質量分析用データ処理装置
【課題】測定時間の経過に伴って信号レベルが変化するようなイオン信号に対しても、全てのTOFスキャンにおいて、A/D変換器でのオーバーレンジを発生させず、かつ高いダイナミックレンジでの測定を行うことで、イオン信号の再現性が高く、かつ所望のマススペクトルを効率良く短時間で得るための質量分析用データ処理装置を提供する。
【解決手段】質量分析装置のデータ収集回路500において、イオン検出信号の最大電位差を測定して格納する電位差演算回路56と、次回測定時のゲイン量を決定して設定するゲイン制御回路57などを備え、1回前または複数回前のTOFスキャンデータからイオン検出信号の最大振幅値を抽出し、次のTOFスキャンが実行される前に、その最大振幅値を元に最適なゲイン量を決定し、入力信号のゲインを調整することにより、イオン信号をA/D変換器51でサンプリングする。
【解決手段】質量分析装置のデータ収集回路500において、イオン検出信号の最大電位差を測定して格納する電位差演算回路56と、次回測定時のゲイン量を決定して設定するゲイン制御回路57などを備え、1回前または複数回前のTOFスキャンデータからイオン検出信号の最大振幅値を抽出し、次のTOFスキャンが実行される前に、その最大振幅値を元に最適なゲイン量を決定し、入力信号のゲインを調整することにより、イオン信号をA/D変換器51でサンプリングする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析技術に関し、特に、飛行時間型の質量分析装置におけるA/D変換器(アナログ/デジタル変換器)を用いた質量分析用データ処理装置に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行時間型の質量分析装置(TOF−MS:Time Of Flight Mass Spectrometry)は、導入部、TOF部、ゲイン調整器、イオン打ち出し信号発生器、データ収集回路などから構成され、試料をイオン化して加速・飛行させ、その質量に応じた飛行時間とイオンの強度(電圧値)を測定することで試料に含まれる成分を分析する装置である。
【0003】
このTOF−MSにおける分析においては、まず、分析される試料は、導入部にてイオン化され、測定開始と同時にTOF部に送り込まれる。TOF部に入ったイオンは、イオン打ち出し信号のタイミングで電圧を印加されて、真空状態のTOF部の内部を所定の軌道で飛行する。
【0004】
TOF部の内部にて、イオンが検出器に到達(衝突)すると、検出器からはイオン検出信号が出力される。このイオン検出信号は、固定ゲイン設定のゲイン調整回路を介してA/D変換器を用いたデータ収集回路で収集され、そのデータはCPUを介して入出力装置に出力される。測定結果はマススペクトルとして表示され、個々のスペクトルの強度(電圧値)およびその時間(質量)から試料に含まれる成分を分析することができる。
【0005】
例えば、TOF−MSとしては、特許文献1に記載のように、ゲイン切替手段を設けて、オーバーレンジを検出したマススペクトルでは、ゲインを下げて再測定を行い、オーバーレンジが発生したピーク値の補償を行う技術が知られている。
【特許文献1】特許第3701136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記のようなTOF−MSについて、本発明者が検討した結果、以下のようなことが明らかとなった。図9および図10を用いて説明する。図9は質量分析装置における測定の様子(TOFスキャン)および積算処理を示す図、図10はTOFスキャン毎の最大振幅値特性を示す図である。
【0007】
たとえば、TOF−MSでは、1回の測定で得られるスペクトラムデータの測定感度(SN比)が不十分であることが多く、図9に示すように複数回の測定で得られる波形データを積算処理することによってマススペクトルを得て、測定の感度を向上させている。ここでは、マススペクトルを得るための測定をマススペクトル測定と呼び、1回の測定のことをTOFスキャンと呼ぶ。TOFスキャンとは、1回のイオン打ち出し信号によって加速された分のイオンの検出器出力データ、すなわち図9に示すような、時間to(イオン打ち出しタイミング)からt1までのスペクトラムデータを収集することを指すものとする。
【0008】
なお、図9では、説明の便宜上、どのTOFスキャンにおいてもほぼ同じ時間(質量)にピーク値を持ったスペクトラムデータとなっているが、本来は1つのイオンや、ほぼ同じ時間に複数のイオンが検出されるため、TOFスキャン毎にスペクトラムの形状(ピーク値の強度やスペクトラムの幅など)が変化する。
【0009】
TOF−MSの大きな特徴として、イオン検出信号の電圧振幅値は、TOFスキャンの回数(時間の経過)によって徐々に変化する特性を持っている。ここで、“徐々に”とは1回前のTOFスキャンで取得した振幅値に対して倍半分以下の変化量を指すこととし、振幅値が急激に変動するものではないことを意味する。
【0010】
TOFスキャン回数に対するイオン検出信号の最大振幅値の変化は、図10のようになる。最大振幅値とは、1回のTOFスキャンで得られたスペクトラムデータの中で最大ピーク値と最小ピーク値の電圧差を指している(図9参照)。この最大振幅値は、検出器に衝突するイオン量に比例しており、すなわち図10の特性は測定中のイオン濃度の変化も表している。この特性は、マススペクトル測定を開始した(イオン流入)後に増大し、ピークを迎えると、その後、徐々に減衰していき、その最大値と最小値の振幅差は20倍以上になる場合もある。これは、マススペクトル測定開始直後はイオン濃度も高く、TOFスキャンで打ち出されるイオン数も多いが、TOFスキャンを繰り返すことで徐々に濃度が薄くなってくるためである。また、試料やTOF内部の真空度の違いなどにより特性の形状には若干の差異はあるものの、図10のような徐々に、またはある程度単調な最大振幅値の変動特性を示す。
【0011】
そのため、例えば、上記特性の最大値側にA/D変換器のフルスケール(入力可能電圧範囲)を合わせて測定した場合には、振幅値が低い信号に対するA/D変換器のダイナミックレンジ(分解能)が不足し、測定精度が大きく劣化してしまう。逆に、最小値側に合わせて測定した場合には、振幅が大きい信号に対して、A/D変換器がオーバーレンジを起こし、正しいデータが取得されないため、同じように測定精度が大きく劣化してしまうといった問題がある。
【0012】
一般的には、極めて高いダイナミックレンジ(多ビット)を持ったA/D変換器を用いることにより、このような問題を解決することは可能であるが、サンプリング周波数(時間分解能)の高いA/D変換器になると、ビット数の増加に伴い、コストの上昇を招いてしまうという問題が生じる。
【0013】
また、前記特許文献1の技術では、一度マススペクトルを得てから、オーバーレンジの判断後、再度測定を行うために測定時間が長大化する。
【0014】
以上のように、質量分析装置におけるデータ収集回路では、イオン検出信号の測定精度(SN比)を向上させるために、実施したTOFスキャン回数分のデータは全て収集し、積算処理される。そのため、従来技術の一つ目の問題点は、低いダイナミックレンジでの測定データやオーバーレンジを起こした測定データが収集されると、積算データの信号再現性が大きく劣化してしまうことである。
【0015】
また、従来技術の2つ目の問題点は、A/D変換器からのオーバーレンジ信号の発生を検出して所定の測定感度となるまで再測定を繰り返す方法では、所望のマススペクトルを得るまでの測定時間が長大化することである。
【0016】
そこで、本発明は、以上のような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、飛行時間型の質量分析装置におけるA/D変換方式の質量分析用データ処理装置において、測定時間の経過に伴って信号レベルが変化するようなイオン信号に対しても、全てのTOFスキャンにおいて、A/D変換器でのオーバーレンジを発生させず、かつ高いダイナミックレンジでの測定を行うことで、イオン信号の再現性が高く、かつ所望のマススペクトルを効率良く短時間で得るための技術を提供することにある。
【0017】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0019】
前記目的を達成するために、本発明は、飛行時間データの測定・収集を行うA/D変換方式の質量分析用データ処理装置において、イオンの打ち出し毎にイオン検出信号の最大電位差を測定して格納する電位差演算手段と、電位差演算手段の出力により次回測定時のゲイン量を決定して設定するゲイン制御手段と、ゲイン制御手段によりゲインが調整されたイオン検出信号をサンプリングするA/D変換器とを少なくとも備え、以下のような実現手段を有するものである。
【0020】
本発明の1つ目の実現手段は、1回前または複数回前のTOFスキャンデータからイオン検出信号の最大振幅値(または所定の演算値)を抽出し、次のTOFスキャンが実行される前に、その最大振幅値(または所定の演算値)を元に最適なゲイン量を決定し、入力信号のゲインを調整することにより、イオン信号をA/D変換器でサンプリングするものである。
【0021】
また、本発明の2つ目の実現手段は、マススペクトルを得るためのゲイン調整値を予め取得しておき、TOFスキャン毎にその調整値をTOFスキャンが実行される前にゲイン量を設定し、イオン信号をA/D変換器でサンプリングするものである。
【0022】
さらに、本発明の3つ目の実現手段は、TOF部にイオン量を検出する新たな検出器を設けて、TOFスキャン前に総イオン量を測定し、そのイオン量より、適切なゲイン調整値を算出して、TOFスキャンが実行される前にゲイン量を設定し、イオン信号をA/D変換器でサンプリングするものである。
【発明の効果】
【0023】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0024】
本発明によれば、飛行時間型の質量分析装置におけるA/D変換方式の質量分析用データ処理装置において、TOFスキャン毎に適切なゲイン調整を行ってイオン信号をA/D変換器によりサンプリングするので、A/D変換器でのオーバーレンジを発生させず、かつ高いダイナミックレンジで測定が可能となり、イオン信号の信号再現性が高く、かつ所望のマススペクトルを効率良く得ることができる。
【0025】
また、本発明によれば、飛行時間型の質量分析装置におけるA/D変換方式の質量分析用データ処理装置において、TOFスキャン毎の適切なゲイン調整に加えて、更に測定中にオーバーレンジが発生しても、それを検出してデータの格納有無の制御を行ってイオン信号のA/D変換器によるサンプリング精度を劣化させずに信号積算を可能にできる。これにより、高いダイナミックレンジを実現して、イオン信号の信号再現性が高く、かつ所望のマススペクトルを効率良く得ることができる。
【0026】
さらに、本発明によれば、飛行時間型の質量分析装置におけるA/D変換方式の質量分析用データ処理装置において、測定を行う試料の濃度や種類によるイオン信号の信号振幅に対する適切なゲイン調整値を与えたり、また、1回または複数回前のマススペクトル測定時のイオン信号の信号振幅から得た結果から適切なゲイン調整値を測定開始時より設定可能にすることで、測定開始直後より、高いダイナミックレンジを実現して、イオン信号の信号再現性が高く、かつ所望のマススペクトルを効率良く得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0028】
(実施の形態1)
図1により、本発明の実施の形態1であるA/D変換方式の質量分析用データ処理装置を用いた質量分析装置の構成の一例を説明する。図1は、A/D変換方式の質量分析用データ処理装置を用いた質量分析装置の構成を示す。
【0029】
実施の形態1の質量分析装置は、飛行時間型の質量分析装置であり、以下に述べる所定の方法によりデータ収集を行うものである。
【0030】
この質量分析装置は、分析を行う試料をイオン化する導入部1と、イオン化された試料に電圧を印加して加速させ、検出器に向けてイオンを飛行させるTOF部2と、飛行してきたイオンを検出する検出器21と、イオンを加速させるタイミングを決定するイオン打ち出し信号4aを発生するイオン打ち出し信号発生器4とを有する部分と、検出器21から発生されるイオン検出信号2aの電圧値および飛行時間を計測・収集するためのデータ収集回路500と、それを制御し、取得したデータ500bを解析処理するためのCPU6と、その測定結果および解析結果を表示し、ユーザが装置制御を行うための入出力装置7とから構成される。
【0031】
ここで、実施の形態1のデータ収集回路500は、基本的にはA/D変換器を用いた質量分析用データ処理装置であり、イオン検出信号2aをデジタル化し、TOFスキャンデータ51aに変換するA/D変換器51と、デジタル化されたTOFスキャンデータ51aの積算処理を行う信号積算演算回路54と、積算されたデータを格納する積算メモリ53と、クロック発生器50と、カウンタ52と、後述の構成要素とで構成される。
【0032】
このデータ収集回路500は、A/D変換器51の前段で、入力されるイオン信号のレベルを任意に調整できるゲイン調整回路55と、デジタル化されたTOFスキャンデータ51aからイオン信号の最大振幅値を求める電位差演算回路56と、最大振幅値から次のTOFスキャン時に最適なゲイン量を求め、ゲイン調整回路55のゲインを設定するゲイン制御回路57とで構成されている。
【0033】
クロック発生器50は、データ収集回路500内の各構成回路で使用する様々な動作クロックを生成することができ、A/D変換器51や、カウンタ52など、このクロック発生器50からのクロック信号に同期して動作している。また、カウンタ52はデータ収集回路500内の各構成回路の時間情報となるカウンタ値52aや、測定開始信号500aを生成することができる。
【0034】
次に、TOFスキャンを1回実行した時のデータ収集回路500の動作について説明する。
【0035】
ここでは、TOFスキャンが実行される前に、ゲイン制御回路57から出力されたゲイン量データ57aが、すでにゲイン調整回路55および信号積算演算回路54に設定されている状態とする。ゲイン量データ57aの初期値はn(但し、0≦n)とし、次のTOFスキャン時には、ゲイン調整回路55ではn倍、信号積算演算回路54では1/n倍という値が使用される。
【0036】
まず、CPU6もしくは外部の装置からTOFスキャン開始命令が与えられると、データ収集回路500内のカウンタ52で測定開始信号500aが発生される。データ収集回路500では、この信号の発生時間が基準時間(0秒)となり、ユーザが設定する時間範囲においてデータ収集が行われる。
【0037】
測定開始信号500aを受けたイオン打ち出し信号発生器4は、TOF部2にイオン打ち出し信号4aを送り、TOF部2はその信号を受けたタイミングでイオンを打ち出す。打ち出されて飛行したイオンが検出器21に到着(衝突)すると、検出器21からはイオン検出信号2aが発生される。
【0038】
イオン検出信号2aはデータ収集回路500に入力され、ゲイン調整回路55でゲインを調整されてから、A/D変換器51でサンプリングされる。
【0039】
ゲイン調整回路55には、初期値としてn倍が設定されているため、入力されたイオン検出信号2aはn倍されてA/D変換器51に入力される。
【0040】
A/D変換器51では、n倍されたイオン検出信号55aを、ある時間周期でサンプリングし、各時間での電圧値を示すTOFスキャンデータ(デジタル値データ)51aに変換する。取得されたTOFスキャンデータ51aは、n倍にゲイン調整された値のため、信号積算演算回路54にて元の値に換算(1/n倍)しながら積算メモリ53に格納する。すでに積算メモリ53にデータが格納されている場合は、信号積算演算回路54にて一旦積算メモリ53の内容を読み出し、換算後の現在のTOFスキャンデータ51aを加算してから、再度、積算メモリ53に格納する。
【0041】
TOFスキャンデータ51aは、積算メモリ53に格納される一方で、次のTOFスキャン時のゲイン量を決定するために使用される。電位差演算回路56では、TOFスキャンデータから、最大の電圧値を示す最大ピーク値と、最小の電圧値を示す最小ピーク値を検出し、その電位差を演算することにより、TOFスキャンデータ中の最大振幅値が求められる。この最小ピーク値には、A/D変換器51に信号を入力していない状態で測定した時のノイズレベル電圧(最大値または平均値)や、ユーザが直接設定した値を用いても良い。
【0042】
次に、ゲイン制御回路57は、現在のTOFスキャンデータ51aから求めた最大振幅値56aを基に、次のTOFスキャン時のイオン信号レベルが、なるべくA/D変換器51のフルスケールに近く、かつ、オーバーレンジを起こさないようなゲイン量を決定する。
【0043】
続いて、図2および図3により、実施の形態1のゲイン制御回路57におけるゲイン調整処理の一例について説明する。図2は、イオン信号の最大振幅値特性とゲイン調整処理の様子を示す。図3は、マススペクトル測定時の処理フローを示す。
【0044】
図3のフローチャートは1回のマススペクトル処理を示しており、処理308はゲイン制御回路57が行う処理を示す。また本実施の形態では、各TOFスキャン間に生じる最大振幅値の変化が、1回前の値に対して±25%(1/4)以内である信号(急激な変化はしない信号)についてゲイン調整を行った場合の動作を説明する。
【0045】
測定開始から処理300〜303(初期ゲイン量設定、TOFスキャン実行、測定データ格納、最大振幅値算出)によって、1回目のTOFスキャンが終了し、TOFスキャンデータから最大振幅値が算出される。
【0046】
次に、ゲイン制御回路57では、ゲイン調整されているデータから算出された最大振幅値が、A/D変換器51のフルスケールに対し、どのくらいのレベルであるかを判定し、次のTOFスキャン時のゲインを決定する(処理304)。処理304における判定は、図2に示すように、A/D変換器51のフルスケールを4等分し、得られた最大振幅値がフルスケールの1/4以下の範囲である場合はゲイン量(現設定値)を2倍し(処理305)、最大振幅値がフルスケールの3/4以上の範囲である場合は、ゲイン量(現設定値)を1/2倍する(処理306)。また、それ以外の範囲である場合は、ゲイン量は変えずに現設定値のまま(1倍)とする。
【0047】
ここで、ゲイン量を決定するための最大振幅値には、1回前のTOFスキャンデータを用いているが、複数回前までのTOFスキャンデータから算出した最大振幅値(例えば、平均値,最大値、等)を使用しても良い。初期ゲイン量設定(処理300)は、これまでの測定、または前回のマススペクトル測定で得られた最大振幅値等から決定してもよく、1回目のTOFスキャン時にできるだけオーバレンジを発生させず、かつA/D変換器のフルスケールに近い値とするものであればよい。
【0048】
実際に最大振幅値が変化したときにゲイン量がどのように調整されるかを図2に示す。例えば、フルスケールが400mVのA/D変換器51を使用し、ゲイン設定値の初期値が1倍で、測定された最大振幅値が240mVであった場合(TOFスキャン1回目)、フルスケールの1/4〜3/4の範囲と判定され、次回TOFスキャン時のゲイン設定値はそのまま1倍に設定される。
【0049】
次にTOFスキャン2回目では、測定された最大振幅値が305mVであり、フルスケールの3/4以上の範囲と判定され、次回TOFスキャン時のゲイン設定値はフローチャートの処理306に従って1/2倍となる。
【0050】
以下、同様に処理が繰り返され、TOFスキャン8回目では最大振幅値が95mVであり、フルスケールの1/4以下の範囲と判定されるため、次回TOFスキャン時のゲイン設定値はフローチャートの処理305に従って2倍され、ここでは2倍に設定される。
【0051】
ゲイン制御回路57で決定されたゲイン量データ57aは、ゲイン調整回路55と信号積算演算回路54に送られる。
【0052】
このゲイン量データ57a(n)は、ゲイン調整回路55では、前述したように次回TOFスキャン時のゲイン量(×n)として設定される。
【0053】
信号積算演算回路54では、現在のTOFスキャンデータ51aの電圧値を、ゲイン量データ57a(n)に従って、元の値に換算(×1/n)しながら積算メモリ53に格納する。
【0054】
すでに積算メモリ53にデータが格納されている場合は、信号積算演算回路54にて一旦、積算メモリ53の内容を読み出し、現在のTOFスキャンデータ51aを加算してから、再度、積算メモリ53に格納される。
【0055】
もし、A/D変換器51でオーバーレンジを発生してしまった場合は、A/D変換器51から出力されるオーバーレンジ信号を信号積算演算回路54で検出し、その回のTOFスキャンデータの積算を行わないようにする。これにより、オーバーレンジ発生時に取得したデータを積算しないようにするため、マススペクトル測定の精度劣化を防ぐこともできる。
【0056】
TOFスキャンを終えると、処理307にてTOFスキャン回数による測定終了判定が行われ、条件を満たしていない場合、処理301(TOFスキャン実行)に戻って処理が繰り返され、条件を満たした場合には、測定終了となる。
【0057】
このように、ゲイン制御回路57では、1回前または複数回前のTOFスキャンから算出された最大振幅値を基に、次のTOFスキャンにおいてオーバーレンジを発生させないように、かつ、なるべく高いダイナミックレンジで測定できるようなゲイン設定値を決定することができる。
【0058】
本実施の形態では、1回のマススペクトル測定中のゲイン制御について主に述べたが、マススペクトル測定毎の測定開始時のゲイン制御も同様に、1回前または複数回前のマススペクトル測定中に算出された最大値振幅を基に、次のマススペクトル測定の開始時にオーバーレンジを発生させない様に、かつ、なるべく高いダイナミックレンジで測定できる様なゲイン調整値を決定すれば良いことは容易に分かる。
【0059】
以上のように、実施の形態1の質量分析用データ処理装置によれば、A/D変換方式のデータ収集回路500において、1回前または複数回前のTOFスキャンで取得したデータからイオン検出信号の最大振幅値を検出し、その最大振幅値を基に、次回TOFスキャン時の入力信号レベルのゲインを調整しながら測定するので、全てのTOFスキャンでオーバーレンジを発生させないように、かつ、なるべく高いダイナミックレンジでの測定を行うことができる。
【0060】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2における質量分析用データ処理装置およびデータ処理方法について説明する。
【0061】
実施の形態2におけるデータ収集回路は、ゲイン調整方法に特徴があり、ハード的な構成および測定データの積算方法は前記実施の形態1と同様である。
【0062】
図4により、TOFスキャン回数に対するイオン信号の最大振幅値特性の一例を説明する。図4は、イオン信号の最大振幅値特性を示す。
【0063】
前記実施の形態1では、TOFスキャン間に生じる最大振幅値の変化量が、1回前の値に対して±25%(1/4)以内であることを前提としているが、試料や測定条件によっては、図4に示すように、急な立ち上がりを持った特性を示す場合がある。
【0064】
図4に示す特性では、マススペクトル測定開始(イオン流入)直後から最大振幅値は急激に増大し、1回目と2回目のTOFスキャン間の最大振幅値の変化量は、1回前のデータに対して4倍以上増加し、2回目と3回目のTOFスキャン間の変化量は2倍以上に増加している。但し、最大振幅値がピークを迎えてからは急激に減衰することはなく、図2と同様に徐々に減衰していく特性を示す。
【0065】
このような特性に対し、前記実施の形態1で説明したゲイン調整を適用した場合、信号の最大振幅値が急激に変化する範囲のTOFスキャンにおいて、図4に示すようにゲイン制御が最適なゲイン値に追従できず、オーバーレンジが発生してしまう可能性がある。
【0066】
そこで、実施の形態2では、マススペクトル測定の前にプレスキャンを実施し、あらかじめイオン信号の最大振幅値特性を測定して、その特性に合わせた最適なゲイン量データを算出・記録し、実際のマススペクトル測定では、記録してあるゲイン量データをそのTOFスキャン番号に合わせてメモリから読み出して設定することによって、全てのTOFスキャンでオーバーレンジを発生させずに、かつ、高いダイナミックレンジでの測定が可能となる。
【0067】
図5により、実施の形態2におけるマススペクトル処理の一例を説明する。図5は、マススペクトル測定時の処理フローを示す。
【0068】
まず、処理500でプレスキャン実行時の初期ゲイン量を設定する。但し、処理500はプレスキャン実行前であり、測定する最大振幅値特性のピーク値が分からないため、大きい信号が入ってきてもオーバーレンジを起こさないようなゲイン量を設定しておく。
【0069】
次に、プレスキャンを実行する(処理501)。プレスキャンでは、マススペクトル測定と同等の測定(同じ回数のTOFスキャン)が行われ、TOFスキャン番号毎に最大振幅値を測定し、その測定値を基に、TOFスキャン番号毎に最適なゲイン量を算出する。プレスキャンで算出されたゲイン量データは、処理502でゲイン制御回路57の内部にあるゲイン量メモリに格納される。
【0070】
ここで、最大振幅値から最適なゲイン量を算出する方法は、前記実施の形態1で説明したゲイン制御のように、A/D変換器51のフルスケールに対して設けたしきい値に従ってゲイン量を決定しても良いし、一旦、最大振幅値特性のデータをCPU6に転送し、CPU6にて最適なゲイン量データを演算しても良い。また、プレスキャンは1回とは限らず、複数回実行して、複数回分のゲイン量データの平均値を求め、その値をゲイン量メモリに格納しても良い。
【0071】
処理503では、処理504で実行されるTOFスキャン番号に合わせて、ゲイン量メモリから最適なゲイン量を読み出し、ゲイン調整回路55および信号積算演算回路54に自動的に設定する。処理504,505ではプレスキャンによって決められたゲイン設定でTOFスキャンを実行し、測定データを積算メモリ53に格納する。TOFスキャン終了後は、処理506でスキャン回数による測定終了判定が行われ、条件を満たしていない場合、処理503に戻り、次のゲイン設定からTOFスキャン処理が処理507で繰り返され、条件を満たした場合にはそこで測定終了となる。
【0072】
このように、実施の形態2では、マススペクトル測定の前にプレスキャンを実施し、あらかじめ最大振幅値の特性を測定して、その特性に合わせた最適なゲイン量データを算出・記録しておくことによって、図4のように、最大振幅値が急激に変化するようなイオン信号に対しても、記録されたゲイン量データに従って、自動的に最適なゲインを調整できるため、全てのTOFスキャンでオーバーレンジを発生させず、かつ、なるべく高いダイナミックレンジでの測定が可能となる。
【0073】
また、イオン信号の最大振幅値の特性は、試料や測定条件によって変化するため、マススペクトル測定時の特性が、必ずしもプレスキャンで測定した特性と一致するとは限らない。特に、急激に振幅値が増大する立ち上がりの部分については、その変化量が大きすぎる故に、TOFスキャン毎の最大振幅値が再現しない場合がある。そのため、プレスキャンで算出・記録したゲイン量データを設定して測定を行ったにも関わらず、オーバーレンジを起こしてしまう可能性がある。
【0074】
この場合、実施の形態2におけるデータ収集回路では、例えば、TOFスキャン3回目で最大振幅値がピークを迎えるような急激な立ち上がりを持った特性に対しては、3回目まで(最大振幅値がピークを迎えるまで)のTOFスキャンは、TOFスキャン番号毎に記録されているゲイン量を使用せずに、最大振幅値特性のピーク値に合わせて求めたゲイン量を使用することによって、立ち上がり部分でのオーバーレンジを発生させないように対応することが可能である。
【0075】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3における質量分析用データ処理装置およびデータ処理方法について説明する。
【0076】
実施の形態3におけるデータ収集回路は、ゲイン調整方法に特徴があり、ハード的な構成および測定データの積算方法は前記実施の形態1と同様である。
【0077】
イオン信号の最大振幅値特性において、ピークの地点から徐々に減衰していく立ち下がりの部分については、試料・測定条件が変わってもほぼ同じ特性が得られると前述したが、立ち上がり部分の特性の違いによっては、立ち下がり部分の特性も若干変わってきてしまう。
【0078】
そのため、前記実施の形態2では、プレスキャンによって、あらかじめイオン信号の最大振幅値の特性に合わせた最適なゲイン量を記録しておくことによって、全てのTOFスキャンでオーバーレンジを発生させず、かつ、なるべく高いダイナミックレンジでの測定を実現していたが、上記のような理由でマススペクトル測定時のイオン信号の最大振幅値特性(特に立ち下がり側の特性)がプレスキャン時と異なってしまうような場合には、事前に記録したゲイン量データでは正しいゲイン調整ができずに、逆にオーバーレンジを発生したり、測定のダイナミックレンジが低くなってしまう可能性がある。
【0079】
そこで、実施の形態3では、前記実施の形態1と前記実施の形態2を組み合わせ、イオン信号の最大振幅値の特性がピークを迎えるまでの立ち上がり部分と、ピーク後の立ち下がり部分によって、ゲイン調整方法を切り替えてTOFスキャンを行うことによって、マススペクトル測定時のイオン信号の最大振幅値特性(特に立ち下がり側の特性)がプレスキャン時と異なってしまうような場合でも、全てのTOFスキャンでオーバーレンジを発生させずに、かつ、なるべく高いダイナミックレンジでの測定が可能となる。
【0080】
図6により、実施の形態3におけるマススペクトル処理の一例を説明する。図6は、マススペクトル測定時の処理フローを示す。
【0081】
実施の形態3では、処理600〜605(処理613)、処理606、処理607〜612(処理614)からなり、処理606を境にしてTOFスキャンのゲイン調整方法を切り替える。
【0082】
まず、イオン信号の最大振幅値の特性がピークを迎えるまでのTOFスキャン(処理613)は、前記実施の形態2で説明したプレスキャンによるゲイン調整によってTOFスキャンが行われる。処理613(処理600〜605)の詳細については、前記実施の形態2の図5で説明したフローチャートと同様であるため省略する。
【0083】
処理606では、取得された最大振幅値の変化方向が判定される。前回のTOFスキャンで取得した最大振幅値に比べ、今回のTOFスキャンで取得した最大振幅値の方が大きければ、現在のTOFスキャンで得た最大振幅値は、特性の立ち上がり側の値と判断され、処理603〜606が繰り返される。
【0084】
逆に、今回のTOFスキャンで取得した値の方が小さい場合、特性の立ち下がり側と判断され、処理607に進む。
【0085】
振幅値特性の立ち下がり側に入った場合のTOFスキャン処理614は、前記実施の形態1と同じように、1回前のTOFスキャンデータを基にしたゲイン調整によるTOFスキャンが行われる。処理614(処理607〜612)の詳細については、前記実施の形態1の図3で説明したフローチャートと同様であるため省略する。
【0086】
図6において、処理606の判定は、最大振幅値が前回TOFスキャン時より小さくなった場合としたが、最大振幅値の変化がある程度緩やかになった場合に処理614に移行してもよい。
【0087】
このように、実施の形態3では、前記実施の形態1と前記実施の形態2を組み合わせ、イオン信号の最大振幅値特性のピーク値の前後でTOFスキャンのゲイン調整の方法を切り替え、イオン信号の最大振幅値の特性がピークを迎えるまでの立ち上がり部分では、前記実施の形態2のようにあらかじめ記録したゲイン量に従ってTOFスキャンを行い、ピーク後の立ち下がり部分については、前記実施の形態1のように1回前のTOFスキャンデータを基に、次のTOFスキャンに最適なゲイン量を算出しながらTOFスキャンを行うことによって、イオン信号の最大振幅値の特性がピークを迎えるまでの特性が急峻で、マススペクトル測定時の最大振幅値特性の立ち下がり部分の特性がプレスキャン時と変わってしまうような場合でも、全てのTOFスキャンでオーバーレンジを発生させず、かつ、なるべく高いダイナミックレンジでの測定が可能となる。
【0088】
(実施の形態4)
次に、本発明の実施の形態4における質量分析用データ処理装置およびデータ処理方法について説明する。
【0089】
前記実施の形態1と重複する構成要素については、その機能の説明はできる限り省略する。
【0090】
図7により、本発明の実施の形態4であるA/D変換方式の質量分析用データ処理装置を用いた質量分析装置の構成の一例を説明する。図7は、A/D変換方式の質量分析用データ処理装置を用いた質量分析装置の構成を示す。
【0091】
実施の形態4の質量分析装置では、前記実施の形態1の構成に加え、イオンを検出するための検出器21と、TOFスキャンで打ち出される前にTOF部200内に流入してきたイオン流量を検出するためのイオン流量検出器22で構成される。
【0092】
また、実施の形態4におけるデータ収集回路501は、前記実施の形態1の構成に加え、データ入力信号を選択するための選択器58と、A/D変換器51でデジタル化されたTOFスキャンデータ51aを基に、電圧値の積算値を求める電圧値演算回路59で構成され、TOFスキャン前にあらかじめTOF部200内のイオン量を検出しておき、そのイオン量によってイオン検出信号21aのゲインを調整することにより、前述したようなTOFスキャン毎に信号レベルが変化するイオン検出信号に対して、全てのTOFスキャンでプレスキャンを行うことなく、イオン量に対応したダイナミックレンジの設定を行うことができる。
【0093】
図8により、実施の形態4におけるマススペクトル処理の一例を説明する。図8は、マススペクトル測定時の処理フローを示す。
【0094】
マススペクトル測定が開始されると、データ収集回路501は選択器58を端子b側に切り替え、イオン流量検出器22からの信号22aの測定を開始する。
【0095】
この選択器58は、カウンタ61からの切り替え信号61bによって制御される(処理800)。
【0096】
処理801では、TOF部200に流入してくるイオン流量を測定する。イオン流量検出器22で、TOFスキャン前にTOF部200内に流れ込んできたイオン量を検出し、その検出信号22aをデータ収集回路501のA/D変換器51でサンプリングする。次に、電圧値演算回路59において、A/D変換器51から出力されるサンプリング時間毎の電圧値データを全て積算する。このTOFスキャン前のイオン量測定時間は任意の時間とし、ユーザが自由に設定できるものとする。
【0097】
次に、ゲイン制御回路60では、電圧値演算回路59で算出された積算電圧値59aを基に、TOFスキャン時のイオン信号を測定するために最適なゲイン量を決定し、ゲイン調整回路55および信号積算演算回路54に設定される。ゲイン量データ60aを算出する方法は、あらかじめ作成しておいた変換テーブルに従って、イオン量からゲイン量データ60aを決定しても良いし、イオン量測定(処理801)毎にある変換式を用いた演算処理で求めても良い。処理801〜802によってゲイン量が決定されると、データ収集回路501は選択器58を端子a側に切り替え、従来と同様にTOFスキャン(処理804)が実行される。
【0098】
このように、実施の形態4によれば、前記実施の形態1〜3のようにイオン検出信号から抽出した値によってゲイン調整を行うのではなく、TOF部200に別の検出器を設け、TOFスキャン前にあらかじめTOF部200内のイオン量を検出しておき、そのイオン量によってイオン検出信号21aのゲインを調整することにより、前述したようなTOFスキャン毎のイオン濃度(信号レベル)が変化するイオン検出信号に対して、全てのTOFスキャンでプレスキャンを行うことなく、イオン量に対応したダイナミックレンジの設定を行うことができ、装置の高感度化を実現する質量分析用データ処理装置を提供できる。
【0099】
以上、述べた実施の形態1〜4で説明した電位差演算回路56、電圧値演算回路59、ゲイン制御回路57,60は、近年の計測ボート等の信号処理で一般的に使われているFPGA(Field Programmable Gate Array)やそれに搭載されているMPU等を使用すれば、容易に実現することができるので、種々の実現手段があることは言うまでもない。
【0100】
(実施の形態5)
次に、本発明の実施の形態5における質量分析用データ処理装置およびデータ処理方法について説明する。
【0101】
実施の形態5では、前記実施の形態1で述べたオーバーレンジが発生したTOFスキャンデータの処理方法について詳しく説明する。本実施の形態の説明は、前記実施の形態1を用いて説明し、重複する構成要素については、その機能の説明はできる限り省略する。
【0102】
図11により、本発明の実施の形態5における積算メモリの構成の一例を説明する。図11では、積算メモリ530の構成に加えて、A/D変換器510、信号積算演算回路540も併せて示す。積算メモリ530は、ODD側メモリ回路531と、EVEN側メモリ回路532からなる。なお、積算メモリ530内のメモリ回路は3つ以上でも良い。A/D変換器510の出力信号(510a)は、A/D変換器510でデジタル化したデータに加えて、A/D変換器510の信号入力時がオーバーレンジしたことを示すデータが含まれている。
【0103】
TOFスキャンが奇数回の場合の動作(処理1)は、A/D変換器510でサンプリングされたデータ510aと、ODD側メモリ回路531でそれまでに積算処理されたデータを読み出し、加算処理を行ってEVEN側メモリ回路532に格納する。同様に、TOFスキャンが偶数回の場合の動作(処理2)は、A/D変換器510でサンプリングされたデータ510aと、EVEN側メモリ回路532でそれまでに積算処理されたデータを読み出し、加算処理を行ってODD側メモリ回路531に格納するものである。従って、マススペクトルを得るための積算処理結果は、測定終了後に最終的な積算結果が格納されているメモリ回路からデータを読み出すこととなる。
【0104】
次に、オーバーレンジを発生したTOFスキャンの全データを廃棄する処理について説明する。例えば、処理1の動作状態である奇数回目のTOFスキャン中にオーバーレンジが発生した場合を例にとる。オーバーレンジを発生したTOFスキャンは通常通り終了させるが、次のTOFスキャンも、処理1の積算メモリ530の使用方法で積算処理を行う。これは、再度処理1の動作状態からデータ格納を行うことにより、オーバーレンジが発生する前までの積算結果が格納されているEVEN側メモリ回路532を読み出して、新たにサンプリングしたデータを加算処理することにより、オーバーレンジを発生したTOFスキャンデータを廃棄することが容易に実現可能である。
【0105】
次に、本実施の形態におけるゲイン量調整データの制御方法について説明する。オーバーレンジを発生していない場合は、前記実施の形態1と同じ方法で行えばよいが、オーバーレンジの発生時は、最大振幅値の演算が精度よく行えないので、無条件でオーバーレンジが発生しない方向にゲイン量調整データを変更すればよい。
【0106】
本実施の形態では、前記実施の形態1を例として説明したが、前記実施の形態2,3においても、図11で示した積算メモリを使用することで、容易にオーバーレンジを発生したTOFスキャン時の全データの廃棄が可能である。
【0107】
以上、本実施の形態によれば、オーバーレンジが発生した場合でも、オーバーレンジによる信号積算結果の劣化を容易に防ぐことが可能である。
【0108】
(実施の形態6)
次に、本発明の実施の形態6における質量分析用データ処理装置およびデータ処理方法について説明する。
【0109】
これまでの実施の形態では、前回のマススペクトル測定やTOFスキャン中の最大振幅値からゲイン量を調節するものを説明してきたが、本実施の形態では、マススペクトル測定を開始する前等の様に、前回の測定の最大振幅値がない場合、または、装置ユーザが試料の濃度等を変更した場合における測定開始時のゲイン値設定方法について述べる。本実施の形態では、試料の濃度とイオン信号の最大振幅値の相関関係を予め求めておき、その関係式から測定のゲイン量を決定するものである。
【0110】
これにより、本実施の形態によれば、測定の開始時点から、適切なゲイン量で測定を開始することができる様になる。本実施の形態によるゲイン量調整は、前記実施の形態1,2,3のいずれにも適用可能である。
【0111】
(実施の形態7)
次に、本発明の実施の形態7における質量分析用データ処理装置およびデータ処理方法について説明する。
【0112】
実施の形態7では、前記実施の形態1で述べたTOFスキャンデータの処理方法を基に説明し、重複する構成要素については、その機能の説明はできる限り省略する。
【0113】
本実施の形態では、A/D変換器51における信号のサンプリングする速度がクロック発生器50から発生されるクロック周期(t)秒で行われるが、データ積算時にこのクロック周期以下でデータをサンプリングする場合について以下に述べる。
【0114】
図12により、本発明の実施の形態7における検出器からゲイン調整回路までの構成の一例を説明する。図12では、イオンを検出する検出器21とゲイン調整回路55との間に、経路長可変回路600が設けられている。経路長可変回路600は、2つの経路を切り替えるための選択器601,602と、クロック発生器50のクロック発生周期の1/2の遅延である0.5tの遅延器603からなり、経路aと、遅延器603を介して0.5tだけ遅延量を生み出す経路bが形成されている。経路a,bの選択を行うための信号は、カウンタ52から発生され、それに従って選択器601,602でイオン検出信号21aの通過経路を決定する。
【0115】
積算メモリ53への信号積算のサンプリング間隔は、前記実施の形態1ではクロック周期tであったが、本実施の形態では0.5tとなる。ここでは、カウンタ52でTOFスキャン回数の制御を行っており、奇数回目のTOFスキャン時は経路aを選び、偶数回目のTOFスキャン時は経路bを選んで、イオン検出信号21aの積算処理を行う。その際の信号積算は、奇数回目のTOFスキャンにおいて、測定開始信号500aを基準に経路aを選択して0.5tの遅延のないイオン検出信号のサンプリングを行い、偶数回目のTOFスキャンにおいて、測定開始信号500aを基準に経路bを選択して0.5tの遅延させたイオン検出信号のサンプリングを行い、それらの結果を格納する。従って、TOFスキャン終了後には、0.5t間隔でイオン検出信号をサンプリングした結果が格納されるものである。
【0116】
以上、本実施の形態によれば、サンプリング間隔tのデータ収集回路を使用してサンプリング周期0.5tを実現することができる。また、本実施の形態では、サンプリング周期tの1/2を例にとって説明したが、経路長可変回路600内の経路数を増やすことで、容易にサンプリング周期t以下のサンプリング間隔が実現できることは容易に推測できる。
【0117】
(実施の形態8)
次に、本発明の実施の形態8における質量分析用データ処理装置およびデータ処理方法について説明する。
【0118】
上述した実施の形態1〜5で説明したゲイン量の調整処理やオーバーレンジ発生時のデータ廃棄処理は、装置内の判定アルゴリズム等で行っても良いが、装置ユーザが実施の有無を決定してもなんら支障はなく、例えば、装置の制御PCから選択的に測定モード変更として行っても良い。
【0119】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、質量分析技術に関し、特に、飛行時間型の質量分析装置におけるA/D変換器を用いた質量分析用データ処理装置に適用して有効である。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明の実施の形態1におけるA/D変換方式の質量分析用データ処理装置を用いた質量分析装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるイオン信号の最大振幅値特性とゲイン調整処理の様子を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1におけるマススペクトル測定時の処理フローを示す図である。
【図4】本発明の実施の形態2におけるイオン信号の最大振幅値特性を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態2におけるマススペクトル測定時の処理フローを示す図である。
【図6】本発明の実施の形態3におけるマススペクトル測定時の処理フローを示す図である。
【図7】本発明の実施の形態4におけるA/D変換方式の質量分析用データ処理装置を用いた質量分析装置の構成を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態4におけるマススペクトル測定時の処理フローを示す図である。
【図9】本発明の前提として検討した従来の質量分析装置における測定の様子(TOFスキャン)および積算処理を示す図である。
【図10】本発明の前提として検討した従来の質量分析装置におけるTOFスキャン毎の最大振幅値特性を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態5における積算メモリの構成を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態7における検出器からゲイン調整回路までの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0122】
1…導入部、2,200…TOF部、3…ゲイン調整器、4…イオン打ち出し信号発生器、6…CPU、7…入出力装置、21…検出器、22…イオン流量検出器、50…クロック発生器、51,510…A/D変換器、52,61…カウンタ、53,530…積算メモリ、54,540…信号積算演算回路、55…ゲイン調整回路、56…電位差演算回路、57,60…ゲイン制御回路、58…選択器、59…電圧値演算回路、500,501…データ収集回路、531…ODD側メモリ回路、532…EVEN側メモリ回路、600…経路長可変回路、601,602…選択器、603…遅延器。
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析技術に関し、特に、飛行時間型の質量分析装置におけるA/D変換器(アナログ/デジタル変換器)を用いた質量分析用データ処理装置に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行時間型の質量分析装置(TOF−MS:Time Of Flight Mass Spectrometry)は、導入部、TOF部、ゲイン調整器、イオン打ち出し信号発生器、データ収集回路などから構成され、試料をイオン化して加速・飛行させ、その質量に応じた飛行時間とイオンの強度(電圧値)を測定することで試料に含まれる成分を分析する装置である。
【0003】
このTOF−MSにおける分析においては、まず、分析される試料は、導入部にてイオン化され、測定開始と同時にTOF部に送り込まれる。TOF部に入ったイオンは、イオン打ち出し信号のタイミングで電圧を印加されて、真空状態のTOF部の内部を所定の軌道で飛行する。
【0004】
TOF部の内部にて、イオンが検出器に到達(衝突)すると、検出器からはイオン検出信号が出力される。このイオン検出信号は、固定ゲイン設定のゲイン調整回路を介してA/D変換器を用いたデータ収集回路で収集され、そのデータはCPUを介して入出力装置に出力される。測定結果はマススペクトルとして表示され、個々のスペクトルの強度(電圧値)およびその時間(質量)から試料に含まれる成分を分析することができる。
【0005】
例えば、TOF−MSとしては、特許文献1に記載のように、ゲイン切替手段を設けて、オーバーレンジを検出したマススペクトルでは、ゲインを下げて再測定を行い、オーバーレンジが発生したピーク値の補償を行う技術が知られている。
【特許文献1】特許第3701136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記のようなTOF−MSについて、本発明者が検討した結果、以下のようなことが明らかとなった。図9および図10を用いて説明する。図9は質量分析装置における測定の様子(TOFスキャン)および積算処理を示す図、図10はTOFスキャン毎の最大振幅値特性を示す図である。
【0007】
たとえば、TOF−MSでは、1回の測定で得られるスペクトラムデータの測定感度(SN比)が不十分であることが多く、図9に示すように複数回の測定で得られる波形データを積算処理することによってマススペクトルを得て、測定の感度を向上させている。ここでは、マススペクトルを得るための測定をマススペクトル測定と呼び、1回の測定のことをTOFスキャンと呼ぶ。TOFスキャンとは、1回のイオン打ち出し信号によって加速された分のイオンの検出器出力データ、すなわち図9に示すような、時間to(イオン打ち出しタイミング)からt1までのスペクトラムデータを収集することを指すものとする。
【0008】
なお、図9では、説明の便宜上、どのTOFスキャンにおいてもほぼ同じ時間(質量)にピーク値を持ったスペクトラムデータとなっているが、本来は1つのイオンや、ほぼ同じ時間に複数のイオンが検出されるため、TOFスキャン毎にスペクトラムの形状(ピーク値の強度やスペクトラムの幅など)が変化する。
【0009】
TOF−MSの大きな特徴として、イオン検出信号の電圧振幅値は、TOFスキャンの回数(時間の経過)によって徐々に変化する特性を持っている。ここで、“徐々に”とは1回前のTOFスキャンで取得した振幅値に対して倍半分以下の変化量を指すこととし、振幅値が急激に変動するものではないことを意味する。
【0010】
TOFスキャン回数に対するイオン検出信号の最大振幅値の変化は、図10のようになる。最大振幅値とは、1回のTOFスキャンで得られたスペクトラムデータの中で最大ピーク値と最小ピーク値の電圧差を指している(図9参照)。この最大振幅値は、検出器に衝突するイオン量に比例しており、すなわち図10の特性は測定中のイオン濃度の変化も表している。この特性は、マススペクトル測定を開始した(イオン流入)後に増大し、ピークを迎えると、その後、徐々に減衰していき、その最大値と最小値の振幅差は20倍以上になる場合もある。これは、マススペクトル測定開始直後はイオン濃度も高く、TOFスキャンで打ち出されるイオン数も多いが、TOFスキャンを繰り返すことで徐々に濃度が薄くなってくるためである。また、試料やTOF内部の真空度の違いなどにより特性の形状には若干の差異はあるものの、図10のような徐々に、またはある程度単調な最大振幅値の変動特性を示す。
【0011】
そのため、例えば、上記特性の最大値側にA/D変換器のフルスケール(入力可能電圧範囲)を合わせて測定した場合には、振幅値が低い信号に対するA/D変換器のダイナミックレンジ(分解能)が不足し、測定精度が大きく劣化してしまう。逆に、最小値側に合わせて測定した場合には、振幅が大きい信号に対して、A/D変換器がオーバーレンジを起こし、正しいデータが取得されないため、同じように測定精度が大きく劣化してしまうといった問題がある。
【0012】
一般的には、極めて高いダイナミックレンジ(多ビット)を持ったA/D変換器を用いることにより、このような問題を解決することは可能であるが、サンプリング周波数(時間分解能)の高いA/D変換器になると、ビット数の増加に伴い、コストの上昇を招いてしまうという問題が生じる。
【0013】
また、前記特許文献1の技術では、一度マススペクトルを得てから、オーバーレンジの判断後、再度測定を行うために測定時間が長大化する。
【0014】
以上のように、質量分析装置におけるデータ収集回路では、イオン検出信号の測定精度(SN比)を向上させるために、実施したTOFスキャン回数分のデータは全て収集し、積算処理される。そのため、従来技術の一つ目の問題点は、低いダイナミックレンジでの測定データやオーバーレンジを起こした測定データが収集されると、積算データの信号再現性が大きく劣化してしまうことである。
【0015】
また、従来技術の2つ目の問題点は、A/D変換器からのオーバーレンジ信号の発生を検出して所定の測定感度となるまで再測定を繰り返す方法では、所望のマススペクトルを得るまでの測定時間が長大化することである。
【0016】
そこで、本発明は、以上のような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、飛行時間型の質量分析装置におけるA/D変換方式の質量分析用データ処理装置において、測定時間の経過に伴って信号レベルが変化するようなイオン信号に対しても、全てのTOFスキャンにおいて、A/D変換器でのオーバーレンジを発生させず、かつ高いダイナミックレンジでの測定を行うことで、イオン信号の再現性が高く、かつ所望のマススペクトルを効率良く短時間で得るための技術を提供することにある。
【0017】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0019】
前記目的を達成するために、本発明は、飛行時間データの測定・収集を行うA/D変換方式の質量分析用データ処理装置において、イオンの打ち出し毎にイオン検出信号の最大電位差を測定して格納する電位差演算手段と、電位差演算手段の出力により次回測定時のゲイン量を決定して設定するゲイン制御手段と、ゲイン制御手段によりゲインが調整されたイオン検出信号をサンプリングするA/D変換器とを少なくとも備え、以下のような実現手段を有するものである。
【0020】
本発明の1つ目の実現手段は、1回前または複数回前のTOFスキャンデータからイオン検出信号の最大振幅値(または所定の演算値)を抽出し、次のTOFスキャンが実行される前に、その最大振幅値(または所定の演算値)を元に最適なゲイン量を決定し、入力信号のゲインを調整することにより、イオン信号をA/D変換器でサンプリングするものである。
【0021】
また、本発明の2つ目の実現手段は、マススペクトルを得るためのゲイン調整値を予め取得しておき、TOFスキャン毎にその調整値をTOFスキャンが実行される前にゲイン量を設定し、イオン信号をA/D変換器でサンプリングするものである。
【0022】
さらに、本発明の3つ目の実現手段は、TOF部にイオン量を検出する新たな検出器を設けて、TOFスキャン前に総イオン量を測定し、そのイオン量より、適切なゲイン調整値を算出して、TOFスキャンが実行される前にゲイン量を設定し、イオン信号をA/D変換器でサンプリングするものである。
【発明の効果】
【0023】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0024】
本発明によれば、飛行時間型の質量分析装置におけるA/D変換方式の質量分析用データ処理装置において、TOFスキャン毎に適切なゲイン調整を行ってイオン信号をA/D変換器によりサンプリングするので、A/D変換器でのオーバーレンジを発生させず、かつ高いダイナミックレンジで測定が可能となり、イオン信号の信号再現性が高く、かつ所望のマススペクトルを効率良く得ることができる。
【0025】
また、本発明によれば、飛行時間型の質量分析装置におけるA/D変換方式の質量分析用データ処理装置において、TOFスキャン毎の適切なゲイン調整に加えて、更に測定中にオーバーレンジが発生しても、それを検出してデータの格納有無の制御を行ってイオン信号のA/D変換器によるサンプリング精度を劣化させずに信号積算を可能にできる。これにより、高いダイナミックレンジを実現して、イオン信号の信号再現性が高く、かつ所望のマススペクトルを効率良く得ることができる。
【0026】
さらに、本発明によれば、飛行時間型の質量分析装置におけるA/D変換方式の質量分析用データ処理装置において、測定を行う試料の濃度や種類によるイオン信号の信号振幅に対する適切なゲイン調整値を与えたり、また、1回または複数回前のマススペクトル測定時のイオン信号の信号振幅から得た結果から適切なゲイン調整値を測定開始時より設定可能にすることで、測定開始直後より、高いダイナミックレンジを実現して、イオン信号の信号再現性が高く、かつ所望のマススペクトルを効率良く得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0028】
(実施の形態1)
図1により、本発明の実施の形態1であるA/D変換方式の質量分析用データ処理装置を用いた質量分析装置の構成の一例を説明する。図1は、A/D変換方式の質量分析用データ処理装置を用いた質量分析装置の構成を示す。
【0029】
実施の形態1の質量分析装置は、飛行時間型の質量分析装置であり、以下に述べる所定の方法によりデータ収集を行うものである。
【0030】
この質量分析装置は、分析を行う試料をイオン化する導入部1と、イオン化された試料に電圧を印加して加速させ、検出器に向けてイオンを飛行させるTOF部2と、飛行してきたイオンを検出する検出器21と、イオンを加速させるタイミングを決定するイオン打ち出し信号4aを発生するイオン打ち出し信号発生器4とを有する部分と、検出器21から発生されるイオン検出信号2aの電圧値および飛行時間を計測・収集するためのデータ収集回路500と、それを制御し、取得したデータ500bを解析処理するためのCPU6と、その測定結果および解析結果を表示し、ユーザが装置制御を行うための入出力装置7とから構成される。
【0031】
ここで、実施の形態1のデータ収集回路500は、基本的にはA/D変換器を用いた質量分析用データ処理装置であり、イオン検出信号2aをデジタル化し、TOFスキャンデータ51aに変換するA/D変換器51と、デジタル化されたTOFスキャンデータ51aの積算処理を行う信号積算演算回路54と、積算されたデータを格納する積算メモリ53と、クロック発生器50と、カウンタ52と、後述の構成要素とで構成される。
【0032】
このデータ収集回路500は、A/D変換器51の前段で、入力されるイオン信号のレベルを任意に調整できるゲイン調整回路55と、デジタル化されたTOFスキャンデータ51aからイオン信号の最大振幅値を求める電位差演算回路56と、最大振幅値から次のTOFスキャン時に最適なゲイン量を求め、ゲイン調整回路55のゲインを設定するゲイン制御回路57とで構成されている。
【0033】
クロック発生器50は、データ収集回路500内の各構成回路で使用する様々な動作クロックを生成することができ、A/D変換器51や、カウンタ52など、このクロック発生器50からのクロック信号に同期して動作している。また、カウンタ52はデータ収集回路500内の各構成回路の時間情報となるカウンタ値52aや、測定開始信号500aを生成することができる。
【0034】
次に、TOFスキャンを1回実行した時のデータ収集回路500の動作について説明する。
【0035】
ここでは、TOFスキャンが実行される前に、ゲイン制御回路57から出力されたゲイン量データ57aが、すでにゲイン調整回路55および信号積算演算回路54に設定されている状態とする。ゲイン量データ57aの初期値はn(但し、0≦n)とし、次のTOFスキャン時には、ゲイン調整回路55ではn倍、信号積算演算回路54では1/n倍という値が使用される。
【0036】
まず、CPU6もしくは外部の装置からTOFスキャン開始命令が与えられると、データ収集回路500内のカウンタ52で測定開始信号500aが発生される。データ収集回路500では、この信号の発生時間が基準時間(0秒)となり、ユーザが設定する時間範囲においてデータ収集が行われる。
【0037】
測定開始信号500aを受けたイオン打ち出し信号発生器4は、TOF部2にイオン打ち出し信号4aを送り、TOF部2はその信号を受けたタイミングでイオンを打ち出す。打ち出されて飛行したイオンが検出器21に到着(衝突)すると、検出器21からはイオン検出信号2aが発生される。
【0038】
イオン検出信号2aはデータ収集回路500に入力され、ゲイン調整回路55でゲインを調整されてから、A/D変換器51でサンプリングされる。
【0039】
ゲイン調整回路55には、初期値としてn倍が設定されているため、入力されたイオン検出信号2aはn倍されてA/D変換器51に入力される。
【0040】
A/D変換器51では、n倍されたイオン検出信号55aを、ある時間周期でサンプリングし、各時間での電圧値を示すTOFスキャンデータ(デジタル値データ)51aに変換する。取得されたTOFスキャンデータ51aは、n倍にゲイン調整された値のため、信号積算演算回路54にて元の値に換算(1/n倍)しながら積算メモリ53に格納する。すでに積算メモリ53にデータが格納されている場合は、信号積算演算回路54にて一旦積算メモリ53の内容を読み出し、換算後の現在のTOFスキャンデータ51aを加算してから、再度、積算メモリ53に格納する。
【0041】
TOFスキャンデータ51aは、積算メモリ53に格納される一方で、次のTOFスキャン時のゲイン量を決定するために使用される。電位差演算回路56では、TOFスキャンデータから、最大の電圧値を示す最大ピーク値と、最小の電圧値を示す最小ピーク値を検出し、その電位差を演算することにより、TOFスキャンデータ中の最大振幅値が求められる。この最小ピーク値には、A/D変換器51に信号を入力していない状態で測定した時のノイズレベル電圧(最大値または平均値)や、ユーザが直接設定した値を用いても良い。
【0042】
次に、ゲイン制御回路57は、現在のTOFスキャンデータ51aから求めた最大振幅値56aを基に、次のTOFスキャン時のイオン信号レベルが、なるべくA/D変換器51のフルスケールに近く、かつ、オーバーレンジを起こさないようなゲイン量を決定する。
【0043】
続いて、図2および図3により、実施の形態1のゲイン制御回路57におけるゲイン調整処理の一例について説明する。図2は、イオン信号の最大振幅値特性とゲイン調整処理の様子を示す。図3は、マススペクトル測定時の処理フローを示す。
【0044】
図3のフローチャートは1回のマススペクトル処理を示しており、処理308はゲイン制御回路57が行う処理を示す。また本実施の形態では、各TOFスキャン間に生じる最大振幅値の変化が、1回前の値に対して±25%(1/4)以内である信号(急激な変化はしない信号)についてゲイン調整を行った場合の動作を説明する。
【0045】
測定開始から処理300〜303(初期ゲイン量設定、TOFスキャン実行、測定データ格納、最大振幅値算出)によって、1回目のTOFスキャンが終了し、TOFスキャンデータから最大振幅値が算出される。
【0046】
次に、ゲイン制御回路57では、ゲイン調整されているデータから算出された最大振幅値が、A/D変換器51のフルスケールに対し、どのくらいのレベルであるかを判定し、次のTOFスキャン時のゲインを決定する(処理304)。処理304における判定は、図2に示すように、A/D変換器51のフルスケールを4等分し、得られた最大振幅値がフルスケールの1/4以下の範囲である場合はゲイン量(現設定値)を2倍し(処理305)、最大振幅値がフルスケールの3/4以上の範囲である場合は、ゲイン量(現設定値)を1/2倍する(処理306)。また、それ以外の範囲である場合は、ゲイン量は変えずに現設定値のまま(1倍)とする。
【0047】
ここで、ゲイン量を決定するための最大振幅値には、1回前のTOFスキャンデータを用いているが、複数回前までのTOFスキャンデータから算出した最大振幅値(例えば、平均値,最大値、等)を使用しても良い。初期ゲイン量設定(処理300)は、これまでの測定、または前回のマススペクトル測定で得られた最大振幅値等から決定してもよく、1回目のTOFスキャン時にできるだけオーバレンジを発生させず、かつA/D変換器のフルスケールに近い値とするものであればよい。
【0048】
実際に最大振幅値が変化したときにゲイン量がどのように調整されるかを図2に示す。例えば、フルスケールが400mVのA/D変換器51を使用し、ゲイン設定値の初期値が1倍で、測定された最大振幅値が240mVであった場合(TOFスキャン1回目)、フルスケールの1/4〜3/4の範囲と判定され、次回TOFスキャン時のゲイン設定値はそのまま1倍に設定される。
【0049】
次にTOFスキャン2回目では、測定された最大振幅値が305mVであり、フルスケールの3/4以上の範囲と判定され、次回TOFスキャン時のゲイン設定値はフローチャートの処理306に従って1/2倍となる。
【0050】
以下、同様に処理が繰り返され、TOFスキャン8回目では最大振幅値が95mVであり、フルスケールの1/4以下の範囲と判定されるため、次回TOFスキャン時のゲイン設定値はフローチャートの処理305に従って2倍され、ここでは2倍に設定される。
【0051】
ゲイン制御回路57で決定されたゲイン量データ57aは、ゲイン調整回路55と信号積算演算回路54に送られる。
【0052】
このゲイン量データ57a(n)は、ゲイン調整回路55では、前述したように次回TOFスキャン時のゲイン量(×n)として設定される。
【0053】
信号積算演算回路54では、現在のTOFスキャンデータ51aの電圧値を、ゲイン量データ57a(n)に従って、元の値に換算(×1/n)しながら積算メモリ53に格納する。
【0054】
すでに積算メモリ53にデータが格納されている場合は、信号積算演算回路54にて一旦、積算メモリ53の内容を読み出し、現在のTOFスキャンデータ51aを加算してから、再度、積算メモリ53に格納される。
【0055】
もし、A/D変換器51でオーバーレンジを発生してしまった場合は、A/D変換器51から出力されるオーバーレンジ信号を信号積算演算回路54で検出し、その回のTOFスキャンデータの積算を行わないようにする。これにより、オーバーレンジ発生時に取得したデータを積算しないようにするため、マススペクトル測定の精度劣化を防ぐこともできる。
【0056】
TOFスキャンを終えると、処理307にてTOFスキャン回数による測定終了判定が行われ、条件を満たしていない場合、処理301(TOFスキャン実行)に戻って処理が繰り返され、条件を満たした場合には、測定終了となる。
【0057】
このように、ゲイン制御回路57では、1回前または複数回前のTOFスキャンから算出された最大振幅値を基に、次のTOFスキャンにおいてオーバーレンジを発生させないように、かつ、なるべく高いダイナミックレンジで測定できるようなゲイン設定値を決定することができる。
【0058】
本実施の形態では、1回のマススペクトル測定中のゲイン制御について主に述べたが、マススペクトル測定毎の測定開始時のゲイン制御も同様に、1回前または複数回前のマススペクトル測定中に算出された最大値振幅を基に、次のマススペクトル測定の開始時にオーバーレンジを発生させない様に、かつ、なるべく高いダイナミックレンジで測定できる様なゲイン調整値を決定すれば良いことは容易に分かる。
【0059】
以上のように、実施の形態1の質量分析用データ処理装置によれば、A/D変換方式のデータ収集回路500において、1回前または複数回前のTOFスキャンで取得したデータからイオン検出信号の最大振幅値を検出し、その最大振幅値を基に、次回TOFスキャン時の入力信号レベルのゲインを調整しながら測定するので、全てのTOFスキャンでオーバーレンジを発生させないように、かつ、なるべく高いダイナミックレンジでの測定を行うことができる。
【0060】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2における質量分析用データ処理装置およびデータ処理方法について説明する。
【0061】
実施の形態2におけるデータ収集回路は、ゲイン調整方法に特徴があり、ハード的な構成および測定データの積算方法は前記実施の形態1と同様である。
【0062】
図4により、TOFスキャン回数に対するイオン信号の最大振幅値特性の一例を説明する。図4は、イオン信号の最大振幅値特性を示す。
【0063】
前記実施の形態1では、TOFスキャン間に生じる最大振幅値の変化量が、1回前の値に対して±25%(1/4)以内であることを前提としているが、試料や測定条件によっては、図4に示すように、急な立ち上がりを持った特性を示す場合がある。
【0064】
図4に示す特性では、マススペクトル測定開始(イオン流入)直後から最大振幅値は急激に増大し、1回目と2回目のTOFスキャン間の最大振幅値の変化量は、1回前のデータに対して4倍以上増加し、2回目と3回目のTOFスキャン間の変化量は2倍以上に増加している。但し、最大振幅値がピークを迎えてからは急激に減衰することはなく、図2と同様に徐々に減衰していく特性を示す。
【0065】
このような特性に対し、前記実施の形態1で説明したゲイン調整を適用した場合、信号の最大振幅値が急激に変化する範囲のTOFスキャンにおいて、図4に示すようにゲイン制御が最適なゲイン値に追従できず、オーバーレンジが発生してしまう可能性がある。
【0066】
そこで、実施の形態2では、マススペクトル測定の前にプレスキャンを実施し、あらかじめイオン信号の最大振幅値特性を測定して、その特性に合わせた最適なゲイン量データを算出・記録し、実際のマススペクトル測定では、記録してあるゲイン量データをそのTOFスキャン番号に合わせてメモリから読み出して設定することによって、全てのTOFスキャンでオーバーレンジを発生させずに、かつ、高いダイナミックレンジでの測定が可能となる。
【0067】
図5により、実施の形態2におけるマススペクトル処理の一例を説明する。図5は、マススペクトル測定時の処理フローを示す。
【0068】
まず、処理500でプレスキャン実行時の初期ゲイン量を設定する。但し、処理500はプレスキャン実行前であり、測定する最大振幅値特性のピーク値が分からないため、大きい信号が入ってきてもオーバーレンジを起こさないようなゲイン量を設定しておく。
【0069】
次に、プレスキャンを実行する(処理501)。プレスキャンでは、マススペクトル測定と同等の測定(同じ回数のTOFスキャン)が行われ、TOFスキャン番号毎に最大振幅値を測定し、その測定値を基に、TOFスキャン番号毎に最適なゲイン量を算出する。プレスキャンで算出されたゲイン量データは、処理502でゲイン制御回路57の内部にあるゲイン量メモリに格納される。
【0070】
ここで、最大振幅値から最適なゲイン量を算出する方法は、前記実施の形態1で説明したゲイン制御のように、A/D変換器51のフルスケールに対して設けたしきい値に従ってゲイン量を決定しても良いし、一旦、最大振幅値特性のデータをCPU6に転送し、CPU6にて最適なゲイン量データを演算しても良い。また、プレスキャンは1回とは限らず、複数回実行して、複数回分のゲイン量データの平均値を求め、その値をゲイン量メモリに格納しても良い。
【0071】
処理503では、処理504で実行されるTOFスキャン番号に合わせて、ゲイン量メモリから最適なゲイン量を読み出し、ゲイン調整回路55および信号積算演算回路54に自動的に設定する。処理504,505ではプレスキャンによって決められたゲイン設定でTOFスキャンを実行し、測定データを積算メモリ53に格納する。TOFスキャン終了後は、処理506でスキャン回数による測定終了判定が行われ、条件を満たしていない場合、処理503に戻り、次のゲイン設定からTOFスキャン処理が処理507で繰り返され、条件を満たした場合にはそこで測定終了となる。
【0072】
このように、実施の形態2では、マススペクトル測定の前にプレスキャンを実施し、あらかじめ最大振幅値の特性を測定して、その特性に合わせた最適なゲイン量データを算出・記録しておくことによって、図4のように、最大振幅値が急激に変化するようなイオン信号に対しても、記録されたゲイン量データに従って、自動的に最適なゲインを調整できるため、全てのTOFスキャンでオーバーレンジを発生させず、かつ、なるべく高いダイナミックレンジでの測定が可能となる。
【0073】
また、イオン信号の最大振幅値の特性は、試料や測定条件によって変化するため、マススペクトル測定時の特性が、必ずしもプレスキャンで測定した特性と一致するとは限らない。特に、急激に振幅値が増大する立ち上がりの部分については、その変化量が大きすぎる故に、TOFスキャン毎の最大振幅値が再現しない場合がある。そのため、プレスキャンで算出・記録したゲイン量データを設定して測定を行ったにも関わらず、オーバーレンジを起こしてしまう可能性がある。
【0074】
この場合、実施の形態2におけるデータ収集回路では、例えば、TOFスキャン3回目で最大振幅値がピークを迎えるような急激な立ち上がりを持った特性に対しては、3回目まで(最大振幅値がピークを迎えるまで)のTOFスキャンは、TOFスキャン番号毎に記録されているゲイン量を使用せずに、最大振幅値特性のピーク値に合わせて求めたゲイン量を使用することによって、立ち上がり部分でのオーバーレンジを発生させないように対応することが可能である。
【0075】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3における質量分析用データ処理装置およびデータ処理方法について説明する。
【0076】
実施の形態3におけるデータ収集回路は、ゲイン調整方法に特徴があり、ハード的な構成および測定データの積算方法は前記実施の形態1と同様である。
【0077】
イオン信号の最大振幅値特性において、ピークの地点から徐々に減衰していく立ち下がりの部分については、試料・測定条件が変わってもほぼ同じ特性が得られると前述したが、立ち上がり部分の特性の違いによっては、立ち下がり部分の特性も若干変わってきてしまう。
【0078】
そのため、前記実施の形態2では、プレスキャンによって、あらかじめイオン信号の最大振幅値の特性に合わせた最適なゲイン量を記録しておくことによって、全てのTOFスキャンでオーバーレンジを発生させず、かつ、なるべく高いダイナミックレンジでの測定を実現していたが、上記のような理由でマススペクトル測定時のイオン信号の最大振幅値特性(特に立ち下がり側の特性)がプレスキャン時と異なってしまうような場合には、事前に記録したゲイン量データでは正しいゲイン調整ができずに、逆にオーバーレンジを発生したり、測定のダイナミックレンジが低くなってしまう可能性がある。
【0079】
そこで、実施の形態3では、前記実施の形態1と前記実施の形態2を組み合わせ、イオン信号の最大振幅値の特性がピークを迎えるまでの立ち上がり部分と、ピーク後の立ち下がり部分によって、ゲイン調整方法を切り替えてTOFスキャンを行うことによって、マススペクトル測定時のイオン信号の最大振幅値特性(特に立ち下がり側の特性)がプレスキャン時と異なってしまうような場合でも、全てのTOFスキャンでオーバーレンジを発生させずに、かつ、なるべく高いダイナミックレンジでの測定が可能となる。
【0080】
図6により、実施の形態3におけるマススペクトル処理の一例を説明する。図6は、マススペクトル測定時の処理フローを示す。
【0081】
実施の形態3では、処理600〜605(処理613)、処理606、処理607〜612(処理614)からなり、処理606を境にしてTOFスキャンのゲイン調整方法を切り替える。
【0082】
まず、イオン信号の最大振幅値の特性がピークを迎えるまでのTOFスキャン(処理613)は、前記実施の形態2で説明したプレスキャンによるゲイン調整によってTOFスキャンが行われる。処理613(処理600〜605)の詳細については、前記実施の形態2の図5で説明したフローチャートと同様であるため省略する。
【0083】
処理606では、取得された最大振幅値の変化方向が判定される。前回のTOFスキャンで取得した最大振幅値に比べ、今回のTOFスキャンで取得した最大振幅値の方が大きければ、現在のTOFスキャンで得た最大振幅値は、特性の立ち上がり側の値と判断され、処理603〜606が繰り返される。
【0084】
逆に、今回のTOFスキャンで取得した値の方が小さい場合、特性の立ち下がり側と判断され、処理607に進む。
【0085】
振幅値特性の立ち下がり側に入った場合のTOFスキャン処理614は、前記実施の形態1と同じように、1回前のTOFスキャンデータを基にしたゲイン調整によるTOFスキャンが行われる。処理614(処理607〜612)の詳細については、前記実施の形態1の図3で説明したフローチャートと同様であるため省略する。
【0086】
図6において、処理606の判定は、最大振幅値が前回TOFスキャン時より小さくなった場合としたが、最大振幅値の変化がある程度緩やかになった場合に処理614に移行してもよい。
【0087】
このように、実施の形態3では、前記実施の形態1と前記実施の形態2を組み合わせ、イオン信号の最大振幅値特性のピーク値の前後でTOFスキャンのゲイン調整の方法を切り替え、イオン信号の最大振幅値の特性がピークを迎えるまでの立ち上がり部分では、前記実施の形態2のようにあらかじめ記録したゲイン量に従ってTOFスキャンを行い、ピーク後の立ち下がり部分については、前記実施の形態1のように1回前のTOFスキャンデータを基に、次のTOFスキャンに最適なゲイン量を算出しながらTOFスキャンを行うことによって、イオン信号の最大振幅値の特性がピークを迎えるまでの特性が急峻で、マススペクトル測定時の最大振幅値特性の立ち下がり部分の特性がプレスキャン時と変わってしまうような場合でも、全てのTOFスキャンでオーバーレンジを発生させず、かつ、なるべく高いダイナミックレンジでの測定が可能となる。
【0088】
(実施の形態4)
次に、本発明の実施の形態4における質量分析用データ処理装置およびデータ処理方法について説明する。
【0089】
前記実施の形態1と重複する構成要素については、その機能の説明はできる限り省略する。
【0090】
図7により、本発明の実施の形態4であるA/D変換方式の質量分析用データ処理装置を用いた質量分析装置の構成の一例を説明する。図7は、A/D変換方式の質量分析用データ処理装置を用いた質量分析装置の構成を示す。
【0091】
実施の形態4の質量分析装置では、前記実施の形態1の構成に加え、イオンを検出するための検出器21と、TOFスキャンで打ち出される前にTOF部200内に流入してきたイオン流量を検出するためのイオン流量検出器22で構成される。
【0092】
また、実施の形態4におけるデータ収集回路501は、前記実施の形態1の構成に加え、データ入力信号を選択するための選択器58と、A/D変換器51でデジタル化されたTOFスキャンデータ51aを基に、電圧値の積算値を求める電圧値演算回路59で構成され、TOFスキャン前にあらかじめTOF部200内のイオン量を検出しておき、そのイオン量によってイオン検出信号21aのゲインを調整することにより、前述したようなTOFスキャン毎に信号レベルが変化するイオン検出信号に対して、全てのTOFスキャンでプレスキャンを行うことなく、イオン量に対応したダイナミックレンジの設定を行うことができる。
【0093】
図8により、実施の形態4におけるマススペクトル処理の一例を説明する。図8は、マススペクトル測定時の処理フローを示す。
【0094】
マススペクトル測定が開始されると、データ収集回路501は選択器58を端子b側に切り替え、イオン流量検出器22からの信号22aの測定を開始する。
【0095】
この選択器58は、カウンタ61からの切り替え信号61bによって制御される(処理800)。
【0096】
処理801では、TOF部200に流入してくるイオン流量を測定する。イオン流量検出器22で、TOFスキャン前にTOF部200内に流れ込んできたイオン量を検出し、その検出信号22aをデータ収集回路501のA/D変換器51でサンプリングする。次に、電圧値演算回路59において、A/D変換器51から出力されるサンプリング時間毎の電圧値データを全て積算する。このTOFスキャン前のイオン量測定時間は任意の時間とし、ユーザが自由に設定できるものとする。
【0097】
次に、ゲイン制御回路60では、電圧値演算回路59で算出された積算電圧値59aを基に、TOFスキャン時のイオン信号を測定するために最適なゲイン量を決定し、ゲイン調整回路55および信号積算演算回路54に設定される。ゲイン量データ60aを算出する方法は、あらかじめ作成しておいた変換テーブルに従って、イオン量からゲイン量データ60aを決定しても良いし、イオン量測定(処理801)毎にある変換式を用いた演算処理で求めても良い。処理801〜802によってゲイン量が決定されると、データ収集回路501は選択器58を端子a側に切り替え、従来と同様にTOFスキャン(処理804)が実行される。
【0098】
このように、実施の形態4によれば、前記実施の形態1〜3のようにイオン検出信号から抽出した値によってゲイン調整を行うのではなく、TOF部200に別の検出器を設け、TOFスキャン前にあらかじめTOF部200内のイオン量を検出しておき、そのイオン量によってイオン検出信号21aのゲインを調整することにより、前述したようなTOFスキャン毎のイオン濃度(信号レベル)が変化するイオン検出信号に対して、全てのTOFスキャンでプレスキャンを行うことなく、イオン量に対応したダイナミックレンジの設定を行うことができ、装置の高感度化を実現する質量分析用データ処理装置を提供できる。
【0099】
以上、述べた実施の形態1〜4で説明した電位差演算回路56、電圧値演算回路59、ゲイン制御回路57,60は、近年の計測ボート等の信号処理で一般的に使われているFPGA(Field Programmable Gate Array)やそれに搭載されているMPU等を使用すれば、容易に実現することができるので、種々の実現手段があることは言うまでもない。
【0100】
(実施の形態5)
次に、本発明の実施の形態5における質量分析用データ処理装置およびデータ処理方法について説明する。
【0101】
実施の形態5では、前記実施の形態1で述べたオーバーレンジが発生したTOFスキャンデータの処理方法について詳しく説明する。本実施の形態の説明は、前記実施の形態1を用いて説明し、重複する構成要素については、その機能の説明はできる限り省略する。
【0102】
図11により、本発明の実施の形態5における積算メモリの構成の一例を説明する。図11では、積算メモリ530の構成に加えて、A/D変換器510、信号積算演算回路540も併せて示す。積算メモリ530は、ODD側メモリ回路531と、EVEN側メモリ回路532からなる。なお、積算メモリ530内のメモリ回路は3つ以上でも良い。A/D変換器510の出力信号(510a)は、A/D変換器510でデジタル化したデータに加えて、A/D変換器510の信号入力時がオーバーレンジしたことを示すデータが含まれている。
【0103】
TOFスキャンが奇数回の場合の動作(処理1)は、A/D変換器510でサンプリングされたデータ510aと、ODD側メモリ回路531でそれまでに積算処理されたデータを読み出し、加算処理を行ってEVEN側メモリ回路532に格納する。同様に、TOFスキャンが偶数回の場合の動作(処理2)は、A/D変換器510でサンプリングされたデータ510aと、EVEN側メモリ回路532でそれまでに積算処理されたデータを読み出し、加算処理を行ってODD側メモリ回路531に格納するものである。従って、マススペクトルを得るための積算処理結果は、測定終了後に最終的な積算結果が格納されているメモリ回路からデータを読み出すこととなる。
【0104】
次に、オーバーレンジを発生したTOFスキャンの全データを廃棄する処理について説明する。例えば、処理1の動作状態である奇数回目のTOFスキャン中にオーバーレンジが発生した場合を例にとる。オーバーレンジを発生したTOFスキャンは通常通り終了させるが、次のTOFスキャンも、処理1の積算メモリ530の使用方法で積算処理を行う。これは、再度処理1の動作状態からデータ格納を行うことにより、オーバーレンジが発生する前までの積算結果が格納されているEVEN側メモリ回路532を読み出して、新たにサンプリングしたデータを加算処理することにより、オーバーレンジを発生したTOFスキャンデータを廃棄することが容易に実現可能である。
【0105】
次に、本実施の形態におけるゲイン量調整データの制御方法について説明する。オーバーレンジを発生していない場合は、前記実施の形態1と同じ方法で行えばよいが、オーバーレンジの発生時は、最大振幅値の演算が精度よく行えないので、無条件でオーバーレンジが発生しない方向にゲイン量調整データを変更すればよい。
【0106】
本実施の形態では、前記実施の形態1を例として説明したが、前記実施の形態2,3においても、図11で示した積算メモリを使用することで、容易にオーバーレンジを発生したTOFスキャン時の全データの廃棄が可能である。
【0107】
以上、本実施の形態によれば、オーバーレンジが発生した場合でも、オーバーレンジによる信号積算結果の劣化を容易に防ぐことが可能である。
【0108】
(実施の形態6)
次に、本発明の実施の形態6における質量分析用データ処理装置およびデータ処理方法について説明する。
【0109】
これまでの実施の形態では、前回のマススペクトル測定やTOFスキャン中の最大振幅値からゲイン量を調節するものを説明してきたが、本実施の形態では、マススペクトル測定を開始する前等の様に、前回の測定の最大振幅値がない場合、または、装置ユーザが試料の濃度等を変更した場合における測定開始時のゲイン値設定方法について述べる。本実施の形態では、試料の濃度とイオン信号の最大振幅値の相関関係を予め求めておき、その関係式から測定のゲイン量を決定するものである。
【0110】
これにより、本実施の形態によれば、測定の開始時点から、適切なゲイン量で測定を開始することができる様になる。本実施の形態によるゲイン量調整は、前記実施の形態1,2,3のいずれにも適用可能である。
【0111】
(実施の形態7)
次に、本発明の実施の形態7における質量分析用データ処理装置およびデータ処理方法について説明する。
【0112】
実施の形態7では、前記実施の形態1で述べたTOFスキャンデータの処理方法を基に説明し、重複する構成要素については、その機能の説明はできる限り省略する。
【0113】
本実施の形態では、A/D変換器51における信号のサンプリングする速度がクロック発生器50から発生されるクロック周期(t)秒で行われるが、データ積算時にこのクロック周期以下でデータをサンプリングする場合について以下に述べる。
【0114】
図12により、本発明の実施の形態7における検出器からゲイン調整回路までの構成の一例を説明する。図12では、イオンを検出する検出器21とゲイン調整回路55との間に、経路長可変回路600が設けられている。経路長可変回路600は、2つの経路を切り替えるための選択器601,602と、クロック発生器50のクロック発生周期の1/2の遅延である0.5tの遅延器603からなり、経路aと、遅延器603を介して0.5tだけ遅延量を生み出す経路bが形成されている。経路a,bの選択を行うための信号は、カウンタ52から発生され、それに従って選択器601,602でイオン検出信号21aの通過経路を決定する。
【0115】
積算メモリ53への信号積算のサンプリング間隔は、前記実施の形態1ではクロック周期tであったが、本実施の形態では0.5tとなる。ここでは、カウンタ52でTOFスキャン回数の制御を行っており、奇数回目のTOFスキャン時は経路aを選び、偶数回目のTOFスキャン時は経路bを選んで、イオン検出信号21aの積算処理を行う。その際の信号積算は、奇数回目のTOFスキャンにおいて、測定開始信号500aを基準に経路aを選択して0.5tの遅延のないイオン検出信号のサンプリングを行い、偶数回目のTOFスキャンにおいて、測定開始信号500aを基準に経路bを選択して0.5tの遅延させたイオン検出信号のサンプリングを行い、それらの結果を格納する。従って、TOFスキャン終了後には、0.5t間隔でイオン検出信号をサンプリングした結果が格納されるものである。
【0116】
以上、本実施の形態によれば、サンプリング間隔tのデータ収集回路を使用してサンプリング周期0.5tを実現することができる。また、本実施の形態では、サンプリング周期tの1/2を例にとって説明したが、経路長可変回路600内の経路数を増やすことで、容易にサンプリング周期t以下のサンプリング間隔が実現できることは容易に推測できる。
【0117】
(実施の形態8)
次に、本発明の実施の形態8における質量分析用データ処理装置およびデータ処理方法について説明する。
【0118】
上述した実施の形態1〜5で説明したゲイン量の調整処理やオーバーレンジ発生時のデータ廃棄処理は、装置内の判定アルゴリズム等で行っても良いが、装置ユーザが実施の有無を決定してもなんら支障はなく、例えば、装置の制御PCから選択的に測定モード変更として行っても良い。
【0119】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、質量分析技術に関し、特に、飛行時間型の質量分析装置におけるA/D変換器を用いた質量分析用データ処理装置に適用して有効である。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明の実施の形態1におけるA/D変換方式の質量分析用データ処理装置を用いた質量分析装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるイオン信号の最大振幅値特性とゲイン調整処理の様子を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1におけるマススペクトル測定時の処理フローを示す図である。
【図4】本発明の実施の形態2におけるイオン信号の最大振幅値特性を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態2におけるマススペクトル測定時の処理フローを示す図である。
【図6】本発明の実施の形態3におけるマススペクトル測定時の処理フローを示す図である。
【図7】本発明の実施の形態4におけるA/D変換方式の質量分析用データ処理装置を用いた質量分析装置の構成を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態4におけるマススペクトル測定時の処理フローを示す図である。
【図9】本発明の前提として検討した従来の質量分析装置における測定の様子(TOFスキャン)および積算処理を示す図である。
【図10】本発明の前提として検討した従来の質量分析装置におけるTOFスキャン毎の最大振幅値特性を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態5における積算メモリの構成を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態7における検出器からゲイン調整回路までの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0122】
1…導入部、2,200…TOF部、3…ゲイン調整器、4…イオン打ち出し信号発生器、6…CPU、7…入出力装置、21…検出器、22…イオン流量検出器、50…クロック発生器、51,510…A/D変換器、52,61…カウンタ、53,530…積算メモリ、54,540…信号積算演算回路、55…ゲイン調整回路、56…電位差演算回路、57,60…ゲイン制御回路、58…選択器、59…電圧値演算回路、500,501…データ収集回路、531…ODD側メモリ回路、532…EVEN側メモリ回路、600…経路長可変回路、601,602…選択器、603…遅延器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行時間型の質量分析装置における質量分析用データ処理装置であって、
イオンの打ち出し毎にイオン検出信号の最大電位差を測定して格納する電位差演算手段と、
前記電位差演算手段の出力により次回測定時のゲイン量を決定して設定するゲイン制御手段と、
前記ゲイン制御手段によりゲインが調整されたイオン検出信号をサンプリングするA/D変換器とを備えたことを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【請求項2】
飛行時間型の質量分析装置における質量分析用データ処理装置であって、
イオン検出信号のゲインを調整するゲイン調整回路と、
前記ゲイン調整回路からのイオン検出信号をサンプリングするA/D変換器と、
前記A/D変換器からのサンプリングデータを積算処理しながら格納する積算メモリと、
前記イオン検出信号の最大電位差を算出する電位差演算回路と、
前記電位差演算回路の出力信号により、前記ゲイン調整回路と前記積算メモリへのサンプリングデータの重み付けを決定するゲイン制御回路とを備えたことを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【請求項3】
飛行時間型の質量分析装置における質量分析用データ処理装置であって、
イオン検出信号のゲインを調整するゲイン調整回路と、
前記ゲイン調整回路からのイオン検出信号をサンプリングするA/D変換器と、
前記A/D変換器からのサンプリングデータを積算処理しながら格納する積算メモリと、
プレスキャンにおいて、イオン打ち出し毎のイオン検出信号の最大電位差を格納する電位差演算格納回路と、
前記電位差演算格納回路で格納した最大電位差より、所定の演算を行ってイオン打ち出し毎のゲイン調整値を算出し、次回以降のイオン打ち出し毎のゲイン調整値として記憶するゲイン調整値算出記憶回路と、
前記ゲイン調整値算出記憶回路からの出力により、前記積算メモリへのサンプリングデータの重み付けを決定するゲイン制御回路とを備えたことを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【請求項4】
飛行時間型の質量分析装置における質量分析用データ処理装置であって、
イオン検出信号のゲインを調整するゲイン調整回路と、
前記ゲイン調整回路からのイオン検出信号をサンプリングするA/D変換器と、
前記A/D変換器からのサンプリングデータを積算処理しながら格納する積算メモリと、
前記イオン検出信号の最大電位差を算出する電位差演算回路と、
前記電位差演算回路の出力信号により、前記ゲイン調整回路と前記積算メモリへのサンプリングデータの重み付けを決定する第1のゲイン制御回路と、
プレスキャンにおいて、イオン打ち出し毎のイオン検出信号の最大電位差を格納する電位差演算格納回路と、
前記電位差演算格納回路で格納した最大電位差より、所定の演算を行ってイオン打ち出し毎のゲイン調整値を算出し、次回以降のイオン打ち出し毎のゲイン調整値として記憶するゲイン調整値算出記憶回路と、
前記ゲイン調整値算出記憶回路からの出力により、前記積算メモリへのサンプリングデータの重み付けを決定する第2のゲイン制御回路とを備え、
前記電位差演算回路および前記第1のゲイン制御回路と、前記電位差演算格納回路および前記ゲイン調整値算出記憶回路および前記第2のゲイン制御回路とが選択可能に構成されたことを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【請求項5】
試料をイオン化する導入部と、前記導入部からのイオンを打ち出してイオンを検出する第1の検出器とを持ったTOF部を有する飛行時間型の質量分析装置における質量分析用データ処理装置であって、
イオン検出信号のゲインを調整するゲイン調整回路と、
前記ゲイン調整回路からのイオン検出信号をサンプリングするA/D変換器と、
前記A/D変換器からのサンプリングデータを積算処理しながら格納する積算メモリと、
前記イオン検出信号の電圧値データで所定の演算を行う電圧値演算回路と、
前記TOF部でイオン打ち出し前のイオンを検出する第2の検出器と、
前記第2の検出器の出力であるイオン検出信号をイオン打ち出し前に測定し、前記電圧値演算回路により得られた結果から前記ゲイン調整回路と前記積算メモリへのサンプリングデータの重み付けを決定するゲイン制御回路とを備えたことを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項記載の質量分析用データ処理装置において、
TOF部でイオン打ち出し後に前記A/D変換器においてサンプリングしたデータがオーバーレンジを発生した場合は、そのイオン打ち出しでサンプリングしたデータを全て積算結果より除去することを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【請求項7】
請求項2〜5のいずれか1項記載の質量分析用データ処理装置において、
前記積算メモリには、前記A/D変換器においてサンプリングしたデータがオーバーレンジを発生する直前までのイオン打ち出し毎の積算結果を格納し、前記オーバーレンジが発生したか否かが判定できる迄のサンプリングデータを一時的に保持する手段を設けて、前記オーバーレンジが発生した場合は、そのイオン打ち出しで得たサンプリングデータの全てを積算結果より除去することを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【請求項8】
請求項2〜5のいずれか1項記載の質量分析用データ処理装置において、
前記ゲイン調整回路と前記積算メモリへのサンプリングデータの重み付けであるゲイン調整値を試料の濃度または試料の種類から決定することを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の質量分析用データ処理装置において、
前記ゲインの調整処理またはオーバーレンジ発生時の処理を装置ユーザが実施の有無を選択可能であることを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項記載の質量分析用データ処理装置において、
前記イオン検出信号をn個の時間遅延を持った経路から選択して前記イオン検出信号をサンプリングするための回路へ出力する経路長可変回路を設け、前記A/D変換器のサンプリング間隔(t)より小さいサンプリング間隔(t/n)で信号積算を行うことを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【請求項1】
飛行時間型の質量分析装置における質量分析用データ処理装置であって、
イオンの打ち出し毎にイオン検出信号の最大電位差を測定して格納する電位差演算手段と、
前記電位差演算手段の出力により次回測定時のゲイン量を決定して設定するゲイン制御手段と、
前記ゲイン制御手段によりゲインが調整されたイオン検出信号をサンプリングするA/D変換器とを備えたことを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【請求項2】
飛行時間型の質量分析装置における質量分析用データ処理装置であって、
イオン検出信号のゲインを調整するゲイン調整回路と、
前記ゲイン調整回路からのイオン検出信号をサンプリングするA/D変換器と、
前記A/D変換器からのサンプリングデータを積算処理しながら格納する積算メモリと、
前記イオン検出信号の最大電位差を算出する電位差演算回路と、
前記電位差演算回路の出力信号により、前記ゲイン調整回路と前記積算メモリへのサンプリングデータの重み付けを決定するゲイン制御回路とを備えたことを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【請求項3】
飛行時間型の質量分析装置における質量分析用データ処理装置であって、
イオン検出信号のゲインを調整するゲイン調整回路と、
前記ゲイン調整回路からのイオン検出信号をサンプリングするA/D変換器と、
前記A/D変換器からのサンプリングデータを積算処理しながら格納する積算メモリと、
プレスキャンにおいて、イオン打ち出し毎のイオン検出信号の最大電位差を格納する電位差演算格納回路と、
前記電位差演算格納回路で格納した最大電位差より、所定の演算を行ってイオン打ち出し毎のゲイン調整値を算出し、次回以降のイオン打ち出し毎のゲイン調整値として記憶するゲイン調整値算出記憶回路と、
前記ゲイン調整値算出記憶回路からの出力により、前記積算メモリへのサンプリングデータの重み付けを決定するゲイン制御回路とを備えたことを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【請求項4】
飛行時間型の質量分析装置における質量分析用データ処理装置であって、
イオン検出信号のゲインを調整するゲイン調整回路と、
前記ゲイン調整回路からのイオン検出信号をサンプリングするA/D変換器と、
前記A/D変換器からのサンプリングデータを積算処理しながら格納する積算メモリと、
前記イオン検出信号の最大電位差を算出する電位差演算回路と、
前記電位差演算回路の出力信号により、前記ゲイン調整回路と前記積算メモリへのサンプリングデータの重み付けを決定する第1のゲイン制御回路と、
プレスキャンにおいて、イオン打ち出し毎のイオン検出信号の最大電位差を格納する電位差演算格納回路と、
前記電位差演算格納回路で格納した最大電位差より、所定の演算を行ってイオン打ち出し毎のゲイン調整値を算出し、次回以降のイオン打ち出し毎のゲイン調整値として記憶するゲイン調整値算出記憶回路と、
前記ゲイン調整値算出記憶回路からの出力により、前記積算メモリへのサンプリングデータの重み付けを決定する第2のゲイン制御回路とを備え、
前記電位差演算回路および前記第1のゲイン制御回路と、前記電位差演算格納回路および前記ゲイン調整値算出記憶回路および前記第2のゲイン制御回路とが選択可能に構成されたことを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【請求項5】
試料をイオン化する導入部と、前記導入部からのイオンを打ち出してイオンを検出する第1の検出器とを持ったTOF部を有する飛行時間型の質量分析装置における質量分析用データ処理装置であって、
イオン検出信号のゲインを調整するゲイン調整回路と、
前記ゲイン調整回路からのイオン検出信号をサンプリングするA/D変換器と、
前記A/D変換器からのサンプリングデータを積算処理しながら格納する積算メモリと、
前記イオン検出信号の電圧値データで所定の演算を行う電圧値演算回路と、
前記TOF部でイオン打ち出し前のイオンを検出する第2の検出器と、
前記第2の検出器の出力であるイオン検出信号をイオン打ち出し前に測定し、前記電圧値演算回路により得られた結果から前記ゲイン調整回路と前記積算メモリへのサンプリングデータの重み付けを決定するゲイン制御回路とを備えたことを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項記載の質量分析用データ処理装置において、
TOF部でイオン打ち出し後に前記A/D変換器においてサンプリングしたデータがオーバーレンジを発生した場合は、そのイオン打ち出しでサンプリングしたデータを全て積算結果より除去することを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【請求項7】
請求項2〜5のいずれか1項記載の質量分析用データ処理装置において、
前記積算メモリには、前記A/D変換器においてサンプリングしたデータがオーバーレンジを発生する直前までのイオン打ち出し毎の積算結果を格納し、前記オーバーレンジが発生したか否かが判定できる迄のサンプリングデータを一時的に保持する手段を設けて、前記オーバーレンジが発生した場合は、そのイオン打ち出しで得たサンプリングデータの全てを積算結果より除去することを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【請求項8】
請求項2〜5のいずれか1項記載の質量分析用データ処理装置において、
前記ゲイン調整回路と前記積算メモリへのサンプリングデータの重み付けであるゲイン調整値を試料の濃度または試料の種類から決定することを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の質量分析用データ処理装置において、
前記ゲインの調整処理またはオーバーレンジ発生時の処理を装置ユーザが実施の有無を選択可能であることを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項記載の質量分析用データ処理装置において、
前記イオン検出信号をn個の時間遅延を持った経路から選択して前記イオン検出信号をサンプリングするための回路へ出力する経路長可変回路を設け、前記A/D変換器のサンプリング間隔(t)より小さいサンプリング間隔(t/n)で信号積算を行うことを特徴とする質量分析用データ処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−343319(P2006−343319A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51867(P2006−51867)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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