説明

質量分析装置

【課題】真空槽を大気解放することなく、且つ電気的な安全性を維持して、試料を大気側より真空槽の内部に装着することができる質量分析装置を提供する。
【解決手段】質量分析をするための分析管14aと、分析管14aの一端に接続された試料室フランジ71と、試料室フランジ71に接続された準備室フランジ73と、加速器のバックプレートとして機能する試料ステージ17と、試料ステージ17を搭載し、試料室フランジ71の内部と準備室フランジ73の内部との間を直線移動する絶縁スリーブ32と、試料ステージ17が準備室38に位置するとき、分析管14aと準備室38との真空状態を分離する第1シールリング36と、試料ステージ17が試料室27に位置するとき、分析管14aと大気との真空状態を分離する第2シールリング37と、試料ステージ17に着脱可能な試料ホルダ16とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析装置に係り、特にレーザ脱離イオン化質量分析に好適な質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図14に示すような、複数の追い返し電極板(イオンレンズ)25の積み重ねからなるリフレクトロン24を備えた反射式飛行時間型質量分析装置が提案されている(例えば、特許文献1等参照。)。図14に示す飛行時間型質量分析装置では、分析管14pの上端の上端接続フランジ68pに上端シールフランジ(天板)67pが接続され、分析管14pの下端の下端接続フランジ66pに下端シールフランジ(底板)65pが接続され、真空槽を構成している。この真空槽は、分析管14pからT字型に分岐する排気ポートに設けられた排気ポートフランジ69を介して、図示を省略した真空ポンプに接続される。下端シールフランジ(底板)65pには試料交換ポートとなる貫通孔が設けられ、試料交換ポートは、試料交換ポート盲板84でシールされている。下端接続フランジ66pの近傍の分析管14pの下部の内部には、イオンが通過する中心孔を備える第一加速電極(バックプレート)85と第一加速電極85の上方のイオンが通過する中心孔を備える第二加速電極(引き抜きグリッド)21pが設けられ、加速器(85,21p)を構成している。第一加速電極85の中心孔の直下には、第一加速電極85に固定され積載される試料ホルダ83が設けられ、試料ホルダ83の上部に試料15が収納される。
【0003】
分析管14pの下部には分析管14pからY分岐したレーザ光導入ポート13が設けられ、レーザ光導入ポート13にはレーザ導入窓19が設けられ、レーザ10から出射したパルスレーザ光20がレーザ導入窓19を介して試料15を照射し、試料15を離脱、イオン化を行う。パルスレーザ光20により生成されたイオン22は、加速器(85,21p)において所定の加速電圧により運動エネルギが与えられ、MCP検出器23の中央の穴を通過し、分析管(フライトチューブ)14p内のフィールドフリー区間(無電界ドリフト空間)26を飛行した後、リフレクトロン24に進入する。リフレクトロン24の内部には複数枚の追い返し電極板(イオンレンズ)25により傾斜電界が形成されており、この傾斜電界によりイオン22は入射方向から僅かに傾いた方向に反射され、分析管(フライトチューブ)14pを戻ってMCP検出器23により検出される。
【0004】
図14に示す飛行時間型質量分析装置では、パルスレーザ光20により生成されたイオン22が、加速器(85,21p)において所定の加速電圧により加速され、分析管(フライトチューブ)14pのフィールドフリー区間(無電界ドリフト空間)26を飛行する。
【0005】
この所定距離を飛行する時間はイオン22の初速により異なり、この初速はイオン22の質量数(質量/電荷数)に依存する。即ち、質量数の小さいイオン22ほど、同じ加速電圧により得る初速は大きく、質量数の大きいイオン22ほど、同じ加速電圧により得る初速は小さい。通常のリフレクトロン24は、本質的にイオン22を速度ゼロまで減速させる減速電場であり、イオン22が方向転換して同じ又はほとんど同じ経路に沿って戻ることを可能にする。高い運動エネルギ(速度)を有するイオン22は、低い運動エネルギを有するイオン22よりリフレクトロン24に深く侵入し、したがってMCP検出器23までより長い経路を有するようになる。イオン22はMCP検出器23に到達したとき、その初期運動エネルギの分布を保持しているが、異なる質量のイオン22は異なる時間に到達する。したがって、リフレクトロン24の追い返し電極板(イオンレンズ)25の電圧によって反射され、MCP検出器23で検出されるイオン22の検出量を連続的に測定することにより、イオン22の質量スペクトルを得ることができる。
【0006】
陽イオンを加速するのであれば、一般に、第二加速電極(引き抜きグリッド)21pを接地電位とし、第一加速電極(バックプレート)85に負の加速電圧(V)を印加する。MCP検出器23の配置される出口グリッドは、通常接地電位である。加速電圧(V)は、数百ボルト〜30kVの範囲とすることができ、飛行時間は、フィールドフリー区間(無電界ドリフト空間)26の長さにもよるが、5〜100マイクロ秒程度である。一般に、初期運動エネルギによる質量分解能への影響を最小限に抑え、大きいイオンの検出を可能にするために、加速電圧は比較的高くなるように選択される。例えば、20KVの加速電圧は、300キロダルトン(kDa)を越える質量を検出するのに十分であることが分かっている。
【特許文献1】特開2003−151487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
真空槽の内壁に付着した水分が真空排気特性に悪影響を与えるので、本来、真空槽を大気に開放すべきでない。図14に示したような従来の飛行時間型質量分析装置では、イオン源となる試料15を分析管14pの内部に準備するためには、分析管14pが構成する真空槽の内部を大気解放する必要があった。即ち、真空槽の内部を大気解放して、下端シールフランジ(底板)65pに設けられた試料交換ポートをシールしている試料交換ポート盲板84を取り外し、試料交換ポートから試料ホルダ83を取り出し、その後、質量分析用の試料15を、試料ホルダ83に載せ、再び、試料交換ポート84より試料ホルダ83を挿入して第一加速電極85に積載し、試料交換ポートをシールしている試料交換ポート盲板84でシール後、排気ポートフランジ69を介して、図示を省略した真空ポンプで真空槽の内部を再び所定の圧力にまで、所定の時間をかけて真空排気する必要があった。又、試料交換ポートから試料ホルダ83を取り出す操作を行う前には、第一加速電極85へ印加される数百ボルト〜30kV程度の高電圧を遮断することが要求される。
【0008】
即ち、図14に示したような従来の飛行時間型質量分析装置を用いた、質量分析では、
異なる試料15の質量分析毎に、真空槽の内部をその都度、大気解放して試料15の交換を行い、改めて真空排気を行う必要があった。このために、質量分析に多くの時間を必要とし、分析作業効率を著しく低下させていた。更に、真空槽の内壁に付着した水分や有機物、或いはそれらの反応物が脱ガスすることにより、残留ガス成分が存在し、質量分析の結果やその再現性に悪影響を与える場合もある。
【0009】
又、レーザ脱離イオン化質量分析においては、レーザ照射位置に試料15を載せた試料ホルダ83を固定するためにレーザ照射位置が固定となり、試料15の任意の部分の質量分析が不可能であり、試料15の分析範囲が限定され、質量分析スペクトルの情報収集の低下と分析精度の低下を招いた。
【0010】
図14においては、リフレクトロン24を備えた反射式飛行時間型質量分析装置を例示したが、真空槽の内部をその都度、大気解放して試料15の交換を行い、改めて真空排気を行うために多くの時間を必要とし、分析作業効率を著しく低下させる問題は、リフレクトロン24を備えない直線式飛行時間型質量分析装置でも同様であり、更に、4重極質量分析装置等他の質量分析装置であっても、真空槽を用いる限り、真空槽の内部をその都度、大気解放する問題は生じる。
【0011】
又、レーザ脱離イオン化質量分析におけるレーザ照射位置が固定される問題も、図14に示したリフレクトロン24を備えた反射式飛行時間型質量分析装置に固有の問題ではなく、リフレクトロン24を備えない直線式飛行時間型質量分析装置や、4重極質量分析装置等他の質量分析装置であっても、パルスレーザ光20が試料15を照射し、試料15を離脱、イオン化を行う場合には、同様な問題が発生する。
【0012】
本発明の目的は、真空槽を大気解放することなく、且つ電気的な安全性を維持して、試料を大気側より真空槽の内部に装着することができる質量分析装置を提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、試料の分析範囲が限定されず、試料の広い範囲から質量分析スペクトルを得ることが可能なレーザ脱離イオン化質量分析が可能な質量分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様は、(イ)一端側に引き抜きグリッドを備え、質量分析をするための分析管と、(ロ)この分析管の一端に接続され、内部に試料室を定義する試料室フランジと、(ハ)分析管の長手方向に直交する方向において、試料室フランジに接続され、内部に準備室を定義する準備室フランジと、(ニ)質量分析時に、引き抜きグリッドと対峙し、引き抜きグリッドとで質量分析の被測定イオンの加速器を構成するバックプレートとして機能する試料ステージと、(ホ)この試料ステージを搭載し、分析管の長手方向に直交する方向に沿って、試料室フランジの内部と準備室フランジの内部との間を直線移動する絶縁スリーブと、(ヘ)絶縁スリーブの一端において、絶縁スリーブの外周に設けられ、試料ステージが準備室に位置するとき、分析管と準備室との真空状態を分離し、試料ステージが試料に位置するとき開放状態となる第1シールリングと、
(ト)絶縁スリーブの第1シールリングが設けられた位置とは異なる位置において、絶縁スリーブの外周に設けられ、試料ステージが試料室に位置するとき、分析管と大気との真空状態を分離し、試料ステージが準備室に位置するとき、準備室と大気との真空状態を分離する第2シールリングと、(チ)被測定イオンのイオン源となる試料を上部に収納し、下部を試料ステージに着脱可能な試料ホルダとを備える質量分析装置であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、質量分析装置の真空槽を大気解放することなく、且つ電気的な安全性を維持して、試料を大気側より真空槽の内部に装着することができる質量分析装置を提供することができる。
【0016】
更に、本発明によれば、試料の分析範囲が限定されず、試料の広い範囲から質量分析スペクトルを得ることが可能なレーザ脱離イオン化質量分析が可能な質量分析装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、図面を参照して、本発明の第1〜第3の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0018】
又、以下に示す第1〜第3の実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0019】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る質量分析装置は、ステンレス等の金属材料から構成された分析管14aの上部に、複数の追い返し電極板(イオンレンズ)25の積み重ねからなるリフレクトロン24を備えた反射式飛行時間型質量分析装置である。分析管14aの上端の上端接続フランジ68aに上端シールフランジ(天板)67aが接続され、分析管14aの下端の下端接続フランジ66aに、内部に試料室27を構成する試料室フランジ72が接続され、試料室27と共に真空槽を構成している。試料室フランジ72は、例えば、ステンレス等の金属材料から構成される。この真空槽は、分析管14aからT字型に分岐する排気ポートに設けられた排気ポートフランジ69を介して、図示を省略したターボ分子ポンプ等の真空ポンプに接続される。
【0020】
レーザ脱離イオン化質量分析時においては、試料室フランジ72で周囲を囲まれた試料室27の内部には、図2及び図3に拡大図を示すように、第一加速電極(バックプレート)を兼ねる試料ステージ17が位置している。そして、試料ステージ17の中央部近傍の貫通孔(試料ホルダ挿入孔)に下部を挿入した試料ホルダ16が、試料ステージ17に固定されている。試料ホルダ16の上部には、試料15が収納されている。試料ステージ17及び試料ホルダ16は、例えば、ステンレス等の金属材料から構成される。
【0021】
下端接続フランジ66aの近傍の分析管14aの下部の内部には、試料ステージ17の上方に、イオン22が通過する中心孔を備える板状又はリング状の第二加速電極(引き抜きグリッド)21aが設けられ、レーザ脱離イオン化質量分析時には、試料ステージ(バックプレート)17と第二加速電極(引き抜きグリッド)21aとで、加速器(17,21a)を構成できるようになっている。
【0022】
図1に示すように、リフレクトロン24は、上端シールフランジ(天板)67aに植設されたロッドに、多数(複数)のイオンレンズ25が絶縁スペーサを介して配列された構成を有する。これら多数(複数)のイオンレンズ25及びスペーサは、終端においてバックプレートを介してナット等により締め付けられる。各イオンレンズ25は中心孔を有する薄い金属板であり、上端シールフランジ(天板)67aに片持で支持されている。
【0023】
分析管14aの下部には分析管14aからY分岐したレーザ光導入ポート13が設けられ、レーザ光導入ポート13にはレーザ導入窓19が設けられている。分析管14aの外部に配置されたレーザ10から出射したパルスレーザ光20は、レーザ導入窓19を介して試料15を照射し、試料15を離脱、イオン化を行う。図2においては、第二加速電極(引き抜きグリッド)21aには、レーザ照射穴211とイオン通過穴212が開口された板状の形状が示されているが、パルスレーザ光20が照射可能で、同時にイオン22が通過できる構造であれば、第二加速電極(引き抜きグリッド)21aには、メッシュ等他の電極板構造を採用しても構わない。レーザ10として特に限定はされないが、Nd−YAGレーザや窒素レーザが好適であり、パルスレーザ光20としては、Nd−YAG第4高調波266nm、Nd−YAG第3高調波355nm、窒素レーザ337nm等の近紫外領域のレーザ光が好適である。したがって、レーザ導入窓19の材料は石英ガラスやサファイアガラス等のパルスレーザ光20の波長に透明な材料が選定される。
【0024】
近紫外領域のレーザ光の内、パルスレーザ光20としてはパルス窒素レーザ337nmが、レーザ10が小型・安定・安価・取扱い容易であり、波長337nmは、多くの化合物において吸光度が低い等の理由で好適である。又、パルス窒素レーザは、パルスイオン化に十分な半値幅(500ps〜3ns)と出力(1パルス:数十〜数百μJ)を発生するので、分析対象物を急速に加熱することができるので、分析対象物を急速加熱することにより、分析対象物を分解させることなく、イオン化することができる利点がある。このため、分子量100kDaを超えるタンパク質のような熱的不安定分子をも分解させることなく、脱離イオン化が可能である。
【0025】
レーザ脱離イオン化質量分析時には、パルスレーザ光20により生成されたイオン22は、加速器(17,21a)において所定の加速電圧により運動エネルギが与えられ、MCP検出器23の中央の穴を通過し、分析管(フライトチューブ)14a内のフィールドフリー区間(無電界ドリフト空間)26を飛行した後、リフレクトロン24に進入する。リフレクトロン24の内部には複数枚の追い返し電極板(イオンレンズ)25により傾斜電界が形成されており、この傾斜電界によりイオン22は入射方向から僅かに傾いた方向に反射され、分析管(フライトチューブ)14aを戻ってMCP検出器23により検出される。
【0026】
図1に示す飛行時間型質量分析装置では、パルスレーザ光20により生成されたイオン22が、加速器(17,21a)において所定の加速電圧により加速され、分析管(フライトチューブ)14aのフィールドフリー区間(無電界ドリフト空間)26を飛行する。所定距離を飛行する時間はイオン22の初速により異なり、この初速はイオン22の質量数(質量/電荷数)に依存する。本質的にイオン22を速度ゼロまで減速させる減速電場を提供するリフレクトロン24では、高い運動エネルギ(速度)を有するイオン22は、低い運動エネルギを有するイオン22よりリフレクトロン24に深く侵入し、したがってMCP検出器23までより長い経路を有するようになる。イオン22はMCP検出器23に到達したとき、その初期運動エネルギの分布を保持しているが、異なる質量のイオン22は異なる時間に到達する。したがって、リフレクトロン24で反射され、MCP検出器23で検出されるイオン22の検出量を連続的に測定することにより、イオン22の質量スペクトルを得ることができる。
【0027】
陽イオンを加速するのであれば、一般に、第二加速電極(引き抜きグリッド)21aを接地電位とし、第一加速電極(バックプレート)となる試料ステージ17に負の加速電圧(V)を印加する。MCP検出器23の配置される出口グリッドは、通常接地電位である。加速電圧(V)は、数百ボルト〜30kVの範囲とすることができる。
【0028】
図2及び図3に詳細に示すように、試料室フランジ72の左端には、ステンレス等の金属材料から構成されたフィードスルーフランジ71がOリングを介して試料室フランジ72と接続され、フィードスルーフランジ71を貫通する加速電圧導入用の電流導入端子29が設けられている。図2及び図3に示すように、レーザ脱離イオン化質量分析時においては、電流導入端子29は、例えば銅やリン青銅等の導電性材料からなる自在端子28に電気的に接続される。なお、自在端子28の表面には、金メッキ等の表面処理を施した方がコンタクト抵抗、導電性、対酸化特性等の点で好ましい。自在端子28の内部には、バネ48が組み込まれ、電流導入端子29の先端部と自在端子28との電気的接続に必用な所定の機械的圧力を供給している。
【0029】
一方、 図2及び図3に示すように、試料室フランジ72の右端には、内部に準備室38を構成するように、ステンレス等の金属材料からなる準備室フランジ73がOリングを介して試料室フランジ72と接続されている。図1及び図2から分かるように、準備室フランジ73には、着脱ポート31が設けられている。着脱ポート31を介して、準備室38の内部に、試料15が載せられた試料ホルダ16を導入され、測定後の試料15を載せられた試料ホルダ16が引き抜かれ、新たな測定予定用の試料15が載せられた試料ホルダ16が再び導入される。
【0030】
図2に示すように、準備室フランジ73は、図2おいて右方向に延伸するスリーブ状の部分を有し、スリーブ状の部分の内部に、例えばプラスチック樹脂等の絶縁材料からなる絶縁スリーブ32が挿入されている。
【0031】
絶縁スリーブ32の左端近傍には、第1シールリング36が設けられ、絶縁スリーブ32の中央より左側方向に第2シールリング37が設けられている。第1シールリング36及び第2シールリング37は、Oリング等の真空シール可能なシールリングである。図4及び図5に示す試料15の交換時には、絶縁スリーブ32に設けられた第1シールリング36により分析管14aと準備室38との真空状態が分離される。第2シールリング37は、試料15の交換時に準備室38と大気を遮断するシールリングの機能をなしている。一方、図1〜図3及び図7に示す質量分析時には、絶縁スリーブ32に設けられた第2シールリング37が、分析管14aと大気を遮断するシールリングの機能をなし、第1シールリング36は開放状態となる。
【0032】
図1〜図3から理解できるように、絶縁スリーブ32の中央より左側方向において、絶縁スリーブ32の内部にステンレス等の金属材料からなる直線駆動軸33が挿入され、直線駆動軸33は、絶縁スリーブ32の右側において、準備室フランジ73を飲み込むように構成されたX微動つまみ34により、X方向(図1〜図3において水平方向)に移動する。X微動つまみ34と絶縁スリーブ32に設けられた送りネジは、双方の送り量が加算される和動ネジの構造をなし、X微動つまみ34の回転数を少なく軽減して、X方向に移動できる。
【0033】
図2に示されるように、絶縁スリーブ32の左端近傍には、絶縁スリーブ32の内部に試料ステージ固定部49が埋め込まれている。試料ステージ固定部49は、試料ステージ17を搭載し、固定する部材であり、ステンレス等の金属材料からなる。試料ステージ固定部49の左端には凹部が設けられ、凹部の内部には、バネ48により浮動状態に設定された自在端子28が収納されている。図2及び図3から理解できるように、試料ステージ固定部49は、互いに向かい合う一対の凹部溝(図2の上方位置から垂直方向に下方を見て、或いは図3の紙面の上方から見てコの字状の一対の溝)が設けられ、この一対の凹部溝の内部に試料ステージ17が収納され、一対の凹部溝内で、試料ステージ17が移動が可能となっている。一方、Y方向駆動アクチュエータ30は、図1に示すように、X微動つまみ34に隣接して設けられたY微動つまみ35により操作される。図2及び図3から理解できるように、試料ステージ17には、図3の紙面において水平方向に対し、45°の角度に延伸するスリット状の溝であるマニュピュレート溝40が設けられ、このマニュピュレート溝40の内部に、Y方向駆動アクチュエータ30に装着されたピン41が収納されている。Y方向駆動アクチュエータ30がX方向に移動することでピン41によって、試料ステージ17はマニュピュレート溝40によりY方向の移動を発生してY方向に移動する。Y方向駆動アクチュエータ30は、試料ステージ17を相対的にX方向移動させるアクチュエータであり、電歪素子、磁歪素子、電磁石等が使用可能であるが、全体として電気的絶縁性の高い絶縁材料から構成されている。
【0034】
<試料交換の手順>
試料15の交換は、おおよそ以下の手順でなされる:
(イ)先ず、最初の質量分析が終了したものとする。その後、X微動つまみ34を回転させれば、試料15を搭載した試料ステージ17が、試料室27内の先の質量分析を行ったパルスレーザ光照射位置からX方向(図4及び図5において矢印に示した右方向)に移動する。試料ステージ17が、質量分析を行うパルスレーザ光照射位置から、図4及び図5の矢印の方向(右方向)に移動すると、電流導入端子29と自在端子28との電気的接続が開放される。図4及び図5は、試料15を搭載した試料ステージ17が、試料室27からX方向への移動を完了した状態の図である。この状態では、絶縁スリーブ32に設けられた第1シールリング36により分析管14aと準備室38との真空状態が分離され、第2シールリング37により、準備室38と大気とが遮断される。
【0035】
(ロ)図4及び図5において、準備室38を、図示を省略したリークバルブ等を用いて真空リークし、大気圧状態にする。準備室38を、大気圧状態にした後、着脱ポート31を用いて、準備室38の内部に、試料15が載せられた試料ホルダ16を導入する。図6(a)に示すように、着脱治具は、図6(b)に示す試料ホルダ16を掴むチャック58を先端に備えた着脱治具ボディ(スリーブ)57に、着脱ロッド56が挿入される構造をなしている。図6(a)に示すように、着脱治具ボディ57の内部に、先端部がテーパ形状をなす着脱ロッド56を、チャック58の上部の操作穴に押し込むことにより、弾性を有するチャック58の先端部(試料ホルダ取付部)が開き、測定済みの試料15が載せられた試料ホルダ16の上部が着脱治具の先端に挿入される。この状態で、着脱治具ボディ57に対する着脱ロッド56の押し込みを解除すると、チャック58の先端部(試料ホルダ取付部)が閉じ、試料ホルダ16の上部を着脱治具の先端に掴むことができる。
【0036】
試料ホルダ16を先端に装着した着脱治具を、着脱ポート31から引き抜けば、図2及び図3に示すような試料ステージ17の中央部近傍の貫通孔(試料ホルダ挿入孔)から、試料ホルダ16の下部が離脱・分離する。
【0037】
(ハ)着脱治具を、着脱ポート31から引き抜いた後、着脱治具ボディ57に再び着脱ロッド56を押し込むと、弾性を有するチャック58の先端部(試料ホルダ取付部)が開き、試料ホルダ16が、着脱治具から開放される。試料ホルダ16を着脱治具から開放後、料ホルダ16の上部から測定済みの試料15を除去し、試料ホルダ16の上部に新たな試料(測定予定の試料)15を充填する。或いは、複数の試料ホルダ16を用意しておき、新たな試料(測定予定の試料)15を充填した別の試料ホルダ16に交換する。即ち、
着脱治具ボディ57に着脱ロッド56を押し込むと、弾性を有するチャック58の先端部(試料ホルダ取付部)が開き、新たな試料(次の測定予定の試料)15を充填した試料ホルダ16をチャック58の試料ホルダ取付部に挿入し、その後、着脱治具ボディ57に対する着脱ロッド56の押し込みを解除することにより、チャック58の試料ホルダ取付部を閉じ、試料ホルダ16の上部を着脱治具の先端に掴む。
【0038】
(ニ)その後、着脱ポート31を用いて、準備室38の内部に、次の測定予定の試料(新たな試料)15が載せられた試料ホルダ16を再度導入する。具体的には、着脱治具を、着脱ポート31から再度導入し、この着脱治具を用いて、次の測定予定の試料15が載せられた試料ホルダ16を試料ステージ17に装着する。即ち、試料ホルダ16を先端に装着した着脱治具を、着脱ポート31から導入し、試料ステージ17の中央部近傍の貫通孔(試料ホルダ挿入孔)に、試料ホルダ16の下部を挿入する。試料ステージ17の試料ホルダ挿入孔に、試料ホルダ16を固定後、着脱治具ボディ57に着脱ロッド56を押し込むと、チャック58の試料ホルダ取付部が開き、試料ホルダ16が、着脱治具から開放される。試料ホルダ16を着脱治具から開放後、着脱治具を着脱ポート31から引き抜き、図示を省略したリークバルブを閉じ、着脱ポート31も大気遮断状態にする。
【0039】
(ホ)着脱ポート31を大気から遮断した後、次の測定予定の試料15が載せられた試料ホルダ16の下部を試料ステージ17に装着(固定)した状態で、図3及び図5に示す準備室排気ポート39を用いて、準備室38の内部を大気圧力から、例えば、10-2Pa程度の所定の到達圧力の真空状態に真空排気を行う。
【0040】
(ヘ)所定の到達圧力にまで準備室38を真空排気後、X微動つまみ34を回転し、次の測定予定の試料15を搭載した試料ステージ17を質量分析を行うパルスレーザ光照射位置にある状態までX方向(図4及び図5において矢印とは反対の左方向)に移動する。
【0041】
図7は、試料ステージ17が、質量分析を行うパルスレーザ光照射位置に移動した状態を示す図である。図7に示すように、試料ステージ17が、質量分析を行うパルスレーザ光照射位置に移動すると、電流導入端子29と自在端子28とが、自在端子28の内部に組み込まれたバネ48の圧力により、電気的に接続される。この後、分析管14aの内部をターボ分子ポンプ等の真空ポンプにより、所定の分析圧力まで排気し、次の測定予定の試料15に対する新たな質量分析がなされる。
【0042】
<レーザ脱離イオン化質量分析における試料のX−Y移動>
図7〜図11のそれぞれの右端に図示したように、本明細書では、分析管の長手方向に直交する平面をX−Y平面として定義し、このX−Y平面上の試料ステージ17の移動について説明する。
【0043】
−X方向の微動−
図8及び図9は、レーザ脱離イオン化質量分析において、パルスレーザ光20の照射位置に対し、相対的に、試料15をX方向(図8及び図9において水平方向)の微動を行う操作を説明する図である。
【0044】
X微動つまみ34を回転し、試料15を質量分析を行うパルスレーザ光20の照射位置の状態移動すると、自在端子28は、電流導入端子(フィードスルー)29に接触し、加速電圧導入端子よりイオン加速電圧が、第一加速電極(バックプレート)を兼ねる試料ステージ17に印加される。図8に示す試料15の位置に対し、図9に示す試料15の位置は右方向(+X方向)に移動しており、パルスレーザ光20の照射位置に対し、試料15が相対的に、X−Y平面内でX方向に微動した状態が示されている。試料15のX方向の移動位置は、X微動つまみ34の表面に設けられた目盛り等により位置表示される。
【0045】
自在端子28はバネ48により浮動状態にあるので、電流導入端子29と自在端子28との電気的な接続がX方向の微動の範囲では十分に確実に維持され、照射位置に対するX−Y平面内での移動範囲では、イオン加速電圧を安定に供給することができる。
【0046】
−Y方向の微動−
図10及び図11は、レーザ脱離イオン化質量分析において、パルスレーザ光20の照射位置に対し、相対的に、試料15をY方向(図10及び図11において垂直方向)の微動を行う操作を説明する図である。
【0047】
図10に示す試料15のX−Y平面内位置に比し、図11に示す試料15のX−Y平面内位置は、下方向(−Y方向)に微動している状態を示す。図10及び図11において、Y微動つまみ35を微動回転し、直線駆動軸33をX軸方向に微動を行うと、Y方向駆動アクチュエータ30がX軸方向に移動する。Y方向駆動アクチュエータ30に取り付けられたピン41は、試料ステージ17に設けられたマニュピュレート溝40に嵌め合わせてある。マニュピュレート溝40は、図10及び図11の紙面において水平方向に対し、45°の角度に設けられた溝である。マニュピュレート溝40の内部に、Y方向駆動アクチュエータ30に装着されたピン41が収納されているので、Y方向駆動アクチュエータ30がX方向(左右方向)に移動することでピン41によって、マニュピュレート溝40によりY方向(上下方向)の移動が発生し、試料ステージ17はY方向に移動する。即ち、図10は、ピン41がマニュピュレート溝40の左下端に相対的に移動し、結果として、試料ステージ17が上方向(+Y方向)に微動した状態であり、図11は、ピン41がマニュピュレート溝40の右上端に相対的に移動し、結果として、試料ステージ17が下方向(−Y方向)に微動した状態である。
【0048】
試料15の移動位置は、Y微動つまみ35の表面に設けられた目盛り等により位置表示される。X方向の微動と同様に、電流導入端子29と自在端子28との電気的な接続がX方向の微動の範囲では十分に確実に維持され、照射位置に対するX−Y平面内での移動範囲では、イオン加速電圧を安定に供給することができる。
【0049】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る反射式飛行時間型分析装置によれば、分析管14aの内部の真空槽を大気解放することなく、試料15を大気側より装着することが可能であるので、質量分析性能及び操作性が向上する。
【0050】
更に、第1の実施の形態に係る反射式飛行時間型質量分析装置によれば、レーザ照射位置に対して試料15をX−Y平面内で相対的に移動する制御が可能であり、加えて、試料ステージ17をレーザ照射位置から真空外取り出し位置に移動させると、イオン加速電圧が自動的に遮断されるので、質量分析性能、操作性、安全性が向上する。
【0051】
(第2の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態おいては、リフレクトロン24を備えた反射式飛行時間型質量分析装置の場合について例示的に説明したが、本発明の技術的思想は、リフレクトロン24を備えない直線式(リニア式)飛行時間型質量分析装置でも同様である。
【0052】
図12は本発明の第2の実施の形態に係る直線式飛行時間型分析装置の概略構成を示す図であり、分析管14bの上部に、MCP検出器23が設けられている。図12に示すように、分析管14bの上端の上端接続フランジ68bに上端シールフランジ(天板)67bが接続され、MCP検出器23は、上端シールフランジ(天板)67bに植設された金属製のロッドに接続された出口グリッド上に配置されている。したがって、MCP検出器23及びMCP検出器23を配置する出口グリッドは、接地電位にされている。分析管14bの下端の下端接続フランジ66bに、内部に試料室27を構成する試料室フランジ72が接続され、試料室27と共に真空槽を構成している点や、真空槽が、分析管14bからT字型に分岐する排気ポートに設けられた排気ポートフランジ69を介して、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプにより真空排気される点等は、第1の実施の形態に係る反射式飛行時間型質量分析装置と同様である。
【0053】
図12に示すように、第2の実施の形態に係る直線式飛行時間型分析装置においては、分析管14bの下部の内部に、中心孔を備える板状又はリング状の第二加速電極(引き抜きグリッド)21bが設けられ、第一加速電極(バックプレート)を兼ねる試料ステージ17と第二加速電極(引き抜きグリッド)21aとで、加速器(17,21a)を構成している。
【0054】
試料室フランジ72及び試料室フランジ72の右端に接続される準備室フランジ73の構造、及びそれらによる真空シールや試料ステージ17の駆動メカニズムは、第1の実施の形態と同様であり、重複した説明を省略する。電流導入端子29と自在端子28との電気的な接続関係についても、第1の実施の形態と同様であり、重複した説明を省略する。
【0055】
第1の実施の形態と同様に、レーザ導入窓19よりパルスレーザ光20を試料15に照射して試料15を離脱、イオン22化を行う。イオン22は加速器(17,21a)により加速され直線式飛行フィールドフリー区間26bを通過し、MCP検出器23で検出される。イオン22の質量の大きさによりイオン22の飛行軌道と飛行時間が異なるので、図12に示す直線式飛行時間型分析装置によっても、質量分析スペクトルを得ることができる。
【0056】
第2の実施の形態に係る直線式飛行時間型分析装置によれば、第1の実施の形態に係る反射式飛行時間型質量分析装置と同様に、分析管14bの内部の真空槽を大気解放することなく、試料15を大気側より装着することが可能であるので、質量分析性能及び操作性が向上する。
【0057】
更に、第1の実施の形態に係る反射式飛行時間型質量分析装置と同様に、第2の実施の形態に係る直線式飛行時間型分析装置によれば、レーザ照射位置に対して試料15をX−Y平面内で相対的に移動する制御が可能であり、加えて、試料ステージ17をレーザ照射位置から真空外取り出し位置に移動させると、イオン加速電圧が自動的に遮断されるので、質量分析性能、操作性、安全性が向上する。
【0058】
(第3の実施の形態)
本発明の第1及び第2の実施の形態おいては、飛行時間型質量分析装置の場合について例示的に説明したが、本発明の技術的思想は、飛行時間型質量分析装置に限定されるものではない。
【0059】
図13は本発明の第3の実施の形態に係る4重極質量分析装置の概略構成を示す図であり、第2の実施の形態に係る直線型飛行時間型分析装置と同様に、分析管14cの上部に、MCP検出器23が設けられている。図13に示すように、分析管14cの上端の上端接続フランジ68cに上端シールフランジ(天板)67cが接続され、MCP検出器23は、上端シールフランジ(天板)67cに植設された金属製のロッドに接続された出口グリッド上に配置されている。したがって、MCP検出器23及びMCP検出器23を配置する出口グリッドは、接地電位にされている。分析管14cからT字型に分岐する排気ポートに排気ポートフランジ69が設けられ、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプにより真空排気可能なような構造になっているが、排気ポート近傍の分析管14cの内部には、4重極レンズ54を構成するように、4本の断面円形のロッド(円柱)が配置されている。
【0060】
分析管14cの下端の下端接続フランジ66cに、内部に試料室27を構成する試料室フランジ72が接続され、試料室27と共に真空槽を構成している点等は、第1及び第2の実施の形態に係る質量分析装置と同様である。
【0061】
図13に示すように、第3の実施の形態に係る4重極質量分析装置においては、分析管14cの下部の内部に、第二加速電極(引き抜きグリッド)21cが設けられ、第一加速電極(バックプレート)を兼ねる試料ステージ17と第二加速電極(引き抜きグリッド)21aとで、加速器(17,21a)を構成している。
【0062】
試料室フランジ72及び試料室フランジ72の右端に接続される準備室フランジ73の構造、及びそれらによる真空シールや試料ステージ17の駆動メカニズムは、第1及び第2の実施の形態と同様であり、重複した説明を省略する。電流導入端子29と自在端子28との電気的な接続関係についても、第1及び第2の実施の形態と同様であり、重複した説明を省略する。
【0063】
第1及び第2の実施の形態と同様に、レーザ導入窓19よりパルスレーザ光20を試料15に照射して試料15を離脱、イオン22化を行う。イオン22は加速器(17,21a)により加速され、4重極レンズ54中を通過してMCP検出器23で検出される。4重極レンズ54中の空間を通るイオン22の経路は、4重極レンズ54のロッドに印加されるDC電圧U及び高周波電圧Vcosωtによって、ならびに各イオン22の質量電荷比によって定められ、これにより、異なる質量電荷比を有するビーム中のイオン22がMCP検出器23まで連続して通ることができる。したがって、MCP検出器23は、4重極レンズ54のロッドに印加される特定のDC電圧U及び高周波電圧Vに対して、決まる特定の質量電荷比を有するイオン22が検出される。4重極レンズ54のロッドに印加されるDC電圧U及び高周波電圧を掃引することにより、質量分析スペクトルを得る。
【0064】
第3の実施の形態に係る4重極質量分析装置によれば、第1及び第2の実施の形態に係る質量分析装置と同様に、分析管14cの内部の真空槽を大気解放することなく、試料15を大気側より装着することが可能であるので、質量分析性能及び操作性が向上する。 更に、第1及び第2の実施の形態に係る質量分析装置と同様に、第3の実施の形態に係る4重極質量分析装置によれば、レーザ照射位置に対して試料15をX−Y平面内で相対的に移動する制御が可能であり、加えて、試料ステージ17をレーザ照射位置から真空外取り出し位置に移動させると、イオン加速電圧が自動的に遮断されるので、質量分析性能、操作性、安全性が向上する。
【0065】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は第1〜第3の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0066】
既に述べた本発明の第1及び第2の実施の形態においては、飛行時間型質量分析装置の場合について、第3の実施の形態においては、4重極質量分析装置に付いて説明したが、本発明の技術的思想は、飛行時間型質量分析装置及び4重極質量分析装置に限定されるものではなく、その他、イオントラップ型、セクター型、フーリエ変換型、若しくは、これらの複合型、或いは、飛行時間型質量分析装置や重極質量分析装置とこれらの複合型の質量分析装置でも構わない。
【0067】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る質量分析装置(反射式飛行時間型質量分析装置)の全体構成の概略を説明するための模式的な断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る質量分析装置の試料室フランジ及び準備室フランジの一部の概略を拡大して詳細に説明するための模式的な部分断面図である(図3のB−B方向から見た断面図である。)。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る質量分析装置の試料室フランジ及び準備室フランジの一部の概略を拡大して詳細に説明するための模式的な部分断面図である(図2のA−A方向から見た断面図である。)。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る質量分析装置において、試料交換のために、試料ステージを準備室に移動した状態の全体構成の概略を説明するための図1に対応する模式的な断面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る質量分析装置において、試料交換のために、試料ステージを準備室に移動した状態の全体構成の概略を説明するための模式的な断面図である(図2のA−A方向から見た断面図に相当する断面図である。)。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る質量分析装置において、準備室で試料交換をする際に用いる着脱治具の概略を説明するための模式的な断面図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る質量分析装置において、試料交換後、次の測定予定の試料を搭載した試料ステージを準備室から試料室に移動した状態の全体構成の概略を説明するための模式的な断面図である(図2のA−A方向から見た断面図に相当する断面図である。)。
【図8】図7に示すX方向の位置から更に、−X方向(図8において左方向)に試料ステージを移動(微動)した状態を説明する模式的な断面図である。
【図9】図7に示すX方向の位置から更に、+X方向(図9において右方向)に試料ステージを移動(微動)した状態を説明する模式的な断面図である。
【図10】図7に示すY方向の位置から更に、+Y方向(図10において上方向)に試料ステージを移動(微動)した状態を説明する模式的な断面図である。
【図11】図7に示すY方向の位置から更に、−Y方向(図11において下方向)に試料ステージを移動(微動)した状態を説明する模式的な断面図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る質量分析装置(直線式飛行時間型質量分析装置)の全体構成の概略を説明するための模式的な断面図である。
【図13】本発明の第3の実施の形態に係る質量分析装置(4重極質量分析装置)の全体構成の概略を説明するための模式的な断面図である。
【図14】従来の反射式飛行時間型質量分析装置の全体構成の概略を説明するための模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0069】
10…レーザ
13…レーザ光導入ポート
14a,14b,14c,14p…分析管
15…試料
16…料ホルダ
16…試料ホルダ
17…試料ステージ(バックプレート)
19…レーザ導入窓
20…パルスレーザ光
21a,21b,21c,21p…第二加速電極(引き抜きグリッド)
22…イオン
23…MCP検出器
24…リフレクトロン
25…イオンレンズ
26,26b…直線式飛行フィールドフリー区間
27…試料室
28…自在端子
29…電流導入端子
30…Y方向駆動アクチュエータ
31…着脱ポート
32…絶縁スリーブ
33…直線駆動軸
34…X微動つまみ
35…Y微動つまみ
36…第1シールリング
37…第2シールリング
38…準備室
39…準備室排気ポート
40…マニュピュレート溝
41…ピン
48…バネ
49…試料ステージ固定部
54…4重極レンズ
56…着脱ロッド
57…着脱治具ボディ
58…チャック
66a,66b,66c,66p…下端接続フランジ
68a,68b,68c,68p…上端接続フランジ
69…排気ポートフランジ
71…フィードスルーフランジ
72…試料室フランジ
73…準備室フランジ
83…試料ホルダ
84…試料交換ポート
84…試料交換ポート盲板
85…第一加速電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側に引き抜きグリッドを備え、質量分析をするための分析管と、
該分析管の前記一端に接続され、内部に試料室を定義する試料室フランジと、
前記分析管の長手方向に直交する方向において、前記試料室フランジに接続され、内部に準備室を定義する準備室フランジと、
質量分析時に、前記引き抜きグリッドと対峙し、前記引き抜きグリッドとで前記質量分析の被測定イオンの加速器を構成するバックプレートとして機能する試料ステージと、
該試料ステージを搭載し、前記分析管の長手方向に直交する方向に沿って、前記試料室フランジの内部と前記準備室フランジの内部との間を直線移動する絶縁スリーブと、
前記絶縁スリーブの一端において、前記絶縁スリーブの外周に設けられ、前記試料ステージが前記準備室に位置するとき、前記分析管と前記準備室との真空状態を分離し、前記試料ステージが前記試料に位置するとき開放状態となる第1シールリングと、
前記絶縁スリーブの前記第1シールリングが設けられた位置とは異なる位置において、前記絶縁スリーブの外周に設けられ、前記試料ステージが前記試料室に位置するとき、前記分析管と大気との真空状態を分離し、前記試料ステージが前記準備室に位置するとき、前記準備室と大気との真空状態を分離する第2シールリングと、
前記被測定イオンのイオン源となる試料を上部に収納し、下部を前記試料ステージに着脱可能な試料ホルダ
とを備えることを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
前記絶縁スリーブの前記一端側に位置し、前記試料ステージを前記絶縁スリーブに固定する、導電性材料からなる試料ステージ固定部と、
該試料ステージ固定部の前記絶縁スリーブの前記一端側に自在に固定され、導電性材料からなり、前記試料ステージに電気的に接続された自在端子と、
前記試料ステージが前記試料室内に位置するとき、前記自在端子に電気的に接続し、該電気的接続により、前記試料室フランジの外部から前記試料ステージに前記被測定イオンの加速電圧を印加し、前記試料ステージが前記準備室側に移動すると、自動的に電気的接続が遮断される電流導入端子
とを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記試料室の内部の前記分析管の長手方向に直交するX−Y平面上における、前記試料ステージの移動を駆動する手段を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−71510(P2008−71510A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−246567(P2006−246567)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(302000081)株式会社メムス・コア (19)
【Fターム(参考)】