質量分析装置
【課題】イオンの遅延やイオンの停滞を効果的に防止することができる高周波イオンガイドを備える質量分析装置を提供する。
【解決手段】高周波電場によってイオンを収束させつつ後段へと輸送する高周波イオンガイド(20)は、イオン光軸(C)を取り囲むように配置される8本のロッド電極(21〜28)から成るが、各ロッド電極(21〜28)は、イオン入射側端面での内接円(29a)の半径r1よりもイオン出射側端面での内接円(29b)の半径r2が大きくなるように、イオン光軸(C)に対し傾けて配設される。これにより、ロッド電極(21〜28)で囲まれる空間にはイオンの進行方向に擬似ポテンシャルの大きさ又は深さの勾配が形成され、この勾配に従ってイオンは加速される。そのため、ガス圧が比較的高くイオンがガスに衝突する機会が多い場合であっても、イオンの減速を抑え、イオンの遅延や停止を防止することができる。
【解決手段】高周波電場によってイオンを収束させつつ後段へと輸送する高周波イオンガイド(20)は、イオン光軸(C)を取り囲むように配置される8本のロッド電極(21〜28)から成るが、各ロッド電極(21〜28)は、イオン入射側端面での内接円(29a)の半径r1よりもイオン出射側端面での内接円(29b)の半径r2が大きくなるように、イオン光軸(C)に対し傾けて配設される。これにより、ロッド電極(21〜28)で囲まれる空間にはイオンの進行方向に擬似ポテンシャルの大きさ又は深さの勾配が形成され、この勾配に従ってイオンは加速される。そのため、ガス圧が比較的高くイオンがガスに衝突する機会が多い場合であっても、イオンの減速を抑え、イオンの遅延や停止を防止することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析装置に関し、さらに詳しくは、質量分析装置において比較的高いガス圧の下でイオンを後段へ輸送するイオン輸送光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
分子量が大きな物質の同定やその構造の解析を行うために、質量分析の1つの手法としてMS/MS分析(タンデム分析)という手法が知られている。図11は特許文献1などに開示されている一般的なMS/MS型質量分析装置の概略構成図である。
【0003】
このMS/MS型質量分析装置では、真空排気される分析室10の内部にあって、分析対象の試料をイオン化するイオン源11とイオンを検出してイオン量に応じた検出信号を出力する検出器16との間に、それぞれ4本のロッド電極から成る3段の四重極電極12、13、15が配置されている。第1段四重極電極12には直流電圧U1と高周波電圧V1・cosωtとを合成した電圧±(U1+V1・cosωt)が印加され、これにより発生する電場の作用により、イオン源11で生成された各種イオンの中で特定の質量電荷比m/zを有する目的イオンのみがプリカーサイオンとして選別されて第1段四重極電極12を通過する。
【0004】
第2段四重極電極13は密閉性が高いコリジョンセル14内に収納されており、このコリジョンセル14内にはCIDガスとして例えばArガスなどが導入される。第1段四重極電極12から第2段四重極電極13に送られたプリカーサイオンはコリジョンセル14内でArガスと衝突し、衝突誘起解離による開裂を生じてプロダクトイオンを生成する。この開裂の態様は様々であるため、通常、1種のプリカーサイオンから質量電荷比の異なる複数種のプロダクトイオンが生成され、これらプロダクトイオンがコリジョンセル14を出て第3段四重極電極15に導入される。また、全てのプリカーサイオンが開裂するとは限らないから、開裂しないプリカーサイオンがそのまま第3段四重極電極15に送り込まれることもある。
【0005】
第3段四重極電極15には直流電圧U3と高周波電圧V3・cosωtとを合成した電圧±(U3+V3・cosωt)が印加され、これにより発生する電場の作用により、特定の質量電荷比を有するプロダクトイオンのみが選別されて第3段四重極電極15を通過し検出器16に到達する。第3段四重極電極15に印加する直流電圧U3及び高周波電圧V3・cosωtを適宜変化させることで、第3段四重極電極15を通過し得るイオンの質量電荷比を走査し、目的イオンの開裂により生じたプロダクトイオンの質量スペクトルを得ることができる。
【0006】
一般的なMS/MS型質量分析装置では、イオン流の中心軸であるイオン光軸Cに沿った方向のコリジョンセル14の長さは150〜200mm程度であり、コリジョンセル14内のガス圧は数mTorrと、その周りの分析室10内のガス圧よりも高い。こうした比較的高いガス圧の下で高周波電場の中をイオンが進行する場合、ガスとの衝突によってイオンの運動エネルギーは減衰し減速する。また、甚だしい場合には減速したイオンが、高周波電場中で停止してしまうことさえある。
【0007】
例えば液体クロマトグラフなどのクロマトグラフの検出器として上記のようなMS/MS型質量分析装置を用いる場合、所定の時間間隔で繰り返し分析を行う必要があるため、減速によりイオンの時間遅延が大きくなると、本来、第3段四重極電極15を通り抜けるべきイオンが通り抜けられなくなる場合があり、検出感度低下の要因となる。また、コリジョンセル14内に残留したイオンが実際には出現する筈のないタイミングで出現することで、ゴーストピークの原因となることもある。また、イオンが検出器16に到達するまでに時間が掛かるために、予めこうした状態を考慮して繰り返し分析の時間間隔を決める必要があり、多成分分析の際に分析漏れが起こる可能性がある。
【0008】
上記のような様々な問題を回避するために、従来一般的には、コリジョンセル14内でイオンの通過方向に電位勾配を有する直流電場を形成しておき、その直流電場の作用によりイオンを加速することが行われている。特許文献2に記載の質量分析装置では、イオン光軸に対し各ロッド電極毎に異なる傾きを持たせた高周波イオンガイドに直流電圧を印加したり、或いはイオン光軸方向に分割した各ロッドに異なる直流電圧を印加したりして、イオン光軸方向に電位勾配を有する電場を形成してイオンを加速している。また特許文献3に記載の質量分析装置では、イオン光軸方向に100枚程度のアパーチャ板を並べた構成の高周波イオンガイドの各アパーチャ電極にパルス電圧を順次印加することにより通過するイオンを加速するようにしている。
【0009】
しかしながら、イオン光軸方向に電位勾配を持つ直流電場を形成するために高周波イオンガイドの各ロッド電極毎に異なる角度で以て傾けて配置したり、或いは補助電極を用いたりすると、イオンを収束させるのに適切な高周波電場に乱れが生じ、イオンの透過特性を低下させるおそれがある。また、特許文献3のような構成では、構造が複雑であるとともに、イオンを加速するためのパルス電圧の制御を各質量電荷比に応じて適切に行う必要があるために制御も複雑になる。
【0010】
なお、例えば液体クロマトグラフ質量分析装置のように大気圧イオン化インタフェイスを用いた構成では、質量分離器や検出器を備える分析室を高真空雰囲気に維持するために多段差動排気系を用いるが、その場合、イオン化室の次段の中間真空室内のガス圧はイオン化室から流入する大気の影響で比較的高く、上述したコリジョンセル内部と同様の問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−201304号公報
【特許文献2】米国特許第5847386号明細書
【特許文献3】米国特許第6812453号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その主な目的は、比較的高いガス圧の下で利用される高周波イオンガイドにおいて、比較的簡単な構造でありながらイオンの遅延やイオンの停滞を効果的に防止することができる質量分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置は、数mTorr又はそれ以上の高いガス圧の下で高周波電場によりイオンを収束させつつ後段に輸送するイオンガイドを備える質量分析装置において、
前記イオンガイドは、イオンの進行方向に沿って前記高周波電場による擬似ポテンシャルの大きさ又は深さの勾配が形成され、該勾配に従ってイオンをその進行方向に加速することを特徴としている。
【0014】
本発明に係る質量分析装置において、上記イオンガイドが配設される具体的な部位としては例えば、イオンを開裂させるために衝突誘起解離ガスが供給されるコリジョンセルの内部、又は、略大気圧下で目的成分をイオン化するイオン化室と高真空雰囲気である質量分析室との間で多段差動排気系を構成する複数の中間真空室の中で初段の中間真空室の内部、である。
【0015】
即ち、こうした部位では、ガス圧が比較的高いためにイオンがガスに衝突する機会が多くイオンが特に減速し易い。これに対し、本発明に係る質量分析装置では、イオンガイドにおける擬似ポテンシャルの大きさ又は深さが、イオンの進行方向に沿って単調な下り勾配である、つまり擬似ポテンシャルが変化しない部分が一部にあっても少なくとも増加することはないように下がる傾斜を有しているため、この作用により、イオンはその進行方向に向かう運動エネルギーを付与される。これにより、イオンがガスに衝突して一旦減速しても再び加速されるため、イオンガイド内でのイオンの遅延を抑えることができ、イオンが途中で停止してしまうような事態も回避することができる。
【0016】
高周波電場による擬似ポテンシャルは、イオンガイドの内接円半径、イオンガイドの極数、イオンガイドに印加される高周波電圧の振幅及び周波数、などのパラメータに依存する。したがって、こうしたパラメータのいずれかをイオン光軸方向に沿って変化させることで、上述のような擬似ポテンシャルの勾配を形成することが可能となる。
【0017】
本発明に係る質量分析装置の一態様として、前記イオンガイドは、イオン光軸を取り囲む複数本の直線状に延伸するロッド電極から成り、各ロッド電極はイオンの進行方向に向かってイオン光軸からの距離が遠ざかるように傾けて配設されている構成とすることができる。即ち、この構成は、イオンガイドの内接円半径をイオン光軸方向に沿って増加させるものである。
【0018】
この構成によれば、各ロッド電極に印加する電圧(高周波電圧又は高周波電圧と直流バイアス電圧とを重畳した電圧)について、高周波電圧の振幅や周波数が相違する多種類のものを用意する必要はないので、電源系の回路が複雑になることを避けることができる。また、全てのロッド電極をイオン光軸に対して回転対称様に傾ければよく、ロッド電極自体も従来と同様に直線状に延伸する円柱体(又は円筒体)を用いることができるので、電極構造や電極の保持構造が簡単である。
【0019】
また本発明に係る質量分析装置の別の態様として、前記イオンガイドは、イオン光軸を取り囲むロッド電極から成り、各ロッド電極はイオンの進行方向に向かってその内接円半径が増加するような傾斜部を少なくとも一部に有する構成としてもよい。ここで傾斜部は直線状又は曲線状のいずれでもよい。
【0020】
またイオンガイドを、イオン光軸を取り囲む複数のロッド電極でなく、イオン光軸方向に所定間隔離して複数並べて配設された複数の平板状電極から構成する場合でも、実質的に内接円半径を変化させるようにすることができる。即ち、本発明に係る質量分析装置の別の態様として、前記イオンガイドは、イオン光軸方向に並ぶ複数枚の平板状電極から成り、各平板状電極はイオンの進行方向に向かってイオン光軸を中心とする半径が増加する円形状開口を有する構成とすることができる。
【0021】
また本発明に係る質量分析装置の別の態様として、前記イオンガイドは、イオン光軸を取り囲む複数本の仮想的ロッド電極から成り、各仮想的ロッド電極はイオン光軸方向に複数個に分割された短い分割ロッド電極から成り、同一の仮想的ロッド電極に属する複数の分割ロッド電極は、イオンの進行方向に向かってイオン光軸からの距離が遠ざかるように配設されている構成としてもよい。
【0022】
さらに本発明に係る質量分析装置の別の態様として、前記イオンガイドは、イオン光軸を取り囲む複数本の仮想的ロッド電極から成り、各仮想的ロッド電極はイオン光軸方向に複数個に分割された短い分割ロッド電極から成り、同一の仮想的ロッド電極に属する複数の分割ロッド電極に振幅又は周波数が相違する高周波電圧が印加される構成とすることもできる。即ち、この構成は、イオンの通過方向に高周波電場の振幅又は周波数を変化させることで、擬似ポテンシャルの大きさ又は深さの勾配を形成するものである。
【0023】
さらに本発明に係る質量分析装置の別の態様として、前記イオンガイドは、イオン光軸を取り囲む複数本の仮想的ロッド電極から成り、各仮想的ロッド電極はイオン光軸方向に複数個に分割された短い分割ロッド電極から成り、同一の仮想的ロッド電極に属する複数の分割ロッド電極は異なる断面形状を有する構成としてもよい。分割ロッド電極の断面形状を変化させると、異なる極数の擬似ポテンシャル項が重畳されるため、擬似ポテンシャル井戸の形状がイオンの通過方向に変化する。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る質量分析装置によれば、例えばコリジョンセル内部でイオンが衝突誘起解離ガスに接触して運動エネルギーが減じる場合でも、プリカーサイオンや開裂により生成されたプロダクトイオンの進行を促進し、コリジョンセル内でのイオンの大幅な遅延を回避することができる。それにより、後段の質量分離部で選別される目的イオンの量を増やし、検出感度を向上させることができる。また、コリジョンセル内部や中間真空室内部などにおいてイオンが停滞することも防止できるので、マススペクトル上でのゴーストピークの出現も防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施例(第1実施例)によるMS/MS型質量分析装置の概略全体構成図。
【図2】第1実施例のMS/MS型質量分析装置における高周波イオンガイドの正面図(a)、左側面図(b)及び右側面図(c)。
【図3】別の実施例(第2実施例)による高周波イオンガイドの概略構成図。
【図4】別の実施例(第3実施例)による高周波イオンガイドの左側面図(a)及び正面端面図(b)。
【図5】別の実施例(第4実施例)による高周波イオンガイドの正面端面図。
【図6】別の実施例(第5実施例)による高周波イオンガイドの正面端面図(a)及び各矢視線端面図(b)、(c)、(d)。
【図7】別の実施例(第6実施例)による高周波イオンガイドの正面端面図
【図8】別の実施例(第7実施例)による高周波イオンガイドの正面端面図
【図9】従来及び本発明との比較例である高周波イオンガイドの概略構成図。
【図10】第1実施例による高周波イオンガイド及び図9に示したイオンガイドにおけるイオン排出時間と相対強度との関係の実測結果を示すグラフ。
【図11】従来の一般的なMS/MS型質量分析装置の全体構成図。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0026】
本発明の一実施例(第1実施例)であるMS/MS型質量分析装置について、図面を参照して説明する。図1は本実施例によるMS/MS型質量分析装置の全体構成図、図2は本実施例のMS/MS型質量分析装置においてコリジョンセル内部に配設されるイオンガイドの外観図である。図11に示した従来の構成と同じ構成要素については同一符号を付して詳しい説明を省略する。
【0027】
本実施例のMS/MS型質量分析装置では、従来と同様に、第1段四重極電極12と第3段四重極電極15との間に、プリカーサイオンを開裂させて各種プロダクトイオンを生成するためにコリジョンセル14が配置されている。このコリジョンセル14は、イオン入射開口14aとイオン出射開口14bのほかはほぼ密閉された、例えば周面が略円筒形状で両端面がほぼ閉塞された構造体であり、その内部には、八本の円筒形状のロッド電極がイオン光軸Cを取り囲むように配置された高周波イオンガイド20が設けられている。
【0028】
制御部30の制御の下に、第1段四重極電極12にはRF(高周波電圧)+DC(質量分離用直流電圧)+Bias(バイアス直流電圧)電圧発生部31から、直流電圧U1と高周波電圧V1・cosωtとを重畳した電圧±(U1+V1・cosωt)にさらに所定の直流バイアス電圧Vbias1を加算した電圧±(U1+V1・cosωt)+Vbias1が印加され、第3段四重極電極15には別のRF+DC+Bias電圧発生部33から、直流電圧U3と高周波電圧V3・cosωtとを重畳した電圧±(U3+V3・cosωt)にさらに所定の直流バイアス電圧Vbias3を加算した電圧±(U3+V3・cosωt)+Vbias3が印加される。これは従来と同じである。
【0029】
また、イオンガイド20を構成する8本のロッド電極には、直流バイアス電圧VBiasと高周波電圧VRF(=V・cosΩt)とを重畳した電圧VBias+VRF、又は同じ直流バイアス電圧VBiasに上記高周波電圧VRFとは逆極性の高周波電圧を重畳した電圧VBias−VRFが印加される。これについては後で詳述する。
【0030】
このような構成において、高周波イオンガイド20で囲まれる空間に形成される、位置(イオン光軸Cからの径方向の離間距離)Rにおける擬似ポテンシャルVp(R)は、次の(1)式で表されることが知られている。
Vp(R)={qn2/(4mΩ2)}・(V/r)2・(R/r)2(n−1) …(1)
ここで、rはイオンガイドの内接円半径、Ωは高周波電圧の周波数、Vは高周波電圧の振幅、nはイオンガイドの極数、mはイオンの質量、qは電荷である。即ち、イオンガイドの内接円半径r、高周波電圧の周波数Ω又は振幅V、イオンガイドの極数nのいずれかをイオン光軸方向に沿って変化させることで、擬似ポテンシャルVp(R)をイオン光軸に沿って変化させることができることが分かる。擬似ポテンシャルの大きさ又は深さに勾配(傾斜)が存在する場合、電荷を有するイオンはその勾配に従って加速又は減速されるから、適切に勾配を形成することで高周波イオンガイドを通過する際にイオンを加速することができる。
【0031】
この第1実施例の構成では、図2に示すように、8本の円柱状(又は円筒状)のロッド電極21〜28をイオン光軸Cを取り囲むように配置するが、イオン入射端面側では内接円29aの半径はr1、イオン出射端面側では内接円29bの半径はr2(>r1)であるように、各ロッド電極21〜28はイオン光軸Cに対し傾いて配置されている。つまり、イオンが進行する方向(図2(a)で左方から右方に向かって)内接円半径は徐々に大きくなる。
【0032】
また、8本のロッド電極21〜28はイオン光軸Cを中心とする周方向に1本おきの4本が1組とされ、一方の組に属する4本のロッド電極21、23、25、27にはRF+Bias電圧発生部32からVBias+VRFが印加され、他方の組に属する4本のロッド電極22、24、26、28には同じくRF+Bias電圧発生部32からVBias−VRFが印加される。上記高周波電圧VRFの印加によって8本のロッド電極21〜28で囲まれる空間には高周波電場が形成されるが、各ロッド電極21〜28が上述のように傾けて配設されることにより、イオンの進行方向に擬似ポテンシャルの深さの勾配が形成される。
【0033】
コリジョンセル14内には上述したように高周波イオンガイド20により高周波電場が形成されており、イオンはこの高周波電場の作用により拘束される。プリカーサイオンはCIDガスと衝突し、その衝突エネルギーによってプリカーサイオンの結合が切れて開裂する。一般的に開裂の態様は様々であるため、一種のプリカーサイオンから開裂により生成されるプロダクトイオンは一種であるとは限らない。CIDガスとの衝突により元々プリカーサイオンが有していた運動エネルギーの一部は失われるが、上述のように高周波イオンガイド20の内部空間に形成されている疑似ポテンシャルの深さの勾配により運動エネルギーが付与される。そのため、CIDガスとの衝突により運動エネルギーを減じたプリカーサイオンやプロダクトイオンは再び加速され、コリジョンセル14内に留まることなくイオン出射開口14bに向かって円滑に進行し、イオン出射開口14bを経てコリジョンセル14の外側に排出される。
【0034】
以上のように、本実施例のMS/MS型質量分析装置では、高周波イオンガイド20内に形成された擬似ポテンシャルの大きさ又は深さの勾配を利用して、コリジョンセル14内でのイオンの遅れや停滞を防止することができる。これによって、目的とするプリカーサイオン由来のプロダクトイオンが大きな遅れなく第3段四重極電極15に導入され質量分離されるので、結果的に多くのプロダクトイオンを検出器16に送り込むことができ、高い検出感度を確保することができる。また、コリジョンセル14内にイオンが滞留することがないので、マススペクトルにおけるゴーストピークの発生も回避することができる。
【0035】
本願発明者は上記のような擬似ポテンシャルの勾配の効果を実験的に確認した。その実験について説明する。ここでは、図2に示した本実施例の構成、図9(a)に示した従来の構成(各ロッド電極をイオン光軸Cに平行に配置した構成)、及び図9(b)に示した比較例の構成(長手方向の中央部が外方に膨らんだ樽状の構成)、の3種類の、いずれもオクタポール型のイオンガイドを実験対象とし、イオン排出の速さを測定した。なお、図9(b)の比較例の構成は、ロッド電極の両端から長手方向の中央部に向かう擬似ポテンシャル勾配によって、その中央部付近にイオンを保持する能力を有している(アンドリュー・クルチンスキーほか2名「ア・ノベル・ハイ−キャパシティ・イオン・トラップ−クァドルポール・タンデム・マス・スペクトロメーター(A novel high-capacity ion trap-quadrupole tandem mass spectrometer)」、インターナショナル・ジャーナル・オブ・マス・スペクトロメトリー(International Journal of Mass Spectrometry)、268(2007)、pp.93-105 参照)。
【0036】
図10は、時間t=0までプリカーサイオンをコリジョンセル14に継続的に入射し、時間t=0でその入射を停止した後の該プリカーサイオン由来のプロダクトイオンの検出強度の変化を実測したグラフである。検出強度が速く低下するほどイオンの遅延が小さいことを意味する。図10を見れば、図2に示した本実施例の構成では従来の構成や比較例の構成と比べて、イオン排出が速く行われていることが分かる。この実験結果から、本実施例のように擬似ポテンシャルの大きさ又は深さの勾配を形成し、これによってイオンを加速することがイオンの遅延を防止するのに有効であることが分かる。
【0037】
次に、上記第1実施例によるMS/MS型質量分析装置で採用した高周波イオンガイド20と同様の効果を奏する他の形態の高周波イオンガイドについて、図3〜図8により説明する。
【実施例2】
【0038】
図3に示す高周波イオンガイド40は、イオン光軸Cに沿って複数枚(この例では6枚)の平板状電極41〜46が配設されたものである。各平板状電極41〜46はイオン光軸Cを中心とする円形状の開口を有しており、その開口の半径がイオンの進行方向に向かって段階的に大きくなっている。したがって、第1実施例で説明した、複数本のロッド電極の内接円半径が徐々に大きくなるのと同じであり、第1実施例と同様の効果を奏する。なお、この場合には、イオン光軸Cに沿って隣接する2枚の平板状電極に、互いに極性が反対の高周波電圧VRFが印加される。
【実施例3】
【0039】
図4に示す高周波イオンガイド50は、第1実施例と同様に、イオン光軸Cを取り囲むように8本のロッド電極が配設されたものとみなすことができるが、各ロッド電極の実体は1本の電極ではなく、イオン光軸C方向に複数個(この例では5個)に分割された分割ロッド電極(例えば符号51a〜51e)から成る仮想的なロッド電極(例えば符号51)である。つまり8本の仮想的ロッド電極51〜58がイオン光軸Cを取り囲むように配設されている。そして、各仮想的ロッド電極51〜58において、各分割ロッド電極(例えば符号51a〜51e)は、イオン光軸Cからの距離がイオンが進行する方向に段階的に大きくなるように配設されている。これにより、第1実施例のようになだらかな傾斜状ではなく階段状に擬似ポテンシャルの大きさ又は深さが勾配を有したものとなり、第1実施例と同様の効果を奏する。
【実施例4】
【0040】
図5に示す高周波イオンガイド60は、第3実施例と同様に、複数個の分割ロッド電極から成る仮想的ロッド電極(図5では符号61、65で示す2本のみ示してあるが、第3実施例と同様に8本存在する)がイオン光軸Cを取り囲むように配置されている。但し、同一の仮想的ロッド電極に属する各分割ロッド電極のイオン光軸Cからの距離は同じである。つまり、仮想的ロッド電極の内接円半径はイオン光軸Cに沿ったいずれの位置でも同一である。その代わりに、同一の仮想的ロッド電極に属する複数の分割ロッド電極(例えば符号65a〜65e)にそれぞれ相違する高周波電圧VRF1〜VRF5が印加されるようになっており、その高周波電圧VRF1〜VRF5の周波数又は振幅のいずれか一方又は両方を段階的に変化させることで、擬似ポテンシャルの大きさ又は深さの勾配を形成する。
【実施例5】
【0041】
図6に示す高周波イオンガイド70は、第4実施例と同様に、複数個の分割ロッド電極から成る4本の仮想的ロッド電極71〜74がイオン光軸Cを取り囲むように配置されている。但し、同一の仮想的ロッド電極に属する複数の分割ロッド電極には同一の高周波電圧VRFが印加され、その代わりに、複数の分割ロッド電極にはその断面形状が異なるものを含む。具体的には、例えば仮想的ロッド電極71において、分割ロッド電極71a、71bは断面形状が円形状であり、分割ロッド電極71c、71dは断面形状が五角形状であり、分割ロッド電極71eは断面形状が正方形状である。
【0042】
分割ロッド電極の断面形状が相違すると、より詳しく円形以外の断面形状になると、上記(1)式において異なる極数nの擬似ポテンシャル項が重畳されることになるため、擬似ポテンシャルの形状が変化する。これにより、擬似ポテンシャルの大きさ又は深さに実質的な勾配を形成し、第1実施例と同様の効果を得ることができる。
【実施例6】
【0043】
図7に示す高周波イオンガイド80は、ロッド電極(図では符号81、85のみを示しているが第1実施例と同様に8本存在する)自体が途中で折れ曲がった形状を有する。これによって、イオンの入射端面側の内接円89aの半径よりもイオン出射端面側の内接円89bの半径が大きい。また、ロッド電極がイオン光軸Cと平行である範囲L1では擬似ポテンシャルの勾配はないが、ロッド電極がイオン光軸Cに対して傾いて範囲L2では擬似ポテンシャルは第1実施例と同様に勾配を有する。したがって、基本的には第1実施例と同様の効果を奏する。
【実施例7】
【0044】
図8に示す高周波イオンガイド90は、ロッド電極(図では符号91、95のみを示しているが第1実施例と同様に8本存在する)自体が湾曲した形状を有する。これによって、イオンの入射端面側の内接円99aの半径よりもイオン出射端面側の内接円99bの半径が大きく、しかもその半径はイオン進行方向に徐々に大きくなることが保証される。したがって、基本的には第1実施例と同様の効果を奏する。
【0045】
なお、上記実施例は本発明に特徴的な高周波イオンガイドをコリジョンセルの内部に設けた例であるが、同様に、比較的高いガス圧の下でイオンを収束させつつ後段に輸送する必要がある部位に、上記高周波イオンガイドを設けることができる。
【0046】
具体的には、LC/MSなどでは、エレクトロスプレイイオン化インタフェイスなどの大気圧イオン化インタフェイスと質量分離器や検出器を内装する高真空雰囲気との分析室との間に、複数の中間真空室が配設された多段差動排気系の構成が採られることが多い。この場合、大気圧イオン化インタフェイスの次段の中間真空室の内部は、大気圧イオン化インタフェイスから流入する空気によってガス圧が比較的高い状態となり、その影響でイオンが減速され易い。したがって、こうした中間真空室の内部に上述したような高周波イオンガイドを配設することでイオンの通過効率を向上させると、イオンの検出感度が向上する。
【0047】
また、上記実施例はいずれも本発明の一例であるから、上記記載以外にも、本発明の趣旨の範囲で適宜に変形、追加、修正を行っても本願請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0048】
10…分析室
11…イオン源
12…第1段四重極電極
14…コリジョンセル
15…第3段四重極電極
16…検出器
20、40、50、60、70、80、90…高周波イオンガイド
21〜28…ロッド電極
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析装置に関し、さらに詳しくは、質量分析装置において比較的高いガス圧の下でイオンを後段へ輸送するイオン輸送光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
分子量が大きな物質の同定やその構造の解析を行うために、質量分析の1つの手法としてMS/MS分析(タンデム分析)という手法が知られている。図11は特許文献1などに開示されている一般的なMS/MS型質量分析装置の概略構成図である。
【0003】
このMS/MS型質量分析装置では、真空排気される分析室10の内部にあって、分析対象の試料をイオン化するイオン源11とイオンを検出してイオン量に応じた検出信号を出力する検出器16との間に、それぞれ4本のロッド電極から成る3段の四重極電極12、13、15が配置されている。第1段四重極電極12には直流電圧U1と高周波電圧V1・cosωtとを合成した電圧±(U1+V1・cosωt)が印加され、これにより発生する電場の作用により、イオン源11で生成された各種イオンの中で特定の質量電荷比m/zを有する目的イオンのみがプリカーサイオンとして選別されて第1段四重極電極12を通過する。
【0004】
第2段四重極電極13は密閉性が高いコリジョンセル14内に収納されており、このコリジョンセル14内にはCIDガスとして例えばArガスなどが導入される。第1段四重極電極12から第2段四重極電極13に送られたプリカーサイオンはコリジョンセル14内でArガスと衝突し、衝突誘起解離による開裂を生じてプロダクトイオンを生成する。この開裂の態様は様々であるため、通常、1種のプリカーサイオンから質量電荷比の異なる複数種のプロダクトイオンが生成され、これらプロダクトイオンがコリジョンセル14を出て第3段四重極電極15に導入される。また、全てのプリカーサイオンが開裂するとは限らないから、開裂しないプリカーサイオンがそのまま第3段四重極電極15に送り込まれることもある。
【0005】
第3段四重極電極15には直流電圧U3と高周波電圧V3・cosωtとを合成した電圧±(U3+V3・cosωt)が印加され、これにより発生する電場の作用により、特定の質量電荷比を有するプロダクトイオンのみが選別されて第3段四重極電極15を通過し検出器16に到達する。第3段四重極電極15に印加する直流電圧U3及び高周波電圧V3・cosωtを適宜変化させることで、第3段四重極電極15を通過し得るイオンの質量電荷比を走査し、目的イオンの開裂により生じたプロダクトイオンの質量スペクトルを得ることができる。
【0006】
一般的なMS/MS型質量分析装置では、イオン流の中心軸であるイオン光軸Cに沿った方向のコリジョンセル14の長さは150〜200mm程度であり、コリジョンセル14内のガス圧は数mTorrと、その周りの分析室10内のガス圧よりも高い。こうした比較的高いガス圧の下で高周波電場の中をイオンが進行する場合、ガスとの衝突によってイオンの運動エネルギーは減衰し減速する。また、甚だしい場合には減速したイオンが、高周波電場中で停止してしまうことさえある。
【0007】
例えば液体クロマトグラフなどのクロマトグラフの検出器として上記のようなMS/MS型質量分析装置を用いる場合、所定の時間間隔で繰り返し分析を行う必要があるため、減速によりイオンの時間遅延が大きくなると、本来、第3段四重極電極15を通り抜けるべきイオンが通り抜けられなくなる場合があり、検出感度低下の要因となる。また、コリジョンセル14内に残留したイオンが実際には出現する筈のないタイミングで出現することで、ゴーストピークの原因となることもある。また、イオンが検出器16に到達するまでに時間が掛かるために、予めこうした状態を考慮して繰り返し分析の時間間隔を決める必要があり、多成分分析の際に分析漏れが起こる可能性がある。
【0008】
上記のような様々な問題を回避するために、従来一般的には、コリジョンセル14内でイオンの通過方向に電位勾配を有する直流電場を形成しておき、その直流電場の作用によりイオンを加速することが行われている。特許文献2に記載の質量分析装置では、イオン光軸に対し各ロッド電極毎に異なる傾きを持たせた高周波イオンガイドに直流電圧を印加したり、或いはイオン光軸方向に分割した各ロッドに異なる直流電圧を印加したりして、イオン光軸方向に電位勾配を有する電場を形成してイオンを加速している。また特許文献3に記載の質量分析装置では、イオン光軸方向に100枚程度のアパーチャ板を並べた構成の高周波イオンガイドの各アパーチャ電極にパルス電圧を順次印加することにより通過するイオンを加速するようにしている。
【0009】
しかしながら、イオン光軸方向に電位勾配を持つ直流電場を形成するために高周波イオンガイドの各ロッド電極毎に異なる角度で以て傾けて配置したり、或いは補助電極を用いたりすると、イオンを収束させるのに適切な高周波電場に乱れが生じ、イオンの透過特性を低下させるおそれがある。また、特許文献3のような構成では、構造が複雑であるとともに、イオンを加速するためのパルス電圧の制御を各質量電荷比に応じて適切に行う必要があるために制御も複雑になる。
【0010】
なお、例えば液体クロマトグラフ質量分析装置のように大気圧イオン化インタフェイスを用いた構成では、質量分離器や検出器を備える分析室を高真空雰囲気に維持するために多段差動排気系を用いるが、その場合、イオン化室の次段の中間真空室内のガス圧はイオン化室から流入する大気の影響で比較的高く、上述したコリジョンセル内部と同様の問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−201304号公報
【特許文献2】米国特許第5847386号明細書
【特許文献3】米国特許第6812453号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その主な目的は、比較的高いガス圧の下で利用される高周波イオンガイドにおいて、比較的簡単な構造でありながらイオンの遅延やイオンの停滞を効果的に防止することができる質量分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置は、数mTorr又はそれ以上の高いガス圧の下で高周波電場によりイオンを収束させつつ後段に輸送するイオンガイドを備える質量分析装置において、
前記イオンガイドは、イオンの進行方向に沿って前記高周波電場による擬似ポテンシャルの大きさ又は深さの勾配が形成され、該勾配に従ってイオンをその進行方向に加速することを特徴としている。
【0014】
本発明に係る質量分析装置において、上記イオンガイドが配設される具体的な部位としては例えば、イオンを開裂させるために衝突誘起解離ガスが供給されるコリジョンセルの内部、又は、略大気圧下で目的成分をイオン化するイオン化室と高真空雰囲気である質量分析室との間で多段差動排気系を構成する複数の中間真空室の中で初段の中間真空室の内部、である。
【0015】
即ち、こうした部位では、ガス圧が比較的高いためにイオンがガスに衝突する機会が多くイオンが特に減速し易い。これに対し、本発明に係る質量分析装置では、イオンガイドにおける擬似ポテンシャルの大きさ又は深さが、イオンの進行方向に沿って単調な下り勾配である、つまり擬似ポテンシャルが変化しない部分が一部にあっても少なくとも増加することはないように下がる傾斜を有しているため、この作用により、イオンはその進行方向に向かう運動エネルギーを付与される。これにより、イオンがガスに衝突して一旦減速しても再び加速されるため、イオンガイド内でのイオンの遅延を抑えることができ、イオンが途中で停止してしまうような事態も回避することができる。
【0016】
高周波電場による擬似ポテンシャルは、イオンガイドの内接円半径、イオンガイドの極数、イオンガイドに印加される高周波電圧の振幅及び周波数、などのパラメータに依存する。したがって、こうしたパラメータのいずれかをイオン光軸方向に沿って変化させることで、上述のような擬似ポテンシャルの勾配を形成することが可能となる。
【0017】
本発明に係る質量分析装置の一態様として、前記イオンガイドは、イオン光軸を取り囲む複数本の直線状に延伸するロッド電極から成り、各ロッド電極はイオンの進行方向に向かってイオン光軸からの距離が遠ざかるように傾けて配設されている構成とすることができる。即ち、この構成は、イオンガイドの内接円半径をイオン光軸方向に沿って増加させるものである。
【0018】
この構成によれば、各ロッド電極に印加する電圧(高周波電圧又は高周波電圧と直流バイアス電圧とを重畳した電圧)について、高周波電圧の振幅や周波数が相違する多種類のものを用意する必要はないので、電源系の回路が複雑になることを避けることができる。また、全てのロッド電極をイオン光軸に対して回転対称様に傾ければよく、ロッド電極自体も従来と同様に直線状に延伸する円柱体(又は円筒体)を用いることができるので、電極構造や電極の保持構造が簡単である。
【0019】
また本発明に係る質量分析装置の別の態様として、前記イオンガイドは、イオン光軸を取り囲むロッド電極から成り、各ロッド電極はイオンの進行方向に向かってその内接円半径が増加するような傾斜部を少なくとも一部に有する構成としてもよい。ここで傾斜部は直線状又は曲線状のいずれでもよい。
【0020】
またイオンガイドを、イオン光軸を取り囲む複数のロッド電極でなく、イオン光軸方向に所定間隔離して複数並べて配設された複数の平板状電極から構成する場合でも、実質的に内接円半径を変化させるようにすることができる。即ち、本発明に係る質量分析装置の別の態様として、前記イオンガイドは、イオン光軸方向に並ぶ複数枚の平板状電極から成り、各平板状電極はイオンの進行方向に向かってイオン光軸を中心とする半径が増加する円形状開口を有する構成とすることができる。
【0021】
また本発明に係る質量分析装置の別の態様として、前記イオンガイドは、イオン光軸を取り囲む複数本の仮想的ロッド電極から成り、各仮想的ロッド電極はイオン光軸方向に複数個に分割された短い分割ロッド電極から成り、同一の仮想的ロッド電極に属する複数の分割ロッド電極は、イオンの進行方向に向かってイオン光軸からの距離が遠ざかるように配設されている構成としてもよい。
【0022】
さらに本発明に係る質量分析装置の別の態様として、前記イオンガイドは、イオン光軸を取り囲む複数本の仮想的ロッド電極から成り、各仮想的ロッド電極はイオン光軸方向に複数個に分割された短い分割ロッド電極から成り、同一の仮想的ロッド電極に属する複数の分割ロッド電極に振幅又は周波数が相違する高周波電圧が印加される構成とすることもできる。即ち、この構成は、イオンの通過方向に高周波電場の振幅又は周波数を変化させることで、擬似ポテンシャルの大きさ又は深さの勾配を形成するものである。
【0023】
さらに本発明に係る質量分析装置の別の態様として、前記イオンガイドは、イオン光軸を取り囲む複数本の仮想的ロッド電極から成り、各仮想的ロッド電極はイオン光軸方向に複数個に分割された短い分割ロッド電極から成り、同一の仮想的ロッド電極に属する複数の分割ロッド電極は異なる断面形状を有する構成としてもよい。分割ロッド電極の断面形状を変化させると、異なる極数の擬似ポテンシャル項が重畳されるため、擬似ポテンシャル井戸の形状がイオンの通過方向に変化する。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る質量分析装置によれば、例えばコリジョンセル内部でイオンが衝突誘起解離ガスに接触して運動エネルギーが減じる場合でも、プリカーサイオンや開裂により生成されたプロダクトイオンの進行を促進し、コリジョンセル内でのイオンの大幅な遅延を回避することができる。それにより、後段の質量分離部で選別される目的イオンの量を増やし、検出感度を向上させることができる。また、コリジョンセル内部や中間真空室内部などにおいてイオンが停滞することも防止できるので、マススペクトル上でのゴーストピークの出現も防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施例(第1実施例)によるMS/MS型質量分析装置の概略全体構成図。
【図2】第1実施例のMS/MS型質量分析装置における高周波イオンガイドの正面図(a)、左側面図(b)及び右側面図(c)。
【図3】別の実施例(第2実施例)による高周波イオンガイドの概略構成図。
【図4】別の実施例(第3実施例)による高周波イオンガイドの左側面図(a)及び正面端面図(b)。
【図5】別の実施例(第4実施例)による高周波イオンガイドの正面端面図。
【図6】別の実施例(第5実施例)による高周波イオンガイドの正面端面図(a)及び各矢視線端面図(b)、(c)、(d)。
【図7】別の実施例(第6実施例)による高周波イオンガイドの正面端面図
【図8】別の実施例(第7実施例)による高周波イオンガイドの正面端面図
【図9】従来及び本発明との比較例である高周波イオンガイドの概略構成図。
【図10】第1実施例による高周波イオンガイド及び図9に示したイオンガイドにおけるイオン排出時間と相対強度との関係の実測結果を示すグラフ。
【図11】従来の一般的なMS/MS型質量分析装置の全体構成図。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0026】
本発明の一実施例(第1実施例)であるMS/MS型質量分析装置について、図面を参照して説明する。図1は本実施例によるMS/MS型質量分析装置の全体構成図、図2は本実施例のMS/MS型質量分析装置においてコリジョンセル内部に配設されるイオンガイドの外観図である。図11に示した従来の構成と同じ構成要素については同一符号を付して詳しい説明を省略する。
【0027】
本実施例のMS/MS型質量分析装置では、従来と同様に、第1段四重極電極12と第3段四重極電極15との間に、プリカーサイオンを開裂させて各種プロダクトイオンを生成するためにコリジョンセル14が配置されている。このコリジョンセル14は、イオン入射開口14aとイオン出射開口14bのほかはほぼ密閉された、例えば周面が略円筒形状で両端面がほぼ閉塞された構造体であり、その内部には、八本の円筒形状のロッド電極がイオン光軸Cを取り囲むように配置された高周波イオンガイド20が設けられている。
【0028】
制御部30の制御の下に、第1段四重極電極12にはRF(高周波電圧)+DC(質量分離用直流電圧)+Bias(バイアス直流電圧)電圧発生部31から、直流電圧U1と高周波電圧V1・cosωtとを重畳した電圧±(U1+V1・cosωt)にさらに所定の直流バイアス電圧Vbias1を加算した電圧±(U1+V1・cosωt)+Vbias1が印加され、第3段四重極電極15には別のRF+DC+Bias電圧発生部33から、直流電圧U3と高周波電圧V3・cosωtとを重畳した電圧±(U3+V3・cosωt)にさらに所定の直流バイアス電圧Vbias3を加算した電圧±(U3+V3・cosωt)+Vbias3が印加される。これは従来と同じである。
【0029】
また、イオンガイド20を構成する8本のロッド電極には、直流バイアス電圧VBiasと高周波電圧VRF(=V・cosΩt)とを重畳した電圧VBias+VRF、又は同じ直流バイアス電圧VBiasに上記高周波電圧VRFとは逆極性の高周波電圧を重畳した電圧VBias−VRFが印加される。これについては後で詳述する。
【0030】
このような構成において、高周波イオンガイド20で囲まれる空間に形成される、位置(イオン光軸Cからの径方向の離間距離)Rにおける擬似ポテンシャルVp(R)は、次の(1)式で表されることが知られている。
Vp(R)={qn2/(4mΩ2)}・(V/r)2・(R/r)2(n−1) …(1)
ここで、rはイオンガイドの内接円半径、Ωは高周波電圧の周波数、Vは高周波電圧の振幅、nはイオンガイドの極数、mはイオンの質量、qは電荷である。即ち、イオンガイドの内接円半径r、高周波電圧の周波数Ω又は振幅V、イオンガイドの極数nのいずれかをイオン光軸方向に沿って変化させることで、擬似ポテンシャルVp(R)をイオン光軸に沿って変化させることができることが分かる。擬似ポテンシャルの大きさ又は深さに勾配(傾斜)が存在する場合、電荷を有するイオンはその勾配に従って加速又は減速されるから、適切に勾配を形成することで高周波イオンガイドを通過する際にイオンを加速することができる。
【0031】
この第1実施例の構成では、図2に示すように、8本の円柱状(又は円筒状)のロッド電極21〜28をイオン光軸Cを取り囲むように配置するが、イオン入射端面側では内接円29aの半径はr1、イオン出射端面側では内接円29bの半径はr2(>r1)であるように、各ロッド電極21〜28はイオン光軸Cに対し傾いて配置されている。つまり、イオンが進行する方向(図2(a)で左方から右方に向かって)内接円半径は徐々に大きくなる。
【0032】
また、8本のロッド電極21〜28はイオン光軸Cを中心とする周方向に1本おきの4本が1組とされ、一方の組に属する4本のロッド電極21、23、25、27にはRF+Bias電圧発生部32からVBias+VRFが印加され、他方の組に属する4本のロッド電極22、24、26、28には同じくRF+Bias電圧発生部32からVBias−VRFが印加される。上記高周波電圧VRFの印加によって8本のロッド電極21〜28で囲まれる空間には高周波電場が形成されるが、各ロッド電極21〜28が上述のように傾けて配設されることにより、イオンの進行方向に擬似ポテンシャルの深さの勾配が形成される。
【0033】
コリジョンセル14内には上述したように高周波イオンガイド20により高周波電場が形成されており、イオンはこの高周波電場の作用により拘束される。プリカーサイオンはCIDガスと衝突し、その衝突エネルギーによってプリカーサイオンの結合が切れて開裂する。一般的に開裂の態様は様々であるため、一種のプリカーサイオンから開裂により生成されるプロダクトイオンは一種であるとは限らない。CIDガスとの衝突により元々プリカーサイオンが有していた運動エネルギーの一部は失われるが、上述のように高周波イオンガイド20の内部空間に形成されている疑似ポテンシャルの深さの勾配により運動エネルギーが付与される。そのため、CIDガスとの衝突により運動エネルギーを減じたプリカーサイオンやプロダクトイオンは再び加速され、コリジョンセル14内に留まることなくイオン出射開口14bに向かって円滑に進行し、イオン出射開口14bを経てコリジョンセル14の外側に排出される。
【0034】
以上のように、本実施例のMS/MS型質量分析装置では、高周波イオンガイド20内に形成された擬似ポテンシャルの大きさ又は深さの勾配を利用して、コリジョンセル14内でのイオンの遅れや停滞を防止することができる。これによって、目的とするプリカーサイオン由来のプロダクトイオンが大きな遅れなく第3段四重極電極15に導入され質量分離されるので、結果的に多くのプロダクトイオンを検出器16に送り込むことができ、高い検出感度を確保することができる。また、コリジョンセル14内にイオンが滞留することがないので、マススペクトルにおけるゴーストピークの発生も回避することができる。
【0035】
本願発明者は上記のような擬似ポテンシャルの勾配の効果を実験的に確認した。その実験について説明する。ここでは、図2に示した本実施例の構成、図9(a)に示した従来の構成(各ロッド電極をイオン光軸Cに平行に配置した構成)、及び図9(b)に示した比較例の構成(長手方向の中央部が外方に膨らんだ樽状の構成)、の3種類の、いずれもオクタポール型のイオンガイドを実験対象とし、イオン排出の速さを測定した。なお、図9(b)の比較例の構成は、ロッド電極の両端から長手方向の中央部に向かう擬似ポテンシャル勾配によって、その中央部付近にイオンを保持する能力を有している(アンドリュー・クルチンスキーほか2名「ア・ノベル・ハイ−キャパシティ・イオン・トラップ−クァドルポール・タンデム・マス・スペクトロメーター(A novel high-capacity ion trap-quadrupole tandem mass spectrometer)」、インターナショナル・ジャーナル・オブ・マス・スペクトロメトリー(International Journal of Mass Spectrometry)、268(2007)、pp.93-105 参照)。
【0036】
図10は、時間t=0までプリカーサイオンをコリジョンセル14に継続的に入射し、時間t=0でその入射を停止した後の該プリカーサイオン由来のプロダクトイオンの検出強度の変化を実測したグラフである。検出強度が速く低下するほどイオンの遅延が小さいことを意味する。図10を見れば、図2に示した本実施例の構成では従来の構成や比較例の構成と比べて、イオン排出が速く行われていることが分かる。この実験結果から、本実施例のように擬似ポテンシャルの大きさ又は深さの勾配を形成し、これによってイオンを加速することがイオンの遅延を防止するのに有効であることが分かる。
【0037】
次に、上記第1実施例によるMS/MS型質量分析装置で採用した高周波イオンガイド20と同様の効果を奏する他の形態の高周波イオンガイドについて、図3〜図8により説明する。
【実施例2】
【0038】
図3に示す高周波イオンガイド40は、イオン光軸Cに沿って複数枚(この例では6枚)の平板状電極41〜46が配設されたものである。各平板状電極41〜46はイオン光軸Cを中心とする円形状の開口を有しており、その開口の半径がイオンの進行方向に向かって段階的に大きくなっている。したがって、第1実施例で説明した、複数本のロッド電極の内接円半径が徐々に大きくなるのと同じであり、第1実施例と同様の効果を奏する。なお、この場合には、イオン光軸Cに沿って隣接する2枚の平板状電極に、互いに極性が反対の高周波電圧VRFが印加される。
【実施例3】
【0039】
図4に示す高周波イオンガイド50は、第1実施例と同様に、イオン光軸Cを取り囲むように8本のロッド電極が配設されたものとみなすことができるが、各ロッド電極の実体は1本の電極ではなく、イオン光軸C方向に複数個(この例では5個)に分割された分割ロッド電極(例えば符号51a〜51e)から成る仮想的なロッド電極(例えば符号51)である。つまり8本の仮想的ロッド電極51〜58がイオン光軸Cを取り囲むように配設されている。そして、各仮想的ロッド電極51〜58において、各分割ロッド電極(例えば符号51a〜51e)は、イオン光軸Cからの距離がイオンが進行する方向に段階的に大きくなるように配設されている。これにより、第1実施例のようになだらかな傾斜状ではなく階段状に擬似ポテンシャルの大きさ又は深さが勾配を有したものとなり、第1実施例と同様の効果を奏する。
【実施例4】
【0040】
図5に示す高周波イオンガイド60は、第3実施例と同様に、複数個の分割ロッド電極から成る仮想的ロッド電極(図5では符号61、65で示す2本のみ示してあるが、第3実施例と同様に8本存在する)がイオン光軸Cを取り囲むように配置されている。但し、同一の仮想的ロッド電極に属する各分割ロッド電極のイオン光軸Cからの距離は同じである。つまり、仮想的ロッド電極の内接円半径はイオン光軸Cに沿ったいずれの位置でも同一である。その代わりに、同一の仮想的ロッド電極に属する複数の分割ロッド電極(例えば符号65a〜65e)にそれぞれ相違する高周波電圧VRF1〜VRF5が印加されるようになっており、その高周波電圧VRF1〜VRF5の周波数又は振幅のいずれか一方又は両方を段階的に変化させることで、擬似ポテンシャルの大きさ又は深さの勾配を形成する。
【実施例5】
【0041】
図6に示す高周波イオンガイド70は、第4実施例と同様に、複数個の分割ロッド電極から成る4本の仮想的ロッド電極71〜74がイオン光軸Cを取り囲むように配置されている。但し、同一の仮想的ロッド電極に属する複数の分割ロッド電極には同一の高周波電圧VRFが印加され、その代わりに、複数の分割ロッド電極にはその断面形状が異なるものを含む。具体的には、例えば仮想的ロッド電極71において、分割ロッド電極71a、71bは断面形状が円形状であり、分割ロッド電極71c、71dは断面形状が五角形状であり、分割ロッド電極71eは断面形状が正方形状である。
【0042】
分割ロッド電極の断面形状が相違すると、より詳しく円形以外の断面形状になると、上記(1)式において異なる極数nの擬似ポテンシャル項が重畳されることになるため、擬似ポテンシャルの形状が変化する。これにより、擬似ポテンシャルの大きさ又は深さに実質的な勾配を形成し、第1実施例と同様の効果を得ることができる。
【実施例6】
【0043】
図7に示す高周波イオンガイド80は、ロッド電極(図では符号81、85のみを示しているが第1実施例と同様に8本存在する)自体が途中で折れ曲がった形状を有する。これによって、イオンの入射端面側の内接円89aの半径よりもイオン出射端面側の内接円89bの半径が大きい。また、ロッド電極がイオン光軸Cと平行である範囲L1では擬似ポテンシャルの勾配はないが、ロッド電極がイオン光軸Cに対して傾いて範囲L2では擬似ポテンシャルは第1実施例と同様に勾配を有する。したがって、基本的には第1実施例と同様の効果を奏する。
【実施例7】
【0044】
図8に示す高周波イオンガイド90は、ロッド電極(図では符号91、95のみを示しているが第1実施例と同様に8本存在する)自体が湾曲した形状を有する。これによって、イオンの入射端面側の内接円99aの半径よりもイオン出射端面側の内接円99bの半径が大きく、しかもその半径はイオン進行方向に徐々に大きくなることが保証される。したがって、基本的には第1実施例と同様の効果を奏する。
【0045】
なお、上記実施例は本発明に特徴的な高周波イオンガイドをコリジョンセルの内部に設けた例であるが、同様に、比較的高いガス圧の下でイオンを収束させつつ後段に輸送する必要がある部位に、上記高周波イオンガイドを設けることができる。
【0046】
具体的には、LC/MSなどでは、エレクトロスプレイイオン化インタフェイスなどの大気圧イオン化インタフェイスと質量分離器や検出器を内装する高真空雰囲気との分析室との間に、複数の中間真空室が配設された多段差動排気系の構成が採られることが多い。この場合、大気圧イオン化インタフェイスの次段の中間真空室の内部は、大気圧イオン化インタフェイスから流入する空気によってガス圧が比較的高い状態となり、その影響でイオンが減速され易い。したがって、こうした中間真空室の内部に上述したような高周波イオンガイドを配設することでイオンの通過効率を向上させると、イオンの検出感度が向上する。
【0047】
また、上記実施例はいずれも本発明の一例であるから、上記記載以外にも、本発明の趣旨の範囲で適宜に変形、追加、修正を行っても本願請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0048】
10…分析室
11…イオン源
12…第1段四重極電極
14…コリジョンセル
15…第3段四重極電極
16…検出器
20、40、50、60、70、80、90…高周波イオンガイド
21〜28…ロッド電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
数mTorr又はそれ以上の高いガス圧の下で高周波電場によりイオンを収束させつつ後段に輸送するイオンガイドを備える質量分析装置において、
前記イオンガイドは、イオンの進行方向に沿って前記高周波電場による擬似ポテンシャルの大きさ又は深さの勾配が形成され、該勾配に従ってイオンをその進行方向に加速することを特徴とする質量分析装置。
【請求項1】
数mTorr又はそれ以上の高いガス圧の下で高周波電場によりイオンを収束させつつ後段に輸送するイオンガイドを備える質量分析装置において、
前記イオンガイドは、イオンの進行方向に沿って前記高周波電場による擬似ポテンシャルの大きさ又は深さの勾配が形成され、該勾配に従ってイオンをその進行方向に加速することを特徴とする質量分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−175982(P2011−175982A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125752(P2011−125752)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【分割の表示】特願2008−549302(P2008−549302)の分割
【原出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【分割の表示】特願2008−549302(P2008−549302)の分割
【原出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
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