質量分析用基板
【課題】レーザー脱離イオン化質量分析(LDI-MS)法において、高い分解能で十分なS/N比を得ることができ、数fmolより低い極微量でも精度良く試料の質量分析を行うことができる質量分析用基板を提供する。
【解決手段】導電性を有する基材とこの基材の表面に設けられた試料保持用の測定スポットとを有し、レーザー脱離イオン化質量分析において分析試料を測定スポットに付着させて使用する質量分析用基板であり、測定スポットが金属酸化物とレーザー照射によりプロトン及び/又はカチオンを供給するイオン供給性有機物質とを含むと共に、スポット高さが1〜100μmであることにその特徴を有する。
【解決手段】導電性を有する基材とこの基材の表面に設けられた試料保持用の測定スポットとを有し、レーザー脱離イオン化質量分析において分析試料を測定スポットに付着させて使用する質量分析用基板であり、測定スポットが金属酸化物とレーザー照射によりプロトン及び/又はカチオンを供給するイオン供給性有機物質とを含むと共に、スポット高さが1〜100μmであることにその特徴を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー脱離イオン化質量分析(LDI-MS)法において、分析対象の試料を保持するために用いられる質量分析用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析(MS)は、測定(分析)対象の試料分子(タンパク質、ペプチド、多糖類といった生体関連の天然高分子化合物や合成高分子化合物)をイオン化して質量別に分離し、分子量の測定、及び解離生成物(フラグメントイオン)による構造解析を可能とする分析法である。この方法では、試料分子をイオン化し、質量(m)とそのイオンの価数(z)の商(m/z)の差により分離・検出が行われる。質量分析は検出感度や選択性が高く、生体関連物質、環境規制物質、そして薬物の分析等、多くの分野で利用されている。ここで、イオン化とは、試料分子から電子を奪いイオンの状態にする、或いはプロトンやアルカリ金属イオンが試料に付加してイオンの状態にすることであり、その方法の一つとして測定対象物質へレーザーを照射しイオン化するレーザー脱離イオン化(Laser Desorption/Ionization, LDI)法が挙げられる。LDI法によりイオン化されたイオンは、飛行時間型(Time-of-Flight, TOF)等の質量分離部を通ることによってm/zの差で分離され、検出器で観測される。また、検出された時の分子イオン濃度によってピークに強度が現れる。得られた質量スペクトルを解析することで測定対象とする試料分子の構造解析が行える(LDI-MS)。
【0003】
そして、このLDI−MSには、試料分子の効率的なイオン化を達成するために分析試料中にイオン化補助剤(マトリックス)としてニコチン酸、極微細コバルト粉とグリセロールとの組合せ、Fe3O4ナノ粒子とポリアクリル酸との組合せ等を添加して用いるマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS:Matrix-Assisted Laser Desorption/Ionization Mass Spectrometry;非特許文献1〜3参照)や、マトリックス由来の複雑なピークを排除するために、マトリックスを用いることなく、基材表面に様々な工夫を施した表面支援レーザー脱離イオン化法(SALDI:Surface Assisted Laser Desorption/Ionization;特許文献1〜5及び非特許文献4参照)が知られており、また、上記のMALDI−MS法と、上記のSALDI法の内の1つであるポーラスシリコンプレートを用いるDIOS法(Desorption/Ionization On (porous) Silicon:DIOS)とを組み合わせた方法も知られている(非特許文献5)。
【0004】
更に、本発明者らによる特許文献6においては、基材上にFe、Co、及びCuから選ばれた1種又は2種以上の金属の酸化物からなる金属酸化物層が設けられた質量分析用基板が提案されており、また、特許文献7には基材上にコバルト等の金属微粒子を塗布した質量分析用基板が開示されており、これらの質量分析用基板の金属酸化物層や金属微粒子塗布面に分析試料を付着させてレーザー脱離イオン化質量分析を行うことも知られている。
【0005】
しかしながら、上記の非特許文献1〜5及び特許文献1〜7や方法においては、いずれの場合も、試料分子のイオン化を促進させるために、測定のたびに分析試料中に有機酸、有機酸金属塩、極微細金属粉等のイオン化補助剤(マトリックス)やイオン化剤を添加する必要があり、測定作業が煩雑になるほか、イオン化剤自体がノイズの原因になり、また、その添加量によっては測定感度が変化する虞もある。
【0006】
また、近年、生体試料や高分子試料に対する質量分析の必要性は益々拡大しており、上述したような状況の下で、マトリックスフリーなイオン化法を更に高性能化する必要に迫られており、特に、分析試料中にイオン化剤を添加することなくイオン化効率を向上させることが強く求められている。
【0007】
そこで、本発明者等は、これらの要請に対応すべく鋭意検討した結果、先に、導電性を有する基材上に、所定の金属酸化物とプロトン及び/又はカチオンを供給することができる所定のイオン供給性有機物質とが共存する測定スポットを設け、質量分析の際には分析試料中にイオン化剤を添加する必要の無いマトリックスフリーな質量分析用基板を開発し、提案した(PCT/JP2010/61684)。この質量分析用基板によれば、単に、質量分析の際に、分析試料中にイオン化剤を添加する必要が無いというだけでなく、ノイズの発生や検出感度の低下等の問題をも解消することができ、高い分解能で精度良く分析することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,288,390号公報
【特許文献2】特開2008-107,209号公報
【特許文献3】米国特許第7,122,792号公報
【特許文献4】特開2008-204,654号公報
【特許文献5】特開2009-009,811号公報
【特許文献6】特開2010-151,727号公報
【特許文献7】特開昭62-284,256号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Karas, M.;Hillenkamp, F. Anal. Chem. 1988, 60, 2299.
【非特許文献2】Tanaka, K.;Eaki, H.;Ido, Y.:Akita, S.;Yoshida, Y.;Yoshida, T. Rapid Commun. Mass Spectrom. 1988, 2, 151.
【非特許文献3】CHIU Yu-Chih, et al., Anal Lett, Vol.41, No.1/3, pp260-267 (2008.01.01)
【非特許文献4】Wei, J.;Buriak, J.;Siuzdak, G. Nature 1999, 401, 243.
【非特許文献5】R. Arakawa, N. Miyake, S. Okuno, H. Yamaoka, Rapid Commun. Mass Spectrom. 2006, 20, 2063.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、先に提案したマトリックスフリーで分析試料中にイオン化剤添の必要の無い質量分析用基板について、更に検討を進める中で、基材上に設けられて所定の金属酸化物とイオン供給性有機物質とが共存する測定スポットの高さが検出感度に影響し、このスポット高さを所定の範囲にすることにより十分なS/N比(試料ピークの強度とベースラインピークの強度とのSignal to Noise比)を得ることができ、結果として試料が数fmolより低い極微量でも精度良く質量分析を行うことができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
従って、本発明の目的は、レーザー脱離イオン化質量分析(LDI-MS)法において、高い分解能で十分なS/N比を得ることができ、試料が数fmolより低い極微量でも精度良く質量分析を行うことができる質量分析用基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、導電性を有する基材とこの基材の表面に設けられた試料保持用の測定スポットとを有し、レーザー脱離イオン化質量分析において分析試料を前記測定スポットに付着させて使用する質量分析用基板であり、前記測定スポットは、金属酸化物とレーザー照射によりプロトン及び/又はカチオンを供給するイオン供給性有機物質とを含むと共に、そのスポット高さが1〜100μmであることを特徴とする質量分析用基板である。
【0013】
本発明の質量分析用基板は、導電性を有する基材の表面に設けられたスポット高さ1〜100μmの測定スポット中に、所定の金属酸化物と、プロトン及び/又はカチオンを供給するイオン供給性有機物質とが存在し、この測定スポットに分析試料を付着させてレーザーを照射させた際に、イオン供給性有機物質及び金属酸化物からそれぞれプロトンやカチオンが供給され、これによって分析試料中の試料分子のイオン化が促進される。
【0014】
本発明において、導電性を有する基材としては、質量分析の手法上必要な導電性を備えるものであればよく、特に制限はないが、例えば不純物半導体であるシリコン(n型、p型)やSUS304、それらを積層した板といった金属等からなる基材を挙げることができる。一般に、これらのうちで熱伝導率が比較的小さい材質からなる基材を使用すると、レーザーからのエネルギーが分析用基板に散逸し難いことから、比較的低いレーザーエネルギーで試料を分析することができ、分析対象の試料の破壊を抑えることができる点で好都合である。
【0015】
また、本発明で用いる基材の形状についても、質量分析装置の試料台に固定できれば特に制限はなく、表面全体が平滑な平板状の基材であっても、また、表面に分析試料を滴下するための適宜の断面形状(例えば、縦小括弧の括弧閉じ形状、縦大括弧の括弧閉じ形状、縦亀甲括弧の括弧閉じ形状、縦山括弧の括弧閉じ形状等の形状)を有する複数の凹部(ウェル)を備えた基材であってもよい。ウェルの最大深さは、通常100μm以上2000μm以下、好ましくは、120μm以上300μm以下がよい。ウェル深さが100μm未満であると、金属分散液を塗布した際にウェル周囲に液が漏洩し、均一な測定スポットが形成され難くなる。また、ウェル深さが2000μmより深いと、イオン化した試料の飛行距離に誤差が生じ易くなり、分子量の測定誤差が大きくなる傾向がある。
【0016】
また、本発明において、上記基材の表面に設けられる試料保持用の測定スポットを構成する金属酸化物については、それが試料のイオン化を促進するものであればよく、特に制限はないが、好ましくはFe、Co及びCuからなる群から選ばれた1種又は2種以上の金属の酸化物であるのがよく、レーザー脱離イオン化質量分析において効率良く分析対象の試料を脱離及びイオン化できる観点から、より好ましくはFe2O3(三酸化二鉄)、より好ましくはα-Fe2O3である。例えば、酸化鉄としてFe2O3を用いる場合は、単独で使用してもよく、また、別の酸化鉄と組み合わせて使用してもよく、更には、必要により酸化鉄をCoやCu等の他の金属の酸化物と組み合わせて用いてもよい。
【0017】
本発明で用いる金属酸化物の形状については、例えば球状、針状、多角面体、無定形、階層状、リーフ状、スノーフレイク状等の様々な形状を有するものでよいが、好ましくは球状、針状又は無定形であるものがよい。また、金属酸化物の粒子径については、基材の表面に測定ポイントを作製して質量分析用基板を調製する際には金属酸化物は所定の分散剤に分散させた金属酸化物分散液として用いられるので、好ましくはその一次粒子径が通常1nm以上100nm以下、より好ましくは20nm以上60nm以下であるのがよく、この金属酸化物の一次粒子径が1nm未満であるとレーザー照射により測定スポットが、破損・飛散し易くなり、金属酸化物自体がノイズとして検出され易くなるという問題が生じる虞があり、反対に、100nmを超えると分散液中で粒子が凝集し易くなり、また、測定試料を測定スポットに保持し難くなるという問題が生じる虞がある。
【0018】
更に、本発明において、上記基材の表面に設けられる試料保持用の測定スポットを構成し、レーザー照射によってプロトンやカチオンを供給可能なイオン供給性有機物質については、好適には以下のようなものを挙げることができる。
すなわち、(1)少なくとも2個のカルボキシ基と少なくとも1個のヒドロキシ基とを有して、一部のカルボキシ基の水素がアルカリ金属で置換された有機酸塩、(2)少なくとも2個のカルボキシ基と少なくとも1個のヒドロキシ基とを有して、カルボキシ基の水素がすべてアルカリ金属に置換された有機酸塩、(3)少なくとも2個のカルボキシ基と少なくとも1個のヒドロキシ基とを有して、カルボキシ基及びヒドロキシ基の水素はいずれも置換されていない有機酸、及び、(4)少なくとも2個のカルボキシ基を有して、カルボキシ基の水素はいずれも置換されておらず、かつ、ヒドロキシ基を有さない有機酸、である。
【0019】
このうち、(1)の有機酸塩としては、例えばクエン酸二水素一ナトリウム〔NaOOCCH2C(OH)(COOH)CH2COOH〕、クエン酸一水素二ナトリウム〔NaOOCCH2C(OH)(COONa)CH2COOH〕、酒石酸一水素一ナトリウム〔NaOOCCH(OH)CH(OH)COOH〕、コハク酸一水素一ナトリウム〔NaOOC(CH2)2COOH〕等を例示することができる。これらの有機酸塩のうち、より高い分解能でより精度良く質量分析を行うという観点から、好ましくはクエン酸二水素一ナトリウム、又はクエン酸一水素二ナトリウムが挙げられる。
【0020】
また、(2)の有機酸塩としては、例えばクエン酸三ナトリウム〔NaOOCCH2C(OH)(COONa)CH2COONa〕、酒石酸二ナトリウム〔NaOOCCH(OH)CH(OH)COONa〕、コハク酸二ナトリウム〔NaOOC(CH2)2COONa〕等を例示することができる。これらの有機酸塩のうち、より高い分解能でより精度良く質量分析を行うという観点から、好ましくはクエン酸三ナトリウムがよい。
【0021】
更に、(3)の有機酸としては、例えばクエン酸〔HOOCCH2C(OH)(COOH)CH2COOH〕、酒石酸〔HOOCCH(OH)CH(OH)COOH〕、リンゴ酸〔HOOCCH2CH(OH)COOH〕等を例示することができる。これらの有機酸塩のうち、より高い分解能でより精度良く質量分析を行うという観点から、好ましくはクエン酸がよい。
【0022】
更にまた、(4)の有機酸としては、例えばコハク酸〔HOOC(CH2)2COOH〕、シュウ酸〔(COOH)2〕、ケイ皮酸〔HOOCCH=CHC6H4OH〕、ジグリコール酸〔HOOCCH2OCH2COOH〕、セバシン酸〔HOOC(CH2)8COOH〕等を例示することができる。このうち、より高い分解能で精度良く分析できる観点から、好ましくはコハク酸がよい。
【0023】
これらのイオン供給性有機物質は、(1)〜(4)の有機酸塩及び有機酸の同種のものを2以上混合して用いてもよく、また、(1)〜(4)の有機酸塩及び有機酸の異なる種類のものを2以上混合して用いてもよい。
【0024】
本発明の質量分析用基板を用いた質量分析では、レーザー照射によって、金属酸化物とそれに付着したイオン供給性有機物質(有機酸や有機酸塩等)とから、プロトン([H+])やカチオン(例えば[Na+])といったイオンが供給されるため、これまで、各分析試料の分析のたびに、試料分子のイオン化を促進させるために分析試料中に添加されていたクエン酸やクエン酸ナトリウムといったイオン化剤を用いることなく、分析試料中の試料分子を効率良くイオン化することができる。なお、これまでに使用されているイオン化剤と、本発明において金属酸化物に付着させるイオン供給性有機物質とが同じ化合物からなる場合も含まれるが、従来のイオン化剤は測定の際にノイズとして検出されるのに対して、本発明で添加されるイオン供給性有機物質は予め金属酸化物に付着されているで、イオン化剤の役割をする有機物質自身のイオン化が試料よりも起こり難く、従って、バックグラウンドノイズとしても検出され難くなる。
【0025】
ここで、上記のようなイオン供給性有機物質を金属酸化物に付着させる手段については、特に制限されないが、好適には、予めこれらのイオン供給性有機物質を分散させて微粒化した金属酸化物分散液を調製し、この金属酸化物分散液を基材上に塗布し、乾燥させて、質量分析用基板を得るのがよい。
以下、金属酸化物分散液を用いて質量分析用基板を得る方法の例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0026】
金属酸化物分散液を得る際には、例えば、分散剤としての溶剤中に上記イオン供給性有機物質を溶解しておき、金属酸化物を加えて分散させるようにする。無論、これらのイオン供給性有機物質、金属酸化物、及び必要な溶剤の3成分を同時に混合し、分散させるように調製してもよい。これらの分散操作は、常法によればよく、例えば、通常の攪拌操作のほか、ペイントシェーカー、ボールミル、サンドミル、セントリミル、三本ロール等を用いて行うことができる。好ましくは、溶剤中に金属酸化物と共にガラスビーズ、ジルコンビーズ、ジルコニアビーズ、スチールボール等の分散ビーズを入れて練合するのがよい。
【0027】
金属酸化物分散液を得る際に使用される金属酸化物とイオン供給性有機物質との添加割合については、金属酸化物1molに対してイオン供給性有機物質を0.003mol以上0.3mol以下、好ましくは0.03mol以上0.2mol以下となるようにするのがよい。この添加割合となるように調整した条件で、金属酸化物を分散することにより、金属酸化物が1〜100nmの粒子径に分散した分散液を好適に得ることができる(レーザー回折型粒度測定器(Honeywell製、Microtrac UPA)により粒度を測定)。
【0028】
金属酸化物分散液を得る際に使用する溶剤については、揮発性溶媒であり、尚且つ、イオン供給性有機物質を充分に溶解して金属酸化物に吸着させながら、金属酸化物を安定に分散させることができるものであれば特に制限はないが、例えば水のほか、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、ダイアセトンアルコール等のアルコール類、アセトン、2-ブタノン、アセチルアセトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類、ヘキサン、石油エーテル等の脂肪族系炭化水素類、クロロホルム、塩化メチレン、クロロベンゼン等の脂肪族系及び芳香族系ハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン等の芳香族系炭化水素類等を挙げることができ、これらを単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
金属酸化物分散液における溶剤の使用量については、金属酸化物を分散させて最終的に得られる分散液の粘性が、基材に塗布又は印刷する際に適したものとなるように調製するのがよく、好ましくは分散液の粘度が2〜10000cps(E型粘度計:20℃)の範囲内に収まるように調製することが適当である。なお、本発明においては、分析対象の試料以外のピークが出現することを可及的に防止する観点から、金属酸化物分散液が金属酸化物、イオン供給性有機物質、及び溶剤の3成分のみからなるようにすることが望ましい。しかし、必要により、分析対象となる試料の分析に大きな影響を及ぼさない程度に、粒子表面にイオン供給性有機物質以外の界面活性剤、高分子、シランカップリング剤等を用いてもよい。
【0030】
次に、このようにして調製された金属酸化物分散液を基材の表面に塗布し、乾燥させ、これによって基材の表面にイオン供給性有機物質が付着した金属酸化物からなる測定スポットを形成して質量分析用基板を調製する。ここで、金属酸化物分散液を基材の表面に塗布する際の塗布手段については、特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、刷毛塗り、ロール塗り、グラビアコーター、ナイフコーター、ロールコーター、コンマコーター、スピンコーター、バーコーター、ディッピング塗布、スプレー塗布等の方法のほか、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、シルク印刷、インクジェット印刷等の印刷法を用いることができる。また、基材への塗布(又は印刷)は、分析対象の試料を付着させる部分を選択して行うようにしてもよい。また、金属酸化物分散液を基材に塗布した後の乾燥手段についても、特に制限はなく、乾燥させて(必要に応じて加熱して)溶剤を蒸発させることができればよい。
【0031】
本発明において、このようにして調製された質量分析用基板は、その測定スポットのスポット高さが通常1μm以上100μm以下、好ましくは5μm以上50μm以下である必要がある。この測定スポットのスポット高さが1μmより低いと、十分なS/N比が得られ難く、また、例えば、分析試料中の試料がホルモンの一種であるテストステロンの場合、目標とする数fmol(1fmol=0.001pmol)オーダーの検出感度が得られ難くなり、反対に、スポット高さを100μmより高くしてもS/N比の改善や検出感度の改善(高感度化)が認められなくなる。
【0032】
ここで、本発明の質量分析用基板における測定スポットのスポット高さについては、基材の表面上に設けられ、イオン供給性有機物質が付着した金属酸化物からなる測定スポットにおいて、その基材の表面から測定スポットの表面までの高さ寸法を意味するものであり、もし基材がその表面に複数の凹部(ウェル)を備えており、測定スポットがこの凹部(ウェル)内に形成されている場合には、凹部(ウェル)の底表面から測定スポットの上面までの高さ寸法を意味する。そして、この測定スポットのスポット高さの調整については、どのような方法で行ってもよいが、好適には測定スポットの大きさを一定にして測定スポットを形成するための金属酸化物分散液中の金属酸化物濃度を調整することにより行うのがよい。
【0033】
このようにして基材の表面に金属酸化物分散液を塗布した場合、所定のイオン供給性有機物質が付着した金属酸化物は、少なくとも一部が凝集体として基材の表面に固定化されると考えられる。この際、基材上でイオン供給性有機物質が付着した金属酸化物のBET値が0.1m2/g以上、好ましくは1m2/g以上1000m2/g以下の比表面積を有するようにするのがよい。固定化された金属酸化物のBET値が0.1m2/g以上であれば、金属酸化物の粒子サイズ(凝集体サイズ)が大きくなり過ぎることがなく、分析対象の試料を効率良くイオン化できて、フラグメント化のおそれを排除することができる。また、BET値が1m2/g以上1000m2/g以下の範囲であればより高い分解能で質量分析を行うことができる。金属酸化物の比表面積と質量分析時における検出感度との関係については、未だ十分に解明されていないが、本発明では、上記範囲のBET値を有することで、分析対象の試料である測定分子同士がある程度の距離を保つことができて、効率良く脱離及びイオン化されるものと推測される。
【0034】
本発明の質量分析用基板を用いた質量分析は、公知の方法と同様に行うことができる。例えば、分析対象の試料を揮発性の溶媒に所望の濃度で溶解させて分析試料を調製し、この分析試料の適量を本発明の質量分析用基板に滴下したり、塗布したり、印刷する等して付着させて、質量分析を行うことができる。ここで、試料を溶解する溶媒としては、例えば先に説明した金属酸化物分散液を得る際に用いられる溶媒と同様なものを例示することができる。
【0035】
このようにして分析試料を付着させた質量分析用基板が調製されるが、この分析試料が付着した質量分析用基板については、公知の質量分析装置を用いて分析に使用することができる。分析条件については、適宜設定して行うことができるが、例えば、照射するレーザーとしては、3〜10ns程度のパルスレーザー光(波長:337nm、520nm、又は1020nm等)を照射することで、レーザー光がイオン供給性有機物質や金属酸化物に吸収されて急激な温度上昇が起こり、これらに付着した分析対象の試料(測定分子)がソフトにイオン化される。この際、イオン供給性有機物質と金属酸化物とから供給されるプロトンやカチオンにより、イオン化がより促進される。生じたイオンは、例えば飛行時間型、四重極型、イオントラップ型、セクター型、フーリエ変換型、又はこれらの複合型等からなる質量分離部の作用によりm/zの差で分離され、検出器で観測される。その結果、各m/zに相当する分子イオンピークから対象とする分子の構造解析や質量の算出が行える。
【0036】
本発明の質量分析用基板は、種々の高分子を分析するのに用いることができ、例えば、タンパク質、合成高分子等の分析に適している。特に、本発明の質量分析用基板を用いれば、質量分析における検出感度が向上するため、アンジオテンシンI、アンジオテンシンII、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレングリコール、ベラパミル塩酸塩、テストステロン、パーフルオロオクタニルスルホン酸、インスリン(ヒト)、プロプラノロール塩酸塩等の分析に好適であり、なかでも、従来検出が不可能であった分子や、検出が困難であったポリビニルアルコールやポリアクリル酸等の高分子化合物についても質量分析が可能になる。
【0037】
本発明の質量分析用基板であれば、高感度で質量分析を行うことができるため、従来の質量分析に比べてより低い量の極微量の試料で分析を行うことができる。例えば、ホルモンの一種であるテストステロンの場合、実用的な検出感度であるfmolオーダー(1fmol=0.001pmol)で分析することができるのは勿論、amolオーダー(1amol=0.001fmol)、更にはzmolオーダー(1zmol=0.001amol)でも分析可能であり、例えば実施例に示すように、試料が50zmol以下であってもノイズの影響を受けずに正確な分析が可能である。なお、分析対象の試料は、金属酸化物分散液と一緒に混合して基材上に滴下する等して、質量分析用基板を得ると同時に、分析対象の試料を付着させることもできる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の質量分析用基板によれば、効率良く分析対象の試料を脱離、イオン化でき、高い分解能で充分なS/N比の分析が可能になる。また、分子量分布の大きい高分子化合物等の質量分析が簡便かつ高精度に行えると共に、低分子化合物の部分構造解析、モル分布、分子量分布等の測定にも利用できる。また、従来の分析用基板では検出が不可能又は困難であったような試料の分析も可能である。加えて、本発明の質量分析用基板は、比較的穏やかな条件で試料をイオン化することができ、かつ変質し難いため、例えば真空パッケージ等に収容されたものを開封した後であっても、長期に亘って信頼性良く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、参考例1の質量分析用基板を用いて50pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図2】図2は、参考例1の質量分析用基板を用いて5pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図3】図3は、参考例1の質量分析用基板を用いて50fmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【0040】
【図4】図4は、実施例1の質量分析用基板を用いて50pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図5】図5は、実施例1の質量分析用基板を用いて5pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【0041】
【図6】図6は、実施例2の質量分析用基板を用いて50pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図7】図7は、実施例2の質量分析用基板を用いて5pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図8】図8は、実施例2の質量分析用基板を用いて50fmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【0042】
【図9】図9は、実施例3の質量分析用基板を用いて50pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図10】図10は、実施例3の質量分析用基板を用いて5pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図11】図11は、実施例3の質量分析用基板を用いて50fmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【0043】
【図12】図12は、実施例3の質量分析用基板を用いて5fmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図13】図13は、実施例3の質量分析用基板を用いて50amolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【0044】
【図14】図14は、実施例3の質量分析用基板を用いて50zmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図15】図15は、実施例3の質量分析用基板を用いて5zmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【0045】
【図16】図16は、実施例4の質量分析用基板を用いて50pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図17】図17は、実施例4の質量分析用基板を用いて5pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図18】図18は、実施例4の質量分析用基板を用いて50fmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【0046】
【図19】図19は、実施例5の質量分析用基板を用いて50pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、実施例及び参考例に基づき、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例の内容に限定されるものではない。なお、実施例及び参考例中で用いる「部」は、特に断りのない限り重量部を表す。
【実施例】
【0048】
〔参考例1〕
50mLの容器に蒸留水(9.98部)、クエン酸二水素一ナトリウム(0.394部)、市販品の球状α-Fe2O3(2.5部)、及びジルコニアビーズ(40部)を加え、ペイントシェーカーにて12時間分散して液状物を得た。得られた液状物を分散時に用いたものと同じ蒸留水により約100倍に希釈し、酸化鉄濃度0.78重量%の金属酸化物分散液を得た。
得られた金属酸化物分散液中のα-Fe2O3の粒度をレーザー回折型粒度測定器(Honeywell製:Microtrac UPA)を用いて測定したところ、平均粒子径(D50)は40nmであった。
【0049】
次に、AXIMAシリーズ用サンプルプレート(島津製作所製、製品名「AXIMA target」、スポット周囲の溝深さ40μm、製品番号:223-25579-17;以下「純正プレート」と略称する。)上に、上記で得られた金属酸化物分散液2μLをマイクロピペッターにて滴下し、乾燥させて直径2.5mmの測定スポットを形成し、参考例1に係る質量分析用基板を得た。得られた測定スポットのスポット高さを超深度測定顕微鏡VK−8510(キーエンス社製)を用いて測定したところ、そのスポット高さ(平均値)は0.73μmであった。
【0050】
上記で得られた質量分析用基板を用いて、次のようにしてテストステロンの質量分析を行った。
先ず、アセトニトリル中にテストステロンを溶解させてテストステロン濃度83μMの試料溶液を調製し、この試料溶液0.6μLを質量分析用基板の測定スポット上に滴下して乾燥させ、50pmolに相当するように試料溶液の濃度をそれぞれ調整した。次いで、試料を付着させた分析用基板をMALDI−TOF/MS装置(島津製作所製 AXIMA-CFR)の試料台に固定させ、励起光源として337nmのN2パルスレーザー(3ns)を用いて照射し、飛行時間型質量分析計を用いて測定した。
得られた質量スペクトルを図1に示す。
【0051】
次に、図1の質量スペクトルにおいて、m/z800〜1000の範囲におけるベースラインをベースラインピークの強度(N:Noise)とし、試料テストステロンのピーク(m/z:311.0)の強度(S:Signal)とベースラインピークの強度(N)とのS/N比を求めたところ、表1に示すように、N値0.1mV及びS値3.5mVであってS/N比が35であった。
【0052】
また、図1の質量スペクトルから明らかなように、ナトリウムイオンのピーク(m/z:22.9)が大きく検出されてはいるものの、それ以外のバックグラウンドノイズはほとんど検出されず、高い分解能でナトリウムイオン付加分子とその試料の同位体ピークが検出され、試料のイオン化は良好であった。また、フラグメントイオン由来のピークもほぼ検出されず、テストステロンの質量分析を高精度に行えることが確認された。
【0053】
次に、先に調製した参考例1の質量分析用基板の測定スポット上に、先に調製したテストステロン濃度8.3μMの試料溶液0.6μLを滴下して乾燥させ、5pmolに相当するように試料溶液の濃度をそれぞれ調整し、上記と同様にして質量分析を行い、上記と同様にしてS/N比を求めた。
結果を表1に示すと共に、得られた質量スペクトルを図2に示す。
【0054】
更に、先に調製した参考例1の質量分析用基板の測定スポット上に、先に調製したテストステロン濃度0.083μMの試料溶液0.6μLを滴下して乾燥させ、50fmolに相当するように試料溶液の濃度をそれぞれ調整し、上記と同様にして質量分析を行い、上記と同様にしてS/N比を求めた。
結果を表1に示すと共に、得られた質量スペクトルを図3に示す。
【0055】
また、図1〜図3に示す質量スペクトル表1に示す結果から明らかなように、50pmolに相当する分析試料については、そのS/N比が35であって十分に大きな値であり、精度良くテストステロンの質量分析を行うことができ、また、5pmolあるいは50fmolに相当する分析試料になると、テストステロンの質量分析は十分に可能ではあるものの、そのS/N比は、それぞれ9あるいは10であって、十分に大きな値とは言えないまでも、従来の分析用基板では検出が不可能又は困難であった極微量の試料の分析が可能である。しかしながら、測定スポットの高さが1μm未満の場合は、膜厚制御が困難であり成膜後の塗布ムラが生じるため、試料を安定的に検出し難くなり、S/N比が著しく低下する傾向がある。
【0056】
〔実施例1〕
上記参考例1と同様にして、酸化鉄濃度6.25重量%及び平均粒子径(D50)42nmの金属酸化物分散液を調製し、スポット高さ5.2μmの測定スポットを有する実施例1の質量分析用基板を得た。
得られた実施例1の質量分析用基板における測定スポットについて、倍率3,000倍のSEM観察をしたところ、参考例1の質量分析用基板の測定スポットでは観察されなかった直径100nm〜10μm程度の比較的大きな球状微粒子が観察された。
【0057】
得られた実施例1の質量分析用基板について、上記参考例1の場合と同様にして、50pmol及び5pmolに相当するように試料溶液の濃度をそれぞれ調整し、それぞれ上記と同様にして質量分析を行い、また、上記と同様にしてS/N比を求めた。
結果を表1に示すと共に、得られた質量スペクトルをそれぞれ図4及び図5に示す。
【0058】
〔実施例2〕
上記参考例1と同様にして、酸化鉄濃度10.0重量%及び平均粒子径(D50)41nmの金属酸化物分散液を調製し、スポット高さ16.2μmの測定スポットを有する実施例2の質量分析用基板を得た。なお、倍率3,000倍のSEM観察の結果、実施例1の場合と同様の球状微粒子が観察された。
得られた実施例2の質量分析用基板について、上記参考例1の場合と同様にして、50pmol、5pmol及び50fmolに相当するように試料溶液の濃度を調整し、それぞれ上記と同様にして質量分析を行い、また、上記と同様にしてS/N比を求めた。
結果を表1に示すと共に、得られた質量スペクトルをそれぞれ図6〜図8に示す。
【0059】
〔実施例3〕
上記参考例1と同様にして、酸化鉄濃度15.0重量%及び平均粒子径(D50)45nmの金属酸化物分散液を調製し、スポット高さ18.1μmの測定スポットを有する実施例3の質量分析用基板を得た。なお、倍率3,000倍のSEM観察の結果、実施例1の場合と同様の球状微粒子が観察された。
得られた実施例3の質量分析用基板について、上記参考例1の場合と同様にして、50pmol、5pmol、50fmol、5fmol、50amol、50zmol、及び5zmolに相当するように試料溶液の濃度をそれぞれ調整し、上記と同様にして質量分析を行い、また、上記と同様にしてS/N比を求めた。
結果を表1に示すと共に、得られた質量スペクトルをそれぞれ図9〜図15に示す。
【0060】
〔実施例4〕
上記参考例1と同様にして、酸化鉄濃度20.0重量%及び平均粒子径(D50)42nmの金属酸化物分散液を調製し、スポット高さ29.5μmの測定スポットを有する実施例4の質量分析用基板を得た。なお、倍率3,000倍のSEM観察の結果、実施例1の場合と同様の球状微粒子が観察された。
得られた実施例4の質量分析用基板について、上記参考例1の場合と同様にして、50pmol、5pmol及び50fmolに相当するように試料溶液の濃度をそれぞれ調整し、それぞれ上記と同様にして質量分析を行い、また、上記と同様にしてS/N比を求めた。
結果を表1に示すと共に、得られた質量スペクトルをそれぞれ図16〜図18に示す。
【0061】
〔実施例5〕
上記参考例1と同様にして、酸化鉄濃度25.0重量%及び平均粒子径(D50)40nmの金属酸化物分散液を調製し、スポット高さ45.8μmの測定スポットを有する実施例5の質量分析用基板を得た。なお、倍率3,000倍のSEM観察の結果、実施例1の場合と同様の球状微粒子が観察された。
得られた実施例5の質量分析用基板について、上記参考例1の場合と同様にして、50pmolに相当するように試料溶液の濃度を調整し、それぞれ上記と同様にして質量分析を行い、また、上記と同様にしてS/N比を求めた。
結果を表1に示すと共に、得られた質量スペクトルをそれぞれ図19に示す。
【0062】
【表1】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー脱離イオン化質量分析(LDI-MS)法において、分析対象の試料を保持するために用いられる質量分析用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析(MS)は、測定(分析)対象の試料分子(タンパク質、ペプチド、多糖類といった生体関連の天然高分子化合物や合成高分子化合物)をイオン化して質量別に分離し、分子量の測定、及び解離生成物(フラグメントイオン)による構造解析を可能とする分析法である。この方法では、試料分子をイオン化し、質量(m)とそのイオンの価数(z)の商(m/z)の差により分離・検出が行われる。質量分析は検出感度や選択性が高く、生体関連物質、環境規制物質、そして薬物の分析等、多くの分野で利用されている。ここで、イオン化とは、試料分子から電子を奪いイオンの状態にする、或いはプロトンやアルカリ金属イオンが試料に付加してイオンの状態にすることであり、その方法の一つとして測定対象物質へレーザーを照射しイオン化するレーザー脱離イオン化(Laser Desorption/Ionization, LDI)法が挙げられる。LDI法によりイオン化されたイオンは、飛行時間型(Time-of-Flight, TOF)等の質量分離部を通ることによってm/zの差で分離され、検出器で観測される。また、検出された時の分子イオン濃度によってピークに強度が現れる。得られた質量スペクトルを解析することで測定対象とする試料分子の構造解析が行える(LDI-MS)。
【0003】
そして、このLDI−MSには、試料分子の効率的なイオン化を達成するために分析試料中にイオン化補助剤(マトリックス)としてニコチン酸、極微細コバルト粉とグリセロールとの組合せ、Fe3O4ナノ粒子とポリアクリル酸との組合せ等を添加して用いるマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS:Matrix-Assisted Laser Desorption/Ionization Mass Spectrometry;非特許文献1〜3参照)や、マトリックス由来の複雑なピークを排除するために、マトリックスを用いることなく、基材表面に様々な工夫を施した表面支援レーザー脱離イオン化法(SALDI:Surface Assisted Laser Desorption/Ionization;特許文献1〜5及び非特許文献4参照)が知られており、また、上記のMALDI−MS法と、上記のSALDI法の内の1つであるポーラスシリコンプレートを用いるDIOS法(Desorption/Ionization On (porous) Silicon:DIOS)とを組み合わせた方法も知られている(非特許文献5)。
【0004】
更に、本発明者らによる特許文献6においては、基材上にFe、Co、及びCuから選ばれた1種又は2種以上の金属の酸化物からなる金属酸化物層が設けられた質量分析用基板が提案されており、また、特許文献7には基材上にコバルト等の金属微粒子を塗布した質量分析用基板が開示されており、これらの質量分析用基板の金属酸化物層や金属微粒子塗布面に分析試料を付着させてレーザー脱離イオン化質量分析を行うことも知られている。
【0005】
しかしながら、上記の非特許文献1〜5及び特許文献1〜7や方法においては、いずれの場合も、試料分子のイオン化を促進させるために、測定のたびに分析試料中に有機酸、有機酸金属塩、極微細金属粉等のイオン化補助剤(マトリックス)やイオン化剤を添加する必要があり、測定作業が煩雑になるほか、イオン化剤自体がノイズの原因になり、また、その添加量によっては測定感度が変化する虞もある。
【0006】
また、近年、生体試料や高分子試料に対する質量分析の必要性は益々拡大しており、上述したような状況の下で、マトリックスフリーなイオン化法を更に高性能化する必要に迫られており、特に、分析試料中にイオン化剤を添加することなくイオン化効率を向上させることが強く求められている。
【0007】
そこで、本発明者等は、これらの要請に対応すべく鋭意検討した結果、先に、導電性を有する基材上に、所定の金属酸化物とプロトン及び/又はカチオンを供給することができる所定のイオン供給性有機物質とが共存する測定スポットを設け、質量分析の際には分析試料中にイオン化剤を添加する必要の無いマトリックスフリーな質量分析用基板を開発し、提案した(PCT/JP2010/61684)。この質量分析用基板によれば、単に、質量分析の際に、分析試料中にイオン化剤を添加する必要が無いというだけでなく、ノイズの発生や検出感度の低下等の問題をも解消することができ、高い分解能で精度良く分析することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,288,390号公報
【特許文献2】特開2008-107,209号公報
【特許文献3】米国特許第7,122,792号公報
【特許文献4】特開2008-204,654号公報
【特許文献5】特開2009-009,811号公報
【特許文献6】特開2010-151,727号公報
【特許文献7】特開昭62-284,256号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Karas, M.;Hillenkamp, F. Anal. Chem. 1988, 60, 2299.
【非特許文献2】Tanaka, K.;Eaki, H.;Ido, Y.:Akita, S.;Yoshida, Y.;Yoshida, T. Rapid Commun. Mass Spectrom. 1988, 2, 151.
【非特許文献3】CHIU Yu-Chih, et al., Anal Lett, Vol.41, No.1/3, pp260-267 (2008.01.01)
【非特許文献4】Wei, J.;Buriak, J.;Siuzdak, G. Nature 1999, 401, 243.
【非特許文献5】R. Arakawa, N. Miyake, S. Okuno, H. Yamaoka, Rapid Commun. Mass Spectrom. 2006, 20, 2063.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、先に提案したマトリックスフリーで分析試料中にイオン化剤添の必要の無い質量分析用基板について、更に検討を進める中で、基材上に設けられて所定の金属酸化物とイオン供給性有機物質とが共存する測定スポットの高さが検出感度に影響し、このスポット高さを所定の範囲にすることにより十分なS/N比(試料ピークの強度とベースラインピークの強度とのSignal to Noise比)を得ることができ、結果として試料が数fmolより低い極微量でも精度良く質量分析を行うことができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
従って、本発明の目的は、レーザー脱離イオン化質量分析(LDI-MS)法において、高い分解能で十分なS/N比を得ることができ、試料が数fmolより低い極微量でも精度良く質量分析を行うことができる質量分析用基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、導電性を有する基材とこの基材の表面に設けられた試料保持用の測定スポットとを有し、レーザー脱離イオン化質量分析において分析試料を前記測定スポットに付着させて使用する質量分析用基板であり、前記測定スポットは、金属酸化物とレーザー照射によりプロトン及び/又はカチオンを供給するイオン供給性有機物質とを含むと共に、そのスポット高さが1〜100μmであることを特徴とする質量分析用基板である。
【0013】
本発明の質量分析用基板は、導電性を有する基材の表面に設けられたスポット高さ1〜100μmの測定スポット中に、所定の金属酸化物と、プロトン及び/又はカチオンを供給するイオン供給性有機物質とが存在し、この測定スポットに分析試料を付着させてレーザーを照射させた際に、イオン供給性有機物質及び金属酸化物からそれぞれプロトンやカチオンが供給され、これによって分析試料中の試料分子のイオン化が促進される。
【0014】
本発明において、導電性を有する基材としては、質量分析の手法上必要な導電性を備えるものであればよく、特に制限はないが、例えば不純物半導体であるシリコン(n型、p型)やSUS304、それらを積層した板といった金属等からなる基材を挙げることができる。一般に、これらのうちで熱伝導率が比較的小さい材質からなる基材を使用すると、レーザーからのエネルギーが分析用基板に散逸し難いことから、比較的低いレーザーエネルギーで試料を分析することができ、分析対象の試料の破壊を抑えることができる点で好都合である。
【0015】
また、本発明で用いる基材の形状についても、質量分析装置の試料台に固定できれば特に制限はなく、表面全体が平滑な平板状の基材であっても、また、表面に分析試料を滴下するための適宜の断面形状(例えば、縦小括弧の括弧閉じ形状、縦大括弧の括弧閉じ形状、縦亀甲括弧の括弧閉じ形状、縦山括弧の括弧閉じ形状等の形状)を有する複数の凹部(ウェル)を備えた基材であってもよい。ウェルの最大深さは、通常100μm以上2000μm以下、好ましくは、120μm以上300μm以下がよい。ウェル深さが100μm未満であると、金属分散液を塗布した際にウェル周囲に液が漏洩し、均一な測定スポットが形成され難くなる。また、ウェル深さが2000μmより深いと、イオン化した試料の飛行距離に誤差が生じ易くなり、分子量の測定誤差が大きくなる傾向がある。
【0016】
また、本発明において、上記基材の表面に設けられる試料保持用の測定スポットを構成する金属酸化物については、それが試料のイオン化を促進するものであればよく、特に制限はないが、好ましくはFe、Co及びCuからなる群から選ばれた1種又は2種以上の金属の酸化物であるのがよく、レーザー脱離イオン化質量分析において効率良く分析対象の試料を脱離及びイオン化できる観点から、より好ましくはFe2O3(三酸化二鉄)、より好ましくはα-Fe2O3である。例えば、酸化鉄としてFe2O3を用いる場合は、単独で使用してもよく、また、別の酸化鉄と組み合わせて使用してもよく、更には、必要により酸化鉄をCoやCu等の他の金属の酸化物と組み合わせて用いてもよい。
【0017】
本発明で用いる金属酸化物の形状については、例えば球状、針状、多角面体、無定形、階層状、リーフ状、スノーフレイク状等の様々な形状を有するものでよいが、好ましくは球状、針状又は無定形であるものがよい。また、金属酸化物の粒子径については、基材の表面に測定ポイントを作製して質量分析用基板を調製する際には金属酸化物は所定の分散剤に分散させた金属酸化物分散液として用いられるので、好ましくはその一次粒子径が通常1nm以上100nm以下、より好ましくは20nm以上60nm以下であるのがよく、この金属酸化物の一次粒子径が1nm未満であるとレーザー照射により測定スポットが、破損・飛散し易くなり、金属酸化物自体がノイズとして検出され易くなるという問題が生じる虞があり、反対に、100nmを超えると分散液中で粒子が凝集し易くなり、また、測定試料を測定スポットに保持し難くなるという問題が生じる虞がある。
【0018】
更に、本発明において、上記基材の表面に設けられる試料保持用の測定スポットを構成し、レーザー照射によってプロトンやカチオンを供給可能なイオン供給性有機物質については、好適には以下のようなものを挙げることができる。
すなわち、(1)少なくとも2個のカルボキシ基と少なくとも1個のヒドロキシ基とを有して、一部のカルボキシ基の水素がアルカリ金属で置換された有機酸塩、(2)少なくとも2個のカルボキシ基と少なくとも1個のヒドロキシ基とを有して、カルボキシ基の水素がすべてアルカリ金属に置換された有機酸塩、(3)少なくとも2個のカルボキシ基と少なくとも1個のヒドロキシ基とを有して、カルボキシ基及びヒドロキシ基の水素はいずれも置換されていない有機酸、及び、(4)少なくとも2個のカルボキシ基を有して、カルボキシ基の水素はいずれも置換されておらず、かつ、ヒドロキシ基を有さない有機酸、である。
【0019】
このうち、(1)の有機酸塩としては、例えばクエン酸二水素一ナトリウム〔NaOOCCH2C(OH)(COOH)CH2COOH〕、クエン酸一水素二ナトリウム〔NaOOCCH2C(OH)(COONa)CH2COOH〕、酒石酸一水素一ナトリウム〔NaOOCCH(OH)CH(OH)COOH〕、コハク酸一水素一ナトリウム〔NaOOC(CH2)2COOH〕等を例示することができる。これらの有機酸塩のうち、より高い分解能でより精度良く質量分析を行うという観点から、好ましくはクエン酸二水素一ナトリウム、又はクエン酸一水素二ナトリウムが挙げられる。
【0020】
また、(2)の有機酸塩としては、例えばクエン酸三ナトリウム〔NaOOCCH2C(OH)(COONa)CH2COONa〕、酒石酸二ナトリウム〔NaOOCCH(OH)CH(OH)COONa〕、コハク酸二ナトリウム〔NaOOC(CH2)2COONa〕等を例示することができる。これらの有機酸塩のうち、より高い分解能でより精度良く質量分析を行うという観点から、好ましくはクエン酸三ナトリウムがよい。
【0021】
更に、(3)の有機酸としては、例えばクエン酸〔HOOCCH2C(OH)(COOH)CH2COOH〕、酒石酸〔HOOCCH(OH)CH(OH)COOH〕、リンゴ酸〔HOOCCH2CH(OH)COOH〕等を例示することができる。これらの有機酸塩のうち、より高い分解能でより精度良く質量分析を行うという観点から、好ましくはクエン酸がよい。
【0022】
更にまた、(4)の有機酸としては、例えばコハク酸〔HOOC(CH2)2COOH〕、シュウ酸〔(COOH)2〕、ケイ皮酸〔HOOCCH=CHC6H4OH〕、ジグリコール酸〔HOOCCH2OCH2COOH〕、セバシン酸〔HOOC(CH2)8COOH〕等を例示することができる。このうち、より高い分解能で精度良く分析できる観点から、好ましくはコハク酸がよい。
【0023】
これらのイオン供給性有機物質は、(1)〜(4)の有機酸塩及び有機酸の同種のものを2以上混合して用いてもよく、また、(1)〜(4)の有機酸塩及び有機酸の異なる種類のものを2以上混合して用いてもよい。
【0024】
本発明の質量分析用基板を用いた質量分析では、レーザー照射によって、金属酸化物とそれに付着したイオン供給性有機物質(有機酸や有機酸塩等)とから、プロトン([H+])やカチオン(例えば[Na+])といったイオンが供給されるため、これまで、各分析試料の分析のたびに、試料分子のイオン化を促進させるために分析試料中に添加されていたクエン酸やクエン酸ナトリウムといったイオン化剤を用いることなく、分析試料中の試料分子を効率良くイオン化することができる。なお、これまでに使用されているイオン化剤と、本発明において金属酸化物に付着させるイオン供給性有機物質とが同じ化合物からなる場合も含まれるが、従来のイオン化剤は測定の際にノイズとして検出されるのに対して、本発明で添加されるイオン供給性有機物質は予め金属酸化物に付着されているで、イオン化剤の役割をする有機物質自身のイオン化が試料よりも起こり難く、従って、バックグラウンドノイズとしても検出され難くなる。
【0025】
ここで、上記のようなイオン供給性有機物質を金属酸化物に付着させる手段については、特に制限されないが、好適には、予めこれらのイオン供給性有機物質を分散させて微粒化した金属酸化物分散液を調製し、この金属酸化物分散液を基材上に塗布し、乾燥させて、質量分析用基板を得るのがよい。
以下、金属酸化物分散液を用いて質量分析用基板を得る方法の例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0026】
金属酸化物分散液を得る際には、例えば、分散剤としての溶剤中に上記イオン供給性有機物質を溶解しておき、金属酸化物を加えて分散させるようにする。無論、これらのイオン供給性有機物質、金属酸化物、及び必要な溶剤の3成分を同時に混合し、分散させるように調製してもよい。これらの分散操作は、常法によればよく、例えば、通常の攪拌操作のほか、ペイントシェーカー、ボールミル、サンドミル、セントリミル、三本ロール等を用いて行うことができる。好ましくは、溶剤中に金属酸化物と共にガラスビーズ、ジルコンビーズ、ジルコニアビーズ、スチールボール等の分散ビーズを入れて練合するのがよい。
【0027】
金属酸化物分散液を得る際に使用される金属酸化物とイオン供給性有機物質との添加割合については、金属酸化物1molに対してイオン供給性有機物質を0.003mol以上0.3mol以下、好ましくは0.03mol以上0.2mol以下となるようにするのがよい。この添加割合となるように調整した条件で、金属酸化物を分散することにより、金属酸化物が1〜100nmの粒子径に分散した分散液を好適に得ることができる(レーザー回折型粒度測定器(Honeywell製、Microtrac UPA)により粒度を測定)。
【0028】
金属酸化物分散液を得る際に使用する溶剤については、揮発性溶媒であり、尚且つ、イオン供給性有機物質を充分に溶解して金属酸化物に吸着させながら、金属酸化物を安定に分散させることができるものであれば特に制限はないが、例えば水のほか、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、ダイアセトンアルコール等のアルコール類、アセトン、2-ブタノン、アセチルアセトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類、ヘキサン、石油エーテル等の脂肪族系炭化水素類、クロロホルム、塩化メチレン、クロロベンゼン等の脂肪族系及び芳香族系ハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン等の芳香族系炭化水素類等を挙げることができ、これらを単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
金属酸化物分散液における溶剤の使用量については、金属酸化物を分散させて最終的に得られる分散液の粘性が、基材に塗布又は印刷する際に適したものとなるように調製するのがよく、好ましくは分散液の粘度が2〜10000cps(E型粘度計:20℃)の範囲内に収まるように調製することが適当である。なお、本発明においては、分析対象の試料以外のピークが出現することを可及的に防止する観点から、金属酸化物分散液が金属酸化物、イオン供給性有機物質、及び溶剤の3成分のみからなるようにすることが望ましい。しかし、必要により、分析対象となる試料の分析に大きな影響を及ぼさない程度に、粒子表面にイオン供給性有機物質以外の界面活性剤、高分子、シランカップリング剤等を用いてもよい。
【0030】
次に、このようにして調製された金属酸化物分散液を基材の表面に塗布し、乾燥させ、これによって基材の表面にイオン供給性有機物質が付着した金属酸化物からなる測定スポットを形成して質量分析用基板を調製する。ここで、金属酸化物分散液を基材の表面に塗布する際の塗布手段については、特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、刷毛塗り、ロール塗り、グラビアコーター、ナイフコーター、ロールコーター、コンマコーター、スピンコーター、バーコーター、ディッピング塗布、スプレー塗布等の方法のほか、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、シルク印刷、インクジェット印刷等の印刷法を用いることができる。また、基材への塗布(又は印刷)は、分析対象の試料を付着させる部分を選択して行うようにしてもよい。また、金属酸化物分散液を基材に塗布した後の乾燥手段についても、特に制限はなく、乾燥させて(必要に応じて加熱して)溶剤を蒸発させることができればよい。
【0031】
本発明において、このようにして調製された質量分析用基板は、その測定スポットのスポット高さが通常1μm以上100μm以下、好ましくは5μm以上50μm以下である必要がある。この測定スポットのスポット高さが1μmより低いと、十分なS/N比が得られ難く、また、例えば、分析試料中の試料がホルモンの一種であるテストステロンの場合、目標とする数fmol(1fmol=0.001pmol)オーダーの検出感度が得られ難くなり、反対に、スポット高さを100μmより高くしてもS/N比の改善や検出感度の改善(高感度化)が認められなくなる。
【0032】
ここで、本発明の質量分析用基板における測定スポットのスポット高さについては、基材の表面上に設けられ、イオン供給性有機物質が付着した金属酸化物からなる測定スポットにおいて、その基材の表面から測定スポットの表面までの高さ寸法を意味するものであり、もし基材がその表面に複数の凹部(ウェル)を備えており、測定スポットがこの凹部(ウェル)内に形成されている場合には、凹部(ウェル)の底表面から測定スポットの上面までの高さ寸法を意味する。そして、この測定スポットのスポット高さの調整については、どのような方法で行ってもよいが、好適には測定スポットの大きさを一定にして測定スポットを形成するための金属酸化物分散液中の金属酸化物濃度を調整することにより行うのがよい。
【0033】
このようにして基材の表面に金属酸化物分散液を塗布した場合、所定のイオン供給性有機物質が付着した金属酸化物は、少なくとも一部が凝集体として基材の表面に固定化されると考えられる。この際、基材上でイオン供給性有機物質が付着した金属酸化物のBET値が0.1m2/g以上、好ましくは1m2/g以上1000m2/g以下の比表面積を有するようにするのがよい。固定化された金属酸化物のBET値が0.1m2/g以上であれば、金属酸化物の粒子サイズ(凝集体サイズ)が大きくなり過ぎることがなく、分析対象の試料を効率良くイオン化できて、フラグメント化のおそれを排除することができる。また、BET値が1m2/g以上1000m2/g以下の範囲であればより高い分解能で質量分析を行うことができる。金属酸化物の比表面積と質量分析時における検出感度との関係については、未だ十分に解明されていないが、本発明では、上記範囲のBET値を有することで、分析対象の試料である測定分子同士がある程度の距離を保つことができて、効率良く脱離及びイオン化されるものと推測される。
【0034】
本発明の質量分析用基板を用いた質量分析は、公知の方法と同様に行うことができる。例えば、分析対象の試料を揮発性の溶媒に所望の濃度で溶解させて分析試料を調製し、この分析試料の適量を本発明の質量分析用基板に滴下したり、塗布したり、印刷する等して付着させて、質量分析を行うことができる。ここで、試料を溶解する溶媒としては、例えば先に説明した金属酸化物分散液を得る際に用いられる溶媒と同様なものを例示することができる。
【0035】
このようにして分析試料を付着させた質量分析用基板が調製されるが、この分析試料が付着した質量分析用基板については、公知の質量分析装置を用いて分析に使用することができる。分析条件については、適宜設定して行うことができるが、例えば、照射するレーザーとしては、3〜10ns程度のパルスレーザー光(波長:337nm、520nm、又は1020nm等)を照射することで、レーザー光がイオン供給性有機物質や金属酸化物に吸収されて急激な温度上昇が起こり、これらに付着した分析対象の試料(測定分子)がソフトにイオン化される。この際、イオン供給性有機物質と金属酸化物とから供給されるプロトンやカチオンにより、イオン化がより促進される。生じたイオンは、例えば飛行時間型、四重極型、イオントラップ型、セクター型、フーリエ変換型、又はこれらの複合型等からなる質量分離部の作用によりm/zの差で分離され、検出器で観測される。その結果、各m/zに相当する分子イオンピークから対象とする分子の構造解析や質量の算出が行える。
【0036】
本発明の質量分析用基板は、種々の高分子を分析するのに用いることができ、例えば、タンパク質、合成高分子等の分析に適している。特に、本発明の質量分析用基板を用いれば、質量分析における検出感度が向上するため、アンジオテンシンI、アンジオテンシンII、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレングリコール、ベラパミル塩酸塩、テストステロン、パーフルオロオクタニルスルホン酸、インスリン(ヒト)、プロプラノロール塩酸塩等の分析に好適であり、なかでも、従来検出が不可能であった分子や、検出が困難であったポリビニルアルコールやポリアクリル酸等の高分子化合物についても質量分析が可能になる。
【0037】
本発明の質量分析用基板であれば、高感度で質量分析を行うことができるため、従来の質量分析に比べてより低い量の極微量の試料で分析を行うことができる。例えば、ホルモンの一種であるテストステロンの場合、実用的な検出感度であるfmolオーダー(1fmol=0.001pmol)で分析することができるのは勿論、amolオーダー(1amol=0.001fmol)、更にはzmolオーダー(1zmol=0.001amol)でも分析可能であり、例えば実施例に示すように、試料が50zmol以下であってもノイズの影響を受けずに正確な分析が可能である。なお、分析対象の試料は、金属酸化物分散液と一緒に混合して基材上に滴下する等して、質量分析用基板を得ると同時に、分析対象の試料を付着させることもできる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の質量分析用基板によれば、効率良く分析対象の試料を脱離、イオン化でき、高い分解能で充分なS/N比の分析が可能になる。また、分子量分布の大きい高分子化合物等の質量分析が簡便かつ高精度に行えると共に、低分子化合物の部分構造解析、モル分布、分子量分布等の測定にも利用できる。また、従来の分析用基板では検出が不可能又は困難であったような試料の分析も可能である。加えて、本発明の質量分析用基板は、比較的穏やかな条件で試料をイオン化することができ、かつ変質し難いため、例えば真空パッケージ等に収容されたものを開封した後であっても、長期に亘って信頼性良く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、参考例1の質量分析用基板を用いて50pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図2】図2は、参考例1の質量分析用基板を用いて5pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図3】図3は、参考例1の質量分析用基板を用いて50fmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【0040】
【図4】図4は、実施例1の質量分析用基板を用いて50pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図5】図5は、実施例1の質量分析用基板を用いて5pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【0041】
【図6】図6は、実施例2の質量分析用基板を用いて50pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図7】図7は、実施例2の質量分析用基板を用いて5pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図8】図8は、実施例2の質量分析用基板を用いて50fmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【0042】
【図9】図9は、実施例3の質量分析用基板を用いて50pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図10】図10は、実施例3の質量分析用基板を用いて5pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図11】図11は、実施例3の質量分析用基板を用いて50fmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【0043】
【図12】図12は、実施例3の質量分析用基板を用いて5fmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図13】図13は、実施例3の質量分析用基板を用いて50amolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【0044】
【図14】図14は、実施例3の質量分析用基板を用いて50zmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図15】図15は、実施例3の質量分析用基板を用いて5zmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【0045】
【図16】図16は、実施例4の質量分析用基板を用いて50pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図17】図17は、実施例4の質量分析用基板を用いて5pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【図18】図18は、実施例4の質量分析用基板を用いて50fmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【0046】
【図19】図19は、実施例5の質量分析用基板を用いて50pmolのテストステロン含有分析試料について測定された質量スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、実施例及び参考例に基づき、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例の内容に限定されるものではない。なお、実施例及び参考例中で用いる「部」は、特に断りのない限り重量部を表す。
【実施例】
【0048】
〔参考例1〕
50mLの容器に蒸留水(9.98部)、クエン酸二水素一ナトリウム(0.394部)、市販品の球状α-Fe2O3(2.5部)、及びジルコニアビーズ(40部)を加え、ペイントシェーカーにて12時間分散して液状物を得た。得られた液状物を分散時に用いたものと同じ蒸留水により約100倍に希釈し、酸化鉄濃度0.78重量%の金属酸化物分散液を得た。
得られた金属酸化物分散液中のα-Fe2O3の粒度をレーザー回折型粒度測定器(Honeywell製:Microtrac UPA)を用いて測定したところ、平均粒子径(D50)は40nmであった。
【0049】
次に、AXIMAシリーズ用サンプルプレート(島津製作所製、製品名「AXIMA target」、スポット周囲の溝深さ40μm、製品番号:223-25579-17;以下「純正プレート」と略称する。)上に、上記で得られた金属酸化物分散液2μLをマイクロピペッターにて滴下し、乾燥させて直径2.5mmの測定スポットを形成し、参考例1に係る質量分析用基板を得た。得られた測定スポットのスポット高さを超深度測定顕微鏡VK−8510(キーエンス社製)を用いて測定したところ、そのスポット高さ(平均値)は0.73μmであった。
【0050】
上記で得られた質量分析用基板を用いて、次のようにしてテストステロンの質量分析を行った。
先ず、アセトニトリル中にテストステロンを溶解させてテストステロン濃度83μMの試料溶液を調製し、この試料溶液0.6μLを質量分析用基板の測定スポット上に滴下して乾燥させ、50pmolに相当するように試料溶液の濃度をそれぞれ調整した。次いで、試料を付着させた分析用基板をMALDI−TOF/MS装置(島津製作所製 AXIMA-CFR)の試料台に固定させ、励起光源として337nmのN2パルスレーザー(3ns)を用いて照射し、飛行時間型質量分析計を用いて測定した。
得られた質量スペクトルを図1に示す。
【0051】
次に、図1の質量スペクトルにおいて、m/z800〜1000の範囲におけるベースラインをベースラインピークの強度(N:Noise)とし、試料テストステロンのピーク(m/z:311.0)の強度(S:Signal)とベースラインピークの強度(N)とのS/N比を求めたところ、表1に示すように、N値0.1mV及びS値3.5mVであってS/N比が35であった。
【0052】
また、図1の質量スペクトルから明らかなように、ナトリウムイオンのピーク(m/z:22.9)が大きく検出されてはいるものの、それ以外のバックグラウンドノイズはほとんど検出されず、高い分解能でナトリウムイオン付加分子とその試料の同位体ピークが検出され、試料のイオン化は良好であった。また、フラグメントイオン由来のピークもほぼ検出されず、テストステロンの質量分析を高精度に行えることが確認された。
【0053】
次に、先に調製した参考例1の質量分析用基板の測定スポット上に、先に調製したテストステロン濃度8.3μMの試料溶液0.6μLを滴下して乾燥させ、5pmolに相当するように試料溶液の濃度をそれぞれ調整し、上記と同様にして質量分析を行い、上記と同様にしてS/N比を求めた。
結果を表1に示すと共に、得られた質量スペクトルを図2に示す。
【0054】
更に、先に調製した参考例1の質量分析用基板の測定スポット上に、先に調製したテストステロン濃度0.083μMの試料溶液0.6μLを滴下して乾燥させ、50fmolに相当するように試料溶液の濃度をそれぞれ調整し、上記と同様にして質量分析を行い、上記と同様にしてS/N比を求めた。
結果を表1に示すと共に、得られた質量スペクトルを図3に示す。
【0055】
また、図1〜図3に示す質量スペクトル表1に示す結果から明らかなように、50pmolに相当する分析試料については、そのS/N比が35であって十分に大きな値であり、精度良くテストステロンの質量分析を行うことができ、また、5pmolあるいは50fmolに相当する分析試料になると、テストステロンの質量分析は十分に可能ではあるものの、そのS/N比は、それぞれ9あるいは10であって、十分に大きな値とは言えないまでも、従来の分析用基板では検出が不可能又は困難であった極微量の試料の分析が可能である。しかしながら、測定スポットの高さが1μm未満の場合は、膜厚制御が困難であり成膜後の塗布ムラが生じるため、試料を安定的に検出し難くなり、S/N比が著しく低下する傾向がある。
【0056】
〔実施例1〕
上記参考例1と同様にして、酸化鉄濃度6.25重量%及び平均粒子径(D50)42nmの金属酸化物分散液を調製し、スポット高さ5.2μmの測定スポットを有する実施例1の質量分析用基板を得た。
得られた実施例1の質量分析用基板における測定スポットについて、倍率3,000倍のSEM観察をしたところ、参考例1の質量分析用基板の測定スポットでは観察されなかった直径100nm〜10μm程度の比較的大きな球状微粒子が観察された。
【0057】
得られた実施例1の質量分析用基板について、上記参考例1の場合と同様にして、50pmol及び5pmolに相当するように試料溶液の濃度をそれぞれ調整し、それぞれ上記と同様にして質量分析を行い、また、上記と同様にしてS/N比を求めた。
結果を表1に示すと共に、得られた質量スペクトルをそれぞれ図4及び図5に示す。
【0058】
〔実施例2〕
上記参考例1と同様にして、酸化鉄濃度10.0重量%及び平均粒子径(D50)41nmの金属酸化物分散液を調製し、スポット高さ16.2μmの測定スポットを有する実施例2の質量分析用基板を得た。なお、倍率3,000倍のSEM観察の結果、実施例1の場合と同様の球状微粒子が観察された。
得られた実施例2の質量分析用基板について、上記参考例1の場合と同様にして、50pmol、5pmol及び50fmolに相当するように試料溶液の濃度を調整し、それぞれ上記と同様にして質量分析を行い、また、上記と同様にしてS/N比を求めた。
結果を表1に示すと共に、得られた質量スペクトルをそれぞれ図6〜図8に示す。
【0059】
〔実施例3〕
上記参考例1と同様にして、酸化鉄濃度15.0重量%及び平均粒子径(D50)45nmの金属酸化物分散液を調製し、スポット高さ18.1μmの測定スポットを有する実施例3の質量分析用基板を得た。なお、倍率3,000倍のSEM観察の結果、実施例1の場合と同様の球状微粒子が観察された。
得られた実施例3の質量分析用基板について、上記参考例1の場合と同様にして、50pmol、5pmol、50fmol、5fmol、50amol、50zmol、及び5zmolに相当するように試料溶液の濃度をそれぞれ調整し、上記と同様にして質量分析を行い、また、上記と同様にしてS/N比を求めた。
結果を表1に示すと共に、得られた質量スペクトルをそれぞれ図9〜図15に示す。
【0060】
〔実施例4〕
上記参考例1と同様にして、酸化鉄濃度20.0重量%及び平均粒子径(D50)42nmの金属酸化物分散液を調製し、スポット高さ29.5μmの測定スポットを有する実施例4の質量分析用基板を得た。なお、倍率3,000倍のSEM観察の結果、実施例1の場合と同様の球状微粒子が観察された。
得られた実施例4の質量分析用基板について、上記参考例1の場合と同様にして、50pmol、5pmol及び50fmolに相当するように試料溶液の濃度をそれぞれ調整し、それぞれ上記と同様にして質量分析を行い、また、上記と同様にしてS/N比を求めた。
結果を表1に示すと共に、得られた質量スペクトルをそれぞれ図16〜図18に示す。
【0061】
〔実施例5〕
上記参考例1と同様にして、酸化鉄濃度25.0重量%及び平均粒子径(D50)40nmの金属酸化物分散液を調製し、スポット高さ45.8μmの測定スポットを有する実施例5の質量分析用基板を得た。なお、倍率3,000倍のSEM観察の結果、実施例1の場合と同様の球状微粒子が観察された。
得られた実施例5の質量分析用基板について、上記参考例1の場合と同様にして、50pmolに相当するように試料溶液の濃度を調整し、それぞれ上記と同様にして質量分析を行い、また、上記と同様にしてS/N比を求めた。
結果を表1に示すと共に、得られた質量スペクトルをそれぞれ図19に示す。
【0062】
【表1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する基材とこの基材の表面に設けられた試料保持用の測定スポットとを有し、レーザー脱離イオン化質量分析において分析試料を前記測定スポットに付着させて使用する質量分析用基板であり、
前記測定スポットは、金属酸化物とレーザー照射によりプロトン及び/又はカチオンを供給するイオン供給性有機物質とを含むと共に、そのスポット高さが1〜100μmであることを特徴とする質量分析用基板。
【請求項2】
前記金属酸化物は、Fe、Co及びCuからなる群から選ばれた1種又は2種以上の金属の酸化物であって、その一次粒子径が1〜100nmである請求項1に記載の質量分析用基板。
【請求項3】
前記金属酸化物がFe2O3である請求項2に記載の質量分析用基板。
【請求項4】
前記イオン供給性有機物質は、少なくとも2個のカルボキシ基と少なくとも1個のヒドロキシ基とを有し、かつ、一部のカルボキシ基の水素がアルカリ金属で置換された有機酸塩である請求項1〜3のいずれかに記載の質量分析用基板。
【請求項5】
前記有機酸塩が、クエン酸二水素一ナトリウム、クエン酸一水素二ナトリウム、酒石酸一水素一ナトリウム、及び、コハク酸一水素一ナトリウムからなる群から選ばれた1種又は2種以上の混合物である請求項4に記載の質量分析用基板。
【請求項6】
前記測定スポットは、前記金属酸化物100重量部に対して前記有機酸塩を10〜20重量部の割合で含む請求項4又は5に記載の質量分析用基板。
【請求項1】
導電性を有する基材とこの基材の表面に設けられた試料保持用の測定スポットとを有し、レーザー脱離イオン化質量分析において分析試料を前記測定スポットに付着させて使用する質量分析用基板であり、
前記測定スポットは、金属酸化物とレーザー照射によりプロトン及び/又はカチオンを供給するイオン供給性有機物質とを含むと共に、そのスポット高さが1〜100μmであることを特徴とする質量分析用基板。
【請求項2】
前記金属酸化物は、Fe、Co及びCuからなる群から選ばれた1種又は2種以上の金属の酸化物であって、その一次粒子径が1〜100nmである請求項1に記載の質量分析用基板。
【請求項3】
前記金属酸化物がFe2O3である請求項2に記載の質量分析用基板。
【請求項4】
前記イオン供給性有機物質は、少なくとも2個のカルボキシ基と少なくとも1個のヒドロキシ基とを有し、かつ、一部のカルボキシ基の水素がアルカリ金属で置換された有機酸塩である請求項1〜3のいずれかに記載の質量分析用基板。
【請求項5】
前記有機酸塩が、クエン酸二水素一ナトリウム、クエン酸一水素二ナトリウム、酒石酸一水素一ナトリウム、及び、コハク酸一水素一ナトリウムからなる群から選ばれた1種又は2種以上の混合物である請求項4に記載の質量分析用基板。
【請求項6】
前記測定スポットは、前記金属酸化物100重量部に対して前記有機酸塩を10〜20重量部の割合で含む請求項4又は5に記載の質量分析用基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−145351(P2012−145351A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1812(P2011−1812)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】
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