説明

質量分析用基板および質量分析方法

【課題】基板の表面に固定した物質をレーザ光照射により該表面から脱離させ、そのイオンを捕捉して質量分析する方法において、従来と比べてより低パワーのレーザ光を使用可能とする。
【解決手段】質量分析用基板1として、半透過半反射性を有する第1の反射体10と、透光体20と、反射性を有する第2の反射体30とを順次備えた光共振体を構成するものであり、第1の反射体10の表面1sに試料液中に含まれる複数の被分析物質と表面相互作用を生じる試料分離部を有するものを用い、試料分離部で複数の被分析物質を分離し、被分析物質毎に質量分析を行う。質量分析を行う際には、第1の反射体10の表面1sに接触された試料に対してレーザ光Lを照射することにより、光共振体内に生じる共振によって増強された第1の反射体10の表面1sにおける電場を利用して、試料中に含まれる質量分析の被分析物質Sをイオン化させると共に脱離させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面に固定した物質をレーザ光照射により該表面から脱離させ、その脱離した物質を捕捉して質量分析するための質量分析用基板および分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質の同定等に用いられる分析法において、被分析物質をイオン化させてその物質の質量と荷電の比によって物質を同定する、質量分析方法が知られている。例えば、飛行時間型質量分析法(Time of Flight Mass Spectroscopy : TOF-MS)は、イオン化した被分析物質を高電圧電極間で所定距離飛行させて、その飛行時間により物質の質量を分析するものである。
【0003】
このような質量分析法におけるイオン化方法として、電界脱離法(FD)や高速原子衝撃法(FAB)、マトリクス支援レーザ脱離イオン化法(MALDI)、エレクトロスプレイイオン化法(ESI)等が挙げられる。ところが、被分析物質の中には、イオン化しやすい物質としにくい物質とがあるため、それらの混合物に対して同時にイオン化処理を行うと、イオン化しにくい物質の検出感度が下がる、検出がばらつくといった問題が生じる。そこで、複数の被分析物質を分離させた上で質量分析を行う手法として、液相クロマトグラフィー(LC)とESIを組み合わせた方法、LC−ESIが一般的に用いられる。ところが、一般的なLC−ESIではLCカラムを通過した被分析物質のみがイオン化されるため、分析時間が長くなる上に、カラムへの吸着によるロスが生じてしまう。これらの問題を解決する手法として、特許文献1、非特許文献1では、被分析物質を分離させ該分離領域に直接レーザを照射することによって、ロスなく、短時間で質量分析する方法が記載されている。
【0004】
ただし、これらの質量分析法においては、基板の表面に吸着した物質をイオン化させ、表面から脱離させる上で、高いパワーのレーザ光を必要とするが、高いパワーのレーザ光を用いた場合、被分析物質が損傷する恐れがあること、およびレーザ光の照射により被分析物質を高出力の光源を要するために、装置構成がコスト高となることという問題がある。また、弱いレーザ光で脱離させる方法として、分離後の基板表面にマトリクス剤を噴霧する方法も示されているが、本方法ではマトリクス剤によって被分析物質が滲んでしまうため、分離状態が悪化する問題がある。
【0005】
特許文献2においては、被分析物質を基板から脱離させるために照射されるレーザ光のパワーを低く抑えるために、基板表面に局在プラズモンを生じさせ得る金属粗面を備えた質量分析用基板を用いた分析方法および装置が提案されている。本手法では、低いレーザ光で被分析物質を損傷することなく脱離・イオン化することが可能である一方、上記のような分離が行えなかった。
【0006】
また、特許文献3には、マイクロチップ(基板)に設けられた試料分離領域に複数の柱状体を有し、柱状体の表面に金属層を設けたものを用い、プラズモンによりイオン化効率を向上させることについて記載されている。しかしながら、プラズモンによるイオン化効率向上については詳細な記載がなく、検討が十分とはいえない。
【特許文献1】特許第4074921号公報
【特許文献2】特開2007−171003号公報
【特許文献3】特表2004−081555号公報
【非特許文献1】Analytical Chemistry 2005, 77, p.1641-1646
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、基板の表面に固定した物質をレーザ光照射により該表面から脱離させ、そのイオンを捕捉して質量分析する方法において、従来と比べてより低パワーのレーザ光を使用可能、被分析物質の分離を可能とすることを目的とするものである。
【0008】
さらに本発明は、上述のようにレーザ光の低パワー化と被分析物質の分離を実現できる質量分析用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による第1の質量分析用基板は、表面に固定した物質をレーザ光照射により該表面から脱離させ、イオン化された該物質を捕捉して質量分析する方法に用いられる基板であって、
前記表面側から半透過半反射性を有する第1の反射体と、透光体と、反射性を有する第2の反射体とを順次備え、前記第1の反射体の表面にレーザ光照射を受けて前記透光体内で共振を生じる、前記第1の反射体の表面に試料液中に含まれる複数の被分析物質と表面相互作用を生じる試料分離部を有する光共振体を構成することを特徴とするものである。
【0010】
本明細書において、「半透過半反射性」とは透過性と反射性を共に有することを意味し、透過率と反射率は任意である。
【0011】
前記第1の反射体は、少なくともその表面に前記レーザ光の波長よりも小さい凹凸構造を有するものであり、該凹凸構造の凹部が、前記試料分離部において一方から他方に連続的に繋がっていることが望ましい。
【0012】
ここで、「レーザ光の波長よりも小さい凹凸構造」とは、凸部及び凹部(ここで言う「凹部」には反射体を厚み方向に貫通する空隙も含まれる)の平均的な大きさ(ここで言う「大きさ」は最大幅を示す)と凹凸の平均的なピッチがレーザ光の波長よりも小さいことを意味する。
【0013】
前記第1の反射体が、前記レーザ光照射を受けて局在プラズモンを生じる金属層であることが望ましい。
【0014】
本発明の質量分析用基板の好適な態様としては、前記第1の反射体が、前記透光体の表面に固着された多数の非凝集金属粒子からなる金属層からなるものが挙げられる。
本明細書において、「非凝集金属粒子」とは、(1)金属粒子同士が会合せず、金属粒子同士が離間されて存在しているもの、あるいは(2)金属粒子が結合した後に一体の粒子となり、再びもとの状態には戻せないもの、の何れかに含まれる金属粒子と定義する。
【0015】
本発明の質量分析用基板の他の好適な態様としては、前記透光体が、前記第1の反射体側の面において開口した前記レーザ光の波長よりも小さい径の多数の微細孔を有する透光性微細孔体からなり、該透光性微細孔体に、該微細孔の径よりも大きな突出部が該誘電体の表面よりも上に突出した状態で金属微粒子が充填されており、前記第1の反射体が、前記突出部からなる金属層であるものが挙げられる。
【0016】
本発明の質量分析用基板の他の好適な態様としては、前記第1の反射体が、前記透光体の表面に対して非平行方向に延びる互いに略平行な多数の柱状体からなる金属層であるものが挙げられる。
【0017】
本発明による第2の質量分析用基板は、表面に固定した物質をレーザ光照射により該表面から脱離させ、イオン化された該物質を捕捉して質量分析する方法に用いられる基板であって、
前記表面が、レーザ光照射を受けて局在プラズモンを励起すると共にホットスポットを生じる金属粗面であり、該金属粗面に、試料液中に含まれる複数の被分析物質と表面相互作用を生じる試料分離部を有するものであることを特徴とするものである。
【0018】
なお上述の金属粗面としては、金属表面に前記レーザ光の波長よりも小さい凹凸構造を有するものであり、該凹凸構造の凹部が、前記試料分離部において一方から他方に連続的に繋がっているものであることが望ましい。金属粗面としては、例えば金属表面に多数の微細凹凸を有するものや、誘電体の表面に多数の非凝集金属微粒子が固定されてなるもの、さらには、誘電体の表面に形成された多数の微細孔内に、該微細孔の径よりも大きな突出部が誘電体表面よりも上に突出した状態で金属微粒子が充填されてなるものを適用することができる。
【0019】
本発明の第1および第2の質量分析用基板においては、前記試料分離部に、所望の表面物性を付与するための表面修飾層、および/または該分離部に付着した被分析物質の該分離部からの脱離および/または該被分析物質のイオン化を促進する脱離・イオン化誘起層からなる有機分子層が被膜されていることが望ましい。また、この有機分子層の厚みは、0.3nm以上50nm以下であることが望ましい。該厚みは、0.3nm以上10nm以下がさらに好ましく、より好ましくは0.3nm以上3nm以下である。また、前記表面修飾層の厚みは、0.3nm以上3nm以下であることが望ましく、0.3nm以上1nm以下であることがさらに好ましい。更に、該表面修飾層は自己組織化単分子層であることが望ましく、また該自己組織化単分子層はチオールを含む化合物からなることがより好ましい。一方、前記脱離・イオン化誘起層はジシロキサンを含む化合物からなることが好ましい。
【0020】
本発明による質量分析方法は、上述した本発明の質量分析用基板を用いる分析方法であって、
複数の被分析物質を含む試料液を、該質量分析用基板上において前記試料分離部の一方から他方に向けて流下させることにより、前記複数の被分析物質を該被分析物質毎に該試料分離部上の互いに異なる位置に分離させ、
前記試料分離部上において該分離された前記複数の被分析物質のそれぞれに対して、順次レーザ光を照射することにより、各被分析物質をイオン化させると共に該試料分離部から脱離させ、該イオン化された物質を捕捉して質量分析することを特徴とする。
【0021】
また、特に、質量分析用基板表面が、疎水的である場合には、前記試料液を有機溶媒に溶解または有機溶媒と混合させた上で、流下させることが望ましい。また、前記試料分離部における該被分析物質の分離パターンは、該試料分離部表面によって異なるため、同一試料液に対する質量分析を、互いに異なる有機分子層を有する複数の質量分析用基板を用いて分析することがより好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の第1の質量分析用基板は、半透過半反射性を有する第1の反射体と、透光体と、反射性を有する第2の反射体とを順次備えた光共振体を備えたものであるので、第1の反射体を透過して透光体に入射した光が第1の反射体と第2の反射体との間で反射を繰り返して多重反射が起こり、多重反射光による多重干渉が効果的に起こり、この多重干渉により生じる共振により、質量分析の被分析物質を含む試料が接触される第1の反射体表面において効果的に電場が増強される。従って、レーザ光照射により分析物質をイオン化させると共に脱離させる分析方法において、増強された電場によりレーザ光のエネルギーを高くすることができるため、従来と比べてより低いパワーのレーザ光照射で分析物質をイオン化、脱離させることが可能になる。レーザ光自身のエネルギーを低エネルギー化することができ、被分析物質の損傷を抑制することができ、かつ装置コストを低減させることができる。
【0023】
また、第1の反射体の表面に試料液中に含まれる複数の被分析物質と表面相互作用を生じる試料分離部を有するので、試料液に含まれる複数の被分析物質を互いに異なる位置に分離することができるので、該被分析物質同士の干渉や阻害によるイオン化効率の変動を抑制することができるため、感度よく質量分析を行うことができる。
【0024】
本発明の第2の質量分析用基板は、その表面が、レーザ光照射を受けて局在プラズモンを励起すると共にホットスポットを生じる金属粗面であるため、基板表面上において効果的に電場を増強することができる。従って、レーザ光照射により分析物質をイオン化させると共に脱離させる分析方法において、増強された電場によりレーザ光のエネルギーを高くすることができるため、従来と比べてより低いパワーのレーザ光照射で分析物質をイオン化、脱離させることが可能になる。レーザ光自身のエネルギーを低エネルギー化することができ、被分析物質の損傷を抑制することができ、かつ装置コストを低減させることができる。
【0025】
また、基板の表面に試料液中に含まれる複数の被分析物質と表面相互作用を生じる試料分離部を有するので、試料液に含まれる複数の被分析物質を互いに異なる位置に分離することができるので、該被分析物質同士の干渉や阻害によるイオン化効率の変動を抑制することができるため被分析物質、感度よく質量分析を行うことができる。
【0026】
従って本発明の質量分析用基板を用いれば、レーザ光の低エネルギー化が可能であり、かつ高感度な質量分析が可能な質量分析方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
「質量分析用基板の第1実施形態」
図1A〜図1Cを参照して、本発明に係る第1実施形態の質量分析用基板について説明する。本実施形態の質量分析用基板は光共振体を構成するものである。図1Aは斜視図、図1Bは厚み方向断面図(1B−1B断面図)、図1Cは後述の金属微粒子の配置を模式的に示す上面図である。
【0028】
図1Aに示されるように、本実施形態の質量分析用基板1は、レーザ光Lの入射側(図示上側)から、半透過半反射性を有し、表面が試料接触面1sである第1の反射体10と、透光体20と、反射性を有する第2の反射体30とを順次備えたデバイス構造を有する。レーザ光Lの波長は検出する物質に応じて選択される。
【0029】
透光体20は透光性平坦基板からなり、第1の反射体10は、透光体20の表面に略同一径の複数の非凝集金属粒子13がマトリクス状に規則配列して固着された反射性金属層からなり、第2の反射体30は透光体20の他方の面に形成されたベタ金属層からなる。
【0030】
透光体20の材質は特に制限なく、ガラスやアルミナ等の透光性セラミック、アクリル樹脂やカーボネート樹脂等の透光性樹脂等が挙げられる。
【0031】
第1の反射体10及び第2の反射体30の材質としては、任意の反射性金属を使用でき、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、及びこれらの合金等が挙げられる。第1の反射体10及び第2の反射体30はこれら反射性金属を2種以上含むものであってもよい。
【0032】
ベタ金属層である第2の反射体30は、例えば金属蒸着等により成膜できる。第1の反射体10は例えば、金属蒸着等によりベタ金属層を成膜した後、公知のフォトリソグラフィー加工を実施することで形成できる。
【0033】
第1の反射体10を構成する複数の非凝集金属粒子13は、構造規則性が高い方が共振構造の面内均一性が高く、特性が集約されるので好ましい。金属粒子13が凝集粒子を含む場合は、多数の金属粒子が凝集してできた部分と、そうでない部分とが存在し、第1の反射体の構造規則性が低くなりやすいが、本実施形態の金属粒子13は非凝集金属粒子であるため、凝集粒子を含む場合に比して高い構造規則性を有する第1の反射体10を容易に形成することができる。
【0034】
また、金属粒子13は非凝集金属粒子であるので、「課題を解決するための手段」の項において記載したように、(1)金属粒子同士が会合せず、金属粒子同士が離間されて存在しているもの、あるいは(2)金属粒子が結合した後に一体の粒子となり、再びもとの状態には戻せないもの、の何れかに含まれる金属粒子である。
【0035】
(1)の金属粒子13が複数固着された第1の反射体10としては、金属粒子13同士が会合しないように一定の距離以上離間されて配置された金属層が挙げられる。この金属層において、金属粒子13の配置は、ランダムでも略規則的な配列を有していてもよい。
【0036】
金属粒子13がランダムに配置された金属層としては、例えば斜め蒸着法等により得られる島状パターンの金属層が挙げられる。
【0037】
また、被分析物質は主に基板表面の凹部(空隙)14のような非凝集金属粒子に挟まれた空間において、該非凝集金属粒子表面と強く相互作用し適切に分離される。そのため、該金属粒子13同士の距離は互いに近い方が好ましい。
【0038】
また、金属粒子13が略規則配列された金属層としては、図1Cに示すように、基板表面に凹部(空隙)14が一方から他方に向けて連続的に繋がるような凹凸構造を有するものであればよく、ドット状、ボウタイ形状アレイ、針状の金属粒子13が略規則配列されるようにパターニングされたものなどが挙げられる。これらの場合のパターニングは、リソグラフィや集束イオンビーム法(FIB法)等による加工及び自己組織化を利用する方法等により実施することができる。
【0039】
(2)の金属粒子13が複数固着された第1の反射体10としては、融着やメッキ処理による金属成長の過程において一体化して形成され、再び一体化する前の状態には戻すことのできない金属粒子13が複数固着されたものが挙げられる。
【0040】
また第1の反射体10は、上記した以外に、透光体20の表面に金属粒子13の分散溶液をスピンコート法等により塗布し乾燥することによっても形成できる。分散溶液に樹脂や蛋白質等のバインダを含有させ、バインダを介して金属粒子13を透光体20の表面に固着させることが好ましい。バインダとして蛋白質を用いる場合には、蛋白質同士の結合反応を利用して、金属粒子13を透光体20の表面に固着させることも可能である。
【0041】
第1の反射体10は反射性金属からなるが、空隙である粒子間隙14を複数有しているので光透過性を有し、半透過半反射性を有する。金属粒子13の径及びピッチはレーザ光Lの波長よりも小さく設計されており、第1の反射体10はレーザ光Lの波長よりも小さい凹凸構造を有するものとなっている。第1の反射体10は、凹凸構造が光の波長よりも小さいので、電磁メッシュシールド機能を有する半透過半反射性の薄膜となる。
【0042】
金属粒子13のピッチはレーザ光Lの波長よりも小さい条件を充足すれば特に制限なく、レーザ光Lとして可視光を用いる場合には例えば200nm以下が好ましい。金属粒子13のピッチは小さい方が好ましい。金属粒子13の径は特に制限なく、小さい方が好ましい。金属粒子13の径は光によって金属中で振動する電子の平均自由行程以下であることが好ましく、具体的には50nm以下、特に30nm以下であることが好ましい。
【0043】
透光体20の厚みは制限なく、多重干渉による可視光波長領域の吸収ピーク波長が1つとなり検出が容易なことから300nm以下が好ましく、多重反射が効果的に起こりかつ多重干渉による吸収ピーク波長が可視光域で検出が容易なことから100nm以上が好ましい。
【0044】
本実施形態の質量分析用基板は、透光体20の厚みと透光体20内の平均屈折率とに応じて共振波長を変化させることができる。透光体20の厚みと透光体20内の平均屈折率と共振波長とは下記式(1)を略充足しており、従って、透光体20内の平均屈折率が同じものであれば、透光体20の厚み変えるだけで共振波長を変化させることができる。
λ≒2nd/(m+1)・・・(1)
(式中、dは透光体20の厚み、λは共振波長、nは透光体20内の平均屈折率、mは整数である。)
後記する第2実施形態の質量分析用基板2のように、透光体20が透光性微細孔体からなる場合は、「透光体20内の平均屈折率」とは、透光性微細孔体の屈折率とその微細孔内の物質(微細孔内に特に充填物質がない場合には空気、微細孔内に充填物質がある場合には充填物質/又は充填物質と空気)の屈折率とを合わせて平均化した平均屈折率を意味する。
【0045】
また、屈折率は、材料に吸収がある場合は複素屈折率で表すが、透光体20において虚数部分はゼロであり、透光体20が微細孔を有する場合にも、微細孔内の充填物質による影響は小さいため、上記(1)式においては、複素部分を持たない屈折率表示とした。
【0046】
共振条件は、第1の反射体10及び第2の反射体30の物理特性や表面状態によっても変化するが、この変化の大きさは、透光体20の厚み及び透光体20内の平均屈折率による影響に比して小さいため、数nmオーダーの精度で上記式により共振波長を決定することができる。
【0047】
図1Bに示されるように、質量分析用基板1にレーザ光Lが入射すると、第1の反射体10の透過率又は反射率に応じて、一部は第1の反射体10の表面1sで反射され(図示略)、一部は第1の反射体10を透過して透光体20に入射する。透光体20に入射した光は、第1の反射体10と第2の反射体30との間で反射を繰り返す。すなわち、質量分析用基板1は、第1の反射体10と第2の反射体30との間で多重反射が起こる共振体構造を有している。従って、透光体20の中で多重反射光による多重干渉が起こり、共振条件を満たす特定波長において共振し、共振波長の光を吸収する吸収特性を示す。基板内部における、吸収特性に応じて基板表面の電場が増強され、試料接触面である第1の反射体10の表面1sにおいて電場増強効果を得ることができる。
【0048】
質量分析用基板1では、透光体20内における多重反射回数(フィネス)が最大となるよう、光インピーダンスマッチングをとった基板構造とすることが好ましい。かかる構成とすることで、吸収ピークがシャープになり、より効果的な電場増強が得られ、好ましい。
【0049】
質量分析用基板1は、基板表面1sに接触された試料にレーザ光を照射して、試料中に含まれる被分析物質Sを基板表面1sから脱離させ、脱離した被分析物質Sを質量分析する方法に用いられるものである。質量分析用基板1は、レーザ光Lが照射されて生じる光共振効果により第1の反射体10の表面(試料接触面)1sにおいて電場が増強されるので、試料接触面上においてレーザ光のエネルギーが高められ、その高められた光エネルギーにより被分析物質Sをイオン化すると共に試料接触面1sから脱離させることができる。すなわち、試料接触面1s上において、増強された電場によりレーザ光Lのエネルギーを高くすることができるため、レーザ光自身のエネルギーを低エネルギー化することができ、その結果装置コストを低減させることができる。
【0050】
なお、被分析物質Sのイオン化および試料接触面からの脱離は、被分析物質Sをイオン化された後に試料接触面1sから脱離させるものであってもよいし、被分析物質Sを試料接触面1sから脱離させた後にイオン化させるものであってもよい。
【0051】
本実施形態の質量分析用基板1ではさらに、第1の反射体10が自由電子を有する金属からなり、局在プラズモンを誘起可能な大きさの凹凸構造を有する場合は、レーザ光として、前記第1の反射体において局在プラズモンを励起可能な波長の光を含むものが照射されれば第1の反射体10において局在プラズモン共鳴を起こすことができる。本実施形態ではレーザ光Lの波長よりも小さい凹凸構造を有するので、局在プラズモンを誘起することが可能である。
【0052】
局在プラズモン共鳴は、金属の自由電子が光の電場に共鳴して振動することで電場を生じる現象である。特に微細な凹凸構造を有する金属層では、凸部の自由電子が光の電場に共鳴して振動することで凸部周辺に強い電場を生じ、局在プラズモン共鳴が効果的に起こるとされている。本実施形態では、上記のとおり第1の反射体10がレーザ光Lの波長より小さい凹凸構造を有するので、局在プラズモン共鳴が効果的に起こる。
【0053】
局在プラズモン共鳴が生じる波長においては、レーザ光Lの散乱や吸収が著しく増大し、上記多重干渉による共振と同様、試料接触面1sにおいて電場が増強される。この局在プラズモン共鳴が生じる波長(共鳴ピーク波長)、及びレーザ光Lの散乱や吸収の程度は、質量分析用基板1の表面の凹凸のサイズ、金属の種類及び表面に接触された試料の屈折率等に依存する。
【0054】
多重干渉による吸収ピークと局在プラズモン共鳴による吸収ピークは異なる波長に現れる場合もあるし、重なる場合もある。レーザ光の波長がそれぞれのピーク波長からずれていたとしても、お互いの電場増強効果を強めあうことができる。また、これら2つの現象の相互作用又は上記基板構成特有の現象により、電場増強効果が強められていることも考えられる。上記したように、質量分析用基板1において、共振波長λは透光体20の平均屈折率nと厚みdとに応じて変わるので、局在プラズモン共鳴による電場増強効果との相乗効果が最も大きく得られるようにこれらのファクタを変化させればよい。
【0055】
上記のように、第1の反射体10は、第1の反射体表面1sにおいて局在プラズモンを励起しうるものであるので、レーザ光Lが、第1の反射体10において局在プラズモンを励起可能な波長の光を含むものであれば、多重反射による共振による電場増強効果と、局在プラズモン共鳴による電場増強効果が同時に得られるので好ましい。従って、第1の反射体10及び第2の反射体30の材質としては、金属以外の反射性材料を用いてもよいが、第1の反射体10は、局在プラズモン共鳴による電場増強効果も得られる金属であることが好ましい。
【0056】
本実施形態では、第1の反射体10が略同一径の複数の金属粒子13がマトリクス状に規則配列して固着された金属層からなる場合について説明したが、金属粒子13は径に分布があってもよく、配列パターンも任意であり、ランダム配列でもよい。ただし、構造規則性が高い方が共振構造の面内均一性が高く、特性が集約されるので好ましい。
【0057】
また、本実施形態の質量分析用基板1においては、第1の反射体10を構成する複数の非凝集金属粒子13とその金属粒子13間の空隙14とにより、第1の反射体10の表面1sに凹凸構造を有するものであり、該凹凸構造の凹部(空隙14)は、基板1上の一方から他方に連続的に繋がっている。この凹凸構造が設けられている表面1sは、試料分離部として機能する。すなわち、本実施形態においては、凹凸構造が設けられている表面1s自体が試料分離部を兼ねるものである。
【0058】
分離部の一方側に滴下された試料液は主として凹部を通って他方に向けて浸透移動する。このとき、透明体表面および金属粒子表面は、試料液中の被分析物質と表面相互作用を生じる。この表面相互作用の大きさは、被分析物質によって異なり、親和性の小さな物質はより早く、親和性の大きな物質はより遅く移動することから、この空隙14を試料液が浸透する間に、試料液中の複数の被分析物質は徐々に分離される。そして、試料液の滴下から所定時間経過後には、凹凸構造上において、複数の被分析物質が互いに異なる位置に分離した状態の基板が得られる。
【0059】
上述のように、表面凹凸構造は、試料液中の被分析物質を分離する機能を有するが、分離パターンを制御し、適切な分離を達成する、また脱離・イオン化を促進するためには、図2に示すように、基板表面に予め有機分子層を被膜することが望ましい。
【0060】
有機分子層は、表面修飾層15及び/又は脱離・イオン化誘起層16から形成される。図2においては、表面修飾層15および脱離・イオン化誘起層16を備えた形態を示しているが、いずれか一方の層のみ備えた構成としてもよい。
【0061】
表面修飾層15とは、基板の表面物性を改変する目的で形成されるものであり、表面の親疎水性、表面電位、特定物質への吸着性、液潤滑性、脱離・イオン化層との親和性などを改変させることができる層である。表面物性を制御することにより、被分析物質との相互作用が制御されるため、分離能を向上及び/又は分離パターンを改変することが可能になる。例えば、表面物性を疎水的又は親水的にした場合、被分析物質の親疎水性によって試料を分離することができる。また、表面物性を制御することにより脱離・イオン化誘起層との吸着性を制御し、脱離・イオン化誘起層を適切に形成させることにも利用されうる。
【0062】
有機分子層15及び16は、電場増強場のエネルギーを効果的に被分析物質に伝播する必要があるため、厚すぎない方が好ましい。具体的には0.3nm〜50nmが好ましく、より好ましくは0.3nm〜10nm、更により好ましくは0.3nm〜3nmが好ましい。また、表面修飾層15は基板表面の電場増強場のエネルギーの伝播には関与しないため、できるだけその伝播を阻害しないようにできるだけ薄い方が好ましい。具体的には0.3nm〜3nmが好ましく、より好ましくは0.3nm〜1nmが好ましい。
【0063】
表面修飾層15は基板の表面種類によって適宜選択すればよい。例えば、該表面が金属である場合、該金属表面に対する自己組織化膜を好ましく利用することができる。自己組織化膜を用いた金属膜の被覆法は、例えばChemical Review, 105, 1103-1169 (2005)に報告されている方法など、既知のいかなる方法を用いてもよい。
【0064】
具体的には基板表面の金属層として金、銀あるいは白金を用いている場合、自己組織化膜形成化合物として、一般式(I)X−R−Y、及び/又は一般式(II)Y1−R1−Z−R2−Y2で示される化合物を単独、又は2種類以上混合して使用することができる。以下、X、R(以下、Rという場合には、R1及びR2を包含する)、Y(以下、Yという場合には、Y1及びY2を包含する)、Zについて説明する。
【0065】
X及びZは基板表面の金属に対する結合性を有する基である。Xは、具体的には、チオール(−SH)、ニトリル(−CN)、イソニトリル、ニトロ(−NO2)、セレノール(−SeH)、3価リン化合物、イソチオシアネート、キサンテート、チオカルバメート、ホスフィン、チオ酸またはジチオ酸(−COSH、−CSSH)が好ましく用いられ、Zは、具体的には、ジスルフィド(−S−S−)、スルフィド(−S−)、ジセレニド(−Se−Se−)、セレニド(−Se−)が好ましく用いられる。これらの官能基(X、Z)は金等の貴金属基板上に自発的に吸着し単分子サイズの超薄膜を与える。
【0066】
Yは目的の表面物性に合わせて用いることができる。具体的には、例えば表面物性を疎水的にしたい場合はアルキル基、フェニル基、フッ素、アルコキシ基、フェノキシ基などを用いることができ、表面を親水的にしたい場合にはヒドロキシル基、単糖、オリゴ糖、ポリエチレングリコール基などを用いることができる。また、試料表面に正電荷を帯びさせたい場合には、等電点がpH7以上の化学構造、具体的にはアミノ基、グアニジノ基、含窒素ヘテロ環、などを用いることができる。一方、表面に負電荷を帯びさせたい場合には、等電点がpH7未満の化学構造、具体的にはカルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基などを用いることができる。また、特定物質への吸着性を付与したい場合は吸着性の化学構造を用いることができる。具体的にはニトリロトリ酢酸(NTA;nitrilotriacetic acid)、イミノジ酢酸(IDA;iminodiacetic acid)などの金属キレート化合物の誘導体、また、ジンクフィンガーペプチドやコイルドコイル形成ペプチドなどの特定DNAや特定ペプチドに吸着性のある構造体を用いることができる。更に、目的に応じてこれらの組み合わせとして用いることもできる。
【0067】
Rはアルキル鎖であることが好ましく、場合によりヘテロ原子により中断されており、好ましくは適当に密な詰め込みのため直鎖(枝分かれしていない)であり、場合により二重及び/又は三重結合を含んでいても良い。また、R1、R2は、同一であっても、異なっていてもよい。アルキル鎖の長さは4原子以上23原子以下であることが好ましく、より好ましくは4原子以上11原子以下が良い。炭素鎖は場合により過弗素化されることができる。
【0068】
一般式(I)X−R−Yで示される自己組織化膜を構成する分子の具体例としては1-デカンチオール、1-ヘキサンチオール、10-カルボキシ-1-デカンチオール、11-ヒドロキシ-1-ウンデカンチオール、11-アミノ-1-ウンデカンチオール、7−カルボキシ−1−へプタンチオール、16-メルカプトヘキサデカン酸などが挙げられる。また、形成される自己組織化単分子層の厚さと被分析物質分離のしやすさ、また化合物の扱いやすさの観点から1-ヘキサンチオール、1-ヘプタンチオールがより好ましく挙げられる。
【0069】
また、一般式(II)Y1−R1−Z−R2−Y2の具体例としては4,4'-ジチオジブチル酸、11,11'-チオジウンデカン酸などが挙げられる。
【0070】
本発明における脱離・イオン化誘起層16とは、試料にレーザ光などの光が照射された際に生じる電場増強場のエネルギーを試料に与える、エネルギー媒介能及び、又は被分析物質がイオン化することを促す、イオン化促進能を有する化合物を含む層である。そのような化合物としては、上記機能を有する化合物を単独で用いても良く、混合物や積層体として用いても良い。具体的にはMALDI法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)で用いられるようなマトリックス剤、例えばニコチン酸、ピコリン酸、3-ヒドロキシピコリン酸、3-アミノピコリン酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、シナピン酸、2-(4-ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸、2-メルカプトベンゾチアゾール、5-クロロ-2-メルカプトベンゾチアゾール、2,6-ジヒドロキシアセトフェノン、2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン、ジスラノール、ベンゾ[a]ピレン、9-ニトロアントラセン、2-[(2E)-3-(4-tret-ブチルフェニル)-2-メチルプロプ-2-エニリデン]マロノ二トリルなどを用いることも可能である。MALDI法は、被分析物質Sをマトリクスに混入したものを試料とし、マトリクスが吸収した光エネルギーを利用して被分析物質Sをマトリクスとともに気化させ、次いでマトリクス−被分析物質間でのプロトン移動がおこって被分析物質Sをイオン化させる方法である。ただし、本発明においては脱離・イオン化誘起層自体が照射光を直接吸収する必要はないため、これに用いられる化合物としては、より広範な化合物を用いることができる。例えば、文献Nature Vol.449 1033-1037 (2007)に記載のInitiator化合物(Supplementary Information、16頁)も同様に用いることができる。具体的にはビス(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)テトラメチル-ジシロキサン、1,3-ジオクチルテトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(ヒドロキシブチル)テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(3-カルボキシプロピル)テトラメチルジシロキサンなどを用いることができる。これらはMALDIで用いられるマトリクスと比べるとそれ自体のイオン、もしくはそのフラグメントイオンが検出されにくいためより好ましい。また、特に脱離・イオン化効率が高くフラグメントイオンが検出されにくいことから、ジシロキサンを含む化合物であることが好ましい。
【0071】
なお、該脱離・イオン化誘起層16が表面修飾層の機能を兼ねるものであっても良い。つまり、脱離・イオン化誘起層を形成させることによって表面物性が改変された質量分析用基板を好ましく用いることができる。例えば1,3-ジオクチルテトラメチルジシロキサンを用いて前記非凝集金属粒子13とその金属粒子13間の空隙14表面を薄膜被覆することによって、表面物性を適度に疎水的にすることができるため、被分析物質の疎水性の程度によって適切に分離することが可能である上に、脱離・イオン化誘起層として機能するために、適切に質量分析することが可能となる。
【0072】
「質量分析用基板の第2実施形態」
図3A〜図3Dを参照して、本発明に係る第2実施形態の質量分析用基板について説明する。本実施形態の質量分析用基板は第1実施形態と同様に光共振体を構成するものである。図3A〜図3Cは質量分析用基板の作製工程を示す斜視図、図3Dは質量分析用基板の断面図である。本実施形態において、第1実施形態と同じ構成要素には同じ参照符号を付して説明は省略する。
【0073】
図3Cおよび図3Dに示されるように、本実施形態の質量分析用基板2は、第1実施形態と同様に、レーザ光Lの入射側(図示上側)から、半透過半反射性を有し、表面が試料接触面2sである第1の反射体10と、透光体20と、反射性を有する第2の反射体30とを順次備えた基板構造を有する。
【0074】
本実施形態では、第1実施形態と異なり、透光体20は、第1の反射体10側から第2の反射体30側に延びる複数の微細孔21が開孔された透光性微細孔体である。複数の微細孔21は第1の反射体10側の面において開口し、第2の反射体30側は閉じられている。透光体20において、複数の微細孔21はレーザ光Lの波長より小さい径及びピッチで略規則的に配列されている。透光体20を構成する透光性微細孔体は、例えば、被陽極酸化金属体(Al)40の一部を陽極酸化して得られる金属酸化物体(Al)41からなり、第2の反射体30は被陽極酸化金属体40の非陽極酸化部分(Al)42からなる。
【0075】
陽極酸化は、被陽極酸化金属体40を陽極とし、陰極と共に電解液に浸漬させ、陽極陰極間に電圧を印加することで実施できる。被陽極酸化金属体40の形状は制限されず、板状等が好ましい。また、支持体の上に被陽極酸化金属体40が層状に成膜されたものなど、支持体付きの形態で用いることも差し支えない。陰極としてはカーボンやアルミニウム等が使用される。電解液としては制限されず、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸等の酸を、1種又は2種以上含む酸性電解液が好ましく用いられる。
【0076】
図3Aに示す被陽極酸化金属体40を陽極酸化すると、表面40sから該表面40sに対して略垂直方向に酸化反応が進行し、図3Bに示すような金属酸化物体(Al)41が生成される。陽極酸化により生成される金属酸化物体41は、多数の平面視略正六角形状の微細柱状体41aが隙間なく配列した構造を有するものとなる。各微細柱状体41aの略中心部には、表面40sに垂直に略ストレートに延びる微細孔21が開孔され、各微細柱状体41aの底面は丸みを帯びた形状となる。陽極酸化により生成される金属酸化物体の構造は、益田秀樹、「陽極酸化法によるメソポーラスアルミナの調製と機能材料としての応用」、材料技術Vol.15,No.10、1997年、p.34等に記載されている。
【0077】
規則配列構造の金属酸化物体41を生成する場合の好適な陽極酸化条件例としては、電解液としてシュウ酸を用いる場合、電解液濃度0.5M、液温14〜16℃、印加電圧40〜40±0.5V等が挙げられる。通常、互いに隣接する微細孔21同士のピッチは10〜500nmの範囲で、また微細孔の孔径は、5〜400nmの範囲でそれぞれ制御可能である。特開2001−9800号公報や特開2001−138300号公報には、微細孔の形成位置や孔径をより細かく制御する方法が開示されている。これらの方法を用いることにより、上記範囲内において任意の孔径及び深さを有する微細孔を略規則的に配列形成することができる。上記条件で生成される微細孔21は例えば、径が5〜200nm、ピッチが10〜400nmである。
【0078】
質量分析用基板2は、微細孔21内に充填されている充填部51と、微細孔21上に透光体20の表面20sより突出して形成され、充填部51の径よりも大きい径を有する突出部52とからなる複数の金属部50を備えており、金属部50の突出部52側の表面が試料接触面である第1の反射体の表面2sである。すなわち、本実施形態では、第1の反射体10は、複数の金属部50の突出部52により構成されている。
【0079】
充填部51と突出部52とからなる金属部50は、透光体20の微細孔21に電気メッキ処理等を施すことにより形成される。
電気メッキを行う場合には、第2の反射体30が電極として機能し、電場が強い微細孔21の底部から優先的に金属が析出する。この電気メッキ処理を継続して行うことにより、微細孔12内に金属が充填されて金属部50の充填部51が形成される。充填部51が形成された後、更に電気メッキ処理を続けると、微細孔21から充填金属が溢れるが、微細孔21付近の電場が強いことから、微細孔21周辺に継続して金属が析出していき、充填部51上に透光体表面20sより突出し、充填部51の径よりも大きい径を有する突出部52が形成される。
【0080】
金属部50を電気メッキにより成長する際に、条件によっては微細孔21の底面と被陽極酸化金属体40の非陽極酸化部分からなる導電体42との間の薄い層が破られて、金属部50の充填部51が透光体20の裏面20rまで到達することもある。
【0081】
第1の反射体10を構成する複数の突出部52同士は近接しているが、突出部52間に空隙53を有しているので光透過性を有し、半透過半反射性を有する。第1の反射体10の表面は、突出部52とその間の空隙53とからなる、レーザ光Lの波長よりも小さい凹凸構造を有するものとなっている。本実施形態においても、凹凸構造が光の波長よりも小さいので、第1の反射体10は、電磁メッシュシールド機能を有する半透過半反射性の薄膜として機能する。
【0082】
本実施形態の質量分析用基板2も、レーザ光Lの照射により第1の反射体10表面(試料接触面)2sにおいて電場が増強されるので、試料接触面上においてレーザ光Lのエネルギーが高められ、その高められた光エネルギーにより被分析物質を試料接触面2sから脱離させ、質量分析を行うことができる。
【0083】
本実施形態では、金属部50の突出部52が粒子状であり、質量分析用基板4の表面から見れば、透光体20の表面20sに金属粒子構造体が形成された構造になっている。かかる構成では、突出部52が金属部50の凸部であるので、その平均的な径及びピッチがレーザ光Lの波長よりも小さく設計されることが好ましい。金属部50は、突出部52の大きさが、局在プラズモンを励起可能な大きさであれば局在プラズモン共鳴による電場増強効果も得られるため好ましい。使用するレーザ光Lの波長を考慮すると、突出部52の径が10nm以上300nm以下の範囲であることが好ましい。
【0084】
互いに隣接する突出部52同士は離間されていることが好ましく、その平均離間距離W1は、数nm〜10nmの範囲であることがより好ましい。平均離間距離W1が数nm〜10nmの範囲内である場合は、各突出部の周囲に生じる局在プラズモン同士が重なる、所謂ホットスポットが形成され、このホットスポットにおいて、非常に高い電場増強効果を得ることができる。
【0085】
金属部50の材料は制限なく、第1実施形態の第1の反射体10と同様の金属を用いることができる。
【0086】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、第1の反射体10を透過して透光体20に入射した光が第1の反射体10と第2の反射体30との間で多重反射し、多重反射光による多重干渉が起こり、共振条件を満たす特定波長において共振する。共振により、共振波長の光が吸収され、基板内の電場が増強され、試料接触面2sにおいて電場増強効果を得ることができる。共振波長も、第1実施形態と同様に、透光体20の平均屈折率と厚みとに応じて変化するため、これらのファクタに応じた波長において高い電場増強効果(例えば、100倍以上の増強効果)を得ることができる。
【0087】
本実施形態の質量分析用基板2は、透光体20が第1の反射体10側の面において開口した複数の微細孔21を有する透光性微細孔体からなり、第1の反射体10が微細孔21内に充填されている充填部51と、微細孔21上に透光体20の表面20sより突出して形成され、充填部51の径よりも大きい径を有する突出部52とからなる複数の金属部50からなる点を除けば、第1実施形態と基本的な構成は同様であるので、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0088】
本実施形態の質量分析用基板2は、陽極酸化を利用して製造されたものであるので、透光体20の微細孔21及び第1の反射体10の微細孔16が略規則配列された質量分析用基板2を簡易に製造でき、好ましい。ただし、これら微細孔の配列はランダム配列でもよい。
【0089】
本実施形態では、透光体20の製造に用いる被陽極酸化金属体40の主成分としてAlのみを挙げたが、陽極酸化可能で生成される金属酸化物が透光性を有するものであれば、任意の金属が使用できる。Al以外では、Ti、Ta、Hf、Zr、Si、In、Zn等が使用できる。被陽極酸化金属体40は、陽極酸化可能な金属を2種以上含むものであってもよい。
【0090】
本実施形態では、また、陽極酸化を利用して微細孔21が略規則配列した透光体20を作製したが、微細孔21の形成方法は、陽極酸化に制限されない。表面全面を一括処理でき、大面積化に対応でき、高価な装置を必要としないことから、陽極酸化を利用した上記実施形態は好ましいが、陽極酸化を利用する以外に、透光体20の表面にナノインプリント技術により規則配列した複数の凹部を形成する方法や、集束イオンビーム(FIB)、電子ビーム(EB)等の電子描画技術により規則配列した複数の凹部を描画する等の微細加工技術によっても形成することができる。
【0091】
また、本実施形態の質量分析用基板においては、第1の反射体10を構成する、複数の突出部52と、その突出部52間の空隙53とからなる、第1の反射体の表面に凹凸構造を有するものであり、該凹凸構造の凹部(空隙53)は、基板上の一方から他方に連続的に繋がっている。この凹凸構造が設けられている表面は、試料分離部として機能し、第1の実施形態の場合と同様の効果を得ることができる。
【0092】
また、第1の実施形態の場合と同様に、基板表面に有機分子層を形成させることにより分離・脱離・イオン化機能をより高めることができ望ましい。
【0093】
「質量分析用基板の第3実施形態」
図4を参照して、本発明に係る第3実施形態の質量分析用基板について説明する。図4は質量分析用基板の断面図である。実施形態の質量分析用基板は第1および第2実施形態と同様に光共振体を構成するものである。本実施形態において、第1実施形態と同じ構成要素には同じ参照符号を付して説明は省略する。
【0094】
図4に示されるように、本実施形態の質量分析用基板3は、第1実施形態と同様、レーザ光Lの入射側(図示上側)から、半透過半反射性を有し、表面が試料接触面3sである第1の反射体10と、透光体20と、反射性を有する第2の反射体30とを順次備えた基板構造を有する。
【0095】
本実施形態が第1実施形態とは第1の反射体10の構成が異なり、本実施形態においては、第1の反射体10が透光体20の表面20sに対して非平行方向に延びる互いに略平行な多数の柱状体17pからなる柱状構造膜17を備えている。
【0096】
柱状構造膜17は金属膜であり、その材質は金属であれば制限なく、第1実施形態の第1の反射体10と同様の金属を用いることができる。柱状構造膜17は金属膜であるが、隣接する柱状体17p同士の間には空隙17sを複数有しているので光透過性を有し、半透過半反射性を有する。本実施形態においても、柱状体17pの柱径r及び空隙17sの密度は、第1の反射体10がその表面にレーザ光Lの波長よりも小さい凹凸構造を有するものとなるように設計されている。本実施形態においても、凹凸構造が光の波長よりも小さいので、金属性の柱状構造膜17は、電磁メッシュシールド機能を有する半透過半反射性の薄膜として機能する。
【0097】
柱状構造膜17の成膜方法は特に制限されないが、CVD(Chemical Vapor Deposition)法やスパッタ法等の気相成長法が挙げられる。柱状構造膜17を構成する多数の柱状体17pは、透光体20の表面に対して非平行方向に延びていればよいが、透光体20の表面に対して90±15°の範囲内の方向に延びていることが好ましく、90±10°の範囲内の方向に延びていることがより好ましい。上記の成膜方法により成膜する場合は、透光体の表面20sに対して90°となるように成膜すると、空隙がふさがりやすくなる傾向があるため、柱状体17pは上記範囲内において90°を除く成長方向であることがより好ましい。従って、柱状構造膜17は、斜め蒸着法により成膜されることが好ましい。なお、試料分離部として機能させるためには、柱状構造膜17において、柱状体17p間の空隙17sは少なくとも試料の浸透方向に連続的に繋がるように形成する必要がある。
【0098】
半透過半反射性を有していれば、柱状構造膜17の膜厚は制限されない。柱状体17pの長さも特に制限ないが、30〜500nmの範囲であれば透光体の表面20sに対する柱状体17pの成長方向の角度によらず、充分な空隙17sを有する半透過半反射性の柱状構造膜17とすることができる。
【0099】
本実施形態の質量分析用基板3も、レーザ光Lの照射により第1の反射体10表面(試料接触面)3sにおいて電場が増強されるので、試料接触面上においてレーザ光Lのエネルギーが高められ、その高められた光エネルギーにより被分析物質Sを試料接触面3sから脱離させ、質量分析を行うことができる。
【0100】
柱状体17pの柱径r及び空隙17sの密度は、第1の反射体10がレーザ光Lの波長よりも小さい凹凸をしていれば特に制限なく、レーザ光Lとして可視光を用いる場合には例えば200nm以下の凹凸が形成されていることが好ましい。本実施形態においても構造規則性が高い方が共振構造の面内均一性が高いため、第1の反射体10において空隙17sは略均一に分布していることが好ましい。柱状体17pの径は特に制限なく、小さい方が好ましい。柱状体17pの径は光によって金属中で振動する電子の平均自由行程以下であることが好ましく、具体的には50nm以下、特に30nm以下であることが好ましい。
【0101】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、第1の反射体10を透過して透光体20に入射した光が第1の反射体10と第2の反射体30との間で多重反射し、多重反射光による多重干渉が起こり、共振条件を満たす特定波長において共振する。共振により、共振波長の光が吸収され、基板内の電場が増強され、試料接触面3sにおいて電場増強効果を得ることができる。共振波長も、第1実施形態と同様に、透光体20の平均屈折率と厚みとに応じて変化するため、これらのファクタに応じた波長において高い電場増強効果(例えば、100倍以上の増強効果)を得ることができる。
本実施形態の質量分析用基板3は、第1の反射体10が金属柱状構造膜からなるものである点を除けば第1実施形態と基本的な構成は同様であるので、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0102】
本実施形態では、第1の反射体10が透光体20の表面20sに対して非平行方向に延びる互いに略平行な多数の柱状体17pからなる柱状構造膜17を備え、柱状構造膜17が金属膜である場合について説明したが、第1の反射体10の構成は、本実施形態のものに限るものではない。
【0103】
例えば、第1の反射体10を、柱状構造膜17と、柱状構造膜17と透光体20との間に成膜された半透過半反射性の部分反射膜とを有する構成としてもよい。かかる構成とすることにより、光共振体内での多重反射をより効果的におこすことができる。部分反射膜としては、金属薄膜や、MgFやSiO、TiO等の誘電体が積層された誘電体多層薄膜等が挙げられる。
【0104】
さらに、第1の反射体10が、誘電体膜である柱状構造膜と、柱状構造膜上に形成された金属膜を更に備えた構成とすることもできる。斜め蒸着法により柱状構造膜を成膜する場合は、金属膜に比して誘電体膜の方が成膜が容易であり、また、柱状構造を有する誘電体膜上に金属膜を成膜することにより、金属膜も誘電体からなる柱状体の形状にそって成膜されやすく、好ましい。この場合、誘電体柱状構造膜上に成膜される金属膜は、柱状構造を有する場合もあるし、そうでない場合もあるが、どちらであっても金属膜は、誘電体からなる柱状構造膜において形成された空隙をほぼ維持して成膜される。誘電体からなる場合、柱状構造膜は、成膜が容易であり、しかも耐熱性及び耐光性に優れた無機材料であることが好ましい。ただし、上記柱状体を良好に成長でき、有機材料でも問題のない用途であれば、有機材料で柱状構造膜の成膜を行ってもよい。有機材料の場合の柱状構造膜の成膜方法としては、プラズマ化学蒸着法や、分子線蒸着法等が挙げられる。
【0105】
また、本実施形態の質量分析用基板においては、第1の反射体10を構成する、柱状構造膜の柱状体17pとその間の空隙17sとからなる、第1の反射体の表面に凹凸構造を有するものであり、該凹凸構造の凹部(空隙17s)は、基板上の一方から他方に連続的に繋がっている。この凹凸構造が設けられている表面は、試料分離部として機能し、第1の実施形態の場合と同様の効果を得ることができる。
【0106】
また、第1の実施形態の場合と同様に、基板表面に有機分子層を形成させることにより分離・脱離・イオン化機能をより高めることができ望ましい。
【0107】
「質量分析用基板の第4の実施形態」
図5A〜図5Dを参照して、本発明に係る第4実施形態の質量分析用基板について説明する。本実施形態の質量分析用基板は、第1〜第3実施形態の質量分析用基板と異なり光共振体を構成せず、レーザ光照射により、基板表面に局在プラズモンを生じると共にホットスポットを生じることを特徴とするものである。図5A〜図5Cは質量分析用基板の作製工程を示す斜視図、図5Dは質量分析用基板の断面図である。
【0108】
本実施形態の質量分析用基板4は、表面4sが、レーザ光照射を受けて局在プラズモンを励起すると共にホットスポットを生じる金属粗面であり、該金属粗面に、試料液中に含まれる複数の被分析物質に対して表面相互作用を生じる試料分離部を有するものであることを特徴とするものである。
【0109】
図5Cおよび図5Dに示されるように、本実施形態の質量分析用基板4は、導電体63の上に、多数の微細孔62が表面において開口して略規則配列した誘電体基材61を備え、微細孔62内に充填されている充填部71と、微細孔62上に基材表面61sより突出して形成され、充填部71の径よりも大きく、且つ、局在プラズモンを励起しうる大きさの径を有する突出部72とからなる金属部70を更に備えている。なお、本実施形態の質量分析用基板4と、第2実施形態の質量分析用基板2との違いは、質量分析用基板2が光共振体構造を有するものであるのに対し、本実施形態の質量分析用基板4は光共振体構造を有していない点にある。
【0110】
質量分析用基板4の表面4sは、金属部70の突出部72および基材表面61sにより構成され、突出部72およびその空隙73である基材表面61sにより凹凸構造が形成されてなる。複数の微細孔71はレーザ光Lの波長より小さい径及びピッチで略規則的に配列されている。
【0111】
本実施形態の質量分析用基板4において、微細孔72は誘電体基材71の表面から該表面に略垂直に延びて誘電体基材裏面61rに到達して開孔された貫通孔である。
【0112】
誘電体基材61は、図5Aに示すように、アルミニウム(Al)を主成分とし、微少不純物を含んでいてもよい被陽極酸化金属体60の一部を陽極酸化して得られたアルミナ(Al)層(金属酸化物層)である。導電体63は、陽極酸化されずに残った被陽極酸化金属体60の非陽極酸化部分により構成されている。
【0113】
被陽極酸化金属体60の形状は制限されず、板状等が挙げられる。また、支持体の上に被陽極酸化金属体60が層状に成膜されたものなど、支持体付きの形態で用いることも差し支えない。
【0114】
陽極酸化は、例えば、被陽極酸化金属体60を陽極とし、カーボンやアルミニウム等を陰極(対向電極)として、これらを陽極酸化用電解液に浸漬させ、陽極と陰極の間に電圧を印加することで実施できる。電解液としては制限されず、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸等の酸を、1種又は2種以上含む酸性電解液が好ましく用いられる。
【0115】
図5Aに示す被陽極酸化金属体60を陽極酸化すると、表面60sから該表面60sに対して略垂直方向に酸化反応が進行し、図5Bに示すような金属酸化物体(Al)61が生成される。陽極酸化により生成される金属酸化物体61は、多数の平面視略正六角形状の微細柱状体64が隙間なく配列した構造を有するものとなる。各微細柱状体64の略中心部には、表面60sに垂直に略ストレートに延びる微細孔62が開孔され、各微細柱状体64の底面は、丸みを帯びた形状となる。陽極酸化により生成されるアルミナ層の構造は、益田秀樹、「陽極酸化法によるメソポーラスアルミナの調製と機能材料としての応用」、材料技術Vol.15,No.10、1997年、p.34等に記載されている。
【0116】
規則配列構造の金属酸化物体41を生成する場合の好適な陽極酸化条件例としては、電解液としてシュウ酸を用いる場合、電解液濃度0.5M、液温14〜16℃、印加電圧40〜40±0.5V等が挙げられる。通常、互いに隣接する微細孔21同士のピッチは10〜500nmの範囲で、また微細孔の孔径は、5〜400nmの範囲でそれぞれ制御可能である。特開2001−9800号公報や特開2001−138300号公報には、微細孔の形成位置や孔径をより細かく制御する方法が開示されている。これらの方法を用いることにより、上記範囲内において任意の孔径及び深さを有する微細孔を略規則的に配列形成することができる。上記条件で生成される微細孔21は例えば、径が5〜200nm、ピッチが10〜400nmである。
【0117】
充填部71と突出部72とからなる金属部70は、誘電体基材61の微細孔62に電気メッキ処理等を施すことにより形成される。
電気メッキを行う場合には、導電体63が電極として機能し、電場が強い微細孔62の底部から優先的に金属が析出する。この電気メッキ処理を継続して行うことにより、微細孔62内に金属が充填されて金属部70の充填部71が形成される。充填部71が形成された後、更に電気メッキ処理を続けると、微細孔62から充填金属が溢れるが、微細孔62付近の電場が強いことから、微細孔62周辺に継続して金属が析出していき、充填部71上に基材表面61sより突出し、充填部71の径よりも大きい径を有する突出部72が形成される。
【0118】
金属部70を電気メッキにより成長する際に、条件によっては微細孔62の底面と被陽極酸化金属体60の非陽極酸化部分からなる導電体63との間の薄い層が破られて、金属部70の充填部71が基板裏面61rまで到達して本実施形態の構成(図5Cおよび図5D参照。)が得られる。
【0119】
本実施形態では、金属部70の突出部72が粒子状であり、基板4の表面4sから見れば、基材表面61sに金属粒子層が形成された構造になっている。かかる構成では、突出部72が金属部70の凸部であるので、その平均的な径及びピッチがレーザ光Lの波長よりも小さく設計される。金属部70は、突出部72の大きさが、局在プラズモンを励起可能な大きさであればよいが、使用するレーザ光の波長を考慮すると、突出部22の径が10nm以上300nm以下の範囲であることが好ましい。
【0120】
互いに隣接する突出部22同士は両者間の間でそれぞれの表面に生じる局在プラズモンが重なり強めあう、所謂ホットスポットが形成される程度の距離で離間されている。その平均離間距離W2は、数nm〜10nmの範囲とすることにより、ホットスポットが効果的に形成されうる。ホットスポットにおいては、局在プラズモンが突出部22毎に単独で生じ、重なりを有していない状態と比較して、さらに高い電場増強効果を得ることができる。
【0121】
質量分析用基板4も、上述の第1から第3の実施形態の質量分析用基板と同様に、基板表面に接触された試料にレーザ光を照射して、試料中に含まれる被分析物質を基板表面から脱離させ、脱離した被分析物質を質量分析する方法に用いられるものである。
【0122】
本実施形態の質量分析用基板4は、レーザ光Lの照射により基板表面4sにおいて局在プラズモンが生じると共に、該局在プラズモン同士が重なりあい強めあうホットスポットを生じ電場が増強される。ホットスポットにおいては、特にレーザ光のエネルギーが高められ、その高められた光エネルギーにより被分析物質をイオン化すると共に試料接触面4sから脱離させることができる。すなわち、試料接触面4s上において、増強された電場によりレーザ光Lのエネルギーを高くすることができるため、レーザ光自身のエネルギーを低エネルギー化することができ、その結果装置コストを低減させることができる。
【0123】
また、本実施形態の質量分析用基板においては、基板表面4sが、金属部70の突出部72およびその間の空隙73である基材表面61sとからなる、凹凸構造を有するものであり、該凹凸構造の凹部(空隙73)は、基板上の一方から他方に連続的に繋がっている。この凹凸構造が設けられている表面は、試料分離部として機能し、第1の実施形態の場合と同様の効果を得ることができる。
【0124】
また、第1の実施形態の場合と同様に、基板表面に有機分子層を形成させることにより分離・脱離・イオン化機能をより高めることができ望ましい。
【0125】
上記第4実施形態では、被陽極酸化金属体60の一部を陽極酸化して得られた金属酸化物体を誘電体基材61、非陽極酸化部分を導電体13とし、誘電体基材61の内部の微細孔62に、電気メッキ法により金属を析出させて金属部70を形成する方法について説明したが、被陽極酸化金属体60をすべて陽極酸化する、若しくは被陽極酸化金属体60の一部を陽極酸化した後、非陽極酸化部分とその近傍部分を除去することで、貫通孔からなる微細孔62を有する誘電体基材61を得、別途蒸着等により導電体63を成膜してもよい。この場合、導電体63の材料は制限なく、任意の金属やITO(インジウム錫酸化物)等の導電性の材料が挙げられる。
【0126】
また、基材裏面61rに導電体63を備えた場合について説明したが、金属部70を微細孔62に充填する方法として、電気メッキ等の電極を必要とする方法を用いない場合は、導電体63は備えてなくてよい。また、金属部70の形成後に導電体63を除去した構成としてもよい。
【0127】
上記実施形態では、微細孔62が貫通孔である場合について説明したが、微細孔62は非貫通孔であってもよい。
【0128】
上記実施形態において、誘電体基材61の製造に用いる被陽極酸化金属体60の主成分としてAlのみを挙げたが、陽極酸化可能であれば、任意の金属が使用できる。Al以外では、Ti、Ta、Hf、Zr、Si、In、Zn等が使用できる。被陽極酸化金属体60は、陽極酸化可能な金属を2種以上含むものであってもよい。
【0129】
用いる被陽極酸化金属の種類によって、形成される微細孔62の平面パターンは変わるが、平面視略同一形状の微細孔62が隣接して配列した構造を有する誘電体基材61が形成されることには変わりない。
【0130】
また、陽極酸化を利用して微細孔62を規則配列させる場合について説明したが、微細孔62の形成方法は、陽極酸化に制限されない。表面全面を一括処理でき、大面積化に対応でき、高価な装置を必要としないことから、陽極酸化を利用した上記実施形態は好ましいが、陽極酸化を利用する以外に、樹脂等の基板の表面にナノインプリント技術により規則配列した複数の凹部を形成する、金属等の基板の表面に、集束イオンビーム(FIB)、電子ビーム(EB)等の電子描画技術により規則配列した複数の凹部を描画する等の微細加工技術が挙げられる。
【0131】
「質量分析用基板の第5実施形態」
図6を参照して、本発明に係る第5実施形態の質量分析用基板について説明する。本実施形態の質量分析用基板は、第4実施形態の質量分析用基板と同様に、レーザ光照射により基板表面に局在プラズモンを生じると共にホットスポットを生じることを特徴とするものである。図6は質量分析用基板の斜視図である。
【0132】
本実施形態の質量分析用基板5は、図6に示すように、平坦な誘電体81の上に、複数の金属粒子82がアレイ状に固着された基板であり、金属粒子82により基板表面5sに金属粗面が構成されてなる。この金属粒子82の配列パターンは適宜設計でき、略規則的であることが好ましい。かかる構成では、個々の金属粒子82と該金属粒子82間の空隙83とにより凹凸構造が形成されており、金属粒子20aの平均的な径及び凹凸のピッチがレーザ光Lの波長よりも小さく設計される。この凹凸構造を有する表面において、レーザ光の照射により、局在プラズモンを励起すると共にホットスポットを生じる。金属粒子の間隔は数nm〜10nm程度であり、各金属粒子の表面に局在プラズモンが生じると共に該金属粒子間にホットスポットが生じる程度の距離となるように配置されている。
【0133】
本実施形態の質量分析用基板5も、第4実施形態と同様に、レーザ光Lの照射により基板表面4sにおいて局在プラズモンが生じると共に、該局在プラズモン同士が重なりあい強めあうホットスポットを生じ電場が増強される。従って、第4実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0134】
また、本実施形態の質量分析用基板5においては、基板表面5sが、金属粒子82およびその間の空隙83とからなる、凹凸構造を有するものであり、該凹凸構造の凹部(空隙83)は、基板上の一方から他方に連続的に繋がっている。この凹凸構造が設けられている表面は、試料分離部として機能し、第1の実施形態の場合と同様の効果を得ることができる。
【0135】
また、第1の実施形態の場合と同様に、基板表面に有機分子層を形成させることにより分離・脱離・イオン化機能をより高めることができ望ましい。
【0136】
「質量分析用基板の第6実施形態」
図7を参照して、本発明に係る第6実施形態の質量分析用基板について説明する。本実施形態の質量分析用基板は、第4および第5実施形態の質量分析用基板と同様に、レーザ光照射により基板表面に局在プラズモンを生じると共にホットスポットを生じることを特徴とするものである。図7は質量分析用基板の断面図である。
【0137】
図7に示す質量分析用基板6は、図5A、図5Bに示すように被陽極酸化金属体60に対して陽極酸化を実施し、陽極酸化により形成されたアルミナ層61を除去して、被陽極酸化金属体の非陽極酸化部分63を備え、該非陽極酸化部分63表面の複数のディンプル状の凹部に金属粒子を配置してなるものである。
【0138】
かかる構成は、非陽極酸化部分63の表面に、その凹凸形状に沿って金属層を成膜し、その後、アニール処理を行い粒子化することにより得ることができる(特開2008-026109号公報参照)。
【0139】
本実施形態の質量分析用基板5も、第4実施形態と同様に、レーザ光Lの照射により基板表面4sにおいて局在プラズモンが生じると共に、該局在プラズモン同士が重なりあい強めあうホットスポットを生じ電場が増強される。従って、第4実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0140】
また、本実施形態の質量分析用基板6においては、基板表面6sが、金属粒子85およびその間の空隙86とからなる、凹凸構造を有するものであり、該凹凸構造の凹部(空隙86)は、基板上の一方から他方に連続的に繋がっている。この凹凸構造が設けられている表面は、試料分離部として機能し、第1の実施形態の場合と同様の効果を得ることができる。
【0141】
また、第1の実施形態の場合と同様に、基板表面に有機分子層を形成させることにより分離・脱離・イオン化機能をより高めることができ望ましい。
【0142】
<質量分析方法>
本実施形態の質量分析用基板を用いた本発明に係る実施形態の質量分析方法の手順について説明する。ここでは、第1実施形態の質量分析用基板1を用いる場合を例として説明する。上記第2〜第6実施形態の質量分析用基板2〜6を用いた場合も同様の手順で質量分析を行うことができ、得られる効果も同様である。
【0143】
まず、質量分析用基板の分離部上に、表面修飾層及び/又は脱離・イオン化誘起層を形成する。
【0144】
図8Aおよび図8Bに示すように、ピペット95等を用いて質量分析用基板1上に試料液Sを滴下し、試料液Sを分離部の一方から他方へ(図中左から右へ)流下(浸透)させる。
【0145】
試料液Sに含まれる複数の被分析物質Sa、Sbのうち、分離部表面との親和性が高い物質Saは相対的に移動速度が遅く、親和性が低い物質Sbは相対的に移動速度が早くなる。試料液Sは、基板表面に設けられている凹凸構造の凹部(空隙)14に沿って徐々に分離部の一方から他方へ(図中左から右へ)移動する間に、徐々に分離される。そして、試料液Sの滴下後から所定時間経過後には、凹凸構造からなる分離部上において、複数の被分析物質が試料液浸透方向の互いに異なる位置に分離した状態の基板が得られる。
【0146】
後記する質量分析装置100を用い、図10に示すように、複数の被分析物質が互いに異なる位置A、Bに分離された基板1に対し、レーザ光Lを照射して、被分析物質をイオン化させると共に試料分離部から脱離させ、該脱離したイオン化物質を捕捉して質量分析を行う。
【0147】
レーザ照射方法として、試料滴下部にレーザが照射される位置から、試料分析基板を試料浸透方向に徐々に移動させつつ質量分析を行うことにより、分離された被分析物質を独立に脱離・イオン化し検出することが可能である。本方法により、イオン化効率の異なる物質間での干渉や阻害の影響を抑え、かつ該被分析物質のロスを抑制して質量分析することが可能になるため、未知化合物の同定精度向上や未知・既知化合物の検出感度向上、既知化合物の定量性向上が望める。
【0148】
更に、本手法において予め被分析物質ごとに分離条件と移動距離との関係を取得しておくことにより、該移動距離を用いて被分析物質の物質同定精度、定量性を高めることができる。また、別の方法として移動距離と質量が既知の内部標準物質を該試料溶液中に混合させることによって、該内部標準物質との関係から物質同定精度、定量性を高めることができる。
【0149】
また上記のようにレーザを該試料分析基板上をなぞって連続照射せずに、予め決められた部位にのみスポットで照射することも可能である。本方法によって目的の物質だけを短時間で検出することが可能である。
【0150】
質量分析用基板1は既述の通り、レーザ光の照射により表面に非常に高い電場増強場を生じるため、レーザ光のエネルギーを増加させ、被分析物質のイオン化および脱離を効率よく行うことができ、上述の質量分析用基板の実施形態で説明したように、照射するレーザ光を低パワーにすることができ、被分析物質への損傷を抑制すると共に、光源にかかるコストを抑えることができる。
【0151】
なお、質量分析用基板1の表面1sが疎水的な場合、試料の溶媒が水であると該基板表面の空隙部に浸透していくことができないため、試料を充分に分離することができない。そのため、試料を予め有機溶媒と混合、又は有機溶媒に溶解させた上で、基板上に滴下し、分離を行うことが好ましい。具体的にはアセトニトリル、プロピオニトリル、THF(テトラヒドロフラン)、メタノール、エタノール、イソブタノール、ターシャリーブタノールなどの極性かつ、揮発性の高い溶媒が好ましく選択される。また、場合によって試料を一度分離後に溶媒のみを同一の試料分離部に展開させて、試料の分離を向上させることもできる。
【0152】
また既述の通り、本分離現象は試料分離部表面と該被分析物質との相互作用によって生じるため、該試料分離部表面の表面状態が異なれば該被分析物質の分離パターンも異なる。このことからある表面においては分離度が小さい複数の被分析物質に対して、別の表面を用いることによって大きく分離することが可能な場合がある。そのため、互いに異なる有機分子層によって異なる表面を有する複数種類の基板を用い、同一試料液に対して質量分析を行うことによって、未知化合物の同定精度向上や未知・既知化合物の検出感度向上、既知化合物の定量性向上が望める。
【0153】
「質量分析装置」
図11を参照して、質量分析方法を実施するための質量分析装置の一実施形態について説明する。本実施形態の質量分析装置は飛行時間型質量分析装置(TOF−MS)である。図11は本実施形態の質量分析装置100の構成を示す概略図である。
【0154】
図示されるように、質量分析装置100は、真空に保たれたボックス101内に、上記実施形態の質量分析用基板1と、質量分析用基板1を保持する基板保持手段を備えたステージ102と、質量分析用基板1の第1の反射体10の表面1sに接触された試料にレーザ光Lを照射して、被分析物質Sa、Sbを第1の反射体10の表面1sから脱離させる光照射手段103と、脱離した被分析物質Sa、Sbを検出して被分析物質Sa、Sbの質量を分析する分析手段104とを備え、質量分析用基板1と分析手段104との間に、第1の反射体10の表面1sに対向する位置に配された引き出しグリッド105と、引き出しグリッド105の質量分析用基板1側の面と反対側の面に対向して配されたエンドプレート106を備えた構成としている。
【0155】
ステージ102は、該ステージ102上に載置された質量分析用基板1を少なくとも一方向(図中X方向)に移動させることが可能な移動ステージであり、質量分析用基板1上の複数の被分析物質が配置されたそれぞれの箇所を、レーザ照射位置に移動させることができる。
【0156】
光照射手段103は、レーザ光源を備えており、光源から出射される光を導光するミラーなどの導光系を備えていてもよい。光源としては、例えば、波長337nm、パルス幅50ps〜50ns程度のパルスレーザが挙げられる。
【0157】
分析手段104は、レーザ光Lの照射により質量分析用基板1の第1の反射体10の表面から脱離され、引き出しグリッド105及びエンドプレート106の中央の孔を通過して飛行してきた被分析物質Sa、Sbを検出する検出部107と、検出部107の出力を増幅さえるアンプ108と、アンプ108からの出力信号を処理するデータ処理部109により概略構成されている。
【0158】
以下に上記構成の質量分析装置100を用いた質量分析について説明する。
質量分析は、質量分析用基板1上に分離した位置する複数の被被分析物質Sa、Sbについて行う。まず、試料液を滴下して複数の被分析物質が分離された質量分析用基板1を、ステージ102上に載置する。この際、ステージ102の移動方向と、質量分析用基板の分離部の試料浸透方向とが一致するように載置する。そして、第1の被被分析物質Saが固定されている位置A近傍にレーザ光が照射されるように基板1の位置を調整する。
【0159】
まず、質量分析用基板1に電圧Vs印加され、所定のスタート信号により光照射手段103から特定波長のレーザ光Lが質量分析用基板1の位置Aの表面1sに照射される。レーザ光Lの照射により、質量分析用基板1の表面1sにおいて電場が増強されるとともに、その電場により増強されたレーザ光Lの光エネルギーにより試料中の被分析物質Saがイオン化されると共に表面1sから脱離される。なお、被分析物質Saはイオン化された後に脱離されるものであってもよいし、脱離された後にイオン化されるものであってもよい。
【0160】
脱離された被分析物質Saは、質量分析用基板1と引き出しグリッド105との電位差Vsにより引き出しグリッド105の方向に引き出されて加速し、中央の孔を通ってエンドプレート106の方向にほぼ直進して飛行し、更にエンドプレート106の孔を通過して検出器107に到達して検出される。
【0161】
検出器107からの出力信号は、アンプ108により所定レベルに増幅され、その後データ処理部109に入力される。データ処理部109では、上記スタート信号と同期する同期信号が入力されており、この同期信号とアンプ108からの出力信号とに基づいて被分析物質Saの飛行時間を求めることができるので、その飛行時間から質量を導出して質量スペクトルを得ることができる。
【0162】
本実施形態では、ボックス101内に、すべてが備えられた構成について説明したが、少なくとも、質量分析用基板1、引き出しグリッド105、エンドプレート106及び検出器107がボックス101内に配置されていればよい。
【0163】
本実施形態では、質量分析装置100がTOF−MSである場合を例に説明したが、イオン化された試料イオンの質量分析を行う装置としては、TOF型のものに限らず、IT(Ion Trap;イオントラップ型)、FT(ICR)(Fourier-Transform Ion Cyclotron Resonance;フーリエ変換型)、また複数の質量分析手法を組み合わせた手法であるQqTOF(Quadrupole-TOF;四重極-TOF型)、TOF−TOF(TOF連結型)などの質量分析装置を用いることができる。
【0164】
なお、上記第1〜第6実施形態の質量分析用基板は、レーザ光の照射に基板表面において効果的に電場を増強させることができる。従って、質量分析用基板は、基板表面における電場増強効果を利用したセンサ基板としても適用可能である。例えば、表面増強ラマン活性基板(SERS活性基板)は、微弱なラマン散乱光の強度を試料接触面における電場増強効果により高めて、センシングの感度を良好にすることのできるラマン分光用基板であるので、質量分析用基板1〜6は、SERS活性基板として好適に適用することができる。従って、例えば、質量分析を行う前に、ラマン分光によるセンシングを行い質量分析の被分析物質の有無および位置を検出した上で、質量分析を行ってもよい。また、ラマン分光スペクトル情報を質量情報・移動距離情報と共に用いることによって、物質同定精度を一層向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1A】本発明に係る第1実施形態の質量分析用基板の斜視図
【図1B】本発明に係る第1実施形態の質量分析用基板の厚み方向断面図
【図1C】本発明に係る第1実施形態の質量分析用基板の上面図
【図2】本発明に係る第1実施形態の質量分析用基板の設計変更例を示す厚み方向断面図
【図3A】本発明に係る第2実施形態の質量分析用基板の製造工程を示す斜視図その1
【図3B】本発明に係る第2実施形態の質量分析用基板の製造工程を示す斜視図その2
【図3C】本発明に係る第2実施形態の質量分析用基板の製造工程を示す斜視図その3
【図3D】本発明に係る第2実施形態の質量分析用基板の厚み方向断面図
【図4】本発明に係る第3実施形態の質量分析用基板の厚み方向断面図
【図5A】本発明に係る第4実施形態の質量分析用基板の製造工程を示す斜視図その1
【図5B】本発明に係る第4実施形態の質量分析用基板の製造工程を示す斜視図その2
【図5C】本発明に係る第4実施形態の質量分析用基板の製造工程を示す斜視図その3
【図5D】本発明に係る第4実施形態の質量分析用基板の厚み方向断面図
【図6】本発明に係る第5実施形態の質量分析用基板の斜視図
【図7】本発明に係る第6実施形態の質量分析用基板の厚み方向断面図
【図8A】質量分析用基板上における試料分離を示す平面図
【図8B】質量分析用基板上における試料分離を示す断面図
【図9A】質量分析用基板の使用形態を示す平面図
【図9B】質量分析用基板の使用形態を示す断面図
【図10】レーザ光照射により被分析物質が脱離される様子を示す図
【図11】質量分析装置の一実施形態の構成を示す概略図
【符号の説明】
【0166】
1〜6 質量分析用基板
1s、2s、3s、4s、5s 基板表面
10 第1の反射体
13 金属粒子
14 粒子間隙
16 微細孔
17 柱状構造膜
17p 柱状体
20 透光体
20s 透光体表面
21 微細孔
30 第2の反射体
40 被陽極酸化金属体
41 金属酸化物体
42 非陽極酸化部分
50 金属部
51 充填部
52 突出部
100 質量分析装置
102 ステージ
103 光照射手段
104 分析手段
L レーザ光
S 試料
Sa、Sb 被分析物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に固定した物質をレーザ光照射によりイオン化させると共に該表面から脱離させ、イオン化された該物質を捕捉して質量分析する方法に用いられる基板であって、
前記表面側から半透過半反射性を有する第1の反射体と、透光体と、反射性を有する第2の反射体とを順次備え、前記第1の反射体の表面にレーザ光照射を受けて前記透光体内で共振を生じる、前記第1の反射体の表面に試料液中に含まれる複数の被分析物質と表面相互作用を生じる試料分離部を有する光共振体を構成することを特徴とする質量分析用基板。
【請求項2】
前記第1の反射体が、少なくともその表面に前記レーザ光の波長よりも小さい凹凸構造を有するものであり、該凹凸構造の凹部が、前記試料分離部において一方から他方に連続的に繋がっていることを特徴とする請求項1記載の質量分析用基板。
【請求項3】
前記第1の反射体が、前記レーザ光照射を受けて局在プラズモンを生じる金属層であることを特徴とする請求項1または2記載の質量分析用基板。
【請求項4】
前記第1の反射体が、前記透光体の表面に固着された多数の非凝集金属粒子からなる金属層であることを特徴とする請求項3記載の質量分析用基板。
【請求項5】
前記透光体が、前記第1の反射体側の面において開口した前記レーザ光の波長よりも小さい径の多数の微細孔を有する透光性微細孔体からなり、該透光性微細孔体に、該微細孔の径よりも大きな突出部が該誘電体の表面よりも上に突出した状態で金属微粒子が充填されており、
前記第1の反射体が、前記突出部からなる金属層であることを特徴とする請求項3記載の質量分析用基板。
【請求項6】
前記第1の反射体が、前記透光体の表面に対して非平行方向に延びる互いに略平行な多数の柱状体からなる金属層であることを特徴とする請求項3記載の質量分析用基板。
【請求項7】
表面に固定した物質をレーザ光照射によりイオン化させると共に該表面から脱離させ、イオン化された該物質を捕捉して質量分析する方法に用いられる基板であって、
前記表面が、レーザ光照射を受けて局在プラズモンを励起すると共にホットスポットを生じる金属粗面であり、該金属粗面に、試料液中に含まれる複数の被分析物質と表面相互作用を生じる試料分離部を有するものであることを特徴とする質量分析用基板。
【請求項8】
前記金属粗面が、金属表面に前記レーザ光の波長よりも小さい凹凸構造を有するものであり、該凹凸構造の凹部が、前記試料分離部において一方から他方に連続的に繋がっていることを特徴とする請求項7記載の質量分析用基板。
【請求項9】
前記金属粗面が、誘電体の表面に多数の非凝集金属粒子が固定されてなるものであることを特徴とする請求項8記載の質量分析用基板。
【請求項10】
前記金属粗面が、誘電体の表面に形成された多数の微細孔内に、該微細孔の径よりも大きな突出部が該誘電体の表面よりも上に突出した状態で金属微粒子が充填されてなるものであることを特徴とする請求項8記載の質量分析用基板。
【請求項11】
前記試料分離部に、所望の表面物性を付与するための表面修飾層、および/または該分離部に付着した被分析物質の該分離部からの脱離および/または該被分析物質のイオン化を促進する脱離・イオン化誘起層からなる有機分子層が被膜されていることを特徴とする請求項1から10いずれか1項記載の質量分析用基板。
【請求項12】
前記有機分子層の厚みが、0.3nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項11記載の質量分析用基板。
【請求項13】
前記表面修飾層の厚みが、0.3nm以上3nm以下であることを特徴とする請求項11記載の質量分析用基板。
【請求項14】
前記表面修飾層が自己組織化単分子層であることを特徴とする請求項11記載の質量分析用基板。
【請求項15】
前記自己組織化単分子層がチオールを含む化合物からなることを特徴とする請求項14記載の質量分析用基板。
【請求項16】
前記脱離・イオン化誘起層がジシロキサンを含む化合物からなることを特徴とする請求項11記載の質量分析用基板。
【請求項17】
請求項1から16いずれか1項記載の質量分析用基板を用い、
複数の被分析物質を含む試料液を、該質量分析用基板上において前記試料分離部の一方から他方に向けて流下させることにより、前記複数の被分析物質を該被分析物質毎に該試料分離部上の互いに異なる位置に分離させ、
前記試料分離部上において該分離された前記複数の被分析物質のそれぞれに対して、順次レーザ光を照射することにより、各被分析物質をイオン化させると共に該試料分離部から脱離させ、該イオン化された物質を捕捉して質量分析することを特徴とする質量分析方法。
【請求項18】
前記被分析物質を有機溶媒に溶解または有機溶媒と混合させた上で、流下させることを特徴とする請求項17記載の質量分析方法。
【請求項19】
前記試料液に対する質量分析を、互いに異なる有機分子層を有する、複数の前記質量分析用基板を用いて行うことを特徴とする請求項17または18記載の質量分析方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−78482(P2010−78482A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247800(P2008−247800)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】