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質量分析装置及び質量分析方法
説明

質量分析装置及び質量分析方法

【課題】夾雑物による誤検出を防ぐ為に選択性及び検出感度を向上させた質量分析装置を提供する。
【解決手段】複数の探知対象物質のイオン成分に対応するドリフト電圧を変化させて印加し、探知対象物質であるイオン成分の固有のm/zの検出の有無を判定する。さらに、探知対象であるイオン成分の固有のm/zが検出された場合、その探知対象物質であるイオン成分を解離させるドリフト電圧に変化させて固有のm/zのフラグメントイオンの検出の有無を判定する。このフラグメントイオンのm/zのイオンピークがあった場合、探知対象物質が存在すると判断して警報を鳴らす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境物質探知や有害化学物質探知及び麻薬や爆発物の探知技術に係わり、特に質量分析計を用いた探知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の探知技術として、特開平7−134970号公報(従来技術1)には、測定した質量スペクトルから特定の薬物を示す複数のm/z(イオンの質量数/イオンの価数)値を判定し、被検気体に特定の薬物が含まれているか否かを判定する方法が記載されている。WO2002−025265(従来技術2)には、タンデム質量分析法を使用して探知対象物質と夾雑物質が同じm/zを持った場合、そのm/zのプリカーサーイオンを解離させてフラグメントイオンのm/z値で探知対象物質の有無を判定する方法が記載されている。
【0003】
特開2004−361297号公報(従来技術3)には、探知対象物質において第1のイオン成分と第2のイオン成分の複数のイオン成分が検出される場合、第1のイオン成分のみを繰り返し測定し、第1のイオン成分が検出された場合に、その第1のイオン成分に対応した第2のイオン成分の検出を行い、第2のイオン成分が閾値を超えていた場合に、探知対象物質が存在すると判断して警報を鳴らすことが記載されている。さらに、第1のイオン成分あるいは第2のイオン成分において、探知開始初期で測定される高揮発成分と探知後半で測定される低揮発成分に分け、測定する探知対象成分に優先順位をつけて効率的に短時間の探知を可能にする方法が記載されている。
【0004】
特許第2545528号公報(従来技術4)、特許第3435695号公報(従来技術5)、特開平5−256838号公報(従来技術6)には、大気圧イオン化質量分析計において中間圧力部に印加するドリフト電圧によって試料分子を衝突解離させる方法が記載されている。特開平4−342946号公報(従来技術7)には、低い質量数から高い質量数にしたがってドリフト電圧を連続的に変化させて全質量数で高感度なスペクトルを取得する方法が記載されている。特開2006−86002号公報(従来技術8)には、ガスクロマトグラフのカラムをイオン源内部に導入し、イオン化する方法が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−134970号公報
【特許文献2】WO2002−025265
【特許文献3】特開2004−361297号公報
【特許文献4】特許第2545528号公報
【特許文献5】特許第3435695号公報
【特許文献6】特開平5−256838号公報
【特許文献7】特開平4−342946号公報
【特許文献8】特開2006−86002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術1の方法では探知対象物質と夾雑物が同じm/zのイオンピークを持つ可能性があり、物質を見分ける能力(以下、選択性と呼ぶ)が低くなり、誤警報になる場合があった。従来技術2の方法は、従来技術1の課題を解決するためにタンデム質量分析をおこなう。仮に探知対象物質と夾雑物が同じm/zのイオンピークを持ったとしても、そのイオンピークを解離させたフラグメントピークで探知対象物質の存在を判断させるため選択性が極めて高い。しかし、この方法では一度イオンをトラップさせて、探知対象物質のイオンだけを選択し、解離させるため、測定には約0.1秒程度必要であり、時間がかかる。特に、爆発物探知では短時間で探知対象物質の特定を行う必要がある。また、解離させる為には衝突ガスが必要である為、装置が大きくなる問題もある。
【0007】
従来技術3の方法では、第1のイオン成分のみを繰り返し測定することで、探知時間を早くする工夫がされた。図2は、従来技術3の動作シーケンスの一例を説明する図である。横軸は時間、縦軸はドリフト電圧である。従来技術3ではドリフト電圧の制御は行われていない。図は、探知対象物質A、B、C、Dの4種類を検出する例である。探知対象物質Aは揮発性の高い物質である為、必ず最初にスタートするようにしている。さらに、探知対象物質B、C、Dにしたがって低揮発性の物質になる。1サイクルの測定では探知対象物質A、B、C、Dの第1のイオン成分のm/zのイオンピークを監視している。この1サイクルを繰り返して、探知対象物質Bに対応する第1のイオン成分のm/zのイオンピークがデータベースのイオン強度において設定された閾値を超えた場合、探知対象物質Bの第2のイオン成分のm/zのイオンピークを検出する。そして、このイオンピークのイオン強度が予め設定された閾値を超えた場合に、探知対象物質Bが検出されたと判定して警報を鳴らす。
【0008】
従来技術3では、第1のイオン成分において高揮発成分と低揮発成分の間に優先順位をつけることで効率的に短時間での探知を可能にしている。また、仮に第1のイオン成分と夾雑成分が同じm/zのイオンピークを持っても、優先順位と第2のイオン成分との総合判断で検出を行っている。しかしながら、多くの場合、第2のイオン成分のピーク強度は第1のイオン成分のピーク強度より小さい。そのため、夾雑成分のピークに埋もれる可能性があり、誤警報となる場合がある。
【0009】
従来技術4、5、6では、ドリフト電圧を変化させた二点の質量スペクトルを取得し、比較することで分子構造を同定している。しかしながら、この方法は物質の同定や探知を行なうには効率的でなく時間がかかる問題がある。従来技術7は、質量数の増加と共にドリフト電圧を低くすることで、低質量数と高質量数の全域での高感度化を図っているが、全質量数域でのドリフト電圧の変化をさせるため、効率的ではなく時間がかかる。従来技術8は、ガスクロマトグラフで分離された試料ガス成分の同定に時間がかかる問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、データベースに登録された情報に基づいて探知対象物質のm/zのイオンピークに最適なドリフト電圧に制御して、探知対象物質に固有のm/zのイオンピークを監視する。探知対象物質に固有のm/zのイオンピークが検出された場合に、ドリフト電圧を探知対象物質のm/zのイオンピークが解離する電圧に変化させて、フラグメントピークを監視する。このとき検出された探知対象物質を解離するドリフト電圧は、予めデータベースに登録されている。さらに、データベースに登録された探知対象物質固有のフラグメントピークが検出された場合に、探知対象物質が存在すると判断して警報を鳴らす。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、試料ガスを高速かつ高感度に同定することが可能である。特に、爆発物探知などのような短時間で探知を行わなければならない装置に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
[実施例1]
図1は、本発明による質量分析装置の一例を示す概略図である。本実施例の装置は、大気中にあるイオン源部、中間圧力の差動排気部、及び真空中の質量分析部によって構成されている。爆発物探知の場合、被検体を採取用紙で拭取ることで、被検体表面に存在する探知対象物質を採取する。試料導入器1に採取用紙を入れ、ランプ加熱やヒータ加熱で採取試料を気化させる。気化された探知対象物質を含む試料蒸気(又は試料微粒子)は、吸引ポンプ2で吸引することでイオン源3内部に導入される。吸引ポンプ2は毎分0.5リットルの流量で吸引している。イオン源3は、内部に試料蒸気が付着しないようにヒータで150℃に加熱している。イオン源3には針状電極4が配置され、対向電極5との間に高電圧が印加され、針状電極4の先端付近にコロナ放電が発生する。このコロナ放電により、空気中の窒素、酸素、水蒸気などがイオン化され、一次イオンとなる。生成された一次イオンは、電界により第一細孔6側に移動する。本実施例の装置の第一細孔6の内径は約0.1mmである。このとき、試料導入器1から吸引された試料蒸気と一次イオンが反応することで、試料蒸気がイオン化され試料分子イオンとなる。針状電極4に負の高電圧を印加して負イオンを生成する負イオン化モードの場合、一次イオンは酸素分子イオンである場合が多い。試料分子(M)における代表的な負イオン化反応を以下に示す。
M+(O2-→(M)-+O2
【0013】
生成された試料分子イオンは、対向電極5と第一細孔6間に約1kV程度の電位差があるため、第一細孔6を介して差動排気部に入る。差動排気部では断熱膨張が起こり、イオンに溶媒分子が付着するクラスタリングが発生する。このクラスタリングを軽減させる為に、第一細孔6をヒータなどで加熱することが望ましい。本実施例では、第一細孔6をヒータで180℃に加熱している。差動排気部は差動排気ポンプ7で排気されている。
【0014】
生成された試料分子イオンは、第一細孔6、差動排気部、第二細孔8を経由して質量分析部に導入される。第一細孔6と第二細孔8との間には、ドリフト電圧電源9でドリフト電圧を印加する。このドリフト電圧は、差動排気部に取り込まれたイオンを第二細孔8の方向にドリフトさせることで、第二細孔8のイオン透過率を向上させる効果と、差動排気部に残留するガス分子との衝突で、イオンに付着した水などの溶媒分子を脱離させる効果がある。また、このドリフト電圧をさらに高めると、より残留ガス分子との衝突エネルギーが高まり、試料分子イオンが解離する現象が発生する。
【0015】
第二細孔8を通った試料分子イオンは、静電レンズ10に電圧を印加することで効率よく四重極分析管11に収束させる。質量分析部は真空ポンプ17で排気されている。四重極分析管11にかける周波数成分及び電圧を質量分析制御装置12で制御することで、目的の質量数を持つイオンだけを選択し、通過させて検出器13で検出する。演算処理装置14は、記憶装置15に記録されたデータベース16の情報に基づいて、ドリフト電源電圧9でドリフト電圧を変更し、質量分析制御装置12で目的の質量数を持つイオンだけを選択し、通過させて検出器13で検出する。
【0016】
図3は、探知対象物質に関する情報を記憶するデータベース16の一例を示す図である。データベース16には、探知対象物質に関する基準質量スペクトルデータに基づき、探知すべき信号の質量数や閾値が格納されている。探知対象物質名100には、本発明で探知する物質が複数記憶されている。それぞれの物質に対して、ドリフト電圧A101とその時のイオン質量数102及び閾値C103が記憶されている。さらに、探知対象物質を解離させるのに必要なドリフト電圧B104とフラグメントイオン質量数105、閾値D106が記憶されている。閾値C103と閾値D106は検出の有無を判定させる数値であり、イオンの個数(カウント数)やイオン電流など、イオンの量が判定できれば良い。
【0017】
本実施例では質量分析に四重極質量分析計を使用しているが、イオンが特定できる方法であればイオントラップ質量分析計やイオン移動度分析計、飛行時間型質量分析計、磁場型質量分析計など他の方法も適用できる。また、イオン源は試料のイオンを生成できるものであれば放射線源や電子、光、レーザー、コロナ放電、ペニング放電など他の方法も適用できる。
【0018】
本実施例の装置で、ドリフト電圧に対する各種爆薬の特性を調べた例について説明する。本実施例の装置の通常のドリフト電圧は、イオン透過率が最も高くなる60Vである。代表的な爆薬成分としてTNTがある。TNTを質量分析した場合、m/z=227にTNT分子イオン(M)-が、m/z=210にTNT分子イオンからOH基が脱離した分子イオン(M−OH)-が、m/z=197にTNT分子イオンからNO基が脱離した分子イオン(M−ON)-が検出される。(M−OH)-と(M−ON)-はフラグメントイオンである。
【0019】
図4に、TNTのドリフト電圧によるS/N(シグナル/バックグランドノイズ)変化の一例を示す。TNTの濃度は10ng(ナノグラム)である。このグラフから、m/z=227のTNT分子イオン(M)-は、ドリフト電圧60VでS/Nが最大である。一方、ドリフト電圧を60V以上に上げると、フラグメントイオンであるm/z=210やm/z=197のS/Nが高くなる。これは、ドリフト電圧によってm/z=227のTNT分子イオン(M)-が解離したものである。
【0020】
図5に、m/z=210のバックグランドピークのドリフト電圧依存性の一例を示す。図中の黒丸は、試料を入れないm/z=210のバックグランドピークである。このバックグランドピークはドリフト電圧60V以上で減少する。これはノイズ成分である大気中のバックグランド成分がドリフト電圧を高めることによって解離させられる為である。
【0021】
爆薬成分においてPETN、RDX、NGなどのNO付加体を作る物質では、ドリフト電圧による解離が有効である。図6に、NGのドリフト電圧によるS/N変化の一例を示す。NGの濃度は20ng(ナノグラム)である。NGを質量分析した場合、m/z=228にNG分子イオン(M)-が、m/z=289にNG分子イオンにNO2基が付加した分子イオン(M+NO2-が、m/z=62にNG分子イオンが分解したフラグメント分子イオン(NO3-が検出される。m/z=289のNO2付加分子イオン(M+NO2-は、通常使用されるドリフト電圧60Vより低い40Vでイオン強度が高い。これは、NO2付加体が極めて弱い結合エネルギーでNG分子イオンに付加されている為、ドリフト電圧を高めることで、この結合が切断される。したがって、NGを検出する場合は、ドリフト60Vより低くして検出した方がより検出感度が高められる。
【0022】
一方、ドリフト電圧を高くするとフラグメント分子イオンである(NO3-のイオン強度が増加する。図7に、m/z=62バックグランドピークのドリフト電圧依存性の一例を示す。図中の黒丸は、試料を入れないm/z=62のバックグランドピークである。このバックグランドピークはドリフト電圧60V以上で減少する。通常、m/z=62には多くの夾雑物イオンが存在するが、ドリフト電圧を高くすることで夾雑物イオンが解離され、さらにNG分子イオンも解離される為、フラグメント分子イオン(NO3-として検出が容易になる。
【0023】
本発明の一実施例として、ドリフト電圧を変化させてフラグメントピークを検出する方法を説明する。図8は、ドリフト電圧を変化させてフラグメントピークを検出する動作のフローチャートである。探知を開始すると、データベース16に格納された情報に基づいて探知対象物質のイオン成分に適したドリフト電圧に変更し(S11)、質量分析する(S12)。この質量分析結果から、探知対象物質から生成される固有のm/zのイオンピークの存在の有無を判断する(S13)。探知対象物質固有のm/zのイオンピークが検出されない場合は、ステップ11に戻り、次の探知対象物質のイオン成分に適したドリフト電圧に変更して測定を繰り返す。ステップ13の判定で探知対象物質固有のm/zのイオンピークが検出された場合、その探知対象物質においてフラグメントイオン成分が生成されるドリフト電圧に変更し(S14)、質量分析する(S15)。この質量分析結果から、探知対象物質から生成される固有のm/zのフラグメントイオンピークの存在の有無を判断し(S16)、検出された場合に警報を鳴らす(S17)。探知対象物質から生成される固有のm/zのフラグメントイオンピークが検出されない場合は最初に戻り、次の探知対象物質のイオン成分に適したドリフト電圧に変更して測定を繰り返す。
【0024】
さらに具体的に、ドリフト電圧の変化が判る動作シーケンスを説明する。図9は、ドリフト電圧の動作シーケンスの一例を示す図である。横軸は時間、縦軸はドリフト電圧である。図は、探知対象物質A、B、C、Dの4種類を検出する例である。探知を開始すると、データベース16から読み出した情報に基づいて探知対象物質A(例えばNG)に適したドリフト電圧(NGの場合、例えば40V)に変更し、質量分析をする。探知対象物質Aは高揮発性の物質で、最初に測定することが望ましい。質量分析結果から探知対象物質Aから生成される固有のm/zのイオンピーク(NGの場合、例えばm/z=289の(M+NO2-イオン)が検出されるかどうか判定する。次に、データベース16から読み出した情報に基づいて探知対象物質B(例えばTNT)に適したドリフト電圧(TNTの場合、例えば60V)に変更し、質量分析をする。そして探知対象物質Bから生成される固有のm/zのイオンピーク(TNTの場合、例えばm/z=227の(M)-イオン)が検出されるかどうか判定する。さらに、データベース16から読み出した情報に基づいて探知対象物質C、Dに適したドリフト電圧に順に変更し、質量分析をする。そして、探知対象物質C、Dから生成される固有のm/zのイオンピークが検出されるかどうか判定する。このように、記憶装置15に記録されたデータベース16に格納された情報に基づいてドリフト電圧を変化させながら、探知対象物質A、B、C、Dを繰り返し測定する。
【0025】
このとき例えば、探知対象物質Bに適したドリフト電圧に設定して質量分析したとき、探知対象物質Bから生成される固有のm/zのイオンピーク(TNTの場合、例えばm/z=227の(M)-イオン)が検出されたとする。すると次に、データベース16の情報に基づいて、探知対象物質Bのフラグメントイオン(TNTの場合、例えばm/z=210の(M−OH)-)が生成されるのに適したドリフト電圧(TNTの場合、例えば100V)に変化させて、質量分析する。その質量分析結果から探知対象物質Bから生成される固有のm/zのフラグメントイオンピークが検出された場合、探知対象物質Bが存在すると判断し、警報を鳴らす。さらに、他の探知対象物質が存在しないか、測定を続ける。探知対象物質Aに固有のm/zのイオンピーク(NGの場合、例えばm/z=289の(M+NO2-イオン)が検出された場合は、ドリフト電圧を探知対象物質Aのフラグメントイオンが生成されるのに適した電圧(NGの場合、例えば80V)に変化させて質量分析する。その質量分析結果から探知対象物質Aから生成される固有のm/zのフラグメントイオンピーク(NGの場合、例えばm/z=62の(NO3-)が検出された場合、探知対象物質Aが存在すると判断し、警報を鳴らす。
【0026】
本実施例では被検体を採取用紙で拭取り、試料導入器1で加熱蒸発させて探知対象物質を気化させている。本実施例の他の方法として、試料導入器1を使用せずに探知対象物質の蒸気や微粒子を、ガス吸引で採取しても良い。この場合、探知対象物質がいつ吸引されるかわからないため、探知対象物質A、B、C、Dを常時繰り返し測定することが有効である。
【0027】
[実施例2]
図10は、本発明の一実施例として、探知対象物質の揮発性を考慮した動作シーケンスの例を示す図である。試料導入器1に採取した試料を入れ、加熱蒸発させた場合、探知対象物質の揮発性によってイオン源3に到達する時間が変化する。例えば、NGに代表される高揮発性の探知対象物質は速くイオン源に到達し、次に中揮発性の探知対象物質であるTNTなどが到達する。最後に、PETNやRDX、HMXに代表される低揮発性の探知対象物質がイオン源3に到達する。
【0028】
探知開始時は、記憶装置15に記録されたデータベース16に基づいて、ドリフト電圧を高揮発性の探知対象物質A(例えばNG)に最適な電圧(NGの場合、例えば40V)に変化させて、探知対象物質Aから生成される固有のm/zのイオンピーク(NGの場合、例えばm/z=289の(M+NO2-イオン)の検出の有無を判断する。探知の前半では高揮発性の探知対象物質しかイオン源に到達しないので、探知対象物質Aのみを数回測定する。図10に示した実施例では、高揮発性の探知対象物質は1種類しか探知を行っていないが、複数ある場合はその複数の高揮発性の探知対象物質で繰り消し測定する。もし、探知対象物質Aにおいて固有のm/zのイオンピークが検出された場合は、ドリフト電圧をデータベース16の情報に基づいた最適なドリフト電圧(NGの場合、例えば80V)に変化させて、探知対象物質Aから生成される固有のm/zのフラグメントイオンピーク(NGの場合、例えばm/z=62の(NO3-)が検出されるか判断する。
【0029】
探知対象物質Aの次に、中揮発性物質である探知対象物質B(例えばTNT)及びCに最適なドリフト電圧(TNTの場合、例えば60V)に順に変化させて、探知対象物質B及びCから生成される固有のm/zのイオンピーク(TNTの場合、例えばm/z=227の(M)-イオン)が検出されるか判断する。例えば、探知対象物質Bから生成される固有のm/zのイオンピーク(TNTの場合、例えばm/z=227の(M)-イオン)が検出された場合には、データベース16の情報に基づいて探知対象物質Bのフラグメントイオン(TNTの場合、例えばm/z=210の(M−OH)-)が生成されるのに適したドリフト電圧(TNTの場合、例えば100V)に変化させて、質量分析する。その質量分析結果から、探知対象物質Bから生成される固有のm/zのフラグメントイオンピークが検出された場合、探知対象物質Bが存在すると判断し、警報を鳴らす。
【0030】
さらに探知を続けて、次に低揮発性の探知対象物質Dに最適なドリフト電圧に変化させて探知対象物質Dに固有のm/zのイオンピークが検出されるか判断する。本実施例では、探知対象物質Cは探知対象物質Bより揮発性が低い。したがって再度、探知対象物質Cに最適なドリフト電圧に変化させて、探知対象物質Cから生成される固有のm/zのイオンピークを測定している。後半は、低揮発性の探知対象物質Dのみの探知を行っている。
【0031】
[実施例3]
図11は、質量分析部にイオントラップ質量分析計を搭載した本発明の他の実施例の装置構成例を示す図である。イオントラップ質量分析計を搭載した装置の場合、解離分析を行なわなければ四重極質量分析計に比べて高速に質量スペクトルを取得することが可能であり、探知速度が高速なメリットがある。
【0032】
試料導入器1に採取用紙を入れ、ランプ加熱やヒータ加熱で採取試料を気化させる。気化された探知対象物質を含む試料蒸気(又は試料微粒子)は、吸引ポンプ2で吸引されてイオン源3内部に導入される。吸引ポンプ2は、毎分0.5リットルの流量で吸引している。イオン源3は、内部に試料蒸気が付着しないようにヒータで150℃に加熱している。イオン源3には針状電極4が配置され、対向電極5との間に高電圧が印加され、針状電極4の先端付近にコロナ放電が発生する。このコロナ放電により、空気中の窒素、酸素、水蒸気などがイオン化され、一次イオンとなる。生成された一次イオンは、電界により第一細孔6側に移動する。本実施例では、第一細孔6の内径は約0.1mmである。このとき、試料導入器1から吸引された試料蒸気と一次イオンが反応することで試料蒸気がイオン化され、試料分子イオンとなる。生成された試料分子イオンは対向電極5と第一細孔6間に約1kV程度の電位差があるため、第一細孔6を介して差動排気部に入る。差動排気部では断熱膨張が起こり、イオンに溶媒分子が付着するクラスタリングが発生する。このクラスタリングを軽減させる為に、第一細孔6をヒータなどで加熱することが望ましい。本実施例では、第一細孔6をヒータで180℃に加熱している。差動排気部は差動排気ポンプ7で排気されている。
【0033】
生成された試料分子イオンは、第一細孔6、差動排気部、第二細孔8を経由して質量分析部に導入される。第一細孔6と第二細孔8との間には、ドリフト電圧電源9でドリフト電圧を印加する。このドリフト電圧は、差動排気部に取り込まれたイオンを第二細孔8の方向にドリフトさせることで、第二細孔8のイオン透過率を向上させる効果と、差動排気部に残留するガス分子との衝突でイオンに付着した水などの溶媒分子を脱離させる効果がある。また、このドリフト電圧をさらに高めると、より残留ガス分子との衝突エネルギーが高まり、試料分子イオンが解離する現象が発生する。
【0034】
第二細孔8を通った試料分子イオンは、静電レンズ10に電圧を印加することで効率よくイオントラップ質量分析計に収束させる。質量分析部は真空ポンプ17で排気されている。イオントラップ分析計は、エンドキャップ電極18,19及びリング電極20、ゲート電極21、石英リング22などで構成されており、ガス供給器24からガス導入管23を介してヘリウムなどの衝突ガスが導入される。ゲート電極21は、イオントラップ部に捕捉したイオンをイオントラップ外部に取出す際に、外部からイオンがイオントラップ内に導入されないような役目をする。イオントラップ内部に導入されたイオンは、ヘリウムなどの衝突ガスとの衝突で軌道が小さくなった後、エンドキャップ電極18,19とリング電極20間に印加された高周波電圧を走査することで質量数毎にイオンがイオントラップ外に排出される。この排出されたイオンを検出器13で検出する。演算処理装置14では記憶装置15に記録されたデータベース16の情報に基づいて、ドリフト電源電圧9でドリフト電圧を変更し、質量分析制御装置12で目的の質量数を持つイオンだけを選択し、通過させて検出器13で検出する。
【0035】
図11に示した装置を用いた探知の一例について説明する。探知を開始すると、記憶装置15に記録されたデータベース16に格納された情報に基づいて、探知対象物質A(例えばNG)に適したドリフト電圧(NGの場合、例えば40V)に設定し、質量分析をする。質量分析結果から探知対象物質Aから生成される固有のm/zのイオンピーク(NGの場合、例えばm/z=289の(M+NO2-イオン)が検出されるかどうか判定する。次に、データベース16の情報に基づいて探知対象物質B(例えばTNT)に適したドリフト電圧(TNTの場合、例えば60V)に変更し、質量分析をする。そして探知対象物質Bから生成される固有のm/zのイオンピーク(TNTの場合、例えばm/z=227の(M)-イオン)が検出されるかどうか判定する。さらに、データベース16の情報に基づいて探知対象物質C、Dに適したドリフト電圧に順に変更し、質量分析をする。そして、探知対象物質C、Dから生成される固有のm/zのイオンピークが検出されるかどうか判定する。このように、データベース16から読み出した情報に基づいてドリフト電圧を変化させながら探知対象物質A、B、C、Dを繰り返し測定する。
【0036】
いま、探知対象物質Bに適したドリフト電圧に設定して質量分析したとき、探知対象物質Bから生成される固有のm/zのイオンピーク(TNTの場合、例えばm/z=227の(M)-イオン)が検出されたとする。このとき、データベース16の情報に基づいて、ドリフト電圧を探知対象物質Bのフラグメントイオン(TNTの場合、例えばm/z=210の(M−OH)-)が生成されるのに適した電圧(TNTの場合、例えば100V)に変化させて、質量分析する。その質量分析結果から探知対象物質Bから生成される固有のm/zのフラグメントイオンピークが検出された場合、探知対象物質Bが存在すると判断し、警報を鳴らす。さらに、他の探知対象物質が存在しないか、測定を続ける。例えば、探知対象物質Aにおいても固有のm/zのイオンピーク(NGの場合、例えばm/z=289の(M+NO2-イオン)が検出された場合は、データベース16の情報に基づいてドリフト電圧(NGの場合、例えば80V)を変化させて質量分析する。その質量分析結果から探知対象物質Aから生成される固有のm/zのフラグメントイオンピーク(NGの場合、例えばm/z=62の(NO3-)が検出された場合、探知対象物質Aも存在すると判断し、警報を鳴らす。
【0037】
本実施例では被検体を採取用紙で拭取り、試料導入器1で加熱蒸発させて探知対象物質を気化させている。本実施例の他の方法として、試料導入器1を使用せずに探知対象物質の蒸気や微粒子を、ガス吸引で採取しても良い。この場合、探知対象物質がいつ吸引されるかわからないため、探知対象物質A、B、C、Dを常時繰り返し測定することが有効である。
【0038】
[実施例4]
本発明による探知方法の一実施例として、ドリフト電圧を変化させて、探知対象物質から生成される固有のm/zのイオンピークとフラグメントイオンピークの両方を検出することで、探知対象物質の有無を判定する方法の例について説明する。本実施例では、探知対象物質から生成される固有のm/zのイオンピークとフラグメントイオンピークの両方を検出することで探知精度を向上させることができる。
【0039】
図12は、探知対象物質が存在しない場合の質量スペクトルの一例を示す図である。横軸はm/z、縦軸はイオン強度である。(A)は探知対象物質から生成される固有のm/zが検出されるイオンピーク(NGの場合、例えばm/z=289の(M+NO2-イオン)、(B)は探知対象物質から生成される固有のm/zのフラグメントイオンピーク(NGの場合、例えばm/z=62の(NO3-)である。データベース16に格納された情報に基づいて、(A)に最適なドリフト電圧A(NGの場合、例えば40V)をドリフト電圧電源で印加する。(A)のイオンピークの検出の有無を、データベース16に格納された閾値の情報に基づいて、イオン強度が閾値を超えるか超えないかで判定する。図12の例の場合、(A)のイオン強度が閾値を超えない為、探知対象物質が無いと判断して、警報は鳴らさない。
【0040】
図13は、夾雑物質と探知対象物質が同じm/zのイオンピークを有する場合の質量スペクトルの例を示す図である。データベース16の情報に基づいてドリフト電圧A(NGの場合、例えば40V)で質量スペクトルを取得したとき、(A)の探知対象物質から生成される固有のm/zのイオン強度(NGの場合、例えばm/z=289の(M+NO2-イオン)が閾値を超えたとする。しかし、夾雑物のイオンピークが同じm/zに存在して、それが加算された結果、閾値を超えた可能性がある。
【0041】
そこで、夾雑成分と探知対象成分の切り分けを行う為、データベース16から読み出した情報に基づいて、ドリフト電圧を電圧B(NGの場合、例えば80V)に変化させて質量スペクトルを取得する。その結果、図13の上段に示すように、(B)の探知対象物質から生成される固有のm/zのフラグメントイオン強度(NGの場合、例えばm/z=62の(NO3-)がデータベース16に格納されている閾値を超えない場合には、探知対象物質が無いと判断して、警報は鳴らさない。一方、図13の下段に示すように、(B)の探知対象物質から生成される固有のm/zのフラグメントイオン強度(NGの場合、例えばm/z=62の(NO3-)がデータベース16に格納されている閾値を超えた場合には、探知対象物質があると判断して警報を鳴らす。
【0042】
[実施例5]
本発明による探知方法の他の実施例として、ドリフト電圧を変化させたとき、探知対象物質から生成される固有のm/zのフラグメントイオン強度が探知対象物質から生成される固有のm/zのイオン強度より高くなるか否かに着目して、探知対象物質の有無を判定する方法の例を説明する。
【0043】
図14は、探知対象物質が存在し、ドリフト電圧を変化させることで2つのイオンピークの強度比が逆転する場合の質量スペクトルの例を示す図である。データベース16の情報に基づいて、ドリフト電圧A(NGの場合、例えば40V)で質量スペクトルを取得したとき、(A)の探知対象物質から生成される固有のm/zのイオン強度(NGの場合、例えばm/z=289の(M+NO2-イオン)が閾値を超えたとする。しかし、夾雑物のイオンピークが同じm/zに存在して、それが加算された結果、閾値を超えた可能性がある。
【0044】
そこで、夾雑成分と探知対象成分の切り分けを行う為、データベース16の情報に基づいてドリフト電圧を電圧B(NGの場合、例えば80V)に変化させて質量スペクトルを取得する。(B)の探知対象物質から生成される固有のm/zのフラグメントイオン強度(NGの場合、例えばm/z=62の(NO3-)がデータベース16に格納されている閾値を超える。このとき(A)の探知対象物質から生成される固有のm/zのイオンピーク(NGの場合、例えばm/z=289の(M+NO2-イオン)は解離させられる為、イオンが強度は減少する。したがって、ドリフト電圧をAからBに変化させた時、(A)の探知対象物質から生成される固有のm/zのイオン強度が減少して、(B)の探知対象物質から生成される固有のm/zのフラグメントイオン強度が高くなった場合に、探知対象物質があると判断して警報を鳴らす。
【0045】
[実施例6]
本発明による探知方法の他の実施例として、ドリフト電圧と質量分析のタイミングを同期させる実施例について説明する。
【0046】
ドリフト電圧を変化させる場合、質量分析との時間的タイミングを合わせる必要がある。図15は、探知タイミングを考慮した本実施例によるドリフト電圧の動作シーケンスの例を示す図である。横軸は時間、上段の縦軸はドリフト電圧、下段は質量分析タイミングである。探知対象物質A、B、C、Dの4種類を検出する例である。
【0047】
探知を開始すると、データベース16の情報に基づいて探知対象物質A(例えばNG)に適したドリフト電圧(NGの場合、例えば40V)に変更し、質量分析をする。この時、質量分析はドリフト電圧の変化に対して、数10msec遅れて測定される。探知対象物質Aは高揮発性の物質で、最初に測定することが望ましい。質量分析結果から探知対象物質Aから生成される固有のm/zのイオンピーク(NGの場合、例えばm/z=289の(M+NO2-イオン)を検出する。次に、データベース16の情報に基づいて探知対象物質B(例えばTNT)に適したドリフト電圧(TNTの場合、例えば60V)に変更し、質量分析をする。そして探知対象物質Bから生成される固有のm/zのイオンピーク(TNTの場合、例えばm/z=227の(M)-イオン)を検出する。さらに、探知対象物質C、Dに適したドリフト電圧に順に変更し、質量分析をする。そして、探知対象物質C、Dから生成される固有のm/zのイオンピークを検出する。これを繰り返し実行する。
【0048】
いま、ドリフト電圧を探知対象物質Bに適した電圧に設定したとき、探知対象物質Bから生成される固有のm/zのイオンピーク(TNTの場合、例えばm/z=227の(M)-イオン)が検出されたとする。この場合、すぐ探知対象物質Bのフラグメントイオン(TNTの場合、例えばm/z=210の(M−OH)-)が生成されるのに適したドリフト電圧(TNTの場合、例えば100V)に変化させて質量分析を行ないたい。しかしながら、探知対象物質Bの質量分析の結果が出る前に、ドリフト電圧は探知対象物質Bに適した電圧から探知対象物質Cに適した電圧に変更されている。したがって、探知対象物質Cの質量分析を行なってから、探知対象物質Bのフラグメントイオンが生成されるのに適したドリフト電圧に変化させて質量分析を行なった方が効率のよい探知が可能である。そして、探知対象物質Bから生成される固有のm/zのフラグメントイオンピークが検出された場合、探知対象物質Bが存在すると判断し、警報を鳴らす。さらに、他の探知対象物質が存在しないか、測定を続ける。
【0049】
図15に示した例では、探知対象物質Bのフラグメントイオンの検出を探知対象物質Cの測定の後に行っているが、探知対象物質Bのフラグメントイオンの検出は、探知対象物質Bから生成される固有のm/zのイオンピークが検出された後のタイミングであれば良い。
【0050】
[実施例7]
図16は、試料導入器とイオン源の間にガスクロマトグラフ(以下、GCとする)を装着した本発明による装置の実施例を示す図である。
【0051】
試料導入器1に探知対象試料を導入する。この時、探知対象試料は採取用紙に直接滴下や拭取りして採取した後に加熱蒸発させた。この方法以外に、インジェクションのように直接導入しても良い。気化された探知対象物質を含む試料蒸気(又は試料微粒子)は、加熱されたGC25を通ってイオン源3内部に導入される。この時、GC25に流すキャリアガスとしては空気やヘリウムガス、窒素などを用いてよい。吸引ポンプ2は毎分0.5リットルの流量で吸引している。イオン源3は、内部に試料蒸気が付着しないようにヒータで150℃に加熱している。イオン源3には針状電極4が配置され、対向電極5との間に高電圧が印加され、針状電極4の先端付近にコロナ放電が発生する。このコロナ放電により、空気中の窒素、酸素、水蒸気などがイオン化され、一次イオンとなる。生成された一次イオンは電界により第一細孔6側に移動する。本実施例では、第一細孔6の内径は約0.1mmである。このとき試料導入器1から吸引された試料蒸気と一次イオンが反応することで、試料蒸気がイオン化され試料分子イオンとなる。
【0052】
生成された試料分子イオンは、対向電極5と第一細孔6間に約1kV程度の電位差があるため、第一細孔6を介して差動排気部に入る。差動排気部では断熱膨張が起こり、イオンに溶媒分子が付着するクラスタリングが発生する。このクラスタリングを軽減させる為に、第一細孔6をヒータなどで加熱することが望ましい。本実施例では、第一細孔6をヒータで180℃に加熱している。差動排気部は差動排気ポンプ7で排気されている。
【0053】
生成された試料分子イオンは、第一細孔6、差動排気部、第二細孔8を経由して質量分析部に導入される。第一細孔6と第二細孔8との間には、ドリフト電圧電源9でドリフト電圧を印加する。このドリフト電圧は、差動排気部に取り込まれたイオンを第二細孔8の方向にドリフトさせることで、第二細孔8のイオン透過率を向上させる効果と、差動排気部に残留するガス分子との衝突でイオンに付着した水などの溶媒分子を脱離させる効果がある。また、このドリフト電圧をさらに高めると、より残留ガス分子との衝突エネルギーが高まり、試料分子イオンが解離する現象が発生する。
【0054】
第二細孔8を通った試料分子イオンは、静電レンズ10に電圧を印加することで効率よく四重極分析管11に収束させる。質量分析部は真空ポンプ17で排気されている。四重極分析管11にかける周波数成分及び電圧を質量分析制御装置12で制御することで、目的の質量数を持つイオンだけを選択し、通過させて検出器13で検出する。演算処理装置14は、記憶装置15に記録されたデータベース16の情報に基づいて、ドリフト電源電圧9でドリフト電圧を変更し、質量分析制御装置12で目的の質量数を持つイオンだけを選択し、通過させて検出器13で検出する。
【0055】
GC25を接続することで、試料ガスはGC25で分離されてイオン源に導入される。特に、夾雑成分はGC25内で試料ガスと分離される為、イオン源に到達する時間が変化する。また、イオン源に到達する試料ガスの時間は、GC25の種類、温度、キャリアガスの流量等で予め設定が可能である。したがって、試料導入からイオン源に到達する時間は一定である。
【0056】
試料導入器に導入された試料ガス中に含まれる探知対象物質(例えばNGの場合)がカラムを通ってイオン源内に到達する時間に合わせて、データベース16の情報に基づいてドリフト電圧を探知対象物質に最適な電圧(NGの場合、例えば40V)に変化させる。試料ガス中に探知対象物質から生成される固有のm/zのイオンピーク(NGの場合、例えばm/z=289の(M+NO2-イオン)が存在した場合、データベース16の情報に基づいてドリフト電圧をフラグメントイオン(NGの場合、例えばm/z=62の(NO3-)が生成される電圧(NGの場合、例えば80V)に変化させる。その質量分析結果から探知対象物質Aから生成される固有のm/zのフラグメントイオンピーク(NGの場合、例えばm/z=62の(NO3-)が検出される場合、探知対象物質Aが存在すると判断し、警報を鳴らす。
【0057】
GC25を使用した場合、探知対象物質がイオン源に到達するリテンションタイムには幅があるため、ドリフト電圧を変化させてフラグメントイオンを生成するのに適している。GC25には高速GCを使用しても良い。また、液体クロマトグラフ(LC)においても同様に応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、環境物質探知や有害化学物質探知及び麻薬や爆発物の探知技術において、未知の試料から探知対象物質を高速に同定する技術に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の装置構成例を示す図。
【図2】従来技術の動作シーケンスの一例を説明する図。
【図3】探知対象物質に関する情報を記憶するデータベースの例を示す図。
【図4】TNTのドリフト電圧によるS/N変化の例を示す図。
【図5】m/z=210バックグランドピークのドリフト電圧依存性の例を示す図。
【図6】NGのドリフト電圧によるS/N変化の例を示す図。
【図7】m/z=62バックグランドピークのドリフト電圧依存性の例を示す図。
【図8】ドリフト電圧を変化させてフラグメントピークを検出する動作のフローチャート。
【図9】ドリフト電圧の動作シーケンス例を示す図。
【図10】探知対象物質の揮発性を考慮した動作シーケンス例を示す図。
【図11】質量分析部にイオントラップ質量分析計を搭載した装置構成例を示す図。
【図12】探知対象物質が存在しない場合の質量スペクトル例を示す図。
【図13】夾雑物質と探知対象物質が同じm/zのイオンピークの場合の質量スペクトルの例を示す図。
【図14】探知対象物質が存在し、ドリフト電圧を変化させることで強度比が逆転する場合の質量スペクトルの例を示す図。
【図15】探知タイミングを考慮したドリフト電圧の動作シーケンス例を示す図。
【図16】試料導入器とイオン源の間にGCを装着した装置構成例を示す図。
【符号の説明】
【0060】
1 試料導入器
2 吸引ポンプ
3 イオン源
4 針状電極
5 対向電極
6 第一細孔
7 差動排気ポンプ
8 第二細孔
9 ドリフト電圧電源
10 静電レンズ
11 四重極分析管
12 質量分析制御装置
13 検出器
14 演算処理装置
15 記憶装置
16 データベース
17 真空ポンプ
18 エンドキャップ電極
19 エンドキャップ電極
20 リング電極
21 ゲート電極
22 石英リング
23 ガス導入管
24 ガス供給器
25 ガスクロマトグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ガスを導入する試料導入部と、
大気圧下で前記試料導入部から導入された試料ガスのイオンを生成するイオン源と、
第1の細孔を具備する第1の隔壁と第2の細孔を具備する第2の隔壁により挟まれ、前記イオン源で生成された試料ガスのイオンが前記第1の細孔を通して導入され前記第2の細孔を通して導出される差動排気部と、
前記第1の隔壁と前記第2の隔壁との間にドリフト電圧を印加する電源と、
前記第2の細孔を通して導入された前記イオンの質量を計測する質量分析部と、
前記質量分析部によって計測された質量に基づいて前記試料ガスに前記探知対象物質が含まれるか否かを判定する演算処理部と、を具備し、
前記演算処理部は、予め定められた第1のドリフト電圧を印加して計測した第1の質量に前記探知対象物質に固有のイオンの質量が存在するか否かを判定し、前記固有のイオンの質量が存在すると判定された場合に、前記ドリフト電圧を予め定められた第2のドリフト電圧に変更して計測した第2の質量に前記探知対象物質に固有のフラグメントイオンの質量が存在するか否かを判定することを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の質量分析装置において、前記第2の質量に前記探知対象物質に前記固有のフラグメントイオンの質量が存在すると判定されたとき、前記試料ガス中に前記探知対象物質が存在すると判定することを特徴とする質量分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の質量分析装置において、前記第2の質量に前記探知対象物質に前記固有のフラグメントイオンの質量が存在し、前記フラグメントイオンの強度が前記探知対象物質に固有のイオンの強度より高くなったとき、前記試料ガス中に前記探知対象物質が存在すると判定することを特徴とする質量分析装置。
【請求項4】
請求項1記載の質量分析装置において、
前記探知対象物質に固有のイオンの質量数と当該イオンの検出に適した前記第1のドリフト電圧及び当該イオンの検出閾値、並びに当該探知対象物質のフラグメントイオンの質量数と当該フラグメントイオンの検出に適した前記第2のドリフト電圧及び当該フラグメントイオンの検出閾値を格納した記憶部を有し、
前記演算処理部は、前記質量分析部で計測した質量を前記記憶部に格納された情報と照合して前記判定を行うことを特徴とする質量分析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の質量分析装置において前記イオン源はコロナ放電を発生させる手段を有することを特徴とする質量分析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の質量分析装置において、前記質量分析部は四重極質量分析計であることを特徴とする質量分析装置。
【請求項7】
請求項1に記載の質量分析装置において、前記第2のドリフト電圧は前記第1のドリフト電圧より高いことを特徴とする質量分析装置。
【請求項8】
請求項1に記載の質量分析装置において、前記試料導入部と前記イオン源の間にガスクロマトグラフのカラムが接続されていることを特徴とする質量分析装置。
【請求項9】
質量分析計を用いて試料ガス中の探知対象物質を探知する方法において、
前記探知対象物質に固有の第1のm/zのイオン検出に適した第1のドリフト電圧を前記質量分析計に印加して質量を取得する第1の分析ステップと、
前記第1のm/zのイオンが検出されたか否か判定する第1の判定ステップと、
前記第1の判定ステップにおいて前記第1のm/zのイオンが検出されたと判定されたとき、前記第1のm/zのイオンが解離するのに適した第2のドリフト電圧を前記質量分析計に印加して質量を取得する第2の分析ステップと、
前記第1のm/zのイオンが解離して生成した第2のm/zのイオンが検出されたか否か判定する第2の判定ステップと
を有することを特徴とする探知方法。
【請求項10】
請求項9に記載の探知方法において、前記第1のドリフト電圧及び前記第2のドリフト電圧はデータベースから読込むことを特徴とする探知方法。
【請求項11】
請求項9に記載の探知方法において、前記第2の判定ステップで前記第2のm/zのイオンが検出されたと判定されたとき、前記試料ガス中に前記探知対象物質が存在すると判定することを特徴とする探知方法。
【請求項12】
請求項9に記載の探知方法において、前記第2の判定ステップで前記第2のm/zのイオンが検出されたと判定され、かつ、前記第2のm/zのイオンの強度が前記第1のm/zのイオンの強度より高くなったとき、前記試料ガス中に前記探知対象物質が存在すると判定することを特徴とする探知方法。
【請求項13】
請求項9に記載の探知方法において、前記質量分析計は大気圧下で試料ガスをイオン化することを特徴とする探知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−26225(P2008−26225A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200856(P2006−200856)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】