説明

質量分析装置

【課題】CIDガスの供給に問題が生じていることや加熱キャピラリの目詰まりなどの装置不具合を事前に検知して分析者に知らせる。
【解決手段】中間真空室4内及びコリジョンセル12が配設された分析室10内にそれぞれ真空計31、32を設置し、ガス圧判定部34は分析に先立って真空計31、32で検出したガス圧がそれぞれ閾値以下であるか否かを判定し、閾値以下である場合に警告を出す。コリジョンセル12内へのCIDガスの供給が滞ると分析室10内に流出するCIDガス量が減るため、分析室10内の真空度が高くなり過ぎる。一方、加熱キャピラリ3が目詰まりすると大気圧雰囲気であるイオン化室1から中間真空室4内へ流れ込むガス量が減るため、中間真空室4内の真空度が高くなり過ぎる。従って、いずれもガス圧が低過ぎることを検知することで、不具合を認識することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析装置に関し、さらに詳しくは、質量分析装置を用いた分析に際して発生する異常を検出する異常検出技術に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置において、試料由来のイオンを質量電荷比に応じて分離する質量分析器やイオンを検出する検出器は、ターボ分子ポンプなどの高性能の真空ポンプにより真空排気される分析室内に配設されている。一般に、この分析室内の真空度が十分に高まっていない状態で分析を実行すると、十分な感度や精度での分析が行えないのみならず、質量分析器や検出器などの汚染の原因ともなる。そこで、従来の質量分析装置では、真空度をモニタするイオンゲージなどの真空計が分析室に付設されており、この真空計による真空度(圧力)のモニタ値が表示器に表示されるようになっている(特許文献1など参照)。分析の実行に際して分析者はその表示値を確認し、ガス圧が或る閾値よりも高い場合には未だ真空排気が不十分であると判断して分析を実行しないようにすることができる。また、特許文献1に記載の質量分析装置では、分析中に真空度が低下すると分析者の注意を喚起する異常報知が行われるような制御も実施されている。
【0003】
また、エレクトロスプレイイオン源などの大気圧イオン源を用いた質量分析装置では、略大気圧雰囲気であるイオン化室と高真空雰囲気である分析室との間に1乃至複数の中間真空室を配置した多段差動排気系の構成が採用されている。こうした質量分析装置では、分析室のみならず、例えばロータリポンプにより真空排気される比較的真空度の低い中間真空室にもピラニーゲージなどの真空計が設置され、中間真空室内の真空度のモニタ値も表示器に表示されるようになっている。したがって、分析者は分析室内の真空度のほか中間真空室内の真空度も確認した上で、十分な真空度が確保された状態で分析を遂行することができる。
【0004】
上述したように従来の質量分析装置には、中間真空室や分析室の真空度をモニタすることで真空度が目的の状態よりも低い状態で不適切な分析を行うことを避けることができるような機能が備わっている。しかしながら、中間真空室や分析室の真空度が十分に高くなっても期待するような信号強度が得られず、分析感度や精度が低いような場合がある。もちろん、質量分析装置において十分な信号強度が得られない原因は様々であるが、次のような装置の不具合が原因となっていることもある。
【0005】
(1)多段差動排気系を用いた大気圧イオン化質量分析装置においては、より高い真空度である室内の真空度を確保するために、微小径のイオン導入部(加熱キャピラリやスキマーなど)を通して次段へとイオンを輸送する構成が採られている。こうしたイオン導入部には溶媒の気化が不十分である液滴が飛び込むことがあり、イオン導入部の目詰まりが比較的起こり易い。イオン導入部が目詰まりすると次段にイオンを輸送することができなくなり、最終的に検出されるイオンの信号強度が低下する。
【0006】
(2)衝突誘起解離(CID)によりイオンを解離させるためにコリジョンセルを用いたMS/MS型質量分析装置においては、コリジョンセル内にアルゴン等のCIDガスを供給する管路でガス漏れが生じたりガス供給弁の動作に異常が生じたりしてCIDガスが十分に供給できなくなると、コリジョンセル内でプロダクトイオンが生成されにくくなる。そうなると、いかに多量のプリカーサイオンがコリジョンセル内に導入されたとしても、最終的に検出されるプロダクトイオンの信号強度が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−36283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、上記のような主として装置の不具合やメンテナンスの不備などに起因する不具合を分析に際して自動的にチェックし、装置が良好な状態で分析を遂行することができる質量分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された第1発明は、真空排気される真空室と、該真空室内と連通され、質量分析前のイオンに対する所定の操作を行うために外部から供給されたガスを保持する操作領域と、前記真空室内に配設され、前記操作領域で操作を受けたあとのイオンを質量電荷比に応じて分離する質量分析器及び分離されたイオンを検出する検出器と、を具備する質量分析装置において、
a)前記真空室の内部のガス圧を検出する圧力検出手段と、
b)分析実行前に前記圧力検出手段により検出されたガス圧が所定閾値以下である場合に、前記操作領域へのガス供給の異常であると判断して注意喚起を行う異常判定手段と、
を備えることを特徴としている。
【0010】
第1発明の典型的な一態様は、前記操作領域はイオンを所定ガスと衝突させることにより該イオンを解離させるために前記真空室内に配設されたコリジョンセルであり、前記質量分析器は前記コリジョンセルで生成されたプロダクトイオンを質量電荷比に応じて分離する後段の質量分析器であり、前記コリジョンセルの前段に各種イオンの中から特定の質量電荷比を有するプリカーサイオンを選別して該コリジョンセルに送り込む前段の質量分析器をさらに備える構成とすることができる。
【0011】
また、別の態様において、前記操作領域はイオンを所定ガスと衝突させることにより該イオンをクーリングして一時的に保持する領域とすることもできる。
【0012】
例えば上記典型的な態様による質量分析装置では、コリジョンセルに所定のガスが供給され該セル内にガスが或る程度充満した状態であると、該セルから流れ出したガスの影響で真空室内のガス圧は上がる傾向にある。これに対し、コリジョンセルへのガスの供給に何らかの不具合が生じると、該セルから真空室内に流れ出るガスの量が減り真空室内のガス圧は相対的に下がる。異常判定手段は、分析実行前に圧力検出手段により真空室内のガス圧の検出値を受け取り、この検出値が予め定められた閾値以下であるか否かを判定する。そして、ガス圧検出値が閾値以下である、即ち低すぎる場合には、コリジョンセルへのガス供給に異常があると判断し、例えば表示や音などにより注意喚起を行う。これにより、分析者はコリジョンセルへのガス供給に関連した部位の確認を行い、装置を修理する、ガスを補充する等の適切な対応を迅速にとることができる。
【0013】
また上記課題を解決するために成された第2発明は、大気圧雰囲気中で試料をイオン化する大気圧イオン源と、イオンを質量電荷比に応じて分離して検出する質量分析部と、前記大気圧イオン源から前記質量分析部にイオンを輸送する少なくとも1つのイオン輸送光学系と、前記大気圧イオン源を内装する略大気圧雰囲気であるイオン化室と、前記質量分析部を内装する高真空雰囲気である分析室と、前記イオン化室と前記分析室との間に配設され、前記イオン輸送光学系を内装する1乃至複数の中間真空室と、前記イオン化室から次段の中間真空室へイオンを輸送するためのイオン導入部と、を具備する多段差動排気系の質量分析装置において、
a)前記次段の中間真空室の内部のガス圧を検出する圧力検出手段と、
b)分析実行前に前記圧力検出手段により検出されたガス圧が所定閾値以下である場合に、前記イオン導入部を通してのイオン導入が異常であると判断して注意喚起を行う異常判定手段と、
を備えることを特徴としている。
【0014】
第2発明に係る多段差動排気系の質量分析装置では、イオン導入部の両端の差圧によりイオン化室から次段の中間真空室内へ向かうガス流が生じ、このガス流に乗ってイオンも輸送される。何らかの原因でイオン導入部が詰まるとガス流が滞るため、次段の中間真空室に流れ込むガス量が減り、該中間真空室内のガス圧は相対的に下がる。異常判定手段は、分析実行前に圧力検出手段により中間真空室内のガス圧の検出値を受け取り、この検出値が予め定められた閾値以下であるか否かを判定する。そして、ガス圧検出値が閾値以下である、即ち低すぎる場合には、イオン導入部を通してのガス流に異常があると判断し、例えば表示や音などにより注意喚起を行う。これにより、分析者はイオン導入部の詰まりの有無の確認を行い、必要に応じて掃除や部品交換等の適切な対応を迅速にとることができる。
【0015】
第1発明及び第2発明において、圧力検出手段により検出されたガス圧を判定するための閾値は、装置メーカー等が予め定めた値でもよいし、ユーザーが入力することにより設定される値でもよい。
【0016】
また、大気圧イオン源を備えたMS/MS型質量分析装置では、第1発明と第2発明とを併用することができることは明らかである。
【発明の効果】
【0017】
第1発明に係る質量分析装置によれば、例えばコリジョンセル内にCIDガスを供給する管路のガス漏れやガス供給弁の動作異常、或いはガス切れなどの装置異常が、分析前に自動的にチェックされる。これにより、そうした装置異常の状態のままで分析を実行してしまい、不適切なデータを無駄に収集することを防止することができる。また、上記のような装置異常を解消するための対応を迅速にとることができる。
【0018】
また第2発明に係る質量分析装置によれば、イオン導入部の詰まりなどの装置異常が、分析前に自動的にチェックされる。これにより、そうした装置異常の状態のままで分析を実行してしまい、不適切なデータを無駄に収集することを防止することができる。また、上記のような装置異常を解消するための対応を迅速にとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例によるMS/MS型質量分析装置の全体構成図。
【図2】本実施例によるMS/MS型質量分析装置におけるシステムチェックの制御手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施例であるMS/MS型質量分析装置について、添付図面を参照して説明する。図1は本実施例のMS/MS型の大気圧イオン化質量分析装置の全体構成図である。
【0021】
図1において、略大気圧雰囲気であるイオン化室1と高性能のターボ分子ポンプ23により高真空雰囲気に排気される分析室10との間には、ロータリポンプ21により低真空雰囲気に排気される第1中間真空室4と、別のターボ分子ポンプ22により中真空雰囲気に排気される第2中間真空室7とが設けられ、イオンが進行する方向に段階的に真空度が高くなる(ガス圧が低くなる)多段差動排気系の構成となっている。イオン化室1内には、試料成分を含む液体試料がエレクトロスプレイノズル2から電荷を付与されつつ噴霧される。噴霧された帯電液滴は周囲の大気に接触して微細化され、溶媒が蒸発する過程で試料成分がイオン化される。なお、エレクトロスプレイイオン化ではなく、大気圧化学イオン化、大気圧光イオン化など、他の大気圧イオン化法によるイオン化を行うものであってもよい。
【0022】
イオン化室1と第1中間真空室4との間は細径の加熱キャピラリ(本発明におけるイオン導入部に相当)3を介して連通しており、イオン化室1内で生成されたイオンは、加熱キャピラリ3の両開口端の差圧により加熱キャピラリ3の内部に吸い込まれる。そして、イオン化室1から第1中間真空室4に流れ込む大気や気化溶媒などを含むガス流とともに、イオンは第1中間真空室4内に吐き出される。第1中間真空室4内には高周波電場によってイオンを収束させる第1イオンガイド5が配設され、加熱キャピラリ3の出口端から吐き出されたイオンは第1イオンガイド5により収束されて、スキマー6の頂部に形成されたオリフィスを通して第2中間真空室7へと送り込まれる。この例では、第1イオンガイド5は、イオン光軸C方向に並べられた複数枚の電極板から構成される仮想ロッド電極を、イオン光軸Cを取り囲むように平行に4本配置した構成であるが、第1イオンガイド5の構成はこれに限らない。
【0023】
第2中間真空室7内にはイオン光軸Cの周りに8本のロッド電極が配設されたオクタポール型の第2イオンガイド8が配設されており、この第2イオンガイド8により形成される高周波電場の作用によりイオンはイオン通過孔9を経て分析室10に送り込まれる。第2イオンガイド8の構成も第1イオンガイド5と同様に、図1に示したものに限らない。
【0024】
分析室10内には、いわゆる3連四重極型の質量分析計が配置されている。即ち、第1段四重極マスフィルタ(本発明における前段の質量分析器に相当)11と第3段四重極マスフィルタ(本発明における後段の質量分析器に相当)16との間に、プリカーサイオンを解離させて各種プロダクトイオンを生成するためにコリジョンセル12が配置され、その内部には質量分離の機能を持たない第2段四重極13が配設されている。コリジョンセル12はイオン光軸C上に設けられたイオン入射孔及びイオン出射孔を除いてほぼ全体が密閉されており、途中にガス供給弁15が設けられたガス供給管14を通して外部からCIDガスが供給されるようになっている。さらに、第3段四重極マスフィルタ16の出口側には、到達するイオンを検出するための検出器17が配置されている。検出器17による検出信号はデータ処理部20に入力され、データ処理部20では分析の際に得られた検出信号に基づいてマススペクトルなどが作成される。
【0025】
第1中間真空室4内には真空度(ガス圧)を検出する第1真空計31が設置され、他方、分析室10内には同じく真空度(ガス圧)を検出する第2真空計32が設置され、両真空計31、32により検出される圧力値はいずれも制御部33のガス圧判定部34に入力されている。低真空状態の真空度を計測する第1真空計31としては例えばピラニーゲージを用いればよく、高真空状態の真空度を計測する第2真空計32としては例えばイオンゲージと用いればよい。CPUなどから成る制御部33には表示部35や入力部36が接続されており、この制御部33は分析に際して各部を制御する機能を有する。
【0026】
この実施例の質量分析装置における典型的なMS/MS分析の動作を概略的に説明する。
分析対象の試料成分を含む液体試料はエレクトロスプレイノズル2からイオン化室1中に帯電噴霧され、それにより発生するイオンは加熱キャピラリ3を通して第1中間真空室4内に運ばれる。さらに第1及び第2イオンガイド5、7による電場の作用により、イオンは第2中間真空室7、分析室10と、真空度の高い領域へと送られる。分析室10内においてイオンは四重極マスフィルタ11の長軸方向の空間に導入され、四重極マスフィルタ11に印加されている高周波電圧と直流電圧とにより形成される電場の作用により、特定の質量電荷比を有するイオン(プリカーサイオン)のみが四重極マスフィルタ11を通り抜けてコリジョンセル12に導入される。
【0027】
コリジョンセル12内にはCIDガスが充満しており、プリカーサイオンはCIDガスに接触し、衝突誘起解離によって分裂して各種のプロダクトイオンが生成される。コリジョンセル12を出たプロダクトイオンは四重極マスフィルタ16の長軸方向の空間に導入され、四重極マスフィルタ16に印加されている高周波電圧と直流電圧とにより形成される電場の作用により、特定の質量電荷比を有するプロダクトイオンのみが四重極マスフィルタ16を通り抜けて検出器17に到達する。例えば第1段四重極マスフィルタ11を通過するイオンの質量電荷比を固定し、第3段四重極マスフィルタ16を通過するイオンの質量電荷比を所定範囲で走査することにより、検出器17からの検出信号を受けたデータ処理部20では特定のプリカーサイオンに対するプロダクトイオンのマススペクトルを作成することができる。
【0028】
本実施例の質量分析装置では、上述のようなMS/MS分析を実行する前に分析者(ユーザー)の要求により、特徴的なシステムチェック動作が実行されるようになっている。図2はこのシステムチェックの制御動作を示すフローチャートである。
【0029】
分析者がMS/MS分析の実行に先立ち、入力部36において所定の操作を行うことによりシステムチェックの実行を指示すると(ステップS1)、この指示を受けて制御部33のガス圧判定部34は第1中間真空室4内の第1真空計31により検出されるガス圧P1を読み込み(ステップS2)、そのガス圧P1が予め設定されている低真空側閾値Pa以下であるか否かを判定する(ステップS3)。低真空側閾値Pa及び後述の高真空側閾値Pbは装置メーカーが予め設定した値、ユーザーが入力部36から事前に設定しておいた値、のいずれでもよい。ステップS3においてP1≦Paである場合には第1中間真空室4内のガス圧が低すぎると判断し、低真空部状態を[Fail]として記録する(ステップS4)。他方、P1>Paである場合には、低真空部状態を[Pass]として記録する(ステップS5)。
【0030】
次に、ガス圧判定部34は分析室10内の第2真空計32により検出されるガス圧P2を読み込み(ステップS6)、そのガス圧P2が予め設定されている高真空側閾値Pb以下であるか否かを判定する(ステップS7)。P2≦Pbである場合には分析室10内のガス圧が低すぎると判断し、高真空部状態を[Fail]として記録する(ステップS8)。他方、P2>Pbである場合には、高真空部状態を[Pass]として記録する(ステップS9)。
【0031】
最後にガス圧判定部34はステップS4、S5で得られた低真空部状態チェック結果、及び、ステップS8、S9で得られた高真空部状態チェック結果、を表示部35の画面上に表示する(ステップS10)。即ち、第1中間真空室4内の低真空側ガス圧の状態が[Fail]又は[Pass]のいずれであるか、分析室10内の高真空側ガス圧の状態が[Fail]又は[Pass]のいずれであるか、が表示部35の画面上に表示される。また、必要に応じてこのチェック結果をレポートとして印刷出力するようにしてもよい。分析者はこの表示結果を見て、システムの最新の状態を確認する。
【0032】
例えば、ガス供給管14を通してのコリジョンセル12へのCIDガスの供給が滞ってしまうと、コリジョンセル12内から外部(分析室10内)へのガスの流出量が少なくなるため、分析室10内の真空度が高くなり過ぎる傾向にある。一方、コリジョンセル12内へのCIDガスの供給量が減るとコリジョンセル12内でのイオンの解離が起こりにくくなり、プロダクトイオンの生成量が減少してプロダクトイオンの検出感度が下がってしまう。そこで、高真空側ガス圧状態が[Fail]であるとのチェック結果が出ている場合には、分析者は、装置の中のCIDガスの供給に関わる部位をチェックする。具体的には、CIDガス供給圧、ガス供給管14途中でのガス漏れの有無、ガス供給弁15の動作などがチェックすべき部位である。
【0033】
一方、加熱キャピラリ3が詰まってイオン化室1から第1中間真空室4へのガスの流入が減ると、第1中間真空室4内の真空度が高くなり過ぎる傾向にある。加熱キャピラリ3が目詰まりするとガスと共に流れ込むイオンの量自体も減少してしまい、結果的に検出器17での検出感度が下がってしまう。そこで、低真空側ガス圧状態が[Fail]であるとのチェック結果が出ている場合には、分析者は、加熱キャピラリ3の目詰まりの有無をチェックすればよい。
【0034】
以上のようにして本実施例の質量分析装置では、分析の実行に先立ってシステムチェックを実行することにより、分析者はCIDガス供給に関する装置の不具合やメンテナンス不備、或いは、加熱キャピラリ3の目詰まりなどを事前に知ることができる。それによって、十分な信号強度が得られない状況での無駄な分析の実行を回避することができる。
【0035】
なお、上記実施例では、システムチェックの際にガス圧が低すぎることのみを判定していたが、本明細書の冒頭部で述べたように、ガス圧が高いすぎた場合にも適切な分析が行えないため、ガス圧が所定の上限値と下限値との間の範囲に入っているか否かを判定し、下限値を下回る場合と上限値を上回る場合とでそれぞれ別の警告表示を出すようにしてもよい。
【0036】
また、上記実施例ではコリジョンセルに供給されるCIDガスの供給不具合を高真空側ガス圧状態で判断していたが、本発明は、高真空雰囲気である真空室内に配設されたセル(室)や特定領域に外部からガスを導入してイオンに対する操作を行うような構成要素を有する質量分析装置全般に適用可能である。具体的には、リニアイオントラップや3次元四重極型イオントラップを用い、イオントラップの内部にクーリングガスを供給してイオンをクーリングした上で一時的に保持するような場合にも本発明を適用できることは明らかである。また、それ以外の点について、本発明の趣旨の範囲で適宜に変形、追加、修正を行っても、本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0037】
1…イオン化室
2…エレクトロスプレイノズル
3…加熱キャピラリ
4…第1中間真空室
5…第1イオンガイド
6…スキマー
7…第2中間真空室
8…第2イオンガイド
9…イオン通過孔
10…分析室
11…第1段四重極マスフィルタ
12…コリジョンセル
13…第2段四重極
14…ガス供給管
15…ガス供給弁
16…第3段四重極マスフィルタ
17…検出器
20…データ処理部
21…ロータリポンプ
22、23…ターボ分子ポンプ
31、32…真空計
33…制御部
34…ガス圧判定部
35…表示部
36…入力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空排気される真空室と、該真空室内と連通され、質量分析前のイオンに対する所定の操作を行うために外部から供給されたガスを保持する操作領域と、前記真空室内に配設され、前記操作領域で操作を受けたあとのイオンを質量電荷比に応じて分離する質量分析器及び分離されたイオンを検出する検出器と、を具備する質量分析装置において、
a)前記真空室の内部のガス圧を検出する圧力検出手段と、
b)分析実行前に前記圧力検出手段により検出されたガス圧が所定閾値以下である場合に、前記操作領域へのガス供給の異常であると判断して注意喚起を行う異常判定手段と、
を備えることを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分析装置であって、前記操作領域はイオンを所定ガスと衝突させることにより該イオンを解離させるために前記真空室内に配設されたコリジョンセルであり、前記質量分析器は前記コリジョンセルで生成されたプロダクトイオンを質量電荷比に応じて分離する後段の質量分析器であり、前記コリジョンセルの前段に各種イオンの中から特定の質量電荷比を有するプリカーサイオンを選別して該コリジョンセルに送り込む前段の質量分析器をさらに備えることを特徴とする質量分析装置。
【請求項3】
大気圧雰囲気中で試料をイオン化する大気圧イオン源と、イオンを質量電荷比に応じて分離して検出する質量分析部と、前記大気圧イオン源から前記質量分析部にイオンを輸送する少なくとも1つのイオン輸送光学系と、前記大気圧イオン源を内装する略大気圧雰囲気であるイオン化室と、前記質量分析部を内装する高真空雰囲気である分析室と、前記イオン化室と前記分析室との間に配設され、前記イオン輸送光学系を内装する1乃至複数の中間真空室と、前記イオン化室から次段の中間真空室へイオンを輸送するためのイオン導入部と、を具備する多段差動排気系の質量分析装置において、
a)前記次段の中間真空室の内部のガス圧を検出する圧力検出手段と、
b)分析実行前に前記圧力検出手段により検出されたガス圧が所定閾値以下である場合に、前記イオン導入部を通してのイオン導入が異常であると判断して注意喚起を行う異常判定手段と、
を備えることを特徴とする質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−43672(P2012−43672A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184648(P2010−184648)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】