づいて、イオンの強度と生体分子の量の関係を示す標準曲線を作製する工程と、
10.前記生体分子及び生体分子の混合物のいずれかの絶対存在量及び相対存在量を計算する工程とを含む。
【0072】
本発明に関して、用語「質量分析法」は、フラグメント化分析が可能な任意の種類の質量分析法を含む。本発明における使用に好適な質量分析計としては、衝突チャンバーを備えた三段四重極型質量分析計、高速原子衝突、衝突誘起解離、電子移動解離、及び他の任意の型の親イオンフラグメント化法のいずれかにより、選択された前駆体イオンをフラグメント化可能なイオントラップ質量分析計、並びに双対性飛行時間(TOF/TOF)分析器及び親イオンフラグメント化手段を装着するマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析計などの任意の型のMS/MS分析機を含む機器が挙げられる。
【0073】
ある種の実施形態においては、所定の質量電荷比のイオンを選択する工程は、シリアル機器の第1の質量分析器において実施される。選択されたイオンは、次に、別個の衝突セル中に導かれ、そこで気体及び固体表面のいずれかと衝突させられる。衝突生成物は、次に、シリアル機器の衝突生成物を検出するための更なる質量分析器中へと導かれる。典型的なシリアル機器としては、三段四重極型質量分析計、タンデムセクター型機器、及び四重極型飛行時間質量分析計が挙げられる。
【0074】
他の実施形態において、所定の質量電荷比のイオンを選択する工程、気体と選択したイオンとを衝突させる工程、及び衝突生成物を検出する工程は、質量分析計の同一のゾーンにおいて実施される。この方式は、例えば、イオントラップ質量分析器及びフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型質量分析計において使用することができる。
【0075】
本発明において、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)技術を使用することができる。MALDIにおいては、生体分子溶液を、大モル過剰の光励起可能な「マトリックス」中に埋め込む必要がある。適切な振動数のレーザー光の照射によって前記マトリックスは励起され、これにより、マトリックスに閉じ込められた生体分子と共に前記マトリックスの急速な蒸発がもたらされる。酸性のマトリックスから生体分子へプロトン移動が行われることによって、正イオン質量分析法、特に飛行時間(TOF)質量分析法によって検出することのできるプロトン化型の生体分子が生じる。MALDI TOFでは、負イオン質量分析法も実施可能である。この技術において、多量の並進エネルギーがイオンに与えられるが、それにも拘わらず過剰のフラグメント化は誘起しない傾向にある。この技術においてフラグメント化を制御するために、レーザーエネルギーとイオン源からイオンを加速するために使用する電位差の印加のタイミングの調節とが利用できる。この技術は、広い質量範囲を有し、質量スペクトルにおいて1価イオンを優勢にし、そして複数のペプチドを同時に分析することを可能にするので、多用される。本発明においては、前記TOF/TOF技術が使用できる。
【0076】
前記光励起可能マトリックスは、「色素」、即ち特定の振動数の光を強く吸収し、好ましいことには、蛍光及びりん光のいずれかによってエネルギーを放出するのではなく、エネルギーを熱として、即ち振動モードを通して、消散する化合物を含む。レーザー励起によって引き起こされるマトリックスの振動によって、前記色素の急速な昇華が生じ、これにより埋め込まれたアナライトが同時に気相中に搬送される。
【0077】
本発明の文脈においてはMALDI技術が有用であるが、本発明はこの種の技術に限定されず、当業者が必要に応じて当技術分野において一般的な他の技術を本発明において使用することも可能である。例えば、エレクトロスプレー質量分析法或いはナノエレクトロスプレー質量分析法を使用することができる。
【0078】
用語「アナライト」は、特に制限されず、本発明による方法を使用することによって、質量分析法によって分析でき、質量分析上異なる種類の質量マーカー基を有する同重質量標識体により標識可能であるならば、如何なる種類の分子も分析することが可能になる。アナライトしては、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、核酸、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、ペプチド核酸、糖、澱粉及び複合糖質、脂肪及び複合脂質、高分子並びに薬剤及び薬剤様分子などの小型有機分子が挙げられる。アナライトが、ペプチド、タンパク質、ヌクレオチド、及び核酸のいずれかであるのが好ましい。
【0079】
本発明に関しては、用語「タンパク質」は、ジペプチド、トリペプチド、ペプチド、ポリペプチド、及びタンパク質などの2以上のアミノ酸からなる任意の分子を包含する。
【0080】
本発明に関しては、用語「核酸」は、ジヌクレオチド、トリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、デオキシリボ核酸、リボ核酸、及びペプチド核酸などの2以上のヌクレオチド塩基からなる任意の分子を包含する。
【0081】
本発明に関しては、用語「アナライト」は、用語「生体分子」の同義語である。
【0082】
本発明においてアナライトのタグに使用される質量標識を、ここでより詳細に説明する。
【0083】
当業者であれば、同重質量標識の性質が、特に制限されないことが理解されよう。当技術分野においては、様々な適切な同重質量標識体が知られている。例えば、国際公開第01/68664号パンフレット(本明細書中に参考として援用する)及び国際公開第03/025576号パンフレット(本明細書中に参考として援用する)において開示されるタンデム質量タグ(Thompsonら,Anal.Chem.,2003,75巻(8号),pp.1895−1904(本明細書中に参考として援用する))、米国特許第6824981号明細書(本明細書中に参考として援用する)に開示されるiPROTタグ、及びiTRAQタグ(Pappinら,Methods in Clinical Proteomics Manuscript,2004,M400129−MCP200(本明細書中に参考として援用する))が挙げられる。これらの同重質量標識体のいずれもが、サンプル及びキャリブレーションサンプルの調製のため及び本発明の方法を実施するために好適である。
【0084】
(質量マーカー部分)
好ましい実施形態において、本発明は、上述のように定義された質量標識体であって、質量マーカー部分の分子量が300ダルトン以下、好ましくは250ダルトン以下、より好ましくは100ダルトン〜250ダルトン、最も好ましくは100ダルトン〜200ダルトンである質量標識体を使用する。質量マーカー部分の分子量は、125、126、153、及び154ダルトン、及び1以上又は全ての12C原子を13C原子で置換した場合における分子量のいずれかであることが特に好ましい。例えば、分子量が125である非置換質量マーカー部分では、その置換された化合物の質量は、1、2、3、4、5、及び6の13C原子でそれぞれ置換された場合及び1以上又は全ての14N原子を15N原子により置換した場合の少なくともいずれかにおいて、それぞれ126、127、128、129、130、及び131ダルトンとなる。
【0085】
本発明の質量マーカー部分の構成要素は、フラグメンテーション耐性であることが好ましい。そのため、衝突誘起解離(CID)、表面誘起解離、電子捕獲解離(ECD)、電子移動解離(ETD)、及び高速原子衝突のいずれかにより容易に壊れるような結合を行うことにより、マーカーのフラグメント化部位を制御することができる。前記結合がCIDにより容易に壊れる結合である実施形態が最も好ましい。
【0086】
本発明において使用される質量マーカー部分は、典型的には、以下の基
【化2】
(式中、環状ユニットは、芳香族及び脂肪族のいずれかであり、0〜3個の二重結合を独立に隣接した任意の2原子間に有し;各Zは、独立してN、N(R1)、C(R1)、CO、CO(R1)(即ち、−O−C(R1)−及び−C(R1)−O−のいずれか)、C(R1)2、O、及びSのいずれかであり;Xは、N、C、及びC(R1)のいずれかであり;各R1は、独立してH、置換及び非置換のいずれかの直鎖及び分岐のいずれかのC1−C6アルキル基、置換及び非置換のいずれかの環状脂肪族基、置換及び非置換のいずれかの芳香族基、及び置換及び非置換のいずれかの複素環基であり;並びにyは、0〜10の整数である)からなる。
【0087】
質量マーカー部分の置換基は特に制限されるものではなく、任意の有機基及び周期表のIIIA、IVA、VA、VIA及びVIIA族のいずれかからの1以上の原子の少なくともいずれかからなってもよく、前記原子としては、B、Si、N、P、O、若しくはS原子、又はハロゲン原子等(例えば、F、Cl、Br、及びIのいずれか)が挙げられる。
【0088】
置換基が有機基からなる場合、有機基は炭化水素基からなることが好ましい。炭化水素基は、直鎖、分岐鎖及び環状基のいずれかからなっていてもよい。独立して、炭化水素基は脂肪族基及び芳香族基のいずれかからなってもよい。更に独立して、炭化水素基は飽和基及び不飽和基のいずれかからなってもよい。
【0089】
炭化水素が不飽和基からなる場合、1以上のアルケン官能基及び1以上のアルキン官能基の少なくともいずれかからなってもよい。炭化水素が直鎖及び分岐鎖のいずれかの基からなる場合、1以上の第一級、第二級及び第三級アルキル基の少なくともいずれかからなってもよい。炭化水素が環状基からなる場合、芳香族環、脂肪族環、複素環基及びこれらの縮合環誘導体からなってもよい。そのため、環状基は、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、インデン、フルオレン、ピリジン、キノリン、チオフェン、ベンゾチオフェン、フラン、ベンゾフラン、ピロール、インドール、イミダゾール、チアゾール及びオキサゾール基の少なくともいずれか、並びにこれらの基の位置異性体からなってもよい。
【0090】
炭化水素基の炭素原子数は特に限定されないが、炭化水素基が1〜40の炭素原子からなることが好ましい。そのため、炭化水素基は低級炭化水素(1〜6のC原子)及び高級炭化水素(7以上の炭素原子、例えば7〜40のC原子)のいずれかであってもよい。環状基の環中の原子数は特に限定されないが、3、4、5、6、及び7のいずれかの原子等、3〜10の原子から環状基の環がなることが好ましい。
【0091】
上述したヘテロ原子からなる基並びに上述のように定義された他の任意の基は、周期表のIIIA、IVA、VA、VIA、及びVIIA族のいずれかの1以上のヘテロ原子からなってもよく、前記へテロ原子は、B、Si、N、P、O、若しくはS原子、又はハロゲン原子等(例えば、F、Cl、Br、及びIのいずれか)などである。そのため、置換基は、例えばヒドロキシ基、カルボン酸基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、アミン基、アミド基、イミン基、チオール基、チオエーテル基、硫酸塩基、スルフォン酸基、リン酸塩基等の、有機化学において一般的な官能基のいずれかの1以上からなってもよい。置換基は、カルボン酸無水物及びカルボン酸ハロゲン化物等これら基の誘導体からなってもよい。
【0092】
更に、いずれの置換基も、置換基及び上述のように定義された官能基の少なくともいずれかの2以上の組み合わせからなっていてもよい。
【0093】
(リンカー)
本発明において使用される質量標識体の開裂可能リンカーは、特に制限されない。開裂可能リンカーが、衝突誘起解離、表面誘起解離、電子捕獲解離(ECD)、電子移動解離(ETD)、及び高速原子衝突のいずれかにより開裂可能であるリンカーであることが好ましい。前記結合がCIDにより開裂可能である実施形態が最も好ましい。前記リンカーは、アミド結合からなってもよい。
【0094】
上述及び後述する考察において、所望の分子を本発明において使用する質量標識体化合物に結合させるために使用することができるリンカー基について言及する。様々なリンカーが当該技術分野において知られており、これらのリンカーを、本発明の質量標識体とこれらに共有結合した生体分子との間に導入することができる。これらのリンカーの一部は開裂可能であってもよい。オリゴ−或いはポリ−エチレングリコール及びこれらの誘導体のいずれかをリンカーとして用いることができ、例えばMaskos, U. & Southern, E.M. Nucleic Acids Research,1992,20巻,pp.1679−1684に開示されたものを用いることができる。コハク酸系リンカーも広く用いられているが、オリゴヌクレオチドを標識するのに関与する用途にはあまり好まれていない。この理由は、当該リンカーが一般に塩基に不安定であるため、多数のオリゴヌクレオチド合成で使用されている塩基介在脱保護ステップには不適合だからである。
【0095】
プロパルギルアルコールは二官能リンカーであり、オリゴヌクレオチド合成の条件下において安定した結合を提供し、オリゴヌクレオチドに対して本発明を使用するのに好ましいリンカーである。同様に、6−アミノヘキサノールも、適切に官能基を付与した分子を結合するのに有用な二官能試薬であり、好ましいリンカーである。
【0096】
光開裂可能リンカーなどの多様な既知の開裂可能リンカー基を本発明において使用される化合物と併用できる。オルソニトロベンジル基は、光開裂可能リンカーとして公知であり、特に、2−ニトロベンジルエステルや2−ニトロベンジルアミンは、ベンジルアミン結合で開裂する。開裂可能リンカーの論評については、Lloyd−Williamsら、 Tetrahedron,1993,49巻,pp.11065−11133を参照されたい。これは、様々な光開裂可能及び化学的開裂可能リンカーについて言及している。
【0097】
国際公開第00/02895号パンフレットにおいて、開裂可能リンカーとしてビニルスルフォン化合物が開示されている。これらは本発明においても使用することができ、特にポリペプチド、ペプチド及びアミノ酸を標識するのに用いられる。この出願の内容を参照により本明細書に援用する。
【0098】
国際公開第00/02895号パンフレットにおいて、気相中で塩基により開裂可能なリンカーであるシリコン化合物の使用が開示されている。これらのリンカーも本発明においても使用することができ、特にオリゴヌクレオチドを標識するのに用いられる。この出願の内容を参照として本明細書に援用する。
【0099】
(質量正規化部分)
質量標識体が所望の総質量を有することを確実にするのに適したものであれば、本発明において使用される質量標識体の質量正規化部分の構造は特に限定されない。しかし、質量正規化部分は、直鎖及び分岐のいずれかのC1−C20置換及び非置換のいずれかの脂肪族基及び1以上の置換及び非置換のいずれかのアミノ酸の少なくともいずれかからなることが好ましい。
【0100】
質量正規化部分は、C1−C6の置換及び非置換のいずれかの脂肪族基からなることが好ましく、C1、C2、C3、C4、C5の置換及び非置換のいずれかの脂肪族基からなることがより好ましく、C1、C2、及びC5のいずれかの置換及び非置換のいずれかの脂肪族基又はC1メチル置換基からなることが特に好ましい。
【0101】
1以上の置換及び非置換のいずれかのアミノ酸は、任意の必須及び可欠のいずれかの天然及び人工のいずれかのアミノ酸でもよい。好ましいアミノ酸として、アラニン、β−アラニン及びグリシンが挙げられる。
【0102】
質量正規化部分の置換基は特に限定されるものではなく、任意の有機基及び周期表のIIIA、IVA、VA、VIA、及びVIIAのいずれかの族の1以上の原子の少なくともいずれかであってよく、前記原子は、例えばB、Si、N、P、O、若しくはS原子、又はハロゲン原子等(例えば、F、Cl、Br、及びIのいずれか)などである。
【0103】
置換基が有機基からなる場合、有機基は炭化水素基からなることが好ましい。炭化水素基は、直鎖、分岐鎖、及び環状基のいずれかから構成されてもよい。独立して、炭化水素基は脂肪族基及び芳香族基のいずれかからなってもよい。更に独立して、炭化水素基は飽和及び不飽和のいずれかの基からなってもよい。
【0104】
炭化水素が不飽和基からなる場合、1以上のアルケン官能基及び1以上のアルキン官能基の少なくともいずれかからなってもよい。炭化水素が直鎖及び分岐鎖のいずれかの基からなる場合、1以上の第一級、第二級及び第三級の少なくともいずれかのアルキル基からなってもよい。炭化水素が環状基からなる場合、芳香族環、脂肪族環、複素環基及びこれらの縮合環誘導体の少なくともいずれかからなってもよい。そのため、環状基は、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、インデン、フルオレン、ピリジン、キノリン、チオフェン、ベンゾチオフェン、フラン、ベンゾフラン、ピロール、インドール、イミダゾール、チアゾール及びオキサゾール基の少なくともいずれか、並びにこれらの位置異性体からなってもよい。
【0105】
炭化水素基の炭素原子数は特に限定されないが、炭化水素が1〜40個の炭素原子からなることが好ましい。そのため、炭化水素基は低級炭化水素(1〜6個の炭素原子)及び高級炭化水素(7個以上の炭素原子、例えば7〜40個の炭素原子)のいずれかであってもよい。環状基の環中の原子数は特に限定されないが、3個、4個、5個、6個、及び7個のいずれかの原子等、環状基の環は3〜10個の原子からなることが好ましい。
【0106】
上述したヘテロ原子からなる基並びに上述のように定義された他の任意の基は、周期表のIIIA、IVA、VA、VIA、及びVIIAのいずれかの族の1以上のヘテロ原子からなってもよく、前記へテロ原子は、B、Si、N、P、O、若しくはS原子又はハロゲン原子等(例えば、F、Cl、Br、及びIのいずれか)などである。そのため、置換基は、例えばヒドロキシ基、カルボン酸基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、アミン基、アミド基、イミン基、チオール基、チオエーテル基、硫酸塩基、スルフォン酸基、リン酸塩基等の、有機化学において一般的な官能基のいずれかの1以上からなってもよい。置換基は、カルボン酸無水物及びカルボン酸ハロゲン化物等これら基の誘導体からなってもよい。
【0107】
更に、いずれの置換基も、置換基及び上述のように定義された2以上の官能基の少なくともいずれかの2以上の組み合わせからなっていてもよい。
【0108】
(反応性質量標識体)
質量分析法により生体分子を標識し検出する本発明の反応性質量標識体は、通常、上述のように定義された質量標識体、及び質量標識体の生体分子への結合又は結合を容易にする反応性官能基からなる。本発明の好ましい実施形態において、反応性官能基により、質量標識体が、好ましくはアミノ酸、ペプチド、及びポリペプチドのいずれかのアナライトと共有結合的に反応することが可能になる。反応性官能基はリンカーを介して質量標識体に結合してもよく、リンカーは開裂可能であってもなくてもよい。反応性官能基は、質量標識体の質量マーカー部分に結合しても、質量標識体の質量正規化部分に結合してもよい。
【0109】
本発明の質量標識体には、様々な反応性官能基を用いることができる。標識する生体分子の1以上の反応性部位と反応することができるのであれば、反応性官能基の構造は特に制限されない。反応性官能基は、求核性試薬及び求電子性試薬のいずれかであることが好ましい。
【0110】
最も簡単な実施形態において、これは、N−ヒドロキシスクシンイミドエステルであってもよい。N−ヒドロキシスクシンイミド活性化質量標識体は、ヒドラジンと反応することにより、ヒドラジド反応性官能基を生成することもできる。これは、例えば、過ヨウ素酸酸化糖部分を標識するのに用いることができる。場合によっては、アミノ基及びチオールのいずれかを反応性官能基として用いることもできる。リシンを用いて、質量標識体を遊離カルボキシル官能基に結合することができる。この場合、カルボジイミドをカップリング剤として用いる。本発明の質量標識体に他の反応性官能基を導入するにあたって、最初にリシンを用いることもできる。リシンεアミノ基を無水マレイン酸に反応させることにより、チオール反応性マレイミド官能基を導入することができる。様々なアルケニルスルフォン化合物を合成するのにあたって、チオールとアミンに反応する有用なタンパク質標識試薬であるシステインチオール基を最初に用いることができる。アミノヘキサン酸等の化合物を用いて、質量変動質量マーカー部分又は質量正規化部分と反応性官能基との間に、スペーサーを設けることができる。
【0111】
下記表1に、生体分子の求核性官能基と反応して共有結合する幾つかの反応性官能基を列挙する。オリゴヌクレオチドの合成における使用においては、第一級アミン又はチオールが分子の終端に頻繁に導入され、標識が可能となる。以下に列挙された官能基であれば、いずれも本発明の化合物に導入することができ、質量マーカーを所望の生体分子に結合させることができる。必要であれば、反応性官能基を用いて反応性官能基を更に有するリンカー基を更に導入することができる。尚、表1は全てを網羅したものではなく、本発明は列挙された官能基のみの使用に限定されない。
【0112】
【表1】
【0113】
本発明の好ましい実施形態において、反応性官能基は以下の基
【化3】
(式中、各R2は独立してH、置換及び非置換のいずれかの直鎖及び分岐のいずれかのC1−C6アルキル基、置換及び非置換のいずれかの環状脂肪族基、置換及び非置換のいずれかの芳香族基、及び置換及び非置換のいずれかの複素環基のいずれかである)からなる。
【0114】
反応性官能基の置換基は特に限定されるものではなく、任意の有機基及び周期表のIIIA、IVA、VA、VIA又はVIIA族の1以上の原子の少なくともいずれかからなってもよく、前記原子は、B、Si、N、P、O若しくはS原子又はハロゲン原子等(例えば、F、Cl、Br、及びIのいずれか)である。
【0115】
置換基が有機基からなる場合、有機基は炭化水素基からなることが好ましい。炭化水素基は、直鎖、分岐鎖及び環状基のいずれかから構成されてもよい。独立して、炭化水素基は脂肪族基及び芳香族基のいずれかからなってもよい。更に独立して、炭化水素基は飽和及び不飽和のいずれかの基からなってもよい。
【0116】
炭化水素が不飽和基からなる場合、1以上のアルケン官能基及び1以上のアルキン官能基の少なくともいずれかからなってもよい。炭化水素が直鎖及び分岐鎖のいずれかの基からなる場合、1以上の第一級、第二級及び第三級の少なくともいずれかのアルキル基からなってもよい。炭化水素が環状基からなる場合、芳香族環、脂肪族環、複素環基及びこれらの縮合環誘導体の少なくともいずれかからなってもよい。そのため、環状基は、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、インデン、フルオレン、ピリジン、キノリン、チオフェン、ベンゾチオフェン、フラン、ベンゾフラン、ピロール、インドール、イミダゾール、チアゾール及びオキサゾール基の少なくともいずれか、並びにこれらの位置異性体からなってもよい。
【0117】
炭化水素の炭素原子数は特に限定されないが、炭化水素基が1〜40個の炭素原子からなることが好ましい。そのため、炭化水素基は低級炭化水素(1〜6個の炭素原子)及び高級炭化水素(7個以上の炭素原子、例えば7〜40個の炭素原子)のいずれかであってもよい。環状基の環中の原子数は特に限定されないが、3個、4個、5個、6個、及び7個のいずれかの原子等、環状基の環は3〜10個の原子からなることが好ましい。
【0118】
上述したヘテロ原子からなる基及び上述のように定義された他の任意の基は、B、Si、N、P、O若しくはS原子又はハロゲン原子等(例えば、F、Cl、Br及びIのいずれか)の周期表のIIIA、IVA、VA、VIA、及びVIIAのいずれかの族の1以上のヘテロ原子からなってもよい。そのため、置換基は、例えばヒドロキシ基、カルボン酸基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、アミン基、アミド基、イミン基、チオール基、チオエーテル基、硫酸塩基、スルフォン酸基、リン酸塩基等の、有機化学において一般的な官能基のいずれかの1以上からなってもよい。置換基は、カルボン酸無水物及びカルボン酸ハロゲン化物等これら基の誘導体からなってもよい。
【0119】
更に、いずれの置換基も、置換基及び上述のように定義された2以上の官能基の少なくともいずれかの2以上の組み合わせからなっていてもよい。
【0120】
より好ましい実施形態において、反応性官能基は以下の基
【化4】
からなる。
【0121】
本発明の好ましい実施形態において、反応性質量標識体は以下の構造の1を有する。
【化5】
3−[2−(2,6−ジメチル−ピペリジン−1−イル)−アセチルアミノ]−プロパン酸−(2,5−ジオキソ−ピロリジン−1−イル)−エステル(DMPip−βAla−Osu)
【化6】
3−[2−(ピリミジン−2−イルスルファニル)−アセチルアミノ]−プロパン酸−(2,5−ジオキソ−ピロリジン−1−イル)−エステル(Pyrm−βAla−Osu)
【化7】
6−[(ピリミジン−2−イルスルファニル)−アセチルアミノ]−ヘキサン酸−(2,5−ジオキソ−ピロリジン−1−イル)−エステル(Pyrm−C6−Osu)
【化8】
2−[2−(2,6−ジメチル−ピペリジン−1−イル)−アセチルアミノ]−プロパン酸−(2,5−ジオキソ−ピロリジン−1−イル)−エステル(DMPip−Ala−Osu)
【化9】
[2−(2,6−ジメチル−ピペリジン−1−イル)−アセチルアミノ]−酢酸−(2,5−ジオキソ−ピロリジン−1−イル)−エステル(Pyrm−Gly−Osu)
【0122】
本発明による方法においては、セット中の各標識体は、共通の総質量を有し、そして固有の質量を有する質量マーカー部分を有する。
【0123】
セットの各質量マーカー部分が共通の基本構造を有し、セットの各質量正規化部分が共通の基本構造を有し、セットの各質量標識体が1以上の質量調整部分を含み、質量調整部分が質量マーカー部分の基本構造及び質量正規化部分の基本構造の少なくともいずれかに結合し及びその中に位置することのいずれかであることが好ましい。この実施形態において、セットの各質量マーカー部分は異なる数の質量調整部分からなり、セットの各質量標識体は同数の質量調整部分を有する。
【0124】
この説明を通じて、共通の基本構造により、2以上の部分が実質同一の骨格構造、バックボーン、及びコアのいずれかを共有することを意味する。骨格構造は、上記式の質量マーカー部分及び上述のように定義された質量正規化部分のいずれかからなり、更にアミド結合で結合された複数のアミノ酸を含んでもよい。アリールエーテルユニット等の他のユニットも存在してよい。共通の基本構造を変化させない範囲で、骨格構造及びバックボーンのいずれかは、ペンダント置換基を含んでいても、原子及び同位体のいずれかで置換されていてもよい。
【0125】
好ましい実施形態において、本発明による質量標識体及び反応性質量標識体のいずれかのセットは、以下の構造:
M(A)y−L−X(A)z
(式中、Mは質量正規化部分であり、Xは質量マーカー部分であり、Aは質量調整部分であり、Lは開裂可能リンカーであり、y及びzは0以上の整数であり、y+zは1以上の整数である)を有する質量標識体からなる。Mがフラグメンテーション耐性基であり、Lが他の分子及び原子のいずれかと衝突した際にフラグメンテーション感受性であるリンカーであり、Xが予備イオン化されたフラグメンテーション耐性基であることが好ましい。
【0126】
MとXの質量の合計はセットのすべての標識体にて同一である。MとXは同一の基本構造及びコア構造のいずれかを有することが好ましく、この構造は質量調整部分により修飾される。質量調整部分は、MとXの質量の合計がセットの全ての質量標識体において同一であることを確実にし、各Xが異なる(固有の)質量を有することも確実にする。
【0127】
前記質量調整部分(A)は
(a)質量マーカー部分及び質量正規化部分の少なくともいずれかの内に位置する同位体置換基、並びに
(b)質量マーカー部分及び質量正規化部分の少なくともいずれかに結合した置換原子及び置換基のいずれか、から選択されることが好ましい。
【0128】
質量調整部分は、ハロゲン原子置換基、メチル基置換基、及び2H、15N、18O、及び13Cのいずれかの同位体置換基から選択されることが好ましい。
【0129】
本発明の好ましい1実施形態においては、上述のように定義された質量標識体セットの各質量標識体は、以下の構造:
X(*)n−L−M(*)m
(式中、セットの各標識体が固有の質量を有する質量マーカー部分を有し、セットの各標識体が共通の総質量を有するように、Xは質量マーカー部分であり、Lは開裂可能リンカーであり、Mは質量正規化部分であり、*は同位体質量調整部分であり、及びn及びmは0以上の整数である。)を有する。
【0130】
Xは、以下の基:
【化10】
(式中、セットの各標識体が固有の質量を有する質量マーカー部分からなり、そして共通の総質量を有するように、R1、Z、X、及びyは上述のように定義され、セットの各標識体は0、1、及びこれを超える数のいずれかの数の*からなる)からなる。
【0131】
更なる好ましい実施形態においては、本発明の反応性質量標識体は、以下の反応性官能基を含む。
【化11】
(式中、セットの各標識体が固有の質量を有する質量マーカー部分からなり、そして共通の総質量を有するように、R2は、上述のように定義され、セットは、0、1、及びこれを超える数のいずれかの数の*からなる)からなる。
【0132】
以上全ての好ましい構造式において、同位体種*は、アナライトに標識体を結合することを容易にするために存在する任意の反応性部分に位置するのではなく、質量マーカー部分、リンカー、及び質量調整部分の少なくともいずれかの内に位置することが特に好ましい。同位体置換基の数は特に制限されないが、セットの標識体数に従って決定することができる。通常、同位体種*の数は0〜20、より好ましくは0〜15、最も好ましくは1〜10であり、例えば1、2、3、4、5、6、7及び8のいずれかである。2の標識体を有するセットにおいて、同位体種*の数は1であることが好ましく、5の標識体を有するセットにおいては同位体種数が4であることが好ましく、6の標識体を有するセットにおいては同位体種数が5であることが好ましい。しかしながら、標識体の化学構造によっては、同位体種数を異なるものとしてもよい。
【0133】
必要であれば、標識体が1以上の硫黄原子を含有する場合、異種同位体Sを質量調整部分に用いてもよい。
【0134】
質量調整部分が15N及び13Cのいずれかである特に好ましい実施形態において、反応性質量標識体のセットは以下の構造:
【化12】
【化13】
を有する2の質量標識体からなる。
【0135】
質量調整部分が15N及び13Cのいずれかである代替の特に好ましい他の実施形態において、反応性質量標識体セットは以下の構造:
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
を有する5の質量標識体からなるセットからなる。
【0136】
質量調整部分が15N及び13Cのいずれかである代替の特に好ましい他の実施形態において、反応性質量標識体のセットは以下の構造:
【化19】
有する6の質量標識体I−VI及びこれらの構造の立体異性体のいずれかからなる。
【0137】
本発明による方法は、工程(a)より前に、サンプルの成分を分離する更なる工程を含んでもよい。前記方法は、工程(a)より前に、サンプルの成分を消化するために少なくとも1の酵素を用いて各サンプルを消化する工程を含んでもよい。前記酵素消化工程を、工程(a)の後だが工程(b)より前に実施してもよい。
【0138】
更なる実施形態において、前記方法において使用される質量標識体は、アフィニティー捕獲リガンドを更に含有していてもよい。工程(a)の後で工程(b)の前に、非標識アナライトから同重標識アナライトを分離するために、質量標識体の前記アフィニティー捕獲リガンドをカウンターリガンドに結合させる。
【0139】
アフィニティー捕獲リガンドは、特異性の高い結合相手を有するリガンドである。これらの結合相手は、結合相手がリガンドでタグされた分子を選択的に捕獲することを可能とする。結合相手により固体担体が誘導体化することが好ましく、それによりアフィニティーリガンドによりタグされた分子は選択的に固相担体に捕獲できる。好ましいアフィニティー捕獲リガンドはビオチンであり、当技術分野において既知の標準的な方法により本発明の質量標識体に導入することができる。特にリシン残基は、質量マーカー部分及び質量正規化部分のいずれかの後に導入することができ、これを介してアミン反応性ビオチンを質量標識体に結合させることできる(例えば、Geahlen R.L.ら,“A general method for preparation of peptides biotinylated at the carboxy terminus.”, Anal Biochem,1992, 202巻(1号),pp.68−67;Sawutz D.G.ら,“Synthesis and molecular characterization of a biotinylated analogue of [Lys]bradykinin.”, Peptides,1991,12巻(5号),pp.1019−1012;Natarajan S.ら,“Site−specific biotinylation. A novel approach and its application to endothelin−1 analogues and PTH−analogue.” Int J Pept Protein Res,1992,40巻(6号),pp.567−567を参照)。イミノビオチンを用いることもできる。ビオチンに対する様々なアビジンカウンターリガンドを使用することができる。アビジンカウンターリガンドには単量体及び四量体アビジン及びストレプトアビジンがあり、これら全てを多数の固相担体に用いることができる。
【0140】
他のアフィニティー捕獲リガンドとして、ジゴキシゲニン、フルオレセイン、ニトロフェニル部分、並びにc−mycエピトープ等の多数のペプチドエピトープがあり、それらに対してカウンターリガンドとして選択的モノクローナル抗体が存在する。容易にNi2+イオンに結合するヘキサヒスチジン等の金属イオン結合リガンドを用いることもできる。例えば、イミノ二酢酸キレート化Ni2+イオンを与えるクロマトグラフィー樹脂が市販されている。これらの固定化ニッケルカラムは、質量標識体を捕獲するのに用いることができる。更なる代替のアフィニティー捕獲リガンドとして、アフィニティー捕獲官能基が、適切に誘導体化された固相担体と選択的に反応できる物も使用できる。例えば、ボロン酸は、隣接したシス−ジオール及びサリチルヒドロキサム酸等の化学的に類似したリガンドに選択的に反応することが知られている。
【0141】
本発明による方法は、更に、工程(a)の後であるが工程(b)の前に、同重標識したアナライトを電気泳動及びクロマトグラフィーのいずれかによって分離する工程を含んでもよい。好ましい実施形態においては、強カチオン交換クロマトグラフィーが使用される。
【0142】
用語「試験サンプル」は、アナライトが存在し得る任意の被検査物のことを呼ぶ。前記試験サンプルは、1のアナライトのみからなってもよい。或いは、前記試験サンプルは、複数の異なるアナライトからなってもよい。この実施形態においては、各異なるアナライトに対して1個のキャリブレーションサンプルが与えられる。前記試験サンプルは、天然源由来のものでも、合成的に製造されたものでもよい。合成的に製造されたサンプルの例は、組み換えタンパク質の混合物である。1の実施形態においては、前記試験サンプルは、複雑な混合物、例えば、植物及び動物のいずれかからのサンプルである。好ましい1実施形態においては、前記サンプルは、ヒトからのものである。
【0143】
本発明において分析される試験サンプルの例としては、哺乳類組織、血液等の体液、血漿、血清、脳脊髄液、滑液、眼液、尿、涙及び涙管滲出液、気管支肺胞洗浄液等の肺吸引物、母乳、乳頭吸引液、精液、洗浄液、細胞抽出物、細胞株及び細胞質オルガネラ、固体器官組織等の組織、哺乳類、魚、鳥類、昆虫類、環形動物類、原生動物類、及び細菌類に由来する細胞培養上清及び調製物のいずれか、組織培養抽出物、植物組織、植物体液、植物細胞培養抽出物、細菌、ウイルス、真菌、発酵もろみ液、食料品、医薬品、及び任意の中間生産物が挙げられる。
【0144】
好ましい実施形態においては、前記試験サンプルは血漿である。前記試験サンプルがタンパク質除去血漿である実施形態が特に好ましい。このタンパク質除去血漿は、前記サンプル中のタンパク質負荷を減少させ、それゆえ前記サンプル中のアナライトの数を減少させるために、アルブミン等の最も豊富に存在する血漿タンパク質を精製して除去した血漿である。
【0145】
用語「キャリブレーションサンプル」は、少なくとも2個の異なるアナライト含有アリコートからなるサンプルのことを呼ぶ。前記異なるアリコートは、それぞれアナライトを既知の量で有する。用語「既知の量」とは、前記キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの絶対量及び定性的量のいずれかが既知であることを意味する。本明細書において「定性的量」とは、絶対量は知られていないが、特定の状態を有する被検体、例えば健常状態及び罹患状態のいずれかにある被検体などにおいて予期される範囲の量、及び調査している試験サンプルの種類に依存して予期される何らかの他の範囲の量のいずれかであってもよい量を意味する。
【0146】
各アリコートは、異なる量のアナライトを含有するので、「異なる」。通常は、この様式は、標準サンプルから異なる体積を採取することによって達成され、特に、絶対量を知る必要なしに異なる体積を採取することで各アリコート中に異なる量を望ましい比で採取することを確実にする定性的量の採取において有効である。代替のアリコートでは、各アリコートは別個に調製され、同一サンプルからは採取されない。1の実施形態においては、各異なるアリコートは、同一の体積を有するが、異なる量のアナライトを含有する。
【0147】
前記キャリブレーションサンプルは、分析するサンプルに関しては、体液及び組織抽出物のいずれかなどの天然サンプルでも合成物でもよい。前記キャリブレーションサンプルは、組み換え技術を使用して発現させたタンパク質、合成的に製造したペプチド及び合成的に製造したオリゴヌクレオチドのいずれかを含むことができる。加えて、組み換えタンパク質発現によって多数の異なるペプチドをコンカテネートした配列で製造することが可能である。欧州特許出願公開第1736480号明細書においては、AQUA法に類似の様式で、複数の参照ペプチドを、コンカテネートさせた組み換えタンパク質として製造し、多重反応モニタリング実験において使用する方法が開示されている。このような製造方法を、同重質量標識体と組み合わせ、本発明の種々の態様のいずれかによるキャリブレーションサンプルを提供することもできる。
【0148】
前記キャリブレーションサンプルは、分析されるサンプルを標準化した形態でもよい。前記キャリブレーションサンプルは、分析されるサンプルの成分全てを含有してもよいが、特定の量で含有する。例えば、キャリブレーションサンプルは、哺乳類の組織の標準化調製物、血液等の体液、血漿、血清、脳脊髄液、滑液、眼液、尿、涙及び涙管滲出液、気管支肺胞洗浄液等の肺吸引物、母乳、乳頭吸引液、精液、洗浄液、細胞抽出物、細胞株及び細胞質オルガネラ、固体器官組織等の組織、哺乳類、魚、鳥類、昆虫類、環形動物類、原生動物類、及び細菌類に由来する細胞培養上清及び調製物のいずれか、組織培養抽出物、植物組織、植物体液、植物細胞培養抽出物、細菌、ウイルス、真菌、発酵もろみ液、食料品、医薬品、及び任意の中間生産物を含んでいてもよい。注目するアナライトがタンパク質である場合、キャリブレーションサンプル中の全てのタンパク質が標識されるので、このようなサンプルの全プロテオームを研究サンプルの全てのタンパク質の参照として使用することができる。
【0149】
あるいは、前記キャリブレーションサンプルは、前記サンプル中の分析されるアナライトのみを含有し、前記サンプルの他のいかなる成分も含有しないことができる。1以上のアナライトを含有するキャリブレーションサンプルを製造し、外部で同重標識し、そして前記アナライトを含有する複合混合物へ添加することができる。例えば、前記サンプルが血漿サンプルであり、特定のタンパク質のみが前記血漿サンプルにおいて分析される場合、異なる組み換え型タンパク質のアリコートからなるキャリブレーションサンプルを調製することができる。
【0150】
本発明による1方法においては、キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの量が、既知の絶対量である。これは、工程(b)において試験サンプル中のアナライトの絶対量が測定されることを考慮している。
【0151】
代替の方法においては、キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの絶対量は、未知である。この実施形態においては、キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの量は、既知の定性的量である。較正工程には、キャリブレーションサンプルのアリコート中のアナライトの定性的且つ測定された量に対して試験サンプル中のアナライトの量を較正することが含まれる。特定の実施形態においては、前記定性的量は、健常状態及び罹患状態のいずれかなどの特定の状態を有する被検体におけるアナライトに予期される範囲の量である。相対的定量のためにこのようなキャリブレーションサンプルが与えられる分析は、バイオマーカーの発見、工業微生物学、医薬品及び食品の製造、並びにヒト及び家畜の疾病の診断及び管理等の広範囲の用途を有する。
【0152】
相対的定量実験は、血漿等の複合生体サンプルを分析する場合に、しばしば有用である。具体的な実施形態においては、大量のヒト血漿全体を数個(即ち4個)のアリコートに分け、異なる同重質量標識体で個々に標識する。例えば、6−plex Tandem Mass Tag 試薬(前記を参照のこと)を使用して、血漿の4個の標識アリコートを製造することができる。6TMT−128、6TMT−129、6TMT−130、及び6TMT−131を標識のために使用できる。全ての個々の血漿試験のサンプルは、この同重質量タグのもう1個の異なる種類、即ち6TMT−126で標識される。今検量線を作製するために、血漿のアリコートを使用できるようになっている。例えば、4個のアリコートをそれぞれ0.5μL、1μL、2μL、5μLずつ用い、混合し、キャリブレーションサンプルを製造し、そして次に1μLの試験サンプルを添加することができる。サンプルに4個の相互に異なるように標識したアリコートからなるキャリブレーションサンプルを混合することによって、この材料を用いて実施される殆どすべてのMS/MS実験において、5種のレポーターイオン(キャリブレーションサンプルから4個及びサンプルから1個)からなるグループが得られる。このようにして、全プロテオームを4点検量線の作製に使用することができる。全ての血漿試験サンプルに、同一量のキャリブレーションサンプルが添加される場合、全ての試験サンプルにわたる相対的定量が可能になる。複数の試験室においてこのキャリブレーションサンプルを使用できるので、試験横断的比較及び試験室横断的比較が可能である。
【0153】
アナライトの絶対量は、知られていない可能性があるのに対して、量の%変化率を検量線から計算することができる。用途に従い、検量線の比率及び幅を調節することができる。
【0154】
キャリブレーションサンプルの各異なるアリコート中のアナライトの量が、試験サンプルにおけるアナライトの量の既知の変動及び推測される変動のいずれかを反映するようにして選択される実施形態が好ましい。健常被検体及び罹患被検体のいずれかの試験サンプル中に見出されるアナライトの既知の量及び推測される量のいずれかの範囲内の上限及び下限、並びに任意に中間点に相当する量のアナライトを含むアリコートが提供される実施形態が、なお更に好ましい。
【0155】
各アナライトは、試験サンプル中の他の全てのアナライトと独立に定量されるので、それぞれが他の全てのキャリブレーションサンプルとは大きく濃度の異なるキャリブレーションサンプルの複数のセットを調製し、実験のダイナミック・レンジを向上させることが考えられる。各アナライトに対して多数の参照生体分子を調製する方法において、各生体分子を重複する量範囲で提供し、これにより所定のアナライトの標準曲線の総範囲を拡張することも可能である。例としては、タンデム型質量分析計における能力に基づいて、参照標準として使用するために、標的タンパク質からの多数の異なるトリプシンペプチドを選択することができる。前記参照ペプチドは、質量スペクトルにおける前記ペプチドに相当するイオンのイオン強度に基づいて選択することも、前記ペプチドに相当するイオンが出現するスペクトルの領域における信号対雑音比に基づいて選択することもできる。或いは、前記参照ペプチドは、同重種を有するペプチドを回避するようにして選択することもできる。タンパク質型ペプチド、即ち特定のタンパク質中にのみ存在するペプチドの選択が特に多用される。
【0156】
各標準ペプチドを独立に、同重質量タグの6部セットの5以下の異なるタグを用いて標識する場合、これらを異なる比率で混合し、5点標準曲線を作製することができる。第2の標準ペプチド群、第3の標準ペプチド群、第4の標準ペプチド群及びこれらを超える標準ペプチド群のいずれかを標識するのに同一の同重質量標識体群が使用でき、標準ペプチド群のそれぞれを、同一のアナライトのためのその他の参照ペプチド群のそれぞれによってカバーされる範囲とは異なる範囲の濃度をカバーするような異なる比率で混合することができる。
【0157】
標的タンパク質に由来する各ペプチドに対して、各検量線が異なる濃度範囲をカバーするようにして、1の異なる検量線を作製する。次に各ペプチドの濃度をそれぞれの検量線から決定するが、これは標的タンパク質の濃度に結びつけることができる。検量線の幾つかでは、試験サンプル中のペプチド量を、検量線の中間に位置させることができ、サンプル中の実際量の正確な決定が行われる。異なる濃度範囲をカバーする他の検量線については、試験サンプル中のペプチ量が検量線の範囲の外に位置することがある。それぞれが注目する単一のアナライトに由来する複数のペプチドを使用することによって、複数の検量線を作製することができ、これにより同一のアナライトの量を求めることができ、次に最も正確な検量を選択することで、1以上のペプチドの濃度から試験サンプル中のアナライトの濃度を決定することができる。このようにして、分析感度について妥協することなく、広いダイナミック・レンジをカバーすることができる。
【0158】
キャリブレーションサンプルは、正常な量のアナライトからなることができる。前記キャリブレーションサンプル中のアナライトの量は、植物、動物或いは好ましくはヒトが健常であることを示す可能性がある。或いは、キャリブレーションサンプルは、特定の疾患の存在及びステージの少なくともいずれかを示す量のアナライトからなってもよい。更なる実施形態では、キャリブレーションサンプルは、治療法の有効性及び毒性の少なくともいずれかを示す量のアナライトを含む。疾患の存在及びステージの少なくともいずれか、治療に対する反応、及び毒性の少なくともいずれか等の特定の特性についての既知のマーカーの標準的パネルが与えられる。同重質量タグで標識した体液及び組織抽出物のいずれかからなるキャリブレーションサンプルを、これらに限られるわけではないが、腫瘍、神経変性疾患、心臓血管疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、呼吸器疾患、代謝性疾患、炎症性疾患、及び伝染性疾患等のよく特徴づけられた疾患に罹患している患者から調製することができる。既知量のこのようなサンプルを複数の試験サンプルに添加し、共通のキャリブレーションサンプルのイオン強度に基づいて一連の分析についてのMS/MSスキャンのイオン強度を正規化することができ、これにより別個の分析間での比較の正確性を高め、試験の分析変動を減少させることができるようにする。
【0159】
冠状動脈医療の場合においては、ミオグロビン、トロポニン−I、CK−MB、BNP、pro−BNP、及びNT−pro−BNP等の既知の心臓疾患マーカーのトリプシン消化物に由来する1連のペプチドを合成し、これらを3のアリコートに分ける。各参照ペプチドの各アリコートを、このような同重質量タグのセットからの3の同重質量タグの1で標識するが、このとき前記セット中の全てのタグは、実質的に質量分析法によって決定される総質量が同一であり、前記セット中の各タグは、質量分析計中での衝突誘起解離に際して固有の質量を与える質量レポーターイオンを放出する。各固有の参照ペプチド−質量タグ分子に、次に、3の相互に異なるように標識した同一参照ペプチド含有アリコートの濃度を変動させ、この変動幅が心臓疾患を罹患している患者における親タンパク質の通常生体濃度をカバーするように、既知の濃度でMS適合性緩衝液等の担体溶液を添加する。結果として生じた参照ペプチドパネルに、規定の体積比で、参照ペプチドを標識するために使用した同重質量タグのセットと同一のセットからの第4の同重質量タグで標識されている試験サンプルを添加する。この添加済みサンプルを、次に、タンデム型質量分析法にかける。ここでは、指示に従ってサーベイスキャンが実施され、同重標識参照ペプチドのそれぞれに対応する特徴的保持時間と質量の前駆体イオンの同定のみが行われる。各選択済みイオンに対して、MS/MSスキャンは、高濃度、中濃度、及び低濃度の参照ペプチド及び試験サンプルに由来するレポーターイオンを発生させる。
【0160】
単純標準曲線を参照ペプチドレポーターイオン強度から簡単に作製することによって、試験サンプル中の同一ペプチドからの第4のレポーターイオンの濃度を前記検量線を用いて読み取ることができる。この方法によって、複数の生物学的に関連するタンパク質の絶対濃度を、1回のMS/MS実験において決定することができる。当業者であれば、それに対して参照ペプチドを調製する異なるタンパク質の数は特に制限する必要はないことに気付くであろう。その数は1〜100の範囲であり、1〜50の範囲が最も好ましい。同様に代表ペプチドの数は1〜20の範囲であり、1〜10の範囲が好ましく、1〜5の範囲がより好ましく、そして1〜3の範囲が最も好ましい。当業者には、上述の例が一般的例であり、そこで説明された原理が、任意の疾患の既知のマーカーに適用でき、疾患の診断、疾患の進行のモニタリング、及び治療に対する患者の反応のモニタリングのいずれかに適用できることが理解される。
【0161】
更に、これらのキャリブレーションサンプルの用途としては経時的実験における使用がある。経時変化するサンプルの「状況」を、(4)の異なるアリコートを、実験を開始後0時間の時点、1時間の時点、8時間の時点、及び24時間の時点(マウス及びヒトへの薬剤投与、E.coli及び酵母における発酵の誘起などにおいて)、慢性疾患の進行及び治療への反応についての数週間及び数ヶ月の長期のタイムスケール等の4の異なる時点から採取することでキャリブレーションサンプルに反映させることができる。
【0162】
本発明の更なる態様においては、キャリブレーションサンプルのアリコートの1が、MSスキャンの間の又は非スキャンMS/MSの間にMS/MSスキャンを開始するためのトリガーの役目を果たす量のアナライトを含有する。
【0163】
非スキャンMS/MS状態とは、質量分析計における質量分析器において所定のm/z比を有する特定のイオンがいずれも選択されず、その代わり本質的に全てのアナライトがフラグメント化され非特異的フラグメントスペクトルを与えている状態である。通常、これは、全てのイオンを第1の質量分析器から衝突室へと通過させ、衝突室で、従来のMS/MSのような特定の選択されたイオンではなくサンプル中の全てのアナライトに対してCIDを実施することで生じる。このMS/MSスペクトルは、特定のアナライトに対して特異的な訳ではないが、トリガーに由来するレポーターイオンは、ちょうどその時注目するアナライトが質量分析計に侵入していることを示す指標として使用することができる。好ましい実施形態においては、トリガーからのレポーターイオンの存在は、LC−MSにおいてその時注目するアナライトがLCカラムから溶出していることを示す。これによって、予め規定されたMS/MS実験が開始される。
【0164】
このトリガーは、必ずしも同重質量標識体で標識したアナライトでなくてもよい。前記トリガーは、LC−MSの間に注目する標識アナライトと共溶出及び実質的な共溶出のいずれかをする他の任意の標識アナライトであってもよい。前記トリガーアナライトの前記標識は、キャリブレーションサンプルの同重質量標識体の質量と異なる質量を有していてもよい。例えば、1の実施形態において、キャリブレーションサンプルは、同重質量標識体で相互に異なるように標識したアナライトのアリコートと、更に、化学的には同一だが、好ましくは同重質量標識体の質量と5Daの質量差を有する同位体的に異なる質量標識体で標識されたアナライトのアリコートを含む。前記同位体的に異なる質量標識体は、次に「トリガー」の役目を果たすことができる。分析のMS段階において、同位体的に異なる標識体及び同重標識体を保持するキャリブレーションサンプル中の各アナライトは、同重標識体と同位体的に異なる標識体との間の質量差の分だけ分離した1対のピークとして出現する。このとき同位体的に異なる標識体を保持するアナライトは、容易に検出可能な量で出現する。質量分析計は、このような対のピークのうち同重標識したアナライトに対して、この用途専用のMS/MS実験を実施するようにプログラムされており、これにより注目するアナライトの定量分析が開始される。
【0165】
好ましい1実施形態においては、同位体的に異なる質量標識体トリガーは、同位体置換基を有さず、同重質量標識体は、好ましくは2H、15N、18O、及び13Cのいずれかの同位体置換基を複数有する。これにより、キャリブレーションサンプルの同重質量標識体で標識されたアナライトとトリガー標識体で標識されたアナライトとの間に質量差が与えられる。このトリガー標識体は、同位体置換基を含まないので、費用のかかる同位体標識を行う必要も無しに、この標識体は、必要に応じて多量に使用できる。
【0166】
本発明は、サンプル中の低存在量アナライトの検出能を向上させる方法も提供する。注目する低存在量タンパク質に対する組み換え参照タンパク質を発現させ、次に同重質量タグで標識することができる。次に試験サンプルを、同一セットの同重質量標識体からの第2の標識体で標識し、大量の同重標識組み換え参照タンパク質をこの試験サンプルに、1次元ゲル電気泳動及び2次元ゲル電気泳動のいずれか、フリーフロー電気泳動、キャピラリー電気泳動、オフゲル等電点電気泳動、並びにLC−MS/MS、LC−MS″、及びLC−TOF/TOFの少なくともいずれか等の選択される任意の方法によって容易に検出可能である濃度で、添加する。同重標識参照材料の検出の後で、MS/MSスキャン及びTOF/TOF分析のいずれかを実施し、前記参照材料及び試験サンプルのレポーターの質量を定量する。同重質量タグのセットから数個のタグを使用することにより、より生理学的に関連性のある濃度を有しそしてそれゆえ分析の全体の正確度を改善する複数点検量線を提供することが可能になる。この実施形態において、非同重標識を注目する標識アナライトと共に検出することができる場合、例えばトリガーアナライトと同重標識アナライトとがゲル上の同一スポットに出現及びLC−MSにおいて共溶出のいずれかをする場合、トリガーアナライトを標識するために非同重標識を使用することも可能である。
【実施例】
【0167】
本発明を以下の実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0168】
(実施例1.ウシ血清アルブミンについての4点絶対定量標準の調製)
本発明の原理を説明するために、ウシ血清アルブミン(BSA)に対する参照試薬のセットを調製した。1mgのBSAを緩衝液中に溶解し、還元し、アルキル化し、次にトリプシンで消化した。当業者であれば、タンデム型質量分析法による分析に適合性があり、トリプシンペプチドを調製するのに適切な如何なる方法も使用できることを十分に理解するであろう。
【0169】
前記トリプシン消化物を4個のアリコートに分け、各アリコートを国際公開第2007/012849号パンフレットの6プレックスTMT標識体の異なる標識体で標識した。これにより、第1のアリコートを質量マーカー部分の質量が128DaであるTMT標識体で、第2のアリコートを質量マーカー部分の質量が129DaであるTMT標識体で、第3のアリコートを質量マーカー部分の質量が130DaであるTMT標識体で、最後のアリコートを質量マーカー部分の質量が131DaであるTMT標識体で標識した。各TMT標識体試薬ストック溶液(60mMアセトニトリル溶液)を各サンプルに、TMT試薬の最終濃度が15mMになるようにして、添加することにより標識工程を実施した。
【0170】
次に、サンプルを室温で1時間インキュベートした。最後に、各サンプルにおいて部分的に生じた副反応と、標識サンプルの凝集とを元に戻すために、ヒドロキシルアミンストック液(50% w/v 水溶液)を各タンパク質サンプルに添加して(ヒドロキシルアミンの最終濃度が0.25% [w/v]になるようにして)処理し、そして室温で15分間インキュベートした。
【0171】
BSA参照標準を準備するために、異なるアリコートのTMT−標識消化物を、TMT−標識消化物の最終濃度が以下のようになるようにして、混合した。
128−TMT 15.6μgmL−1
129−TMT 46.9μgmL−1
130−TMT 140.6μgmL−1
131−TMT 421.9μgmL−1
各分析のためには、10μLの参照材料を試験サンプルに添加し、これにより参照TMT−標識消化物の量が0.156μg、0.469μg、1.406μg、及び4.219μgとなるようにした。
【0172】
(実施例2.タンデム型質量分析法によるウシ血清アルブミン溶液の分析)
実施例1において調製したBSA標準を用いた定量の正確度を、既知のBSA濃度を有する1連の溶液にBSA標準溶液を添加して分析することによって判定した。
【0173】
個々のBSA溶液を緩衝液を用いて調製し、上述のようにして処理しトリプシン消化物とした。各トリプシン消化物を、本質的に上述のようにして、質量126Daの質量マーカー部分を有するTMT標識体を使用して標識した。
【0174】
タンデム型質量分析法による分析に先立って、10μLのBSA標準ストック溶液を126−TMT標識BSA溶液それぞれの10μLに添加し、この全量をQTOF IIエレクトロスプレー質量分析計のイオン化源に注入した。
【0175】
<LC ESI MSプロトコール>
粒子サイズが3μm、流速が300μL/minでMicromass QTOF IIに連結した、サイズが75μm、150mmのRP−C18カラムを有するWaters Cap−LCからなる本発明者らのパイプラインを介して、MS/MSデータを発生させた。MS/MS実験は、データ依存測定モード(DDA)により実施した。稼動の間、MS/MS実験を、1MSスキャンに対し1.0秒のデータ収集時間、及び続くそれぞれ1.4秒の4種の最も存在量が多かったイオン種の4連続MS/MSスキャンという条件で実施した。図2に、BSAトリプシンペプチド AEFVEVTK のMS/MSプロフィールを示す。上段にフルMS/MSスペクトルを示す。下段に同重質量マーカー部分領域の拡大表示を示すが、ここでは同一ペプチドの試験サンプル(126)中及び参照材料(128、129、130、及び131)中での異なる存在量を反映した異なる強度のピークが示されている。
【0176】
次にMS/MSスペクトルをSequestTMを用いて分析し、IPIデータベースの現行のリリースに適合させた。プロテインID(受託番号及びMS/MSスキャンから抽出した部分配列)、保持時間、並びに全てのレポーター(126Da、128Da、129Da、130Da、及び131Da)のレポーターイオン強度をExcelのスプレッドシートにエクスポートした。
【0177】
実験の条件及び分析の間の個々のペプチドの挙動に従って、定量するペプチドの数を1、4、10、及びそれを超える数のいずれかに選択する。低強度のレポーターを有するペプチドは、それのもたらす分析精度及び品質が疑わしい場合には排除し、並びにレポーターが規定される強度閾値外にあるペプチドも排除した。
【0178】
上述の10μLの4点BSA参照標準を添加した10μLの100μgmL−1126−TMT標識BSAを含有するBSA溶液の分析の結果を表2に示す。
【0179】
この実験のための標準曲線は、BSA由来トリプシンペプチドの全てのTMT質量マーカー部分強度(それぞれ128Da、129Da、130Da、及び131Da)をBSAの各参照ペプチド量について加算し、注入したBSAの絶対量に対して合計イオン強度をプロットすることによって計算される。この標準曲線を、図3に示す。分析サンプル中のBSAの量を計算するためには、全ての126Da TMT質量マーカー部分のイオン強度を加算し、前記標準曲線を用いてこの値から読み取る。この方法によってBSAの注入量は、0.892μgと計算された(1個の外れ値ペプチドを解析のために除外した)。個々のペプチドについてのデータを使用した場合、計算値は0.751μgBSAから1.016μgBSAの範囲にあった。
【0180】
【表2】
【0181】
(実施例3.特異的タンパク質バイオマーカー候補を検出するための血漿サンプルの分析)
10個の粗ヒト血漿サンプルを使用した。
本発明を使用して定量すべき対象のアナライトは、タンパク質のクラスタリンとした。以下に示すアミノ酸配列を有する1個のクラスタリンペプチドを、参照物質として使用した。
VTTVASHTSDSDVPSGVTEVVVK
【0182】
このペプチドの分子量は、2,313.17Da(モノアイソトピック)及び2,314.53Da(平均)である。このペプチドは、SwissProtエントリー(CLUS_HUMAN)内の386〜408残基に相当し、分子量25,878Daの成熟クラスタリンのα鎖の一部である。このペプチドは、3×TFAカウンターイオンを含有し、ペプチドストック液を生成する場合は、2,655g/molの分子量の増加を引き起こすと推定されている。
【0183】
<ペプチドからのキャリブレーションサンプルの製造>
1.66mgのペプチドから1μg/μLのペプチドストック液を製造した。それぞれ200μLの4ポーションを、それぞれTMT6−128、TMT6−129、TMT6−130、及びTMT6−131で標識した。これらのペプチドをNH2OHで処理し、生じ得るチロシン、セリン、及びトレオニンへの標識化を元に戻した。次に、相互に異なるように標識したペプチドサンプルを、1:2:4:8の比で混合した。図6は、使用した方法を例示する概略図である。LC−MS/MSによる初期の分析から、部分的に生じる過剰標識化状態を完全に元に戻すことはできず、従って第2の処理が必要であることが示された。このキャリブレーションサンプルは、TMT6−128標識血漿サンプルに混合する前に、528倍希釈した。
【0184】
<血漿サンプルの処理>
ELISAによって測定されるクラスタリン含量に基づいて、10個の血漿サンプルをコホートから選択した。1.66μLの各血漿サンプルを198.33μLの緩衝液(100mM TEAB、0.1%SDS、pH 8.5)で希釈し、全タンパク質量を142μg〜200μg(タンパク質濃度は、0.71μg/μL〜1.00μg/μL)とした。次に、各血漿サンプルをTMT6−126で標識し、最適条件に従ってNH2OH処理を実施した。次に、4μLの希釈キャリブレーションサンプルを10%の各サンプルに添加した。次に、このサンプルを逆相クロマトグラフィー並びに強カチオンイオン交換クロマトグラフィーによって精製した。
【0185】
<LC−MS/MS>
LC−MS/MSを、Qtof−2質量分析計(Waters,マンチェスター、イギリス)に連結したCapLCを用いて実施した。
1稼動当り5μLの精製サンプル(40nLの粗血漿に相当)を注入した。図7は、クラスタリン由来の標識ペプチドの保持プロフィールの質量スペクトルである。クラスタリン由来TMT−標識ペプチドから標的とするものを選んで行うMS/MSデータ収集を、次に、クラスタリン由来のTMT−標識ペプチドのm/zのリストを用いて実施した。衝突エネルギーパラメーターの最適化を行い、質量マーカー基イオン強度を増加させた。図8は、クラスタリン由来の標識ペプチドのMS/MSスペクトルである。挿入図は、質量マーカーイオンを示すMS/MSスペクトルの領域を示す。
【0186】
<データ解析>
全ての対応するMS/MSスキャンを手作業で蓄積し、1稼動当り1個のMS/MSファイルを作製した。次に、ピーク処理及びIDを、標準的方法を使用して実施した。各MS/MSファイルに対して、1本の検量線を、質量マーカーイオン強度128〜131(直線回帰)に基づいて作製した(図9)。各サンプル中に存在するペプチドの量を、次に、前記検量線を使用して決定した(表3)。最後に、μg/mLで表したサンプル当りのクラスタリン濃度を、クラスタリンα鎖の分子量に基づいて計算した。
【0187】
【表3】
【0188】
(実施例4.全プロテオーム定性参照標準の調製)
多くの状況下、例えば初期バイオマーカーの発見ワークフローにおいては、絶対定量参照標準を準備することは必ずしも必要ではなく、むしろ代表的、均一な標準であって、如何なる所定のアナライトの絶対量も知られておらず、参照サンプルの通常の範囲内にあると考えられる分析する全プロテオームをカバーする標準が準備される。このような全プロテオーム標準の1例が、ヒト血漿である。本発明を使用することにより、全てのタンパク質及びペプチドの少なくともいずれかが同重標識多重定性標準として存在する、一般的で均一な参照標準血漿を調製することが可能である。このような標準を、全てのタンパク質及びペプチドの少なくともいずれかを前記参照標準血漿に用いたものと同一の同重標識体のセットからの異なる標識体で標識した試験サンプルに添加する場合、MSにおいて検出される全ての前駆体イオンについての定量的MS/MS分析を実施することが可能であり、そして試験サンプル中のアナライトの参照標準に対する相対存在量を決定することも可能である。
【0189】
当業者であればこのコンセプトを、これらに限定するわけではないが、全血漿及びタンパク質除去血漿のいずれか、血清、脳脊髄液、滑液、尿、精液、乳頭吸引液、組織ホモジネート、細胞培養上清、細胞抽出液、細胞亜分画、膜調製物等の任意の定性標準に適用できること、及び特異的なサンプル種を代表する参照材料を個々に調製し、例えば多施設臨床試験においてバイオマーカー試験を正規化できることが十分に理解されよう。
【0190】
このような参照材料の1例を示すために、ヒト参照血漿の調製を実施した。4種の異なる同重質量タグを用いて、血漿を標識し、これらを混合し、全血漿プロテオームキャリブレーション混合物を作製した。強カチオン交換体(SCX)により24画分へ分離し(1)、逆相HPLCによりステンレス鋼MALDI−標的上の480スポットへ分離する(2)クロマトグラフィーによる分離の後、スポットを、4800 MALDI Tof/Tof質量分析計(Applied Biosystems、USA)においてMS及びMS/MSにより分析した。
【0191】
ヒト血漿は、Dade Behringから購入した(Standard Plasma)。この血漿に、以下の2種のタンパク質を添加した。
1)リボヌクレアーゼA、タイプI−AS:ウシ膵臓から(Sigma、R−5503)、分子量13.7kDa;pI 9.6;純度85%。リボヌクレアーゼA、タイプI−ASを1.8mg、170μLの水に溶解し、この溶液の10μLを、高存在量タンパク質の除去前の血漿1mLに添加した。
2)トリプシンインヒビター、タイプI−S:ダイズから(Sigma、T−9003);分子量20.1kDa;pI 4.5;タンパク質含量90%;α鎖分子量20,090Da;β鎖分子量20,036Da;γ鎖分子量20,163Da。トリプシンインヒビター、タイプI−Sを8.8mg、196μLの水に溶解し、この溶液の10μLを、高存在量タンパク質の除去前の血漿1mLに添加した。
【0192】
同重質量標識に先立って、6種の高存在量タンパク質(ヒトアルブミン、IgG、アンチトリプシン、IgA、トランスフェリン、及びハプトグロビン)を、Applied BiosystemsのBioCAD Vision HPLCに装着したAglient high capacity MARS4.6×100mmカラム(Part−Nr.518−5333)を用いて除去した。
【0193】
<還元、アルキル化、及びトリプシンによる消化>
タンパク質処理を、以下の標準プロトコールに従い実施した。タンパク質を希釈して、100mMホウ酸塩緩衝剤及び0.1%ドデシル硫酸ナトリウム中に溶解したpH7.5の1g/Lタンパク質溶液とした。システインの1mM TCEPによる還元を、室温で30分間かけて実施した。次に、このシステインを、ヨードアセトアミドを用いて、室温で1時間かけてアルキル化した。最後に440μgのトリプシンを添加し、37℃で18〜24時間、インキュベートした。
【0194】
<体積比1:2:4:8の混合物の調製及びTMT6を用いた標識>
トリプシン消化の後、タンパク質除去血漿を4個のアリコートに分け、各アリコートを独立に異なる同重標識体TMT6plex試薬、即ちTMT6−128、TMT6−129、TMT6−130、及びTMT6−131で標識した。標識処理の後、アリコートをそれぞれ1:2:4:8の体積比で混合し、血漿の4点キャリブレーション混合物を作製した(図1)。この参照材料のプロテオームカバー率を測定するために、この参照材料を多次元クロマトグラフィー及びタンデム型質量分光分析法によって分析した。
【0195】
<24の強カチオン交換体分画の採取>
質量分析法に先立って、SCXカラム(Poly LC、4.6mm(内径)×100mm;ポリスルホエチルA)に装着したBioCAD Vision HPLC(Applied Biosystems)を用いて、第1の分離を実施した。サンプルをWaters Sunfire RP PreColumn(4.0mm(内径)×10mm)に捕獲し、50%アセトニトリルのパルスを与えることでSCXカラムへ溶出した。PreColumnをオフラインに切替え、SCXカラムのための勾配をかけた溶出を開始した。SCX勾配は、溶媒C(水75%、アセトニトリル25%、KH2PO4を5mM、pH3)と30分間で濃度を0%から50%に変化させる溶媒D(水75%、アセトニトリル25%、KH2PO4を5mM、pH3、KClを500mM、pH3)とを用いて形成した。この分離工程で、24のSCX分画を採取した。各分画を、次に逆相分離にかけた。
【0196】
<逆相HPLC>
第2の分離システムは、Waters nanoAQUITY UPLC Systemによる逆相クロマトグラフィーである。MALDIワークフローにおいては、クロマトグラフィーとMS測定が連結されていないので、HPLCの条件を高ピーク容量が得られるように最適化することができた。カラム:75μm(内径)×250mm、1.7μmBEH 130 C18充填剤(Waters,part Nr.:186003545)を充填。カラムオーブン温度60℃。5μLの各SCX分画を、如何なるプレカラムも装着していないUPLCカラムに、直接注入した。
【0197】
【表4】
【0198】
<MALDI標的へのスポッティング>
nanoAQUITY UPLC Systemの前記分離カラムを、Dionex Probot spotterの注入口に連結し、MALDI調製物中のペプチドを、4800 Tof/Tof MALDI機器のためのMicrotiter format MALDIサンプル標的上で分画した。MALDI標的上においては、1920の個々の分画を採取することができる。1のMALDI標的に対してそれぞれ480のスポットを有する4のRPクロマトグラムを作製した。スポッティングは、保持時間50分から開始し、保持時間210分で終了し、1のスポットに対して20秒間のスポッティング持続期間で実施された。前記スポッター上で、0.35μL/minの溶離液流に0.6μL/minのMALDIマトリックス溶液流(80%アセトニトリル中に溶解したα−シアン−4−ヒドロキシ桂皮酸の5g/L溶液、19.8%の水、0.2%のトリフルオロ酢酸)を混合した。各MALDI調製物の体積は、約330nLであった。
【0199】
<4800 Tof/Tof機器でのMALDI MS及びMS/MS分析>
4800 Tof/Tof機器で、スポットに対しては2のモードの稼動が実施された。第1の稼動においては、リフレクターモードの従来からのMSスペクトルが記録された。個々のMSスペクトルそれぞれに対して、合計1,000のMALDIショットが行われた。スペクトルを、m/zが568.138のマトリックストリマーシグナルを用いて内部で較正した。ペプチドピークの溶出プロフィールの計算を含むLC MALDIストラテジー(分画対分画の質量トレランスが100ppm、200解像度内の前駆体の排除)を用いて、“4000 Series Explorer”機器ソフトウェアの解釈ツールにより、MS/MS実験の前駆体リストが発生させられる。後のMS/MS分析のために選択される前駆体として、1個のスポットに対して5個以下の前駆体が与えられた。MS/MSデータ収集を、最初に最も強い前駆体から行った。1のスペクトルに対して1,000のレーザーショットが必要であった。このMS/MSスペクトルを、TMT6−131フラグメントイオンの理論質量値131.1387を用いて内部で較正した。
【0200】
<MASCOTデータベース検索による同定>
15,818クエリーのデータベース検索をMASCOT Version 2.1.04を用いて実施した。ヒトタンパク質をIPIヒトデータベース(IPI_Human_20071024; 68348配列; 28969400残基)を用いた検索において同定した。添加したタンパク質は、両方ともIPIヒトデータベース中には存在しなかった;これらは、Swissprotデータベースにおいて、「他の哺乳類」という分類上のキーを使用して検索した。質量126、127、128、129、130、131のピーク面積を、Sequest ToolboxからのTOFTOF Matcherにより抽出した。
【0201】
(結果)
<定量分析>
GPS Oracle データベースからのピーク面積の抽出によって、質量128Da、129Da、130Da、及び131Daに存在するレポーターピークの計量を行った。ピーク面積の計算の後、検量線(1:2:4:8の比)の品質を確認するために、回帰分析を行った。レポーターピークの直線への適合について解析することによって、各ペプチドMS/MS実験の成功度を調べた。全てのMS/MSスペクトルについて、直線回帰が達成された。
【0202】
図10、図11、及び図12は、MS/MSスペクトルの代表例を示す。拡大図においては、連続するbイオンとyイオンとが見られる。挿入図として、1:2:4:8の混合比を有する128m/z、129m/z、130m/z、及び131m/zのレポーターを有するレポーター領域の拡大表示が示される。
【0203】
回帰分析によって、12,000のMS/MSスペクトルがある一定のR2値を達成していることが示された(表5を参照)。
【0204】
【表5】
【0205】
レポーターイオン強度が定量化のために強度に求められる基準を満たしていることを示す、合計約12,000のMS/MSスペクトルが得られた。MALDI TofTof MS/MSスペクトルにより、TMTタグフラグメントイオンが、定量化が可能になる良好な強度を有していることが示される。ペプチドのMS/MSスペクトル中の前記yイオン及びbイオンの一続きを、ペプチドIDのために使用した。控え目の閾で行ったデータベース検索では、IPIヒトデータベースにおける141のヒトタンパク質がサンプル中に同定された。添加タンパク質は、両方とも、Swissprotデータベース及び種に関連するフィルタリングを用いて確認された。同定したヒトタンパク質の中には、例えば、18のMS/MSスペクトル及び25%の配列カバー率を有するクラスタリンが見つかった。回帰分析によれば、半分を超えるMS/MSスペクトルのR2値が0.99を超え、90%のMS/MSスペクトルのR2値が0.94を超えた。
【0206】
20の最小ペプチドスコア閾及び45を超えるタンパク質閾を用いた場合、添加タンパク質の他に、141のヒトタンパク質が同定された(表6、表7、表8、表9)。
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナライトを分析する方法であって、
(a)前記アナライトを含んでいてもよい試験サンプルと、各アリコートが既知量の前記アナライトを含む少なくとも2個の異なるアナライト含有アリコートを含むキャリブレーションサンプルとを混合する工程であって、前記試験サンプルと前記キャリブレーションサンプルの各アリコートとを質量分析法によって区別できるように、前記サンプル及び各アリコートを、質量分析上種類の異なる質量マーカー基をそれぞれ有する1以上の同重(isobaric)質量標識体を用いて相互に異なるように標識する工程と、
(b)質量分析法によって、前記試験サンプル中の前記アナライトの量及び前記キャリブレーションサンプルの各アリコート中の前記アナライトの量を測定し、前記キャリブレーションサンプルのアリコート中の既知且つ測定されたアナライトの量に対して、前記試験サンプル中のアナライトの量を較正する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
試験サンプルが複数の異なるアナライトを含むことができ、各異なるアナライトに対して1個のキャリブレーションサンプルが与えられ、各異なるアナライトに対して工程(b)を繰り返す請求項1に記載の方法。
【請求項3】
複数のアナライトが、工程(a)より前にタンパク質及びポリペプチドのいずれかの化学的処理及び酵素的処理のいずれかによって生成される前記タンパク質及びポリペプチドのいずれかのペプチド断片である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
各キャリブレーションサンプルの異なるアリコートは、前記各キャリブレーションサンプルのアナライトの量の範囲が他のキャリブレーションサンプルと異なるように選択される請求項2から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
複数の試験サンプルにおいて1のアナライトを分析する請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
複数の試験サンプルにおいてそれぞれ分析されるアナライトが同一である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
試験サンプルのそれぞれを、1以上の同重質量標識体で相互に異なるように標識し、工程(a)において単一のキャリブレーションサンプルと混合し、工程(b)において各サンプル中のアナライトの量を同時に測定する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
各試験サンプルを同一の質量標識体で標識し、各異なるサンプルに対して工程(a)及び(b)を繰り返す請求項6に記載の方法。
【請求項9】
分析される各試験サンプルに対して同一のキャリブレーションサンプルを使用する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程(a)より前に、1以上の同重質量標識体で、各試験サンプル及びキャリブレーションサンプルの各アリコートのいずれかを相互に異なるように標識する工程を更に含む請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
工程(a)より前に、相互に異なるように標識したアリコートを混合してキャリブレーションサンプルを調製する工程を更に含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(b)が、
(i)質量分析計において、質量標識体で標識したアナライトに相当する質量電荷比のイオンを選択しそしてフラグメント化し、フラグメントイオンの質量スペクトルを検出及び作製し、及び前記質量標識体の質量マーカー基に相当するフラグメントイオンを同定する工程と、
(ii)質量スペクトルにおけるキャリブレーションサンプルのアリコートの質量マーカー基の量に対する、同一の質量スペクトルにおける各試験サンプル中のアナライトの質量マーカー基の量に基づいて、前記各試験サンプル中のアナライトの量を測定する工程とを含む請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの量が既知の絶対量である請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
試験サンプル中のアナライトの絶対量を工程(b)において決定する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの量が既知の定性的量(qualitative quantity)である請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
定性的量が、特定の状態を有する被検体中のアナライトに予測される範囲の量である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
較正工程が、キャリブレーションサンプルのアリコート中のアナライトの既知の定性的且つ測定された量に対して試験サンプル中のアナライトの量を較正する工程を含む請求項15から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
試験サンプル中のアナライトの量のパーセント変化率を決定する請求項17に記載の方法。
【請求項19】
各異なるアリコート中のアナライトの量が、試験サンプルにおけるアナライトの量の既知の変動及び推測される変動のいずれかを反映するようにして、選択される請求項1から18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
健常被検体及び罹患被検体のいずれかの試験サンプル中に見出されるアナライトの既知の量及び推測される量のいずれかの範囲内の上限及び下限、並びに任意に中間点に相当する量のアナライトを含むアリコートが提供される請求項19に記載の方法。
【請求項21】
異なるアリコート中に存在するアナライトの異なる量が、異なる期間インキュベートした試験サンプル中に存在するアナライトの既知の量及び推測される量のいずれかに相当する請求項1から20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
アリコートが試験サンプルの標準化形態のサンプルから採取される請求項1から21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
試験サンプル及びキャリブレーションサンプルのアリコートの少なくともいずれかが植物由来及び動物由来のいずれかである請求項1から22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
動物がヒトである請求項23に記載の方法。
【請求項25】
キャリブレーションサンプルが、治療の有効性及び毒性の少なくともいずれかを示す量のアナライトを含む請求項1から24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
試験サンプル及びキャリブレーションサンプルの少なくともいずれかが、ヒト及び動物のいずれかの組織、血液、血漿、血清、脳脊髄液、滑液、眼液、尿、涙、涙管滲出物、肺吸引物、母乳、乳頭吸引液、精液、洗浄液、細胞抽出物、組織培養抽出物、植物組織、植物体液、植物細胞培養抽出物、細菌サンプル、ウイルスサンプル、真菌、発酵もろみ液、食料品、及び医薬組成物のいずれかである請求項1から25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
アナライトがタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、アミノ酸及び核酸のいずれか、ペプチド核酸、糖、澱粉、複合糖質、脂質、高分子、並びにこれらの断片のいずれかを含む請求項1から26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
工程(a)の後であるが工程(b)より前に、同重標識したアナライトを電気泳動及びクロマトグラフィーのいずれかによって分離する工程を更に含む請求項1から27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
キャリブレーションサンプルが、MSスキャンの間及びMS/MSスキャンを開始するための非スキャンMS/MSの間のいずれかの間にトリガーの役目を果たす量のアナライトを含む更なるアリコートを、含む請求項1から28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
更なるアリコート中のアナライトが同重質量標識体で標識されている請求項29に記載の方法。
【請求項31】
更なるアリコート中のアナライトが、キャリブレーションサンプルのその他のアナライトの同重質量標識体と化学的には同一だが異なる同位体を有し質量が異なる質量標識体で、標識されている請求項29に記載の方法。
【請求項32】
サンプル中のアナライトがタンパク質であり、キャリブレーションサンプル中のアナライトが前記サンプル中の前記タンパク質の組み換え型である請求項1から31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
質量標識体が、以下の構造:
X−L−M
(式中、Xは質量マーカー部分である)からなり、Xが以下の基
【化20】
(式中、環状ユニットは芳香族及び脂肪族のいずれかであり、0〜3個の二重結合を独立に隣接した任意の2原子間に有し;各Zは、独立してN、N(R1)、C(R1)、CO、CO(R1)、C(R1)2、O、及びSのいずれかであり;Xは、N、C、及びC(R1)のいずれかであり;各R1は、独立してH、置換及び非置換のいずれかの直鎖及び分岐のいずれかのC1−C6アルキル基、置換及び非置換のいずれかの環状脂肪族基、置換及び非置換のいずれかの芳香族基、及び置換及び非置換のいずれかの複素環基のいずれかであり;並びに、yは、0〜10の整数である)であり、Lが開裂可能リンカーであり、そしてMが質量正規化部分である請求項1から32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
質量マーカー部分を質量正規化部分に結合させる開裂可能リンカーが、衝突により開裂可能なリンカーである請求項33に記載の方法。
【請求項35】
リンカーが質量分析法を用いてCID、ETD、ECD、及びSIDのいずれかにより開裂可能である請求項34に記載の方法。
【請求項36】
標識工程が、質量標識体及び反応性官能基を含む反応性質量標識体にアナライトを反応させる工程を含む請求項10に記載の方法。
【請求項37】
反応性官能基が、ポリペプチドの任意のアミノ基と反応可能であり、求核試薬及び求電子試薬のいずれかを含む請求項36に記載の方法。
【請求項38】
反応性官能基が以下の基:
【化21】
(式中、各R2は独立してH、置換及び非置換のいずれかの直鎖及び分岐のいずれかのC1−C6アルキル基、置換及び非置換のいずれかの環状脂肪族基、置換及び非置換のいずれかの芳香族基、及び置換及び非置換のいずれかの複素環基である)を含む請求項36から37のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
質量標識体が2以上の質量標識体のセットからの質量標識体であり、各質量正規化部分が前記質量標識体が所望の総質量を有することを確実にし、前記セットが、セット中の他の全ての質量マーカー部分と異なる質量を有する質量マーカー部分をそれぞれ有する質量標識体を含み、前記セット中の各標識体が共通の総質量を有し、前記セット中の全ての質量標識体が質量分析法によって相互に識別可能である請求項33から38のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
セット中の各質量標識体が、
(a)質量マーカー部分内及び質量正規化部分内の少なくともいずれかの中に位置する同位体置換基、並びに
(b)質量マーカー部分及び質量正規化部分の少なくともいずれかに結合させられた置換原子及び置換基のいずれか、から選択される質量調整部分を有する請求項39に記載の方法。
【請求項41】
質量調整部分がハロゲン原子置換基、メチル基置換基、及び2H、15N、13C及び18O同位体置換基のいずれかから選択される請求項40に記載の方法。
【請求項42】
質量調整部分が15N及び13Cのいずれかであり、セットが以下の構造式:
【化22】
【化23】
を有する2種の質量標識体を含む請求項41に記載の方法。
【請求項43】
質量調整部分が15N及び13Cであり、セットが以下の構造式:
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
を有する5種の質量標識体を含む請求項41に記載の方法。
【請求項44】
質量調整部分が15N及び13Cであり、セットが以下の構造式:
【化29】
.
を有する6種の質量標識体を含む請求項41に記載の方法。
【請求項45】
アナライトの質量分析アッセイにおいて使用されるキャリブレーションサンプルであって、それぞれのアリコートが請求項33から44のいずれかに規定するようにして同重質量標識体で相互に異なるように標識される、少なくとも2の異なるアナライト含有アリコートを含むことを特徴とするキャリブレーションサンプル。
【請求項46】
アナライトを分析するための方法であって、
(a)任意に、それぞれの質量標識体において質量分析上種類の異なるレポーター基を有するセットの質量標識体と反応させることによって、参照生体分子及び参照生体分子の混合物のいずれかを含有する同重標識された参照材料を調製する工程と、
(b)生体分子及び生体分子の混合物のいずれかの量を定量する予定のサンプルを、工程(a)において使用したものと同一の質量標識体のセットからの質量標識体と反応させて標識する工程と、
(c)既知の量の同重標識参照材料を工程(b)において調製した同重標識試験サンプル中に添加する工程と、
(d)任意に、同重標識生体分子を、電気泳動法及びクロマトグラフィーのいずれかによって分離する工程と、
(e)質量分析計において標識生体分子をイオン化する工程と、
(f)質量分析器において、標識生体分子の好ましいイオンの質量電荷比に相当する所定の質量電荷比のイオンを選択する工程と、
(g)これらの選択されたイオンの解離を、衝突及び電子移動のいずれかによって誘起する工程と、
(h)質量標識体を示す衝突生成物イオンを同定するために前記衝突生成物を検出する工程と、
(i)前記質量標識体を示す前記衝突生成物イオンの強度に基づいて、イオンの強度と生体分子の量の関係を示す標準曲線を作製する工程と、
(j)前記生体分子及び生体分子の混合物のいずれかの絶対存在量及び相対存在量を計算する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項1】
アナライトを分析する方法であって、
(a)前記アナライトを含んでいてもよい試験サンプルと、各アリコートが既知量の前記アナライトを含む少なくとも2個の異なるアナライト含有アリコートを含むキャリブレーションサンプルとを混合する工程であって、前記試験サンプルと前記キャリブレーションサンプルの各アリコートとを質量分析法によって区別できるように、前記サンプル及び各アリコートを、質量分析上種類の異なる質量マーカー基をそれぞれ有する1以上の同重(isobaric)質量標識体を用いて相互に異なるように標識する工程と、
(b)質量分析法によって、前記試験サンプル中の前記アナライトの量及び前記キャリブレーションサンプルの各アリコート中の前記アナライトの量を測定し、前記キャリブレーションサンプルのアリコート中の既知且つ測定されたアナライトの量に対して、前記試験サンプル中のアナライトの量を較正する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
試験サンプルが複数の異なるアナライトを含むことができ、各異なるアナライトに対して1個のキャリブレーションサンプルが与えられ、各異なるアナライトに対して工程(b)を繰り返す請求項1に記載の方法。
【請求項3】
複数のアナライトが、工程(a)より前にタンパク質及びポリペプチドのいずれかの化学的処理及び酵素的処理のいずれかによって生成される前記タンパク質及びポリペプチドのいずれかのペプチド断片である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
各キャリブレーションサンプルの異なるアリコートは、前記各キャリブレーションサンプルのアナライトの量の範囲が他のキャリブレーションサンプルと異なるように選択される請求項2から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
複数の試験サンプルにおいて1のアナライトを分析する請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
複数の試験サンプルにおいてそれぞれ分析されるアナライトが同一である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
試験サンプルのそれぞれを、1以上の同重質量標識体で相互に異なるように標識し、工程(a)において単一のキャリブレーションサンプルと混合し、工程(b)において各サンプル中のアナライトの量を同時に測定する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
各試験サンプルを同一の質量標識体で標識し、各異なるサンプルに対して工程(a)及び(b)を繰り返す請求項6に記載の方法。
【請求項9】
分析される各試験サンプルに対して同一のキャリブレーションサンプルを使用する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程(a)より前に、1以上の同重質量標識体で、各試験サンプル及びキャリブレーションサンプルの各アリコートのいずれかを相互に異なるように標識する工程を更に含む請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
工程(a)より前に、相互に異なるように標識したアリコートを混合してキャリブレーションサンプルを調製する工程を更に含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(b)が、
(i)質量分析計において、質量標識体で標識したアナライトに相当する質量電荷比のイオンを選択しそしてフラグメント化し、フラグメントイオンの質量スペクトルを検出及び作製し、及び前記質量標識体の質量マーカー基に相当するフラグメントイオンを同定する工程と、
(ii)質量スペクトルにおけるキャリブレーションサンプルのアリコートの質量マーカー基の量に対する、同一の質量スペクトルにおける各試験サンプル中のアナライトの質量マーカー基の量に基づいて、前記各試験サンプル中のアナライトの量を測定する工程とを含む請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの量が既知の絶対量である請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
試験サンプル中のアナライトの絶対量を工程(b)において決定する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
キャリブレーションサンプルの各アリコート中のアナライトの量が既知の定性的量(qualitative quantity)である請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
定性的量が、特定の状態を有する被検体中のアナライトに予測される範囲の量である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
較正工程が、キャリブレーションサンプルのアリコート中のアナライトの既知の定性的且つ測定された量に対して試験サンプル中のアナライトの量を較正する工程を含む請求項15から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
試験サンプル中のアナライトの量のパーセント変化率を決定する請求項17に記載の方法。
【請求項19】
各異なるアリコート中のアナライトの量が、試験サンプルにおけるアナライトの量の既知の変動及び推測される変動のいずれかを反映するようにして、選択される請求項1から18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
健常被検体及び罹患被検体のいずれかの試験サンプル中に見出されるアナライトの既知の量及び推測される量のいずれかの範囲内の上限及び下限、並びに任意に中間点に相当する量のアナライトを含むアリコートが提供される請求項19に記載の方法。
【請求項21】
異なるアリコート中に存在するアナライトの異なる量が、異なる期間インキュベートした試験サンプル中に存在するアナライトの既知の量及び推測される量のいずれかに相当する請求項1から20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
アリコートが試験サンプルの標準化形態のサンプルから採取される請求項1から21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
試験サンプル及びキャリブレーションサンプルのアリコートの少なくともいずれかが植物由来及び動物由来のいずれかである請求項1から22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
動物がヒトである請求項23に記載の方法。
【請求項25】
キャリブレーションサンプルが、治療の有効性及び毒性の少なくともいずれかを示す量のアナライトを含む請求項1から24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
試験サンプル及びキャリブレーションサンプルの少なくともいずれかが、ヒト及び動物のいずれかの組織、血液、血漿、血清、脳脊髄液、滑液、眼液、尿、涙、涙管滲出物、肺吸引物、母乳、乳頭吸引液、精液、洗浄液、細胞抽出物、組織培養抽出物、植物組織、植物体液、植物細胞培養抽出物、細菌サンプル、ウイルスサンプル、真菌、発酵もろみ液、食料品、及び医薬組成物のいずれかである請求項1から25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
アナライトがタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、アミノ酸及び核酸のいずれか、ペプチド核酸、糖、澱粉、複合糖質、脂質、高分子、並びにこれらの断片のいずれかを含む請求項1から26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
工程(a)の後であるが工程(b)より前に、同重標識したアナライトを電気泳動及びクロマトグラフィーのいずれかによって分離する工程を更に含む請求項1から27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
キャリブレーションサンプルが、MSスキャンの間及びMS/MSスキャンを開始するための非スキャンMS/MSの間のいずれかの間にトリガーの役目を果たす量のアナライトを含む更なるアリコートを、含む請求項1から28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
更なるアリコート中のアナライトが同重質量標識体で標識されている請求項29に記載の方法。
【請求項31】
更なるアリコート中のアナライトが、キャリブレーションサンプルのその他のアナライトの同重質量標識体と化学的には同一だが異なる同位体を有し質量が異なる質量標識体で、標識されている請求項29に記載の方法。
【請求項32】
サンプル中のアナライトがタンパク質であり、キャリブレーションサンプル中のアナライトが前記サンプル中の前記タンパク質の組み換え型である請求項1から31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
質量標識体が、以下の構造:
X−L−M
(式中、Xは質量マーカー部分である)からなり、Xが以下の基
【化20】
(式中、環状ユニットは芳香族及び脂肪族のいずれかであり、0〜3個の二重結合を独立に隣接した任意の2原子間に有し;各Zは、独立してN、N(R1)、C(R1)、CO、CO(R1)、C(R1)2、O、及びSのいずれかであり;Xは、N、C、及びC(R1)のいずれかであり;各R1は、独立してH、置換及び非置換のいずれかの直鎖及び分岐のいずれかのC1−C6アルキル基、置換及び非置換のいずれかの環状脂肪族基、置換及び非置換のいずれかの芳香族基、及び置換及び非置換のいずれかの複素環基のいずれかであり;並びに、yは、0〜10の整数である)であり、Lが開裂可能リンカーであり、そしてMが質量正規化部分である請求項1から32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
質量マーカー部分を質量正規化部分に結合させる開裂可能リンカーが、衝突により開裂可能なリンカーである請求項33に記載の方法。
【請求項35】
リンカーが質量分析法を用いてCID、ETD、ECD、及びSIDのいずれかにより開裂可能である請求項34に記載の方法。
【請求項36】
標識工程が、質量標識体及び反応性官能基を含む反応性質量標識体にアナライトを反応させる工程を含む請求項10に記載の方法。
【請求項37】
反応性官能基が、ポリペプチドの任意のアミノ基と反応可能であり、求核試薬及び求電子試薬のいずれかを含む請求項36に記載の方法。
【請求項38】
反応性官能基が以下の基:
【化21】
(式中、各R2は独立してH、置換及び非置換のいずれかの直鎖及び分岐のいずれかのC1−C6アルキル基、置換及び非置換のいずれかの環状脂肪族基、置換及び非置換のいずれかの芳香族基、及び置換及び非置換のいずれかの複素環基である)を含む請求項36から37のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
質量標識体が2以上の質量標識体のセットからの質量標識体であり、各質量正規化部分が前記質量標識体が所望の総質量を有することを確実にし、前記セットが、セット中の他の全ての質量マーカー部分と異なる質量を有する質量マーカー部分をそれぞれ有する質量標識体を含み、前記セット中の各標識体が共通の総質量を有し、前記セット中の全ての質量標識体が質量分析法によって相互に識別可能である請求項33から38のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
セット中の各質量標識体が、
(a)質量マーカー部分内及び質量正規化部分内の少なくともいずれかの中に位置する同位体置換基、並びに
(b)質量マーカー部分及び質量正規化部分の少なくともいずれかに結合させられた置換原子及び置換基のいずれか、から選択される質量調整部分を有する請求項39に記載の方法。
【請求項41】
質量調整部分がハロゲン原子置換基、メチル基置換基、及び2H、15N、13C及び18O同位体置換基のいずれかから選択される請求項40に記載の方法。
【請求項42】
質量調整部分が15N及び13Cのいずれかであり、セットが以下の構造式:
【化22】
【化23】
を有する2種の質量標識体を含む請求項41に記載の方法。
【請求項43】
質量調整部分が15N及び13Cであり、セットが以下の構造式:
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
を有する5種の質量標識体を含む請求項41に記載の方法。
【請求項44】
質量調整部分が15N及び13Cであり、セットが以下の構造式:
【化29】
.
を有する6種の質量標識体を含む請求項41に記載の方法。
【請求項45】
アナライトの質量分析アッセイにおいて使用されるキャリブレーションサンプルであって、それぞれのアリコートが請求項33から44のいずれかに規定するようにして同重質量標識体で相互に異なるように標識される、少なくとも2の異なるアナライト含有アリコートを含むことを特徴とするキャリブレーションサンプル。
【請求項46】
アナライトを分析するための方法であって、
(a)任意に、それぞれの質量標識体において質量分析上種類の異なるレポーター基を有するセットの質量標識体と反応させることによって、参照生体分子及び参照生体分子の混合物のいずれかを含有する同重標識された参照材料を調製する工程と、
(b)生体分子及び生体分子の混合物のいずれかの量を定量する予定のサンプルを、工程(a)において使用したものと同一の質量標識体のセットからの質量標識体と反応させて標識する工程と、
(c)既知の量の同重標識参照材料を工程(b)において調製した同重標識試験サンプル中に添加する工程と、
(d)任意に、同重標識生体分子を、電気泳動法及びクロマトグラフィーのいずれかによって分離する工程と、
(e)質量分析計において標識生体分子をイオン化する工程と、
(f)質量分析器において、標識生体分子の好ましいイオンの質量電荷比に相当する所定の質量電荷比のイオンを選択する工程と、
(g)これらの選択されたイオンの解離を、衝突及び電子移動のいずれかによって誘起する工程と、
(h)質量標識体を示す衝突生成物イオンを同定するために前記衝突生成物を検出する工程と、
(i)前記質量標識体を示す前記衝突生成物イオンの強度に基づいて、イオンの強度と生体分子の量の関係を示す標準曲線を作製する工程と、
(j)前記生体分子及び生体分子の混合物のいずれかの絶対存在量及び相対存在量を計算する工程とを含むことを特徴とする方法。
【図1】
【図2】
【図5】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図3】
【図4】
【図6】
【図9】
【図2】
【図5】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図3】
【図4】
【図6】
【図9】
【公表番号】特表2010−520999(P2010−520999A)
【公表日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553139(P2009−553139)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052962
【国際公開番号】WO2008/110581
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(505423678)エレクトロフォレティクス リミテッド (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052962
【国際公開番号】WO2008/110581
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(505423678)エレクトロフォレティクス リミテッド (7)
【Fターム(参考)】
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