質量分析用タグ

【課題】ペプチド、特に疎水性ペプチドの質量分析感度を高めるための質量分析用タグを提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される、n個のアミノ酸残基からなる質量分析用タグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドやタンパク質の質量分析法による分析感度を高めるための質量分析用タグに関する。
【背景技術】
【0002】
多数のペプチド混合物から、特定の蛋白質、細胞、又は組織に結合するペプチドのスクリーニングは、疾患の診断、治療のための創薬研究における中心的課題の一つである。また、生命科学の研究においても、種々の生命現象を解明する上で重要な手段の一つである。
ペプチドをスクリーニングする際、液体クロマトグラフ・質量分析装置(以下LCMS)や飛行時間型質量分析装置(TOFMS)などを利用することが多く、これらの装置の利用は、所望のペプチドの同定方法として極めて有用な手段である。質量分析法(MS)は分子や原子の質量電荷比(m/z)を測定し,それらの分子量や、構造までも明らかにすることが可能で、単独で、あるいは、上述のLCMSなどのようにクロマトグラフィーと組み合わせて使用されるなど(例えば、上述のLCMSなどの使用)、生命化学など極めて広い研究開発分野において利用されている。現在のLCMSでは、1000種類以上のペプチド混合物中から、それぞれのペプチドを検出することが原理的に可能であり、特定の機能を有するペプチドをスクリーニングする上でも非常に効果的な方法と言える。
【0003】
質量分析法において、m/zを測定するためには、対象物をイオン化する必要がある。そのため、分析対象のイオン化の程度は、分析感度に大きく影響を及ぼすことになる。イオン化しにくい物質を、安定的、かつ、効率的にイオン化するための方法や試薬が、これまでにいくつか開発されている(例えば、特許文献1又は特許文献2)。また、種々の質量分析用誘導体化試薬も市販されており(例えば、東京化成工業)、これらを試料に結合させることによって、分析感度が100倍程度上昇することなども確認されている。
【0004】
ところで、機能性ペプチドのスクリーニングにおいても、分析対象のペプチドの分析感度の良し悪しは、適切なスクリーニング結果を得るために、重要な問題である。しかし、多くのペプチド、特に疎水性ペプチドは検出感度が悪く、そのためLCMS法をペプチドのスクリーニングに有効に利用するためには、分析感度を向上させる必要がある。さらに、治療や診断に利用するためのペプチドを分析する場合には、ペプチドの活性自体に変動を生じさせるようなイオン化効率を高める方法は、ペプチド本来の活性を損なう可能性が高く、機能性ペプチドのスクリーニングにおいて使用できない。これまでに報告されているイオン化効率を上昇される試薬等は、正負のイオン性基や極性基を結合させるものがほとんどである。しかしながら、ペプチドにこのような試薬を結合させるとペプチドの性質や薬剤としての機能が大きく変化することは避けられず、既存の試薬を利用することは、ペプチド薬剤探索の目的には適していない。
疎水性のペプチドは質量分析の感度が悪いのに対し、親水性のアミノ酸、例えば、リシンやアルギニン、あるいはヒスチジンを含むペプチドは感度が高いことが知られている。しかしこれらのアミノ酸を意図的にペプチドに導入すると、ペプチドの薬剤としての機能をも変化させてしまう可能性が高く、機能性ペプチドのスクリーニングの目的には、適当な方法とは言えない。
以上のように、これまでのところ、ペプチド本来の機能を大きく変化させることなく質量分析の感度を大きく向上させる方法は見出されておらず、そのような方法の開発に期待が寄せられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−10658
【特許文献2】特開2008−64739
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情に鑑みると、ペプチド(特に、疎水性ペプチド)本来の機能を損なわずにLCMS、あるいは、より一般的には質量分析装置における感度を向上させることができれば、それらを用いたペプチドスクリーニングが可能になり、有用ペプチドの発見が加速され、ペプチド創薬の分野の大いなる飛躍が期待される。
よって、本発明は、ペプチド、特に疎水性ペプチドの質量分析感度を高めるための質量分析用タグの提供を目的とする。
また、本発明は、ペプチド、特に疎水性ペプチドの質量分析感度を高める方法の提供を目的とする。
さらに、本発明は、ペプチドライブラリーから、目的のペプチドを選択するためのスクリーニング方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、ペプチド(特に、疎水性ペプチド)に対する質量分析の感度を高める手段について、鋭意研究を行った結果、分析対象の機能(又は活性)に対してイナート(影響、特に悪影響を与えない)であって、これをペプチドに結合させることで、ペプチドの質量分析感度を顕著に高める分子(以下、質量分析用タグ)を見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[10]である。
[1]一般式(1)で表される、n個のアミノ酸残基からなる質量分析用タグ。
【化1】


[式(1)中、Rは同一又は異なって炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状アルキル基であり、Rは同一又は異なって水素又は炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状アルキル基であり、R及びRは環を形成してもよい。Rは水素原子、アシル基(ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基など)、又はビオチニル基、あるいは、ペプチドを表し、Rは−OR(Rは水素原子又は低級アルキル基)、−NHR(Rは水素原子又は低級アルキル基)又はビオチニル基、あるいはペプチドを表す。
nは2以上の整数を表す。]
[2]n個のアミノ酸残基中、少なくとも連続する2個のアミノ酸残基が、Rがメチル基であってRが水素原子である、上記[1]に記載の質量分析用タグ。
[3]nが3以上の整数であり、n個の半数以上のアミノ酸残基が、Rがメチル基であってRが水素原子である、上記[1]又は[2]に記載の質量分析用タグ。
[4]前記質量分析用タグを、m個のアミノ酸残基からなるペプチドに結合させる場合、n/mの値が、2/8〜5/8である上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の質量分析用タグ。
[5]前記質量分析用タグを、8〜20個のアミノ酸残基からなるペプチドに結合させる場合、nが2〜12である上記[1]に記載の質量分析用タグ。
[6]上記[1]乃至[5]いずれかに記載の質量分析用タグを8〜30個のアミノ酸残基からなるペプチドに結合させ、質量分析用ペプチドを調製する方法。
[7]前記質量分析用タグを前記ペプチドのN末端又はC末端に結合させることを特徴とする上記[6]に記載の方法。
[8]上記[6]又は[7]に記載の方法により調製される質量分析用ペプチド。
[9]以下の(1)〜(3)の工程からなる試料中の標的物と相互作用する候補ペプチドをスクリーニングする方法。
(1)上記[8]に記載の質量分析用ペプチドからなるペプチドライブラリーを準備する工程、
(2)試料中の標的物と工程(1)で準備したペプチドライブラリーに含まれるペプチドとを接触させて、標的物と相互作用する候補ペプチドを含む分析用試料を取得する工程、
(3)工程(2)で取得した分析用試料を質量分析し、得られたデータを解析し、候補ペプチドを同定する工程。
[10]工程(2)における分析用試料を取得する工程が、液体クロマトグラフィーである上記[9]に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、従来は分析できなかった疎水性ペプチドを含むペプチドライブラリーの質量分析が初めて可能になる。
すなわち、質量分析の対象となる種々のペプチドに対し、そのN末端又はC末端などに本発明の質量分析用タグを導入することにより、これまで質量分析が困難であったペプチド(特に、疎水性ペプチド)の分析が可能となる。この結果、LCMSなどの質量分析法による高効率スクリーニングを容易に行うことができるようになり、ペプチド薬剤の開発が一挙に加速されることになる。
【0010】
本発明の質量分析用タグは、生体に対し無毒であり、また、分析対象たるペプチド自体に対してもその活性等に悪影響を及ぼさないことから、候補薬剤としてスクリーニングされたペプチドをそのまま、インビボ試験に適用することが可能である。
すなわち、本発明の質量分析用タグ(特に、サルコシン残基を主たる構成要素とするタグの場合)は、他のペプチド配列のような一定の構造(αへリックスやベータシート構造)をとらないので、ペプチドと標的蛋白質又は細胞表面との相互作用を阻害することなく、また、標的物の機能に対しても悪い影響を及ぼさない。
【0011】
本発明の試料分析用タグは、分析対象のペプチドにペプチド結合で付加する場合、自動合成により、もれなく分析対象のペプチドを確実にタグ化することができ、均一なスクリーニングライブラリーを調製することができる。
すなわち、本発明の質量分析用タグを用いれば、既存の誘導体化試薬に比較して、誘導体化の信頼等性が高く、イオン化も均一に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のタグを結合させたペプチド(a)と結合させていないペプチド(b)をTOFMSで分析した結果を示す。
【図2】配列番号3に示すペプチドをTOFMSで分析した結果を示す。図は、保持時間が0−20分の範囲のピークを示す。
【図3】配列番号3に示すペプチドをTOFMSで分析した結果を示す。図は、保持時間が20−40分の範囲のピークを示す。
【図4】配列番号3に示すペプチドをTOFMSで分析した結果を示す。図は、保持時間が40−60分の範囲のピークを示す。
【図5】サルコシン3個を含むペプチドと含まないペプチドのLCMSにおける感度の比較を示す。「KS-Sp6-xrxx-Sar3-NH2」のグラフはサルコシン3個を含むペプチドの測定結果を示し、「KS-Sp6-xrxx-NH2」のグラフはサルコシンを含まないペプチドの測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態の1つは、一般式(1)で表される、n個のアミノ酸残基からなる質量分析用タグである。
【化1】


本発明の「質量分析用タグ」(本明細書中、「本発明のタグ」と記すこともある)とは、質量分析の対象となる物質、例えば、ペプチドや蛋白質などに結合させることで、質量分析の感度や効率を高めるための分子(又は化合物)のことである。
式(1)中、nは2以上の整数であり、好ましくは、3以上の整数である。Rは同一又は異なって炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状アルキル基であり、Rは同一又は異なって水素又は炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状アルキル基であり、R及びRは環を形成してもよい。RとRが環を形成しない場合、Rとしてはメチル基、エチル基などが好ましく、Rとしては水素が好ましく、Rがメチル基、Rが水素の組合せ(すなわち、サルコシン残基の場合)が特に好ましい。また、Rがメチル基、Rが水素であるアミノ酸残基が少なくとも2個以上連続することが望ましく、n個中、その1/3以上が、Rがメチル基、Rが水素であるアミノ酸残基であることが望ましく、その1/2以上(半数以上)が、Rがメチル基、Rが水素であるアミノ酸残基であることが望ましい。場合によっては、少なくとも、Rがメチル基、Rが水素であるアミノ酸残基は3個以上含まれることが望ましい。
【0014】
また、Rは水素原子、アシル基(例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基など)、又はビオチニル基、Rは−OR(Rは水素原子又は低級アルキル基など)、−NHR(Rは水素原子又は低級アルキル基など)又はビオチニル基などが好ましい。ただし、上記R及びRに関する記述は、特に限定を意図したものではなく、あくまでも例示であって、R及びRは、各々、ペプチドのC末端及びペプチドのN末端として適当なもの、又は、ペプチドとの結合(例えば、ペプチド結合など)を形成する上で適したものであれば、如何なるものであってもよく、あるいは、本発明のタグが結合されるペプチドであってもよい。
【0015】
本発明のタグは、式(1)の基がn個連結されたものである。ここで「n」は、質量分析対象であるペプチドや蛋白質のアミノ酸残基数やイオン化の程度に依存する整数である。例えば、質量分析対象のペプチド又は蛋白質のアミノ酸残基数がm個の場合、n/mが、例えば、2/8〜4/8程度であることが好ましく、より好ましくは、3/8程度である。従って、例えば、質量分析対象のペプチドが8〜20残基のアミノ酸からなる場合、nは、2〜12程度が好ましい。ただし、nの適切な個数は、質量分析対象のペプチドの性質によっても異なるため、当業者であれば、事前の予備的実験により容易に決定することができ、また、そのような予備的実験により決定することが望ましい。
本発明のタグは、式(1)の基が連結したものであるが、本発明のタグは、全て同一の式(1)の基で構成されても、あるいは、相異なる式(1)の基が含まれていてもよい。例えば、本発明のタグは、サルコシン残基(式(1)中、Rがメチル基、Rが水素の場合)のみで構成されてもよく、又は、サルコシン残基以外の基が含まれていてもよい。ただし、上述の通り、サルコシン残基が少なくとも2個以上は連続し、サルコシン残基以外の基の数は、1個が好ましい。
【0016】
本発明のタグを結合させて質量分析を行うのに適する物質は、特に限定はしないが、ペプチドや蛋白質が好ましい。特に、疎水性を示すペプチドなどに対し、本発明のタグを好適に使用することができる。当該ペプチド又は蛋白質に含まれるアミノ酸は、αアミノ酸に限定されるものではなく、β−、γ−、δ−アミノ酸など、天然に存在しないものであってもよく、D体、L体、いずれのアミノ酸であってもよい。また、疎水性ペプチドの質量分析において、当該ペプチドの長さについても、特に限定はしないが、例えば、アミノ酸数1〜50のペプチド、好ましくは、アミノ酸数3〜30、より好ましくは、3〜20、特に好ましくはアミノ酸数5〜10程度のペプチドに対し本発明のタグを結合させることで、好適に質量分析を行うことができる。
【0017】
本発明のタグを結合させたペプチド等を質量分析する場合、イオン化の方法(例えば、電子イオン化(EI)法、化学イオン化(CI)法、高速原子衝撃(FAB)法、エレクトロスプレーイオン(ESI)法、大気圧化合イオン化(APCI)法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法など)や、分析装置(例えば、磁場型質量分離装置(Secotor MS)、四重極型質量分離装置(QMS)、イオントラップ型質量装置(ITMS)、飛行時間型質量分析装置(TOFMS)、フーリエ変換イオンサイクロトロン型質量分離装置(FT−ICRMS))などは、如何なる方法や装置であってもよく、特に限定されない。また、質量分析装置に液体クロマトグラフィー(LC)などを組み合わせて使用する場合においても、本発明のタグは好適に使用することができる。さらに、本発明のタグを結合させたペプチドは、MS−MS法によって直接アミノ酸配列を決定することもできる。
【0018】
本発明の他の実施形態は、本発明のタグを質量分析の対象であるペプチドに結合させて、質量分析用ペプチドを調製する方法である。本明細書において質量分析用ペプチドとは、本発明のタグが結合された、質量分析の対象たるペプチドのことである。質量分析用ペプチドの調製にあたり、ペプチドに対して本発明のタグを結合させる位置は、タグの存在によってペプチドの活性又は機能に悪影響を与えず、その後の解析(例えば、インビボにおける薬物試験など)に悪影響を及ぼさない位置であれば、特に限定はしないが、一般には、ペプチドのN末端あるいはC末端が好ましい。ペプチドと本発明のタグの結合様式は、質量分析に悪影響を及ぼさず、また、ペプチドの活性又は機能に悪影響を及ぼさない結合様式であれば、如何なるものであってもよいが、例えば、ペプチド結合が好ましい。特にペプチド結合であれば、市販の装置などを利用して本発明のタグを自動的に結合させることが可能であることから、分析対象のペプチドのタグ化を確実に行うことができ、均一なタグ化ペプチドライブラリーを容易に調製することができる。
【0019】
さらなる本発明の実施形態は、2以上の質量分析用ペプチドからなるペプチドライブラリーを作製し、当該ペプチドライブラリーから所望のペプチド(候補ペプチド)を選択する、ペプチドのスクリーニング方法である。所望のペプチドとしては、例えば、生体物質(蛋白質、核酸、脂質などの生体分子の他、細胞内小器官などの構造体など)若しくはその誘導体、又は細胞などの標的物と特異的に相互作用(又は結合)するペプチドを挙げることができる。
本発明のスクリーニング方法には、例えば、以下の(1)〜(3)の工程が含まれる。
(1)質量分析用ペプチドからなるペプチドライブラリーを準備する工程、
(2)試料中の標的物と工程(1)で準備したペプチドライブラリーに含まれるペプチドとを接触させて、標的物と相互作用するペプチドを含む分析用試料を取得する工程、
(3)工程(2)で取得した分析用試料を質量分析し、得られたデータを解析し、候補ペプチドを同定する工程
【0020】
工程(1)のペプチドライブラリーは、上述のように、市販の装置などを利用して、本発明のタグをペプチドに結合することで容易に作製することができる。
次に、工程(2)では、標的物(標的分子又は標的細胞など)とペプチドライブラリーを混合し、それらが相互作用又は結合するために適する条件下(温度条件や混合時間など)でインキュベーションを行なう。その後、分画(例えば、液体クロマトグラフィー法などを利用する)あるいは洗浄操作によって標的物と強く相互作用又は結合しているペプチドだけを取得して分析用試料とする。
工程(3)においては、分析用試料を質量分析し、候補ペプチドを同定する。ここで、LSMSなど、質量分析装置と液体クロマトグラフィー装置などを組み合わせた装置により質量分析を行ってもよい。候補ペプチドの同定のためのデータ解析は、当業者において周知の手法により、既存の解析ソフトなどを適宜利用して、容易に行うことができる。
【0021】
さらに、本発明には、質量分析用ペプチドを調製するための、ペプチドタグ化キットが含まれる。本発明のタグ化キットには、本発明のタグ、又は、本発明のタグを構成する式(1)の基が含まれる他、タグを分析対象のペプチド等に結合させるために必要な適当な試薬が含まれる。これらのタグ、式(1)の基、及び各種試薬類は、その活性が長期間有効に持続されるべく、適切な材質の容器に収納され、供給される。
また、キットには使用説明書も添付される。使用説明は、紙又は他の材質上に印刷され、及び/又は適当なメディア(CD−ROM、DVD−ROMなど)などの読み取り可能な媒体として供給されてもよい。詳細な使用説明は、キット内に実際に添付されていてもよく、あるいは、キットの製造者又は分配者によって指定され又は電子メール等で通知されるウェブサイトに掲載されていてもよい。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、これらの実施例によって本発明の範囲が限定されるものではない。本実施例においては、一般式(1)としてサルコシン残基を使用しているが、一般式(1)はサルコシン残基に限定されるものではない。
【0023】
1.サルコシン3個を含むペプチドの合成
本実施例で使用したサルコシンは天然の蛋白質中にはほとんど存在しないが、天然のペプチド中には存在するアミノ酸である。サルコシン残基でタグ化されたペプチドは、通常のペプチド化学合成法によって作製した。
【0024】
2.サルコシン3個を含むペプチドと含まないもののTOFMSによる比較
以下の2種類の配列及び分子量をもつペプチドを作製し、TOFMSを測定した。
(a)H-Lys-Ser-Sp6-D-Ala-D-Asp-D-Phe-D-Ser-Sar-Sar-Sar-NH2(配列番号1)
計算分子量[M+H+]+:1201.62
(b)H-Lys-Ser-Sp6-D-Ala-D-Asp-D-Phe-D-Ser-NH2(配列番号2)
計算分子量[M+H+]+:988.51
ただし、HはN末端アミノ基、Lys, Ser, Ala, Asp, Phe, Serなどは通常の3文字アミノ酸残基の表記、Sp6はH2N-(CH2CH2O)6-CH2CH2COOH、Sarはサルコシン残基= -HN(CH3)CH2CO-、NH2はC末端アミド基を表す。
【0025】
これらのペプチドを以下の条件でTOFMS測定した。
(a)に関し:HCD1000 レーザー強度2700 試料1pmol マトリックスα-CHCA
(b)に関し:HCD1000 レーザー強度2200 試料1pmol マトリックスα-CHCA
結果を図1に示す。太い矢印が期待されるピーク出現位置である(ノイズレベルから明かであるが、(b)のスペクトルの縦軸は(a)のものより約2倍縦軸を拡大してある)。
これらの結果からサルコシン3残基を追加した場合、質量分析装置でピークが強く現れることが分かる。即ち、(b)では、測定感度を高めているにもかかわらず目的ペプチドのピークはきわめて弱い結果となっている。
同様の実験を異なる配列をもつ数種類のペプチドについて行ったが、いずれも同様の結果であった。
【0026】
3.サルコシン3個を含むペプチドのLCMSにおけるペプチドピークの同定
上記2で示した結果が一般的なものであることを確認するため、以下のペプチド混合物のLCMSを測定した。
H-Lys-Ala-Sp6-Xaa-D-His-Xaa-Xaa-Sar-Sar-Sar-NH2(配列番号3)(mw=1114.6-1459.8)
XaaはD-Ala(a), D-Val(v), D-Ile(i), D-Met(m), D-Ser(s), D-Thr(t), D-Arg(r), D-Asp(d), D-Asn(n), D-His(h), D-Phe(f), D-Tyr(y), D-Trp(w), D-Pro(p)の14種類のDアミノ酸の混合物である。
従って、このペプチド混合物は143 = 2744種類のペプチドを含む。このペプチド混合物をアジレントテクノロジー社の飛行時間/4重極−液体クロマトグラフ質量分析計(TOF/Q−LCMS)で分析した。条件は15 cm chip, gradient: 3-40%/120minである。
結果を図2〜4に示す。各図の縦棒がペプチドに同定されたピークで、その数は1174個である。つまり、2744種類のペプチドの内1174種類が検出されていた。特に強く検出されたペプチドについては、そのアミノ酸組成と質量がピーク上に記入されている(各図中、no candidateと書かれたピークは、候補ペプチドとの分子量差が0.004以上あるという意味であり、これらについても誤差は大きいものの候補ペプチドは見出されている)。
【0027】
一方、サルコシン残基を導入していないペプチドについて同様な測定を行ったが、ピークはほとんど検出されず、同定できるペプチドはほとんど認められなかった。
例えば、8種類の異なるペプチドの混合物である、Ac-Glu-Glu-Fl-Glu-Glu-Sp6-D-Asn-Xaa-D-Tyr-D-Tyr-D-Thr-D-Trp-D-Trp-D-Asn-NH2(配列番号4)(Fl=8種類の蛍光基側鎖をもつアミノ酸、その他の略号については上述の例を参照のこと)についてLCMSを測定したが、対応するピークは1種類も検出することができなかった。
以上の結果から、本発明のタグ(サルコシン3残基からなるタグ)を導入すると、多くのペプチドがLCMSで検出可能になり、本発明のタグは、ペプチド薬剤スクリーニングにおける感度を高める上で、非常に有用であることが明かとなった。
【0028】
4.サルコシン3個を含むペプチドと含まないペプチドのLCMSにおける感度の比較
上記2、3で示した結果をさらに確認するため、以下のペプチド混合物のLCMSを測定した。
H-Lys-Ser-Sp6-Xaa-D-Arg-Xaa-Xaa-Sar-Sar-Sar-NH2(KS-Sp6-xrxx-Sar3-NH2;配列番号5)
このペプチド混合物について上記3に記載の条件でLCMSを測定した。結果を図5に示す。縦軸は全検出分子数に比例する量であり、横軸はLCの保持時間である。保持時間5−60分の間に多くのペプチドが感度良く検出されている(「KS-Sp6-xrxx-Sar3-NH2」のグラフ)。
【0029】
一方、サルコシン残基を導入していないペプチド、
H-Lys-Ser-Sp6-Xaa-D-Arg-Xaa-Xaa-NH2(KS-Sp6-xrxx-NH2;配列番号6)
について同様な測定を行ったが、図5に示すようにピークはほとんど検出されなかった(「KS-Sp6-xrxx-NH2」のグラフ)。
以上の結果から、本発明のタグ(サルコシン3残基からなるタグ)を導入すると、多くのペプチドがLCMSで検出可能になり、本発明のタグは、ペプチド薬剤スクリーニングにおける感度を高める上で、非常に有用であることが明かとなった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、質量分析が困難であった疎水性ペプチドの分析効率を顕著に高めることができる方法と、そのための質量分析用タグを提供する。本発明により、疎水性ペプチドを含むペプチドライブラリーに対しても、ペプチド薬剤の探索を行うことが可能となることから、本発明は創薬分野の発展に大いに貢献するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される、n個のアミノ酸残基からなる質量分析用タグ。
【化1】


[式(1)中、Rは同一又は異なって炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状アルキル基であり、Rは同一又は異なって水素又は炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状アルキル基であり、R及びRは環を形成してもよい。Rは水素原子、アシル基(ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基など)、又はビオチニル基、あるいはペプチドを表し、Rは−OR(Rは水素原子又は低級アルキル基)、−NHR(Rは水素原子又は低級アルキル基)又はビオチニル基、あるいはペプチドを表す。
nは2以上の整数を表す。]
【請求項2】
n個のアミノ酸残基中、少なくとも連続する2個のアミノ酸残基が、Rがメチル基であってRが水素原子である、請求項1記載の質量分析用タグ。
【請求項3】
nが3以上の整数であり、n個の半数以上のアミノ酸残基が、Rがメチル基であってRが水素原子である、請求項1又は請求項2に記載の質量分析用タグ。
【請求項4】
前記質量分析用タグを、m個のアミノ酸残基からなるペプチドに結合させる場合、n/mの値が、2/8〜5/8である請求項1乃至3のいずれかに記載の質量分析用タグ。
【請求項5】
前記質量分析用タグを、8〜20個のアミノ酸残基からなるペプチドに結合させる場合、nが2〜12である請求項1乃至4のいずれかに記載の質量分析用タグ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の質量分析用タグを8〜30個のアミノ酸残基からなるペプチドに結合させ、質量分析用ペプチドを調製する方法。
【請求項7】
前記質量分析用タグを前記ペプチドのN末端又はC末端に結合させることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の方法により調製される質量分析用ペプチド。
【請求項9】
以下の(1)〜(3)の工程からなる試料中の標的物と相互作用する候補ペプチドをスクリーニングする方法。
(1)請求項8に記載の質量分析用ペプチドからなるペプチドライブラリーを準備する工程、
(2)試料中の標的物と工程(1)で準備したペプチドライブラリーに含まれるペプチドとを接触させて、標的物と相互作用する候補ペプチドを含む分析用試料を取得する工程、
(3)工程(2)で取得した分析用試料を質量分析し、得られたデータを解析し、候補ペプチドを同定する工程。
【請求項10】
前記工程(2)における分析用試料を取得する工程が、液体クロマトグラフィーである請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−68573(P2013−68573A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208997(P2011−208997)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】