説明

質量分析装置

【課題】イオン源のニードルの先端に液滴を生成させることなしに、測定が可能な質量分析装置を提供することにある。
【解決手段】質量分析装置は、分析対象成分を含む溶媒を大気圧下にて噴霧するニードルと、ニードルの先端部へ光を照射する照明装置と、ニードルの先端部を撮像するカメラと、カメラによって撮像された像を画像処理することによってニードルの先端部に生成された液滴を検出する制御装置と、制御装置からの信号に基づいてニードルの先端部にガスを噴射するガス噴射装置と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン化した分析対象成分の質量を分析する質量分析装置に関し、特に、分析対象成分をイオン化するインターフェース部に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ質量分析装置(LC-MS)は、試料から分析対象成分を分離する液体クロマトグラフ部(LC部)と、分析対象成分をイオン化するインターフェース部と、イオン化した分析対象成分の質量を分析する質量分析部とを有する。
【0003】
図2は、従来の液体クロマトグラフ質量分析装置のインターフェース部の例を示す。インターフェース部にはイオン源を構成するニードル1が設けられている。分析対象成分を含む溶媒はニードル1の先端から図示しない質量分析部に向けて、噴霧される。即ち、大気圧下にて、イオンスプレー11が生成される。ニードル1の先端から質量分析部に到達するまでの間に、噴霧液滴から溶媒が蒸発し、分析対象成分のイオンのみが、質量分析部に到達する。
【0004】
インターフェース部では、近年、エレクトロスプレーインターフェース(ESI)法や大気圧化学イオン化法(APCI法)が用いられるようになっている。ESI法では、分析対象成分を適当な溶媒に溶解させ、それを高電圧に印加された金属キャピラリなどの細管に送液し、静電噴霧現象を利用して大気圧下に噴霧する。噴霧された微細な液滴から溶媒が蒸発することによって分析対象成分がイオン化する。
【0005】
しかしながら、ESI法を用いても、インターフェース部におけるイオン化効率を高めるのは容易ではない。イオン化効率を高めるためには、溶媒の蒸発量を増加させる必要がある。そのために、従来、様々な補助方法が講じられている。例えば、スプレー方向に沿ってニードルの外側に設けたラインからネブライザーガス(補助ガス:窒素または乾燥空気)を噴射する方法、スプレー方向と逆方向から加熱した窒素ガス(対向流ガス)を噴射する方法、質量分離部の入り口にカーテンガスを設ける方法、熱した金属管(加熱キャピラリ)を通過させる方法等が知られている。
【0006】
イオン化効率は噴霧時における分析対象成分の濃度に依存する。そこで、近年、分析対象成分の濃度が高い溶液を用い、スプレー流量が極端に少ないナノフローシステムが開発されている。特に、ナノフローシステムをESI法に適用したnanoESI法が開発され、実施されている。通常のシステムでは、スプレー流量は5〜200μL/minであるが、nanoESI法では、スプレー流量は、数百〜数nL/minである。nanoESI法では、スプレー流量が極端に少ないため、静電噴霧のみにより噴霧し、上述の補助方法を用いない。その代わり、図2に示すように、CCDカメラ2とモニタ3を用いて、スプレー状態を観測しながら測定を行う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インターフェース部における問題として、ニードル1の先端に液滴10が生成される現象がある。ニードルの先端に液滴10が生成されると、噴霧ができなくなる。液滴ができた場合には、ニードルに印加する電圧を高くして、液滴を吹き飛ばしてから、徐々に電圧を下げ、最適な電圧にする。
【0008】
ニードルの先端に液滴ができる条件は複雑であり、原因の全てを制御するのは困難である。例えば、液滴ができる条件の1つに、流量がある。しかしながら、流量は時間と共に変化するから、流量を常に最適値に維持することは困難である。
【0009】
本発明の目的は、イオン源のニードルの先端に液滴を生成させることなしに、測定が可能な質量分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による質量分析装置は、分析対象成分を含む溶媒を大気圧下にて噴霧するニードルと、ニードルの先端部へ光を照射する照明装置と、ニードルの先端部を撮像するカメラと、カメラによって撮像された像を画像処理することによってニードルの先端部に生成された液滴を検出する制御装置と、制御装置からの信号に基づいてニードルの先端部にガスを噴射するガス噴射装置と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、質量分析装置において、イオン源のニードルの先端に液滴を生成させることなしに、測定を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明の質量分析装置の例である液体クロマトグラフ質量分析装置(LC-MS)の一部を示す。液体クロマトグラフ質量分析装置(LC-MS)は、試料から分析対象成分を分離する液体クロマトグラフ部(LC部)と、分析対象成分をイオン化するインターフェース部と、イオン化した成分の質量を分析する質量分析部とを有するが、ここではイオン源を有するインターフェース部のみを示す。
【0013】
本例の液体クロマトグラフ質量分析装置は、イオン源を構成するニードル1、ニードル1の先端部を撮像するCCDカメラ2、CCDカメラによって撮像された像を表示するモニタ3、光源4及びレンズ5を有する照明装置、ニードル1の先端部へガスを噴射させるガス噴射装置6、及び、ガス噴射装置6を制御する制御装置7を有する。ここでは、nanoESI法を用い、スプレー流量は、数百〜数nL/minである。CCDカメラ2は、噴霧状態を撮像すると同時にニードル1の先端部の液滴を撮像する。こうして本例の液体クロマトグラフ質量分析装置はニードル1の先端部からの噴霧状態、即ち、イオン化状態を管理することができる。
【0014】
光源4からの光はレンズ5によって集光されニードル1の先端部を照射する。CCDカメラ2は、ニードル1の先端部を撮像し、その像をモニタ3と制御装置7に送る。モニタ3は、ニードル1の先端部の像を表示する。制御装置7は画像処理によってニードル1の先端部に生成された液滴10を検出する。制御装置7は液滴10を検出すると、制御信号をガス噴射装置6に供給する。ガス噴射装置6は、制御信号に基づいて、ニードル1の先端部にガス12を噴射する。それによってニードル1の先端部に生成した液滴10が飛散し除去される。図1の例では、照明装置の反対側にCCDカメラ2が設けられている。従って、CCDカメラ2によって得られる液滴10の像は透過光による像である。しかしながら、照明装置と同一側にCCDカメラ2が設け、反射光による像を撮像してもよい。
【0015】
ガス噴射装置6から噴射されるガス12は、乾燥窒素等の不活性気体、乾燥空気等であり、ESI法にて用いるネブライザーガスと同一であってよい。
【0016】
制御装置7は、例えば、液滴の直径が1.0mmを超えたときに、ガス噴射装置6に制御信号を送信する。ガス噴射装置6によるガスの噴射量及び強さは、生成されたばかりの微小な液滴を瞬時に吹き飛ばせるのに充分な値である。例えば、ガス流量を0.5〜1cm3/秒、噴射時間を1〜2秒としてよい。ガス噴射方向は、ニードル1の先端部からの噴霧方向に略一致する。即ち、ガス噴射方向はニードル1の軸線に対して5〜45°傾斜した方向である。
【0017】
ガスの噴出量が過剰、又は強すぎる場合、ニードル1の先端部がガス圧によって移動する。それによって、ニードル1が他の周辺装置に衝突し、その先端が破壊されることがある。従って、ガスの噴射量と強さ、時間、角度は最適な値に設定される。
【0018】
図1の例では、nanoESI法を用いたが、通常のESI法を用いた場合にも本発明は適用可能である。例えば、ネブライザーガスを用いる場合、ネブライザーガスの噴射装置に制御装置7を接続すればよい。ニードル1の先端部に液滴が生成されると、ネブライザーガスの噴射によって液滴が飛散する。また、加熱キャピラリを通過させてもよい。
【0019】
図1の例では、制御装置7は、液滴を検出したときに、ガス噴射装置6に制御信号を送信した。しかしながら、制御装置7は、液滴を検出したときに、ニードル1に印加される電圧を制御してもよい。即ち、液滴を検出したときに、ニードル1に高電圧を印加し、液滴が飛散したら元の適正は電圧に戻す。こうして、ガスの噴射とイオン源の電圧の制御の両者により、液滴の除去と最適なイオン化状態の維持が可能となる。
【0020】
光源4は可視光源であってよいが、赤外線光源であってもよい。また、レーザ光源を用いてもよい。図1には図示されていないが、光源4に笠、反射鏡等を設けることにより、光源4からの光を効率的に使用することができる。
【0021】
本例よると、イオン源のニードルの先端部に、液滴が生成されたとき、ガスを噴射するため、液滴の成長が防止される。従って、従来技術では、イオン化が困難であった試料であっても、効率よくイオン化し測定することができると共に次のような利点がある。
1 分析対象成分を含む溶媒がニードルの先端部にて液滴化しないで気化するから、試料の無駄がなくなる。
2 常に安定したイオン化が可能であり、それにともなう安定した測定データが期待できる。
【0022】
ここでは、本発明による質量分析装置の例として、液体クロマトグラフ質量分析装置を説明したが、本発明による質量分析装置は液体クロマトグラフ質量分析装置に限定されるものではない。本発明は、イオン源としてニードルを用いる質量分析装置であればどのような形式の質量分析装置にも適用可能である。
【実施例】
【0023】
図1に示した装置を用いてnanoESI法による実験を行った。分析対象成分はウシ血清アルブミンのトリプシン消化物である。液体クロマトグラフ部(LC部)の流量を200nL/min、イオン源(ニードル)に印加する電圧値を1kVとした。測定開始時には、モニタ3の画像より、試料のイオン化を確認することができた。しかし、測定時間が経過すると、ニードル1の先端部に直径約1mmの液滴が生成された。制御装置7による制御によりガス噴射装置6は、ガスを噴射し、ニードル1の先端部の液滴を除去した。こうして、ニードル1の先端部に液滴が生成されるのを阻止することにより、良好なイオン化状態を保ち続けることができ、安定した測定データが得られた。
【0024】
ガスの噴射量は1mm3/秒、噴射時間は1秒であった。ニードル1の軸線に対するガス噴射装置6の軸線の傾斜角は20°であった。
【0025】
また、光源5からニードル1の先端部までの距離は約10cm、ニードル1の先端部からCCDカメラ2までの距離は10cmであった。制御装置7は、透過光による液滴の像を検出した。光源4には可視光源を用い、液滴の直径1mm程度になったときガス噴射をおこなった。結果は良好であった。
【0026】
以上、本発明の例を説明したが本発明は上述の例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲にて様々な変更が可能であることは当業者であれば容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の液体クロマトグラフ質量分析装置の一部を示す図である。
【図2】従来例の液体クロマトグラフ質量分析装置の一部を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1…ニードル、2…CCDカメラ、3…モニタ、4…光源、5…レンズ、6…ガス噴射装置、7…制御装置、10…液滴、11…噴霧、12…ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料から分析対象成分を分離するクロマトグラフ部と、分析対象成分をイオン化するインターフェース部と、イオン化した分析対象成分の質量を分析する質量分析部とを有する質量分析装置において、
上記分析対象成分を含む溶媒を大気圧下にて噴霧するニードルと、該ニードルの先端部へ光を照射する照明装置と、該ニードルの先端部を撮像するカメラと、該カメラによって撮像された像を画像処理することによって上記ニードルの先端部に生成された液滴を検出する制御装置と、該制御装置からの信号に基づいて上記ニードルの先端部にガスを噴射するガス噴射装置と、を有する質量分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の質量分析装置において、上記制御装置は液滴の直径が1mmを超えたときに、上記ガス噴射装置を制御してガスを噴射させることを特徴とする質量分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の質量分析装置において、上記ガス噴射装置におけるガス噴射方向は、上記ニードルの軸線に対して5〜45°傾斜した方向であることを特徴とする質量分析装置。
【請求項4】
請求項1記載の質量分析装置において、上記ガス噴射装置におけるガス流量は0.5〜1cm3/秒、噴射時間は1〜2秒であることを特徴とする質量分析装置。
【請求項5】
請求項1記載の質量分析装置において、上記ニードルからのスプレー流量は、数百〜数nL/minであることを特徴とする質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−127555(P2007−127555A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321379(P2005−321379)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(000233550)株式会社日立ハイテクサイエンスシステムズ (112)
【Fターム(参考)】