質量分析装置
【課題】本発明は、個体差を含む試料に対する高い精度の計量や前処理を必要とせず、また、質量分析に関する専門的な知識・経験を有しない者が分析を行った場合においても、安定した同定を可能とし、オンサイト分析の実現を目的とする。
【解決手段】本発明の質量分析装置は、試料をイオン化するイオン化部5と、質量対電荷比(m/z)に応じてイオンを分離する質量分析部6と、質量分析部6で分離されたイオンを検出するイオン検出部7と、目的イオンの質量数とそのイオンのイオン強度の閾値を予め格納する測定・検出条件格納記憶部8を有し、質量分析(MS1)を行った際に、前記質量数のピークのイオン強度が、前記イオン強度を超える場合に、そのイオンを親イオンとして解離し、質量分析(MS2)を行う。
【解決手段】本発明の質量分析装置は、試料をイオン化するイオン化部5と、質量対電荷比(m/z)に応じてイオンを分離する質量分析部6と、質量分析部6で分離されたイオンを検出するイオン検出部7と、目的イオンの質量数とそのイオンのイオン強度の閾値を予め格納する測定・検出条件格納記憶部8を有し、質量分析(MS1)を行った際に、前記質量数のピークのイオン強度が、前記イオン強度を超える場合に、そのイオンを親イオンとして解離し、質量分析(MS2)を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置に係わり、質量分析により得られたスペクトルを用いて同定を行う技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な質量分析方法では、対象となる試料をイオン化して、それらのイオンを質量分析装置へ送る。質量分析装置では、送られてきたイオンに対して質量(m)と価数(z)の比からなる質量対電荷比(m/z)ごとにイオン強度を測定する。この結果として、横軸がm/z、縦軸がイオン強度からなるマススペクトルを得ることができる。
【0003】
試料中に含まれる各成分は、質量分析装置で測定された結果、マススペクトル上においてイオン強度のピークとして出現する。試料中に複数の成分が含まれる場合、マススペクトル上には複数のピークが出現する。
【0004】
質量分析方法には、試料をイオン化し、そのまま測定するMS分析法と、試料をイオン化し測定した後、ある特定のイオンを選択して解離させ生成したイオンを測定するタンデム質量分析法がある。タンデム質量分析法において解離の対象となるイオンを親イオンと呼ぶ。
【0005】
タンデム質量分析法では、解離させた成分イオンから更に親イオンを選択して解離させ生成した成分イオンを質量分析するといったように、多段に解離と質量分析を行う機能がある。
【0006】
最初にイオン源でイオン化された試料をそのまま測定する通常の質量分析方法をMS1とする。MS1で得られたマススペクトル内の特定質量の成分イオンにエネルギーを与えて解離させ、生成した複数の成分イオンを質量分離して第二のマススペクトルを得る方法をMS2と呼ぶ。
【0007】
以降、n段目の質量分析をMSnと呼ぶ。タンデム質量分析法は、試料の質量数情報のほかに試料の構造情報を取得することを目的として実施される。タンデム質量分析を行った結果をデータベースと照合することにより試料中に含まれる成分の同定を行うことが可能となる。
【0008】
分析の対象とする試料が既知である場合、タンデム質量分析を行うイオンの質量数を直接指定することが可能である。しかしながら、対象が未知試料である場合は、一度質量分析を行い、タンデム質量分析を行うイオンを選定することが必須であり、質量分析とタンデム質量分析を1回のセッションとして繰り返す手法がとられる。マススペクトルデータの収集、未知の物質と既知の物質のマススペクトルを比較する手段、マススペクトルを補正する手段は、特開2005−121653号公報(特許文献1)などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−121653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
未知試料に対して、そこに含まれる成分の同定を目的とした場合、1回の測定、すなわち試料が流出し始めてから終わるまでの間に、多くの成分についての構造情報を取得することが同定の精度を向上するうえで望ましい。そのため、同定をする上で意味のある成分イオンを選択的にタンデム質量分析を実施する手法や、多くの成分イオンを高効率でタンデム質量分析を実施する手法が考案されている。
【0011】
さらに、同定の精度向上のために、試料を高い精度で計量する手法や、高効率でイオンを発生させるための前処理の手法も多く考案されており、多くの場合、試料はこれらの計量、前処理を施された上で質量分析装置に導入される。
【0012】
タンデム質量分析を実施して得られたマススペクトルは、試料の濃度や夾雑物の混入、質量分析装置の周辺環境或いは装置自身の機差及び状態により、必ずしも一定ではなく、質量分析に関する専門的な知識・経験を踏まえた視覚的判断が必要となることは広く知られている。
【0013】
一方、近年、環境汚染,食品汚染,薬物乱用,化学物質或いは爆発物によるテロなどにより、社会の安心・安全が大きく脅かされており、これに対抗する手段として、質量分析装置による迅速な、オンサイト分析の必要性がにわかに高まっている。
【0014】
しかし、現場で採取される試料には、生体試料(代謝物)なども含まれ、そもそも試料そのものが個体差を含んでいる場合も多くあるため、分析を行うには高い精度での計量や試料の前処理が必要とされる。さらに同定に際しては、質量分析の専門的な知識・経験を有する者の視覚的判断が必要となるため、必ずしもそのような環境を整えることができない、オンサイト分析では、安定した同定が事実上困難であるといった課題がある。
【0015】
本発明は、個体差を含む試料に対する高い精度の計量や前処理を必要とせず、また、質量分析に関する専門的な知識・経験を有しない者が分析を行った場合においても、安定した同定を可能とし、オンサイト分析の実現を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の質量分析装置は、試料をイオン化するイオン化部と、質量対電荷比(m/z)に応じてイオンを分離する質量分析部と、質量分析部で分離されたイオンを検出する検出部と、目的イオンの質量数とそのイオンのイオン強度の閾値を予め格納する記憶部を有し、質量分析(MS1)を行った際に、前記質量数のピークのイオン強度が、前記イオン強度を超える場合に、そのイオンを親イオンとして解離し、質量分析(MS2)を行う。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、また試料の濃度や夾雑物の混入や、質量分析装置の周辺環境或いは装置自身の機差及び状態、或いは試料の濃度や量及び個体差によるマススペクトルの変動による影響を排除した同定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】質量分析システムの全体概念図。
【図2】質量分析フロー図。
【図3】タンデム質量分析による未知試料中の成分を同定する処理フロー図。
【図4】質量分析を実施する際の測定条件の例を示した図。
【図5】質量分析装置で生成されるスペクトルデータの概念図。
【図6】質量分析装置で生成されるスペクトルデータの内部構成の概念図。
【図7】質量分析により得られたスペクトルデータをグラフ表示した際の例を示した図。
【図8】質量分析により得られたスペクトルデータをグラフ表示した際の例を示した図(検出対象物の濃度が低い場合)。
【図9】質量分析により得られたスペクトルデータをグラフ表示した際の例を示した図(装置の検出感度が低下している場合)。
【図10】質量補正情報の例を示した図。
【図11】内標を利用した質量補正方法の概念図。
【図12】同定条件の例を示した図。
【図13】同定処理概略フロー図。
【図14】同定処理詳細フロー図。
【図15】図6のスペクトルデータにおける質量数208のイオンを親イオンとしてタンデム測定をした場合スペクトルデータをグラフ表示した際の例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に、本発明における第1の実施形態を適用する質量分析システムを示す。図1のシステムは、未知の試料に対して質量分析を行うことで試料中に含まれる成分を同定することを目的としたシステムであり、入力部1,表示部2,制御部3,試料導入部4,イオン化部5,質量分析部6,イオン検出部7,測定・検出条件記憶部8、およびデータベース9を備える。
【0020】
導入試料は、イオン化部5においてイオン化が行われる。イオン化の方法には、エレクトロスプレーイオン化(ESI),大気圧化学イオン化(APCI),電子イオン化(EI)や化学イオン化(CI)などが考えられ、分析の対象とする試料や分析の目的に応じたイオン化法が選択される。
【0021】
イオン化が行われた試料中の成分は、質量分析部6にてイオンの質量対電荷比(m/z)に応じて分離される。ここで、mはイオン質量、zはイオンの帯電価数である。質量分析部には、様々な質量分析装置が適用可能であるが、四重極型質量分析装置,イオントラップ型質量分析装置などのタンデム質量分析が可能な質量分析装置が望ましい。質量分析方法には、試料をイオン化してそのまま分析する方法(MS)の他に、特定の試料イオン(親イオン)を質量選択して、それを解離して生成した解離イオンを質量分析するタンデム質量分析法(MS2)がある。
【0022】
タンデム質量分析法では、解離したイオンの中から更に親イオンを選択して解離,質量分析を行うといったように、解離,質量分析を多段(MSn)に行う場合もある。タンデム質量分析を行うことで親イオンの分子構造情報を取得され、この情報を利用して未知試料の同定が行われる。
【0023】
この際の分析(MS及びMS2)は、予め装置に設定されている測定条件(測定を行うための各種パラメータ)によって実施される。測定条件は、ある特定の物質のみを同定することを目的とし、その対象物に最適化された値が設定されている。
【0024】
親イオンの解離方法としては衝突解離(Collision Induced Dissociation)法や電子捕獲解離(Electron Capture Dissociation)法などがある。衝突解離法はヘリウムなどのバッファーガスをイオンに衝突させて解離する方法であり、電子捕解離法は、低エネルギーの電子を照射し、親イオンに多量に低エネルギー電子を捕獲させることにより解離する方法である。
【0025】
質量分析部6において分離されたイオンはイオン検出部7にて検出され、制御部3にて検出したデータの処理と解析が実施される。試料導入,イオン化,質量分析、及びイオンとして検出し、同定をするという一連の分析過程は、制御部3にて制御される。また、ユーザが装置を制御するためのインターフェースとして入力部1を備える。
【0026】
制御部3では、取得したマススペクトルに対して、予め設定されている検出条件(同定を行うためのパラメータ)に従い、ノイズ除去,ピーク判定、及び同位体ピーク除去等の後処理を実施する。このようにして得られたマススペクトルを、データベース9の情報と照合することにより、試料中に含まれる成分の同定が行われる。
【0027】
試料の同定に使用するデータベース9は、既知試料のマススペクトルが蓄えられたデータベースである。インターネット上で公開されているデータベースなどが一般的であるが、本装置においては、同定・検知対象とする物質および内標として添加した物質のマススペクトルデータのみを保持している。
【0028】
図2に、タンデム質量分析による未知試料中の成分を同定する場合の一般的な処理フローを示す。図2の処理フローは、試料導入(S10),イオン化(S11),質量分析(MS)(S12),親イオン(プリカーサイオン)の解離(S13),質量分析(MS2)(S14)により構成される。まず、同定の対象となる未知試料に対して試料導入(S10)を行う。試料導入部から送られてくる成分は、順次イオン化(S11)される。その後、イオン化(S11)されて送られてくる試料成分に対して、質量分析(MS)(S12),プリカーサイオンの解離(S13),質量分析(MS2)(S14)という一連の処理を繰り返し実施する。
【0029】
まず、質量分析(MS)(S12)を行うことにより、試料中に含まれる成分を分析し、親イオンの選択を行う。親イオンの選択は、イオン強度が大きいものを選択する方法が一般的に用いられる。その他、一度、解離を行ったイオンを選択除外するなどの方法が用いられる場合もある。次に親イオンとして選択されたイオンを解離し、解離により生成したイオンを、質量分析(MS2)(S14)する。質量分析(MS2)(S14)により得られたマススペクトル(MS2スペクトル)は親イオンの分子構造情報を有しており、試料中に含まれる各成分の同定に使用されるものである。質量分析(MS)(S12),プリカーサイオンの解離(S13),質量分析(MS2)(S14)の処理を繰り返し実施することで、未知試料中の様々な成分に対してMS2スペクトルを取得し試料情報として蓄積する。一般に、質量分析(MS)(S12)に要する時間及びプリカーサイオンの解離(S13)を行い質量分析(MS2)(S14)を実施するのに要する時間は、それぞれ0.5〜2.0秒程度である。
【0030】
一方分析を行う場合において、試料導入部から試料が流出し終えるまでの時間は、試料の量や装置条件等に依存するが、一般的に要する時間は数分程度となり、試料が流出し終える間に質量分析(MS)(S12)から質量分析(MS2)(S14)の一連の処理は数千回繰り返されることとなる場合が多い。このようにして取得したMS2スペクトルをデータベース9と照合することで未知試料中に含まれる成分の同定が行われることとなる。
【0031】
図3に、本装置における処理フローを示す。試料導入を行い(S20),イオン化し(S21)、質量分析(MS)(S22)して、次に、目的のイオンがあるかを判定する(S23)。S23でYESの場合、親(プリカーサ)イオンの解離を行い(S24)、質量分析(MS2)(S25)し、設定時間が経過したかどうかを判定する(S26)。S26でYESの場合、同定処理を行う(S27)。まず、同定の対象となる未知試料に対して試料導入を行う(S20)。試料導入部から送られてくる成分は、順次イオン化される(S21)。その後、イオン化されて送られてくる試料成分に対して、質量分析(MS)を行い(S22)、目的イオンの有無判定を行う(S23)。目的イオンが存在する場合のみプリカーサイオンの解離を行い(S24)、質量分析(MS2)を実施する(S25)。その後、設定時間が経過したかどうかの判定を行い(S26)、NOの場合、S22へ戻る。
【0032】
本装置における同定処理は、設定時間が経過し全ての処理が完了した後に、これら一連の処理により収集したMSスペクトルとMS2スペクトルデータをもとに実施する。
【0033】
〔測定条件〕
図4に測定条件の例を示す。測定条件は、親条件番号31,目的イオン質量数32,イオン強度閾値33,測定開始質量数34,測定終了質量数35などから成る。
【0034】
親条件番号31,目的イオン質量数32,イオン強度閾値33は、自動でタンデム質量分析を行う際に指定する。
【0035】
図4において、測定条件番号1は、親条件番号31,目的イオン質量数32,イオン強度閾値33が指定されていないため、無条件に測定開始質量数34から測定終了質量数35に指定された質量数の範囲の測定が実施される。
【0036】
また、図4における測定条件番号2は、測定条件番号1の質量分析の結果得られたスペクトルにおいて、目的イオン質量数32に指定された208のイオン強度が、イオン強度閾値33に指定された100を超えた場合に実施される測定であることを示している。
【0037】
図1の制御部3は、この測定条件に従い、図2に示す質量分析(MS)12,親イオンの解離13,質量分析(MS2)14の一連の処理を制御する。
【0038】
〔スペクトルデータ〕
図5に、図4の測定条件に従い、図1制御部3の一連の処理によりえられるスペクトルデータの例を示す。図2に示す質量分析(MS)12から質量分析(MS2)14の一連の処理は、試料が流れ出る間数千回繰り返される。この際、1回の質量分析(MS)12から質量分析(MS2)14の一連処理をサイクルと呼ぶ。
【0039】
図5の例では、1サイクル41,2サイクル42では、図4の測定条件における測定条件番号1のデータのみが存在する。測定の途中である、iサイクル43,i+1サイクル44では、図4の測定条件における測定条件番号1及び、測定条件番号2のデータが存在し、測定の最後のnサイクル45では、図4の測定条件における測定条件番号1のデータのみが存在する。
【0040】
図4の測定条件番号1のように無条件に実施するように設定された測定対応するスペクトルデータは、図5に示すように繰り返し現れる。しかし、測定条件番号2のように自動タンデム測定(MS2)を設定された測定に関しては、その条件を満たさない限り測定が実行されないため、各サイクルにおいて必ずしもそれに対応するスペクトルデータが存在するわけではない。
【0041】
〔スペクトルデータの構成〕
図6に、スペクトルデータ構成の例を示す。スペクトルデータは、データ番号51,データ種別52,目的イオン質量数53,測定条件番号54,イオン強度データ55などから構成される。同定処理においては、これらの情報を元に判定対象となるスペクトルデータを探し出す。
【0042】
〔質量補正情報〕
図7に質量数180の物質を既知の濃度で内標として添加した試料のスペクトルデータの例を示す(添加する内標の濃度は厳密に規定するものではなく、ある一定半内に在ればよいものとする。)。
【0043】
理想的な状態では、添加した内標のスペクトルのピークは、質量数180に現れるはずである。しかし実際には、周辺環境や装置の状態によりスペクトルのピークは、180の近傍に表れる。
【0044】
内標のスペクトルデータのピークが補整基準質量数から大きくずれて現れた場合、何らかの要因により質量対電荷比(m/z)が大きく変動していることになるため、このスペクトルデータの信頼性は著しく低いと考えられる。
【0045】
また、スペクトルデータのピークが補整基準質量数からある一定範囲内に現れる場合であっても、そのピークのイオン強度が低い場合は、一定の濃度で添加した内標のイオンを十分に検出できないことになるため、分析装置の感度が悪化していることが考えられる。
【0046】
図8と図9に質量数180の物質を既知の濃度で内標として添加した試料の質量分析(MS)スペクトルデータの二つの例を示す。
【0047】
図8は図7と比較した場合、内標のピークのイオン強度はほぼ等しいが、他の質量数のピークにおけるイオン強度は2分の1程度になっている。これは、その試料に含まれる内標以外の物質の濃度が単に低いだけであり、このデータは、同定に使用することが可能なデータであると判断できる。
【0048】
これに対して図9は、内標および内標以外のピークが図7のほぼ2分の1になっている。これは、試料に内標以外の物質も十分含まれているが、装置の感度が低下しているためピークのイオン強度が低くなっていると考えられる。このためこのデータは同定には不適切であると判断できる。
【0049】
前述の判定は、今まで測定者の質量分析に関する知識・経験を踏まえた視覚的判断により行われていた。
【0050】
図10に質量補正情報の例を示す。前述の判定をするために、質量補整情報は、補整基準質量数91,質量数尤度92,イオン強度閾値93を持つ。ここでは、補整基準質量数91を180、質量数尤度92を±1(m/z)、イオン強度閾値93を100としている。
【0051】
質量補整情報を用いて、内標のスペクトルデータのピークが、補整基準質量数から質量数尤度の範囲内にない場合、あるいは、その範囲内にあった場合でも、イオン強度が閾値未満である場合は、そのマススペクトルデータを同定に用いないことにする。これにより、信頼性の低いマススペクトルデータを排除した同定が可能となる。
【0052】
また、マススペクトルデータ内にこのようなデータが、ある一定割合以上存在する場合には、装置が分析に適した状態でないことを、装置を操作している者に警告することにより、誤った同定を防止することが可能となる。
【0053】
〔質量数補正〕
図11に質量数補正の概要を示す。スペクトルデータにおいて内標のピークが現れた質量数と質量補正情報として指定された180の差分を、スペクトルデータに現れた他のピークの質量数に加味する。これにより、未知の物質の質量数を補正する。この際補正対象となるスペクトルデータは、データ種別(MS/MS2)に関わりなく、同一サイクルのデータとする。これにより同一サイクル内のスペクトルデータは、周辺環境,装置の状態などの影響による質量数の変動を排除したものとなる。
【0054】
〔同定条件〕
図12に、同定条件の例を示す。同定条件は、判定条件111,データの種別112,目的イオン質量数113,親測定条件番号114,質量数115,質量数尤度116,イオン強度閾値117,イオン強度118,イオン強度尤度119からなる。
【0055】
データの種別112は、同定処理においてその条件が対象とするスペクトルデータの特定をするためのものである。本発明では、後述する理由により、データ種別112としてタンデム測定(MS2)を指定した同定条件は、必ず設定しなければならない。
【0056】
目的イオン質量数113と親測定条件番号114は、同定条件が対象とするマススペクトルデータがタンデム測定(MS2)の場合に指定する。
【0057】
図12の判定条件111が1では、177±1の範囲に存在するイオン強度閾値117が100以上の最も大きなイオン強度データを、質量数177のイオン強度として扱い、さらにそのイオン強度を100%とすることを指定している。これに対して質量数208相当のイオンでは、その強度が20±5%であることを意味している。同様に質量数135相当のイオン強度は20±5%、質量数72相当のイオン強度は15±5%であることを意味している。
【0058】
〔同定処理〕
図13に同定処理の概略フローを示す。同定処理は、質量数補正,質量数補正結果確認,判定処理,対象物件検出結果確認,検出記録,検出記録確認,検出記録数確認,検出情報出力からなる。全データ分完了判定は、質量数補正から検出記録をスペクトルデータ数分繰り返すための判定処理である。
【0059】
全条件分完了判定は、質量数補正から全データ分完了判定を、検出条件数分繰り返すための判定処理である。
【0060】
検出記録数分完了判定は、検出記録確認から検出情報出力処理を、検出記録の数分繰り返すための判定である。
【0061】
図14に同定処理における判定処理のフローを示す。判定処理は、1判定データ検索,1次判定処理,1次判定結果確認,2次判定処理,2次判定結果確認,3次データ検索,3次判定処理,3次判定結果確認,検出結果設定からなる。
【0062】
また図15に図7のスペクトルデータの質量数208を親イオンとしてタンデム測定(MS2)をした場合のスペクトルデータの例を示す。ここでは、質量数72,135,177,208にピークが存在している。
【0063】
以降、図10,図11,図12,図13,図14および図15を用いて同定処理の説明をする。
【0064】
〔入力情報〕
同定処理における入力情報は、図5スペクトルデータ、図10質量補正情報、図12同定条件である。
【0065】
〔出力情報〕
同定処理における出力情報は、検知情報である。
【0066】
〔同定処理シーケンス概要〕
同定処理では、質量数補正を行う(S121)。既に説明したとおり、質量数補正では、補正基準質量数91により指定される補正基準質量数に相当する内標のピークが、図10の補正基準質量数尤度92により指定される範囲内にあるかどうかと、またイオン強度閾値93以上のイオン強度であるかを確認する。
【0067】
範囲内にピークがあり、閾値以上のイオン強度である場合、実際にピークが現れた質量数と補正基準質量数91の差分を、当該サイクルの質量数補正量として質量数補正を行い、質量数補正正常終了とする。質量数補正が正常に終了した場合(S122)に同定処理を行う(S123)。
【0068】
S123における同定処理により、対象物検出の有無の結果を得る。この結果をS124にて判定し、検出ありの場合は、検出記録を残す(S125)。S121からS125まで一連の処理は、収集した全てのスペクトルデータに対して実施するため、S126にてデータの終了判定を行う。またさらに、S121からS126は、全ての同定条件に対して行うためS127にて同定条件の終了判定を行う。
【0069】
S121からS126の一連の処理が、全ての同定条件に対して完了した際には、S128にて検出記録の確認を行う。
【0070】
S128では検出記録を全て検索し、S129において、同一同定条件にて検出した記録が、ある一定数以上連続して保存されていた場合に、当該同定条件の物質の検出を確定したものと判断する。検出確定と判断された場合には、S130にて装置を操作している者に通知する。
【0071】
S129による判定は、生体試料(代謝物)などが同定対象となった場合に、個人の体質などの違いから発生する試料の個体差による誤検知を防止する目的がある。すなわち検出ありのスペクトルデータが極短時間の一時的なものであれば、検出なし(検出あり確定としない)とすることを意図している。
【0072】
しかし、S129を変形することにより、一時的であるにせよ一度でも同定対象物を検出した場合、すなわち検出ありのスペクトルデータが極短時間の一時的なものであった場合においても検出あり(検出確定)とすることも可能である。
【0073】
本装置は、安心・安全の分野におけるオンサイト分析で使用されることを想定しているため、誤検出による社会的影響も十分考慮しなければならない。このため処理129は、オンサイト分析の目的に応じて前述のいずれかの方法に変形して運用することが望ましく、S129による検出確定の判定は、後述する1次判定処理と共に本発明の特徴の1つとなる。
【0074】
S128からS130まで一連処理は、全ての検出記録対して実施するためにS131にて検出記録の終了判定を行う。
【0075】
以上が、同定処理シーケンスの概要である。次に同定処理のコアとなる部分の詳細について説明する。
【0076】
〔同定処理シーケンスの詳細〕
同定処理では、タンデム測定(MS2)のスペクトルデータを用いて、導入された試料に含まれる物質が、同定条件として予め登録されている既知物質のスペクトルデータにおける各質量数間の相関関係と合致するかどうかを調べ、さらにそのタンデム測定の元となった質量分析(MS)のスペクトルデータを用いて、データの信頼性を確認する。
【0077】
この際、タンデム測定(MS2)のデータが、試料導入部から試料が流出し終えるまでに収集されたスペクトルデータのすべてにおいて存在するわけではないことに注意しなければならない。
【0078】
タンデム測定(MS2)は、測定条件に指定された目的イオン質量数32において、イオン強度閾値33を超える成分イオンを検出した場合にのみ行われる。このため、常に存在する質量分析(MS)のスペクトルデータを用いて、データの信頼性を確認した後に、タンデム測定(MS2)のスペクトルデータを用いた同定を行うことは、付随するタンデム測定(MS2)のデータが存在しない質量分析(MS)のデータに対する処理が発生することになり、計算機の処理の増大につながる。
【0079】
このため本発明では、まずタンデム測定(MS2)のスペクトルデータを用いて同定を行い、その後、そのタンデム測定の元となった質量分析(MS)のスペクトルデータを用いて、データの信頼性を確認するものとする。これにより、計算機の処理の軽減を図る。より多くの同定対照物質対応するためには、計算機の処理を軽減させることは、非常に重要である。
【0080】
以上の理由により、本発明ではまず、同定条件のデータの種別112に一致する1次判定データ検索を行う(S131)。
【0081】
1次判定データ検索では、全てのスペクトルデータの中からデータ種別52がタンデム測定(MS2)となっているものを検索する。タンデム測定(MS2)のデータでない場合は、スペクトルデータの検索を続ける。
【0082】
スペクトルデータの末尾まで検索したにもかかわらず、データ種別52がタンデム測定(MS2)であるものが存在しない場合は、“当該データなし”として1次判定データ検索処理を終了する。
【0083】
タンデム測定(MS2)のデータが見つけられた際は、そのデータの目的イオン質量数53が同定条件の目的イオン質量数113で指定されているものと一致しているかを確認する。本例の場合、208であることを確認する。目的イオン質量数が208でない場合は、データの検索を続ける。
【0084】
スペクトルデータの末尾まで検索したにもかかわらず、タンデム測定(MS2)のデータで目的イオン質量数53が同定条件の目的イオン質量数113と一致するものが存在しない場合は、“当該データなし”として1次判定データ検索処理を終了する。
【0085】
データ種別52及び目的イオン質量数53がそれぞれ一致した場合のみ、当該データありとして、1次データ検索処理を終了する。
【0086】
S131−2では、1次判定データ検索処理の結果を確認し、“当該データあり”の場合にのみ、1次判定として、当該スペクトルデータのピーク確認を行う(S132)。
【0087】
1次判定においてスペクトルデータの判定を行う際には、同定条件の質量数尤度116を利用する。これは、十分な計量や前処理を行わずに測定された試料のスペクトルデータでは、質量補正処理121において実施される補正のみで、質量数変動の要因を全て取り除くことが、多くの場合不可能であると考えられるためである。
【0088】
1次判定では、同定条件の質量数115に指定された質量数に対して、質量数尤度116の範囲内にある最も強いイオン強度を、質量数115に相当するイオンとしてスペクトルデータの判定を行う。
【0089】
1次判定処理では、マススペクトルデータの各質量数間の相関関係を、イオン強度比により確認する。図15におけるピークの判定は、当該データの72,135,177に相当するピークのイオン強度を、質量数177相当のピークのイオン強度で除算し、百分率を求める。1次判定結果確認では、求めた百分率がすべて図12の118から119に指定された条件の範囲内にある場合は、1次判定において条件を満たしたものとする(S133)。すなわち本例の場合、求めた百分率が、質量数208相当のイオン強度では20±5%、質量数135相当のイオン強度では20±5%、質量数72相当のイオン強度では15±5%となっていた場合にのみ、引き続き以下の確認を行う。前述の条件を満たさない場合は、1次判定不成立として1次判定処理を終了する。
【0090】
1次判定における各質量数間のイオン強度の相関関係が成立した場合、各質量数のイオン強度が、同定条件のイオン強度閾値117以上の強度であるかを確認する。すなわち本例では、質量数177相当のイオン強度は250以上、質量数208相当のイオン強度は45以上、質量数135相当のイオン強度は45以上、質量数72相当のイオン強度は15以上であることを確認する。これは、十分な計量や前処理が行われない試料においても、同定対象物を検出ありと判断するための十分な量のイオンが含有されることを確認するものである。
【0091】
但し、このイオン強度閾値117の設定は、S129と共に検出有無の確定に大きく影響する。イオン強度閾値117を高く設定した場合、同定対象物質と同じイオンが十分に含有されていた場合にのみ、同定対処物検出ありとすることができる。
【0092】
これに対してイオン強度閾値117を低く設定した場合、同定対象物質と同じイオンがわずかでも含有されていた場合に、同定対処物検出ありとすることができる。これは前述のS129と共に本発明の特徴の1つであり、これら組み合わせることにより検出判定の感度をソフト的に変更することができ、オンサイト分析の目的に応じて柔軟に対応すること可能となる。適用される分野が広範囲となるため、この特徴はオンサイト分析の大きなメリットとなる。
【0093】
1次判定結果確認133が成立した場合、2次判定を行う(S134)。2次判定では、1次判定に使用した質量数以外に、同定条件に指定された最も百分率の小さいものを超えるピークが存在するかどうかを確認する。存在しない場合、2次判定結果確認が成立したものとする(S135)。
【0094】
存在する場合は、同じ目的イオンを親イオンとして実施されたタンデム測定(MS2)において、異なる成分イオンが検出されていることになるため、測定された試料は同定対象物と異なると判断できるため、2次判定結果確認不成立とする。検出対象物と異なると判断された場合は、データの検索処理に戻る。
【0095】
2次判定結果確認が成立した場合、3次判定データ検索を行い(S136)、対象データを特定した上で、3次判定として、質量分析(MS)のスペクトルデータについて同定条件に従いピークの確認を行う(S137)。
【0096】
3次判定データ検索の対象となる質量分析(MS)スペクトルデータは、1次判定及び2次判定を行ったタンデム測定(MS2)の親となる質量分析(MS)のスペクトルデータとし、同一サイクル内のものとする。
【0097】
本例の場合は、図7のマススペクトルデータが3次判定の対象となる。
【0098】
ピークの判定は、当該データの124,130,148,150,177,180,208に相当するピークのイオン強度を、質量数208相当のピークのイオン強度で除算し、百分率を求める。求めた百分率がすべて図12の115から121に指定された条件の範囲内にある場合は、3次判定において条件を満たしたものとする。
【0099】
既に説明したが、質量補正処理121において実施される補正のみで、質量数変動の要因を全て取り除くことが、多くの場合不可能であると考えられるため、3次判定においてもスペクトルデータの判定を行う際には、同定条件の質量数尤度116を利用する。
【0100】
本例の場合、求めた百分率が、質量数124相当のイオン強度では10±5%、質量数130相当のイオン強度では45±5%、質量数148相当のイオン強度では10±5%質量数150相当のイオン強度では15±5%、質量数177相当のイオン強度では35±5%、質量数180相当のイオン強度では70±5%となっていた場合、3次判定結果確認が成立したものとする(S138)。
【0101】
3次判定における同定条件のイオン強度尤度119の利用は、試料の計量及び前処理が行えないことによる濃度の変動によるマススペクトルデータの変動を吸収することを目的としており、本発明における特徴の1つである。
【0102】
3次判定では、検出対象物以外の物質のピークがスペクトルデータに含まれているため、判定対象としている質量数のみに着目し、その他の質量数のピークについては判定対象としないものとする。
【0103】
同一サイクルの質量分析(MS)とタンデム測定(MS2)のスペクトルデータにおいて3次判定までのすべての条件を満足した場合、当該サイクルで対象物を検出したものとして、検出結果設定を行う(S139)。
【0104】
複数サイクル存在するスペクトルデータに対して、すべての同定条件ごとに前述の同定処理を行い、それぞれの検出の有無を判定し、検出ありと判定された物質の種別とスペクトルデータのサイクル番号を、検出の記録において記録する。
【0105】
同定対象物の最終的な検知判定は、検出記録数確認において、同一物質の検出が連続する複数のサイクルにて検出されたことを検出記録から判定できた場合に、最終検知として結果を出力する。
【0106】
以上をもって個体差を含む試料に対する高い精度の計量や前処理を必要としない、また、質量分析に関する専門的な知識・経験を有しない者が分析を行った場合においても、安定した同定を可能とした、オンサイト分析が実現できる。
【0107】
本発明は、上記目的を達成するために、以下を特徴とすると表現できる。
(a)既知の物質を一定の濃度で添加し、内標とすること。
(b)また上記の(a)のマススペクトルを利用すること。
(c)また上記(b)により、質量数の補正を行うこと。
(d)さらに上記(b)により、装置の状態を判定し、不適切なマススペクトルによる同定を回避すること。
(e)同定のためのデータベースとして複数の物質のプロファイルデータを持つこと。
(f)濃度に依存しない同定が可能なこと。
(g)視覚的判断を必要としない同定が可能なこと。
(h)質量数の変動に対して、一定の尤度を持った同定が可能なこと。
(i)イオン強度の変動に対して、一定の尤度を持った同定が可能なこと。
【0108】
また、マススペクトルの質量数及びイオン強度に対して、一定の尤度を持った同定が可能となり、マススペクトルの視覚的判断を必要としない同定が可能になる。さらにこれにより十分な精度の計量及び前処理を施さず、質量分析に関する専門的な知識・経験がない者が操作した場合においても、安定した同定結果がえられることになり、オンサイトにおける分析が実現できる。
【符号の説明】
【0109】
1 入力部
2 表示部
3 制御部
4 試料導入部
5 イオン化部
6 質量分析部
7 イオン検出部
8 測定・検出条件格納記憶部
9 データベース
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置に係わり、質量分析により得られたスペクトルを用いて同定を行う技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な質量分析方法では、対象となる試料をイオン化して、それらのイオンを質量分析装置へ送る。質量分析装置では、送られてきたイオンに対して質量(m)と価数(z)の比からなる質量対電荷比(m/z)ごとにイオン強度を測定する。この結果として、横軸がm/z、縦軸がイオン強度からなるマススペクトルを得ることができる。
【0003】
試料中に含まれる各成分は、質量分析装置で測定された結果、マススペクトル上においてイオン強度のピークとして出現する。試料中に複数の成分が含まれる場合、マススペクトル上には複数のピークが出現する。
【0004】
質量分析方法には、試料をイオン化し、そのまま測定するMS分析法と、試料をイオン化し測定した後、ある特定のイオンを選択して解離させ生成したイオンを測定するタンデム質量分析法がある。タンデム質量分析法において解離の対象となるイオンを親イオンと呼ぶ。
【0005】
タンデム質量分析法では、解離させた成分イオンから更に親イオンを選択して解離させ生成した成分イオンを質量分析するといったように、多段に解離と質量分析を行う機能がある。
【0006】
最初にイオン源でイオン化された試料をそのまま測定する通常の質量分析方法をMS1とする。MS1で得られたマススペクトル内の特定質量の成分イオンにエネルギーを与えて解離させ、生成した複数の成分イオンを質量分離して第二のマススペクトルを得る方法をMS2と呼ぶ。
【0007】
以降、n段目の質量分析をMSnと呼ぶ。タンデム質量分析法は、試料の質量数情報のほかに試料の構造情報を取得することを目的として実施される。タンデム質量分析を行った結果をデータベースと照合することにより試料中に含まれる成分の同定を行うことが可能となる。
【0008】
分析の対象とする試料が既知である場合、タンデム質量分析を行うイオンの質量数を直接指定することが可能である。しかしながら、対象が未知試料である場合は、一度質量分析を行い、タンデム質量分析を行うイオンを選定することが必須であり、質量分析とタンデム質量分析を1回のセッションとして繰り返す手法がとられる。マススペクトルデータの収集、未知の物質と既知の物質のマススペクトルを比較する手段、マススペクトルを補正する手段は、特開2005−121653号公報(特許文献1)などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−121653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
未知試料に対して、そこに含まれる成分の同定を目的とした場合、1回の測定、すなわち試料が流出し始めてから終わるまでの間に、多くの成分についての構造情報を取得することが同定の精度を向上するうえで望ましい。そのため、同定をする上で意味のある成分イオンを選択的にタンデム質量分析を実施する手法や、多くの成分イオンを高効率でタンデム質量分析を実施する手法が考案されている。
【0011】
さらに、同定の精度向上のために、試料を高い精度で計量する手法や、高効率でイオンを発生させるための前処理の手法も多く考案されており、多くの場合、試料はこれらの計量、前処理を施された上で質量分析装置に導入される。
【0012】
タンデム質量分析を実施して得られたマススペクトルは、試料の濃度や夾雑物の混入、質量分析装置の周辺環境或いは装置自身の機差及び状態により、必ずしも一定ではなく、質量分析に関する専門的な知識・経験を踏まえた視覚的判断が必要となることは広く知られている。
【0013】
一方、近年、環境汚染,食品汚染,薬物乱用,化学物質或いは爆発物によるテロなどにより、社会の安心・安全が大きく脅かされており、これに対抗する手段として、質量分析装置による迅速な、オンサイト分析の必要性がにわかに高まっている。
【0014】
しかし、現場で採取される試料には、生体試料(代謝物)なども含まれ、そもそも試料そのものが個体差を含んでいる場合も多くあるため、分析を行うには高い精度での計量や試料の前処理が必要とされる。さらに同定に際しては、質量分析の専門的な知識・経験を有する者の視覚的判断が必要となるため、必ずしもそのような環境を整えることができない、オンサイト分析では、安定した同定が事実上困難であるといった課題がある。
【0015】
本発明は、個体差を含む試料に対する高い精度の計量や前処理を必要とせず、また、質量分析に関する専門的な知識・経験を有しない者が分析を行った場合においても、安定した同定を可能とし、オンサイト分析の実現を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の質量分析装置は、試料をイオン化するイオン化部と、質量対電荷比(m/z)に応じてイオンを分離する質量分析部と、質量分析部で分離されたイオンを検出する検出部と、目的イオンの質量数とそのイオンのイオン強度の閾値を予め格納する記憶部を有し、質量分析(MS1)を行った際に、前記質量数のピークのイオン強度が、前記イオン強度を超える場合に、そのイオンを親イオンとして解離し、質量分析(MS2)を行う。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、また試料の濃度や夾雑物の混入や、質量分析装置の周辺環境或いは装置自身の機差及び状態、或いは試料の濃度や量及び個体差によるマススペクトルの変動による影響を排除した同定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】質量分析システムの全体概念図。
【図2】質量分析フロー図。
【図3】タンデム質量分析による未知試料中の成分を同定する処理フロー図。
【図4】質量分析を実施する際の測定条件の例を示した図。
【図5】質量分析装置で生成されるスペクトルデータの概念図。
【図6】質量分析装置で生成されるスペクトルデータの内部構成の概念図。
【図7】質量分析により得られたスペクトルデータをグラフ表示した際の例を示した図。
【図8】質量分析により得られたスペクトルデータをグラフ表示した際の例を示した図(検出対象物の濃度が低い場合)。
【図9】質量分析により得られたスペクトルデータをグラフ表示した際の例を示した図(装置の検出感度が低下している場合)。
【図10】質量補正情報の例を示した図。
【図11】内標を利用した質量補正方法の概念図。
【図12】同定条件の例を示した図。
【図13】同定処理概略フロー図。
【図14】同定処理詳細フロー図。
【図15】図6のスペクトルデータにおける質量数208のイオンを親イオンとしてタンデム測定をした場合スペクトルデータをグラフ表示した際の例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に、本発明における第1の実施形態を適用する質量分析システムを示す。図1のシステムは、未知の試料に対して質量分析を行うことで試料中に含まれる成分を同定することを目的としたシステムであり、入力部1,表示部2,制御部3,試料導入部4,イオン化部5,質量分析部6,イオン検出部7,測定・検出条件記憶部8、およびデータベース9を備える。
【0020】
導入試料は、イオン化部5においてイオン化が行われる。イオン化の方法には、エレクトロスプレーイオン化(ESI),大気圧化学イオン化(APCI),電子イオン化(EI)や化学イオン化(CI)などが考えられ、分析の対象とする試料や分析の目的に応じたイオン化法が選択される。
【0021】
イオン化が行われた試料中の成分は、質量分析部6にてイオンの質量対電荷比(m/z)に応じて分離される。ここで、mはイオン質量、zはイオンの帯電価数である。質量分析部には、様々な質量分析装置が適用可能であるが、四重極型質量分析装置,イオントラップ型質量分析装置などのタンデム質量分析が可能な質量分析装置が望ましい。質量分析方法には、試料をイオン化してそのまま分析する方法(MS)の他に、特定の試料イオン(親イオン)を質量選択して、それを解離して生成した解離イオンを質量分析するタンデム質量分析法(MS2)がある。
【0022】
タンデム質量分析法では、解離したイオンの中から更に親イオンを選択して解離,質量分析を行うといったように、解離,質量分析を多段(MSn)に行う場合もある。タンデム質量分析を行うことで親イオンの分子構造情報を取得され、この情報を利用して未知試料の同定が行われる。
【0023】
この際の分析(MS及びMS2)は、予め装置に設定されている測定条件(測定を行うための各種パラメータ)によって実施される。測定条件は、ある特定の物質のみを同定することを目的とし、その対象物に最適化された値が設定されている。
【0024】
親イオンの解離方法としては衝突解離(Collision Induced Dissociation)法や電子捕獲解離(Electron Capture Dissociation)法などがある。衝突解離法はヘリウムなどのバッファーガスをイオンに衝突させて解離する方法であり、電子捕解離法は、低エネルギーの電子を照射し、親イオンに多量に低エネルギー電子を捕獲させることにより解離する方法である。
【0025】
質量分析部6において分離されたイオンはイオン検出部7にて検出され、制御部3にて検出したデータの処理と解析が実施される。試料導入,イオン化,質量分析、及びイオンとして検出し、同定をするという一連の分析過程は、制御部3にて制御される。また、ユーザが装置を制御するためのインターフェースとして入力部1を備える。
【0026】
制御部3では、取得したマススペクトルに対して、予め設定されている検出条件(同定を行うためのパラメータ)に従い、ノイズ除去,ピーク判定、及び同位体ピーク除去等の後処理を実施する。このようにして得られたマススペクトルを、データベース9の情報と照合することにより、試料中に含まれる成分の同定が行われる。
【0027】
試料の同定に使用するデータベース9は、既知試料のマススペクトルが蓄えられたデータベースである。インターネット上で公開されているデータベースなどが一般的であるが、本装置においては、同定・検知対象とする物質および内標として添加した物質のマススペクトルデータのみを保持している。
【0028】
図2に、タンデム質量分析による未知試料中の成分を同定する場合の一般的な処理フローを示す。図2の処理フローは、試料導入(S10),イオン化(S11),質量分析(MS)(S12),親イオン(プリカーサイオン)の解離(S13),質量分析(MS2)(S14)により構成される。まず、同定の対象となる未知試料に対して試料導入(S10)を行う。試料導入部から送られてくる成分は、順次イオン化(S11)される。その後、イオン化(S11)されて送られてくる試料成分に対して、質量分析(MS)(S12),プリカーサイオンの解離(S13),質量分析(MS2)(S14)という一連の処理を繰り返し実施する。
【0029】
まず、質量分析(MS)(S12)を行うことにより、試料中に含まれる成分を分析し、親イオンの選択を行う。親イオンの選択は、イオン強度が大きいものを選択する方法が一般的に用いられる。その他、一度、解離を行ったイオンを選択除外するなどの方法が用いられる場合もある。次に親イオンとして選択されたイオンを解離し、解離により生成したイオンを、質量分析(MS2)(S14)する。質量分析(MS2)(S14)により得られたマススペクトル(MS2スペクトル)は親イオンの分子構造情報を有しており、試料中に含まれる各成分の同定に使用されるものである。質量分析(MS)(S12),プリカーサイオンの解離(S13),質量分析(MS2)(S14)の処理を繰り返し実施することで、未知試料中の様々な成分に対してMS2スペクトルを取得し試料情報として蓄積する。一般に、質量分析(MS)(S12)に要する時間及びプリカーサイオンの解離(S13)を行い質量分析(MS2)(S14)を実施するのに要する時間は、それぞれ0.5〜2.0秒程度である。
【0030】
一方分析を行う場合において、試料導入部から試料が流出し終えるまでの時間は、試料の量や装置条件等に依存するが、一般的に要する時間は数分程度となり、試料が流出し終える間に質量分析(MS)(S12)から質量分析(MS2)(S14)の一連の処理は数千回繰り返されることとなる場合が多い。このようにして取得したMS2スペクトルをデータベース9と照合することで未知試料中に含まれる成分の同定が行われることとなる。
【0031】
図3に、本装置における処理フローを示す。試料導入を行い(S20),イオン化し(S21)、質量分析(MS)(S22)して、次に、目的のイオンがあるかを判定する(S23)。S23でYESの場合、親(プリカーサ)イオンの解離を行い(S24)、質量分析(MS2)(S25)し、設定時間が経過したかどうかを判定する(S26)。S26でYESの場合、同定処理を行う(S27)。まず、同定の対象となる未知試料に対して試料導入を行う(S20)。試料導入部から送られてくる成分は、順次イオン化される(S21)。その後、イオン化されて送られてくる試料成分に対して、質量分析(MS)を行い(S22)、目的イオンの有無判定を行う(S23)。目的イオンが存在する場合のみプリカーサイオンの解離を行い(S24)、質量分析(MS2)を実施する(S25)。その後、設定時間が経過したかどうかの判定を行い(S26)、NOの場合、S22へ戻る。
【0032】
本装置における同定処理は、設定時間が経過し全ての処理が完了した後に、これら一連の処理により収集したMSスペクトルとMS2スペクトルデータをもとに実施する。
【0033】
〔測定条件〕
図4に測定条件の例を示す。測定条件は、親条件番号31,目的イオン質量数32,イオン強度閾値33,測定開始質量数34,測定終了質量数35などから成る。
【0034】
親条件番号31,目的イオン質量数32,イオン強度閾値33は、自動でタンデム質量分析を行う際に指定する。
【0035】
図4において、測定条件番号1は、親条件番号31,目的イオン質量数32,イオン強度閾値33が指定されていないため、無条件に測定開始質量数34から測定終了質量数35に指定された質量数の範囲の測定が実施される。
【0036】
また、図4における測定条件番号2は、測定条件番号1の質量分析の結果得られたスペクトルにおいて、目的イオン質量数32に指定された208のイオン強度が、イオン強度閾値33に指定された100を超えた場合に実施される測定であることを示している。
【0037】
図1の制御部3は、この測定条件に従い、図2に示す質量分析(MS)12,親イオンの解離13,質量分析(MS2)14の一連の処理を制御する。
【0038】
〔スペクトルデータ〕
図5に、図4の測定条件に従い、図1制御部3の一連の処理によりえられるスペクトルデータの例を示す。図2に示す質量分析(MS)12から質量分析(MS2)14の一連の処理は、試料が流れ出る間数千回繰り返される。この際、1回の質量分析(MS)12から質量分析(MS2)14の一連処理をサイクルと呼ぶ。
【0039】
図5の例では、1サイクル41,2サイクル42では、図4の測定条件における測定条件番号1のデータのみが存在する。測定の途中である、iサイクル43,i+1サイクル44では、図4の測定条件における測定条件番号1及び、測定条件番号2のデータが存在し、測定の最後のnサイクル45では、図4の測定条件における測定条件番号1のデータのみが存在する。
【0040】
図4の測定条件番号1のように無条件に実施するように設定された測定対応するスペクトルデータは、図5に示すように繰り返し現れる。しかし、測定条件番号2のように自動タンデム測定(MS2)を設定された測定に関しては、その条件を満たさない限り測定が実行されないため、各サイクルにおいて必ずしもそれに対応するスペクトルデータが存在するわけではない。
【0041】
〔スペクトルデータの構成〕
図6に、スペクトルデータ構成の例を示す。スペクトルデータは、データ番号51,データ種別52,目的イオン質量数53,測定条件番号54,イオン強度データ55などから構成される。同定処理においては、これらの情報を元に判定対象となるスペクトルデータを探し出す。
【0042】
〔質量補正情報〕
図7に質量数180の物質を既知の濃度で内標として添加した試料のスペクトルデータの例を示す(添加する内標の濃度は厳密に規定するものではなく、ある一定半内に在ればよいものとする。)。
【0043】
理想的な状態では、添加した内標のスペクトルのピークは、質量数180に現れるはずである。しかし実際には、周辺環境や装置の状態によりスペクトルのピークは、180の近傍に表れる。
【0044】
内標のスペクトルデータのピークが補整基準質量数から大きくずれて現れた場合、何らかの要因により質量対電荷比(m/z)が大きく変動していることになるため、このスペクトルデータの信頼性は著しく低いと考えられる。
【0045】
また、スペクトルデータのピークが補整基準質量数からある一定範囲内に現れる場合であっても、そのピークのイオン強度が低い場合は、一定の濃度で添加した内標のイオンを十分に検出できないことになるため、分析装置の感度が悪化していることが考えられる。
【0046】
図8と図9に質量数180の物質を既知の濃度で内標として添加した試料の質量分析(MS)スペクトルデータの二つの例を示す。
【0047】
図8は図7と比較した場合、内標のピークのイオン強度はほぼ等しいが、他の質量数のピークにおけるイオン強度は2分の1程度になっている。これは、その試料に含まれる内標以外の物質の濃度が単に低いだけであり、このデータは、同定に使用することが可能なデータであると判断できる。
【0048】
これに対して図9は、内標および内標以外のピークが図7のほぼ2分の1になっている。これは、試料に内標以外の物質も十分含まれているが、装置の感度が低下しているためピークのイオン強度が低くなっていると考えられる。このためこのデータは同定には不適切であると判断できる。
【0049】
前述の判定は、今まで測定者の質量分析に関する知識・経験を踏まえた視覚的判断により行われていた。
【0050】
図10に質量補正情報の例を示す。前述の判定をするために、質量補整情報は、補整基準質量数91,質量数尤度92,イオン強度閾値93を持つ。ここでは、補整基準質量数91を180、質量数尤度92を±1(m/z)、イオン強度閾値93を100としている。
【0051】
質量補整情報を用いて、内標のスペクトルデータのピークが、補整基準質量数から質量数尤度の範囲内にない場合、あるいは、その範囲内にあった場合でも、イオン強度が閾値未満である場合は、そのマススペクトルデータを同定に用いないことにする。これにより、信頼性の低いマススペクトルデータを排除した同定が可能となる。
【0052】
また、マススペクトルデータ内にこのようなデータが、ある一定割合以上存在する場合には、装置が分析に適した状態でないことを、装置を操作している者に警告することにより、誤った同定を防止することが可能となる。
【0053】
〔質量数補正〕
図11に質量数補正の概要を示す。スペクトルデータにおいて内標のピークが現れた質量数と質量補正情報として指定された180の差分を、スペクトルデータに現れた他のピークの質量数に加味する。これにより、未知の物質の質量数を補正する。この際補正対象となるスペクトルデータは、データ種別(MS/MS2)に関わりなく、同一サイクルのデータとする。これにより同一サイクル内のスペクトルデータは、周辺環境,装置の状態などの影響による質量数の変動を排除したものとなる。
【0054】
〔同定条件〕
図12に、同定条件の例を示す。同定条件は、判定条件111,データの種別112,目的イオン質量数113,親測定条件番号114,質量数115,質量数尤度116,イオン強度閾値117,イオン強度118,イオン強度尤度119からなる。
【0055】
データの種別112は、同定処理においてその条件が対象とするスペクトルデータの特定をするためのものである。本発明では、後述する理由により、データ種別112としてタンデム測定(MS2)を指定した同定条件は、必ず設定しなければならない。
【0056】
目的イオン質量数113と親測定条件番号114は、同定条件が対象とするマススペクトルデータがタンデム測定(MS2)の場合に指定する。
【0057】
図12の判定条件111が1では、177±1の範囲に存在するイオン強度閾値117が100以上の最も大きなイオン強度データを、質量数177のイオン強度として扱い、さらにそのイオン強度を100%とすることを指定している。これに対して質量数208相当のイオンでは、その強度が20±5%であることを意味している。同様に質量数135相当のイオン強度は20±5%、質量数72相当のイオン強度は15±5%であることを意味している。
【0058】
〔同定処理〕
図13に同定処理の概略フローを示す。同定処理は、質量数補正,質量数補正結果確認,判定処理,対象物件検出結果確認,検出記録,検出記録確認,検出記録数確認,検出情報出力からなる。全データ分完了判定は、質量数補正から検出記録をスペクトルデータ数分繰り返すための判定処理である。
【0059】
全条件分完了判定は、質量数補正から全データ分完了判定を、検出条件数分繰り返すための判定処理である。
【0060】
検出記録数分完了判定は、検出記録確認から検出情報出力処理を、検出記録の数分繰り返すための判定である。
【0061】
図14に同定処理における判定処理のフローを示す。判定処理は、1判定データ検索,1次判定処理,1次判定結果確認,2次判定処理,2次判定結果確認,3次データ検索,3次判定処理,3次判定結果確認,検出結果設定からなる。
【0062】
また図15に図7のスペクトルデータの質量数208を親イオンとしてタンデム測定(MS2)をした場合のスペクトルデータの例を示す。ここでは、質量数72,135,177,208にピークが存在している。
【0063】
以降、図10,図11,図12,図13,図14および図15を用いて同定処理の説明をする。
【0064】
〔入力情報〕
同定処理における入力情報は、図5スペクトルデータ、図10質量補正情報、図12同定条件である。
【0065】
〔出力情報〕
同定処理における出力情報は、検知情報である。
【0066】
〔同定処理シーケンス概要〕
同定処理では、質量数補正を行う(S121)。既に説明したとおり、質量数補正では、補正基準質量数91により指定される補正基準質量数に相当する内標のピークが、図10の補正基準質量数尤度92により指定される範囲内にあるかどうかと、またイオン強度閾値93以上のイオン強度であるかを確認する。
【0067】
範囲内にピークがあり、閾値以上のイオン強度である場合、実際にピークが現れた質量数と補正基準質量数91の差分を、当該サイクルの質量数補正量として質量数補正を行い、質量数補正正常終了とする。質量数補正が正常に終了した場合(S122)に同定処理を行う(S123)。
【0068】
S123における同定処理により、対象物検出の有無の結果を得る。この結果をS124にて判定し、検出ありの場合は、検出記録を残す(S125)。S121からS125まで一連の処理は、収集した全てのスペクトルデータに対して実施するため、S126にてデータの終了判定を行う。またさらに、S121からS126は、全ての同定条件に対して行うためS127にて同定条件の終了判定を行う。
【0069】
S121からS126の一連の処理が、全ての同定条件に対して完了した際には、S128にて検出記録の確認を行う。
【0070】
S128では検出記録を全て検索し、S129において、同一同定条件にて検出した記録が、ある一定数以上連続して保存されていた場合に、当該同定条件の物質の検出を確定したものと判断する。検出確定と判断された場合には、S130にて装置を操作している者に通知する。
【0071】
S129による判定は、生体試料(代謝物)などが同定対象となった場合に、個人の体質などの違いから発生する試料の個体差による誤検知を防止する目的がある。すなわち検出ありのスペクトルデータが極短時間の一時的なものであれば、検出なし(検出あり確定としない)とすることを意図している。
【0072】
しかし、S129を変形することにより、一時的であるにせよ一度でも同定対象物を検出した場合、すなわち検出ありのスペクトルデータが極短時間の一時的なものであった場合においても検出あり(検出確定)とすることも可能である。
【0073】
本装置は、安心・安全の分野におけるオンサイト分析で使用されることを想定しているため、誤検出による社会的影響も十分考慮しなければならない。このため処理129は、オンサイト分析の目的に応じて前述のいずれかの方法に変形して運用することが望ましく、S129による検出確定の判定は、後述する1次判定処理と共に本発明の特徴の1つとなる。
【0074】
S128からS130まで一連処理は、全ての検出記録対して実施するためにS131にて検出記録の終了判定を行う。
【0075】
以上が、同定処理シーケンスの概要である。次に同定処理のコアとなる部分の詳細について説明する。
【0076】
〔同定処理シーケンスの詳細〕
同定処理では、タンデム測定(MS2)のスペクトルデータを用いて、導入された試料に含まれる物質が、同定条件として予め登録されている既知物質のスペクトルデータにおける各質量数間の相関関係と合致するかどうかを調べ、さらにそのタンデム測定の元となった質量分析(MS)のスペクトルデータを用いて、データの信頼性を確認する。
【0077】
この際、タンデム測定(MS2)のデータが、試料導入部から試料が流出し終えるまでに収集されたスペクトルデータのすべてにおいて存在するわけではないことに注意しなければならない。
【0078】
タンデム測定(MS2)は、測定条件に指定された目的イオン質量数32において、イオン強度閾値33を超える成分イオンを検出した場合にのみ行われる。このため、常に存在する質量分析(MS)のスペクトルデータを用いて、データの信頼性を確認した後に、タンデム測定(MS2)のスペクトルデータを用いた同定を行うことは、付随するタンデム測定(MS2)のデータが存在しない質量分析(MS)のデータに対する処理が発生することになり、計算機の処理の増大につながる。
【0079】
このため本発明では、まずタンデム測定(MS2)のスペクトルデータを用いて同定を行い、その後、そのタンデム測定の元となった質量分析(MS)のスペクトルデータを用いて、データの信頼性を確認するものとする。これにより、計算機の処理の軽減を図る。より多くの同定対照物質対応するためには、計算機の処理を軽減させることは、非常に重要である。
【0080】
以上の理由により、本発明ではまず、同定条件のデータの種別112に一致する1次判定データ検索を行う(S131)。
【0081】
1次判定データ検索では、全てのスペクトルデータの中からデータ種別52がタンデム測定(MS2)となっているものを検索する。タンデム測定(MS2)のデータでない場合は、スペクトルデータの検索を続ける。
【0082】
スペクトルデータの末尾まで検索したにもかかわらず、データ種別52がタンデム測定(MS2)であるものが存在しない場合は、“当該データなし”として1次判定データ検索処理を終了する。
【0083】
タンデム測定(MS2)のデータが見つけられた際は、そのデータの目的イオン質量数53が同定条件の目的イオン質量数113で指定されているものと一致しているかを確認する。本例の場合、208であることを確認する。目的イオン質量数が208でない場合は、データの検索を続ける。
【0084】
スペクトルデータの末尾まで検索したにもかかわらず、タンデム測定(MS2)のデータで目的イオン質量数53が同定条件の目的イオン質量数113と一致するものが存在しない場合は、“当該データなし”として1次判定データ検索処理を終了する。
【0085】
データ種別52及び目的イオン質量数53がそれぞれ一致した場合のみ、当該データありとして、1次データ検索処理を終了する。
【0086】
S131−2では、1次判定データ検索処理の結果を確認し、“当該データあり”の場合にのみ、1次判定として、当該スペクトルデータのピーク確認を行う(S132)。
【0087】
1次判定においてスペクトルデータの判定を行う際には、同定条件の質量数尤度116を利用する。これは、十分な計量や前処理を行わずに測定された試料のスペクトルデータでは、質量補正処理121において実施される補正のみで、質量数変動の要因を全て取り除くことが、多くの場合不可能であると考えられるためである。
【0088】
1次判定では、同定条件の質量数115に指定された質量数に対して、質量数尤度116の範囲内にある最も強いイオン強度を、質量数115に相当するイオンとしてスペクトルデータの判定を行う。
【0089】
1次判定処理では、マススペクトルデータの各質量数間の相関関係を、イオン強度比により確認する。図15におけるピークの判定は、当該データの72,135,177に相当するピークのイオン強度を、質量数177相当のピークのイオン強度で除算し、百分率を求める。1次判定結果確認では、求めた百分率がすべて図12の118から119に指定された条件の範囲内にある場合は、1次判定において条件を満たしたものとする(S133)。すなわち本例の場合、求めた百分率が、質量数208相当のイオン強度では20±5%、質量数135相当のイオン強度では20±5%、質量数72相当のイオン強度では15±5%となっていた場合にのみ、引き続き以下の確認を行う。前述の条件を満たさない場合は、1次判定不成立として1次判定処理を終了する。
【0090】
1次判定における各質量数間のイオン強度の相関関係が成立した場合、各質量数のイオン強度が、同定条件のイオン強度閾値117以上の強度であるかを確認する。すなわち本例では、質量数177相当のイオン強度は250以上、質量数208相当のイオン強度は45以上、質量数135相当のイオン強度は45以上、質量数72相当のイオン強度は15以上であることを確認する。これは、十分な計量や前処理が行われない試料においても、同定対象物を検出ありと判断するための十分な量のイオンが含有されることを確認するものである。
【0091】
但し、このイオン強度閾値117の設定は、S129と共に検出有無の確定に大きく影響する。イオン強度閾値117を高く設定した場合、同定対象物質と同じイオンが十分に含有されていた場合にのみ、同定対処物検出ありとすることができる。
【0092】
これに対してイオン強度閾値117を低く設定した場合、同定対象物質と同じイオンがわずかでも含有されていた場合に、同定対処物検出ありとすることができる。これは前述のS129と共に本発明の特徴の1つであり、これら組み合わせることにより検出判定の感度をソフト的に変更することができ、オンサイト分析の目的に応じて柔軟に対応すること可能となる。適用される分野が広範囲となるため、この特徴はオンサイト分析の大きなメリットとなる。
【0093】
1次判定結果確認133が成立した場合、2次判定を行う(S134)。2次判定では、1次判定に使用した質量数以外に、同定条件に指定された最も百分率の小さいものを超えるピークが存在するかどうかを確認する。存在しない場合、2次判定結果確認が成立したものとする(S135)。
【0094】
存在する場合は、同じ目的イオンを親イオンとして実施されたタンデム測定(MS2)において、異なる成分イオンが検出されていることになるため、測定された試料は同定対象物と異なると判断できるため、2次判定結果確認不成立とする。検出対象物と異なると判断された場合は、データの検索処理に戻る。
【0095】
2次判定結果確認が成立した場合、3次判定データ検索を行い(S136)、対象データを特定した上で、3次判定として、質量分析(MS)のスペクトルデータについて同定条件に従いピークの確認を行う(S137)。
【0096】
3次判定データ検索の対象となる質量分析(MS)スペクトルデータは、1次判定及び2次判定を行ったタンデム測定(MS2)の親となる質量分析(MS)のスペクトルデータとし、同一サイクル内のものとする。
【0097】
本例の場合は、図7のマススペクトルデータが3次判定の対象となる。
【0098】
ピークの判定は、当該データの124,130,148,150,177,180,208に相当するピークのイオン強度を、質量数208相当のピークのイオン強度で除算し、百分率を求める。求めた百分率がすべて図12の115から121に指定された条件の範囲内にある場合は、3次判定において条件を満たしたものとする。
【0099】
既に説明したが、質量補正処理121において実施される補正のみで、質量数変動の要因を全て取り除くことが、多くの場合不可能であると考えられるため、3次判定においてもスペクトルデータの判定を行う際には、同定条件の質量数尤度116を利用する。
【0100】
本例の場合、求めた百分率が、質量数124相当のイオン強度では10±5%、質量数130相当のイオン強度では45±5%、質量数148相当のイオン強度では10±5%質量数150相当のイオン強度では15±5%、質量数177相当のイオン強度では35±5%、質量数180相当のイオン強度では70±5%となっていた場合、3次判定結果確認が成立したものとする(S138)。
【0101】
3次判定における同定条件のイオン強度尤度119の利用は、試料の計量及び前処理が行えないことによる濃度の変動によるマススペクトルデータの変動を吸収することを目的としており、本発明における特徴の1つである。
【0102】
3次判定では、検出対象物以外の物質のピークがスペクトルデータに含まれているため、判定対象としている質量数のみに着目し、その他の質量数のピークについては判定対象としないものとする。
【0103】
同一サイクルの質量分析(MS)とタンデム測定(MS2)のスペクトルデータにおいて3次判定までのすべての条件を満足した場合、当該サイクルで対象物を検出したものとして、検出結果設定を行う(S139)。
【0104】
複数サイクル存在するスペクトルデータに対して、すべての同定条件ごとに前述の同定処理を行い、それぞれの検出の有無を判定し、検出ありと判定された物質の種別とスペクトルデータのサイクル番号を、検出の記録において記録する。
【0105】
同定対象物の最終的な検知判定は、検出記録数確認において、同一物質の検出が連続する複数のサイクルにて検出されたことを検出記録から判定できた場合に、最終検知として結果を出力する。
【0106】
以上をもって個体差を含む試料に対する高い精度の計量や前処理を必要としない、また、質量分析に関する専門的な知識・経験を有しない者が分析を行った場合においても、安定した同定を可能とした、オンサイト分析が実現できる。
【0107】
本発明は、上記目的を達成するために、以下を特徴とすると表現できる。
(a)既知の物質を一定の濃度で添加し、内標とすること。
(b)また上記の(a)のマススペクトルを利用すること。
(c)また上記(b)により、質量数の補正を行うこと。
(d)さらに上記(b)により、装置の状態を判定し、不適切なマススペクトルによる同定を回避すること。
(e)同定のためのデータベースとして複数の物質のプロファイルデータを持つこと。
(f)濃度に依存しない同定が可能なこと。
(g)視覚的判断を必要としない同定が可能なこと。
(h)質量数の変動に対して、一定の尤度を持った同定が可能なこと。
(i)イオン強度の変動に対して、一定の尤度を持った同定が可能なこと。
【0108】
また、マススペクトルの質量数及びイオン強度に対して、一定の尤度を持った同定が可能となり、マススペクトルの視覚的判断を必要としない同定が可能になる。さらにこれにより十分な精度の計量及び前処理を施さず、質量分析に関する専門的な知識・経験がない者が操作した場合においても、安定した同定結果がえられることになり、オンサイトにおける分析が実現できる。
【符号の説明】
【0109】
1 入力部
2 表示部
3 制御部
4 試料導入部
5 イオン化部
6 質量分析部
7 イオン検出部
8 測定・検出条件格納記憶部
9 データベース
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料をイオン化するイオン化部と、
質量対電荷比(m/z)に応じてイオンを分離する質量分析部と、
質量分析部で分離されたイオンを検出する検出部と、
目的イオンの質量数とそのイオンのイオン強度の閾値を予め格納する記憶部を有し、
質量分析(MS1)を行った際に、前記質量数のピークのイオン強度が、前記イオン強度を超える場合に、そのイオンを親イオンとして解離し、質量分析(MS2)を行うことを特徴とする、質量分析装置。
【請求項2】
試料をイオン化するイオン化部と、
質量対電荷比(m/z)に応じてイオンを分離する質量分析部と、
質量分析部で分離されたイオンを検出する検出部と、
目的イオンの質量数と、そのイオンのイオン強度の閾値と、及び前記質量数の尤度を予め格納する記憶部と、
質量分析(MS1)を行った際に、前記尤度範囲内の質量数のピークのイオン強度が前記イオン強度を超える場合に、そのイオンを親イオンとして解離し、質量分析(MS2)を行うことを特徴とする、質量分析装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記記憶部には、目的イオンを、質量分析(MS2)行った後に検出される、各ピークのイオン強度の相関関係が格納されており、
質量分析(MS2)後、各ピークのイオン強度の相関関係が、前記記憶部に記憶された関係であるかどうかを判定することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記記憶部には、目的イオンを、質量分析(MS2)行った後に検出される、各ピークのイオン強度の相関関係が格納されており、
質量分析(MS2)後、各ピークのイオン強度の相関関係が、前記記憶部に記憶された関係であるかどうかを表示することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項5】
請求項1または2において、
前記記憶部には、目的イオンを、質量分析(MS2)行った後に検出される、各ピークのイオン強度毎に閾値が格納されており、
質量分析(MS2)後、各ピークのイオン強度が閾値を超えているかどうかを判定することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項6】
請求項1または2において、
前記記憶部には、目的イオンを、質量分析(MS2)行った後に検出される、各ピークのイオン強度毎に閾値が格納されており、
質量分析(MS2)後、各ピークのイオン強度が閾値を超えているかどうかを表示することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項7】
請求項3または4において、
質量分析(MS2)後、記憶部に相関関係が格納されているピークのうち、最も低いピークより高いピークが存在するかどうかを判定することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項8】
請求項3または4において、
質量分析(MS2)後、記憶部に相関関係が格納されているピークのうち、最も低いピークより高いピークが存在するかどうかを表示することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項9】
請求項5または6において、
質量分析(MS2)後、記憶部に各ピークのイオン強度毎に閾値が格納されているピークのうち、最も低いピークより高いピークが存在するかどうかを判定することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項10】
請求項5または6において、
質量分析(MS2)後、記憶部に各ピークのイオン強度毎に閾値が格納されているピークのうち、最も低いピークより高いピークが存在するかどうかを表示することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれかにおいて、
最も低いピークより高いピークが存在する場合、再度、質量分析(MS1)を行うことを特徴とする、質量分析装置。
【請求項12】
請求項1または2において、
前記記憶部には、各目的イオンの質量分析(MS1)際に、共に検出されるピークの質量数と、そのピークのイオン強度と目的イオンのピークのイオン強度との相関関係が格納されていることを特徴とする、質量分析装置。
【請求項13】
請求項1または2において、
前記記憶部には、イオン強度を測定する、測定開始質量数と測定終了質量数を目的のイオン毎に格納していることを特徴とする、質量分析装置。
【請求項14】
試料をイオン化するイオン化部と、
質量対電荷比(m/z)に応じてイオンを分離する質量分析部と、
質量分析部で分離されたイオンを検出する検出部と、
目的イオンの質量数とそのイオンのイオン強度の閾値を予め格納する記憶部と、
質量分析(MSn)を行った際に、目的イオンの質量数が前記イオン強度を超える場合に、そのイオンを親イオンとして解離し、質量分析(MSn+1)を行うことを特徴とする、質量分析装置。
【請求項15】
試料をイオン化するイオン化部と、
質量対電荷比(m/z)に応じてイオンを分離する質量分析部と、
質量分析部で分離されたイオンを検出する検出部と、
濃度既知の内部標準試料と、その試料に対し予め決めた質量数及び質量数の尤度及びイオン強度を予め格納した記憶部を有し、
質量分析した結果、前記尤度の範囲内の質量数に前記イオン強度以上のものが存在するかどうかを判定することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項16】
請求項15において、
存在しない割合がある一定以上の場合には、警告を発することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項17】
試料をイオン化するイオン化部と、
質量対電荷比(m/z)に応じてイオンを分離する質量分析部と、
質量分析部で分離されたイオンを検出する検出部と、
濃度既知の内部標準試料と、その試料に対し予め決めた質量数及び質量数の尤度及びイオン強度を予め格納した記憶部を有し、
質量数の尤度の範囲内にイオン強度以上のものが存在する場合、その質量数を用いて、未知試料の質量数を補正することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項1】
試料をイオン化するイオン化部と、
質量対電荷比(m/z)に応じてイオンを分離する質量分析部と、
質量分析部で分離されたイオンを検出する検出部と、
目的イオンの質量数とそのイオンのイオン強度の閾値を予め格納する記憶部を有し、
質量分析(MS1)を行った際に、前記質量数のピークのイオン強度が、前記イオン強度を超える場合に、そのイオンを親イオンとして解離し、質量分析(MS2)を行うことを特徴とする、質量分析装置。
【請求項2】
試料をイオン化するイオン化部と、
質量対電荷比(m/z)に応じてイオンを分離する質量分析部と、
質量分析部で分離されたイオンを検出する検出部と、
目的イオンの質量数と、そのイオンのイオン強度の閾値と、及び前記質量数の尤度を予め格納する記憶部と、
質量分析(MS1)を行った際に、前記尤度範囲内の質量数のピークのイオン強度が前記イオン強度を超える場合に、そのイオンを親イオンとして解離し、質量分析(MS2)を行うことを特徴とする、質量分析装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記記憶部には、目的イオンを、質量分析(MS2)行った後に検出される、各ピークのイオン強度の相関関係が格納されており、
質量分析(MS2)後、各ピークのイオン強度の相関関係が、前記記憶部に記憶された関係であるかどうかを判定することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記記憶部には、目的イオンを、質量分析(MS2)行った後に検出される、各ピークのイオン強度の相関関係が格納されており、
質量分析(MS2)後、各ピークのイオン強度の相関関係が、前記記憶部に記憶された関係であるかどうかを表示することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項5】
請求項1または2において、
前記記憶部には、目的イオンを、質量分析(MS2)行った後に検出される、各ピークのイオン強度毎に閾値が格納されており、
質量分析(MS2)後、各ピークのイオン強度が閾値を超えているかどうかを判定することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項6】
請求項1または2において、
前記記憶部には、目的イオンを、質量分析(MS2)行った後に検出される、各ピークのイオン強度毎に閾値が格納されており、
質量分析(MS2)後、各ピークのイオン強度が閾値を超えているかどうかを表示することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項7】
請求項3または4において、
質量分析(MS2)後、記憶部に相関関係が格納されているピークのうち、最も低いピークより高いピークが存在するかどうかを判定することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項8】
請求項3または4において、
質量分析(MS2)後、記憶部に相関関係が格納されているピークのうち、最も低いピークより高いピークが存在するかどうかを表示することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項9】
請求項5または6において、
質量分析(MS2)後、記憶部に各ピークのイオン強度毎に閾値が格納されているピークのうち、最も低いピークより高いピークが存在するかどうかを判定することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項10】
請求項5または6において、
質量分析(MS2)後、記憶部に各ピークのイオン強度毎に閾値が格納されているピークのうち、最も低いピークより高いピークが存在するかどうかを表示することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれかにおいて、
最も低いピークより高いピークが存在する場合、再度、質量分析(MS1)を行うことを特徴とする、質量分析装置。
【請求項12】
請求項1または2において、
前記記憶部には、各目的イオンの質量分析(MS1)際に、共に検出されるピークの質量数と、そのピークのイオン強度と目的イオンのピークのイオン強度との相関関係が格納されていることを特徴とする、質量分析装置。
【請求項13】
請求項1または2において、
前記記憶部には、イオン強度を測定する、測定開始質量数と測定終了質量数を目的のイオン毎に格納していることを特徴とする、質量分析装置。
【請求項14】
試料をイオン化するイオン化部と、
質量対電荷比(m/z)に応じてイオンを分離する質量分析部と、
質量分析部で分離されたイオンを検出する検出部と、
目的イオンの質量数とそのイオンのイオン強度の閾値を予め格納する記憶部と、
質量分析(MSn)を行った際に、目的イオンの質量数が前記イオン強度を超える場合に、そのイオンを親イオンとして解離し、質量分析(MSn+1)を行うことを特徴とする、質量分析装置。
【請求項15】
試料をイオン化するイオン化部と、
質量対電荷比(m/z)に応じてイオンを分離する質量分析部と、
質量分析部で分離されたイオンを検出する検出部と、
濃度既知の内部標準試料と、その試料に対し予め決めた質量数及び質量数の尤度及びイオン強度を予め格納した記憶部を有し、
質量分析した結果、前記尤度の範囲内の質量数に前記イオン強度以上のものが存在するかどうかを判定することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項16】
請求項15において、
存在しない割合がある一定以上の場合には、警告を発することを特徴とする、質量分析装置。
【請求項17】
試料をイオン化するイオン化部と、
質量対電荷比(m/z)に応じてイオンを分離する質量分析部と、
質量分析部で分離されたイオンを検出する検出部と、
濃度既知の内部標準試料と、その試料に対し予め決めた質量数及び質量数の尤度及びイオン強度を予め格納した記憶部を有し、
質量数の尤度の範囲内にイオン強度以上のものが存在する場合、その質量数を用いて、未知試料の質量数を補正することを特徴とする、質量分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−127771(P2012−127771A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278739(P2010−278739)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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