説明

質量分析装置

【課題】濃度不明の液体試料を測定する場合に、質量分析計の汚染の発生を抑制し、検出感度の低下を防止することができる質量分析装置を実現する。
【解決手段】液体クロマトグラフ質量分析装置において、質量分析計はオートサンプラのサンプル注入信号により、測定を開始し、測定中に基準ピークMを超えるピークが測定されたか否かを判断する。基準ピークM以上のピークが測定された場合は、試料のイオン化を中止し、サンプル濃度を下げる指示を送出する。基準ピークMを超えるピークが測定されない場合は、基準ピークmを超えるピークがn本以上測定されるか否かを判断する。基準ピークmを超えるピークがn本以上測定されない場合はサンプル濃度を上げる指示を送出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析装置に係わり、特に液体試料を測定する質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料を質量分析計で測定する装置として、溶媒とそれを送りだすポンプと液体試料を注入するオートサンプラと質量分析計から構成される液体クロマトグラム質量分析装置(LC−MS)がある。このLC−MSにおいては、液体試料はオートサンプラから注入され、ポンプによって送られる溶媒中に導入され質量分析計に送られて測定される。
【0003】
このとき、溶媒あるいは液体試料は、質量分析計に到達するときには200〜300℃の高温と2〜3KVの加電圧によって気化され、イオン化された状態となる。
【0004】
このLC−MSにおいて、連続質量分析を行う場合には、まず、オートサンプラが予め準備されたバイアルの場所と注入量を使用者が決めた測定回数分だけ試料注入するように制御装置に認識させる。質量分析計を制御する制御装置により同じ測定回数分を測定するように認識させる。
【0005】
そして、オートサンプラと質量分析計は各々を制御する制御装置を介してお互いにコミュニケーションをとり、オートサンプラは質量分析計から液体試料注入の命令信号を受けて液体試料を注入する。また、オートサンプラは試料を注入した後、測定開始の信号を質量分析計に送る。測定が終了すると、質量分析計は次の試料注入の命令信号をオートサンプラに送り、オートサンプラは質量分析計から液体試料注入の命令信号を受けて液体試料を注入し、また、オートサンプラは試料を注入した後、測定開始の信号を質量分析計に送出する。このサイクルを繰り返す事により連続自動分析を行うことができる。
【0006】
上記LC−MSにおいて、分離精製した成分の濃度をスプリッタ(質量分析装置の前段に配置)に導入する前に、UV検出器で検出し、検出した濃度に応じてスプリッタから質量分析装置への送液量を可変とする技術が特許文献1に記載されている。
【0007】
この特許文献1記載の技術は、高濃度から低濃度の試料まで最適な条件で分析を行うための技術である。
【0008】
【特許文献1】特開2002−116193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、液体試料の測定を行う場合に、予め濃度が不明な試料を測定する場合が多々ある。この場合、高い濃度の試料を質量分析計に送出し、その試料の測定を継続して行うと、質量分析計が汚染されてしまう場合がある。質量分析計が汚染されてしまうと測定の検出感度が下がり正確な測定を行うことができない。
【0010】
また、濃度不明の試料の場合、質量分析に最適な濃度が不明であるため、複数種の希釈率で試料を希釈したものを準備しておかなければならなかった。このため、貴重な試料の消費が多くなってしまっていた。
【0011】
そこで、特許文献1記載の技術を適用することが考えられるが、質量分析計を汚染するか否かまでの濃度レベルの判断は、スプリッタの前段に設けられたUV検出器の検出出力信号では行うことはできない。
【0012】
本発明の目的は、質量分析装置において、濃度不明の液体試料を測定する場合に、質量分析装置の汚染の発生を抑制し、検出感度の低下を防止することができる質量分析装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下に課題解決のための手段である液体試料の濃度の判定機能の概要について述べる。
【0014】
本発明において、質量分析計が濃度を判定する基準としては測定されたピークの強度を用いる。質量分析装置の使用者は予め設定値以上のピークが出た場合には試料濃度が濃すぎと判断すべきピークの値(Mとする)を決め、この値を質量分析計に認識させる。測定中にこのMを超えるピークが出た場合には、質量分析計は試料の濃度が濃いと判断し、イオン化手段への電圧供給を停止し、試料溶液のイオン化を行わない。質量分析計は薄い濃度の試料を調製するようにオートサンプラに信号を送る。
【0015】
また、質量分析装置の使用者は測定されたピークが他の設定値を超えない場合には試料の濃度が薄いと判断するピークの値(mとする)を質量分析計に認識させる。測定結果にこの設定値を超えるピーク本数が少ない場合には質量分析計は試料の濃度が薄いと判断し、質量分析計は前回の測定時に調製した試料濃度よりも高い濃度の試料を調製するようにオートサンプラに信号を送る。ピークの値がM以下かつmのピーク本数が一定値以上であった場合には、その回の測定試料の濃度が適切であると判定し、試料の測定を終了させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、濃度不明の液体試料を測定する場合に、質量分析計の汚染発生を抑制し、検出感度の低下を防止することができる。また、試料の消費量の増大を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態である質量分析装置の概略構成図である。
【0019】
図1において、質量分析装置は、溶媒3を送り出すポンプ1と、液体試料を注入するオートサンプラ2と、質量分析計4と、ポンプ1とオートサンプラ2とを制御する制御装置5と、質量分析計4を制御する制御装置6とを備えている。
【0020】
本発明の一実施形態である質量分析装置は、いわゆる液体クロマトグラフ質量分析装置(LC−MS)である。なお、図1において、実線は溶液或いは液体試料の流れを示し、点線はデータ或いは指示信号の流れを示している。
【0021】
図2は、本発明の一実施形態におけるオートサンプラ2の動作説明図である。
【0022】
図2において、オートサンプラ2は、シリンジ7と、クーラースタッカー8と、サンプル希釈液の排出口10と、シリンジ洗浄液の排出口11と、試料注入口を備えたバルブ12とを備えている。
【0023】
クーラースタッカー8は、内部に試料の入ったバイアルチューブ13を複数本収納することができる。
【0024】
シリンジ7は、クーラースタッカー8に収納された、バイアルチューブ13、サンプル希釈液の排出口10、シリンジ洗浄液の排出口11、及び試料注入口を備えたバルブ12の何れかまで移動可能に設置される。
【0025】
次に本発明の一実施形態の動作について説明する。
図3は本発明の一実施形態である質量分析装置における処理を示すフローチャートである。
図3において、まず使用者は測定試料の希釈率をオートサンプラ2に認識させる(ステップS301)。
【0026】
図4は、原液の量と希釈溶液の比率を示す表である。
使用者はこの図4に示すような表に基づいて、測定試料の希釈率をオートサンプラ2に認識させる。続いて、この表に示されたいずれかの濃度から1回目のサンプル濃度を設定する。1回目のサンプル濃度としては、図4に示す表の中間ぐらいの値を設定する。
【0027】
次に、質量分析計4に対しても設定を行う。使用者は基準ピークM、mと、ピーク本数nとを入力する(ステップS301)。
【0028】
この基準ピークM,mと、ピーク本数nについては後述する。
【0029】
次に、ステップS302に進み、オートサンプラ2は、図4に示す表のサンプル濃度に従いサンプル調整を行う。
【0030】
具体的にはオートサンプラ2のシリンジ7がクーラースタッカー8に収納されている試料原液の入ったバイアルチューブ13の所まで移動し、使用者が設定した量の試料をシリンジ7内部に注入し、新しいバイアルチューブ13に注入する。続いて、サンプル希釈液の排出口10から希釈溶液をシリンジ7内部に注入し、試料原液の注入された新しいバイアルチューブ13に注入し、この吸排出を繰り返すことにより指定されたサンプル濃度に試料を調整する。
【0031】
そして、オートサンプラ2は調製したサンプル濃度のサンプルをバルブ12の試料注入口に注入し、質量分析計4に測定開始の指示信号を送る(ステップS302)。
【0032】
次に、質量分析計4はオートサンプラ2からの測定開始の指示信号を受け、測定を開始する(ステップS303)。次に測定中に基準ピークMを超えるピークがあるかどうかを判定する(ステップS304)。
【0033】
図5は質量分析計4の測定中に、基準ピークM以上の強度のピークが測定された場合を示すクロマトグラフ図である。
図5に示すように、1本でも基準ピークM以上の強度のピークが測定された場合には、質量分析計4はこの回の測定時間が経過するまで、イオン化手段への電圧供給を停止し、イオン化を中止する。これは、質量分析計4の汚染を抑制するためである。そして、測定終了後、前回の測定の試料よりも1段階低い濃度の試料を調製する指示をオートサンプラ2に送出する(ステップS305)。
【0034】
次に、オートサンプラ2は、質量分析計4からの指示に従って、図4に示す表に従い、1段階低濃度のサンプル濃度を設定する(ステップS308)。
【0035】
次に新たに設定されたサンプル濃度が、既に実行済みのサンプル濃度かどうかを判定する(ステップS309)。このとき指示されたサンプル濃度が、既に実行済みのサンプル濃度である場合には、ステップS310に進み、そうでない場合には、ステップS302に戻り、再測定を行う。
【0036】
既に実行済みのサンプル濃度が指示された場合には、オートサンプラ2はアラームメッセージを表示し、使用者に指示されたサンプル濃度の設定を見直すように促す(ステップS310)。
【0037】
ステップS305において、M以上のピークが出なかった場合には、質量分析計4は基準ピークm以上のピークがn本あるか否かを基準に判定する(ステップS306)。
【0038】
図6は質量分析計4の測定中に、基準ピークm以上の強度のピークが7本測定された場合を示すクロマトグラム図であり、図7は質量分析計4の測定中に基準ピークm以上の強度のピークがn本以上測定されない場合を示すクロマトグラム図である。
【0039】
図6に示すように、基準ピークm以上のピークがn本ある場合には、測定は良好とみなし測定を終了する(ステップS311)。
【0040】
また、図7に示すように、m以上のピークがn本以上測定されない場合には試料の濃度が低かったと判定し、もう1段階高い濃度の試料を調製する指示をオートサンプラ2に送出する(ステップS307)。このステップS307における濃度の段階は、ステップS305における濃度段階より、その幅が狭いものである。そして、処理はステップS308に進む。尚、図7において、質量分析計4は、溶媒由来のピークが予め認識されており、溶媒由来のピークを判断基準に選ばないようにしている。
【0041】
上記の測定は、濃度不明の液体試料の良好な結果を得るか或いは測定前にオートサンプラ2に入力したサンプル濃度の設定を質量分析計4を汚さない範囲で全て測定できるまで繰り返される。
【0042】
ここで、上述した基準ピークM,mと、ピーク本数nについて説明する。
【0043】
質量分析計4は、あるイオン化した分子の1価の電荷あたりの質量を認識して、その量をピークの強度として測定データを出力する。このピークの強度は、測定する試料の濃度により変化し、測定する試料の濃度が高い場合には、ピークの強度が高くなり、濃度が低い場合には、ピークの強度が低くなる。また、試料の濃度と、ピークの強度の関係は、質量分析計のピークの強度検出可能範囲においては、ほぼ比例関係にある。
【0044】
ただし、試料のイオン化のし易さにより、試料の濃度変化によって変わるピークの強度変化が変わる。つまり、イオン化し易い試料の場合には、試料の濃度変化によって変わるピークの強度変化は大きくなり、イオン化しにくい試料の場合には、濃度変化によって変わるピークの強度変化は小さくなる傾向にある。このため、ピーク強度のみにより試料の濃度を測定することはできない。
【0045】
一方、質量分析計4は液体試料を測定する場合に、予め濃度が不明な試料を測定する場合があり、この場合には、高濃度の試料が質量分析計に導入され、長時間測定を継続すると、質量分析計4が汚染されてしまう場合がある。質量分析計4が汚染された場合には、測定の検出感度が下がり正確な測定が行えない。この場合には質量分析計4は特別に洗浄を行う必要がある。
【0046】
そこで、測定開始前に、質量分析計4に基準ピークMを設定しておき、基準ピークMより高いピーク濃度が測定された場合には、即座にイオン化手段の電圧供給を停止し、イオン化を中止する。これにより、試料の質量分析計4への導入を中止し、質量分析計4の汚染を抑制することができる。そして、サンプル濃度を低くして、再測定することにより、適正な濃度で測定を行うことができる。
【0047】
また、逆にサンプル濃度が低い場合には、測定結果の明瞭度が足りず、測定結果を判断できない場合がある。
【0048】
この場合には測定開始前に質量分析計4に基準ピークmを設定しておき、ピーク強度が、基準ピークmより低い場合には、サンプル濃度が低いものと判定し、サンプル濃度を高くすることにより、適正な濃度で測定を行うことができる。
【0049】
測定開始前に基準ピークm以上のピークの本数nを設定し、基準ピークm以上のピークがn本に達したことを判定することにより、良好な濃度に達したことを判定することができる。
【0050】
また、特定の溶媒由来のピークを予め認識させておき、この特定の溶媒由来のピークを判断基準に選ばないことにより、より正確な濃度のサンプル濃度の設定を行うこともできる。
【0051】
本発明の一実施形態においては、基準ピークMに関してはバックグランドの1000倍程度の値を設定し、基準ピークmに関してはバックグランドの10倍程度の値を設定する。
【0052】
以上のように構成した本発明の一実施形態によれば、質量分析計4を汚染することなく、また、試料を多量に使用することなく濃度不明の液体試料を分析可能な質量分析装置を実現することができる。
【0053】
さらに、オートサンプラ2が実行済みのサンプル濃度を選択する指示がされた場合には、使用者にアラームメッセージを表示することにより、同じサンプル濃度による測定を繰り返すことを防止し、無駄な試料消費を抑え、かつ測定時間を短縮することができる。
【0054】
なお、サンプルの希釈率の履歴データを表示手段により表示させることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態による質量分析装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるオートサンプラの動作説明図
【図3】本発明の一実施形態による質量分析装置の処理を示すフローチャートである。
【図4】オートサンプラに設定する原液の量と希釈溶液の比率を示す表である
【図5】本発明の一実施形態による質量分析装置の測定結果において、基準ピークM以上の強度のピークが測定された場合を示すクロマトグラフ図である。
【図6】本発明の一実施形態による質量分析装置の測定結果において、基準ピークm以上の強度のピークが7本測定された場合を示すクロマトグラフ図である。
【図7】本発明の一実施形態による質量分析装置の測定結果において、基準ピークm以上の強度のピークがn本以上測定されない場合を示すクロマトグラフ図である。
【符号の説明】
【0056】
1 ポンプ
2 オートサンプラ
3 溶媒
4 質量分析計
5 制御装置
6 制御装置
7 シリンジ
8 クーラースタッカー
10 サンプル希釈液の排出口
11 シリンジ洗浄液の排出口
12 試料注入口を備えたバルブ
13 バイアルチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒を送出するポンプと、このポンプから送出された溶媒に試料を導入する試料導入手段と、この試料導入手段により溶媒に導入された試料の質量分析を行う質量分析計とを備えた質量分析装置において、
上記試料導入手段は上記質量分析計の測定結果により試料の溶媒への混合比を調整し、所定の濃度以下の溶液が上記質量分析計に供給されるように試料の濃度を調整することを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の質量分析装置において、上記試料導入手段は上記質量分析計の測定結果により試料濃度が高いことを判定した場合には、上記質量分析計にその高い濃度の試料を送出しないことを特徴とする質量分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の質量分析装置において、上記試料導入手段は同一の試料に対しては、一度調整した試料濃度には再調整しないことを特徴とする質量分析装置。
【請求項4】
請求項3記載の質量分析装置において、上記試料導入手段は同一の試料に対しては、一度調整した試料濃度に再調整するように指示されたときには、警告を表示することを特徴とする質量分析装置。
【請求項5】
請求項1記載の質量分析装置において、上記質量分析計の測定結果として、測定結果に現れるピークの強度を基準に試料濃度を判定することを特徴とする質量分析装置。
【請求項6】
請求項1記載の質量分析装置において、上記質量分析計の測定結果が第1の判断基準を超える場合は、第1の濃度変化幅により、試料の濃度を低下して、質量分析を行って、測定結果が第1の判断基準未満となるまで、上記第1の濃度変化幅により、試料の濃度を低下させ、上記質量分析計の測定結果が第1の判断基準未満となったとき、測定結果に現れるピークのうち上記第1の判断基準より低い値の第2の判断基準を超えるピークの本数が所定数未満か否かを判断し、所定数未満のときは、試料の濃度を上記第1の濃度変化幅より、小さい第2の濃度変化幅により、試料の濃度を高くして、その試料の質量分析を行うことを特徴とする質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−292508(P2006−292508A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112250(P2005−112250)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000233550)株式会社日立ハイテクサイエンスシステムズ (112)
【Fターム(参考)】