説明

質量分析装置及び質量分析方法

【課題】イオン透過率を改善することなく、サンプリング周期に関係のない、ガイド法及びピーク値記録法よりも高い感度を実現する質量分析装置及び質量分析法を提供する。
【解決手段】連続イオン源12とイオン蓄積器13を備える質量分析装置において、第1データ処理部17は、イオン蓄積器13から周期的に排出されたイオンパルスを含む時間的出現プロファイルを取得する。第2データ処理部18はこれらの時間的出現プロファイルの中で、当該選択イオンのイオンパルスが出現する時間の強度のみを抽出して積分し、イオン強度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析装置及び質量分析法に関し、特に、連続イオン源とイオン蓄積器からなる質量分析装置及び当該装置に適用される質量分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、大気圧化学イオン化法(APCI)、電子衝撃イオン化法(EI)、化学イオン化法(CI)などのイオン化法では、導入される試料を連続的にイオン化する連続イオン源が用いられる。
【0003】
この連続イオン源を用いた従来の質量分析装置100の構成を図12に示す。
【0004】
測定する試料(図示せず)は試料導入部101を介して連続イオン源102に導入される。連続イオン源102は導入された試料を上記のイオン法を用いてイオン化し、生成したイオンは分析部114に輸送される。
【0005】
分析部114には電源部120から出力されたRF電圧と直流電圧が供給され、所望の質量電荷比のイオンが選択される。具体的には、四重極質量分析法を用いてイオンの軌道が空間的に分離され、所定の軌道上のイオンのみが下流に輸送される。
【0006】
分析部114で選択されたイオンは検出器115によって検出される。検出器115はイオンの検出時にアナログ信号を出力する。アナログ信号はAD変換器116によってサンプリングされデジタル信号に変換される。デジタル信号はデータ処理部117で積算され、メモリ装置118に格納される。
【0007】
制御部127は、試料導入の開始を命令する制御信号150を試料導入部101に出力する。制御部127は電源部120に制御信号152を出力し、分析部114に供給されるRF電圧と直流電圧を制御する。
【0008】
データ処理部117には制御部127からの制御信号150、152をそれぞれ参照した信号160、162が入力される。データ処理部117ではこれらの参照信号160、162に基づいてデジタル信号が処理され、試料導入を開始してからの経過時刻と、そのとき分析部114で選択されたイオンの質量電荷比と、強度とが、メモリ装置118に記録される。
【0009】
質量分析装置の質量分解能及び検出感度を上げるため、連続イオン源102と分析部114との間にイオンの冷却を目的とした多重極イオンガイド123が設置されることもある。この場合、多重極イオンガイド123の出入口には入口電極122と出口電極124が設置される。また、イオンを衝突冷却するため、多重極イオンガイド123にヘリウムやアルゴン等のコリジョンガスを導入するガス導入手段126が設けられることもある。
【0010】
入口電極122と出口電極124には、イオンの透過率を調整するための直流電圧が供給される。また、多重極イオンガイド123には、イオンを動径方向に閉じ込めるためのRF電圧が印加される。上記の直流電圧とRF電圧は電源部119から供給される。これらの電圧は制御部127からの制御信号151によって制御されている。
【0011】
連続イオン源を用いた質量分析装置の別の例を図13に示す。図中の参照符号において図12と同符号のものは、前述の例で説明した内容と同義であるので説明を割愛する。
【0012】
図13に示す質量分析装置200は、四重極質量分析法を用いた質量分析を行う第1分析部130及び第2分析部131を有する。即ち、第1及び第2分析部130、131はイオン軌道を空間的に分離し、且つ、選択イオンを常に下流へと輸送する。第1及び第2分析部130、131はそれぞれ衝突室103の上流側と下流側に設けられる。
【0013】
衝突室103は多重極イオンガイド123とその出入口に設置された入口電極122、出口電極124、及びガス導入手段126から構成される。
【0014】
第1分析部130で選択されたイオンはプレカーサーイオンと呼ばれる。このプレカーサーイオンは衝突室103に入射する。コリジョンガスを導入した場合、衝突室103においてプレカーサーイオンの一部は衝突誘起解離によって開裂する。プレカーサーイオンの開裂によって生成したイオンはプロダクトイオンと呼ばれる。プロダクトイオンと衝突室で開裂しなかったプレカーサーイオンは共に第2分析部131で分離され、所望の質量電荷比のみをもつイオンのみが検出器115に入射し、アナログ信号112となる。
【0015】
第1分析部130、第2分析部131にはそれぞれ電源部110、120から出力されたRF電圧と直流電圧が供給される。これらの電圧は制御部127が出力する制御信号152、153によって制御される。
【0016】
データ処理部117には制御部127から制御信号150、152、153を参照した信号160、162、163が入力される。データ処理部117ではこれらの参照信号160、162、163に基づいてデジタル信号が処理され、試料導入を開始してからの経過時刻と、そのとき第2分析部で選択されたイオンの質量電荷比と強度、及びそのイオンのプレカーサーイオンとして第1分析部で選択されたイオンの質量電荷比とがメモリ装置118に記録される。
【0017】
連続イオン源を有する質量分析装置の特徴は、試料が連続的にイオン化される限り、検出器にも連続したイオン流が入射することにある。図13の例でも、衝突室に連続的に入射するプレカーサーイオンによってプロダクトイオンが連続的に生成する。このように検出器に連続流を入射させる方法をガイド法と呼ぶことにする。ガイド法ではイオンの信号が連続的に得られるため、サンプリング後のデジタル信号を全て積算する。
【0018】
一方、連続イオン源102から検出器115までの間に設置されたイオン蓄積器によって、連続流をパルス化して検出器115に入射させることができる。この方法をパルス排出法と呼ぶことにする。上記二例では入口電極122、多重極イオンガイド123、出口電極124によってイオン蓄積器が構成され、ここでイオンを蓄積する電位分布を発生し、出口電極124に蓄積されたイオンを排出するようなパルス電圧を印加することで連続流をパルス化する。ただし、連続イオン源102からイオン蓄積器へのイオンの流入は定常的に行われる。以下、「閉鎖」とはイオン蓄積器によるイオンの蓄積を意味し、「開放」とはイオン蓄積器内に蓄積されたイオンの排出を意味するものとする。
【0019】
パルス排出法では、イオンの透過率を改善することなくガイド法よりも高感度な測定ができる。非特許文献1にはパルス排出法を用いた三連型四重極分析装置(QqQ: triple quadrupole mass spectrometer)が記載されている。同文献によれば、三連型四重極分析装置のコリジョンセルが一定時間イオンを蓄積した後、当該イオンを排出する。これにより、通常の連続流よりも一時的に高い強度のイオンパルスが生成される。このイオンパルスの最大値を記録することでガイド法よりも高い検出感度が得られる。
【0020】
パルス排出法によって発生するイオンパルスの波形について説明する。
【0021】
蓄積器の出口電極に、開放時間tと閉鎖時間tのゲートパルスを周期T(=t+t)で印加すれば、検出器に到達したイオンの強度の時間的変化は図14に示す波形のようになる。即ち、開放時間tとほぼ等しい時間の間は有意な強度が得られ、閉鎖時間tの間は強度が0になる。この波形は最大値S、時定数βで減衰する指数関数Yで表すことができる。開放時間tが時定数βよりも十分大きい場合、波形の強度は漸近的に一定値Sに近づく。なお、この値Sがガイド法において検出される連続流の強度である。時定数βはイオン蓄積器の構成や印加電圧設定によって決まる。
【0022】
パルス排出法において、排出周期Tの間に検出器に入射するイオン量Iは、1個のイオンパルス波形の面積で表せるので、
【数5】

【0023】
となる。(1)式の被積分関数が図14に示す関数Yである。
【0024】
一方、ガイド法において排出周期Tの間に検出器へ入射するイオン量は(S*T)になる。
【0025】
パルス排出法とガイド法においてイオンの透過率が等しいとき、イオン量Iとイオン量(S*T)は等しくなるのでイオンパルスの最大値Sは、
【数6】

【0026】
となる。非特許文献1はこの最大値Sを記録する方法を示しており、この方法をピーク値記録法と呼ぶことにする。ピーク値記録法及びガイド法におけるイオン透過率が共に等しい場合、ピーク値記録法での信号対雑音比(S/N)aは、排出周期Tの積算時間で、
【数7】

【0027】
となる。ここで、Nはノイズ強度の標準偏差である。一方、ガイド法において排出周期Tに亘って信号を積算した場合の信号対雑音比(S/N)gは、
【数8】

【0028】
となる。ここで、TはAD変換器のサンプリング周期である。ピーク値記録法による信号対雑音比がガイド法を上回るには、(3)式及び(4)式よりも、
【数9】

【0029】
となる必要がある。
【非特許文献1】Internal Journal of Mass Spectrometry and Ion Processes, vol.82 (1988) p.1-15
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
ガイド法を用いた質量分析装置の感度を上げるには、一般的にイオン源から検出器に至るイオン透過率を向上させなければならない。透過率の向上は通常、イオン軌道計算を基に行われるが、実際の軌道が計算から大きくずれる場合もあり、計算で予測した透過率と実際の透過率が一致することは稀である。そこで、最終的には試行錯誤しながら改良を繰り返すことも多く、時間と労力を費やすことになる。
【0031】
一方、ピーク値記録法では、高速なサンプリングを行うと検出感度がガイド法よりも悪化する場合がある。ピーク値記録法では、ガイド法よりも検出感度が高い条件、即ち(5)式の条件を満たすには、サンプリング周期Tが大きいほど有利である。例えば、T=1ms、T=9ms、T=T+T=10ms、β=1msとすると、サンプリング周期Tが64μs以上でなければ、ガイド法よりも検出感度が良くならない。従って、速いサンプリング速度が要求される多成分試料の一斉分析などには適用できない。
【0032】
そこで、本発明は、ガイド法におけるイオン透過率を改善せずに、サンプリング周期に関係なく、ガイド法よりも高い感度を実現する質量分析装置及び質量分析法を提供すること、また、ピーク値記録法より更に高い感度を実現する質量分析装置及び質量分析法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
請求項1の発明は質量分析装置であって、試料を連続的にイオン化する連続イオン源と、前記連続イオン源の後段に設けられる質量分析部であって、前記連続イオン源による生成イオンのうち所望のイオンを選択イオンとして選択する質量分析部と、前記質量分析部の前段に設けられ、閉鎖及び開放動作を所定の周期毎に行って前記連続イオン源で生成されたイオンのイオンパルスを発生する、若しくは、前記質量分析部の後段に設けられ、前記閉鎖及び開放動作を前記所定の周期毎に行って前記選択イオンのイオンパルスを発生するイオン蓄積器と、前記選択イオンのイオンパルスを含むアナログ信号を出力する検出器と、前記検出器からのアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、前記所定の周期と同じ周期の間に前記デジタル信号を入力し、前記選択イオンの時間的出現プロファイルを取得する第1データ処理部と、前記取得した前記選択イオンの時間的出現プロファイルを、前記イオンパルスに対する所定の出現時間にわたり積分し、その積分値を前記選択イオンのイオン強度として算出する第2データ処理部と、前記積分に際して前記データ処理部から参照される前記所定の出現時間を記憶し、前記選択イオンの時間的出現プロファイル及び前記イオン強度を記録するメモリ装置と、を備え、前記質量分析部は、四重極質量分析法、磁場型偏向質量分析法、又は該質量分析器内でイオンの軌道を質量電荷比毎に分散させ常に下流に輸送する方法の何れかを適用することを特徴とする。
【0034】
請求項2の発明は質量分析装置であって、試料を連続的にイオン化する連続イオン源と、前記連続イオン源の後段に設けられる第1質量分析部であって、前記連続イオン源による生成イオンのうち所望のプレカーサーイオンを選択する第1質量分析部と、第1質量分析部の後段に設けられる衝突室であって、前記プレカーサーイオンを開裂させ、プロダクトイオンを生成する衝突室と、前記衝突室の後段に設けられる第2質量分析部であって、前記プロダクトイオンの中から所望のイオンを選択イオンとして選択する第2質量分析部と、前記第1質量分析部と前記第2質量分析部の間に設けられ、閉鎖及び開放動作を所定の周期毎に行って前記プロダクトイオンのイオンパルスを発生する、若しくは、前記第2質量分析部の後段に設けられ、前記閉鎖及び開放動作を前記所定の周期毎に行って前記選択イオンによるイオンパルスを発生するイオン蓄積器と、前記選択イオンのイオンパルスを含むアナログ信号を出力する検出器と、前記検出器からのアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、前記所定の周期と同じ周期の間に前記デジタル信号を入力し、前記選択イオンの時間的出現プロファイルを取得する第1データ処理部と、前記取得した前記選択イオンの前記時間的出現プロファイルを、前記イオンパルスに対する所定の出現時間にわたり積分し、その積分値を前記選択イオンのイオン強度として算出する第2データ処理部と、前記積分に際して前記データ処理部から参照される前記所定の出現時間を記憶し、前記選択イオンの時間的出現プロファイル及び前記イオン強度を記録するメモリ装置と、を備え、前記イオン蓄積器が前記第1質量分析部と前記第2質量分析部との間に設けられる場合、前記衝突室が前記イオン蓄積器を兼ねて前記閉鎖及び開放閉鎖動作を所定の周期毎に行って前記プロダクトイオンのイオンパルスを発生し、前記第1及び第2質量分析部は、四重極質量分析法、磁場型偏向質量分析法、又は該質量分析器内でイオンの軌道を質量電荷比毎に分散させ常に下流に輸送する方法の何れかを適用することを特徴とする。
【0035】
請求項3の発明は請求項1又は請求項2の何れかに記載の質量分析装置において、前記第1データ処理部は前記選択イオンのイオンパルスを複数回発生させて得た前記選択イオンの複数の時間的出現プロファイルを取得し、前記第2データ処理部は前記複数の時間的出現プロファイルのそれぞれについて求めた前記積分値を合計した値を前記選択イオンのイオン強度とすることを特徴とする。
【0036】
請求項4の発明は請求項1乃至請求項3の何れかに記載の質量分析装置において、前記選択イオンを変化させて、選択イオン毎のイオン強度のデータからなる質量スペクトルを取得することを特徴とする。
【0037】
請求項5の発明は請求項1乃至請求項4の何れかに記載の質量分析装置において、前記時間的出現プロファイルの波高弁別を行う波高弁別部と、前記所定の出現時間を算出する出現時間算出部と、を更に備え、前記波高弁別部は、既知で且つ互いが異なる質量電荷比の複数の較正用時間的出現プロファイルに対して波高弁別を行い、複数の較正用出現時間を取得し、前記出現時間算出部は、複数の較正用出現時間を内挿することにより任意の選択イオンに対する出現時間を算出し、前記所定の出現時間として前記メモリ装置に記憶させることを特徴とする。
【0038】
請求項6の発明は請求項1又は請求項2の何れかに記載の質量分析装置において、前記所定の周期は前記開放動作に要する時間よりも大きいことを特徴とする。
【0039】
請求項7の発明は請求項1又は請求項2の何れかに記載の質量分析装置において、前記イオンパルスが減衰する時定数をβ、前記開放動作の時間をt、前記所定の周期をT、前記AD変換器のサンプリング周期をTとして、これらが、
【数10】

【0040】
の関係を満たすことを特徴とする。
【0041】
請求項8の発明は請求項1又は請求項2の何れかに記載の質量分析装置において、前記イオンパルスが減衰する時定数をβ、前記開放動作の時間をt、前記所定の周期をT、前記AD変換器のサンプリング周期をTとして、これらが、
【数11】

【0042】
の関係を満たすことを特徴とする。
【0043】
請求項9の発明は請求項1に記載の質量分析装置において、前記イオン蓄積器は、RF電場を発生する多重極イオンガイドと、前記多重極イオンガイドの前方に設けられる入口電極であって、前記生成イオン或るいは前記選択イオンを通過させるための開口部を有し、通過したイオンの逆流を防ぐ電場を発生する入口電極と、前記多重極イオンガイドの後方に設けられる出口電極であって、蓄積されたイオンを排出するための開口部を有し、前記閉鎖及び開放動作のための電場を発生する出口電極と、前記多重極イオンガイドにコリジョンガスを導入して衝突冷却を行うガス導入手段と、を含むことを特徴とする。
【0044】
請求項10の発明は請求項1に記載の質量分析装置において、前記イオン蓄積器が前記質量分析部と前記検出器との間に設けられる場合、前記イオン蓄積器は前記質量分析部が前記選択イオンを変える度に該イオン蓄積器に蓄積されたイオンを全て排出することを特徴とする。
【0045】
請求項11の発明は請求項2に記載の質量分析装置において、前記衝突室が前記イオン蓄積器を兼ねる場合、前記衝突室は、RF電場を発生する多重極イオンガイドと、前記多重極イオンガイドの前方に設けられる入口電極であって、前記プレカーサーイオンを通過させる開口部を有し、通過した該プレカーサーイオンの逆流を防ぐ電場を発生する入口電極と、前記多重極イオンガイドの後方に設けられる出口電極であって、蓄積されたイオンを排出するための開口部を有し、前記閉鎖及び開放動作のための電場を発生する出口電極と、前記多重極イオンガイドにコリジョンガスを導入して衝突冷却を行うガス導入手段と、を含むことを特徴とする。
【0046】
請求項12の発明は請求項2に記載の質量分析装置において、前記イオン蓄積器が前記第2質量分析部と前記検出器との間に設けられる場合、前記衝突室はコリジョンガスを導入して衝突冷却を行うガス導入手段を備え、前記イオン蓄積器は、RF電場を発生する多重極イオンガイドと、前記多重極イオンガイドの前方に設けられる入口電極であって、前記選択イオンを通過させる開口部を有し、通過した該生成イオンの逆流を防ぐ電場を発生する入口電極と、前記多重極イオンガイドの後方に設けられる出口電極であって、蓄積された前記選択イオンを排出するための開口部を有し、前記前記閉鎖及び開放動作のための電場を発生する出口電極と、を含むことを特徴とする。
【0047】
請求項13の発明は請求項2に記載の質量分析装置において、前記イオン蓄積器が前記第2質量分析部と前記検出器との間に設けられる場合、前記イオン蓄積器は前記第2質量分析部が前記選択イオンを変える度に、該イオン蓄積器に蓄積されたイオンを全て排出することを特徴とする。
【0048】
請求項14の発明は質量分析方法であって、試料を連続的にイオン化する第1工程と、前記第1工程による生成イオンに対して質量分析を行い、所望のイオンを選択イオンとして選択する第2工程と、前記第2工程の前に、前記生成イオンに対して閉鎖及び開放動作を所定の周期毎に行ってイオンパルスを発生する、若しくは前記第2工程の後に、前記選択イオンに対して前記閉鎖及び開放動作を前記所定の周期毎に行ってイオンパルスを発生する第3工程と、前記選択イオンのイオンパルスを含むアナログ信号を出力する第4工程と、前記検出器からのアナログ信号をデジタル信号に変換する第5工程と、前記所定の周期と同じ周期の間に前記デジタル信号を入力し、前記選択イオンの時間的出現プロファイルを取得する第6工程と、前記取得した前記選択イオンの前記時間的出現プロファイルを、前記イオンパルスに対する所定の出現時間にわたり積分し、その積分値を前記選択イオンのイオン強度として算出する第7工程と、前記積分に際して前記データ処理部から参照される前記所定の出現時間を記憶し、前記選択イオンの時間的出現プロファイル及び前記イオン強度を記録する第8工程と、を備え、前記質量分析には、四重極質量分析法、磁場型偏向質量分析法、又は該質量分析器内でイオンの軌道を質量電荷比毎に分散させ常に下流に輸送する方法の何れかを適用することを特徴とする。
【0049】
請求項15の発明は質量分析方法であって、試料を連続的にイオン化する第1工程と、前記第1工程による生成イオンに対して質量分析を行い、所望のプレカーサーイオンを選択する第2工程と、前記プレカーサーイオンを開裂させ、プロダクトイオンを生成する第3工程と、前記プレカーサーイオン及び前記プロダクトイオンに対して質量分析を行い、所望のイオンを選択イオンとして選択する第4工程と、前記第4工程の前に、閉鎖及び開放動作を所定の周期毎に行って前記プレカーサーイオン又は前記プロダクトイオンのイオンパルスを発生する、若しくは、前記第4工程の後に前記閉鎖及び開放動作を前記所定の周期毎に行って前記選択イオンのイオンパルスを発生する第5工程と、前記選択イオンのイオンパルスを含むアナログ信号を出力する第6工程と、前記検出器からのアナログ信号をデジタル信号に変換する第7工程と、前記所定の周期と同じ周期の間に前記デジタル信号を入力し、前記選択イオンの時間的出現プロファイルを取得する第8工程と、前記取得した前記選択イオンの前記時間的出現プロファイルを、前記イオンパルスに対する所定の出現時間にわたり積分し、その積分値を前記選択イオンのイオン強度として算出する第9工程と、前記積分に際して前記データ処理部から参照される前記所定の出現時間を記憶し、前記選択イオンの時間的出現プロファイル及び前記イオン強度を記録する第10工程と、を備え、前記第2工程及び第4工程における質量分析は、四重極質量分析法、磁場型偏向質量分析法、又は該質量分析器内でイオンの軌道を質量電荷比毎に分散させ常に下流に輸送する方法の何れかを適用することを特徴とする。
【0050】
請求項16の発明は請求項14又は請求項15の何れかに記載の質量分析方法において、前記選択イオンのイオンパルスを複数回発生させて得た前記選択イオンの複数の時間的出現プロファイルのそれぞれについて求めた前記積分値を合計した値を前記選択イオンのイオン強度として用いることを特徴とする。
【0051】
請求項17の発明は請求項14乃至請求項16の何れかに記載の質量分析方法において、前記選択イオンを変化させて、選択イオン毎のイオン強度のデータからなる質量スペクトルを取得することを特徴とする。
【0052】
請求項18の発明は請求項14乃至請求項17の何れかに記載の質量分析方法において、前記時間的出現プロファイルの波高弁別を行う波高弁別工程と、前記所定の出現時間を算出する出現時間算出工程と、を更に備え、前記波高弁別工程では、既知で且つ互いが異なる質量電荷比の複数の較正用時間的出現プロファイルに対して波高弁別を行い、複数の較正用出現時間を取得し、前記出現時間算出工程では、複数の較正用出現時間を内挿することにより任意の選択イオンに対する出現時間を算出し、前記所定の出現時間として前記メモリ装置に記憶させることを特徴とする。
【0053】
請求項19の発明は請求項14又は請求項15の何れかに記載の質量分析方法において、前記所定の周期は前記開放動作に要する時間よりも大きいことを特徴とする。
【0054】
請求項20の発明は請求項14又は請求項15の何れかに記載の質量分析方法において、前記イオンパルスが減衰する時定数をβ、前記開放動作の時間をt、前記所定の周期をT、前記AD変換器のサンプリング周期をTとして、これらが、(6)式の関係を満たすことを特徴とする。
【0055】
請求項21の発明は請求項14又は請求項15の何れかに記載の質量分析方法において、前記イオンパルスが減衰する時定数をβ、前記開放動作の時間をt、前記所定の周期をT、前記AD変換器のサンプリング周期をTとして、これらが、(7)式の関係を満たすことを特徴とする。
【0056】
請求項22の発明は請求項14に記載の質量分析方法において、前記第3工程は、更に、RF電場を発生するRF電場発生工程と、前記RF電場の前方に、前記生成イオン或るいは前記選択イオンを通過させ、且つ、通過したイオンの逆流を防ぐ電場を発生する第1電場発生工程と、前記RF電場の後方に、前記閉鎖及び開放動作のための電場を発生する第2電場発生工程と、コリジョンガスを導入して衝突冷却を行うガス導入工程と、を含むことを特徴とする。
【0057】
請求項23の発明は請求項14に記載の質量分析方法において、前記第3工程において前記第2工程の後に前記選択イオンに対して前記閉鎖及び開放動作を前記所定の周期毎に行ってイオンパルスを発生する場合、該第3工程は、前記第2工程における前記選択イオンの選択を変える度に、前記閉鎖動作によって蓄積されたイオンを全て排出する工程を更に含むことを特徴とする。
【0058】
請求項24の発明は請求項15に記載の質量分析方法において、前記第5工程は、更に、RF電場を発生するRF電場発生工程と、前記RF電場の前方に、前記生成イオン或るいは前記選択イオンを通過させ、且つ、通過したイオンの逆流を防ぐ電場を発生する第1電場発生工程と、前記RF電場の後方に、前記閉鎖及び開放動作のための電場を発生する第2電場発生工程と、コリジョンガスを導入して衝突冷却を行うガス導入工程と、を含むことを特徴とする。
【0059】
請求項25の発明は請求項15に記載の質量分析方法において、前記第3工程は、更に、コリジョンガスを導入して衝突冷却を行うガス導入工程を含むことを特徴とする。
【0060】
請求項26の発明は請求項15に記載の質量分析方法において、前記第5工程において前記第4工程の後に前記閉鎖及び開放動作を前記所定の周期毎に行って前記選択イオンのイオンパルスを発生する場合、該第5工程は、前記第2工程における前記選択イオンの選択を変える度に、前記閉鎖動作によって蓄積されたイオンを全て排出する工程を更に含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0061】
本発明の質量分析装置及び質量分析方法は下記の効果を有する。
【0062】
1.イオン蓄積器で開放時間t、閉鎖時間t、排出周期T=t+tのパルス排出を行い、蓄積器から検出器までの選択イオンの時間的出現プロファイルを計測する。飛行時間軸上でその選択イオンのイオンパルスが出現する時間に亘って信号強度を積分したものを、その選択イオンのイオン強度とすることで、感度はサンプリング周期Tに依らずガイド法よりも(T/t1/2倍向上する。
【0063】
2.上記1の動作で、(6)式の条件を満たすように、開放時間t、排出周期T、サンプリング周期Tを設定すると、このときの感度はサンプリング周期Tsに依らず、ガイド法よりも(T/t1/2倍向上する。また、この感度はピーク値記録法よりも高くなる。ここでβはイオン蓄積器の構成や電圧設定によって決まるイオンパルスの時定数である。
【0064】
3.上記1の動作で、(7)式の条件を満たすように、開放時間t、排出周期T、サンプリング周期Tを設定すると、このときの感度はサンプリング周期Tsに依らず、ガイド法よりも(T/t1/2倍向上する。さらに、この感度は排出周期Tに依らず、ピーク値記録法よりも向上する。ここでβはイオン蓄積器の構成や電圧設定によって決まるイオンパルスの時定数である。
【0065】
4.実測定で選択するイオンによるイオンパルスの出現時間を、予備測定で予め決定しておくことで、実測定では時間的出現プロファイル中で検出限界以下となるイオンパルスについてもその出現時間に亘って信号強度を積分することができる。
【0066】
5.イオン蓄積器内での衝突冷却によりも、一度蓄積器に流入したイオンが再度、上流側へ抜け出すのを阻止することで、イオン源から検出器に至るイオン透過率をガイド法とほぼ同じにできる。
【0067】
6.質量分析部での選択イオンが変化する度にイオン蓄積器内にあるイオンを全て排出することで、過去に選択されたイオンとの干渉を無くし、イオンの正確な同定ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0068】
本発明の各実施形態について説明する。以下に述べる各実施形態では、正イオンの測定を想定して説明しているが、負イオンの測定にも適用可能である。その場合には、印加する電圧の極性を反転すればよい。
【0069】
<第1実施形態>
図1は本発明の第1実施形態に係る質量分析装置の模式図である。
【0070】
図1に示すように、第1実施形態に係る質量分析装置10は、試料導入部11と、連続イオン源12と、イオン蓄積器13と、質量分析部14と、検出器15とを備える。更に、検出器15からの信号を処理するため、AD変換器16と、第1データ処理部17と、第2データ処理部18と、波高弁別部19と、出現時間算出部20と、メモリ装置21とを備える。
【0071】
試料導入部11は連続イオン源12に試料を導入する。この導入は制御部30からの制御信号に基づいて開始される。
【0072】
連続イオン源12は試料導入部11から導入された試料(図示せず)を連続的にイオン化する。このイオン化にはエレクトロスプレーイオン化法(ESI)、大気圧化学イオン化法(APCI)、電子衝撃イオン化法(EI)、化学イオン化法(CI)など連続的にイオン化する方法が用いられる。
【0073】
連続イオン源12の電位はイオン蓄積器13の多重極イオンガイドによって生じる光軸上の電位(軸電位)よりも高い電位に設定されており、生成されたイオン流は光軸に沿ってイオン蓄積器13に輸送される。
【0074】
イオン蓄積器13は開口部22aを有する入口電極22と、多重極イオンガイド23と、開口部24aを有する出口電極24とを備える。後述するようにイオン蓄積器13は、入口電極22、多重極イオンガイド23、出口電極24によって生じる電位分布(トラップポテンシャル)によって連続イオン源12から輸送されたイオンを蓄積する。
【0075】
入口電極22は連続イオン源12と多重極イオンガイド23との間に設けられ、その開口部22aはイオンを通過させるため、光軸25上に位置する。入口電極22の電位は、連続イオン源12からのイオンの入射を許容し、且つ多重極イオンガイド23に存在するイオンが逆流しない程度の電位に設定される。この電位によってイオンは連続的にイオン蓄積器13内に入射される。
【0076】
多重極イオンガイド23は光軸25に沿って設けられた多極子から構成される。多重極イオンガイド23には、イオンを動径方向に閉じ込めるためのRF電圧Vionと、当該イオンを軸方向に閉じ込めるための軸電圧とが印加される。
【0077】
出口電極24は多重極イオンガイド23と質量分析部14との間に設けられ、その開口部14aはイオンを通過させるため、光軸25上に位置する。出口電極24には周期時間Tのパルス電圧Vが印加され、イオンの蓄積動作と排出動作を交互に繰り返す。これにより蓄積されたイオンのイオンパルスが発生する。蓄積動作におけるパルス電圧Vは、所定時間t(以下、閉鎖時間t)の間、多重極イオンガイド23の軸電位よりも高く設定される。即ち、閉鎖時間tの間はイオン蓄積器13内にイオンを蓄積するトラップポテンシャルが形成される。一方、排出動作におけるパルス電圧Vは、所定時間t(以下、開放時間t)の間、上記軸電位よりも低く設定され、蓄積されたイオンは出口電極24から排出される。本発明においては、この排出動作は1種類のイオン(即ち、1種類の質量電荷比のイオン)の測定時において少なくとも1回は行われる。
【0078】
イオン蓄積器13内に蓄積されるイオンは残留ガスとの衝突によって(即ち、衝突冷却によって)運動エネルギーが低下するので、閉鎖時間tの間はイオン蓄積器13からの逸脱が抑制される。これによりイオン蓄積器13内でのイオンの損失を抑え、連続イオン源12から検出器15に至るイオン透過率がガイド法を用いた場合とほぼ同じになる。
【0079】
イオン蓄積器13には冷却衝突用のガス導入手段26をさらに備えても良い。ガス導入手段26から導入されたガス(コリジョンガス)がイオン蓄積器13に蓄積されたイオンと衝突することによって当該イオンは更に冷却されるので、イオンの蓄積を促進することができる。コリジョンガスには、ヘリウムやアルゴンなどが用いられる。
【0080】
イオン蓄積器13から排出されたイオンは質量分析部14に輸送される。質量分析部14は、その内部でイオンの軌道を質量電荷比毎に分散させ常に下流に輸送する質量分析を行う。この質量分析法は、例えば、四重極質量分析法や磁場型偏向質量分析法などである。四重極質量分析法を用いる場合、質量分析部14は光軸25と平行に設けられた四極子を有し、四極子には測定するイオン(以下、選択イオンと称する)の質量電荷比に応じて変化するRF電圧が印加される。各選択イオンに対して、多重極イオンガイド23のRF電圧を最適化してもよい。この場合、質量分析部14のRF電圧と同じ周期で多重極イオンガイド23のRF電圧を変化させる。
【0081】
電源部27はイオン蓄積器13に印加する電圧を出力する。この出力電圧は制御部30からの制御信号51によって制御される。
【0082】
質量分析部14を通過した選択イオンは検出器15によって検出される。検出器15は選択イオンを検出し、アナログ信号を出力する。即ち、アナログ信号には選択イオンのイオンパルスが含まれる。
【0083】
検出器15から出力されたアナログ信号は、AD変換器(ADC)16によってサンプリング周期T毎にデジタル信号に変換される。
【0084】
第1データ処理部17は制御信号60、61、62に基づいてデジタル信号を処理し、その結果をメモリ装置21に格納する。ここで制御信号60、61、62はそれぞれ、試料導入の開始、イオン蓄積器のトラップポテンシャル、質量分析部での選択イオンの制御を行っている。これにより、試料導入を開始してからの経過時刻(以下、分析時刻)と、そのときの選択イオンの時間的出現プロファイル、即ち、出口電極から排出された時間を基点とした選択イオンの時間的強度変化、および質量電荷比がメモリ装置21に記録される。
【0085】
第2データ処理部18は、第1データ処理部17によって取得された時間的出現プロファイルから選択イオンの強度を算出し、メモリ装置21に記録する。この算出には波高弁別部19及び出現時間算出部20を用いた予備測定の結果を適用できる。選択イオン強度の算出及び予備測定に関しては詳細を後述する。
【0086】
制御部30はイオン蓄積器13の各電極の電圧設定や、第1データ処理部17における時間的出現プロファイル取得の開始・終了等の制御を行う。制御部30によって制御された入口電極22、多重極イオンガイド23、出口電極24、質量分析部14の各電圧シーケンスを図2に示す。この図では一例として、サイクルタイムtの間にn種類の選択イオンを測定する電圧シーケンスを表している。
【0087】
入口電極22には、連続イオン源12からイオン蓄積器13へのイオンの進入を許容する電圧Vinが印加される。電圧Vinはサイクルタイムt及び測定する選択イオンの種類に関わりなく一定である。
【0088】
多重極イオンガイド23にはRF電圧が印加される。図2には、このRF電圧の振幅をRF振幅Vionとして示している。RF振幅Vionは後述の質量分析部14に印加するRF電圧の振幅(RF振幅Vmass)の変化に応じて変化させてもよい。この場合、各選択イオンに対してRF振幅Vionを最適化するために、RF電圧Vmassと同じ周期で変化させる。
【0089】
出口電極24には、イオン蓄積器13の閉鎖動作及び開放動作を繰り返し、イオンパルスを発生させるためのパルス電圧Vが印加される。なお、パルス電圧Vの周期(排出周期)はT(=開放時間t+閉鎖時間t)である。従って、サイクルタイムtの間にt/T回の排出動作が行われることになる。また、排出周期Tと開放時間tは、後述の(10)式又は(12)式を満たすように設定される。
【0090】
サイクルタイムt当たりにn種類の選択イオンを測定する場合、各選択イオンの測定時間(以下、デュウェルタイムt)はt/nとなる。従って、図2に示す例では各選択イオンにつきt/(n*T)回の排出動作が行われることになる。
【0091】
質量分析部14には選択イオンの質量電荷比に応じた振幅のRF電圧が印加される。図2には、このRF電圧の振幅(RF振幅)をVmassとして示している。
【0092】
次にデジタル信号の処理について説明する。
【0093】
図2に示した各排出動作によって、検出器15にはパルス状の選択イオン流が入射される。このイオン流はイオンパルスとして検出器15から出力される。従って、AD変換器16はこのイオンパルスを含むアナログ信号をデジタル信号に変換する。なお、AD変換器16のサンプリング周期をTとする。
【0094】
第1データ処理部17は、出口電極24にパルス電圧Vを印加するための制御部30からの制御信号に基づいて、上記デジタル信号の取り込みを開始する。この制御信号は出口電極24の電圧を制御する制御信号52を参照することで得られる。従って、第1データ処理部17では、この制御信号の入力時(通常、出口電極での排出開始時刻)を基点とする選択イオンの時間的出現プロファイルが排出周期T毎に算出される。また、後述する予備測定では、この時間的出現プロファイルを選択イオン毎に積算する。
【0095】
図2に示す例では、1種類の選択イオンの測定に対してt/(n*T)回の排出動作が行われるので、t/(n*T)個の時間的出現プロファイルが得られ、これらがメモリ装置21に記憶される。
【0096】
第2データ処理部18は、メモリ装置21に記憶された1種類の選択イオンに対する各時間的出現プロファイルの中で、イオンパルスが現れている時間(以下、出現時間)内の強度を積分する。この積分値を1種類の選択イオンに対して取得した時間的出現プロファイルの個数分だけ合計したものを、該当する選択イオンの、そのときの分析時刻におけるイオン強度としてメモリ装置21に記録する。イオンパルスの出現時間は予めメモリ装置に記憶されているか、後述するように予備測定によって得られる。
【0097】
このようにして、時間的出現プロファイルをイオンパルスの出現時間に亘って積分すればイオンパルスの面積値が得られる。以下、このようにイオンパルスの面積値を記録する方法を面積値記録法と呼ぶことにする。
【0098】
本発明の面積値記録法では、上記の出現時間を予備測定によって取得しても良い。以下、この予備測定による出現時間の算出について説明する。
【0099】
予備測定では、既知の質量電荷比のイオンが発生する試料を用いて、これらに対する時間的出現プロファイル(較正用時間的出現プロファイル)を複数種取得する。即ち、第1データ処理部17は、各試料成分に対する時間的出現プロファイルを作成し、メモリ装置21に記憶する。第2データ処理部では、各選択イオンに対して取得した時間的出現プロファイルをその個数分だけ積算する。図2の例では、1種類の選択イオンに対して得られたt/(n*T)個の時間的出現プロファイルを積算し、各選択イオンに対し1個の時間的出現プロファイルがメモリ装置21に記憶される。
【0100】
波高弁別部19はこのようにメモリ装置21に記憶された各選択イオンの時間的出現プロファイルに対してイオンパルスの出現時間を特定するための波高弁別を行い、その結果、所定の閾値以下の強度となる時間領域がイオンパルスの出現時間として時間的出現プロファイルから算出される。このように、各試料成分から発生した既知の質量電荷比のイオンに対するイオンパルスの出現時間(較正用出現時間)がメモリ装置21に記憶される。
【0101】
出現時間算出部20は、複数の較正用出現時間を内挿することで、任意の選択イオンの出現時間を算出する関数を求め、メモリ装置21に記憶する。或いは、この関数に基づいた任意の選択イオン対する出現時間を表す数表をメモリ装置21に記憶する。
【0102】
例えば、図3に示すように、時間的出現プロファイル上でのイオンパルス41、42、43の各出現時間T、T、Tは、当該イオンパルス41、42、43の強度が所定の閾値S以上となる時間から特定できる。各出現時間T、T、Tは選択イオンの質量電荷比に依存している。従って、質量電荷比と出現時間との対応関係を複数取得し、図4に示すようにこれらに対して回帰分析を行って、任意の選択イオンに対する出現時間(例えば、図4のT)を算出する関数gを求める。なお、予備測定におけるイオンパルスの閾値Sはメモリ装置21に記録されたデータ、或いは、操作盤(図示せず)からのオペレータによる入力値を参照して決定される。
【0103】
この関数g(或いは数表)を参照することで、任意の選択イオンのイオンパルスについて時間的出現プロファイル上の出現時間が特定できる。この出現時間に亘って時間的出願プロファイルを積分すれば、任意の選択イオンに対するイオンパルスの面積値を算出することができる。
【0104】
即ち、予備測定では時間的出現プロファイルの強度に対して閾値を設定し、イオンパルスの出現時間を決定しているが、実測定では予め把握したその出現時間に亘って時間的出現プロファイルを積分する。そうすることで時間的出現プロファイル中では、ノイズに埋もれているようなイオンパルスについてもその出現時間に亘って積分できる。最終的に、この積分値を各選択イオンに対して取得した時間的出現プロファイルの個数分だけ合計したものが選択イオンのイオン強度となる。
【0105】
次に、本発明の面積値記録法の信号対雑音比について説明する。
【0106】
パルス排出法とガイド法におけるイオンの透過率が共に等しいとすれば、パルス排出法によって得られるイオンパルスの面積値は、その波形に関係なくS・T/Tになる。さらに、イオンパルスの時間幅を出口電極24の開放時間tに近似すれば、イオンパルス1個の時間幅で積算したノイズ強度の標準偏差はN・(t/T1/2となる。従って排出周期Tの間で、面積値記録法によって得られる信号対雑音比(S/N)pは、
【数12】

【0107】
になる。これをガイド法で得られる信号対雑音比(S/N)gを表す(4)式と比較すると、
【数13】

【0108】
となる。ここで(9)式の右辺を感度倍率αと称する。排出周期Tは、開放時間tと閉鎖時間tの和であるので感度倍率αは1よりも大きい。即ち、面積値記録法の信号対雑音比は、ガイド法よりも(T/t1/2倍だけ高い。換言すれば、面積値記録法の検出限界はガイド法の(t/T)1/2倍となり、感度倍率αに基づいて高感度化できる。
【0109】
また、この高感度化はサンプリング周期Tに依存せず、面積値記録法では装置のイオン透過率を向上させる必要が無い。例えば、排出周期Tを開放時間tの100倍以上にすれば、イオン透過率を改善させること無くガイド法よりも10倍高い感度が得られ、検出限界は1/10にまで下がる。
【0110】
従来の技術において、一定の蓄積時間の下で感度を制御するには、イオン電流が減衰する時定数を変化させる必要がある。この時定数はイオン蓄積器13の光軸25方向への長さと、当該イオン蓄積器13内の圧力によって決まるが、その長さの調整は不可能である。一方、コリジョンガスによるイオン蓄積器13内の圧力の制御は、その圧力の測定及びその圧力が得られるまでの遅延等があるために困難である。しかも、コリジョンガスを過剰に導入すると測定するイオンは著しく減衰してしまう。従って、イオン蓄積器13内では、コリジョンガスの導入によって得られる時定数の範囲は限られる。しかしながら、上述のように本発明では、排出時間を変化させることで容易に感度を制御できる。
【0111】
更に、下記に示すように、面積値記録法はピーク値記録法よりも一定の条件下で高感度になる。
【0112】
面積値記録法の信号対雑音比(S/N)pが、ピーク値記録法の信号対雑音比(S/N)aよりも大きい場合、これを満たす条件は(3)式と(8)式を用いて、
【数14】

【0113】
となる。ここでαは(9)式に示した感度倍率である。(10)式の条件を図5に示す。図中の関数fは、感度倍率αが1.1の場合を示している。(10)式を満たすように開放時間tを短くすると、即ち、(10)式の左辺が同式の右辺よりも小さくなるような開放時間tの領域43では、面積値記録法はピーク値記録法よりも高感度になる。
【0114】
上述の感度倍率αが大きいほど(10)式の境界線は下方に移動し、仮にαを無限大とすると関数fは、
【数15】

【0115】
となる。(11)式の右辺の項よりも低い値をもつ領域、即ち、
【数16】

【0116】
となる開放時間tの領域44では、感度倍率αの値に関わらず(即ち、排出時間Tに関わらず)面積値記録法がピーク値記録法よりも高感度になる。
【0117】
なお、排出周期Tに関しては、(9)式から排出周期Tが大きいほど高感度化に有利であることが分かるが、排出周期Tの長さは、サイクルタイムtと、質量分析部14で選択するイオン種の数nと、によって制限される。即ち、n種類の選択イオンを測定する場合はデュウェルタイムtがt/nになることから、排出周期Tは、
【数17】

【0118】
となるように制限される。
【0119】
以上に述べた面積値記録法による各設定時間の具体例を挙げると、例えば、サイクルタイムtが500msで、選択するイオン種の数nが50の場合は、(13)式から排出周期Tは10ms以下に設定する。仮に、排出時間Tを10msにして、さらに感度倍率αを10に設定した場合は、(9)式から開放時間tは100μsにすればよい。また、イオン波形の時定数βが500μsならば、このときピーク値記録法よりも面積値記録法の方が高感度になる条件は、(10)式からサンプリング周期Tを82μs以下にすればよい。
【0120】
図1に示す構成では、連続イオン源12と質量分析部14との間にイオン蓄積器13を配置したが、このイオン蓄積器13を質量分析部14と検出器15との間に配置しても同様の効果が得られる。但し、この場合には、質量分析部14が選択するイオン種が変わる毎に蓄積器内のイオンをすべて排出するような電圧シーケンスを設定する必要がある。このため、図6に示すように、イオン蓄積器13と質量分析部14の電圧シーケンスは、イオン蓄積器13への不要なイオンの進入を防ぐため、質量分析部14の選択イオンが変わる毎に入口電極22に通常よりも高い電圧を所定の時間加え、その間に多重極イオンガイド23のRF電圧を切る、或いは出口電極24を開放して、蓄積器内のイオンをすべて排出するように設定される。この動作が完了した後、出口電極24には排出周期Tのパルス電圧を印加し、多重極イオンガイド23には動径方向にイオンを束縛するようなRF電圧を印加する。入口電極22には上流からのイオンが蓄積器へ進入することを許容し、且つ蓄積したイオンの逆流を防ぐための一定電圧を印加する。蓄積器内のイオンをすべて排出するために必要な時間をt、サイクルタイムtで選択されるイオン種の数をnとすると設定される排出周期Tの条件は、
【数18】

【0121】
と表される。
【0122】
なお、上記の説明において、排出周期Tを一定とし、出口電極の開放時間と閉鎖時間に変化が無いものとしてきたが、これらの時間は測定中に変化しても良い。この場合にも、予め決定したイオンパルスの出現時間に亘ってイオン強度を積分すれば、透過率を改善させなくても(9)式に示す条件からガイド法よりも高感度な測定ができ、更に(10)式に示す条件からピーク値記録法よりも高感度な測定ができる。
【0123】
また、質量分析部14に適用される質量分析手法は磁場型質量分析法であっても良い。質量分析部14には、当該質量分析部14内を通過するイオンが下流方向に常に進みながら、質量電荷比毎にその軌道が空間的に分離される質量分析法が適用されれば良い。磁場型質量分析法を用いる場合、質量分析部14は光軸25に対して垂直な磁場を発生する磁極と、当該磁極の前方及び後方にイオンを通過させるためのスリットと、を基本的な構成として備える。
【0124】
また、第2データ処理部では、まず時間的出現プロファイルを各選択イオンについて取得した個数分だけ積算し、次にその積算した時間的出現プロファイルをイオンパルスの出現時間に亘って積分しても良い。
【0125】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る質量分析装置について説明する。図7はその構成図である。
【0126】
第2実施形態に係る質量分析装置50では、第1実施形態で述べた構成に加え、連続イオン源12とイオン蓄積器13との間に第1質量分析部51と、第1質量分析部51にRF電圧と直流電圧を印加する電源部29とが設けられる。第1実施形態で述べた質量分析部14は、本実施形態では第2質量分析部52として使用される。これに応じて、第1データ処理部17に入力される制御部30からの制御信号が増加するが、面積値記録法を用いて測定イオンの強度を算出する点は第1実施形態と同じである。
【0127】
第1質量分析部51は、第1実施形態で述べた質量分析部14と同様に、光軸25と平行に設けられた四極子を有し、通過するイオンに対して四重極質量分析法を用いた質量分析を行う。第1質量分析部51では、印加されるRF電圧(RF振幅Vmass1)が変わる度に質量電荷比の異なるイオンが選択され、当該分析部を通過する。
【0128】
試料は試料導入部11から連続イオン源12に導入される。連続イオン源12で生成したイオンは四重極質量分析法を用いた第1質量分析部51において質量電荷比毎に分離・選択され、選択されたプレカーサーイオンのみがイオン蓄積器13に入射する。
【0129】
イオン蓄積器13において、プレカーサーイオンの一部はコリジョンガスとの衝突によって開裂(解離)し、プロダクトイオン(フラグメントイオン)となる。出口電極24にパルス電圧Vを印加することで、プレカーサーイオン及びプロダクトイオンはこのパルス電圧Vと同じ周期で排出され、その後、四重極質量分析法を用いた第2質量分析部52で再度分離され、検出器15へ入射しアナログ信号となる。このアナログ信号はAD変換器16でデジタル信号に変換される。このデジタル信号を第1データ処理部17が時間的出現プロファイルの算出に用い、その結果がメモリ装置21に記録される。
【0130】
第1質量分析部51及び第2質量分析部52には、イオンの選択を行うためのRF電圧と直流電圧が電源部28、29から供給され、これらの電圧は制御部30から電源に入力される制御信号によって制御される。制御部30からは、試料導入部11へ試料導入の開始を命令する制御信号50が出力される。第1データ処理部17には、試料導入部11及び電源部27〜29への制御信号50〜53をそれぞれ参照した参照信号60〜63が入力される。第1データ処理部17は、これらの参照信号60〜63に基づいてデジタル信号を処理し、試料導入を開始してからの経過時刻(以下、分析時刻)と、そのときに第1質量分析部51及び第2質量分析部52で選択されたイオンの質量電荷比と、検出器15に入射したイオンの時間的出現プロファイルとがメモリ装置21に記録される。
【0131】
イオン蓄積器13によるイオンの蓄積及び排出動作は第1実施形態と同じである。即ち、イオン蓄積器13の出口電極24にパルス電圧Vを周期的に印加し、イオンの蓄積動作と排出動作を繰り返す。即ち、蓄積動作では閉鎖時間tの間に出口電極24の電圧を多重極イオンガイド23の軸電圧よりも所定の値だけ高く設定し、イオン蓄積器13にあるプレカーサーイオン及びプロダクトイオンが出口電極24から抜け出すのを防ぐ。排出動作では開放時間tの間に多重極イオンガイド23の軸電圧よりも出口電圧を所定の値だけ低く設定し、イオン蓄積器13内のこれらのイオンを出口電極24の開口部24aから排出する。
【0132】
なお、イオン蓄積器13内に蓄積されるイオンはコリジョンガスとの衝突によって(即ち、衝突冷却によって)運動エネルギーが低下するので、閉鎖時間tの間はイオン蓄積器13からの逸脱が抑制される。これによりイオン蓄積器13でのイオン損失を抑え、イオン源から検出器15に至るイオン透過率がガイド法を用いた場合とほぼ同じになる。つまり、本実施形態におけるコリジョンガスは、プロダクトイオンの生成と、衝突冷却を促進させる。
【0133】
排出周期Tで蓄積動作と排出動作を繰り返せば、イオン蓄積器13に流入する連続的なプレカーサーイオンによるイオン流はイオンパルスとなって排出される。このときの周期は排出周期Tに等しい。
【0134】
イオン蓄積器13から排出された直後のイオンパルスには、第1質量分析部51で選択したプレカーサーイオンやそのプロダクトイオンが混在する。しかしながら、検出器15に入射するときには、第2質量分析部52で選択されたイオン種しか含まないようになる。
【0135】
検出器15から出力される選択イオンの信号はAD変換器16によって周期Tでサンプリングされた後、デジタル信号となって第1データ処理部17で時間的出現プロファイルの算出に用いられる。その結果はメモリ装置21に記録される。第2データ処理部18は、この時間的出現プロファイルから選択イオンの信号強度を算出する。その算出方法として面積値記録法が採用される。
【0136】
第2実施形態に係る質量分析装置では、異なる測定モード(即ち、シングルリアクションモニタリングモード、プレカーサーイオンスキャンモード、ニュートラルロススキャンモード、マルチプルリアクションモニタリングモード)による質量分析が行われる。
【0137】
シングルリアクションモニタリングモードでは第1質量分析部51と第2質量分析部52が共に一種類のイオンのみを選択する。
【0138】
シングルリアクションモニタリングモードにおける電圧シーケンスの一例を図8に示す。第1質量分析部51のRF電圧(RF振幅Vmass1)はサイクルタイムtの間で常に一定に設定される。これにより一種類のイオンのみが選択されてイオン蓄積器13に輸送される。入口電極22には蓄積したイオンの逆流を防ぎ、且つ上流からのイオンが蓄積器へ進入することを許容する一定電圧Vinを印加する。多重極イオンガイド23のRF電圧(RF振幅Vion)は一定である。第2分析部で選択されるイオンに対してイオンパルスの電荷量(即ち、選択イオンの総数)が最大となるように予め最適化してもよい。出口電極24には排出周期Tのパルス電圧Vを加える。従って、蓄積動作と排出動作が周期T毎に繰り返される。第1分析部と同様に第2質量分析部52のRF電圧(RF振幅Vmass2)も一定である。従って、出口電極24から払い出されたプロダクトイオンのうち1種類のイオンが選択され、検出器15に輸送される。
【0139】
プロダクトイオンスキャンモードでは、第1質量分析部51で1種類のイオンを選択し、デュウェルタイムt毎に第2質量分析部52で異なる種類のイオンを選択する。
【0140】
プロダクトイオンスキャンモードにおける電圧シーケンスの一例を図9に示す。この電圧シーケンスでは、サイクルタイムt内でn種類のイオンが測定される。
【0141】
第1質量分析部51のRF振幅Vmass1はサイクルタイムtの間で常に一定に設定される。これにより一種類のイオンのみが選択されてイオン蓄積器13に輸送される。入口電極22には蓄積したイオンの逆流を防ぎ、且つ上流からのイオンが蓄積器へ進入することを許容する一定電圧を印加する。
【0142】
第2質量分析部で選択されるイオンに対してイオンパルスの電荷量(即ち、選択イオンの総数)が最大となるように予め最適化するのが好ましい。出口電極24には排出周期Tのパルス電圧Vを加える。従って、蓄積動作と排出動作が排出周期T毎に繰り返される。出口電極24から払い出されたイオンは、第2質量分析部52に輸送される。第2質量分析部52にはRF電圧が加えられ、デュウェルタイムt毎に、選択イオンの種類に応じてその振幅(RF振幅Vmass2)を変える。第2質量分析部52において選択されたイオンは検出器15に輸送される。なお、上記最適化のため、多重極イオンガイド23のRF振幅Vionは第2質量分析部52のRF振幅Vmass2と同じ周期で変化するのが好ましい。
【0143】
プレカーサーイオンスキャンモードでは、第1質量分析部51で異なる種類のプレカーサーイオンを所定の周期T毎に選択し、各プレカーサーイオンとコリジョンガスとの衝突から生成された1種類のプロダクトイオンのみを第2質量分析部52で選択する。
【0144】
プレカーサーイオンスキャンモードにおける電圧シーケンスの一例を図10に示す。
【0145】
第1分析部のRF振幅Vmass1は所定の周期T毎に変わる。従って、周期T毎に種類の異なるイオンが選択されてイオン蓄積器13に輸送される。図10に示す例では、サイクルタイムtの間にn種類のプレカーサーイオンがイオン蓄積器13に入射することになる。
【0146】
プレカーサーイオンスキャンモードでは、第1質量分析部51によって選択されたプレカーサーイオンがイオン蓄積器13内に複数種蓄積されると、第2分析部で選択したプロダクトイオンの前躯体となるプレカーサーイオンのイオン種を正しく同定できなくなる。このため、第1分析部による選択イオンが変わる毎に蓄積器内のイオンを全て排出しなければならない。
【0147】
従って、入口電極22には、第1質量分析部51での選択イオンが変わる毎に、排除時間tの間だけ通常よりも高い電圧を印加し、イオン蓄積器13へのイオンの進入を防ぐ。同時に、多重極イオンガイド23のRF電圧を遮断する、或いは出口電極24の電圧を下げて、イオン蓄積器13内のイオンを全て排出する。この排出動作が完了した後、入口電極22には蓄積したイオンの逆流を防ぎ、且つ上流からのイオンが蓄積器へ進入することを許容する一定電圧を印加する。多重極イオンガイド23には動径方向にイオンを束縛するようなRF電圧(RF振幅Vion)を印加する。また、出口電極24には、デュウェルタイムtの間に排出周期Tのパルス電圧Vが印加される。
【0148】
第2分析部のRF振幅Vmass2は常に一定である。従って、出口電極24から払い出されたプロダクトイオンのうち1種類のイオンが選択され、検出器15に輸送される。
【0149】
ニュートラルロススキャンモードでは、第1質量分析部51の選択イオンと第2質量分析部52の選択イオンとの質量電荷比の差を、所定の値に固定して両質量分析部をスキャンする。
【0150】
ニュートラルロススキャンモードにおける電圧シーケンスの一例を図11に示す。この図に示すように、この測定モードの電圧シーケンスでは、プレカーサーイオンとプロダクトイオンの質量電荷比の差が一定となるようなRF電圧(RF振幅Vmass2)が第2質量分析部52に印加される。また、第1質量分析部51のRF電圧に対して第2質量分析部52のRF電圧は同期している。その他の電圧設定はプレカーサーイオンスキャンモードと同じである。
【0151】
なお、プレカーサーイオンとプロダクトイオンの質量電荷比の差を任意に設定した場合、その測定モードはマルチプルリアクションモニタリングモードと呼ぶ。
【0152】
イオンパルスは出口電極24が開放されてから検出器15に到達するまでの第2分析器で選択したイオンの時間的出現プロファイルから抽出する。この時間的出現プロファイルを取得するため、第1データ処理部17へは出口電極24へ印加するパルス電圧Vの参照信号でデジタル信号の取り込みを開始させる。これにより、排出周期T毎に第2質量分析部52で選択したイオンの時間的出現プロファイルが計測できる。第2データ処理部では、この時間的出現プロファイルをイオンパルスの出現時間に亘って積分し、この積分値を各選択イオンに対して取得した時間的出現プロファイルの個数分だけ合計する。これを第2質量分析部52で選択したイオンの、そのときの分析時刻におけるイオン強度としてメモリ装置21に記録する。同時にこのときのプレカーサーイオンの質量電荷比もメモリ装置21に記録する。分析時刻は第1データ処理部17に入力される試料の導入開始を命令する制御信号の参照信号を基準に計測される。プレカーサーイオンの質量電荷比は第1質量分析部51の制御信号を参照した信号から取得できる。シングルリアクションモニタリング、プロダクトイオンスキャン、ニュートラルロススキャン、マルチプルリアクションモニタリングの場合、時間的出現プロファイルの積分値を第2質量分析部52の選択イオン毎に合計し、プレカーサーイオンスキャンの場合、時間的出現プロファイルの積分値を第1質量分析部51の選択イオン毎に合計すればよい。
【0153】
積分値を合計する際の時間的出現プロファイルの個数は、各選択イオンあたり次のようになる。シングルリアクションモニタリングモードでは(t/T)個になる(図8参照)。プロダクトイオンスキャンモードでn種類のプロダクトイオンを選択する場合、(t/(n*T))個になる(図9参照)。プレカーサーイオンスキャンモードでn種類のプレカーサーイオンイオンを選択する場合、(t/(n*T)−t/T)個になる(図10参照)。ニュートラルロススキャン或いはマルチプルリアクションモニタリングでn種類のプロダクトイオンを選択する場合、(t/(n*T)−t/T)個になる(図11参照)。
【0154】
本実施形態の質量分析装置でも、第1実施形態の説明において導出した式(8)〜(12)が全て成り立つ。これは両実施形態で得られるイオンパルスの特性に違いが無いためである。
【0155】
本実施形態でも(9)式により装置の透過率を向上させなくても感度が上がり、この高感度化はさらにサンプリング周期にも関係しない。例えば、排出周期Tを開放時間tの100倍以上にすれば、サンプリング周期に関わらずガイド法よりも10倍高い感度が得られる。
【0156】
第1実施形態でも述べたように、従来の技術において、一定の蓄積時間の下で感度を制御するには、イオン電流が減衰する時定数を変化させる必要がある。この時定数はイオン蓄積器13の光軸25方向への長さと、当該イオン蓄積器13内の圧力によって決まるが、その長さの調整は不可能である。一方、コリジョンガスによるイオン蓄積器13内の圧力の制御は、その圧力の測定及びその圧力が得られるまでの遅延等があるために困難である。しかも、コリジョンガスを過剰に導入すると測定するイオンは著しく減衰する。また、コリジョンガスはプロダクトイオンが生成する圧力にしなければならないため、得られる時定数の範囲は限られる。しかしながら、上述のように本発明では、排出時間を変化させることで容易に感度を制御できる。
【0157】
また、本実施形態がピーク値記録法よりも高感度となる条件は(10)式で表される。さらに、感度倍率の値に関わらず、即ち、排出周期Tに関わらず本実施形態がピーク値記録法よりも高感度となる条件は(12)式で表される。
【0158】
なお、本実施形態でも第1実施形態と同様に、(9)式より排出周期Tが大きいほど高感度化に有利であることが分かるが、排出周期Tの長さはサイクルタイムtと、第1質量分析部51或いは第2質量分析部52で選択するイオン種の数nと、によって制限される。そして、排出周期Tはデュウェルタイムtよりも小さくする必要がある。即ちシングルリアクションモニタリングモードにおいて、排出周期Tは、
【数19】

【0159】
となるように制限される。一方、第2質量分析部52でn種のイオンを選択するプロダクトイオンスキャンでは排出周期Tは、
【数20】

【0160】
となるように制限される。更に、n種のプレカーサーイオンを選択するプレカーサーイオンスキャンや、n種のプレカーサーイオンとプロダクトイオンを選択するニュートラルロススキャン、及びマルチプルリアクションモニタリングにおいて、排出周期Tは、
【数21】

【0161】
となるように制限される。
【0162】
第2実施形態においても第1実施形態と同様に、排出周期T及び出口電極24の開放時間を測定中に変化させても、予め決定したイオンパルスの出現時間に亘ってイオン強度を積分すれば、透過率を改善することなくガイド法及びピーク値記録法よりも高感度な測定ができる
また、第1質量分析部51と第2質量分析部52に適用される質量分析手法は磁場型質量分析法であっても良い。各質量分析部には、当該質量分析部内を通過するイオンが下流方向に常に進みながら、質量電荷比毎にその軌道を空間的に分離される質量分析法が適用されれば良い。磁場型質量分析法を用いる場合、各質量分析部は光軸25に対して垂直な磁場を発生する磁極と、当該磁極の前方及び後方にイオンを通過させるためのスリットと、を基本的な構成として備える。
【0163】
また、第2データ処理部では、まず時間的出現プロファイルを各選択イオンについて取得した個数分だけ積算し、次にその積算した時間的出現プロファイルをイオンパルスの出現時間に亘って積分しても良い。
【0164】
なお、本実施形態ではイオン蓄積器13を衝突室と兼用する形で用いたが、その変形例として、イオン蓄積器13を第2質量分析部52と検出器15の間に設置してもよい。その構成は、上述したイオン蓄積器13と同様であり、衝突冷却用のガス導入手段26も備える。
【0165】
この変形例において、シングルリアクションモニタリングモードでの電圧シークエンスは、イオン蓄積器13を衝突室と兼用する場合と同じである。イオン蓄積器13の出口電極24に一定周期Tのパルス電圧Vを加えることで、蓄積動作と排出動作が周期Tで繰り返され、第1質量分析部51と第2質量分析部52のRF電圧はサイクルタイム中、常に一定にすることで一種類のイオンのみが選択される。
【0166】
蓄積器の入口電極22には、蓄積したイオンの逆流を防ぎ、且つ上流からのイオンが蓄積器へ進入することを許容する一定電圧を印加する。蓄積器、及び衝突室の多重極イオンガイド23のRF電圧は一定でもよい。また、これらのRF電圧は、第2質量分析部52で選択されるイオンに対し、イオンパルスの電荷量が最大となるように予め最適化することもできる。なお、排出時間Tは(15)式で制限される。
【0167】
本変形例におけるプレカーサーイオンスキャンでは、第1質量分析部51での選択イオンが変わる度に、衝突室のイオンを排除時間の間で全て排出すれば、イオン蓄積器13でこの動作を重複する必要はない。蓄積器の出口電極24には一定周期Tのパルス電圧Vを加えることで、蓄積動作と排出動作がこれと同じ排出周期Tで繰り返される。蓄積器の入口電極22には蓄積したイオンの逆流を防ぎ、且つ上流からのイオンが蓄積器へ進入することを許容する一定電圧を印加する。なお、排出時間Tは(17)式で制限される。
【0168】
本変形例におけるプロダクトイオンスキャン、ニュートラルロススキャン、及びマルチプルリアクションモニタリングでは、イオン蓄積器13直前の第2質量分析部52で選択イオンが変化する。このため、第2質量分析部52で過去に選択されたイオンが、イオン蓄積器13に残存しないように、第2質量分析部52での選択イオンが変わる度に蓄積器内のイオンを全て排出する必要がある。
【0169】
そこで、第1質量分析部51の選択イオンが変わる度に、排除時間tの間だけ、蓄積器の入口電極22に通常よりも高い電圧を加えて蓄積器へのイオンの進入を防ぐ。その間に蓄積器の多重極イオンガイド23のRF電圧を切る、或いは蓄積器の出口電極24を開放して、蓄積器内のイオンを全て排出する。この動作が完了した後、蓄積器の出口電極24には排出周期Tのパルス電圧Vを印加する。また、蓄積器の多重極イオンガイド23には、動径方向にイオンを束縛するRF電圧を印加する。さらに、蓄積器の入口電極22には蓄積したイオンの逆流を防ぎ、且つ上流からのイオンが蓄積器へ進入することを許容する一定電圧を印加する。なお、排出時間Tは(17)式で制限される。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】本発明の第1実施形態に係る質量分析装置の構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る電圧シーケンスの一例である。
【図3】異なる質量電荷比の各時間的出現プロファイルの一例である。
【図4】図3に示されたイオンパルスの出現時間を表したグラフである。
【図5】本発明の面積値記録法が適用される条件を示すグラフである。
【図6】本発明の第1実施形態に係る質量分析装置の変形例における電圧シーケンスの一例である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る質量分析装置の構成図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係るシングルリアクションモニタリングモードでの電圧シーケンスの一例である。
【図9】本発明の第2実施形態に係るプロダクトイオンスキャンモードでの電圧シーケンスの一例である。
【図10】本発明の第2実施形態に係るプレカーサーイオンスキャンモードでの電圧シーケンスの一例である。
【図11】本発明の第2実施形態に係るニュートラルロスイオンスキャンモード、或いはマルチプルリアクションモニタリングモードでの電圧シーケンスの一例である。
【図12】従来の質量分析装置の一例を示す構成図である。
【図13】従来の質量分析装置の例を示す構成図である。
【図14】パルス排出法によって得られるイオン強度の一例である。
【符号の説明】
【0171】
11:試料導入部
12:連続イオン源
13:イオン蓄積器
14:質量分析部
15:検出器
16:AD変換器
17:第1データ処理部
18:第2データ処理部
19:波高弁別部
20:出現時間算出部
21:メモリ装置
30:制御部
27,28,29:電源部
51:第1質量分析部
52:第2質量分析部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を連続的にイオン化する連続イオン源と、
前記連続イオン源の後段に設けられる質量分析部であって、前記連続イオン源による生成イオンのうち所望のイオンを選択イオンとして選択する質量分析部と、
前記質量分析部の前段に設けられ、閉鎖及び開放動作を所定の周期毎に行って前記連続イオン源で生成されたイオンのイオンパルスを発生する、若しくは、前記質量分析部の後段に設けられ、前記閉鎖及び開放動作を前記所定の周期毎に行って前記選択イオンのイオンパルスを発生するイオン蓄積器と、
前記選択イオンのイオンパルスを含むアナログ信号を出力する検出器と、
前記検出器からのアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記所定の周期と同じ周期の間に前記デジタル信号を入力し、前記選択イオンの時間的出現プロファイルを取得する第1データ処理部と、
前記取得した前記選択イオンの時間的出現プロファイルを、前記イオンパルスに対する所定の出現時間にわたり積分し、その積分値を前記選択イオンのイオン強度として算出する第2データ処理部と、
前記積分に際して前記データ処理部から参照される前記所定の出現時間を記憶し、前記選択イオンの時間的出現プロファイル及び前記イオン強度を記録するメモリ装置と、
を備え、
前記質量分析部は、四重極質量分析法、磁場型偏向質量分析法、又は該質量分析器内でイオンの軌道を質量電荷比毎に分散させ常に下流に輸送する方法の何れかを適用することを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
試料を連続的にイオン化する連続イオン源と、
前記連続イオン源の後段に設けられる第1質量分析部であって、前記連続イオン源による生成イオンのうち所望のプレカーサーイオンを選択する第1質量分析部と、
第1質量分析部の後段に設けられる衝突室であって、前記プレカーサーイオンを開裂させ、プロダクトイオンを生成する衝突室と、
前記衝突室の後段に設けられる第2質量分析部であって、前記プロダクトイオンの中から所望のイオンを選択イオンとして選択する第2質量分析部と、
前記第1質量分析部と前記第2質量分析部の間に設けられ、閉鎖及び開放動作を所定の周期毎に行って前記プロダクトイオンのイオンパルスを発生する、若しくは、前記第2質量分析部の後段に設けられ、前記閉鎖及び開放動作を前記所定の周期毎に行って前記選択イオンによるイオンパルスを発生するイオン蓄積器と、
前記選択イオンのイオンパルスを含むアナログ信号を出力する検出器と、
前記検出器からのアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記所定の周期と同じ周期の間に前記デジタル信号を入力し、前記選択イオンの時間的出現プロファイルを取得する第1データ処理部と、
前記取得した前記選択イオンの前記時間的出現プロファイルを、前記イオンパルスに対する所定の出現時間にわたり積分し、その積分値を前記選択イオンのイオン強度として算出する第2データ処理部と、
前記積分に際して前記データ処理部から参照される前記所定の出現時間を記憶し、前記選択イオンの時間的出現プロファイル及び前記イオン強度を記録するメモリ装置と、
を備え、
前記イオン蓄積器が前記第1質量分析部と前記第2質量分析部との間に設けられる場合、前記衝突室が前記イオン蓄積器を兼ねて前記閉鎖及び開放閉鎖動作を所定の周期毎に行って前記プロダクトイオンのイオンパルスを発生し、
前記第1及び第2質量分析部は、四重極質量分析法、磁場型偏向質量分析法、又は該質量分析器内でイオンの軌道を質量電荷比毎に分散させ常に下流に輸送する方法の何れかを適用することを特徴とする質量分析装置。
【請求項3】
前記第1データ処理部は前記選択イオンのイオンパルスを複数回発生させて得た前記選択イオンの複数の時間的出現プロファイルを取得し、
前記第2データ処理部は前記複数の時間的出現プロファイルのそれぞれについて求めた前記積分値を合計した値を前記選択イオンのイオン強度とすることを特徴とする請求項1又は請求項2の何れかに記載の質量分析装置。
【請求項4】
前記選択イオンを変化させて、選択イオン毎のイオン強度のデータからなる質量スペクトルを取得することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の質量分析装置。
【請求項5】
前記時間的出現プロファイルの波高弁別を行う波高弁別部と、
前記所定の出現時間を算出する出現時間算出部と、
を更に備え、
前記波高弁別部は、既知で且つ互いが異なる質量電荷比の複数の較正用時間的出現プロファイルに対して波高弁別を行い、複数の較正用出現時間を取得し、
前記出現時間算出部は、複数の較正用出現時間を内挿することにより任意の選択イオンに対する出現時間を算出し、前記所定の出現時間として前記メモリ装置に記憶させることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の質量分析装置。
【請求項6】
前記所定の周期は前記開放動作に要する時間よりも大きいことを特徴とする請求項1又は請求項2の何れかに記載の質量分析装置。
【請求項7】
前記イオンパルスが減衰する時定数をβ、前記開放動作の時間をt、前記所定の周期をT、前記AD変換器のサンプリング周期をTとして、これらが、
【数1】

の関係を満たすことを特徴とする請求項1又は請求項2の何れかに記載の質量分析装置。
【請求項8】
前記イオンパルスが減衰する時定数をβ、前記開放動作の時間をt、前記所定の周期をT、前記AD変換器のサンプリング周期をTとして、これらが、
【数2】

の関係を満たすことを特徴とする請求項1又は請求項2の何れかに記載の質量分析装置。
【請求項9】
前記イオン蓄積器は、RF電場を発生する多重極イオンガイドと、前記多重極イオンガイドの前方に設けられる入口電極であって、前記生成イオン或るいは前記選択イオンを通過させるための開口部を有し、通過したイオンの逆流を防ぐ電場を発生する入口電極と、前記多重極イオンガイドの後方に設けられる出口電極であって、蓄積されたイオンを排出するための開口部を有し、前記閉鎖及び開放動作のための電場を発生する出口電極と、前記多重極イオンガイドにコリジョンガスを導入して衝突冷却を行うガス導入手段と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項10】
前記イオン蓄積器が前記質量分析部と前記検出器との間に設けられる場合、前記イオン蓄積器は前記質量分析部が前記選択イオンを変える度に該イオン蓄積器に蓄積されたイオンを全て排出することを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項11】
前記衝突室が前記イオン蓄積器を兼ねる場合、前記衝突室は、RF電場を発生する多重極イオンガイドと、前記多重極イオンガイドの前方に設けられる入口電極であって、前記プレカーサーイオンを通過させる開口部を有し、通過した該プレカーサーイオンの逆流を防ぐ電場を発生する入口電極と、前記多重極イオンガイドの後方に設けられる出口電極であって、蓄積されたイオンを排出するための開口部を有し、前記閉鎖及び開放動作のための電場を発生する出口電極と、前記多重極イオンガイドにコリジョンガスを導入して衝突冷却を行うガス導入手段と、を含むことを特徴とする請求項2に記載の質量分析装置。
【請求項12】
前記イオン蓄積器が前記第2質量分析部と前記検出器との間に設けられる場合、前記衝突室はコリジョンガスを導入して衝突冷却を行うガス導入手段を備え、前記イオン蓄積器は、RF電場を発生する多重極イオンガイドと、前記多重極イオンガイドの前方に設けられる入口電極であって、前記選択イオンを通過させる開口部を有し、通過した該生成イオンの逆流を防ぐ電場を発生する入口電極と、前記多重極イオンガイドの後方に設けられる出口電極であって、蓄積された前記選択イオンを排出するための開口部を有し、前記前記閉鎖及び開放動作のための電場を発生する出口電極と、を含むことを特徴とする請求項2に記載の質量分析装置。
【請求項13】
前記イオン蓄積器が前記第2質量分析部と前記検出器との間に設けられる場合、前記イオン蓄積器は前記第2質量分析部が前記選択イオンを変える度に、該イオン蓄積器に蓄積されたイオンを全て排出することを特徴とする請求項2に記載の質量分析装置。
【請求項14】
試料を連続的にイオン化する第1工程と、
前記第1工程による生成イオンに対して質量分析を行い、所望のイオンを選択イオンとして選択する第2工程と、
前記第2工程の前に、前記生成イオンに対して閉鎖及び開放動作を所定の周期毎に行ってイオンパルスを発生する、若しくは前記第2工程の後に、前記選択イオンに対して前記閉鎖及び開放動作を前記所定の周期毎に行ってイオンパルスを発生する第3工程と、
前記選択イオンのイオンパルスを含むアナログ信号を出力する第4工程と、
前記検出器からのアナログ信号をデジタル信号に変換する第5工程と、
前記所定の周期と同じ周期の間に前記デジタル信号を入力し、前記選択イオンの時間的出現プロファイルを取得する第6工程と、
前記取得した前記選択イオンの前記時間的出現プロファイルを、前記イオンパルスに対する所定の出現時間にわたり積分し、その積分値を前記選択イオンのイオン強度として算出する第7工程と、
前記積分に際して前記データ処理部から参照される前記所定の出現時間を記憶し、前記選択イオンの時間的出現プロファイル及び前記イオン強度を記録する第8工程と、
を備え、
前記質量分析には、四重極質量分析法、磁場型偏向質量分析法、又は該質量分析器内でイオンの軌道を質量電荷比毎に分散させ常に下流に輸送する方法の何れかを適用することを特徴とする質量分析方法。
【請求項15】
試料を連続的にイオン化する第1工程と、
前記第1工程による生成イオンに対して質量分析を行い、所望のプレカーサーイオンを選択する第2工程と、
前記プレカーサーイオンを開裂させ、プロダクトイオンを生成する第3工程と、
前記プレカーサーイオン及び前記プロダクトイオンに対して質量分析を行い、所望のイオンを選択イオンとして選択する第4工程と、
前記第4工程の前に、閉鎖及び開放動作を所定の周期毎に行って前記プレカーサーイオン又は前記プロダクトイオンのイオンパルスを発生する、若しくは、前記第4工程の後に前記閉鎖及び開放動作を前記所定の周期毎に行って前記選択イオンのイオンパルスを発生する第5工程と、
前記選択イオンのイオンパルスを含むアナログ信号を出力する第6工程と、
前記検出器からのアナログ信号をデジタル信号に変換する第7工程と、
前記所定の周期と同じ周期の間に前記デジタル信号を入力し、前記選択イオンの時間的出現プロファイルを取得する第8工程と、
前記取得した前記選択イオンの前記時間的出現プロファイルを、前記イオンパルスに対する所定の出現時間にわたり積分し、その積分値を前記選択イオンのイオン強度として算出する第9工程と、
前記積分に際して前記データ処理部から参照される前記所定の出現時間を記憶し、前記選択イオンの時間的出現プロファイル及び前記イオン強度を記録する第10工程と、
を備え、
前記第2工程及び第4工程における質量分析は、四重極質量分析法、磁場型偏向質量分析法、又は該質量分析器内でイオンの軌道を質量電荷比毎に分散させ常に下流に輸送する方法の何れかを適用することを特徴とする質量分析方法。
【請求項16】
前記選択イオンのイオンパルスを複数回発生させて得た前記選択イオンの複数の時間的出現プロファイルのそれぞれについて求めた前記積分値を合計した値を前記選択イオンのイオン強度として用いることを特徴とする請求項14又は請求項15の何れかに記載の質量分析方法。
【請求項17】
前記選択イオンを変化させて、選択イオン毎のイオン強度のデータからなる質量スペクトルを取得することを特徴とする請求項14乃至請求項16の何れかに記載の質量分析方法。
【請求項18】
前記時間的出現プロファイルの波高弁別を行う波高弁別工程と、
前記所定の出現時間を算出する出現時間算出工程と、
を更に備え、
前記波高弁別工程では、既知で且つ互いが異なる質量電荷比の複数の較正用時間的出現プロファイルに対して波高弁別を行い、複数の較正用出現時間を取得し、
前記出現時間算出工程では、複数の較正用出現時間を内挿することにより任意の選択イオンに対する出現時間を算出し、前記所定の出現時間として前記メモリ装置に記憶させることを特徴とする請求項14乃至請求項17の何れかに記載の質量分析方法。
【請求項19】
前記所定の周期は前記開放動作に要する時間よりも大きいことを特徴とする請求項14又は請求項15の何れかに記載の質量分析方法。
【請求項20】
前記イオンパルスが減衰する時定数をβ、前記開放動作の時間をt、前記所定の周期をT、前記AD変換器のサンプリング周期をTとして、これらが、
【数3】

の関係を満たすことを特徴とする請求項14又は請求項15の何れかに記載の質量分析方法。
【請求項21】
前記イオンパルスが減衰する時定数をβ、前記開放動作の時間をt、前記所定の周期をT、前記AD変換器のサンプリング周期をTとして、これらが、
【数4】

の関係を満たすことを特徴とする請求項14又は請求項15の何れかに記載の質量分析方法。
【請求項22】
前記第3工程は、更に、RF電場を発生するRF電場発生工程と、前記RF電場の前方に、前記生成イオン或るいは前記選択イオンを通過させ、且つ、通過したイオンの逆流を防ぐ電場を発生する第1電場発生工程と、前記RF電場の後方に、前記閉鎖及び開放動作のための電場を発生する第2電場発生工程と、コリジョンガスを導入して衝突冷却を行うガス導入工程と、を含むことを特徴とする請求項14に記載の質量分析方法。
【請求項23】
前記第3工程において前記第2工程の後に前記選択イオンに対して前記閉鎖及び開放動作を前記所定の周期毎に行ってイオンパルスを発生する場合、該第3工程は、前記第2工程における前記選択イオンの選択を変える度に、前記閉鎖動作によって蓄積されたイオンを全て排出する工程を更に含むことを特徴とする請求項14に記載の質量分析方法。
【請求項24】
前記第5工程は、更に、RF電場を発生するRF電場発生工程と、前記RF電場の前方に、前記生成イオン或るいは前記選択イオンを通過させ、且つ、通過したイオンの逆流を防ぐ電場を発生する第1電場発生工程と、前記RF電場の後方に、前記閉鎖及び開放動作のための電場を発生する第2電場発生工程と、コリジョンガスを導入して衝突冷却を行うガス導入工程と、を含むことを特徴とする請求項15に記載の質量分析方法。
【請求項25】
前記第3工程は、更に、コリジョンガスを導入して衝突冷却を行うガス導入工程を含むことを特徴とする請求項15に記載の質量分析方法。
【請求項26】
前記第5工程において前記第4工程の後に前記閉鎖及び開放動作を前記所定の周期毎に行って前記選択イオンのイオンパルスを発生する場合、該第5工程は、前記第2工程における前記選択イオンの選択を変える度に、前記閉鎖動作によって蓄積されたイオンを全て排出する工程を更に含むことを特徴とする請求項15に記載の質量分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−127714(P2010−127714A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301551(P2008−301551)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】