説明

質量分析装置

【課題】質量分析部において選択するイオンを変更する場合でも、従来よりもイオンの損失を低減させることができる質量分析装置を提供すること。
【解決手段】イオン源10は、試料をイオン化する。蓄積部20は、イオン源10で生成されたイオンを蓄積する蓄積動作と、蓄積したイオンをイオンパルスとして排出する排出動作と、を繰り返し行う。質量分析部30は、蓄積部20が排出するイオンパルスを通過させ、質量電荷比に基づいて所望のイオンを選択する。検出部60は、質量分析部30を通過したイオンパルスを検出し、検出強度に応じたアナログ信号を出力する。制御部90は、所望のイオンを含むイオンパルスが質量分析部30を通過する間は、質量分析部30が選択する所望のイオンの質量電荷比を一定に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
四重極質量分析計は、双曲線状の四重極マスフィルターにRF電圧とDC電圧を印加することで所望の質量電荷比のイオンのみを通過させてその強度を検出する質量分析装置である。分析のモードには所望のイオンの質量電荷比を連続的に掃引するスキャンと、質量電荷比を固定するSIM(シングルイオンモニタリング)がある。SIMは1種類のイオンに対する積算時間が長く高感度であるため、多くの定量測定で用いられる。さらに、四重極マスフィルターを2つ連結した三連型四重極質量分析計は、単体の四重極質量分析計に比べて特異性や定量性が向上するため、近年、構造解析や定量分析で頻繁に使用されるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4963736号明細書
【特許文献2】米国特許第5248875号明細書
【特許文献3】米国特許第6111250号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
四重極質量分析計、或いは三連型四重極質量分析計では、質量分析部の四重極マスフィルターで選択するイオンを変更する場合、四重極マスフィルターのRF電圧とDC電圧を変更するための時間が必要になる。従来の四重極質量分析計、或いは三連型四重極質量分析計では、イオン源で生成されたイオンが連続的に検出器まで輸送されるので、この変更時間の間にも質量分析部にイオンが進入する。しかし、これらのイオンは検出器まで到達できなかったり、或いは到達しても質量電荷比が特定できないのでその検出信号は破棄されるため、イオンの損失が起こるという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、質量分析部において選択するイオンを変更する場合でも、従来よりもイオンの損失を低減させることができる質量分析装置を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、試料をイオン化するイオン源と前記イオン源で生成されたイオンを蓄積する蓄積動作と、蓄積したイオンをイオンパルスとして排出する排出動作と、を繰り返し行う蓄積部と、前記蓄積部が排出するイオンパルスを通過させ、質量電荷比に基づいて所望のイオンを選択する質量分析部と、前記質量分析部を通過したイオンパルスを検出し、検出強度に応じたアナログ信号を出力する検出部と、前記所望のイオンを含むイオンパルスが前記質量分析部を通過する間は、前記質量分析部が選択する前記所望のイオンの質量電荷比を一定に制御する制御部と、を含む、質量分析装置である。
【0007】
本発明では、イオンパルスが質量分析部を通過する間は、質量分析部が選択するイオンの質量電荷比を一定に制御するので、イオンパルスが質量分析部を通過中に質量分析部が選択するイオンの質量電荷比が変更されることがない。そのため、質量分析部が選択するイオンは必ず質量分析部を通過することができる。
【0008】
また、本発明では、蓄積部でイオンを蓄積し、イオンパルスとして排出することで、質量分析部にイオンが入射しない時間を作ることができる。そのため、質量分析部にイオンが入射しない時間に質量分析部で選択するイオンを変更することができる。
【0009】
従って、本発明によれば、質量分析部において選択するイオンを変更する場合でも、イオンの損失を低減させることができる。
【0010】
(2)この質量分析装置において、前記蓄積部は、前記蓄積動作と、前記排出動作と、をそれぞれ一定の周期で繰り返し行うようにしてもよい。
【0011】
このようにすれば、蓄積部でのイオンの蓄積時間と排出時間が一定になり、蓄積部での1回の排出動作毎に質量分析部で選択するイオンを変更すれば、イオン間の強度比較が可能となる。
【0012】
(3)この質量分析装置は、前記検出部が出力する前記アナログ信号をサンプリングしてデジタル信号に変換するA/D変換部と、前記A/D変換部が変換したデジタル信号を積算又は平均化するデータ処理部と、前記データ処理部が積算又は平均化したデータを記憶する記憶部と、をさらに含み、前記データ処理部は、前記所望のイオンの質量電荷比毎に、前記積算又は平均化の処理を行い、前記記憶部は、前記所望のイオンの質量電荷比の情報と対応づけて、前記積算又は平均化したデータを記憶するようにしてもよい。
【0013】
このように、A/D変換部が変換したデジタル信号を積算又は平均化することで、デジタル信号に重畳されるランダムなノイズ成分をキャンセルしながら、イオンの質量電荷比毎に、より精度の高いイオン強度のデータを得ることができる。
【0014】
(4)この質量分析装置において、前記A/D変換部は、前記質量分析部を通過したイオンパルスの各々について、前記検出器に入射し始める前に前記アナログ信号のサンプリングを開始し、前記検出器に入射し終わった後に前記アナログ信号のサンプリングを終了するようにしてもよい。
【0015】
このように、イオンパルスが検出器に入射している時間だけA/D変換部でサンプリングを行うことで、余分なノイズの取り込みを防ぎ、検出感度を上げることができる。
【0016】
(5)この質量分析装置において、前記A/D変換部は、前記蓄積部が前記質量分析部で同じイオンが選択される複数のイオンパルスの各々を排出する排出動作を開始してから一定の遅延時間の後に前記アナログ信号のサンプリングを開始するようにしてもよい。
【0017】
(6)この質量分析装置において、前記A/D変換部は、前記蓄積部が前記質量分析部で同じイオンが選択される複数のイオンパルスの各々を一定時間で排出する排出動作を開始してから一定の遅延時間の後に一定時間、前記アナログ信号のサンプリングを行うようにしてもよい。
【0018】
(7)この質量分析装置において、前記質量分析部は、前記所望のイオンを選択するための四重極マスフィルターを含むようにしてもよい。
【0019】
(8)本発明は、試料をイオン化するイオン源と前記イオン源で生成されたイオンを蓄積する蓄積動作と、蓄積したイオンをイオンパルスとして排出する排出動作と、を繰り返し行う蓄積部と、前記蓄積部が排出するイオンパルスを通過させ、質量電荷比に基づいて第1のイオンを選択する第1の質量分析部と、前記第1の質量分析部を通過したイオンパルスの全部又は一部を開裂させてプロダクトイオンを生成し、当該プロダクトイオンを含むイオンパルスを出射する衝突室と、前記衝突室が出射するイオンパルスを通過させ、質量電荷比に基づいて第2のイオンを選択する第2の質量分析部と、前記第2の質量分析部を通過したイオンパルスを検出し、検出強度に応じたアナログ信号を出力する検出部と、前記第1のイオンを含むイオンパルスが前記第1の質量分析部を通過する間は、前記第1の質量分析部が選択する前記第1のイオンの質量電荷比を一定に制御するとともに、前記第2のイオンを含むイオンパルスが前記第2の質量分析部を通過する間は、前記第2の質量分析部が選択する前記第2のイオンの質量電荷比を一定に制御する制御部と、を含む、質量分析装置である。
【0020】
本発明では、イオンパルスが第1の質量分析部を通過する間は、第1の質量分析部が選択する第1のイオンの質量電荷比を一定に制御するので、イオンパルスが第1の質量分析部を通過中に第1の質量分析部が選択する第1のイオンの質量電荷比が変更されることがない。そのため、第1の質量分析部が選択するイオンは必ず第1の質量分析部を通過することができる。
【0021】
同様に、イオンパルスが第2の質量分析部を通過する間は、第2の質量分析部が選択する第2のイオンの質量電荷比を一定に制御するので、イオンパルスが第2の質量分析部を通過中に第2の質量分析部が選択する第2のイオンの質量電荷比が変更されることがない。そのため、第2の質量分析部が選択するイオンは必ず第2の質量分析部を通過することができる。
【0022】
また、本発明では、蓄積部でイオンを蓄積し、イオンパルスとして排出することで、第1の質量分析部にイオンが入射しない時間とともに、第2の質量分析部にイオンが入射しない時間を作ることができる。そのため、第1の質量分析部にイオンが入射しない時間に第1の質量分析部で選択するイオンを変更することができるとともに、第2の質量分析部にイオンが入射しない時間に第2の質量分析部で選択するイオンを変更することができる。
【0023】
従って、本発明によれば、第1の質量分析部及び第2の質量分析部の少なくとも一方において選択するイオンを変更する場合でも、イオンの損失を低減させることができる。
【0024】
(9)この質量分析装置において、前記蓄積部は、前記蓄積動作と、前記排出動作と、をそれぞれ一定の周期で繰り返し行うようにしてもよい。
【0025】
このようにすれば、蓄積部でのイオンの蓄積時間と排出時間が一定になり、蓄積部での1回の排出動作毎に第1の質量分析部で選択するイオンと第2の質量分析部で選択するイオンの組み合わせ(トランジション)を変更すれば、各トランジションの強度比較が可能となる。
【0026】
(10)この質量分析装置において、前記衝突室は、前記第1のイオンと前記プロダクトイオンを蓄積する蓄積動作と、蓄積した前記プロダクトイオンを含むイオンパルスを排出する排出動作と、を繰り返し行うようにしてもよい。
【0027】
このように、蓄積部でイオンを蓄積し、イオンパルスとして排出することで、第2の質量分析部にイオンが入射しない時間を容易に制御することができる。そのため、第2の質量分析部にイオンが入射しない時間に第2の質量分析部で選択するイオンを変更することが容易になる。
【0028】
また、衝突室でイオンを蓄積し、イオンパルスを排出することで、検出部に入射するイオンパルスの幅を、衝突室に入射するイオンパルスの幅よりも狭くすることができるので、検出感度の劣化を回避することができる。
【0029】
(11)この質量分析装置において、前記蓄積部は、前記蓄積動作と、前記排出動作と、をそれぞれ一定の周期で繰り返し行い、前記衝突室は、前記蓄積動作と、前記排出動作と、をそれぞれ一定の周期で繰り返し行うようにしてもよい。
【0030】
このようにすれば、蓄積部でのイオンの蓄積時間と排出時間が一定になるとともに、衝突室でのイオンの蓄積時間と排出時間が一定になり、蓄積部での1回の排出動作と衝突室での1回の排出動作毎にトランジションを変更すれば、トランジション間の強度比較が可能となる。
【0031】
(12)この質量分析装置において、前記衝突室は、前記第1の質量分析部を通過したイオンパルスが入射する間は前記蓄積動作を行うようにしてもよい。
【0032】
このようにすれば、衝突室に入射するイオンが衝突室で一旦蓄積されるので、衝突室での開裂効率を上げることができる。
【0033】
(13)この質量分析装置において、前記衝突室は、前記第1の質量分析部が選択する前記第1のイオンの質量電荷比が変更される場合、変更前の最後のイオンパルスを排出する排出動作により前記衝突室にある前記第2のイオンをすべて排出するようにしてもよい。
【0034】
第1のイオンの質量電荷比が変更される前の最後のイオンパルスの排出時間を長くすることで、衝突室に残留している第2のイオンをすべて排出することができるので、トランジション間のイオンの干渉(クロストーク)を低減させることができる。
【0035】
(14)この質量分析装置は、前記検出部が出力する前記アナログ信号をサンプリングしてデジタル信号に変換するA/D変換部と、前記A/D変換部が変換したデジタル信号を積算又は平均化するデータ処理部と、前記データ処理部が積算又は平均化したデータを記憶する記憶部と、をさらに含み、前記データ処理部は、前記第1のイオンの質量電荷比と前記第2のイオンの質量電荷比の組み合わせ毎に、前記積算又は平均化の処理を行い、前記記憶部は、前記第1のイオンの質量電荷比と前記第2のイオンの質量電荷比の組み合わせの情報と対応づけて、前記積算又は平均化したデータを記憶するようにしてもよい。
【0036】
このようにすれば、A/D変換部が変換したデジタル信号を積算又は平均化することで、デジタル信号に重畳されるランダムなノイズ成分をキャンセルしながら、トランジション毎に、より精度の高いイオン強度のデータを得ることができる。
【0037】
(15)この質量分析装置において、前記A/D変換部は、前記第2の質量分析部を通過したイオンパルスの各々について、前記検出器に入射し始める前に前記アナログ信号のサンプリングを開始し、前記検出器に入射し終わった後に前記アナログ信号のサンプリングを終了するようにしてもよい。
【0038】
このように、イオンパルスが検出器に入射している時間だけA/D変換部でサンプリングを行うことで、余分なノイズの取り込みを防ぎ、検出感度を上げることができる。
【0039】
(16)この質量分析装置において、前記衝突室でイオンパルスを排出する場合、前記A/D変換部は、前記衝突室が前記第2質量分析部での選択イオンが同じ複数のイオンパルスの各々を排出する排出動作を開始してから一定の遅延時間の後に前記アナログ信号のサンプリングを開始するようにしてもよい。
【0040】
(17)この質量分析装置において、前記衝突室でイオンパルスを排出する場合、前記A/D変換部は、前記衝突室が前記第2質量分析部での選択イオンが同じ複数のイオンパルスの各々を一定時間で排出する排出動作を開始してから一定の遅延時間の後に一定時間、前記アナログ信号のサンプリングを行うようにしてもよい。
【0041】
(18)この質量分析装置において、前記蓄積部のみでイオンパルスを排出する場合、前記A/D変換部は、前記蓄積部がトランジションが同じ複数のイオンパルスの各々を排出する排出動作を開始してから一定の遅延時間の後に前記アナログ信号のサンプリングを開始するようにしてもよい。
【0042】
(19)この質量分析装置において、前記蓄積部のみでイオンパルスを排出する場合、前記A/D変換部は、前記蓄積部がトランジションが同じ複数のイオンパルスの各々を一定時間で排出する排出動作を開始してから一定の遅延時間の後に一定時間、前記アナログ信号のサンプリングを行うようにしてもよい。
【0043】
(20)この質量分析装置において、前記第1の質量分析部は、前記第1のイオンを選択するための四重極マスフィルターを含み、前記第2の質量分析部は、前記第2のイオンを選択するための四重極マスフィルターを含むようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】第1実施形態の質量分析装置の構成を示す図。
【図2】第1実施形態の四重極質量分析装置の動作シーケンスの一例を示すタイミングチャート図。
【図3】第1実施形態の変形例1の四重極質量分析装置の動作シーケンスの一例を示すタイミングチャート図。
【図4】第1実施形態の変形例2の四重極質量分析装置の構成を示す図。
【図5】第2実施形態の質量分析装置の構成を示す図。
【図6】第2実施形態の三連型四重極質量分析装置の動作シーケンスの一例を示すタイミングチャート図。
【図7】第2実施形態の変形例1の三連型四重極質量分析装置の動作シーケンスの一例を示すタイミングチャート図。
【図8】第2実施形態の変形例2の三連型四重極質量分析装置の構成を示す図。
【図9】第3実施形態の三連型四重極質量分析装置の動作シーケンスの一例を示すタイミングチャート図。
【図10】第3実施形態の変形例1の三連型四重極質量分析装置の動作シーケンスの一例を示すタイミングチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0046】
以下では、四重極マスフィルターを用いてイオンを分離する四重極型の質量分析装置を例に挙げて説明するが、本発明は、磁場中で質量電荷比によりイオンの軌道が変わる性質を利用してイオンを分離する磁場型(単収束扇形磁場型、二重収束扇形磁場型など)の質量分析装置にも適用することができる。
【0047】
1.第1実施形態
(1)構成
まず、第1実施形態の質量分析装置の構成について説明する。第1実施形態の質量分析装置は、いわゆる単独型の四重極質量分析装置であり、その構成の一例を図1に示す。なお、図1は、本実施形態の四重極質量分析装置を鉛直方向に切断した時の概略断面図である。
【0048】
図1に示すように、第1実施形態の四重極質量分析装置1Aは、イオン源10、蓄積部20、質量分析部30、検出器60、電源部80、A/D変換器82、データ処理部84、記憶部86、制御部90を含んで構成されている。なお、本実施形態の四重極質量分析装置は図1の構成要素の一部を省略した構成としてもよい。
【0049】
イオン源10は、図示しないクロマトグラフ等の試料導入装置から導入された試料を所定の方法でイオン化する。イオン源50は、例えば、ESI法等の大気圧イオン化法によって連続的にイオンを生成する大気圧連続イオン源として実現することができる。
【0050】
イオン源10の後段には、中心に開口部を有する電極12が設けられており、さらにその後段に蓄積部20が設けられている。
【0051】
蓄積部20は、イオンガイド22の両端に入口電極24と出口電極26を配置した構成であり、外部からガスを導入するためのガス導入手段28(ニードルバルブ等)を備えている。イオンガイド22は、四重極ポールや六重極ポール等の多重極ポールを用いて形成されている。入口電極24と出口電極26は、それぞれその中心に開口部が設けられている。蓄積部20は、イオン源10で生成されたイオンを蓄積する蓄積動作と、蓄積したイオンをイオンパルスとして排出する排出動作と、を繰り返し行う。
【0052】
蓄積部20の後段には、四重極マスフィルター32を含む質量分析部30が設けられている。質量分析部30は、蓄積部20が排出するイオンパルスから質量電荷比(イオンの質量mをイオンの価数zで割ったもの(m/z))に基づいて所望のイオンを選択し、当該所望のイオン(選択イオン)を含むイオンパルスを通過させる。具体的には、質量分析部30は、四重極マスフィルター32に印加される選択電圧(RF電圧とDC電圧)に応じた質量電荷比のイオンを選択して通過させる。
【0053】
質量分析部30の後段には中心に開口部が設けられた電極36が設けられており、電極36の後段に、検出器60が設けられている。検出器60は、質量分析部30を通過したイオンパルスを検出し、検出強度に応じたアナログ信号を出力する。
【0054】
なお、電極12と蓄積部20の入口電極24との間の空間により、第1差動排気室70が形成されている。また、蓄積部20の入口電極24と出口電極26との間の空間により第2差動排気室71が形成されている。さらに、蓄積部20の出口電極26の後段の空間により第3差動排気室72が形成されている。
【0055】
検出器60が出力するアナログ信号はA/D変換器82に入力され、A/D変換器82でデジタル信号に変換される。そして、A/D変換器82が変換したデジタル信号はデータ処理部84に入力され、データ処理部84で積算(デジタル信号を1つ以上加算する処理)又は平均化(デジタル信号を加算し、加算した値をデジタル信号の数で割る処理)されて、各選択イオンのイオン強度が算出される。このイオン強度は選択イオンの識別情報と対応づけて記憶部86に記憶される。
【0056】
電源部80は、イオンがイオン源10から検出器60まで光軸62に沿って進むように、電極12、24、26、36、イオンガイド22及び四重極マスフィルター32に、それぞれ独立に又は他と連動して所望の電圧を印加する。具体的には、電源部80は、イオン源10で生成されたイオンが蓄積部20に到達するように、電極12、24に所望の電圧を印加する。また、電源部80は、蓄積部20がイオンの蓄積動作と排出動作を繰り返し行うように、電極24、イオンガイド22、電極26に所望の電圧を印加する。また、電源部80は、質量分析部30で所望のイオンを選択し、選択されたイオンが検出器60に到達するように、電極26、四重極マスフィルター32、電極36に所望の電圧を印加する。なお、イオンの輸送経路(光軸62)は必ずしも図1のように直線でなくてもよく、バックグラウンドイオンを除去するためイオンの輸送経路を曲げてもよい。
【0057】
制御部90は、電源部80の印加電圧の切替タイミング、A/D変換器82やデータ処理部84の動作タイミングなどを制御する。特に、制御部90は、質量分析部30で選択される所望のイオンを含むイオンパルスが質量分析部30を通過する間は、質量分析部30が選択する所望のイオンの質量電荷比を一定に制御する。
【0058】
(2)動作
次に、第1実施形態の四重極質量分析装置1Aの動作について説明する。以下では、イオン源10において生成されるイオンが正イオンであるものとして説明するが、負イオンであってもよい。負イオンについても、電圧極性を反転させれば以下と同様の説明を適用することができる。
【0059】
イオン源10で生成したイオンは電極12の開口部を通過し、第1差動排気室70を経て、入口電極24から蓄積部20に入射する。
【0060】
蓄積部20ではイオンを一旦蓄積した後、排出する。そのため、電源部80から蓄積部20の出口電極26にパルス電圧を印加する。出口電極26に印加するパルス電圧をイオンガイド22の軸電圧より高くすると出口電極26は閉鎖し、イオンは蓄積部20に蓄積される。一方、出口電極26に印加するパルス電圧をイオンガイド22の軸電圧より低くすると出口電極26は開放され、蓄積部20からイオンが排出される。
【0061】
イオン源10は大気圧中にあるので、蓄積部20には入口電極24の開口部から大量の空気が流入する。蓄積部20にあるイオンは流入した空気との衝突により運動エネルギーが低下し、蓄積時に出口電極26の電位障壁に跳ね返されて入口電極24に戻ってきたイオンのエネルギーは、初めて入口電極24を通過したときよりも低くなる。そのため、入口電極24の電圧を調整すれば、上流からのイオンを通過させ、下流から戻ってきたイオンは通過させないようにすることができる。これにより、蓄積部20の蓄積効率をほぼ100%に維持することができる。
【0062】
蓄積部20に蓄積されたイオンは空気との衝突によって運動エネルギーが低下するため、蓄積部20から排出されるときのイオンの全エネルギーはイオンガイド22の軸電圧による位置エネルギーとほぼ等しくなる。入口電極24からの空気の流入量が不足して、イオンの運動エネルギーの低下が不十分な場合は、ガス導入手段28からガスを導入することで蓄積効率が改善する。
【0063】
質量分析部30の四重極マスフィルター32には、イオンを質量電荷比ごとに選択するための選択電圧(RF電圧とDC電圧)が電源部80から供給され、所望の軸電圧が設定される。この選択電圧に応じて選択されたイオンは、光軸62上に残り、検出器60に入射する。
【0064】
検出器60が出力するアナログ信号はA/D変換器82でサンプリングされデジタル信号に変換される。このデジタル信号はデータ処理部84によって積算又は平均化され、各選択イオンのイオン強度が算出される。このイオン強度はそのときの選択イオンの識別情報と共に記憶部86に保存される。
【0065】
本実施形態では、蓄積部20でイオンの蓄積、排出動作を行っているので、蓄積部20の出口電極26以降ではパルス化したイオン(イオンパルス)が通過することになる。質量分析部30を通過する間、このイオンパルスの時間幅は蓄積部20の出口電極26の開放時間とほぼ同じである。
【0066】
特に本実施形態では、蓄積部20でイオンを蓄積することで、四重極マスフィルター32に印加する選択電圧(RF電圧とDC電圧)の変更時間にイオンが質量分析部30に入らないようにする。言い換えると、蓄積部20で排出した個々のイオンパルスが質量分析部30を通過する間、質量分析部30では選択イオンを変更することなく1つのイオンのみを選択している。
【0067】
なお、本実施形態では、電源部80、A/D変換器82、データ処理部84は図示しないパーソナルコンピューター(PC)からユーザーが指定したシーケンスで動作するので、所望の時刻に所望の選択イオンのイオン強度を測定することができる。
【0068】
図2は、四重極質量分析装置1Aの動作シーケンスの一例を示すタイミングチャート図である。図2に示すように、蓄積部20の入口電極22には一定の電圧(電極12よりも低い電圧)が印加されており、蓄積部20の入口は常に開放されている。そのため、イオン源10で生成したほぼ100%のイオンが蓄積部20に入射して蓄積される。
【0069】
蓄積部20の出口電極26には2つの異なる電圧が周期的に印加される。出口電極26の電圧がイオンガイド22の軸電圧よりも高い時は、蓄積部20の出口が閉鎖され、イオンが蓄積される。一方、出口電極26の電圧がイオンガイド22の軸電圧よりも低い時は、蓄積部20の出口が開放され、イオンが排出される。すなわち、蓄積部20の出口電極26の電圧が周期的に切り替わることで、蓄積部20は蓄積動作と排出動作を交互に繰り返す。
【0070】
具体的には、時刻tまでは蓄積部20にイオンが蓄積され、時刻tまでに蓄積部20に蓄積されたイオンの一部または全部が時刻t〜tにおいてイオンパルスipとして蓄積部20から排出される。また、時刻tまでに蓄積部20に蓄積されたイオンの一部または全部が時刻t〜tにおいてイオンパルスipとして蓄積部20から排出される。また、時刻tまでに蓄積部20に蓄積されたイオンの一部または全部が時刻t〜tにおいてイオンパルスipとして蓄積部20から排出される。また、時刻t10までに蓄積部20に蓄積されたイオンの一部または全部が時刻t10〜t11においてイオンパルスipとして蓄積部20から排出される。また、時刻t12までに蓄積部20に蓄積されたイオンの一部または全部が時刻t12〜t13においてイオンパルスipとして蓄積部20から排出される。そして、これらのイオンパルスip〜ipは、順番に質量分析部30に入射する。
【0071】
質量分析部30では、時刻t〜tと時刻t〜tにかけて選択電圧(RF電圧とDC電圧)が切り替わり、これにより、時刻t〜tでは質量電荷比がM1のイオンが選択され、時刻tからは質量電荷比がM2のイオンが選択される。時刻t〜tの変更時間は、質量電荷比がM1の選択イオンから質量電荷比がM2の選択イオンへの変更に際し、選択電圧が安定化するまでに要する時間である。
【0072】
イオンパルスip、ip、ipは、質量分析部30を通過する間に、それぞれ質量電荷比がM1のイオンのイオンパルスip11、ip12、ip13となる。また、イオンパルスip、ipは、質量分析部30を通過する間に、それぞれ質量電荷比がM2のイオンのイオンパルスip14、ip15となる。
【0073】
特に本実施形態では、時刻t〜tの変更時間に質量分析部30へイオンを入射させないようにするため、時刻tは質量分析部30で質量電荷比がM1のイオンが選択される最後のイオンパルスip13が質量分析部30を通過し終わる時刻より後になっている。また、時刻tは質量分析部30で質量電荷比がM2のイオンが選択される最初のイオンパルスipが質量分析部30を通過し始める時刻より前になっている。
【0074】
質量分析部30を通過したイオンパルスip11〜ip15は検出器60に入射する。また、イオンパルスip10はイオンパルスip11の直前に検出器60に入射した、質量電荷比がM0のイオンのイオンパルスである。A/D変換器82で質量電荷比M1のイオンをサンプリングする場合、サンプリング開始時刻は、質量電荷比がM0のイオンが最後に選択されるイオンパルスip10が検出器60に入射し終わる時刻と質量電荷比がM1のイオンが選択される最初のイオンパルスip11が検出器60に入射し始める時刻との間とする。また、サンプリング終了時刻は、質量電荷比がM1のイオンが選択される最後のイオンパルスip13が検出器60に入射し終わる時刻と質量電荷比がM2のイオンが選択される最初のイオンパルスip14が検出器60に入射し始める時刻との間とする。
【0075】
データ処理部84では各選択イオンのサンプリングによってデジタル化された信号をすべて積算、或いは平均化する。その積算値、平均値は各選択イオンのイオン強度として記憶部86に記憶される。
【0076】
以上に説明した第1実施形態の四重極質量分析装置1Aによれば、蓄積部20でイオンを一旦蓄積してからパルス化して排出することで、質量分析部30の変更時間中にイオンを質量分析部30に入射させないようにできる。このため、蓄積動作を行わない従来の四重極質量分析装置に比べてイオンの損失を抑えることができる。
【0077】
また、本実施形態において、各選択イオンに対して、蓄積部20で1つのイオンパルスしか排出しないようにすれば、検出器60に入射したそれぞれのイオンパルスの面積強度がそれぞれの選択イオンのイオン強度になる。そして、蓄積部20の出口電極26の開放時間と閉鎖時間を一定とすれば、各選択イオンのイオン強度はイオン源10で一定時間、即ち一定の開閉周期、の間に生成された選択イオンの量に比例する。その結果、イオン源10で同じ時間間隔で生成されたイオンを観測することになるので選択イオンごとの強度比較が可能となる。
【0078】
(3)変形例
[変形例1]
上述した第1実施形態の四重極質量分析装置1Aでは、A/D変換器82のサンプリング時間の設定が簡単であるが、イオンパルスが検出されない時間、例えばイオンパルスip11の検出が終わってから次のイオンパルスip12の検出が開始されるまでの時間もサンプリングを行うことになる。ここでのサンプリングは、イオンではなくノイズを取り込むことになるので信号対雑音比(S/N比)を悪化させる原因となる。
【0079】
そこで、変形例1では、イオンパルスごとに連続してサンプリングすることでこの問題を解決する。この変形例1では少なくとも個々のイオンパルスが検出器60に入射している時間はサンプリングを行い、さらに個々のイオンパルスをサンプリングする時間が互いに重なり合わないようにする。
【0080】
なお、変形例1の四重極質量分析装置の構成は、A/D変換器82のサンプリングタイミングが異なる点を除いて図1に示した構成と同様であるため、その図示及び説明を省略する。
【0081】
図3は、変形例1の四重極質量分析装置の動作シーケンスの一例を示すタイミングチャート図である。図3において、イオンパルスip11〜ip15が検出器60に入射するまでの動作シーケンスは、図2と同じであるため、その説明を省略する。
【0082】
A/D変換器82で、例えば、イオンパルスip12をサンプリングする場合、サンプリング開始時刻はその直前に検出器60に入射されたイオンパルスip11のサンプリングが終了した時刻とイオンパルスip12が検出器60に入射し始める時刻との間とする。また、サンプリング終了時刻はイオンパルスip12が検出器60に入射し終わる時刻とその直後に検出器60に入射するイオンパルスip13のサンプリングが開始する時刻との間、とする。このように、イオンパルスが検出器に入射している時間だけA/D変換器82でサンプリングを行うことで、余分なノイズの取り込みを防ぎ、検出感度を上げることができる。なお、A/D変換器82でサンプリングを行う時間と検出器60でイオンパルスが検出される時間とがよく一致するほど信号対雑音比(S/N比)の改善につながる。
【0083】
A/D変換器82でイオンパルスip11、ip12、ip13をサンプリングして生成したデジタル信号をデータ処理部84で積算、或いは平均化することで質量電荷比がM1の選択イオンのイオン強度が得られ、記憶部86に記憶される。
【0084】
このように、各イオンパルスに対してサンプリングを行うには、図3に示すように、蓄積部20の排出動作の開始時刻から所定の遅延時間後に所定の動作時間だけサンプリングを行うように予め設定しておくとよい。例えば、イオンパルスip11の場合、蓄積部20がイオンパルスip11の元となるイオンパルスipを排出した排出動作の開始時刻tから遅延時間Td後に動作時間Tsにわたりサンプリングを行う。他のイオンパルスip12、ip13、ip14、ip15のサンプリングについても、蓄積部20がこれらのイオンパルスの元となるイオンパルスip、ip、ip、ipをそれぞれ排出した排出動作の開始時刻t、t、t10、t12からの遅延時間とサンプリングを行う動作時間を設定する。
【0085】
蓄積部20の出口電極26の開放時間が一定の場合、選択イオンが同じイオンパルスは同じ飛行速度、同じ時間幅を持つので、同じ遅延時間と同じ動作時間でサンプリングすることができる。例えば、質量電荷比がM1のイオンが選択される3つのイオンパルスip11、ip12、ip13をサンプリングする場合、これらのイオンパルスの元となるイオンパルスip、ip、ipを排出した排出動作の開放時間t−t、t−t、t−tをすべて同じ時間に設定すれば、それぞれの遅延時間をすべて同じ時間Tdに設定するとともに、動作時間もすべて同じ時間Tsに設定すればよい。
【0086】
選択イオンが変われば、蓄積部20の出口電極26から排出されたイオンパルスの飛行速度と時間幅も変化する。例えば、質量電荷比がM1のイオンが選択されるイオンパルスip11と質量電荷比がM2のイオンが選択されるイオンパルスip14に対するそれぞれの遅延時間TdとTdは異なり、それぞれの動作時間TsとTsも異なる。つまり、遅延時間と動作時間は選択イオンによって変化させる。
【0087】
[変形例2]
第1実施形態では、大気圧イオン源10を用いているが、試料に電子を衝突させてイオン化する電子衝突イオン化源など試料を真空中でイオン化するイオン源を用いて変形してもよい。図4は、変形例2の構成を示す図である。図4において、図1と同じ構成については同じ符号を付しており、その説明を省略する。
【0088】
図4に示す変形例2の四重極質量分析装置1Bは、イオン源10の代わりにイオン源14を設け、イオン源14と蓄積部20の入口電極24との間に数枚の電極からなる集束レンズ16を設け、イオン源14から蓄積部20の出口電極26までを第1差動排気室73、蓄積部20の出口電極26の後段の空間を第2差動排気室74とする点において、図1に示した四重極質量分析装置1Aと異なる。四重極質量分析装置1Bでは、イオン源14が真空中にあるので蓄積部20の蓄積効率を上げるために、ガス導入手段28からガスを導入してイオンの運動エネルギーを低下させる。その他の動作は四重極質量分析装置1Aと同じであるため、その説明を省略する。
【0089】
2.第2実施形態
(1)構成
まず、第2実施形態の質量分析装置の構成について説明する。第2実施形態の質量分析装置は、いわゆる三連型の四重極質量分析装置であり、その構成の一例を図5に示す。なお、図5は、本実施形態の三連型四重極質量分析装置を鉛直方向に切断した時の概略断面図である。
【0090】
図5に示すように、第2実施形態の三連型四重極質量分析装置1Cは、イオン源110、蓄積部120、第1質量分析部130、衝突室140、第2質量分析部150、検出器160、電源部180、A/D変換器182、データ処理部184、記憶部186、制御部190を含んで構成されている。なお、本実施形態の三連型四重極質量分析装置は図5の構成要素の一部を省略した構成としてもよい。
【0091】
イオン源110は、図示しないクロマトグラフ等の試料導入装置から導入された試料を所定の方法でイオン化する。イオン源110は、図1に示したイオン源10と同じく、例えば、大気圧連続イオン源として実現することができる。
【0092】
イオン源110の後段には、中心に開口部を有する電極112が設けられており、さらにその後段に蓄積部120が設けられている。
【0093】
蓄積部120は、イオンガイド122の両端に入口電極124と出口電極126を配置した構成であり、外部からガスを導入するためのガス導入手段128(ニードルバルブ等)を備えている。イオンガイド122は、四重極ポールや六重極ポール等の多重極ポールを用いて形成されている。入口電極124と出口電極126は、それぞれその中心に開口部が設けられている。蓄積部120の機能は、図1に示した蓄積部20と同じであるので、その説明を省略する。
【0094】
蓄積部120の後段には、四重極マスフィルター132を含む第1質量分析部130が設けられている。第1質量分析部130は、蓄積部120が排出するイオンパルスから質量電荷比に基づいて第1のイオンを選択し、当該第1のイオンを含むイオンパルスを通過させる。具体的には、第1質量分析部130は、四重極マスフィルター132に印加される選択電圧(RF電圧とDC電圧)に応じた質量電荷比のイオンを選択して通過させる。第1分析部130で選択されるイオンはプリカーサーイオンと呼ばれる。
【0095】
第1質量分析部130の後段には、衝突室(コリジョンセル)140が設けられている。衝突室140は、イオンガイド142の両端に入口電極144と出口電極146を配置した構成であり、外部からヘリウムやアルゴン等のガスを導入するためのガス導入手段148(ニードルバルブ等)を備えている。入口電極144と出口電極146は、それぞれその中心に開口部が設けられている。衝突室140にガスを導入することで、プリカーサーイオンはガス分子との衝突によりある確率で開裂を起こし断片化される。但し、プリカーサーイオンが開裂を起こすには、衝突エネルギーがプリカーサーイオンの解離エネルギー以上でなければならない。この衝突エネルギーはイオンガイド122と142の軸電圧の電位差による位置エネルギーの差にほぼ等しくなる。衝突室140で断片化されたイオンはプロダクトイオンと呼ばれる。
【0096】
衝突室140の後段には、四重極マスフィルター152を含む第2質量分析部150が設けられている。第2質量分析部150は、衝突室140が出射するイオンパルスから質量電荷比に基づいて第2のイオンを選択し、当該第2のイオンを含むイオンパルスを通過させる。具体的には、第2質量分析部150は、四重極マスフィルター152に印加される選択電圧(RF電圧とDC電圧)に応じた質量電荷比のイオンを選択して通過させる。
【0097】
第1質量分析部130と第2質量分析部150で選択するイオンの質量電荷比の組み合わせはトランジションと呼ばれる。通常、トランジションとは第1質量分析部130、第2質量分析部150で共に選択イオンを固定するマルチプルリアクションモード(MRM)におけるイオンの組み合わせに対して用いられるが、第2質量分析部150でスキャンを行うプロダクトイオンスキャン、第1質量分析部130でスキャンを行うプリカーサーイオンスキャン、両方の質量分析部でスキャンを行うニュートラルロススキャンに対しても、ある時刻において第1質量分析部130と第2質量分析部150で選択したイオンの質量電荷比の組み合わせを定義することができるので、本明細書ではこれらの場合もトランジションと呼ぶことにする。
【0098】
第2質量分析部150の後段には中心に開口部が設けられた電極156が設けられており、電極156の後段に、検出器160が設けられている。検出器160の機能は、図1に示した検出器60と同じであるので、その説明を省略する。
【0099】
なお、電極112と蓄積部120の入口電極124との間の空間により第1差動排気室170が形成されている。また、蓄積部120の入口電極124と出口電極126との間の空間により第2差動排気室171が形成されている。また、蓄積部120の出口電極126と衝突室140の出口電極146との間の空間により第3差動排気室172が形成されている。さらに、衝突室140の出口電極146の後段の空間により第4差動排気室173が形成されている。
【0100】
検出器160が出力するアナログ信号はA/D変換器182に入力され、A/D変換器182でデジタル信号に変換される。そして、A/D変換器182が変換したデジタル信号はデータ処理部184に入力され、データ処理部184で積算又は平均化されて各トランジションのイオン強度が算出される。このイオン強度はトランジションと対応づけて記憶部186に記憶される。
【0101】
電源部180は、イオンがイオン源110から検出器160まで光軸162に沿って進むように、電極112、124、126、144、146、156、イオンガイド122、142及び四重極マスフィルター132、152に、それぞれ独立に又は他と連動して所望の電圧を印加する。具体的には、電源部180は、イオン源110で生成されたイオンが蓄積部120に到達するように、電極112、124に所望の電圧を印加する。また、電源部180は、蓄積部120がイオンの蓄積動作と排出動作を繰り返し行うように、電極124、イオンガイド122、電極126に所望の電圧を印加する。また、電源部180は、第1質量分析部130で所望のイオンを選択し、選択されたイオンが衝突室140に到達するように、四重極マスフィルター132、電極144に所望の電圧を印加する。また、電源部180は、衝突室140でプロダクトイオンを生成し、プロダクトイオンが第2質量分析部150に到達するように、電極144、イオンガイド142、電極146に所望の電圧を印加する。また、電源部180は、第2質量分析部150で所望のイオンを選択し、選択されたイオンが検出器160に到達するように、電極146、四重極マスフィルター152、電極156に所望の電圧を印加する。なお、イオンの輸送経路(光軸162)は必ずしも図5のように直線でなくてもよく、バックグラウンドイオンを除去するためイオンの輸送経路を曲げてもよい。
【0102】
制御部190は、電源部180の印加電圧の切替タイミング、A/D変換器182やデータ処理部184の動作タイミングなどを制御する。特に、制御部190は、第1質量分析部130で選択される第1のイオンを含むイオンパルスが第1質量分析部130を通過する間は、第1質量分析部130が選択する第1のイオンの質量電荷比を一定に制御するとともに、第2質量分析部150で選択される第2のイオンを含むイオンパルスが第2質量分析部150を通過する間は、第2質量分析部150が選択する第2のイオンの質量電荷比を一定に制御する。
【0103】
(2)動作
次に、第2実施形態の三連型四重極質量分析装置1Cの動作について説明する。以下では、イオン源110において生成されるイオンが正イオンであるものとして説明するが、負イオンであってもよい。負イオンについても、電圧極性を反転させれば以下と同様の説明を適用することができる。
【0104】
イオン源110で生成したイオンは電極112の開口部を通過し、第1差動排気室170を経て、入口電極124から蓄積部120に入射する。
【0105】
蓄積部120ではイオンを一旦蓄積した後、排出する。そのため、電源部180から蓄積部120の出口電極126にパルス電圧を印加する。出口電極126に印加するパルス電圧をイオンガイド122の軸電圧より高くすると出口電極126は閉鎖し、イオンは蓄積部120に蓄積される。一方、出口電極126に印加するパルス電圧をイオンガイド122の軸電圧より低くすると出口電極126は開放され、蓄積部120からイオンが排出される。
【0106】
イオン源110は大気圧中にあるので、蓄積部120には入口電極124の開口部から大量の空気が流入する。蓄積部120にあるイオンは流入した空気との衝突により運動エネルギーが低下し、蓄積時に出口電極126の電位障壁に跳ね返されて入口電極124に戻ってきたイオンのエネルギーは、初めて入口電極124を通過したときよりも低くなる。そのため、入口電極124の電圧を調整すれば、上流からのイオンを通過させ、下流から戻ってきたイオンは通過させないようにすることができる。これにより、蓄積部120の蓄積効率をほぼ100%に維持することができる。
【0107】
蓄積部120に蓄積されたイオンは空気との衝突によって運動エネルギーが低下するため、蓄積部120から排出されるときのイオンの全エネルギーはイオンガイド122の軸電圧による位置エネルギーとほぼ等しくなる。入口電極124からの空気の流入量が不足して、イオンの運動エネルギーの低下が不十分な場合は、ガス導入手段128からガスを導入することで蓄積効率が改善する。
【0108】
第1質量分析部130の四重極マスフィルター132には、イオンを質量電荷比ごとに選択するための選択電圧(RF電圧とDC電圧)が電源部180から供給され、所望の軸電圧が設定される。この選択電圧に応じて選択されたイオン(プリカーサーイオン)は、光軸162上に残り、衝突室140に入射する。
【0109】
衝突室140に入射したプリカーサーイオンは、ガス導入手段148から導入したガスと衝突し、一部のプリカーサーイオンは、ある確率で開裂して様々なプロダクトイオンとなる。このプロダクトイオンは、開裂しなかったプリカーサーイオンとともに、第2質量分析部150に入射する。
【0110】
第2質量分析部150の四重極マスフィルター152には、イオンを質量電荷比ごとに選択するための選択電圧(RF電圧とDC電圧)が電源部180から供給され、所望の軸電圧が設定される。この選択電圧に応じて選択されたイオン(プロダクトイオン又はプリカーサーイオン)は、光軸162上に残り、検出器160に入射する。
【0111】
検出器160が出力するアナログ信号はA/D変換器182でサンプリングされデジタル信号に変換される。このデジタル信号はデータ処理部184によって積算又は平均化され、各トランジション(第1質量分析部130の選択イオンと第2質量分析部150の選択イオンの組み合わせ)のイオン強度が算出される。このイオン強度はそのときのトランジションの識別情報と共に記憶部186に保存される。
【0112】
本実施形態では、蓄積部120でイオンの蓄積、排出動作を行っているので、出口電極126以降ではパルス化したイオン(イオンパルス)が通過することになる。第1質量分析部130を通過する間、このイオンパルスの時間幅は蓄積部120の出口電極126の開放時間とほぼ同じである。
【0113】
特に本実施形態では、蓄積部120でイオンを蓄積することで、四重極マスフィルター132に印加する選択電圧(RF電圧とDC電圧)の変更時間及び四重極マスフィルター152に印加する選択電圧(RF電圧とDC電圧)の変更時間にイオンがそれぞれ第1質量分析部130及び第2質量分析部150に入らないようにする。言い換えると、蓄積部120で排出した個々のイオンパルスが第1質量分析部130を通過する間、第1質量分析部130では選択イオン(プリカーサーイオン)を変更することなく1つのイオンのみを選択し、衝突室140を通過した個々のイオンパルスが第2質量分析部150を通過する間、第2質量分析部150では選択イオン(プロダクトイオン又はプリカーサーイオン)を変更することなく1つのイオンのみを選択している。
【0114】
なお、本実施形態では、電源部180、A/D変換器182、データ処理部184は図示しないパーソナルコンピューター(PC)からユーザーが指定したシーケンスで動作するので、所望の時刻に所望のトランジションのイオン強度を測定することができる。
【0115】
図6は、三連型四重極質量分析装置1Cの動作シーケンスの一例を示すタイミングチャート図である。図6に示すように、蓄積部120の入口電極122には一定の電圧(電極112よりも低い電圧)が印加されており、蓄積部120の入口は常に開放されている。そのため、イオン源110で生成したほぼ100%のイオンが蓄積部120に入射して蓄積される。
【0116】
蓄積部120の出口電極126には2つの異なる電圧が周期的に印加される。出口電極126の電圧がイオンガイド122の軸電圧よりも高い時は、蓄積部120の出口が閉鎖され、イオンが蓄積される。一方、出口電極126の電圧がイオンガイド122の軸電圧よりも低い時は、蓄積部120の出口が開放され、イオンが排出される。すなわち、蓄積部120の出口電極126の電圧が周期的に切り替わることで、蓄積部120は蓄積動作と排出動作を交互に繰り返す。
【0117】
具体的には、時刻tまでは蓄積部120にイオンが蓄積され、時刻tまでに蓄積部120に蓄積されたイオンの一部または全部は時刻t〜tにおいてイオンパルスipとして蓄積部120から排出される。また、時刻tまでに蓄積部120に蓄積されたイオンの一部または全部は時刻t〜tにおいてイオンパルスipとして蓄積部120から排出される。また、時刻tまでに蓄積部120に蓄積されたイオンの一部または全部は時刻t〜tにおいてイオンパルスipとして蓄積部120から排出される。また、時刻t10までに蓄積部120に蓄積されたイオンの一部または全部は時刻t10〜t11においてイオンパルスipとして蓄積部120から排出される。また、時刻t12までに蓄積部120に蓄積されたイオンの一部または全部は時刻t12〜t13においてイオンパルスipとして蓄積部120から排出される。そして、これらのイオンパルスip〜ipは、順番に第1質量分析部130に入射する。
【0118】
第1質量分析部130では、時刻t〜tと時刻t〜tにかけて選択電圧(RF電圧とDC電圧)が切り替わり、これにより、時刻t〜tでは質量電荷比がM1のイオンが選択され、時刻tからは質量電荷比がM2のイオンが選択される。これにより、イオンパルスip、ip、ipは、第1質量分析部130を通過する間に、それぞれ質量電荷比がM1のイオンのイオンパルスip11、ip12、ip13となる。また、イオンパルスip、ipは、第1質量分析部130を通過する間に、それぞれ質量電荷比がM2のイオンのイオンパルスip14、ip15となる。このイオンパルスip11〜ip15は衝突室140に入射する。
【0119】
時刻t〜tの変更時間は、質量電荷比がM1の選択イオン(プリカーサーイオン)から質量電荷比がM2の選択イオン(プリカーサーイオン)への変更に際し、選択電圧が安定化するまでに要する時間である。
【0120】
特に本実施形態では、時刻t〜tの変更時間に第1質量分析部130へイオンを入射させないようにするため、時刻tは第1質量分析部130で質量電荷比がM1のイオンが選択される最後のイオンパルスip13が第1質量分析部130を通過し終わる時刻より後になっている。また、時刻tは第1質量分析部130で質量電荷比がM2のイオンが選択される最初のイオンパルスipが第1質量分析部130を通過し始める時刻より前になっている。
【0121】
衝突室140の入口電極144には一定の電圧(蓄積部120の出口電極126の開放時の電圧よりも低い電圧)が印加されており、衝突室140の入口は常に開放されている。そのため、第1質量分析部130を通過したほぼ100%のイオンが衝突室140に入射する。衝突室140の出口電極146にも、一定の電圧(入口電極144よりも低い電圧)が印加されており、衝突室140の出口も常に開放されている。そして、イオンパルスip11〜ip15の各々は、衝突室140を通過する間に一部のイオンが開裂してプロダクトイオンが生成され、衝突室140の出口ではプロダクトイオンを含むイオンパルスip21〜ip25となる。これらのイオンパルスip21〜ip25は、順番に第2質量分析部150に入射する。
【0122】
第2質量分析部150では、時刻t〜tと時刻t〜tにかけて選択電圧(RF電圧とDC電圧)が切り替わり、これにより、時刻t〜tでは質量電荷比がm1のイオンが選択され、時刻tからは質量電荷比がm2のイオンが選択される。時刻t〜tの変更時間は、質量電荷比がm1の選択イオンから質量電荷比がm2の選択イオンへの変更に際し、選択電圧が安定化するまでに要する時間である。
【0123】
イオンパルスip21、ip22、ip23は、第2質量分析部150を通過する間に、それぞれ質量電荷比がm1のイオンのイオンパルスip31、ip32、ip33となる。また、イオンパルスip24、ip25は、第2質量分析部150を通過する間に、それぞれ質量電荷比がm2のイオンのイオンパルスip34、ip35となる。
【0124】
特に本実施形態では、時刻t〜tの変更時間に第2質量分析部150へイオンを入射させないようにするため、時刻tは第2質量分析部150で質量電荷比がm1のイオンが選択される最後のイオンパルスip33が第2質量分析部150を通過し終わる時刻より後になっている。また、時刻tは第2質量分析部150で質量電荷比がm2のイオンが選択される最初のイオンパルスip24が第2質量分析部150を通過し始める時刻より前になっている。
【0125】
第2質量分析部150を通過したイオンパルスip31〜ip35は検出器160に入射する。また、イオンパルスip30はイオンパルスip31の直前に検出器160に入射した、質量電荷比がm0のイオンのイオンパルスである。A/D変換器182で質量電荷比m1のイオンをサンプリングする場合、サンプリング開始時刻は、質量電荷比がm0のイオンが最後に選択されるイオンパルスip30が検出器160に入射し終わる時刻と質量電荷比がm1のイオンが選択される最初のイオンパルスip31が検出器160に入射し始める時刻との間とする。また、サンプリング終了時刻は、質量電荷比がm1のイオンが選択される最後のイオンパルスip33が検出器160に入射し終わる時刻と質量電荷比がm2のイオンが選択される最初のイオンパルスip34が検出器160に入射し始める時刻との間とする。
【0126】
データ処理部184では各選択イオンのサンプリングによってデジタル化された信号をすべて積算、或いは平均化する。その積算値、平均値は各トランジションのイオン強度として、記憶部186に記憶される。
【0127】
以上に説明した第2実施形態の三連型四重極質量分析装置1Cによれば、蓄積部120でイオンを一旦蓄積してからパルス化して排出することで、第1質量分析部130の変更時間中にイオンを第1質量分析部130に入射させないようにするとともに、第2質量分析部150の変更時間中にイオンを第2質量分析部150に入射させないようにできる。このため、蓄積動作を行わない従来の四重極質量分析装置に比べてイオンの損失を抑えることができる。
【0128】
また、本実施形態において、各トランジションに対して、蓄積部120で1つのイオンパルスしか排出しないようにすれば、検出器160に入射したそれぞれのイオンパルスの面積強度がそれぞれのトランジションのイオン強度になる。そして、蓄積部120の出口電極126の開放時間と閉鎖時間を一定とすれば、各トランジションのイオン強度はイオン源110で一定時間、即ち一定の開閉周期、の間に生成された選択イオンの量に比例する。その結果、イオン源110で同じ時間間隔で生成されたイオンを観測することになるのでトランジションごとの強度比較が可能となる。
【0129】
(3)変形例
[変形例1]
上述した第2実施形態の三連型四重極質量分析装置1Cでは、A/D変換器182のサンプリング時間の設定が簡単であるが、イオンパルスが検出されない時間、例えばイオンパルスip31の検出が終わってから次のイオンパルスip32の検出が開始されるまでの時間もサンプリングを行うことになる。ここでのサンプリングは、イオンではなくノイズを取り込むことになるので信号対雑音比(S/N比)を悪化させる原因となる。
【0130】
そこで、変形例1では、イオンパルスごとに連続してサンプリングすることでこの問題を解決する。この変形例1では少なくとも個々のイオンパルスが検出器160に入射している時間はサンプリングを行い、さらに個々のイオンパルスをサンプリングする時間が互いに重なり合わないようにする。
【0131】
なお、変形例1の三連型四重極質量分析装置の構成は、A/D変換器182のサンプリングタイミングが異なる点を除いて図5に示した構成と同様であるため、その図示及び説明を省略する。
【0132】
図7は、変形例1の三連型四重極質量分析装置の動作シーケンスの一例を示すタイミングチャート図である。図7において、イオンパルスip31〜ip35が検出器160に入射するまでの動作シーケンスは、図6と同じであるため、その説明を省略する。
【0133】
A/D変換器182で、例えば、イオンパルスip32をサンプリングする場合、サンプリング開始時刻はその直前に検出器160に入射されたイオンパルスip31のサンプリングが終了した時刻とイオンパルスip32が検出器160に入射し始める時刻との間とする。また、サンプリング終了時刻はイオンパルスip32が検出器160に入射し終わる時刻とその直後に検出器160に入射するイオンパルスip33のサンプリングが開始する時刻との間、とする。このように、イオンパルスが検出器に入射している時間だけA/D変換器182でサンプリングを行うことで、余分なノイズの取り込みを防ぎ、検出感度を上げることができる。なお、A/D変換器182でサンプリングを行う時間と検出器160でイオンパルスが検出される時間とがよく一致するほど信号対雑音比(S/N比)の改善につながる。
【0134】
A/D変換器182でイオンパルスip31、ip32、ip33をサンプリングして生成したデジタル信号をデータ処理部184で積算、或いは平均化することでイオン強度が得られ、このトランジション(第1質量分析部130における選択イオンの質量電荷比M1と第2質量分析部130における選択イオンの質量電荷比m1の組み合わせ)の識別情報とともに記憶部186に記憶される。
【0135】
このように、各イオンパルスに対してサンプリングを行うには、図7に示すように、蓄積部120の排出動作の開始時刻から所定の遅延時間後に所定の動作時間だけサンプリングを行うように予め設定しておくとよい。例えば、イオンパルスip31の場合、蓄積部120がイオンパルスip31の元となるイオンパルスipを排出した排出動作の開始時刻tから遅延時間Td後に動作時間Tsにわたりサンプリングを行う。他のイオンパルスip32、ip33、ip34、ip35のサンプリングについても、蓄積部120がこれらのイオンパルスの元となるイオンパルスip、ip、ip、ipをそれぞれ排出した排出動作の開始時刻t、t、t10、t12からの遅延時間とサンプリングを行う動作時間を設定する。
【0136】
蓄積部120の出口電極126の開放時間が一定の場合、トランジションが同じイオンパルスは同じ飛行速度、同じ時間幅を持つので、同じ遅延時間と同じ動作時間でサンプリングすることができる。例えば、第1質量分析部130と第2質量分析部150でそれぞれ質量電荷比がM1とm1のイオンが選択される3つのイオンパルスip31、ip32、ip33をサンプリングする場合、これらのイオンパルスの元となるイオンパルスip、ip、ipを排出した排出動作の開放時間t−t、t−t、t−tをすべて同じ時間に設定すれば、それぞれの遅延時間をすべて同じ時間Tdに設定するとともに、動作時間もすべて同じ時間Tsに設定すればよい。
【0137】
トランジションが変われば、蓄積部120の出口電極126から排出されたイオンパルスの飛行速度と時間幅も変化する。例えば、第1質量分析部130と第2質量分析部150でそれぞれ質量電荷比がM1とm1のイオンが選択されるイオンパルスip31に対する遅延時間Tdと、第1質量分析部130と第2質量分析部150でそれぞれ質量電荷比がM2とm2のイオンが選択されるイオンパルスip34に対する遅延時間Tdは異なり、それぞれの動作時間TsとTsも異なる。つまり、遅延時間と動作時間は選択イオンによって変化させる。
【0138】
[変形例2]
第2実施形態では、大気圧イオン源110を用いているが、試料に電子を衝突させてイオン化する電子衝突イオン化源など試料を真空中でイオン化するイオン源を用いて変形してもよい。図8は、変形例2の構成を示す図である。図8において、図5と同じ構成については同じ符号を付しており、その説明を省略する。
【0139】
図8に示す変形例2の三連型四重極質量分析装置1Dは、イオン源110の代わりにイオン源114を設け、イオン源114と蓄積部120の入口電極124との間に数枚の電極からなる集束レンズ116を設け、イオン源114から蓄積部120の出口電極126までを第1差動排気室174、蓄積部120の出口電極126から衝突室140の出口電極146までを第2差動排気室175、衝突室140の出口電極146の後段の空間を第3差動排気室176とする点において、図5に示した三連型四重極質量分析装置1Cと異なる。三連型四重極質量分析装置1Dでは、イオン源114が真空中にあるので蓄積部120の蓄積効率を上げるために、ガス導入手段128からガスを導入してイオンの運動エネルギーを低下させる。その他の動作は三連型四重極質量分析装置1Cと同じであるため、その説明を省略する。
【0140】
3.第3実施形態
(1)構成
一般にプリカーサーイオンはある確率に基づいてプロダクトイオンへと開裂するので、上述した第2実施形態の三連型四重極質量分析装置1Cでは衝突室140の中でイオンパルスの幅が広がってしまう。例えば、図6の例では、衝突室140に入射するイオンパルスip11は、衝突室140から出射するときにはより幅の広いイオンパルスip21になり、その結果、検出器160に入射するイオンパルスip31の幅も広がっている。一般に、検出器160に入射するイオンパルスの幅が広いほど、イオン強度の検出感度を劣化させる原因となる。
【0141】
そこで、第3実施形態の三連型四重極質量分析装置では、蓄積部120だけでなく衝突室140でもイオンを一旦蓄積してから排出することで、検出器160に入射するイオンパルスの幅を狭くする。
【0142】
具体的には、電源部180は、衝突室140でプロダクトイオンの蓄積動作と排出動作を繰り返し行うように、電極144、イオンガイド142、電極146に所望の電圧を印加する。
【0143】
なお、第3実施形態の三連型四重極質量分析装置の構成は、図5に示した構成と同様であるため、図示と説明を省略する。
【0144】
(2)動作
次に、第3実施形態の三連型四重極質量分析装置の動作について説明する。以下では、イオン源110において生成されるイオンが正イオンであるものとして説明するが、負イオンであってもよい。負イオンについても、電圧極性を反転させれば以下と同様の説明を適用することができる。
【0145】
イオン源110、蓄積部120、第1分析部130の動作は、第2実施形態の三連型四重極質量分析装置1Cと同じであるため、その説明を省略する。
【0146】
衝突室140に入射したプリカーサーイオンは、衝突室140に一旦蓄積され、ガス導入手段148から導入したガスと衝突し、一部のプリカーサーイオンは、ある確率で開裂して様々なプロダクトイオンとなる。このプロダクトイオンは、開裂しなかったプリカーサーイオンとともに衝突室140から排出される。
【0147】
衝突室140でイオンの蓄積と排出を繰り返すには、電源部180から衝突室140の出口電極146にパルス電圧を印加する。出口電極146に印加するパルス電圧をイオンガイド142の軸電圧より高くすると出口電極146は閉鎖し、イオンは衝突室140に蓄積される。一方、出口電極146に印加するパルス電圧をイオンガイド142の軸電圧より低くすると出口電極146は開放され、衝突室140からイオンが排出される。衝突室140にはガス導入手段148より希ガス等のコリジョンガスを導入する。
【0148】
コリジョンガスにはプリカーサーイオンを開裂させてプロダクトイオンの生成を促す効果以外にも、衝突によって衝突室140内のイオンの運動エネルギーを低下させる効果もある。そのため、蓄積時に出口電極146の電位障壁に跳ね返されて入口電極144に戻ってきたイオンのエネルギーは、初めて入口電極144を通過したときより低くなる。入口電極144の電圧を調整すれば、上流からのイオンを通過させ、下流から戻ってきたイオンは通過させないようにすることも可能である。これにより、衝突室140の蓄積効率をほぼ100%に維持することができる。蓄積時はプリカーサーイオンもプロダクトイオンもコリジョンガスとの衝突を繰り返しながら入口電極144と出口電極146との間を往復運動することで、運動エネルギーがほとんどなくなる。その結果、衝突室140から排出されたイオンの全エネルギーはイオンガイド144の軸電圧による位置エネルギーとほぼ等しくなる。
【0149】
衝突室140から排出されたイオンパルスは、第2質量分析部150に入射する。第2質量分析部150の動作は、第2実施形態の三連型四重極質量分析装置1Cと同じであるため、その説明を省略する。また、検出器160、A/D変換器182、データ処理部184、記憶部186の動作も第2実施形態の三連型四重極質量分析装置1Cと同じであるため、その説明を省略する。
【0150】
特に本実施形態では、蓄積部120と衝突室140でイオンの蓄積と排出を行うことで、四重極マスフィルター132に印加する選択電圧(RF電圧とDC電圧)の変更時間及び四重極マスフィルター152に印加する選択電圧(RF電圧とDC電圧)の変更時間にイオンがそれぞれ第1質量分析部130及び第2質量分析部150に入らないようにする。言い換えると、蓄積部120で排出した個々のイオンパルスが第1質量分析部130を通過する間、第1質量分析部130では選択イオン(プリカーサーイオン)を変更することなく1つのイオンのみを選択し、衝突室140で排出した個々のイオンパルスが第2質量分析部150を通過する間、第2質量分析部150では選択イオン(プロダクトイオン又はプリカーサーイオン)を変更することなく1つのイオンのみを選択している。
【0151】
図9は、第3実施形態の三連型四重極質量分析装置の動作シーケンスの一例を示すタイミングチャート図である。図9において、イオンパルスip11〜ip15が衝突室140に入射するまでの動作シーケンスは、図6と同じであるため、その説明を省略する。
【0152】
衝突室140の入口電極144には一定の電圧(蓄積部120の出口電極126の開放時の電圧よりも低い電圧)が印加されており、衝突室140の入口は常に開放されている。そのため、第1質量分析部130を通過したほぼ100%のプリカーサーイオンが衝突室140に入射する。衝突室140の出口電極146には2つの異なる電圧が周期的に印加される。出口電極146の電圧がイオンガイド142の軸電圧よりも高い時は、衝突室140の出口が閉鎖され、イオンが蓄積される。一方、出口電極146の電圧がイオンガイド142の軸電圧よりも低い時は、衝突室140の出口が開放され、プロダクトイオンや開裂しなかったプリカーサーイオンが排出される。すなわち、衝突室140の出口電極146の電圧が周期的に切り替わることで、衝突室140は蓄積動作と排出動作を交互に繰り返す。
【0153】
具体的には、時刻tまでは衝突室140にイオンが蓄積され、時刻tまでに衝突室140に蓄積されたイオンの一部または全部は時刻t〜tにおいてイオンパルスip21として衝突室140から排出される。また、時刻tまでに衝突室140に蓄積されたイオンの一部または全部は時刻t〜tにおいてイオンパルスip22として衝突室140から排出される。また、時刻tまでに衝突室140に蓄積されたイオンの一部または全部は時刻t〜tにおいてイオンパルスip23として衝突室140から排出される。また、時刻tまでに衝突室140に蓄積されたイオンの一部または全部は時刻t〜tにおいてイオンパルスip24として衝突室140から排出される。また、時刻tまでに衝突室140に蓄積されたイオンの一部または全部は時刻t〜tにおいてイオンパルスip25として衝突室140から排出される。
【0154】
衝突室140でプリカーサーイオンの開裂効率を高くするには蓄積時間が長いほど有利である。そのため、イオンパルスが衝突室140に入射し始める時刻は、出口電極146が閉鎖状態になった直後とした方がよい。例えば、イオンパルスip12が衝突室140へ入射し始める時刻は、このイオンパルスを蓄積するために出口電極146が閉鎖状態になった時刻tの直後とした方がよい。但し、このように設定するのが困難な場合は衝突室140にイオンパルスが入射している間は出口電極146を閉鎖しイオンを蓄積できるようにする。
【0155】
また、第1分析部130でプリカーサーイオンが変更される場合、変更後のプリカーサーイオンが衝突室140に入射する前に衝突室140内のイオンをすべて排出する。これにより、衝突室140内のプロダクトイオンは常に1つのプリカーサーイオンに由来することになるので、トランジション間の干渉(クロストーク)を抑えることができる。例えば、時刻t〜tにかけてプリカーサーイオンの質量電荷比がM1からM2に変わるので、質量電荷比がM1のプリカーサーイオンとそのプロダクトイオンを含む最後のイオンパルスip23を衝突室140から排出するための出口電極146の開放時間t−tは、衝突室140内の全イオンを排出できるだけの時間が必要である。これが困難な場合は、イオンパルスip23が第2分析部150で選択される質量電荷比m1のイオンを開放時間t−tですべて衝突室140から排出する。
【0156】
しかし、衝突室140で排出するイオンパルスがトランジションの変更前の最後のイオンパルスでない場合や、最後のイオンパルスであって変更後のトランジションで第1質量分析部130で選択されるプリカーサーイオンが変わらない場合は、衝突室140内の全イオンを排出する必要はない。例えば、イオンパルスip21、ip22、ip24、ip25はトランジションの変更前の最後のイオンパルスではないので、時刻t〜t、t〜t、tag〜t、t〜tにおける排出動作では衝突室140内の全イオンを排出する必要はない。
【0157】
衝突室140から排出されたイオンパルスip21〜ip25は、順番に第2質量分析部150に入射する。
【0158】
第2質量分析部150では、時刻t〜tと時刻t〜tにかけて選択電圧(RF電圧とDC電圧)が切り替わり、これにより、時刻t〜tでは質量電荷比がm1のイオンが選択され、時刻tからは質量電荷比がm2のイオンが選択される。
【0159】
イオンパルスip21、ip22、ip23は、第2質量分析部150を通過する間に、それぞれ質量電荷比がm1のイオンのイオンパルスip31、ip32、ip33となる。また、イオンパルスip24、ip25は、第2質量分析部150を通過する間に、それぞれ質量電荷比がm2のイオンのイオンパルスip34、ip35となる。
【0160】
特に本実施形態では、時刻t〜tの変更時間に第2質量分析部150へイオンを入射させないようにするため、時刻tは第2質量分析部150で質量電荷比がm1のイオンが選択される最後のイオンパルスip33が第2質量分析部150を通過し終わる時刻より後になっている。また、時刻tは第2質量分析部150で質量電荷比がm2のイオンが選択される最初のイオンパルスip24が第2質量分析部150を通過し始める時刻より前になっている。
【0161】
第2質量分析部150を通過したイオンパルスip31〜ip35は検出器160に入射する。また、イオンパルスip30はイオンパルスip31の直前に検出器160に入射した、質量電荷比がm0のイオンのイオンパルスである。A/D変換器182で質量電荷比m1のイオンをサンプリングする場合、サンプリング開始時刻は、質量電荷比がm0のイオンが最後に選択されるイオンパルスip30が検出器160に入射し終わる時刻と質量電荷比がm1のイオンが選択される最初のイオンパルスip31が検出器160に入射し始める時刻との間とする。また、サンプリング終了時刻は、質量電荷比がm1のイオンが選択される最後のイオンパルスip33が検出器160に入射し終わる時刻と質量電荷比がm2のイオンが選択される最初のイオンパルスip34が検出器160に入射し始める時刻との間とする。
【0162】
データ処理部184では各選択イオンのサンプリングによってデジタル化された信号をすべて積算、或いは平均化する。その積算値、平均値は各トランジションのイオン強度として、記憶部186に記憶される。
【0163】
以上に説明した第3実施形態の三連型四重極質量分析装置は、第2実施形態の三連型四重極質量分析装置1Cと同様の効果を奏する。
【0164】
さらに、本実施形態によれば、蓄積部120でイオンを蓄積し、イオンパルスとして排出することで、第2質量分析部150にイオンが入射しない時間を容易に制御することができる。そのため、第2質量分析部150にイオンが入射しない時間に第2質量分析部150で選択するイオンを変更することが容易になる。
【0165】
また、衝突室140でイオンを蓄積し、イオンパルスを排出することで、検出部160に入射するイオンパルスの幅を第2実施形態よりも狭くすることができるので、第2実施形態と比較して、検出感度の劣化をより低減することができる。
【0166】
(3)変形例
[変形例1]
第2実施形態の三連型四重極質量分析装置1Cの変形例1と同様に、第3実施形態の三連型四重極質量分析装置についても、A/D変換器182のサンプリングをイオンパルスごとに連続して行うように変形してもよい。
【0167】
図10は、変形例1の三連型四重極質量分析装置の動作シーケンスの一例を示すタイミングチャート図である。図10において、イオンパルスip31〜ip35が検出器160に入射するまでの動作シーケンスは、図9と同じであるため、その説明を省略する。
【0168】
A/D変換器182で、例えば、イオンパルスip32をサンプリングする場合、サンプリング開始時刻はその直前に検出器160に入射されたイオンパルスip31のサンプリングが終了した時刻とイオンパルスip32が検出器160に入射し始める時刻との間とする。また、サンプリング終了時刻はイオンパルスip32が検出器160に入射し終わる時刻とその直後に検出器160に入射するイオンパルスip33のサンプリングが開始する時刻との間、とする。このように、イオンパルスが検出器に入射している時間だけA/D変換器182でサンプリングを行うことで、余分なノイズの取り込みを防ぎ、検出感度を上げることができる。なお、A/D変換器182でサンプリングを行う時間と検出器160でイオンパルスが検出される時間とがよく一致するほど信号対雑音比(S/N比)の改善につながる。
【0169】
A/D変換器182でイオンパルスip31、ip32、ip33をサンプリングして生成したデジタル信号をデータ処理部184で積算、或いは平均化することでイオン強度が得られ、このトランジション(第1質量分析部130における選択イオンの質量電荷比M1と第2質量分析部130における選択イオンの質量電荷比m1の組み合わせ)の識別情報とともに記憶部186に記憶される。
【0170】
このように、各イオンパルスに対してサンプリングを行うには、図10に示すように、衝突室140の排出動作の開始時刻から所定の遅延時間後に所定の動作時間だけサンプリングを行うように予め設定しておくとよい。例えば、イオンパルスip31の場合、衝突室140がイオンパルスip31の元となるイオンパルスip21を排出した排出動作の開始時刻tから遅延時間Td後に動作時間Tsにわたりサンプリングを行う。他のイオンパルスip32、ip33、ip34、ip35のサンプリングについても、衝突室140がこれらのイオンパルスの元となるイオンパルスip22、ip23、ip24、ip25をそれぞれ排出した排出動作の開始時刻t、t、t、tからの遅延時間とサンプリングを行う動作時間を設定する。
【0171】
衝突室140の出口電極146の開放時間が一定の場合、第2質量分析部150での選択イオンが同じイオンパルスは同じ飛行速度、同じ時間幅を持つので、同じ遅延時間と同じ動作時間でサンプリングすることができる。例えば、第2質量分析部150で質量電荷比がm1のイオンが選択される2つのイオンパルスip31、ip32をサンプリングする場合、イオンパルスip21、ip22を排出した排出動作の開放時間t−t、t−tを同じ時間に設定すれば、それぞれの遅延時間を同じ時間Tdに設定するとともに、動作時間も同じ時間Tsに設定すればよい。一方、イオンパルスip23を排出した排出動作の開放時間t−tはイオンパルスip21、ip22を排出した排出動作の開放時間t−tやt−tよりも長いので、イオンパルスip33をサンプリングする動作時間Ts’はTsよりも長い時間に設定する。イオンパルスip33のサンプリングの遅延時間はイオンパルスip31、ip32のサンプリングの遅延時間Tdと同じ時間に設定すればよい。
【0172】
第2質量分析部150での選択イオンが変われば、衝突室140の出口電極146から排出されたイオンパルスの飛行速度と時間幅も変化する。例えば、第2質量分析部150で質量電荷比がm1のイオンが選択されるイオンパルスip31に対する遅延時間Tdと、第2質量分析部150で質量電荷比がm2のイオンが選択されるイオンパルスip34に対する遅延時間Tdは異なり、それぞれの動作時間TsとTsも異なる。つまり、遅延時間と動作時間は第2質量分析部150の選択イオンによって変化させる。
【0173】
[変形例2]
第2実施形態の三連型四重極質量分析装置1Cの変形例2と同様に、第3実施形態の三連型四重極質量分析装置についても、大気圧イオン源110の代わりに、試料を真空中でイオン化するイオン源114を用いて変形してもよい。その構成は、図8と同様であるため、図示及び説明を省略する。
【0174】
なお、本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0175】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0176】
1A,1B 四重極質量分析装置、1C,1D 三連型四重極質量分析装置、10 イオン源、12 電極、14 イオン源、16 集束レンズ、20 蓄積部、22 イオンガイド、24 入口電極、26 出口電極、28 ガス導入手段、30 質量分析部、32 四重極マスフィルター、36 電極、60 検出器、62 光軸、70 第1差動排気室、71 第2差動排気室、72 第3差動排気室、73 第1差動排気室、74 第2差動排気室、80 電源部、82 A/D変換器、84 データ処理部、86 記憶部、90 制御部、110 イオン源、112 電極、114 イオン源、116 集束レンズ、120 蓄積部、122 イオンガイド、124 入口電極、126 出口電極、128 ガス導入手段、130 第1質量分析部、132 四重極マスフィルター、140 衝突室(コリジョンセル)、142 、144 入口電極、146 出口電極、150 第2質量分析部、152 四重極マスフィルター、156 電極、160 検出器、162 光軸、170 第1差動排気室、171 第2差動排気室、172 第3差動排気室、173 第3差動排気室、174 第1差動排気室、175 第2差動排気室、176 第3差動排気室、180 電源部、182 A/D変換器、184 データ処理部、186 記憶部、190 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料をイオン化するイオン源と
前記イオン源で生成されたイオンを蓄積する蓄積動作と、蓄積したイオンをイオンパルスとして排出する排出動作と、を繰り返し行う蓄積部と、
前記蓄積部が排出するイオンパルスを通過させ、質量電荷比に基づいて所望のイオンを選択する質量分析部と、
前記質量分析部を通過したイオンパルスを検出し、検出強度に応じたアナログ信号を出力する検出部と、
前記所望のイオンを含むイオンパルスが前記質量分析部を通過する間は、前記質量分析部が選択する前記所望のイオンの質量電荷比を一定に制御する制御部と、を含む、質量分析装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記蓄積部は、
前記蓄積動作と、前記排出動作と、をそれぞれ一定の周期で繰り返し行う、質量分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記検出部が出力する前記アナログ信号をサンプリングしてデジタル信号に変換するA/D変換部と、
前記A/D変換部が変換したデジタル信号を積算又は平均化するデータ処理部と、
前記データ処理部が積算又は平均化したデータを記憶する記憶部と、をさらに含み、
前記データ処理部は、
前記所望のイオンの質量電荷比毎に、前記積算又は平均化の処理を行い、
前記記憶部は、
前記所望のイオンの質量電荷比の情報と対応づけて、前記積算又は平均化したデータを記憶する、質量分析装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記A/D変換部は、
前記質量分析部を通過したイオンパルスの各々について、前記検出器に入射し始める前に前記アナログ信号のサンプリングを開始し、前記検出器に入射し終わった後に前記アナログ信号のサンプリングを終了する、質量分析装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記A/D変換部は、
前記蓄積部が前記質量分析部で同じイオンが選択される複数のイオンパルスの各々を排出する排出動作を開始してから一定の遅延時間の後に前記アナログ信号のサンプリングを開始する、質量分析装置。
【請求項6】
請求項4において、
前記A/D変換部は、
前記蓄積部が前記質量分析部で同じイオンが選択される複数のイオンパルスの各々を一定時間で排出する排出動作を開始してから一定の遅延時間の後に一定時間、前記アナログ信号のサンプリングを行う、質量分析装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記質量分析部は、
前記所望のイオンを選択するための四重極マスフィルターを含む、質量分析装置。
【請求項8】
試料をイオン化するイオン源と
前記イオン源で生成されたイオンを蓄積する蓄積動作と、蓄積したイオンをイオンパルスとして排出する排出動作と、を繰り返し行う蓄積部と、
前記蓄積部が排出するイオンパルスを通過させ、質量電荷比に基づいて第1のイオンを選択する第1の質量分析部と、
前記第1の質量分析部を通過したイオンパルスの全部又は一部を開裂させてプロダクトイオンを生成し、当該プロダクトイオンを含むイオンパルスを出射する衝突室と、
前記衝突室が出射するイオンパルスを通過させ、質量電荷比に基づいて第2のイオンを選択する第2の質量分析部と、
前記第2の質量分析部を通過したイオンパルスを検出し、検出強度に応じたアナログ信号を出力する検出部と、
前記第1のイオンを含むイオンパルスが前記第1の質量分析部を通過する間は、前記第1の質量分析部が選択する前記第1のイオンの質量電荷比を一定に制御するとともに、前記第2のイオンを含むイオンパルスが前記第2の質量分析部を通過する間は、前記第2の質量分析部が選択する前記第2のイオンの質量電荷比を一定に制御する制御部と、を含む、質量分析装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記蓄積部は、
前記蓄積動作と、前記排出動作と、をそれぞれ一定の周期で繰り返し行う、質量分析装置。
【請求項10】
請求項8において、
前記衝突室は、
前記第1のイオンと前記プロダクトイオンを蓄積する蓄積動作と、蓄積した前記プロダクトイオンを含むイオンパルスを排出する排出動作と、を繰り返し行う、質量分析装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記蓄積部は、
前記蓄積動作と、前記排出動作と、をそれぞれ一定の周期で繰り返し行う、質量分析装置。
【請求項12】
請求項10又は11において、
前記衝突室は、
前記第1の質量分析部を通過したイオンパルスが入射する間は前記蓄積動作を行う、質量分析装置。
【請求項13】
請求項10乃至12のいずれかにおいて、
前記衝突室は、
前記第1の質量分析部が選択する前記第1のイオンの質量電荷比が変更される場合、変更前の最後のイオンパルスを排出する排出動作により前記衝突室にある前記第2のイオンをすべて排出する、質量分析装置。
【請求項14】
請求項8乃至13のいずれかにおいて、
前記検出部が出力する前記アナログ信号をサンプリングしてデジタル信号に変換するA/D変換部と、
前記A/D変換部が変換したデジタル信号を積算又は平均化するデータ処理部と、
前記データ処理部が積算又は平均化したデータを記憶する記憶部と、をさらに含み、
前記データ処理部は、
前記第1のイオンの質量電荷比と前記第2のイオンの質量電荷比の組み合わせ毎に、前記積算又は平均化の処理を行い、
前記記憶部は、
前記第1のイオンの質量電荷比と前記第2のイオンの質量電荷比の組み合わせの情報と対応づけて、前記積算又は平均化したデータを記憶する、質量分析装置。
【請求項15】
請求項14において、
前記A/D変換部は、
前記第2の質量分析部を通過したイオンパルスの各々について、前記検出器に入射し始める前に前記アナログ信号のサンプリングを開始し、前記検出器に入射し終わった後に前記アナログ信号のサンプリングを終了する、質量分析装置。
【請求項16】
請求項15において、
前記衝突室でイオンパルスを排出する場合、
前記A/D変換部は、
前記衝突室が前記第2質量分析部での選択イオンが同じ複数のイオンパルスの各々を排出する排出動作を開始してから一定の遅延時間の後に前記アナログ信号のサンプリングを開始する、質量分析装置。
【請求項17】
請求項15において、
前記衝突室でイオンパルスを排出する場合、
前記A/D変換部は、
前記衝突室が前記第2質量分析部での選択イオンが同じ複数のイオンパルスの各々を一定時間で排出する排出動作を開始してから一定の遅延時間の後に一定時間、前記アナログ信号のサンプリングを行う、質量分析装置。
【請求項18】
請求項15において、
前記蓄積部のみでイオンパルスを排出する場合、
前記A/D変換部は、
前記蓄積部がトランジションが同じ複数のイオンパルスの各々を排出する排出動作を開始してから一定の遅延時間の後に前記アナログ信号のサンプリングを開始する、質量分析装置。
【請求項19】
請求項15において、
前記蓄積部のみでイオンパルスを排出する場合、
前記A/D変換部は、
前記蓄積部がトランジションが同じ複数のイオンパルスの各々を一定時間で排出する排出動作を開始してから一定の遅延時間の後に一定時間、前記アナログ信号のサンプリングを行う、質量分析装置。
【請求項20】
請求項8乃至19のいずれかにおいて、
前記第1の質量分析部は、
前記第1のイオンを選択するための四重極マスフィルターを含み、
前記第2の質量分析部は、
前記第2のイオンを選択するための四重極マスフィルターを含む、質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−249069(P2011−249069A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119169(P2010−119169)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】