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質量分析用基板及びその製造方法
説明

質量分析用基板及びその製造方法

【課題】SALDI-MSに有用な質量分析用基板であって、イオン化剤として有機多価カルボン酸を添加しなくてもMALDI-MSに匹敵するイオン化効率を達成でき、しかもMALDI-MSに匹敵するソフトイオン化を達成できる質量分析用基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】粗面化された半導体基板上に樹枝状白金ナノ構造体が形成されている質量分析用基板であって、前記樹枝状白金ナノ構造体は、前記粗面化された半導体基板を白金溶液に浸漬することにより自己成長により形成されることを特徴とする質量分析用基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析用基板及びその製造方法に関し、特に表面支援レーザー脱離イオン化質量分析(SALDI-MS)に有用な質量分析用基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー脱離イオン化質量分析(LDI-MS)は、レーザーを試料分子へ照射し、気化とイオン化を引き起こすが、試料分子の種類によってはレーザーの照射により著しく分解し、効率的なイオン化ができないという問題がある。よって、試料分子を有機イオン化補助剤(マトリックス)と混合してレーザーを照射し、ソフトにイオン化(試料分子の分解を抑えたイオン化)する方法が知られており(特許文献1〜2、非特許文献1〜3)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)と称されている。
【0003】
MALDI-MSは、レーザーのエネルギーを吸収するマトリックスと混合した試料分子を基板上に配置し、レーザーを照射する質量分析法である。この方法では、レーザーを効率よく吸収したマトリックスと試料分子がほぼ同時に気化及びイオン化され、イオン化したマトリックスとの電子の授受によって、試料分子は殆ど分解せずにイオン化させることができる(ソフトイオン化)。
【0004】
しかしながら、MALDI-MSでは、適当なマトリックスを選定して試料分子と混合する手間を要する。また、低分子量領域においてマトリックス由来のバックグラウンドイオンが生じるため、医薬品、環境化学物質、農薬、化学工業に使用される添加剤などの低分子化合物の検出及び得られたマススペクトルの解析が困難になる場合がある。例えば、アスピリン(分子量180)、ペニシリンG(分子量334)、オキサシリン(分子量441)、ステロイド類(分子量約500)等の多くの薬剤・薬物及び環境問題を引き起こす物質の分子量は1000以下である。また、材料分野における製品の性能を左右する可塑剤などの添加物の分子量も同様に小さい。よって、一般には、MALDI-MSは低分子化合物の測定には用いられていない。
【0005】
上記問題を改善するために、マトリックスを用いないLDI-MSが開発されてきている。この方法は、レーザーを吸収する基板に試料を載せるだけでLDI-MSの測定ができ、表面支援レーザー脱離イオン化質量分析法(SALDI-MS)と称されている。SALDI-MSでは、マトリックスを用いないために、マトリックス由来の複雑なピークを排除することができ、低分子化合物を高感度に検出できる方法として注目されている。
【0006】
SALDI-MSに用いられる質量分析用基板として、シリコン基板の表面に電気化学的酸化処理を施すことにより得られる、サブミクロンオーダーの多孔質層を備えたポーラスシリコンプレートが知られている。このプレート上に試料(マトリックスを含まない)を配置してレーザー光を照射することで、試料をソフトにイオン化することができる。この方法はSALDI-MSの中でも特にDIOS法と称されている(非特許文献4)。
【0007】
SALDI-MSに用いられる質量分析用基板として、金属や金属酸化物ナノ粒子の分散液を導電性基板に塗布してナノ粒子層を設けた質量分析用基板も知られている。そして、特にナノ粒子の形態を花弁状にすることでSALDI-MSの感度が上昇することが知られている(非特許文献5)。具体的には、非特許文献5には、導電性基板に花弁状の白金ナノ粒子(ナノフラワー)を積層した質量分析用基板が開示されている。
【0008】
しかしながら、現状のSALDI-MSには、次のような問題がある。
(1)DIOS法で使用されるシリコン基板は表面が酸化されることで経時的に検出感度の低下が起こるため、使用できる時間に制限がある。
(2)導電性基板にナノ粒子層を設けた基板では、基板作製に多数の工程を要するため、質量分析用基板が高価になる。
(3)SALDI-MSでは、MALDI-MSのようなマトリックスは使用しないが、中性の試料分子のイオン化を促進させるために、通常、試料分子にプロトンや金属イオンを含むイオン化剤が添加されている。よって、現状のSALDI-MSでは、適切なイオン化剤の選択や添加量の最適化が必要である。そして、特にSALDI-MSではイオン化剤としてクエン酸などの有機多価カルボン酸が適しているが、イオン化剤自体がイオン化して検出されるためノイズの原因となっている。
(4)MALDI-MSではマトリックスを用いるために試料分子は殆ど分解されずにイオン化(ソフトイオン化)するが、現状のSADLI-MSではMALDI-MSに比べて試料分子が分解し易い(ハードイオン化)。
【0009】
上記の状況のもと、近年、生体試料や高分子試料の定性・定量分析における質量分析の適用は益々拡大しており、これに伴ってマトリックスフリーなSALDI-MSをより改良してMALDI-MSに匹敵するイオン化効率の向上とソフトなイオン化を達成することが強く求められている。具体的には、イオン化剤として有機多価カルボン酸を添加しなくてもMALDI-MSに匹敵するイオン化効率を達成でき、しかもMALDI-MSに匹敵するソフトイオン化を達成できる質量分析用基板の開発が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008-107209号公報
【特許文献2】特開2008-204654号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Arakawa et.al. J. Mass Spectrom. Soc. Jpn 2004, 52, 33.
【非特許文献2】Karas, M.;Hillenkamp, F. Anal. Chem. 1988, 60, 2299.
【非特許文献3】Tanaka, K.; Eaki, H.; Ido, Y.;Akita, S.; Yoshida, Y.;Yoshida, T. Rapid Commun. Mass Spectrm. 1988, 2, 151.
【非特許文献4】Wei, J.; Buriak, J. M.; Siuzdak, G. Nature 1999, 399, 243-6.
【非特許文献5】H. Kawasaki, T. Yonezawa, T. Watanabe, R. Arakawa: J. Phys. Chem. C, 11,16278 (2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、SALDI-MSに有用な質量分析用基板であって、イオン化剤として有機多価カルボン酸を添加しなくてもMALDI-MSに匹敵するイオン化効率を達成でき、しかもMALDI-MSに匹敵するソフトイオン化を達成できる質量分析用基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、粗面化した半導体基板を白金溶液に浸漬することにより半導体基板上に樹枝状白金ナノ構造体を自己成長により形成させた質量分析用基板が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、下記の質量分析用基板及びその製造方法に関する。
1.粗面化された半導体基板上に樹枝状白金ナノ構造体が形成されている質量分析用基板であって、前記樹枝状白金ナノ構造体は、前記粗面化された半導体基板を白金溶液に浸漬することにより自己成長により形成されることを特徴とする質量分析用基板。
2.前記半導体基板は、シリコン基板である、上記項1に記載の質量分析用基板。
3.前記半導体基板は、疎水化処理されている、上記項1又は2に記載の質量分析用基板。
4.表面支援レーザー脱離イオン化質量分析(SALDI-MS)に用いる、上記項1〜3のいずれかに記載の質量分析用基板。
5.リン酸化ペプチドの選択的検出に用いる、上記項4に記載の質量分析用基板。
6.下記工程を有する質量分析用基板の製造方法:
(1)半導体基板を粗面化する工程1、
(2)粗面化された半導体基板を白金溶液に浸漬することにより、前記半導体基板上に樹枝状白金ナノ構造体を自己成長により形成する工程2。
7.工程1においてサンドペーパーでスクラッチすることにより半導体基板を粗面化する、上記項6に記載の製造方法。
8.前記粗面化された半導体基板の表面粗さRaが50〜300nmである、上記項6又は7に記載の製造方法。
9.前記半導体基板を疎水化処理する工程3を有する、上記項6〜8のいずれかに記載の製造方法。
【0015】
以下、本発明の質量分析用基板及びその製造方法について詳細に説明する。
【0016】
本発明の質量分析用基板は、粗面化された半導体基板上に樹枝状白金ナノ構造体が形成されている質量分析用基板であって、前記樹枝状白金ナノ構造体は、前記粗面化された半導体基板を白金溶液に浸漬することにより自己成長により形成されることを特徴とする。
【0017】
上記特徴を有する本発明の質量分析用基板は、特に粗面化された半導体基板上に樹枝状白金ナノ構造体が形成されていることにより、SALDI-MSに用いた場合に、イオン化剤としてクエン酸などの有機多価カルボン酸を添加しなくてもMALDI-MSに匹敵するイオン化効率を達成できる。また、MALDI-MSに匹敵するソフトイオン化を達成できる。具体的には、マトリックスやイオン化剤(有機多価カルボン酸)を用いないため、マススペクトルにマトリックスやイオン化剤に由来するノイズが含まれておらず、これまで分析が困難であった低分子量の試料分子であっても正確に質量分析することができる。更に、樹枝状白金ナノ構造体は、粗面化された半導体基板を白金溶液に浸漬することにより自己成長により簡便に形成されるため、製造が容易である上、経時的な検出感度の劣化が抑制されている。
【0018】
上記本発明の質量分析用基板は、下記工程を有する本発明の質量分析用基板の製造方法によって簡便に製造することができる:
(1)半導体基板を粗面化する工程1、
(2)粗面化された半導体基板を白金溶液に浸漬することにより、前記半導体基板上に樹枝状白金ナノ構造体を自己成長により形成する工程2。
【0019】
以下、製造方法の説明を主軸とし、本発明の質量分析用基板について説明する。
【0020】
工程1
工程1は、半導体基板を粗面化する。
【0021】
本発明で用いる半導体基板としては、例えば、シリコン基板、ゲルマニウム基板等が挙げられる。この中でもシリコン基板が好ましい。半導体基板の大きさについては、公知のLDI-MSに用いられる質量分析用基板に倣えばよい。
【0022】
半導体基板の粗面化方法は限定されないが、例えば、サンドペーパーでスクラッチすることにより粗面化することが好ましい。サンドペーパーの番手は限定されないが、例えば、♯400〜♯2000程度が好ましく、♯400〜♯1000程度がより好ましい。また、粗面化後の半導体基板の表面粗さRaについては、50〜300 nm程度が好ましい。かかる表面粗さであれば、半導体基板を白金溶液に浸漬した際に、樹枝状白金ナノ構造体が形成され易い。
【0023】
工程2
工程2は、粗面化された半導体基板を白金溶液に浸漬することにより、前記半導体基板上に樹枝状白金ナノ構造体を自己成長により形成する。
【0024】
本発明では、工程2で半導体基板を白金溶液に浸漬する前に、半導体基板の前処理(有機物及び/又は酸化物の除去)を行うことが好ましい。有機物の除去方法としては、例えば、半導体基板をアセトン及び/又はメタノール中での超音波洗浄が挙げられる。また、酸化物の除去方法としては、例えば、フッ化水素溶液中での浸漬が挙げられる。前処理条件及び前処理時間については限定されず、半導体基板の種類に応じて適宜設定する。
【0025】
白金溶液としては限定されないが、例えば、フッ化水素溶液に六塩化白金酸を溶解した白金溶液が挙げられる。なお、溶媒としてフッ化水素溶液を用いることが好ましい。半導体基板の白金溶液中での浸漬時間は、白金溶液の濃度、半導体基板の種類及び樹枝状白金ナノ構造体を成長させる大きさ等に応じて調整するため限定的ではないが、5〜60分程度が好ましく、10〜20分程度がより好ましい。これにより、粗面化された半導体基板の表面に樹枝状白金ナノ構造体が自己成長により形成される。
【0026】
本発明では、粗面化された半導体基板を白金溶液に浸漬することにより、図1(a)で示されるように樹枝状白金ナノ構造体(針状の突起物を有する粒子)が自己成長により形成される。これに対し、粗面化されていない半導体基板を白金溶液に浸漬すると、図1(b)で示されるように球状の白金粒子しか形成されない。よって、樹枝状白金ナノ構造体を形成するためには、半導体基板を粗面化しておくことが必須である。
【0027】
樹枝状白金ナノ構造体の大きさは限定されないが、50〜500nm程度である。
【0028】
工程3
本発明では、半導体基板を疎水化処理する工程3を更に有してもよい。
【0029】
疎水化処理の方法は限定されないが、例えば、樹枝状白金ナノ構造体を形成した半導体基板をシランカップリング溶液に浸漬することにより、半導体基板の露出部分を疎水化処理することができる。疎水化処理することにより、ソフトイオン化の特性をより向上させることができる。
【0030】
シランカップリング溶液としては、例えば、ヘキサンにヘキサデカフルオロ−1,1,2,2,テトラ−ヒドロデシルトリクロロシランを溶解したシランカップリング溶液が好ましい。シランカップリング溶液の濃度は限定されないが、0.1〜5mM程度が好ましく、0.5〜2mM程度がより好ましい。
【0031】
上記製造方法により得られる本発明の質量分析用基板は、SALDI-MSに用いた場合に、イオン化剤としてクエン酸などの有機多価カルボン酸を添加しなくてもMALDI-MSに匹敵するイオン化効率を達成できる。また、MALDI-MSに匹敵するソフトイオン化を達成できる。なお、試料分子の分子量が大きいことが分かっており、クエン酸などの有機多価カルボン酸に由来するノイズがマススペクトルの解析に影響を及ぼさない場合には、イオン化剤を用いることにより、分析精度を更に向上させることもできる。
【0032】
また、本発明の質量分析用基板は、リン酸化ペプチドを選択的に検出することができる。具体的には、本発明の質量分析用基板にリン酸化ペプチドと非リン酸化ペプチドの混合溶液を滴下すると、質量分析用基板表面にリン酸化ペプチドが選択的に吸着される。よって、滴下後に溶媒で質量分析用基板表面を洗浄することにより、リン酸化ペプチドを選択的に検出することができる。例えば、後述の試験例6及び試験例7では、リン酸化ペプチドと非リン酸化ペプチドの混合溶液に含まれるリン酸化ペプチドを選択的に検出できることが示されている。
【0033】
タンパク質のリン酸化は、生体内におけるシグナル伝達、分化、増殖等の多様な細胞機能の制御に関与していることが知られている。近年、生体内でのタンパク質のリン酸化部位を解析するために、MALDI-MSが有効なツールとして活用されている。しかしながら、MALDI-MSを用いた解析において、リン酸化ペプチドのイオン化効率は低く、相対的に量の多い非リン酸化ペプチドによってリン酸化ペプチド由来のイオン強度が抑制されてしまうために、リン酸化ペプチドを感度よく検出することが難しいという問題がある。他方、本発明の質量分析用基板は、リン酸化ペプチドを選択的に吸着するという特異的な特性を有しているため、リン酸化ペプチドを選択的に質量分析することができる。よって、プロテオーム解析におけるタンパク質のリン酸化及び脱リン酸化に関する網羅的な分析技術としての実用化が可能である。
【発明の効果】
【0034】
本発明の質量分析用基板は、特に粗面化された半導体基板上に樹枝状白金ナノ構造体が形成されていることにより、SALDI-MSに用いた場合に、イオン化剤としてクエン酸などの有機多価カルボン酸を添加しなくてもMALDI-MSに匹敵するイオン化効率を達成できる。また、MALDI-MSに匹敵するソフトイオン化を達成できる。具体的には、マトリックスやイオン化剤(有機多価カルボン酸)を用いないため、マススペクトルにマトリックスやイオン化剤に由来するノイズが含まれておらず、これまで分析が困難であった低分子量の試料分子であっても正確に質量分析することができる。更に、樹枝状白金ナノ構造体は、粗面化された半導体基板を白金溶液に浸漬することにより自己成長により簡便に形成されるため、製造が容易である上、経時的な検出感度の劣化が抑制されている。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】半導体基板を白金溶液に浸漬した際に形成される白金ナノ構造体の違いを示す図である。(a)は半導体基板を粗面化した場合であり、(b)は半導体基板を粗面化しない場合である。
【図2】試験例1の結果を示す図である。
【図3】試験例2の結果を示す図である。
【図4】試験例3の結果を示す図である。
【図5】試験例4の結果を示す図である。
【図6】試験例5の結果を示す図である。
【図7】試験例6の結果を示す図である。
【図8】試験例7の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0037】
実施例1(本発明の質量分析用基板)
シリコン基板(1.5cm×1.5cm)をアセトン及びメタノール中でそれぞれ10分ずつ超音波洗浄することにより、基板に付着している有機物及び酸化物を除去した。
【0038】
次に、シリコン基板の片面を♯1000のサンドペーパーを用いてスクラッチすることにより粗面化した(表面粗さRa:170nm)。その後、再度アセトン及びメタノール中でそれぞれ10分ずつ超音波洗浄し、基板に付着している有機物及び酸化物を除去した。
【0039】
HF溶液(5M)にH2PtCl6(1mM)を溶解した白金溶液に粗面化したシリコン基板を10分間浸漬した。これにより、樹枝状白金ナノ構造体を自己成長により形成した。樹枝状白金ナノ構造体の大きさは50〜500nmであった。その後、白金溶液から取り出し、水洗した。これにより、本発明の質量分析用基板(樹枝状Pt、Dendric-Ptとも言う)を得た。
【0040】
更に、シリコン基板を疎水化処理した質量分析用基板も作製した。即ち、樹枝状白金ナノ構造体を形成したシリコン基板を、ヘキサンにヘキサデカフルオロ−1,1,2,2,テトラ−ヒドロデシルトリクロロシランを溶解したシランカップリング溶液(1mM)に5時間浸漬することによりシリコン基板の露出部分を疎水化した。これにより、疎水化した本発明の質量分析用基板(Hy-Dendric-Ptとも言う)を得た。
【0041】
比較例1(白金ナノフラワー基板)
塩化白金(IV)酸(1g)水溶液に水素化ホウ素ナトリウム(380mg)を入れて水素化ホウ素ナトリウムを還元した。得られた粉末をろ過し、純水で洗浄し、雑イオン等を可能な限り除去した後、乾燥・回収した。
【0042】
次に、乾燥物を純水中に入れ、めのう乳鉢で十分に摺り合わせた。
【0043】
得られた白金ナノ粉(花弁状)分散液をステンレス製のLDIプレートに塗布し、更にイオン化剤としてクエン酸バッファー(クエン酸(0.2M)/クエン酸アンモニウム(0.2M)=1.1/5の体積比)を塗布した。これにより、白金ナノフラワー基板を得た。
【0044】
比較例2(DIOS基板)
シリコン基板をEtOH-HF(46%)(体積比1:1)に浸漬し、30cmの距離で100Wタングステンバルブから白色光を照射してエッチングを行った。エッチング条件は、30mAで1分とした。エッチング後、EtOHで洗浄し、乾燥した。これによりDIOS基板を得た。
【0045】
走査型電子顕微鏡(SEM)で確認したところ、サブミクロンサイズの多孔質構造であることが確認された。
【0046】
比較例3(MALDI-MS:マトリックスDHBA使用)
市販のMALDI-MS用ステンレス基板と、マトリックスDHBA(2,5-Dihydroxybenzoic acid)の飽和溶液(溶媒は水/アセトニトリル、体積比で50:50)を用意した。
【0047】
比較例4(MALDI-MS:マトリックスCHCA使用)
市販のMALDI-MS用ステンレス基板と、マトリックスCHCA(α-Cyano-4-hydroxycinnamicacid)の飽和溶液(溶媒は水/アセトニトリル、体積比で50:50)とを用意した。
【0048】
試験例1
本発明の質量分析用基板(実施例1、疎水化処理なし)と、白金ナノフラワー基板(比較例1)を用いてアンジオテンシンII(5pmol)の質量分析を行った。マススペクトルの結果を図2に示す。
【0049】
図2から明らかなように、白金ナノフラワー基板ではイオン化剤であるクエン酸を添加することにより初めてアンジオテンシンIIの弱いピークを確認することができた。しかし、イオン化剤として有機多価カルボン酸を使用しているため、イオン化剤自体がイオン化して検出され(スペクトル中の丸印のピーク)、ノイズの原因となっている。他方、本発明の質量分析用基板ではイオン化剤であるクエン酸を添加しなくてもアンジオテンシンIIの強いピークを確認することができる。
【0050】
以上より、本発明の質量分析用基板は、イオン化剤を用いる場合のノイズの問題が解消されており、低分子量試料の質量分析に有用であることが分かる。
【0051】
試験例2
本発明の質量分析用基板が低分子量試料の質量分析に有用であることを確認するために、試料分子として低分子薬物(a)β-cyclodextrin(500fmol)、(b)Verapamil(5fmol)、(c)Hydrochloride Caffein(10pmol)を用いて質量分析を行った。マススペクトルの結果を図3に示す。
【0052】
図3から明らかなように、本発明の質量分析用基板は、低分子薬物のいずれについても、強いピークを確認することができる。
【0053】
試験例3
実施例1及び比較例1〜4の各質量分析用基板のソフトイオン化(試料分子を分解させずにレーザー脱離させる能力)の程度を調べた。ソフトイオン化の程度を客観的に評価するために、“Thermometer ions(TMイオン)と呼ばれる単分子分解する4-chloro-benzylpyridiniumを試料分子として用いた。このTMイオンは、脱離時の内部エネルギーが高いと下記のようにフラグメントが生じる。
【0054】
【化1】

【0055】
TMイオンのSurvival Yield(SY)値はソフトイオン化の尺度となる。SY値は次式:
SY値=M+/(M++F+)で表されその値は0と1の間であり、1に近いほどフラグメントの少ないソフトなイオン化であることを示す。各質量分析用基板のSY値を図4に示す。
【0056】
図4の結果から明らかなように、本発明の樹枝状白金ナノ構造体を形成した質量分析用基板(Dendric-Pt)は、従来のSALDI-MSで用いられてきたDIOS基板よりもSY値が高く、DHBAをマトリックスに用いたMALDI-MSと同等の値である。
【0057】
更に、Dendric-Pt基板を疎水化処理したもの(Hy-Dendric-Pt)は、CHCAを用いたMALDI-MSと同等のSY値(〜1.0)を示し、試料を検出できる最小レーザーパワーも25から5に低下しており、エネルギー効率良く試料を検出できることがわかる。
【0058】
試験例4
本発明の質量分析用基板(実施例1、疎水化処理なし)と、白金ナノフラワー基板(比較例1)を用いて不安定な脂質(DMPC:ジミリストイルホスファチジルコリン)の質量分析を行った。マススペクトルの結果を図5に示す。
【0059】
図5から明らかなように、白金ナノフラワー基板ではDMPCが分解され易く、微弱なピークしか確認することができない。他方、本発明の質量分析用基板ではDMPCの分解が抑制されており、強いピークを確認することができる。
【0060】
試験例5
本発明の質量分析用基板(実施例1、疎水化処理なし)と、MALDI-MS(比較例3、4)を用いて合成高分子(PMMA:ポリメタクリル酸メチル)の質量分析を行った。マススペクトルの結果を図6に示す。
【0061】
図6から明らかなように、いずれの質量分析方法でもPMMAのピークは確認できるが、試料検出できる最小レーザーパワーが本発明の質量分析用基板では25まで低下しており、最もエネルギー効率良く試料を検出できることがわかる。
【0062】
試験例6
非リン酸化ペプチドとして次の10種類(allanton, angiotensin frag. 1-7, RASG-1, angiotensine II, bradykin, angiotensin I, renin substrate, enolase T35, enolase T37及びmelittin)を用意し、アセトニトリル水溶液(水:アセトニトリル=90:10(体積比))1mlに溶解した。
【0063】
リン酸化ペプチドとして次の4種類(T 181 1P, T191 1P, T43 1P及びT43 2P)を用意し、アセトニトリル水溶液(水:アセトニトリル=85:15(体積比))0.1mlに溶解した。
【0064】
上記非リン酸化ペプチド溶液とリン酸ペプチド溶液を混合し、その0.5μlを本発明の質量分析用基板(実施例1、疎水化処理なし)に滴下して10分間静置した。その後、滴下部分をアセトニトリル水溶液で洗浄した。その後、100mMリン酸アンモニウム1.5μlを滴下した。
【0065】
質量分析の結果を図7に示す。図7の結果から明らかなように、本発明の質量分析用基板にはリン酸化ペプチドが選択的に吸着されており、洗浄工程を経ることにより非リン酸化ペプチドの一部が除去されて非リン酸化ペプチドと比較して選択的に質量分析できることが分かる。
【0066】
試験例7
リン酸化タンパク質であるβ−カゼイン(2mg)とタンパク質分解酵素であるトリプシン(2mg)をそれぞれ50mMのアンモニウム重炭酸塩1mlに溶解した。β−カゼインの溶液0.5mlを0.1mlトリプシン溶液に混合し、600rpmの攪拌条件で37℃、12時間攪拌した。これにより、リン酸ペプチドを含有するβ−カゼイン消化物を得た。
【0067】
β−カゼイン消化物5μlを0.15%TFA 45μlに溶解した。その0.5μlを本発明の質量分析用基板(実施例1、疎水化処理なし)に滴下して10分間静置した。その後、滴下部分を0.1%TFA溶液で3回洗浄した。その後、100mMリン酸アンモニウム1.5μlを滴下した。
【0068】
質量分析の結果を図8に示す。図8の結果から明らかなように、本発明の質量分析用基板にはリン酸化ペプチドが選択的に吸着されており、洗浄工程を経ることによりリン酸化ペプチドを選択的に質量分析できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗面化された半導体基板上に樹枝状白金ナノ構造体が形成されている質量分析用基板であって、前記樹枝状白金ナノ構造体は、前記粗面化された半導体基板を白金溶液に浸漬することにより自己成長により形成されることを特徴とする質量分析用基板。
【請求項2】
前記半導体基板は、シリコン基板である、請求項1に記載の質量分析用基板。
【請求項3】
前記半導体基板は、疎水化処理されている、請求項1又は2に記載の質量分析用基板。
【請求項4】
表面支援レーザー脱離イオン化質量分析(SALDI-MS)に用いる、請求項1〜3のいずれかに記載の質量分析用基板。
【請求項5】
リン酸化ペプチドの選択的検出に用いる、請求項4に記載の質量分析用基板。
【請求項6】
下記工程を有する質量分析用基板の製造方法:
(1)半導体基板を粗面化する工程1、
(2)粗面化された半導体基板を白金溶液に浸漬することにより、前記半導体基板上に樹枝状白金ナノ構造体を自己成長により形成する工程2。
【請求項7】
工程1においてサンドペーパーでスクラッチすることにより半導体基板を粗面化する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記粗面化された半導体基板の表面粗さRaが50〜300nmである、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記半導体基板を疎水化処理する工程3を有する、請求項6〜8のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−7891(P2012−7891A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141352(P2010−141352)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】