説明

質量分析方法、質量分析プログラム及びLA−ICP−MS装置

【課題】 測定試料中の所定の元素の濃度を誤って算出するのを防止することができる質量分析方法を提供する。
【解決手段】 この質量分析方法では、ステップS110において、m/z値ごとに(すなわち、質量数の異なる元素ごとに)単位時間当たりのカウント数(すなわち、検出強度)を測定すると共に、ステップS112において、m/z値ごとにカウント数が飽和しているか否かを判断する。従って、ステップS114において、或るm/z値について(すなわち、或る元素について)カウント数が飽和している状態で測定試料中の所定の元素の濃度を算出するのを回避することができ、その結果、測定試料中の所定の元素の濃度を誤って算出するのを防止することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LA(レーザアブレーション)部及びICP−MS(高周波誘導結合プラズマ質量分析)部を備えるLA−ICP−MS装置、並びにLA−ICP−MS装置に適用される質量分析方法及び質量分析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、LA−ICP−MS装置には、試料に対するレーザアブレーションによって生じる微粉体物又はガス化物について定量性が低いという問題が存在する。この問題を解決して試料中の所定の元素の濃度を精度良く算出する方法として、いわゆる規格化半定量法が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−347473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、規格化半定量法には、次のような問題が存在する。すなわち、規格化半定量法にあっては、測定試料中の全ての元素の検出強度(例えば、単位時間当たりのカウント数)を測定する必要がある。そのため、測定試料中の主成分に検出感度を合わせると、測定試料中の微量成分の検出感度が不足してしまったり、逆に、測定試料中の微量成分に検出感度を合わせると、測定試料中の主成分の検出強度が飽和してしまったりする。その結果、測定試料中の所定の元素の濃度を誤って算出するおそれがある。
【0004】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、測定試料中の所定の元素の濃度を誤って算出するのを防止することができる質量分析方法、質量分析プログラム及びLA−ICP−MS装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係る質量分析方法は、試料室内に配置された試料に対してレーザアブレーションを行うLA部と、試料に対するレーザアブレーションによって生じた微粉体物又はガス化物をイオン化して質量分析を行うICP−MS部と、を備えるLA−ICP−MS装置を用いた質量分析方法であって、測定試料を準備して試料室内に配置する工程と、LA部において、測定試料に対してレーザアブレーションを行う工程と、ICP−MS部において、測定試料に対するレーザアブレーションによって生じた微粉体物又はガス化物をイオン化して、質量数の異なる元素ごとに検出強度を測定する工程と、質量数の異なる元素ごとに検出強度が飽和しているか否かを判断する工程と、を含むことを特徴とする。
【0006】
この質量分析方法では、質量数の異なる元素ごとに検出強度を測定すると共に、質量数の異なる元素ごとに検出強度が飽和しているか否かを判断する。従って、或る元素の検出強度が飽和している状態で測定試料中の所定の元素の濃度を算出するのを回避することができ、その結果、測定試料中の所定の元素の濃度を誤って算出するのを防止することが可能となる。なお、「検出強度が飽和している」とは、例えば、検出強度と実際の強度との比例関係が崩れる等、検出強度がその測定限界に到達していることを意味する。
【0007】
本発明に係る質量分析方法においては、検出強度を測定する工程では、質量電荷比m/z値(m:質量数、z:電荷数)ごとに単位時間当たりのカウント数を測定するのが一般的である。
【0008】
本発明に係る質量分析方法においては、検出強度が飽和しているか否かを判断する工程では、同位体の関係にある元素間において検出強度比が同位体比から2%以上ずれている場合に、同位体存在比の高い元素の検出強度が飽和していると判断することが好ましい。天然では同位体の関係にある元素間において同位体比はほぼ一定である(例として、日本化学会編「化学便覧基礎編」の「同位体一覧表」がある。天然放射性核種の崩壊による娘核種を含む元素(鉛、ストロンチウム、アルゴン等)、及び天然における同位体効果が現れる元素(水素、炭素、酸素、硫黄等)は、試料により同位体存在比が僅かに変動する。しかしながら、その変動量は僅かであるため、本発明には大きな影響はない。)。そのため、理論的には(すなわち、測定誤差等がなければ)、同位体の関係にある元素間において検出強度比は同位体比と等しくなる。従って、測定誤差等を考慮して、同位体の関係にある元素間において検出強度比が同位体比から(同位体比を基準として)2%以上ずれている場合には、同位体存在比の高い元素の検出強度が飽和していると判断することができる。ちなみに、測定誤差等に応じて、同位体の関係にある元素間において検出強度比が同位体比から5%以上ずれている場合に、更には、検出強度比が同位体比から10%以上ずれている場合に、同位体存在比の高い元素の検出強度が飽和していると判断してもよい。なお、検出強度比とは、同位体の関係にある元素間における検出強度の比であり、同位体比とは、同位体の関係にある元素間における同位体存在比の比である。また、同位体存在比とは、天然における各元素を構成する同位体の原子数の比である。
【0009】
本発明に係る質量分析方法においては、検出強度が飽和しているか否かを判断する工程では、ICP−MS部においてプラズマの発光強度が規定値を超えている場合に、検出強度が飽和していると判断してもよい。
【0010】
本発明に係る質量分析方法においては、検出強度が飽和しているか否かを判断する工程で、検出強度が飽和していると判断された場合には、検出強度が飽和しないように、LA部でのレーザ光の照射条件を調節することが好ましい。これにより、質量数の異なる元素の全ての検出強度が飽和していない状態で、測定試料中の所定の元素の濃度を精度良く算出することが可能となる。
【0011】
本発明に係る質量分析方法においては、検出強度が飽和しているか否かを判断する工程で、同位体の関係にある元素のうち同位体存在比の高い元素の検出強度が飽和していると判断された場合には、同位体存在比の低い元素の検出強度に基づいて、測定試料中の所定の元素の濃度を算出することが好ましい。上述したように、同位体の関係にある元素間において同位体比はほぼ一定であるから、理論的には、同位体の関係にある元素間において検出強度比は同位体比と等しくなる。これにより、同位体存在比の高い元素の検出強度が飽和していても、同位体比、及び同位体存在比の低い元素の検出強度から、同位体存在比の高い元素の検出強度を算出することができる。従って、同位体存在比の低い元素の検出強度に基づいて、測定試料中の所定の元素の濃度を精度良く算出することが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る質量分析プログラムは、試料室内に配置された測定試料に対してレーザアブレーションを行うLA部と、測定試料に対するレーザアブレーションによって生じた微粉体物又はガス化物をイオン化して、質量数の異なる元素ごとに検出強度を測定するICP−MS部と、を備えるLA−ICP−MS装置のコンピュータに対し、質量数の異なる元素ごとに検出強度が飽和しているか否かを判断する処理を実行させることを特徴とする。
【0013】
更に、本発明に係るLA−ICP−MS装置は、試料室内に配置された測定試料に対してレーザアブレーションを行うLA部と、測定試料に対するレーザアブレーションによって生じた微粉体物又はガス化物をイオン化して、質量数の異なる元素ごとに検出強度を測定するICP−MS部と、質量数の異なる元素ごとに検出強度が飽和しているか否かを判断する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0014】
これらの質量分析プログラム及びLA−ICP−MS装置によれば、上述した質量分析方法と同様に、或る元素の検出強度が飽和している状態で測定試料中の所定の元素の濃度を算出するのを回避することができ、その結果、測定試料中の所定の元素の濃度を誤って算出するのを防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、測定試料中の所定の元素の濃度を誤って算出するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
最初に、本発明に係るLA−ICP−MS装置の好適な実施形態について、図1を参照して説明する。
【0017】
LA−ICP−MS装置1は、分析対象の測定試料Sに対してレーザアブレーションを行うLA部2と、測定試料Sに対するレーザアブレーションによって生じた微粉体物又はガス化物をイオン化して、m/z値ごとに(すなわち、質量数の異なる元素ごとに)単位時間当たりのカウント数(すなわち、検出強度)(以下、単に「カウント数」という)を測定するICP−MS部3と、質量数の異なる元素ごとにカウント数が飽和(いわゆるオーバーフロー)しているか否かを判断する制御部(制御手段)40と、を備えている。制御部40は、例えば、パーソナルコンピュータ等により構成されている。
【0018】
LA部2は、試料室4、レーザユニット5及びCCDカメラ6を有している。試料室4内には、測定試料Sが載置される試料台8が設けられている。
【0019】
LA部2において、レーザユニット5から所定の波長で出射されたレーザ光は、ミラー10,11で反射されて、波長変換素子12に入射する。波長変換素子12で波長を半減されたレーザ光は、波長変換素子13で更に波長を半減され、ミラー14,15,16で反射された後、レンズ17を通り、ビームスプリッタ18で反射されて試料室4内の測定試料Sに照射される。
【0020】
レーザユニット5は、例えば、波長1064nmのNd−YAGレーザを搭載している。そして、例えば、レーザユニット5から出射されたレーザ光は、波長変換素子12で波長1064nmから波長532nm(2次高調波)に変換され、更に、波長変換素子13で波長532nmから波長266nm(3次高調波)に変換される。このように、レーザ光を短波長とすることで、レーザ光のエネルギが高まり、より多くの物質に対してレーザアブレーションを行うことができる。
【0021】
CCDカメラ6は、ビームスプリッタ18を介して試料室4内に配置された測定試料Sを観察することができるようになっている。CCDカメラ6は、例えば、測定試料Sの表面におけるレーザ光の照射位置を観察する。
【0022】
試料室4には、アルゴンガス等のキャリアガスを試料室4内に導入する導入管19、及び試料室4外に導出する導出管20が接続されている。これらの導入管19及び導出管20としては、例えばタイゴンチューブ等が用いられる。
【0023】
試料室4に一端が接続された導出管20の他端は、ICP−MS部3におけるプラズマトーチ21の後端部に接続されている。これにより、導入管19によって試料室4内に導入されたキャリアガスは、レーザ光の照射によって微粉体化又はガス化された測定試料Sと共に、導出管20を通ってICP−MS部3へと向かう。
【0024】
ICP−MS部3は、導入管22からキャリアガスと共に導入された測定試料Sをイオン化するためのプラズマPを発生させるプラズマトーチ21、及びプラズマトーチ21の先端部近傍にイオン導入部23が設けられてなる質量分析部24を有している。
【0025】
プラズマトーチ21は、3重管構造となっており、キャリアガスが導入管22から導入され、プラズマPを形成するためのプラズマガスが管26から導入され、プラズマトーチ21の壁面を冷却するためのクーラントガスが管27から導入されるようになっている。キャリアガス、プラズマガス及びクーラントガスとしては、例えば、アルゴンガス等が用いられる。
【0026】
プラズマトーチ21内には、キャリアガス、プラズマガス及びクーラントガスを合わせて、全体として約15〜20リットル/分の流量のガスが供給される。それぞれのガス導入量の一形態としては、キャリアガスが約1リットル/分、プラズマガスが約1リットル/分、クーラントガスが約16リットル/分である。
【0027】
プラズマトーチ21の先端側には、高周波電源に接続された高周波コイル28が設けられている。この高周波コイル28に電圧が印加されると、プラズマトーチ21の先端側の内部にプラズマPが形成される。
【0028】
質量分析部24のイオン導入部23は、プラズマトーチ21の先端部に対向する導入孔29を有している。そして、導入孔29を介して、プラズマPからの光やイオンを筐体30内に導入する。なお、導入孔29の直径は、例えば1mm程度である。
【0029】
筐体30内は、真空ポンプ31,32によって、イオン導入部23側が低真空室、その反対側が高真空室というように、真空度が異なる2つの部屋に分かれている。質量分析部24は、筐体30内において、プラズマPからの光とイオンとをイオンレンズ33で分離してイオンのみを通過させ、質量多重極部34で特定のイオンのみを取り出して検出器35で検出するようになっている。
【0030】
次に、本発明に係る質量分析方法の好適な実施形態について、図2を参照して説明する。
【0031】
まず、測定試料Sが準備されて試料室4内の試料台8上に配置される(ステップS102)。そして、試料室4が密閉されて試料室4内がキャリアガスでパージされる(ステップS104)。続いて、LA部2において、測定試料Sにレーザ光が照射されて測定試料Sに対するレーザアブレーションが行われる(ステップS106)。
【0032】
測定試料Sに対するレーザアブレーションによって生じた微粉体物又はガス化物は、キャリアガスによって、導出管20及び導入管22を介してプラズマトーチ21に導入される。そして、プラズマトーチ21に導入された微粉体物又はガス化物はイオン化され(ステップS108)、ICP−MS部3において、m/z値ごとにカウント数が測定される(ステップS110)。
【0033】
続いて、制御部40によって、m/z値ごとにカウント数が飽和しているか否かが判断される(ステップS112)。その結果、全てのm/z値についてカウント数が飽和していない場合には、制御部40によって、規格化半定量法により測定試料S中の所定の元素の濃度が算出され(ステップS114)、終了となる。
【0034】
一方、ステップS112の判断の結果、或るm/z値についてカウント数が飽和している場合には、制御部40によって、カウント数が飽和しているm/z値に対応する元素と同位体の関係にあり、且つそのm/z値に対応する元素より同位体存在比の低い元素が存在しているか否かが判断される(ステップS116)。
【0035】
その結果、カウント数が飽和しているm/z値に対応する元素と同位体の関係にあり、且つそのm/z値に対応する元素より同位体存在比の低い元素が存在している場合には、制御部40によって、同位体存在比の低い元素のカウント数に基づいて、規格化半定量法により測定試料S中の所定の元素の濃度が算出され(ステップS118)、終了となる。
【0036】
このような算出が可能である理由は、次の通りである。すなわち、天然では同位体の関係にある元素間において同位体比はほぼ一定である(例えば、Liの同位体存在比は7.5%、Liの同位体存在比は92.5%であるから、同位体比は92.5/7.5=12.3となる)。そのため、理論的には、同位体の関係にある元素間においてカウント数比(同位体の関係にある元素間におけるカウント数の比)は同位体比と等しくなる。これにより、同位体存在比の高い元素のカウント数が飽和していても、同位体比、及び同位体存在比の低い元素のカウント数から、同位体存在比の高い元素のカウント数を算出することができる。従って、同位体存在比の低い元素のカウント数に基づいて、規格化半定量法により測定試料S中の所定の元素の濃度を精度良く算出することが可能となる。
【0037】
一方、ステップS116の判断の結果、カウント数が飽和しているm/z値に対応する元素と同位体の関係にあり、且つそのm/z値に対応する元素より同位体存在比の低い元素が存在していない場合には、制御部40によって、そのm/z値についてカウント数が飽和しないように、LA部2でのレーザ光の照射条件が調節され(ステップS120)、ステップS106に戻る。
【0038】
具体的には、レーザ光の強度が弱くされたり、測定試料Sの表面でのレーザ光の径が小さくされたり、或いはレーザ光のパルス発振の周波数が低くされたりする。これにより、全てのm/z値についてカウント数が飽和していない状態で、規格化半定量法により測定試料S中の所定の元素の濃度を精度良く算出することが可能となる。
【0039】
ここで、上述したステップS112の判断及びステップS114,S118の算出について、より詳細に説明する。
【0040】
ステップS112では、m/z値ごとにカウント数が飽和しているか否かが判断される。具体的には、同位体の関係にある元素間においてカウント数比の同位体比からのずれが2%以上である場合には、同位体存在比の高い元素に対応するm/z値についてカウント数が飽和していると判断する。一方、同ずれが2%未満である場合には、同位体存在比の高い元素に対応するm/z値についてカウント数が飽和していないと判断する。
【0041】
このような判断が可能である理由は、次の通りである。すなわち、同位体の関係にある元素間において同位体比はほぼ一定であるから、理論的には、同位体の関係にある元素間においてカウント数比は同位体比と等しくなる。従って、測定誤差等を考慮して、同位体の関係にある元素間においてカウント数比の同位体比からのずれが2%以上である場合には、同位体存在比の高い元素に対応するm/z値についてカウント数が飽和していると判断することができる。ちなみに、測定誤差等に応じて、同位体の関係にある元素間においてカウント数比の同位体比からのずれが5%以上である場合に、更には、カウント数比の同位体比からのずれが10%以上である場合に、同位体存在比の高い元素に対応するm/z値についてカウント数が飽和していると判断してもよい。
【0042】
なお、ステップS112では、ICP−MS部3においてプラズマPの発光強度が規定値を超えている場合に、カウント数が飽和していると判断してもよい。この場合には、図4に示されるように、集光器41、光ファイバ44を介して集光器41と接続された分光器42、及び光ファイバ44を介して分光器42と接続された検出器43がLA−ICP−MS装置1に設けられる。プラズマPから発光した光は、集光器41により集光され、光ファイバ44により分光器42に導光される。分光器42に導光された光は、分光器42により波長成分に分光され、光ファイバ44により検出器43に導光される。そして、検出器43により発光強度が測定される。また、カウント数が規定値を超えている場合に、カウント数が飽和していると判断してもよい。更に、キャリアガスが通る配管内の粒子量が規定値を超えている場合に、カウント数が飽和していると判断してもよい。
【0043】
また、ステップS114,S118では、規格化半定量法により測定試料S中の所定の元素の濃度が算出される。すなわち、下記の式(1)によって、測定試料S中の所定の元素の濃度が算出される。
X=A/(A+A+・・・+A)…(1)
式(1)において、Xは所定の元素の濃度、Aは所定の元素イオンのカウント数、kは所定の元素の感度係数、A,A・・・Aは測定した元素イオンのカウント数、k,k・・・kは測定した元素の感度係数を示している。式(1)中のA,A・・・Aは、測定試料Sの全ての構成元素とするのが望ましい。なお、式(1)により算出された濃度Xをppmに換算する場合は10倍すればよい。
【0044】
感度係数は、同じ濃度でも各元素によってICP−MS部3で測定されるカウント数(cps)が異なるため、そのICP−MS部3での元素ごとの検出感度の違いを補正するためのものである。感度係数は、例えば、NIST(National Institute of Standards and Technology)610〜613等の固体標準試料をLA−ICP−MS装置1で質量分析して、各構成元素の1ppm当たりのカウント数(cps)を算出し、その逆数をとることで求められる。
【0045】
なお、ステップS114,S118では、いわゆる検量線法により測定試料S中の所定の元素の濃度を算出してもよい。
【0046】
以上説明したように、上述した質量分析方法では、m/z値ごとにカウント数を測定すると共に、m/z値ごとにカウント数が飽和しているか否かを判断する。従って、或るm/z値についてカウント数が飽和している状態で測定試料S中の所定の元素の濃度を算出するのを回避することができ、その結果、測定試料S中の所定の元素の濃度を誤って算出するのを防止することが可能となる。
【0047】
次に、本発明に係る質量分析プログラムの好適な実施形態について、図3を参照して説明する。
【0048】
質量分析プログラム60は、記録媒体50に格納されており、制御部40に各種処理を実行させる。質量分析プログラム60は、プログラム全体の動作を制御するメインモジュール61、上記ステップS112の機能を実現するカウント数飽和判断モジュール62、上記ステップS116の機能を実現する同位体存否判断モジュール63、上記ステップS114の機能を実現する第1の濃度算出モジュール64、上記ステップS118の機能を実現する第2の濃度算出モジュール65、及び上記ステップS120の機能を実現する照射条件調節モジュール66を含んでいる。
【0049】
このように構成された質量分析プログラム60は、記録媒体50に格納された態様で流通可能である。なお、記録媒体50としては、ハードディスク、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD、USBメモリ等がある。
【0050】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した質量分析方法において、ステップS112の判断の結果、或るm/z値についてカウント数が飽和している場合に、ステップS116の判断を行わずに、ステップS120の照射条件の調節を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係るLA−ICP−MS装置の一実施形態の構成図である。
【図2】本発明に係る質量分析方法の一実施形態のフローチャートである。
【図3】本発明に係る質量分析プログラムの一実施形態の構成図である。
【図4】本発明に係るLA−ICP−MS装置の他の実施形態の構成図である。
【符号の説明】
【0052】
1…LA−ICP−MS装置、2…LA部、3…ICP−MS部、4…試料室、40…制御部、60…試料分析プログラム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料室内に配置された試料に対してレーザアブレーションを行うLA部と、前記試料に対するレーザアブレーションによって生じた微粉体物又はガス化物をイオン化して質量分析を行うICP−MS部と、を備えるLA−ICP−MS装置を用いた質量分析方法であって、
測定試料を準備して前記試料室内に配置する工程と、
前記LA部において、前記測定試料に対してレーザアブレーションを行う工程と、
前記ICP−MS部において、前記測定試料に対するレーザアブレーションによって生じた微粉体物又はガス化物をイオン化して、質量数の異なる元素ごとに検出強度を測定する工程と、
質量数の異なる元素ごとに前記検出強度が飽和しているか否かを判断する工程と、を含むことを特徴とする質量分析方法。
【請求項2】
前記検出強度を測定する工程では、m/z値ごとに単位時間当たりのカウント数を測定することを特徴とする請求項1記載の質量分析方法。
【請求項3】
前記検出強度が飽和しているか否かを判断する工程では、同位体の関係にある元素間において検出強度比が同位体比から2%以上ずれている場合に、同位体存在比の高い元素の前記検出強度が飽和していると判断することを特徴とする請求項1又は2記載の質量分析方法。
【請求項4】
前記検出強度が飽和しているか否かを判断する工程では、前記ICP−MS部においてプラズマの発光強度が規定値を超えている場合に、前記検出強度が飽和していると判断することを特徴とする請求項1又は2記載の質量分析方法。
【請求項5】
前記検出強度が飽和しているか否かを判断する工程で、前記検出強度が飽和していると判断された場合には、前記検出強度が飽和しないように、前記LA部でのレーザ光の照射条件を調節することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の質量分析方法。
【請求項6】
前記検出強度が飽和しているか否かを判断する工程で、同位体の関係にある元素のうち同位体存在比の高い元素の前記検出強度が飽和していると判断された場合には、同位体存在比の低い元素の前記検出強度に基づいて、前記測定試料中の所定の元素の濃度を算出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の質量分析方法。
【請求項7】
試料室内に配置された測定試料に対してレーザアブレーションを行うLA部と、前記測定試料に対するレーザアブレーションによって生じた微粉体物又はガス化物をイオン化して、質量数の異なる元素ごとに検出強度を測定するICP−MS部と、を備えるLA−ICP−MS装置のコンピュータに対し、
質量数の異なる元素ごとに前記検出強度が飽和しているか否かを判断する処理を実行させることを特徴とする質量分析プログラム。
【請求項8】
試料室内に配置された測定試料に対してレーザアブレーションを行うLA部と、
前記測定試料に対するレーザアブレーションによって生じた微粉体物又はガス化物をイオン化して、質量数の異なる元素ごとに検出強度を測定するICP−MS部と、
質量数の異なる元素ごとに前記検出強度が飽和しているか否かを判断する制御手段と、を備えることを特徴とするLA−ICP−MS装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−298392(P2007−298392A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−126575(P2006−126575)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】