説明

質量分析方法

【課題】本発明は、質量分析装置における真空装置内において、水分子および水素分子の質量分析時の妨げとなる残留水分子および残留水素分子を簡単な装置構成および方法によって低減し、水分子のバックグラウンドを下げると同時に、水分子を発生源として生成する水素分子のバックグラウンドを下げることができるため、質量分析を行なう際の水分子と水素分子の高感度分析を可能とする質量分析方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明による質量分析方法は、質量分析装置1の質量分析方法であって、(a)質量分析装置1の分析室2を真空排気する工程と、(b)工程(a)の後、分析室2に対して重水ボンベ11から重水ガスを導入する工程とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析方法に関し、特に、水分子と水素分子の高感度分析を可能とする質量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の質量分析装置において、質量分析を行なう真空装置内に残留する水分子および真空装置構成部品に吸着する水分子が原因となって、質量分析を行なう際に水分子と水素分子の高感度分析が難しかった。そのため、質量分析を行なう前処理によって水分子を除去する必要があった。
【0003】
この問題に対する従来の技術として、次のようなものがある。真空分析装置内にパラジウム(Pd)膜を介して重水素密閉容器を連結し、Pd膜を加熱させることによってPd膜表面に原子状の重水素を被膜状態に形成させる。この状態でPd膜に電子線を照射してPd膜表面から原子状の重水素や重水素イオンを真空中に飛び出させることによって、質量分析装置構成部材の表面に付着した不純物原子および分子と反応させて汚染物を分解気化させて質量分析装置を清浄化する。このように、質量分析装置内に残留する質量分析に有害な妨害ガス成分を減少させて検出限界を向上させている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平9−82273号公報(第2頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1では、原子状の重水素を発生させるために分析装置に電子線照射装置を設置する必要があり、装置が大型となってコストがかかるという問題があった。また、既存の質量分析装置に簡単に設置することができないため、新たな真空分析装置を作製しなければならないという問題もあった。
【0006】
本発明は、これらの問題を解決するためになされたもので、質量分析装置における真空装置内の残留水分子および残留水素分子を簡単に低減し、水分子と水素分子の高感度分析を可能とする質量分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明による質量分析方法は、質量分析装置の分析前処理方法であって、(a)質量分析装置の分析室を真空排気する工程と、(b)工程(a)の後、分析室に対して重水ボンベから重水ガスを導入する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、請求項1に記載のように、質量分析装置の分析室を真空排気し、次に分析室を真空排気した後に、分析室に対して重水ボンベから重水ガスを導入するので、質量分析装置における真空装置内の残留水分子および残留水素分子を簡単に低減し、水分子と水素分子の高感度分析が可能であるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施形態について、図面に基づいて以下に説明する。
【0010】
〈実施形態1〉
図1は、本発明の実施形態1による質量分析装置の構成図である。分析室2は、イオン銃7および質量分析計3を備えており、試料台8上の試料9の質量分析を行なう。また、真空度を測定する真空計4、真空にするための真空ポンプ6、重水ガスを導入する重水ボンベ11を備えている。一方、分析室2に試料9を搬入するために設置された予備排気室15は、大気開放するための窒素ボンベ19、真空にするための真空ポンプ14を備えている。
【0011】
なお、質量分析計3には、二重収束型質量分析計や四重極型質量分析計など、いかなる質量分析計を用いてもよい。また、本発明の実施形態ではイオン銃7を用いているが、試料加熱機構やパッケージ開封機構などを用いてもよい。
【0012】
分析室2は、バルブ5を開けて真空ポンプ6によって真空排気され、真空状態に保たれている。そしてこの状態で、バルブ10を開けて重水ボンベ11から重水ガスを分析室2に導入する。ここで、重水ガスの導入量は分析室2の構成部材が悪影響を受けない範囲であれば特に規定はしないが、分析室2の真空度が1×10-3Paより高真空に保たれていることが好ましい。また、分析室2の真空度が1×10-3Paより高真空に保つことが可能な場合には、重水ボンベ11から重水ガスを導入するときに、バルブ5を閉じて真空ポンプ6による排気をしなくてもよい。
【0013】
以上のことから、重水ボンベ11から重水ガスを分析室2に導入することによって、分析室2に残留している水分子を重水分子と置換させることが可能である。したがって、水分子を重水分子に置換させることによって、水分子のバックグラウンドを下げることができると同時に、水分子を発生源として生成する水素分子のバックグラウンドを下げることが可能となる。このように、水分子と水素分子のバックグラウンドを下げることによって、質量分析を行なう際の水分子と水素分子の高感度分析が可能となる。なお、本発明の実施形態における置換は、重水分子を導入する場合にのみ効果的である。
【0014】
〈実施形態2〉
図2は、本発明の実施形態2による質量分析装置の構成図である。本発明の実施形態2は、実施形態1の質量分析装置1の分析室2に、ヒーター12をさらに備えることを特徴としている。ヒーター12以外の他の構成部については、実施形態1と同様であるため説明を省略する。
【0015】
分析室2は、バルブ5を開けて真空ポンプ6によって真空排気され、真空状態に保たれている。そしてこの状態で、ヒーター12によって分析室2のベーキングを行なう。ベーキング後、バルブ10を開けて重水ボンベ11から重水ガスを分析室2に導入する。ここで、分析室2のベーキングと重水ボンベ11からの重水ガスの導入を同時に行なってもよい。
【0016】
なお、ベーキング温度は、特に規定はしないが、分析室2の構成部品に悪影響を与えなければ高温であるほど効果的であり、80℃〜300℃程度が好ましい。また、重水ガスの導入量は分析室2の構成部材が悪影響を受けない範囲であれば特に規定はしないが、分析室2の真空度が1×10-3Paより高真空に保たれていることが好ましい。そして、分析室2の真空度が1×10-3Paより高真空に保つことが可能な場合には、重水ボンベ11から重水ガスを導入するときに、バルブ5を閉じて真空ポンプ6による排気をしなくてもよい。
【0017】
以上のことから、重水ガスを分析室2に導入する前に分析室2をヒーター12でベーキングすることによって、分析室2の構成部品に吸着している水分子の脱離を促進させることができ、重水ボンベ11から重水ガスを分析室2に導入することによって、分析室2に残留している水分子を重水分子と置換させる効率が上がる。したがって、水分子を重水分子に効率的に置換させることによって、水分子のバックグラウンドを効率的に下げることができると同時に、水分子を発生源として生成する水素分子のバックグラウンドを下げることが可能となる。このように、水分子と水素分子のバックグラウンドを下げることによって、質量分析を行なう際の水分子と水素分子の高感度分析が可能となる。なお、分析室2のベーキングと重水ボンベ11からの重水ガスの導入とを同時に行なっても同様の効果が得られる。
【0018】
〈実施形態3〉
図3は、本発明の実施形態3による質量分析装置の構成図である。本発明の実施形態3は、実施形態1の分析室2に、予備排気室15および重水ボンベ16およびヒーター17をさらに備えていることを特徴としている。重水ボンベ16およびヒーター17以外の他の構成部については、実施形態2と同様であるため説明を省略する。
【0019】
試料9を交換する際、リークバルブ18を開けて窒素ボンベ19から窒素ガスを導入して、予備排気室15を大気開放する。このときに試料9を交換する。試料9の交換後、バルブ20を開けて真空ポンプ14によって予備排気室15を真空排気する。そして、ヒーター17によって予備排気室15をベーキングした後に、バルブ21を開けて重水ボンベ16から重水ガスを予備排気室15に導入する。なお、予備排気室15の真空度が所定の真空度以上に保たれている場合には、重水ボンベ16から重水ガスを導入するときに、バルブ20を閉じて真空ポンプ14による排気をしなくてもよい。
【0020】
真空ポンプ14によって排気しながら重水ボンベ16から重水ガスの導入を行なう場合は、真空ポンプ14にダメージを与えない程度の量の重水ガスを導入する。ここでいう、真空ポンプ14にダメージを与えない程度の重水ガス量とは、特に規定しないが、予備排気室15の真空計22の値が1×10-1Pa程度に保たれていればよい。また、別の方法として、バルブ20を閉じて真空ポンプ14と予備排気室15とを遮断した状態で、重水ボンベ16から重水ガスを導入してもよい。重水ガス導入後、バルブ20を開けて予備排気室15の真空排気を行なう。
【0021】
以上のことから、重水ガスを予備排気室15に導入する前に予備排気室15をヒーター17でベーキングすることによって、予備排気室15の構成部品に吸着している水分子の脱離を促進させることができ、重水ボンベ16から重水ガスを予備排気室15に導入することによって、予備排気室15に残留している水分子を重水分子と置換させる効率が上がる。したがって、水分子を重水分子に効率的に置換させることによって、水分子のバックグラウンドを下げることができると同時に、水分子を発生源として生成する水素分子のバックグラウンドを下げることが可能となる。なお、予備排気室15のベーキングと重水ボンベ16からの重水ガスの導入とを同時に行なっても同様の効果が得られる。このように、予備排気室15における水分子と水素分子のバックグラウンドを下げることによって、試料交換時にゲートバルブ13を開けたときに予備排気室15内の水分子と水素分子によって分析室2が汚染されることを防止し、質量分析を行なう際の水分子と水素分子の高感度分析が可能となる。
【0022】
なお、予備排気室15は、ヒーター23を設けない構成にすることも可能である。また、分析室2および予備排気室15の両方に、ヒーター23およびヒーター17を設けない構成にすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態1による質量分析装置の構成図である。
【図2】本発明の実施形態2による質量分析装置の構成図である。
【図3】本発明の実施形態3による質量分析装置の構成図である。
【符号の説明】
【0024】
1 質量分析装置、2 分析室、3 質量分析計、4 真空計、5 バルブ、6 真空ポンプ、7 イオン銃、8 試料台、9 試料、10 バルブ、11 重水ボンベ、12 ヒーター、13 ゲートバルブ、14 真空ポンプ、15 予備排気室、16 重水ボンベ、17 ヒーター、18 リークバルブ、19 窒素ボンベ、20 バルブ、21 バルブ、22 真空計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析装置の質量分析方法であって、
(a)前記質量分析装置の分析室を真空排気する工程と、
(b)前記工程(a)の後、前記分析室に対して重水ガスを導入する工程と、
を備えることを特徴とする、質量分析方法。
【請求項2】
前記質量分析方法は、
(c)前記工程(b)の前に、前記分析室をヒーターによってベーキングする工程
をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の質量分析方法。
【請求項3】
(d)前記分析室に試料を搬入するために設置された予備排気室を真空排気する工程と、
(e)前記工程(d)の後、前記予備排気室に対して重水ガスを導入する工程と、
をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の質量分析方法。
【請求項4】
前記質量分析方法は、
(f)前記工程(e)の前に、前記予備排気室をヒーターによってベーキングする工程
をさらに備えることを特徴とする、請求項3に記載の質量分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−224218(P2008−224218A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58340(P2007−58340)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】