説明

質量分析装置、及びそれを用いた質量分析方法

【課題】表面支援レーザ脱離イオン化質量分析法において、測定光を低パワー化し、難揮発性の物質や高分子量の物質の高感度な質量分析を可能にする。
【解決手段】質量分析装置1は、表面支援レーザ脱離イオン化質量分析法に用いられる質量分析用基板11と、質量分析用基板11の表面に接触された試料Sに測定光L1を照射して被分析物質Rを表面から脱離させる光照射手段21と、測定光L1の照射により先端部に近接場光を生じる金属プローブ22と、脱離した被分析物質Riを検出する検出器31と、検出器31の検出結果に基づいて被分析物質Rの質量分析をする分析手段40とを備えている。金属プローブ22の先端部は、測定光L1の照射により生じる近接場光が試料Sの測定光照射部分Pに接するように配置されており、金属プローブ22は、測定光照射部分Pを基点として検出器31と異なる方向に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析用基板表面に接触された試料に測定光を照射して、試料中に含まれる被分析物質を表面から脱離させ、脱離した該物質を質量分析する方法及び該方法に用いられる質量分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質の同定等に用いられる質量分析法において、質量分析用基板上に接触された試料に測定光を照射して被分析物質を基板から脱離させ、脱離された物質を質量別に検出する質量分析方法が知られている。例えば、飛行時間型質量分析法(Time of Flight Mass Spectroscopy : TOF-MS)は、基板から脱離された物質を所定距離飛行させて、その飛行時間により物質の質量を分析するものである。
【0003】
このような質量分析法においては、通常、被分析物質をイオン化させて脱離させている。しかしながら、特に生体物質等の難揮発性の物質や合成高分子等の高分子量の物質が被分析物質である場合は被分析物質のイオン化、脱離が難しく、これらの物質を質量分析可能とする方法が種々検討されている。
【0004】
中でも、マトリクス支援レーザ脱離イオン化法(MALDI法)は、被分析物質をマトリクスと呼ばれるシナピン酸やグリセリン等に混入して混晶としたものを試料とし、マトリクスが吸収した光エネルギーを利用して被分析物質をマトリクスとともに気化させ、次いでマトリクス−被分析物質間でのプロトン移動がおこって被分析物質をイオン化させる方法であり、被分析物質に対しフラグメント化や変性等の化学的な影響の少ないソフトイオン化法として、難揮発性の物質や生体分子、合成高分子等の高分子量の物質の質量分析に幅広く用いられている(特許文献1など)。しかしながら、被分析物質が合成高分子などの場合は、ポリマー鎖の化学構造の違いによって溶媒に対する溶解性やポリマー鎖の極性などが大きく異なり、また、主鎖構造が同じであっても平均分子量や末端基の化学構造などの違いにより様々な特性が異なるため、被分析物質の種類に応じてマトリクス剤の種類や結晶の調製方法を最適化する必要がある。
【0005】
一方、マトリクス剤を用いずに、被分析物質の脱離・イオン化を支援する機能を、質量分析用基板そのものに備えることによりソフトイオン化を行う表面支援レーザ脱離イオン化質量分析法(Surface-assisted laser desorption/ionization-mass spectrometry : SALDI-MS)が検討されている。例えば、特許文献2及び特許文献3では、表面にナノオーダの細孔構造を有するポーラスシリコン基板を用いた質量分析用基板では、シリコンナノ構造と測定光との相互作用を利用してソフトイオン化を行っている。
【0006】
また、特許文献4には、被分析物質の脱離・イオン化の支援を、測定光照射により金属プローブ先端に生じる近接場光により行うイオン化装置及びそれを用いた質量分析装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−320515号公報
【特許文献2】米国特許第2008/0073512号明細書
【特許文献3】米国特許第2006/0157648号明細書
【特許文献4】特開2005−98909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記SALDI-MS及び金属プローブを用いた質量分析装置では、イオン検出効率の増強は未だ充分なものではないため、難揮発性の物質や高分子量の物質の質量分析においては高パワーの測定光が必要とされている。そのため、被分析物質のフラグメント化や変性、照射部近傍の試料中の物質の脱離によるS/N比の低下、及び基板自体の変形等の問題が未だ残されたままである。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、表面支援レーザ脱離イオン化質量分析法において、測定光の低パワー化が可能であり、被分析物質のフラグメント化や変性、及び基板自体の変形を生じることなく難揮発性の物質や高分子量の物質を高いS/N比で質量分析が可能な質量分析装置及び質量分析方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の質量分析装置は、表面支援レーザ脱離イオン化質量分析法に用いられる質量分析用基板と、該質量分析用基板の表面に接触された試料に測定光を照射して前記試料中の被分析物質を前記表面から脱離させる光照射手段と、前記測定光の照射により先端部に近接場光を生じる金属プローブと、脱離した前記被分析物質を検出する検出器と、前記検出器により検出された検出結果に基づいて前記被分析物質の質量分析をする分析手段とを備えた質量分析装置であって、前記金属プローブの先端部が、前記測定光の照射により生じる近接場光が、前記試料の前記測定光が照射される測定光照射部分に接するように配置されており、前記金属プローブが、前記測定光照射部分を基点として前記検出器と異なる方向に配置されていることを特徴とするものである。
【0011】
ここで、「前記金属プローブが、前記試料の測定光照射部分を基点として前記検出器と異なる方向に配置されている」とは、検出器による、試料の測定光照射部分から脱離下被分析物質の検出を干渉しないように、金属プローブが配置されている事を意味している。このとき、金属プローブの先端部は、測定光の照射に生じる近接場光が測定光照射部分に接するように配置されているので、そのために先端部の一部のみが被分析物質と干渉する位置に配置されていてもよいこととする。
【0012】
前記金属プローブは、前記先端部に局在プラズモンを誘起可能な金属微粒子を備えていることが好ましい。金属微粒子としては、Au,Ag,Cu,Al,Pt,Ni,及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素からなる(不可避不純物を含んでもよい)ものが挙げられる。
【0013】
本発明の質量分析装置は、前記試料を載置する前記質量分析用基板の表面内方向であるXY方向に沿って前記プローブの先端部の位置及び前記測定光の照射位置を相対的に変化させる位置制御部を備えていることが好ましい。
【0014】
更に、前記プローブのXY方向の位置を検出するXY方向位置センサと、該センサにより検出された前記プローブのXY方向の位置と該位置での質量分析結果とを関連付けて表示する表示部とを備えていることが好ましい。
【0015】
前記質量分析用基板としては、基板の一表面に、前記測定光の照射により局在プラズモンを誘起しうる大きさの複数の金属体を備えた微細構造体と、該微細構造体の前記表面の少なくとも一部に固着されたイオン化促進剤とを備えたものが挙げられ、前記微細構造体の前記表面に、複数の誘電体粒子を更に備えたものがより好ましい。
【0016】
前記質量分析用基板の好適な態様としては、前記微細構造体において、前記基板が、前記表面において開口した複数の有底の微細孔を有する誘電体を備えたものであり、前記複数の金属体が、前記複数の微細孔の少なくとも底部及び/又は前記基板の表面の前記微細孔の非開口部分の少なくとも一部に固着されたものが挙げられる。
【0017】
また、前記質量分析用基板のその他の好適な態様としては、前記微細構造体において、前記基板が、前記表面において開口した複数の有底の微細孔を有する誘電体を備えたものであり、前記複数の金属体が、前記複数の微細孔内に充填された充填部と、該充填部上に前記表面より突出して形成され、前記表面と平行方向の最大径が前記充填部の径よりも大きい突出部とからなり、前記複数の金属体の突出部の少なくとも一部が、互いに離間されているものが挙げられる。かかる態様において、互いに隣接する前記突出部同士の平均離間距離が10nm以下であることが好ましい。
【0018】
また、前記イオン化促進剤は、有機ケイ素化合物であることが好ましい。
【0019】
本発明の質量分析装置は、前記質量分析用基板と前記検出器との間に前記脱離した被分析物質の飛翔方向を制御して前記検出器の検出面に導く飛翔方向制御手段を備えた飛行時間型質量分析装置であることが好ましい。
【0020】
本発明の質量分析方法は、上記本発明の質量分析装置を用いる分析方法であって、前記質量分析用基板の表面に試料を接触させた後、該試料の測定部位及び前記金属プローブの先端部に測定光を照射し、該測定光の照射により前記先端部に生じる近接場光による増強電場と、前記表面の表面支援構造に起因する増強電場とにより増大されたエネルギーを有する前記測定光により、前記試料中に含まれる被分析物質を前記表面から脱離させ、
該脱離した被分析物質を捕捉して質量分析することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の質量分析装置は、表面支援レーザ脱離イオン化質量分析法(SALDI−MS)に用いられる質量分析装置において、測定光の照射により先端部に近接場光を生じる金属プローブが、SALDI基板上に載置された試料の測定光照射部分を基点として検出器と異なる方向に、且つ、近接場光が測定光照射部分に接触するように配置された構成としている。かかる構成によれば、SALDI基板の試料接触面において、SALDI基板由来のイオン化支援効果と、測定光の照射により金属プローブ先端に生じた近接場光による電場増強効果、及びこれらの相乗効果とにより被分析物質を高効率にイオン化すると共に表面から脱離させることができる。
【0022】
例えば、SALDI基板として、測定光の照射により基板表面にプラズモン誘起による電場増強効果が得られる基板を用い、また、金属プローブ先端に局在プラズモンを生じ得る金属微粒子を備えた構成では、いずれの増強電場も、増強電場発生面の距離に対して指数関数的に電場強度が低下するが、増強電場発生面のごく近傍では非常に高いものとなる。従って、これらの増強電場が強め合う配置とすることにより、いわゆるホットスポットと呼ばれる非常に高い増強電場を得ることができるため、イオン化効率を格段に向上させることができる。
【0023】
また、本発明の質量分析装置において、金属プローブは、試料の測定光照射部分を基点として検出器と異なる方向に配置されているため、被分析物質の検出量の低下を最小限に抑制することができる。
【0024】
従って、本発明によれば、SALDI−MSにおいて、測定光の低パワー化を実現し、被分析物質が難揮発性の物質や高分子量の物質であっても、被分析物質のフラグメント化や変性、S/N比の低下、及び基板自体の変形を生じることなく、高感度に質量分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る一実施形態の質量分析装置の概略構成図
【図2】図1の質量分析装置の金属プローブの位置関係を示す図−その1
【図3】図1の質量分析装置の金属プローブの位置関係を示す図―その2
【図4A】試料と金属微粒子に生じる近接場光との位置関係の一例を示す図
【図4B】金属プローブに金属微粒子を備えない場合の金属プローブと試料との位置関係の一例を示す図
【図4C】金属プローブに金属微粒子を備えた場合の金属プローブと試料との位置関係の一例を示す図
【図5A】2次元イメージング質量分析のイメージ図―その1
【図5B】2次元イメージング質量分析のイメージ図―その2
【図5C】2次元イメージング質量分析のイメージ図―その3
【図6A】本発明の質量分析装置に好適な質量分析用基板の厚み方向断面図(第1実施形態)
【図6B】図6Aに示す第1実施形態の質量分析用基板のその他の好適な態様を示す厚み方向断面図
【図7A】図6Aの質量分析用基板の製造工程を示す断面図―その1
【図7B】図6Aの質量分析用基板の製造工程を示す断面図―その2
【図7C】図6Aの質量分析用基板の製造工程を示す断面図―その3
【図7D】図6Aの質量分析用基板の製造工程を示す断面図―その4
【図7E】図6Aの質量分析用基板の製造工程を示す断面図―その5
【図8A】本発明の質量分析装置に好適な質量分析用基板の厚み方向断面図(第2実施形態)
【図8B】図8Aに示す第2実施形態の質量分析用基板のその他の好適な態様を示す厚み方向断面図
【図9A】本発明の質量分析装置に好適な質量分析用基板の厚み方向断面図(第3実施形態)
【図9B】図9Aに示す第3実施形態の質量分析用基板のその他の好適な態様を示す厚み方向断面図
【図10A】図9Aの質量分析用基板の製造工程を示す断面図―その1
【図10B】図9Aの質量分析用基板の製造工程を示す断面図―その2
【図10C】図9Aの質量分析用基板の製造工程を示す断面図―その3
【図10D】図9Aの質量分析用基板の製造工程を示す断面図―その4
【図10E】図9Aの質量分析用基板の製造工程を示す断面図―その5
【図11A】実施例1において本発明の質量分析装置を用いた場合のマススペクトル
【図11B】比較用の質量分析装置を用いた場合のマススペクトル
【発明を実施するための形態】
【0026】
「質量分析装置」
図1を参照して、本発明にかかる一実施形態の質量分析装置について説明する。本実施形態の質量分析装置は飛行時間型質量分析装置(TOF−MS)である。図1は本実施形態の質量分析装置1の構成を示す概略構成図である。視認しやすくするために、各部の縮尺は適宜変更して示してある。
【0027】
図示されるように、質量分析装置1は、真空に保たれたボックスB内に、表面支援レーザ脱離イオン化質量分析用基板11と(以下、SALDI基板とする。)、SALDI基板11を保持するデバイス保持手段12と、SALDI基板11の表面に接触された試料Sに測定光L1を照射して、試料S中の被分析物質Rを表面から脱離させる光照射手段21と、先端部に近接場光を生じる金属プローブ22と、脱離した被分析物質Riを検出する検出器31とを備え、検出器31からの出力から被分析物質Riの質量分析を行う分析手段40とを備えた構成としている。
【0028】
金属プローブ22は、測定光L1が照射される試料Sの測定光照射部分Pを基点として検出器31と異なる方向に、且つ、先端部に生じる近接場光が測定光照射部分Pに接するように配置されている。本実施形態では、金属プローブ22の先端に金属微粒子23を備えた構成としている。また、金属プローブ22は、先端部の金属微粒子23と試料Sとの距離を、測定光L1の照射により金属プローブ先端部に生じる近接場光が試料Sの測定光照射部分Pに接するように調整するプローブ駆動制御手段70を備えている。
【0029】
分析手段40は、検出器31の出力を増幅させるアンプ401と、アンプ401からの出力信号を処理するデータ処理部402により概略構成されている。
【0030】
また、本実施形態は、飛行時間型質量分析装置(TOF−MS)であるため、SALDI基板11と検出器31との間に、飛翔方向制御手段50を備えている。飛翔方向制御手段50は、一般のTOF−MSに用いられるものであれば特に制限されないが、本実施形態では、SALDI基板11の表面に対向する位置に配された引き出しグリッド502と、引き出しグリッド502の質量分析用基板11側の面と反対側の面に対向して配されたエンドプレート501とを備えた構成としている。
【0031】
「課題を解決するための手段」の項において述べたように、金属プローブ22が、試料Sの測定光照射部分Pを基点として検出器31と異なる方向に配置されているとは、検出器31による、試料Sの測定光照射部分Pから脱離した被分析物質Riの検出を干渉しないように、金属プローブ22が配置されている事を意味している。
【0032】
具体的には、測定光照射部分Pから脱離した被分析物質Riが検出器31の検出面31aに向かって飛翔する飛翔空間内に金属プローブができるだけ入らず、且つ、金属プローブによるイオン化支援が可能となるように金属プローブ22が配置されている。金属プローブによるイオン化支援効果は、できるだけ効果的に得られることが好ましい。
【0033】
例えば、脱離した被分析物質Riの飛翔空間が検出器31の検出面31aと測定光照射部分Pを含むコーン状の空間C1内である場合は空間C1外に、また、脱離した被分析物質Riの飛翔空間が引き出しグリッド502の開口部501aと測定光照射部分Pを含むコーン状の空間C2内である場合は空間C2外に、金属プローブ22は、先端部及び先端部に備えられた金属微粒子23における近接場光によるイオン化支援効果が得られるように、先端部から根本にかけて伸びているように配置されている(図2及び図3を参照)。
【0034】
特許文献4では、金属プローブを用いた質量分析において、試料の測定光照射部分から脱離した被分析物質の検出を金属プローブにより干渉されることを防ぐために、中空状のプローブを用いている。しかしながら、近接場光を生じ得るプローブの先端部は非常に細径であるため、被分析物質Riをその先端部に空けられた空孔内を、高効率に通過させることは難しい。これに対し、本実施形態では、上記したように簡易な構成にて、高効率に検出の干渉を抑制することができる。
【0035】
金属プローブ22の先端部のイオン化支援効果は、先端部の金属微粒子23に生じる近接場光が、試料Sの測定光照射部分Pに接していればその効果は得られるが、図4Aに示されるように、近接場光の電場は、近接場光を生じている金属表面に近い領域ほど強く、表面からの距離に対して指数関数的にその強度が下がっていく。従って、できるだけ金属微粒子23が測定光照射部分Pに近づくように配置されていることが好ましい。図4Aでは、近接場光の電場の強さの分布を濃淡で示してある。
【0036】
プローブ先端部と測定光照射部分Pとの距離を調整する駆動制御方法は特に制限されないが、例えば、測定試料Sの厚みをあらかじめ測定しておいて、その厚みに応じて金属プローブを近接場光範囲内に配置してもよいし、金属プローブと測定試料Sとに働く原子間力を検出し、この原子間力が好適な近接場光強度が得られる値となるように金属プローブを配置する方法としてもよい。例えば、原子間力を用いる方法は、原子間力顕微鏡(AFM)の原理を応用し、光てこやチューニングフォークを駆動制御手段70とすることにより実施することができる。更に、いったん金属プローブ先端部(金属微粒子23)を試料Sにいったん接触させた後、一定距離離間させる方法としてもよい。接触の検出は、金属プローブのたわみを光てこにより検出する方法や、チューニングフォークにより圧力を検出する方法により実施することができる。
【0037】
SALDI基板11としては、特に制限されないが、より低パワーの測定光L1を用いることができるように、高い表面支援効果が得られるものであることが好ましい。例えば、測定光L1の照射により、表面に局在プラズモンを生じるSALDI基板等が挙げられる。かかるSALDI基板の好適な態様については後記する。
【0038】
光照射手段21は、レーザ等の単波長光源を備えており、光源から出射される光を導光するミラーなどの導光系を備えていてもよい。単波長光源の波長は、被分析物質Rをイオン化可能であり、且つ、金属プローブ22の先端部又は金属微粒子23に近接場光又はプラズモンを誘起可能な波長である。本実施形態では、被分析物質Rをイオン化と金属プローブ22及び金属微粒子23に近接場光やプラズモンを誘起とを1つの光源にて行う構成としているが、それぞれに適した複数の光源を用いる構成としても差し支えない。
【0039】
金属プローブ22及び金属微粒子23としては、上記したように、測定光L1の照射により近接場光、又はプラズモンを誘起可能であればよいので、少なくとも表面が金属であればよいが、より効果的な電場増強効果が得られることから、Au,Ag,Cu,Al,Pt,Ni,及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素からなる(不可避不純物を含んでもよい)ものであることが好ましく、Au又はAgであることがより好ましい。
【0040】
金属プローブ22の先端に金属微粒子23を形成する方法としては、蒸着法、斜め蒸着法、スパッタ法、メッキ処理後エッチングする方法などが挙げられる。蒸着法及び斜め蒸着法を用いる場合は、蒸着後高温アニール処理を行うことが好ましい。また、メッキ処理後の加工はエッチングではなくEB法等を用いてもよい。
【0041】
金属プローブ22としては、測定光L1の照射により先端部に近接場光を生じるものであれば特に制限されないが、先端部の径(最大径)が測定光L1の波長以下であるような場合は、先端部において局所的な表面増強プラズモンポラリトンが生成されるため、近接場光の電場強度は入射場の100倍以上に増強される。従って、先端部の径は測定光L1の波長以下であることが好ましく、かかる金属プローブ22とすることにより、被分析物質Rをイオン化するために必要な測定光L1の強度を効果的に低下させることができる。
【0042】
また、先端部の径が小さい方が、空間分解能の点でも優れる。現在の金属プローブ加工技術レベルにおいては、10nm以下の高い空間分解能を実現することも可能である。従って、先端部径をより小さくすることにより、低パワーの光源により高分解能なイオン化を実現することができる。従って、先端部の径は効果的な電場増強効果が得られ、且つ、できるだけ小さい方が好ましい。
【0043】
更に、金属プローブ22の先端部に金属微粒子23を備えた構成では、測定光L1の照射により、金属微粒子23において局在プラズモンを生じる。従って、上記先端部の近接場光による電場増強効果と、局在プラズモンによる電場増強効果が同時に得られることから、より効果的に測定光L1の強度を低下させることができる。この場合、先端部の径が、先端部に表面増強プラズモンポラリトンを生じる大きさである場合には、表面増強プラズモンポラリトンにより、局在プラズモンによる増強電場が更に増強されるという高い相乗効果も得ることができる。例えば、図4Bに示されるように先端部に金属微粒子23を備えない場合、金属プローブ22の先端部に生じる近接場光の直径は30nm程度であるのに対し、図4C(図4A)に示されるように、直径23rが約30nmの金微粒子23を備えた構成では、約3倍の直径90nmを有する近接場光を生じる。
【0044】
金属微粒子23の径23rは、上記金属プローブの先端部の径と同様、効果的な電場増強効果が得られ、且つ、できるだけ小さい方が好ましい。
【0045】
本実施形態では、SALDI基板11の表面内方向であるXY方向に沿って金属プローブ22の先端部の位置及び測定光L1の照射位置を相対的に変化させる位置制御部60を備え、更に金属プローブ22のXY方向の位置を検出するXY方向位置センサ80と、該センサにより検出された金属プローブ22のXY方向の位置と該位置での質量分析結果とを関連付けて表示する表示部90とを備えている。従って、試料SのSALDI基板11表面に平行な面内方向において、質量分析結果の面内分布を表示することができる。
【0046】
例えば、図5Aに示される生態試料Sにおいて癌化部位を検出するような質量分析が可能である。正常な細胞は、m/z=3326付近にピークが現れるのに対して、癌化した細胞では、m/z=11660付近にピークが現れる。従って生態試料Sに対して面内方向のm/z=3326のピークの有無(図5B)又はm/z=11660の有無(図5C)を検出する質量分析を実施することにより、癌化した細胞の有無を検出して癌化領域を特定して表示することができる。
【0047】
上記したように、質量分析装置1は、先端部及び/又は金属微粒子23の径を好適に設計することにより、高い空間分解能にて被分析物質Rを高効率にイオン化すると共に表面から脱離させることができるので、測定光L1の低パワー化を実現し、被分析物質Rが難揮発性の物質や高分子量の物質であっても、フラグメント化や変性を生じることなく、また基板自体の変形を生じることなく、高いS/N比にて高感度な質量分析をすることができる。従って、生体物質における癌化などの細胞の変性領域を精度良く特定することができる。
【0048】
以下に上記構成の質量分析装置1を用いた質量分析について説明する。
まず、試料Sが接触された質量分析用基板11に電圧Vs印加され、所定のスタート信号により光照射手段21から特定波長の測定光L1が質量分析用基板11上に載置された試料Sの所定の位置Pに照射される。質量分析用基板11は、SALDI基板であるので、測定光L1の照射により、質量分析用基板11の表面において測定光の電場が増強されるとともに、その電場により増強された測定光L1の光エネルギーにより試料中の被分析物質Rがイオン化され、表面から脱離される。
【0049】
脱離された被分析物質Riは、質量分析用基板11と引き出しグリッド502との電位差Vsにより引き出しグリッド502の方向に引き出されて加速し、中央の孔を通ってエンドプレート503の方向にほぼ直進して飛行し、更にエンドプレート503の開口部を通過して検出器31に到達して検出される。
【0050】
脱離後の被分析物質Riの飛行速度は物質の質量に依存し、質量が小さいほど速いため、質量の小さいものから順に検出器31により検出される。
【0051】
検出器65からの出力信号は、分析手段40内のアンプ401により所定レベルに増幅され、その後データ処理部402に入力される。データ処理部402では、上記スタート信号と同期する同期信号が入力されており、この同期信号とアンプ401からの出力信号とに基づいて被分析物質Riの飛行時間を求めることができるので、その飛行時間から質量を導出して質量スペクトルを得ることができる。
【0052】
本実施形態では、質量分析装置1がTOF−MSである場合を例に説明したがその他の質量分析方法にも適用可能である。また、金属プローブ22の先端に金属微粒子23を備えた場合を例に説明したが、既にその効果については述べたように、金属微粒子23を備えていない構成としてもよい。
以下に、本実施形態の質量分析装置に好適なSALDI基板の態様について説明する。
【0053】
「質量分析用基板(SALDI基板)の第1実施形態」
図6を参照して、本発明に係る第1実施形態の質量分析用基板(SALDI基板)について説明する。図6は厚み方向断面図であり、図7はその製造工程を示す図である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0054】
図6に示されるように、本実施形態のSALDI基板1は、表面10sに接触させた試料に測定光L1を照射することにより、試料中に含まれる質量分析の被分析物質Rを表面10sから脱離させるSALDI基板であって、基板100の一表面100sに、測定光L1の照射により局在プラズモンを誘起しうる大きさの複数の金属体200を備えた微細構造体300aと、微細構造体300aの表面300sの少なくとも一部に固着されたイオン化促進剤Iとを備えたデバイス構造を有している。
【0055】
本実施形態において、SALDI基板10は、導電体120上に形成され、平面視略同一形状の多数の微細孔110aが、表面110sにおいて開口して略規則配列した誘電体110を備えた基板100に、微細孔110a内に充填されている充填部210と、微細孔110a上に表面110s(100s)より突出して形成され、該表面と平行方向の最大径が充填部210の径よりも大きく、且つ、局在プラズモンを誘起しうる大きさの径を有する突出部220とからなる微細金属体200が、突出部220の少なくとも一部が、互いに離間されように複数固定されたものである。
【0056】
SALDI基板10において、微細孔110aは誘電体110の表面110sから厚み方向に略ストレートに開孔され、裏面110rに到達せずに閉口された非貫通孔である。
【0057】
本実施形態において、誘電体110は、図7(図7A〜図7E)に示されるように、アルミニウム(Al)を主成分とし、微少不純物を含んでいてもよい被陽極酸化金属体400の一部を陽極酸化して得られたアルミナ(Al)層(金属酸化物層)410である。導電体120は、陽極酸化されずに残った被陽極酸化金属体400の非陽極酸化部分420により構成されている。
【0058】
被陽極酸化金属体400の形状は制限されず、板状等が挙げられる。また、支持体の上に被陽極酸化金属体400が層状に成膜されたものなど、支持体付きの形態で用いることも差し支えない。
【0059】
陽極酸化は、例えば、被陽極酸化金属体400を陽極とし、カーボンやアルミニウム等を陰極(対向電極)として、これらを陽極酸化用電解液に浸漬させ、陽極と陰極の間に電圧を印加することで実施できる。電解液としては制限されず、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸等の酸を、1種又は2種以上含む酸性電解液が好ましく用いられる。
【0060】
図7Aに示す被陽極酸化金属体400を陽極酸化すると、図7Bに示されるように、表面400s(図示上面)から該面に対して略垂直方向に酸化反応が進行し、アルミナ層410(110)が生成される。
【0061】
陽極酸化により生成されるアルミナ層410(110)は、平面視略正六角形状の微細柱状体が隣接して配列した構造を有するものとなる。各微細柱状体の略中心部には、表面400sから深さ方向に微細孔110aが開孔される。また、各微細孔110a及び微細柱状体の底面は、図示する如く、丸みを帯びた形状を有している。陽極酸化により生成されるアルミナ層の構造は、益田秀樹、「陽極酸化法によるメソポーラスアルミナの調製と機能材料としての応用」、材料技術Vol.15,No.10、1997年、p.34等に記載されている。
【0062】
陽極酸化条件は、非陽極酸化部分が残り、かつ微細孔110aの深さが、微細金属体200が容易にアルミナ層110(誘電体)から剥がれ落ちない程度に深くなる範囲内で、適宜設計すればよい。電解液としてシュウ酸を用いる場合、好適な条件例としては、電解液濃度0.5M、液温15℃、印加電圧40Vが挙げられる。電解時間を変えることで、任意の層厚のアルミナ層410(110)を生成できる。陽極酸化前の被陽極酸化金属体40の厚みを、生成されるアルミナ層410(110)よりも厚く設定しておけば、非陽極酸化部分が残り、非陽極酸化部分からなる導電体420(120)上に設けられ、平面視略同一形状の多数の微細孔110aが、表面110sにおいて開口して略規則配列したアルミナ層410(誘電体)(110)を得ることができる。
【0063】
各微細孔の径や互いに隣接する微細孔同士の配列ピッチは、陽極酸化条件により制御することができ、測定光L1の波長より小さいことが好ましい。通常、互いに隣接する微細孔110a同士のピッチは10〜500nmの範囲で、また微細孔の孔径は、5〜400nmの範囲でそれぞれ制御可能である。特開2001−9800号公報や特開2001−138300号公報には、微細孔の形成位置や孔径をより細かく制御する方法が開示されている。これらの方法を用いることにより、上記範囲内において任意の孔径及び深さを有する微細孔を略規則的に配列形成することができる。
【0064】
次に、基板100の各微細孔110aに充填部210と突出部220とからなる微細金属体200を形成して微細構造体300aを形成する。微細金属体200は、誘電体110の微細孔110aに電気メッキ処理等を施すことにより形成される。
【0065】
電気メッキ処理を行う場合には、導電体120が電極として機能し、電場が強い微細孔110aの底部から優先的に金属が析出する(図7C)。この電気メッキ処理を継続して行うことにより、微細孔110a内に金属が充填されて微細金属体200の充填部210が形成される。充填部210が形成された後、更に電気メッキ処理を続けると、微細孔110aから充填金属が溢れるが、微細孔110a付近の電場が強いことから、微細孔110a周辺に継続して金属が析出していき、充填部210上に表面110sより突出し、充填部210の径よりも大きい径を有する突出部220が形成され、微細構造体300aを得る(図7D)。
【0066】
微細金属体200は、突出部220の大きさが、局在プラズモンを誘起可能な大きさであればよいが、最大径が測定光L1の波長未満であることが好ましい。測定光L1の波長を考慮すると、突出部220の最大径が10nm以上300nm以下の範囲であることが好ましい。
【0067】
微細構造体300aにおいて、互いに隣接する突出部220同士は離間されていることが好ましく、その平均離間距離wは、数nm〜10nmの範囲であることがより好ましい。平均離間距離wが上記範囲内である場合は、その近接部に局在プラズモン効果による電場増強効果の非常に高いホットスポットと呼ばれる領域を生じるため、好ましい。
【0068】
局在プラズモン現象は、凸部の自由電子が光の電場に共鳴して振動することで凸部周辺に強い電場を生じる現象であるので、微細金属体200は、自由電子を有する任意の金属でよく、Au,Ag,Cu,Pt,Ni,Ti等が挙げられ、電場増強効果の高いAu,Ag等が特に好ましい。
【0069】
本実施形態では、微細孔110aは誘電体の裏面110rに到達せずに開孔された非貫通孔であり、微細金属体200の充填部210は微細孔110a内に充填されたものであるので、微細金属体200と導電体120とは互いに導通されていない。
【0070】
次いで、微細構造体300aの表面300sの少なくとも一部に、イオン化促進剤Iを固着させてSALDI基板10を得る(図7E)。イオン化促進剤Iの固着方法は特に制限されないが、イオン化促進剤Iを含む溶液を表面300sに適量を塗布し、オーブン等で加熱処理して溶媒を除去する方法等が挙げられる。過剰なイオン化促進剤Iが固着されないようにするには、加熱処理後にエアガン等で過剰なイオン化促進剤Iを飛ばし、再度加熱処理を施す工程を繰り返せばよい。
【0071】
固着させるイオン化促進剤Iの量は特に制限されないが、過剰では、微細金属体200において局在プラズモンを誘起させるのに充分な測定光L1を微細金属体200に到達させることができなくなる、過剰量のイオン化促進剤Iが測定時に脱離されて検出されて検出感度を低下させる、等の問題を生じ、過少では、効果的な被分析物質のイオン化を行うことができなくなってしまう。本実施形態では、図6Bに示されるように少なくとも隣接する微細金属体200の突出部220同士の間隙の一部に固着されていることが好ましい。
【0072】
イオン化促進剤Iは、測定光L1の照射により被分析物質にイオンやエネルギーを供与して被分析物質のイオン化を促進させるものであり、かかる機能を有していれば特に制限されないが、被分析物質Riの検出感度を低下させるような妨害ピークを生じない物質であることが好ましい。生体分子や合成高分子等が被分析物質である場合は、文献Nature Vol.449 1033-1037 (2007)に記載(Supplementary Information、16頁)されている、ビス(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)テトラメチル-ジシロキサン、1,3-ジオクチルテトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(ヒドロキシブチル)テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(3-カルボキシプロピル)テトラメチルジシロキサン等の有機ケイ素化合物が好ましい。その他のイオン化促進剤としては、カーボンナノチューブ、基質、フラーレン等が挙げられる。
【0073】
また、ニコチン酸、ピコリン酸、3-ヒドロキシピコリン酸、3-アミノピコリン酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、シナピン酸、2-(4-ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸、2-メルカプトベンゾチアゾール、5-クロロ-2-メルカプトベンゾチアゾール、2,6-ジヒドロキシアセトフェノン、2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン、ジスラノール、ベンゾ[a]ピレン、9-ニトロアントラセン、2-[(2E)-3-(4-tret-ブチルフェニル)-2-メチルプロプ-2-エニリデン]マロノ二トリルなどのMALDI法で用いられるマトリクス剤をイオン化促進剤Iとして使用してもよい。
【0074】
イオン化促進剤Iは、1種の化合物を用いてもよく、また、2種以上の化合物の混合物や積層体として用いてもよい。
【0075】
上記したように、SALDI基板10は、基板100の一表面100sに測定光L1の照射により局在プラズモンを誘起しうる大きさの複数の金属体200を備えた微細構造体300aと、微細構造体300aの表面300sの少なくとも一部に固着されたイオン化促進剤Iとを備えたものである。SALDI基板10上に接触させた試料Sに対して測定光L1を照射すると、SALDI基板10の複数の微細金属体200に局在プラズモンが誘起されて表面に増強電場を生じると同時に、イオン化促進剤Iが励起され、この増強電場において高められた測定光L1のエネルギーと、イオン化促進剤Iからのプロトン,イオン,エネルギー等の供与によって被分析物質Rを高効率にイオン化すると共に表面10sから脱離させることができる。
【0076】
かかるSALDI基板を上記実施形態の質量分析装置1に用いた場合、金属プローブ22(金属微粒子23)の増強電場の効果とSALDI基板の増強電場が強め合う配置とすることにより、いわゆるホットスポットと呼ばれる非常に高い増強電場を得ることができる。従って、この非常に高い増強電場により、測定光L1のエネルギーのみならず、イオン化促進剤Iの励起効率も同時に高め、これらの相乗効果により、イオン化効率を格段に向上させ、また、検出される信号の絶対強度を効果的に増強することができる。
【0077】
上記実施形態の質量分析装置1とSALDI基板10とによれば、表面支援レーザ脱離イオン化質量分析法において、測定光L1の低パワー化を実現し、被分析物質Rが難揮発性の物質や高分子量の物質であっても、被分析物質Rのフラグメント化や変性、及び基板自体の変形を生じることなく、高感度に質量分析することができる。
【0078】
「背景技術」の項に記載したように、これまで、難揮発性の物質や高分子量の物質を、被分析物質への化学的影響を与えずに質量分析するためには、MALDI法が採用せざるを得なかったが、これらの物質は化学構造が複雑であるため被分析物質の化学的性質に応じたマトリックス剤と試料との混晶の調製方法の最適化が必須であり、工程が複雑にならざるを得なかった。上記のように、上記実施形態の質量分析装置1及びSALDI基板10によれば、表面支援レーザ脱離イオン化法により、被分析物質Rのフラグメント化や変性、及び基板自体の変形を生じることなく、難揮発性の物質や高分子量の物質の質量分析を高空間分解能かつ高感度に実施することができる。表面支援レーザ脱離イオン化法では、サンプルの調製は、試料溶液をSALDI基板の試料接触面上に塗布又は載置するだけで済むことから、本発明によれば、簡易な方法で、且つ、被分析物質Rのフラグメント化や変性、及び基板自体の変形を生じることなく、難揮発性の物質や高分子量の物質の高感度な質量分析を行うことができる。
【0079】
「質量分析用基板(SALDI基板)の第2実施形態」
図8を参照して、本発明に係る第2実施形態のSALDI基板20について説明する。図8AはSALDI基板20の厚み方向断面図、図8BはSALDI基板20’の厚み方向断面図である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0080】
図示されるように、SALDI基板20(20’)と第1実施形態の質量分析用デバイス10(10’)とは、微細金属体200の充填形態が異なっており、それに伴いイオン化促進剤Iの固着形態も異なっている。
【0081】
SALDI基板20において、微細構造体300bは、第1実施形態と同様の、導電体120上に形成され、平面視略同一形状の多数の微細孔110aが、表面110sにおいて開口して略規則配列した誘電体110を備えた基板100に、複数の微細孔110aの底部に充填された複数の微細金属体200を備えたものである。
【0082】
基板100は第1実施形態と同様であるので好ましい材料や形状、製造方法については記載を省略する。イオン化促進剤Iについても好適な材料は第1実施形態と同様である。
【0083】
微細金属体200は、第1実施形態と充填形態が異なるが、それ以外は第1実施形態と同様である。従って、充填形態以外の好適な条件等は第1実施形態と同様である。
【0084】
微細金属体200の充填方法も第1実施形態と同様、誘電体110の微細孔110aに電気メッキ処理等を施すことにより形成される。本実施形態の微細構造体300bは、図7Cの状態でメッキ処理等による金属の充填をやめ、次いで、第1実施形態と同様に微細構造体300bの微細構造体300aの表面300sの少なくとも一部に、イオン化促進剤Iを固着させてSALDI基板20を得る(図8A)。
【0085】
また、微細構造体300bの上面から、個々の微細孔110aの底部に、局在プラズモンを誘起しうる大きさの微細金属体200が形成されるまで微細金属体200の構成金属を堆積させた後、微細構造体300bの表面300s上に堆積された微細金属体200の構成金属の層を除去する方法によっても容易に充填させることができる。この場合、微細金属体200の形成方法としては制限されず、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法、レーザ蒸着法、及びクラスタイオンビーム法等の気相成長法が好ましい。微細金属体200は常温下で形成しても加熱下で形成してもよく、形成温度は制限されない。
【0086】
図8Aに示されるSALDI基板20では、微細孔110aの内部にのみイオン化促進剤Iが固着されているが、図8Bに示されるSALDI基板20’のように、質量分析用デバイスの表面20sにもイオン化促進剤Iが固着されていてもよい。どちらの形態も、第1実施形態と同様の方法により製造することができ、図8Aに示されるSALDI基板20の場合は、微細孔110a内にのみイオン化促進剤Iが固着されるように、表面20sに塗布されたイオン化促進剤Iを充分に除去することにより得ることができる。
【0087】
また、微細孔110aの表面20sにおける開口径が小さく、表面20sに塗布されたイオン化促進剤溶液が表面張力により微細孔110aに入らずに表面20s上にのみ存在する場合は、微細孔110aの底部及び内部にはイオン化促進剤Iが固着されておらず、表面20sのみに固着された形態とすることも可能である。
【0088】
本実施形態においても、第1実施形態と同様、基板100の一表面に測定光L1の照射により局在プラズモンを誘起しうる大きさの複数の金属体200を備えた微細構造体300bと、微細構造体300bの表面300sの少なくとも一部に固着されたイオン化促進剤Iとを備えたものであるので、第1実施形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0089】
「質量分析用基板(SALDI基板)の第3実施形態」
図9及び図10を参照して、本発明に係る第3実施形態のSALDI基板30(30’)について説明する。図9AはSALDI基板30の厚み方向断面図、図9BはSALDI基板30’の厚み方向断面図である。図10は、SALDI基板30の製造工程を示す図である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0090】
図示されるように、SALDI基板30(30’)と第2実施形態のSALDI基板20とは、誘電体110の表面110sに金属膜200mを備えている点で異なっている。
【0091】
SALDI基板30において、微細構造体300cは、第1実施形態と同様の、導電体120上に形成され、平面視略同一形状の多数の微細孔110aが、表面110sにおいて開口して略規則配列した誘電体110を備えた基板100に、複数の微細孔110aの底部に局在プラズモンを誘起しうる大きさの複数の微細金属体200が固着され、且つ、誘電体110の表面110sの微細孔110aの非開口部分に半透過半反射性の金属膜200mが成膜されたものである。
【0092】
基板100は第1実施形態と同様であるので好ましい材料や形状、製造方法については記載を省略する。イオン化促進剤Iについても好適な材料は第1実施形態と同様である。
【0093】
また、微細孔110aの底部に充填された微細金属体200の好適なサイズや材料は第1実施形態と同様である。
【0094】
誘電体110の表面110s上に成膜された半透過半反射性の金属膜200mの膜厚は特に制限されないが、基板100と金属膜200mとにより共振器構造となるため、金属膜200mが共振器中の全反射光により表面プラズモンを励起可能な膜厚であれば、金属膜200m上に表面プラズモンによる増強電場を生じることができ、好ましい。金属膜200mの構成材料は特に制限されないが、好適な材料は微細金属体200と同様のものが挙げられる。
【0095】
図10に示されるように、本実施形態の基板100は、第1及び第2実施形態と同様にして陽極酸化法により形成することができる(図10A、図10B)。
【0096】
金属膜200m及び微細金属体200の形成方法も特に制限されないが、誘電体表面110sの上面側から、例えば真空蒸着法、スパッタ法、CVD法、レーザ蒸着法、及びクラスタイオンビーム法等の気相成長法により形成することが好ましい。誘電体表面110sの上面から上記気相成長法により金属膜200mを成膜すると、微細孔110aの底部にも金属膜200mの構成元素が堆積するため、微細金属体200及び金属膜200mを同時に形成することができる(図10C)。微細金属体200及び金属膜200mは常温下で形成しても加熱下で形成してもよく、形成温度は制限されない。
【0097】
次に、微細構造体300cの表面300sの少なくとも一部に、イオン化促進剤Iを固着させてSALDI基板30を得る。イオン化促進剤Iの固着は第1実施形態と同様にして実施することができる(図10D、図10E)。
【0098】
図9Aに示されるSALDI基板30では、微細孔110aの内部にのみイオン化促進剤Iが固着されているが、図4(b)に示されるSALDI基板3’のように、SALDI基板の表面30sにもイオン化促進剤Iが固着されていてもよい。どちらの形態も、第1実施形態と同様の方法により製造することができ、図10Aに示されるSALDI基板30の場合は、微細孔110a内にのみイオン化促進剤Iが固着されるように、表面30sに塗布されたイオン化促進剤Iを充分に除去することにより得ることができる。
【0099】
また、第2実施形態と同様、微細孔110aの表面30sにおける開口径が小さく、表面30sに塗布されたイオン化促進剤溶液が表面張力により微細孔110aに入らずに表面30s上にのみ存在する場合は、微細孔110aの底部及び内部にはイオン化促進剤Iが固着されておらず、表面30sのみに固着された形態とすることも可能である。
【0100】
本実施形態においても、第1実施形態と同様、基板100の一表面100sに測定光L1の照射により局在プラズモンを誘起しうる大きさの複数の金属体200を備えた微細構造体300cと、微細構造体300cの表面300sの少なくとも一部に固着されたイオン化促進剤Iとを備えたものであるので、第1実施形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0101】
また、本実施形態において、金属膜200mにおいて表面プラズモンを生じる場合は、上記微細金属体200による増強場よりも増強度の高い電場を生じることができるので、より測定光L1のエネルギーを下げることができ、好ましい。
【0102】
上記実施形態では、微細構造体300cにおいて、誘電体表面110sの非開口部分に金属膜200mが備えられた形態について説明したが、表面110sの非開口部分に局在プラズモンを誘起しうる大きさの微細金属体200を固着させた構成としてもよい。かかる構成では、微細構造体300cの表面300sの非開口部分において、局在プラズモンによる増強電場を生じさせることができる。この場合、表面110s上に固着された互いに隣接する微細金属体200同士は離間されていることが好ましく、その平均離間距離wは、数nm〜10nmの範囲であることがより好ましい。平均離間距離が上記範囲内である場合は、局在プラズモン効果による電場増強効果を効果的に得ることができる。
【0103】
表面110s上に局在プラズモンを生じる大きさを有する微細金属体200を固着させる方法としては特に制限されないが、例えば、金属膜200mを表面110sの微細孔110aの非開口部分に成膜した後(図10C)、熱処理により、金属膜200mの構成金属を凝集させて粒子化させる方法が挙げられる。金属膜200mの膜厚がナノオーダである場合は、熱処理によって金属膜200の構成金属がいったん溶融し、降温過程において、溶融した金属が誘電体110の表面110sに自然に凝集して粒子化すると考えられる。金属膜200mの熱処理方法は制限なく、例えば、レーザアニール、電子ビームアニール、フラッシュランプアニール、ヒータを用いた熱放射アニール、及び電気炉アニール等のアニール処理が挙げられる。
【0104】
熱処理温度は、金属膜200の構成金属が凝集することができれば制限されず、金属膜200の融点以上かつ誘電体11の融点未満の温度であることが好ましい。金属膜200mの膜厚がナノオーダである場合は、バルク金属の融点よりもはるかに低い温度において溶融する融点降下現象が顕著に起こるため、この現象を利用すれば、熱処理温度は、金属膜200の融点以上の温度であり、かつ誘電体110の融点未満の温度とすることができる。
【0105】
表面110s上に金属膜200を成膜した後に熱処理により形成する方法以外の方法としては、金属コロイドを利用する方法,LB法,シランカップリング法,斜め蒸着法,マスクを用いた蒸着,クエン酸をCTABに置換後自然蒸発(J. Am. Chem. Soc., Vol. 127, 14992-14993, 2005.)等が挙げられる。
【0106】
上記SALDI基板の第1〜第3実施形態では、被陽極酸化金属体400の一部を陽極酸化して得られたアルミナ層を誘電体110、非陽極酸化部分を導電体120としたが、これに限られず、被陽極酸化金属体400をすべて陽極酸化した後に、別途蒸着等により導電体120を成膜してもよい。この場合、導電体120の材料は制限なく、任意の金属やITO(インジウム錫酸化物)等の導電性の材料等を用いてもよい。
【0107】
また、被陽極酸化金属体400の主成分としてAlのみを挙げたが、陽極酸化可能で生成される金属酸化物が透光性を有するものであれば、任意の金属が使用できる。Al以外では、Si、Ti、Ta、Hf、Zr、In、Zn等が使用できる。被陽極酸化金属体400は、陽極酸化可能な金属を2種以上含むものであってもよい。用いる被陽極酸化金属の種類によって、形成される微細孔120の平面パターンは変わるが、平面視略同一形状の微細孔120が隣接して配列した構造を有する誘電体110が形成されることには変わりない。
【0108】
また、陽極酸化を利用して微細孔110aを規則配列させる場合について説明したが、微細孔110aの形成方法は、陽極酸化に制限されない。表面全面を一括処理でき、大面積化に対応でき、高価な装置を必要としないことから、陽極酸化を利用した上記実施形態は好ましいが、陽極酸化を利用する以外に、樹脂等の基板の表面にナノインプリント技術により規則配列した複数の凹部を形成する、金属等の基板の表面に、集束イオンビーム(FIB)、電子ビーム(EB)等の電子描画技術により規則配列した複数の凹部を描画する等の微細加工技術が挙げられる。微細孔12は規則配列させてもよいし、させなくてもよい。
【0109】
また、誘電体110の裏面110rに導電体120を備えた場合について説明したが、金属体200を微細孔110aに充填する方法として、電気メッキ等の電極を必要とする方法を用いない場合は、導電体120は備えてなくてよい。また、金属体200の形成後に導電体120を除去した構成としてもよい。
【実施例】
【0110】
以下に、本発明に係る実施例について説明する。
(実施例1)
下記手順にて、SALDI基板を製造した。
被陽極酸化金属体として、アルミニウム板(Al純度99.99%、10mm厚)を用意し、このアルミニウム板を陽極とし、アルミニウムを陰極として、アルミニウム板の一部がアルミナ層となる条件で、陽極酸化を実施して微細孔基板を作製した。得られた基板の微細孔の平均径は50nm、平均ピッチPは約100nmであった。陽極酸化において液温は15℃とした。その他の反応条件は以下の通りとした。
反応条件:電解液0.5Mシュウ酸、印加電圧40V、反応時間5時間。
【0111】
次いで、非陽極酸化部を電極として用い、微細孔の底部からAuメッキ処理を施し、基板表面に溢れさせてマッシュルーム形状の微細金属体の茎部が各微細孔内に充填された微細構造体を作製した。このとき、マッシュルーム状の金属体の頭部同士は、10nm程度離間するようにメッキ時間を調整した。
【0112】
次に、イオン化促進剤として、ビストリデカフルオロテトラヒドロオクチルテトラメチルジシロキサン溶液を用意し、微細構造体の表面にイオン化促進剤を固着させて本発明の質量分析用基板を得た。イオン化促進剤の固着は、イオン化促進剤の塗布と乾燥、そして過剰分の除去を数回繰り返すことにより行った。乾燥は、120度のオーブン中で50秒間の熱処理とし、過剰分の除去には窒素ガンを使用した。
【0113】
図1に示される質量分析装置の基板保持手段に得られたSALDI基板を固定し、SALDI基板上にマウス肝臓細胞切片を載置した。金属プローブは先端径10nm(SUS製)のプローブ先端部に、斜め蒸着法により金属プローブを80°傾けた状態で金5 nmの膜厚を蒸着した後、500℃の炉で20分間アニールしたものを用い、測定サンプルとの距離を駆動制御可能な構成として、質量分析を実施した。測定条件は下記のとおりである。
測定光(レーザ)波長:337nm(Spectra-Physics製 VSL−337)
測定光強度:2μJ
測定モード:リニアモード
イオンモード:正イオンモード
【0114】
図11Aは、マウス肝臓細胞の正常部分の質量分析を行った場合のマススペクトルである。図示されるように、測定光強度が2μJと低パワーであっても、非常に高感度な検出が確認された。
【0115】
基板としてSALDI基板を用いず、先端部に金微粒子を備えていない一般のAFMプローブを用いて同様の測定を実施した場合、質量分析を実施することができなかった。従って、測定光強度を20μJとして質量分析を行った結果を図11B示す。
【0116】
図11Aと図11Bとを比較することにより、本発明の質量分析装置によれば、10分の1の測定光パワーにてより高感度な分析を実現できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、物質の同定等に用いられる質量分析装置に適用できる。
【符号の説明】
【0118】
1 質量分析装置
21 光照射手段
22 金属プローブ
23 金属微粒子
31 検出器
40 分析手段
50 飛翔方向制御手段
60 位置制御手段
80 XY方向位置センサ
90 表示部
10,10’,20 ,30 質量分析用基板
10s、10’s、20s、30s、40s、50s 表面(試料接触面)
100、100’ 基板
100s、100’s 基板表面
110 誘電体
110a 微細孔
120 導電体
200 金属体(微細金属体)
200s 透光体表面
210 微細孔
300a,300b,300c 微細構造体
400 被陽極酸化金属体
410 金属酸化物体
420 非陽極酸化部分
210 充填部
220 突出部
L1 測定光
R 被分析物質
Ri 脱離した被分析物質
I イオン化促進剤
w 突出部同士の離間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面支援レーザ脱離イオン化質量分析法に用いられる質量分析用基板と、
該質量分析用基板の表面に接触された試料に測定光を照射して前記試料中の被分析物質を前記表面から脱離させる光照射手段と、
前記測定光の照射により先端部に近接場光を生じる金属プローブと、
脱離した前記被分析物質を検出する検出器と、
前記検出器により検出された検出結果に基づいて前記被分析物質の質量分析をする分析手段とを備えた質量分析装置であって、
前記金属プローブの先端部が、前記測定光の照射により生じる近接場光が前記試料の測定光照射部分に接するように配置されており、
前記金属プローブが、前記試料の測定光照射部分を基点として前記検出器と異なる方向に配置されていることを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
前記金属プローブは、前記先端部に局在プラズモンを誘起可能な金属微粒子を備えたものであることを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記金属微粒子が、Au,Ag,Cu,Al,Pt,Ni,及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素からなる(不可避不純物を含んでもよい)ことを特徴とする請求項1又は2に記載の質量分析装置。
【請求項4】
前記試料を載置する前記質量分析用基板の表面内方向であるXY方向に沿って前記プローブの先端部の位置及び前記測定光の照射位置を相対的に変化させる位置制御部を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の質量分析装置。
【請求項5】
前記プローブのXY方向の位置を検出するXY方向位置センサと、該センサにより検出された前記プローブのXY方向の位置と該位置での質量分析結果とを関連付けて表示する表示部とを更に備えたことを特徴とする請求項4に記載の質量分析装置。
【請求項6】
前記質量分析用基板が、基板の一表面に、前記測定光の照射により局在プラズモンを誘起しうる大きさの複数の金属体を備えた微細構造体と、
該微細構造体の前記表面の少なくとも一部に固着されたイオン化促進剤とを備えたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の質量分析装置。
【請求項7】
前記微細構造体において、前記基板が、前記表面において開口した複数の有底の微細孔を有する誘電体を備えたものであり、前記複数の金属体が、前記複数の微細孔の少なくとも底部及び/又は前記基板の表面の前記微細孔の非開口部分の少なくとも一部に固着されたものであることを特徴とする請求項6に記載の質量分析装置。
【請求項8】
前記微細構造体において、前記基板が、前記表面において開口した複数の有底の微細孔を有する誘電体を備えたものであり、前記複数の金属体が、前記複数の微細孔内に充填された充填部と、該充填部上に前記表面より突出して形成され、前記表面と平行方向の最大径が前記充填部の径よりも大きい突出部とからなり、
前記複数の金属体の突出部の少なくとも一部が、互いに離間されていることを特徴とする請求項6に記載の質量分析装置。
【請求項9】
互いに隣接する前記突出部同士の平均離間距離が10nm以下であることを特徴とする請求項8に記載の質量分析装置。
【請求項10】
前記イオン化促進剤が、有機ケイ素化合物であることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の質量分析装置。
【請求項11】
前記質量分析用基板と前記検出器との間に前記脱離した被分析物質の飛翔方向を制御して前記検出器の検出面に導く飛翔方向制御手段を備えた飛行時間型質量分析装置であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の質量分析装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の質量分析装置を用いる分析方法であって、
前記質量分析用基板の表面に試料を接触させた後、該試料の測定部位及び前記金属プローブの先端部に測定光を照射し、
該測定光の照射により前記先端部に生じる近接場光による増強電場と、前記表面の表面支援構造に起因する増強電場とにより増大されたエネルギーを有する前記測定光により、前記試料中に含まれる被分析物質を前記表面から脱離させ、
該脱離した被分析物質を捕捉して質量分析することを特徴とする分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図10E】
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【図11A】
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【図11B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【公開番号】特開2010−271219(P2010−271219A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123919(P2009−123919)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】