説明

質量分析装置

【課題】試料上の二次元測定対象領域に目的成分が含まれるか否かを調べるような場合に測定スループットを向上させる。
【解決手段】設定された空間分解能に対応して測定対象領域指示枠41の範囲内に設定される微小測定領域(レーザ照射領域)に対し、まず1回目の走査では1乃至複数個おきに質量分析が実行されるように試料ステージを移動させる。これにより、所望の空間分解能よりも低い分解能の粗い二次元質量分布画像を作成して表示する。その後に、2回目以降の走査として、それ以前に質量分析したものを除いて微小測定領域の走査を行い、その質量分析結果が得られる毎に二次元質量分布画像にその結果を追加表示して空白を埋めてゆく。これによれば、測定対象領域全体の粗い二次元質量分布が表示されてから徐々に精細度が上がるので、目的成分が見つかった時点で測定を打ち切ることができ、測定時間の短縮を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を試料に照射してイオン化を行うイオン源を備える質量分析装置、具体的には、レーザ脱離イオン化法(LDI=Laser Desorption /Ionization)やマトリクス支援レーザ脱離イオン化法(MALDI=Matrix Assisted Laser Desorption /Ionization)によるイオン源を備える質量分析装置に関し、さらに詳しくは、試料上の二次元領域の質量分析を行うための質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ脱離イオン化法(LDI)は、試料にレーザ光を照射し、レーザ光を吸収した物質の内部で電荷の移動を促進させてイオン化を行うものである。また、マトリクス支援レーザ脱離イオン化法(MALDI)は、レーザ光を吸収しにくい試料やタンパク質などレーザ光で損傷を受けやすい試料を分析するために、レーザ光を吸収し易く且つイオン化し易い物質をマトリクスとして試料に予め混合しておき、これにレーザ光を照射することで試料をイオン化するものである。特にMALDIを用いた質量分析装置は、分子量の大きな高分子化合物をあまり開裂させることなく分析することが可能であり、しかも微量分析にも好適であることから、近年、生命科学などの分野で広範に利用されている。なお、本明細書では、LDIやMALDIによるイオン源を備える質量分析装置を総称して、LDI/MALDI−MSと記すこととする。
【0003】
上記LDI/MALDI−MSでは、照射レーザ光のスポット径を小さく絞り、その照射位置を試料上で相対的に移動させることにより、例えば試料上で或る質量数を持つイオンの強度分布(二次元質量分布)を表す画像を得ることができる。こうした装置は質量分析顕微鏡又は顕微質量分析装置として知られており、特に、生化学分野、医療分野等において、生体内細胞に含まれるタンパク質の分布情報を得るといった応用が期待されている(例えば非特許文献1、特許文献1など参照)。
【0004】
上述したように試料上でレーザ照射位置を移動させるためには、試料の位置を固定してレーザ照射部を移動させる、レーザ照射部の位置を固定して試料の位置を移動させる、レーザ照射部と試料とを共に移動させる、といった方法が考えられるが、一般には、試料を載せた試料ステージを移動させるのが最も実現が容易である。またこれによれば、レーザ照射位置付近から発生するイオンを取り込むイオン導入部の位置も固定できるので、装置構成が複雑にならずに済むという利点もある。この場合、二次元質量分布の空間分解能は、レーザ光の照射面積と隣接するレーザ照射位置つまり隣接する測定点(微小測定領域)の距離とにより決まる。したがって、空間分解能が或る値に設定されれば、それに応じて試料ステージの隣接測定点間の移動距離が決まることになる。
【0005】
従来の装置では、試料上に設定された任意の測定対象領域について、上記のように空間分解能から決まる移動距離ずつ試料ステージを間欠的に移動させ、その移動によって測定点がレーザ照射位置に来て停止する毎にレーザ光が照射されて、該レーザ光が当たった微小測定領域の質量分析が実行される。二次元的な測定対象領域内で測定点は例えば格子状に設定される。したがって、同一の空間分解能においては、測定対象領域が広くなるほど測定点数が増加して測定対象領域全体の二次元質量分布測定に要する測定時間も長くなる。
【0006】
例えば矩形状の測定対象領域において互いに直交する二軸方向にぞれぞれ100個の測定点が存在するものとすると、測定対象領域全体では10000個の測定点について1点ずつ繰り返し質量分析を行う必要がある。例えば、1個の測定点について質量分析と次の測定点に移動するまでの移動時間とが合わせて1秒かかるとすると、その測定対象領域全体の測定を終了するのに3時間近くかかることになる。こうしたことから、広い測定対象領域を設定したり、測定対象領域が比較的狭い場合でも高い空間分解能で以て測定を行おうとすると、測定時間が非常に長くなるという問題がある。
【0007】
当然のことながら、1つの試料についての測定時間が長いと測定効率が悪くスループットが低下する。即ち、1日或いは1週間等の決まった期間内に測定可能な試料数が少なくなり、1つの試料に対する測定コストがそれだけ増加することになる。また、生体試料では時間の経過に伴って試料自体が乾燥したり変性したりする場合もあり、測定時間が長いとこうした影響のために測定の正確性が問題となるおそれもある。
【0008】
上記のような測定時間の問題は、測定点数が多く、且つ或る測定点から次の測定点への試料ステージ等の移動動作に時間が掛かることが主な要因である。そのため、厳密な二次元質量分布を調べるような目的ではなく、例えば試料上の測定対象領域内に目的成分が存在しているか否かを調べたいといった概略的な測定を行いたい場合であっても、上記のような従来の装置において測定時間を短縮することは難しい。
【0009】
また、生体試料、例えば臓器の凍結切片などでは、含まれる成分に局在がみられることが報告されている(例えば非特許文献2)。したがって、こうした試料を測定する場合には、局在成分が存在する領域を特に高い空間分解能で以て測定することが望ましい。ところが、局在成分のある部分の測定に合わせた空間分解能に設定すると、局在成分のない部分でも同様に高い空間分解能つまり高い測定点密度で以て測定が実行されてしまい、測定点数が非常に多くなって測定時間が長くなる。
【0010】
【特許文献1】米国特許第5808300号明細書
【非特許文献1】内藤康秀、「生体試料を対象にした質量顕微鏡」、J. Mass Spectrom. Soc. Jpn., Vol. 53, No. 3, 2005, pp.125-132.
【非特許文献2】ピーター・ジェイ・トッド(Peter J Todd.)ほか3名、「オーガニック・イオン・イメージング・オブ・バイオロジカル・ティッシュ・ウィズ・セカンダリー・イオン・マス・スペクトロメトリー・アンド・マトリクス−アシステッド・レーザー・ディソープション/イオナイゼイション(Organic ion imaging of biological tissue with secondary ion mass spectrometry and matrix-assisted laser desorption/ionization)」、J. Mass Spectrom.、2001, 36: pp.355-369
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、二次元質量分布測定の目的等に応じて適宜に測定時間を短縮して、測定効率やスループットを向上させることができる質量分析装置を提供することにある。
【0012】
また本発明の他の目的とするところは、目的成分が試料上で局在しているような場合に、目的成分については十分に高い空間分解能で以て測定を行いながら測定時間の短縮も図ることができる質量分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置は、
a)試料上の微小測定領域にレーザ光を照射するレーザ照射手段と、
b)前記レーザ光の照射に対応して微小測定領域を中心に発生したイオンを質量数に応じて分離して検出する質量分析手段と、
c)試料上で微小測定領域が離散的に変化するように試料とレーザ照射手段との相対位置を変化させる走査手段と、
d)試料上に設定された測定対象領域における二次元質量分布を取得するために前記レーザ照射手段、質量分析手段、及び走査手段をそれぞれ制御する制御手段と、
e)前記二次元質量分布を表示する表示手段と、
を備え、前記制御手段は、まず測定対象領域の全体について所定間隔で以て順次微小測定領域の質量分析を実行するべく走査を行うことにより、該測定対象領域の粗い二次元質量分布を前記表示手段に表示させ、その後に前記測定対象領域の全体又はその中の一部領域について、先の走査時に質量分析を実行した微小測定領域と異なる微小測定領域の質量分析を実行するべく走査を行うことにより、前記表示手段に表示される二次元質量分布の空間分解能を段階的に高めることを特徴としている。
【0014】
走査手段は、試料のみを移動させる手段、レーザ照射手段のみを移動させる手段、或いは、試料とレーザ照射手段との両方を移動させる手段のいずれでもよいが、典型的には試料を載せた又は試料を保持する試料保持部を移動させる手段とするとよい。
【0015】
本発明に係る質量分析装置では、制御手段の制御の下に走査手段は、試料上に設定された測定対象領域内の所定の微小測定領域がレーザ照射手段によるレーザ照射位置に来るように試料とレーザ照射手段との相対位置を決め、そのときにレーザ照射手段は該微小測定領域にレーザ光を照射する。このレーザ光の照射により試料を構成する成分はイオン化され、質量分析手段は試料から放出された各種イオンを受けて質量分離して検出する。これにより、或る1箇所の微小測定領域の質量分析結果が得られる。
【0016】
1箇所の微小測定領域に対する質量分析が終了すると、走査手段は測定対象領域内で次に分析すべき微小測定領域がレーザ照射位置に来るように試料とレーザ照射手段との一方又は両方を移動させる。レーザ光の照射面積が一定であるという条件の下では、上記移動距離により二次元質量分布の空間分解能が決まる。したがって、オペレータの入力操作により又は自動的なデフォルト値等の設定により二次元質量分布の空間分解能が決まると、その空間分解能を達成するために必要な隣接微小測定領域間隔つまり上記移動距離が決まり、この移動距離ずつ試料とレーザ照射手段との相対位置を変化させながら順次質量分析を実行してゆくことにより、設定された空間分解能を持つ二次元質量分布を作成できることになる。
【0017】
しかしながら、本発明に係る質量分析装置では、そのように測定対象領域内に設定された複数の微小測定領域についてその配列順に沿って走査を行うのではなく、まず設定された空間分解能で決まる移動距離よりも長い所定の距離だけ互いに離れた位置の微小測定領域を順番に走査してゆき、各微小測定領域についての質量分析を実行する。そして、設定された空間分解能に対応した微小測定領域間隔に比べれば粗い(密度の低い)微小測定領域の走査を、測定対象領域全体について完了させる。このような粗い走査では、設定された空間分解能に対応した、より精緻な走査に比べれば測定対象領域内で質量分析の実行回数は少なくなるから、相対的に短い時間で測定対象領域全体の走査を終了することができる。この走査の終了時点では、表示手段には上記設定された空間分解能よりも低い空間分解能である粗い二次元質量分布が表示される。
【0018】
その後に走査手段は、測定対象領域の全体又はその中の一部領域について、先の粗い走査時には質量分析していない微小測定領域、つまりは先の走査においてスキップされた微小測定領域を設定して質量分析を実行する。このときには、先に求めた粗い二次元質量分布において情報が欠損している部分を埋めてゆくように質量分析結果が得られるから、この結果を先に得られた二次元質量分布に加えて、情報を充実させてゆくことにより二次元質量分布は徐々に精緻になってゆく。
【0019】
このような本発明に係る質量分析装置の一態様として、二次元質量分布の空間分解能を設定する分解能設定手段をさらに備え、前記制御手段は、設定された空間分解能に対応して間隔が決まる微小測定領域について1乃至複数の微小測定領域をスキップするように走査しつつ測定対象領域全体の質量分析を順次実行し、その後に先にスキップした微小測定領域の一部又は全部を選択するように走査しつつ質量分析を実行するように制御を行う構成とすることができる。
【0020】
制御手段は、まず、設定された空間分解能に対応する微小測定領域間距離で決まる微小測定領域に対し、1乃至複数の微小測定領域をスキップするように走査を行いつつ測定対象領域内全体に亘る質量分析を実行する。つまり、上述したように所望の空間分解能を達成するために設定された微小測定領域について1つおき、2つおき等、所定数省略しながら走査手段を駆動し、質量分析を実行する微小測定領域についてはレーザ照射手段によりレーザ光を照射して、そのレーザ照射位置付近から発生するイオンに対する質量分析を実行する。このように測定対象領域全体のスキップ的な走査を行うことにより概略的な二次元質量分布が得られるが、当然、その空間分解能は設定されたものより低くなる。
【0021】
測定対象領域全体についてスキップ的な走査を終了したならば、制御手段は、次いで先にスキップした、つまりは質量分析を実行しなかった微小測定領域の一部又は全部を選択するように走査しつつ測定対象領域内全体又はその一部の質量分析を実行する。これにより、先に質量分析が実行されなかった微小測定領域の質量分析結果が得られることになるから、先に質量分析が実行された微小測定領域の間の空白の少なくとも一部が埋められることになり、表示手段により表示される二次元質量分布画像の精細度は徐々に上がってゆく。
【発明の効果】
【0022】
以上のように本発明に係る質量分析装置によれば、一連の測定が開始されると、まず測定領域全体について所望の空間分解能よりも低い空間分解能である粗い二次元質量分布が表示され、測定が進むに伴い二次元質量分布の精細度が上がってゆき、最終的には所望の空間分解能を持つ二次元質量分布が得られることになる。
【0023】
例えば試料上の測定対象領域内に所定の物質が存在するか否かを調べたいような場合、その物質に対応する質量数に着目した質量分析を行って二次元質量分布を求めればよいが、粗い二次元質量分布画像が得られた(全体でなくても一部でも)段階において既に所定の物質が存在することが確認できたならば、それ以降の測定、つまり精細な二次元質量分布画像を作成するための各微小測定領域の質量分析は不要である。そこで、オペレータは適宜の時点で測定を打ち切る指示を行い、これに応じて制御手段は分析を中止する。これにより、その測定対象領域について所望の空間分解能の二次元質量分布を取得する前にこの試料の測定を終了し、例えば次の試料についての測定に取りかかることができる。このようにして、本発明に係る質量分析装置によれば、測定効率を向上させスループットを上げることができる。
【0024】
また本発明に係る質量分析装置の一態様として、測定対象領域全体について粗い走査を行いつつ質量分析を実行する際に各微小測定領域に対して得られる特定質量数の信号強度が所定範囲であるか否かを判定する判定手段をさらに備え、前記制御手段は、前記判定手段により信号強度が所定範囲であると判断された領域又はその領域を含む周辺領域において、先の粗い走査時に質量分析を実行した微小測定領域と異なる微小測定領域の質量分析を実行するべく走査を行うようにした構成とすることができる。
【0025】
この構成によれば、試料上で目的成分が全く又は殆ど含まれていない領域については粗い二次元質量分布のみを実行し、目的成分が或る程度以上含まれている領域についてのみより精細度の高い二次元質量分布画像を迅速に得ることができる。
【0026】
また、この場合、先の粗い走査時と微小測定領域の密度を同じにして、具体的には例えば走査手段による移動距離を同じにして質量分析を実行してもよいが、最終的に所望の空間分解能で以て特定領域の二次元質量分布を求めたい場合には、前記制御手段は、前記判定手段により信号強度が所定範囲であると判断された領域又はその領域を含む周辺領域において走査を行う際に、先の粗い走査時よりも微小測定領域の密度を高くして質量分析を実行する構成とするとよい。
【0027】
この構成によれば、特定領域内で質量分析が未実行である微小測定領域について近接する順番に走査が行われるので、走査手段の移動に無駄がなくなり、高精細の二次元質量分布画像を迅速に得ることができる。
【0028】
また、試料上に設定する測定対象領域は1つのみでもよいが、複数であってもよい。試料上に設定された測定対象領域が複数である場合には、各測定対象領域のそれぞれについて粗い走査を行いつつ質量分析を実行する際に各微小測定領域に対して得られる特定質量数の信号強度が所定範囲であるか否かを判定する判定手段をさらに備え、前記制御手段は、全ての測定対象領域について順番に各測定対象領域全体についての粗い走査を行いつつ質量分析を実行し、その際に前記判定手段により信号強度が所定範囲であると判断された微小測定領域を含む測定対象領域についてのみ、先の粗い走査時に質量分析を実行した微小測定領域と異なる微小測定領域の質量分析を実行するべく走査を行うようにした構成とすることができる。
【0029】
この構成によれば、複数の測定対象領域の概略的な二次元質量分布画像がまず表示手段に表示されるから、いずれかの測定対象領域に所定の成分が含まれることさえ確認できればよいような場合には、そうした確認を迅速に行って例えば次の試料の測定に移行することが可能となる。
【0030】
但し、質量分析では目的成分がうまく検出できないことや、質量分析結果を利用しても測定対象領域を適切に絞れない場合がある。そこで、本発明に係る質量分析装置の一態様として、二次元質量分布とは異なる試料上の二次元分布情報を受け取る外部情報取得手段、をさらに備え、前記制御手段は、前記判定手段による判定結果と前記外部情報取得手段により得られる二次元分布情報とを併せて、先の粗い走査時に質量分析を実行した微小測定領域と異なる微小測定領域の質量分析を実行する領域を決定する構成としてもよい。ここで「二次元質量分布情報とは異なる試料上の二次元分布情報」とは、一例を挙げると、生体細胞の中での薬剤の分布を蛍光マーカーにより標識して得た二次元分布情報などである。
【0031】
この構成によれば、例えば質量分析だけでは適切に抽出するのが難しいような試料上の領域についても他の方法により抽出した結果を利用して領域を選択したり絞ったりすることができ、より有益な二次元質量分布を短時間に得ることができる。
【0032】
なお、本発明に係る質量分析装置では、試料の全体又は一部の画像を取得する試料撮影手段と、該試料撮影手段により取得された試料画像上で任意の測定対象領域を設定する領域設定手段をさらに備える構成とするとよい。これによれば、オペレータは試料撮影手段により取得された試料画像を目視で確認しながら、二次元質量分布を調べたい範囲を領域設定手段により任意に設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
[第1実施例]
以下、本発明に係る質量分析装置の一実施例(第1実施例)であるLDI/MALDI−MSについて図面を参照しつつ説明する。
【0034】
図1は本実施例によるLDI/MALDI−MSの全体構成図である。図示しない真空ポンプにより真空排気される真空チャンバ10の内部には、試料ステージ13、イオン輸送光学系16、質量分析器17、検出器18等が配設され、真空チャンバ10の外側には、レーザ照射部20、レーザ集光光学系22、CCDカメラ23、観察用光学系24などが配置されている。分析対象である試料14は少なくともx軸、y軸の二軸方向にそれぞれ高い位置精度で以て移動可能な試料ステージ13上に載置されている。イオン輸送光学系16は例えば、静電的な電磁レンズや多極型の高周波イオンガイド、或いはそれらの組み合わせなどが用いられる。質量分析器17は例えば四重極型質量分析器や飛行時間型質量分析器、磁場セクター型質量分析器などが用いられる。
【0035】
ステージ駆動部32は上述のように試料ステージ13をx軸、y軸の二軸方向にそれぞれ移動させるためのステッピングモータ等の駆動源を含み、後述する空間分解能の最小値に比べて十分に高い精度で以て試料ステージ13の移動を行う。レーザ照射部20から出射されたイオン化用のレーザ光はレーザ集光光学系22により微小径(例えば数μm程度)に絞られ、真空チャンバ10の側面に設けられた照射用窓11を通して、或る決まった位置に照射される。このレーザ光照射位置は固定されているから、試料ステージ13の移動により試料14がx−y面内で移動すると試料14上でレーザ光が当たる位置、つまり試料14上で質量分析の実行対象となる微小測定領域15が移動する。
【0036】
一方、CCDカメラ23は真空チャンバ10の側面に設けられた観察用窓12及び観察用光学系24を介して試料ステージ13上の所定の範囲を撮像し、ここで得られた画像信号は画像処理部35に送られて二次元画像が構成される。中央制御部30は本装置の全体的な動作の制御を司るものであり、具体的には、走査制御部31を介してステージ駆動部32による移動量や移動方向を制御し、照射制御部33を介してレーザ照射部20でのレーザ光の出射/停止やレーザ光強度などを制御する。また、図1では記載を省略しているが、中央制御部30はイオン輸送光学系16、質量分析器17、検出器18などの動作も制御する。
【0037】
検出器18による検出信号、つまりイオン強度信号は質量分析データ処理部34に入力され、ここで適宜のデータ処理が実行されて、例えば後述するような二次元質量分布画像が作成される。また、中央制御部30にはオペレータの操作により空間分解能や測定対象領域などの分析条件を設定するための操作部36が接続され、さらに試料の二次元画像や二次元質量分布画像などを表示するための表示部37も接続されている。
【0038】
次に、本実施例のLDI/MALDI−MSによる特徴的な分析動作を図2〜図4を参照しつつ説明する。図2は試料の顕微観察画像を示す平面図、図3は測定対象領域内の微小測定領域(レーザ照射領域)の走査方法の説明図、図4は図3に示した走査の際の二次元質量分布画像の変化を示す模式図である。
【0039】
オペレータが試料14を試料ステージ13上にセットして操作部36により試料画像観察を指示すると、CCDカメラ23により試料14の画像が取得され、表示部37の画面上には図2(a)に示すような試料14表面の二次元試料像40が描出される。オペレータはこの二次元試料像40を見ながら、測定したい領域を操作部36により指示する。例えば、オペレータの操作により、図2(a)に示すように二次元試料像40上に測定対象領域指示枠41が表示され、この指示枠41の大きさや形状を変えるとともにその位置を任意に移動させることにより、指示枠41で囲まれる範囲を測定対象領域として設定する。この例では、測定対象領域指示枠41は矩形状であるが、これは任意の形状に変形することができ、また試料14上で或る1箇所のみでなく複数箇所を同時に設定できるようにしてもよい。
【0040】
また、オペレータは二次元質量分布の空間分解能を含む分析条件を操作部36より設定する。例えば、或る特定の質量数Mを持つ成分についての二次元質量分布を調べたい場合には、上記空間分解能とともにこの質量数Mを設定すればよい。なお、レーザ光の照射径など装置の構成上の制約により設定可能な空間分解能の範囲は決まっているから、通常、予め複数段階の空間分解能が用意されており、オペレータは分析目的等に応じてその中から適当な空間分解能を選択するようにするとよい。
【0041】
レーザ光の照射径が一定の条件の下では空間分解能により微小測定領域間隔が決まり、空間分解能が高いほど微小測定領域間隔は狭く、つまり微小測定領域の密度が高くなる。いま、図2(a)において、測定対象領域指示枠41内には微小測定領域(レーザ照射領域)を小径の円で以て描いてある。なお、この円は実際に画像上に表示されるものではない。ここでは測定対象領域指示枠41内でx軸方向に7、y軸方向に7の合計49個の微小測定領域42が設けられている。これに対し、例えば空間分解能をその2倍の細かさに設定すると、図2(b)に示すように同一の測定対象領域指示枠41内でx軸方向、y軸方向のそれぞれに2倍の密度で微小測定領域42が設定され、約4倍の169個の微小測定領域42が設定されることになる。逆に空間分解能を低く(粗く)すれば同一の測定対象領域指示枠41内に設定される微小測定領域の数は少なくなる。
【0042】
測定対象領域指示枠41の設定の後に、オペレータが操作部36により分析開始を指示すると、中央制御部30の制御の下に走査制御部31は、試料14上の決められた測定微小領域が順番にレーザ照射位置に来るように試料ステージ13を移動させるべくステージ駆動部32を制御する。一方、中央制御部30の制御の下に照射制御部33は、試料14上の決められた微小測定領域がレーザ照射位置に来て試料ステージ13の移動が一時的に停止されたときに所定強度のレーザ光を試料14に照射するようにレーザ照射部20を制御する。
【0043】
従来の装置では、測定対象領域内に含まれる複数の微小測定領域についてその配列の順番にレーザ照射位置に移動させるように試料ステージを移動させる。これに対し、この実施例のLDI/MALDI−MSでは、次のように特徴的な微小測定領域の走査を行う。
【0044】
即ち、図2(a)に示したように測定対象領域指示枠41内に含まれる49個の微小測定領域42に対し、まず1回目の走査として、x軸方向、y軸方向ともに、質量分析を行う微小測定領域が本来の(つまり所望の空間分解能に対応した密度の)微小測定領域の2個おきになるようにする。具体的には、図3(a)に示すように質量分析対象の微小測定領域の位置を(X,Y)アドレスで表現したときに、(0,0)→(3,0)→(6,0)→(6,3)→(3,3)→…→(6,6)とスキップさせながら順番に走査する。図3(a)では質量分析が実行される微小測定領域421を斜線で示している。
【0045】
質量分析対象の微小測定領域がレーザ照射位置に来ると、レーザ照射部20から出射しレーザ集光光学系22で集光されたレーザ光が試料14上の微小測定領域に照射される。レーザ光21が照射されると、その照射範囲において試料14に含まれる各種物質がイオン化され、主として試料14表面に略直交する方向、つまりほぼ真上にイオンが放出される。このイオンはイオン輸送光学系16で収束されて質量分析器17に導入される。中央制御部30の制御の下に、質量分析器17は質量数Mを持つイオンのみを選別するように設定されており、検出器18はそのイオンの量に応じた検出信号を出力する。質量分析データ処理部34はこの検出信号により質量数Mに対する相対強度値を求め、その測定対象領域の位置を示す情報(例えば上記(X,Y)アドレスなど)とともにメモリに記憶する。
【0046】
試料ステージ13の移動に伴って微小測定領域421が移動する毎に上記のような質量分析が実行されるから、微小測定領域421毎に質量数Mの相対強度値が得られ、上述したようにその微小測定領域421の位置情報に対応付けてメモリに記憶される。このメモリの記憶内容に基づいて二次元質量分析画像が作成されることになる。いま、ここでは二次元質量分布画像として、図4に示すように、測定対象領域に対応する表示枠50内を微小測定領域に一対一に対応付けて区切った矩形状の分割領域を考え、相対強度値の大きさは例えば各分割領域内の表示色の濃さや輝度で以て表現することとする。
【0047】
このような表現方法によれば、上記図3(a)に示した1回目の走査が終了した段階で9個の微小測定領域421における質量分析結果が得られたときに、表示部37には図4(a)に示すように9個の分割領域511に相対強度値を表す表示がなされた二次元質量分布画像が描出される。なお、この図4では相対強度値が表示される分割領域511は全て同一の斜線で示しているが、実際には相対強度値に応じてその表示色の濃さや輝度などが変更される。上記のような走査においてスキップされた微小測定領域に対応した分割領域512は何も表示されない空白になっているので、二次元質量分布画像の表示としては疎らな、つまり粗い描画となる。
【0048】
例えば測定対象領域内に質量数Mの物質が存在するか否かだけを確認したい場合、上記のような1回目の走査に対応して表示される二次元質量分布画像において質量数Mの物質の存在が確認できれば、それ以上、測定を継続する必要はない。この場合、オペレータは操作部36により測定の途中打ち切りを指示し、中央制御部30は即座に分析を中止する。したがって、測定対象領域全体の二次元質量分布を設定した空間分解能で以て取得できるよりも以前に測定を終了して、例えば次の試料の測定に取り掛かることができる。このように無駄な測定時間を掛けずに済み、効率的な測定が行える。また、試料が生体試料である場合には、可能な限りレーザ照射の回数を減らして試料表面の損傷を軽減することが望ましいが、上述したように測定を途中で打ち切れば貴重な生体試料に与える損傷を抑えることができる。
【0049】
上記のような1回目の走査により測定対象領域全体が走査されると、次に2回目の走査として、1回目の走査でスキップされた微小測定領域を2個おきに順番に走査し、各微小測定領域422に対し質量分析を実行する。具体的には、図3(b)に示すように質量分析対象の微小測定領域の位置を(X,Y)アドレスで表現したときに、(1,1)→(4,1)→(4,4)→(1,4)とスキップさせながら順番に走査する。この走査の際に上記1回目の走査時と同様にして4つの微小測定領域422に対する質量数Mの相対強度値が得られるから、図4(b)に示すように、表示枠50内に先の9個の分割領域511に加えて4個の分割領域511にも相対強度値を表す表示が追加される。これにより、二次元質量分布画像の空間分解能が若干向上する。
【0050】
測定を終了せずに継続すれば、次に3回目の走査として、1回目及び2回目の走査でスキップされた微小測定領域を2個おきに順番に走査し、各微小測定領域423に対し質量分析を実行する。具体的には、図3(c)に示すように質量分析対象の微小測定領域の位置を(X,Y)アドレスで表現したときに、(2,2)→(5,2)→(5,5)→(2,5)とスキップさせながら順番に走査する。この走査の際に上記1回目及び2回目の走査時と同様にして4つの微小測定領域423に対する質量数Mの相対強度値が得られるから、図4(c)に示すように、表示枠50内に先の13個の分割領域511に加えて4個の分割領域511にも相対強度値を表す表示が追加される。これにより、二次元質量分布画像の空間分解能がさらに若干向上する。
【0051】
以上のようにして1回質量分析を実行した微小測定領域を避けながら走査を繰り返すことにより、図4(d)、(e)に示すように表示枠50内に空白の分割領域512は徐々に塗りつぶされてゆき、最終的には図4(f)に示すように表示枠50内の全ての分割領域が相対強度値を示す表示がなされた分割領域511となる。このとき、この二次元質量分布画像は初めに設定された空間分解能を持つものとなる。もちろん、このような最終的な精細な二次元質量分布画像が表示される以前に、任意の時点で測定を打ち切ることができる。
【0052】
[第2実施例]
次に本発明による他の実施例(第2実施例)のLDI/MALDI−MSについて説明する。図5はこの実施例によるLDI/MALDI−MSの全体構成図である。図1に示した第1実施例の装置と同一又は相当する構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0053】
この装置の基本的な構成は第1実施例と同じであるが、この第2実施例の装置では、中央制御部30は強度値判定部301、及び走査領域決定部302を機能ブロックとして含む。強度値判定部301は質量分析の結果として得られた各微小測定領域における相対強度値を質量分析データ処理部34から受け取り、その強度値が所定の範囲であるか否かを判定する。また、走査領域決定部302は強度値判定部301の判定結果に応じて、試料上において質量分析のために走査する領域を設定する。
【0054】
具体的な例を挙げて動作を説明する。図6(a)は試料の顕微観察画像、図6(b)、(c)は測定対象領域内の微小測定領域の走査方法の説明図である。表示部37に表示された図6(a)に示すような画像上でオペレータが測定対象領域指示枠41を設定して測定開始を指示すると、図6(b)に示すように測定対象領域指示枠41で指定された範囲内において、設定された空間分解能で決まる間隔で配置される微小測定領域に対し1個おきに、つまり斜線で示される微小測定領域421に対し順次質量分析が実行される。これは第1実施例の1回目の走査に相当するものである。
【0055】
質量分析によって各微小測定領域421の質量数Mにおける相対強度値が得られると、強度値判定部301は相対強度値が所定値以上であるか否かを判定し、所定値以上の相対強度値を持つ微小測定領域の位置情報を走査領域決定部302に与える。判定のための所定値はオペレータが自由に設定できるようにしてもよいし、自動的に設定されるようにしてもよい。走査領域決定部302は与えられた微小測定領域の位置情報を元に、それを含むように2回目の走査領域を決定する。例えば、図6(b)に示すように測定対象領域指示枠41内全体を走査したときに中央の6個の微小測定領域424においてのみ相対強度値が所定値以上を示したものとすると、走査領域決定部302はこれら微小測定領域424を含むように走査領域範囲43を決定する。
【0056】
試料上で質量数Mの成分を含む範囲を特に高い空間分解能で観察したい場合、質量数Mの成分を含む部位では質量数Mにおける相対強度値は所定値以上となるから、上記のようにして決定された走査領域範囲43内では質量数Mの成分が含まれている可能性が高い。そこで、2回目の走査では、測定対象領域指示枠41内全体ではなくこの走査領域範囲43内に存在し、且つ1回目の走査でスキップした微小測定領域425のみを選択的に順次走査し、質量分析を実行する。なお、このときには1個おきの走査ではなく、1回目の走査で質量分析された微小測定領域424以外の微小測定領域425を全て走査するように、試料ステージ13の移動距離を1回目の走査時よりも短くしている。これは、走査領域範囲43内における所定空間分解能の二次元質量分布画像を迅速に作成するためである。
【0057】
以上のようして第2実施例の装置では、試料上で特定の成分が存在している(又は特定の成分の濃度が高い範囲)範囲やその範囲近傍について高い空間分解能で二次元質量分布画像を取得し、それ以外の領域では粗い二次元質量分布画像を得ることができる。これにより、無駄な測定時間を短縮することができる。
【0058】
なお、上記説明では2回目の走査の際に1回目の走査時よりも試料ステージ13の移動距離を短くしたが、第1実施例と同様に、走査領域範囲43内についてステップ的な走査を繰り返しつつ質量分析を実行して、その範囲43内の二次元質量分布画像の空間分解能が徐々に上がるようにしてもよい。
【0059】
第1及び第2実施例についての上記説明では測定対象領域を試料上で1箇所のみ設定していたが、複数設定しても同様の手法で各測定対象領域内の二次元質量分布画像を作成することができる。また、測定対象領域を試料上で複数設定する場合、第2実施例のように相対強度値を利用して様々な態様が考え得る。
【0060】
例えば図7に示すように試料上に3つの測定対象領域指示枠41a、41b、41cが設定されている場合を考える。1回目の走査では、設定された空間分解能に対応して各測定対象領域指示枠41a、41b、41cに配置される微小測定領域を1個おき、2個おき等、適宜にスキップしながら走査を行うことにより、各測定対象領域指示枠41a、41b、41cの粗い二次元質量分布画像を作成する。それと並行して、強度値判定部301により各微小測定領域における質量数Mの相対強度値が所定値以上であるか否かを判定し、所定値以上の相対強度値を示す微小測定領域を含む測定対象領域指示枠を見い出す。いま、例えば測定対象領域指示枠41bのみに所定値以上の相対強度値を示す微小測定領域が存在したものとすると、2回目の走査は測定対象領域指示枠41bのみについて実行する。これにより、測定対象領域指示枠41bについては精細な二次元質量分布が得られ、他の2つの測定対象領域指示枠41a、41cについては粗い二次元質量分布が得られる。
【0061】
さらにまた、測定対象領域指示枠41b全体について2回目の走査を行うのではなく、第2実施例と同様に、測定対象領域指示枠41b内でも相対強度値が所定値以上である微小測定領域を含む範囲に絞って2回目の走査を実行するようにしてもよい。
【0062】
また、複数の測定対象領域指示枠について順番に1回目の走査を行うのではなく、例えば測定対象領域指示枠41aについてまず1回目の走査を実行し、相対強度値が所定値以上である微小測定領域を含んでいたならば該指示枠41a全体又は一部について2回目の走査を実行して精細な二次元質量分布を取得し、その後、2番目の測定対象領域指示枠41bについて1回目の走査を実行する、というように順番に処理を進めるようにしてもよい。どのような手順で以て処理を進めるのが適当であるのかは、測定目的、例えば粗い二次元質量分布を得ることの重要性の度合いなどによって異なるから、そうして手順をオペレータが選択できるようにしておいてもよい。
【0063】
また、上記実施例では2回目以降の走査を行う領域の決定は質量分析結果を用いていたが、質量分析以外の他の計測装置による結果を利用してもよい。例えば、動物実験などにおいて或る薬物を投与された動物の器官内での薬物の分布を調べる場合、目的の薬物と結合する蛍光マーカーを同時に投与し、その後、採取された切片試料の蛍光強度分布を調べれば目的薬物の分布状況が把握できる。そこで、上記薬物を目的成分とする二次元質量分布を調べたい場合には、蛍光強度分布を利用し、試料上で蛍光強度が所定値よりも小さい領域では粗い二次元質量分布測定のみを行い、蛍光強度が所定値以上である領域では所望の空間分解能である精細な二次元質量分布測定を実行することができる。また、1回目の走査を実行して取得した質量分析結果と蛍光強度分布など他の計測による結果とを併せて、2回目の走査を行う領域を決定してもよい。
【0064】
また上記実施例において試料へのレーザ照射や試料像の撮像のための光学系配置は適宜に変形可能である。こうした変形例を図8、図9に挙げる。図8、図9において図1、図5と同一の又は相当する構成要素には同一符号を付し、説明を省略する。
【0065】
図8に示す構成の装置では、試料ステージ13の上方に、穴有り観察・レーザ集光兼用光学系25と穴有りミラー26とが配置され、観察用窓12の外側には波長選択ミラー27が配置されている。試料14の画像は、穴有り観察・レーザ集光兼用光学系25を経て穴有りミラー26により略直角に曲げられ、観察用窓12、及び波長選択ミラー27を通してCCDカメラ23で撮像される。一方、レーザ照射部20より出射されたレーザ光21は波長選択ミラー27で略直角に曲げられ、観察用窓12を通過し、穴有りミラー26で下向きに反射されて穴有り観察・レーザ集光兼用光学系25で集光されて試料14に照射される。このレーザ照射によって試料14から発生したイオンは、穴有り観察・レーザ集光兼用光学系25と穴有りミラー26の穴を通過してイオン輸送光学系16に到達する。このような構成においてもレーザ光の照射位置は固定されているから、試料ステージ13を移動させることでレーザ照射位置を試料14上で移動させることができる。
【0066】
図9に示す構成の装置では、試料ステージ13はステージ駆動機構28により特にx軸方向に大きくスライド移動可能となっている。即ち、図9で試料ステージ13を実線で示す位置が質量分析位置であり、点線で示す位置が観察位置である。試料14が分析位置にあるとき、レーザ照射部20より発せられたレーザ光21は試料14に近接して配置されたレーザ集光光学系22で集光されて試料14の所定位置に当たる。質量分析を行うためのイオン輸送光学系16、質量分析器17、検出器18は分析位置にある試料14の上方に軸Cに沿って配置されている。一方、CCDカメラ23はほぼ鉛直下方の撮影するように配置され、試料ステージ13の移動により観察位置に試料14が存在するときに、観察用窓12、観察用光学系24を通して試料14の上面の所定範囲の像を撮影する。このような構成でも、上記と同様の測定が可能である。
【0067】
また、上記構成ではいずれも試料ステージ13がx軸、y軸の二軸方向に移動することにより試料ステージ13上に載置された試料14の適宜の位置にレーザ光が照射されるようにしていたが、試料14の厚み方向の移動も必要な場合には、x軸、y軸に直交するz軸にも試料ステージ13を移動可能とすればよい。また、他の移動方法により試料14を移動させることもできる。図10は試料ステージの他の形態を示す概略図である。
【0068】
この形態では、直線往復運動可能な台座部60に回転運動可能な円盤状の試料ステージ61が配置されており、この試料ステージ61上に試料14を載置する。そして、台座部60の往復動と試料ステージ61の回転運動との組み合わせにより、試料14上の任意の位置がレーザ光照射位置に来るようになっている。また、レーザ光照射位置の上方には試料14から発生したイオンを吸引して図示しない質量分析器にまで輸送するイオン輸送管62の吸入口が設けられている。こうした構造の試料移動方法によれば、試料上の或る位置から別の位置まで移動する際に直線運動と回転運動とを適宜に利用することにより、高速な移動が可能となるため測定時間の短縮化に寄与する。また、一般に試料上の目的成分の存在する範囲の形状は不定形であるが、目的成分の存在する範囲近傍での位置決めが容易で、且つ高い精度での位置決めが行えるという利点もある。
【0069】
もちろん、上述したいくつかの実施例や変形例はいずれも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜に変更、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1実施例によるLDI/MALDI−MSの全体構成図。
【図2】第1実施例のLDI/MALDI−MSにおける試料の顕微観察画像を示す平面図。
【図3】第1実施例のLDI/MALDI−MSにおける測定対象領域内の微小測定領域(レーザ照射領域)の走査方法の説明図。
【図4】図3に示した走査の際の二次元質量分布画像の変化を示す模式図。
【図5】本発明の第2実施例によるLDI/MALDI−MSの全体構成図。
【図6】第2実施例のLDI/MALDI−MSにおける試料の顕微観察画像(a)、及び測定対象領域内の微小測定領域の走査方法の説明図(b)、(c)。
【図7】第2実施例のLDI/MALDI−MSにおける他の形態による微小測定領域の走査方法の説明図。
【図8】試料へのレーザ照射及び試料像の撮像のための光学系配置の変形例を示す構成図。
【図9】試料へのレーザ照射及び試料像の撮像のための光学系配置の変形例を示す構成図。
【図10】試料ステージの変形例を示す構成図。
【符号の説明】
【0071】
10…真空チャンバ
11…照射用窓
12…観察用窓
13…試料ステージ
14…試料
15…微小測定領域
16…イオン輸送光学系
17…質量分析器
18…検出器
20…レーザ照射部
21…レーザ光
22…レーザ集光光学系
23…CCDカメラ
24…観察用光学系
25…観察・レーザ集光兼用光学系
26…穴有りミラー
27…波長選択ミラー
28…ステージ駆動機構
30…中央制御部
301…強度値判定部
302…走査領域決定部
31…走査制御部
32…ステージ駆動部
33…照射制御部
34…質量分析データ処理部
35…画像処理部
36…操作部
37…表示部
40…二次元試料像
41、41a、41b、41c…測定対象領域指示枠
42、421、422、423、424、425…微小測定領域
43…走査領域範囲
50…表示枠
511、512…分割領域
60…台座部
61…試料ステージ
62…イオン輸送管


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)試料上の微小測定領域にレーザ光を照射するレーザ照射手段と、
b)前記レーザ光の照射に対応して微小測定領域を中心に発生したイオンを質量数に応じて分離して検出する質量分析手段と、
c)試料上で微小測定領域が離散的に変化するように試料とレーザ照射手段との相対位置を変化させる走査手段と、
d)試料上に設定された測定対象領域における二次元質量分布を取得するために前記レーザ照射手段、質量分析手段、及び走査手段をそれぞれ制御する制御手段と、
e)前記二次元質量分布を表示する表示手段と、
を備え、前記制御手段は、まず測定対象領域の全体について所定間隔で以て順次微小測定領域の質量分析を実行するべく走査を行うことにより、該測定対象領域の粗い二次元質量分布を前記表示手段に表示させ、その後に前記測定対象領域の全体又はその中の一部領域について、先の走査時に質量分析を実行した微小測定領域と異なる微小測定領域の質量分析を実行するべく走査を行うことにより、前記表示手段に表示される二次元質量分布の空間分解能を段階的に高めるようにしたことを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
二次元質量分布の空間分解能を設定する分解能設定手段をさらに備え、前記制御手段は、設定された空間分解能に対応して間隔が決まる微小測定領域について1乃至複数の微小測定領域をスキップするように走査しつつ測定対象領域全体の質量分析を順次実行し、その後に先にスキップした微小測定領域の一部又は全部を選択するように走査しつつ質量分析を実行するように制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
測定対象領域全体について粗い走査を行いつつ質量分析を実行する際に各微小測定領域に対して得られる特定質量数の信号強度が所定範囲であるか否かを判定する判定手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記判定手段により信号強度が所定範囲であると判断された領域又はその領域を含む周辺領域において、先の粗い走査時に質量分析を実行した微小測定領域と異なる微小測定領域の質量分析を実行するべく走査を行うようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の質量分析装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記判定手段により信号強度が所定範囲であると判断された領域又はその領域を含む周辺領域において走査を行う際に、先の粗い走査時よりも微小測定領域の走査密度を高くして質量分析を実行することを特徴とする請求項3に記載の質量分析装置。
【請求項5】
試料上に設定された測定対象領域が複数であって、各測定対象領域のそれぞれについて粗い走査を行いつつ質量分析を実行する際に各微小測定領域に対して得られる特定質量数の信号強度が所定範囲であるか否かを判定する判定手段をさらに備え、
前記制御手段は、全ての測定対象領域について順番に各測定対象領域全体についての粗い走査を行いつつ質量分析を実行し、その際に前記判定手段により信号強度が所定範囲であると判断された微小測定領域を含む測定対象領域についてのみ、先の粗い走査時に質量分析を実行した微小測定領域と異なる微小測定領域の質量分析を実行するべく走査を行うようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の質量分析装置。
【請求項6】
二次元質量分布情報とは異なる試料上の二次元分布情報を受け取る外部情報取得手段をさらに備え、前記制御手段は、前記判定手段による判定結果と前記外部情報取得手段により得られる二次元分布情報とを併せて、先の粗い走査時に質量分析を実行した微小測定領域と異なる微小測定領域の質量分析を実行する領域を決定することを特徴とする請求項3又は5に記載の質量分析装置。
【請求項7】
試料の全体又は一部の画像を取得する試料撮影手段と、該試料撮影手段により取得された試料画像上で任意の測定対象領域を設定する領域設定手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の質量分析装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−225285(P2007−225285A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43237(P2006−43237)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】