説明

質量分析装置及びそれに用いられるイオン源

【課題】移動する針電極を用いてサンプリングとイオン化を繰り返すエレクトロスプレー等で、安定したイオン化を行い、濃度測定のダイナミックレンジを低下させることなく、分析の定量精度を向上する。
【解決手段】複数の針電極1を有する試料搬送電極7に高圧電源4から電圧を印加し、駆動部3で回転駆動する。試料溶液5が付着した複数の針電極1が、質量分析装置20の導入口21に順次移動し、連続してエレクトロスプレーイオン化が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置及びそれに用いられるイオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS:liquid chromatography/mass spectrometer)は、生体試料などの分析で広く使われている。LC/MSのイオン源において、LCで分離された試料液体から気体状イオンが生成され、質量分析部へ導入される。イオン源におけるイオン化法としては、エレクトロスプレーイオン化法(ESI:electrospray ionization)による噴霧イオン化法が広く用いられている。LCと質量分析計のイオン源間には、通常、数μmから数100 μm程度の内径をもつ配管であるキャピラリーが使われる。このエレクトロスプレーイオン化は大気圧で行われ、LCに配管されたキャピラリー末端部の試料液体と対向電極(質量分析部入口)との間に高電圧を印加し、静電噴霧現象により帯電液滴を生成する。生成される帯電液滴は蒸発し、気体状イオンが生成される。最初に生成される帯電液滴のサイズが小さく電荷量が高い程、気体状イオンの生成効率は高くなる。
【0003】
近年のエレクトロスプレーイオン化では、試料導入に使われるキャピラリーの内径が100μm程度から1〜2μm程度に微細化されたナノエレクトロスプレーが実施されるようになってきた。このナノエレクトロスプレーにより、微量体積の試料などが長時間測定できるようになり、微量の生体分子の解析が可能になってきた。
【0004】
特許文献1、特許文献2、非特許文献1には、針を使ったイオン化の方法が開示されている。特許文献1には、キャピラリー内の試料が流れる配管内の流路に可動式の補助針が入っており、その補助針を振動させて動かすことで、対向位置にあるサンプリング針に試料を供給するイオン化方法が記載されている。特許文献2及び非特許文献1には、針(プローブ)が原点位置と試料との間を上下に振動することで、試料の付着(サンプリング)とイオン化を行うイオン化方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−112279号公報(米国特許第5945678号明細書)
【特許文献2】WO2007/126141
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Phys. Chem. B, 112, 11164-11170 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エレクトロスプレーやナノエレクトロスプレーでは、内径が数μmから数100μmの細いキャピラリーが配管やイオン源で使われている。このキャピラリーを用いたエレクトロスプレーでは、試料が変わるたびに細いキャピラリー配管内の洗浄が必要であり、少なくとも数分程度の時間をかけて洗浄する必要がある。また、試料によっては測定中にキャピラリー配管内が試料等により目詰まりするといった問題や、以前の測定試料が洗浄で流れ落ちずにキャピラリー内に付着したまま汚れとして残ってしまい、別の試料測定中に混ざって分析されてしまうといった問題が発生する。このため、これらの問題を解決できる新たなエレクトロスプレーイオン源が望まれている。
【0008】
特許文献1には、補助針を使ったエレクトロスプレーの方法が開示されているが、キャピラリー内を液体試料が流れるのは従来のエレクトロスプレーと同じであるため、従来と同様にキャピラリー内が試料によって目詰まりする問題や、汚れるといった問題を有する。
【0009】
特許文献2では、従来のエレクトロスプレーと異なり、針の表面に試料溶液を付着させるイオン化方法である。針を上下に振動させ、サンプリングとイオン化を交互に行っている(以下、針を振動させたイオン化法という)。針を用いているために、キャピラリーの配管内で試料が詰る問題や配管内が汚れる問題は解消される。本例では、試料が付着する針の表面のみを洗浄すればよいため、洗浄が従来よりも容易である。
【0010】
しかし、針を振動させたこのイオン化法には新たな問題が2つある。1つ目の問題点は分析のスループットの低下である。従来のエレクトロスプレーでは途切れることなく常時、試料が供給され、またイオン化されるため、常時、イオンの質量分析結果をモニタリングでき、効率よい分析が可能である。しかし、針を用いたイオン化の場合は、間欠的な試料導入になる。図2Aに、従来例のイオン源の針の動きと、検出器で検出されたイオン強度の時間に対する変化を示す。回転するモーターによって針が動いており、モーターが1周すると針が上下に1往復する例で説明する。その上下に振動している動きを、横軸を時間、縦軸を位置にとったグラフで表すと、図2Aの上部に示すような正弦波状になる。針が最下部にある時に試料が付着し、最上部の質量分析導入口前を針が通過するときにイオン化される。図2Aには、イオンが導入口から質量分析計に導入されるタイミングを破線で囲んで示した。図2Aの下方には、その時の時間に対するイオン量の変化を示す。針が最上部の質量分析導入口前を通過するときにイオン化されてイオン量は最大になり、その後、針が試料のある最下部に向けて移動すると、イオン量はすぐに減少する。なぜなら、針が導入口から離れ、放電が起きないためにイオン化されなくなるからである。この針の動きは、正弦波ではなく矩形波で表される場合でも、同じようなイオン強度の時間変化を示すため問題となる。このように、針が試料のサンプリングとイオン化を交互に繰り返すために、試料は連続導入ではなく、断続的・間欠的な導入になる。このため、キャピラリーを用いたエレクトロスプレーに比べて、針を振動させたイオン化法では分析のスループットが低下するという問題が生じる。
【0011】
このスループット低下の問題への対策として、針の駆動部を高速化し、針の振動周波数、すなわち針の移動スピードを速くするという手段が容易に考えられる。針の動きを速くすることで、針が導入口の前に来る回数、すなわちイオン化する回数を増やすことができる。しかし、単に針の動きを高速化しても、イオン化の時間自体も短くなるために、イオン量自体も低下することが予想される。また、針が導入口付近をこれまでよりも高速で通過するために、イオン化が不安定になり、イオン化が起きにくくなることが予想される。さらに高速運動により液体試料が振り落とされてしまい、イオン化が行われないことも予想される。このため、単に針を高速に振動させるだけでは問題は解決しない。
【0012】
2つ目の問題点は、定量精度の低下である。針を振動させたイオン化法では、先述のように試料導入が間欠的であるために、イオン強度に強弱が発生する。図2Aのように、時間に対してイオン強度の振幅が大きくなりイオン量の濃淡が生じると、濃度が濃い試料で検出器の検出上限値を超えたイオン量が検出器に到達すれば、イオンを数え落とすことになり、正確な分析ができなくなる。また検出器の後段にTDC(time to digital converter)やADC(analog to digital converter)を用いていても同様にイオンを数え落とすことになる。その結果、試料濃度のダイナミックレンジが低下し、定量精度が低下する。本発明は、これらの問題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の質量分析装置は、イオン源と、イオン化された試料を導入する導入口が設けられた対向電極を備える質量分析部と、イオン源を制御する制御部とを有する。ここで、イオン源は、試料を保持する試料保持部と、複数の針電極を有する試料搬送電極と、試料搬送電極と対向電極との間に電圧を印加する電源と、複数の針電極が試料保持部と導入口を順に通過するように前記試料搬送電極を駆動する駆動部とを有する。
【0014】
試料搬送電極は、一例として、回転軸の回りに回転する円盤電極を備え、円盤電極の周縁部に当該円盤電極の面に対して先端が対向電極に対してほぼ垂直な方向を向くように複数の針電極が設けられた構造を有し、回転軸の軸方向が針電極の先端から導入口に導入されるイオン流に略平行な方向を向いている。
【0015】
試料搬送電極は、別の例として、回転軸の回りに回転する円盤電極を備え、円盤電極の面内方向に複数の針電極が放射状に設けられた構造を有し、回転軸の軸方向が針電極の先端から導入口に導入されるイオン流の方向に略垂直な方向を向いている。
【0016】
また、試料搬送電極は、他の例として、回転軸の回りに回転する平板電極を備え、平板電極は外周部分に先端の尖った複数の凸部を有し、凸部が針電極を構成し、回転軸の軸方向が針電極の先端から前記導入口に導入されるイオン流の方向に略垂直な方向を向いている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、これまで針を振動させたイオン化法で問題となっていたスループット低下の問題が解消し、高スループット分析が可能となる。また、イオン流が時間的に均一に流れてくるため、効率よくイオンを検出でき、定量精度の高い分析が可能となる。
【0018】
上記した以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】本発明の一実施例におけるイオン源と質量分析部の構成例を示す摸式図。
【図1B】試料搬送電極の概略図。
【図2A】従来技術における針電極の先端位置及びイオン強度と時間との関係を示す図。
【図2B】本発明の一例における針電極の先端位置及びイオン強度と時間との関係を示す図。
【図3】回転速度を最適化するための方法の例を示すフローチャート。
【図4】回転速度を最適化するための方法の別の例を示すフローチャート。
【図5】回転速度を最適化するための方法の別の例を示すフローチャート。
【図6】回転速度を最適化するための方法の別の例を示すフローチャート。
【図7】回転速度を最適化するための方法の別の例を示すフローチャート。
【図8】各針電極の先端位置と時間の関係を示す図。
【図9】本発明の別の実施例であるイオン源と質量分析部の構成例を示す図。
【図10A】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図10B】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図10C】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図10D】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図10E】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図10F】円盤電極の断面概略図。
【図11A】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図11B】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図11C】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図11D】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図11E】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図11F】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図11G】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図12A】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図12B】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図12C】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図12D】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図13A】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図13B】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図13C】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図13D】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図13E】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図14A】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図14B】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【図14C】本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
[実施例1]
図1Aは、本発明の実施形態であるイオン源を含む質量分析装置の一例を示す摸式図である。図1Bは、質量分析部側から見た試料搬送電極の概略図である。キャピラリーを用いたエレクトロスプレーイオン源も針電極を用いたエレクトロスプレーイオン源も大気圧下で動作可能である。本実施例の針電極を用いたイオン源においてエレクトロスプレーでイオン化された試料イオンは、導入口21から質量分析部20の内部に導入される。質量分析計20の内部に導入された試料イオンは、差動排気部のイオンガイド23を通過し、四重極質量フィルター24等の質量分析部で分析される。
【0022】
本実施例のイオン源は、金属のような導電体からなる円形の円盤電極2に、導電体からなる針電極1を円盤面から垂直方向に立つように装着した試料搬送電極7を備える。また円盤電極2に試料溶液5が付着し汚染されないように、円盤電極2から動径方向に金属の棒が出てその先に針電極1が装着されている。この金属の棒はなく、円盤電極2に針電極1が直接装着されていてもよい。針電極1は対向電極22の方向を向き、円盤電極2の円盤面は対向電極22と向かい合うように配置される。針電極1と円盤電極2からなる試料搬送電極7は、コンピューター31からの制御に基づいて、駆動部3により回転運動される。また、針電極1の付いた円盤電極2と対向電極22の間には、高圧電源4から電圧が印加される。通常のエレクトロスプレーイオン化では1〜5kV程度の直流電圧を印加する。高電圧印加により、針電極1と対向電極22との間に電場が発生し、エレクトロスプレーイオン化が起こる。直流電圧ではなく交流電圧を印加するエレクトロスプレーでも同様に使用可能である。
【0023】
試料溶液5の入ったガラス瓶などの容器6は、針電極1が試料溶液5に浸るように、質量分析部20の導入口21の前方に配置される。試料搬送電極7は、円盤の中心軸を中心に回転運動する。駆動部3は、例えばモーターなどを用い、電極の回転速度を制御する。複数の針電極1を備える試料搬送電極7が回転することで、針電極1への試料溶液5の付着と、対向電極22間でのエレクトロスプレーイオン化を繰り返す。針電極1が試料溶液中に入った時に針電極1に試料溶液5が付着し、対向電極22に設けられた導入口21の前を針電極1が通過するときにイオン化が行われる。この一連の動作が、複数の針電極1の付いた試料搬送電極7が回転することで繰り返し行われる。導入口21は、針電極1と正対するように位置し、針電極1の先端が通過する円周軌道上に配置されている。対向電極22に設けられた導入口21は、導入口21の部分が針電極1側に数mm程度に突き出していて、針電極1が導入口21付近に来たときのみ放電してイオン化が行われる。検出部25でモニターされた結果は、コンピューター31により保存、解析、表示される。またコンピューター31は、データの解析結果をもとに駆動部3の回転速度および高圧電源4を制御することが可能である。
【0024】
針電極1の形状は、先端部の曲率半径が数μmから数10μm程度に鋭利に尖っており、放電が起きやすくなっている方がよい。針電極1の材質は、導電性の物質であればよく、例えばアルミニウム、鉄、銅、銀、金、白金、タングステン、ニッケルなどの金属やこれらの混合物(合金)やステンレスであればよく、また裁縫で使われる縫い針のような形状をした針でもよい。この針電極1に、液体が付着しやすいようにさらに曲率半径が数μm以下の細かな複数の鋭利な突起が設けられていると、試料溶液5が針電極の表面に保持されやすい。本発明では、縫い針のような形状の針だけでなく、金属先端部の曲率半径が数μmから数10μm程度に鋭利に尖っているもの全てを針電極と定義する。
【0025】
針電極1の本数については、3〜10本程度でよい。例えば、図1Bのように8本であれば、試料搬送電極7の回転速度が1回転/秒と低速でも、8回/秒の頻度で十分なイオン化を行うことが可能である。
【0026】
図2Bに、本実施例におけるイオン源の針電極の動きと、検出器で検出されたイオン強度の時間変化を示す。本実施例では、検出部25でイオン強度をモニターする例を示すが、その他のモニター手段として、対向電極22やその他の質量分析部の電極でイオン電流をモニターすることも可能である。本実施例では、モーターを用いて試料搬送電極7を回転運動させるため、図2Aと同様に、時間に対しての針電極1の高さ位置は正弦波として描くことができる。図2Aとの違いは、本実施例では、針電極1が複数本あるため、正弦波のラインは針の本数分だけ描かれる。それぞれの針電極1は試料溶液を付着した後、図示した導入口21を通るタイミングで順次イオン化が行われる。複数本の針電極を有することで、従来よりも回転速度を遅くすることができ、図のように正弦波の周期を長くすることが可能となる。
【0027】
このように、本実施例によると針電極が導入口に来る頻度を容易に上げられるほか、並べる針電極の間隔を調整することで針電極の通過スピードを従来よりも遅くできるため、安定したイオン化が可能となる。さらに、高速で大きな電力が必要なモーターなどの駆動部は必要なく、小型で安価な駆動部で十分対応可能である。
【0028】
試料搬送電極7の回転速度は最適化する必要がある。これは分析試料や溶媒、針電極が変わる毎にイオン化の最適条件が変わる可能性があるためである。回転速度が遅いと、試料溶液5が乾燥してしまう問題や、図2Aのようにイオンが質量分析計に間欠的に導入され、イオン強度に強弱が生まれかつスループットは低下する問題が発生する。回転速度を速くすることで、1つ1つの針電極が導入口を通過した時のイオン強度のピーク値は低下するが、針電極が次から次へと素早く導入口の前を通過するため、図2Bのように、イオン強度が時間的に均一強度近づきかつ連続流に近くなる。これは前の針電極によるイオン強度が減衰する前に次の針電極が導入口に到達するためである。また回転速度が速すぎると、今度は試料が針電極に付着しない、あるいは試料が遠心力で吹き飛んでしまうなどの問題によって、イオン強度が低下する。さらに導入口の前を針電極が通過する速度が速すぎるとイオン化の放電も不安定になり、また放電(イオン化)の時間も短くなるためイオン強度も低下する。このため回転速度の最適化が必要となる。
【0029】
図3は、回転速度を最適化するための方法の例を示すフローチャートである。まず試料溶液5を容器6に入れ、質量分析部20の導入口21の前に配置する(S11)。続いて、測定したい中心回転速度A、振り幅a、測定点数n、時間tを決め、コンピューター31に入力する(S12)。例えば、A=3回転/秒、a=1回転/秒、n=3点とした場合には、2,3,4回/秒の3点の回転速度でイオン強度を測定する。また時間tは、測定時間であり回転周期よりも長ければよい。例えば、今回の例ではt=3秒程度の測定時間で十分である。コンピューターは最初に回転速度を2回/秒に設定する(S13)。コンピューターは、円盤電極2を介して高電圧を針電極1に印加し(S14)、設定に従って駆動部3を制御し、駆動部3は針電極の付いた試料搬送電極7を回転させる(S15)。すると、試料搬送電極7の針電極1が導入口21の前を通過するたびに試料溶液がイオン化される(S16)。検出器では測定時間の3秒間イオンを検出器する(S17)。測定するイオンはあるm/zのイオンだけでもよいし、全イオンのイオン量をモニターしてもよい。測定後、コンピューターは、3秒間の測定データのイオン強度の分散値(ばらつき)を計算する(S18)。分散値は、3秒間におけるイオン強度の平均値に対する標準偏差でよい。この分散値を小さくすることで、図2Aのようなイオン強度に強弱ムラがある状態を回避し、図2Bのように時間的に均一になっている条件を見つけることができる。解析は、次の測定中にコンピューターが行えばよい。続いて、駆動部の回転速度を3回/秒に制御し(S19)、同様に3秒測定する。4回/秒まで測定・解析後、測定した3点の分散値を比較し、分散値が最小となったときを最適点とし、その時の回転速度を最適速度として決定する(S20)。次に、その最適な回転速度を駆動部に設定し、駆動する(S21)。その最適な回転速度の条件のもとで、今度は数秒から数分程度の本測定を開始する(S22)。本最適化は、コンピューターの制御の元、全自動で行うのが望ましい。
【0030】
図4は、回転速度を最適化するための方法の別の例を示すフローチャートである。基本的な流れは図3の例と同様である。図3との違いは、解析のところでイオン強度の分散値ではなく、イオン強度の面積値(時間積算値)を計算して、それを最適化の指標とすることである(S18A)。面積値を最大にすることで、もっとも効率よくイオンを収集できる。
【0031】
図5は、回転速度を最適化するための方法の別の例を示すフローチャートである。基本的な流れは図3、図4の例と同様である。図3、図4に示した例との違いは、解析のところでイオン強度の分散値と面積値の両方を計算し、両方を最適化の指標とすることである(S18B)。分散値がユーザーの設定したある閾値以下になるような条件下において、面積値が最大になる回転速度を選択することで(S20B)、分散を小さくかつ面積値を大きくすることができ効率のよい計測が可能となる。
【0032】
図6は、回転速度を最適化するための方法の別の例を示すフローチャートである。この方法は、回転速度を粗く振ることで大雑把に最適点を調べた後に、その最適な回転速度の周辺をさらに細かく調べて最適化する方法であり、本例を用いると短時間で効率よく最適回転速度を見つけることができる。
【0033】
図6に示したフローチャートでは、基本的な流れはこれまでの例と同様だが、左側部分が粗く回転速度を変えて測定し、真ん中部分では、細かく回転速度を測定する2段構えのフローである。図3の説明であげた例のように、例えば、A=3回転/秒、a=1回転/秒、n=3点とした場合には、図の左側のフローで示すように2,3,4回/秒の3点の回転速度で測定をする。ここで面積が最大となる回転速度が3回転/秒の時だったとすると、この3回転/秒の周辺をさらに細かく回転数を振って調べるフローが真ん中部分に示してある。例えば、b=0.5回転/秒と、bにaよりも小さい値を設定しておくことで、2.5回転/秒、3回転/秒、3.5回転/秒の3点の回転速度におけるイオン強度をモニターし、この中から最適点を見つける手法である。
【0034】
図7は、回転速度を最適化するための方法の別の例を示すフローチャートである。回転速度を粗く振ることで大雑把に最適点を調べた後に、その最適な回転速度の周辺をさらに細かく調べ最適化する方法であるのは、図6の例と同様である。本例では、イオン強度の面積値の最大点を見つけるまで、フローを続行するようになっている。
【0035】
次に、図8を用いて、針電極1の付いた試料搬送電極7が等速の回転運動ではなく、回転・停止を繰り返しステップ的に動作させる例について説明する。図8は、各針電極の先端の運動位置と時間の関係を、横軸に時間をとり、縦軸に位置(高さ)をとったグラフに示したものである。本例では、図1A、図1Bに示した装置構成において、円盤電極2を45度回転、一定時間停止、45度回転と間欠的に移動させる動作を、ステッピングモーターなどを用いて繰り返し行う。それぞれの針電極おいて、イオンが導入口から質量分析部に導入されるタイミングを破線で囲んで示している。本例では、針電極の付いた試料搬送電極7が動いている時を除き、どれか1つの針電極1が導入口21の前に静止して配置され、イオン化が実行されている。
【0036】
本実施例では、差動排気部にイオンガイド(ion guide)を設けた例を説明したが、イオンガイドに代えて四重極(quadrupole)、オクタポール(Octapole)、ヘキサポール(Hexapole)、イオンファネル(Ion funnel)を設けてもよい。またイオンガイドが無い構成でもよい。また質量分析部は、四重極質量フィルター(Quadrupole mass filter)以外の、イオントラップ(ion trap)、三連四重極質量分析計(Triple quadrupole mass spectrometer)、飛行時間型質量分析計(Time-of-flight mass spectrometer)、磁場型質量分析計、オービトラップ(Orbitrap mass spectrometer)、フーリエ変換型質量分析計(Fourier-transform mass spectrometer)、フーリエ変換型イオンサイクロトロン共鳴質量分析装置(Fourier-transform ion cyclotron resonance mass spectrometer)などを用いてもよい。
【0037】
針電極1に付着した試料溶液5は時間がたてば乾燥してしまい、イオン化されなくなる。その乾燥を防ぐため、試料溶液5が針電極1に付着した後はできるだけすみやかにイオン化することが望ましい。図1Bに示した構成では、導入口21側から見て、針電極の付いた円盤電極2の回転方向は、矢印で図示するように反時計回りがよい。また加湿機構によりイオン源の部屋全体が水や溶媒によって加湿されていると、試料溶液5の乾燥が防がれてよい。また、水や溶媒が導入口付近に噴霧されていて、針電極1に付着した試料溶液が乾燥しないようになっているのが望ましい。
【0038】
容器6及び液体試料5には針電極と同じ高電圧を印加しておいてもよい。また電位的にどこにも接続せずに浮かせておいてもよい(フローティング)。
【0039】
以上ではイオン化法としてエレクトロスプレーの例で説明したが、レーザーを針先に照射することによってマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)も行うことも可能である。
【0040】
[実施例2]
図9は、本発明の別の実施例であるイオン源と質量分析部の構成例を示す概略図である。本例のような針電極を使ったエレクトロスプレーに限らず、通常のエレクトロスプレーを含めて、キャピラリーや針電極への不純物の堆積や破損等の劣化により、イオン強度が低下することや不安定になる。そのため、定期的にイオン量をモニターし、イオン量の低下や、放電が不安定でイオン強度の分散値が大きくなった場合には、針電極1を交換又は洗浄する必要がある。本実施例では、針電極1の洗浄や交換方法、そのタイミングの判定方法について説明する。
【0041】
本実施例のイオン源は、回転による駆動の方法や、イオン化・分析の方法、モニターの方法等については実施例1と同様である。
【0042】
針電極1の洗浄は、測定試料が変わる毎に行うことが望ましい。なぜなら、前の試料が針先に付着した状態で、次の別の試料を測定すると、前の試料が一緒に検出されてしまい正確な分析ができないためである。そのため、試料溶液5が新たに入れ替わるたびに針電極を洗浄する。
【0043】
試料溶液5が入った複数の容器6と洗浄用液体10が入った容器6は、コンピューター31によって制御される回転ステージ11と上下ステージ12の上に乗っている。1つの容器の試料溶液に対する測定が終了した後、コンピューター31の指令によって回転ステージ11と上下ステージ12が駆動して、針電極1は洗浄用液体10の入った容器6に浸漬される。その状態で試料搬送電極7を回転させることで、針電極1を洗浄する。また同時に、洗浄用液体10を超音波洗浄機の要領で振動させるとさらによい。洗浄用液体10は、エタノール、アセトン、メタノール、又は試料希釈用の溶媒などでもよい。
【0044】
洗浄は数秒から数分程度、ユーザーが決めた時間だけ行う。または、以下のような方法で確認して洗浄時間を決定することも可能である。針電極1の先端から対向電極22に流れる放電電流をモニターし、新品の針電極の時と比べて違いを判定する方法である。すなわち、針電極の針先に不純物が付いて汚れてくると、放電がしにくくなり、放電電流が低下することを利用する方法である。閾値を、例えば新品時の8割の放電電流と決めておき、放電電流が閾値以上に回復するまで洗浄し続けるようにする。ある決められた時間洗浄しても、改善が見られず依然として閾値以下である場合、高圧電源4の電圧を上げる方法をとってもよい。電圧を上げることにより、放電電流が回復し、イオン化も回復する可能性がある。高圧電源の電圧を例えば100Vずつ上昇させ、放電電流が回復するところまで上げるとよい。
【0045】
針電極1の交換は、不可避的な針先への不純物の堆積や針先形状の劣化により、イオン化が阻害されるため、定期的に行う必要がある。針電極1を交換するタイミングは、高圧電源4の電圧を上げても閾値のイオン強度に達しない場合、すなわち洗浄しても、電源電圧を上げても放電電流が回復しない場合である。この時に試料搬送電極7を新品と交換し、再度放電電流を測定し、問題ないことを確認した後、次の試料の測定を開始する。
【0046】
針電極1の洗浄や交換時期の判定のためにモニターするは、放電電流ではなく、標準試料を用いイオン化したイオン量を検出器でモニターしてもよい。また別の方法として、洗浄後に顕微鏡で針先を観察し、不純物が無いかどうかを見ることで判定してもよい。顕微鏡で観察することで、直接的に判定できる。汚れが見える場合は、再度洗浄する。
【0047】
[実施例3]
図10Aから図10Fは、本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図である。実施例1の試料搬送電極7では、円盤電極2の周縁部に複数の針電極1が設けられ、各針電極1の先端は円盤電極2の面に対して垂直な方向を向いていた。これに対して、本実施例の試料搬送電極8では、一例として、円盤電極2に複数の針電極1が放射状に設けられている。また、円盤電極2の回転軸の軸方向が、実施例1では針電極の先端から発生して導入口に導入されるイオン流の流れ方向にほぼ平行な方向であったが、本実施例ではイオン流の流れ方向にほぼ垂直な方向を向いている。
【0048】
図10Aは、実施例1の場合と同様に、金属などの導電体からなる円形の円盤電極2の動径方向に導電体からなる針電極1が付いている試料搬送電極8を用いたイオン源の例を示している。針電極1や円盤電極2の形状は実施例1と同様であるが、円盤電極2に対する針電極1の取り付け方向が異なっている。また、質量分析部に対する試料搬送電極8の姿勢が実施例1とは異なる。本実施例では、円盤電極2の回転方向が実施例1とは90度異なるが、円盤電極2が回転することで複数の針電極1が対向電極22の導入口21に順番に位置付けられ、各針電極に付着した試料溶液のイオン化が行われるのは同様である。針電極1には円盤電極2を通じて、高圧電源4を用いて電圧が印加される。
【0049】
試料溶液5の入ったガラス瓶などの容器6は、針電極1が試料溶液5に浸るように、質量分析部20の導入口21の前方に配置される。針電極1が設けられた円盤電極2は、その回転面内に、質量分析部の導入口21が重なるように配置されている。駆動部3は試料搬送電極8を回転させる。回転方向は、試料の付着からイオン化までの時間を短くするために、矢印で図示するように反時計回りに回転させた方がよい。高電圧についても、実施例1と同様に、高圧電源4により円盤電極2を通じて針電極1に印加される。針電極1の本数と回転速度の最適化については、実施例1の場合と同様である。
【0050】
図10Bは、試料搬送電極8の上方に導入口21と対向電極22が配置されている例を示している。この場合でも、図10Aと同じように試料溶液のイオン化が可能である。その他、試料搬送電極8に高圧電源4により高電圧を印加し、駆動部3で回転させる方法は、実施例1や図10Aの場合と同様である。
【0051】
図10Cは、試料搬送電極8を構成する円盤電極2の回転面が垂直方向から傾いた例を示している。回転面が傾いても、針電極1に付着した試料溶液をイオン化して、導入口21から質量分析部に導入することは可能である。その他、試料搬送電極8に高圧電源4により高電圧を印加し、駆動部3で回転させる方法は、実施例1や図10Aの例と同様である。
【0052】
図10Dは、試料搬送電極として平板電極9を用いた例を示す概略図である。導体からなる平板電極9の外周部分に複数の凸部を設け、凸部の先端を針先のように鋭利に加工した。文字通りの針のような細長い形状でなくても、このように先端が尖っていれば放電が起きることで静電噴霧現象が生じ、イオン化は行われる。本明細書では、図10Dに示したように、平板電極の外周部分を星形に加工して先端を尖らせた、静電噴霧が可能な凸部も針電極と呼ぶ。その他、平板電極9に高圧電源4から高電圧を印加し、駆動部3で回転させる方法は実施例1や図10Aの例の場合と同様である。
【0053】
図10Eは、試料搬送電極として、金属などの導電体からなる先端の尖った円盤電極16を用いたイオン源の例を示す概略図である。この円盤電極16は、針のように点で尖るのではなく、図10Fの断面摸式図に示すように、カッターナイフの刃のように円盤電極16の外周に沿って先端の厚みが薄くなり尖った形状をしている。先端部の曲率半径は、1μmから数10μm程度に鋭利に尖っている。このようにナイフの刃のように、鋭利な部分が点状ではなく線状に分布した形状からであっても刃の部分から静電噴霧現象が生じる。本明細書では、このように円盤電極の外周に周方向に沿って形成された刃状の構造も針電極と呼ぶ。この針電極は、小さな針電極が円盤電極の円周方向に無数に連なったものと考えることも可能である。その他、円盤電極16に高圧電源4から高電圧を印加し、駆動部3で回転させる方法は、実施例1や図10Aの例と同様である。
【0054】
[実施例4]
図11Aから図11Gは、本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図である。これまでの実施例では、試料搬送電極を回転させることによって針電極に付着させた試料溶液を対向電極の導入口まで搬送したが、本実施例では試料搬送電極を往復運動させることによって針電極に付着させた試料溶液を対向電極の導入口まで搬送する。
【0055】
図11Aは、導電体からなる棒状の電極15に導電体からなる複数の針電極1が付いた構造の試料搬送電極17を用いたイオン源の実施例を示している。高圧電源4より棒状電極15を通じて針電極に高電圧を印加する。駆動部3は、棒状電極15を上下に往復駆動する。試料搬送電極17には針電極1が複数装備され、最下部に位置する時は容器6内の試料溶液5に全ての針電極が浸かるように配置される。また、最上部に位置する時は、一番下側にある針電極が導入口21の正面付近に到達するように配置するとよい。
【0056】
図11Bは、図11Aに示した資料搬送電極において、針電極1の先端を下向きにした例を示す。針電極1に下向きの傾斜を付けることで、試料溶液が針先に向けてスムーズに移動できるようになり、針先への液体試料の供給が続くため長時間イオン化することが期待される。
【0057】
図11Cは、図11Bの例に対し、さらにもう一段傾斜させ、各針電極を上向きの山形に屈曲させた例である。針電極1の棒状電極15への接続部と針電極の先端との間に山の頂点ができるように2段階に傾斜させることで、頂点よりも右側の針電極1に付着した試料溶液5は右側に、左側に付着した試料溶液5と棒状電極15に付着した試料溶液5は左側に流れていく。この結果、試料溶液5は棒状電極15から針電極1に供給されなくなるが、複数あるどの針電極1にもほぼ同じ量の試料を針先に供給できるため、安定かつ一定量イオン化されるため、定量測定に向いている。
【0058】
図11Dは、針電極1の表面に微細な溝18が掘られている例である。図11Dの左の図は1本の針電極の平面模式図、右の図はその断面模式図である。溝18は、深さ、幅ともに数μm〜数10μm程度で、針先に向けて1本又は複数本の溝が切ってある。このような構造によると試料溶液5は溝18に溜められるため、針電極に多量の試料を付着・保持させることが可能になる。また、溝18を通して針先端に試料をスムーズに供給することが可能になる。実施例1、2、3で説明した針電極に、本例のような溝を設けてもよい。
【0059】
図11Eは針電極の先端部分の拡大図であり、針電極1に突起19が設けられた例を示している。図のように小さな突起19が複数あると、多くの試料がその突起部分に付着し、多量の試料溶液の供給が可能となる。実施例1、2、3で説明した針電極に、本例のような突起を設けてもよい。
【0060】
図11Fは、スプーンのように液体が保持できるような形状を有し、その先端が尖っていてイオン化が起こるような針電極1の例を示している。受け皿から少しずつ液体が先端に流れることで、試料のサンプリング頻度を少なくできるため、効率的な測定が可能になる。実施例1、2、3で説明した針電極が、本例のような形状を有していてもよい。
【0061】
図11Gは、試料搬送電極として導電体からなる針電極1を2本用いたイオン源の例を示す概略図である。2本の針電極1a,1bは、駆動部3によって180度異なる位相で上下動させられる。つまり、片方の針電極1aが最下部に位置する時、他方の針電極1bは最上部に位置するように交互に動作させる。針電極を2本垂直に立てて上下に動作させてもよいが、図11Gのように針電極を斜めに配置することで、2つの針電極1a,1bの両方とも導入口21の中心に針先をもってくることができ、試料溶液のイオン化を効率よく行うことができる。2つの針電極1a,1bは、同じ試料溶液5をサンプリングできるようになっている。2つの針電極は1つの駆動部3によって駆動することが可能であるが、2つの針電極それぞれに独立の駆動部3を設けてもよい。2つの針電極1a,1bには、針電極同士の間に放電が生じないように、同じ高圧電源4から高電圧を供給する。
【0062】
[実施例5]
図12Aから図12Dに、本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図である。本実施例は、試料が固体試料又は固体状試料である場合の実施例である。
【0063】
図12Aは、図10Aに示した実施例において、試料が固体試料に変わっている実施例を示す。試料が固体であるため、固体試料51は図のような横向きの試料台52に吸着・保持することができる。そのため装置構成の自由度は高くなる。また、試料台52を最上部に配置し、試料を下向きに保持してもよい。これまで説明してきた試料が液体試料である実施例3の場合と同様に、針電極1の付いた円盤電極2に高圧電源4により高電圧を印加し、駆動部3によって試料搬送電極8を回転駆動する。
【0064】
図12Bは、図12Aの実施例に更に洗浄機能を追加した例を示している。洗浄用液体10は針電極1の付いた試料搬送電極8の下方に設置され、針電極1は最下部付近を通過するときに洗浄用溶液に浸されて洗浄される。この方法では、試料の付着、イオン化測定後、すぐに針電極1が洗浄用液体10を通過することで洗浄される。これにより、試料が付着してから時間がたつと針電極1上で汚れが固まって洗浄できなくなる問題が回避されるため、針電極1の寿命を延ばすことができ、針電極1の交換頻度を減らすことが可能となる。
【0065】
図12Cは、試料台52と導入口21の位置が異なる場合の例を示している。本例のように、試料は、針電極1の先端に触れられるようになっていればどの位置に設けてもよい。また、導入口21の位置も針電極1の先端付近にあればどの位置でもよい。さらに対向電極22に開けられた導入口21と針電極1とが正対する必要はなく、図のように導入口21に対して針電極1が斜めになっていても放電が起こればイオン化はされる。
【0066】
図12Dは、実施例1において試料が固体になった場合の例である。この例でも、試料搬送電極8の下方に洗浄用液体10を配置することで、固体試料51のイオン化と針電極1の洗浄を交互に繰り返すことが可能となる。
【0067】
[実施例6]
図13Aから図13Eは、本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図である。本実施例は、試料の供給を液体噴霧または液体の配管供給により行う場合の実施例である。
【0068】
図13Aは、実施例1に示した構成例において、試料溶液の供給法が噴霧に変わり、また洗浄機能が追加されたイオン源の例を示している。噴霧に使用する試料供給配管は2重の円筒構造になっており、液体試料5は中心の試料配管41内を通り、ネブライザーガス42は周りのガス配管43を流れるようになっている。試料配管41は内径数10μm〜数100μmの管であり、ネブライザーガス42によって試料溶液5が噴霧され、液体試料を針電極1に付着させる。ネブライザーガス42には窒素や空気などが用いられる。図では噴霧は上方から行っているが、横方向から行ってもよい。針電極1の洗浄は、実施例2と同様で、試料搬送電極7の下方に洗浄用液体10が入った容器を配置し、針電極1が洗浄用溶液中を通過するごとに洗浄する。試料搬送電極7が1周するごとに、噴霧による針電極1への試料の付着、試料のイオン化、針電極1の洗浄を繰り返す。噴霧に使用する試料配管41は試料ごとに使い捨てにするか、又は洗浄することが望ましい。試料配管41の洗浄方法は、洗浄用液体を試料配管41に通しておよそ数秒から数分洗浄する。そのため、試料配管41を複数本準備し、測定中に他の試料配管は洗浄するとよい。これまでの液体試料の場合の実施例と同様に、針電極1の付いた円盤電極2に高圧電源4から高電圧を印加し、駆動部3で回転駆動する。
【0069】
図13Bは、図13Aにおいてネブライザーガスを使用しない場合の実施例を示す図である。試料溶液5は試料配管41の先端で表面張力により球状になり、その球の部分に接触するように針電極1が通過することで、試料が針電極1に付着する。試料供給用の配管は上方向からでも、横方向からでも、試料を針電極に付着させることが可能である。本例も、前例同様に試料搬送電極7が1周する毎に、洗浄用液体10によって針電極1が洗浄される。
【0070】
図13Cは、試料溶液5の入った容器の下部に開いた穴から、試料溶液5が針電極1に直接供給される例を示す図である。別の例として、容器を傾けて試料溶液5を供給することも可能である。その際に、容器の穴から漏れ出る試料溶液5を糸状の細い部材に伝わらせて、針電極1に試料溶液5を供給してもよい。
【0071】
図13Dは、図10Aに示したように、針電極1の付いた円盤電極2によって試料搬送電極8が構成される場合の実施例を示す図である。試料の供給が噴霧を用いた方法であること以外は、実施例3と同様である。試料の供給方法は、図13Bや図13Cのタイプのものでも実施可能である。噴霧の方向は、回転軸方向の噴霧でも、斜めからの噴霧でもよい。
【0072】
図13Eは、対向電極22の導入口21が試料搬送電極7の下方にあり、針電極1が下を向いている場合の例を示す図である。動作方法は図13Aと同様である。
【0073】
[実施例7]
図14Aから図14Cは、本発明のイオン源の別の実施例を示す概略図である。本実施例は、質量分析部において試料の導入口が複数ある形態における実施例である。導入口にイオン源の針電極の位置を一致させることで、イオンの透過効率を向上させることができる。そのため本実施例では、全ての導入口の前を全ての針電極が順次通過できるように針電極が移動する軌道を設定する。ここでは、5個の試料導入口を有する質量分析部を例にとって説明するが、導入口の数が5個以外の場合にも本実施例は適用可能である。
【0074】
図14Aは本実施例のイオン源の正面模式図、図14Bはイオン源と質量分析部の関係を示す模式図である。本実施例の試料搬送電極は、導電体からなるひも状の電極53と電極53に装着された複数の針電極1によって構成される。図14Aに示すように、複数の針電極1は、導電体からなるひも状の電極53に、先端が質量分析部の導入口21の方向を向くように装着され、その導電体からなるひも状の電極53が決められた軌道に沿って移動する。軌道の最下部で針電極1は容器内の試料溶液に浸漬され、そこで針電極1に試料溶液5が付着し、軌道最上部付近で5個の導入口の前を順に通過し、各導入口21の前に到達した時に試料溶液のイオン化が行われる。導電体からなるひも状の電極53は、例えば金属製のチェーンのようなものでよい。その他の動作は実施例1と同様である。
【0075】
図14Cは、試料搬送電極の下方に洗浄用液体10の入った容器を置き、実施例6で説明した試料を噴霧させる供給方法を用いた例を示している。実施例6で説明したように試料噴霧、イオン化、洗浄を繰り返す例である。その他の動作は実施例1及び図14Aと同様である。
【0076】
以上説明したように、本発明の実施例によると、キャピラリー配管内が目詰まりしたり、汚染されるといった問題がなくなる。また、イオン源の効率が向上し、高スループット分析が可能となる。さらに、イオン流が時間的に均一に流れてくるため、定量精度の高い分析が可能となる。また、安定なイオン源かつ小型で安価なイオン源を提供できる。
【0077】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 針電極
2 円盤電極
3 駆動部
4 高圧電源
5 試料溶液
6 容器
7 試料搬送電極
8 試料搬送電極
9 先端の尖った平板電極
10 洗浄用液体
11 回転ステージ
12 上下ステージ
15 棒状電極
16 先端の尖った円盤電極
17 試料搬送電極
18 溝
19 突起
20 質量分析部
21 導入口
22 対向電極
23 イオンガイド
24 四重極質量フィルター
25 検出部
31 コンピューター
41 試料配管
42 ネブライザーガス
43 ガス配管
51 固体試料又は固体状試料
52 試料台
53 導電体からなるひも状電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源と、イオン化された試料を導入する導入口が設けられた対向電極を備える質量分析部と、前記イオン源を制御する制御部とを有する質量分析装置において、
前記イオン源は、
試料を保持する試料保持部と、
複数の針電極を有する試料搬送電極と、
前記試料搬送電極と前記対向電極との間に電圧を印加する電源と、
前記複数の針電極が前記試料保持部と前記導入口を順に通過するように前記試料搬送電極を駆動する駆動部と、
を有することを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記試料搬送電極は、回転軸の回りに回転する円盤電極を備え、前記円盤電極の周縁部に当該円盤電極の面に対して先端が垂直な方向を向くように前記複数の針電極が設けられた構造を有し、前記回転軸の軸方向が前記針電極の先端から前記導入口に導入されるイオン流に略平行な方向を向いていることを特徴とする質量分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記試料搬送電極は、回転軸の回りに回転する円盤電極を備え、前記円盤電極の面内方向に前記複数の針電極が放射状に設けられた構造を有し、前記回転軸の軸方向が前記針電極の先端から前記導入口に導入されるイオン流の方向に略垂直な方向を向いていることを特徴とする質量分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記試料搬送電極は、回転軸の回りに回転する平板電極を備え、前記平板電極は外周部分に先端の尖った複数の凸部を有し、前記凸部が前記針電極を構成し、前記回転軸の軸方向が前記針電極の先端から前記導入口に導入されるイオン流の方向に略垂直な方向を向いていることを特徴とする質量分析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記試料搬送電極は、回転軸の回りに回転する円盤電極を備え、前記円盤電極は外周部分が周方向に沿って刃状に薄くなった形状を有し、前記回転軸の軸方向が前記針電極の先端から前記導入口に導入されるイオン流の方向に略垂直な方向を向いていることを特徴とする質量分析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記試料搬送電極は、棒状の電極を備え、前記棒状の電極に前記複数の針電極が設けられた構造を有し、前記駆動部は前記試料搬送電極を往復運動させることを特徴とする質量分析装置。
【請求項7】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記駆動部は、前記複数の針電極の各々が前記導入口の前で所定時間停止するように前記試料搬送電極を間欠的に駆動することを特徴とする質量分析装置。
【請求項8】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記針電極を洗浄する洗浄部を有し、前記針電極は前記導入口を通過後、前記洗浄部を通って洗浄された後、前記試料保持部に移動することを特徴とする質量分析装置。
【請求項9】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記制御部は、前記質量分析部によって検出されたイオン強度をモニターし、モニター結果に基づいて前記駆動部を制御することを特徴とする質量分析装置。
【請求項10】
請求項9に記載の質量分析装置において、
前記制御部は、前記モニター結果に応じて、前記駆動部によって前記試料搬送電極を回転駆動する際の回転速度を制御することを特徴とする質量分析装置。
【請求項11】
質量分析装置用のイオン源において、
試料を保持する試料保持部と、
複数の針電極を有する試料搬送電極と、
前記試料搬送電極と質量分析部の対向電極との間に電圧を印加する電源と、
前記試料搬送電極を駆動する駆動部とを有し、
前記駆動部は、前記複数の針電極が前記試料保持部と前記対向電極に設けられた導入口を順に通過するように前記試料搬送電極を駆動することを特徴とするイオン源。
【請求項12】
請求項11に記載のイオン源において、
前記試料搬送電極は、回転軸の回りに回転する円盤電極を備え、前記円盤電極の周縁部に当該円盤電極の面に対して先端が垂直な方向を向くように前記複数の針電極が設けられた構造を有し、前記回転軸の軸方向が前記針電極の先端から前記導入口に導入されるイオン流に略平行な方向を向いていることを特徴とするイオン源。
【請求項13】
請求項11に記載のイオン源において、
前記試料搬送電極は、回転軸の回りに回転する円盤電極を備え、前記円盤電極に前記複数の針電極が放射状に設けられた構造を有し、前記回転軸の軸方向が前記針電極の先端から前記導入口に導入されるイオン流の方向に略垂直な方向を向いていることを特徴とするイオン源。
【請求項14】
請求項11に記載のイオン源において、
前記試料搬送電極は、回転軸の回りに回転する平板電極を備え、前記平板電極は外周部分に先端の尖った複数の凸部を有し、前記凸部が前記針電極を構成し、前記回転軸の軸方向が前記針電極の先端から前記導入口に導入されるイオン流の方向に略垂直な方向を向いていることを特徴とするイオン源。
【請求項15】
請求項11に記載のイオン源において、
前記試料搬送電極は、回転軸の回りに回転する円盤電極を備え、前記円盤電極は外周部分が周方向に沿って刃状に薄くなった形状を有し、前記回転軸の軸方向が前記針電極の先端から前記導入口に導入されるイオン流の方向に略垂直な方向を向いていることを特徴とするイオン源。
【請求項16】
請求項11に記載のイオン源において、
前記試料搬送電極は、棒状の電極を備え、前記棒状の電極に前記複数の針電極が設けられた構造を有し、前記駆動部は前記試料搬送電極を往復運動させることを特徴とするイオン源。
【請求項17】
請求項11に記載のイオン源において、
前記駆動部は、前記複数の針電極の各々が前記導入口の前で所定時間停止するように前記試料搬送電極を間欠的に駆動することを特徴とするイオン源。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図10E】
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【図10F】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図11E】
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【図11F】
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【図11G】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図13E】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【公開番号】特開2012−199027(P2012−199027A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61487(P2011−61487)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】