説明

質量分析装置

【課題】簡単な構成で、高い効率で測定対象物質の質量分析を行うことができる質量分析装置を提供することにある。
【解決手段】レーザ光が照射されることでプラズモンを励起し得る金属体が形成された表面を有し、表面に測定対象物質を付着させるデバイスを支持するデバイス支持体、デバイス支持体が内部に固定された真空チャンバ、デバイスの表面にレーザ光を照射して、前記表面に付着している測定試料をイオン化するとともに、表面から脱離させる光照射手段、及び、デバイスの表面から脱離されイオン化された前記測定試料の飛行時間から前記測定試料の質量を検出する検出手段とを有する分析装置本体と、複数の前室ユニットとを有し、各前室ユニットは、分析装置本体及び他の前室ユニットに対して独立した真空系であり、それぞれが分析装置本体にデバイスをセット、回収することで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物質を検出する質量分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
測定対象物質の同定等に用いられる質量分析法としては、測定対象物質にレーザ光を照射し、測定対象物をイオン化させて脱離させ、脱離させた物質を質量別に検出する質量分析法(MS、Mass Spectrometry)がある。
【0003】
この質量分析の際に測定対象物質をイオン化させる方法としては、例えば、非特許文献1に記載されているように、MALDI法(マトリクス支援レーザ脱離イオン化法、matrix-assisted laser desorption ionization)や、SALDI法(表面支援レーザ脱離イオン化法、surface-assisted laser desorption ionization)がある。
MALDI法とは、測定対象物質をマトリクス(例えば、シナピン酸やグリセリン等)に混入した試料に光を照射し、照射された光のエネルギをマトリクスに吸収させ、マトリクスとともに測定対象物質を気化させ、さらにマトリクスと測定対象物質との間でプロトン移動を発生させることで測定対象物質をイオン化する方法である。
また、SALDI法とは、マトリクスを用いず、試料を載置する基板の表面にマトリクスと同様の機能を持たせ、測定対象試料を基板表面で直接イオン化する方法である。なお、非特許文献1には、基板として、数百nmの大きさの穴が形成されポーラスシリコン板を用いるDIOS法が記載されている。
【0004】
また、特許文献1には、測定対象物質を載置する面(つまり、検出面)の少なくとも一部が、レーザ光を照射されることにより局在プラズモンを励起し得る金属粗面とされている質量分析用基板を用い、質量分析用基板の検出面にレーザ光を照射して、測定対象物質を検出面上から離脱させ、検出面から離脱した測定対象物質を捕捉することで、測定対象物質の質量を分析する質量分析装置が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、X線マイクロアナライザや、イオンマイクロアナライザ等の試料を真空中において分析を行う分析装置として、分析装置本体と、予備排気室と、分析装置本体と予備排気室との間を仕切るゲートバルブとを有する分析装置が記載されている。
この分析装置は、分析装置本体内に試料をセットする場合、ゲートバルブを閉じて予備排気室を開き、試料を予備排気室内に搬入し、予備排気室を閉じて排気し、その後ゲートバルブを開いて外部操作により試料を分析装置本体内に搬送し、試料を分析装置本体内から取り出すときは、上述と反対の手順で試料を取り出すことで、分析装置本体内を真空に保ったままで試料交換を行うことができる。
また、特許文献2には、ゲートバルブの誤操作により、外部から試料を移動させるための試料交換手段が破損することを防止するために、ゲートバルブの開閉状態を検出する検出手段を設け、その検出結果によりゲートバルブの動作を制御することも記載されている。
【0006】
【非特許文献1】ANALYTILAL CHAMISTRY Volume 77 Number 16 5364-5369頁
【特許文献1】特開2007−171003号公報
【特許文献2】実用新案登録第2519083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、非特許文献1及び特許文献1に記載されている真空状態で質量分析を行う質量分析装置は、真空状態の装置内に試料を載置する必要があるため、試料を交換するためには、装置内を大気開放し、試料を装置内に搬入した後、装置内を真空状態にすることになり、試料交換に時間がかかるという問題がある。
これに対して、特許文献2に記載されている分析装置のように、分析装置本体に連結した予備排気室(つまり、前室)を設けることで、分析装置本外の真空状態を維持したまま試料の交換を行うことができる。具体的には、試料交換時に分析装置本体よりも容積の小さい予備排気室のみを大気開放して、試料を交換し、予備排気室を真空状態した後、予備排気室から分析装置本体に試料を搬送することができる。
これにより、大気開放してから所定の真空状態とするまでに係る時間を少なくすることができ、短時間で測定が行うことができる。
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載されている装置でも、予備排気室を大気開放してから所定の真空状態とするまでに一定時間が必要なため、時間短縮に限界があり、高いスループット、つまり、より短時間での連続処理を要求される用途に用いることは困難である。
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術に基づく問題点を解消し、簡単な構成で、高い効率で測定対象物質の質量分析を行うことができる質量分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、レーザ光が照射されることでプラズモンを励起し得る金属体が形成された表面を有し、前記表面に測定対象物質を付着させる質量分析用デバイスを支持するデバイス支持体、前記デバイス支持体が内部に固定された真空チャンバ、前記質量分析用デバイスの表面にレーザ光を照射して、前記表面に付着している測定試料をイオン化するとともに、前記表面から脱離させる光照射手段、及び、前記質量分析用デバイスの表面から脱離されイオン化された前記測定試料の飛行時間から前記測定試料の質量を検出する検出手段とを有する分析装置本体と、複数の前室ユニットとを有し、各前室ユニットは、前記質量分析用デバイスを載置する載置部を備え前記真空チャンバに連結された前室と、前記真空チャンバと前記前室との連結部に設置され、前記真空チャンバと前記前室との間の空気の流れを遮断することが可能なゲートと、前記載置部に載置された前記質量分析用デバイスを前記デバイス支持体上にセットし、前記デバイス支持体にセットされた前記質量分析用デバイスを前記前室に回収するデバイス搬送機構と、前記前室を真空状態にする空気圧調整機構とで構成され、前記分析装置本体及び他の前室ユニットに対して独立した真空系であることを特徴とする質量分析装置を提供するものである。
【0011】
ここで、質量分析装置は、前記デバイス搬送機構の搬送動作及び前記ゲートの開閉動作を制御する制御部を有し、前記制御部は、前記載置部に載置された前記質量分析用デバイスを前記デバイス支持体上にセットし、前記デバイス支持体にセットされた前記質量分析用デバイスを前記前室に回収することが好ましい。
また、前記空気圧調整機構は、複数の前記前室ユニットに共通の真空ポンプと、真空ポンプと各前室ユニットの前記前室とを接続するバルブと、バルブ毎に設けられた開閉弁とを有することが好ましい。
【0012】
また、前記光照射手段は、前記レーザ光の偏光方向を調整する偏光調整機構を有することが好ましい。
ここで、前記光照射手段は、前記レーザ光を、前記質量分析用デバイスの表面に対して所定角度傾斜して入射させることが好ましい。
また、前記光照射手段は、前記レーザ光を、前記質量分析用デバイスの表面に対して垂直に入射させることが好ましい。
【0013】
また、前記偏光調整機構は、λ/2板を有することが好ましく、バビネソレイユ板を有することも好ましい。
また、前記偏光調整機構は、前記レーザ光を射出する光源を回転させる機構であることも好ましい。
また、前記光照射手段は、さらに、前記偏光調整機構を遠隔操作する操作部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、1つの前室ユニットの質量分析用デバイスの質量分析を行っている間に、他の前室ユニットでは、質量分析用デバイスの設置等の測定の準備を行うことできる。これにより、分析装置本体による質量分析用デバイスの測定と測定との間隔を短くすることができ、ハイスループットで質量分析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る質量分析装置について、添付の図面に示す実施形態を基に詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の質量分析装置の一実施形態の概略構成を示す正面図であり、図2は、図1のII−II線矢視図である。
図1及び図2に示すように、質量分析装置8は、質量分析用デバイス11から脱離した物質を所定距離飛行させてその飛行時間により物質の質量を分析する飛行時間型質量分析装置(TOF−MS)であり、分析装置本体10と、第1前室ユニット50aと、第2前室ユニット50bと、第3前室ユニット50cと、第4前室ユニット50d(以下、単に「4つの前室ユニット」ともいう。)と、分析装置本体10と4つの前室ユニットの動作を制御する制御部80とで構成されている。
【0017】
ここで、質量分析用デバイス(以下単に「デバイス」ともいう。)11は、測定光が照射されることでプラズモンを励起しうる金属体が形成された板状部材であり、真空チャンバ12内に配置されている。また、デバイス11のプラズモンを誘起し得る金属体が形成されている面には、測定対象物質Mが付着(または載置)されている。
デバイス11は、4つの前室ユニットにそれぞれ搬入され、各前室ユニットから分析装置本体10の所定位置にセットされ、分析装置本体10により測定対象物質Mが質量分析された後、前室ユニット内に回収される。
デバイス11の金属体の詳細な構成については後ほど詳述する。
【0018】
以下、分析装置本体10について説明する。
分析装置本体10は、真空チャンバ12と、真空チャンバ12内に配置され、、デバイス11を支持するデバイス支持手段13と、デバイス11に付着した試料に測定光を照射して、試料中の測定対象物質Mをデバイス11から脱離させる光照射手段14と、脱離した測定対象物質Mを所定方向に飛翔させる飛翔方向制御手段16と、脱離した測定対象物質Mを検出して測定対象物質Mの質量を分析する質量分析手段17と、真空チャンバ12を真空状態にする真空ポンプ18とを有する。
【0019】
真空チャンバ12は、内部を真空にすることができるチャンバであり、真空ポンプ18が接続されている。真空チャンバ12は、密閉された状態で真空ポンプ18により内部の空気を吸引することで、内部を真空にする。
また、真空チャンバ12には、光照射手段14から射出された光を真空チャンバ12の内部に入射させるための窓12aが設けられている。窓12aは、耐圧性が高く(外部と真空チャンバ12内との気圧差に対応することができ)、かつ、測定光Lを高い透過率で透過する材料で形成されている。
さらに、真空チャンバ12は、後述する4つの前室ユニットと連結しており、前室ユニットと連結している部分には開口が形成されている。
なお、真空ポンプ18としては、遠心式や軸流式などのターボ形、往復式や回転式などの容積形等、種々の方式のポンプを用いることができる。
【0020】
デバイス支持手段13は、測定対象物質Mが載置されている面とは反対側の面からデバイス11を支持し、デバイス11を所定位置に固定する。より正確には、デバイス支持手段13は、後述する前室ユニットの支持板62aを支持することで、支持板62aに支持されたデバイス11を支持し、所定位置に固定する。
【0021】
光照射手段14は、レーザ光源19と、拡散レンズ20aと、コリメータレンズ20bと、集光レンズ20cとを有する。
レーザ光源19は、所定波長のレーザ光を射出する光源である。ここで、レーザ光源19としては、パルスレーザを用いることが好ましい。
拡散レンズ20aは、レーザ光源19から射出されたレーザ光を所定角度で拡散させるレンズであり、種々のレンズを用いることができる。
コリメータレンズ20bは、拡散レンズ20aで拡散されたレーザ光を平行光とする。
集光レンズ20cは、コリメータレンズ20bで平行光とされた光を集光する。
【0022】
光照射手段14は、以上のような構成であり、レーザ光源19から射出されたレーザ光は、拡散レンズ20aで拡散された後、コリメータレンズ20bで平行光とされる。平行光とされた光は、集光レンズ20cで集光された後、窓12aから真空チャンバ12内に入射し、測定光としてデバイス11の測定対象物質Mが載置されている面を照明する。ここで、測定光は、デバイス11の表面に対して所定角度傾斜した角度で入射する。
【0023】
飛翔方向制御手段16は、デバイス支持手段13と質量分析手段17との間に配置された引き出しグリッド23と、デバイス支持手段13と引き出しグリット23とに電圧を印加する可変電圧源24と、グリット23よりも質量分析手段17側における測定対象物質Mの飛翔経路を囲むカバー25とを有し、デバイス11から脱離された測定対象物質Mに一定の力を作用させ、質量分析手段17に向けて飛翔させる。
【0024】
引き出しグリット23は、デバイス11と質量分析手段17との間に、デバイス11の表面に対向して配置された中空の電極である。
可変電圧源24は、デバイス支持手段13と引き出しグリット23とに接続しており、デバイス支持手段13と引き出しグリット23にそれぞれ任意の電圧を印加する。デバイス支持手段13と引き出しグリット23とに任意の電圧を印加することで、デバイス支持手段13と引き出しグリット23との間を所定電位差とし、所定の電界を形成する。これにより、デバイス支持手段13上に載置されるデバイス11と引き出しグリット23との間に所定の電界を形成する。
また、カバー25は、中空の筒型部材である。カバー25は、引き出しグリット23と質量分析手段17との間に、筒型の軸が測定対象物質Mの飛翔経路と平行であり、測定対象物質Mの飛翔経路を囲うように配置されている。また、カバー25は、引き出しグリット23側の端部が引き出しグリット23に近接し、質量分析手段17側の端部が、後述する質量分析手段17の検出器26に接している。
【0025】
飛翔方向制御手段16は、可変電圧源24により電圧を印加することでデバイス支持手段13と引き出しグリット23との間に電界を形成し、デバイス11から脱離された測定対象物質Mに一定の力を作用させる。電界により一定の力が加えられた測定対象物質Mは、デバイス11から引き出しグリット23側に所定加速度で飛翔される。さらに、飛翔している測定対象物質Mは、カバー25の中空部分を通過し、質量分析手段17まで飛翔する。
【0026】
質量分析手段17は、測定光が照射されてデバイス11の表面から脱離され、引き出しグリッド16を通過して飛翔してきた測定対象物質Mを検出する検出器26と、検出器26の検出値を増幅させるアンプ27と、アンプ27からの出力信号を処理するデータ処理部28とを有する。なお、検出器26は、真空チャンバ12の内部に配置され、アンプ27及びデータ処理部28は、真空チャンバ12の外に配置されている。
また、検出器26としては、例えば、マルチチャンネルプレート(MCP)を用いることができる。
質量分析手段17は、検出器26で検出した検出結果に基づいて、データ処理部28で測定対象物質Mのマススペクトルを検出し、測定対象物質の質量(質量の分布)を検出する。
分析装置本体10は、基本的に以上のような構成である。
【0027】
次に、第1前室ユニット50a、第2前室ユニット50b、第3前室ユニット50c及び第4前室ユニット50dについて説明する。
図2に示すように、第1前室ユニット50a、第2前室ユニット50b、第3前室ユニット50c及び第4前室ユニット50dは、デバイス支持手段13が固定されている側のチャンバ12の外面に連結されている。また、4つの前室ユニットは、デバイス支持手段13を中心とした円上に、互いに所定間隔離間して配置されている。
ここで、4つの前室ユニットは、チャンバ12に対する配置位置が異なるのみで、基本的な構成は同一であるので、以下代表して第1前室ユニット50aについて説明する。
【0028】
図3は、第1前室ユニットaの概略構成を示す斜視図である。
図2及び図3に示すように、第1前室ユニット50aは、前室52aと、外部ゲート54aと、ゲート56aと、デバイス搬送機構58aと、空気圧調整機構60aとを有する。
前室52aは、内部を真空にすることができるチャンバであり、チャンバ12と連結している。また、前室52aには、チャンバ12と連結している面に対向する面に第1開口72が形成され、チャンバ12と連結している面に、チャンバ12の開口に対応した第2開口74が形成されている。
【0029】
外部ゲート54aは、前室52aの第1開口72に対応して配置され、第1開口72の開放、封止を切り換える、開閉式の扉である。外部ゲート54aを第1開口72から移動させ、第1開口72を開放することで、外部から前室52aにデバイス11を搬入し、前室52a内部のデバイス11を前室52aから搬出することができる。また、外部ゲート54aにより、第1開口72を封止することで、前室52aと外部との空気の流れを遮断することができる。
ここで、外部ゲート54aとしては、1つのヒンジを中心として回転する扉、観音開き型の扉、スライド式の扉等種々の扉を用いることができる。
【0030】
ゲート56aは、真空チャンバ12と前室52aとの連結部、つまり、第2開口74に対応して配置され、第2開口74の開放、封止を切り換える、開閉式の扉である。また、ゲート56aは、開閉動作を遠隔操作で行うことができる電動式等の扉であり、真空チャンバ12及び前室52aの外側から開閉動作の操作を行うことができる。
ゲート56aを第2開口74から移動させ、第2開口74を開放することで、前室52aから真空チャンバ12内にデバイス11を搬入し、真空チャンバ12内部のデバイス11を真空チャンバ12から前室52aに搬出することができる。また、ゲート56aにより、第2開口74を封止することで、真空チャンバ12と前室52aとの空気の流れを遮断することができる。
【0031】
前室52a、外部ゲート54a、ゲート56aは以上のような構成であり、外部ゲート54aが第1開口72を封止し、ゲート56aが第2開口74を封止することで、前室52aを密閉状態とすることができる。また、外部ゲート54aが第1開口72を開放し、ゲート56aが第2開口74を封止することで、真空チャンバ12の真空状態を維持したまま、前室52aのみを大気に開放することができ、外部から前室52a内にデバイスを搬入することができる。さらに、外部ゲート54aが第1開口72を封止し、ゲート56aが第2開口74を開放することで、外部から空気を進入させることなく、真空チャンバ12と前室52aとをつなげることができ、デバイス11を前室52aから真空チャンバ12に、または、真空チャンバ12から前室52に移動させることができる。
【0032】
デバイス搬送機構58aは、支持板62aと挿入棒64aとで構成される。
支持板62aは、第2開口72を通過することができる円盤形状の部材である。支持板62aは、その表面にデバイス11が載置され、載置されたデバイス11を支持する。
挿入棒64aは、前室52の第1開口72が形成されている面に、前室52に対して摺動可能な状態で挿通された棒状部材である。挿入棒64aの真空チャンバ12中心側の端部には、支持板62aが固定されている。また、挿入棒64aは、挿入棒64aを前室52に対して摺動させても、前室52との接触部分から空気が漏れないように、前室52に挿通されている。
デバイス搬送機構58aは、以上のような構成であり、挿入棒64aをチャンバ12中心側に押し込んだり、反対側に引き出したりすることで、支持板62aを前室52内からデバイス支持手段13上まで移動させる。
したがって、支持板62a上にデバイス11を載置した状態で、上記動作を行うことで、デバイス11を前室52からデバイス支持手段13に移動させ、デバイス11をデバイス支持手段13上にセットすることができ、また、デバイス支持手段13上にセットしたデバイス11を前室52内に回収することができる。
なお、デバイス搬送機構58aは、上記構成に限定されず、種々の搬送機構を用いることができ、例えば、ベルト搬送機構を用いてもよい。
【0033】
空気圧調整機構60aは、真空ポンプ66と、パイプ68aと、空気弁70aとを有する。
真空ポンプ66は、遠心式や軸流式などのターボ形、往復式や回転式などの容積形等、種々の方式のポンプである。
パイプ68aは、真空ポンプ66と前室52とを接続する管である。
空気弁70aは、パイプ68aの管路上に配置された弁である。
空気圧調整機構60aは、以上のような構成であり、空気弁70aが開いた状態で、真空ポン66を駆動させることで、前室52内の空気を吸引し、気圧を下げることができる。また、真空ポンプ66が駆動している状態でも、空気弁70aが閉じている場合は、前室52内の空気は吸引されない。
ここで、真空ポンプ66は、4つの前室ユニットに共通の1つのポンプであり、各前室ユニットのパイプ68aの管路上に配置された空気弁70aの開閉を切り換えることで、対応する前室ユニット内の空気圧の状態を調整する。
前室ユニット52は、基本的に以上のような構成である。
【0034】
以下、分析装置装置8の動作を説明することで、本発明をより詳細に説明する。
まず、第1前室ユニット50aと分析装置本体10とによるデバイスの測定動作について説明する。
【0035】
前室ユニット50aは、ゲート56aにより第2開口74を封止した状態で、外部ゲート54aが第1開口72を開放する。
次に、前室52a内の支持板62a上に、デバイス11を載置し、外部ゲート54aを閉じ、前室52を密閉状態とする。
次に、バルブ68aを開放し、前室52の空気を吸引し、所定の真空状態とする。
次に、前室52内が所定の真空状態となったら、ゲート56aを開放し、挿入棒64aをチャンバ中心側に挿入し、支持板62aをデバイス支持手段13上に移動させる。
【0036】
前室ユニット50aから、デバイス11を載置した支持板62aが、デバイス保持手段13上に載置されると、分析装置本体10は、デバイス11上の測定対象物質Mの質量分析を開始する。
なお、このとき、チャンバ12内は、真空ポンプ18により所定の真空状態となっている。また、デバイス11を供給した前室ユニットも、第1開口が外部ゲート54aにより封止され、密閉ているため、所定の真空状態となっている。したがって、チャンバ12は、ゲート56aが開放され、前室ユニットとつながっていても所定の真空状態を維持することができる。
【0037】
分析装置本体10は、まず、可変電圧源24からデバイス支持手段13と引き出しグリット23に所定電圧を印加し、所定のスタート信号により光照射手段14から測定光を射出させ、デバイス11に測定光を照射する。
デバイス11の測定対象物質Mが載置された面に測定光が照射されることで、デバイス11の表面では、プラズモンに起因する増強電場が形成され、その増強電場により増強された測定光の光エネルギにより測定領域から測定対象物質Mが脱離する。
【0038】
脱離した測定対象物質Mは、デバイス支持手段13(またはデバイス11)と引き出しグリッド23との間に形成された電界により引き出しグリッド16の方向に引き出されて加速し、引き出しグリッド23の中央の孔を通ってカバー25の中空部を検出器26の方向に略直進して飛行し、検出器26に到達して検出される。
また、脱離後の分析物質Mの飛行速度は物質の質量に依存し、質量が小さいほど速いため、質量の小さいものから順に検出器26に到達する。
【0039】
検出器20からの出力信号は、アンプ27により所定のレベルに増幅され、その後データ処理部28に入力される。
データ処理部28は、上記スタート信号と同期して同期信号が入力されており、この同期信号とアンプ28からの出力信号とに基づいて検出した物質の飛行時間をそれぞれ算出する。
また、データ処理部28は、飛行時間から質量を導出してマススペクトル(質量スペクトル)を算出する。さらに、データ処理部28は、算出したマススペクトルから測定対象物質の質量を検出し、また、測定対象物質を同定する。
分析装置本体10は、以上のようにして測定対象物質Mの質量を検出する。
【0040】
分析装置本体10での質量分析が終了したら、挿入棒64aをチャンバ12中心から離れる方向に移動させ、支持板62aを前室52a内に回収する。
支持板62aを前室52aに回収したら、ゲート56aにより第2開口74を封止する。
その後、前室52a内を大気圧状態に戻した後、外部ゲート54aにより第1開口72を開放し、質量分析が終了したデバイス11を外部に取り出す。
その後、支持板62a上に新たなデバイス11を載置し、上記工程を繰り返すことで、デバイス11に付着した測定対象物質Mの質量分析を行う。
1つの前室ユニットと分析装置本体とは、以上のようにして、デバイス11上に載置された測定対象物質の質量分析を行う。
【0041】
ここで、質量分析装置8は、1つの分析装置本体10と4つの前室ユニットとで構成されている。以下、4つの前室ユニットへのデバイス12の装填と、各前室ユニットからチャンバ12内へデバイス11移動させる順序について説明する。
ここで、図4(A)〜(C)は、それぞれ質量分析装置8の動作を示す工程図である。なお、図4(A)〜(C)では、制御部80の図示は省略した。
【0042】
まず、図2に示すように、第1前室ユニット50aのデバイス11aが分析装置本体10のデバイス支持手段13上に支持され質量分析が行われている時、第2前室ユニット50bでは、質量分析前の別のデバイス11bが前室52b内に支持され、真空ポンプ66により内部の空気が吸引されている。また、第3前室ユニット50cでは、外部ゲート54cが開けられて、デバイスの交換作業が行われている。また、第4前室ユニット50dでは、第1前室ユニット50aのデバイス11の前に分析装置本体10で質量分析が行われたデバイス11dが前室52d内に支持され、前室52d内を真空状態から大気圧状態に戻すために吸気されている。
【0043】
その後、第1前室ユニット50aのデバイス11aの質量分析が終了したら、図4(A)に示すように、デイバス11aが前室52aに回収され、ゲート54aが閉じられる。このとき、第2前室ユニット50bでは、真空ポンプ66による空気の吸引が終了し、内部が所定の真空状態となっている。また、第3前室ユニット50cでは、デバイスの交換作業が終了し、新たなデバイス11cが前室52c内に支持され、外部ゲート56cが閉じられ、真空ポンプ66による前室52c内部の空気の吸引が開始されている。また、第4前室ユニット54dでは、前室52d内が大気圧状態となり、外部ゲート56dが開けられている。
【0044】
その後、第2前室ユニット50bのゲート56が開けられ、デバイス11bがデバイス支持手段13上まで移動され、図4(B)に示すように、デバイス11bの質量分析が行われている。このとき、第3前室ユニット50cでは、デバイス11cが前室52c内に支持され、真空ポンプ66により内部の空気が吸引されている。また、第4前室ユニット50dでは、外部ゲート54dが開けられて、デバイスの交換作業が行われている。また、第1前室ユニット50aでは、前室52a内を真空状態から大気圧状態に戻すために吸気されている。
【0045】
その後、第2前室ユニット50bのデバイス11bの質量分析が終了したら、図4(C)に示すように、デイバス11bが前室52bに回収され、ゲート54bが閉じられる。このとき、第3前室ユニット50cでは、真空ポンプ66による空気の吸引が終了し、内部が所定の真空状態となっている。また、第4前室ユニット50dでは、デバイスの交換作業が終了し、新たなデバイス11d’が前室52d内に支持され、外部ゲート56dが閉じられ、真空ポンプ66による前室52d内部の空気の吸引が開始されている。また、第1前室ユニット54aでは、前室52a内が大気圧状態となり、外部ゲート56aが開けられている。
さらに、その後、同様にして、第3前室ユニット50cのデバイス11cの質量分析を行い、その後、第4前室ユニット50dのデバイス11d’の質量分析を行い、その後、第1前室ユニット50aに新たに載置されたデバイスの質量分析を行う。
質量分析装置10は、以上のようにして各デバイスに載置された測定対象物質の質量分析を行う。
【0046】
このように、質量分析装置10によれば、1つの分析装置本体10と4つの前室ユニットを設け、各前室ユニットを独立した真空系とする(つまり、前室ユニット毎に真空状態と大気圧状態とを切り換えできる構成とする)ことで、1つの前室ユニットに載置されたデバイスの質量分析を行っている間に、他の前室ユニットは、測定準備を行うことができる。
これにより、1つの前室ユニットのデバイスの測定が終了したときには、次の前室ユニットのデバイスの測定を開始することができる。また、何れの前室ユニットも真空状態となってからチャンバと繋がるため、チャンバは常に真空状態を維持することができる。
これにより、1つのデバイスの測定が終了したら、すぐに次のデバイスをセットすることができ、さらに、チャンバ内は真空状態を維持できるため、測定と測定との間隔を短くすることができ、効率よくデバイスの質量分析を行うことができる。つまり、高いスループットで質量分析を行うことができる。
【0047】
ここで、質量分析装置10では、1つの分析装置本体10に対して4つの前室ユニットを設けたが、前室ユニットの数は、特に限定されず、2個以上であれば、3個でも5個でもよい。
【0048】
また、質量分析装置10では、1つの前室ユニットの前室に1つのデバイスのみを載置したが、本発明はこれに限定されず、1つの前室ユニットの前室に複数のデバイスを載置するようにしてもよい。1つの前室ユニットの前室に複数のデバイスを載置する場合は、前室内のデバイスを、デバイス搬送機構により、1つのデバイスを、デバイス支持手段上にセットし、測定が終了したら前室内に回収し、その後別のデバイスをデバイス支持体上にセットすることを繰り返せばよい。
【0049】
ここで、質量分析装置10は、デバイス搬送機構の搬送動作及びゲートの開閉動作を制御部80により制御し、デバイス搬送機構によるデバイスの搬送とゲートの開閉を自動で行うことが好ましい。ここで、デバイスの搬送を自動で行う場合は、デバイス搬送機構の挿入棒の挿入、引き出しを行う駆動機構を設け、その動作を制御部80により制御することで、デバイスを前室内からデバイス支持体に移動させることができる。
このように、デバイス搬送機構によるデバイスの搬送とゲートの開閉を自動で行うで、オペレータが行う作業を少なくすることができ、また、手動で操作する場合に必要となる、外部に操作部と真空状態となる装置内部から装置の外側に繋ぐ接続部材が必要なるため、接続部材が配置されている部分からの空気の漏れが発生することを防止でき、チャンバ及び前室内の気圧を維持しやすくすることができる。
【0050】
また、質量分析装置10では、デバイス搬送機構の支持板が前室内の載置部と搬送機構とを兼ねて、支持板上にデバイス11を載置し、支持板ごとデバイス支持体上に載置させたが、本発明はこれに限定されず、搬送機構と載置部とを別々に設け、載置部に載置されたデバイスのみを搬送機構により搬送し、デバイス支持手段上に載置するようにしてもよい。
【0051】
また、前室ユニット50は、さらに、デバイスを乾燥させる乾燥機構を設けることが好ましい。ここで、乾燥機構としては、超音波振動子や加熱機構が例示される。
乾燥機構により、デバイスの乾燥を促進させることで、より短時間で前室内の真空度を高くすることができる。
【0052】
また、質量分析装置10のように、デバイスとして、測定光が照射されることでプラズモンを励起しうる金属体が形成された板状部材を用い、デバイスにプラズモンを励起させつつ、測定対象物質をイオン化する方式の場合は、光照射手段に、偏光調整機構を設け、測定光の偏光方向を調整できるようにすることが好ましい。
【0053】
図5は、本発明の質量分析装置の分析装置本体の他の実施形態の概略構成を示す正面図である。図5では、制御部80の図示を省略した。
ここで、図5に示す分析装置本体102の光照射手段104に偏光調整機構106を設けた点を除いて他の構成は、分析装置本体10と同様であるので、同一の部材および構成には同一符号を付してその説明は省略する。
図5に示すように、分析装置本体102は、真空チャンバ12と、デバイス支持手段13と、光照射手段104と、飛翔方向制御手段16と、質量分析手段17とを有する。なお、図5では、制御部80の図示は省略した。
【0054】
光照射手段104は、レーザ光源19と、拡散レンズ20aと、コリメータレンズ20bと、集光レンズ20cと、偏光調整機構106とを有する。ここで、レーザ光源19と、拡散レンズ20aと、コリメータレンズ20bと、集光レンズ20cは、図1に示す光照射手段14の各部と同様であるのでその詳細な説明は省略する。
【0055】
偏光調整機構106は、λ/2板(または「半波長板」ともいう。)108と偏光板回転部110とを有し、コリメータレンズ20bと集光レンズ20cとの間に配置されている。
λ/2板108は、平行光を直線偏光する偏光板である。また、偏光板回転部110は、λ/2板108を平行光に平行な直線を軸として回転させる回転部である。
偏光調整機構106は、偏光板回転部110により、λ/2板108を回転させることで平行光の偏光の方向を任意の方向とすることができる。
【0056】
光照射手段104は、以上のような構成であり、レーザ光源19から射出されたレーザ光は、拡散レンズ20aで拡散された後、コリメータレンズ20bで平行光とされ、偏光調整機構106のλ/2板108で偏光される。偏光された光は、集光レンズ20cで集光された後、窓12aから真空チャンバ12内に入射し、測定光としてデバイス11の測定対象物質Mが載置されている面を照明する。
【0057】
質量分析装置100のように、偏光調整機構106を設け、測定光の偏光方向を調整可能とし、測定光の偏光方向を変化させることで、デバイス11上で発生するエネルギ(測定対象物質のイオン化に寄与するエネルギ)を変化させることができる。
【0058】
例えば、金属の突出部を細密配列した微細構造体をデバイスとして用いる場合は、測定光の偏光方向を基体の表面と平行な方向とすることで、デバイスの表面にプラズモン増強の強い場所(ホットスポット)を発生させることができる。
ここで、ホットスポットとは、局在プラズモンを発生している金属同士が数10nm以下に近接する領域で、プラズモン増強が強くなり、非常に増強された電場が形成される現象であり、偏光方向を基体の表面と平行な方向とすることで、近接した突出部で局在プラズモンを好適に発生させることができる。
このように、増強電場の強度を強くできることで、デバイス上で発生するエネルギをより大きくすることができ、強度の低い測定光で測定対象物質をイオン化することが可能となる。
【0059】
また、例えば、測定光の偏光方向を基板に垂直な方向とすることで、プラズモンに起因して発生するエネルギよりも熱エネルギを多く発生させることができ、熱エネルギを支配的なエネルギとして、測定対象物質をイオン化することができる。
【0060】
以上のように、偏光方向を調整するのみで、種々の条件(熱エネルギ、プラズモンに起因するエネルギ等のエネルギの種類や、発生するエネルギ量)で質量分析をすることが可能となる。このように、種々の条件で質量分析できることで、測定対象物質で発生するイオンの種類を変化させることができ、つまり、測定対象物質を構成する物質を異なる構成単位で(つまり、異なる単位の分子にわけて)検出することも可能となり、より高い精度で質量分析を行うことができる。
また、デバイスの種類、形状等に応じて偏光方向を調整することで、デバイスの種類、形状等によらず、測定光による励起効率(測定光をデバイス11上で発生するエネルギに変換する効率)を最大にすることができる。
【0061】
ここで、質量分析装置100では、偏光素子として、λ/2板を用いたが、本発明はこれに限定されず、種々の偏光素子を用いることができる。
ここで、偏光素子としては、バビネソレイユ板を用いることが好ましい。バビネソレイユ板を用いることで、レーザ光源から射出されるレーザ光の波長が変化した場合も偏光することができる。
なお、偏光素子がλ/2板で、異なるレーザ光の波長を用いる場合は、レーザ光の波長に応じてλ/2板を入れ替えるようにしてもよい。なお、この場合は、切り換え機構が必要となるため、装置構成が複雑になる。
【0062】
また、偏光調整機構は、コリメータレンズと集光レンズとの間に偏光素子を配置することに限定されず、偏光された光を射出するレーザ光源を回転させて、測定光の偏光方向を調整してもよい。
【0063】
ここで、図6は、本発明の質量分析装置の分析装置本体の他の実施形態の概略構成を示す正面図である。図6では、制御部80の図示を省略した。
ここで、図6に示す質量分析装置120の分析装置本体122は、光照射手段124の偏光調整機構1126の構成を除いて他の構成は、分析装置本体102と同様であるので、同一の部材および構成には同一符号を付してその説明は省略する。
図6に示すように、分析装置本体122は、真空チャンバ12と、デバイス11と、デバイス支持手段13と、光照射手段124と、飛翔方向制御手段16と、質量分析手段17とを有する。
【0064】
光照射手段124は、レーザ光源19と、拡散レンズ20aと、コリメータレンズ20bと、集光レンズ20cと、偏光調整機構126とを有する。ここで、レーザ光源19と、拡散レンズ20aと、コリメータレンズ20bと、集光レンズ20cは、図5に示す光照射手段104の各部と同様であるのでその詳細な説明は省略する。なお、レーザ光源19は、所定方向に偏光されたレーザ光を射出する光源である。
偏光調整機構126は、光源支持部128と光源回転部130とを有する。
光源支持部128は、レーザ光源19の光を射出する面とは反対側の面から、レーザ光源19を支持する支持部である。
光源回転部130は、光源支持部128と回転自在に連結しており、光源支持部128を回転させ、レーザ光源19から射出されるレーザ光の光軸を軸としてレーザ光源19を回転させる機構である。
【0065】
このように、偏光調整機構126によりレーザ光源19を回転させることでも、レーザ光源19から射出されるレーザ光の偏光方向を変化させることができ、デバイス11を照射する測定光の偏光方向を変化させることができる。
このように、分析装置本体122も、デバイス11を照射する測定光の偏光方向を調整でき、上述した分析装置本体102と同様の効果を得ることができる。
【0066】
ここで、上述した分析装置本体102及び分析装置本体122のいずれの場合も、偏光調整機構106、126は、遠隔操作(リモートコントロール)で偏光方向を調整することが好ましい。
つまり、偏光調整機構106は、偏光板回転部110によるλ/2板108の回転動作を遠隔操作で行うことが好ましく、偏光調整機構126は、光源回転部128によるレーザ光源19の回転動作を遠隔操作で行うことが好ましい。
このように遠隔操作で偏光方向を調整することで、装置内部に触れることなく偏光方向を調整することができる。
【0067】
また、上述した分析装置本体10及び分析装置本体100のいずれの場合も、測定光をデバイス11に対して所定角度傾斜させて照射(入射)させたが、本発明はこれに限定されず、測定光をデバイス11に対して垂直に入射させてもよい。
このように、測定光をデバイス11に対して垂直に入射させる場合は、偏光制御機構により、デバイス表面に平行な方向の偏光を調整することで、種々の条件で質量分析を行うことができる。
なお、測定光をデバイス11に対して垂直に入射させる場合は、引き出しグリットをデバイスの表面に対して所定角度傾斜して配置することで、デバイスから脱離した測定対象物質をデバイスの直上以外の方向に飛翔させることができる。
【0068】
次に、デバイスの一面に形成されるプラズモンを励起しうる金属体について詳細に説明する。
デバイス11の測定対象物質Mが載置される領域には、プラズモンを励起しうる金属体として、測定光が照射されることで増強電場を形成する微細構造体29が設けられている。
図7は、デバイス11の表面に載置される微細構造体29の概略構成を示す斜視図である。
図7に示すように、微細構造体29は、誘電体基材32および誘電体基材32の一面に配置された導電体34で構成された基体30と、誘電体基材32の導電体34が配置された面とは反対側の面に配置された金属体36とを有する。
【0069】
基体30は、金属酸化物体(Al)で形成された誘電体基材32と、誘電体基材32の一面に設けられ、陽極酸化されていない金属(Al)で形成された導電体34とを有する。ここで、誘電体基材32と導電体34とは、一体で形成されている。
また、誘電体基材32には、導電体34が配置される面とは反対側の面から導電体34側の面に向けて延びる略ストレートな形状(直管形状)の微細孔40が複数の開孔されている。
複数の微細孔40は、導電体34が配置される面とは反対側の面側の端部は、誘電体基材32の表面まで貫通して開口が形成され、導電体34側の端部は、誘電体基材32の表面まで貫通していない。つまり、微細孔40は、導電体34までは到達していない孔となる。また、複数の微細孔40は、測定光の波長より小さい径及びピッチで略規則的に配列されている。
ここで、測定光として可視光を用いる場合は、微細孔40の配置ピッチを200nm以下とすることが好ましい。
【0070】
金属体36は、誘電体基材32の微細孔40内に充填されている充填部45と、微細孔40上に誘電体基材32の表面20sより突出して形成され、充填部45の外径よりも大きい外径を有する突出部(つまり凸部)46とからなる複数の棒部44で構成されている。ここで、金属体36を形成する材料としては、局在プラズモンを発生させる種々の金属を使用でき、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、及びこれらの合金等が挙げられる。また、金属体36は、これらの金属を2種以上含むもので形成してもよい。また、電場増強効果をより高くすることができるため、金属体36は、Au、Ag等を用いて形成することがより好ましい。
微細構造体29は、以上のような構成であり、金属体36の複数の棒部44の突出部46が配置される面が、測定光が照射される面となる。
【0071】
ここで、微細構造体29の作製方法について説明する。
図8(A)〜(C)は、それぞれ微細構造体29の作製方法の一例を示す工程図である。
まず、図8(A)に示すような直方体形状の被陽極酸化金属体48に陽極酸化処理を行う。具体的には、被陽極酸化金属体48を陽極とし、陰極と共に電解液に浸漬させ、陽極陰極間に電圧を印加することで陽極酸化する。
ここで、陰極としては、カーボンやアルミニウム等が使用される。電解液としては制限されず、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸等の酸を、1種又は2種以上含む酸性電解液が好ましく用いられる。
なお、本実施形態では、被陽極酸化金属体48を直方体形状としたが、その形状は制限されず、種々の形状とすることができる。また、支持体の上に被陽極酸化金属体48が層状に成膜されたものなど、支持体付きの形態で用いることできる。
【0072】
被陽極酸化金属体48を陽極酸化すると、図8(B)に示すように、被陽極酸化金属体の表面から該面に対して略垂直方向に酸化反応が進行し、誘電体基材32となる金属酸化物体(Al)が生成される。陽極酸化により生成される金属酸化物体(つまり、誘電体基材32)は、多数の平面視略正六角形状の微細柱状体42が隙間なく配列した構造を有するものとなる。
また、各微細柱状体42は、底面が丸みを帯びた形状となり、さらに、略中心部には、表面から深さ方向(つまり、微細柱状体42の軸方向)に略ストレートに延びる微細孔40が開孔される。陽極酸化により生成される金属酸化物体の構造は、益田秀樹、「陽極酸化法によるメソポーラスアルミナの調製と機能材料としての応用」、材料技術Vol.15,No.10、1997年、p.34等に記載されている。
【0073】
また、規則配列構造の金属酸化物体を生成する場合の好適な陽極酸化条件例としては、電解液としてシュウ酸を用いる場合、電解液濃度0.5M、液温14〜16℃、印加電圧40〜40±0.5V等が挙げられる。この条件で生成される微細孔40は、例えば、径が約30nm、ピッチが約100nmである。
【0074】
次に、誘電体基材32の微細孔40に電気メッキ処理を施すことにより、図8(C)に示すように、充填部45と突出部46とからなる棒部44を形成する。
ここで、電気メッキを行うと、導電体34が電極として機能し、電場が強い微細孔40の底部から優先的に金属が析出する。この電気メッキ処理を継続して行うことにより、微細孔40内に金属が充填されて棒部44の充填部45が形成される。充填部45が形成された後、更に電気メッキ処理を続けると、微細孔40から充填金属が溢れるが、微細孔40付近の電場が強いことから、微細孔40周辺に継続して金属が析出していき、充填部45上に誘電体基材32の表面より突出し、充填部45の径よりも大きい径を有する突出部46が形成される。
微細構造体29は、以上のようにして作製される。
【0075】
また、上述した質量分析装置は、いずれの場合も、デバイス11は、測定対象物質を捕捉可能であり、測定光の照射により測定対象物質を脱離可能な表面修飾(捕捉部材)を施すことが好ましい。
例えば、測定対象物質が抗原である場合、その抗原と特異的に結合可能な抗体により微細構造体の表面を修飾しておくことにより、表面に付着された測定対象物質の量を増大させることができ、質量分析測定の感度を向上させることができる。
【0076】
図9(A)は、表面修飾が施された微細構造体の概略構成を示す断面図であり、図9(B)は、図9(A)に示す微細構造体から測定対象物質が脱離した状態を示す断面図である。なお、図9(A)及び(B)では視認しやすくするために表面修飾Rおよび表面修飾Rの構成要素は拡大して示してある。
図9(A)に示すように、表面修飾Rは、微細構造体29の表面に、微細構造体29の表面と結合する第1のリンカー機能部Aと、測定対象物質Mと結合する第2のリンカー機能部Cと、第1のリンカー機能部Aと第2のリンカー機能部Cとの間に介在し、測定光の照射により生じる電場で分解する分解機能部Bとを有するものである。図示例では、測定対象物質Mは、表面修飾Rを介して、質量分析用デバイスの測定領域の近傍に配置されている。
【0077】
なお、表面修飾Rは、第1のリンカー機能部Aと、分解機能部Bと、第2のリンカー機能部Cとを全て備えた一つの物質であってもよいし、それぞれが異なる物質からなっていてもよい。また、第1のリンカー機能部Aと分解機能部B、あるいは、分解機能部Bと第2のリンカー機能部Cが一つの物質であってもよい。
【0078】
ここで、デバイス11に測定光が照射されると、微細構造体の表面で局在プラズモンが発生し、測定領域の表面において増強電場が発生する。また、測定光の光エネルギは、測定領域の表面に発生した増強電場により、表面付近において高められる。
この高められたエネルギにより表面修飾Rの分解機能部Bが分解され、図9(B)に示すように、測定対象物質Mに第2のリンカー機能部Cが結合されたものが、測定領域表面から脱離される。
【0079】
このように表面修飾を用いることで、測定対象物質を微細構造体の表面から脱離させることができる。
また、表面修飾Rを介して測定対象物質Mと微細構造体29とが結合していることで、測定対象物質Mは、測定領域の微細構造体の表面から離れて存在させることができる。
ここで、微細構造体の表面において得られる電場増強効果は、局在プラズモンにより生じる近接場光による電場増強効果であるので、表面からの距離に対して指数関数的に減少していくものである。従って、図9(A)に示すように、測定対象物質Mが表面1sから比較的離れて存在させることにより、測定対象物質Mに照射される測定光の光エネルギは、電場増強による影響の少ないものとすることができる。すなわち、増強された光エネルギにより測定対象物質Mがダメージを受けることを抑制でき、高精度な質量分析が可能となる。
【0080】
また、微細構造体の形状は、微細構造体29の形状に限定されず、基体上に局在プラズモンを誘起し得る大きさの凸部が形成されていればよく、種々の形状とすることができる。
【0081】
図10(A)は、微細構造体の他の一例の概略構成を示す斜視図であり、図10(B)は、図10(A)の上面図である。
図10(A)及び図10(B)に示す微細構造体80は、基体82と基体82上に配置された多数の金属微粒子84とで構成されている。
基体82は、板状の基板である。基体82は、金属微粒子84を電気的に絶縁して支持可能な材料で形成すればよく、材料としては、例えば、シリコン、ガラス、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、サファイヤ、およびシリコンカーバイド等が挙げられる。
【0082】
多数の金属微粒子84は、局在プラズモンを誘起し得る大きさの微粒子であり、基体82の一面上に分散された状態で固定されている。
また、金属微粒子84は、上述した金属体36で例示した各種金属で形成することができる。また、金属微粒子の形状は特に限定されず、例えば、丸型で、直方体型でもよい。
このような構成の微細構造体80も金属微粒子が配置された検出面に励起光が照射されることで、増強電場を発生させることができる。
【0083】
次に、図11は、微細構造体の他の一例の概略構成を示す上面図である。
図11に示す微細構造体90は、基体92と基体92上に配置された多数の金属ナノロッド94とで構成されている。
ここで、基体92は、上述した基体82と同様の構成であるのでその詳細な説明は省略する。
【0084】
金属ナノロッド94は、局在プラズモンを誘起し得る大きさであり、短軸長さと長軸長さが異なる棒状の金属ナノ粒子であり、基体92の一面に、分散された状態で固定されている。金属ナノロッド94は、その短軸長さが3nm〜50nm程度、長軸長さが25nm〜1000nm程度であり、長軸長さは励起光の波長よりも小さいサイズのものである。金属ナノロッド94は、上述した金属微粒子と同様の金属で作製することができる。なお、金属ナノロッドの詳細な構成については、例えば、特開2007−139612号公報に記載されている。
ここで、微細構造体90は、上述した微細構造体80と同様の方法で作製することができる。
このような構成の微細構造体90も金属ナノロッドが配置された検出面に励起光が照射されることで、増強電場を発生させることができる。
【0085】
次に、図12(A)は、微細構造体の他の一例の概略構成を示す斜視図であり、図12(B)は、図12(A)の断面図である。
図12に示す微細構造体95は、基体96と基体96上に配置された多数の金属細線98とで構成されている。
ここで、基体96は、上述した基体82と同様の構成であるのでその詳細な説明は省略する。
【0086】
金属細線98は、局在プラズモンを誘起し得る線幅の線状部材であり、基体96の一面に格子状に配置されている。金属細線98は、上述した金属微粒子、金属体と同様の金属で作製することができる。また、金属細線98の作製方法は、特に限定されず、蒸着、メッキ等、金属配線を作製する種々の方法で作製することができる。
ここで、金属細線98の線幅は、例えば、50nm以下、特に30nm以下であることが好ましい。また、金属細線98の配置パターンは、特に限定されない。例えば、複数の金属細線を交差させずに、互いに平行に配置してもよい。また、金属細線の形状も直線に限定されず、曲線としてもよい。
【0087】
このような構成の微細構造体95も金属細線が配置された検出面に励起光が照射されることで、局在プラズモンに起因する増強電場を発生させることができる。
【0088】
また、微細構造体は、上述した微細構造体29、微細構造体80、微細構造体90及び微細構造体95にも限定されず、ぞれぞれの局在プラズモンを誘起し得る凸部を組み合わせた構成としてもよい。
【0089】
以上、本発明に係る質量分析装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の質量分析装置の一実施形態の概略構成を示す正面図である。
【図2】図1に示す質量分析装置のII−II線矢視図である。
【図3】前室ユニットの概略構成を示す斜視図である。
【図4】(A)〜(C)は、それぞれ質量分析装置の動作を示す工程図である。
【図5】本発明の質量分析装置の分析装置本体の他の実施形態の概略構成を示す正面図である。
【図6】本発明の質量分析装置の分析装置本体の他の実施形態の概略構成を示す正面図である。
【図7】図1に示す質量分析装置の質量分析用デバイスの微細構造体の一実施形態の概略構成を示す斜視図である。
【図8】(A)〜(C)は、それぞれ微細構造体の作製方法を示す工程図である。
【図9】(A)は、表面修飾が施された微細構造体の概略構成を示す断面図であり、(B)は、(A)に示す微細構造体から測定対象物質が脱離した状態を示す断面図である。
【図10】(A)は、微細構造体の他の一例の概略構成を示す斜視図であり、(B)は、(A)の部分上面図である。
【図11】微細構造体の他の一例の概略構成を示す上面図である。
【図12】(A)は、微細構造体の他の一例の概略構成を示す斜視図であり、(B)は、(A)の断面図である。
【符号の説明】
【0091】
8、100、120 質量分析装置
10、102、122 分析装置本体
11 質量分析用デバイス
12 真空チャンバ
12a 窓
13 デバイス支持手段
14、104、124 光照射手段
16 飛翔方向制御手段
17 質量分析手段
18、66 真空ポンプ
19 レーザ光源
20a 拡散レンズ
20b コリメータレンズ
20c 集光レンズ
23 引き出しグリッド
24 可変電圧源
25 カバー
26 検出器
27 アンプ
28 データ処理部
29、80、90、95 微細構造体
30、82、92、96 基体
32 アルミナ層(誘電体基材)
34 導電体
36 金属体
40 微細孔
42 微細柱状体
44 棒部
45 充填部
46 突出部
48 被陽極酸化金属体
50a、50b、50c、50d 前室ユニット
52a 前室
54a 外部ゲート
56a ゲート
58a デバイス搬送機構
60a 空気圧調整機構
62a 支持板
64a 挿入棒
66 真空ポンプ
68a パイプ
70a 空気弁
80 制御部
84 金属微粒子
94 金属ナノロッド
98 金属細線
106、126 偏光調整機構
108 λ/2板
110 偏光板回転部
128 光源支持部
130 光源回転部
M 測定対象物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光が照射されることでプラズモンを励起し得る金属体が形成された表面を有し、前記表面に測定対象物質を付着させる質量分析用デバイスを支持するデバイス支持体、
前記デバイス支持体が内部に固定された真空チャンバ、
前記質量分析用デバイスの表面にレーザ光を照射して、前記表面に付着している測定試料をイオン化するとともに、前記表面から脱離させる光照射手段、及び、
前記質量分析用デバイスの表面から脱離されイオン化された前記測定試料の飛行時間から前記測定試料の質量を検出する検出手段とを有する分析装置本体と、
複数の前室ユニットとを有し、
各前室ユニットは、前記質量分析用デバイスを載置する載置部を備え前記真空チャンバに連結された前室と、
前記真空チャンバと前記前室との連結部に設置され、前記真空チャンバと前記前室との間の空気の流れを遮断することが可能なゲートと、
前記載置部に載置された前記質量分析用デバイスを前記デバイス支持体上にセットし、前記デバイス支持体にセットされた前記質量分析用デバイスを前記前室に回収するデバイス搬送機構と、
前記前室を真空状態にする空気圧調整機構とで構成され、前記分析装置本体及び他の前室ユニットに対して独立した真空系であることを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
前記デバイス搬送機構の搬送動作及び前記ゲートの開閉動作を制御する制御部を有し、
前記制御部は、前記載置部に載置された前記質量分析用デバイスを前記デバイス支持体上にセットし、前記デバイス支持体にセットされた前記質量分析用デバイスを前記前室に回収する請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記空気圧調整機構は、複数の前記前室ユニットに共通の真空ポンプと、真空ポンプと各前室ユニットの前記前室とを接続するバルブと、バルブ毎に設けられた開閉弁とを有する請求項1または2に記載の質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−231219(P2009−231219A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78176(P2008−78176)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】