説明

質量分析法によるタンパク同定結果の解析方法

【課題】タンパクの質量分析データの解析(MS解析)によるタンパク質同定ソフトウエア解析支援方法の提供。
【解決手段】リレーショナルデータベースを応用し、(1)MS/MS測定結果から得られるタンパクの情報等を抽出し、解析の単位ごとにジョブの切り出しを行い、前記のひとつの解析結果を1レコードとしてテーブル管理を行う、(2)ジョブまたはジョブ解析結果の一覧表示から、マージしたいジョブを選択し名称を付けてマージを実行させ、マージ管理テーブルに新規レコードを登録し、マージ番号を発行する、(3)比較したいマージを選択し、マージ管理テーブルから該当するマージ番号の情報を取得し比較する、(4)前記で取得した複数のマージ番号の群をリレーショナルデータベースの外部結合の機能を用いて表を作成し、条件を満たした要素の対象に付加情報を追加し、その結果のジョブ連結を行い出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテオーム解析分野において、質量分析結果からタンパク質の同定を行う工程の効率化を図る解析方法および解析支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノムの遺伝子が産生するタンパク質の完全なセットで、生体内で機能するタンパク質の総称をプロテオームと称している。
【0003】
プロテオーム研究は、ゲノム情報とそれによって作られるタンパク質の関連を生命活動に照らし合わせて包括的に行う研究で、具体的には、発見された遺伝子の機能解析、作られるタンパク質の調節機構の解析、タンパク質同士間の相互作用の研究、病気・病態とタンパク質の働きの関連性などの解明が課題とされている。
【0004】
上述の課題である未知のタンパク質の機能を解明するプロテオーム解析は、二次元電気泳動法(以下SDS−PAGE)や質量分析法(以下MSと略) などを用いて分離精製されたタンパク質の機能を明らかにすることを目標とし、これら多数のタンパク質について解明を進めるMSによるショットガン実験でのタンパク質の同定には、コンピュータの計算能力の使用は不可欠である。
【0005】
プロテオーム解析を支援するソフトウエアは市販されており、例えばMSのピークから翻訳後修飾やイオン化を考慮に入れ分子量が合致するペプチドフラグメントの候補を検出し、個々のフラグメントを有する元のペプチド全体を予測するMS/MS解析ソフト(例えば、Mascot、Sonar MS/MS)などが使用されている。
【0006】
【非特許文献1】谷口寿章 MS/MS解析によるデータベース検索 細胞工学 Vol22 No.3 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MSによるショットガン実験の同定においては、汎用的にプロテオーム解析に使用されているソフトウエアは、高度に精製されたペプチドを同定するには優れたソフトウエアであるものの、数百から数千のペプチドを同定し、機能を解析するというプロテオーム研究の目的にはそのままでは対応できなかった。
【0008】
プロテオーム解析に使用されている汎用ソフトウエアは、ペプチドフラグメントの分子量、スコア、ランク、ヒット確度等の値は取得できるものの、個々のペプチドフラグメントの機能についての情報を得るためには、別途データベースの検索が必要であった。
【0009】
データベース検索の多くは、逐一利用者が対話的操作をする必要があり、ペプチドの個数が多ければ多いほど検索に要する時間は膨大であった。
【0010】
出力データ量が膨大になる要因の一つに、プロテオーム解析において、必要なペプチドスペクトルを求めるためには、市販ソフトウエア(例えばMascot等)で設定されているスコアでなく個々のペプチドのスコアに立ち返って判別することが要求されていた。さらには、同定されるペプチドのスコアの閾値をユーザが自在に変更できることが求められていた。
【0011】
また、ショットガン実験では非常に多くのタンパクやその断片が生成するため、Mascotの解析結果は非常に膨大となり、全体を見渡すことは困難であり、ネットワークの負荷も多大であった。結果的にその解析結果をまとめるだけでも大変な作業であり、コンピュータを用いた効率化が望まれていた。
【0012】
本発明者らは、上記問題点を解決するために市販のMS解析支援ソフトウエアのアウトプットを迅速に処理するための解析支援ソフトを開発し(特開2005-031021)、有用な効果を得ていた。しかし、この処理の単位はあくまでジョブ番号で示される一回の解析結果単位であった。例えばSDS-PAGEのひとつのレーンの一分画でしかないが、プロテオーム解析の目標はその実験系におけるタンパクの全体の挙動がどうなっているかを調べることであることらから、少くとも一枚のSDS-PAGE全体を扱うことが必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これを解決するために前述の本発明者らが開発した解析支援システム(以下Mascot Converter)の結果そのものをデータベースで管理し、簡便にかつ速やかに行う新たな解析支援システムの開発を試みた。
【0014】
すなわち、ジョブ単位でまとめた結果をさらにマージし、レーンの比較をすることを解決するためにMascot Converterの結果そのものをデータベースで管理し、分画、マージを簡便にかつ速やかに行うタンパク同定結果の整理方法の開発を試みた。
【0015】
本発明者らは鋭意検討の結果、MSショットガン解析結果を整理するためにリレーショナルデータベースを応用し、SDS-PAGEのレーン単位での比較を一度に実施できるようにした。さらには、最終目的であるSDS-PAGE全体の比較機能を付加したタンパク同定結果の整理法の開発を試みた。これにより、従来結果の整理に要していた時間を大幅に短縮することが可能となり本発明を完成した。
【0016】
すなわち本発明は以下のとおりである。
【0017】
〔1〕 下記の手順を含む、タンパクの質量分析データの解析(MS解析)によるタンパク質同定ソフトウエア解析方法;
1)MS/MS測定結果から得られるタンパクの配列情報、タンパクの質量、タンパクの注釈、タンパクのスコアおよび/または既知タンパクのアクセッション番号、ならびに同定したペプチド数、前記ペプチド配列情報、前記ペプチドのスコア、前記ペプチドの質量および/または前記ペプチドの注釈を抽出し、解析の単位ごとにジョブの切り出しを行う、
2)切り出したジョブのひとつの解析の単位でテーブル管理を行う、
3)前記のひとつの解析結果を1レコードとしてジョブ管理テーブルに格納し、同ジョブで帰属されたタンパクはタンパクリスト管理テーブルに、それぞれのタンパクの帰属の決め手となった各ペプチドの情報は同一ペプチド由来タンパク管理テーブルにそれぞれ格納する、
4)ジョブまたはジョブ解析結果の一覧表示から、マージしたいジョブを選択し名称を付けてマージを実行させ、マージ管理テーブルに新規レコードを登録し、マージ番号を発行する、
5)前記マージ番号の発行と同時に、それぞれのマージ番号に対して選択されたジョブごとのタンパクリストを登録し、登録されたそれぞれのタンパクを、帰属の要因となったペプチドの情報と共に格納する、
6)同一マージ番号に属していて異なるジョブ番号の同一アクセッション番号を有するタンパクを集約し、その結果をレーン情報として格納すると共に、各ペプチドのスコアを総和、または平均する、
7)比較したいマージを選択し、マージ管理テーブルから該当するマージ番号の情報を取得し比較する、
8)前記で取得した複数のマージ番号の群をリレーショナルデータベースの外部結合の機能を用いて表を作成する、
9)前記7)の結果において条件を満たした要素の対象に付加情報を追加し、その結果のジョブ連結を行い出力する。
【0018】
〔2〕 上記〔1〕記載の解析方法において抽出するデータがプロテオーム解析に使用されている汎用ソフトウエアの素ファイルから抽出した情報である解析方法。
【0019】
〔3〕切り出したジョブがSDS−PAGEの区画または、2D−PAGEのひとつのスポットである、上記〔1〕または〔2〕の解析方法。
【0020】
〔4〕 付加情報が外部データベース検索により取得した当該ペプチドの様々な知見である上記〔1〕〜〔3〕いずれかに記載の解析方法。
【0021】
〔5〕 下記の解析部を含む、タンパクの質量分析データの解析(MS解析)によるタンパク質同定ソフトウエア解析支援装置;
1)MS/MS測定結果から得られるタンパクの配列情報、タンパクの質量、タンパクの注釈、タンパクのスコアおよび/または既知タンパクのアクセッション番号、ならびに同定したペプチド数、前記ペプチド配列情報、前記ペプチドのスコア、前記ペプチドの質量および/または前記ペプチドの注釈を抽出する抽出部および解析の単位ごとにジョブの切り出しを行う、ジョブ切り出し部、
2)切り出したジョブのひとつの解析の単位のテーブル管理部、
3)前記のひとつの解析結果を1レコードとしてジョブ管理するテーブル格納部、同ジョブで帰属されたタンパクリスト管理テーブル部および、タンパクの帰属の決め手となる各ペプチド情報の同一ペプチド由来タンパク管理テーブル部、
4)ジョブまたはジョブ解析結果の一覧表示から、マージしたいジョブを選択し名称を付けてマージを実行部、マージ管理テーブルに新規レコードを登録部および、マージ番号を発行部、
5)前記マージ番号に対して選択されたジョブごとのタンパクリスト登録部および、登録されたそれぞれのタンパクを、帰属の要因となったペプチドの情報と共に格納する、格納部
6)同一マージ番号に属していて異なるジョブ番号の同一アクセッション番号を有するタンパクを集約し、その結果をレーン情報として格納すると共に、各ペプチドのスコアを総和、または平均する、解析処理部1、
7)比較したいマージを選択し、マージ管理テーブルから該当するマージ番号の情報を取得し比較する、解析処理部2、
8)前記で取得した複数のマージ番号の群をリレーショナルデータベースの外部結合の機能を用いて表を作成する、表作成部、
9)結果のジョブ連結部および出力部。
【0022】
〔6〕 上記〔5〕記載の解析装置において抽出するデータがプロテオーム解析に使用されている汎用ソフトウエアの素ファイルから抽出した情報である解析支援装置。
【0023】
〔7〕切り出したジョブがSDS−PAGEの区画または、2D−PAGEのひとつのスポットである、上記〔5〕または〔6〕の解析支援装置。
【0024】
〔8〕 付加情報が外部データベース検索により取得した当該ペプチドの様々な知見である上記〔5〕〜〔7〕いずれかに記載の解析方法。
【0025】
〔9〕 上記〔1〕〜〔4〕いずれかに記載された方法をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータ読み取り可能なプログラム。
【発明の効果】
【0026】
本発明の効果は、プロテオーム解析のための汎用ソフトウエアから出力される膨大な情報量のデータから、MSショットガン解析結果の情報処理が人為的な操作を最小限に押さえ、短時間でデータ処理をすることが可能になった。
【0027】
また、リレーショナルデータベースを用いることで、抽出した各項目をリレーショナルデータベースで管理したことにより集合演算を柔軟に行うことができる。これによって、各タンパクの同定の決め手となったペプチド数の集計や、SDS−PAGEのレーン上の各断片に存在するタンパクの集計、そしてレーン同士の比較を行うことができるようになり、MS/MSショットガン解析でのタンパク同定の効率化を大幅に改善することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明における請求項記載の語句の定義について説明する。
【0029】
「質量分析」とは、分析する試料をイオン化させて導入し,電気力や磁気力により質量ごとの差をつくり、イオンの質量を分析することである。上記分析を行う装置である質量分析計を含め以下MSと略す。MSには、イオントラップ型MS、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(FT-ICR/MS)、イオンスキャン法、 Q-TOF型MSなどが挙げられる。これらは、1方法だけで分析しても複数のMSを連結させて分析(以下MS/MS解析)させても良い。
「タンパク質同定ソフトウエア」は、MSデータから分子量が合致するペプチドフラグメントの候補の検出、さらに前記フラグメントからペプチド全体を予測する解析ソフトであればよく、市販されているMascot、Sonar MS/MS等が挙げられる。
【0030】
「付加情報」とは、公共や有料の遺伝子配列データベース、発現情報データベース、そしてそれらを用いて構築した社内データベース等があげられ、さらには上記データベースから得られたペプチドフラグメントに対する機能の情報等が挙げられる。上記データベースから得られた「当該ペプチドの様々な知見」には、遺伝子発現抑制または、遺伝子発現阻害等の遺伝子発現制御機能あるいは、転写活性、転写抑制または転写調節などの転写制御機能等が挙げられる。
【0031】
本発明の第一の態様は、質量分析データの測定(以下MS測定またはMS/MS測定と記載することもある)から得られるタンパク配列情報等をリレーショナルデータベース(RDB)の外部結合によって複数の集合を比較処理するデータ処理に関する。例えば、タンパク質同定ソフトウエアの汎用ソフトウエアから出力情報をRDBに格納し、さらに付加情報を追加して、プロテオーム解析を行うための解析方法である。
【0032】
MS/MS測定の結果から得られるタンパクの配列情報、タンパクの質量、タンパクの注釈等の情報にてリレーショナルデータベースを構築する。前記MS/MS測定結果から得られるタンパク情報等は、プロテオーム解析のための汎用ソフトウエアから出力される素データから抽出したデータ等を利用することができる。本発明の実施形態をわかり易く説明するために、ここでは、前記の汎用ソフトウエアについてはMascot(商標)を用い、抽出する素データはMascotから提供されるMS Parserからの抽出データを用いた場合を一例として説明する。
I)リレーショナルデータベースの導入
本発明では、MS Parserから抽出した各項目リレーショナルデータベース(以下RDBと略す)で管理した。これにより、集合演算を柔軟に行うことができる。
【0033】
RDBで各タンパクの同定の決め手となったペプチド数の集計や、レーン上の各断片に存在するタンパクの集計、そしてレーン同士の比較を行うため、まず以下のテーブルを定義した。Mascotでいうジョブとは一つの解析の単位である.SDS-PAGEの一区画または、2D-PAGEのひとつのスポット等に相当する。このジョブについては以下のようなテーブルで管理する。
a)RDB管理テーブル
【0034】
【表1】

【0035】
上記1〜7のテーブルデータおよび管理内容について以下表2〜8に示す。表中(−)は特に定義をつけていないことを意味する。
1ジョブ管理テーブル
【0036】
【表2】

【0037】
2タンパクリスト管理テーブル
ジョブから同定されたタンパクのリストを表わす。ジョブ番号とヒット番号の複合キーで情報を取得する。
【0038】
【表3】

【0039】
3ペプチドリスト管理テーブル
同定したタンパクのペプチド帰属情報を管理するテーブル。ジョブ番号と同定されたタンパクのアクセッション番号と検出されたペプチドの通し番号をキーとして情報にアクセスする.
【0040】
【表4】

【0041】
4同一ペプチド由来タンパク管理テーブル
MS/MSで同定したペプチドの組み合わせで決定されるタンパクは一通りとは限らないため、複数の可能性がある場合,Mascotはそのうちの一つのタンパクに対してアクセッション番号とペプチドの帰属情報を列挙し、他のタンパクについては,そのアクセッション番号を同一ペプチド由来のタンパク(same set of proteins)として列挙する。これの管理を以下のテーブルで行う.
【0042】
【表5】

【0043】
5マージ管理テーブル
複数のジョブをマージした結果は下のように行う.
【0044】
【表6】

【0045】
6マージタンパク管理テーブル
マージ番号に属するジョブ番号ごとのタンパクを管理するテーブルである。ここでそれぞれのタンパクは,Mascot Converterのルールにより、同定の決め手となった有効なペプチドの存在度と共に格納される。
【0046】
【表7】

【0047】
7レーン管理テーブル
マージタンパク管理テーブルでは、同一のマージ(レーン)に複数のタンパクが存在しているが,これらを集約して重複を除いた情報をレーン管理テーブルに登録する。
【0048】
【表8】

【0049】
II)RDBを用いたプロテオーム解析ソフトからのタンパク同定結果の解析
1)Mascot解析結果のデータベース登録
Mascotに附属のMascot Parserの機能を使ってMascotの結果をデータベースに登録する。ひとつの解析結果を1レコードとしてジョブ管理テーブルに格納する。同ジョブで帰属されたタンパクはタンパクリスト管理テーブルに、それぞれのタンパクの帰属の決め手となった各ペプチドの情報はペプチドにもある場合は同一ペプチド由来タンパク管理テーブルにそれぞれ格納する。
【0050】
2)各ジョブのマージ
ジョブ(解析結果)の一覧表示から、マージしたいジョブを選択し名称を付けてマージを実行する。ひとつのマージ単位は例えば、SDS-PAGEであればひとつのレーンに相当する。このときマージ管理テーブルに新規レコードが1件登録されマージ番号が発行される。同時に、それぞれのマージ番号に対して選択されたジョブごとのタンパクリストが登録されるが、ここで登録されるそれぞれのタンパクは帰属の要因となったペプチドの情報と共に格納される。つぎに同一マージ番号に属していて異なるジョブ番号の同一アクセッション番号を有するタンパクを集約する。そしてその結果をレーン情報として格納するが、ここで各ペプチドのスコアは総和もしくは平均とした。
【0051】
3)各レーン同士の比較
比較したいレーンを選択し、レーン管理テーブルから該当するレーン(マージ)番号の情報を取得し比較する。一般的に集合比較を行うにはベン図が有効だが、この場合集合群は三つまでに限られてしまう。しかし、SDS−PAGEなどの複数のレーン(本RDBテーブルではマージテーブルによって管理されるデータ)を想定すると、一般にn群の比較ができることが望ましい。本発明者らは、前記の問題を解決するためにRDBの外部結合の機能を用いて表を作成する方法を未医大した。
【0052】
通常、RDBの結合は内部結合と呼ばれ、一致するカラム同士が結合してタブルを作成し、互いに一致しないカラムは結合から削除される。一方、本発明で選択した外部結合では一致しないため、相手の見付からないカラムに対してはヌル値が挿入される。すなわち、個々の要素に対して排他的な結合が繰り返され、複数の群を効率よく比較することが可能になった。
【0053】
4) RDBの外部結合によるn群の比較
RDBにおいて結合というのは、RDBにおけるリレーション演算のひとつで、複数のテーブルに対して、共通の属性で関連付ける操作である。このとき通常の結合である内部結合を使うと、共通するものだけが抽出され、全体は集合積だけとなる。一方外部結合を用いると共通しない場合は、ヌル値が挿入され、全体は集合和となる。従って、レーンの数だけ外部結合を行えば、ベン図の有効性を保持したn群の比較結果を得ることができた。
【0054】
5)RDBによる別候補タンパク質のまとめ
Mascotは、MS/MSによるペプチドフラグメントからタンパクを同定するが、もし、複数のタンパク候補があった場合は任意のひとつのタンパクを掲示し、他の候補タンパク質を列挙する。この代表タンパクの選び方は決まっていないため、別の解析で異なるタンパクが同定された場合、冗長性が発生することになる。これについてもRDBの機能を用いて、タンパクAがタンパクBという別候補を有し、タンパクBがタンパクリスト中にあるならタンパクBを除くという処理を行った。
【0055】
本発明の第二の態様は、本発明の解析方法を実行させる装置である。
【0056】
本発明解析装置の構成を図2に示す。201のCPUで、本発明解析方法で使用されるプロテオーム解析支援ソフトから出力されるデータを取得し、本発明解析方法を実行させる。202で、MS/MS測定で得られた結果の入力を行う。
【0057】
201から206で使用されるこの装置は、電子計算機であればよく、サーバーでも、パーソナルコンピュータ(以下PC)等が挙げられ、計算機の能力は特に制限しない。
【0058】
本発明解析方法を実行させるプログラムを動作させるオペレーションシステムも汎用ソフトウエア(例えば、マイクロソフトウインドウズ(登録商標)シリーズ等)でよい。
【0059】
201および204の装置で、RDBテーブルを生成し204または206の記憶装置に格納する。201は本発明方法を実行させる装置で各RDBテーブルデータに定義づけられている情報を切り出し、切り出した情報を一つの解析単位としてジョブ情報を生成する計算部である。前記のひとつの解析結果を1レコードとしてジョブ管理するテーブル格納部、同ジョブで帰属されたタンパクリスト管理テーブル部および、タンパクの帰属の決め手となる各ペプチド情報の同一ペプチド由来タンパク管理テーブル部を有し、取得したジョブまたはジョブ解析結果の一覧表示から、マージしたいジョブを選択し名称を付けてマージを実行部、マージ管理テーブルに新規レコードを登録部および、マージ番号を発行し、前記マージ番号に対して選択されたジョブごとのタンパクリスト登録および、登録されたそれぞれのタンパクを、帰属の要因となったペプチドの情報と共に格納する。
【0060】
前記201および204の装置で生成されたRDBを用い、同一マージ番号に属していて異なるジョブ番号の同一アクセッション番号を有するタンパクを集約し、その結果をレーン情報として格納すると共に、各ペプチドのスコアを総和、または平均す、(解析処理部1)次に、比較したいマージを選択し、マージ管理テーブルから該当するマージ番号の情報を取得し比較する(解析処理部2)、前記で取得した複数のマージ番号の群をリレーショナルデータベースの外部結合の機能を用いて表を作成し、結果のジョブを連結して比較解析を行う。
【0061】
次に、前記計算部で判定されエントリされたデータ中、さらに情報が必要な値をについて別途データベースへアクセスさせ、検索をかける。
【0062】
205の装置で実行した実行結果を出力する。
【0063】
出力結果は203の装置で表示することもでき、205の装置で紙などの記録媒体に印刷することもでき、206の装置で、FD,MO,CD−RW,DVD−RW等の磁気または、磁気光ディスク、光ディスク等の外部記録媒体に出力することもできる。
【0064】
201〜206の装置は、全てが一体した装置でも、各が分離した装置でも、一部が一体化した装置またそれらを組み合わせた装置であってもよい。
【0065】
本発明の第3の態様は、本発明の解析方法をコンピュータで読みとり可能なプログラムである。
【0066】
図1の解析方法を実行させるプログラムで、これらは、図1に示したアルゴリズムの手順にそって1つのモジュールであっても、それぞれのパート事に書かれたモジュールを組み合わせて使用してもよい。これらは磁気ディスク等の記録媒体に記録されている。
【実施例1】
【0067】
以下、本発明解析方法によって得られた結果の一部分を表9に示す。この例では、A、B、E、Fの四つのレーンの比較を行っている。大文字はMascotで太字表示されるペプチド数で、小文字はMascotで細字表示されるのペプチド数を示す。太字で表される方が確度が高い。ここで、ATBP_HUMANはレーンAにのみ存在するが、FTDH_RATはすべてのレーンに存在するということが一目で分かる。
【0068】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0069】
MSショットガン実験における、MS測定結果から出力される膨大な情報量のデータ処理において、利用者の対話処理に必要な負荷を大幅に削減することに本発明方法を利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の解析方法の手順を示したフローチャートである
【図2】本発明の解析方法を実行する装置の構成を示したブロック図である。
【図3】RDB外部結合の概念図を示した図である。
【図4】プロテオーム解析ソフトウエアの出力結果を解析し、ジョブ連結で表示した一例図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の手順を含む、タンパクの質量分析データの解析(MS解析)によるタンパク質同定ソフトウエア解析方法;
1)MS/MS測定結果から得られるタンパクの配列情報、タンパクの質量、タンパクの注釈、タンパクのスコアおよび/または既知タンパクのアクセッション番号、ならびに同定したペプチド数、前記ペプチド配列情報、前記ペプチドのスコア、前記ペプチドの質量および/または前記ペプチドの注釈を抽出し、解析の単位ごとにジョブの切り出しを行う、
2)切り出したジョブのひとつの解析の単位でテーブル管理を行う、
3)前記のひとつの解析結果を1レコードとしてジョブ管理テーブルに格納し、同ジョブで帰属されたタンパクはタンパクリスト管理テーブルに、それぞれのタンパクの帰属の決め手となった各ペプチドの情報は同一ペプチド由来タンパク管理テーブルにそれぞれ格納する、
4)ジョブまたはジョブ解析結果の一覧表示から、マージしたいジョブを選択し名称を付けてマージを実行させ、マージ管理テーブルに新規レコードを登録し、マージ番号を発行する、
5)前記マージ番号の発行と同時に、それぞれのマージ番号に対して選択されたジョブごとのタンパクリストを登録し、登録されたそれぞれのタンパクを、帰属の要因となったペプチドの情報と共に格納する、
6)同一マージ番号に属していて異なるジョブ番号の同一アクセッション番号を有するタンパクを集約し、その結果をレーン情報として格納すると共に、各ペプチドのスコアを総和、または平均する、
7)比較したいマージを選択し、マージ管理テーブルから該当するマージ番号の情報を取得し比較する、
8)前記で取得した複数のマージ番号の群をリレーショナルデータベースの外部結合の機能を用いて表を作成する、
9)前記7)の結果において条件を満たした要素の対象に付加情報を追加し、その結果のジョブ連結を行い出力する。
【請求項2】
請求項1記載の解析方法において抽出するデータがプロテオーム解析に使用されている汎用ソフトウエアの素ファイルから抽出した情報である解析方法。
【請求項3】
切り出したジョブがSDS−PAGEの区画または、2D−PAGEのひとつのスポットである、 請求項1または2の解析方法。
【請求項4】
付加情報が外部データベース検索により取得した当該ペプチドの様々な知見である 請求項1〜3いずれか1項に記載の解析方法。
【請求項5】
下記の解析部を含む、タンパクの質量分析データの解析(MS解析)によるタンパク質同定ソフトウエア解析支援装置;
1)MS/MS測定結果から得られるタンパクの配列情報、タンパクの質量、タンパクの注釈、タンパクのスコアおよび/または既知タンパクのアクセッション番号、ならびに同定したペプチド数、前記ペプチド配列情報、前記ペプチドのスコア、前記ペプチドの質量および/または前記ペプチドの注釈を抽出する抽出部および解析の単位ごとにジョブの切り出しを行う、ジョブ切り出し部、
2)切り出したジョブのひとつの解析の単位のテーブル管理部、
3)前記のひとつの解析結果を1レコードとしてジョブ管理するテーブル格納部、同ジョブで帰属されたタンパクリスト管理テーブル部および、タンパクの帰属の決め手となる各ペプチド情報の同一ペプチド由来タンパク管理テーブル部、
4)ジョブまたはジョブ解析結果の一覧表示から、マージしたいジョブを選択し名称を付けてマージを実行部、マージ管理テーブルに新規レコードを登録部および、マージ番号を発行部、
5)前記マージ番号に対して選択されたジョブごとのタンパクリスト登録部および、登録されたそれぞれのタンパクを、帰属の要因となったペプチドの情報と共に格納する、格納部
6)同一マージ番号に属していて異なるジョブ番号の同一アクセッション番号を有するタンパクを集約し、その結果をレーン情報として格納すると共に、各ペプチドのスコアを総和、または平均する、解析処理部1、
7)比較したいマージを選択し、マージ管理テーブルから該当するマージ番号の情報を取得し比較する、解析処理部2、
8)前記で取得した複数のマージ番号の群をリレーショナルデータベースの外部結合の機能を用いて表を作成する、表作成部、
9)結果のジョブ連結部および出力部。
【請求項6】
請求項5記載の解析装置において抽出するデータがプロテオーム解析に使用されている汎用ソフトウエアの素ファイルから抽出した情報である解析支援装置。
【請求項7】
切り出したジョブがSDS−PAGEの区画または、2D−PAGEのひとつのスポットである、 請求項5または6の解析支援装置。
【請求項8】
付加情報が外部データベース検索により取得した当該ペプチドの様々な知見である 請求項5〜7いずれか1項に記載の解析装置。
【請求項9】
請求項1〜4いずれかに1項に記載された方法をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータ読み取り可能なプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−222481(P2009−222481A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65566(P2008−65566)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】